特許異議申立
2022-700425
カチオン変性シリカの製造方法およびカチオン変性シリカ分散体、ならびにカチオン変性シリカを用いた研磨用組成物の製造方法およびカチオン変性シリカを用いた研磨用組成物
- 審判番号
- 2022-700425
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-542051
- 登録番号
- 6966458
- 請求日
- 2022年05月16日
- 審決日
- 2023年06月22日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社フジミインコーポレーテッド
- 【権利者代理人】IBC一番町弁理士法人
- 【異議申立人】佐藤 祥徳
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 三崎 仁
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.121-YAA(C01B) / P1651.113-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6966458号発明「カチオン変性シリカの製造方法およびカチオン変性シリカ分散体、ならびにカチオン変性シリカを用いた研磨用組成物の製造方法およびカチオン変性シリカを用いた研磨用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6966458号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7、8〕、〔9-11〕、〔12、13〕について訂正することを認める。
特許第6966458号の請求項1ないし3、5、6、9ないし11に係る特許を維持する。
特許第6966458号の請求項4、7、8、12及び13に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6966458号の請求項1~13に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)9月5日(優先権主張 平成28年9月30日)を国際出願日とする出願であって、令和3年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月17日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 5月16日 :特許異議申立人佐藤祥徳(以下「申立人」という。)による請求項1~13に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 7月 5日付け:取消理由通知書
同年 9月 2日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年10月20日 :申立人による意見書の提出
同年11月22日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和5年 2月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の提出
同年 4月 6日 :申立人による意見書の提出
なお、令和4年9月2日にされた訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求書による請求の趣旨は、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下の訂正事項1~11のとおりである。なお、訂正箇所に当審にて下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ゼータ電位が負の値を示すシリカ原料」と記載されているのを、「ゼータ電位が負の値を示し、シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、5及び6についても同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを混合し」と記載されているのを、「アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを、前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように混合し」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、3、5及び6についても同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の「請求項1~4のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1~3のいずれか1項」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6の「請求項1~5のいずれか1項」と記載されているのを、「請求項1~3および5のいずれか1項」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「ゼータ電位が負の値を示すシリカ原料」と記載されているのを、「ゼータ電位が負の値を示し、シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10及び11についても同様に訂正する。)。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを混合し」と記載されているのを、「アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを、前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように混合し」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10及び11についても同様に訂正する。)。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12を削除する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13を削除する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
(1)訂正事項1及び8について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1及び8は、シリカ原料を「シリカが10質量%以上の濃度で分散している」シリカ原料に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 新規事項の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の【0038】に「シリカ原料におけるシリカ粒子の濃度は、そのシリカを使用する目的に応じて濃度調整されればよく特に制限されないが、生産性の観点から、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10~60質量%であり、さらに好ましくは10~50質量%である。」(下線は当審において付与した。以下同様)と記載されていることから、訂正事項1及び8は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)訂正事項2及び9について
ア 目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2及び9は、シリカ原料とシランカップリング剤との混合を、「前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように」混合することに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2及び9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 新規事項の有無
本件特許明細書等には、シランカップリング剤の添加量について、
「【0049】
シランカップリング剤の添加量については、シリカ原料側のシリカ粒子の比表面積等の条件およびシランカップリング剤側の分子量等の条件の兼ね合いで最適な添加量は変わってくるため一義的に規定することは難しい。一例としては、シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.05~20質量%である。」との記載があるとともに、シランカップリング剤であるAPES(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)の添加量について、以下の記載がある。
「【0126】
[実施例4]
シリカ原料であるコロイダルシリカ(シリカ粒子の濃度:30質量%、平均二次粒子径:33nm、会合度:1.3、等電点のpH:約3、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-54.6mVであった。
【0127】
上記で準備したコロイダルシリカに対して、600rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APESを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APESの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して2.0質量%となるように調節した。」
「【0142】
[実施例8]
シリカ原料である高純度コロイダルシリカ(シリカ粒子の濃度:20質量%、平均二次粒子径:57nm、会合度:1.6、等電点のpH:約4、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-45.6mVであった。【0143】上記で準備したコロイダルシリカに対して、600rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APESを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APESの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%となるように調節した。」
そうすると、「前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように」混合することが記載されていることから、訂正事項2及び9は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)訂正事項3、6、7、10及び11について
訂正事項3、6、7、10及び11は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、請求項を削除することは、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4及び5について
訂正事項4及び5は、訂正事項3による請求項4の削除にともない、引用する複数の請求項から請求項4を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、引用する複数の請求項から請求項を削除することは、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2~6は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~6は一群の請求項であり、訂正事項1~5は、この一群の請求項においてなされたものである。
また、訂正前の請求項8は、請求項7を引用するものであるから、請求項7及び8は一群の請求項であり、訂正事項6及び7は、この一群の請求項においてなされたものである。
さらに、訂正前の請求項10及び11は、請求項9を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項9~11は一群の請求項であり、訂正事項8及び9は、この一群の請求項においてなされたものである。
そして、訂正前の請求項13は請求項12を引用するものであるから、請求項12及び13は一群の請求項であり、訂正事項10及び11は、この一群の請求項においてなされたものである。
以上のことから、訂正事項1~11は、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。
4 訂正についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1~11に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7、8〕、〔9-11〕、〔12、13〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~3、5、6及び9~11に係る発明(以下、請求項○に係る発明を「本件発明○」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3、5、6及び9~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
ゼータ電位が負の値を示し、シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料と、アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを、前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように混合し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを有し、
前記カチオン変性シリカは、以下の関係式(1):
【数1】
X<Y 関係式(1)
関係式(1)中、Xは、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値であり、Yは、カチオン変性シリカのpHの値である
を満たし、
前記混合において、前記シランカップリング剤を希釈することなく使用するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で使用する、カチオン変性シリカの製造方法。
【請求項2】
前記反応の前に、前記シリカ原料のゼータ電位を負の値に調整することをさらに含む、請求項1に記載のカチオン変性シリカの製造方法。
【請求項3】
前記反応の直前における前記シリカ原料のゼータ電位が-10mV以下である、請求項1または2に記載のカチオン変性シリカの製造方法。」
「【請求項5】
前記シランカップリング剤が、1級アミン/エトキシカップリング剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン変性シリカの製造方法。
【請求項6】
前記シリカ原料と前記シランカップリング剤との反応系を加熱する工程を含まない、請求項1~3および5のいずれか1項に記載のカチオン変性シリカの製造方法。」
「【請求項9】
カチオン変性シリカと分散媒とを含む研磨用組成物の製造方法であって、
ゼータ電位が負の値を示し、シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料と、アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを、前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように混合し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、前記カチオン変性シリカを作製した後、
前記カチオン変性シリカと前記分散媒とを混合することを有し、
前記カチオン変性シリカと前記研磨用組成物とは、以下の関係式(2):
【数3】
Z<X<Y 関係式(2)
関係式(2)中、Xは、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値であり、Yは、カチオン変性シリカのpHの値であり、Zは、研磨用組成物のpHの値である
を満たし、
前記混合において、前記シランカップリング剤を希釈することなく使用するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で使用する、製造方法。
【請求項10】
前記作製の後に、前記カチオン変性シリカとpH調整剤とを混合することをさらに有する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記Xが、5.0以上10.0以下である、請求項9または10に記載の製造方法。」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
令和4年11月22日付け取消理由通知書(決定の予告)は、同年9月2日に提出された訂正請求書により訂正された請求項1~6及び9~11に係る発明に対して取消理由2を通知したものであり、その概要を示すと次のとおりである。
取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~6及び9~11に係る発明は、本件特許出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6及び9~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特表2010-541204号公報
甲第2号証:信越化学工業株式会社のカタログ「シランカップリング剤」、2010年10月
甲第4号証:永田員也、「シランカップリング剤によるフィラー表面処理の考え方」、日本ゴム協会誌、第78巻、第6号、2005年、pp.231-236頁((45)-(50)頁)
甲第5号証:Kazusei Tamai et al.,「Effect of Particle-Substrate Interaction on the Polishing Rate」,Proceedings of ICPT2009,Fukuoka,2009年,pp.55-59
甲第6号証:玉井一誠、外1名、「Si,サファイア,SiC,GaNの研磨とそのメカニズム」、(独)日本学術振興会「結晶加工と評価技術」、第145委員会、第127回研究会、2011年8月
甲第7号証:玉井一誠、外3名、「CMPにおける材料除去能率向上に向けた研磨抵抗の要因解析」、先端加工学会誌、第29巻、第1号、2011年1月
甲第8号証:臼井進之助、外1名、「微粒子の分散と凝集-基礎と応用-」、資源・素材学会誌、第107巻、第9号、1991年、pp.585-591
甲第12号証:特表2012-515806号公報
当審追加文献1:特開2003-243340号公報
当審追加文献2:特開2003-253154号公報
(甲第○号証については、以下「甲○」という。)
なお、甲2、12、当審追加文献1及び2は、周知文献に関するものである。また、当審追加文献1及び2については、みなし取下げされた先の訂正の請求に係る訂正事項(本件訂正では訂正事項とされていない)に関する技術的事項を示すために提示した文献であることから、以下の第5においては、摘記しないこととする。
第5 甲号証等の記載について
ここでは、申立人が提出した全ての証拠(甲号証)の記載内容をみておくこととし、後の検討に際しても参照した。
以下の甲号証の摘記にあたっては、取消理由通知(決定の予告)で提示したものを先に記載し、取消理由通知(決定の予告)で提示しなかったものについては、その後に簡略して記載することとする。また、甲12~甲15については、令和4年10月20日に申立人によって提出された意見書で追加された甲号証である。
1 甲1について
(1)記載事項について
本件特許出願の優先日前に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様)。
(甲1ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
集積回路機器の技術が進歩するにつれて、進歩した集積回路に必要なレベルの性能を達成するために、従来の材料は新しくかつ異なる方法において使用される。特に、窒化ケイ素および酸化ケイ素は、新しくかつさらに複雑な機器設定を達成するために種々の組み合わせにおいて使用される。一般的に、構造的な複雑さおよび性能特性は、異なる用途によって変わる。特別な機器のための研磨ニーズに合うようにCMPの間に、種々の層(例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素)の除去速度を調整でき、または除去速度を合せることができる方法および組成物への継続した要求がある。本発明は、そうした改善された研磨方法および組成物を提供する。本発明のこれらのおよび他の利点、ならびにさらなる発明の特徴は、本明細書中に提供された本発明の記載から明らかになるであろう。」
(甲1イ)「【0014】
研磨組成物は、望ましくは、液体キャリアー(例えば、水)中に懸濁された研削剤を含む。研削剤は、典型的には粒状形態である。好ましくは、研削剤は、シリカ粒子、特にコロイドシリカ粒子を含むか、から本質的に成るか、またはから成る。コロイドシリカ粒子は、湿式プロセスを介して調製され、そして典型的には非凝集の、個々に離散した粒子であり、which一般的に球形であるか、またはほぼ球形であるが、他の形(例えば、一般的に楕円形の、正方形、または長方形断面を有する形)を有することができる。そうした粒子は、典型的には発熱または炎加水分解プロセスを経て調製され、そして凝集した一次粒子の鎖状構造であるフュームド粒子と構造的に異なる。」
(甲1ウ)「【0017】
任意の好適な量の研削剤は、研磨組成物中に存在できる。典型的には、0.01wt%以上(例えば、0.05wt%以上)の研削剤は、研磨組成物中に存在できるであろう。さらに典型的には、0.1wt%以上(例えば、0.2wt%以上、0.3wt%以上、0.6wt%以上、1wt%以上、または2wt%以上)研削剤は、研磨組成物中に存在できるであろう。研磨組成物中の研削剤の量は、典型的には30wt%以下であろうし、さらに典型的には、20wt%以下(例えば、15wt%以下、10wt%以下、5wt%以下、3wt%以下、または2wt%以下)であろう。好ましくは、研磨組成物中の研削剤の量は、0.01wt%~20wt%であり、そしてさらに好ましくは、0.05wt%~15wt%(例えば、0.1wt%~10wt%、0.1wt%~4wt%、0.1wt%~3wt%、0.1wt%~2wt%、または0.2wt%~2wt%)である。
【0018】
研削剤は、少なくとも1種の、シラン化合物、アミノシラン化合物、ホスホニウムシラン化合物、またはスルホニウムシラン化合物を用いて処理される。好適なシラン化合物は、第1アミノシラン、第2アミノシラン、第3級アミノシラン、第四級アミノシラン、およびダイポーダルアミノシランを含む。アミノシラン化合物は、アミノプロピルトリアルコキシシラン、ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン、ジエチルアミノメチルトリアル コキシシラン、(N、N-ジエチル-3-アミノプロピル)トリアルコキシシラン)、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノプロピルトリアルコキシシラン、(2-N-ベンジルアミノエチル)-3-アミノプロピルトリアルコキシシラン)、トリアルコキシシリルプロピル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド、N-(トリアルコキシシリルエチル)ベンジル-N、N、N-トリメチルアンモニウムクロライド、(ビス(メチルジアルコキシシリルプロピル)-N-メチルアミン、ビス(トリアルコキシシリルプロピル)尿素、ビス(3-(トリアルコキシシリル)プロピル)-エチレンジアミン、およびビス(トリアルコキシシリルプロピル)アミン等の任意の好適なアミノシランであることができる。上記アミノシラン化合物中のアルコキシ基は、ハロゲン化物、アミンおよびカルボキシレート等の他の加水分解可能基によって置換できる。好ましくは、このシランは、ダイポーダルまたはトリポーダルである。シラン化合物の選択は、研磨される基材のタイプに部分的に依存する。」
「【0021】
粒子が処理されるシランが、粒子上の全ての利用できるシラノール部位を覆わないことが好ましい。典型的には、処理された研削剤粒子は、2%以上(例えば、4%以上、8%以上)である利用可能なシラノールの表面被覆率を有する。処理された研削剤粒子は、好ましくは50%以下(例えば、30%以下、20%以下、または10%以下)である利用可能なシラノールの表面被覆率を有する。好ましくは、処理された研削剤粒子は、2%~50%である利用可能なシラノールの表面被覆率を有する(例えば、2%~30%、2%~20%、または4%~15%)。表面シラノール濃度は、シリカでの5SiOH/nm2の典型的な値およびシリカのBET表面積を使用して、見積もることができる。
【0022】
アミノシラン化合物は、任意の好適な量で研磨組成物中に存在できる。典型的には、研磨組成物は、30ppm以上(例えば、50ppm以上、100ppm以上、200ppm以上、300ppm以上、400ppm以上、または500ppm以上)のアミノシラン化合物を含む。研磨組成物は、好ましくは、2000ppm以下(例えば、1000ppm以下、800ppm以下、または600ppm以下)のアミノシラン化合物を含む。好ましくは、研磨組成物は、50ppm~2000ppm(例えば、100ppm~1000ppm、200ppm~800ppm、250ppm~700ppm、または275ppm~600ppm)のアミノシラン化合物を含む。
【0023】
粒子のゼータ電位は、粒子の周りのイオンの電荷と、バルク溶液(例えば、液体キャリアーおよびそこに溶解された任意の他の成分)の電荷との違いをいう。研削剤がシリカである場合、研削剤がアミノシラン化合物を用いて処理される前に、研削剤は、2~3のpHにおいて0のゼータ電位を有する。アミノシラン化合物を用いて処理した後で、処理された研削剤粒子は、正の電荷、従って正のゼータ電位を有する。」
(甲1エ)「【0025】
研磨組成物はまた、任意の好適な酸であることができる酸を含むことができる。使用される酸は、研磨される基材のタイプに、部分的による。例えば、酸は、フタル酸、硝酸、ホウ酸等のホウ素を含む酸、または1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(例えば、DEQUEST2010)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)(例えば、DEQUEST2000)、リン酸等のリンを含む酸、またはそれらの組み合わせであることができる。酸は、研磨組成物中に、任意の好適な量で存在できる。」
(甲1オ)「【0058】
例3
この例は、アミノシラン化合物を用いて処理されたコロイドシリカ粒子を含む研磨組成物のpHおよび酸濃度による、酸化ケイ素および窒化ケイ素の除去速度への効果を示す。
【0059】
TEOSウェハーおよび窒化ケイ素ウェハーを、15種の異なる研磨組成物を用いて研磨した。研磨組成物のそれぞれは、300ppmのアミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した1wt%のコロイドシリカを含んだ。研磨組成物3A~3DのpHを、シランの添加の前に9に調整し、そして研磨組成物3E~3OのpHを、シランの添加の前に、7.5に調整した。それぞれの研磨組成物の最終のpHおよびそれぞれの組成物に加えられた1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(DEQUEST2010)の量を表3に示す。
【0060】
酸化ケイ素の除去速度(Å/分)および窒化ケイ素の除去速度(Å/分)を、それぞれの研磨組成物で決定し、そして結果を表3に示す。
表3
【表3】
[図:0001401621000001.jpg]
」
(甲1カ)「【0067】
TEOSウェハーおよび窒化ケイ素ウェハーを、12種の異なる研磨組成物を用いて研磨した。研磨組成物のそれぞれは、アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理したコロイドシリカおよび1000ppmの1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(DEQUEST2010)を含んだ。それぞれの組成物に加えられたアミノプロピルトリエトキシシランおよびコロイドシリカの量およびそれぞれの組成物のpHを表5に示す。
【0068】
酸化ケイ素の除去速度(Å/分)および窒化ケイ素の除去速度(Å/分)を、それぞれの研磨組成物で決定し、そして結果を表5に示す。
表5
【表5】
[図:0001401621000002.jpg]
」
「【0076】
酸化ケイ素の除去速度(Å/分)を、それぞれの研磨組成物について決定し、そして結果を表7に示す。
表7
【表7】
[図:0001401621000003.jpg]
」
(2)甲1発明について
摘記(甲1ウ)における「アミノシラン化合物を用いて処理」の「アミノシラン化合物」及び(甲1オ)の「シランの添加の前に」の「シラン」を、同じく摘記(甲1オ)の「アミノプロピルトリエトキシシラン」として整理し、上記表3の研磨組成物3A~3Dに着目して、甲1に記載されている発明を認定する(特に下線部参照)と、以下のとおりである。
「液体キャリアー中に懸濁されたコロイドシリカ粒子を含む研磨組成物の製造方法であって、
コロイドシリカ粒子がアミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理される前に、コロイドシリカ粒子は、2~3のpHにおいて0のゼータ電位を有し、pHをアミノプロピルトリエトキシシランの添加の前に9に調整し、300ppmのアミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した1wt%のコロイドシリカ粒子を含む研磨組成物の製造方法であり、
研磨組成物に、酸である1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(DEQUEST2010)を0ppm、50ppm、100ppm、150ppmを加えると、pHは順に9.14、8.06、7.21、6.64となり、ゼータ電位は順に-27mV、3mV、15mV、18mVとなる、研磨組成物の製造方法。」(以下「甲1発明」という。)
2 甲2について
本件特許出願の優先日前に頒布された甲2には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401621000004.jpg]
」(11頁上欄)
3 甲4について
本件特許出願の優先日前に頒布された甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4ア)「エラストマーにシリカやクレーなどの無機フィラーを充てんした場合,硬度が増加する,加工時の混練トルクが非常に大きくなる,十分な力学特性や耐久性が得られないなどの問題点がある.それを改善する目的でフィラーをアミノシランやメルカプトシラン,スルフイド系シランなどのシランカップリング剤(シラン剤)で処理することが広く行われている.」(231頁左欄2~8行)
(甲4イ)「また,シラン剤はTable1に示しているようにマトリックスのポリマーに適合することができるように各種の有機官能基を有している.水溶液におけるシラン剤の加水分解速度は有機官能基の種類により異なっており,APS>>GPS>VS>MGPS>MPSの順でアミノシランが最も早く加水分解する(反応(1)).また,加水分解されたシラン剤はAPSを除きpH3~5の弱酸性領域では安定であるが,これ以外のpH領域では容易にゲル化し,温度,濃度が高いとゲル化が促進される(反応(3)).フィラーの表面処理においてシラン剤のゲル化は後述するシラン剤の縮合構造に示すように表面処理の障害となることが多い.これを抑制するためには(1)(当審注:(1)は丸数字を示す。以下(2)~(4)も同様。)処理溶液のpHを酢酸などで準安定領域に調整する,(2)アルコール混合水溶液を用いる,(3)0.5~2.0%の溶液を用いる,(4)保存時の温度をできるだけ低くするなどのことを行う必要がある.」(232頁右欄27行~233頁左欄7行)
(甲4ウ)
「
[図:0001401621000005.jpg]
」(232頁下欄)
(甲4エ)「無機フィラーの表面処理法は(1)乾式法,(2)湿式法,(3)インテグラルブレンド法に大別され,その概要は次の通りである.
(1)乾式法:この方法は,大量の無機フィラーを表面処理するもっとも一般的な方法であり,高速攪拌ミキサー(例えば,ヘンシェルミキサー,スーパーミキサーなど),ブレンダーなどの攪拌可能な装置を用い,攪拌中の無機フィラーにシラン剤溶液をスプレー状にして添加し,均一混合,乾燥(熱処理をかねている)する方法である.均質化や処理剤層の最適化を目的に乾燥前での熟成,水溶液への酢酸やアルコール添加,溶媒の使用などを行うことがある.
(2)湿式法:無機フィラー製造(合成,粉砕など)でスラリー化工程がある場合に行う方法である.シラン剤を直接添加することにより均質な表面処理ができる.シラン剤やフィラーの種類によりスラリー混合,熟成,乾燥などの方法や条件の最適化が必要である.」(233頁右欄10~25行)
4 化学的事項について
(1)本件特許出願の優先日前に頒布された甲5には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401621000006.jpg]
」(57頁)
(2)本件特許出願の優先日前に頒布された甲6には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401621000007.jpg]
」(最終頁)
(3)本件特許出願の優先日前に頒布された甲7には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401621000008.jpg]
」(4頁目)
(4)本件特許出願の優先日前に頒布された甲8には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401621000009.jpg]
」(586頁)
(5)上記甲5~甲8の記載を参照すると、いずれも、シリカについて、pHとゼータ電位との関係がグラフで示されており、一般に、ゼータ電位とは水溶液のpHによって変化する物質固有の物理量であることを考慮すると、「シリカ粒子が分散された溶液(コロイドシリカ)において、pHが3あたりでゼータ電位は0近傍の値を示し、pHが3より大きい範囲においてゼータ電位は負の値を示す」(以下「化学的事項」という。)といえる。
5 甲12について
本件特許出願の優先日前に頒布された甲12には、以下の事項が記載されている。
(甲12ア)「【0001】
本発明は、シラン変性金属酸化物および、それを含む化学機械研磨(CMP)組成物を含めた組成物に関する。」
(甲12イ)「【0017】
・・・一旦分散すると、シラン化合物は、単体で、または溶液としてのいずれでも、この分散液へ加えて、シラン変性金属酸化物を分散液として生成することができ、これを処理溶液から分離して、そして乾燥させるか、あるいは化学機械研磨スラリーの製造に直接に用いるかのいずれかとすることができる。」
(甲12ウ)「【0075】
例7
N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドのメタノール中の50%溶液(12.4g)を、89g(45%固形分)のLudox CL-Xコロイド状シリカ分散液(Sigma-Aldrichから入手可能)、28.4gの水、および71gのメタノールの攪拌されている混合物に加えた。この混合物を、68℃で、24時間に亘って加熱した。結果として得た、第四級アンモニウムクロリド基が結合されているシラン変性金属酸化物の水性分散液は、8.4のpHを有していた。」
6 取消理由通知で提示しなかった甲号証
(1)甲3について
本件特許出願の優先日前に頒布された甲3(東レ・ダウコーニング株式会社カタログ、「シランカップリング剤」、2008年10月)には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401621000010.jpg]
」(10頁)
(2)甲9について
本件特許出願の優先日前に頒布された甲9(Chang Hum Lee et al.,"Preparation and characterization of surface modified silica nanoparticles with organo-silane compounds", Colloids and Surface A: Physicochemical and Engineering Aspects, 384, 2011年, pp.318-322)には、以下の事項が記載されている
「
[図:0001401621000011.jpg]
」(322頁)
上記図7は、TEOS由来シリカ粒子(T-Silica)、3-アミノ(プロピル)トリメトキシシラン(APTMS)で表面修飾したシリカ粒子(A-Silica)、及び3-メルカプト(プロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)で表面修飾したシリカ粒子(S-Silica)のゼータ電位のpH依存性に関するグラフである。
(3)甲10について
本件特許出願の優先日前に頒布された甲10(Khoa N. Pham et al.,"Surface Charge Modification of Nano-Sized Silica Colloid", Australian Journal of Chemistry, 2007年, Vol.60, pp. 662-666)には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401621000012.jpg]
」(664頁)
上記図3は、未変性シリカ、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)変性シリカ、及び3-アミノプロピルジメトキシシラン(APMS)変性シリカのpH依存性に関するグラフである。
(4)甲11について
甲11(Douglas Hendrix et al.,"Behavior of Colloidal Nanosilica in an Ultrahigh Performance Concrete Environment Using Dynamic Light Scattering", Materials,12,1976,2019年)は、本件特許出願の出願後に頒布されたものであり、参考程度のものであるが、一応以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401621000013.jpg]
」(9頁)
上記図6は、ナノシリ力(NS)ゾルのゼータ電位のpH依存性に関するグラフである。
(5)甲13について
甲13は、上記甲12(特表2012-515806号公報)の原文の国際公開第2010/085324号であり、上記(甲12イ)に記載の「単体で」が、原文では「neat」と記載されている。
(6)甲14について
甲14(小学館ランダムハウス英和大辞典、2020年1月10日発行)には、「neat」は「ストレート」の意味であると記載されている。
(7)甲15について
甲15(Sogaardl et al., "Silica sol as grouting material: a physio-chemical analysis", Nano Convergence (2018年) 5:6)は、本件特許出願の出願後に頒布されたものであり、参考程度のものであるが、一応以下の事項が記載されている。
「Commercially available silica sols are usually stabilized by sodium ions (Na+) at a pH around 10.」(2頁左列18~19行)
(訳:商業的に入手可能なシリカゾルは、ナトリウムイオン(Na十)によってpH10付近で安定化されている。)
第6 取消理由2についての判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア(ア)本件発明1の「シリカ原料」とは、本件特許明細書の【0028】に「[シリカ原料]シリカ原料は、後述する所定のシランカップリング剤を用いてカチオン変性(改質)される前の原料であり、シリカ粒子を含む。シリカ原料は、好ましくはコロイダルシリカである(以下、シリカ原料としてのコロイダルシリカを「原料コロイダルシリカ」とも称し、シリカ原料が原料コロイダルシリカである場合を例に挙げて詳細に説明する)。」と記載され、同【0038】に「一方、シリカ原料において、シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水等や、ごく微量の触媒等である。」記載されているとおり、具体的には「コロイダルシリカ」のことである。
一方、甲1発明の「2~3のpHにおいて0のゼータ電位を有」する「コロイドシリカ粒子を含む研磨組成物」「のpHを、アミノプロピルトリエトキシシランの添加の前に9に調整し」た「コロイドシリカ粒子」は、上記第5の4(5)で述べた化学的事項を踏まえると、ゼータ電位は負の値を示す。
そうすると、甲1発明の「2~3のpHにおいて0のゼータ電位を有」する「コロイドシリカ粒子を含む研磨組成物」「のpHを、アミノプロピルトリエトキシシランの添加の前に9に調整し」た「コロイドシリカ粒子」は、本件発明1の「ゼータ電位が負の値を示し、シリカが」「分散している」「シリカ原料」に相当する。
(イ)なお、甲1発明の「1wt%のコロイドシリカ粒子」とは、通常、1wt%のシリカ粒子が含まれるコロイドシリカと解される。
そして、上記(甲1ウ)の【0017】には研磨組成物中に存在する研削剤(シリカ)の濃度が記載されており、甲1発明が「液体キャリアー中に懸濁されたコロイドシリカ粒子を含む研磨組成物」であることを踏まえると、甲1発明の「1wt%」の「wt%」は、液体キャリアー中にコロイドとして懸濁して存在するシリカの濃度ともいえるところ、本件発明1の「シリカ原料」も上記(ア)で記載したとおり、「分散媒としての水等」を含むものであるから、結局のところ、本件発明1の「シリカ原料」に「分散している」「シリカ」の「質量%」に相当するといえる。
そうすると、甲1発明の「1wt%のコロイドシリカ粒子」と、本件発明の「シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」とは、シリカの濃度の点で異なるものである。
イ(ア)甲1発明の「アミノプロピルトリエトキシシラン」は、本件発明1の「アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤」に相当し、本件発明1の「カチオン変性シリカ」とは、本件特許明細書【0027】によれば「シリカ粒子の表面に変性基としてのカチオン性基(アミノ基または第4級カチオン基)が導入された状態を意味する。」ものであるから、甲1発明の「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した」「コロイドシリカ粒子」は、本件発明1の「シリカ原料と」「アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを反応させ」た「カチオン変性シリカ」に相当する。
そして、甲1発明の「コロイドシリカ粒子がアミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理される」ことは、コロイドシリカ粒子とアミノプロピルトリエトキシシランとが混ぜ合わされて処理されることから、本件発明1の「シリカ原料と、アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを」「混合」することに相当する。
(イ)なお、甲1発明では「300ppmのアミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した1wt%のコロイドシリカ粒子を含む研磨組成物」と記載されているが、当該「300ppm」とは、上記(甲1ウ)の【0022】に記載されているとおり、研磨組成物におけるアミノプロピルトリエトキシシランの存在量、すなわち研磨組成物におけるアミノプロピルトリエトキシシランの濃度である。そして、「1wt%のコロイドシリカ粒子」におけるシリカ粒子を100質量%と換算したときの300ppmは、30000ppmすなわち3wt%となる。
そうすると、甲1発明の「300ppmのアミノプロピルトリエトキシシラン」と本件発明1の「シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下」とは、シランカップリング剤の濃度の点で異なるものである。
ウ 本件発明1の「Xは、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値であり、Yは、カチオン変性シリカのpHの値」とは、本件特許明細書の【0056】によれば「カチオン変性シリカの等電点となるpHの値とは、カチオン変性シリカのゼータ電位がゼロとなるpHの値である。また、カチオン変性シリカのpHとは、カチオン変性シリカを作製した直後(反応終了直後)のpHの値である。」ということである。
一方、甲1発明において「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した」「コロイドシリカ粒子を含む研磨組成物に」「酸である1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(DEQUEST2010)を0ppm」「加えると」「pHは」「9.14」ということは、「酸である1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(DEQUEST2010)を加える前の「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理したコロイドシリカ粒子」の「pH」すなわち本件発明1の「カチオン変性シリカのpHの値」が、9.14ということである。
また、甲1発明において「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した」「コロイドシリカ粒子を含む研磨組成物」の「pHは順に9.14、8.06、7.21、6.64となり、ゼータ電位は順に-27mV、3mV、15mV、18mV」となるということは、pHが9.14未満8.06超えのところでゼータ電位が0になることであるから、本件発明1の「カチオン変性シリカの等電点となるpHの値」が、9.14未満8.06超えということになる。
そして、「9.14未満8.06超え」<「9.14」であるから、甲1発明の「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理したコロイドシリカ粒子を含む研磨組成物」の「pHは順に9.14、8.06、7.21、6.64となり、ゼータ電位は順に-27mV、3mV、15mV、18mV」であることは、本件発明1の「X<Y 関係式(1) 関係式(1)中、Xは、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値であり、Yは、カチオン変性シリカのpHの値であるを満た」すことになる。
エ 甲1発明の「研磨組成物」に「含まれる」「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した」「コロイドシリカ粒子」「の製造方法」は、本件発明1の「カチオン変性シリカの製造方法」に相当する。
オ 上記ア~エを踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
(一致点)
「ゼータ電位が負の値を示し、シリカが分散しているシリカ原料と、アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを混合し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを有し、
前記カチオン変性シリカは、以下の関係式(1):
【数1】
X<Y 関係式(1)
関係式(1)中、Xは、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値であり、Yは、カチオン変性シリカのpHの値であるを満たす、
カチオン変性シリカの製造方法。」
(相違点1)
シリカ原料におけるシリカの濃度について、本件発明1では、「10質量%以上」であるのに対し、甲1発明では、「1wt%」である点。
(相違点2)
シリカ原料とシランカップリング剤とを混合して、本件発明1では、前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して「0.1質量%以上2.0質量%以下」となるようにしているのに対し、甲1発明では「3wt%」である点。
(相違点3)
シランカップリング剤を使用する際に、本件発明1では、シランカップリング剤を「希釈することなく使用するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で使用する」のに対し、甲1発明では、アミノプロピルトリエトキシシランを、どのような状態(希釈するのかどうか、さらには希釈する場合でもどの程度希釈するのか)で使用するのか特定されていない点。
(2)相違点の判断
事案に鑑み、相違点1及び2について検討する。
ア 本件発明1は、本件特許明細書に
「【0010】
そこで本発明は、シランカップリング剤を用いてシリカ原料を変性させることを含むカチオン変性シリカの製造において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しうる手段を提供することを目的とする。また、本発明は、シランカップリング剤を用いてシリカ原料を変性させることを含むカチオン変性シリカと、分散媒と、を含む研磨用組成物の製造時および製造後において、沈殿の発生を抑制しうる手段を提供することを目的とする。」と記載されていることを課題とするものであり、
「【0062】
これに対し、ゼータ電位が負の値を示すシリカ原料を用いることで、シリカ原料とシランカップリング剤との静電的反発が抑制され、カチオン性基のシリカ粒子表面への導入が促進されると考えられる。また、シリカ原料のpHとシランカップリング剤の添加量とを調節することにより、シリカ原料中のシリカ粒子の表面に導入されるカチオン性基の量を調節できると考えられる。これらにより、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値Xとカチオン変性シリカのpHの値Yを制御でき、よって、前記XとYとの関係をX<Y(関係式(1))となるように制御できる。つまり製造途中または製造後において、前記XとYとが、X<Y(関係式(1))の関係を維持できる(ゼータ電位がゼロに近づかない)ため、ゲル化を抑制できると考えられる。」という機序のもと発明されたものである。
そして、以下の(3)で記載する、当業者が予期し得ない効果を有する発明である。
イ それに対し、甲1発明は、(甲1ア)に記載されているとおり「特別な機器のための研磨ニーズに合うようにCMPの間に、種々の層(例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素)の除去速度を調整でき、または除去速度を合せることができる方法および組成物」を提供することを課題とするものであり、甲1発明を認定した(甲1オ)の表1を参照するに、甲1発明の製造方法によって製造された研磨組成物において、酸化ケイ素の除去速度と窒化ケイ素の除去速度が調整されるものであり、そして、同(甲1オ)には「酸化ケイ素の除去速度(Å/分)および窒化ケイ素の除去速度(Å/分)を、それぞれの研磨組成物で決定」することが記載されている。
ウ また、上記(甲1カ)の【0068】及び【表5】には、研磨組成物におけるアミノプロピルトリエトキシレート(【0067】の記載によればアミノプロピルトリエトキシシラン)の濃度の違いにより、酸化ケイ素の除去速度及び窒化ケイ素の除去速度が変化することが示され、同(甲1カ)の
【表7】には、研磨組成物におけるシリカ粒子の濃度の違いにより、酸化ケイ素の除去速度が変化することが示されている。
エ そうすると、甲1発明の認定の基になった研磨組成物3A~3Dは所定の「酸化ケイ素の除去速度」及び「窒化ケイ素の除去速度」を決定するものであり、これらの研磨組成物の組成等を変更するような動機付けが甲1に存在するとはいえない。
また、上記ウによれば、シリカ粒子の濃度を「1wt%」から「10質量%以上」に、かつ上記アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を「3wt%」から「0.1質量%以上2.0質量%以下」に変更したときに、決定する酸化ケイ素の除去速度(Å/分)及び窒化ケイ素の除去速度(Å/分)が変化してしまうといえることから、甲1発明において、シリカ粒子の濃度を「1wt%」から「10質量%以上」に、かつ上記アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を「3wt%」から「0.1質量%以上2.0質量%以下」にあえて変更する理由はない。
オ さらに、甲1発明において、決定する酸化ケイ素の除去速度(Å/分)及び窒化ケイ素の除去速度(Å/分)の範囲内で、コロイドシリカ粒子に含まれるシリカ粒子の濃度、及び研磨組成物におけるアミノプロピルトリエトキシシランの濃度を変更することが仮に可能であるとしても、上記アで記載したとおり、シリカ原料の特性及びシランカップリング剤の添加量とを調節することにより「カチオン変性シリカの等電点となるpHの値Xとカチオン変性シリカのpHの値Yを制御でき、よって、前記XとYとの関係をX<Y(関係式(1))となるように制御できる」ようにしているのであるから、甲1発明において、コロイドシリカ粒子に含まれるシリカ粒子の濃度、及び研磨組成物におけるアミノプロピルトリエトキシシランの濃度を変更したときにも、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値Xとカチオン変性シリカのpHの値Yが、X<Yとなるとはいえない。
そうすると、甲1発明において、コロイドシリカ粒子に含まれるシリカ粒子の濃度を「1wt%」から「10質量%以上」に変更し、かつ、コロイドシリカ粒子とアミノプロピルトリエトキシシランとを混合したアミノプロピルトリエトキシシランの濃度をシリカ粒子100質量%に対して「3wt%」から「0.1質量%以上2.0質量%以下」に変更したときに「カチオン変性シリカの等電点となるpHの値Xとカチオン変性シリカのpHの値Yが、X<Y」となるとはいえないのであるから、上記シリカ粒子の濃度を「1wt%」から「10質量%以上」に、かつ上記アミノプロピルトリエトキシシランの濃度を「3wt%」から「0.1質量%以上2.0質量%以下」に変更する動機があるとはいえない。
カ そして、上記第5で摘記したとおり、甲2~甲10、甲12及び甲13には、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値Xとカチオン変性シリカのpHの値Yとの関係が、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生と関連することを示したものはなく、さらに、コロイドシリカ粒子に含まれるシリカ粒子の濃度、及び研磨組成物におけるアミノプロピルトリエトキシシランの濃度を変更しても、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値Xとカチオン変性シリカのpHの値YがX<Yとなることを示すものはないことから、甲2~甲10、甲12及び甲13を参照しても、甲1発明において、コロイドシリカ粒子に含まれるシリカ粒子の濃度を「1wt%」から「10質量%以上」とし、かつ、コロイドシリカ粒子とアミノプロピルトリエトキシシランとを混合したアミノプロピルトリエトキシシランの濃度をシリカ粒子100質量%に対して「3wt%」から「0.1質量%以上2.0質量%以下」に変更することにはならない。
キ よって、相違点3について検討するまでもなく、相違点1及び2の点で、本件発明1は、甲1発明に基づいて、さらには、甲2~甲10、甲12及び甲13に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)効果について
ア 本件特許明細書には、本件発明1の効果を裏付ける実施例の記載として、以下のとおり記載されている。
「【0111】
<ゲル化の有無の確認>
得られたカチオン変性シリカ分散体について、各実施例・比較例に記載の方法でシリカ原料とカップリング剤とを混合してカチオン変性シリカ分散体を得る途中(反応中)または得た直後(反応後)におけるゲル化または沈殿の有無を目視により確認した。また、得られたカチオン変性シリカ分散体を70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後においても、同様にゲル化の有無を目視により確認した。
【0112】
<沈殿の有無の確認>
得られた研磨用組成物について、各実施例・比較例に記載の方法で研磨用組成物を作製した後、1時間静置して、沈殿の有無を目視により確認した。」
「【0113】
[実施例1]
シリカ原料であるコロイダルシリカ(シリカ粒子の濃度:48質量%、平均二次粒子径:33nm、会合度:1.3、等電点のpH:約3、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-55.4mVであった。
【0114】
上記で準備したコロイダルシリカに対して、600rpmの撹拌速度で撹拌しながら、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、「APES」とも称する)を希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APESの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.5質量%となるように調節した。
【0115】
その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面にアミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH9.4)を得た。
【0116】
得られたカチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの等電点となるpHが5.5であり、そのゼータ電位(@pH3)が+24.8mVであった。
【0117】
得られたカチオン変性シリカ分散体では、反応中および反応後ならびに高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった。
【0118】
[実施例2]
APESの添加量をシリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して2.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の手法によりカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.1)を製造した。
【0119】
得られたカチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの等電点となるpHが7.1であり、そのゼータ電位(@pH3)が+48.2mVであった。
【0120】
得られたカチオン変性シリカ分散体では、反応中および反応後ならびに高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった。」
「【0126】
[実施例4]
シリカ原料であるコロイダルシリカ(シリカ粒子の濃度:30質量%、平均二次粒子径:33nm、会合度:1.3、等電点のpH:約3、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-54.6mVであった。
【0127】
上記で準備したコロイダルシリカに対して、600rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APESを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APESの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して2.0質量%となるように調節した。
【0128】
その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面にアミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.0)を得た。
【0129】
得られたカチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの等電点となるpHが6.7であり、そのゼータ電位(@pH3)が+46.0mVであった。
【0130】
得られたカチオン変性シリカ分散体では、反応中および反応後ならびに高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった。」
「【0142】
[実施例8]
シリカ原料である高純度コロイダルシリカ(シリカ粒子の濃度:20質量%、平均二次粒子径:57nm、会合度:1.6、等電点のpH:約4、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-45.6mVであった。
【0143】
上記で準備したコロイダルシリカに対して、600rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APESを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APESの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%となるように調節した。
【0144】
その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面にアミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH7.6)を得た。
【0145】
得られたカチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの等電点となるpHが5.4であり、そのゼータ電位(@pH4)が+39.3mVであった。
【0146】
得られたカチオン変性シリカ分散体では、反応中および反応後ならびに高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった。【0147】[実施例9]
APESの添加量をシリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して1.0質量%に変更したこと以外は、実施例8と同様の手法によりカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH8.0)を製造した。
【0148】
得られたカチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの等電点となるpHが6.9であり、そのゼータ電位(@pH4)が+52.1mVであった。
【0149】
得られたカチオン変性シリカ分散体では、反応中および反応後ならびに高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった。」
「【0160】
[実施例12]
シリカ原料であるコロイダルシリカ(シリカ粒子の濃度:40質量%、平均二次粒子径:97nm、会合度:1.2、等電点のpH:約3、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、?57.8mVであった。
【0161】
上記で準備したコロイダルシリカに対して、600rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APESを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APESの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.5質量%となるように調節した。
【0162】
その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面にアミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.3)を得た。
【0163】
得られたカチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの等電点となるpHが6.5であり、そのゼータ電位(@pH3)が+57.2mVであった。
【0164】
得られたカチオン変性シリカ分散体では、反応中および反応後ならびに高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった。
【0165】
[実施例13]
APESの添加量をシリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して1.0質量%に変更したこと以外は、実施例12と同様の手法によりカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.7)を製造した。
【0166】
得られたカチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの等電点となるpHが7.5であり、そのゼータ電位(@pH3)が+50.3mVであった。
【0167】
得られたカチオン変性シリカ分散体では、反応中および反応後ならびに高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった。」
【表1】
「
[図:0001401621000014.jpg]
」
イ 上記アで摘記した実施例の記載を参照すると、本件発明1の構成である、
・「ゼータ電位が負の値を示し、シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料と、アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを、前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように混合」すること。
・「カチオン変性シリカは、以下の関係式(1):
X<Y 関係式(1)
関係式(1)中、Xは、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値であり、Yは、カチオン変性シリカのpHの値である」こと。
・「混合において、前記シランカップリング剤を希釈することなく使用するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で使用する」こと
のすべての構成要件を満たす実施例において、いずれも「反応中および反応後ならびに高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった」との効果を得ており、特に「高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった」との効果については、甲1~甲10、甲12及び甲13のいずれにも記載されていない。
そうすると、本件発明1によって奏される「高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった」との効果は、当業者において予期し得るものはない。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、令和5年4月6日に提出の意見書で、おおむね以下の主張をしている。
(ア)相違点1の容易性について
甲1発明において、「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理する前のコロイドシリカ」の濃度は不明ではあるが、シリカの濃度をどの程度にするかは当業者が適宜決定できる事項であり、例えば、上記甲12の(甲12ウ)の記載から計算されるシリカ濃度が約21wt%となるように、「10質量%以上」も特殊なものではない。
(イ)相違点2の容易性について
上記(甲1ウ)の【0021】及び【0022】には、処理されるシリカの量に応じて、アミノシラン化合物(シランカップリング剤)の添加量(濃度)を調整することが示唆されており、当業者は、アミノシラン化合物(シランカップリング剤)の添加量(濃度)を適宜変更することができる。そして、上記甲2の11頁上欄には、「湿式法」で処理する際の「シラン化合物量」として「対フィラー0.5~1.0wt%」との記載がある。当業者は、これらの記載に基づいて、甲1発明のアミノプロピルトリエトキシシランの濃度を、シリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように変更することができる。
(ウ)効果について
「シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制する」ことと、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後において、ゲル化を抑制することができる」こととは、「同質の効果」であると評価できる。また、「シランカップリング剤の濃度」に関しては、数値限定(「シランカップリング剤の濃度がシリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下」)の内と外の実施例が存在する。しかし、実施例5(「カップリング剤濃度(対シリカ粒子)」が5.0質量%)、実施例7 (「カップリング剤濃度(対シリカ粒子)」が5.0質量%)、実施例11 (「カップリング剤濃度(対シリカ粒子)」が2.5質量%)及び実施例14 (「カップリング剤濃度(対シリカ粒子)」が3.0質量%)では、数値限定の外であるにも関わらず、「ゲル化(高温加速試験直後)」が「無し」となっている。このことから、数値限定の内と外のそれぞれの効果について、量的に顕著な差異が示されているということはできない。実施例10と実施例11とに着目すると、本件特許明細書の段落【0157】には、実施例11について、「実施例10において準備した高純度コロイダルシリカについて、29質量%アンモニア水溶液を用いて分散液のpHを10に調整したこと以外は、実施例10と同様の手法によりカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.1) を製造した。」と記載されている。実施例10は「ゲル化(高温加速試験直後)」が「有り」となっている一方、実施例11では「無し」となっている。このことは、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後において、ゲル化を抑制することができる」という効果が、請求項1で特定されている事項以外の事項(分散液のpH等)に依存している可能性を強く示唆している。
(エ)発明の構成との関係
具体的にどのような構成とすることにより、どのような作用機序で「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後において、ゲル化を抑制することができる」という効果が得られるのか不明である。上記相違点1~3を組み合わせることで「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後において、ゲル化を抑制することができる」という効果が得られることは、本件特許明細書には記載されていない。
イ 申立人の主張に対する判断
(ア)について
上記甲12の(甲12ウ)の記載からシリカ濃度が約21wt%と計算され、コロイドシリカにおけるシリカ濃度として「10質量%以上」は特殊なものでないかもしれないが、上記(2)ア~カで述べたように、甲1発明においてシリカ粒子の濃度を「10質量%以上」に変更する動機はないのであるから、申立人の主張によって上記(2)ア~カの判断が変わることはない。
(イ)について
上記甲2の11頁上欄には、「湿式法」で処理する際の「シラン化合物量」として「対フィラー0.5~1.0wt%」との一般的な記載があり、シラン化合物として「アミノプロピルトリエトキシシラン」、フィラーとして「シリカ」を採用すれば、アミノプロピルトリエトキシシランの濃度が「シリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下」を満たすことになるかもしれないが、上記(2)ア~カで述べたように、甲1発明においてアミノプロピルトリエトキシシランの濃度をシリカ粒子100質量%に対して「0.1質量%以上2.0質量%以下」に変更する動機はないのであるから、申立人の主張によって上記(2)ア~カの判断が変わることはない。
(ウ)について
まず、本件特許明細書の表1を見て理解できるように、「シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化」が「無し」であっても、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後におけるゲル化」が「有り」となっているものが、少なからずあることから、「シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化」を抑制する効果と「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後におけるゲル化」を抑制する効果を「同質の効果」とすることはできない。
また、本件特許明細書の実施例において「シランカップリング剤の濃度がシリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように混合し」た実施例においては、すべて「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後におけるゲル化」は「無し」となっていることから、上記シランカップリング剤の濃度の範囲において、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後におけるゲル化」を抑制する効果は奏しないとはいえない。シランカップリング剤の濃度が上記範囲を満たさない例においても「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後におけるゲル化」を抑制する効果があるとしても、それによって、上記シランカップリング剤の濃度の範囲において「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験直後におけるゲル化」を抑制する効果を奏することを否定できるものではない。
(エ)について
上記(3)イで述べたように、本件発明1の構成である、
・「ゼータ電位が負の値を示し、シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料と、アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを、前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように混合」すること。
・「カチオン変性シリカは、以下の関係式(1):
X<Y 関係式(1)
関係式(1)中、Xは、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値であり、Yは、カチオン変性シリカのpHの値である」こと。
・「混合において、前記シランカップリング剤を希釈することなく使用するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で使用する」こと
のすべての構成要件を満たす実施例において、いずれも「高温加速試験直後において、ゲル化および沈殿は確認されなかった」との効果を得ていることから、上記申立人の(エ)の主張は当を得ないことである。
(5)小括
以上のことから、本件発明1は、甲1発明に基づいて、さらには、甲2~甲10、甲12及び甲13に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2、3、5及び6について
上記第3で記載したとおり、本件発明2、3、5及び6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲1発明に基づいて、さらには、甲2~甲10、甲12及び甲13に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明9について
本件発明9は、上記第3で記載したとおり、
「【請求項9】
カチオン変性シリカと分散媒とを含む研磨用組成物の製造方法であって、
ゼータ電位が負の値を示し、シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料と、アミノ基または4級カチオン基を有するシランカップリング剤とを、前記シランカップリング剤の濃度が前記シリカ原料に含まれるシリカ粒子100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下となるように混合し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、前記カチオン変性シリカを作製した後、
前記カチオン変性シリカと前記分散媒とを混合することを有し、
前記カチオン変性シリカと前記研磨用組成物とは、以下の関係式(2):
【数3】
Z<X<Y 関係式(2)
関係式(2)中、Xは、カチオン変性シリカの等電点となるpHの値であり、Yは、カチオン変性シリカのpHの値であり、Zは、研磨用組成物のpHの値である
を満たし、
前記混合において、前記シランカップリング剤を希釈することなく使用するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で使用する、製造方法。」
との発明であり、下線部において本件発明1と共通するものである。
そうすると、上記下線部について、上記1で述べたように、甲1発明に基づいて、さらには、甲2~甲10、甲12及び甲13に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、これら下線部の発明特定事項を必須とする本件発明9についても、甲1発明に基づいて、さらには、甲2~甲10、甲12及び甲13に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、申立人は、令和5年4月6日に提出の意見書において、本件発明9について、本件発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明することができたものであると主張するのみである。
4 本件発明10、11について
上記第3で記載したとおり、本件発明10及び11は、本件発明9を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明9と同様に、甲1発明に基づいて、さらには、甲2~甲10、甲12及び甲13に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 まとめ
したがって、本件発明1~3、5、6及び9~11は、甲1発明に基づいて、さらには、甲2~甲10、甲12及び甲13に記載されている事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないことから、本件発明1~3、5、6及び9~11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
よって、取消理由2によって、本件発明1~3、5、6及び9~11に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由については、以下の(1)及び(2)の理由である(なお、これらについては、すでに令和4年7月5日付けの取消理由通知書にて通知してある。)。
(1)本件特許の請求項7、12及び13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された上記甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項7、12及び13に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)本件特許の請求項7、8、12及び13に係る発明は、いわゆるPBPに該当する発明であり、本件特許明細書には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるともいえないことから、本件特許は、特許請求の範囲の請求項7、8、12及び13に係る記載が、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
上記第2の1で記載したとおり、特許請求の範囲の請求項7、8、12及び13は削除されており、特許異議の申立てについて、請求項7、8、12及び13に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため却下されることとなるから、上記(1)及び(2)を判断する必要はない。
第8 むすび
以上のとおり、本件発明1~3、5、6及び9~11に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によって、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1~3、5、6及び9~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4、7、8、12及び13に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項4、7、8、12及び13に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700425