特許異議申立
2026-700078
無水酢酸ナトリウム粒子群およびその製造方法
- 審判番号
- 2026-700078
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-081590
- 登録番号
- 7713767
- 請求日
- 2026年01月27日
- 審決日
- 2026年03月30日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】西藤 征彦
- 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
- 【権利者代理人】西藤 優子
- 【権利者代理人】寺尾 茂泰
- 【異議申立人】エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル 株式会社
- 【異議申立人代理人】松山 美奈子
- 審判長/審判官
- 審判長 阪野 誠司
- 審判官 江間 正起
- 審判官 小石 真弓
- 分類
- P1651.536-Y (C07C) / P1651.537-Y (C07C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7713767号発明「無水酢酸ナトリウム粒子群およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7713767号の請求項1及び2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7713767号(以下「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成31年4月23日(優先権主張 平成30年4月24日)に出願され、令和7年7月17日に特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1及び2に係る発明の特許に対し、令和8年1月27日に、エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」及び「本件発明2」といい、合わせて「本件発明」ともいうことがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記の式(1)に示す値が2.5%以下であり、メジアン径が280μm以上500μm以下であり、嵩密度が0.75g/mL以上である無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法であって、
水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程と、上記缶内の酢酸ナトリウム水溶液を濃縮する工程とを備え、
上記濃縮する工程における、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速を1.0~6.0m/sとすることを特徴とする無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法。
{無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRa(μm)/無水酢酸ナトリウム粒子の厚みd(μm)}×100 ……(1)
(上記式(1)において、dは、無水酢酸ナトリウム粒子を平面上に最も安定する状態で置いた際の高さを示す。上記式(1)において、測定に使用される無水酢酸ナトリウム粒子の大きさとしては、長軸と短軸の平均長さが400~900μmのものを選択する。)
【請求項2】
水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程と、上記缶内の酢酸ナトリウム水溶液を濃縮する工程とを備え、
上記濃縮する工程における、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速を1.0~6.0m/sとする方法によって製造された無水酢酸ナトリウム粒子群であり、
前記無水酢酸ナトリウム粒子群が、下記の式(1)に示す値が2.5%以下であり、メジアン径が280μm以上500μm以下であり、嵩密度が0.75g/mL以上であることを特徴とする無水酢酸ナトリウム粒子群。
{無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRa(μm)/無水酢酸ナトリウム粒子の厚みd(μm)}×100 ……(1)
(上記式(1)において、dは、無水酢酸ナトリウム粒子を平面上に最も安定する状態で置いた際の高さを示す。上記式(1)において、測定に使用される無水酢酸ナトリウム粒子の大きさとしては、長軸と短軸の平均長さが400~900μmのものを選択する。)」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)~(3)に示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張している。申立理由の概要は、申立書の記載全体からみて、以下のとおりであると認められる。
1 申立理由1(サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件請求項1及び2に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件請求項1及び2に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件請求項1及び2に係る特許は、同法第36条第4項の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
当審合議体は、本件請求項1及び2に係る特許は、申立人が申し立てた申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の詳細な説明の記載
本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明(以下「本件発明の詳細な説明」という。)には、以下の事項が記載されている。
摘記a:
「【0001】
本発明は、無水酢酸ナトリウム粒子の集合体である無水酢酸ナトリウム粒子群、およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、その粒子表面が滑らかなことに起因して、嵩密度が大きく、各種用途に有用な、無水酢酸ナトリウム粒子群およびその製造方法に関するものである。
・・・
【0006】
しかしながら、かかる方法で得られる無水酢酸ナトリウム粒子群の嵩密度は、通常、0.70g/mL前後と小さい。そのため、先に述べたような、嵩密度の大きな無水酢酸ナトリウム粒子群の利点は得られていない。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
・・・
しかしながら、上記特許文献3に記載の方法をもってしても、無水酢酸ナトリウム粒子群の嵩密度を0.80g/mL前後まで上昇させるのが限界である。また、上記特許文献3に記載の方法では、無水酢酸ナトリウムの粉粒体と溶媒を混合する工程及びの混合物を乾燥する工程の両方の工程で、無水酢酸ナトリウム粒子の角が削られ、150μmの目開きの篩を通過する微粒子が多数生成し、取り扱い性が低下する。そのため、嵩密度の向上と微粒子量の低減との両立がなされた無水酢酸ナトリウム粒子群に対するニーズは高く、そのニーズに応えるため、更なる改善が求められる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、嵩密度が大きく、更に微粒子量が少なく、そのことに起因して各種用途に有用な、無水酢酸ナトリウム粒子群およびその製造方法を提供する。」
摘記b:
「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、本発明者らは、より一層無水酢酸ナトリウム粒子群の嵩密度を高めるには、無水酢酸ナトリウム粒子の表面が滑らかな状態となるよう表面粗さを抑えることが重要であるとの観点から、無水酢酸ナトリウム粒子の表面粗さ率に着目した。ここで、無水酢酸ナトリウム粒子の表面粗さ率とは、下記の式(1)に示す値をいう。
【0012】
{無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRa(μm)/無水酢酸ナトリウム粒子の厚みd(μm)}×100 ……(1)
【0013】
なお、上記式(1)において、dは、無水酢酸ナトリウム粒子を平面上に最も安定する状態で置いた際の高さを示し、無水酢酸ナトリウム粒子の大きさと相関する指標である。
また、上記式(1)に示す無水酢酸ナトリウム粒子の表面粗さ率は、無水酢酸ナトリウム粒子の表面粗さと厚みの相関を考慮したものであり、粒子の大きさが極端に大きくなると表面粗さ率が相対的に小さくなってしまうため、表面粗さに対し厚みによる比率を算出したものである。
【0014】
そして、上記のようにして算出される無水酢酸ナトリウム粒子の表面粗さ率を、任意に選択された少なくとも5個の無水酢酸ナトリウム粒子に対して測定し、その平均を算出した値(結晶粒子の表面粗さ率の平均)が、2.5%以下であると、良好に嵩密度を上げ、微粒子率も小さくなることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、下記の式(1)に示す値の平均値が2.5%以下である無水酢酸ナトリウム粒子群を、第一の要旨とする。
{無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRa(μm)/無水酢酸ナトリウム粒子の厚みd(μm)}×100 ……(1)
(上記式(1)において、dは、無水酢酸ナトリウム粒子を平面上に最も安定する状態で置いた際の高さを示す。)
【0016】
また、本発明は、上記第一の要旨の無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法であって、
水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程と、
上記缶内の酢酸ナトリウム水溶液を濃縮する工程とを備え、
上記濃縮する工程における、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速を1.0~6.0m/sとする無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法を、第二の要旨とする。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群は、上記式(1)に示す値の平均が2.5%以下である。そのため、従来よりも嵩密度の大きな無水酢酸ナトリウム粒子群とすることができ、添加対象となる製品の体積を小さくすることに寄与することができる。また、上記のように嵩密度を大きくすることができ、更には微粒子率も小さいことから、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群は、運搬、貯蔵、管理等の観点からも有用である。そして、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群は、日持ち向上剤、酸味料、pH調整剤等の食品添加物や、試薬、血液透析液の粉末製剤等の医薬品用途として有用である。
【0018】
特に、上記無水酢酸ナトリウム粒子群の嵩密度が0.75g/mL以上であると、従来の無水酢酸ナトリウム粒子群よりも嵩密度が大きいことから、より一層、添加対象となる製品の体積を小さくすることに寄与することができ、さらに、運搬、貯蔵、管理等の観点から、より一層有用である。
【0019】
また、150μmの目開きの篩を通過する無水酢酸ナトリウム微粒子群の割合が5重量%以上25重量%以下であると、無水酢酸ナトリウム粒子群を用いた製剤の製造時に舞い上がる微粉の量を少なくしつつ、嵩密度を良好に上昇させることが出来る。
【0020】
さらに、上記無水酢酸ナトリウム粒子群における粒度分布の標準偏差が300μm以下であると、輸送中の振動等により偏析が発生する等の問題を解消することができる。
【0021】
また、上記無水酢酸ナトリウム粒子群におけるメジアン径が280μm以上500μm以下であると、食品添加物製剤として使用されるグリシン等、他の原料と粒子径が近いことから混合性がよく、また食品添加物製剤とした後の偏析の発生を抑制することができる。
【0022】
そして、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法は、水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程と、上記缶内の酢酸ナトリウム水溶液を濃縮する工程とを備え、上記濃縮する工程における、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速を1.0~6.0m/sとする。このような製造方法によって、無水酢酸ナトリウム粒子群を製造すると、先に述べたような優れた作用効果を奏する本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群を、効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0024】
本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群は、下記の式(1)に示す値の平均値が2.5%以下である。本発明において、「粒子群」とは、粒子の集合体を意味するものである。同様に、「微粒子群」とは、微粒子の集合体を意味するものである。
そして、本発明の作用効果の観点から、下記の式(1)に示す値の平均は、好ましくは0.1~2.0%であり、より好ましくは0.3~1.8%、更に好ましくは0.6~1.6%である。
【0025】
{無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRa(μm)/無水酢酸ナトリウム粒子の厚みd(μm)}×100 ……(1)
(上記式(1)において、dは、無水酢酸ナトリウム粒子を平面上に最も安定する状態で置いた際の高さを示す。)
【0026】
ここで、上記「無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRa」は、JIS B 0601:2001に記載の算術平均粗さRaであり、無水酢酸ナトリウム粒子表面に対し、50μm四方の範囲で、無水酢酸ナトリウム粒子一粒あたり10箇所の表面粗さを測定し、その平均値を求めた値である。
また、「無水酢酸ナトリウム粒子の厚みd」とは、上記のように、無水酢酸ナトリウム粒子を平面上に最も安定する状態(転がらない状態)で置いた際の高さを示すものである。なお、転がりの安定性が同程度の面が無水酢酸ナトリウム粒子に複数存在する場合は、その状態で置いた際に上記のようにして測定した高さのなかから、最も低いものを、上記厚みdとする。
そして、上記式(1)に示す値が小さい程、無水酢酸ナトリウム粒子の表面に存在する空隙が、当該無水酢酸ナトリウム粒子の厚みに対して小さく、より表面が滑らかな無水酢酸ナトリウム粒子であることを示している。
【0027】
上記式(1)に示す値は、無水酢酸ナトリウム粒子の大きさと厚みの相関を考慮したものであり、粒子の大きさが極端に大きくなると、表面粗さが相対的に小さくなってしまうため、表面粗さの厚みに対する比率を算出したものである。
また、比較に際し、無水酢酸ナトリウム粒子の大きさが極端に大きいと、上記式(1)に示す値(表面粗さ率)が相対的に小さくなってしまうため、上記測定に使用される無水酢酸ナトリウム粒子の大きさとしては、長軸と短軸の平均長さが400~900μmのものを選択する。
そして、上記式(1)に示す値は、任意に選択された少なくとも5個の無水酢酸ナトリウム粒子に対して測定し、その値を平均したものである。
【0028】
なお、上記無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRaの測定は、例えば、形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス社製、VX-9710(測定長:1mm、対物レンズ:10倍))等を用いて行うことができる。
また、上記無水酢酸ナトリウム粒子の厚みdの測定も、例えば、形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス社製、VX-9710(測定長:1mm、対物レンズ:10倍))等を用いて行うことができる。
【0029】
また、本発明においては、無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRaが、0.01~10μmであることが好ましく、特に好ましくは0.1~5μm、更に好ましくは1~3μmである。
更に、無水酢酸ナトリウム粒子の厚みdとしては、通常10~500μmであり、好ましくは20~400μm、特に好ましくは50~300μmである。
【0030】
ところで、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群の嵩密度は、0.75g/mL以上であることが好ましく、より好ましくは0.80~1.5g/mL、さらに好ましくは0.85~1.0g/mLの範囲である。すなわち、このように嵩密度が大きいと、添加対象となる製品の体積を小さくすることに寄与することができ、さらに、運搬、貯蔵、管理等の観点から、より一層有用だからである。
【0031】
なお、本発明において、嵩密度は、JIS K 6891に示されるような見掛け嵩密度測定装置にて測定されるものであり、例えば、嵩密度測定器(蔵持科学器械製作所社製)を用いて、100mLの容器へ無水酢酸ナトリウム粒子群を上方から落下させ、あふれ出た粉体をすりきり、内容物の重量から嵩密度を算出することができる。
【0032】
また、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群において、150μmの目開きの篩を通過する無水酢酸ナトリウム微粒子群の割合(微粒子率)が5重量%以上25重量%以下であると、無水酢酸ナトリウム粒子群を用いた製剤の製造時に舞い上がる微粒子の量を少なくしつつ、嵩密度を良好に上昇させることが出来るため、好ましい。上記150μmの目開きを通過する無水酢酸ナトリウム微粒子群の割合は、より好ましくは6~20重量%であり、更に好ましくは7~15重量%である。
・・・
【0037】
また、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群は、メジアン径が280μm以上500μm以下であると、例えば食品添加物製剤として使用されるグリシン等他の原料と粒子径が近いことから混合性がよく、また食品添加物製剤とした後の偏析の発生を抑制することができるため、好ましい。上記無水酢酸ナトリウム粒子群のメジアン径は、より好ましくは270~400μmであり、更に好ましくは290~350μmである。
なお、上記メジアン径とは、上記粒度分布を累積分布として表したデータを作成した際の、累積頻度が50%となる粒子径(μm)である。
【0038】
本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法としては、例えば、(i)水平撹拌軸型混合機で製造する方法、(ii)常法で得られた無水酢酸ナトリウムを乾燥状態で衝突粉砕し製造する方法、(iii)酢酸ナトリウム溶液を撹拌濃縮する工程で、研磨剤を投入し、製造する方法等が挙げられる。
中でも、(i)の方法が、無水酢酸ナトリウム粒子の表面粗さが小さくなるため好ましい。
【0039】
そして、とりわけ、水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程と、上記缶内の酢酸ナトリウム水溶液を濃縮する工程と、を備え、上記濃縮する工程における、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼を、その周速が1.0~6.0m/sとなるよう駆動させる、無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法が、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群を製造するうえで、より効果的である。なお、上記撹拌翼の周速は、より好ましくは1.5~5.0m/s、更に好ましくは2.0~4.5m/sである。
【0040】
ここで、「水平撹拌軸型混合機」とは、その缶内に投入された原料および取得物を撹拌する上で使用する撹拌軸が水平方向に配置され、撹拌軸に対する鉛直方向に撹拌用の撹拌翼が設置されている混合機のことであり、横型のドラム形状で両端の二点で撹拌軸を支えていることが特徴である。そのため、ドラム自体が傾いている場合もあるが、撹拌軸に対する力学的な負荷を考慮し、通常、ドラムおよび撹拌軸が水平に設置されている。
上記水平撹拌軸型混合機としては、具体的には、例えば、レーディゲ社製の「レーディゲミキサー」、ツカサ工業社製の「パウミキサー・コニカル横型」、太平洋機構社製の「パムアペックスミキサ」、アイシン産業社製の「リボンミキサー」等が挙げられる。また、乾燥機として分類される、奈良機械社製の「パドルドライヤー」等も、同様の機能を有するため、上記水平撹拌軸型混合機として使用することができる。
また、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼としては、アンカー翼、タービン翼、パドル翼、ピッチドパドル、リボン翼、すき状ショベル、のこ歯状ショベル、ベッカーショベル、といった撹拌翼が用いられる。中でも、すき状ショベルまたはベッカーショベルを備える水平撹拌軸型混合機が、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群を効率的に製造することができる観点から、好ましく用いられる。
【0041】
上記水平撹拌軸型混合機の缶内に投入される原料としては、酢酸ナトリウム水溶液が使用される。ここで、上記酢酸ナトリウム水溶液は、水中に酢酸ナトリウム(あるいは酢酸ナトリウム三水和物)が混合されたものである。なお、上記酢酸ナトリウム水溶液に代えて、酢酸ナトリウムや酢酸ナトリウム三水和物と、水とを、個々に上記缶内に投入してもよい。」
摘記c:
「【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
水平撹拌軸型混合機(型式FM130D;マツボー社製(製造元;レーディゲ社))の缶内に、酢酸ナトリウム三水和物(日本合成化学工業社製)を70kg、水を4.1kg仕込み、加熱溶解し、濃度57重量%の酢酸ナトリウム水溶液を調製後、二酢酸ナトリウム0.084kgを添加して、上記水溶液のpHを7.6に調整した。
続いて、上記缶内の蒸気温度が110℃、上記缶内の酢酸ナトリウム水溶液の温度が90~110℃に維持されるように温度を調整して、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速(撹拌周速)を4.2m/sに設定し、濃縮・乾燥を行った。このようにして、無水酢酸ナトリウム粒子群を得た。
【0050】
[実施例2]
実施例1における、濃縮・乾燥時の水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速(撹拌周速)を2.9m/sにし、濃縮・乾燥を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、無水酢酸ナトリウム粒子群を得た。
【0051】
[実施例3]
実施例1における、濃縮・乾燥時の缶内の蒸気温度を130℃にし、濃縮・乾燥を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、無水酢酸ナトリウム粒子群を得た。
【0052】
[比較例1]
鉛直撹拌軸型晶出機(DP型:型式φ250DP晶出機;月島機械社製)の缶内に、70℃に加熱した濃度57重量%の酢酸ナトリウム水溶液を仕込み、撹拌周速3.9m/s、缶内温度約80℃、缶内圧力約24kPaGとなるよう温度、圧力を調整して濃縮し結晶を析出させた。その後、滞留時間約1.5時間、スラリー濃度30重量%となるように原料を連続で仕込み、晶析した無水酢酸ナトリウム粒子を含むスラリーを抜き出し、抜き出したスラリーを遠心分離機で固形分と溶液に分離し、無水酢酸ナトリウム粒子群と水の混合物(揮発分率4.2重量%)を得た。
得られた無水酢酸ナトリウム粒子群と水の混合物を、真空乾燥機(型式DP-32;ヤマト科学社製)にて、加熱温度80℃、1Pa以下の真空度で静置乾燥を行い、無水酢酸ナトリウム粒子群を得た。
【0053】
[比較例2]
比較例1と同様にして、無水酢酸ナトリウム粒子群と水の混合物(揮発分率3.3重量%)を得た。
得られた無水酢酸ナトリウム粒子群と水の混合物を、水平撹拌軸型乾燥機(パドルドライヤー:型式NPD-1.6W-12L;奈良機械製作所社製)へ6.8kg投入し、撹拌周速0.3m/s、加熱温度65℃、ガス流量6L/min・kgで50分間乾燥し、無水酢酸ナトリウム粒子群を得た。
【0054】
[比較例3]
撹拌周速を5.7m/s、滞留時間を3時間にすること以外は比較例1と同様にして、無水酢酸ナトリウム粒子群と水の混合物(揮発分率3.3重量%)を得た。
そして、得られた無水酢酸ナトリウム粒子群と水の混合物の乾燥工程を、加熱温度を70℃、ガス流量を9L/min・kg、乾燥時間を30分間に変更する以外は、比較例2と同様の条件で乾燥を行い、無水酢酸ナトリウム粒子群を得た。
【0055】
[比較例4]
鉛直撹拌軸型混合機(リボコーン:型式RM-100VD;大川原製作所社製)の缶内に、酢酸ナトリウム三水和物(日本合成化学工業社製)を135kg、水を7.8kg仕込み、二酢酸ナトリウム0.16kgを添加してpH調整した。
そして、上記缶内の蒸気温度を120℃、逆円錐形状における高さの中心での撹拌周速を1.5m/s、ガス流量を、0.5L/min・kg、にて缶内を撹拌混合することで、濃縮・乾燥を行い、無水酢酸ナトリウム粒子群を得た。
【0056】
このようにして得られた実施例および比較例の無水酢酸ナトリウム粒子群について、下記の基準に従い測定し、評価した。そして、それらの結果を、後記の表1に併せて示した。
【0057】
<表面粗さ率>
下記の式(1)に示す値(表面粗さ率(%))を、粒子径400~900μmの任意に選択された5個の無水酢酸ナトリウム粒子に対して測定した。そして、その値の平均を算出した。
なお、下記の無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRaの測定は、形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス社製、VX-9710(測定長:1mm、対物レンズ:10倍))を用いて、無水酢酸ナトリウム粒子表面に対し、50μm四方の範囲で、無水酢酸ナトリウム粒子一粒あたり10箇所の表面粗さを測定し、その平均値を求めることにより行った。
また、下記の無水酢酸ナトリウム粒子の厚みの測定も、形状測定レーザマイクロスコープ(キーエンス社製、VX-9710(測定長:1mm、対物レンズ:10倍))を用いて行った。
【0058】
{無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRa(μm)/無水酢酸ナトリウム粒子の厚みd(μm)}×100 ……(1)
(上記式(1)において、dは、無水酢酸ナトリウム粒子を平面上に最も安定する状態で置いた際の高さを示す。)
【0059】
<メジアン径>
目開き1000μm、500μm、355μm、250μm、150μm、106μm、75μmの篩(各篩の直径は200mm)を用い、電磁式篩振とう機(型式:AS-200;Retsch社製)で試料約100gを9分間振とうさせて分級し、それぞれの篩の上に残った試料の重量から、粒度分布を累積分布として表したデータを求め、その累積頻度が50%となる粒子径を、メジアン径(μm)とした。
【0060】
<微粒子率>
上記メジアン径測定時において、分級前の試料重量に対する、150μmの目開きの篩を通過した試料重量の合計の重量パーセント(wt%)を計算したものを、微粒子率とした。
【0061】
<粒度分布の標準偏差>
上記メジアン径測定時における、粒度分布を累積分布として表したデータから、累積頻度16%となる粒子径(μm)と、累積頻度84%となる粒子径(μm)とを求め、それらの値を、下記の式(2)に当てはめることにより、上記粒度分布の標準偏差(μm)を求めた。
【0062】
{(累積頻度16%となる粒子径)-(累積頻度84%となる粒子径)}/2 ……(2)
【0063】
<嵩密度>
嵩密度測定器(蔵持科学器械製作所社製)を用いて、100mLの容器へ無水酢酸ナトリウム粒子群を上方から落下させ、あふれ出た無水酢酸ナトリウムをすりきり、内容物の重量から嵩密度(g/mL)を算出した。
【0064】
【表1】
[図:0001435217000001.jpg]
【0065】
上記表1の結果から、実施例の無水酢酸ナトリウム粒子群は、その結晶粒子の表面粗さ率の平均値が2.5%以下である。そして、実施例の無水酢酸ナトリウム粒子群は、嵩密度が大きく、且つ微粒子率が小さい。
これに対して、比較例1および比較例4の無水酢酸ナトリウム粒子群は、その結晶粒子の表面粗さ率の平均値が2.5%を超えている。そして、比較例1および比較例4の無水酢酸ナトリウム粒子群は、実施例の無水酢酸ナトリウム粒子群よりも、嵩密度が小さい。
また、比較例2および比較例3の無水酢酸ナトリウム粒子群も、その結晶粒子の表面粗さ率の平均値が2.5%を超えている。そして、比較例2および比較例3の無水酢酸ナトリウム粒子群は、嵩密度は実施例の無水酢酸ナトリウム粒子群と同程度であるものの、微粒子率が高く、微粉の多いものである。
これらのことから、実施例の無水酢酸ナトリウム粒子群は、比較例の無水酢酸ナトリウム粒子群よりも、添加対象となる製品の体積を小さくすることに寄与することができ、更に無水酢酸ナトリウム粒子群を用いた製剤の製造時に舞い上がる微粉の量を少なくしつつ、嵩密度を良好に上昇させることが出来ることがわかる。また、上記のように、実施例の無水酢酸ナトリウム粒子群は、比較例の無水酢酸ナトリウム粒子群よりも嵩密度が大きく、微粒子率が小さいことから、運搬、貯蔵、管理等の観点からも有用である。」
(3)本件発明の課題
本件発明の解決しようとする課題は、本件発明の詳細な説明(特に【0010】(摘記a))の記載からみて、「嵩密度が大きく、更に微粒子量が少なく、そのことに起因して各種用途に有用な、無水酢酸ナトリウム粒子群およびその製造方法を提供する」ことであると認められる。
(4)判断
本件発明の詳細な説明には、上記課題を解決するために、「より一層無水酢酸ナトリウム粒子群の嵩密度を高めるには、無水酢酸ナトリウム粒子の表面が滑らかな状態となるよう表面粗さを抑えることが重要であるとの観点から、無水酢酸ナトリウム粒子の表面粗さ率に着目した」ことが記載され(【0011】)、本件発明1の式(1)にて規定される値(以下、本件発明1の式(1)にて規定される値を「表面粗さ率」ということがある。)が、「2.5%以下であると、良好に嵩密度を上げ、微粒子率も小さくなることを見出し、本発明を完成した」ことが記載されている(【0014】)。
そして、「本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法としては、例えば、(i)水平撹拌軸型混合機で製造する方法・・・が挙げられる。中でも、(i)の方法が、無水酢酸ナトリウム粒子の表面粗さが小さくなるため好ましい」(【0038】)、「とりわけ、水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程と、上記缶内の酢酸ナトリウム水溶液を濃縮する工程と、を備え、上記濃縮する工程における、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼を、その周速が1.0~6.0m/sとなるよう駆動させる、無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法が、本発明の無水酢酸ナトリウム粒子群を製造するうえで、より効果的である」ことが記載され(【0039】)、実施例においては、上記製造方法によって製造された、表面粗さ率0.9~1.5の無水酢酸ナトリウム粒子群の嵩密度が0.90~0.79(g/mL)であり、微粒子率が8.1~6.4(wt%)であることが示されている。
そうしてみれば、当業者は、上記表面粗さ率に着目し、上記製造方法により製造することによって、上記課題を解決できることを認識できるといえる。
それゆえ、表面粗さ率である「式(1)に示す値が2.5%以下」であることが特定され、「缶内の酢酸ナトリウム水溶液を濃縮する工程とを備え、上記濃縮する工程における、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速を1.0~6.0m/sとすること」が特定されている本件発明1の無水酢酸ナトリウム粒子群の製造方法、及び上記表面粗さ率と上記製造方法による特定を含む本件発明2の無水酢酸ナトリウム粒子群は、本件発明の詳細な説明に記載された発明であり、その記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
(5)申立人の主張について
申立人は、申立理由1に関し、以下ア~ウの主張をしている。しかしながら、以下で述べるとおり、申立人の主張は採用できない。
ア 本件発明の製造方法による微粒子量の低減について(申立書【取消理由1】(1))
特許権者は、令和5年3月31日提出の意見書(以下「意見書1」という。)及び令和7年3月19日提出の意見書(以下「意見書2」という。)において、メジアン径を特定したこと、及び水平撹拌軸型混合機を適切な周速で用いることをもって、微粒子の割合が低減される旨の主張をしているが、粒度分布の特定はないから、メジアン径が特定の範囲であるからといって、微粒子を大量に含む態様も包含されるものであり、また、以下の(ア)~(エ)で示す理由により、酢酸ナトリウム水溶液の濃縮を、水平撹拌軸型混合機を適切な周速で実施したからといって、微粒子量を少なくするという課題を解決できるものではない。
(ア)濃縮工程について
実施例1~3及び比較例1~4の製造条件を比較してまとめると以下のとおりとなる。
[図:0001435217000002.jpg]
上記表による比較によれば、実施例1~3及び比較例4は、酢酸ナトリウム水溶液の調製・濃縮・乾燥を同時に行っており、微粒子率が低く、比較例1~3は、濃縮及び乾燥を別の装置で行っており、比較例2及び3は、微粒子率が高くなっている。
そうすると、微粒子率を低下させるためには、濃縮と乾燥を同時に行う必要があることが示唆されているといえる。
(イ)濃縮工程における撹拌翼の周速について
特許権者は、意見書2において、比較例2は、水平撹拌軸型混合機を使用し、本件発明で特定した周速以下の速度で撹拌した例であるから微粒子率が高くなる旨の主張をしているが、比較例2の濃縮工程は、比較例1と同様に鉛直攪拌で、周速3.9m/sで行っており、速度が遅い工程は、乾燥工程であるから、特許権者の主張は失当である。
また、特許権者は、比較例3では、鉛直攪拌軸混合機での濃縮の周速が早いことから粒子の衝突が増加するが、水平撹拌軸型混合機のように掻き上げられることによる粒子の流動性の効果が得られないため、微粒子の接合・凝集による粒子の成長がなく、結果として微粒子率が高まる旨の主張をしているが、比較例3の濃縮工程は5.7m/s、すなわち本件発明の範囲内の周速であって、嵩密度は実施例3より高いから、水平攪拌軸の周速と、微粒子量が少なくなることの関連性をサポートしていない。
(ウ)比較例2及び3について
比較例2及び3は、濃縮工程を鉛直撹拌型晶析機で行い、乾燥工程を実施例とは異なる水平撹拌軸型乾燥機を用いて周速0.3m/sで行い、乾燥時の温度が70℃以下と低温である点で、実施例1~3、比較例1及び4と濃縮・乾燥条件が全く異なるものである。
(エ)水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速について
水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の外径が異なれば同じ周速でも濃縮・乾燥工程で酢酸ナトリウム水溶液及び粉末に与えられるエネルギーが異なり、表面粗さ率、嵩密度、メジアン径、粒度分布、微粒子率に大きな影響を与えることは当業者の技術常識であるから、水平撹拌軸型混合機を使用することとその周速のみを特定しただけでは、微粒子量が少なくなるとはいえない。
しかしながら、以下のとおり、申立人の主張は採用できない。
意見書1には、本件発明1の製造方法において、嵩密度が増加する理由として、
「すなわち、本願発明の無水酢酸ナトリウム粒子群を得るには、製造時の混合機内において、強く混合されている必要がありますが、水平撹拌軸混合機は・・・混合機に仕込んだ原料が掻き上げられるように撹拌されるため、従来知られた鉛直撹拌軸型混合機・・・のような撹拌機よりも仕込んだ原料をより強く混合することができます。
このように、掻き上げられて強く混合されることにより、表面が摩耗し、粒子表面が滑らかになることに起因して、無水酢酸ナトリウムの嵩密度を高めることができるため、本願発明で規定する表面粗さ率を満たす無水酢酸ナトリウム粒子群を得ることができるようになっています。」
と記載されている。
また、意見書2には、微粒子率が減少する理由として、
「微粒子率に関しては、水平撹拌軸型混合機を適切な周速で用いることで、発生する酢酸ナトリウム粒子が掻き上げられるため混合機内の流動性が高まります。
そのため、酢酸ナトリウムが濃縮・析出する過程において、生成された微粒子が別の酢酸ナトリウム粒子に入り込んだり、巻き込まれたりすることで、粒子同士が接合・凝集し、成長が促進されます。その結果、水平撹拌軸型混合機を適切な周速で用いた本発明の製造方法によって得られる無水酢酸ナトリウム粒子群は微粒子の割合が低減されます。」
と記載されている。
上記(4)で述べたように、表面粗さ率と製造方法による特定を含む本件発明は、本件発明の詳細な説明に記載された発明であり、その記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえるところ、これらの意見書1及び2の記載は、本件発明で特定される製造方法により、嵩密度が高く、微粒子量が少ない無水酢酸ナトリウム粒子群を得るという本件発明の課題を解決することができることを説明するものといえる。
そうしてみれば、本件発明には、「微粒子を大量に含む態様も包含される」とはいえない。
主張(ア)について
本件発明の詳細な説明には、濃縮及び乾燥を同時に行わなければ、微粒子率を低下させることができないということは記載されていないし、そのような技術常識があるとも解されない。
また、申立人の主張するとおり、本件実施例1~3及び比較例4は、濃縮及び乾燥を同時に行っていて微粒子率は低く(3.4~8.1wt%)、一方、比較例2及び3は、当該工程を別々に行っていて微粒子率は高い(28~30wt%)が、比較例1においては、濃縮及び乾燥を別工程(乾燥は真空乾燥)において行っているところ、微粒子率は6.1%と低くなっている。
よって、濃縮と乾燥を同時に行わなければ微粒子率を低下させることができないとは必ずしもいえない。
主張(イ)及び(ウ)について
申立人は、比較例2及び3の濃縮が鉛直攪拌軸型攪拌機で行われ、その周速が本件発明で特定される範囲内にあり、また、乾燥時の温度が65℃又は70℃と実施例1~3の温度より低いから、特許権者の主張はその前提が異なり、また、実施例とその比較条件が異なるから、本件発明が、本件発明の課題を解決しないと主張していると解される。
しかしながら、比較例2及び3は、その濃縮工程を鉛直攪拌軸型混合機で行っている点で、本件発明における「水平攪拌型混合機」で行う工程とは異なるから、その結果において、微粒子率が高かったことは、本件発明の詳細な説明との不整合はない。
また、比較例の製造条件が、実施例と、複数の点で異なるということは、本件発明が本件発明の課題を解決できないということの根拠にはならない。
主張(エ)について
水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の外径が異なれば同じ周速でも濃縮に対するエネルギーが異なることは理解できるが、本件発明の詳細な説明及びその実施例においては、水平攪拌軸型混合機の製品名や型番が開示されているから、同様の大きさや形状の攪拌翼を有する水平撹拌軸型混合機を使用すれば、無水酢酸ナトリウム微粒子群の微粒子率を低下させることができることを、当業者であれば認識できるといえる。
イ 「水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程」について(申立書【取消理由1】(2))
申立人は、本件発明において特定される工程は、「水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程」であるのに対し、実施例1~3は、粉末である酢酸ナトリウム三水和物と水とを仕込み、加熱溶解して、酢酸ナトリウム水溶液を調製したものであり、本件発明の実施態様ではないから、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明において、課題を解決できることが確認されているとはいえない旨主張している。
しかしながら、本件発明の詳細な説明【0041】(摘記b)には、
「上記水平撹拌軸型混合機の缶内に投入される原料としては、酢酸ナトリウム水溶液が使用される。ここで、上記酢酸ナトリウム水溶液は、水中に酢酸ナトリウム(あるいは酢酸ナトリウム三水和物)が混合されたものである。なお、上記酢酸ナトリウム水溶液に代えて、酢酸ナトリウムや酢酸ナトリウム三水和物と、水とを、個々に上記缶内に投入してもよい。」
と記載されており、酢酸ナトリウム水溶液の調製は缶内、缶外のいずれでも行うことができることが記載されている。そして、上記意見書1及び2の記載のとおり、嵩密度を増加させ、微粒子率を減少させるためには、濃縮工程において、水平撹拌軸型混合機において、適切な周速で濃縮することが必要であると解される。
したがって、実施例1~3が、「水平撹拌軸型混合機の缶内に、原料となる酢酸ナトリウム水溶液を投入する工程」を有していないことをもって、本件発明が、本件発明の課題を解決できないとはいえない。
ウ 表面粗さ率と本件発明の課題の関係について(申立書【取消理由1】(3))
申立人は、以下の(ア)及び(イ)の理由により、出願時の技術常識に照らしても、請求項1~2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない旨主張している。
(ア)比較例2及び3の無水酢酸ナトリウム粒子群は、嵩密度は本件発明の範囲内であるが表面粗さ率が本件発明の範囲外であり、比較例1及び4の無水酢酸ナトリウム粒子群は、微粒子率は本件発明の範囲内であるが、表面粗さ率が本件発明の範囲外であるから、表面粗さ率と、嵩密度及び微粒子率の相関関係が不明である。
(イ)実施例1~3の表面粗さ率は0.9~1.5%なので、2.5%以下(2.5~1.5)で、嵩密度が0.75g/mL以上を達成できるとは限らない。
しかしながら、上記(4)で述べたように、表面粗さ率と製造方法による特定を含む本件発明は、本件発明の詳細な説明に記載された発明であり、その記載により当業者は本件発明の課題を解決できると認識できるといえるところ、本件発明は、これらの特定に加え、「嵩密度」を特定するものである。そして、本件発明の無水酢酸ナトリウム粒子群は、表面粗さ率が「2.5%以下」であり、かつ嵩密度が「0.75g/mL以上」であるものであって、表面粗さ率が「2.5%以下」であれば、嵩密度が「0.75g/mL以上」になることを特定するものではない。
それゆえ、仮に、表面粗さ率が「2.5%以下(2.5~1.5)で、嵩密度が0.75g/mL以上を達成」できないとしても、そのことをもって、本件発明が発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとはいえない(上記(イ)について)。
また、本件発明は、表面粗さ率、製造方法及び嵩密度を別に特定するものであり、「表面粗さ率と、嵩密度及び微粒子率の相関関係が不明」であるからといって、本件発明が発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではないとはいえない(上記(ア)について)。
(6)まとめ
したがって、本件発明1及び2は、本件発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、申立理由1には、理由がない。
2 申立理由2(明確性要件違反)について
(1)申立人の主張の概要
ア 表面粗さ率の測定方法について(申立書【取消理由2】(1))
請求項1及び2において、無水酢酸ナトリウム粒子群の「メジアン径」は、「280μm以上500μm以下」であるところ、式(1)で規定される表面粗さ率の測定にあたっては、測定に使用される無水酢酸ナトリウム粒子の大きさとしては、長軸と短軸の平均長さが400~900μmのものを選択することが特定されている。
そして、例えば、メジアン径280μmの無水酢酸ナトリウム粒子群の場合、短軸と長軸の平均長さが900μmの粒子を測定して表面粗さ率を求めることを許容することになる。メジアン径280μmの無水酢酸ナトリウム粒子群とは、280μmまでの粒子が50%を占めることを意味するから、900μmの粒子は含まれるとしても極わずかであり、このようにして求めた表面粗さ率は粒子群を代表するものとはいえない。
また、無水酢酸ナトリウム粒子群の粒度分布に関する特定がなされていないため、メジアン径280μm以上500μm以下の粒子群における測定対象となる平均長さが400~900μmの粒子がどの程度含まれ得るのか不明であり、この点からも粒子群を代表するものとはいえない。
よって、メジアン径の範囲で特定される無水酢酸ナトリウム粒子群と、表面粗さ率の測定対象である無水酢酸ナトリウム粒子との関係が不明であり、本件請求項1および2の無水酢酸ナトリウム粒子群を特定することができない。
イ 製造方法による物の特定について(申立書【取消理由2】(2))
請求項2は、「無水酢酸ナトリウム粒子群」という物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるPBPクレーム)に該当する。
特許権者は、意見書1において「嵩密度が大きいことや、微粒子量が少ないことを数値範囲で表現しようとしても、無水酢酸ナトリウム粒子群の原料である酢酸ナトリウム水溶液の濃度や、温度・撹拌速度等の他の製造条件によって変化するものでありますから、多様な濃度からなる酢酸ナトリウム水溶液原料について、さまざまな温度・撹拌速度等の製造条件下で製造し、それぞれについての嵩密度や微粒子量を測定することは、現実的ではない回数の実験等を行うことを要するものであって、著しく過大な経済的支出を伴うものでありますし、その結果を特許請求の範囲に包括的に表現することもできません。」と主張している。しかし、請求項2において、式(1)に示す値、嵩密度およびメジアン径を特定し、製造方法によらずに「物」の特定が可能であることを自ら認めている。
また、微粒子量が少ないことについては、本件発明の詳細な説明において、150μmの目開きの篩を通過する微粒子群の割合(微粒子率)が5重量%以上25重量%以下であること、及び、ばらつきの指標として、本件発明の詳細な説明において粒度分布の標準偏差の好ましい範囲を特定し(段落0033)ている。
以上、本件請求項2に係る「無水酢酸ナトリウム粒子群」を式(1)に示す値、嵩密度、微粒子率、メジアン径および標準偏差によって特定することは可能であり、特許権者の主張する不可能・非実際的事情がないことを自ら認めていることから、請求項2は、PBPクレームとしての明確性要件を満たさないことは明白である。
(2)判断
ア 主張アについて
請求項1及び2における
「{無水酢酸ナトリウム粒子表面の算術平均粗さRa(μm)/無水酢酸ナトリウム粒子の厚みd(μm)}×100 ……(1)
(上記式(1)において、dは、無水酢酸ナトリウム粒子を平面上に最も安定する状態で置いた際の高さを示す。上記式(1)において、測定に使用される無水酢酸ナトリウム粒子の大きさとしては、長軸と短軸の平均長さが400~900μmのものを選択する。)」
との記載について、各d及びRaについては、その請求項の記載自体に不明な点はなく、また、特に「d」の厚みの決定方法については、本件発明の詳細な説明【0026】において
「なお、転がりの安定性が同程度の面が無水酢酸ナトリウム粒子に複数存在する場合は、その状態で置いた際に上記のようにして測定した高さのなかから、最も低いものを、上記厚みdとする。」
と記載されていることからみて、上記式(1)の範囲を特定できないなどの、明確でない理由があるとは解されない。
そして、申立人は、上記式(1)の表面粗さ率が、無水酢酸ナトリウム粒子群の性質を代表していない可能性があることを、明確でない理由として挙げているが、特許請求の範囲が明確であるというためには、その定義が明確であれば足り、発明特定事項が、その物の性質を代表しているどうかは、明確性を判断する要件にはならない。
よって、申立人の主張する理由によって、本件発明1及び2における、式(1)にて特定される表面粗さ率の範囲が明確でないとはいえない。
イ 主張イについて
本件発明は酢酸ナトリウム水溶液の濃縮工程において、
「水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速を1.0~6.0m/s」とすることによって得られるものを発明特定事項とすることを意図するものであると解されるところ、そのような製造方法によって得られる粒子の共通の特性を見いだして、一定の範囲にて特定することは過度の経済的負担を要するものであって、非実際的事情があると認められる。
(3)まとめ
したがって、本件請求項1及び2の記載は明確であるから、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
よって、申立理由2には、理由がない。
3 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)判断
本件発明1及び2において、無水酢酸ナトリウム粒子群については、
「下記の式(1)に示す値が2.5%以下であり、メジアン径が280μm以上500μm以下であり、嵩密度が0.75g/mL以上である」と特定されている。
そして、この無水酢酸ナトリウム微粒子群については、
「濃縮する工程における、上記水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速を1.0~6.0m/sとすること」により製造することが特定されている。
そして、本件発明の詳細な説明【0039】~【0041】(摘記b)においても、当該方法により上記無水酢酸ナトリウム微粒子群が得られること、及び使用する具体的な装置等が記載され、その実施例においても、当該方法によって得られることが記載されている。
したがって、本件発明1及び2は、本件発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて当業者であれば過度の試行錯誤なく実施できるものであるとも認められる。
(2)申立人の主張について
申立人は、本件請求項1及び2には、
「下記の式(1)に示す値が2.5%以下であり、メジアン径が280μm以上500μm以下であり、嵩密度が0.75g/mL以上である」と特定されているところ、以下のア~ウに示す理由により、水平攪拌軸型混合機とその周速のみを特定しただけでは、所望の表面粗さ率、嵩密度、メジアン径を達成でき、更に微粒子率が少なくなるとはいえないから、本件発明の実施には、当業者に過度の試行錯誤を要する旨主張している。
ア 比較例として、混合機の種類が水平撹拌軸型でない点でのみ実施例と相違する試験例や、撹拌翼の周速のみが実施例と相違する試験例が示されているわけではなく、表面粗さ率、メジアン径および嵩密度に大きく影響する要素が明らかでない。
イ 酢酸ナトリウム粒子表面の粗さは、撹拌翼の形状や、混合機の容量に対する酢酸ナトリウム水溶液の供給量、処理温度等の影響も受けると解される。
ウ 水平撹拌軸型混合機の周速が特定されているが、水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の外径が異なれば同じ周速でも濃縮・乾燥工程で酢酸ナトリウム水溶液および粉末に与えられるエネルギーが異なり、表面粗さ率、嵩密度、メジアン径、粒度分布、微粒子率に大きな影響を与えることは当業者の技術常識である。
しかしながら、以下の理由により、申立人の主張は採用できない。
主張アについては、上記1(4)で述べたとおり、本件発明の無水酢酸ナトリウムは、酢酸ナトリウム水溶液の濃縮工程において、水平撹拌軸型混合機の撹拌翼の周速を1.0~6.0m/sとすることによって製造できると解され、比較例が、実施例の実施条件と複数異なることによって、そのことを否定する根拠になるとは解されない。
また、主張イ及びウについては、本件発明の詳細な説明の実施例1~3においては、水平攪拌軸型混合機の型番や、乾燥温度なども記載されているから、当業者であれば、少なくとも、本件実施例1~3に記載の方法に従えば、本件発明を実施できるといえる。
さらに、上記実施例を参考にして、その条件を変更して実施することも可能であると解される。
(3)まとめ
したがって、本件発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
よって、申立理由3には、理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできず、ほかに請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700078