特許異議申立
2022-700139
析出物および/または介在物の抽出方法、析出物および/または介在物の定量分析方法、電解液、ならびに、レプリカ試料の作製方法
- 審判番号
- 2022-700139
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-515243
- 登録番号
- 6919775
- 請求日
- 2022年02月18日
- 審決日
- 2022年10月12日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】JFEスチール株式会社
- 【権利者代理人】伊東 秀明
- 【権利者代理人】蜂谷 浩久
- 【異議申立人】古川 慎二
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 哲
- 審判官 ▲高▼見 重雄
- 審判官 渡戸 正義
- 分類
- P1651.113-YAA(G01N) / P1651.121-YAA(G01N) / P1651.536-YAA(G01N) / P1651.537-YAA(G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6919775号発明「析出物および/または介在物の抽出方法、析出物および/または介在物の定量分析方法、電解液、ならびに、レプリカ試料の作製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6919775号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-15〕について訂正することを認める。
特許第6919775号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6919775号の請求項1ないし15に係る特許についての出願は、令和2年11月18日(優先権主張 令和元年11月25日)を国際出願日として出願され、令和3年7月28日にその特許権の設定登録がされ、同年8月18日に特許掲載公報が発行された。その後、全請求項に係る特許について、令和4年2月18日に特許異議申立人 古川慎二(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年5月10日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年7月11日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」という。)を行い、本件訂正請求に対して、申立人は、同年8月22日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求めるものであり、その具体的内容は、以下の訂正事項1及び2のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す(訂正事項に係る記載において以下同様。)。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤を含有する、」と記載されているのを、
「前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤を含有し、
前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有し、
前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり、
前記吸着剤は、炭素数が12以上のアルキル基を有さない、」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~7も、同様に訂正する)。
(ア)訂正事項1-1
訂正事項1のうち、「前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有し」という記載を追加する訂正事項を、以下、便宜的に「訂正事項1-1」という。
(イ)訂正事項1-2
同様に、訂正事項1のうち、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり」という記載を追加する訂正事項を、以下、便宜的に「訂正事項1-2」という。
(ウ)訂正事項1-3
同様に、訂正事項1のうち、「前記吸着剤は、炭素数が12以上のアルキル基を有さない」という記載を追加する訂正事項を、以下、便宜的に「訂正事項1-3」という。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に
「前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤を含有する、」と記載されているのを、
「前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤を含有し、
前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有し、
前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり、
前記吸着剤は、炭素数が12以上のアルキル基を有さない、」に訂正する(請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9~15も、同様に訂正する)。
(ア)訂正事項2-1
訂正事項2のうち、「前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有し」という記載を追加する訂正事項を、以下、便宜的に「訂正事項2-1」という。
(イ)訂正事項2-2
同様に、訂正事項2のうち、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり」という記載を追加する訂正事項を、以下、便宜的に「訂正事項2-2」という。
(ウ)訂正事項2-3
同様に、訂正事項2のうち、「前記吸着剤は、炭素数が12以上のアルキル基を有さない」という記載を追加する訂正事項を、以下、便宜的に「訂正事項2-3」という。
(2)訂正の単位について
訂正前の請求項1ないし7は、請求項2ないし7が請求項1を直接的又は間接的に引用していることから、一群の請求項であり、訂正前の請求項8ないし15は、請求項9ないし15が請求項8を直接的又は間接的に引用していることから、一群の請求項である。
そして、訂正事項1は、一群の請求項〔1-7〕についてされたものであり、訂正事項2は、一群の請求項〔8-15〕についてされたものであるから、これらの訂正は、特許法第120条の5第4項で規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1に記載の発明特定事項である「析出物および/または前記介在物」について、「少なくとも、MnおよびSを含有」することを追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書の【0024】「金属材料中の「析出物および/または介在物」(析出物等)としては、特に限定されないが、例えば、金属材料が鉄鋼材料である場合は、(Mn,Cu)S、MnSなどが挙げられる。」、【0062】「《被検試料の準備》上記表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する鋼塊を、真空溶解にて作製した。作製した鋼塊を、1200℃に加熱後、熱間圧延することにより、厚さ3mmの熱延鋼板を作製した。作製した熱延鋼板から、断面観察用の試料を採取した。採取した試料を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、析出物等は全てMnSであることを確認した。次いで、作製した熱延鋼板から、30mm×30mmサイズの試験片を採取し、表面を研磨して、被検試料とした。」、【0086】「《被検試料の準備》下記表7に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する溶鋼を、真空脱ガス処理後、連続鋳造によりスラブとした。次いで、得られたスラブを1150℃に加熱し、スケール除去後、板厚40mmまで粗圧延した。得られた粗圧延板を、その表層をスケール除去装置で冷却した後、3.5mm厚まで仕上げ圧延し、700℃でコイルに巻き取り、熱延鋼板とした。得られた熱延鋼板における鏡面研磨後の表面を、SEMを用いて観察したところ、MnSおよびTiMnSが含まれることを確認した。」に記載された事項に基づく訂正であるから、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項1-2について
ア 訂正事項1-2は、訂正前の請求項1に記載の発明特定事項である「吸着剤」について、「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するもの」であることを追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の【0020】「置換反応を抑制できた理由について、必ずしも明確ではないが、本発明者は、次のように考える。吸着剤が存在する電解液中で金属材料を電解すると、吸着反応と電解反応とが、交互に連続的に進行する。吸着反応は、吸着剤が金属材料のマトリックス金属の表面に吸着する反応である。電解反応は、金属材料のマトリックス金属、および、マトリックス金属に固溶しているCu等の金属がイオン化して、電解液に溶出する反応である。吸着反応と電解反応とが、交互に連続的に進行する結果、金属材料のマトリックス金属の表面に露出している析出物等の表面にも吸着剤が吸着する。そして、析出物等の周囲のマトリックス金属が溶解すると、析出物等は、吸着剤に覆われた状態で、金属材料のマトリックス金属の表面に付着する。このため、電解液中のCuイオンが析出物等に近づいても、析出物等の表面に存在する吸着剤の膜がCuイオンと接触することを防止し、置換反応が抑制される。」、【0042】「電解中、被検試料に含まれる析出物等は、電解液に溶出することなく、電解残渣として、被検試料の表面に付着する。被検試料の表面に吸着している析出物は、吸着剤の働きによって、電解液中のCuとの置換反応が抑制されている。」に記載された事項に基づき、「吸着剤」が「マトリックス金属に固溶しているCu等の金属」と、「被検試料の表面に付着する」「析出物等」「との置換反応」を「抑制」するものであることを導き出せることから、訂正事項1-2は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1-2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
イ 令和4年8月22日提出の意見書における主張について
(ア)申立人は、令和4年8月22日提出の意見書において、
「(2-A)訂正事項1-2について
(ア)訂正事項1のうち「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり」という記載を追加する訂正(訂正事項1-2)は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面に記載した事項の範囲を超えるものである。
(イ)令和4年7月11日付の訂正請求書第5頁及び第6頁の記載によれば、特許権者は、訂正事項1-2の根拠として、本件特許明細書の【0020】の記載及び【0042】の記載を引用し、「願書に添付した明細書には、「吸着剤」が「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するもの」であることが記載されている。」と主張している。
この点について検討すると、・・・
すなわち、「吸着剤」について、本件特許明細書等には、微量金属としてCuおよび/またはAgを含む金属材料を電解液を用いて電解する場合に、電解液に吸着剤として「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオ―ル」又は「2-アミノエタンチオール」を添加しておくことで、MnおよびSを含む析出物等と金属材料から溶出したCu又はAgとの置換反応が抑制されることが実証されているに過ぎない。
・・・
よって、請求項1において、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり」という記載を追加する訂正(訂正事項1-2)は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲、及び図面に記載した事項の範囲を超えるものである。
(ウ)訂正発明2~8においても、「吸着剤」について「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールおよび/または2-アミノエタンチオール」に限定されておらず、訂正発明2では「前記吸着剤が、前記金属材料のマトリックス金属の表面に吸着する」もの、訂正発明4では「前記吸着剤が、チオール基、スルフィド基およびジスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物」にそれぞれ限定されているが、これらの限定も含むものであれば、「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」又は「2-アミノエタンチオール」以外の化合物であっても、金属材料から溶出した微量金属と金属材料の表面に付着しているMnおよびSを含有する析出物等との置換反応が抑制されると理解できるメカニズムは、本件特許明細書等には記載されていないし、そのような出願時の技術常識も無い。
(エ)以上のように、請求項1~8に対する訂正事項1は、特許法第120条の5第9号で準用する特許法第126条第5項に適合しない。」と意見する。
(イ)上記アのとおり、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書の【0020】、【0042】に記載された事項から導き出せる事項であるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
したがって、申立人の上記(ア)の意見は受け入れることができない。
(3)訂正事項1-3について
訂正事項1-3は、訂正前の請求項1に記載の発明特定事項である「吸着剤」について、「炭素数が12以上のアルキル基を有さない」ことを追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1-3は、請求項1を、いわゆる除くクレームにするものである。すなわち、当審が新規性欠如に係る取消理由において引用した甲第1号証(特許第4572001号公報)には、「界面活性剤」として、具体的に、炭素数が12のアルキル基を有する「ラウリル硫酸ナトリウム(C12H25NaO4S)」が記載されており(【0045】)、これを除くものである。願書に添付した明細書には、「吸着剤」の具体例として、「6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-(4-ビニルベンジル-n-プロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」が記載されている(【0036】)。これらの具体例において、炭素数が最大のアルキル基は、ブチル基(炭素数:4)である。すなわち、願書に添付した明細書には、「吸着剤」について炭素数が12以上のアルキル基を有さないものが記載されている。よって、訂正事項1-3は、訂正前の本件特許明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえないことから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1-3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(1)訂正事項2-1について
訂正事項2-1は、訂正前の請求項8に記載の発明特定事項である「析出物および/または前記介在物」について、「少なくとも、MnおよびSを含有」することを追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2-1は、願書に添付した明細書の【0024】「金属材料中の「析出物および/または介在物」(析出物等)としては、特に限定されないが、例えば、金属材料が鉄鋼材料である場合は、(Mn,Cu)S、MnSなどが挙げられる。」、【0062】「《被検試料の準備》上記表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する鋼塊を、真空溶解にて作製した。作製した鋼塊を、1200℃に加熱後、熱間圧延することにより、厚さ3mmの熱延鋼板を作製した。作製した熱延鋼板から、断面観察用の試料を採取した。採取した試料を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察したところ、析出物等は全てMnSであることを確認した。次いで、作製した熱延鋼板から、30mm×30mmサイズの試験片を採取し、表面を研磨して、被検試料とした。」、【0086】「《被検試料の準備》下記表7に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する溶鋼を、真空脱ガス処理後、連続鋳造によりスラブとした。次いで、得られたスラブを1150℃に加熱し、スケール除去後、板厚40mmまで粗圧延した。得られた粗圧延板を、その表層をスケール除去装置で冷却した後、3.5mm厚まで仕上げ圧延し、700℃でコイルに巻き取り、熱延鋼板とした。得られた熱延鋼板における鏡面研磨後の表面を、SEMを用いて観察したところ、MnSおよびTiMnSが含まれることを確認した。」に記載された事項に基づく訂正であるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2-2について
訂正事項2-2は、訂正前の請求項8に記載の発明特定事項である「吸着剤」について、「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するもの」であることを追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の【0020】「置換反応を抑制できた理由について、必ずしも明確ではないが、本発明者は、次のように考える。吸着剤が存在する電解液中で金属材料を電解すると、吸着反応と電解反応とが、交互に連続的に進行する。吸着反応は、吸着剤が金属材料のマトリックス金属の表面に吸着する反応である。電解反応は、金属材料のマトリックス金属、および、マトリックス金属に固溶しているCu等の金属がイオン化して、電解液に溶出する反応である。吸着反応と電解反応とが、交互に連続的に進行する結果、金属材料のマトリックス金属の表面に露出している析出物等の表面にも吸着剤が吸着する。そして、析出物等の周囲のマトリックス金属が溶解すると、析出物等は、吸着剤に覆われた状態で、金属材料のマトリックス金属の表面に付着する。このため、電解液中のCuイオンが析出物等に近づいても、析出物等の表面に存在する吸着剤の膜がCuイオンと接触することを防止し、置換反応が抑制される。」、【0042】「電解中、被検試料に含まれる析出物等は、電解液に溶出することなく、電解残渣として、被検試料の表面に付着する。被検試料の表面に吸着している析出物は、吸着剤の働きによって、電解液中のCuとの置換反応が抑制されている。」に記載された事項に基づき、「吸着剤」が「マトリックス金属に固溶しているCu等の金属」と、「被検試料の表面に付着する」「析出物等」「との置換反応」を「抑制」するものであることを導き出せることから、訂正事項2-2は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2-2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項2-3について
訂正事項2-3は、訂正前の請求項8に記載の発明特定事項である「吸着剤」について、「炭素数が12以上のアルキル基を有さない」ことを追加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2-3は、請求項8を、いわゆる除くクレームにするものである。すなわち、当審が新規性欠如に係る取消理由において引用した甲第1号証(特許第4572001号公報)には、「界面活性剤」として、具体的に、炭素数が12のアルキル基を有する「ラウリル硫酸ナトリウム(C12H25NaO4S)」が記載されており(【0045】)、これを除くものである。願書に添付した明細書には、「吸着剤」の具体例として、「6-ジアリルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-(4-ビニルベンジル-n-プロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」が記載されている(【0036】)。これらの具体例において、炭素数が最大のアルキル基は、ブチル基(炭素数:4)である。すなわち、願書に添付した明細書には、「吸着剤」について炭素数が12以上のアルキル基を有さないものが記載されている。よって、訂正事項2-3は、訂正前の本件特許明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえないことから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2-3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
3 独立特許要件
・訂正事項1及び2について
本件においては、全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1及び2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
4 訂正の適否についてのまとめ
上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-15〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり本件訂正が認められるから、本件訂正後の請求項1ないし15に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明15」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属材料中の析出物および/または介在物を、電解液を用いた電解により抽出する方法であって、
前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤を含有し、
前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有し、
前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり、
前記吸着剤は、炭素数が12以上のアルキル基を有さない、析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項2】
前記吸着剤が、前記金属材料のマトリックス金属の表面に吸着する、請求項1に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項3】
前記電解液が、前記金属材料のマトリックス金属と錯体を形成する薬剤を含有する、請求項1または2に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項4】
前記吸着剤が、チオール基、スルフィド基およびジスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項5】
前記電解液における前記吸着剤の含有量が、電解質および溶媒を含有するベース電解液に対して、0.1g/L以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項6】
前記金属材料が、鉄鋼材料である、請求項1~5のいずれか1項に記載の析出物および/または介在物の抽出方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抽出方法により抽出した析出物および/または介在物を定量分析する、析出物および/または介在物の定量分析方法。
【請求項8】
金属材料中の析出物および/または介在物を電解により抽出する電解液であって、
前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤を含有し、
前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有し、
前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり、
前記吸着剤は、炭素数が12以上のアルキル基を有さない、電解液。
【請求項9】
前記吸着剤が、前記金属材料のマトリックス金属の表面に吸着する、請求項8に記載の電解液。
【請求項10】
前記金属材料のマトリックス金属と錯体を形成する薬剤を含有する、請求項8または9に記載の電解液。
【請求項11】
前記吸着剤が、チオール基、スルフィド基およびジスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する化合物である、請求項8~10のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項12】
前記吸着剤の含有量が、電解質および溶媒を含有するベース電解液に対して、0.1g/L以上である、請求項8~11のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項13】
前記金属材料が、鉄鋼材料である、請求項8~12のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項14】
請求項8~13のいずれか1項に記載の電解液を用いて金属材料の表面を電解エッチングし、前記電解エッチング後の前記金属材料の表面に存在する析出物および/または介在物を導電性薄膜に転写する、レプリカ試料の作製方法。
【請求項15】
前記導電性薄膜が、カーボン蒸着膜である、請求項14に記載のレプリカ試料の作製方法。」
第4 特許異議の申立について
1 申立理由の概要
申立人は、証拠として下記2に示す甲第1号証ないし甲第11号証(以下、それぞれ「甲1」ないし「甲11」という。)を提出し、以下の申立理由により、請求項1ないし15に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。
(1)(新規性)請求項1ないし3、6ないし10及び13に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1ないし3、6ないし10及び13に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1ないし3、6ないし10及び13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)(進歩性)請求項1ないし15に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲1に記載された発明及び甲2~11に記載された技術的事項に基いて、本件特許に係る出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、請求項1ないし15に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲2に記載された発明及び甲1、3~11に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1ないし15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)(明確性)請求項1ないし15に係る発明は、明確でないから、請求項1ないし15に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)(サポート要件)請求項1ないし15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1ないし15に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)(実施可能要件)発明の詳細な説明の記載は、請求項1ないし15に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、請求項1ないし15に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 証拠方法
甲1:特許第4572001号公報
甲2:特開2018-130670号公報
甲3:再公表特許WO2017/142088号公報
甲4:特開2019-101002号公報
甲5:神谷秀博,飯島志行,「ナノテクノロジー講座(第II講) ナノ粒子の分散・凝集挙動の評価と制御」,J.Jpn.Soc.Colour Mater.,2009年、Vol.82,No.5,p.241-218
甲6:飯島志行,「界面活性剤講座(第4講) ナノ粒子の表面改質と非水系溶媒中における分散制御」,J.Jpn.Soc.Colour Mater.,2016年,Vol.89,No.5,p.163-167
甲7:村川享男,加藤敏春,「鉄-酸水溶液界面のイオン吸着と電位-微分容量曲線」,金属表面技術,1966年,Vol.17,No.11,p.432-437
甲8:特開2007-125550号公報
甲9:特開2012-4030号公報
甲10:中村貴也,他5名,「SEMの像コントラストを活用したCr-Mo鋼中微細析出物の同定と相別分布の可視化」,日本金属学会誌、2018年4月6日,Vol.82,No.5,p.169-175
甲11:特開2004-317203号公報
第5 取消理由通知に記載した取消理由について
訂正前の請求項1ないし15に係る特許に対して、当審が令和4年5月10日付け取消理由通知書で特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
理由1(新規性)
請求項1ないし3、5ないし10、12及び13に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1ないし3、5ないし10、12及び13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
理由2(進歩性)
請求項4、5、11、12、14及び15に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項4、5、11、12、14及び15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
理由3(明確性)
請求項1ないし15に係る発明は、明確でないから、請求項1ないし15に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由4(サポート要件)
請求項1ないし15に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1ないし15に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由5(実施可能要件)
発明の詳細な説明の記載は、請求項1ないし15に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、請求項1ないし15に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第6 各甲号証の記載等
1 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載事項
甲1には以下の記載がある(下線は当審において付与した。以下同じ。)。
(甲1ア)
「【請求項1】
微粒子抽出手段を用いて、測定対象の金属材料中の微粒子を溶液中で分離抽出する工程と、
該分離抽出された微粒子を溶媒に分散させて分散液を作製し、フィールドフローフラクショネーション装置を用いて、該分散液を所定のサイズ毎に複数の微粒子分散溶液に分離する工程と、
該所定のサイズ毎に分離された各微粒子分散溶液にレーザ光を照射し、その反射強度の角度依存性から微粒子のサイズの絶対値を計測すると共に、反射強度の強さから個数密度を計測する工程と、
を有することを特徴とする金属材料中微粒子の粒度分布測定方法。」
(甲1イ)
「【0001】
本発明は、フィールドフローフラクショネーション(FFF: Field Flow Fractionation)法を利用した金属材料中微粒子(析出物及び非金属介在物)の粒度測定方法に関する。」
(甲1ウ)
「【0037】
従来の定電位電解法では、例えば、10質量%アセチルアセトン(以降“AA”と称す)-1質量%テトラメチルアンモニウムクロライド(以降“TMAC”と称す)-メタノール溶液、又は10質量%無水マレイン酸-2質量%TMAC-メタノール溶液が電解溶液として用いられている。また、サリチル酸メチル等の金属イオンとキレート錯体を形成するキレート試薬と、テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)等の電流を流すための電解質を、非水溶媒であるメタノール溶媒に溶かしこんだ電解溶液として用いられることもある。これらの電解溶液は、作業性及び抽出安定性の観点で好ましいため、多用されている。
【0038】
本発明者らは、これらの電解溶液の中に、後述する界面活性剤を主体とする分散剤を更に加えたものを電解溶液9として用いることにより、介在物等の電解抽出粒子5を更に安定的に捕獲することができることを新しく見出した。界面活性剤が添加されていると、金属マトリックスから分離して電解溶液9に放出された直後の電解抽出粒子5の周囲を、界面活性剤が安定的に保護して包み込む。
【0039】
このように、非水溶媒電解液である電解溶液9の中にも分散剤を予め入れておくことにより、鋼等の金属材料9から離れた介在物等の電解抽出粒子5が空気と接触する前に分散剤に安定的に取り込まれ、抽出効果が向上する。更に、介在物等の電解抽出粒子5をその後に溶媒中に再分散する際にも、速やかに単一粒子に分散しやすいという効果も得られる。そのためにも、電解抽出粒子5の抽出から、後述の各粒子サイズへの分離までの処理を、電解抽出粒子5が空気と接触しないように全て液中で行うことが重要である。
【0040】
この作用により、電解抽出粒子5が例えば薬剤及び/又は水分等に非常に不安定なものであっても、安定かつ効率的に抽出することが可能となる。添加する界面活性剤の濃度は、0.0001質量%~10質量%であることが望ましい。濃度が0.0001質量%未満であると薄すぎて作用が弱くなる。また、濃度が濃すぎると、泡が生成しやすくなるため作業上好ましくない。」
(甲1エ)
「【0045】
そして、これらの多種の界面活性剤の有効性について種々検討を行った結果、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤の両方とも、分散剤12として有効であることが判明した。その中でも、比較的入手し易く、生物化学分野等で活用されているラウリル硫酸ナトリウム(C12H25NaO4S:SDS(sodium dodecyl sulfate))等の硫酸のモノ長鎖アルキルエステルのナトリウム塩が好ましい。歯磨き粉、シャンプー等の日用品としても使用され、人体に安全で
安価なためである。」
(甲1オ)
「【0062】
図1に示すフローに従って、鉄鋼材料中の微粒子を抽出して溶液中に分散した後、FFF装置により、本実施形態に係る微粒子分析方法でサイズと個数密度を測定した。
【0063】
高Si系鉄鋼試料(Si:3質量%、Mn:0.1質量%、S:0.03質量%、Al:0.03質量%、N:0.01質量%)を20mm×40mm×0.3mmの大きさに加工して、表層のスケール等の酸化皮膜等を化学的研磨により除去し、金属層を出した。このとき、高Si系鉄鋼試料は、製造工程における加熱温度を、通常温度(1000℃)と、通常より約100℃高い高温(1100℃)とした条件で製造した鋼材からそれぞれサンプリングし、2種類の製造条件の異なる金属試料片を作成した。
【0064】
図2に示す鋼中粒子抽出装置を用いて、この金属試料片をSPEED法で電解した。電解液としては、硫化物系を安定的に電解できる3質量%サリチル酸メチル+1質量%サリチル酸+1質量%TMAC+0.05質量%SDS分散剤系を用いた。電解後に金属試料片を軽くメタノールで洗浄して、別の清浄なメタノールを入れたビーカーの中に静置した。電解溶液をフィルターでろ過し、得られたフィルターも上記ビーカーの中に入れて超音波を約1分照射して、金属試料片の表層に析出していた微粒子をメタノール溶液中に分散させた。」
(甲1カ)図2
[図:0001393100000001.jpg]
(2)甲1に記載された発明
上記(1)の記載及び図面を総合すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「 鉄鋼材料中の微粒子(析出物及び非金属介在物)を電解溶液中で分離抽出する鋼中粒子抽出方法であって、
電解溶液の中に、界面活性剤を主体とする分散剤を加えたものを電解溶液として用いることにより、金属マトリックスから分離して電解溶液中に放出された直後の微粒子の周囲を、界面活性剤が安定的に保護して包み込み、
アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤の両方とも、分散剤として有効であり、
その中でも、ラウリル硫酸ナトリウム(C12H25NaO4S:SDS(sodium dodecyl sulfate))等の硫酸のモノ長鎖アルキルエステルのナトリウム塩が好ましく、
鉄鋼材料が高Si系鉄鋼材料(Si:3質量%、Mn:0.1質量%、S:0.03質量%、Al:0.03質量%、N:0.01質量%)の場合、非水溶媒系定電位電解法(SPEED法)で電解する電解液として、3質量%サリチル酸メチル+1質量%サリチル酸+1質量%TMAC+0.05質量%SDS分散剤系を用いる、
鋼中粒子抽出方法。」
2 甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
(1)甲2の記載事項
甲2には以下の記載がある。
(甲2ア)
「【0020】
本実施形態の鉄鋼材料中の微粒子の分析方法では、まず第1ステップにおいて、鉄鋼材料に対して電解抽出法を行うことにより鉄鋼材料中に含まれる微粒子を抽出分離する。本実施形態では、電解液及び抽出液にコール酸類を分散剤として添加することで微粒子の凝集を防止し、次の第2ステップのフィールドフローフラクショネーション法において微粒子の粒子サイズの分別を容易にする。鉄鋼材料中の微粒子の分別方法である第2ステップでは、コール酸類を展開溶液に添加することにより、フィールドフローフラクショネーション法においてチャネル内に設置された透過性膜への微粒子の付着を防止し、かつ、チャネル内での微粒子の分散を容易にすることで拡散係数の大きい粒子から順に微粒子を系外に流出させる。そして、流出した微粒子を第3ステップにおいて順次ICP質量分析装置に導入して微粒子の定性分析を行うとともに、第2ステップ開始時点からICP質量分析での当該微粒子の検出時点までの保持時間を計測して粒子サイズを推定する。コール酸類は硫黄を含まないため、従来のようにTiやVとの間での質量スペクトル干渉は起こらない。また、第2ステップと第3ステップの間において微粒子の粒子サイズと個数密度を別途計測してもよい。
・・・
【0022】
胆汁酸の一種であるコール酸類は、分子内にフェノール性の水酸基を3つ、カルボキシル基を1つ有しており、水溶液中で強い界面活性作用を示し、従来、膜タンパク質の変性等に利用されている。コール酸類は、鉄鋼中の微粒子を凝集させることなく抽出、分散させることが可能である。更に、コール酸類は、モデル鋼材から電解抽出により得られたTiおよびVを含むナノ炭化物をフィールドフローフラクショネーション法(FFF法)によってサイズ毎に分別し、ICP質量分析において従来検出できなかったTiおよびVのイオンピークを検出可能である。以上の知見を見出し、本発明に至った。一般にFFF法における展開溶液には、イオン性界面活性剤であるSDSやCTAB、非イオン性界面活性剤であるTritonX-100、Tween20、電解質の塩であるNaCl、NaN3、NH4NO3などが用いられる。微粒子の種類やサイズにより適用可能な溶媒の種類は異なることが知られているが、測定試料の存在状態を損なわないものであれば、適用する事は可能である。その一方で、硫黄を含まないクエン酸や酢酸アンモニウムのような塩を用いた場合には、微粒子の分散性を損なわないにもかかわらず、分離検出が出来ないという課題があった。本発明では、分散剤としてコール酸類を用いることで、鋼材の熱処理による微粒子(ナノ析出物)の粗大化(2.1nm→3.8nm)を明確に把握することに成功した。この解析結果から、コール酸類は、FFF法における展開溶液の分散剤として好適に使用できることがわかった。
また、電解抽出法における電解液や、電解後に鋼材中の微粒子を鋼材から離脱させて分散させる抽出液に分散剤を添加してもよいこともわかった。」
(甲2イ)
「【0031】
次に、第1ステップにおいて使用する電解液及び抽出液について説明する。
電解液の基本組成は、例えば、10質量%アセチルアセトン(以降“AA”と称す)-1質量%テトラメチルアンモニウムクロライド(以降“TMAC”と称す)-メタノール溶液、又は10質量%無水マレイン酸-2質量%TMAC-メタノール溶液を例示できる。また、サリチル酸メチル等の金属イオンとキレート錯体を形成するキレート試薬と、テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)等の電流を流すための電解質を、非水溶媒であるメタノール溶媒に溶解させた電解液を用いてもよい。上記の基本組成では溶媒としてメタノールを例示したが、水でもよく、エタノール等の他のアルコール類でもよい。水は最も入手容易な溶媒だが、水に対して溶解性がある微粒子を分析対象とする場合は、メタノール等のアルコール類を溶媒に用いるとよい。
【0032】
本実施形態に係る電解液には、上記基本組成に加えてコール酸類からなる分散剤を更に添加する。分散剤を添加した電解液9を用いることにより、介在物等の微粒子5を凝集させずに電解抽出させることができる。コール酸類からなる分散剤が添加されていると、金属マトリックスから分離して電解液9に放出された直後の微粒子5の周囲を、分散剤が安定的に保護して包み込むことで、微粒子同士が凝集しにくくなると推測される。そして、電解抽出した微粒子5を抽出液に分散させる際にも、速やかに単一粒子に分散しやすいという効果も得られる。なお、本実施形態に係るコール酸類からなる分散剤は、電解液のほか、電解抽出に用いる抽出液や、第2ステップのフィールドフローフラクショネーション法に用いる展開溶液にも添加される。分散剤の詳細な説明は後述する。」
(甲2ウ)
「【0074】
(実験例2)
質量%でC:0.093%、Si:0.06%、Mn:0.48%、P:0.001%、S:0.001%、V:0.26%、Ti:0.2%、sol-Al:0.027%、N:0.0012%を含み、残部が鉄及び不純物からなるモデル鋼材を用意した。モデル鋼材中には、微粒子として、Ti炭化物とV炭化物が含まれていた。Ti炭化物及びV炭化物の平均粒径は、透過型電子顕微鏡観察(TEM観察)による画像解析結果では2.9nmであり、アトムプローブトモグラフィー(APT)による観察結果では1.75nmであった。
【0075】
これらTi炭化物及びV炭化物のサイズ分布について、FFF法を適用して分析を実施した。
【0076】
FFF法に用いるサンプル溶液の調製は、図3に示す電解抽出装置を用いて定電流電解抽出法により微粒子を抽出分離した。予備電解を15分行なった後に本電解を500mAで2時間行ない、鋼材1g相当を電解した。電解液には、10%AA-1%TMAC-MeOH溶液を基本組成とし、電解抽出操作時に抽出された微粒子が凝集するのを防ぐ目的で、コール酸ナトリウムをFFF分析用の展開溶媒(溶離液)と同一濃度である500ppm添加したものを用いた。鋼板試料表面に抽出された残渣は、ろ過せずに500ppmコール酸ナトリウム-MeOH溶液(抽出溶液)中に鋼板試料ごと浸漬し、超音波洗浄により微粒子を溶液中に回収した。このようにしてサンプル溶液を調整した。」
(甲2エ)図3
[図:0001393100000002.jpg]
(2)甲2に記載された発明
上記(1)の記載及び図面を総合すると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「 鉄鋼材料に対して電解抽出法を行うことにより鉄鋼材料中に含まれる介在物等の微粒子を抽出分離する微粒子抽出分離方法であって、
電解液の基本組成は、10質量%アセチルアセトン(以降“AA”と称す)-1質量%テトラメチルアンモニウムクロライド(以降“TMAC”と称す)-メタノール溶液、又は10質量%無水マレイン酸-2質量%TMAC-メタノール溶液であり、
電解液には、上記基本組成に加えて、界面活性作用を示すコール酸類からなる分散剤を添加し、分散剤を添加した電解液を用いることにより、介在物等の微粒子を凝集させずに電解抽出させることができ、コール酸類からなる分散剤が添加されていると、金属マトリックスから分離して電解液に放出された直後の微粒子の周囲を、分散剤が安定的に保護して包み込むことで、微粒子同士が凝集しにくくなり、
鉄鋼材料が質量%でC:0.093%、Si:0.06%、Mn:0.48%、P:0.001%、S:0.001%、V:0.26%、Ti:0.2%、sol-Al:0.027%、N:0.0012%を含み、残部が鉄及び不純物からなるモデル鋼材材料の場合、定電流電解抽出法により微粒子を抽出分離する電解液には、10%AA-1%TMAC-MeOH溶液を基本組成とし、コール酸ナトリウムを500ppm添加したものを用いる、
微粒子抽出分離方法。」
3 甲3の記載事項
甲3には以下の記載がある。
(甲3ア)
「【0004】
近年、鉄鋼材料の製造技術の進歩により、介在物や析出相の種類が多様化すると共に、微細分散化も進んでおり、観察に際しては、マトリックス(Fe)のみを選択的に溶解すると共に、介在物や析出相に関しては、それらが微細粒であっても、確実に観察表面に保持して、溶解しないような電解液が求められる。
【0005】
また、これらの介在物や析出相を同定・定量分析する場合には、同様に、電解質溶液中で鉄鋼試料のマトリックスを溶解させ、介在物や析出相を電解残渣として回収し、これを同定・定量分析することが行われている。」
(甲3イ)
「【0012】
従来の非水溶媒系電解液中での電解腐食等による鋼材中の金属化合物分析の際に、介在物や析出相の微粒子、特に、各種金属化合物、中でもMnSの表層には、電解操作以外の手段で測定した含有量よりも高濃度のCuSが観察されるという原因不明の現象が観察されることがあった。このため、MnS粒子をあたかもCuS(ArtifactCuS)として検知することがあった。
【0013】
本願発明者らは、その原因について、詳細に検討した結果、電解操作によって、電解液中に溶解度積Kspの小さい金属イオン(Cu2+)が生成すると、金属硫化物(MnS)の表面で、溶解度積Kspの大きい金属イオン(Mn2+)が、溶解度積Kspの小さい金属イオン(Cu2+)に置換(exchange)されることを発見した。また、このような硫化物表面での金属イオンの置換は、常温常圧で、しかも水溶液や非水溶媒中でも容易に進行することを突き止めた。
【0014】
その結果、鉄鋼試料中に、本来MnSとして存在していた介在物や析出相は、表面を観察する限り、CuSとして観察されることになり、また、MnSの表面に、電解液中のCuイオンに起因するCuSが、厚さ数十nm程度(1~100nm)MnSと交換することで、残渣から質量分析を行っても、微細粒子の場合には、体積の相当部分をCuSが占めることとなるので、正確な定量が不可能となっていた。」
(甲3ウ)
「【0017】
そこで、本願発明が解決しようとする課題は以下である。
・溶媒系電解液での電解腐食法等による金属材料中の金属微粒子(介在物、析出物)の抽出や分析において、従来の抽出・分析方法を大きく変更することなく、Cuイオン等による金属微粒子の表面置換を抑制し、Artifact(擬制)CuS等の生成を防止することを課題とする。
・特に金属硫化物(MnS、FeS等)に着目し、Artifact(擬制)CuS等の生成を防止することを課題とする。
【0018】
本願発明者らは、上記課題を解決するための手法について、鋭意検討した。
その結果、溶媒系電解液中に、Artifact(擬制)金属硫化物を形成する金属(アタック金属)を存在させなければ、置換現象は発現しないという知見から、そのようなアタック金属を補足することに想い至った。すなわち、溶媒系電解液中に、Artifact(擬制)金属硫化物を形成する金属(アタック金属)を選択的に捕捉する薬剤(キレート剤等)を添加することにより、電解液中の自由なアタック金属が減少し、Artifact(擬制)金属硫化物が生成されないことに想到した。
【0019】
例えば、鉄鋼試料等から溶け出すCuイオンを、Cuイオンキレート剤により、電解液中に保持して、表面観察用鉄鋼試料表面のMnSを攻撃させないこと、或いは、介在物や析出相の同定・定量分析のための電解操作においても、同様に電解液中にCuキレート剤により、Cuイオンをキレート錯体として、電解液中に保持することで、介在物や析出相から作成された定量分析用残渣中に、CuSが混入しないようにすることで、表面観察用の鉄鋼試料中の介在物や析出相を本来の姿のままで観察可能とすることができ、また、解析対象である電解残渣中に、試料のマトリックス等から溶け出したCuイオンに由来するCuS等を含まず、本来、鉄鋼試料が含有していた介在物や析出相に起因する元素のみを、正しく同定・定量できることが判明した。」
(甲3エ)
「【0066】
本発明により、上記の方法により抽出した金属化合物粒子を分析することも提供される。金属化合物物粒子について、XRFにより概略組成分析を行い、またはICPにより精緻な組成分析を行ってもよい。また、表面分析手法として、SEMによる観察、EDSによる元素解析等を用いてもよい。エッチングの途中で、金属化合物が抽出される試料の表面を分析することにより、時系列で金属化合物の抽出される状況を観測することもできる。
【0067】
本発明により、電解液中に、介在物や析出相の構成成分元素を攻撃して置換するようなアタック金属(Cuイオン等)を選択的に錯体として保持し、電解液中で安定的に溶解維持する成分を添加すれば、試料の表面観察においては、介在物や析出相が鉄鋼試料中で本来存在する形態で観察することができ、また、介在物や析出相の同定・定量分析においては、解析対象である電解残渣中に上記Cuイオン等が混入して、介在物や析出相の同定・定量分析精度を低下させない。例えば、本発明による、抽出した金属微粒子の表面分析により、実態はMnSやFeSである微粒子をCuSと誤認することがなくなり、金属硫化物の真の姿(サイズ、成分)を知ることができ、さらには鉄鋼材料中の金属硫化物の含有量も正確に把握することができる。」
4 甲4の記載事項
甲4には以下の記載がある。
(甲4ア)
「【0012】
本願発明者らは、これまでも鋼材分析の測定精度向上に取り組んでおり、従前の研究において、非水溶媒系電解液中での電解腐食等による鋼材中の金属化合物分析の際に、介在物や析出相の微粒子、特に、各種金属化合物、中でもMnSの表層には、電解操作以外の手段で測定した含有量よりも高濃度のCuSが観察されるという原因不明の現象が観察されることがあり、このため、MnS粒子をあたかもCuS(ArtifactCuS)として検知することがあることを見出している。
【0013】
本願発明者らは、その擬制(Artifact)の原因について、詳細に検討した結果、電解操作によって、電解液中に溶解度積Kspの小さい金属イオン(Cu2+)が生成すると、金属硫化物(MnS)の表面で、溶解度積Kspの大きい金属イオン(Mn2+)が、溶解度積Kspの小さい金属イオン(Cu2+)に置換(exchange)されることを発見した。また、このような硫化物表面での金属イオンの置換は、常温常圧で、しかも水溶液や非水溶媒中でも容易に進行することを突き止めた。
【0014】
その結果、鉄鋼試料中に、本来MnSとして存在していた介在物や析出相は、表面を観察する限り、CuSとして観察されることになり、また、MnSの表面に、電解液中のCuイオンに起因するCuSが、厚さ数十nm程度(1~100nm)MnSと交換することで、残渣から質量分析を行っても、微細粒子の場合には、体積の相当部分をCuSが占めることとなるので、正確な定量が不可能となっていた。
【0015】
本願発明者らの従前の研究では、上記の擬制(Artifact)を抑制するための手法として、溶媒系電解液中に、Artifact(擬制)金属硫化物を形成する金属(アタック金属)を選択的に捕捉する薬剤(キレート剤等)を添加することにより、電解液中の自由なアタック金属が減少し、Artifact(擬制)金属硫化物が生成されないことに想到した。
【0016】
しかしながら、MgSのようなMnSより更に加水分解しやすい析出物や介在物の場合は、電解液に溶解してしまうので、従来より電解抽出は無理と考えられていた。当然のことながら、擬制(Artifact)の原因となるアタック金属を補足する薬剤(キレート等)を添加したとしても、溶解しやすい析出物や介在物の溶解を抑制することはできない。
【0017】
この問題について、本願発明者らは、鋭意検討した結果、イオン交換反応を用いて溶解しやすいMgS等の析出物や介在物の表面にAgまたはAgS等の防水性バリアシートを生成できると着想した。つまり、MgS等の析出物や介在物は、溶解度積Kspが大きく溶解しやすいが、電解液中に溶解度積Kspが小さい化合物等(例えばAgSやAg)を含ませることにより、溶解度積Kspの大きい(溶解しやすい)析出物や介在物の表面が、溶解度積Kspの小さい(溶解しにくい)化合物等によって、被覆され溶解されにくくなることを予想した。実際に、本願発明者らは、Agを加えた電解液に鏡面研磨したMgS含有鋼材を付着させて、電解抽出実験を行ったところMgS表層で、MgとAgのイオン交換反応が発生して防水性バリアシートを形成できることを確認した。」
(甲4イ)
「【0030】
本発明は、金属材料中の金属化合物粒子の抽出に関するものである。より具体的には、金属材料を電解質溶液中でエッチングすることで、マトリックス(Fe等)を選択的に溶解し、金属材料に含まれる介在物や析出相等の金属化合物粒子を試料表面に露出させる。これにより、金属化合物粒子を観察可能な状態にできる。
金属試料中の微粒子の抽出方法としては、例えば、酸溶液中で鉄鋼試料の鉄マトリックスを溶解する酸分解法、ヨウ素メタノール混合溶液あるいは臭素メタノール混合溶液中で鉄鋼試料の鉄マトリックスを溶解するハロゲン溶解法、非水溶媒系定電流電解法、又は、非水溶媒系定電位電解(SPEED:Selective Potentiostatic Etching by Electrolytic Dissolution Method)法等を用いることができる。これらの内、非水溶媒を用いるSPEED法は、溶媒中に微粒子が分散された際に、組成やサイズの変化が起こり難く、不安定な微粒子でも比較的安定的に抽出できるため好適である。本実施形態に関して、図1を参照しながら、非水溶媒系定電位電解法(SPEED法)による鉄鋼材料中の微粒子の評価方法を例に取り、説明を行うが、本発明における抽出の方法はSPEED法に限定されるものではなく、また、金属材料は鉄鋼材料に限定されるものではない。
【0031】
初めに、金属試料4を、例えば、20mm×40mm×2mmの大きさに加工して、表層のスケール等の酸化皮膜等を化学的研磨又は機械的研磨等により除去し、金属層を出しておく。逆に、酸化皮膜層に含まれる微粒子を解析する場合は、そのままの形態で残しておく。
【0032】
次に、この金属試料を、SPEED法を用いて電解する。具体的には、電解槽10に電解溶液9を満たし、その中に金属試料4を浸漬させて、参照電極7を金属試料4に接触させる。白金電極6と金属試料4を電解装置8に接続する。一般的に上記電解法を用いると、金属試料4のマトリックスとなる金属部分の電解電位に比べて、析出物等の鋼中微粒子の電解電位は、高い電解電位を持つ。そこで、電解装置8を用いて金属試料4のマトリックスを溶解し、かつ析出物等の微粒子を溶解しない電解電位の間に、電圧を設定することにより、マトリックスのみを選択的に溶解することが可能となる。表面マトリックス部分のFeが電解溶出された試料表面には、介在物或いは析出相5が浮き出し、SEM等による観察に適した状態となる。さらに、電解を続けて、介在物や析出相を試料表面から離脱させて、電解残渣11(図示せず)として回収し、電解液から濾過分離して、同定・定量分析に供することもできる。
【0033】
本願発明に係る金属材料用の電解液、即ち、介在物や析出相を観察するために表面のFeマトリックスを電解したり、介在物や析出相を定量分析するために、Feマトリックスを電解し、残渣を回収するための電解に用いる電解液は、好ましくは、
(1)Feイオンに対する錯体形成剤、
(2)電解液に導電性を担保させる為の電解質、
(3)形成されたFe等の錯体を液中に保持するための溶媒、
を含む。」
5 甲5の記載事項
甲5には以下の記載がある。
(甲5ア)
「立体障害効果を発現させる最も一般的な方法は,界面活性剤や高分子分散剤を粒子表面に吸着する方法がある。また,樹脂や有機溶媒に親水性ナノ粒子を分散する場合では,界面の設計が必要で,金属では一般にチオール(R-SH,R:炭化水素鎖),酸化物などではシランカップリング剤(R-Si(OC2H5)3など)が使用される。」(第215頁右欄の下6行~末行)
6 甲6の記載事項
甲6には以下の記載がある。
(甲6ア)
「TiO2,FeO3,Al2O3やSiO2などをはじめとした金属酸化物微粒子は,その表面に水酸基(M-OH(M:金属))を有していることから極性が高く,水素結合性も高いことが知られている。このような微粒子の水中分散については,界面電気二重層の制御や親水性高分子分散剤の吸着によって実現可能である一方,非水系溶媒への分散については,その分子中に親水性部位と疎水性部位を併せもった特徴的な構造を有する界面活性剤が利用される場合が多い。」(第163頁右欄第2行~第9行)
7 甲7の記載事項
甲7には以下の記載がある。
(甲7ア)
「 3-1 HClO4,H2SO4,HCl-Fe系のC-E曲線
金属-酸水溶液界面状態の研究においては,アニオンは一般に特異吸着しやすいため,界面状態に著るしい影響を与えると考えられる。そこで本研究においては,吸着力が比較的弱いアニオンをもつ酸として過塩素酸を選び,ついでその順序にアニオンの吸着力が増大すると考えられるH2SO4およびHClについて,それぞれC-E曲線を測定した。第6図は,これらの3つの酸水溶液に関する結果である。なお,これらの曲線に見られるピークの意味については考察の部で述べる。
3-2 ハロゲンイオンの吸着
第7図は,0.3N-HClO4系にCl-,Br-およびI-などを,ナトリム塩として添加したときのC-E曲線の変化である。同一濃度については,Cl-<Br-<I-の順序に容量が減少する。ただしCl-およびBr-は,それらの添加によってハロゲンイオンの吸脱着と見なされるピークが現われるのに対し,I-については,その添加濃度によらずピークは測定されなかった(第7図)。
3-3 有機力チオンの吸着
アミン類は酸水溶液中で
[図:0001393100000003.jpg]
となって有機カチオンを生成する。このようなカチオンは,過塩素酸水溶液中では鉄にはほとんど吸着しないが,SO4=,Cl-,Br-,I-などが共存すれば吸着が顕著に起こる(第1表)。またハロゲン酸の中では,HF以外では明らかに吸着が認められる。第8図は,1N-HClにキノリンを添加したときのC-E曲線の変化を示す。」(第434頁左欄第18行~右欄第11行)
(甲7イ)第7図
[図:0001393100000004.jpg]
8 甲8の記載事項
甲8には以下の記載がある。
(甲8ア)
「【請求項1】
下記式(1):式(4):
【化1】
[図:0001393100000005.jpg]
前記式中、
Xは、置換または非置換の炭素数1~200のアルキル基、置換または非置換の炭素数6~80のアリール基または置換または非置換の炭素数7~40のアリールアルキル基であり、
Rは、Hまたはメチル基であり、
pは、1~10である
【化2】
[図:0001393100000006.jpg]
前記式中、lは、1~20である
【化3】
[図:0001393100000007.jpg]
【化4】
[図:0001393100000008.jpg]
からなる群から選択される、チオール系分散剤。
【請求項2】
前記式(1)で表される分散剤は、下記式(5):
【化5】
[図:0001393100000009.jpg]
前記式中、
Aは、Hまたは炭素数1~12のアルキル基であり、
m及びnは、それぞれ独立して、1~20であり、
Rは、前記式(1)で定義したとおりである、
で表されることを特徴とする、請求項1に記載のチオール系分散剤。」
(甲8イ)
「【0001】
本発明は、チオール系分散剤、及びそれを含む硫化系蛍光体ペースト組成物に関する。より詳しくは、オキシカルボニル基及びチオール基もしくはメチルチオ基を同時にヘッド基(head group)として含む構造、または、チオール基やチオフェン基をヘッド基として含む構造を有するチオール系分散剤、及びこれを含む硫化系蛍光体ペースト組成物に関するものである。」
9 甲9の記載事項
甲9には以下の記載がある。
(甲9ア)
「【0017】
上記金属微小粒子を製造する場合、保護安定剤を添加することが好ましい。上記保護安定剤は、金属微小粒子の酸化を防ぐという役割と、溶媒中での凝集を抑えて分散しやすくする役割とを有する。
【0018】
上記保護安定剤としては、低分子系と高分子系に大別される。
上記低分子系の保護安定剤としては、例えば、有機カルボン酸及びその塩、有機アミン化合物類、アルカンチオール類、ヒドロキシル基を有する有機化合物、リン酸及びその塩、ポリリン酸及びその塩、又は、二つの官能基をひとつの分子に含有した化合物(例えば、チオカルボン酸、アミンアルコール類)等を用いることができる。
・・・
【0020】
上記アルカンチオール類としては、例えば、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等が好適に用いられる。
上記二つの官能基をひとつの分子に含有した化合物としては、6-ヒドロキシ-1-ヘキサンチオール、8-ヒドロキシ-1-オクタンチオール、11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール等のヒドロキシル基を有するチオール類、3-メルカプトプロピオン酸、5-カルボキシ-1-ペンタンチオール、7-カルボキシ-1-ヘプタンチオール、11-メルカプトウンデカン酸等のカルボン酸基を有するチオール類、モノエタノールアミン、エタノールジアミン、モノペンタノールアミン、モノヘキサノールアミン、モノヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノナノールアミン等が挙げられる。」
10 甲10の記載事項
甲10には以下の記載がある。
(甲10ア)
「従来から行われてきた鋼中の微細析出物の評価方法に,薄膜試料や抽出レプリカ試料を用いた透過電子顕微鏡(TEM: Transmission Electron Microscope)観察がある.抽出レプリカ試料は,母材のみを選択的に腐食し,母材上に残った析出物を,蒸着によって作製した支持膜上に転写することで作製する2).抽出レプリカ法は,母材の影響なしに分析ができるという点で優れており、エネルギー分散型X線分光法(EDX: Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)による元素分析と電子回折を組み合わせることで,析出物の相同定を行える.」(第169頁左欄第8行~第16行)
(甲10イ)
「試料中の析出物の種類と組成を明らかにするため,カーボン抽出レプリカを作製し,TEMによる観察とEDXによる元素分析,および電子回折による析出物の同定を行った.」(第170頁左欄第13行~第15行)
11 甲11の記載事項
甲11には以下の記載がある。
(甲11ア)
「【0005】
これに対して、非水溶媒系定電位電解法(SPEED法)は、一度に溶解できる鉄鋼試料の量が1~3g程度と少ないものの、介在物が溶媒中に溶解することによる組成やサイズの変化が起こりにくく、不安定な化合物でも安定に抽出できるという特長を有するため、鋼中介在物や析出物の評価方法として一般的な方法である。電解液としては、10体積%アセチルアセトン-1質量%テトラメチルアンモニウムクロライド(TMAC)-メタノール混合溶液、10質量%無水マレイン酸-1質量%TMAC-メタノール混合溶液、10体積%サリチル酸メチル-1質量%TMAC-メタノール混合溶液等が一般的に用いられている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
上述の従来法により抽出した残渣の従来の評価方法としては、X線分析や、光学顕微鏡、走査電子顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)観察などが挙げられる。このうち、特に、ナノオーダーからサブミクロンの微細な粒子を評価する場合には、鋼材試料の極表層のみを電解などで溶解してレプリカ試料を作製して、TEM観察を行うことが一般的である。
金属材料中の析出物のTEM観察用の試料作製方法としては、非特許文献2に、抽出レプリカ法が紹介されており、従来の試料作製方法として最も一般的な方法である。この方法は、電解等により材料表面に析出物を抽出し、この析出物を炭素膜などに転写し材料表面から剥離してレプリカ膜とするものであり、これを直径3mm程度のメッシュ上に固定して、TEMで観察する。具体的には、金属材料試料片を樹脂に埋め込み、試料表面を鏡面に研摩後、酸溶液で腐食または電解して介在物や析出物を試料表面に露出させた後、この上に炭素膜を蒸着し、次いで、これを酸溶液または電解で剥離し、水に浮かべ表面張力で広げてメッシュにのせ、乾燥した後にTEM観察に供するものである。」
第7 取消理由に対する当審の判断
1 新規性・進歩性について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「鉄鋼材料中の微粒子(析出物及び非金属介在物)を電解溶液中で分離抽出する鋼中粒子抽出方法」は、本件発明1の「金属材料中の析出物および/または介在物を、電解液を用いた電解により抽出する方法」に相当する。
(イ)甲1発明の「電解溶液」が、「微粒子の周囲を」「安定的に保護して包み込」む「界面活性剤を主体とする分散剤を加えたもの」であることと、本件発明1の「前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤を含有」することとは、「前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面を被覆する添加剤を含有」する点で共通する。
(ウ)甲1発明において、「鉄鋼材料が高Si系鉄鋼材料(Si:3質量%、Mn:0.1質量%、S:0.03質量%、Al:0.03質量%、N:0.01質量%)の場合」の「Mn:0.1質量%」及び「S:0.03質量%」は、「鉄鋼材料中の微粒子(析出物及び非金属介在物)」といえることから、甲1発明は、本件発明1の「前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有し、」に相当する構成を備えているといえる。
イ 一致点・相違点
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。
(一致点)
「 金属材料中の析出物および/または介在物を、電解液を用いた電解により抽出する方法であって、
前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面を被覆する添加剤を含有し、
前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有する、析出物および/または介在物の抽出方法。」
(相違点1)
添加剤が、本件発明1では、「前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤」であり、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するもの」であるのに対し、甲1発明では、「微粒子の周囲を」「安定的に保護して包み込」む「界面活性剤を主体とする分散剤」であり、前記分散剤は、「電解溶液中に放出された直後の微粒子」を分散するものである点。
(相違点2)
本件発明1では、「前記吸着剤は、炭素数が12以上のアルキル基を有さない」のに対し、甲1発明では、かかる構成について特定されていない点。
ウ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲5(上記第6の5参照)及び甲6(上記第6の6参照)には、粒子の表面に界面活性剤を吸着させて、溶媒に粒子を分散させることが記載されているが、甲5及び甲6を踏まえて、甲1発明の「界面活性剤を主体とする分散剤」が、仮に「微粒子の周囲」に吸着するものであるとしても、甲1発明の「界面活性剤を主体とする分散剤」は、本件発明1の上記相違点1のように、「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するもの」ではない。
(イ)また、甲3(上記第6の3参照)及び甲4(上記第6の4参照)には、電解液中にCuが存在すると、MnS中のMnとの置換反応が生じ、MnSがCuSに変化することが記載されているが、甲3及び甲4には、この変化を抑制するために、本件発明1の上記相違点1のように、「前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤」であって、「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制する」吸着剤を用いることについての記載も示唆もない。
(ウ)そして、甲2、甲7~11(それぞれ上記第6の2、7~11参照)は、いずれも、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項についての記載も示唆もなく、上記相違点1に係る本件発明1の構成が、本件特許に係る出願の優先日前に周知技術であるといえる証拠も見当たらない。
(エ)すると、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
エ 小括
上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、上記相違点2を検討するまでもなく、甲1発明であるとはいえない。
また、上記相違点1については、上記ウで検討したとおりであるから、本件発明1は、上記相違点2を検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、上記相違点1を発明特定事項として含んでいることから、甲1発明であるとはいえない。
また、上記相違点1については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明2ないし7は、甲1発明及び甲2~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明2ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(3)本件発明8について
本件発明8は、電解液の発明であり、上記相違点1を発明特定事項として含んでいることから、甲1発明であるとはいえない。
また、上記相違点1については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明8は、甲1発明及び甲2~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明8に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(4)本件発明9ないし13について
本件発明9ないし13は、本件発明8の発明特定事項を全て含むものであり、上記相違点1を発明特定事項として含んでいることから、甲1発明であるとはいえない。
また、上記相違点1については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明9ないし13は、甲1発明及び甲2~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明9ないし13に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(5)本件発明14について
本件発明14は、本件発明8~13のいずれか1項に記載の電解液を用いるレプレカ試料の作製方法の発明であり、上記相違点1を発明特定事項として含んでいることから、甲1発明であるとはいえない。
また、上記相違点1については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明14は、甲1発明及び甲2~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明14に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(6)本件発明15について
本件発明15は、本件発明14の発明特定事項を全て含むものであり、上記相違点1を発明特定事項として含んでいることから、甲1発明であるとはいえない。
また、上記相違点1については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明15は、甲1発明及び甲2~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明15に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
2 明確性について
(1)発明の詳細な説明には、「【0031】〈吸着剤〉本発明の電解液が含有する吸着剤は、析出物等の表面に吸着する物質であれば、特に限定されない。」と記載されているところ、当審では、請求項1ないし15に係る発明について、「吸着剤」として「金属材料中の析出物および/または介在物の表面に吸着する」物質の範囲が明確でない旨の取消理由を通知した。
(2)これに対し、本件訂正により、本件発明1ないし15について、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであ」ることを発明特定事項として追加した。
(3)したがって、上記(2)のとおり、吸着剤の物質の範囲が機能的に特定されたことにより、本件発明1ないし15は、明確でないとはいえない。
3 サポート要件について
(1)発明の詳細な説明には、電解液中にCuが存在すると、MnS中のMnとの置換反応が生じ、MnSがCuSに変化し、この変化を抑制するという課題(【0014】)を解決するために必要な手段である「金属材料中の析出物および/または介在物の表面に吸着する吸着剤」としては、「金属材料から溶出した金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、金属材料の表面に付着している析出物および/または介在物との置換反応を抑制するもの」のみが記載されているといえるところ、当審では、「金属材料中の析出物および/または介在物の表面に吸着する吸着剤」が、「金属材料から溶出した不純物が、金属材料の表面に付着している析出物および/または介在物との置換反応を抑制するもの」以外を排除しない本件発明1ないし15は、発明の詳細な説明に記載したものでない旨の取消理由を通知した。
(2)これに対し、本件訂正により、本件発明1ないし15は、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであ」ることを発明特定事項として含むものとなった。
(3)したがって、本件発明1ないし15は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
4 実施可能要件について
(1)当審では、「金属材料中の析出物および/または介在物の表面に吸着する吸着剤」が、「金属材料から溶出した不純物が、金属材料の表面に付着している析出物および/または介在物との置換反応を抑制するもの」以外を含む本件発明1ないし15について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない旨の取消理由を通知した。
(2)これに対し、本件訂正により、本件発明1ないし15は、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであ」ることを発明特定事項として含むものとなった。
(3)したがって、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであ」ることを発明特定事項として含む本件発明1ないし15について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 新規性・進歩性について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「鉄鋼材料に対して電解抽出法を行うことにより鉄鋼材料中に含まれる介在物等の微粒子を抽出分離する微粒子抽出分離方法」は、本件発明1の「金属材料中の析出物および/または介在物を、電解液を用いた電解により抽出する方法」に相当する。
(イ)甲2発明の「電解液には、上記基本組成に加えて」、「微粒子の周囲を」「安定的に保護して包み込」む「界面活性作用を示すコール酸類からなる分散剤を添加し」ていることと、本件発明1の「前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤を含有」することとは、「前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面を被覆する添加剤を含有」する点で共通する。
(ウ)甲2発明において、「鉄鋼材料が質量%でC:0.093%、Si:0.06%、Mn:0.48%、P:0.001%、S:0.001%、V:0.26%、Ti:0.2%、sol-Al:0.027%、N:0.0012%を含み、残部が鉄及び不純物からなるモデル鋼材材料の場合」の「Mn:0.48%」及び「S:0.001%」は、「鉄鋼材料中に含まれる介在物等の微粒子」といえることから、甲2発明は、本件発明1の「前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有し、」に相当する構成を備えているといえる。
イ 一致点・相違点
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致し、次の各点で相違する。
(一致点)
「 金属材料中の析出物および/または介在物を、電解液を用いた電解により抽出する方法であって、
前記電解液が、前記析出物および/または前記介在物の表面を被覆する添加剤を含有し、
前記析出物および/または前記介在物は、少なくとも、MnおよびSを含有する、析出物および/または介在物の抽出方法。」
(相違点3)
添加剤が、本件発明1では、「前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤」であり、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するもの」であるのに対し、甲2発明では、「微粒子の周囲を」「安定的に保護して包み込」む「界面活性作用を示すコール酸類からなる分散剤」であり、前記分散剤は、「電解溶液中に放出された直後の微粒子」「同士が凝集しにくく」するものである点。
(相違点4)
本件発明1では、「前記吸着剤は、炭素数が12以上のアルキル基を有さない」のに対し、甲2発明では、かかる構成について特定されていない点。
ウ 判断
上記相違点3について検討する。
(ア)甲5(上記第6の5参照)及び甲6(上記第6の6参照)には、粒子の表面に界面活性剤を吸着させて、溶媒に粒子を分散させることが記載されているが、甲5及び甲6を踏まえて、甲2発明の「界面活性作用を示すコール酸類からなる分散剤」が、仮に「微粒子の周囲」に吸着するものであるとしても、甲2発明の「界面活性作用を示すコール酸類からなる分散剤」は、本件発明1の上記相違点3のように、「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するもの」ではない。
(イ)また、甲3(上記第6の3参照)及び甲4(上記第6の4参照)には、電解液中にCuが存在すると、MnS中のMnとの置換反応が生じ、MnSがCuSに変化することが記載されているが、甲3及び甲4には、この変化を抑制するために、本件発明1の上記相違点3のように、「前記析出物および/または前記介在物の表面に吸着する吸着剤」であって、「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制する」吸着剤を用いることについての記載も示唆もない。
(ウ)そして、甲1、甲7~11(それぞれ上記第6の1、7~11参照)は、いずれも、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項についての記載も示唆もなく、上記相違点3に係る本件発明1の構成が、本件特許に係る出願の優先日前に周知技術であるといえる証拠も見当たらない。
(エ)すると、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、甲2発明及び甲1、3~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
エ 小括
上記相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明1は、上記相違点4を検討するまでもなく、甲2発明であるとはいえない。
また、上記相違点3については、上記ウで検討したとおりであるから、本件発明1は、上記相違点4を検討するまでもなく、甲2発明及び甲1、3~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであり、上記相違点3を発明特定事項として含んでいることから、甲2発明であるとはいえない。
また、上記相違点3については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明2ないし7は、甲2発明及び甲1、3~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明2ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(3)本件発明8について
本件発明8は、電解液の発明であり、上記相違点3を発明特定事項として含んでいることから、甲2発明であるとはいえない。
また、上記相違点3については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明8は、甲2発明及び甲1、3~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明8に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(4)本件発明9ないし13について
本件発明9ないし13は、本件発明8の発明特定事項を全て含むものであり、上記相違点3を発明特定事項として含んでいることから、甲2発明であるとはいえない。
また、上記相違点3については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明9ないし13は、甲2発明及び甲1、3~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明9ないし13に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(5)本件発明14について
本件発明14は、本件発明8~13のいずれか1項に記載の電解液を用いるレプレカ試料の作製方法の発明であり、上記相違点3を発明特定事項として含んでいることから、甲2発明であるとはいえない。
また、上記相違点3については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明14は、甲2発明及び甲1、3~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明14に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
(6)本件発明15について
本件発明15は、本件発明14の発明特定事項を全て含むものであり、上記相違点3を発明特定事項として含んでいることから、甲2発明であるとはいえない。
また、上記相違点3については、上記(1)のウで検討したとおりであるから、本件発明15は、甲2発明及び甲1、3~11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、本件発明15に係る特許は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。
2 明確性・サポート要件・実施可能要件について
上記「第7 取消理由に対する当審の判断」の2~4において、上記第4に記載した明確性・サポート要件・実施可能要件に関する特許異議申立理由について全て判断している。
第9 令和4年8月22日提出の意見書について
1 明確性について
(1)申立人は、「(2-C)明確性について」の欄において、「訂正発明1における「吸着剤」について、「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオ―ル」又は「2-アミノエタンチオール」以外に、「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するもの」の外延が定かでなく、訂正発明1は明確でない。」と意見する。
(2)本件発明1は、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであ」ることを発明特定事項として含み、当該発明特定事項が、吸着剤の範囲を機能的に特定したものであるところ、当該機能の意味内容を当業者であれば明確に理解できることから、本件発明1は明確でないとはいえない。
したがって、申立人の上記(1)の意見は受け入れることができない。
2 サポート要件について
(1)申立人は、「(2-D)サポート要件について」の欄において、「訂正事項1-2に関して前述したように、本件特許明細書等には、「吸着剤」について、微量金属としてCuおよび/またはAgを含む金属材料を電解液を用いて電解する場合に、電解液に吸着剤として「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」又は「2-アミノエタンチオール」を添加しておくことで、MnおよびSを含む析出物等とCu又はAgとの置換反応が抑制されることが実証されているに過ぎない。「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」又は「2-アミノエタンチオール」以外であっても「析出物等の表面に吸着する物質であれば」(【0031】)、Cu又はAgに限らず、マトリックス金属に固溶し、金属材料から溶出した微量金属と金属材料の表面に付着しているMnおよびSを含有する析出物等との置換反応が抑制されるという出願時の技術常識も無い。したがって、出願時の技術常識に照らしても、訂正発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。よって、訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。」と意見する。
(2)発明の詳細な説明には、電解液中にCuが存在すると、MnS中のMnとの置換反応が生じ、MnSがCuSに変化し、この変化を抑制するという課題(【0014】)を解決するために必要な手段である「金属材料中の析出物および/または介在物の表面に吸着する吸着剤」としては、「金属材料から溶出した金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、金属材料の表面に付着している析出物および/または介在物との置換反応を抑制するもの」のみが記載されているといえるところ、本件発明1は、課題を解決するために必要な手段として、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであ」ることを発明特定事項に含むものである。
そして、発明の詳細な説明の【0031】~【0037】には、「金属材料から溶出した金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、金属材料の表面に付着している析出物および/または介在物との置換反応を抑制」し、「金属材料中の析出物および/または介在物の表面に吸着する吸着剤」について記載されており、実証されている「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」及び「2-アミノエタンチオール」以外にも、「6-(4-ビニルベンジル-n-プロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」が具体例として挙げられている(【0036】)ところ、吸着剤が置換反応を抑制するものであるかどうかは、その作用機序が判然としていなくとも、実際にその効果を確認すれば判断できるから、実証されている「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」及び「2-アミノエタンチオール」や、「6-(4-ビニルベンジル-n-プロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」の具体例を踏まえ、これらの具体例以外であっても、【0031】~【0037】の記載を手がかりに、「金属材料から溶出した金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、金属材料の表面に付着している析出物および/または介在物との置換反応を抑制」し、「金属材料中の析出物および/または介在物の表面に吸着する吸着剤」であるかの選定を行うことは、当業者にとって過度の試行錯誤を伴うこととはいえない。
すると、本件発明1は、課題を解決するために必要な手段として、「前記吸着剤は、前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであ」ることを発明特定事項に含み、発明の詳細な説明に開示された内容を当該発明特定事項まで拡張ないし一般化できないとはいえないことから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
したがって、申立人の上記(2)の意見は受け入れることができない。
3 実施可能要件について
(1)申立人は、「(2-E)実施可能要件について」の欄において、「「吸着剤」として、「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」又は「2-アミノエタンチオール」のほかに、「前記金属材料から溶出した前記金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、前記金属材料の表面に付着している前記析出物および/または前記介在物との置換反応を抑制するものであり」、かつ、「炭素数が12以上のアルキル基を有さない」ものを含む訂正発明1ないし15について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。」と意見する。
(2)発明の詳細な説明には、「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」又は「2-アミノエタンチオール」は、「炭素数が12以上のアルキル基を有さない」ものであって、「金属材料から溶出した金属材料のマトリックス金属に固溶している金属と、金属材料の表面に付着している析出物および/または介在物との置換反応を抑制」し、「金属材料中の析出物および/または介在物の表面に吸着する吸着剤」であることが実証されている。
よって、実証されている「6-ジブチルアミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール」又は「2-アミノエタンチオール」を少なくとも含む本件発明1ないし15について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。
したがって、申立人の上記(3)の意見は受け入れることができない。
第10 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし15に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700139