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特許異議申立

2022-700388

金属試料中の析出物および/または介在物の分析方法

審判番号
2022-700388
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-024444
登録番号
6958577
請求日
2022年05月02日
審決日
2023年05月23日
公報発行日
2023年08月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】JFEスチール株式会社
  • 【権利者代理人】磯村 哲朗
  • 【権利者代理人】熊坂 晃
  • 【権利者代理人】坂井 哲也
  • 【権利者代理人】森 和弘
  • 【異議申立人】古川 慎二
審判長/審判官
  • 審判長 石井 哲
  • 審判官 ▲高▼見 重雄
  • 審判官 樋口 宗彦
分類
P1651.121-YAA(G01N) / P1651.537-YAA(G01N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6958577号発明「金属試料中の析出物および/または介在物の分析方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6958577号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6958577号の請求項1~3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6958577号の請求項1~3に係る特許についての出願は、平成31年2月14日に出願され、令和3年10月11日にその特許権の設定登録がされ、同年11月2日に特許掲載公報が発行された。その後、全請求項に係る特許について、令和4年5月2日に特許異議申立人 古川慎二(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年6月29日付けで取消理由を通知した。その後、特許権者は、その指定期間内である同年8月16日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、当該意見書及び本件訂正請求に対して申立人は意見書を提出することはなかった。 その後、当審は、同年12月13日付けで取消理由(決定の予告)を通知した。その後、特許権者は、その指定期間内である令和5年2月14日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」という。)を行い、当該意見書及び本件訂正請求に対して申立人は意見書を提出することはなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 (1)本件訂正請求における請求の趣旨は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであり、その具体的内容は、以下の訂正事項1のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。 ・訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「前記分離ステップ後の分散溶液を気化蒸発して前記析出物および/または介在物を抽出する抽出ステップと、」と記載されているのを、 「前記分離ステップ後の分散溶液をろ過せずに気化蒸発して前記析出物および/または介在物を抽出する抽出ステップと、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3も、同様に訂正する)。 ・訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に 「前記分散溶液の粘度は、25℃のとき1.0mPa・sec以下である、」と記載されているのを、 「前記分散溶液の粘度は、25℃のとき1.0mPa・sec以下であり、かつ前記分散溶液がアセトンであり、前記金属試料が鉄鋼材料である、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3も、同様に訂正する)。 なお、訂正請求書において、「7(2)イ 訂正事項2」の欄では、「前記金属材料が鉄鋼材料である」という記載になっている。しかし、「7(3)イ(イ)訂正事項2」の欄では、「前記金属試料が鉄鋼材料である」という記載であり、また訂正特許請求の範囲の請求項1においても、「前記金属試料が鉄鋼材料である」という記載であって、当該記載より前に「金属材料」という記載はなく、当該記載より前にあるのは「金属試料」という記載であることから、訂正請求書の「7(2)イ 訂正事項2」の欄における「前記金属材料が鉄鋼材料である」の「前記金属材料」という記載は、「前記金属試料」の明らかな誤記であると認められる。 (2)訂正の単位について 訂正前の請求項1~3は、請求項2及び3が請求項1を直接的又は間接的に引用していることから、一群の請求項である。 そして、訂正事項1及び2は、一群の請求項〔1-3〕についてされたものであるから、この訂正は、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ・訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1に記載の発明特定事項である「抽出ステップ」について限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項1は、本件特許についての出願の願書に添付した明細書の【0007】「本発明者は、上記の問題点を解決すべく鋭意検討した。その結果、数nmサイズの微細な析出物および/または介在物を含んでいても、ろ過抽出を行うことなく析出物および/または介在物を精度よく分析することが可能な分析方法を確立した。」との記載、及び【0018】「<抽出ステップ> 次に、分離ステップ後の分散溶液を気化蒸発して析出物および/または介在物を抽出する。すなわち、この工程では、析出物等を回収した分散溶液から分散溶液を気化蒸発させて、析出物等のみを抽出する。・・・本発明では、分離ステップ後の分散溶液を気化蒸発させる抽出ステップを実施することにより、ろ過抽出を行うことなく金属試料中の析出物等の分析を行うことができる。」との記載に基づく訂正であるから、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 ・訂正事項2について 訂正事項2は、請求項1に記載の発明特定事項である「分散溶液」及び「金属試料」について限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2は、本件特許についての出願の願書に添付した明細書の【0017】「以上の観点から、分散溶液の粘度は、25℃のとき1.0mPa・sec以下であることが好ましい。また、分散溶液の蒸気圧は、25℃のとき170×102Pa以上であることが好ましい。このような条件を満足する分散溶液として、具体的には、メタノール、テトラヒドロフランまたはアセトンが好ましい。」との記載、及び【0002】「鉄鋼分野では、従来から析出物等をミクロ組織制御に活用し、製品特性を向上させる開発が行われており、近年、鉄鋼材料中には数nmサイズの極微細析出物が含有されている。」、【0003】「一般に、鉄鋼材料などの金属試料中の析出物等を抽出して定量する技術は、非特許文献1に示すように、酸分解法、ハロゲン法、電解抽出法が知られている。これらのうち、電解抽出法は、金属試料と金属試料中の析出物等の電位差を利用して、金属試料中のマトリックス(鉄鋼材料の場合は母相のFe)のみを溶解し、電解液中に存在する析出物等を凝集させて、フィルタでろ過回収し分析する方法である。」、【実施例1】 【0020】「 C:0.03mass%、Mn:0.12mass%、S:0.002mass%を含有する冷延鋼板中のMnSの量(析出物等)を、本発明の方法(発明例1)および従来の電解抽出法(比較例1)で定量した。」などの記載に基づく訂正であるから、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 3 独立特許要件 本件においては、全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1及び2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。 4 訂正の適否についてのまとめ 上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 上記のとおり本件訂正が認められるから、本件訂正後の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された次のとおりのものである。 「 【請求項1】 金属試料を電解する電解ステップと、 前記電解ステップ後の金属試料の残部を分散溶液に浸漬して、残部から析出物および/または介在物を分離し、分散溶液中に析出物および/または介在物を回収する分離ステップと、 前記分離ステップ後の分散溶液をろ過せずに気化蒸発して前記析出物および/または介在物を抽出する抽出ステップと、 前記抽出ステップにて抽出した析出物および/または介在物を溶解し、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、原子吸光分析法のいずれかにより分析する分析ステップと、を有し、 前記分散溶液の粘度は、25℃のとき1.0mPa・sec以下であり、かつ前記分散溶液がアセトンであり、 前記金属試料が鉄鋼材料である、金属試料中の析出物および/または介在物の分析方法。 【請求項2】 前記分散溶液の蒸気圧は、25℃のとき170×102Pa以上である請求項1に記載の金属試料中の析出物および/または介在物の分析方法。 【請求項3】 前記分散溶液は、10ml以下とする請求項1または2に記載の金属試料中の析出物および/または介在物の分析方法。」 第4 特許異議の申立について 1 申立理由の概要 申立人は、証拠として下記2に示す甲第1号証~甲第4号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)を提出し、以下の申立理由により、請求項1~3に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。 申立理由1(新規性) ・請求項1及び2に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 したがって、請求項1及び2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 申立理由2(進歩性) ・請求項1~3に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲1に記載された発明、甲2及び甲4に記載された技術的事項に基いて、本件特許に係る出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 ・請求項1~3に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲2に記載された発明、甲1及び甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、請求項1~3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 申立理由3(明確性) ・請求項1~3に係る発明は、明確でないから、請求項1~3に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 したがって、請求項1~3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2 証拠方法 甲第1号証:特開2010-127791号公報 甲第2号証:特開2004-317203号公報 甲第3号証:本件特許の審査過程で令和3年7月30日に提出された意見書 甲第4号証:特開2013-33029号公報 第5 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について 訂正前の請求項1~3に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 取消理由(進歩性) ・請求項1~3に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲2に記載された発明及び甲4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、請求項1~3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第6 各甲号証の記載等 1 甲1について (1)甲1の記載事項 甲1には以下の記載がある(下線は当審において付与した。以下同じ。)。 ア 「【請求項1】 金属試料を、電解液中で電解する電解ステップと、 前記電解液から取り出した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬する浸漬ステップと、 前記分散性を有する溶液に分離された析出物および/または介在物(以下、析出物等という)を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより1回以上ろ過する分別ステップと、 1以上のフィルタにそれぞれ捕集された析出物等またはフィルタを通過した析出物等のうち、1以上を分析する分析ステップと、 を有することを特徴とする金属材料中の析出物等の分析方法;ここで、直孔とは、一定の開口形状でフィルタ面を貫通しているフィルタ孔のことをいう。 【請求項2】 分析ステップにおいて、大きさが1μm未満の析出物等を分析することを特徴とする請求項1に記載の金属材料中の析出物等の分析方法。 【請求項3】 分析ステップにおいて、金属試料の残部に付着した析出物等を分析することを特徴とする請求項1または2に記載の金属材料中の析出物等の分析方法。」、 「【0001】 この発明は、金属材料中の析出物および/または介在物(以下、析出物等という)の分析方法、特にナノメートルサイズの微細な析出物等を大きさ別に正確に定量分析する方法に関する。」、 「【0007】 本発明は、かかる事情を鑑みてなされたもので、金属材料中に含まれるナノメートルサイズの微細な析出物等を大きさ別に分別した上で、正確に定量分析する方法を提供することを課題とする。」、 「【0024】 2)分離された析出物等の分別、分析手順 ・・・ ステップ(9):ステップ(8)の操作で得られたフィルタ上に捕集された残渣とろ液を、それぞれ酸で溶解し、元素分析を行い、大きさ別に分別された析出物等に含有される元素の含有率を測定する。この場合、得られた残渣とろ液を全て元素分析する必要は無く、必要とする大きさの箇所のみ分析すればよい。この点では、複数段ろ過を行っても、分析は、最後に得られたろ液(最も微細な大きさの析出物等を含むことが期待できる)のみ分析しても良いし、途中段の残渣を1つのみ分析しても良い。」、 「【実施例2】 【0035】 ここでは、粒径既知の金コロイド粒子を使用して分析した例を具体的に説明する。 【0036】 市販されている20、30、40、50、60、80nmの粒径の異なる6種類の金コロイド溶液の一定量を、表1に示す3種類のフィルタA、B、Cを用いてろ過した。得られたろ液を乾燥後、残留物を王水中で加熱溶解して、ICP質量分析装置で金濃度を分析して、それぞれのフィルタを透過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量を測定した。また、それぞれの金コロイド溶液5mlを、ろ過せずに乾燥して、上記同様に金濃度を測定し、それぞれの金コロイド溶液の金コロイド基準量とした。それぞれのフィルタを通過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量をそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド基準量で除して、フィルタ通過率を算出した。なお、表1に示すフィルタの空隙率は、フィルタAおよびBについては電子顕微鏡観察により求めた値で、フィルタCについてはカタログより引用した値である。」 イ 「【0038】 【表1】 [図:0001400439000001.jpg] 」、 「【実施例4】 【0045】 この実施例では、直孔型フィルタ(空隙率47%および4%)を用いた本発明の分析方法(発明例)、直孔型フィルタに代えて非直孔型フィルタを用いた分析方法(比較例1)、特許文献2による方法(比較例2)および非特許文献1による方法(比較例3)を用いて、鋼中から分離した析出物等をろ過して分析した例を具体的に説明する。 【0046】 (発明例) 表3に示す成分を有する炭素鋼から20mm×50mm×1mmの大きさに切り出した試料1~4を、図3に示す電解装置を用い、約300mlの10%AA系電解液中で約0.5gを電流密度20mA/平方cmで定電流電解した。その後、試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、別の容器に準備した分散性を有する溶液である濃度500mg/lのSHMP水溶液約100ml中に浸漬し、超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を容器中で剥離し、SHMP水溶液中に分離した。試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出し、同じSHMP水溶液と純水で洗浄してから乾燥し、天秤で試料重量を測定した。そして、電解前の試料重量から測定した試料重量を差し引いて電解重量を求めた。 【0047】 次に、表1に示すフィルタAを装着した吸引ろ過器で、試料表面に付着した析出物等を分離後のSHMP水溶液と、粒径60nmの金コロイド溶液1mlを濃度500mg/lのSHMP水溶液)50mlに添加した金コロイド入りSHMP水溶液とを順にろ過した。フィルタ上に捕集された残渣を、フィルタとともに硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解した後、ICP発光分光分析装置で分析して、残渣中のチタン絶対量を測定した。この残渣中のチタン絶対量を電解重量で除して、フィルタAを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率を求めた。また、フィルタAを通過したろ液を、80℃のホットプレート上で加温して乾燥させ、乾燥後に残った乾燥残留物を、硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解した後、ICP発光分光分析装置またはICP質量分析装置で、ろ液中のチタンおよび金の絶対量を測定した。このろ液中のチタン絶対量を電解重量で除して、フィルタAを通過した析出物等におけるチタン含有率を求めた。同時に、金の絶対量を基準金量で除して、フィルタAにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。ここで、基準金量とは、フィルタAでろ過する前の金コロイド入りSHMP水溶液を乾燥後、王水分解したものをICP質量分析装置で測定して金の絶対量のことである。 ・・・ 【0050】 (比較例2) 試料表面に付着した析出物等を分離するための分散性を有する溶液として、SHMP水溶液の代わりにメタノールを用い、表1のフィルタCを用いて、発明例と同様な操作を行い、フィルタCを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率、フィルタCを通過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタCにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。なお、金コロイドのフィルタ通過率を求めるに際しては、発明例と同様、金コロイド入りSHMP水溶液を用いて行った。」 (2)甲1に記載された発明 上記(1)イの記載から、甲1には、次の発明又は技術的事項(以下「甲1発明」又は「甲1技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「炭素鋼から20mm×50mm×1mmの大きさに切り出した試料を、約300mlの10%AA系電解液中で約0.5gを電流密度20mA/平方cmで定電流電解し、その後、試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、別の容器に準備した分散性を有する溶液であるメタノール約100ml中に浸漬し、超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を容器中で剥離し、メタノール中に分離し、試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出し、洗浄してから乾燥し、天秤で試料重量を測定し、そして、電解前の試料重量から測定した試料重量を差し引いて電解重量を求め、 次に、フィルタを装着した吸引ろ過器で、試料表面に付着した析出物等を分離後のメタノールをろ過し、フィルタを通過したろ液を、80℃のホットプレート上で加温して乾燥させ、乾燥後に残った乾燥残留物を、硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解した後、ICP発光分光分析装置またはICP質量分析装置で、ろ液中のチタンの絶対量を測定し、このろ液中のチタン絶対量を電解重量で除して、フィルタを通過した析出物等におけるチタン含有率を求める、 鋼中から分離した析出物等の分析方法。」 2 甲2について (1)甲2の記載事項 甲2には以下の記載がある。 「【請求項1】 金属試料を電解液中で電気分解し、該試料中に含有される介在物粒子や析出物粒子を該試料表面に抽出し、次いで、抽出した介在物粒子や析出物粒子を有機溶媒中に分散した分散液を調製し、次いで、該分散液を固体平板表面あるいはメッシュ上に滴下し、乾燥させて評価試料を作製し、該評価試料を観察して、抽出した介在物および析出物の評価を行うことを特徴とする金属中の介在物および析出物の評価方法。」、 「【0010】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、例えばSPEED法を用いて、従来法の数十倍の電気量で金属試料に通電を行い、金属試料から抽出した介在物や析出物の残渣を有機溶媒中に分散し、これを固体平板、メッシュ、支持膜等の上に滴下し乾燥し、金属試料中の介在物や析出物の評価用試料とすることにより、従来法で作製したレプリカ試料よりも、極めて多数の残渣粒子を有する試料が作製できることを見出した。」、 「【0016】 本発明法では、この方法の他に、例えば、試料溶解後に、試料表面に露出して付着している介在物や析出物を試料ごと、例えばメタノールのような非水溶媒中に移し、これらの介在物や析出物を溶媒中に分散させた後、この分散液を基板上に滴下・展開し、溶媒を蒸発させることも可能である。 すなわち、本発明の抽出方法は、試料表面の単位面積当たりの析出物や介在物を炭素膜等に転写する従来法とは異なり、析出物や介在物を濃縮することが可能であるため、より多数の粒子に関する情報を得ることができ、代表性の高いデータが得られるものである。 【0017】 また、本発明では、この溶媒に超音波を照射することがより好ましく、溶媒中に介在物や析出物を均一に分散させることができる。 ・・・ 【0018】 本発明の抽出方法で非水溶媒を用いる理由は、水中ではCaOやMgOなどの不安定な介在物は分解する可能性があるからである。また、非水溶媒は、水よりも蒸気圧が高く、乾燥しやすいからである。非水溶媒の種類としては、エタノールも使用可能であるが、エタノールよりも蒸気圧が高いメタノールがより好ましい。非水溶媒の量としては、特に限定されるものではないが、溶媒を蒸発させることを考慮すると、10ml以下が好ましい。」、 「【0029】 【実施例】 以下に実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。 (実施例1) 質量%で、Cを0.004%、Siを0.02%、Mnを0.13%、Alを0.004%、Nを0.002%、Sを0.007%、Tiを0.01%、およびNbを0.02%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鉄鋼材料を用い、これを20mm×10mm×5mmの大きさに切り出し、20mm×10mmの面を露出させて樹脂に埋め込み、露出した試料面を研磨して酸化膜を除去したものを試料とした。 【0030】 次に、試料を陽極として、白金電極が陰極となるように配線し、2体積%トリエタノールアミン-1質量%TMAC-メタノール混合溶液中で、-150mV対銀-塩化銀電極の定電位で500Cのクーロン量を流して電解し、試料中の介在物や析出物を析出させた。その後、電解液の中から取り出した試料を10mlのメタノール中に入れ、これに超音波を照射して介在物や析出物を分散させた。その後、メタノールを加温し、一部を蒸発させて2mlとした。 【0031】 一方、20mm×20mmのナイロンメッシュにパラフィンを含浸させ、その上から炭素膜を蒸着したものを作製し、この上に前記介在物や析出物を分散させたメタノールを滴下・乾燥することを繰り返し、前記2mlのメタノールの十分の一の量にあたる0.2mlを滴下した。その後、酢酸メチル中でパラフィンを溶解し、炭素膜がナイロンメッシュの上に載った状態の試料を作製した。これをメッシュごと3mmφの大きさに切り取って、TEM試料に供した。この試料作製には、半日程度を要した。」、 「【0035】 (実施例2) 実施例1で使用したものと同様の化学組成の鉄鋼材料を用いて、同様の大きさに切り出し、同様に埋め込み研磨したものを試料とした。さらに、実施例1と同様の電解処理、および介在物や析出物の分散処理を行い、10mlのメタノール中に介在物や析出物を分散させた。次に、パラフィンを含浸した20mm×20mmのナイロンメッシュに、このメタノール分散液全量を滴下・乾燥し、試料とした。 【0036】 一方、TiN粉末試薬0.2gをメタノール100mlに添加し、超音波で均一に分散したのち、正確に1mlを分取して、メタノールで100mlに定容し、さらにここから正確に、0.1、0.2、0.3、0.5mlを分取後、それぞれを、パラフィンを含浸した20mm×20mmのナイロンメッシュに滴下・乾燥した。この操作により、TiN粉末を分散・付着した標準試料を作製し、これらの標準試料を用いてTiの蛍光X線測定を行い、図2に示すようなTi量と蛍光X線強度の関係を示す検量線を作成した。 【0037】 次に、鉄鋼材料から作製した試料を用いて、Tiの蛍光X線測定を行った。その結果を図2の図中に黒丸印で示すが、試料中には6.6μgのTiを含有していることがわかった。この結果は、電解抽出残渣を酸およびアルカリで化学的に溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法で濃度測定して求めた結果と一致した。 従って、介在物や析出物の濃度測定は、従来は、前処理に長時間を要するICP発光分光分析で行っていたところを、本発明法によれば、蛍光X線測定が可能であり、従来法に比べて、簡便で迅速なTiの定量が可能であることが明らかとなった。」 (2)甲2に記載された発明 ア 実施例2(【0035】~【0037】)は、「鉄鋼材料から作製した試料を用いて、Tiの蛍光X線測定を行」い、「この結果は、電解抽出残渣を酸およびアルカリで化学的に溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法で濃度測定して求めた結果と一致した」ものである。 (ア)Tiの蛍光X線測定に用いる「鉄鋼材料から作製した試料」については、「実施例1で使用したものと同様の化学組成の鉄鋼材料を用いて、同様の大きさに切り出し、同様に埋め込み研磨したものを試料とした。さらに、実施例1と同様の電解処理、および介在物や析出物の分散処理を行い、10mlのメタノール中に介在物や析出物を分散させた。次に、パラフィンを含浸した20mm×20mmのナイロンメッシュに、このメタノール分散液全量を滴下・乾燥し、試料とした。」(【0035】)ものである。 よって、実施例2のTiの蛍光X線測定については、実施例1(【0029】、【0030】)及び請求項1の記載を踏まえると、 ≪質量%で、Cを0.004%、Siを0.02%、Mnを0.13%、Alを0.004%、Nを0.002%、Sを0.007%、Tiを0.01%、およびNbを0.02%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鉄鋼材料を用い、これを20mm×10mm×5mmの大きさに切り出し、20mm×10mmの面を露出させて樹脂に埋め込み、露出した試料面を研磨して酸化膜を除去したものを試料とし、 次に、試料を陽極として、白金電極が陰極となるように配線し、2体積%トリエタノールアミン-1質量%TMAC-メタノール混合溶液中で、-150mV対銀-塩化銀電極の定電位で500Cのクーロン量を流して電解し、試料表面に試料中の介在物や析出物を析出させ、 その後、電解液の中から取り出した試料を10mlのメタノール中に入れ、これに超音波を照射して介在物や析出物を分散させ、≫(以下、前記「≪≫」内の処理を経て得た「試料」を「鉄鋼材料液体試料」という。) 次に、パラフィンを含浸した20mm×20mmのナイロンメッシュに、このメタノール分散液全量を滴下・乾燥させて評価試料を作製し、 このように、鉄鋼材料から作製した評価試料を用いて、Tiの蛍光X線測定を行うものといえる。 (イ)一方、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析は、「鉄鋼材料から作製した試料を用いて、Tiの蛍光X線測定を行った。その結果を図2の図中に黒丸印で示すが、試料中には6.6μgのTiを含有していることがわかった」(【0037】)との分析結果が、「電解抽出残渣を酸およびアルカリで化学的に溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法で濃度測定して求めた結果と一致した」(【0037】)ことを示すために行われたものであるから、該ICPの測定対象試料と、比較対象の前記「Tiの蛍光X線測定」の試料は、共通の処理を経て得たものである必要があることが明らかである。 また、【0035】の記載において「パラフィンを含浸した20mm×20mmのナイロンメッシュに、このメタノール分散液全量を滴下・乾燥させて」「作製」した「評価試料」は蛍光X線測定装置に装填するための特有の処理であると解されるし、【0037】の記載における、固体試料を「酸およびアルカリで化学的に溶解」することは、ICP特有の前処理であることが技術常識から明らかである。 そうすると、前記ICPが対象とする「電解抽出残渣」は、前記蛍光X線測定が対象とする試料である「鉄鋼材料から作製した試料」と共通のものである必要があることとなるから、該「電解抽出残渣」は、前記≪鉄鋼材料液体試料≫と共通の処理を経て得た試料であるということができる。 すると、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析は、「電解抽出残渣を酸およびアルカリで化学的に溶解し」(【0037】)、Tiの濃度測定を行うものであって、ここでの電解抽出残渣が、メタノール中に分散させた介在物や析出物を抽出したものであることは明らかであるから、【0037】に記載されたICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析において、「電解抽出残渣を酸およびアルカリで化学的に溶解」(【0037】)する前に、メタノール中に分散させた介在物や析出物を抽出していることは、明らかである。 イ 上記ア(ア)及び(イ)の整理を踏まえると、 上記(1)の記載から、甲2には、次の発明又は技術的事項(以下「甲2発明」又は「甲2技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「 質量%で、Cを0.004%、Siを0.02%、Mnを0.13%、Alを0.004%、Nを0.002%、Sを0.007%、Tiを0.01%、およびNbを0.02%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鉄鋼材料を用い、これを20mm×10mm×5mmの大きさに切り出し、20mm×10mmの面を露出させて樹脂に埋め込み、露出した試料面を研磨して酸化膜を除去したものを試料とし、 次に、試料を陽極として、白金電極が陰極となるように配線し、2体積%トリエタノールアミン-1質量%TMAC-メタノール混合溶液(電解液)中で、-150mV対銀-塩化銀電極の定電位で500Cのクーロン量を流して電解し、試料表面に試料中の介在物や析出物を電解抽出残渣として析出させ、その後、電解液の中から取り出した試料を10mlのメタノール中に入れ、これに超音波を照射して介在物や析出物を分散させ、 メタノール中に分散させた介在物や析出物を抽出し、 抽出した介在物や析出物である電解抽出残渣を酸およびアルカリで化学的に溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法でTiの濃度測定を行う、 介在物や析出物の濃度測定方法。」 3 甲3について 甲3には以下の記載がある。 「本願実施例にも示されるように、本願発明の分析方法によれば、微細な析出物および/または介在物(以下、析出物等ともいう)を含んでいても、ろ過抽出を行うことなく、析出物等をICP-AES、ICP-MS、原子吸光分析法により精度よく分析することができます。」(「[3](1)ア.本願発明の説明」の欄) 4 甲4について (1)甲4の記載事項 甲4には以下の記載がある。 「【背景技術】 【0002】 半導体デバイスなどの製造工程において利用される純水やアルコールなどの液中の微粒子は、歩留まりを低下させる直接的な原因となるため厳しく管理されている。デバイスの設計寸法が小さくなるに従って、問題となる微粒子サイズも小さくなる。ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)によると2010年のDRAMハーフピッチ寸法は、45nmであり、今後さらに微細化が進むと予想され、従って管理微粒子サイズもより小さくなると考えられる。実際に、ITRS2008からは、分析上の課題が克服されていない中でも、純水中の微粒子に関しては、「Critical particle size」という管理項目が追加されている。そして、ITRS2010では、2011年には20nm、2017年には10nmサイズの微粒子を、4個/mLレベルで管理する指針が示されている。同様に、IPA(イソプロピルアルコール)中の微粒子に関しても2011年には20nmサイズの微粒子を1.0E+04(10,000)個/mLレベルでの管理することが求められている。」、 「【0022】 図1は、フィルター18を評価するための処理システムの概要を示す図である。まず、貯槽10に、アルコールに金ナノ粒子を添加混合して、金ナノ粒子を分散させた試料液を調整する。特に、金ナノ粒子として、粒子径30nm以下の粒子を用いることが好適であり、粒子径が、30nm、20nm、10nmなどの金ナノ粒子を用いることができる。 【0023】 また、貯槽10には、超音波照射装置12が設けられており、超音波の照射によって金ナノ粒子がアルコール中に確実に分散される。超音波照射装置12は、各種液体等の混合用のものを適宜採用することができる。 【0024】 貯槽10内の試料液は、ポンプ14により、バルブ16を介し、フィルター18に供給される。なお、フィルター18に供給される試料液の圧力は圧力計20で計測され、フィルター18における圧損などをチェックする。 【0025】 フィルター18は、評価対象である、MF膜、UF膜などのろ過膜を利用したものであり、例えば高分子ろ過膜によって原液側とろ過液側が仕切られており、ろ過膜によって原液中の微粒子がろ過除去される。 【0026】 そして、フィルター18への供給路からバルブ22を介し、サンプリングされ、前処理手段S1に供給される。また、フィルター18で得られたろ液がサンプリングされて前処理手段S2に供給される。そして、前処理手段S1,S2で前処理された、試料液、ろ液が適宜ICP-MS26に供給され、ここで金ナノ粒子濃度が定量分析される。 【0027】 ここで、前処理手段S1,S2について、図2に基づいて説明する。この例では、サンプリングした被測定液は、まず加熱乾固される。すなわち、容器に入れた被測定液を100°C程度に加熱して、アルコールを蒸発させ、金ナノ粒子を残渣物として乾固する。次に、残渣物に薬液を添加して、金ナノ粒子からなる残渣物を薬液に溶解しICP-MS26により測定する測定溶液を得る。そして、得られた測定溶液をICP-MS26によって定量する。このように加熱乾固工程を設けることによって、アルコールを除去して、ICP-MS26における分析への弊害を除去する。また、これによって、金ナノ粒子の濃度が低濃度であっても、ICP-MS26で定量するときには、高濃度化でき、定量の精度を上げることができる。」、 「 [図:0001400439000002.jpg] 」、 「 [図:0001400439000003.jpg] 」 (2)甲4に記載された技術的事項 上記(1)の記載から、甲4には、次の技術的事項(以下「甲4技術的事項」という。)が記載されていると認められる。 「 まず、貯槽10に、アルコールに金ナノ粒子を添加混合して、金ナノ粒子を分散させた試料液を調整し、 また、貯槽10には、超音波照射装置12が設けられており、超音波の照射によって金ナノ粒子がアルコール中に確実に分散され、 そして、貯槽10内の試料液はバルブ22を介してサンプリングされて前処理手段S1に供給され、 ここで、前処理手段S1では、前記試料液をサンプリングした被測定液は、まず加熱乾固され、すなわち、容器に入れた被測定液を100°C程度に加熱して、アルコールを蒸発させ、金ナノ粒子を残渣物として乾固し、 次に、残渣物に薬液を添加して、金ナノ粒子からなる残渣物を薬液に溶解し、ICP-MS26により金ナノ粒子濃度を定量分析すること。」 第7 当審の判断 1 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 ア 甲2発明の「鉄鋼材料」「試料を」「電解」することは、本件発明1の「金属試料を電解する電解ステップ」に相当する。 イ 甲2発明の「試料表面に試料中の介在物や析出物を電解抽出残渣として析出させ」た「試料を10mlのメタノール中に入れ、これに超音波を照射して介在物や析出物を分散させ」ることは、試料中からメタノール中に介在物や析出物を回収することを意味するから、本件発明1の「前記電解ステップ後の金属試料の残部を分散溶液に浸漬して、残部から析出物および/または介在物を分離し、分散溶液中に析出物および/または介在物を回収する分離ステップ」に相当する。 ウ 甲2発明の「メタノール中に分散させた介在物や析出物を抽出」することと、本件発明1の「前記分離ステップ後の分散溶液をろ過せずに気化蒸発して前記析出物および/または介在物を抽出する抽出ステップ」とは、「前記分離ステップ後の分散溶液から前記析出物および/または介在物を抽出する抽出ステップ」の点で共通する。 エ 甲2発明の「抽出した介在物や析出物である電解抽出残渣を酸およびアルカリで化学的に溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法でTiの濃度測定を行う」ことは、本件発明1の「前記抽出ステップにて抽出した析出物および/または介在物を溶解し、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)」「により分析する分析ステップ」に相当する。 オ メタノールの25度粘度が1.0mPa・sec以下となることは技術常識であって、そのことは特許権者も本件特許明細書の【0017】で認めていることから、甲2発明の「介在物や析出物を分散させ」る「メタノール」の粘度は、25℃のとき1.0mPa・sec以下であることが理解できるから、甲2発明は、本件発明1の「前記分散溶液の粘度は、25℃のとき1.0mPa・sec以下であり、かつ前記分散溶液がアセトンであ」るに相当する構成を備えているといえる。 カ メタノールもアセトンも有機溶剤であることは技術常識であるから、甲2発明の「介在物や析出物を分散させ」る溶液が「メタノール」であることと、本件発明1の「前記分散溶液がアセトンであ」ることとは、「前記分散溶液が有機溶剤であ」る点で共通する。 キ 甲2発明の「鉄鋼材料」「試料中」の「介在物や析出物の濃度測定方法」は、本件発明1の「前記金属試料が鉄鋼材料である、金属試料中の析出物および/または介在物の分析方法」に相当する。 (2)一致点・相違点 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、次の点で相違する。 (一致点) 「 金属試料を電解する電解ステップと、 前記電解ステップ後の金属試料の残部を分散溶液に浸漬して、残部から析出物および/または介在物を分離し、分散溶液中に析出物および/または介在物を回収する分離ステップと、 前記分離ステップ後の分散溶液から前記析出物および/または介在物を抽出する抽出ステップと、 前記抽出ステップにて抽出した析出物および/または介在物を溶解し、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)により分析する分析ステップと、を有し、 前記分散溶液の粘度は、25℃のとき1.0mPa・sec以下であり、かつ前記分散溶液が有機溶剤であり、 前記金属試料が鉄鋼材料である、金属試料中の析出物および/または介在物の分析方法。」 (相違点) 抽出ステップにおいて、析出物および/または介在物を、本件発明1では、分散溶液が「アセトン」であって、「分散溶液をろ過せずに気化蒸発」により抽出するのに対し、甲2発明では、分散溶液が「メタノール」であって、分散溶液からどのように抽出するのか不明である点。 (3)判断 前記相違点について検討する。 ア 甲1技術的事項(第6の1(2)参照)には、「フィルタを装着した吸引ろ過器で、試料表面に付着した析出物等を分離後のメタノールをろ過し、フィルタを通過したろ液を、80℃のホットプレート上で加温して乾燥させ、乾燥後に残った乾燥残留物を、硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解した後、ICP発光分光分析装置またはICP質量分析装置で、ろ液中のチタンの絶対量を測定する」ことが開示されている。 イ 甲4技術的事項(第6の4(2)参照)には、「金ナノ粒子がアルコール中に分散された被測定液は、加熱乾固され、すなわち、容器に入れた被測定液を100°C程度に加熱して、アルコールを蒸発させ、金ナノ粒子を残渣物として乾固し、次に、残渣物に薬液を添加して、金ナノ粒子からなる残渣物を薬液に溶解し、ICP-MSにより金ナノ粒子濃度を定量分析する」ことが開示されている。 ウ しかしながら、分散溶液が「アセトン」であって、「分散溶液をろ過せずに気化蒸発」により抽出するという前記相違点に係る本件発明1の構成は、甲1、甲2、甲4に記載も示唆もされておらず、前記相違点に係る本件発明1の構成が、周知技術であるといえる証拠も発見されていない。 エ さらに検討を加えると、甲4技術的事項は、【背景技術】【0002】に記載されているように、半導体デバイスなどの製造工程において利用されるアルコール中のナノ粒子を定量することを前提したものであるから、分散溶液として、メタノールなどのアルコールやアセトンを用いることが技術常識であったとしても、甲4技術的事項において、分散溶液をアルコールからアセトンに変更することには、阻害要因があるといえる。 そうすると、甲2発明において仮に甲4技術的事項を適用しても、分散溶液が「メタノール」であって、「分散溶液をろ過せずに気化蒸発」により抽出するという構成になるだけで、分散溶液が「アセトン」であって、「分散溶液をろ過せずに気化蒸発」により抽出するという構成にはならないことから、甲2発明において仮に甲4技術的事項を適用しても、前記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。 (4)小括 したがって、本件発明1は、甲2発明及び甲1、甲4技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、いずれも本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記1と同様の理由により、甲2発明及び甲1、甲4技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第8 取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、甲1(主引用例)に記載された発明に基づく、請求項1及び2に対する新規性の欠如、及び請求項1~3に対する進歩性の欠如を主張する。 しかしながら、本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも前記相違点と同じ点で相違し、前記相違点についての判断は、前記説示したとおりである。 したがって、本件発明1及び2は、甲1発明ではなく、また、本件発明1~3は、甲1発明及び甲2、甲4技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 2 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項1~3に対して「ろ過抽出を行わない」ことが明確でない旨を主張する。 しかしながら、訂正後の本件発明1~3に対して「ろ過せずに」「抽出する」ことが特定されたことから、本件発明1~3は明確である。 3 したがって、申立人のかかる主張は、採用することができない。 第9 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700388

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