特許異議申立
2022-700477
改善された引張特性を有するハロゲンフリー難燃剤組成物
- 審判番号
- 2022-700477
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-542750
- 登録番号
- 6975718
- 請求日
- 2022年06月01日
- 審決日
- 2023年04月10日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】片山 英二
- 【権利者代理人】大森 規雄
- 【権利者代理人】田村 恭子
- 【権利者代理人】鈴木 康仁
- 【異議申立人】南沢 和美
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 細井 龍史
- 審判官 海老原 えい子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6975718号発明「改善された引張特性を有するハロゲンフリー難燃剤組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6975718号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。
特許第6975718号の請求項1、2、4-14に係る特許を維持する。
特許第6975718号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許(特許第6975718号)についての出願は、平成29年9月8日(優先日:平成28年2月29日、米国)を国際出願日とする国際出願であり、令和3年11月10日にその特許権の設定登録がされ、同年12月1日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、令和4年6月1日に、特許異議申立人 南沢和美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、次のとおりである。
令和4年10月24日付け 取消理由通知書
令和5年 1月20日 訂正の請求、意見書(特許権者)
1月30日付け 訂正請求があった旨の通知
3月 6日 意見書(申立人)
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和5年1月20日になされた訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「を含む、組成物」と記載されているのを「を含み、300%超の引張伸び、1,450psi超の引張強度、及び160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す、組成物」に訂正する。
請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2,4~14も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1または2に記載の組成物」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項5~14も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~2および4~6のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。
請求項7の記載を引用する請求項8~14も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~2および4~7のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。
請求項8の記載を引用する請求項9~14も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~2およぴ4~8のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。
請求項9の記載を引用する請求項10~14も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~2および4~9のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。
請求項10の記載を引用する請求項11~14も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~2および4~10のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~2および4~10のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~2および4~10のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物」と記載されているのを、「請求項1~2および4~10のいずれか一項に記載の組成物」に訂正する。
(12)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~14について、請求項2~14は、請求項1を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、一群の請求項について請求されている。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、「組成物」に関し、「300%超の引張伸び、1,450psi超の引張強度、及び160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
次に、本件訂正前の請求項3には、「前記組成物が、300%超の引張伸び、1,450psi超の引張強度、及び160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す」と記載されていたから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。
よって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3~11
訂正事項3~11は、訂正前の請求項4、7~14が請求項3の記載を引用するものであったところ、訂正事項2で請求項3が削除されたことに伴い、請求項間の引用関係を解消する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、引用する請求項の数を減少する訂正であるから、同第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項3~11が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。
よって、訂正事項3~11による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる目的に適合し、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1~11による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる目的に適合し、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
42~54重量パーセントのハロゲンフリー難燃剤と、
少なくとも26重量%かつ42重量%を超えないエチレンエチルアクリレートコポリマーと、
1~15重量パーセントのエチレン系ポリマーと、
0~12重量パーセントのカップリング剤と、
0~1.0重量パーセントの酸化防止剤と、
1~5重量パーセントのシリコーン基含有化合物と、を含み、
300%超の引張伸び、1,450psi超の引張強度、及び160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す、組成物。
【請求項2】
前記ハロゲンフリー難燃剤が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、及びそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記エチレン系ポリマーが、エチレン由来及びC3~C12α-オレフィン由来のサブユニットを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記エチレン系ポリマーが、1~10g/10分のメルトインデックス(I2)を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記エチレン系ポリマーが、0.86~0.96g/ccの密度を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記カップリング剤が、無水マレイン酸グラフトポリマーである、請求項1~2および4~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記酸化防止剤が、ヒンダード及びセミヒンダードフェノール、ホスファイト及びホスホナイト、チオ化合物、シロキサン、アミン、ならびにそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される、請求項1~2および4~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物100重量部に対し、0.1~5重量部の、紫外線吸収剤または紫外線安定剤、帯電防止剤、顔料、染料、成核剤、抵抗性改良剤、スリップ剤、可塑剤、加工助剤、潤滑剤、粘度調整剤、粘着付与剤、ブロッキング防止剤、界面活性剤、伸展油、金属不活性化剤、電圧安定剤、充填剤、追加の難燃剤添加物、ならびに架橋促進剤及び架橋触媒、ならびにそれらの2つ以上の組み合わせからなる群から選択される、少なくとも1つの添加剤を更に含む、請求項1~2および4~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物100重量部に対し、1~4重量部の紫外線安定剤を更に含む、請求項1~2および4~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~2および4~10のいずれか一項に記載の組成物を含む、ケーブル絶縁層。
【請求項12】
請求項1~2および4~10のいずれか一項に記載の組成物を含む、ケーブル保護外側ジャケット。
【請求項13】
請求項1~2および4~10のいずれか一項に記載の組成物を含む、ケーブルコアシース。
【請求項14】
電気導体及び通信媒体を含むケーブルであって、前記電気導体及び通信媒体のうちの少なくとも1つが、請求項1~2および4~10のいずれか一項に記載の組成物を含むシースに取り囲まれている、ケーブル。
(以下、請求項1~14に係る発明を、順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)」
第4 本件明細書の記載
本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、以下の記載がある。
「【0002】
本開示は、ジャケット材料または絶縁材料に関する。具体的には、本開示は、とりわけ、ハロゲンフリー難燃剤と、アルキル基が1~8個の炭素原子、または1~4個の炭素原子を有し得るエチレンアルキルアクリレートコポリマーと、を含む、ワイヤ及びケーブルのジャケット材料または絶縁材料に関する。一実施形態では、エチレンアルキルアクリレートコポリマーは、エチレンエチルアクリレートである。本開示は更に、バランスがとれ、かつ改善された溶融レオロジー特性、引張特性、及び難燃剤特性を示す、ジャケット材料または絶縁材料に使用するための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリオレフィン樹脂は、例えば、ワイヤまたはケーブルを取り囲む絶縁または外側ジャケットなど、ワイヤ及びケーブルのシース層の材料として一般に使用される。添加剤は、これらのシース層へ難燃性を付与するために、ポリオレフィン樹脂と一般にブレンドされる。典型的な添加剤としては、有機ハロゲン化化合物及び難燃剤相乗剤、例えば三酸化アンチモンなどが挙げられる。残念ながら、これらの添加剤は、燃焼に供した際に、発煙及び/または有害ガスの放出を引き起こし得る。これらの添加剤はまた、金属を腐食させ得る。
【0004】
これらの問題に対処するために、ハロゲン化難燃剤は、多くの場合、非ハロゲン化またはハロゲンフリー難燃剤、例えば金属水酸化物などと置き換えられている。発煙及び有害ガスの問題に対処する一方、ハロゲンフリー難燃剤の使用には、いくつかの望ましくない影響がある。ハロゲンフリー難燃剤に伴う1つの問題は、ハロゲン化難燃剤を使用したときに得られるレベルと同レベルの難燃性を得るためには、比較的より大きな量の難燃性充填剤が必要となることである。ハロゲンフリー難燃剤の含有量がより高いと、溶融押出性、機械的特性、可撓性、及び低温性能の観点から、ポリオレフィン樹脂に悪影響を与え得る。特に、エチレン酢酸ビニルコポリマー系組成物では、ハロゲンフリー難燃剤の含有量がより高いと、溶融粘度を増加させ、かつ引張伸びを減少させるが、そのどちらも望ましくない。
【0005】
したがって、バランスがとれ、かつ改善された溶融レオロジー特性、引張特性、及び難燃剤特性を備えたハロゲンフリー難燃剤組成物が望ましい。
・・・
【0024】
本開示の組成物のエチレンアルキルアクリレートコポリマーは、アルキル基が1~8個の炭素原子、または1~4個の炭素原子を有し得るものである。一実施形態では、エチレンアルキルアクリレートコポリマーは、エチレンエチルアクリレート(「EEA」)である。本開示の組成物のEEAコポリマーは、エチレン及びエチルアクリレートに由来する単位を含むコポリマー樹脂である。好適なEEAは、例えば、従来の高圧プロセス、及び有機過酸化物などのフリーラジカル開始剤を使用して、150~350℃の範囲の温度及び100~300MPaの圧力にて調製され得る。EEA中に存在するエチルアクリレートに由来する単位、すなわちコモノマーの量は、コモノマーの重量を基準として、少なくとも5、または少なくとも10重量%であり得る。コポリマー中に存在するエチルアクリレートに由来する単位の最大量は、コポリマーの重量を基準として、典型的には、40を超えない、または35重量%を超えない。EEAは、0.5~50g/10分の範囲のメルトインデックス(I2)を有し得る。本開示の組成物での使用に好適なEEAコポリマー樹脂の市販の例としては、The Dow Chemical Companyから入手可能なAMPLIFY(商標)EAポリマ-、例えば、AMPLIFY(商標)EA100、AMPLIFY(商標)EA101、AMPLIFY(商標)EA102、AMPLIFY(商標)EA103、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
EEAコポリマー樹脂は、組成物の全体重量を基準として、少なくとも26、または少なくとも27、または少なくとも28、または少なくとも29、または少なくとも30、または少なくとも31重量%の量で本開示の組成物中に存在できる。組成物中に存在するEEAの最大量は、組成物の全体重量を基準として、典型的には、46を超えない、または45を超えない、または44を超えない、または43を超えない、または42を超えない、または41重量%を超えない。
【0026】
本開示の組成物の任意のエチレン系ポリマーは、エチレンアルキルアクリレートコポリマーではない。本開示の組成物のエチレン系ポリマーは、エチレン/α-オレフィンインターポリマー、更にエチレン/α-オレフィンコポリマーであり得る。いくつかの実施形態では、エチレン系ポリマーは、3~12個の炭素原子、または3~8個の炭素原子を有し得る。好適なα-オレフィンコモノマーの例としては、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、及び1-オクテンが挙げられる。
【0027】
エチレン系ポリマーは、45%以下、更に40%以下、更に30%以下、更に25%以下、及び更に20%以下の、DSCによって決定された結晶化度パーセントを有し得る。更に、エチレン系ポリマーは、0%以上、更に2%以上、更に5%以上、及び更に10%以上の、DSCによって決定された結晶化度パーセントを有し得る。
・・・
【0031】
本開示での使用のための任意のカップリング剤は、好ましくは、オルガノ官能基を含有する化学化合物を有するポリマーの変性により得られる。一実施形態では、ポリマーは、ポリオレフィンであり、好ましくはプロピレン樹脂またはエチレン系樹脂である。エチレン系樹脂は、主モノマーがエチレンであるものである。「主」は、重合前モノマーの量を基準として、50モルパーセントを超えることを意味する。本開示の組成物に使用するためのエチレン系樹脂の変性に好適なオルガノ官能基含有化学化合物の例としては、不飽和カルボン酸、例えば、フマル酸、アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、及びシトラコン酸;不飽和脂肪族二酸無水物、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、4-メチルシクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、及び4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物;エポキシ化合物、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、及びアリルグリシジルエーテル;ヒドロキシ化合物、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、及びポリエチレングリコールモノアクリレート;金属塩、例えば、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、及びアクリル酸亜鉛;シラン化合物、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びメタクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
・・・
【0033】
エチレン系樹脂の変性は、例えば、エチレンと無水マレイン酸との共重合により行われ得る。この重合法は、従来の基礎となるコモノマーの高圧重合である。Maleic Anhydride,Trivedi et al,Polonium Press,New York,1982,Chapter3,section3-2を参照できる。この論文は、グラフト化も対象として含む。
【0034】
様々な実施形態では、カップリング剤は、無水マレイン酸グラフトポリエチレンであり得る。更なる実施形態では、カップリング剤は、無水マレイン酸グラフトポリオレフィンエラストマーであり得る。
・・・
【0037】
本開示の組成物に使用するための酸化防止剤の例は、テトラキス[メチレン(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナマート)]メタン、ビス[(beta-(3,5-ジtert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-メチルカルボキシエチル)]スルフィド、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-tert-ブチル-5-メチルフェノール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、及びチオジエチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナマートなどのヒンダード及びセミヒンダードフェノール;トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、及びジ-tert-ブチルフェニル-ホスホナイトなどのホスファイト及びホスホナイト;チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、及びチオジプロピオン酸ジステアリルなどのチオ化合物;種々のシロキサン;ならびに重合2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンなどの種々のアミンが挙げられるが、これらに限定されない。本開示での使用に好適な酸化防止剤の市販の例としては、BASF SEから入手可能なIRGANOX(商標)1010酸化防止剤が挙げられる。
・・・
【0039】
上述の組成物の成分、すなわち、ハロゲンフリー難燃剤、エチレンエチルアクリレートコポリマー、任意のエチレン系ポリマ-、任意のカップリング剤、及び任意の酸化防止剤は、他の従来型添加剤と組み合わせることができるが、ただし選択された特定の添加剤が組成物に悪影響を与えないことを条件とする。
【0040】
例えば、本開示の組成物は、煙抑制剤として機能する、1~5重量%で組成物中に存在するシリコーン基含有化合物を更に含むことができる。本開示に用いられるシリコーン基含有化合物は、以下の式で例示される。
R-Si-O-(RSiO)n-R-Si-O-R
式中、各Rは、独立して、飽和または不飽和のアルキル基、アリール基、または水素原子、及びnは、1~5000である。典型的な基は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、フェニル、またはビニルである。シリコーンオイルはまた、グリシジル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、カルボン酸変性シリコーンオイル、または高級脂肪酸変性シリコーンオイルでもあり得る。シリコーンオイルの粘度は、25℃で、0.65~1,000,000センチストーク、5,000~100,000センチストーク、または10,000~100,000センチストークの範囲であり得る。シリコーンオイル成分は、配合物中に1~5重量%の量で使用され得る。
【0041】
他の添加剤は、成分の混合に先だってもしくはその間に、または押出に先だってもしくはその間に組成物に添加され得る。これらの他の添加剤としては、帯電防止剤などの紫外線吸収剤または紫外線安定剤、顔料、染料、成核剤、補強充填剤、またはポリマー添加剤、カーボンブラックなどの抵抗性改良剤、スリップ剤、可塑剤、加工助剤、潤滑剤、粘度調整剤、粘着付与剤、ブロッキング防止剤、界面活性剤、伸展油、金属不活性化剤、電圧安定剤、追加の難燃剤添加物、ならびに架橋促進剤及び架橋触媒が挙げられる。添加剤は、樹脂の各100重量部に対し、0.1未満~5重量部超の範囲の量で添加され得る。
・・・
【0049】
例えば、本開示の組成物は、少なくとも1,450psi、または少なくとも1,480psi、または少なくとも1,500psiの引張強度を示し得る。いっそう更に、組成物は、少なくとも300%、または少なくとも320%、または少なくとも340%の引張伸びを示し得る。示された組成物の老化していない引張特性は、圧縮成形試料に対してASTM D638及びISO527試験手順に従って決定され得る。
【0050】
更に、本開示の組成物は、少なくとも28%、または少なくとも29%、または少なくとも30%の限界酸素指数を更に示し得る。示された組成物の限界酸素指数は、ASTMD2863-00試験手順に従って決定され得る。
・・・
【0054】
いっそう更に、本開示の組成物は、2,700Pa秒、または2,500Pa秒、または2,200Pa秒を超えない剪断粘度を更に示すことができる。示された組成物の剪断粘度は、160℃及び100rad/秒-1にて決定され得る。
【0055】
また更に、本開示の組成物は、4.0、または3.5、または3.0を超えない(160℃及び16,000Paの応力での)相対粘度を更に示すことができる。相対粘度は、以下のように算出される。
ηr=ηc/ηb (2)
式中、ηrは、相対粘度、ηcは、約16,000Paの応力での充填化合物の粘度、ηbは、約16,000Paの応力における原樹脂の粘度である。
【0056】
本開示の実施例1~3
比較例(「CE」)1~3及び例示的実施例(「IE」)1~3は、EEAコポリマー樹脂をベースとしている。実施例において、EEAコポリマー樹脂は、The Dow Chemical CompanyからAMPLIFY EA100の商標名にて市販されている。CE4~CE9は、それぞれ、使用されるEEAのメルトインデックスと同様のメルトインデックスを有するエチレンビニルアセテート(「EVA」)コポリマー樹脂ブレンドをベースとして、同量の充填剤を備えた対応例である。実施例において、EVAコポリマー樹脂ブレンドは、E.I.du Pont de Nemours and CompanyからELVAX3165及びELVAX3170の商標名にて市販されている樹脂の1:1ブレンドである。表1は、EEAコポリマー樹脂及びEVAコポリマー樹脂ブレンドの基本的特性を示す。ブレンドメルトインデックスは、個々の組成物のメルトインデックス(ELVAX3165は0.7g/10分、ELVAX3170は2.5g/10分)から、以下の式に従って導き出された。
Lg[ブレンドのMFI]=W1×Lg[MFI1]+W2×Lg[MFI2] (3)
式中、W1及びW2は、ポリマー1及び2それぞれの重量パーセンテージであり、MFI1及びMFI2は、ポリマー1及び2それぞれのメルトインデックスである。
【0057】
【表1】
[図:0001399349000001.jpg]
【0058】
実施例中の原材料を、表2の配合に従って計量し、160℃にてbrabender測定ボウルに添加する。原材料は、表2の上から表2の下へ順番にボウルに添加する。すべての原材料を添加した後、この材料を、更に5分間40rpmで混合し、均一な混合物を得る。コンパウンディングが完了すると、コンパウンド化された材料を、145℃にて圧縮(500psiにて3分間と、25,000psiにて3分間)し、試験のために異なる厚さを持つプラークにする。特に、限界酸素指数(「LOI」)及びUL94難燃試験を125ミルのプラークで行い、一方、T&E及び動的振動剪断は、50ミルのプラークで試験する。ミネラル充填剤の体積パーセントは、以下の式によって計算される。
(WAl/ρAl+WMg/ρMg+WCa/ρCa)×ρc (4)
式中、WAl、WMg、WCaは、組成物中の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び炭酸カルシウムの重量パーセントであり、ρAl、ρMg、ρCa、ρcは、それぞれ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び炭酸カルシウム、及び化合物の密度である。
【0059】
【表2ー1】
[図:0001399349000002.jpg]
【0060】
【表2ー2】
[図:0001399349000003.jpg]
【0061】
【表3】
[図:0001399349000004.jpg]
【0062】
表3に示す通り、IE1~IE3は、CE1~CE9と比較して、バランスの取れた機械的特性を示す。すなわち、IE1~IE3は、1,450psiを超える引張強度を得ながら、300%を超える引張伸びを可能にする。これらの機械的特性は、代替的なCE1~CE3などのEEA組成範囲(すなわち、<27%、もしくは36%超)、またはCE4~CE9などのEVAを含む組成物を使用して、これまで得られていない。
【0063】
加えて、IE1~IE3の160℃及び約16,000Pa応力での特有の相対粘度特性(4以下)は、比較例と比較して、LOIを28%以上、及び引張強度を1,450psi以上で維持しながら、押出し中の加工性が改善したことを示している。これは、本発明の実施例及び比較例の充填剤体積分率とともに、一定の剪断応力での相対粘度の変化を示す図1に明白に表されている。
【0064】
本開示の実施例4~6
以下のマスターバッチ組成物は、二軸押出機を使用して作製される。20.5重量%のEEA Amplify(商標)EA100、10.5重量%のAFFINITY(商標)KC8852G樹脂、7重量%のAMPLIFY(商標)GR216機能性ポリマー、50重量%の水酸化アルミニウム、5重量%の水酸化マグネシウム、5重量%の炭酸カルシウム、1.5重量%のシリコーンオイル(60,000cSt)、0.3重量%のステアリン酸、及び0.2重量%の酸化防止剤IRGANOX(商標)1010。この組成物は、以下に記載される手順を用いて、IE4~IE6、CE10、及びCE11の組成物を作製するために使用される。
【0065】
組成物を、表4の配合に従って計量し、160℃にてbrabender測定ボウルに添加し、添加順序は、表4の上から表4の下への順序である。個々の組成物の得られた量を、表4に示す。すべての原材料を添加した後、この材料を、更に5分間40rpmで混合し、均一な混合物を得る。コンパウンディングが完了すると、コンパウンド化された材料を、145℃にて圧縮(500psiにて3分間と、25,000psiにて3分間)し、試験のために異なる厚さを持つプラークにする。特に、LOI及びUL94難燃試験を125ミルのプラークで行い、一方、T&E及び動的振動剪断は、50ミルのプラークで試験する。
【0066】
【表4】
[図:0001399349000005.jpg]
【0067】
【表5】
[図:0001399349000006.jpg]
【0068】
表5に示す通り、IE4~IE6は、CE10及びCE11と比較して、バランスの取れた機械的特性を示す。すなわち、IE4~IE6は、1,650psiを超える引張強度を得ながら、330%を超える引張伸びを可能にする。これらの機械的特性は、代替的なCE10及びCE11などのEEA組成範囲(すなわち、<27%、または36%超)を含む組成物を使用して、これまで得られていない。」
第5 特許異議申立書に記載した申立ての理由・証拠及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年6月1日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(進歩性)
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(明確性要件)
本件特許の請求項3は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由は以下のとおりである。
請求項3では、「160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す」ことが規定されているが、相対粘度の測定方法、相対粘度を算出するための粘度の測定方法、測定に使用する装置などが一切記載されていないから、「相対粘度」の値が、どの粘度計や粘度測定方法によって導き出されたものであるかを理解することができず、不明確である。
(3)申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由は以下のとおりである。
請求項3では、「160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す」ことが規定されているが、相対粘度の測定方法、相対粘度を算出するための粘度の測定方法、測定に使用する装置などが一切記載されていないから、「相対粘度」の値が、どの粘度計や粘度測定方法によって導き出されたものであるかを理解することができず、当業者は、本件特許の請求項3の構成要件を満たす組成物を製造することができない。
2 証拠方法
(1)申立書に添付された証拠方法
甲第1号証:特開2005-29605号公報
甲第2号証:松浦一雄編「ポリエチレン技術読本」、2001年、70頁及び奥付
甲第3号証:特開2005-239997号公報
甲第4号証:特開2011-144286号公報
甲第5号証:特開2003-183456号公報
甲第6号証:最終回:コーティング用添加剤 WEB連載講座(6) ビックケミ-・ジャパン、平成25年
(https://www.coatingmedia.com/special/additive/additive02/web6.html)
甲第7号証:特開2015-218302号公報
甲第8号証:特開2008-179755号公報
甲第9号証:特表2008-521966号公報
甲第10号証:株式会社アタゴのウェブサイ卜、令和4年5月27日印刷
(https://www.atago.net/japanese/new/databook- viscositykind.php)
(2)令和5年3月6日提出の意見書に添付された証拠方法
甲第11号証:プラスチック強度設計における引張特性と曲げ特性の使い方-製品設計知識、令和5年3月3日印刷
(https://seihin-sekkei.com/blog-pla-think-19/)
甲第12号証:応力-ひずみ曲線~プラスチック製品の強度設計~製品設計知識、令和5年3月3日印刷
(https://seihin-sekkei.com/plastic-design/stress-strain-curve/)
甲第13号証:株式会社ENEOS NUCのウェブサイト「コポリマー」、令和5年3月3日印刷
(https://www.eneos-nuc.co.jp/pe_f/copolymer.html)
甲第14号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典5 縮刷版」、500~501頁及び奥付け、昭和38年
甲第15号証:ASTM D638、55~71頁及び抄訳、平成27年5月
甲第16号証:JIS K7161-2、プラスチック-引張特性の求め方-第2部:型形成、押出成形及び注型プラスチックの試験条件、209~217頁、平成26年
甲第17号証:日本材料科学会編「先端材料シリーズ 破壊と材料」、130~131頁及び奥付け、1992年
甲第18号証:IS0527-1、1~23頁及び抄訳、平成24年
甲第19号証:大石不二夫著「プラスチック材料の寿命-耐久性と破壊-」、132~135頁及び奥付け、1987年
甲第20号証:株式会社ケミトックスのウェプサイト、「実験シリーズ-ハテナを明かす!!」、令和5年2月28日印刷
(https://www.chemitox.co.jp/business/plastic/experiment_series/experiment_series02)
以下、甲第1号証~甲第20号証を「甲1」~「甲20」という。
3 取消理由の概要
令和4年10月24日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
(1)取消理由1(新規性)
本件特許の請求項1、2、6、11~14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1、2、4~14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲1~5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、当該請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 本件発明3に係る特許に対する申立ての却下
第2及び第3で示したとおり、本件特許の請求項3は本件訂正により削除され、請求項3に係る特許に対する申立ては、申立ての対象を欠くこととなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、決定を持って却下すべきものである。
2 甲1を主引例とする本件発明の新規性、進歩性について
(1)取消理由1及び取消理由2について
ア 本件発明1について
本件発明1は、上記第3のとおりであって、「組成物」が「300%超の引張伸び、1,450psi超の引張強度、及び160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す」との特定を有する。
そして、当該特定は、本件訂正前の請求項3に係る発明に関するものであったのを、本件訂正により、本件発明1に追加されたものであるところ、取消理由1及び2は、いずれも、本件訂正前の請求項3に係る発明を対象としていない。
よって、本件訂正により、本件発明1に関して、取消理由1及び2は、いずれも理由がないものとなった。
イ 本件発明2,4~14について
本件発明2、4~14は、いずれも、本件発明1を直接または間接的に引用するものであるから、アと同様の理由により、これらの発明に関しても、取消理由1及び2は、何れも理由がないものとなった。
ウ 小括
よって、取消理由1及び2は、いずれも理由がない。
(2)申立理由1について
本件発明1、2、4~14について、取消理由1及び2がいずれも理由がないことは、上記(1)のとおりである。
ここで、上記第5の1(1)のとおり、申立人は、本件訂正前の請求項3に係る発明を含めた請求項1~14に係る発明について、甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであると主張する(申立理由1)。
したがって、以下では、本件発明の甲1に記載された発明に基づく進歩性について、改めて検討する。
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には,以下の記載がある。
(ア)
「【請求項1】
下記(A1)~(A3)から選択される少なくとも1種のエチレン共重合体(A)30~96質量%、密度0.91~0.96g/cm3のポリエチレン樹脂(B)3~60質量%、および官能基含有オレフィン重合体(C)1~10質量%を含む樹脂成分100質量部と、無機難燃剤(D)30~200質量部から構成される難燃樹脂組成物からなり、そのシート材のノッチ入り引張衝撃強さが98kJ/m2以下であることを特徴とする難燃樹脂材料。(A1)エチレン・α,β-不飽和カルボン酸エステル共重合体、(A2)エチレン・ビニルエステル共重合体、(A3)密度0.88~0.91g/cm3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体。
【請求項2】
前記樹脂成分100質量部に対して、さらに脂肪酸アミド(E1)および有機シリコーン化合物(E2)の少なくとも1種の傷付き白化防止剤(E)0.05~5質量部を配合してなる請求項1に記載の難燃樹脂材料。
・・・
【請求項4】
前記エチレン共重合体(A)がエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体および/またはエチレン・酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の難燃樹脂材料。
【請求項5】
前記ポリエチレン樹脂(B)が、メルトフローレート0.1~100g/10分、分子量分布(Mw/Mn)が6~20の範囲にあることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の難燃樹脂材料。
【請求項6】
前記官能基含有オレフィン重合体(C)が、酸無水物基含有オレフィン系ランダム共重合体(C1)および/または変性ポリオレフィン系樹脂(C2)からなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の難燃樹脂材料。
【請求項7】
前記無機難燃剤(D)が、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムの少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の難燃樹脂材料。」
(イ)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電線・ケーブル等の配線施工時における、端末等の易加工性の難燃樹脂材料およびそれを用いた電線・ケーブルに関し、さらに詳しくは製造時の生産性が高く、かつ、シース等の被覆層および/または絶縁体層の剥離が容易で端末処理の効率も良い樹脂材料およびその電線、ケーブルに関するものである。」
・・・
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来、電線・ケーブル等の配線施工時における、端末処理としては、被覆層(シース)や絶縁層を冶具等により芯線から剥ぎ取り切断し、芯線を各種のコネクターの圧着やはんだ付けをするなどの処理加工を施している。しかしながら、上記難燃剤の水酸化マグネシウム等の無機難燃剤を用いた難燃性樹脂組成物は、前記のような利点があるものの、端末加工時に切断し難く、また絶縁体とシースの密着性もあるため配線時の作業性に劣るという問題があった。この密着防止対策としては、加工線速(生産性)を低減して、材料温度の上昇を抑えると共に、シース押出加工時に絶縁体表面に、主として無機質の粉体を塗布することで対策を図っていたが十分ではなく、かつ生産性や粉体が飛び散る粉塵等の問題があった。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述の問題点を解消したもので、電線・ケーブル等の配線施工時における端末加工が容易な難燃性樹脂組成物およびそれを用いた電線、ケーブルを提供するものである。」
(ウ)
「【0016】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳細に説明する。
[エチレン共重合体(A)]
エチレン共重合体(A)は以下のエチレン・α,β-不飽和カルボン酸エステル共重合体(A1)、エチレン・ビニルエステル共重合体(A2)および密度0.88~0.91g/cm3未満のエチレン・α-オレフィン共重合体(A3)から選択される少なくとも1種が用いられる。
・・・
【0020】
[ポリエチレン樹脂(B)]
本発明の密度0.91~0.96g/cm3のポリエチレン樹脂(B)とは、エチレン単独重合体またはエチレンとα-オレフィンとの共重合体であって、密度0.91~0.96g/cm3、好ましくは0.92~0.95g/cm3、さらに好ましくは0.925~0.945g/cm3の範囲である。該密度が0.91g/cm3未満では、ノッチ入り引張衝撃強さが満足せず、0.96g/cm3を超える場合には、硬くなる虞を生じる。
また、該ポリエチレン樹脂の分子量分布は、Mw/Mn=6~20、好ましくはMw/Mn=7~18、さらに好ましくは、Mw/Mn=8~15の範囲である。Mw/Mnが6未満ではケーブル成形時の加工性及び外観が劣り、Mw/Mnが20を超える場合には機械的強度が低下する虞を生じる。
・・・
【0022】
[官能基含有オレフィン重合体(C)]
本発明の官能基含有オレフィン重合体(C)は、軟質性のベース樹脂のエチレン共重合体(A)およびポリエチレン樹脂(B)と良好な相溶性を有し、かつ無機難燃剤(D)とのカップリング効果が著しく、難燃性樹脂組成物の機械的強度、燃焼時の炭化層(チャー)の形成を促し、難燃性を向上させる役割として用いられる。具体的なものとして、酸無水物基含有オレフィン系ランダム共重合体(C1)および変性ポリオレフィン系樹脂(C2)などが挙げられる。
・・・
【0033】
[無機難燃剤(D)]
本発明の無機難燃剤としては、合成水酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物(以下天然水酸化マグネシウムともいう)、水酸化アルミニウム、無水アルミナ、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化バリウム、ハイドロタルサイト等の少なくとも1種の無機難燃剤が挙られる。中でも水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが好ましい。また、特に水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物は、経済性に優れ、エコ電線用として多用され好適である。
・・・
【0040】
[難燃性樹脂組成物]
本発明の易加工性の難燃樹脂材料は、上記(A)成分30~96質量%、(B)成分3~60質量%、(C)成分1~10質量%を含む樹脂成分100質量部に対し、無機難燃剤(D)30~200質量部からなる樹脂組成物で構成され、そのシート材の、後述する試験法(3)の条件にて測定したノッチ入り引張衝撃強さが、98kJ/m2以下、好ましくは88kJ/m2以下、より好ましくは78kJ/m2以下であることが好ましい。このような条件を満足することにより電線・ケーブルのシース層として被覆した際、被覆層の芯線からの冶具による剥ぎ取り切断がしやすく、配線施工時の端末加工が容易となる。上記(A)成分が30質量%未満、(B)成分が60質量%を超える場合には材料が硬くなり、製品の可撓性が失われる虞があるばかりでなく、傷付き白化等の弊害が起きるものとなる。また、(A)成分が96質量%を超え、(B)成分が3質量%未満では、端末処理時に、容易に剥離し難いものとなる虞が生じる。また、(C)成分が1質量%未満では樹脂成分と無機難燃剤(D)とのカップリング効果が乏しく、燃焼時の炭化層の形成が望めなくなる。また、10質量%を超える量を配合してもそれ以上の機械的強度の向上は望めないばかりでなく、かえって材料が堅くなる虞が生じる。上記(D)成分が30質量部未満では難燃性の効果に乏しくなる可能性が生じ、200質量部を超える場合には、材料の可撓性がなくなって脆くなり、機械的強度が失われる虞が生じる。
・・・
【0041】
[傷付き白化防止剤(E)]
本発明の他の態様は、上記難燃樹脂材料の表面傷付き白化をさらに改良するものである。すなわち、前記難燃樹脂組成物にさらに表面傷付き白化を防止するために傷付き白化防止剤(E)を配合したものである。
該傷付き白化防止剤としては、特許文献12、13等に記載される傷付き白化防止剤を使用することができるが、それらの中でも、特に水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱物の粉砕物の場合においては脂肪酸アミド(E1)および/または有機シリコーン化合物(E2)が好ましい。脂肪酸アミドとして具体的にはエルカ酸アミド、オレイン酸アミド等が用いられるが、特にエルカ酸アミドが好ましい。また有機シリコーン化合物としては、アルキル変性、ポリエーテル変性、脂肪酸変性シリコーンオイル、超高分子量シリコーン等が用いられるが、特に超高分子量シリコーン化合物であるシリコーンガムが好ましい。
これらの傷付き白化防止剤(E)を配合する場合、その配合量はその種類により異なるが、脂肪酸アミドの場合においては、該樹脂成分100質量部に対して0.05~5質量部、好ましくは0.05~3質量部、より好ましくは0.1~2質量部である。また、有機シリコーン化合物の場合においては、該樹脂成分100質量部に対して0.05~5質量部、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは、0.5~5質量部である。これらの配合量が下限を満たない量では耐傷付き白化の効果が具現化されず、また、上限を超える場合には、表面へのブリードアウトが激しくなり、取り扱いが悪化し、かつ埃等の付着等により製品の外観を損ない、製品価値を低下させる虞が生じる。」
(エ)
「【0046】
【実施例】
以下本発明を実施例にて詳述する。
[使用樹脂]
(A1)エチレン・アクリル酸エチル共重合体:(EEAと称す)
MFR=0.8g/10分、EA含量=15質量%
銘柄名:A1150 日本ポリオレフィン(株)製
(A2)エチレン・酢酸ビニル共重合体:(EVAと称す)
MFR=1.5g/10分、VA含量=15質量%
銘柄名:VE330N 日本ポリオレフィン(株)製
(A3)超低密度ポリエチレン(V-LDPE▲1▼と称す)
MRR=0.8g/10分、密度=0.906g/cm3、エチレン・1-ブテン共重合体、日本ポリオレフィン(株)製
(B1)直鎖状低密度ポリエチレン:(L-LDPE▲1▼と称す)
密度=0.935g/cm3、MFR=0.8g/10分、Mw/Mn=12
銘柄名:AE278L 日本ポリオレフィン(株)製、
(B2)直鎖状低密度ポリエチレン:(L-LDPE▲2▼と称す)
密度=0.921g/cm3、MFR=0.7g/10分、Mw/Mn=4.5
銘柄名: AF21SA日本ポリオレフィン(株)製、
(B3)超低密度ポリエチレン(V-LDPE▲2▼と称す)
密度=0.905g/cm3、MFR=1.0g/10分、Mw/Mn=2.7
銘柄名:ハーモレックスNF324 日本ポリオレフィン(株)製
(C1)無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(MAH-LLDPEと称す)
密度=0.923g/cm3、MFR=2g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に無水マレイン酸0.25質量部、有機過酸化物としてパーヘキシン25Bの0.02質量部を配合し、押出機にて溶融混練して変性直鎖状低密度ポリエチレンとしたものを用いた(無水マレイン酸含有量0.2質量%)。
(C2)エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体(ET183Bと称す)
銘柄名:ET183B 日本ポリオレフィン(株)製
(D1)天然鉱物を粉砕した水酸化マグネシウム(Mg(OH)2▲1▼と称す)
銘柄名:マグシーズW-R4 神島化学工業(株)製
(D1)ステアリン酸ブチル(G3)で表面処理した天然鉱物を粉砕した水酸化マグネシウム(Mg(OH)2▲2▼と称す)
(D1)天然鉱物を粉砕した水酸化マグネシウム(Mg(OH)2▲3▼と称す)
銘柄名:マグラックスSTF-2 鋼管鉱業(株)製
(D2)ステアリン酸(G1)で表面処理した水酸化アルミニウム(Al(OH)3と称す)
平均粒径1.1μm、銘柄名:ハイジライト、H42S、昭和電工(株)製
(E1)脂肪酸アミドエルカ酸アミド 花王(株)製
(E2)有機シリコーン化合物
シリコーンガムマスターバッチ:商品名 BY27-002
マルチベースアジア(株)製
(E3)シリコーンオイル:商品名 XF42-A3161
GE東芝シリコーン(株)製
(F)酸化カルシウム平均粒径5μm、銘柄名:Fライム1300D、同和カルフアイン(株)製
【0047】
[試験法]
(1)含水量(水分量):カールフィッシャー法水分計(190℃にて測定)
(2)発泡の有無:キャピラリーレオメータによりストランドを180℃で押し出し、そのストランドを観察し、発泡の有無を判定した。
○:発泡なし ×:発泡あり
(3)ノッチ入り引張衝撃強さ:JIS K7160に準拠(180℃でプレス成形した厚み1mmシートの厚み方向にレザー刃にて0.3mm(残厚み0.7mm)のノッチを入れた4形試験片を使用した。)
(4)引張破壊強さおよび引張破壊伸び:JIS K6251に準拠(180℃でプレス成形したシートを使用)
(5)酸素指数:JIS K7201に準拠
数値が大きいものが難燃性の優れていることを示す。
(6)傷付き白化性:0.5mmRのサファイア針にて傷をつけ、目視にて観察した。
○:白化無し
(7)押出ストランド外観:キャピラリーレオメータ矩形オリフィス(1×5mm)から170℃、剪断速度700sec-1(押出速度500mm/min)で押し出し、そのストランドの表面外観を観察した(目視)。
○:表面状態良好
【0048】
<実施例1>
エチレン・エチルアクリレート(EEA)(A1)87質量%、直鎖状低密度ポリエチレン(L-LDPE▲1▼)(B1)10質量%、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン(MAH-LLDPE)(C1)3質量%で構成される樹脂成分100質量部に対して、天然水酸化マグネシウム(D1)(Mg(OH)2▲1▼)80質量部を配合してなる難燃樹脂材料を用いて、易加工性の目安であるノッチ入り引張衝撃強さ、引張破壊強さや引張破壊伸び等の機械的強度、難燃性の目安である酸素指数を評価した。その結果を表1に示した。適度な機械的強度、難燃性を有する上、ノッチ入り引張衝撃強さが低く易切れ性に優れ端末処理作業性に優れている。
<実施例2、3>
実施例1の(A1)と(B1)の配合量を表1に示すように変化させた以外は実施例1と同様に評価しその結果を表1に示した。
・・・
【0052】
<実施例9>
実施例1の(C)成分のMAH-LLDPE(C1)を、エチレン・無水マレイン酸・アクリル酸メチル共重合体(ET183)(C2)に代え、また各成分の配合量を表1に示したものとし、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示した。
【0053】
【表1】
[図:0001399349000007.jpg]
【0054】
<実施例10~12>
実施例2の難燃樹脂組成物に、さらに傷付き白化防止剤(E)として、それぞれエルカ酸アミド(E1)、シリコーンガムマスターバッチ(E2)あるいはシリコーンオイル(E3)を配合して、傷付き白化性の評価を加えて実施例2と同様に評価した。結果を表2に示した。適度な機械的強度、難燃性、端末処理作業性に優れている上、耐傷付き白化防止性に優れている。
・・・
【0056】
【表2】
[図:0001399349000008.jpg]
」
上記摘記(ア)~(エ)のうち、摘記(エ)の実施例12にについて、樹脂成分、難燃剤、白化防止剤の合計量を100質量%として各成分の含有量を計算すると、以下のようになる。
EEA 37.0質量%
L-LDPE1(1は○付き数字) 16.6質量%
MAH-LLDPE 1.7質量%
Mg(OH)21(1は○付き数字) 44.2質量%
シリコーンオイル 0.55質量%
そうすると、甲1の実施例12に着目して、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「MFRが0.8g/10分、EA含量が15質量%であるエチレン・アクリル酸エチル共重合体を37.0質量%、密度が0.935g/cm3、MFRが0.8g/10分、Mw/Mnが12である直鎖状低密度ポリエチレンを16.6質量%、密度が0.923g/cm3、MFRが2g/10分である直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に無水マレイン酸0.25質量部、有機過酸化物としてパーヘキシン25Bの0.02質量部を配合し、押出機にて溶融混練して得た、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレンを1.7質量%、天然鉱物を粉砕した水酸化マグネシウムを44.2質量%、シリコーンオイル0.55質量%を含有し、JIS K6251に準拠(180℃でプレス成形したシートを使用)して測定した、引張破壊強さが14.5MPa、引張破壊伸びが600%である、樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「MFRが0.8g/10分、EA含量が15質量%であるエチレン・アクリル酸エチル共重合体」は、本件発明1の「エチレンエチルアクリレートコポリマー」に相当し、その含有量である「37.0質量%」は、本件発明1の「エチレンエチルアクリレートコポリマー」の含有量である「少なくとも26重量%かつ42重量%を超えない」の範囲に包含される。
甲1発明の「密度が0.935g/cm3、MFRが0.8g/10分、Mw/Mnが12である直鎖状低密度ポリエチレン」は、本件発明1の、「エチレン系ポリマー」に相当する。
甲1発明の「密度が0.923g/cm3、MFRが2g/10分である直鎖状低密度ポリエチレン100質量部に無水マレイン酸0.25質量部、有機過酸化物としてパーヘキシン25Bの0.02質量部を配合し、押出機にて溶融混練して得た、無水マレイン酸変性直鎖状低密度ポリエチレン」は、その製造方法からみて無水マレイン酸グラフトポリエチレンであると解されるところ、本件明細書には、カップリング剤は、無水マレイン酸グラフトポリエチレンであり得ることが記載されているから(【0034】)、本件発明1の、「カップリング剤」に相当する。そして、その含有量である「1.7質量%」は、本件発明1の、カップリング剤の含有量である「0~12重量パーセント」の範囲に包含される。
甲1発明の「天然鉱物を粉砕した水酸化マグネシウム」は、本件発明1の「ハロゲンフリー難燃剤」に相当し、その含有量である「44.2質量%」は、本件発明のハロゲンフリー難燃剤の含有量である「42~54重量パーセント」の範囲に包含される。
甲1発明の「シリコーンオイル」は、本件発明1の「シリコーン基含有化合物」に相当する。
甲1発明の組成物は、酸化防止剤を含まない。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「42~54重量パーセントのハロゲンフリー難燃剤と、
少なくとも26重量%かつ42重量%を超えないエチレンエチルアクリレートコポリマーと、
エチレン系ポリマーと、
0~12重量パーセントのカップリング剤と、
0~1.0重量パーセントの酸化防止剤と、
シリコーン基含有化合物と、を含む、組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
組成物に関し、本件発明1では、「300%超の引張伸び、1,450psi超の引張強度」を示すのに対して、甲1発明では、JIS K6251に準拠(180℃でプレス成形したシートを使用)して測定した引張破壊強さが14.5MPa、引張破壊伸びが600%である点。
【相違点2】
組成物に関し、本件発明1では、「160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す」のに対して、甲1発明では、この点についての特定がない点。
【相違点3】
エチレン系ポリマーの含有量について、本件発明1では、1~15重量パーセントであるのに対して、甲1発明では、「16.6質量%」である点。
【相違点4】
シリコーン基含有組成物の含有量について、本件発明1では、「1~5重量%」であるのに対して、甲1発明では、「0.55質量%」である点。
ウ 検討
(ア)事案に鑑み、相違点2から検討する。
後記2(2)アのとおり、本件発明は、従来、特に、エチレン酢酸ビニルコポリマー(EVAコポリマー)をベースポリマーとして使用した組成物では、ハロゲンフリー難燃剤の含有量が高いと溶融粘度を増加させる等の問題点があったことを踏まえ、ハロゲンフリー難燃剤等の各添加物を配合してあっても溶融粘度の増加の程度が低い、エチレンエチルアクリレートコポリマーを用いた特定の組成を有する組成物についての発明であり、「相対粘度」は、当該「溶融粘度の増加の程度」を表す指標であると理解することができる(ここで、本件明細書の【0055】に記載された「相対粘度」の意味するところが明確であることも、後記2(2)アのとおりである。)
これに対して、甲1には、樹脂組成物が、「160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す」ことは記載されておらず、甲1発明の樹脂組成物がそのような特性を有すると解すべき根拠はないから、相違点2は、実質的な相違点である。
さらに、甲1には、樹脂組成物にハロゲンフリー難燃剤を含有させる際の溶融粘度の増加については何ら記載されておらず、樹脂組成物全体の溶融粘度についても、何ら記載も示唆もされていないから、甲1発明において、「160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度を示す」ようにすることの動機付けは見いだせない。
よって、相違点2に係る事項は、当業者が容易に想到しうるものではない。
(イ)上記(ア)のとおり、相違点2に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではないので、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人は、以下のとおり主張する(申立書44頁12~46頁17行、意見書8頁14~18頁16行)。
a 本件発明の組成物と甲1発明の組成物とは、その構成成分の一部の配合割合がわずかに異なるものの、設計事項のレベルのものであり、加えて、甲1発明の組成物が示す「引張伸び」及び「引張強度」も本件発明と共通するものとなっているから、甲1発明の組成物は必然的に、「160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度」となることが推認される。
b 仮に、上記推認が働かないとの前提にたっても、甲1は、「電線・ケーブル等の配線施工時における端末加工が容易な難燃性樹脂組成物およびそれを用いた電線、ケーブルを提供することを課題としているから、加工性を改善することにつき動機付けが働く一方、本件明細書には、本件発明1の相対粘度について、相対粘度特性(4以下)であると、押出し中の加工性が改善したことが示されている(【0063】)から、加工性を改善するとの観点から、甲1発明において、相対粘度を4.0を超えないようにすることも当然動機付けられる。
c 知的財産高等裁判所の裁判例に従えば、甲1発明において、「160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度」とすることは容易想到である。
(イ)上記主張について検討する。
a 主張aについて
申立人も認めるとおり、本件発明の組成物と甲1発明の組成物とは組成が異なる。
また、甲1発明では、「引張破壊強さ」および「引張破壊伸び」については、「JIS K6251に準拠(180℃でプレス成形したシートを使用)」して測定されるところ、当該測定方法は、本件明細書に「引張強度」、「引張伸び」の測定方法として記載された「ASTM D638及びISO527」の何れの試験にも当たらないから、甲1発明の「引張破壊強さ」と「引張破壊伸び」の数値を、本件発明の「引張伸び」、「引張強度」の数値を対比して、両者の引張伸び、引張強度が共通しているとただちにいうことはできない。
そうすると、申立人の、甲1発明の組成物は必然的に、「160℃、16,000Paの応力にて4.0を超えない相対粘度」となるとの主張は根拠がない。
なお、仮に、甲1発明の組成物が、本件発明の引張伸び、引張強度を示したとしても、上記したとおり、甲1発明の組成物の組成は、本件発明の組成物の組成とは異なり、そのような組成の相違が設計事項レベルのものであって、相対粘度に何ら変化を与えないということの根拠は何ら見いだせない。
よって、上記主張aは採用できない。
b 主張bについて
申立人の主張するとおり、甲1は、「電線・ケーブル等の配線施工時における端末加工が容易な難燃性樹脂組成物およびそれを用いた電線、ケーブルを提供すること」を課題としている(甲1摘記(イ)【0007】)が、そのような加工性を改善することと相対粘度を4以下とすることを技術的に関連付ける根拠はない。
申立人は、本件明細書の、相対粘度が4以下であると、押出し中の加工性が改善したことが示されたとの記載を根拠に、甲1発明において相対粘度を4.0を超えないようにすることが動機付けられると主張するが、そのような動機付けの根拠として、本件明細書の記載を採用することは適当でない。
なお、甲1が改善しようとする加工性は、「被覆層(シース)や絶縁層を治具等により芯線から剥ぎ取り切断し、芯線を各種のコネクターの圧着やはんだ付けをするなどの処理加工を施」(甲1摘記(イ)【0006】)す際の加工性であるから、本件明細書に記載される押出中の加工性の改善とは異なる加工性である。
c 上記主張cについて
申立人は、知的財産高等裁判所の裁判例を複数挙げるが、いずれも、本件とは事案が異なり、直接あてはめることはできない。
よって、主張cは採用できない。
オ 小括
よって、本件発明1に関し、申立理由1は、理由がない。
また、上記ア~エと同様の理由により、本件発明2、4~14に関し、申立理由1は、理由がない。
3 明確性(申立理由2)について
(1)申立人の主張する明確性要件違反の理由
ア 申立人は、上記第5の1(2)のとおり、申立書において、本件訂正前の請求項3に関し、相対粘度の測定方法、相対粘度を算出するための粘度の測定方法、測定に使用する装置などが一切記載されていないから、「相対粘度」の値が、どの粘度計や粘度測定方法によって導き出されたものであるかを理解することができず、不明確である旨主張する。
イ また、令和5年3月6日提出の意見書において、本件訂正後の請求項1、2、4~14に関し、「相対粘度」について、上記アと同様の主張をするとともに、「300%超の引張伸び、1450psi超の引張強度」が不明確であると主張する。
(2)申立理由2(明確性)についての検討
ア 相対粘度について
(ア)本件明細書の【0055】によれば、本件発明における相対粘度ηrは、約16,000Paの応力での充填化合物の粘度ηcと約16,000Paの応力における原樹脂の粘度ηbとの比であると解される。
上記「約16,000Paの応力での充填化合物の粘度ηc」及び「約16,000Paの応力における原樹脂の粘度ηb」の、「充填化合物」及び「原樹脂」が、それぞれどのような事項を意味するのか、文言上、ただちに明らかであるとはいえない。
(イ)本件明細書の【0004】及び【0005】によれば、本件発明は、従来、ハロゲンフリー難燃剤に関し、大量の難燃性充填剤が必要となるという問題点があったところ、特にエチレン酢酸ビニルコポリマー系組成物では、ハロゲンフリー難燃剤の含有量が高いと、溶融粘度が増加し、引張伸びが減少することを踏まえ、改善された溶融レオロジー特性、引張特性、及び難燃剤特性を備えたハロゲンフリー難燃剤組成物が望ましいとの認識のもと、発明されたものであると理解される。
そして、具体的な組成物の配合として、IE1~IE3及びCE1~CE9(表2)と、IE4~IE6、CE10及びCE11(表4)が、それぞれの性能(表3及び表5)とともに記載されている。
これらの表をみるに、樹脂組成物のうち、「EEAコポリマー(CE1~3、10、11、IE1~IE6)が「ベースポリマー」と呼称され、比較例「CE4~CE9」では、EVAコポリマーが「ベースコポリマー」と呼称されている。
また、比較例「CE4~CE9」で使用されたEVAコポリマーは、実施例「IE1~IE3」で使用されたEEAコポリマー樹脂と同様のメルトインデックスを有するように、EVAコポリマーがブレンドされたものであり、IE1とCE6、IE2とCE7、IE3とCE8とをそれぞれ対比すると、両者は「ベースポリマー」が異なるのみであるが、160℃での相対粘度は、「IE1~IE3」では4.0を超えないのに対して、「CE6~CE8」では4.0を超えている。
(ウ)上記(イ)に照らすと、本件発明は、従来、特に、エチレン酢酸ビニルコポリマーをベースポリマーとして使用した組成物では、ハロゲンフリー難燃剤の含有量が高いと溶融粘度を増加させる等の問題点があったことを踏まえ、ハロゲンフリー難燃剤等の各添加物を配合してあっても溶融粘度の増加の程度が低い、エチレンエチルアクリレートコポリマーを用いた、特定の組成を有する組成物についての発明であると理解することができ、「相対粘度」については、当該「溶融粘度の増加の程度」を表す指標であると理解することができる。
(エ)上記(ウ)の理解を踏まえれば、本件発明の「相対粘度」を決定する式(2)において、「約16,000Paの応力での原樹脂の粘度」における「原樹脂」とは、エチレンエチルアクリレートコポリマーを意味し、「約16,000Paの応力での充填化合物の粘度」における「充填化合物」とは、エチレンエチルアクリレートコポリマーに、規定量の、ハロゲンフリー難燃剤、エチレン系ポリマー、カップリング剤、酸化防止剤、シリコーン基含有化合物を含む組成物を意味するものと合理的に理解することができる。
(オ)そうであれば、「相対粘度」なる語は明瞭である。
イ 引張伸び及び引張強度について
(ア)本件明細書の【0049】には、引張特性(引張強度及び引張伸び)は、圧縮成形試料に対してASTM D638及びISO527試験手順に従って決定される旨の記載がある。
そして、本件明細書の実施例(【0058】及び【0064】)には、コンパウンド化された材料を圧縮し、試験のために異なる厚さを持つプラークにすること並びに限界酸素指数(「LOI」)及びUL94難燃試験を125ミルのプラークで行い、T&E及び動的振動剪断は50ミルのプラークで試験したことが記載されている。ここで、当該【0058】及び【0064】の記載と表3及び表5の記載を照らし考えると、「T&E及び動的振動剪断」は、引張強度及び引張伸びに関する試験を意味することは明らかである。
そうすると、本件発明の実施例において、引張強度及び引張伸びは、厚み50ミル(=1.27mm)で測定されている。
(イ)甲15によれば、ASTM D638は、プラスチックの張力特性に関する試験方法である。そして、試験片として、TypeI~TypeVの5種類が記載され、このうち、厚さ4mm以下のものとしては、TypeIV及びTypeVが記載されている(甲15の58頁表)。そして、57頁の「6.1.1」及び「6.2.2」によれば、厚さ4mm以下の試料に関しては、硬質又は半硬質プラスチックであれば、TypeVの試験片を使用し、非硬質プラスチックであれば、TypeIVの試験片を使用する。
(ウ)ISO527試験の、日本語訳であると申立人が主張するK7161-2(甲16)の記載によれば、ISO527は、プラスチックの引張特性の求め方に関する、試験条件を規定するもので、型成形、押出成形及び注型の硬質及び半硬質熱可塑性プラスチック材料、型成形及び注型用の硬質及び半硬質熱硬化性材料等に適用されるものであり(甲16の209頁「1 適用範囲」)、試験片の厚みは4mmとされ(211頁6.1「形状及び寸法」、213頁表1)、標準の試験片を用いることができない場合は、厚さが2mm以上のものや、2mm又は1mmのものを使用する(附属書A)。
(エ)上記(ア)のとおり、本件明細書には、引張特性に関し、ASTM D638及びISO527試験手順に従って決定される旨記載された上で、実施例では、厚さ1.27mmで測定されているところ、上記(ウ)に照らせば、ISO527には、当該厚さの試験片についての規定はない。
そうすると、本件明細書の実施例では、引張特性をASTM D638の規定にしたがって、対象試験片が硬質又は半硬質プラスチックであればTypeVの試験片を使用し、非硬質プラスチックであればTypeIVの試験片を使用して引張特性を測定したものと理解できる。
(オ)本件発明は、引張特性(引張強度、引張伸び)の測定条件を特定するものではないが、上記(エ)のとおり、本件明細書に記載された実施例では、引張特性を、ASTM D638により測定していると理解できることからみれば、本件発明の引張特性は、当該規定により測定された値であると理解することができる。
よって、「300%引張伸び」及び「1,450psi超の引張強度」は明確である。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、以下のとおり主張する。
a 本件発明の相対粘度に関し、粘度や相対粘度は、測定方法は測定方法が一種類ではなく、複数種類存在し(甲10)、いずれの粘度計を用いて測定するかによって粘度の値が変わりうるところ、相対粘度の測定方法、相対粘度を算出するための粘度の測定方法、測定に使用する装置などが一切記載されていないから本件発明は明確でない(申立書64頁9行~66頁19行。意見書23頁9~19行)。
b 本件発明の相対粘度に関し、本件明細書の【0055】には、相対粘度の計算式が記載されているが、本件明細書の記載や技術常識を参酌しても、「充填化合物」や「原樹脂」がどのようなものを指すのか理解することができないから、本件発明は明確でない(意見書19頁4行~23頁8行)。
c 本件発明の引張伸び、引張速度の測定に関し、本件明細書に記載されている測定方法(ASTM D638及びISO527)には、寸法の異なる複数の試験片が記載されており、テストスピードも複数記載されているため、ASTM D638及びISO527を参照しても、試験方法は一義的に定まらないから、本件発明は明確でない(意見書24頁10行~33頁5行)。
(イ)上記主張について検討する。
a 主張a及びbについて
本件明細書の【0055】に記載された、相対粘度の計算式において、ηb(約16,000Paの応力での原樹脂の粘度)の「原樹脂」とは、EEA(エチレンエチルアクリレートコポリマー)を意味し、ηc(約16,000Paの応力での充填化合物の粘度)の「充填化合物」とは、EEAに、規定量の、ハロゲンフリー難燃剤、エチレン系ポリマー、カップリング剤、酸化防止剤、シリコーン基含有化合物を含む組成物を意味するものと合理的に理解することができることは、上記アのとおりである。
また、確かに甲10には、複数の粘度測定方法が記載されているものの、ηcとηbとは同じ測定方法で測定することは明らかであるところ、相対粘度は両者の比であるのだから、測定方法によらず概略同じであるとみるのが合理的である。
そしてこのような相対粘度が、測定方法によって異なると解すべき合理的理由もない。
よって、上記主張a及びbは採用できない。
b 主張cについて
本件発明の引張強度、引張伸びの値は、ASTM D638により、対象試料の硬度に応じて、TypeVまたはTypeIVの試験片を使用して引張特性を測定したものと理解できることは、上記イのとおりである。
また、当該測定の際のテストスピードに関して、ASDM D638によれば、試験片のタイプによってテストスピードを決定し、テストスピードが明記されていないときには、いちばん低いテストスピードが採用されるのだから(甲15の60頁「8.2」)、テストスピードが一義的に定まらないとはいえない。
よって、上記主張cは採用できない。
(3)小括
よって、申立理由2は、理由がない。
4 実施可能要件(申立理由3)について
(1)申立人の主張する実施可能要件違反の理由
ア 申立人は、上記第5の1(3)のとおり、申立書において、本件明細書には、相対粘度の測定方法、相対粘度を算出するための粘度の測定方法、測定に使用する装置などが一切記載されていないから、「相対粘度」の値が、どの粘度計や粘度測定方法によって導き出されたものであるかを理解することができず、当業者は、本件訂正前の請求項3の構成要件を満たす組成物を製造することができないと主張する。
イ また、令和5年3月6日提出の意見書において、「相対粘度」について、アと同様の主張をするとともに、「引張伸び」、「引張強度」についても、測定方法が特定されていないため、当業者が特許請求の範囲に記載された値を得ることができないと主張する。
(2)検討
しかしながら、上記3(2)で検討したとおり、本件明細書の記載に接した当業者であれば、「相対粘度」、「引張伸び」及び「引張強度」のいずれについてもその測定方法を理解することができるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができるといえる。
(3)小括
よって、申立理由3は、理由がない。
第7 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2、4~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらにまた、本件訂正により、請求項3は削除されたので、請求項3に係る申立ては却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する
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2022-700477