特許異議申立
2022-700404
金属有機構造体の製造方法
- 審判番号
- 2022-700404
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-165109
- 登録番号
- 6965854
- 請求日
- 2022年05月10日
- 審決日
- 2022年08月22日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】トヨタ自動車株式会社
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】鶴田 準一
- 【権利者代理人】伊藤 公一
- 【権利者代理人】関根 宣夫
- 【異議申立人】松井 伸一
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 野田 定文
- 審判官 伊藤 佑一
- 分類
- P1651.537-Y (C07C) / P1651.536-Y (C07C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6965854号発明「金属有機構造体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6965854号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6965854号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成30年9月4日に出願され、令和3年10月25日にその特許権の設定登録がされ、同年11月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年5月10日に特許異議申立人 松井 伸一(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第6965854号の請求項1~8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記工程を含む金属有機構造体の製造方法:
(a)4価のジルコニウムイオン、ハフニウムイオン、及びセリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種の金属イオン、酢酸及びギ酸からなる群より選択される少なくとも1種類のモノカルボン酸、並びに溶媒を含有している原料溶液を、加熱して、金属クラスターを含有している金属クラスター溶液を提供すること、ここで、前記金属イオンの濃度が300mmol/L以上であり;並びに
(b)前記金属クラスター溶液に有機配位子を混合すること。
【請求項2】
前記金属イオンと前記有機配位子とのモル比が、1:0.25~1:2.0である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノカルボン酸の使用量は、前記金属イオン1モルに対して、12モル以上30モル以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機配位子が、テレフタル酸及びフマル酸からなる群より選択される少なくとも1種の多価カルボン酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(a)において、前記金属イオンの濃度が、600mmol/L以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジエチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種類のアミド系溶媒である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱の温度が、100℃以上150℃以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(b)を、室温で行う、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。」(請求項1~8に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)
第3 申立理由の概要
申立人は、甲第1~4号証を提出し、次に示す事項を主張している。
(理由1)請求項1~8に係る発明について、「溶媒」及び「有機配位子」の組み合わせに関し、本件特許明細書の実施例1~4では、「溶媒」としてDMFを使用し、「有機配位子」としてテレタル酸(p-H2BDC)を使用した例しか記載されておらず、技術常識(甲第1~3号証)や、実施不可能な組み合わせも包含する(甲第4号証)ことを考慮すると、請求項1~8の範囲まで拡張・一般化できない(申立ての理由の要約)から、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
(理由2)請求項1~8について、「溶媒」及び「有機配位子」の組み合わせに関し、本件特許明細書の実施例1~4では、「溶媒」としてDMFを使用し、「有機配位子」としてテレタル酸(p-H2BDC)を使用した例しか記載されておらず、技術常識(甲第1~3号証)を参酌しても、実施不可能な組み合わせも包含すること(甲第4号証)(申立ての理由の要約)から、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
甲第1号証:堀毛悟史ら、“多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎”、材料科学の基礎 第7号、ALDRICH Materials Science、シグマ アルドリッチ ジャパン、2012年9月、p.2-15
甲第2号証:平井健二ら、“多孔性金属錯体(PCP/MOF)の表面化学”、表面科学、2012、33(9)、p.519-523
甲第3号証:既存化学物質安全性(ハザード)評価シート(要約版)・整理番号97-23・官報公示整理番号3-1334、一般社団法人 化学物質評価研究機構、平成10年6月作成
甲第4号証:申立人、実験データ(X線回折チャート)(実験例1及び2、参考実験例、結果、考察並びに図1~3)、[令和4年5月10日印刷日]
(以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。)
なお、甲4については、証拠の成立性に関し、作成者等の点で疑義があるが、本件の事情に鑑み、申立人自身が行った参考実験であるとの位置付けで証拠として扱った。
第4 甲号証の記載
1 甲1の記載(以下「・・・」は記載の省略を表す。)
(1a)「2. PCPの作り方
本項ではPCPをつくるときに考慮するポイント、およびいくつかの合成手法について述べる。前述のとおり、PCPを構築するメインの相互作用は架橋配位子と金属イオン間の配位結合である。したがってPCPの合成は、まず、「適切な構成要素(架橋配位子と金属イオン)を選択」し、そして「それらを配位結合が生じる条件で互いに接触させる」ことが基本である。
2.1 PCPをつくるときに考えること
新規PCPの合成を行う際、組み上がる構造と発現する機能を予想して、架橋配位子と金属イオンの組み合わせを選択する。表2-1の項目を基準にするのが一般的であり、PCPの構造と機能を合理的にデザインできる(図1-2も参照)。
・・・
用いる架橋配位子と金属イオンを決定すれば、目的の形態のPCPが生成するような条件を探索することになる。一般的には、原料試薬を溶媒に溶解させ液相で混合する。ここで考慮する反応条件のパラメータは、金属塩の種類・溶媒の種類・濃度及び濃度比・温度・時間・pH・添加物など様々である。これらのパラメータの違いによって、同じ架橋配位子と金属イオンの組み合わせであっても異なる組成や結晶構造をもつPCPが生成することがある。個々のパラメータが反応系内でPCPの生成に与える影響を考え、反応条件を絞っていく必要がある。同じ種類の配位結合で作られた既知のPCPや、高分子構造ではない錯体(ディスクリート錯体)の合成条件を出発点にして、少数のパラメータを系統的に変化させて反応を行うことが、現実的かつ堅実な進め方の一つであろう。」(第4頁右欄第4行~第5頁左欄第8行)
(1b)「水熱法
水熱反応(またはソルボサーマル反応)はテフロンの容器に溶媒と原料試薬を入れ、耐圧のステンレスジャケットで密封し、溶媒の沸点以上に加熱して反応を進行させる。(図2-1c)このとき、密閉容器内は溶媒の蒸気圧により高圧となっている。高温・高圧下の溶媒は、溶解性の向上、反応速度の増大、効率的な混合、といった超臨界流体に近い性質を示す。常温・常圧ではどの溶媒に対しても溶解性が低い架橋配位子を用いる場合や、反応速度が低すぎて反応が進行しない金属イオン-配位子の組み合わせの場合に、水熱反応はPCP合成に有効な選択肢の一つとなる。」(第5頁右欄第32~41行)
2 甲2の記載
(2a)「PCP/MOFは通常,溶液中の反応によって合成される。金属イオン源と有機配位子を溶媒中に溶解させ,室温から150度程度で加熱することによって,結晶性の化合物が得られる。」(第519頁左欄下から第4~1行)
(2b)「PCP/MOFがほかの多孔性材料と大きく異なる点として,フレームワーク構造の設計性が挙げられる。金属イオンと有機配位子の組み合わせによって,骨格構造のバリエーションは無数に存在し,数えきれないほどの化合物が報告されている。金属イオンの配位数と有機配位子の配位形態を考慮することによって,合成前にでき上がりのフレームワーク構造を予測することが可能である。さらに,有機配位子に機能性置換基を導入することで細孔内の化学環境を設計することも可能であり,ゲスト分子との相互作用点を導入する試みも積極的に行われている。」(第520頁左欄第2~12行)
3 甲3の記載
(3a)「溶解性:テレフタル酸/水;2~10 g/l(20℃)
ジメチルホルムアミド、ピリジンに可溶。アセトン、エタノール、酢酸、エーテルに不溶。」(第1頁、物理・化学的性状データ)
4 甲4の記載
(4a)「実験例1(溶媒をDMFからエタノールに変更した例)
特許第6965854号明細書の実施例1を、溶媒をDMFからエタノールに変更した以外、同様に追試した。
・・・
実験例2(溶媒をDMFから水に変更した例)
特許第6965854号明細書の実施例1を、溶媒をDMFから水に変更した以外、同様に追試した。
・・・
参考実験例(UiO-66 ソルボサーマル合成品)」(第1頁)
(4b)「考察
・図1~3から、実験例1の合成物(エタノール)及び実験例2の合成物(水)の何れの場合も、原料由来のZr0Cl2とテレフタル酸のピークが検出されたが、Ui0-66ソルボサーマル合成品(図1及び2)や本件特許比較例1~2及び実施例1~2(図3)で見られたMOFのピークに一致するピークは検出されなかった。」(第2頁)
第5 当審合議体の判断
1(理由1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲には、前記第2に示したとおりの請求項1~8が記載されている。
(3)本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
ア「【0002】
多孔質材料である金属有機構造体(metal-organic framework。以下、単に「MOF」とも称する。)は、ガス貯蔵や分離等の機能を有する材料として、近年、研究開発が進められている。
【0003】
従来、MOFを製造するために、ソルボサーマル合成法を用いることが多かった。より具体的には、金属イオン、有機配位子、及び溶媒を反応容器に入れて、加熱することによって、MOFを製造していた。」
イ「【0010】
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、特にソルボサーマル合成法を用いて、MOFを製造する場合に、低濃度の金属イオンでしか行えなかった。よって、大スケールでMOFを製造するために、大量の溶媒が必要となり、それに伴って、加熱等に必要なエネルギーや後処理に必要なエネルギーが増えてしまい、すなわち生産コストがかかってしまう課題があった。
【0012】
したがって、本開示は、上記事情を鑑みてなされたものであり、従来よりも高濃度の金属イオンを用いたMOFの製造方法を提供することを目的とする。」
ウ「【0019】
金属イオン及び有機配位子を用いてMOFを製造する際に、MOFが生成するまで、図1に示されているように、2つの反応経路(経路A及び経路B)が考えられる。
【0020】
より具体的には、経路Aでは、まず、(A-1)金属イオンが金属クラスターを形成する。そして、(A-2)金属クラスターが有機配位子と配位結合することによって、MOFが生成される。
【0021】
一方、経路Bでは、まず、(B-1)金属イオンが有機配位子と配位結合し、配位構造体を形成する。そして、(B-2)配位構造体がクラスターを形成することによって、MOFが生成される。しかしながら、この経路Bでは、金属イオンと有機配位子との配位構造体は、立体障害が大きく、よってクラスターの形成を阻害する可能性が大きい。すなわち、経路Bで、MOFが生成することは困難であるので、実際には、MOFの生成は経路Aによって生じていると考えられる。
【0022】
上述したように、従来、ソルボサーマル合成法を用いてMOFを製造する際に、低濃度の金属イオンでしか行えなかった。この理由について、以下のように推測される。
【0023】
すなわち、ソルボサーマル合成法において、高濃度の金属イオンと共に、対応する高濃度の有機配位子を用いる場合、高い温度(例えば100℃を超える温度)で加熱する条件下で、高濃度の有機配位子は、優先的に金属イオンと配位結合することが予想される。すなわち、図1に示されている経路Bの(B-1)の反応が優先的に起こると予想される。したがって、高濃度の金属イオン及び高濃度の有機配位子を用いる場合、MOFを生成することは、困難であったと推測できる。
【0024】
一方、従来の低濃度の金属イオンを用いる場合であれば、併用する有機配位子は、濃度が低いため、金属イオンが金属クラスターを形成することを阻害しにくいと考えられる。すなわち、低濃度の金属イオン及び低濃度の有機配位子を用いる場合、図1に示されている経路Aによって、MOFを生成することができていた。
【0025】
換言すると、従来では、高濃度の金属イオンを用いてMOFを製造することが困難であり、低濃度の金属イオンでしか行えなかった。
【0026】
これに対して、本開示の製造方法は、(a)金属クラスター溶液を提供する工程と、(b)金属クラスター溶液に有機配位子を混合する工程との二段階反応を行っているため、高濃度の金属イオン及び高濃度の有機配位子を用いても、有機配位子は、金属クラスターの形成を阻害することなく、MOFを製造することができる。
【0027】
〈工程(a)〉
工程(a)では、4価のジルコニウムイオン、ハフニウムイオン、及びセリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種の金属イオン、酢酸及びギ酸からなる群より選択される少なくとも1種類のモノカルボン酸、並びに溶媒を含有している原料溶液を、加熱して、金属クラスターを含有している金属クラスター溶液を提供する。ここで、金属イオンの濃度は300mmol/L以上である。
【0028】
(原料溶液)
原料溶液には、4価のジルコニウムイオン、ハフニウムイオン、及びセリウムイオンからなる群より選択される少なくとも1種の金属イオン、酢酸及びギ酸からなる群より選択される少なくとも1種類のモノカルボン酸、並びに溶媒を含有している。
【0029】
(1)金属イオン 原料溶液に含有されている金属イオンは、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)、ハフニウムイオン(Hf4+)、及びセリウムイオン(Ce4+)からなる群より選択される少なくとも1種の金属イオンである。これらの金属イオンは、4価で安定であり、かつ好適な原子半径を有しているため、本開示のMOFの金属イオンとして好ましく用いられる。また、これらの金属イオンの中では、MOFの安定性の観点から、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)が好ましい。
・・・
【0035】
工程(a)において、金属イオンの濃度は、300mmol/L以上である。これによれば、従来よりも、効率よく大スケールでMOFを製造することができる。また、金属イオンの濃度は、350mmol/L以上、400mmol/L以上、450mmol/L以上、500mmol/L以上、550mmol/L以上、600mmol/L以上、650mmol/L以上、700mmol/L以上、750mmol/L以上、800mmol/L以上、850mmol/L以上、900mmol/L以上、950mmol/L以上、1000mmol/L以上、1100mmol/L以上、1200mmol/L以上、1300mmol/L以上、1400mmol/L以上、又は1500mmol/L以上であってよい。また、金属イオン濃度の上限は、特に限定されず、例えば2000mmol/L以下、1500mmol/L以下、1200mmol/L以下、1000mmol/L以下、800mmol/L以下、又は600mmol/L以下であってよい。」
エ「【0037】
(2)モノカルボン酸
原料溶液に含有されているモノカルボン酸は、酢酸及びギ酸からなる群より選択される少なくとも1種類のモノカルボン酸である。これらのモノカルボン酸は、金属イオンが金属クラスターを形成する際に、金属イオンと配位することができる。
【0038】
原料溶液において、モノカルボン酸の使用量は、特に限定されず、例えば、金属イオン1モルに対して、10モル以上、12モル以上、15モル以上、20モル以上、25モル以上、30モル以上、35モル以上、40モル以上、45モル以上、又は50モル以上であってよく、また200モル以下、150モル以下、100モル以下、90モル以下、80モル以下、70モル以下、60モル以下、50モル以下、40モル以下、30モル以下、20モル以下、又は15モル以下であってよい。」
オ「【0039】
(3)溶媒
原料溶液に含有されている溶媒は、特に限定されず、通常の有機配位子に対する溶解力が高い観点から、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N-ジエチルホルムアミド(DEF)からなる群より選択される少なくとも1種類のアミド系溶媒であることが好ましい。なお、本開示において、「溶媒」とは、少なくとも一部の原料を溶かして原料溶液を作るための液体であって、本開示にかかる金属イオンに配位していない成分を指す。」
カ「【0041】
(加熱条件)
工程(a)において、原料溶液を任意の密封容器に入れて加熱することによって、金属クラスター溶液を提供することができる。
【0042】
加熱の温度は、特に限定されず、例えば80℃以上、90℃以上、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、又は200℃以上であってよく、また200℃以下、190℃以下、180℃以下、170℃以下、160℃以下、150℃以下、140℃以下、130℃以下、120℃以下、又は110℃以下であってよい。
・・・
【0044】
〈工程(b)〉
工程(b)では、工程(a)で得られる金属クラスター溶液に有機配位子を混合する。
【0045】
金属クラスター溶液に有機配位子を混合する方法としては、特に限定されず、例えば有機配位子を単独で金属クラスター溶液中に添加してもよく、有機配位子をアルコールやアミン等の溶媒に溶解させてから、金属クラスター溶液中に添加してもよい。
【0046】
工程(b)は、室温で行ってもよく、適宜に加熱して行ってもよい。なお、本開示でいう「室温」は、25℃±10℃を指す。」
キ「【0049】
(有機配位子)
有機配位子は、本開示にかかる金属イオンと配位結合することによってMOFを形成できるものであれば、特に限定されない。例えば、有機配位子は、エチレン骨格又はベンゼン骨格を有する多価カルボン酸であることができる。ここで、多価カルボン酸とは、1分子中にカルボキシ基を2個以上含有する化合物である。
【0050】
エチレン骨格を有する多価カルボン酸としては、例えばフマル酸又はマレイン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
ベンゼン骨格を有する多価カルボン酸としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸(p-H2BDC)、2,6-ナフタレンジカルボン酸、又は4,4’-ビフェニルジカルボン酸等が挙げられるが、これに限定されない。
【0052】
上述した中で、本開示にかかる有機配位子は、テレフタル酸及びフマル酸からなる群より選択される少なくとも1種の多価カルボン酸であることが好ましい。
【0053】
有機配位子の使用量は、工程(a)において、使用する金属イオンの量に合わせて適宜に調整することができる。例えば、金属イオンと有機配位子とのモル比(金属イオン:有機配位子)は、1:0.25~1:2.0、1:0.5~1:2.0、1:0.7~1:1.5、1:0.8~1:1.2、1:0.9~1:1.1、又は約1:1であってよい。」
ク「【0056】
〈比較例1〉
従来のソルボサーマル合成法を用いて、比較例1を行った。
【0057】
より具体的には、100mLのPTFE製容器(HUT-100、三愛科学株式会社製)に387mg(1.2mmol)のZrOCl2・8H2O、199mg(1.2mmol)のp-H2BDC、10mLの酢酸、及び30mLのDMFを加えた。このPTFE製容器を耐圧ステンレス製の外筒(HUS-100、三愛科学株式会社製)に入れて130℃で48時間加熱した。反応停止後、生成物をろ過し、10mLのDMFで3回、10mLのエタノールで3回洗浄した。そして、10-1Pa以下に減圧しながら60℃で一晩加熱して乾燥することによって、比較例1の生成物を得た。
・・・
【0061】
〈比較例5〉
比較例1の操作において、ZrOCl2・8H2O及びp-H2BDCの使用量を、それぞれ3,867mg(12mmol)及び1,994mg(12mmol)に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例5の生成物を製造した。
・・・
【0064】
〈実施例1〉
本開示の製造方法を用いて、実施例1を行った。
【0065】
より具体的には、100mLのPTFE製容器(HUT-100、三愛科学株式会社製)に3,867mg(12mmol)のZrOCl2・8H2O、20mLの酢酸、及び20mLのDMFを加えた。このPTFE製容器を耐圧ステンレス製の外筒(HUS-100、三愛科学株式会社製)に入れて130℃で48時間加熱した。その後、生成物中に1,994mg(12mmol)のp-H2BDCを加えて、混合させた。そして、室温にて一晩静置した。得られた生成物をろ過し、10mLのDMFで3回、10mLのエタノールで3回洗浄した後、10-1Pa以下に減圧しながら60℃で一晩加熱して、乾燥することによって、実施例1の生成物を得た。
・・・
【0096】
〈結果及び考察〉
上述した各実施例、参考例、及び比較例の詳細は、表1に示す。また、実施例1及び2、参考例7及び8、並びに比較例1及び2のデータをまとめたX線回折図は、図2に示し、また、比較例1~6のデータをまとめたX線回折図は、図3に示す。
【0097】
【表1】
[図:0001388423000001.jpg]
【0098】
X線回折測定の結果では、本開示の実施例1~4の生成物は、いずれも目的のMOFのX線回折ピークが得られて、すなわち、実施例1~4では、MOFを製造することができた。
【0099】
金属イオン濃度30mmol/Lであった比較例1及び2では、目的のMOF(Zr-BDC、通称:UiO-66)のX線回折ピークが得られた。金属イオン濃度120mmol/Lであった比較例3及び4では、目的のMOF以外に異相のX線回折ピークが見られた。また、金属イオン濃度300mmol/Lであった比較例5及び6では目的のMOFのX線回折ピークは消失している。これらの結果から、ソルボサーマル合成法(従来法)を用いてMOFを製造する場合、合成条件を高濃度化することは困難であると考えられる。
【0100】
これらに対して、例えば本開示の実施例1及び2は、比較例5及び6と同様の金属イオン濃度(300mmol/L)を用いたにも関わらず、目的のMOFのX線回折ピークが得られている。これらの結果から、本開示の製造方法では、金属イオンを従来よりも高濃度化しても、目的のMOFを製造することができることが分かった。
【0101】
また、金属イオンとしてハフニウムイオンを用いた参考例7及び8では、目的のMOFを製造することができることが分かった。
【0102】
また、酢酸又はギ酸の代わりにトリフルオロ酢酸を用いた比較例7は、MOFを製造することができなかった。これは、トリフルオロ酢酸のpKa値(-0.25)が小さすぎるため、有機配位子とトリフルオロ酢酸とが共存する場合、有機配位子の脱プロトン化が起こりにくく、その結果、金属クラスターと有機配位子との配位結合が形成されず、MOFを製造できなかったと考えられる。
【0103】
また、酢酸及びギ酸からなる群より選択される少なくとも1種類のモノカルボン酸を使用していない比較例10、並びに溶媒を使用していない比較例9は、いずれもMOFを製造することができなかった。」
ケ「【図1】
[図:0001388423000002.jpg]
」
(4)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比とサポート要件の判断
(4-1)本件発明の解決すべき課題について
上記摘記ア及びイ並びに本件明細書全体によると、本件発明の解決すべき課題は、金属有機構造体(MOF)を製造する場合に、低濃度の金属イオンでしか行えなかった問題、すなわち、大量の溶媒が必要となり、それに伴って、加熱等に必要なエネルギーや後処理に必要なエネルギーが増えてしまうという生産コストがかかるという問題を解決し、従来よりも高濃度の金属イオンを用いたMOFの製造方法を提供することと認められる。
(4-2)本件発明1について
・反応経路に関する推測に関して
上記摘記ウ及びケによると、2つの反応経路(経路A及び経路B)において、経路Bで、MOFが生成することは困難であるので、実際には、MOFの生成は経路Aによって生じていると考えられるところ、高濃度の有機配位子は、優先的に金属イオンと配位結合する、すなわち、経路Bの(B-1)の反応が優先的に起こる結果、高濃度の金属イオン及び高濃度の有機配位子を用いる場合、MOFを生成することは、困難であったと推測されるとの反応経路に関する推測の記載がある。
・本件発明の機構に関して
上記摘記ウによると、本件発明の機構に関し、本件発明は、4価のジルコニウムイオン(Zr4+)、ハフニウムイオン(Hf4+)、及びセリウムイオン(Ce4+)からなる群より選択される少なくとも1種の金属イオンを高濃度に用いても、経路Aの(A-1)の反応に相当する金属クラスター溶液を提供する工程(a)と、工程(a)に続く工程(b)において有機配位子を混合することで、MOFを製造するものである。
すなわち、特定の工程(特定の材料を伴う。)により、高濃度の金属イオンを用いても、経路Bではなく経路Aを経ることで、MOFを製造できる方法が明らかされたものといえる。
・有機配位子と溶媒に関して
上記摘記オ及びキによると、有機配位子は、「金属イオンと配位結合することによってMOFを形成できるものであれば、特に限定されない」とされ、溶媒は、「特に限定されず、通常の有機配位子に対する溶解力が高い観点から、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N-ジエチルホルムアミド(DEF)からなる群より選択される少なくとも1種類のアミド系溶媒であることが好ましい」とされており、それらの記載を参考にすれば、有機配位子は、金属イオンとの配位結合によってMOFを形成でき、溶媒は有機配位子に対する溶解力が高ければ良いものと理解される。そして、この範囲で溶媒と有機配位子を選択すれば、上述したように、高濃度の金属イオンを用いても、経路Bではなく経路Aを経てMOFが製造でき、本件発明の課題を解決できることは、当業者が十分に理解できるといえる。
・実施例の記載に関して
上記摘記クによると、例えば、高濃度金属イオンを用いた具体的実験例において、1つの工程で混合後に加熱している比較例5がMOFを生成できなかったのに対して、工程(a)及び(b)を有する本件発明1の実施例1はMOFを生成できていることから、本件発明の課題を解決できることが具体的に確認されている実施例もある。さらに、低濃度金属イオンを用いてMOFが生成できる材料の選択であれば、本件発明1にも適用できるといえるところ、Hfを金属イオンとする場合やH2Fum(フマル酸)を有機配位子とする場合でもMOFを生成できた参考例が記載されており、本件発明の溶媒、有機配位子及び金属イオン等の材料選択は、実施例に限定されるものではないことが把握できる。
以上により、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるといえるし、かつ、発明の詳細な説明に記載される金属有機構造体の製造方法において、特定の工程(a)及び(b)を含むことで、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、請求項1の記載は明細書のサポート要件に適合するといえる。
(4-3)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を直接的又は間接的に引用したものであって、本件発明2は、本件発明1の方法において金属イオンと有機配位子のモル比を特定したものであり、本件発明3は、本件発明1又は2の方法において金属イオンに対するモノカルボン酸の使用量を特定したものであり、本件発明4は、本件発明1~3の方法において有機配位子を更に特定したものであり、本件発明5は、本件発明1~4の方法において金属イオンの濃度を特定したものであり、本件発明6は、本件発明1~5の方法において溶媒を更に特定したものであり、本件発明7は、本件発明1~6の方法において工程(a)の加熱の温度を特定したものであり、本件発明8は、本件発明1~7の方法において工程(b)の温度を特定したものである。
そうすると、本件発明2~8の当該特定について、それぞれ、上記摘記キ、エ、キ、ウ、オ、カ及びカにはそれらの関連事項が記載されているし、上記摘記ケの具体的な例の記載や上記(4-2)の理由も考慮すると、本件発明2~8は発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
(5)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書において、主に次のように主張している。
甲1の(1a)及び(1b)並びに甲2(2a)には、有機配位子を溶媒に溶解して製造することについて記載され、甲3の(3a)によると、テレフタル酸がDMF以外の溶媒に対して不溶性であることについて記載されている。
また、本件特許出願後に作成された甲4の(4a)及び(4b)には、本件明細書の実施例1の溶媒DMFをエタノール又は水に代えて、MOFを合成しようとしても合成できなかったことについて記載されている。
申立人は、上記記載を指摘し、金属有機構造体を製造する場合、有機配位子を溶媒に溶解して製造すること、及び、テレフタル酸がDMF以外の溶媒に対して不溶性であることが出願時の技術常識であるから、「溶媒」及び「有機配位子」が、それぞれ、実施例で示されている「DMF」及び「テレフタル酸(p-H2BDC)」に限定されていない本件発明のうち、実施例以外の本件発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。
イ しかしながら、上記(4-2)で述べたとおり、本件発明において、有機配位子は、金属イオンとの配位結合によってMOFを形成でき、溶媒は有機配位子に対する溶解力が高ければ良いものと理解されるものである。そして、上記摘記(3)キによると、有機配位子として、テレフタル酸以外にも、フマル酸又はフタル酸等のエチレン骨格又はベンゼン骨格を有する多価カルボン酸等が例示され、これらの有機配位子が金属イオンとの配位結合によってMOFを形成できることは、当業者が十分理解できる事項であり、上記摘記(3)オによると、溶媒は特に限定されないものであって、有機配位子を溶解するのであれば、DEF等のアミド系溶媒等が使用できるものである。また、上記(1a)及び(2b)には、それぞれ、「組み上がる構造と発現する機能を予想して、架橋配位子と金属イオンの組み合わせを選択する。・・・用いる架橋配位子と金属イオンを決定すれば、目的の形態のPCPが生成するような条件を探索することになる。」及び「金属イオンと有機配位子の組み合わせによって,骨格構造のバリエーションは無数に存在し,数えきれないほどの化合物が報告されている。金属イオンの配位数と有機配位子の配位形態を考慮することによって,合成前にでき上がりのフレームワーク構造を予測することが可能である。」と記載されており、どのような有機配位子を用いるとMOFを生成できるのかは、本件明細書の機構等の記載及び具体例の記載並びに技術常識を考慮すれば、当業者が最終的に使用可能なものを具体的に選択できるといえる。
そうすると、本件発明は、金属有機構造体の製造方法において、特定の工程(a)及び(b)を含むことで、本件発明の課題を解決したものであって、「溶媒」及び「有機配位子」が、それぞれ、「DMF」及び「テレフタル酸」以外の場合でも、何らかの程度の違いはあっても一定程度本件発明の課題を解決できることは、当業者が認識できる事項であり、上記申立人の主張は採用できない。
(甲3には、テレフタル酸がDMF以外の溶媒に対して不溶性であることが記載されているのではなく、テレフタル酸が「アセトン、エタノール、酢酸、エーテル」に対して常温常圧で不溶であることが記載されているにすぎず、甲4に記載の実験結果は、上記摘記オに記載の溶媒の選択手法に沿わない溶媒(有機配位子を十分に溶解しない溶媒)をわざわざ選択しているものであるから、この場合にMOFを生成できなかったことが、本件発明のサポート要件の判断に影響するものではない。)
(6)理由1のまとめ
以上のとおり、申立人が主張する理由1によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
2(理由2)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断の前提
物を生産する方法の発明における発明の「実施」とは、その方法の使用をする行為等をいう(特許法第2条第3項第3号及び同第2号)から、特許法第36条第4項第1号の「その実施をすることができる」(実施可能要件)とは、その方法により物を生産できることである。したがって、物を生産する方法の発明については、明細書の記載又はその示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者がその方法によってその物を生産することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。
(2)検討
上記1(3)に示した事項が本件明細書には記載され、上記1(4-1)で検討したとおり、「反応経路に関する推測に関して」、「本件発明の機構に関して」、「有機配位子と溶媒に関して」及び「実施例の記載に関して」によると、4価のジルコニウムイオン、ハフニウムイオン及び/又はセリウムイオンの金属イオンの濃度が300mmol/L以上という高金属イオン濃度であっても、(a)金属イオン、酢酸及びギ酸からなる群より選択される少なくとも1種類のモノカルボン酸、及び溶媒を含有している原料溶液を、加熱して、金属クラスターを含有している金属クラスター溶液を提供し、ついで、(b)前記金属クラスター溶液に有機配位子を混合することで、金属有機構造体を生産できるといえるものである。
すなわち、金属イオン、モノカルボン酸、溶媒、金属イオン濃度又は有機配位子といった本件発明の特定事項に関する記載及び特許請求の範囲に対応した実施例の記載並びに技術常識を参考にした上で、「溶媒」及び「有機配位子」を含めた材料の選択は、金属有機構造体の構造又は溶解性に応じて、当業者が最終的に使用可能なものを具体的に選択できるのであるから、本件発明について、当業者は本件発明の方法によって、その物を生産することができるといえる。
したがって、本件明細書は、当業者が本件発明について実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(3)申立人の主張について
申立人は、上記1(5)アと同様の理由により、本件発明は、「溶媒」及び「有機配位子」が特定されていないから、当業者であっても、本件発明を実施できない旨の主張をしている。
しかしながら、上記2(2)及び上記1(5)イに示したとおり、「溶媒」及び「有機配位子」が、それぞれ、「DMF」及び「テレフタル酸」に特定されていないとしても、「溶媒」及び「有機配位子」を始めとする材料の選択は、金属有機構造体の構造又は溶解性に応じて、当業者が最終的に使用可能なものを具体的に選択できるのであるから、本件発明において、金属有機構造体を当業者が生産できないとはいえない。
(4)理由2のまとめ
以上のとおり、申立人が主張する理由2によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700404