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特許異議申立

2022-700293

カチオン変性シリカの製造方法およびカチオン変性シリカ分散体

審判番号
2022-700293
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-508132
登録番号
6947718
請求日
2022年04月08日
審決日
2023年12月14日
公報発行日
2024年03月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社フジミインコーポレーテッド
  • 【権利者代理人】IBC一番町弁理士法人
  • 【異議申立人】佐藤 祥徳
審判長/審判官
  • 審判長 原 賢一
  • 審判官 三崎 仁
  • 審判官 金 公彦
分類
P1651.113-YAA(C01B) / P1651.121-YAA(C01B) / P1651.537-YAA(C01B)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号、特許法第2条第3項第1号、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6947718号発明「カチオン変性シリカの製造方法およびカチオン変性シリカ分散体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6947718号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-10〕について訂正することを認める。 特許第6947718号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 特許第6947718号の請求項10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6947718号の請求項1~10に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月29日(優先権主張 平成28年3月30日)を国際出願とする出願であって、令和3年9月21日にその特許権の設定登録がされ、同10月13日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和4年 4月 8日 :特許異議申立人佐藤祥徳(以下「申立人」という。)による請求項1~10に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 6月14日付け:取消理由通知書 同年 9月16日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年10月18日 :申立人による意見書の提出 同年11月 8日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和5年 2月 9日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 同年 4月 3日 :申立人による意見書の提出 同年 6月27日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 9月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の提出 同年11月 7日 :申立人による意見書の提出 なお、令和4年9月16日及び令和5年2月9日に特許権者によりされた訂正の請求については、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求書による請求の趣旨は、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示している。 (1)特許請求の範囲に係る訂正 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「ゼータ電位が負の値を示すシリカ原料」と記載されているのを、「ゼータ電位が負の値を示し、水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~7についても同様に訂正する。)。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「前記カチオン性基が、アミノ基、アミノ基の酸中和塩、または第4級アンモニウム基である」と記載されているのを、「前記カチオン性基が、アミノ基、アミノ基の酸中和塩、または第4級アンモニウム基であり、前記シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または95質量%以上の濃度の溶液の状態で添加する」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3~7についても同様に訂正する。)。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項8に「前記カチオン変性シリカを分散させるための分散媒」と記載されているのを、「前記カチオン変性シリカを分散させるための水のみからなる分散媒」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9についても同様に訂正する。)。 エ 訂正事項4 特許請求の範囲の請求項8に「pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在する」と記載されているのを、「pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在し、前記カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上であり」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9についても同様に訂正する。)。 オ 訂正事項5 特許請求の範囲の請求項8に「、カチオン変性シリカ分散体」と記載されているのを、「、かつ、70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない、カチオン変性シリカ分散体」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9についても同様に訂正する。)。 カ 訂正事項6 特許請求の範囲の請求項10を削除する。 (2)明細書に係る訂正 ア 訂正事項7 願書に添付した明細書の【0009】に「すなわち、これらの技術を用いてカチオン変性シリカ分散体を製造しようとすると、シランカップリング剤の添加時や添加後において、ゲル化が生じる場合があることが判明した。また、これらの技術を用いた場合、シリカ原料におけるシリカ濃度がある程度低ければシリカ粒子表面のカチオン変性反応が想定どおり進行するものの、シリカ原料におけるシリカ濃度が高くなると、想定していたカチオン変性が行われず、十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入することができない場合があることも判明した。」と記載されているのを、「すなわち、これらの技術を用いて高いシリ力濃度を有するシリカ原料からカチオン変性シリカ分散体を製造しようとすると、シランカップリング剤の添加時や添加後において、ゲル化が生じる場合があることが判明した。また、高いシリカ濃度を有するシリカ原料にこれらの技術を用いた場合、シランカップリング剤の添加時や添加直後にはゲル化が発生しない場合でも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合があることも判明した。」に訂正する。 イ 訂正事項8 願書に添付した明細書の【0010】に「そこで本発明は、シランカップリング剤を用いて原料シリカを変性させることを含むカチオン変性シリカ分散体の製造において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、高いシリカ濃度を有するシリカ原料を用いた場合であっても十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入しうる手段を提供することを目的とする。」と記載されているのを、「そこで本発明は、シランカップリング剤を用いて高いシリカ濃度を有する原料シリカを変性させることを含むカチオン変性シリカ分散体の製造において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制しうる手段を提供することを目的とする。」に訂正する。 ウ 訂正事項9 願書に添付した明細書の【0011】に「その結果、ゼータ電位が負の値を示すシリカ原料に対して、カチオン性基を有するシランカップリング剤を添加し、これらを反応させてカチオン変性シリカを得ることで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。」と記載されているのを、「その結果、カチオン性基を有するシランカップリング剤を、前記シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示し、水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料に対して、希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加し、これらを反応させてカチオン変性シリカを得ることで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。」に訂正する。 エ 訂正事項10 願書に添付した明細書の【0012】に「すなわち、本発明の一形態によれば、ゼータ電位が負の値を示すシリカ原料に対して、カチオン性基を有するシランカップリング剤を添加し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを含む、カチオン変性シリカの製造方法が提供される。」と記載されているのを、「すなわち、本発明の一形態によれば、カチオン性基を有するシランカップリング剤を、前記シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示し、水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料に対して、希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを含む、カチオン変性シリカの製造方法が提供される。」に訂正する。 オ 訂正事項11 願書に添付した明細書の【0013】に「また、本発明の他の形態によれば、シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカと、前記カチオン変性シリカを分散させるための分散媒とを含み、pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在する、カチオン変性シリカ分散体もまた、提供される。」と記載されているのを、「また、本発明の他の形態によれば、シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカと、前記カチオン変性シリカを分散させるための水のみからなる分散媒とを含み、pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在し、前記カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上であり、かつ、70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない、カチオン変性シリカ分散体もまた、提供される。」に訂正する。 カ 訂正事項12 願書に添付した明細書の【0015】に「本発明の一形態は、ゼータ電位が負の値を示すシリカ原料に対して、カチオン性基を有するシランカップリング剤を添加し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを含む、カチオン変性シリカの製造方法である。」と記載されているのを、「本発明の一形態は、カチオン性基を有するシランカップリング剤を、前記シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示し、水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料に対して、希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを含む、カチオン変性シリカの製造方法である。」に訂正する。 キ 訂正事項13 願書に添付した明細書の【0015】に「本発明に係るカチオン変性シリカの製造方法によれば、シランカップリング剤を用いて原料シリカを変性させることを含むカチオン変性シリカ分散体の製造において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、高いシリカ濃度を有するシリカ原料を用いた場合であっても十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入することが可能となる。」と記載されているのを、「本発明に係るカチオン変性シリカの製造方法によれば、シランカップリング剤を用いて高いシリカ濃度を有する原料シリカを変性させることを含むカチオン変性シリカ分散体の製造において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能となる。」に訂正する。 ク 訂正事項14 願書に添付した明細書の【0033】に「ここで、シリカ原料におけるシリカ濃度は、そのシリカを使用する目的に応じて濃度調整されればよく特に制限されないが、生産性の観点から、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。一方、シリカ原料において、シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水等や、ごく微量の触媒等である。上述したシリカ濃度の範囲を考慮すると、シリカ原料における分散媒の濃度は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは50~90質量%であり、さらに好ましくは60~90質量%である。また、分散媒における有機溶媒の含有量が少ないほど好ましいことについても上述した通りであり、この観点から、分散媒の全量を100質量%としたときの水の含有量の割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。なお、分散媒が有機溶媒を含む場合、かような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の上述した有機溶媒が例示される。なかでも、上述したケイ素化合物の加水分解により生成するアルコールと同種のアルコールを用いることが好ましい。これは、ケイ素化合物の加水分解により生成するアルコールと同種のアルコールを用いることにより、溶媒の回収、再利用を容易化できるためである。」と記載されているのを、「ここで、シリカ原料におけるシリカ濃度は10質量%以上であり、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。一方、シリカ原料において、シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水や、ごく微量の触媒等である。上述したシリカ濃度の範囲を考慮すると、シリカ原料における分散媒の濃度は90質量%以下であり、より好ましくは50~90質量%であり、さらに好ましくは60~90質量%である。」に訂正する。 ケ 訂正事項15 願書に添付した明細書の【0037】に「また、シリカ原料に対してカチオン性基を有するシランカップリング剤を添加するにあたっては、当該シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または5質量%以上の濃度の溶液(水分散体)の状態で添加することが好ましい。ここで、「希釈することなく添加する」ことを「100質量%」の濃度で添加することとみなせば、添加されるシランカップリング剤の濃度は、好ましくは上述したように5質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量% (希釈せずに添加)である。」と記載されているのを、「また、シリカ原料に対してカチオン性基を有するシランカップリング剤を添加するにあたっては、当該シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液(水分散体)の状態で添加する。ここで、「希釈することなく添加する」ことを「100質量%」の濃度で添加することとみなせば、添加されるシランカップリング剤の濃度は上述したように50質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%(希釈せずに添加)である。」に訂正する。 コ 訂正事項16 願書に添付した明細書の【0043】に「これに対し、本発明に係る好ましい実施形態によれば、シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカと、当該カチオン変性シリカを分散させるための分散媒とを含むカチオン変性シリカ分散体であって、pH7以上においてもゼータ電位が正の値となる領域が存在するものが提供されうる。」と記載されているのを、「これに対し、本発明に係る好ましい実施形態によれば、シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカと、当該カチオン変性シリカを分散させるための水のみからなる分散媒とを含むカチオン変性シリカ分散体であって、pH7以上においてもゼータ電位が正の値となる領域が存在し、前記カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上であり、かつ、70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じないものが提供されうる。」に訂正する。 サ 訂正事項17 願書に添付した明細書の【0044】に「さらに、シリカ分散体におけるカチオン変性シリカの濃度についても特に制限はないが、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。一方、カチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水等や、ごく微量の触媒等である。上述したカチオン変性シリカ濃度の範囲を考慮すると、カチオン変性シリカ分散体における分散媒の濃度は、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは50~90質量%であり、さらに好ましくは60~90質量%である。また、分散媒における有機溶媒の含有量もまた、使用用途に応じて除去が必要となるという観点からは少ないほど好ましく、この観点から、分散媒の全量を100質量%としたときの水の含有量の割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、よりさらに好ましくは100質量%である。なお、分散媒が有機溶媒を含む場合、かような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の上述した有機溶媒が例示される。」と記載されているのを、「さらに、シリカ分散体におけるカチオン変性シリカの濃度は10質量%以上であり、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。一方、カチオン変性シリカ分散体において、カチオン変性シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水や、ごく微量の触媒等である。上述したカチオン変性シリカ濃度の範囲を考慮すると、カチオン変性シリカ分散体における分散媒の濃度は90質量%以下であり、より好ましくは50~90質量%であり、さらに好ましくは60~90質量%である。」に訂正する。 シ 訂正事項18 願書に添付した明細書の【0045】に「本発明に係るカチオン変性シリカ分散体は、研磨用組成物に含まれる研磨剤(砥粒)、紙のコーティング剤などの様々な用途に使用することができ、広いpH範囲で(特に酸性条件下においても)長期間安定分散可能であるという優れた効果を奏するものである。」と記載されているのを、「本発明に係るカチオン変性シリカ分散体は、研磨用組成物に含まれる研磨剤(砥粒)、紙のコーティング剤などの様々な用途に使用することができ、ゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能であるという優れた効果を奏するものである。」 ス 訂正事項19 願書に添付した明細書の【0072】に「[実施例9] 」と記載されているのを、「[比較例3] 」に訂正する。 セ 訂正事項20 願書に添付した明細書の【0073】に「[実施例10] 」と記載されているのを、「[実施例9]」に訂正する。 ソ 訂正事項21 願書に添付した明細書の【0076】に、【表1】として 「 [図:0001407786000001.jpg] 」と記載されているのを、 「 [図:0001407786000002.jpg] 」 に訂正する。 タ 訂正事項22 願書に添付した明細書の【0077】に「これに対し、本発明に係る製造方法によれば、シリカ原料のゼータ電位が負の値を示す状態でカチオン性基を有するシランカップリング剤を添加することで、十分な量のカチオン性基がシリカ粒子の表面に導入され、十分に高いゼータ電位を示すカチオン変性シリカ分散体が得られることがわかる。」と記載されているのを、「これに対し、本発明に係る製造方法によれば、シリカ原料のゼータ電位が負の値を示す状態でカチオン性基を有するシランカップリング剤を添加することで、十分に高いゼータ電位を示すカチオン変性シリカ分散体が得られることがわかる。」に訂正する。 チ 訂正事項23 願書に添付した明細書の【0078】に「また、実施例8と実施例9との比較から、シリカ原料に対してシランカップリング剤を添加する場合であっても、シランカップリング剤を低濃度(実施例9では2.5質量%)の溶液(水分散体)の状態で添加すると、経時的にゲル化が生じうることがわかる。これは、シランカップリング剤を予め溶液の形態としたことで加水分解反応が生じたことによるものと考えられることから、シランカップリング剤を溶液(水分散体)の場合で添加する際にはある程度の高濃度とすることが好ましく、特に好ましくはシランカップリング剤を希釈することなくそのままシリカ原料に対して添加するとよいと言える。」と記載されているのを、「また、実施例8と比較例3との比較から、シリカ原料に対してシランカップリング剤を添加する場合であっても、シランカップリング剤を低濃度(比較例3では2.5質量%)の溶液(水分散体)の状態で添加すると、経時的にゲル化が生じうることがわかる。これは、シランカップリング剤を予め溶液の形態としたことで加水分解反応が生じたことによるものと考えられることから、シランカップリング剤を溶液(水分散体)の場合で添加する際にはある程度の高濃度とすることが必要であり、特に好ましくはシランカップリング剤を希釈することなくそのままシリカ原料に対して添加するとよいと言える。」に訂正する。 ツ 訂正事項24 願書に添付した明細書の【0079】に「さらに、通常純度のシリカ原料を用いた実施例5~7の対比や、高純度のシリカ原料を用いた実施例2および実施例8の対比から、本発明に係る製造方法によれば、シランカップリング剤の添加量を調節することによって、シリカ粒子の表面に導入されるカチオン性基の量を線形的に制御することが可能であり、ひいては得られるカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位についても同様にして、線形的に制御することが可能であることがわかる。」と記載されているのを、「さらに、通常純度のシリカ原料を用いた実施例5~7の対比や、高純度のシリカ原料を用いた実施例2および実施例8の対比から、本発明に係る製造方法によれば、シランカップリング剤の添加量を調節することによって、得られるカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位を線形的に制御することが可能であることがわかる。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無 (1)特許請求の範囲に係る訂正について ア 訂正事項1について (ア)目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、「シリカ原料」を「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)新規事項の有無 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)の【0033】に「ここで、シリカ原料におけるシリカ濃度は、そのシリカを使用する目的に応じて濃度調整されればよく特に制限されないが、生産性の観点から、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。一方、シリカ原料において、シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水等や、ごく微量の触媒等である。上述したシリカ濃度の範囲を考慮すると、シリカ原料における分散媒の濃度は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは50~90質量%であり、さらに好ましくは60~90質量%である。また、分散媒における有機溶媒の含有量が少ないほど好ましいことについても上述した通りであり、この観点から、分散媒の全量を100質量%としたときの水の含有量の割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。」(下線は当審において付与した。以下同様)と記載され、分散媒の全量を100質量%としたときの水の含有量の割合が100質量%であることは、「水のみからなる分散媒」ということであるから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 イ 訂正事項2について (ア)目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、「カチオン性基を有するシランカップリング剤を、・・・希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加」することが特定されている請求項1を引用する請求項2において「前記シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または95質量%以上の濃度の溶液の状態で添加する」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)新規事項の有無 本件特許明細書等の【0037】に「また、シリカ原料に対してカチオン性基を有するシランカップリング剤を添加するにあたっては、当該シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または5質量%以上の濃度の溶液(水分散体)の状態で添加することが好ましい。ここで、「希釈することなく添加する」ことは「100質量%」の濃度で添加することと言い換えることができるから、添加されるシランカップリング剤の濃度は、好ましくは上述したように5質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは100質量%(希釈せずに添加)である。」と記載されており、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 ウ 訂正事項3について (ア)目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項3は、「分散媒」を「水のみからなる分散媒」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)新規事項の有無 本件特許明細書等の【0044】に「分散媒の全量を100質量%としたときの水の含有量の割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、よりさらに好ましくは100質量%である。」と記載され、分散媒の全量を100質量%としたときの水の含有量の割合が100質量%であることは、「水のみからなる分散媒」ということであるから、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 エ 訂正事項4について (ア)目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項4は、「カチオン変性シリカ分散体」を「カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上であ」る「カチオン変性シリカ分散体」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)新規事項の有無 本件特許明細書等の【0044】に「さらに、シリカ分散体におけるカチオン変性シリカの濃度についても特に制限はないが、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは10~40質量%である。」と記載されており、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 オ 訂正事項5について (ア)目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項5は、「カチオン変性シリカ分散体」を「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」「カチオン変性シリカ分散体」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (イ)新規事項の有無 本件特許明細書等の【0050】に「<ゲル化の有無の確認>得られたカチオン変性シリカ分散体について、各実施例・比較例に記載の方法でシリカ原料とカップリング剤とを混合してカチオン変性シリカ分散体を得る途中または得た直後におけるゲル化の有無を目視により確認した。また、得られたカチオン変性シリカ分散体を70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験も行い、同様にゲル化の有無を目視により確認した。」と記載され、そして、上記1(2)ソで記載した本件特許明細書等の【表1】の実施例1~8及び10において、「高温加速試験後」で「無し」となっていることから、実施例1~8及び10に「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」「カチオン変性シリカ分散体」が記載されているといえる。そうすると、訂正事項5は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 カ 訂正事項6について 訂正事項6は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、そして、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 (2)明細書に係る訂正について 明細書の訂正については、まず新規事項の有無について検討し、その次に目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について検討することとする。 ア 訂正事項7について (ア)新規事項の有無 「高いシリ力濃度を有するシリカ原料」については、本件特許明細書等の【0010】に「高いシリ力濃度を有するシリカ原料」と記載されている。 また、「シランカップリング剤の添加時や添加直後にはゲル化が発生しない場合でも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合がある」については、本件特許明細書等の【0050】に「<ゲル化の有無の確認>得られたカチオン変性シリカ分散体について、各実施例・比較例に記載の方法でシリカ原料とカップリング剤とを混合してカチオン変性シリカ分散体を得る途中または得た直後におけるゲル化の有無を目視により確認した。また、得られたカチオン変性シリカ分散体を70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験も行い、同様にゲル化の有無を目視により確認した。」と記載され、そして、上記1(2)ソで記載した本件特許明細書等の【表1】の実施例9では、「ゲル化」について「反応中/反応後」で「無し」、「高温加速試験後」で「有り」となっていることから、「シランカップリング剤の添加時や添加直後にはゲル化が発生しない場合でも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合がある」ことが記載されている。 そうすると、訂正事項7は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 シリカ原料を「高いシリ力濃度を有するシリカ原料」とすることについては、特許請求の範囲において「シリカ原料」を「シリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」と訂正したことに整合させ、シリカ原料を明確にしたものである。 また、訂正事項7では、「シリカ原料におけるシリカ濃度がある程度低ければシリカ粒子表面のカチオン変性反応が想定どおり進行するものの、シリカ原料におけるシリカ濃度が高くなると、想定していたカチオン変性が行われず、十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入することができない場合」を削除し、「シランカップリング剤の添加時や添加直後にはゲル化が発生しない場合でも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合」を加えたことになるが、これは、前者の「十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入すること」について、本件特許明細書等の実施例において試験などを行って事実として明確に記載されていなかったことから、実施例で具体的に試験を行い事実として明確な場合として記載されている後者を記載して、発明に係る技術的な内容を明確にしたものである。 そうすると、訂正事項6は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書が訂正事項7によって訂正されることで、特許請求の範囲における各用語の解釈が変わることはなく、そして、各発明特定事項が拡張されて、又は変更されて解釈されることはないことから、訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ 訂正事項8について (ア)新規事項の有無 「高いシリ力濃度を有するシリカ原料」については、上記ア(ア)で述べたとおりである。 また、「高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制しうる手段」については、上記ア(ア)で述べたとおり、本件特許明細書等の【0050】に「<ゲル化の有無の確認>得られたカチオン変性シリカ分散体を70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験も行い、同様にゲル化の有無を目視により確認した。」と記載され、そして、上記1(2)ソで記載した本件特許明細書等の【表1】の実施例1~8及び10において、「高温加速試験後」で「無し」となっていることから、実施例1~8及び10に「高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制しうる手段」が記載されているといえる。 そうすると、訂正事項8は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 シリカ原料を「高いシリ力濃度を有するシリカ原料」とすることについては、上記ア(イ)で述べたとおり、シリカ原料を明確にしたものである。 また、「高いシリカ濃度を有するシリカ原料を用いた場合であっても十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入しうる手段」を「高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制しうる手段」とすることは、上記ア(イ)で述べたのと同様に、前者の「十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入しうる」ことについて、本件特許明細書等の実施例において試験などを行って事実として明確に記載されていないことから、実施例で具体的に試験を行い事実として明確な手段として記載されている後者を記載して、発明に係る技術的な内容を明確にしたものである。 そうすると、訂正事項8は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書が訂正事項8によって訂正されることで、特許請求の範囲における各用語の解釈が変わることはなく、そして、特許請求の範囲の各発明特定事項が拡張されて、又は変更されて解釈されることはないことから、訂正事項8は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 訂正事項9について (ア)新規事項の有無 「カチオン性基を有するシランカップリング剤を」「希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加」すること、及び「シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位」については、本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1に記載されている。 また、「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」については、上記(1)ア(イ)で述べたように、本件特許明細書等の【0033】に記載されている。 そうすると、訂正事項9は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 「カチオン性基を有するシランカップリング剤を添加」することを「カチオン性基を有するシランカップリング剤を」「希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加」することに訂正すること、及び、シリカ原料を「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」に訂正することは、上記訂正事項1によって訂正された請求項1の記載に整合させるものであるから、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書の記載を請求の記載に整合させる訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ 訂正事項10及び12について 訂正事項10及び12は、訂正事項9と同じく、「カチオン性基を有するシランカップリング剤を添加」することを「カチオン性基を有するシランカップリング剤を」「希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加」することに訂正し、シリカ原料を「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」に訂正するものであるから、訂正事項10及び12は、上記ウで述べたとおり、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 オ 訂正事項11について 訂正事項11は、上記訂正事項3~5により訂正された請求項8の記載に整合させるべく、「カチオン変性シリカを分散させるための分散媒」を「カチオン変性シリカを分散させるための水のみからなる分散媒」に、「カチオン変性シリカ分散体」を「チオン変性シリカの濃度が10質量%以上であり、かつ、70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない、カチオン変性シリカ分散体」に訂正するものであるから、訂正事項11は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 カ 訂正事項13について (ア)新規事項の有無 「高いシリ力濃度を有するシリカ原料」については、上記ア(ア)で述べたとおりである。 また、「高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能」については、上記イ(ア)で述べたとおり、本件特許明細書等の【0050】に「<ゲル化の有無の確認>得られたカチオン変性シリカ分散体を70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験も行い、同様にゲル化の有無を目視により確認した。」と記載され、そして、上記1(2)ソで記載した本件特許明細書等の【表1】の実施例1~8及び10において、「高温加速試験後」で「無し」となっていることから、実施例1~8及び10に「高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能」であることが記載されているといえる。 そうすると、訂正事項13は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 シリカ原料を「高いシリ力濃度を有するシリカ原料」とすることについては、上記ア(イ)で述べたとおり、シリカ原料を明確にしたものである。 また、「高いシリカ濃度を有するシリカ原料を用いた場合であっても十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入することが可能」を「高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能」とすることは、上記ア(イ)で述べたのと同様に、前者の「十分な量のカチオン性基をシリカ粒子の表面に導入する」ことについて、本件特許明細書等の実施例において試験などを行って事実として明確に記載されていないことから、実施例で具体的に試験を行い事実として明確なこととして記載されている後者を記載して明確にしたものである。 そうすると、訂正事項13は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書が訂正事項13によって訂正されることで、特許請求の範囲における各用語の解釈が変わることはなく、そして、特許請求の範囲の各発明特定事項が拡張されて、又は変更されて解釈されることはないことから、訂正事項13は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 キ 訂正事項14について (ア)新規事項の有無 「シリカ原料におけるシリカ濃度は10質量%以上」であることについては、上記(1)ア(イ)で述べたとおり、本件特許明細書等の【0033】に記載されている。同様に、「シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水」及び「シリカ原料における分散媒の濃度は90質量%以下」についても本件特許明細書等の【0033】に記載されている。 そうすると、訂正事項14は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 「シリカ原料におけるシリカ濃度は、そのシリカを使用する目的に応じて濃度調整されればよく特に制限されないが、生産性の観点から、好ましくは5質量%以上」を「シリカ原料におけるシリカ濃度は10質量%以上であり」とする訂正、「シリカ原料において、シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水等や、ごく微量の触媒等である」を「シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水」とする訂正は、上記訂正事項1によって訂正された請求項1の記載に整合させるものである。 そして、「シリカ原料における分散媒の濃度は、好ましくは95質量%以下」を「シリカ原料における分散媒の濃度は90質量%以下」とする訂正は、上記前者の「シリカ原料におけるシリカ濃度は10質量%以上であり」との訂正に整合させ、「また、分散媒における有機溶媒の含有量が少ないほど好ましいことについても上述した通りであり、この観点から、分散媒の全量を100質量%としたときの水の含有量の割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。なお、分散媒が有機溶媒を含む場合、かような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の上述した有機溶媒が例示される。なかでも、上述したケイ素化合物の加水分解により生成するアルコールと同種のアルコールを用いることが好ましい。これは、ケイ素化合物の加水分解により生成するアルコールと同種のアルコールを用いることにより、溶媒の回収、再利用を容易化できるためである。」を削除する訂正は、上記後者の「シリカの含有量を除いた残部は分散媒としての水」との訂正に整合させるものである。 そうすると、訂正事項14は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書の記載を請求項の記載に整合させる訂正事項14は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ク 訂正事項15について (ア)新規事項の有無 「シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液(水分散体)の状態で添加する」こと、及び「シランカップリング剤の濃度は上述したように50質量%以上」であることは、本件特許明細書等の【0033】に記載されている。 そうすると、訂正事項15は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 「シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または5質量%以上の濃度の溶液(水分散体)の状態で添加することが好ましい。」を「シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液(水分散体)の状態で添加する」とする訂正、及び「シランカップリング剤の濃度は、好ましくは上述したように5質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上」を「シランカップリング剤の濃度は上述したように50質量%以上」とする訂正は、上記訂正事項1によって訂正された請求項1の記載に整合させるものであるから、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書の記載を請求項の記載に整合させる訂正事項15は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ケ 訂正事項16について 訂正事項16は、上記訂正事項3~5により訂正された請求項8の記載に整合させるべく、「カチオン変性シリカを分散させるための分散媒」を「カチオン変性シリカを分散させるための水のみからなる分散媒」に、「カチオン変性シリカ分散体」を「チオン変性シリカの濃度が10質量%以上であり、かつ、70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない、カチオン変性シリカ分散体」に訂正するものであるから、訂正事項16は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 コ 訂正事項17について 訂正事項17は、上記訂正事項4により訂正された請求項8の「カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上であ」る「カチオン変性シリカ分散体」の記載に整合させるべく、「シリカ分散体におけるカチオン変性シリカの濃度についても特に制限はないが、好ましくは5質量%以上」を「シリカ分散体におけるカチオン変性シリカの濃度は10質量%以上」に訂正し、それに合わせて「カチオン変性シリカ分散体における分散媒の濃度は、好ましくは90質量%以下」を「カチオン変性シリカ分散体における分散媒の濃度は90質量%以下」に訂正し、そして、上記訂正事項3により訂正された請求項8の「水のみからなる分散媒」の記載に整合させるべく、「また、分散媒における有機溶媒の含有量もまた、使用用途に応じて除去が必要となるという観点からは少ないほど好ましく、この観点から、分散媒の全量を100質量%としたときの水の含有量の割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、よりさらに好ましくは100質量%である。なお、分散媒が有機溶媒を含む場合、かような有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の上述した有機溶媒が例示される。」との記載を削除したものであるから、訂正事項17は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 サ 訂正事項18について (ア)新規事項の有無 上記カ(ア)で述べたように、「ゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能」であることを追加することは、本件特許明細書等の【表1】の実施例1~8及び10において、「ゲル化」について「反応中/反応後」で「無し」、及び「高温加速試験後」で「無し」となっていることから、実施例1~8及び10に「ゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能」であることが示されているといえる。 そうすると、訂正事項18は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 「広いpH範囲で(特に酸性条件下においても)長期間安定分散可能」を「ゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能」とすることは、前者の「広いpH範囲で(特に酸性条件下においても)長期間安定分散可能」であることについて、本件特許明細書等の実施例において試験などを行って事実として明確に記載されていないことから、実施例で具体的に試験を行い事実として明確なこととして記載されている後者を記載して、発明に係る技術的な内容を明確にしたものである。そうすると、訂正事項18は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書が訂正事項18によって訂正されることで、特許請求の範囲における各用語の解釈が変わることはなく、そして、特許請求の範囲の各発明特定事項が拡張されて、又は変更されて解釈されることはないことから、訂正事項18は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 シ 訂正事項19について 訂正事項19は、訂正された請求項1に係る発明に対応しない実施例(「実施例9」)を比較例(「比較例3」)に訂正するものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ス 訂正事項20について 訂正事項20は、訂正事項19により「実施例9」が「比較例3」に訂正されたことにともない、「実施例10 」を「実施例9」に訂正するものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 セ 訂正事項21について 訂正事項21は、訂正事項19及び20にともない、表中の「実施例9」を「比較例3」、「実施例10」を「実施例9」に訂正するものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ソ 訂正事項22について (ア)新規事項の有無 「シリカ原料のゼータ電位が負の値を示す状態でカチオン性基を有するシランカップリング剤を添加することで、十分に高いゼータ電位を示すカチオン変性シリカ分散体が得られる」ことは、本件特許明細書等の【0033】に記載されており、上記【表1】(実施例1~10における「カップリング剤添加前のζ電位[mV]」及び「修飾後ζ電位@pH4または@pH3[mV]」の数値)においても、事実として明確に記載されていることから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 訂正事項22は、「十分な量のカチオン性基がシリカ粒子の表面に導入され」るという本件特許明細書等の実施例において試験などを行って事実として明確に記載されていないことを削除して、実施例等から明確に理解される「シリカ原料のゼータ電位が負の値を示す状態でカチオン性基を有するシランカップリング剤を添加することで、十分に高いゼータ電位を示すカチオン変性シリカ分散体が得られる」ことを記載するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書が訂正事項22によって訂正されることで、特許請求の範囲における各用語の解釈が変わることはなく、そして、特許請求の範囲の各発明特定事項が拡張されて、又は変更されて解釈されることはないことから、訂正事項22は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 タ 訂正事項23について 訂正事項23は、上記訂正事項19にともない「実施例9」を「比較例3」に、そして、シランカップリング剤を溶液(水分散体)の場合で添加する際にはある程度の高濃度とすることが「好まし」いことから「必要であ」ることに訂正するものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 チ 訂正事項24について (ア)新規事項の有無 「シランカップリング剤の添加量を調節することによって、得られるカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位を線形的に制御する」ことについては、本件特許明細書等の【0079】に「シランカップリング剤の添加量を調節することによって、・・・得られるカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位・・・線形的に制御する」と記載されていることから、訂正事項24は本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。 (イ)目的の適否 「シランカップリング剤の添加量を調節することによって、シリカ粒子の表面に導入されるカチオン性基の量を線形的に制御することが可能であり、ひいては得られるカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位についても同様にして、線形的に制御する」を「シランカップリング剤の添加量を調節することによって、得られるカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位を線形的に制御する」とすることは、前者の「シリカ粒子の表面に導入されるカチオン性基の量を線形的に制御する」ことについて、本件特許明細書等の実施例において試験などを行って事実として明確に記載されていないことから、実施例で具体的に試験を行い事実として明確なこととして記載されている後者を記載して、発明に係る技術的な内容を明確にしたものである。 そうすると、訂正事項24は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (ウ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 明細書が訂正事項24によって訂正されることで、特許請求の範囲における各用語の解釈が変わることはなく、そして、特許請求の範囲の各発明特定事項が拡張されて、又は変更されて解釈されることはないことから、訂正事項24は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 一群の請求項について (1)特許請求の範囲に係る訂正 訂正前の請求項2~7は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~7は一群の請求項であり、訂正事項1及び2は、当該一群の請求項に請求されているものである。 また、訂正前の請求項9及び10は請求項8を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項8~10は一群の請求項であり、訂正事項3~6は、当該一群の請求項に請求されているものである。 よって、訂正事項1~6は、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。 (2)明細書に係る訂正 明細書に対する訂正事項7~24は、(1)で記載した2つの一群の請求項の全てについて行われるものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 4 訂正についてのまとめ 上記のとおり、訂正事項1~24に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-10〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 (1)本件発明について 本件訂正請求により訂正された請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明9」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 カチオン性基を有するシランカップリング剤を、前記シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示し、水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料に対して、希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを含む、カチオン変性シリカの製造方法。 【請求項2】 前記カチオン性基が、アミノ基、アミノ基の酸中和塩、または第4級アンモニウム基であり、前記シランカップリング剤を希釈することなく添加するか、または95質量%以上の濃度の溶液の状態で添加する、請求項1に記載のカチオン変性シリカの製造方法。 【請求項3】 前記反応の前に、前記シリカ原料のゼータ電位を負の値に調整することをさらに含む、請求項1または2に記載のカチオン変性シリカの製造方法。 【請求項4】 前記反応の直前における前記シリカ原料のゼータ電位が-10mV以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン変性シリカの製造方法。 【請求項5】 前記シランカップリング剤の濃度がシリカ粒子100質量%に対して0.05質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のカチオン変性シリカの製造方法。 【請求項6】 前記シランカップリング剤が、1級アミン/エトキシカップリング剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載のカチオン変性シリカの製造方法。 【請求項7】 前記シリカ原料と前記シランカップリング剤との反応系を加熱する工程を含まない、請求項1~6のいずれか1項に記載のカチオン変性シリカの製造方法。 【請求項8】 シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカと、前記カチオン変性シリカを分散させるための水のみからなる分散媒と、を含み、 pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在し、前記カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上であり、かつ、70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない、カチオン変性シリカ分散体。 【請求項9】 前記カチオン性基が、アミノ基、アミノ基の酸中和塩、または第4級アンモニウム基である、請求項8に記載のカチオン変性シリカ分散体。」 (2)本件明細書について 本件の明細書は、本件訂正請求により訂正された訂正明細書であるから、以下、訂正明細書を「本件明細書」という。 第4 特許異議申立書における申立理由 1 新規性・進歩性について 申立人は、特許異議申立書で以下の甲第1号証~甲第15号証を、そして、令和4年10月18日提出の意見書で以下の甲第16号証及び甲第17号証を提示して、以下の理由で、本件訂正前の請求項1~9(請求項10は削除されたことから以下省略する。)に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものであることを主張している。 <証拠方法> 甲第1号証:特開2003-253154号公報 甲第2号証:特表2012-515806号公報 甲第3号証:特開2003-243340号公報 甲第4号証:特開2009-274923号公報 甲第5号証:特表2010-541204号公報 甲第6号証:Kazusei Tamai et al.,「Effect of Particle-Substrate Interaction on the Polishing Rate」,Proceedings of ICPT2009,Fukuoka,2009年,pp.55-59 甲第7号証:玉井一誠、外1名、「Si,サファイア,SiC,GaNの研磨とそのメカニズム」、(独)日本学術振興会「結晶加工と評価技術」、第145委員会、第127回研究会、2011年8月 甲第8号証:玉井一誠、外3名、「CMPにおける材料除去能率向上に向けた研磨抵抗の要因解析」、先端加工学会誌、第29巻、第1号、2011年1月 甲第9号証:臼井進之助、外1名、「微粒子の分散と凝集-基礎と応用-」、資源・素材学会誌、第107巻、第9号、1991年、pp.585-591 甲第10号証:Chang Hum Lee et al.,「Preparation and characterization of surface modified silica nanoparticles with organo-silane compounds」, Colloids and Surface A: Physicochemical and Engineering Aspects, 384, 2011年, pp.318-322 甲第11号証:Khoa N. Pham et al.,「Surface Charge Modification of Nano-Sized Silica Colloid」, Australian Journal of Chemistry, 2007年, Vol.60, pp. 662-666 甲第12号証:Douglas Hendrix et al.,「Behavior of Colloidal Nanosilica in an Ultrahigh Performance Concrete Environment Using Dynamic Light Scattering」, Materials,12,1976,2019年 甲第13号証:Sogaardl et al.,「Silica sol as grouting material: a physio-chemical analysis」, Nano Convergence (2018年) 5:6 甲第14号証:CHEMPOINT社のウェブサイト、[online], [2022年3月18日 検索]、(URL:https://www. chempoint.com/products/grace/ludox-monodispersed-coiloidal-si1ica/ludox_colloidal-silica/ludox-cl-x) 甲第15号証:LudoxR CL-Xのテクニカル.データ.シート 甲第16号証:甲第2号証(特表2012-515806号公報)の原文の国際公開第2010/085324号 甲第17号証:小学館ランダムハウス英和大辞典、2002年1月10日発行 以下、甲第○号証は「甲○」という。 (1)申立理由1(甲1を主とする) 本件訂正前の請求項1~5及び7に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(甲2を主とする) 本件訂正前の請求項1、2、4、5、8及び9に係る発明は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項1~9に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~9に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)申立理由3(甲3を主とする) 本件訂正前の請求項1~5及び7に係る発明は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1~7に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)申立理由4(甲4を主とする) 本件訂正前の請求項8及び9に係る発明は、甲4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項8及び9に係る発明は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項8及び9に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (5)申立理由5(甲5を主とする) 本件訂正前の請求項8及び9に係る発明は、甲5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、本件訂正前の請求項8及び9に係る発明は、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項8及び9に係る特許は、特許法第29条第1項、あるいは特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 サポート要件について 申立理由6 本件訂正前の請求項8及び9に係る発明は、「pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在する」こと自体を課題としているというべきであり、「達成すべき結果により規定された発明」に該当する。そして、特定の手段(請求項1)による発明が記載されているのみであり、本件訂正前の請求項8及び9に係る発明まで拡張ないし一般化できないことから、本件訂正前の請求項8及び9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 取消理由 令和5年6月27日付け取消理由通知書(決定の予告)においても、サポート要件について通知しており、その概要は以下のとおりである。 本件訂正前の請求項8及び9に係る発明は、シリカ原料に対してシランカップリング剤を添加する際に「シランカップリング剤をそのまま(希釈することなく)添加するか、希釈するとしても高濃度の状態で添加する」ことが特定されていないことから、高温(70℃) での2週間の加速試験においてゲル化を抑制することはできないものである。そうすると、本件訂正前の請求項8及び9に係る発明は、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものではないことから、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。 よって、本件訂正前の請求項8及び9に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第6 甲号証の記載 1 甲1について (1)記載事項について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付与した。以下同様)。 (甲1ア)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、微粒、無機質で、非晶質の多孔性物質とゾル、その合成法、用途および、それを用いたインクジェット方式の印刷、記録に使用されるインクジェット記録用の紙、シート、フィルム、布等のインクジェット記録媒体、その製造に使用されるインクジェット記録媒体塗工液に関する。」 (甲1イ)「【0022】本発明の多孔性物質には、シランカップリング剤を添加することができる。シランカップリング剤を添加することで、有機媒体との結合や密着性を向上させることができる。また、耐アルカリ性などの耐薬品性に優れた粒子を得ることができる。さらに、酸性にしたりカチオン性物質や有機溶剤を添加したりしても安定で、長期間の保存にも耐えるゾルを製造することができる。用いるシランカップリング剤は、下記一般式[1]で表されるものが好ましい。 Xn Si( OR)4-n ‥‥[1] 式中、Xは炭素原子数1~12の炭化水素基、第四級アンモニウム基および/またはアミノ基で置換されている炭素原子数1~12の炭化水素基、若しくは第四級アンモニウム基および/またはアミノ基で置換されていてもよい炭素原子数1~12の炭化水素基が単数又は複数の窒素原子で連結された基を示し、Rは水素原子, 炭素数1~12の炭化水素基を示し、nは1~3の整数である。」 「【0025】上記一般式[1]で表される化合物の具体例としては、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、(アミノエチル) アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)-プロピルトリメトキシシラン塩酸塩等を例示することができる。シランカップリング剤の添加量としては、多孔性物質乾燥重量中に占める窒素原子の重量割合( 以下、含有率と言う) として0. 1~10%、より好ましくは0. 3~6%が良い。含有率が低すぎると、本発明の効果を得ることが難しくなる。含有率が10%を超えると作業性その他工業化適正に欠けることがある。」 (甲1ウ)「【0031】本発明におけるゾルとは、液体を分散媒とし、本発明の多孔性物質が分散体であるコロイド溶液である。分散媒としては、沈殿を生じないものであれば何でもよい。好ましくは、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、アミド類のうちの1種類あるいは2種類以上の混合溶媒を用いる。有機溶媒は用途により変更することができる。塗膜の乾燥速度を速める場合は、アルコール類やケトン類などの水よりも蒸発潜熱の低いものが好ましい。ここでいう蒸発潜熱とは、気化するときに溶媒が吸収するエネルギー量をいい、蒸発潜熱が低いとは、溶媒が気化しやすいことを言う。アルコール類としては、エタノールやメタノール等の低級アルコールが好ましく、ケトン類ではエチルメチルケトンが好ましい。また、塗膜の平滑さを求める場合は、沸点が100度以上の高沸点溶媒が好ましく、特にエチレングリコール、エチレングリコールモノ-プロピルエーテル、ジメチルアセトアミド、キシレン、n-ブタノール、メチレンイソブチルケトンが好ましい。」 「【0034】ゾルの濃度は、用途によって異なるが、好ましくは0.5~30重量%、より好ましくは5~30重量%である。濃度が低すぎると、経済的に不利となり、コーティング用などに用いる場合、乾燥しづらい等の欠点を持ち、輸送などの点からも好ましくない。濃度があまり高すぎると、粘度が高くなり、安定性が低下する可能性があり好ましくない。本発明のゾルは、金属酸化物および/またはその前駆体からなる金属源とテンプレートと水を混合し金属酸化物/テンプレート複合体のゾルを製造する工程と、該複合体からテンプレートを除去する工程とからなる製造方法により作製されるのが好ましい。」 (甲1エ)「【0065】以下の実施例のコーティング膜、ゾルの評価結果を表1、表2に示す。 (実施例1)あらかじめH+型にしておいたカチオン交換樹脂(アンバーライト、IR-120B)1000gを水1000g に分散したなかに、3号水ガラス(SiO2=29重量%、Na2O=9.5重量%)333.3gを水666.7gで希釈した溶液を加える。これを、十分撹拌した後、カチオン交換樹脂を濾別し活性シリカ水溶液2000gを得た。この活性シリカ水溶液のSiO2 濃度は5.0重量%であった。100gのプルロニックP123(旭電化製)(以下、「P123」と略記することがある。)を水8700gに溶解させ、35℃湯浴中で撹拌しながら、上記の活性シリカ水溶液1200gを添加した。この混合物のpHは4.0であった。このときの、水/P123の重量比は98.4で、P123/SiO2の重量比は1.67である。この混合物を35℃で15分撹拌後、95℃で静置し24時間反応させた。 【0066】得られた反応液に添加後の水/エタノールが重量比で1/0.79、NaOH/SiO2が重量比で0.045/1になるようにエタノール、NaOH水溶液を添加した。この溶液のpHは9.0であった。この溶液を限外濾過膜としてPAN膜AHP-0013(旭化成社製)を用いてろ過を行い、非イオン性界面活性剤P123を取り除き、SiO2濃度約7.0重量%の透明な多孔性物質のゾル(A)を得た。pHは10.0であり、ゼータ電位は-45mVであった。このゾル(A)の粘度は360cPであった。」 (甲1オ)「【0072】(実施例6)実施例1で得られたゾル(A)100gに3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.51gを加えた。これを十分攪拌した後、6規定の塩酸1.36gを加えた。一旦、ダマ状凝集物が生成するが、超音波分散機を用いて分散するとゾル(F)が得られた。pHは2.1であり、ゼータ電位は34mVであった。得られたゾル(F)をコーティング膜にした。」 (甲1カ)「【0073】(実施例8)実施例1で得られたゾル(A)100gに3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)-プロピルトリメトキシシラン塩酸塩の40%メタノール溶液2.14gを加えた。これを十分攪拌した後、6規定の塩酸3.57gを加えた。一旦、ダマ状凝集物が生成するが、超音波分散機を用いて分散するとゾル(H)が得られた。pHは1.1であり、ゼータ電位は38mVであった。得られたゾル(H)をコーティング膜にした。」 (2)甲1発明について 上記(1)で摘記した記載事項において、(甲1エ)及び(甲1オ)で記載さている実施例1を引用する実施例6に基づいて、甲1に記載されている発明(特に下線部参照)を認定すると、以下のとおりである。 「100gのプルロニックP123(旭電化製)を水8700gに溶解させ、活性シリカ水溶液1200gを添加し、得られた反応液に添加後の水/エタノールが重量比で1/0.79、NaOH/SiO2が重量比で0.045/1になるようにエタノール、NaOH水溶液を添加し、この溶液から上記P123を取り除いて、pHは10.0でゼータ電位が-45mVであるSiO2濃度約7.0重量%の透明な多孔性物質のゾルを得て、 得られたゾル100gに、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.51gを加え、6規定の塩酸1.36gを加える、ゾルの製造方法。」(以下「甲1発明」という。) 2 甲2について (1)記載事項について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲2には、以下の事項が記載されている。 (甲2ア)「【0001】 本発明は、シラン変性金属酸化物および、それを含む化学機械研磨(CMP)組成物を含めた組成物に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 このような取り組みが、有用な研磨組成物を生み出す一方で、当工業界には、幅広いpH範囲にわたってコロイド安定性である金属酸化物研磨材を含んだ化学機械研磨組成物への要求が残っている。」 (甲2イ)「【0017】 これらの結合生成品は、シラン化合物と、表面金属水酸化物を有する金属酸化物とを会合させるための、いずれかの既知の方法によって調製することができる。例えば、シラン化合物は、溶媒、例えば水または水/アルコール混合物中に溶解して、そして金属酸化物の表面上に噴霧することができ、それをその後に乾燥してシラン変性金属酸化物を生成することができる。あるいは、シラン変性金属酸化物は、表面金属水酸化物を有する金属酸化物を、溶媒、例えば水また水/アルコール混合物(例えば、水とメタノールとの混合物)と混合し、そしてこの金属酸化物を溶媒中に機械的に分散させることによって調製することができる。一旦分散すると、シラン化合物は、単体で、または溶液としてのいずれでも、この分散液へ加えて、シラン変性金属酸化物を分散液として生成することができ、これを処理溶液から分離して、そして乾燥させるか、あるいは化学機械研磨スラリーの製造に直接に用いるかのいずれかとすることができる。更に、前駆体シラン化合物が、これらの例示した方法のいずれにおいても、シラン化合物の代わりに用いることができ、そしてシラン変性金属酸化物を形成する反応は、これらの成分が混合された後のいずれの段階でも起こる可能性があり、それによってシラン変性金属酸化物を形成し、それは化学機械研磨組成物を調製するために用いることができる。」 「【0019】 シラン変性金属酸化物は、研磨材粒子の形態に応じて、当技術分野で知られているいずれかの方法を用いて、化学機械研磨組成物中に組み込むことができる。例えば、シラン変性金属酸化物は、固体の形態、例えば粉末もしくはペースト、であることができ、そして種々の既知の分散技術を用いて、例えば、シラン変性金属酸化物を適当な媒体、例えば脱イオン水、へ徐々に加えて、コロイド状分散液を形成させ、そしてこの分散液を、当業者に知られている高せん断混合条件に掛けることによって、化学機械研磨組成物中に混合することができる。あるいは、シラン変性金属酸化物は、液体媒体中の分散液またはスラリーの形態であることができ、そして希釈され、濃縮され、または更に化学機械研磨組成物中に配合することができる。分散液の形態では、液体媒体は、好ましくは水性媒体であり、これは50質量%超の水を含んでおり、そして、例えば水、もしくは水と水に混和性の溶媒、例えばアルコールとの混合物であることができる。好ましくは、シラン変性酸化物は、約3質量%~約45質量%の固形分の範囲、そして好ましくは10質量%~20質量%の固形分の範囲の濃縮された水性分散液として、化学機械研磨組成物中に混合される。」 「【0021】 本発明の化学機械研磨組成物は、更に1種もしくは2種以上の所望による化学機械研磨スラリー添加剤、例えば、酸、錯化剤、酸化剤、触媒、安定剤、分散剤、界面活性剤、腐食抑制剤、緩衝剤、溶液のpHを調整するための化合物などを含むことができる。化学機械研磨スラリーおよび組成物中に有用であると当技術分野で知られているいずれかの成分を、上記のシラン変性金属酸化物と共に用いることができる。 【0022】 例えば、化学機械研磨組成物は、更に、酸、例えば無機酸(例えば、硝酸、リン酸、硫酸、それらの塩、およびそれらの組み合わせ)または有機酸(例えば、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、フタル酸、安息香酸、クエン酸、コハク酸、それらの塩、およびそれらの組み合わせ)を含むことができる。また、化学機械研磨組成物は、更に界面活性剤を含むことができる。好適な界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素化界面活性剤、およびそれらの混合物が挙げられるが、それらには限定されない。 【0023】 更に、化学機械研磨組成物は、更に酸化剤を含むことができる。好適な酸化剤としては、無機および有機過-化合物、臭素酸塩、硝酸塩、塩素酸塩、クロム酸塩、ヨウ素酸塩、鉄および銅塩(例えば、硝酸塩、硫酸塩、EDTAおよびクエン酸塩)、希土類および遷移金属酸化物(例えば、四酸化オスミウム)、フェリシアン化カリウム、重クロム酸カリウム、ヨウ素酸など、が挙げられる。過-化合物は(Hawleyによる、Condensed Chemical Dictionaryで規定されているように)、少なくとも1つのペルオキシ基(-O-O-)を含む化合物または、元素をその最高の酸化状態で含んでいる化合物である。少なくとも1つのペルオキシ基を含む化合物の例としては、過酸化水素およびその付加物、例えば過酸化尿素、および過炭酸塩、有機過酸化物、例えば過酸化ベンゾイル、過酢酸、およびジターシャリブチルペルオキシド、単過硫酸塩(SO5-2)、二過硫酸塩(S2O8-2)、および過酸化ナトリウムが挙げられるが、それらには限定されない。元素をその最高の酸化状態で含む化合物の例としては、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸塩、過臭素酸、過臭素酸塩、過塩素酸、過塩素酸塩、過ホウ素酸、過ホウ素酸塩、および過マンガン酸塩が挙げられるが、それらには限定されない。 【0024】 更に、化学機械研磨組成物は、更にキレート化剤もしくは錯化剤を含むことができ、これは、除去される基材層の除去速度を向上させる添加剤である。好適なキレート化剤もしくは錯化剤としては、例えば、カルボニル化合物(例えば、アセチルアセトネートなど)、単純なカルボキシレート(例えば、アセテート、アリールカルボキシレートなど)、1つもしくは2つ以上のヒドロキシル基を含むカルボキシレート(例えば、グリコラート、ラクテート、グリコナート、没食子酸およびその塩、など)、ジ-、トリ-、およびポリ-カルボキシレート(例えば、オキサレート、フタレート、シトレート、サクシネート、タルトレート、マレート、エデテート(例えば、EDTA二カリウム)、ポリアクリレート、それらの混合物など)、1つもしくは2つ以上のスルホン基および/またはホスホン基を含むカルボキシレートなど、を挙げることができる。また、好適なキレート化剤または錯化剤としては、例えば、ジ-、トリ-、もしくはポリアルコール(例えば、エチレングリコール、ピロカテコール、ピロガロール、タンニン酸など)およびアミン含有化合物(例えば、アンモニア、アミノ酸、アミノアルコール、ジ-、トリ-およびポリアミンなど)を挙げることができる。」 (甲2ウ)「【0075】 例7 N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドのメタノール中の50%溶液(12.4g)を、89g(45%固形分)のLudox CL-Xコロイド状シリカ分散液(Sigma-Aldrichから入手可能)、28.4gの水、および71gのメタノールの攪拌されている混合物に加えた。この混合物を、68℃で、24時間に亘って加熱した。結果として得た、第四級アンモニウムクロリド基が結合されているシラン変性金属酸化物の水性分散液は、8.4のpHを有していた。 【0076】 この水性のシラン変性金属酸化物分散液の試料を、必要に応じて水酸化アンモニウムと硝酸で、3、6および10のpH値に調整した。また、対イオンは、例えばこの試料を適当なイオン交換カラムに通すこと、または他の既知の方法を用いることによって、アセテートへと変更することができた。pHを調整されたそれぞれの試料のゼータ電位および平均体積粒径(mv)を測定して、そしてそれらの結果を下記の表12中に示した。 【0077】 【表12】 [図:0001407786000003.jpg] 【0078】 これらの結果が示すように、第四級アンモニウム基が結合されているシラン変性金属酸化物は、3~10のpHで、良好な水性分散液を形成した。従って、このシラン変性金属酸化物は、化学機械研磨組成物中の研磨材として用いることができることが予期される。大きな正のゼータ電位は、結合された第四級アンモニウム基が、これらのpH値では、正に荷電していることを表している。」 (2)甲2発明について 上記(1)で摘記した記載事項において、(甲2ウ)で記載さている例7に基づいて、甲2に記載されている発明(特に下線部参照)を認定すると、以下のとおりである。 「N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドのメタノール中の50%溶液(12.4g)を、89g(45%固形分)のコロイド状シリカ分散液、28.4gの水、および71gのメタノールの攪拌されている混合物に加える、第四級アンモニウムクロリド基が結合されているシラン変性金属酸化物の水性分散液の製造方法。」(以下「甲2発明a」という。) また、上記表12には、pH10でゼータ電位が17mVであることが記載されている。そうすると、以下の発明も記載されている。 「N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドのメタノール中の50%溶液(12.4g)を、89g(45%固形分)のコロイド状シリカ分散液、28.4gの水、および71gのメタノールの攪拌されている混合物に加える、第四級アンモニウムクロリド基が結合されているシラン変性金属酸化物の水性分散液であって、 必要に応じて水酸化アンモニウムと硝酸でpH10に調整し、pH10でのゼータ電位が17mVであり、化学機械研磨組成物中の研磨材として用いることができる、シラン変性金属酸化物の水性分散液。」(以下「甲2発明b」という。) 3 甲3について (1)記載事項について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲3には、以下の事項が記載されている。 (甲3ア)「【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】絶え間ない高度情報化社会の発展に伴い、シリコンを基板とした半導体の用途が一層広まっている。半導体の主要な基板材料であるシリコンは、資源が豊富で、高純度な単結晶化が容易であり、また、不純物添加量を調整して抵抗率制御が可能であることや、安定した酸化膜が得られるため集積化などの加工がしやすいといった特性を備えており、半導体のベースとしては必要不可欠である。こうしたシリコンウェーハを基板として高機能化、高集積化された半導体をより安価に大量生産する必要が望まれている。 【0003】そのような中、ウェーハ加工においても、より効率的な研磨方法の開発が強く求められている。一般的に、シリコンウェーハ研磨工程には、微細なSiO2砥粒をpH=9~12程度のアルカリ水溶液中にコロイド状に分散させたシリカ含有研磨剤が用いられ、SiO2による機械的作用と、アルカリ溶液によりシリコンをエッチングする化学的作用の複合作用により研磨される。」 「【0005】本発明は、上記要望に応えるためになされたもので、研磨能率の向上を可能としたシリコンウェーハ研磨用研磨剤及びこれを用いたシリコンウェーハの研磨方法を提供することを目的とする。」 (甲3イ)「【0015】上記アミノ基含有オルガノシラン又はその部分加水分解縮合物の使用量は、シリカ100重量部に対し1~15重量部、特に2~10重量部とすることが好ましい。使用量が少なすぎると、研磨速度の向上効果が十分でなく、多すぎても、研磨速度の向上にはかえって逆効果になり、研磨速度が低下する場合がある。 【0016】上記研磨剤を使用して、シリコンウェーハを研磨する方法としては常法が採用し得る。この場合、研磨剤は、上記シリカ研磨砥粒を水、メタノール等のアルコールなどやこれらの混合溶媒中に0.1~20重量%、特に0.5~5重量%濃度に分散、希釈し、かつpH8~12.5、特にpH10~12に調整した状態で使用することが好ましい。」 (甲3ウ)「【0019】[実施例1]試料ウェーハ:チョクラルスキー(CZ)法により作製、p型、結晶方位<100>、150mmφ、シリコンウェーハ研磨パッド:不織布(ベアロタイプ)、硬度70(アスカーC硬度) 研磨剤:AJ-1325[20重量%のSiO2を含むコロイダルシリカ研磨剤原液の商品名、日産化学工業(株)製]95部及びKBM-603[N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノ基含有オルガノシランの商品名、信越化学工業(株)製]5部 研磨荷重:400g/cm2 研磨時間:10分 回転定盤(研磨パッド)回転数:160rpm ウェーハホルダー回転数:160rpm 【0020】上記条件にて、前記のコロイダルシリカ原液をアルカリ水溶液中に分散させ(研磨剤の総量に対して上記コロイダルシリカ原液が12.5重量%(SiO2が2.5重量%)になるように調整)、これに前記のアミノ基含有オルガノシランを該コロイダルシリカ原液95部に対して5部添加して調製した希釈研磨剤を使用して、試料ウェーハ10枚を研磨加工した。研磨中の研磨速度を測定して表1に示した。」 (2)甲3発明について 上記(1)で摘記した記載事項において、(甲3ウ)で記載さている実施例1に基づいて、甲3に記載されている発明(特に下線部参照)を認定すると、以下のとおりである。 「20重量%のSiO2を含むコロイダルシリカ研磨剤原液をアルカリ水溶液中に分散させ(研磨剤の総量に対して上記コロイダルシリカ原液が12.5重量%(SiO2が2.5重量%)になるように調整)、これにN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシランを該コロイダルシリカ原液95部に対して5部添加して調製する、希釈研磨剤の製造方法。」(以下「甲3発明」という。) 4 甲4について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲4には、以下の事項が記載されている。 (甲4ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、上記の問題点に鑑みて、シリカ粒子へ生体分子等を結合させるために有用なアミノ基を粒子表面に有し、かつ前記アミノ基がシリカ粒子表面に吸着することにより前記生体分子等との反応性が低下することを防止したシリカ粒子の製造方法、前記シリカ粒子、及びそれを用いた複合粒子を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 上記課題は下記の手段により達成された。すなわち、本発明は、 (1) 酸を含有させた水/アルコール混合溶媒に分散させたシリカ粒子の分散液に、下記一般式1で表されるシランカップリング剤を含有させ、前記シリカ粒子の表面にアミノ基を少なくとも1つ有するアルキル基R1を共有結合させる工程を含んでなることを特徴とする粒子表面にアミノ基を有するシリカ粒子の製造方法、 一般式1 R1-Si(OR2)3(式中、R1はアミノ基を少なくとも1つ有するアルキル基を表し、R2はアルキル基を表す。) (2) 前記酸が鉱酸である(1)に記載の製造方法、 (3) シリカ粒子表面の正の表面電位を維持したまま、前記シリカ粒子の表面にアミノ基を少なくとも1つ有するアルキル基を共有結合させ表面修飾させる工程を含んでなることを特徴とする粒子表面にアミノ基を有するシリカ粒子の製造方法、 (4) シリカ粒子の表面に、アミノ基を少なくとも1つ有するアルキル基が共有結合によって表面修飾してなる平均粒径1nm~1μmの粒子表面にアミノ基を有するシリカ粒子、 【0009】 (5) pH7の純水中におけるζ電位が1~70mVである(4)に記載の粒子、 (6) 前記(4)又は(5)に記載のシリカ粒子に、ポリエチレングリコールが共有結合してなるシリカ粒子/ポリエチレングリコールの複合粒子、 (7) 前記(4)又は(5)に記載のシリカ粒子に、ポリアクリル酸またはアルギン酸が共有結合または吸着してなるシリカ粒子/ポリアクリル酸の複合粒子、またはシリカ粒子/アルギン酸の複合粒子、 (8) 前記(4)又は(5)に記載のシリカ粒子に、生体分子が共有結合または吸着してなるシリカ粒子/生体分子の複合粒子、 (9) 前記(6)に記載の粒子に、生体分子が共有結合または吸着してなるシリカ粒子/ポリエチレングリコール/生体分子の複合粒子、 (10) 前記(7)に記載の粒子に、生体分子が共有結合または吸着してなるシリカ粒子/ポリアクリル酸/生体分子の複合粒子、またはシリカ粒子/アルギン酸/生体分子の複合粒子、 (11) 前記生体分子が、抗原、抗体、DNA、RNA、糖、糖鎖、リガンド、受容体、ペプチド及び化学物質からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする(7)~(10)のいずれか1項に記載の複合粒子、 (12) 分散媒中に分散してなる複合粒子コロイドに用いる前記(11)に記載の複合粒子、及び (13) 分析試薬に用いる前記(11)に記載の複合粒子を提供するものである。 【発明の効果】 【0010】 本発明の粒子表面にアミノ基を有するシリカ粒子の製造方法は、生体分子等を結合させるために有用なアミノ基を粒子表面に有するシリカ粒子を製造することができる。」 (甲4イ)「【0039】 実施例1 (ローダミン含有シリカ粒子の表面へのアミノ基の導入) 参考例と同様な方法により得られた、濃度30.2mg/mLのローダミン含有シリカ粒子(平均粒径185nm)の分散液66μl(分散媒蒸留水)に、エタノール800μL、2M塩酸(HCl)100μL、蒸留水34μlを加え、良く混合した。pH0.96であり、シリカ粒子表面の電位が正であることが分かる。 ここに3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)を15μL加え、室温で12時間振とう処理をした。 反応液を15500xgの重力加速度で30分間遠心分離を行い、上清を除去した。 沈殿したシリカ粒子に蒸留水を1ml加え、粒子を分散させ、再度15500xgの重力加速度で30分間遠心分離を行った。本洗浄操作をさらに2回繰り返し、得られたシリカ粒子の分散液に含まれる未反応のAPSや塩酸、エタノール等を除去し、粒子2.0mgを得た。平均粒径は188nmであった。」 5 甲5について (1)記載事項について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲5には、以下の事項が記載されている。 (甲5ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 集積回路機器の技術が進歩するにつれて、進歩した集積回路に必要なレベルの性能を達成するために、従来の材料は新しくかつ異なる方法において使用される。特に、窒化ケイ素および酸化ケイ素は、新しくかつさらに複雑な機器設定を達成するために種々の組み合わせにおいて使用される。一般的に、構造的な複雑さおよび性能特性は、異なる用途によって変わる。特別な機器のための研磨ニーズに合うようにCMPの間に、種々の層(例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素)の除去速度を調整でき、または除去速度を合せることができる方法および組成物への継続した要求がある。本発明は、そうした改善された研磨方法および組成物を提供する。本発明のこれらのおよび他の利点、ならびにさらなる発明の特徴は、本明細書中に提供された本発明の記載から明らかになるであろう。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明は、基材を化学的機械的に研磨する方法を提供し、この方法は、(i)(a)液体キャリアー、(b)液体キャリアー中に懸濁された研削剤(ここで、研削剤は、アミノシラン化合物、ホスホニウムシラン化合物、およびスルホニウムシラン化合物から成る群から選択された化合物を用いて処理された表面を有する金属酸化物を含む。)、および(c)ホスホン酸およびホウ素を含む酸からなる群から選択された酸を含む、化学的機械的研磨組成物と、基材とを接触させる工程、(ii)基材に対して研磨組成物を動かす工程、ならびに(iii)基材を磨くために、基材の少なくとも一部分を摩耗させる工程、を含む。」 (甲5イ)「【0023】 粒子のゼータ電位は、粒子の周りのイオンの電荷と、バルク溶液(例えば、液体キャリアーおよびそこに溶解された任意の他の成分)の電荷との違いをいう。研削剤がシリカである場合、研削剤がアミノシラン化合物を用いて処理される前 に、研削剤は、2~3のpHにおいて0のゼータ電位を有する。アミノシラン化合物を用いて処理した後で、処理された研削剤粒子は、正の電荷、従って正のゼータ電位を有する。典型的には、処理された研削剤粒子は、5mV以上(例えば、10mV以上、15mV以上、20mV以上、25mV以上、または30mV以上)のゼータ電位を有する。処理された研削剤粒子は、好ましくは、50mV以下(例えば、45mV以下、40mV以下、または35mV以下)のゼータ電位を有する。好ましくは、処理されたコロイドシリカ粒子は、5mV~50mV(例えば、10mV~45mV、15mV~40mV、または20mV~40mV)のゼータ電位を有する。 【0024】 液体キャリアーは、研磨される(例えば、平坦化される)好適な基材の表面への研削剤および任意選択的な任意の添加物の適用を促進するために使用される。液体キャリアーは、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール等)、エーテル(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、水、およびそれらの混合物を含む任意の好適なキャリアー(例えば、溶媒)であることができる。好ましくは、液体キャリアーは水、さらに好ましくは脱イオン水を含み、水、さらに好ましくは脱イオン水から本質的に成り、または水、さらに好ましくは脱イオン水から成る。」 (甲5ウ)「【0058】 例3 この例は、アミノシラン化合物を用いて処理されたコロイドシリカ粒子を含む研磨組成物のpHおよび酸濃度による、酸化ケイ素および窒化ケイ素の除去速度への効果を示す。 【0059】 TEOSウェハーおよび窒化ケイ素ウェハーを、15種の異なる研磨組成物を用いて研磨した。研磨組成物のそれぞれは、300ppmのアミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した1wt%のコロイドシリカを含んだ。研磨組成物3A~3DのpHを、シランの添加の前に9に調整し、そして研磨組成物3E~3OのpHを、シランの添加の前に、7.5に調整した。それぞれの研磨組成物の最終のpHおよびそれぞれの組成物に加えられた1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(DEQUEST2010)の量を表3に示す。 【0060】 酸化ケイ素の除去速度(Å/分)および窒化ケイ素の除去速度(Å/分)を、それぞれの研磨組成物で決定し、そして結果を表3に示す。 表3 【表3】 [図:0001407786000004.jpg] 」 (甲5エ)「【0067】 TEOSウェハーおよび窒化ケイ素ウェハーを、12種の異なる研磨組成物を用いて研磨した。研磨組成物のそれぞれは、アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理したコロイドシリカおよび1000ppmの1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(DEQUEST2010)を含んだ。それぞれの組成物に加えられたアミノプロピルトリエトキシシランおよびコロイドシリカの量およびそれぞれの組成物のpHを表5に示す。 【0068】 酸化ケイ素の除去速度(Å/分)および窒化ケイ素の除去速度(Å/分)を、それぞれの研磨組成物で決定し、そして結果を表5に示す。 表5 【表5】 [図:0001407786000005.jpg] 」 「【0076】 酸化ケイ素の除去速度(Å/分)を、それぞれの研磨組成物について決定し、そして結果を表7に示す。 表7 【表7】 [図:0001407786000006.jpg] 」 (2)甲5発明について 上記(甲5ウ)に記載されている表3には、pH7.21、pH7.43、pH8.06、pH8.15のpHにおいて、ゼータ電位が正の値であることが記載されている。 そうすると、上記(1)で摘記した記載事項において、(甲5ア)の【0005】に記載されている「化学的機械的研磨組成物」について、(甲5ウ)で記載さている例3に基づいて、甲5に記載されている発明(特に下線部参照)を認定すると、以下のとおりである。 「液体キャリアー、(b)液体キャリアー中に懸濁された研削剤(ここで、研削剤は、アミノシラン化合物、ホスホニウムシラン化合物、およびスルホニウムシラン化合物から成る群から選択された化合物を用いて処理された表面を有する金属酸化物を含む。)、および(c)ホスホン酸およびホウ素を含む酸からなる群から選択された酸(1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(DEQUEST2010))を含む、化学的機械的研磨組成物であって、 研削剤が、アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した1wt%のコロイドシリカ粒子であり、 pH7.21、pH7.43、pH8.06、pH8.15のpHにおいて、ゼータ電位が正の値である、研磨組成物。」 6 甲6~17について 甲6~17は、主たる証拠ではないことから、以下簡単に記載することとする。 (1)甲6について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲6のFig.5には、シリカ砥粒、セリア砥粒、窒化ケイ素基板のゼータ電位のpH依存性を示すグラフが記載されている。 (2)甲7について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲7の図5には、サファイア基板とシリカ砥粒のゼータ電位のpH依存性のグラフが記載されていが記載されている。 (3)甲8について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲8のFig.5には、窒化ケイ素基板とシリカ砥粒のゼータ電位のpH依存性のグラフが記載されている。 (4)甲9について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲9の図2には、石英(SiO2)のゼータ電位のpH依存性のグラフが記載されている。 (5)甲10について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲10のFig.7には、TEOS由来シリカ粒子(T-Silica)、3-アミノ(プロピル)トリメトキシシラン(APTMS)で表面修飾したシリカ粒子(A-Silica)、及び3-メルカプト(プロピル)トリメトキシシラン(MPTMS)で表面修飾したシリカ粒子(S-Silica)のゼータ電位のpH依存性に関するグラフが記載されている。 (6)甲11について 本件特許出願の優先日前に頒布された甲11のFig.3には、未変性シリカ、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)変性シリカ、及び3-アミノプロピルジメトキシシラン(APMS)変性シリカのpH依存性に関するグラフが記載されている。 (7)甲12について 甲12は、本件特許出願の出願後に頒布されたものであり、参考程度のものであるが、一応、Fig.6には、ナノシリ力(NS)ゾルのゼータ電位のpH依存性に関するグラフが記載されている。 (8)甲13について 甲13は、本件特許出願の出願後に頒布されたものであり、参考程度のものであるが、一応、以下の事項が記載されている。 「Commercially available silica sols are usually stabilized by sodium ions (Na+) at a pH around 10.」(2頁左列18~19行) (訳;:商業的に入手可能なシリカゾルは、ナトリウムイオン(Na十)によってpH10付近で安定化されている。) (9)甲14について 甲14は、公開日が不明であることから、参考程度のものであるが、一応、以下の事項が記載されている。 GRACE社製のシリカゾルLudoxR CL-Xについての情報が記載されており、"Product Specifications"(製品詳細)の欄において、"Stabilizing Counter Ion: Sodium"(安定化対イオン:ナトリウム)、"Particle Charge:Negative"(粒子電荷:負)と記載されている。また、"feature & Benefits"(特徴及び利点)の欄において、"Anionic Particles"(アニオン粒子)、"Alkaline pH stability"(アルカリpHで安定)と記載されている。 (10)甲15について 甲15は、甲14のURLから入手可能なもので公開日が不明であることから、参考程度のものであるが、一応、以下の事項が記載されている。 LudoxR CL-XのpHは9である(表1)。 (11)甲16について 甲16は、上記甲2(特表2012-515806号公報)の原出願の国際公開第2010/085324号であり、上記(甲2イ)に記載の「単体で」が、原出願では「neat」と記載されている。 (12)甲17について 甲17(小学館ランダムハウス英和大辞典、2002年1月10日発行)には、「neat」は「ストレート」の意味であると記載されている。 第7 新規性・進歩性に対する当審の判断 1 申立理由1について (1)本件発明1について ア 対比 (ア)本件発明1で、「シリカ原料」とは、本件明細書の【0017】に「シリカ原料は、後述する所定のシランカップリング剤を用いてカチオン変性(改質)される前の原料であり、シリカを含む。シリカ原料は、好ましくはコロイダルシリカである(以下、シリカ原料としてのコロイダルシリカを「原料コロイダルシリカ」とも称し、シリカ原料が原料コロイダルシリカである場合を例に挙げて詳細に説明する)。」記載されているとおり「コロイダルシリカ」である。 一方、甲1発明の「100gのプルロニックP123(旭電化製)を水8700gに溶解させ、活性シリカ水溶液1200gを添加し、得られた反応液に添加後の水/エタノールが重量比で1/0.79、NaOH/SiO2が重量比で0.045/1になるようにエタノール、NaOH水溶液を添加し、この溶液から上記P123を取り除いて」「得た」「SiO2濃度約7.0重量%の透明な多孔性物質のゾル」が、「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン」で改質する前のシリカ原料であり、分散媒として水以外に、少なくともエタノール、NaOHを含むものである(なお、分散媒とは、一般に「溶媒」とは違い、溶質も含む液体部分のことをいう。)。 そうすると、甲1発明の「100gのプルロニックP123(旭電化製)を水8700gに溶解させ、活性シリカ水溶液1200gを添加し、得られた反応液に添加後の水/エタノールが重量比で1/0.79、NaOH/SiO2が重量比で0.045/1になるようにエタノール、NaOH水溶液を添加し、この溶液から上記P123を取り除いて」「得た」「SiO2濃度約7.0重量%の透明な多孔性物質のゾル」と、本件発明1との「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」とは、「分散媒中にシリカが分散しているシリカ原料」の点で共通する。 さらに、摘記(甲1オ)に「実施例1で得られたゾル(A)100gに3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.51gを加えた」と記載されているように、「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.51gを加え」る前に実施例1で得られたゾル(A)に何ら処理を施していないことから、「ゼータ電位が-45mVである」ことは、「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.51gを加え」る直前に測定されたものといえる。 そうすると、甲1発明の「pHは10.0でゼータ電位が-45mVであるSiO2濃度約7.0重量%の透明な多孔性物質のゾル」と、本件発明1の「シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示し、水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」とは、「シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示し、分散媒中にシリカが分散しているシリカ原料」の点で共通する。 (イ)甲1発明の「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン」は、「カチオン性基を有するシランカップリング剤」に相当し、それは摘記(甲1カ)の実施例8のように、溶液状態(希釈状態)で加えるとは記載されていないことから「希釈することなく添加する」ことであるといえる。 そうすると、甲1発明の「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.51gを加える」ことは、本件発明1の「カチオン性基を有するシランカップリング剤を」「希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加」することに相当する。 (ウ)本件発明1において「カチオン変性シリカ」とは、本件明細書の【0041】で「ここで、「カチオン変性シリカ」との表現は、シリカ粒子の表面に変性基としてのカチオン性基(例えば、アミノ基、アミノ基の酸中和塩、または第4級アンモニウム基など)が導入された状態を意味するものである。」と記載されるものであり、甲1発明でも、「SiO2」「のゾルに、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.51gを加え」たことにより、「SiO2」と「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン」が反応して、「SiO2」の表面に「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン」の「カチオン性基」が導入されているといえる。 そうすると、甲1発明の「SiO2」「のゾルに、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.51gを加え」ることは、本件発明1の「前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ること」に相当するといえる。 (エ)上記(ア)~(ウ)によれば、甲1発明の「ゾルの製造方法」は、本件発明1の「カチオン変性シリカの製造方法」に相当する。 (オ)一致点・相違点について 上記(ア)~(エ)を踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「カチオン性基を有するシランカップリング剤を、前記シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示し、分散媒中にシリカが分散しているシリカ原料に対して、希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを含む、カチオン変性シリカの製造方法。」 (相違点1) 分散媒が、本件発明1では「水のみからなる」のに対し、甲1発明では、少なくともエタノール、NaOHを含むものである点。 (相違点2) シリカが分散している濃度が、本件発明1では「10質量%以上」であるのに対し、甲1発明では「約7.0重量%」である点。 イ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点1について検討する。 (ア)相違点1について 甲1発明は、上記(甲1ア)に記載されているとおり、「インクジェット方式の印刷、記録に使用されるインクジェット記録用の紙、シート、フィルム、布等のインクジェット記録媒体、その製造に使用されるインクジェット記録媒体塗工液」として用いるものであり、(甲1ウ)に「塗膜の乾燥速度を速める場合は、アルコール類やケトン類などの水よりも蒸発潜熱の低いものが好ましい。ここでいう蒸発潜熱とは、気化するときに溶媒が吸収するエネルギー量をいい、蒸発潜熱が低いとは、溶媒が気化しやすいことを言う。」と記載されているとおり、分散媒として、塗膜の乾燥速度を速めるため、水よりも蒸発潜熱の低いアルコール類やケトン類が好ましいものである。 そうすると、甲1発明において、少なくともエタノール、NaOHを含む分散媒を「水のみからなる」分散媒とすることはない。 (イ)さらに、本件発明1は、本件明細書に、 「【0009】 ・・・すなわち、これらの技術を用いて高いシリ力濃度を有するシリカ原料からカチオン変性シリカ分散体を製造しようとすると、シランカップリング剤の添加時や添加後において、ゲル化が生じる場合があることが判明した。また、高いシリカ濃度を有するシリカ原料にこれらの技術を用いた場合、シランカップリング剤の添加時や添加直後にはゲル化が発生しない場合でも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合があることも判明した。 【0010】 そこで本発明は、シランカップリング剤を用いて高いシリカ濃度を有する原料シリカを変性させることを含むカチオン変性シリカ分散体の製造において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制しうる手段を提供することを目的とする。」 と記載されているとおり、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することを課題とするものである。 一方、甲1発明は、(甲1ア)に記載されているとおり「本発明は、微粒、無機質で、非晶質の多孔性物質とゾル、その合成法、用途および、それを用いたインクジェット方式の印刷、記録に使用されるインクジェット記録用の紙、シート、フィルム、布等のインクジェット記録媒体、その製造に使用されるインクジェット記録媒体塗工液に関する。」ものであり、塗膜の乾燥速度を速める場合には、アルコール類やケトン類などの水よりも蒸発潜熱の低いものを用いる発明であるから、少なくとも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合があるという課題を把握できるものではない。 この点、甲1以外の甲号証においても、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制するための技術を開示したものはない。 (ウ)よって、本件発明1は、少なくとも相違点1の点で、当業者が容易なし得たものでなく、仮に、相違点1及び2について当業者が容易なし得たものとしても、以下のウで述べるように、本件発明1は当業者が予期し得ない格別顕著な効果を有するものであるから、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 効果について (ア)本件発明1の効果として、本件明細書には、 「【0045】 本発明に係るカチオン変性シリカ分散体は、研磨用組成物に含まれる研磨剤(砥粒)、紙のコーティング剤などの様々な用途に使用することができ、ゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することが可能であるという優れた効果を奏するものである。」と記載され、そして、本件発明1の効果を裏付ける実施例の記載として、以下のとおり記載されている。 「【0050】 <ゲル化の有無の確認> 得られたカチオン変性シリカ分散体について、各実施例・比較例に記載の方法でシリカ原料とカップリング剤とを混合してカチオン変性シリカ分散体を得る途中または得た直後におけるゲル化の有無を目視により確認した。また、得られたカチオン変性シリカ分散体を70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験も行い、同様にゲル化の有無を目視により確認した。 【0051】 [実施例1] まず、シリカ原料である高純度コロイダルシリカ(シリカ濃度:10質量%、平均二次粒子径:57nm、会合度:1.6、等電点のpH:約4、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-50.2mVであった。 【0052】 次いで、上記で準備したコロイダルシリカに対して、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、カチオン性基として第1級アミノ基を有するγ-アミノプロピルトリエトキシシラン(以下、「APS」とも称する)を希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APSの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して0.25質量%となるように調節した。 【0053】 その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH7.7)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH4)を測定したところ、+51.4mVであった。また、ゲル化は確認されなかった。 【0054】 [実施例2] まず、シリカ原料である高純度コロイダルシリカ(シリカ濃度:20質量%、平均二次粒子径:57nm、会合度:1.6、等電点のpH:約4、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-45.6mVであった。 【0055】 次いで、上記で準備したコロイダルシリカに対して、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APSを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APSの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して0.13質量%となるように調節した。 【0056】 その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH7.6)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH4)を測定したところ、+39.3mVであった。また、ゲル化は確認されなかった。」 「【0059】 [実施例3] まず、シリカ原料である通常純度のコロイダルシリカ(シリカ濃度:40質量%、平均二次粒子径:97nm、会合度:1.2、等電点のpH:約3、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-57.8mVであった。 【0060】 次いで、上記で準備したコロイダルシリカに対して、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APSを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APSの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して0.06質量%となるように調節した。 【0061】 その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.0)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH3)を測定したところ、+25.3mVであった。また、ゲル化は確認されなかった。 【0062】 [実施例4] まず、シリカ原料である通常純度のコロイダルシリカ(シリカ濃度:48質量%、平均二次粒子径:33nm、会合度:1.3、等電点のpH:約3、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-55.4mVであった。 【0063】 次いで、上記で準備したコロイダルシリカに対して、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APSを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APSの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して0.52質量%となるように調節した。 【0064】 その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH9.3)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH3)を測定したところ、+24.7mVであった。また、ゲル化は確認されなかった。 【0065】 [実施例5] まず、シリカ原料である通常純度のコロイダルシリカ(シリカ濃度:10質量%、平均二次粒子径:33nm、会合度:1.3、等電点のpH:約3、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-53.4mVであった。 【0066】 次いで、上記で準備したコロイダルシリカに対して、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APSを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APSの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して2.50質量%となるように調節した。 【0067】 その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.3)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH3)を測定したところ、+49.8mVであり、中性域におけるゼータ電位(@pH7)を測定したところ、+4.8mVであった。また、ゲル化は確認されなかった。 【0068】 [実施例6] APSの添加量を、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して0.17質量%となるように調節したこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、カチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH9.8)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH3)を測定したところ、+5.2mVであった。なお、ゲル化は確認されなかった。 【0069】 [実施例7] APSの添加量を、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して5.00質量%となるように調節したこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.7)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH3)を測定したところ、+55.3mVであり、中性域におけるゼータ電位(@pH7)を測定したところ、+36.1mVであった。なお、ゲル化は確認されなかった。 【0070】 [実施例8] APSの添加量を、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して0.50質量%となるように調節したこと以外は、上述した実施例2と同様の手法により、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH7.7)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH4)を測定したところ、+55.4mVであった。なお、ゲル化は確認されなかった。」 「【0073】 [実施例9] 実施例2において準備した高純度コロイダルシリカについて、29質量%アンモニア水を用いて分散液のpHを10に調整した。その結果、当該コロイダルシリカのゼータ電位は-53.3mVとなった。 【0074】 次いで、上記で準備したコロイダルシリカに対して、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APSを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APSの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して1.00質量%となるように調節した。 【0075】 その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH9.9)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH4)を測定したところ、+56.0mVであった。また、ゲル化は確認されなかった。 【0076】 【表1】 [図:0001407786000007.jpg] 」 (イ)上記(ア)で摘記した表1を参照すると、実施例1~9において「反応中及び反応後」及び「高温加速試験後」において、ゲル化されないという効果を得ており、特に、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験」においてもゲル化されないという効果については、甲1及びその他の甲号証のいずれにも記載されていない。 そうすると、本件発明1によって奏される「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験」においてもゲル化されない効果は、当業者において予期し得ない格別顕著なものである。 エ 申立人の主張について 申立人は、令和5年4月3日に提出の意見書(以下「申立人意見書1」という。)で、「甲1発明においても、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)は希釈することなく添加されている。そのため、甲1発明も、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有していると考えられる。」と主張しているが、甲1発明は、「水/エタノールが重量比で1/0.79」ものエタノールを含むものであり、エタノールの沸点(78℃)は水の沸点よりかなり低いことを考慮すると、ゲル化の発生に影響を与えるといえる分散媒が本件発明1と異なり、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有しているとまではいえない。 オ 小括 よって、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて、さらにはその他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~7について 上記第3で記載されているように、本件発明2~7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて、さらにはその他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)小括 以上のことから、本件発明1~5及び7は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明1~7は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由1によって取り消すことはできない。 2 申立理由2について (1)本件発明1について ア 対比 (ア)上記1(1)ア(ア)で述べたように、本件発明1で「シリカ原料」とは、「コロイダルシリカ」のことであるから、甲2発明の「コロイド状シリカ」は、本件発明1の「シリカ原料」に相当する。 また、甲2発明aの「28.4gの水、および71gのメタノールの」「分散液」と本件発明1の「水のみからなる分散媒」とは、「分散媒」で共通している。 なお、「28.4gの水、および71gのメタノールの」「分散液」と「水のみからなる分散媒」とは、前者は3分の2以上が「メタノール」であるのに対し、後者は「水のみ」であるから、両者の液体は、化学的状態として異なるものであり、たとえ分散媒に対するシリカ濃度の「数値」という限りにおいて重複していても、その化学的状態が異なるものにおける数値であるなら、濃度として同じものとはいえない。そうすると、甲2発明aの「89g(45%固形分)のコロイド状シリカ分散液、28.4gの水、および71gのメタノールの攪拌されている混合物」におけるシリカ濃度を計算すると、89×0.45/(89+28.4+71)=0.21(21%)と計算されるものの、この濃度が本件発明1の「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度」を満たしているとはいえない。 そうすると、甲2発明の「28.4gの水、および71gのメタノール」と「攪拌されている」「89g(45%固形分)のコロイド状シリカ」と、本件発明1の「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」とは、「分散媒中にシリカが分散しているシリカ原料」の点で共通している。 (イ)甲2発明aの「N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド」は、本件発明1の「カチオン性基を有するシランカップリング剤」に相当し、甲2発明aの「N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドのメタノール中の50%溶液」の「50%溶液」は「50質量%の濃度の溶液」であるから、甲2発明aの「N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドのメタノール中の50%溶液」を「コロイド状シリカ分散液」を「加える」ことは、本件発明1の「カチオン性基を有するシランカップリング剤を」「希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加」することに相当する。 (ウ)甲2発明aの「第四級アンモニウムクロリド基が結合されているシラン変性金属酸化物」は、「コロイド状シリカ」と「N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド」が反応することで生じるものである。 (エ)甲2発明aの「シラン変性金属酸化物の」「製造方法」は、本件発明1の「カチオン変性シリカの製造方法」に相当する。 (オ)上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明1と甲2発明aとは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「カチオン性基を有するシランカップリング剤を、分散媒中にシリカが分散しているシリカ原料に対して、希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを含む、カチオン変性シリカの製造方法。」 (相違点1) シリカ原料が、本件発明1では「シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示す」ものであるのに対し、甲2発明aの「コロイド状シリカ」のゼータ電位は不明である点。 (相違点2) 分散媒中におけるシリカが、本件発明1では「水のみからなる分散媒中に」「10質量%以上の濃度で分散している」のに対し、甲2発明aでは「28.4gの水、および71gのメタノール」と「攪拌されている」「89g(45%固形分)のコロイド状シリカ」である点。 イ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 (ア)甲2発明aは、(甲2ア)に記載されているとおり、化学機械研磨組成物として使用するものであり、その課題として「幅広いpH範囲にわたってコロイド安定性」が記載されている。一般に、化学機械研磨組成物とは、砥粒としての機械的研磨の作用に加え、化学機械研磨組成物に含まれる化学成分によって研磨する表面に化学的作用を及ぼすものである。そうすると、シリカを分散する分散媒が水のみからなることとメタノールが3分の2以上であることとは、研磨する表面に及ぼす化学的作用が同じであるとはいえないことから、「28.4gの水、および71gのメタノール」と「攪拌されている混合物」における「89g(45%固形分)のコロイド状シリカ」を「「水のみからなる分散媒中に」「10質量%以上の濃度で分散している」「シリカ」にする動機があるとはいえない。 また、上記(甲2イ)の【0021】~【0024】に記載されている成分を添加するとしても、水のみからなる分散媒に添加したときのpHと、メタノールが3分の2以上である分散媒に添加したときのpHとの状況が異なることから「幅広いpH範囲にわたってコロイド安定性」との課題に鑑みても、「28.4gの水、および71gのメタノール」と「攪拌されている混合物」における「89g(45%固形分)のコロイド状シリカ」を「「水のみからなる分散媒中に」「10質量%以上の濃度で分散している」「シリカ」にする動機があるとはいえない。 (イ)さらに、本件発明1は、上記1(1)イ(イ)で述べたように、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することを課題とするものである。 一方、甲2発明aは、分散媒がメタノールを3分の2以上含むものであり、メタノールの沸点が64.7℃であることからすると、高温(70℃) での2週間の加速試験において、分散媒がほとんど蒸発してしまうことから、そもそも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合があるという課題を把握できるものではない。 (ウ)よって、本件発明1は、少なくとも相違点2の点で、当業者が容易なし得たものでなく、仮に、相違点1及び2について当業者が容易なし得たものとしても、以下のウで述べるように、本件発明1は当業者が予期し得ない格別顕著な効果を有するものであるから、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 効果について 上記1(1)ウで記載したように、本件発明1によって奏される「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験」においてもゲル化されない効果は、当業者において予期し得ない格別顕著なものである。 エ 申立人の主張について 申立人は、申立人意見書1で、「甲2発明aにおいても、N-トリメトキシシリルプロピルN,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(シランカップリング剤)は、メタノール中の50%溶液として添加されているため、甲2発明aも、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有していると考えられる。」と主張しているが、甲2発明aは、「28.4gの水、および71gのメタノール」ものメタノールを含むものであり、メタノールの沸点が64.7℃であることを考慮すると、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有しているとはいえない。 オ 小括 よって、本件発明1は、甲2発明aではなく、甲2発明aに基づいて、さらには他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~7について 上記第3で記載されているように、本件発明2~7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲2発明aではなく、甲2発明aに基づいて、さらには他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明8について ア 対比 (ア)甲2発明bの「第四級アンモニウムクロリド基が結合されているシラン変性金属酸化物」は、本件発明8の「シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカ」に相当する。 (イ)甲2発明bの「N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドのメタノール中の50%溶液(12.4g)を、89g(45%固形分)のコロイド状シリカ分散液、28.4gの水、および71gのメタノールの攪拌されている混合物に加える、第四級アンモニウムクロリド基が結合されているシラン変性金属酸化物の水性分散液であって、必要に応じて水酸化アンモニウムと硝酸でpH10に調整し、pH10でのゼータ電位が17mVであり、化学機械研磨組成物中の研磨材として用いることができる、シラン変性金属酸化物の水性分散液」において、「第四級アンモニウムクロリド基が結合されているシラン変性金属酸化物」を分散させる分散液は、「メタノール中の50%溶液(12.4g)」、「28.4gの水、および71gのメタノールの攪拌されている混合物」、及び、pH10に調整するための「必要に応じて水酸化アンモニウムと硝酸」が含まれていることから、本件発明8の「水のみからなる分散媒」とは、「分散媒」の点で共通する。 なお、「メタノール中の50%溶液(12.4g)」、「28.4gの水、および71gのメタノール」及び「必要に応じて水酸化アンモニウムと硝酸」が含まれる「分散液」と、「水のみからなる分散媒」とは、前者は3分の2以上が「メタノール」であるのに対し、後者は「水のみ」であるから、両者の液体は、化学的状態として異なるものであり、たとえ分散媒に対するシリカ濃度の「数値」という限りにおいて重複していても、その化学的状態が異なるものにおける数値であるなら、濃度として同じものとはいえない。 そうすると、甲2発明bの「メタノール中の50%溶液(12.4g)」、「28.4gの水、および71gのメタノール」及び「必要に応じて水酸化アンモニウムと硝酸」が含まれる「分散液」におけるシリカ濃度を計算すると、89×0.45/(12.4+89+28.4+71)=0.2(20%)と計算されるものの、この濃度が本件発明1の「水のみからなる分散媒」で「カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上である、カチオン変性シリカ分散体」を満たしているとはいえない。 (ウ)甲2発明bの「必要に応じて水酸化アンモニウムと硝酸でpH10に調整し、pH10でのゼータ電位が17mVである、シラン変性金属酸化物の水性分散液」は、本件発明8の「pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在する」「カチオン変性シリカ分散体」に相当する。 (エ)上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明8と甲2発明bとは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカと、前記カチオン変性シリカを分散させるための分散媒と、を含み、 pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在する、カチオン変性シリカ分散体。」 (相違点1) カチオン変性シリカが、本件発明8では「水のみからなる分散媒」に「濃度が10質量%以上」分散しているのに対し、甲2発明bでは、「メタノール中の50%溶液(12.4g)」、「28.4gの水、および71gのメタノール」及び「必要に応じて水酸化アンモニウムと硝酸」が含まれる「分散液」に分散している点。 (相違点2) カチオン変性シリカ分散体が、本件発明8では、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」ものであるのに対し、甲2発明bでは、前記高温加速試験においてゲル化が生じないものであるのか不明である点。 イ 相違点の判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 本件発明1は、上記1(1)イ(イ)で述べたように、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することを課題とするものである。一方、甲2発明bは、分散媒がメタノールを3分の2以上含むものであり、メタノールの沸点が64.7℃であることからすると、高温(70℃) での2週間の加速試験において、分散媒がほとんど蒸発してしまうことから、そもそも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合があるという課題を把握できるものではない。 そうすると、甲2発明bにおいて、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」ものとする動機があるとはいえない。 加えて、甲2以外の他の甲号証においても、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」カチオン変性シリカ分散体を示すものはない。 よって、相違点2は、当業者が容易なし得たものではない。 ウ 効果について 上記1(1)ウで記載したように、本件発明8によって奏される「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験」においてもゲル化されない効果は、当業者において予期し得ない格別顕著なものである。 エ 申立人の主張について 申立人は、申立人意見書1で、「甲第2号証には、N-トリメトキシシリルプロピルN, N, N-トリメチルアンモニウムクロリド(シランカップリング剤)をメタノール中の50%溶液として添加してシラン変性金属酸化物の水性分散液を製造したことが記載されているため、甲2発明bも、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有していると考えられる。」と主張しているが、甲2発明bは、「メタノール中の50%溶液(12.4g)」及び「28.4gの水、および71gのメタノール」ものメタノールを含むものであり、メタノールの沸点が64.7℃であることを考慮すると、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有しているとはいえない。 オ 小括 よって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、甲2発明bではなく、甲2発明bに基づいて、さらには甲2以外の他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明9について 上記第3で記載されているように、本件発明9は、本件発明8を直接的に引用する発明であるから、本件発明8と同様に、甲2発明bではなく、甲2発明bに基づいて、さらには甲2以外の他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)小括 以上のことから、本件発明1、2、4、5、8及び9は、甲2発明a又は甲2発明bではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明1~9は、甲2発明a又は甲2発明bに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件発明1~9に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由2によって取り消すことはできない。 3 申立理由3について (1)本件発明1について ア 対比 (ア)甲3発明における「研磨剤」とは、「N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシランを該コロイダルシリカ原液95部に対して5部添加して調製」した「希釈研磨剤」の前段階のものであり、上記1(1)ア(ア)で述べたように、本件発明1で「シリカ原料」とは、「コロイダルシリカ」のことであるから、甲3発明の「研磨剤」は、本件発明1の「シリカ原料」に相当する。 そうすると、甲3発明の「20重量%のSiO2を含むコロイダルシリカ研磨剤原液をアルカリ水溶液中に分散させ(研磨剤の総量に対して上記コロイダルシリカ原液が12.5重量%(SiO2が2.5重量%)になるように調整)」た「研磨剤」と、本件発明1の「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散しているシリカ原料」とは、「分散媒中にシリカが分散しているシリカ原料」の点で共通する。 (イ)甲3発明の「N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン」は、本件発明1の「カチオン性基を有するシランカップリング剤」に相当し、甲3発明の「N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシランを」「添加して調製する」ことは、本件発明1の「カチオン性基を有するシランカップリング剤を」「希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加」することに相当する。 (ウ)甲3発明の「コロイダルシリカ」と「N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン」は反応して、「シリカ」の表面に「3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン」の「カチオン性基」が導入されているといえる。 そうすると、「コロイダルシリカ研磨剤原液をアルカリ水溶液中に分散させ」「これにN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシランを該コロイダルシリカ原液95部に対して5部添加して調製する」ることは、本件発明1の「前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ること」に相当するといえる。 (エ)上記(ア)~(ウ)によれば、甲3発明の「希釈研磨剤の製造方法」は、本件発明1の「カチオン変性シリカの製造方法」に相当する。 (オ)一致点・相違点について 上記(ア)~(エ)を踏まえると、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「カチオン性基を有するシランカップリング剤を、分散媒中にシリカが分散しているシリカ原料に対して、希釈することなく添加するか、または50質量%以上の濃度の溶液の状態で添加し、前記シリカ原料と前記シランカップリング剤とを反応させて、カチオン変性シリカを得ることを含む、カチオン変性シリカの製造方法。」 (相違点1) シリカ原料が、本件発明1では「シランカップリング剤が添加される直前に測定されたゼータ電位が負の値を示す」ものであるのに対し、甲3発明の「コロイダルシリカ研磨剤」のゼータ電位は不明である点。 (相違点2) シリカが、本件発明1では「水のみからなる分散媒中にシリカが10質量%以上の濃度で分散している」のに対し、甲3発明では、「(SiO2が2.5重量%)になるように調整「コロイダルシリカ研磨剤原液をアルカリ水溶液中に分散させ」「(SiO2が2.5重量%)になるように調整」されている点。 イ 相違点の判断 事案に鑑み相違点2について検討する。 (ア)甲3発明においては、シリカを分散させる分散媒は「アルカリ水溶液」であり、アルカリとする成分を水に添加させなければならず、「水のみからなる分散媒」ではない。そして、甲3発明の「希釈研磨剤」は、上記(甲3ア)の【0003】に「ウェーハ加工においても、より効率的な研磨方法の開発が強く求められている。一般的に、シリコンウェーハ研磨工程には、微細なSiO2砥粒をpH=9~12程度のアルカリ水溶液中にコロイド状に分散させたシリカ含有研磨剤が用いられ、SiO2による機械的作用と、アルカリ溶液によりシリコンをエッチングする化学的作用の複合作用により研磨される。」と記載されているとおり、シリカを分散させる分散媒が「アルカリ水溶液」であることを前提する発明であるから、「アルカリ水溶液」からアルカリとする成分から除外して「水のみからなる分散媒」とすることはできない。 さらに、アルカリ水溶液中に分散させたときの「(SiO2が2.5重量%)」を、水のみからなる分散媒のときには「10質量%以上」の濃度に上昇させる積極的な動機もない。 (イ)さらに、本件発明1は、上記1(1)イ(イ)で述べたように、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することを課題とするものである。 一方、甲3発明は、(甲3ア)に記載されているとおり、「研磨能率の向上を可能としたシリコンウェーハ研磨用研磨剤及びこれを用いたシリコンウェーハの研磨方法を提供することを目的とする」ものであり、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合があるという課題を把握できるものではない。 (ウ)よって、本件発明1は、少なくとも相違点2の点で、当業者が容易なし得たものでなく、仮に、相違点1及び2について当業者が容易なし得たものとしても、以下のウで述べるように、本件発明1は当業者が予期し得ない格別顕著な効果を有するものであるから、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 効果について 上記1(1)ウで記載したように、本件発明1によって奏される「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験」においてもゲル化されない効果は、当業者において予期し得ない格別顕著なものである。 エ 申立人の主張について 申立人は、申立人意見書1で、「甲3発明においても、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)は、希釈することなく添加されているため、甲3発明も、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有していると考えられる。」と主張しているが、甲3発明は、(甲3イ)に「使用量が少なすぎると、研磨速度の向上効果が十分でなく、多すぎても、研磨速度の向上にはかえって逆効果になり、研磨速度が低下する場合がある。」と記載されているように、「研磨能率の向上」を意図したものであり、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有しているとはいえない。 オ 小括 よって、本件発明1は、甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて、さらには甲3以外の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2~7について 上記第3で記載されているように、本件発明2~7は、本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明1と同様に、甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて、さらには甲3以外の甲号証の記載の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)小括 以上のことから、本件発明1~5及び7は、甲3発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明1~7は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由3によって取り消すことはできない。 4 申立理由4について 上記甲4は、(甲4ア)に「本発明の目的は、上記の問題点に鑑みて、シリカ粒子へ生体分子等を結合させるために有用なアミノ基を粒子表面に有し、かつ前記アミノ基がシリカ粒子表面に吸着することにより前記生体分子等との反応性が低下することを防止したシリカ粒子の製造方法、前記シリカ粒子、及びそれを用いた複合粒子を提供することにある」と記載されているとおり、生体分子等を結合させるためのシリカ粒子を得るための発明であり、本件発明8及び9のように「シリカ分散体」を得るための発明ではない。 そして、(甲4イ)である実施例の記載を参照しても、最終的にシリカ粒子を得ており、製造過程中の「シリカ分散体」に着目しても、それはローダミン、エタノール、塩酸を含むものであり、シリカ濃度も不明であるから、「水のみからなる分散媒」に「カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上」分散させたものでなく、かつ、生体分子等を結合させるためのシリカ粒子を製造するために、「水のみからなる分散媒」に「カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上」分散させたものとする動機もなく、さらに「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」カチオン変性シリカ分散体とする動機もない。 よって、本件発明8及び9は、甲4に記載された発明でなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、そして、甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないことから、本件発明8及び9に係る特許は、特許法第29条第1項及び2項の規定に違反してされたものではない。 よって、申立理由4によって、本件発明8及び9に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立理由5について (1)本件発明8について ア 対比 (ア)甲5発明の「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理した」「シリカ粒子」は、本件発明8の「シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカ」に相当する。 なお、甲5発明の「1wt%のコロイドシリカ粒子」は「液体キャリアー中に懸濁さ」れるため、「研磨組成物」におけるシリカの濃度は、1wt%より小さくなる。 (イ)甲5発明の「液体キャリアー、(b)液体キャリアー中に懸濁された研削剤(ここで、研削剤は、アミノシラン化合物、ホスホニウムシラン化合物、およびスルホニウムシラン化合物から成る群から選択された化合物を用いて処理された表面を有する金属酸化物を含む。)、および(c)ホスホン酸およびホウ素を含む酸からなる群から選択された酸を含む、化学的機械的研磨組成物」において、「研削剤」は、「ホスホン酸およびホウ素を含む酸からなる群から選択された酸を含む」「液体キャリアー中に懸濁され」ることになる。 そうすると、甲5発明の「アミノプロピルトリエトキシシランを用いて処理したコロイドシリカ粒子」が「懸濁された」「ホスホン酸およびホウ素を含む酸からなる群から選択された酸を含む」「液体キャリアー」と、本件発明8の「カチオン変性シリカを分散させるための水のみからなる分散媒」とは、「カチオン変性シリカを分散させるための分散媒」の点で共通する。 (ウ)甲5発明の「pH7.21、pH7.43、pH8.06、pH8.15のpHにおいて、ゼータ電位が正の値である、研磨組成物」は、「pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在する」「シリカ分散体」に相当する。 (エ)上記(ア)~(ウ)を踏まえると、本件発明8と甲5発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。 (一致点) 「シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカと、前記カチオン変性シリカを分散させるための分散媒と、を含み、 pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在する、カチオン変性シリカ分散体。」 (相違点1) 分散媒が、本件発明8では「水のみからなる」のに対し、甲5発明では、「ホスホン酸およびホウ素を含む酸からなる群から選択された酸を含む」「液体キャリアー」である点。 (相違点2) 分散体におけるカチオン変性シリカの濃度が、本件発明8では「10質量%以上」であるのに対し、甲5発明では、1wt%より小さい濃度である。 (相違点3) カチオン変性シリカ分散体が、本件発明8では、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」ものであるのに対し、甲5発明では、前記高温加速試験においてゲル化が生じないものであるのか不明である点。 イ 相違点の判断 (ア)事案に鑑み、相違点3について検討する。 本件発明1は、上記1(1)イ(イ)で述べたように、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することを課題とするものである。 一方、甲5発明は、(甲5ア)に記載されているとおり「特別な機器のための研磨ニーズに合うようにCMPの間に、種々の層(例えば、窒化ケイ素、酸化ケイ素)の除去速度を調整でき、または除去速度を合せることができる方法および組成物」を提供することを課題とするものであり、(甲5エ)には、研磨組成物におけるシリカ粒子の濃度の違いによって、酸化ケイ素の除去速度(Å/分)及び窒化ケイ素の除去速度(Å/分)が変化することが示されている。 そうすると、甲5において、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合があるという課題を把握できるものではなく、甲5発明において、研磨組成物を「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」ものとする動機があるとはいえない。 加えて、甲5以外の他の甲号証においても、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」カチオン変性シリカ分散体を示すものはない。 よって、相違点3は、当業者が容易なし得たものではない。 ウ 効果について 上記1(1)ウで記載したように、本件発明8によって奏される「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験」においてもゲル化されない効果は、当業者において予期し得ない格別顕著なものである。 エ 申立人の主張について 申立人は、申立人意見書1で、「本件訂正発明8が、「高温(70℃)での2週間の加速試験においてもゲル化の発生を抑制することが可能となる」という効果を有するとはいえない。」と主張しているが、本件明細書の本件発明8の態様である実施例(実施例5及び7等)において、高温(70℃)での2週間の加速試験においてゲル化が発生していないことを確認していることから、当該主張は当を得ないことである。 オ 小括 よって、本件発明1は、相違点1及び2について検討するまでもなく、甲5発明ではなく、甲5発明に基づいて、さらには甲5以外の他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明9について 上記第3で記載されているように、本件発明9は、本件発明8を直接的に引用する発明であるから、本件発明8と同様に、甲5発明ではなく、甲5発明に基づいて、さらには甲5以外の他の甲号証の記載を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)小括 以上のことから、本件発明8及び9は、甲5発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当せず、本件発明8及び9は、甲5発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件発明8及び9に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものではなく、申立理由5によって取り消すことはできない。 第8 サポート要件に対する当審の判断 1 本件発明の課題 本件発明は、本件明細書に、 「【0009】 ・・・これらの技術には依然として改善すべき課題が存在することを見出した。すなわち、これらの技術を用いて高いシリ力濃度を有するシリカ原料からカチオン変性シリカ分散体を製造しようとすると、シランカップリング剤の添加時や添加後において、ゲル化が生じる場合があることが判明した。また、高いシリカ濃度を有するシリカ原料にこれらの技術を用いた場合、シランカップリング剤の添加時や添加直後にはゲル化が発生しない場合でも、高温(70℃)での2週間の加速試験においてはゲル化が発生する場合があることも判明した。 【0010】 そこで本発明は、シランカップリング剤を用いて高いシリカ濃度を有する原料シリカを変性させることを含むカチオン変性シリカ分散体の製造において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制しうる手段を提供することを目的とする。」 と記載されているとおり、高いシリカ濃度を有する原料シリカを変性させることを含むカチオン変性シリカ分散体において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することを課題とするものである。 2 本件明細書における実施例 上記第7の1(1)ウに記載したとおり、本件明細書には、特に以下の実施例が記載されている。 「【0065】 [実施例5] まず、シリカ原料である通常純度のコロイダルシリカ(シリカ濃度:10質量%、平均二次粒子径:33nm、会合度:1.3、等電点のpH:約3、水分散体)を準備した。当該コロイダルシリカのゼータ電位を測定したところ、-53.4mVであった。 【0066】 次いで、上記で準備したコロイダルシリカに対して、300rpmの撹拌速度で撹拌しながら、APSを希釈せずにそのまま、5mL/minの滴下速度で滴下した。なお、APSの添加量は、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して2.50質量%となるように調節した。 【0067】 その後、反応系を加熱することなく常温にて3時間撹拌状態を維持し、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.3)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH3)を測定したところ、+49.8mVであり、中性域におけるゼータ電位(@pH7)を測定したところ、+4.8mVであった。また、ゲル化は確認されなかった。」 「【0069】 [実施例7] APSの添加量を、シリカ原料に含まれるシリカ固形分100質量%に対して5.00質量%となるように調節したこと以外は、上述した実施例5と同様の手法により、シリカ粒子の表面に第1級アミノ基が導入されたカチオン変性(アミノ変性)シリカ分散体(pH10.7)を得た。得られたカチオン変性シリカ分散体のゼータ電位(@pH3)を測定したところ、+55.3mVであり、中性域におけるゼータ電位(@pH7)を測定したところ、+36.1mVであった。なお、ゲル化は確認されなかった。」 そして、これら実施例は、上記第7の1(1)ウに記載した表1を参照すると、「反応中及び反応後」及び「高温加速試験後」においてゲル化「無し」と記載されていることから、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化が抑制されていることが示されている。 3 当審の判断 (1)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)申立理由6について ア まず、本件発明の課題は、上記1で記載したとおり、高いシリカ濃度を有する原料シリカを変性させることを含むカチオン変性シリカ分散体において、シランカップリング剤の添加時や添加後におけるゲル化の発生を抑制しつつ、さらに高温(70℃) での2週間の加速試験においてもゲル化を抑制することを課題とするものであるから、申立人の「本件訂正前の請求項8及び9に係る発明は、「pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在する」こと自体を課題としているというべきである」との主張は、当を得ないものである。 イ また、上記2で記載した実施例を参照すると、 ・「シリカ粒子の表面がカチオン性基で変性されてなるカチオン変性シリカと、前記カチオン変性シリカを分散させるための水のみからなる分散媒と、を含」むこと、 ・「pH7以上において、ゼータ電位が正の値となる領域が存在し、前記カチオン変性シリカの濃度が10質量%以上であ」ること、 を満たすカチオン変性シリカ分散体について、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」ことが示されている。 そうすると、上記第3で記載した本件発明8は、上記判断手法における「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」といえる。 したがって、本件発明8及びそれを引用する本件発明9は、サポート要件に適合するものであるといえる。 ウ 申立人は、本件発明8及び9について、「達成すべき結果により規定された発明」に該当し、そして、特定の手段(本件発明1)による発明が記載されているのみであり、本件発明8及び9まで拡張ないし一般化できないことを主張しているが、上記イで述べたとおり、本件発明8及び9の「カチオン変性シリカ分散体」は、実施例として記載されているものであるから、本件発明8及び9は、「達成すべき結果により規定された発明」とまではいえず、発明の詳細な説明の記載を拡張ないし一般化したものともいえない。 エ 小括 以上のことから、本件発明8及び9は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、本件発明8及び9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、申立理由6によって取り消すことはできない。 (3)取消理由について 本件発明8及び9の「カチオン変性シリカ分散体」は、本件訂正により「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」ものであることが特定されたことから、もはや上記第4の2(2)で指摘した「高温(70℃) での2週間の加速試験においてゲル化を抑制することはできないもの」ではなく、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものといえる。 したがって、上記第5で記載した取消理由によって、本件発明8及び9に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立人の新たな主張について (1)申立人は、令和5年11月7日提出の意見書(以下「申立人意見書2」という。)で、上記第5で述べた取消理由が解消していないこと(下記の(ア))、及び新たな取消理由が生じていること(下記の(イ)及び(ウ))を主張をしている。 ア 「訂正後の請求項8は、「達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含む請求項」であり、訂正後の請求項8に係る発明は、「達成すべき結果により規定された発明」に該当する。」 「本件特許の発明の詳細な説明には、特定の手段(訂正後の請求項1に記載されたカチオン変性シリカの製造方法)によって「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」シリカ分散体が得られたことが記載されているのみである。そのため、出願時の技術常識に照らしても、訂正後の請求項8に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。」 イ 「上記のとおり、訂正後の請求項8は、「達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含む請求項」に該当する。」 「上記のとおり、本件特許の発明の詳細な説明には、特定の手段(訂正後の請求項1に記載されたカチオン変性シリカの製造方法)によって「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」シリカ分散体が得られたことが記載されているのみである。当業者は、本件特許の明細書及び図面の記載並びに本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができない。」 ウ 「訂正後の請求項8には、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」と記載されている。」 「「ゲル化」は幅をもった概念であるが、本件特許の発明の詳細な説明の記載からは、どの程度増粘した場合を「ゲル化」と判定するかが明らかではない。また、目視による評価では、判断者の主観によって判断が分かれる可能性がある。そのため、「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」という発明特定事項は、特許発明の技術的範囲を画定するための条件として明確であるとはいえない。」 (2)申立人の新たな主張に対する当審の判断 アについて 上記(1)アの主張に対する当審の判断は、上記3で述べたとおりである。 イについて (ア)実施可能要件の判断手法 物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が上記の実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきである。 (イ)判断 まず、上記(1)イの主張について、本件発明8は「カチオンシリカ分散体」に係る物の発明であるから、仮に特定の手段のみで製造されたとしても、そのことをもって本件発明8に実施できない他の部分があるということはできない。 そして、本件発明8に対応する本件明細書の実施可能要件に適合するか否かを上記(ア)の判断手法に則して判断すると、上記2で摘記したとおり、本件明細書の実施例には、本件発明8及び9の「カチオン変性シリカ分散体」を製造することが具体的に記載されていることから、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明8及び9の「カチオン変性シリカ分散体」を製造することができるといえる。そして、その「カチオン変性シリカ分散体」は、本件明細書の【0045】に記載されているとおり「本発明に係るカチオン変性シリカ分散体は、研磨用組成物に含まれる研磨剤(砥粒)、紙のコーティング剤などの様々な用途に使用することができ」るものである。 (ウ)小括 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明8及び9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであることから、特許法第36条第4項第1号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、新たな取消理由が生じるものではない。 ウについて (ア)明確性の判断手法 特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである (イ)判断 本件明細書には、「ゲル化」について、【0050】に「<ゲル化の有無の確認>得られたカチオン変性シリカ分散体について、各実施例・比較例に記載の方法でシリカ原料とカップリング剤とを混合してカチオン変性シリカ分散体を得る途中または得た直後におけるゲル化の有無を目視により確認した。また、得られたカチオン変性シリカ分散体を70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験も行い、同様にゲル化の有無を目視により確認した。」と記載されている。 一般に、シリカ分散体のゲル化の状況は、目視により観察できるものであり、シリカ分散体が入った容器を傾けてもシリカ分散体が流動しない場合にはゲル化していると判断し、流動する場合にはゲル化していないと判断できる(例えば、浅井隼人「界面活性剤添加によるシリカスラリーのレオロジー挙動」平成19年度修士論文 三重大学大学院工学研究科分子素材工学専攻、6~8頁参照)。 申立人は、「どの程度増粘した場合を「ゲル化」と判定するかが明らかではない」と主張しているが、粘度測定器で測定した「粘度の数値」等でゲル化の有無を特定しなくとも、上記目視による観察でゲル化の有無について判断できることから、「ゲル化の有無を目視により確認」することが、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとまではいえない。 そうすると、本件発明8に「70℃の温度条件下に2週間静置する高温加速試験においてゲル化が生じない」と特定されているが、当該「ゲル化が生じない」という状況は、本件明細書を参照すると目視により観察できることであるから、当該特定事項が第三者の利益を不当に害するほど不明確であるとまではいえない。 (ウ)小括 よって、本件発明8及び9は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定にする要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、新たな取消理由が生じるものではない。 第9 むすび 以上のとおり、本件発明1~9に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由によって、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項10に係る特許は、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700293

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