特許異議申立
2022-700318
グリース増粘剤の作製方法および本方法により作製された増粘剤
- 審判番号
- 2022-700318
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-568513
- 登録番号
- 6952223
- 請求日
- 2022年04月15日
- 審決日
- 2023年03月08日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】片山 英二
- 【権利者代理人】大森 規雄
- 【権利者代理人】新井 剛
- 【権利者代理人】鈴木 康仁
- 【異議申立人】鈴木 憲治
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 蔵野 雅昭
- 審判官 門前 浩一
- 分類
- P1651.537-YAA(C10M) / P1651.121-YAA(C10M) / P1651.536-YAA(C10M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第4項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6952223号発明「グリース増粘剤の作製方法および本方法により作製された増粘剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6952223号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12~14〕について訂正することを認める。
特許第6952223号の請求項1~12に係る特許を維持する。
特許第6952223号の請求項13~14に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6952223号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和元年6月27日(優先権主張 平成30年6月28日、平成30年11月6日、いずれも米国(US))を国際出願日とするものであって、令和3年9月30日に特許権の設定登録がされ、同年10月20日に特許掲載公報が発行され、その請求項1~14に係る発明の特許に対し、令和4年4月15日に鈴木憲治(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て後の手続の経緯は次のとおりである。
令和4年 9月27日付け 取消理由通知
同年12月23日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 同月26日付け 手続補正書の提出(特許権者)
令和5年 1月10日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 2月 1日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否
1 本件訂正請求の内容
令和4年12月23日にされた訂正請求の「請求の趣旨」は、「特許第6952223号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める。」というものである。また、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」ともいう。)の内容は、以下の訂正事項1~6からなるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「プロセスであって、毎秒5000(1/秒)未満の剪断速度で動作しているロータステータミキサの前方端部に少なくとも1つのアミンおよび第1の基油を供給することと、イソシアネートを、前記ミキサの剪断ゾーン内、かつ前記イソシアネートの添加後の前記ミキサ内での滞留時間が20秒未満になるような、前記ロータステータミキサの出口に近い位置に添加して、ポリ尿素を含むペーストを生成することと、を含む、プロセス。」
と記載されているのを、
「プロセスであって、毎秒5000(1/秒)未満の剪断速度で動作しているロータステータミキサの前方端部に少なくとも1つのアミンおよび第1の基油を供給することと、イソシアネートを、前記ロータステータミキサの剪断ゾーン内、かつ前記イソシアネートの添加後の前記ロータステータミキサ内での滞留時間が20秒未満になるような、前記ロータステータミキサの出口に近い位置に添加して、ポリ尿素を含むペーストを生成することと、を含む、プロセス。」
と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~11も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「6~18個の炭素原子を有する第2の直鎖第一級アミン」と記載されているのを、「前記第1の直鎖第一級アミンとは異なり、6~18個の炭素原子を有する第2の直鎖第一級アミン」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4~11も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11に「請求項9に記載のプロセス」とあるのを、「請求項l0に記載のプロセス」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項12に
「ロータステータ混合デバイスにおいて前記液体希釈剤の存在下で、アミンおよびポリイソシアネートを反応させることを含み、前記アミンが、前記ミキサの前方端部で前記ロータステータミキサに供給され、」
とあるのを、
「ロータステータミキサにおいて前記液体希釈剤の存在下で、アミンおよびポリイソシアネートを反応させることを含み、前記アミンが、前記ロータステータミキサの前方端部で前記ロータステータミキサに供給され、」
に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項14を削除する。
2 検討
(1) 一群の請求項などについて
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1について、請求項2~11は請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~11に対応する本件訂正後の請求項1~11は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
また、訂正事項4に係る本件訂正前の請求項12について、請求項13~14は請求項12を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項12~14に対応する本件訂正後の請求項12~14は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとになされたものである。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における2つの「前記ミキサ」について、それ以前にある「ミキサ」が「ロータステータミキサ」のみであるため、各「前記ミキサ」が「ロータステータミキサ」を指していることは自明であるが、それ以前にある「ロータステータミキサ」を意味することをより明確にすべく、それぞれ「前記ロータステータミキサ」と訂正するものである。よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記のとおりであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0012】の「ある実施形態によれば、アミンは、6~18個の炭素原子を有する2つの異なる直鎖第一級アミンの混合物、または6~18個の炭素原子を有する直鎖第一級アミンと環状(例えば、シクロヘキシル)第一級アミンとの混合物である。」との記載に基づき、訂正前の請求項3における「6~18個の炭素原子を有する第2の直鎖第一級アミン」について、「前記第1の直鎖第一級アミンとは異なる」との限定をさらに付加したものである。よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件特許の願書に添付した明細書には上記のとおりの記載があるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことも明らかである。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項11が「前記第2の基油が、前記第1の基油と同じである、請求項9に記載のプロセス。」というものであったが、「前記第2の基油」に対応する記載が請求項9になかったため、引用する請求項の番号に錯誤があることが明らかであったこと、訂正前の請求項11に先行する請求項1~10のうち、請求項10のみが「第2の基油」という記載を含むものであったこと、したがって、請求項9が引用する請求項の番号は、本来10とすべきものであったことが明らかであることに基づき、引用する請求項の番号を9から10に変更するものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
また、上記のとおりであるから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないことも明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項に適合するものである。
エ 訂正事項4について
訂正事項4は、要するに、訂正事項1と同旨の訂正を請求項12に対して行うものであるから、訂正事項1と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項に適合するものである。
オ 訂正事項5、6について
訂正事項5、6は、それぞれ、本件訂正前の請求項13、14を削除するものである。
したがって、訂正事項5、6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合する。
(3) 特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであること
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~14に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
3 まとめ
以上総括するに、訂正事項1~6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1~3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、〔12~14〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正が上記のとおり認められたので、特許第6952223号の請求項1~14に係る発明(以下、請求項の項番により「本件発明1」などといい、まとめて、「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
プロセスであって、毎秒5000(1/秒)未満の剪断速度で動作しているロータステータミキサの前方端部に少なくとも1つのアミンおよび第1の基油を供給することと、イソシアネートを、前記ロータステータミキサの剪断ゾーン内、かつ前記イソシアネートの添加後の前記ロータステータミキサ内での滞留時間が20秒未満になるような、前記ロータステータミキサの出口に近い位置に添加して、ポリ尿素を含むペーストを生成することと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記プロセスが、連続的であることを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記少なくとも1つのアミンが、6~18個の炭素原子を有する第1の直鎖第一級アミン、および前記第1の直鎖第一級アミンとは異なり、6~18個の炭素原子を有する第2の直鎖第一級アミンまたは環状第一級アミンのいずれかを含む混合物である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記滞留時間が、10秒未満である、請求項1~3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
前記滞留時間が、5秒未満である、請求項1~4のいずれかに記載のプロセス。
【請求項6】
前記少なくとも1つのアミンが、第一級アミンであり、前記イソシアネートが、ジイソシアネートであり、その結果、形成される前記ポリ尿素が、ジ尿素である、請求項1~5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
前記少なくとも1つのアミンが、アルキルアミンおよび脂肪アミンを含む、請求項
1~6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記ペーストが、少なくとも20重量パーセントの前記ポリ尿素を含む、請求項1
~7のいずれかに記載のプロセス。
【請求項9】
前記第1の基油が、APIグループI、II、III、IV、またはVから選択される、請求項1~8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
前記ペーストを第2の基油で希釈することと、酸化防止剤、耐摩耗性化合物、極圧化合物、防錆剤および腐食防止剤、粘着付与剤、洗剤、分散剤、消泡添加剤、ならびにそれらの組合せから選択される添加剤を添加して、グリースを形成することと、さらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記第2の基油が、前記第1の基油と同じである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
ポリ尿素化合物を調製するためのプロセスであって、前記プロセスが、液体希釈剤中の前記ポリ尿素化合物の分散液を生成するのに十分な条件下で、ロータステータミキサにおいて前記液体希釈剤の存在下で、アミンおよびポリイソシアネートを反応させることを含み、前記アミンが、前記ロータステータミキサの前方端部で前記ロータステータミキサに供給され、前記ポリイソシアネートが、前記ロータステータミキサに、前記ロータステータミキサの出口の近くで、剪断ゾーンに直接供給される、プロセス。
【請求項13】(削除)
【請求項14】(削除)」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が令和4年 9月27日付けで特許権者に通知した取消理由は、以下の取消理由1であり、その具体的な理由として下記(1)~(4)の点を指摘するものである。
取消理由1
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1) 本件発明1は、「前記ミキサの剪断ゾーン内、かつ前記イソシアネートの添加後の前記ミキサ内での滞留時間が20秒未満になるような」を発明特定事項として備えるものであるが、この記載よりも前には「ロータステータミキサ」という記載はあるが「ミキサ」という記載がないから、これらの記載の意味が不明確であり、また、「ミキサ」、「ロータステータミキサ」の関係が明らかでないから、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。
また、請求項2~11の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項1の記載と同様の理由により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2) 本件発明3は、「前記少なくとも1つのアミンが、6~18個の炭素原子を有する第1の直鎖第一級アミン、および6~18個の炭素原子を有する第2の直鎖第一級アミンまたは環状第一級アミンのいずれかを含む混合物である、請求項1または2に記載のプロセス。」であるから、「第1の直鎖第一級アミン」と「第2の直鎖第一級アミン」が、同一のアミンでもよいのか、異なるアミンである必要があるのかが不明である。
したがって、請求項3の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であって、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていないから、本件の請求項3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、請求項4~11の記載は、請求項3の記載を直接又は間接的に引用するものであるから、請求項3の記載と同様の理由により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(3) 本件発明11は、本件発明9を引用し、「前記第2の基油」を発明特定事項として備える発明であるが、本件発明9は、「第2の基油」を発明特定事項として含んでいないから、請求項11の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。
(4) 本件発明13は、「2~400ミクロンの平均粒径を有する」を発明特定事項として備える発明であるが、「平均粒径」の算出方法には、数平均や重量平均など複数の算出方法があるにもかかわらず、そのいずれに基づいて算出したものであるのかが不明であるから、請求項13の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない。
また、請求項14の記載は、請求項13の記載を直接引用するものであるから、請求項13と同様の理由により、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 当審の判断
(1)判断手法
一般に、「法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。」とされているところ〔知財高裁平成21年(行ケ)第10434号、平成22年8月31日判決言渡。〕、このような観点に基づいて、本件特許の明確性要件の適否を以下に検討する。
(2)上記第4の1の点について
上記第2のとおり、本件訂正が認められた結果、本件訂正前の請求項1の「前記ミキサ」という記載が、当該記載よりも前に記載されている「ロータステータミキサ」を意味していたことが明確になった。
したがって、上記第4の1の点は、解消した。
(3)上記第4の2の点について
上記第2のとおり、本件訂正が認められた結果、本件訂正前の請求項3の「第2の直鎖第一級アミン」が「第1の直鎖第一級アミン」とは異なるアミンを意味していたことが明確になった(同一のアミンでもよいのか、異なるアミンである必要があるのかが不明であることはなくなった)。
したがって、上記第4の2の点は、解消した。
(4)上記第4の3の点について
上記第2のとおり、本件訂正が認められた結果、本件訂正前の請求項11において、その引用する請求項の番号が9から10に訂正されたから、上記第4の3の点は、その根拠となる記載が存在しなくなった。また、本件発明11が引用する本件発明10は、「第2の基油」を発明特定事項として備えている。したがって、上記第4の3の点は、解消した。
(5)上記第4の4の点について
上記第2のとおり、本件訂正により、本件訂正前の請求項13、14は削除されたので、上記第4の4の点は、その対象となる請求項が存在しなくなった。
したがって、上記第4の4の点は、解消した。
(6)申立人の主張について
特許権者は、令和4年12月23日に提出した意見書において、本件訂正が認められることを前提として取消理由1が解消する旨の主張をしているところ、上記第2のとおり、本件訂正は認められるものである。
これに対し、申立人は、令和5年1月10日付けで意見書を提出しているが、特許権者の上記主張に対して何ら反論をしていない。
(7)小括
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1~14に係る発明の特許を、取消理由通知に記載した取消理由1によって取り消すべきものとすることはできない。
第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由について
1 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由の概要
取消理由通知で採用しなかった特許異議申立の理由の概要は、以下の取消理由2~4である。
取消理由2
本件特許の特許請求の範囲の記載は、下記(1)~(6)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)
請求項1の「ロータステータミキサの前方端部」は、ロータステータミキサのどの部分を「前方」としているのか定義されていないし、「前方」にあたる部分のうちどこを「端部」と定義しているのかも不明である。また、「前記ロータステータミキサの出口に近い位置」についても同様である。したがって、請求項1の記載は明確ではない(以下、「取消理由2-1」ともいう。)。
(2)
請求項1の「剪断速度」は、その測定方法や計算法が記載されていないから、請求項1の記載は明確ではない(以下、「取消理由2-2」ともいう。)。
(3)
請求項1の「ポリ尿素を含むペースト」は、ポリ尿素の含有量が不明であるし、ペーストとはどのような状態を意味するのかも不明であるから、請求項1の記載は明確ではない(以下、「取消理由2-3」ともいう。)。
(4)
請求項8の「少なくとも20重量パーセントの前記ポリ尿素を含む」は、重量パーセントの基準が何に対するものなのかが不明であるから、請求項8の記載は明確ではない(以下、「取消理由2-4」ともいう。)。
(5)
請求項12の「液体希釈剤中の前記ポリ尿素化合物の分散液を生成するのに十分な条件下」は、「十分な条件」がどのような条件を意味するのかが不明であるから、請求項12の記載は明確ではない(以下、「取消理由2-5」ともいう。)。
(6)
請求項14の「加熱された混合物を捏練して、均質化されたグリースを形成する」における「均質化された」とはグリースがどのような状態であることを意味するのかが不明であるから、請求項1の記載は明確ではない(以下、「取消理由2-6」ともいう。)。
取消理由3
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、下記(1)~(2)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(1)
請求項1には、「毎秒5000(1/秒)未満の剪断速度で動作しているロータステータミキサ」と記載されているが、甲1には、本件特許の明細書の実施例に記載されているようなロータステータミキサの場合には、ローターの歯の部分とそれ以外の部分では生じる剪断速度が異なることが記載されているから、当業者がロータステータミキサを「毎秒5000(1/秒)未満の剪断速度で動作」させる方法を理解することができない。したがって、本件発明1は、実施することができない(以下、「取消理由3-1」ともいう。)。
(2)
請求項1には「前記イソシアネートの添加後の前記ロータステータミキサ内での滞留時間が20秒未満になるような、前記ロータステータミキサの出口に近い位置に添加して」と記載されており、請求項4には「前記滞留時間が、10秒未満」と記載されており、請求項5には「前記滞留時間が、5秒未満」と記載されているが、「前記イソシアネートの添加後の前記ロータステータミキサ内での滞留時間」の測定方法や、その調整方法が記載されていないから、プロセスが連続的である場合(請求項2)には、その測定を行うために過度の試行錯誤が必要である。したがって、本件発明1は、実施することができない(以下、「取消理由3-2」ともいう。)。
取消理由4
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 当審の判断
(1) 取消理由2について
ア 取消理由2-1について
一般に、ロータステータミキサは、連続式及びバッチ式のいずれであっても、入口から原料を入れて出口から攪拌が終わったものを取り出す構造となっているから、「ロータステータミキサの前方端部」の前方とは、入口から出口までの経路において、出口側よりも入口側に近い場所を意味する用語であると解することが合理的である。また、前方端部とは、前方の端部であるから、前方といえる場所のうち、入口側で最も出口から遠い場所(端)を意味する用語であると解することが合理的である。
そして、請求項1には、「ロータステータミキサの前方端部に少なくとも1つのアミンおよび第1の基油を供給する」と記載されているのであるから、「少なくとも1つのアミンおよび第1の基油を供給する」入口が、「ロータステータミキサの前方端部」に設けられていることも理解できる。
また、「出口に近い位置」とは、要するに入口(少なくとも1つのアミンおよび第1の基油を供給する入口)よりも出口に近い場所を意味する用語であると解することが合理的である。
したがって、取消理由2-1によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
イ 取消理由2-2について
「剪断速度」とは、ある流体中における2つの地点における速度が異なるときに、その速度の差を、当該2つの地点の距離で除した値として定義される物理量であるから、その測定方法や計算方法が記載されていなくても、その用語の意味するところは明確である。
また、ロータステータミキサ内における剪断速度は、ミキサ内の任意の2つの地点を選ぶことに応じて上記定義にしたがって自ずとその値が定まる(計算できる)と認められるし、その計算方法は当業者には自明であると認められる。また、本件発明1に、剪断速度を求めることができない態様が含まれていることを裏付ける証拠なども提出されていない。したがって、本件発明1が不明瞭であるとはいえない。
したがって、取消理由2-2によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
ウ 取消理由2-3について
本件発明1は、そのポリ尿素の含有量を特定する事項を含んでいないのであるから、ポリ尿素の含有量に関する限定がないものであると解すべきものであり、具体的にいえば0より大きく100未満であることが明確である。
また、ペーストという用語は、広く様々な産業分野で用いられている技術用語であり、厳密に粘度などの物性値を特定しなければその意味が不明瞭になるというものではない。
したがって、取消理由2-3によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
エ 取消理由2-4について
請求項8には、「前記ペーストが、少なくとも20重量パーセントの前記ポリ尿素を含む」と記載されているのであるから、「重量パーセント」の基準が、「前記ペースト」であることは明らかである。
したがって、取消理由2-4によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
オ 取消理由2-5について
請求項12の記載は、「ポリ尿素化合物を調製するためのプロセスであって、前記プロセスが、液体希釈剤中の前記ポリ尿素化合物の分散液を生成するのに十分な条件下で、ロータステータミキサにおいて前記液体希釈剤の存在下で、アミンおよびポリイソシアネートを反応させる」というものであり、「分散液」における「前記ポリ尿素化合物」の分散状態については特段の限定がない。そうすると、「ロータステータミキサにおいて前記液体希釈剤の存在下で、アミンおよびポリイソシアネートを反応させる」ことができるような攪拌条件であれば、「十分な条件下」に該当することが明らかである。
したがって、取消理由2-5によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
カ 取消理由2-6について
本件訂正によって請求項14は、削除されている。
したがって、取消理由2-6は、却下すべきものである。
キ 取消理由2についての小括
以上のとおりであるから、取消理由2によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
(2) 取消理由3について
ア 取消理由3-1について
剪断速度は、ローターの回転速度を下げれば小さくなるから、ローターの回転速度を下げることによって、「毎秒5000(1/秒)未満の剪断速度で動作しているロータステータミキサ」を充足させることができることが明らかである。
したがって、取消理由3-1によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
イ 取消理由3-2について
「前記イソシアネートの添加後の前記ロータステータミキサ内での滞留時間」は、例えば、「前記イソシアネートの添加」をする際にマーカーとなるような物質を同時に添加して出口から出てくるまでの時間を測定することによって実測することが可能である。また、「前記イソシアネートの添加」する場所を出口に近づければ滞留時間が短くなることも明らかである。
したがって、取消理由3-2によって、本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
ウ 取消理由3についての小括
以上のとおりであるから、取消理由3によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
(3) 取消理由4について
ア 取消理由4で引用する刊行物等
国際公開第2016/125859号(申立人が提出した甲第1号証)
イ 刊行物等に記載されている事項
国際公開第2016/125859号(以下、「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている。
「[0009] 本発明のグリースの製造方法は、増ちょう剤前駆体1を含有する基油1、および増ちょう剤前駆体2を含有する基油2のうち少なくともいずれかに対し、102s-1以上の最低せん断速度を与え、前記基油1と前記基油2とを、前記最低せん断速度を維持しながら混合して混合液とし、前記混合液中で増ちょう剤を形成することを特徴とする。
[0010] 本発明のグリースは、脂肪族モノアミンおよび芳香族モノアミンのうちの少なくともいずれか1種であるモノアミン化合物と、ジイソシアネート化合物の混合液に、102s-1以上の最低せん断速度でせん断を与えて、増ちょう剤を形成して得られることを特徴とする。」
「[0017] 〔グリースの製造方法〕
本グリースは、基油中における増ちょう剤あるいはその前駆体に対し、高いせん断速度を与えながらグリース化反応を行うことで得られる。
このような高いせん断速度を発生させることができるグリースの製造装置としては、例えば、図1、図2に示すような構造の製造装置が挙げられる。図3は、図1、図2の製造装置について、側面の概略と上面の概略をともに示したものである。主に図1の製造装置はセッケン系グリースの製造に適し、図2の製造装置はウレアグリースの製造に適している。
図1、図2の製造装置は、極めて短時間で均一に高速せん断を付与できる構造を備えている。さらに図2の製造装置は、増ちょう剤前駆体1を含有する基油1、および増ちょう剤前駆体2を含有する基油2を製造装置に導入した後、または基油1と基油2を混合した後、直ちに均一に高せん断を付与する構造を備えている。高速せん断は、高速回転部と装置内壁との隙間(ギャップa、b)により混合液に付与される。高速回転部は径が回転軸方向に一定でもよく(a=b)、ギャップが異なる構造であってもよい。このようなギャップは、高速回転部の径を回転軸方向で変えることにより、あるいは、高速回転部を円錐台状とし、テーパを設けた反応容器内壁に対しこの高速回転部を上下することにより調整してもよい。
さらにギャップが大きい部分を連続的に傾斜させたスクリュウまたはスパイラル形状とすることで押出能力を持たせてもよい。
[0018] 図1の製造装置を用いると、増ちょう剤前駆体を含んだ混合基油に所定の高いせん断速度を与えてグリース化反応を行うことができる。また、図2の製造装置を用いると、増ちょう剤前駆体1を含む基油1と増ちょう剤前駆体2を含む基油2を混合して混合液にするとともに、前記混合液に所定の高いせん断速度を与えてグリース化反応を行うことができる。例えばウレアグリースの場合、増ちょう剤前駆体1がアミンであり、増ちょう剤前駆体2がイソシアネート(ジイソシアネート)である。
本グリースを製造するには、前記した混合液に102s-1以上のせん断速度を与えることが好ましく、より好ましいせん断速度は103s-1以上であり、さらに好ましくは104s-1以上である。せん断速度が高い方が増ちょう剤やその前駆体の分散状態が向上し、より均一なグリース構造となる。
ただし、装置の安全性、せん断等による発熱とその除熱の観点より、上述の混合液に付与するせん断速度は107s-1以下であることが好ましい。
このようなせん断速度は、図1、図2からわかるように、対向する壁面間の相対運動によりせん断を発生させる製造装置内に混合液を導入することで付与することができる。なお、上述の最低せん断速度は、後述する最低せん断速度と同義であり、反応容器内のギャップbで混合液に付与されるせん断速度である。
・・・
[0020] 上述の製造装置内において、混合液に与えるせん断における最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は50以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。混合液に対するせん断速度ができるだけ均一であることにより、増ちょう剤やその前駆体の分散がよくなり、均一なグリース構造となる。
ここで、最高せん断速度(Max)とは、混合液に対して付与される最高のせん断速度であり、最低せん断速度(Min)とは、混合液に対して付与される最低のせん断速度であって、図1、図2に記載された反応容器を例にとると、下記のように定義されるものである。
Max=(高速回転部表面と容器内壁面とのギャップが最小になる部分における高速回転部表面の線速度/当該ギャップ)
Min=(高速回転部表面と容器内壁面とのギャップが最大になる部分における高速回転部表面の線速度/当該ギャップ)
なお、図1、図2においては、Maxの計算におけるギャップがaであり、Minの計算におけるギャップがbである。
上記したように、Max/Minは、小さい方が好ましいので、理想的にはa=bである。すなわち、図1、図2のタイプの製造装置であれば、高速回転部は上下に均一な直径を有する円柱状であることが最も好ましい。」
「[0029] 以下に、本実施形態を説明する。
本実施形態におけるグリースの製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)では、増ちょう剤前駆体1を含有する基油1、および増ちょう剤前駆体2を含有する基油2のうち少なくともいずれかに対し、102s-1以上の最低せん断速度を与え、前記基油1と前記基油2とを、前記最低せん断速度を維持しながら混合して混合液とし、前記混合液中で増ちょう剤を形成する。
また、この実施形態においては、さらに、一つの反応容器において、増ちょう剤前駆体1を含有する基油1に対し、102s-1以上の最低せん断速度を与え、増ちょう剤前駆体2を含有する基油2に対し、102s-1以上の最低せん断速度を与え、前記基油1と前記基油2とを、各々の前記最低せん断速度を維持しながら混合して混合液とし、前記混合液中で増ちょう剤を形成することが好ましい。あるいは、増ちょう剤前駆体1を含有する基油1に対し、102s-1以上の最低せん断速度を与え、前記最低せん断速度を維持しながら、増ちょう剤前駆体2を含有する基油2を、前記基油1に加えて混合液とし、前記混合液中で増ちょう剤を形成することも好ましい。
上記いずれの実施態様においても、混合液(混合基油)の高いせん断速度を維持してダマの生成を抑制しながら、増ちょう剤前駆体1と増ちょう剤前駆体2とを反応させて増ちょう剤とすることが特徴である。以下、本製造方法について詳細に説明する。
・・・
[0035] 高いせん断速度を発生させることができるグリースの製造装置(反応容器)としては、例えば、図6に示すような構造の製造装置が挙げられる。
図6の製造装置は、基油1を所定の最低せん断速度に維持した後に基油2を混合し、混合液に対して高速せん断を付与・維持できる構造を備えている。高速せん断は、高速回転部と反応容器内壁との隙間(ギャップa、b)により混合液に付与される。高速回転部は径が回転軸方向に一定でもよく(a=b)、ギャップが異なる構造であってもよい。このようなギャップは、高速回転部の径を回転軸方向で変えることにより、あるいは、高速回転部を円錐台状とし、テーパを設けた反応容器内壁に対しこの高速回転部を上下することにより調整してもよい。
さらにギャップが大きい部分を連続的に傾斜させたスクリュウまたはスパイラル形状とすることで押出能力を持たせてもよい。」
「[0078] 次に、以下に示す各種の条件でウレアグリースを製造し、得られたグリースの音響特性を評価した。
〔実施例1B〕
図6の反応容器(高分散製造装置)でグリースを製造した。
MDI(ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート)を6.03質量%含有させ、70℃に加熱した基油1(PAO:40℃動粘度47mm2/s)を反応容器内に流量5.0mL/sで連続的に導入しながら、シクロヘキシルアミンを3.35質量%、ステアリルアミンを13.68質量%含有させ、同じく70℃に加熱した基油2(PAO:40℃動粘度47mm2/s)を反応容器内の高せん断部に流量2.9mL/sで連続的に導入した。ここで、最高せん断速度は33,000s-1であり、最低せん断速度は6,600s-1であった。また、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は5であり、混合液の高せん断部滞留時間は、0.25秒であった。
反応容器から吐出したグリースを90℃に予熱した容器に取り、30分程度かけて160℃に昇温し、その後160℃に1時間保持した。その後、撹拌を維持したまま放冷した。製造されたグリースの増ちょう剤量は約10質量%であった。得られたグリースを、遊星式撹拌脱泡装置(倉敷紡績株式会社(クラボウ)製、マゼルスター(MAZERUSTAR)型式KK-V300SS-I)により撹拌、脱泡した後、混和ちょう度(JIS K 2220)を測定するとともにBeQuiet法による音響測定に供した。結果を表2に示した。」
「[図1]
[図:0001398249000001.jpg]
[図2]
[図:0001398249000002.jpg]
・・・
[図6]
[図:0001398249000003.jpg]
」
ウ 甲1に記載された発明
甲1の実施例1B及びその関連する記載に着目すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「図6の反応容器(高分散製造装置)でグリースを製造する方法であって、
MDI(ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート)を6.03質量%含有させ、70℃に加熱した基油1(PAO:40℃動粘度47mm2/s)を反応容器内に流量5.0mL/sで連続的に導入しながら、シクロヘキシルアミンを3.35質量%、ステアリルアミンを13.68質量%含有させ、同じく70℃に加熱した基油2(PAO:40℃動粘度47mm2/s)を反応容器内の高せん断部に流量2.9mL/sで連続的に導入するとともに、
反応容器の最高せん断速度は33,000s-1であり、最低せん断速度は6,600s-1であり、最高せん断速度(Max)と最低せん断速度(Min)の比(Max/Min)は5であり、混合液の高せん断部滞留時間は、0.25秒である、
方法。
[図:0001398249000004.jpg]
」
エ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「図6の反応容器(高分散製造装置)」、「MDI(ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート)」は、それぞれ、本件発明1の「ロータステータミキサ」、「イソシアネート」に相当する。
甲1発明の「シクロヘキシルアミン」、及び、「ステアリルアミン」は、本件発明1の「少なくとも1つのアミン」に相当する。
甲1発明の「基油2(PAO:40℃動粘度47mm2/s)」は、本件発明1の「第1の基油」に相当する。
甲1発明の「グリース」は、「MDI(ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート)」と「シクロヘキシルアミン」、及び、「ステアリルアミン」との反応で得られるポリ尿素を含有するものであることが明らかである。したがって、甲1発明の「グリースを製造する方法」は、本件発明1の「ポリ尿素を含むペーストを生成することと、を含む、プロセス」に相当する。
以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「プロセスであって、ロータステータミキサに少なくとも1つのアミンおよび第1の基油を供給することと、イソシアネートを添加して、ポリ尿素を含むペーストを生成することと、を含む、プロセス。」
<相違点1>
「ロータステータミキサ」について、本件発明1は、「毎秒5000(1/秒)未満の剪断速度で動作している」と特定されているのに対し、甲1発明は、「反応容器の最高せん断速度は33,000s-1であり、最低せん断速度は6,600s-1であり」と特定されている点
<相違点2>
「少なくとも1つのアミンおよび第1の基油」を供給する場所について、本件発明1は、「ロータステータミキサの前方端部」と特定されているのに対し、甲1発明は、「シクロヘキシルアミン」、及び、「ステアリルアミン」を供給する場所が「反応容器内の高せん断部」である点
<相違点3>
「イソシアネート」を供給する場所について、本件発明1は、「前記ロータステータミキサの剪断ゾーン内、かつ前記イソシアネートの添加後の前記ロータステータミキサ内での滞留時間が20秒未満になるような、前記ロータステータミキサの出口に近い位置」と特定されているのに対し、甲1発明は、「MDI(ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート)」を供給する場所が特定されていない点
(イ)相違点の検討
a 相違点1について
甲1発明の「反応容器の最高せん断速度は33,000s-1であり、最低せん断速度は6,600s-1」について、甲1の[0018]には、「本グリースを製造するには、前記した混合液に102s-1以上のせん断速度を与えることが好ましく、より好ましいせん断速度は103s-1以上であり、さらに好ましくは104s-1以上である。せん断速度が高い方が増ちょう剤やその前駆体の分散状態が向上し、より均一なグリース構造となる。」と記載されている。
そうすると、甲1発明は、増ちょう剤やその前駆体の分散状態が向上するのでより高いせん断速度を与えることが好ましいとされているものであるから、その「最高せん断速度」や「最低せん断速度」をさらに高くすることを着想することはありえても、より低くすることには強い阻害要因があると認められる。
したがって、当業者といえども、甲1発明において、相違点1に係る構成を充足するものとすることを容易になし得たとは認められない。
b 相違点2、3について
相違点2、3をまとめて検討する。
(a) 上記第5の2(1)アのとおり、本件発明1の「ロータステータミキサの前方端部」とは、入口から出口までの経路において、出口側よりも入口側に近い場所であって、入口側で最も出口から遠い場所(端)であり、また、「出口に近い位置」とは、要するに入口よりも出口に近い場所である。
したがって、本件発明1の「ロータステータミキサ」は、入口から供給した「少なくとも1つのアミン」が、出口に向かって移動する途中のどこか「出口に近い位置」に「イソシアネート」を供給する入口を備えていることが特定されているのだから、アミンの入口よりもイソシアネートの入口の方が出口に近い位置にあることが特定されているものである。
(b) これに対して、甲1発明の「図6の反応容器」は、図6に記載されているとおり、円筒状の容器内にローターを備えた構造を備えており、容器の上の端にMDIを含有する基油1を導入する入口(以下、「MDIの入口」ともいう。)、及び、シクロヘキシルアミンとステアリルアミンを含有する基油2を導入する入口(以下、「アミンの入口」ともいう。)があり、これらが下に向かって移動しながら高せん断部で攪拌され、出口から排出されるようになっていると理解できるものである。
また、甲1発明は、アミンの入口について「反応容器内の高せん断部に」と特定されているから、アミンの入口については、図6のとおり(容器の右上)に限られず、「反応容器内の高せん断部に」導入することができる場所であればどこでもよいことが理解できる。
また、甲1の[0035] には、「図6の製造装置は、基油1を所定の最低せん断速度に維持した後に基油2を混合し、混合液に対して高速せん断を付与・維持できる構造を備えている。」と記載されているから、甲1発明は、基油1を先に容器に導入して最低せん断速度に維持した後に基油2を導入すること、したがって、甲1発明は、MDIを先にアミンを後に導入することを要するものであるから、MDIの入口よりもアミンの入口の方が出口に近い方が好ましいものである旨説明されていると認められる。
(c) 以上によれば、甲1発明において、MDIの入口を容器の左上(図6)から、より出口に近い位置に変更した場合には、基油1を所定の最低せん断速度にする前に基油2が混合されてしまうため好ましくないことは明らかであり、そのような変更をすることについて、強い阻害要因があると認められる。
(ウ) 効果について
本件発明1は、相違点1~3に係る構成を全て備えることとあいまって、濃縮物または粉末形態のポリ尿素グリース増粘剤を生成するための新しい連続的なプロセスを提供する(段落【0004】)という効果を奏するものである。
(エ) 本件発明1についての小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
オ 本件発明2~12について
本件発明2~12は、本件発明1を引用し、さらに限定した発明に該当する。また、上記エのとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められないものである。そうすると、本件発明2~12も、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとは認められない。
カ 取消理由4についての小括
以上のとおりであるから、本件発明1~12に係る特許を取消理由4によって取り消すべきものとすることはできない。
(4) 申立人の主張について
申立人は、令和5年1月10日付けで意見書を提出し、要するに、取消理由通知で採用しなかった申立理由(上記1参照。)によって本件特許を取り消すべきであると主張し、また、本件特許の米国ファミリーは、その審査の過程で請求項の記載が不明確であるとの拒絶理由を受けたことに応答して補正がされた後に特許になっている(意見書5頁下から3行~7頁14行、及び、甲第7号証)ことからも本件発明が明確ではないと主張する。
しかしながら、取消理由通知で採用しなかった申立理由が採用できないことは、上記(1)~(3)のとおりである。
また、特許請求の範囲の記載が明確性要件を充足するか否かは、上記第4の2(1)に記載したとおり、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえるか、という観点で検討すべきものであって、米国における審査の結果に左右されるものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件請求項13、14に係る特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700318