特許異議申立
2024-700366
研磨用組成物および磁気ディスク基板製造方法
- 審判番号
- 2024-700366
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-180876
- 登録番号
- 7368998
- 請求日
- 2024年04月18日
- 審決日
- 2024年12月09日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社フジミインコーポレーテッド
- 【権利者代理人】安部 誠
- 【権利者代理人】大井 道子
- 【権利者代理人】谷 征史
- 【権利者代理人】梅原 めぐみ
- 【異議申立人】関 はる美
- 審判長/審判官
- 審判長 高橋 宣博
- 審判官 千葉 輝久
- 審判官 片岡 利延
- 分類
- P1651.113-YAA(G11B) / P1651.121-YAA(G11B) / P1651.537-YAA(G11B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7368998号発明「研磨用組成物および磁気ディスク基板製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7368998号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第7368998号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7368998号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和元年9月30日の出願であって、令和5年10月17日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月25日に特許掲載公報が発行されたものである。
本件特許異議の申立ては、令和6年4月18日に特許異議申立人 関はる美(以下、「申立人」という。)により請求項1~8に係る特許に対してされたものである。
令和6年7月23日付けで取消理由が通知され、令和6年9月20日に特許権者により意見書の提出及び訂正請求がされた。その後、令和6年10月4日に申立人に訂正があった旨の通知をして意見を求めたが応答はなかった。
第2 令和6年9月20日の訂正請求による訂正の適否
1 一群の請求項1~8の訂正について
(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の末尾に「研磨用組成物。」と記載されているのを、「研磨用組成物(但し、平均粒子径100~1000nmの粉砕された湿式法シリカ粒子を含むものを除く)。」 に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する。)
(2)訂正の適否
ア 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「研磨用組成物」から「平均粒子径100~1000nmの粉砕された湿式法シリカ粒子を含むもの」を除外することにより「研磨用組成物」を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様である。
(3)小括
以上のとおり、一群の請求項1~8の訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件特許の請求項1-8に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明8」と、総称して「本件発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、下線は、訂正された箇所について当審により付したものである。
【請求項1】
ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
シリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水溶性高分子と、水とを含み、
前記水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、該第1の水溶性高分子とは異なる水溶性高分子でありカチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを含む、研磨用組成物(但し、平均粒子径100~1000nmの粉砕された湿式法シリカ粒子を含むものを除く)。
【請求項2】
前記第2の水溶性高分子として、アリルアミン重合体を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記第1の水溶性高分子として、スルホン酸系重合体を含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記第2の水溶性高分子の含有量は、10ppm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
pHが4.0以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記シリカ粒子はコロイダルシリカである、請求項1から5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記シリカ粒子の平均一次粒子径が1nm以上50nm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板を、請求項1から7のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて研磨する工程を含む、磁気ディスク基板製造方法。
第4 特許異議申立ての理由の概要
申立人が申立てた特許異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
1(新規性)請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1~8 甲第1号証又は甲第2号証
2(進歩性)請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
請求項1~8 甲第1号証~甲第4号証
3(サポート要件)請求項1~3に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
4(明確性)請求項4~8に係る発明は明確でないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
甲第1号証:特開2019-16417号公報
甲第2号証:特開2018-55758号公報
甲第3号証:特開2010-135052号公報
甲第4号証:特開2012-142064号公報
第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
特許異議申立書に記載した上記申立理由1(新規性)に基づいて、当審により特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。
請求項1~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
請求項1~8 甲第1号証
記
甲第1号証:特開2019-16417号公報
2 甲第1号証
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審により付したものである。
「【請求項3】
平均一次粒子径5~200nmのコロイダルシリカと、
平均粒子径100~1000nmの粉砕された湿式法シリカ粒子と、
含窒素有機化合物及び/又は含窒素高分子化合物と、
カルボン酸基を有する単量体およびスルホン酸基を有する単量体を必須単量体とする共重合体と、
水と、を含み、
全シリカ粒子に占める前記コロイダルシリカの割合が5~95質量%、前記粉砕された湿式法シリカ粒子の割合が5~95質量%であり、
全シリカ粒子の濃度が1~50質量%である磁気ディスク基板用研磨剤組成物。」
「【0067】
2.磁気ディスク基板の研磨方法
本発明の研磨剤組成物は、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板(以下、「アルミディスク」)やガラス磁気ディスク基板等の磁気ディスク基板の研磨での使用に適している。特にアルミディスクの研磨での使用に適している。」
「【0070】
(研磨剤組成物の調製方法)
実施例1~30および比較例1~5で使用した研磨剤組成物は、下記の材料を、下記の含有量で含んだ研磨剤組成物である。尚、全ての実施例と比較例で全シリカ粒子の濃度は4質量%であり、研磨剤組成物のpHは1.2である。これらの研磨剤組成物を使用して研磨試験を行った結果を表1~3に示した。
【0071】
<コロイダルシリカ1>(平均一次粒子径(D50):50nm、市販のコロイダルシリカ)
全シリカ粒子中の割合は表1~3に示した。実施例1~7、9~24、26~30、比較例1~5で使用した。
<コロイダルシリカ2>(平均一次粒子径(D50):80nm、市販のコロイダルシリカ)
全シリカ粒子中の割合は表1、3に示した。実施例8、25で使用した。
<湿式法シリカ粒子1>(平均粒子径(D50):300nm、市販の湿式法シリカ粒子)
全シリカ粒子中の割合は表1~3に示した。実施例1~8、10~25、27~30、比較例1~5で使用した。
<湿式法シリカ粒子2>(平均粒子径(D50):400nm、市販の湿式法シリカ粒子)
全シリカ粒子中の割合は表1、3に示した。実施例9、26で使用した。
<ヒュームドシリカ>(平均粒子径(D50):270nm、市販のヒュームドシリカ)
全シリカ粒子中の割合は50質量%であり、実施例18~30、比較例4、5で使用した。
<硫酸>研磨剤組成物のpHが1.2になるように添加量を調整した。実施例1~30、比較例1~5で使用した。
<過酸化水素>0.9質量%、実施例1~30、比較例1~5で使用した。
<ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド>(第一工業製薬(株)製、DC-902P、重量平均分子量=8000)添加量は表1~3に示した。実施例1、2、5~10、14、15、18、19、22~27で使用した。
<ペンタエチレンヘキサミン:PEHAと略す>添加量は表1~3に示した。実施例3、16、20で使用した。
<ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド>(第一工業製薬(株)製、カチオーゲンBC-50)添加量は表1~3に示した。実施例4、17、21で使用した。
<アクリルポリマー1>(アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸=50/50(mol比)の共重合体ナトリウム塩、重量平均分子量=10000)添加量は表1、3に示した。実施例6、7、11、12、23、24、28、29で使用した。
<アクリルポリマー2>(アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸=90/10(mol比)の共重合体ナトリウム塩、重量平均分子量=10000)添加量は表1、3に示した。実施例13、30で使用した。
<アクリルポリマー3>(アクリル酸/N-tert-ブチルアクリルアミド=90/10(mol比)の共重合体、重量平均分子量=10000)添加量は表1、3に示した。
実施例5、7、10、12、22、24、27、29で使用した。
<アクリルポリマー4>(アクリル酸の単独重合体ナトリウム塩、重量平均分子量=10000)添加量は表1、3に示した。比較例2、5で使用した。」
「【0083】
[図:0001421353000001.jpg]
」
(2)甲1発明
上記甲第1号証の記載事項に基づいて発明を認定する。
段落【0067】の記載によれば、甲第1号証には、無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨での使用に適している研磨剤組成物の発明が記載されている。
甲第1号証に記載された研磨剤組成物の発明の実施例のうち、実施例6、7に着目して発明(以下、「甲1発明」という。)を認定する。
段落【0070】、【0071】、【請求項3】の記載によれば、甲1発明は、コロイダルシリカ1と、平均粒子径300nmの粉砕された湿式法シリカ粒子1と、硫酸と、過酸化水素と、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DC-902P)と、アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体ナトリウム塩であるアクリルポリマー1と、水とを含む。
段落【0071】、【0083】の【表1】の記載によれば、甲1発明における、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DC-902P)の添加量は、0.0005質量%である。
段落【0070】の記載によれば、甲1発明の研磨剤組成物のpHは1.2である。
段落【0071】、【0083】の【表1】の記載によれば、コロイダルシリカ1の平均一次粒子径は50nmである。
以上によれば、甲第1号証には、次の甲1発明が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨での使用に適している研磨剤組成物であって、
コロイダルシリカ1と、平均粒子径300nmの粉砕された湿式法シリカ粒子1と、硫酸と、過酸化水素と、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DC-902P)と、アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体ナトリウム塩であるアクリルポリマー1と、水とを含み、
ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DC-902P)の添加量は、0.0005質量%であり、
pHは1.2であり、
コロイダルシリカ1の平均一次粒子径は50nmである、
研磨剤組成物。」
3 本件発明1と甲1発明との対比
(1)研磨用組成物
甲1発明は、「無電解ニッケル-リンめっきされたアルミニウム磁気ディスク基板の研磨での使用に適している研磨剤組成物」であり、これは本件発明1の「ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、「ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物」である点で一致する。
(2)含有物
甲1発明は、「コロイダルシリカ1と、平均粒子径300nmの粉砕された湿式法シリカ粒子1と、硫酸と、過酸化水素と、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DC-902P)と、アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体ナトリウム塩であるアクリルポリマー1と、水」を含む。
甲1発明の「コロイダルシリカ1」、「硫酸」、「過酸化水素」、「ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DC-902P)、及び、アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体ナトリウム塩」は、それぞれ、本件発明1の「シリカ粒子」、「酸」、「酸化剤」、「水溶性高分子」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、「シリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水溶性高分子と、水と」を含む点で一致する。
(3)水溶性高分子
甲1発明が水溶性高分子として含む、「ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(DC-902P)」、「アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体ナトリウム塩」は、それぞれ、本件発明1の「該第1の水溶性高分子とは異なる水溶性高分子でありカチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子」、「アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、「前記水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、該第1の水溶性高分子とは異なる水溶性高分子でありカチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子と」を含む点で一致する。
(4)一致点、相違点
以上によれば、本件発明1と甲1発明は、「ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、シリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水溶性高分子と、水とを含み、前記水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、該第1の水溶性高分子とは異なる水溶性高分子でありカチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを含む、研磨用組成物。」である点で一致する。
一方、本件発明1は、「研磨用組成物(但し、平均粒子径100~1000nmの粉砕された湿式法シリカ粒子を含むものを除く)。」であるのに対し、甲1発明は平均粒子径300nmの粉砕された湿式法シリカ粒子を含む点で両者は相違する。
4 小括
本件発明1と甲1発明とは相違する点があるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに発明特定事項を付加したものであるから、同じ理由により、本件発明2~8は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
よって、取消理由通知に記載した取消理由によっては本件請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由1(甲第2号証に基づく新規性欠如)について
(1)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審により付したものである。
「【0020】
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、特に制限されないが、磁気ディスク用の研磨対象基板(半製品基板)を研磨するのに使用されることが好ましく、アルミニウム合金製の基材ディスク上にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク用基板用の研磨対象基板を研磨するのに使用されることが特に好ましい。また、本発明の一形態に係る研磨用組成物は、特に制限されないが、一次研磨を経た研磨対象基板を二次研磨または仕上げ研磨するのに使用される研磨用組成物であることが好ましい。」
「【0027】
砥粒は、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降性シリカのようなシリカ粒子であってもよいし、ジルコニア、アルミナ、セリアおよびチタニアのようなシリカ以外の粒子であってもよい。本発明の一形態に係る研磨用組成物に含まれる砥粒は、好ましくはコロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降性シリカなどのシリカ粒子であり、より好ましくはコロイダルシリカである。研磨用組成物に含まれる砥粒がシリカ粒子である場合、好ましくはコロイダルシリカである場合には、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨したときに、研磨対象物の表面に発生する表面粗さがより低減される。なお、砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができ、後述する砥粒aおよび砥粒bの種類は同じでもよいし異なっていてもよい。」
「【0071】
[水溶性高分子]
研磨組成物は、水溶性高分子をさらに含有させてもよい。水溶性高分子を含有させることにより、研磨後の面精度をより向上させうる。水溶性高分子の例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;その他、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、イソプレンスルホン酸とアクリル酸の共重合体、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ジアリルアミン塩酸塩二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン、キトサン塩類等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。」
以上の記載に基づけば、、甲第2号証には、ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク用基板用の研磨対象基板を研磨するのに使用される研磨用組成物の発明が記載されており(段落【0020】)、その砥粒はシリカ粒子であり(段落【0027】)、水溶性高分子を含有させてもよく、水溶性高分子の例として多数の例が記載され、2種以上を組み合わせて用いることも記載されている(段落【0071】)。
(2)本件発明と甲第2号証に記載された発明との対比・判断
本件発明1は、「前記水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、該第1の水溶性高分子とは異なる水溶性高分子でありカチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを含む」ものである。
これに対し、甲第2号証に記載された研磨用組成物は、水溶性高分子を含有させ、その例として多数の例の中から2種以上を組み合わせて用いることは記載されているものの、多数の例の中からどの水溶性高分子と水溶性高分子を組み合わせるのかについて全く特定されていない。
したがって、多数の例の中にアニオン性官能基を有する水溶性高分子と、カチオン性官能基を有する水溶性高分子が含まれているとしても、本件発明1でいう「前記水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、該第1の水溶性高分子とは異なる水溶性高分子でありカチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを含む」ものが特定されているとはいえない。
よって、本件発明1と甲第2号証に記載された発明とは少なくとも上述した相違する点があり、本件発明1(及び本件発明2~8)は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
2 申立理由2(甲第1号証~甲第4号証に基づく進歩性欠如)について
(1)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
シリカ、酸、界面活性剤、酸化剤、及び水を含有する研磨剤組成物であって、
前記界面活性剤は、分子中に繰り返し単位と、スルホン酸(塩)基とを有し、さらに繰り返し単位の主鎖中に芳香族基を有する陰イオン界面活性剤である研磨剤組成物。
【請求項2】
前記スルホン酸(塩)基を有し、さらに繰り返し単位の主鎖中に芳香族基を有する前記陰イオン界面活性剤は、ナフタレンスルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物およびそれら塩の群からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の研磨剤組成物。
【請求項3】
前記ナフタレンスルホン酸系化合物である前記陰イオン界面活性剤は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびメチルナフタレンスルホン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項2に記載の研磨剤組成物。」
「【請求項6】
前記シリカは、コロイダルシリカである請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨剤組成物。」
「【0020】
分子中に繰り返し単位を有する陰イオン界面活性剤の中ではスルホン酸(塩)基を有し、さらに繰り返し単位の主鎖中に芳香族基を有する陰イオン界面活性剤の使用が好ましい。
【0021】
分子中に繰り返し単位と、スルホン酸(塩)基とを有し、さらに繰り返し単位の主鎖中に芳香族基を有する陰イオン界面活性剤の具体例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物などの芳香族アミノスルホン酸系化合物が挙げられるが、ポリアルキルアリールスルホン酸系化合物のうちのナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のナフタレンスルホン酸系化合物、リグニンスルホン酸系化合物、芳香族アミノスルホン酸系化合物およびそれらの塩が特に好ましい。ナフタレンスルホン酸系化合物の中でもナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物およびそれらの塩が特に好ましい。」
「【0031】
また、砥粒の平均粒子径は、研磨レート向上、スクラッチ低減のため、1~200nmの範囲が好ましく、さらに3~100nmの範囲がより好ましい。本明細書においてコロイダルシリカの粒子径は、シアーズ法によって測定した粒子径を意味する。シアーズ法は、アナレティカル・ケミストリー(ANALYTICAL CHEMISTRY)第28巻第12号(1956年12月)第1981頁に説明されている様に、水酸化ナトリウムを用いた滴定による比表面積から換算される粒子径の測定方法である。」
「【0042】
(研磨装置および研磨条件)
表1においては、基板としてNiP無電解メッキした外径95mmφのアルミディスクを粗研磨した基板を使用した。研磨試験機は、両面研磨機(9B型両面研磨機、スピードファム(株)製)、研磨パッドCF4301N(フジボウ製)を用いて、スラリー供給速度を5ml/min/pcsとして研磨剤組成物をアルミディスク上に供給した。定盤回転数は、下定盤を16rpm、上定盤を16/3rpm、加工圧力は100g/cm2とし、研磨時間は390秒とした。」
(2)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
無機粒子、ジアリルアミン重合体、酸及び水を含有し、前記ジアリルアミン重合体が、下記一般式(I-a)、(I-b)、(I-c)及び(I-d)で表される構成単位からなる群から選択される1種以上の構成単位を有し、研磨液組成物中における前記ジアリルアミン重合体の含有量が0.008~0.100重量%である、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
【化1】
「
[図:0001421353000002.jpg]
」
[上記式(I-a)及び(I-b)中、R1は水素原子、水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基又は炭素数7~10のアラルキル基を示し、
上記式(I-c)及び(I-d)中、R2は水酸基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基又は炭素数7~10のアラルキル基を、R3は炭素数1~4のアルキル基又は炭素数7~10のアラルキル基を、D-は一価の陰イオンをそれぞれ示す。]」
「【請求項4】
前記無機粒子が、さらにシリカ粒子を含有する、請求項3記載の磁気ディスク基板用研磨液組成物。」
「【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の研磨液組成物を用いてNi-Pめっきアルミニウム合金基板又はガラス基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。」
「【0044】
前記エチレン性不飽和スルホン酸化合物としては、スチレンスルホン酸、α-メチルスチレンスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、ビニルナフタレンスルホン酸、ビニルベンジルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリロイルオキシエチルスルホン酸、メタクロイルオキシプロピルスルホン酸などが挙げられる。これらのスルホン酸は、アルカリ金属塩、アンモニウム塩としても用いることができる。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩を例示することができる。中でも、残留無機粒子(残留アルミナ)及びスクラッチの低減並びに研磨速度の向上の観点から、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、及びそれらのナトリウム塩が好ましい。」
「【0061】
[シリカ粒子]
本発明の研磨液組成物は、残留アルミナ及びスクラッチの低減、並びに基板の表面うねり低減の観点から、無機粒子として、前記アルミナ粒子とともに、さらにシリカ粒子を含有することが好ましい。アミン化合物とシリカ粒子とを併用すると、シリカ粒子が凝集して、研磨速度の低下を招く場合があるが、前記ジアリルアミン重合体は、シリカ粒子と併用しても研磨速度の低下が起こり難い。このため、生産性を損なうことなく、効果的に残留アルミナとスクラッチを低減できる。シリカ粒子としては、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、表面修飾したシリカ等が挙げられる。中でも、基板の表面うねり低減、残留アルミナ低減の観点から、コロイダルシリカが好ましい。
【0062】
シリカ粒子の一次粒子の平均粒子径は、残留アルミナ及びスクラッチの低減、基板の表面うねり低減並びに研磨速度の向上の観点から、好ましくは35~150nm、より好ましくは40~100nm、さらに好ましくは45~80nm、さらにより好ましくは45~60nmである。なお、該平均粒子径は、実施例に記載の方法により求めることができる。」
「【0067】
[酸化剤]
本発明の研磨液組成物は、研磨速度の向上並びに残留無機粒子(残留アルミナ)及びスクラッチ低減の観点から、酸化剤を含むことが好ましい。本発明の研磨液組成物に使用できる酸化剤としては、研磨速度並びに残留無機粒子(残留アルミナ)及びスクラッチ低減の観点から、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。」
「【0072】
[研磨液組成物のpH]
本発明の研磨液組成物のpHは、研磨速度の向上並びに残留無機粒子(残留アルミナ)及びスクラッチ低減の観点から、上記の酸を用いてpH1~6に調整することが好ましく、より好ましくはpH1~4、さらに好ましくはpH1~3、さらにより好ましくはpH1~2である。」
(3)判断
甲第1号証~甲第4号証の記載事項の全てを検討しても、上述の本件発明1と甲第1号証に記載された発明との相違点、本件発明1と甲第2号証に記載された発明との相違点を克服し、本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる理由は発見できない。
したがって、本件発明1(及び本件発明2~8)は、甲第1号証~甲第4号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、本件発明の「第1の水溶性高分子」として、明細書には、「PSS―Na:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム」を使用した実施例しか示されていないし、本件発明の「第2の水溶性高分子」として、明細書には、「モノアリルアミン重合体」、「モノアリルアミン・ジメチルアリルアミン共重合体」、「モノアリルアミン・マレイン酸共重合体」及び「ジアリルアミン重合体」を使用した実施例しか示されておらず、請求項1~3に記載された範囲まで拡張ないし一般化することはできないから、本件発明1~本件発明3は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨を主張している。
(2)判断
本件発明は、明細書の段落【0004】~【0006】の記載によれば、近年の磁気ディスクドライブの高記録密度化等の要求により、磁気ディスク基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物には、当該研磨用組成物を用いて磁気ディスク基板を研磨したときに磁気ディスク基板の表面に発生する欠陥(例えばスクラッチ)を低減させる性能が要求されている一方で、欠陥低減性能を向上させるために、研磨用組成物に添加剤を加えると、研磨効率が低下することがあるという事情に鑑みてなされたものであって、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨速度を維持しながら、優れたスクラッチ低減性能を有する研磨用組成物を提供することを目的とする発明であって、研磨用組成物は、上記水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する第1の水溶性高分子と、カチオン性官能基を有する第2の水溶性高分子とを含むようにすることで、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨速度を維持しながら、優れたスクラッチ低減性能を有する研磨用組成物が実現し得る、というものである。
以上によれば、本件発明は、第1の水溶性高分子として、アニオン性官能基を有する水溶性高分子を、第2の水溶性高分子として、カチオン性官能基を有する水溶性高分子を含むようにすることで上述の課題を解決ないし目的を達成することができることを見出した発明であって、実施例に示された高分子を使用した場合に限定されるものではない。
よって、本件発明1~本件発明3は、発明の詳細な説明に記載したものである。
4 申立理由4(明確性)について
(1)申立人の主張
ア 本件発明4の「第2の水溶性高分子の含有量」について
申立人は、請求項4には、「前記第2の水溶性高分子の含有量は、10ppm以下である」と特定されているが、含有量の下限値が特定されていないから、発明が明確でない旨を主張している。
イ 本件発明5の「pH」について
申立人は、請求項5には、「pHが4.0以下である」と特定されているが、pHの下限値が特定されていないから、発明が明確でない旨を主張している。
(2)判断
申立人が主張するように、請求項4には、第2の水溶性高分子の含有量の下限値は特定されていないし、請求項5には、pHの下限値は特定されていない。
しかしながら、本件発明4は、第2の水溶性高分子の含有量の上限値を特定する発明であり、本件発明5は、pHの上限値を特定した発明であって、そのことにおいては明確なものであり、下限値が特定されていないことが、発明が明確でないという理由にはならない。
よって、本件発明4、5は、明確である。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~8に係る特許を取り消す理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700366