特許異議申立
2022-700355
容器詰飲料及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-700355
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-032030
- 登録番号
- 6953644
- 請求日
- 2022年04月27日
- 審決日
- 2023年06月12日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】西澤 和純
- 【権利者代理人】大槻 真紀子
- 【権利者代理人】伊藤 英輔
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【異議申立人】小島 早奈実
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.121-YAA(A23L) / P1651.16 -YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6953644号発明「容器詰飲料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6953644号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔18-19〕について訂正することを認める。
特許第6953644号の請求項1ないし17及び19に係る特許を維持する。
特許第6953644号の請求項18に係る特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6953644号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし19に係る特許についての出願は、令和2年5月12日(優先権主張 令和1年10月9日)を出願日とする特願2020-84002号の一部を新たな特許出願として令和3年3月1日に出願した特願2021-32030号に係るものであって、同年10月1日にその特許権の設定登録(請求項の数19)がされ、同年同月27日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許に対し、令和4年4月27日に特許異議申立人 小島 早奈美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、同年8月4日付けで当審から取消理由が通知され、同年10月14日に特許権者 アサヒビール株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年11月4日に特許異議申立人から上申書が提出され、同年12月9日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、令和5年2月16日に特許権者から訂正請求書(当該訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」という。)とともに意見書が提出され、同年3月16日に特許異議申立人から、上申書が提出されたものである。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項18を削除する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項19に「請求項17又は18に記載の容器詰飲料の製造方法。」と記載されているのを、「請求項17に記載の容器詰飲料の製造方法。」に訂正する。
ウ 一群の請求項について
訂正前の請求項19は、訂正前の請求項18を引用して特定しているものであるから、請求項18及び19は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項18の訂正は、請求項18を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項18の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項19の訂正は、訂正前の請求項19が請求項17又は18の記載を引用する記載であるところ、訂正事項1で請求項18が削除されて請求項18を引用できなくなったことに伴い、引用先の請求項から請求項18を削除することで請求項間の引用関係の整合を図るものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項19の訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。
2 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔18-19〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔18-19〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし19に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明19」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和5年2月16日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、
前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有し、
フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、
前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶であることを特徴とする、容器詰飲料。
【請求項2】
前記飲料缶が、ツーピース飲料缶又はスリーピース飲料缶である、請求項1に記載の容器詰飲料。
【請求項3】
前記容器本体の密封される前の開口部の面積が、前記容器本体に充填された前記可食性の水溶液の液面の面積の70%以下である、請求項1又は2に記載の容器詰飲料。
【請求項4】
前記疎水性液滴が、前記水溶液の液面に存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項5】
前記疎水性香気成分が、沸点が260℃以上である疎水性物質である、請求項1~4のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項6】
前記疎水性液滴の密度が、前記水溶液の密度より小さい、請求項1~5のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項7】
前記疎水性香気成分が、果実の香気成分である、請求項1~6のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項8】
前記疎水性液滴が、植物から抽出された疎水性物質を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項9】
前記植物から抽出された疎水性物質が、精油である、請求項8に記載の容器詰飲料。
【請求項10】
前記植物が柑橘類である、請求項8又は9に記載の容器詰飲料。
【請求項11】
前記疎水性液滴が、テルペン類を含有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項12】
前記テルペン類中のテルペン炭化水素の割合が80質量%以上である、請求項11に記載の容器詰飲料。
【請求項13】
前記水溶液が、アルコールを含有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項14】
前記水溶液が、炭酸ガスを含有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項15】
前記水溶液が、果汁又は果実を含有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項16】
前記水溶液が、乳化剤と疎水性香気成分を含有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の容器詰飲料。
【請求項17】
可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
容器本体に、前記水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填し、
その後、前記容器本体を密封し、
前記疎水性液状組成物が、D-リモネンを含有しており、
前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である、容器詰飲料の製造方法。
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
前記容器本体の密封される前の開口部の面積が、前記容器本体に充填された前記可食性の水溶液の液面の面積の70%以下である、請求項17に記載の容器詰飲料の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年4月27日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1-1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由1-2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由1-3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由1-4(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由2(甲第22号証に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1ないし19に係る発明は、甲第22号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
6 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
7 証拠方法
甲第1号証 :特開2005-124567号公報
甲第2号証 :特開2008-109900号公報
甲第3号証 :国際公開第2011/148761号
甲第4号証 :特開2010-279293号公報
甲第5号証 :特開2005-290326号公報
甲第6号証 :特開2015-108070号公報
甲第7号証 :特開2008-308594号公報
甲第8号証 :特開2019-89990号公報
甲第9号証 :特開平11-157568号公報
甲第10号証:特開平9-132680号公報
甲第11号証:技術手帳 第16版、ニチアス株式会社 工業製品事業本部 配管・機器部品技術開発部、2017年8月第16版第1刷発行、総目次、126-127頁、140頁
甲第12号証:ポリマー辞典、大成社出版部、昭和45年9月1日、587-589頁、606-607頁、610-611頁
甲第13号証:三菱ケミカルホールディングスグループのホームページ、ケミカルサイト、製品情報 直鎖状低密度ポリエチレン ノバテックTMLL [online],[令和4年4月19日検索],インターネット<URL:https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/group/jpe/product/1200017_7016.html>
甲第14号証:プラスチック・データブック、旭化成アミダス株式会社「プラスチック」編集部共編、株式会社工業調査会、1999年、324-329頁、338-339頁
甲第15号証:日本ポリエチレン株式会社のホームページ、ノバテックTMLLの製品紹介,[online],[令和4年4月25日検索],インターネット<URL:https://www.rhombic.co.jp/wp-content/uploads/2017/03/novatec-11.pdf>
甲第16号証:軽金属 第68巻 第3号(2018),152-158頁
甲第17号証:特開2013-166569号公報
甲第18号証:特表2016-515984号公報
甲第19号証:特開2012-200190号公報
甲第20号証:特開平7-107937号公報
甲第21号証:国際公開第2009/017087号
甲第22号証:特開2019-170298号公報(特願2018-63746号)
甲第23号証:化学大事典9 縮刷版、共立出版株式会社、1964年3月15日縮刷版第1刷発行、642頁
甲第24号証:株式会社ロンビックのホームページ、「事業案内」の「樹脂販売事業」のウェブサイト、[online],[令和4年4月25日検索],インターネット<URL:https://www.rhombic.co.jp/business/resin-sales-2>
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由の概要
当審が令和4年12月9日付けで特許権者に通知した取消理由通知書<決定の予告>に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
取消理由1(甲1に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし16、18及び19に係る発明は、本件特許の優先日前に当業者が甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし16、18及び19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由2(甲2に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし16、18及び19に係る発明は、本件特許の優先日前に当業者が甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし16、18及び19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由3(甲3に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし16、18及び19に係る発明は、本件特許の優先日前に当業者が甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし16、18及び19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由4(甲4に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし16、18及び19に係る発明は、本件特許の優先日前に当業者が甲4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし16、18及び19に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、上記取消理由1ないし4は、特許異議申立人による申立理由1-1ないし1-4のうち、請求項1ないし16、18および19に係る部分と同旨である。
第5 令和4年12月9日付け取消理由通知<決定の予告>で特許権者に通知した取消理由についての判断
当審は、以下に述べるように、当審が令和4年12月9日付けで特許権者に通知した取消理由通知<決定の予告>における取消理由1ないし4には、いずれも理由がないと判断する。
1 取消理由1について
(1) 甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「アルコール炭酸飲料の製造方法、及び、風味強化果汁の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。(下線については予め付されたものと当審において付与したものがある。以下他の文献についても同じ。)
「【請求項4】
エタノールの濃度が90重量%以上であるエタノール溶液100重量部に1~10重量部の油溶性香料を溶解させて高アルコール香料を得る高アルコール香料製造工程と、
この高アルコール香料製造工程により得られた高アルコール香料を、アルコール濃度が30重量%~60重量%のシロップ100重量部に対して0.1重量部~5重量部添加し、白濁することなく完全に溶解させて、高アルコール香料が溶解したシロップを得る高アルコール香料シロップ化工程と、
この高アルコール香料シロップ化工程により得られたシロップを水で3~7倍に希釈して白濁させ、白濁したアルコール飲料を得るアルコール飲料化工程と、
このアルコール飲料化工程により得られた白濁したアルコール飲料に炭酸ガスを溶解させ、白濁したままの状態で密閉容器に充填して充填済み密閉容器を得る密閉容器充填工程と、
この密閉容器充填工程により得られた充填済み密閉容器を加熱殺菌する殺菌工程と、を含むアルコール炭酸飲料の製造方法。」
「【0010】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、天然の果実由来の芳香を有するアルコール炭酸飲料、及び、風味が強化された果汁を提供することにある。」
「【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するために、本発明者は、天然果実から得られる精油(オイル)を、粒子を細かくした果物中のパルプに吸着させて飲料に添加することにより、天然果物由来の芳香を有するアルコール炭酸飲料を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
また、油溶性香料を溶解させた高アルコール香料をシロップに完全に溶解させた後水で希釈することにより、パルプ質をそれ程含まないアルコール炭酸飲料、例えばチューハイ等にも油溶性香料の使用が可能となり、天然物由来の芳香を有するアルコール炭酸飲料を得ることができることも見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0056】
「香料」とは、芳香を発散する物質の総称であり、天然香料と合成香料がある。香料は液体であってもよいし、固体であってもよい。本発明では、天然香料が主に用いられる。また、本発明に用いる「香料」は油溶性である。油溶性とは、一般的には油脂に溶けこむ性質をいい、油溶性の大きいものは一般に有機溶剤に溶けやすく、水には溶けにくい。本発明では、油溶性香料が特にエタノールに溶解することが好ましい。ここで、油溶性香料とは、一般に果物から採れる香りの強い、いわゆる精油を意味する。そのままでは水には不溶であり、アルコールと水を加えてエッセンス香料の原料となるものである。テルペンカット等を行い、精製及び濃縮された精油も含まれる。具体的な油溶性香料としては、例えば、柑橘系香料が好ましく用いられる。更に、油溶性香料として、レモンオイルを用いることができる。なお、液状の油溶性香料を芳香性オイルという。」
「【0061】
シロップ中のパルプは油溶性香料を吸着して安定化している。そして、このシロップをアルコール飲料に添加することにより、油溶性香料を含んだ新鮮な香気を有するアルコール飲料ができる。また、油溶性香料を吸着したパルプは、油溶性香料を吸着していない場合と比べて比重が軽くなるので、アルコール中に白濁して分散し、ほとんど沈殿することがない。また、油溶性香料はパルプに吸着しているので、オイルがアルコール飲料の表面に浮くこともない。」
「【0088】
[実施例3]
濃度95.5%の原料用エタノール100重量部に油溶性香料として、グレープフルーツの果皮由来のピールオイルを80%テルペンカットし、4倍濃縮したものを10重量部添加して、エタノール溶液に完全溶解させ、高アルコール香料を得た。得られた高アルコール香料をアルコールの濃度が35容量%、砂糖が20重量%、クエン酸が0.2重量%、5倍濃縮透明グレープフルーツ果汁が2重量%、水が50重量%のシロップ100重量部に、0.5重量%添加し、白濁することなく完全に溶解させ、油溶性香料が溶解したシロップを得た。このシロップを水で5倍に希釈した後、炭酸ガスを2.3VOL溶解させて、アルコール7%の炭酸飲料を得、缶に詰めた。この場合、シロップに溶け込んでいた油溶性香料の一部が、希釈時に析出し、白濁した。濁度は1ppmであった(積分球式濁度計、SEP-PT706D、三菱化学)。しかし、後パストライズ殺菌(65℃、15分)を行うと、析出した油溶性香料は溶解し、濁度は0.5ppmまで落ちた。また、製造後1日後には、濁度は0ppmとなりクリアーとなった。これは、液表面にオイル分が浮上したものだが、肉眼的にオイル浮きが確認出来ないレベルであった。」
イ 甲1に記載された発明
上記アの記載、特に、実施例3の缶に詰められた飲料について整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。
<甲1実施例3発明>
「濃度95.5%の原料用エタノール100重量部に油溶性香料として、グレープフルーツの果皮由来のピールオイルを80%テルペンカットし、4倍濃縮したものを10重量部添加して、エタノール溶液に完全溶解させ、高アルコール香料を得、得られた高アルコール香料をアルコールの濃度が35容量%、砂糖が20重量%、クエン酸が0.2重量%、5倍濃縮透明グレープフルーツ果汁が2重量%、水が50重量%のシロップ100重量部に、0.5重量%添加し、白濁することなく完全に溶解させ、油溶性香料が溶解したシロップを得、このシロップを水で5倍に希釈した後、炭酸ガスを2.3VOL溶解させて、アルコール7%の炭酸飲料を得、缶に詰め、製造後一日後に液表面にオイル分が浮上した、缶詰飲料。」
<甲1実施例3製法発明>
「濃度95.5%の原料用エタノール100重量部に油溶性香料として、グレープフルーツの果皮由来のピールオイルを80%テルペンカットし、4倍濃縮したものを10重量部添加して、エタノール溶液に完全溶解させ、高アルコール香料を得、得られた高アルコール香料をアルコールの濃度が35容量%、砂糖が20重量%、クエン酸が0.2重量%、5倍濃縮透明グレープフルーツ果汁が2重量%、水が50重量%のシロップ100重量部に、0.5重量%添加し、白濁することなく完全に溶解させ、油溶性香料が溶解したシロップを得、このシロップを水で5倍に希釈した後、炭酸ガスを2.3VOL溶解させて、アルコール7%の炭酸飲料を得、缶に詰め、製造後一日後に液表面にオイル分が浮上した、缶詰飲料の製造方法。」
(2) 本件発明1について
本件特許発明1と甲1実施例3発明を対比する。
甲1実施例3発明の「グレープフルーツの果皮由来のピールオイルを80%テルペンカットし」たものは、甲4の段落【0007】の記載からみてリモネンを含むものといえるから、本件特許発明1の「D-リモネン」「を含有した疎水性香気成分」に相当する。
また、甲1実施例3発明の「缶詰飲料」は、本件特許発明1の「容器詰飲料」に相当する。そして、甲1実施例3発明の「製造後一日後に液表面にオイル分が浮上した、缶詰飲料」は、「このシロップを水で5倍に希釈した後、炭酸ガスを2.3VOL溶解させて、アルコール7%の炭酸飲料を得、缶に詰めた。この場合、シロップに溶け込んでいた油溶性香料の一部が、希釈時に析出し、白濁した。濁度は1ppmであった(積分球式濁度計、SEP-PT706D、三菱化学)。しかし、後パストライズ殺菌(65℃、15分)を行うと、析出した油溶性香料は溶解し、濁度は0.5ppmまで落ちた。また、製造後1日後には、濁度は0ppmとなりクリアーとなった。これは、液表面にオイル分が浮上したものだが、肉眼的にオイル浮きが確認出来ないレベルであった」(【0088】)ものである。ここで、甲1実施例3発明の「缶詰飲料」において、油溶性香料の一部が白濁するのは水溶液から分離していることを意味し、かつ、「オイルが浮上」との記載もそれを裏付けるものであるから、甲1実施例3発明の「缶詰飲料」は、本件発明1の「可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有している疎水性液摘とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴が分離しており」との発明特定事項を有するものといえる。
そうすると、本件特許発明1と甲1実施例3発明とは、
「可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、
前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有する、
容器詰飲料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1-1>
「容器詰飲料」に関し、本件特許発明1は、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、甲1実施例3発明は、この点を特定しない点。
以下、相違点1-1について検討する。
甲1及びその他の全ての証拠の記載を見ても、甲1実施例3発明において、リモネンを含むことを考慮の上で、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶」を採用する動機付けがない。
そして、本件特許発明1は、「可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有」する飲料において、D-リモネンによるシーリングコンパウンドやキャップライナーの溶解に対する耐性を図りつつ、「容器の開封時や喫食時に感じる疎水性香気成分による香りが強く、嗜好性に優れている」(【0009】)との、本件特許発明1の特定事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超えて顕著な効果を奏するものである。
してみると、甲1実施例3発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たものではない。
この点について、特許異議申立人は、D-リモネンが腐食性を有すること、ニトリルゴム、フッ素ゴムがリモネンに対して高い耐性を有することは技術常識であったこと、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分に用いたシーリングコンパウンドを使用した飲料缶や鎖状低密度ポリエチレンを用いたキャップライナーを有する飲料用ボトルは、本件特許の優先日前に知られていたことなどを挙げ、甲1実施例3発明において相違点1-1に係る本件特許発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たことである旨主張する(異議申立書第46頁)。
しかしながら、甲1実施例3発明に含まれる「油溶性香料」即ちリモネンを含む香料は、80%ものテルペンカットがなされたオイルであることや、肉眼的にオイル浮きが確認出来ないレベルであったことからすれば、そもそも、甲1実施例3発明において、リモネンが容器の材質に何らかの影響が与えるものであったと認識することはできないし、また、甲1の記載の全てをみてもそのようなことを窺わせる記載もない。
してみると、甲1実施例3発明において、容器の材質としてリモネンに耐性を有するものを用いる必要があるとの動機があったとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。
したがって、本件特許発明1は、甲1実施例3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 本件特許発明2ないし16について
本件特許発明2ないし16は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明1の特定事項を全て備えるものである。
してみると、本件特許発明2ないし16もまた、本件特許発明1と同様に、甲1実施例3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。
(4) 本件特許発明19について
本件特許発明19は、請求項17を引用するものであって、本件特許発明17の特定事項を全て備えるものである。
そして、本件特許発明17は、後に述べる「第6 1」における検討のとおり、甲1実施例2製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明19もまた、甲1実施例2製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) まとめ
上記(2)ないし(4)のとおりであるから、取消理由1は、その理由がない。
2 取消理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1) 甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「精油の分散安定化方法および飲料の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、果汁の使用を必ずしも必要とせず、パルプ質の沈殿も生じない、しかも高い香り立ちが得られる、精油の分散・安定化方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、果汁の使用を必ずしも必要とせず、パルプ質の沈殿も生じず、しかも精油成分の香り立ちが良い飲料の製造方法、並びに、当該方法により製造される飲料を提供することを目的とするものである。」
「【0055】
実施例3(水溶性大豆多糖類によるオレンジオイルの安定性)
ビーカーに95%アルコール76mlを入れ、オレンジオイル(ピールオイル5倍濃縮品、ビルド社)を0.1g添加し、完全に溶解させ、オレンジオイル溶液(1300ppm(w/v))を調製した。このオレンジオイル溶液76mlに、水溶性大豆多糖類(ソヤファイブS)を1g溶解させた水溶液(2500ppm(w/v))400mlを加え、良く攪拌して、オレンジオイルを210ppm、水溶性大豆多糖類を2100ppm(いずれもw/v)含有する溶液を調製した。
アルコール濃度が下がったことにより、アルコール中に溶けていたオレンジオイルが微細な粒子となって析出し、溶液は白濁した。それと同時に、オレンジオイルは、溶液中に均一に溶けている水溶性大豆多糖類に均一に吸着・安定した。
次いで、クエン酸(三栄源)2g、55%果糖ぶどう糖液糖(加藤化学)50gおよび水を添加し、全量を1000mlとして攪拌溶解したあと、炭酸ガスを2.3volまで添加して、オレンジチューハイ原液を作製した。なお、このチューハイ原液中には、100ppmのオレンジオイルと1000ppmの水溶性大豆多糖類が溶けている。
このオレンジチューハイ原液を200mlのガラス瓶5本に充填し、試験品とした。
また、水溶性大豆多糖類を添加しないこと以外は、上記と同様にしてオレンジチューハイ原液を作製し、瓶詰めして対照品とした。
【0056】
この2品を4℃、20℃又は37℃で静置保存し、官能評価および外観の観察を行った。各試験区における吸光度(OD720)の経時変化を図4に示す。
出来上がり直後は、どちらのサンプルも、官能評価ではオレンジの新鮮な香りが強く良好であり、外観では全体に白濁していた。
保存試験開始から4日後時点において、対照品は、オレンジオイルがガラス瓶上部の内部壁面に白い膜として付着し、チューハイ原液自体は透明となった。一方、試験品は4日後においても、オレンジオイルのガラス壁面への付着はなく、白濁したままであった。また、この時点での官能評価において、いずれの温度条件でも試験品は出来上がり直後と同様の新鮮な風味を維持していたが、対照品はオレンジオイルが分離したために新鮮な香りがかなり失われていた。
保存試験開始から1ヶ月後においても、試験品は、ガラス壁面へのオレンジオイルの吸着はなく、白濁状態も保たれていた。一方、対照品は分離したままであった。
また、官能評価の結果、試験品は対照品と比較して、香りが十分あり優れていた。」
イ 甲2に記載された発明
上記アの記載、特に、実施例3の対照品である飲料について整理すると、甲2には次の発明が記載されていると認める。
<甲2実施例3対照品発明>
「ビーカーに95%アルコール76mlを入れ、オレンジオイル(ピールオイル5倍濃縮品、ビルド社)を0.1g添加し、完全に溶解させ、オレンジオイル溶液(1300ppm(w/v))を調製し、このオレンジオイル溶液76mlに、水400mlを加え、良く攪拌して、オレンジオイルを210ppm(w/v)含有する溶液を調製し、ここで、アルコール濃度が下がったことにより、アルコール中に溶けていたオレンジオイルが微細な粒子となって析出し、溶液は白濁しており、
次いで、クエン酸(三栄源)2g、55%果糖ぶどう糖液糖(加藤化学)50gおよび水を添加し、全量を1000mlとして攪拌溶解したあと、炭酸ガスを2.3volまで添加して、オレンジチューハイ原液を作製し、このオレンジチューハイ原液を200mlのガラス瓶5本に充填し、保存試験開始から4日後時点において、オレンジオイルがガラス瓶上部の内部壁面に白い膜として付着し、チューハイ原液自体は透明となった容器詰飲料。」
<甲2実施例3対照品製法発明>
「ビーカーに95%アルコール76mlを入れ、オレンジオイル(ピールオイル5倍濃縮品、ビルド社)を0.1g添加し、完全に溶解させ、オレンジオイル溶液(1300ppm(w/v))を調製し、このオレンジオイル溶液76mlに、水400mlを加え、良く攪拌して、オレンジオイルを210ppm(w/v)含有する溶液を調製し、ここで、アルコール濃度が下がったことにより、アルコール中に溶けていたオレンジオイルが微細な粒子となって析出し、溶液は白濁しており、
次いで、クエン酸(三栄源)2g、55%果糖ぶどう糖液糖(加藤化学)50gおよび水を添加し、全量を1000mlとして攪拌溶解したあと、炭酸ガスを2.3volまで添加して、オレンジチューハイ原液を作製し、このオレンジチューハイ原液を200mlのガラス瓶5本に充填し、保存試験開始から4日後時点において、オレンジオイルがガラス瓶上部の内部壁面に白い膜として付着し、チューハイ原液自体は透明となった容器詰飲料の製造方法。」
(2) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2実施例3対照品発明を対比する。
甲2実施例3対照品発明の「オレンジオイル」は、本件特許発明1の「D-リモネン」「を含有した疎水性香気成分」に相当する(必要なら、甲4及び甲23を参照のこと)。
甲2実施例3対照品発明の「瓶に充填された飲料」は、本件特許発明1の「容器詰飲料」に相当する。
甲2実施例3対照品発明の飲料は、「出来上がり直後は、どちらのサンプルも、官能評価ではオレンジの新鮮な香りが強く良好であり、外観では全体に白濁していた。保存試験開始から4日後時点において、対照品は、オレンジオイルがガラス瓶上部の内部壁面に白い膜として付着し、チューハイ原液自体は透明となった。・・・対照品はオレンジオイルが分離したために新鮮な香りがかなり失われていた」(【0056】)ものである。ここで、甲2実施例3対照品発明の容器詰飲料は、飲料の一部が白濁するのは水溶液から分離していることを意味し、かつ、「オレンジオイルが分離し」との記載もそれを裏付けるものであるから、本件特許発明1の「可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有している疎水性液摘とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴が分離しており」との発明特定事項を有するものといえる。
そうすると、本件特許発明1と甲2実施例3対照発明とは、
「可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、
前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有する、
容器詰飲料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
「容器詰飲料」に関し、本件特許発明1は、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、甲2実施例3対照発明は、「ガラス瓶」である点
以下、相違点2-1について検討する。
甲2及びその他の全ての証拠の記載を見ても、甲2実施例3対照品発明において、リモネンを含むことを考慮の上で、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶」を採用する動機付けがない。
そして、本件特許発明1は、「可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有」する飲料において、D-リモネンによるシーリングコンパウンドやキャップライナーの溶解に対する耐性を図りつつ、「容器の開封時や喫食時に感じる疎水性香気成分による香りが強く、嗜好性に優れている」(【0009】)との、本件特許発明1の特定事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超えて顕著な効果を奏するものである。
してみると、甲2実施例3対照品発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たものではない。
なお、この点についての特許異議申立人の主張(異議申立書第47頁ないし第48頁)は、上記1(2)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明1は、甲2実施例3対照品発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 本件特許発明2ないし16について
本件特許発明2ないし16は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明、すなわち本件特許発明1の特定事項を全て備えるものである。
してみると、本件特許発明2ないし16もまた、本件特許発明1と同様に、甲2実施例3対照品発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。
(4) 本件特許発明19について
本件特許発明19は、請求項17を引用するものであって、本件特許発明17の特定事項を全て備えるものである。
そして、本件特許発明17は、後に述べる「第6 2」における検討のとおり、甲2実施例3対照品製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明19もまた、甲2実施例3対照品発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) まとめ
上記(2)ないし(4)のとおりであるから、取消理由2は、その理由がない。
3 取消理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1) 甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「精油含有飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「[0016] 本発明者らは、以上のような課題に鑑みて鋭意研究した結果、発酵セルロースを用いて比較的多量の精油を飲料中で安定分散させることによって、長期間精油による油層を形成することなく、香味力価が強く香り立ちがよく、フレッシュでインパクトのある香味を持つ飲料を製造できることを見出し、本発明を完成させたものである。」
「[0045] 容器詰め飲料
本発明のアルコール飲料は、容器詰めとすることができる。容器の形態は何ら制限されず、プラスチックを主成分とする成形容器、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと積層されたラミネート紙容器、ガラス瓶などの通常の形態で提供することができる。本発明によれば、長時間精油の析出を抑制することができるため、製造から飲食まである程度の時間がかかる容器詰め飲料において本発明の効果を大きく享受することができ、好適である。」
「[0047] 実施例1
・・・
[0048] (飲料及びそのシロップの調製)
表1の配合表に従って、各種多糖類及びオレンジオイル香料(長谷川香料社製、オレンジ精油分14w/w%)を、最終的な飲料でそれぞれ0.04w/v%、2mL/Lとなるよう添加した飲料ベース液を調整した。このとき、最終的な飲料における精油量は、オレンジ精油分14w/w%、オレンジオイル香料の比重0.82、オレンジオイルの一般的な比重0.845から計算すると、0.14×2×0.82/0.845=0.27mL/Lとなる。また、多糖類としては、発酵セルロース(三栄源エフ・エフ・アイ社製サンアーティストPX)、水溶性大豆多糖類(同社製SM-1250)、キサンタンガム(同社製サンエースE-S)及びジェランガム(同社製ゲルアップK-S)を用いた。このとき、各多糖類は、水もしくはぬるま湯に添加して均質機(ホモミキサー)にて攪拌溶解し、これにオレンジオイル香料を添加して、均質機で微細化処理したものを前記飲料ベース液に添加した。
[0049] 得られた飲料ベース液に加水して、シロップ及び飲料を調製した。シロップは、最終的な飲料1000mLに対して350mLの濃縮倍率(すなわち約2.9倍濃縮)となるよう調製した。また、飲料は、シロップ350mLに、純水を添加して1000mLとして調整した。このとき、シロップ及び飲料のアルコール度数は、それぞれ12.3v/v%、4.3v/v%となる。
[0050]
[表1]
[図:0001401613000001.jpg]
[0051] 得られたシロップ及び飲料を、24/48/96時間静置し、オレンジオイル香料に由来する精油分の有無について観察した。このとき、多糖類を添加せず、オレンジオイル香料のみを添加して作成したサンプルを対照とした。
[0052] (シロップ及び飲料の評価)
上記のように調製したシロップ及び飲料について、油層形成及び液性を評価した。評価のポイントと基準は次の通りである。
[0053] (a)油層形成
シロップ及び飲料の液面で、精油が集合して油層を形成しているかどうか調べた。
-2点:大きな精油の浮きが見られる
-1点:精油の浮きが少量見られる
0点:精油の浮きが見られない
1点:均一に分散している」
「[0057] 実施例2
表4の配合表に従って、最終的な飲料1000mLに対して500mLの濃縮倍率(すなわち2倍濃縮)となる飲料のシロップを実施例1と同様にして調製した。このシロップに、(a)オレンジオイル香料(長谷川香料社製、オレンジ精油分14w/w%)単独、(b)オレンジ精油を含む透明乳化香料単独、(c)発酵セルロース及び前記オレンジオイル香料、をそれぞれ添加し、加水して飲料を調製した。このとき、(a)、(b)、(c)それぞれの水準について、炭酸ガスを圧入して炭酸ガス入りとするものと、炭酸ガスを圧入しないものを作成した。ここで、オレンジオイル香料又はオレンジ精油を含む透明乳化香料に含まれるオレンジ精油量は、最終的な飲料で0.13mL/Lである。また、発酵セルロースの添加量は、最終的な飲料で0.04w/v%である。なお、透明乳化香料とは、通常の混濁するタイプの乳化香料に対して均質化処理などにより粒径を小さくして透明な外観を保つように設計された乳化香料のことをいう。最終的な飲料のアルコール度数は3.3v/v%、炭酸ガスを圧入したものの炭酸ガス圧は、1.6kg/cm2である。
[0058] これらのサンプルを、訓練を受けた専門パネル7名にて、次のようにして評価を行った。最終飲料の香り・味については、(a)オレンジオイル香料単独を含む飲料を対照(3点)としてその香味の品質を評価した。すなわち、対照とほぼ同等の品質のものを3点、対照にやや近い品質のものを2点、対照とは明らかに異なるものを1点とした。各パネルによる評価点数の平均値を計算し、各サンプルの評価点とした。また、各サンプルのシロップ段階における油層の形成を目視にて観察し、精油が浮いているのが観察される場合は製造に支障があると判断して×、観察されなければ製造に問題なしと判断して○とした。この評価結果を、表5に示す。
[0059]
[表4]
[図:0001401613000002.jpg]
[0060]
[表5]
[図:0001401613000003.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
上記アの記載、特に、実施例2の対照として、実施例2において多糖類を添加せず、オレンジオイル香料のみ添加した飲料について整理すると、甲3には次の発明が記載されていると認める。
<甲3実施例2対照発明>
「オレンジオイル香料(長谷川香料社製、オレンジ精油分14w/w%)を、最終的な飲料でそれぞれ0.04w/v%、2mL/Lとなるよう添加した飲料ベース液を調整し、得られた飲料ベース液に加水して、シロップ及び飲料を調製した最終的な飲料1000mLに対して500mLの濃縮倍率(すなわち2倍濃縮)となる飲料のシロップを調製し、このシロップに、オレンジオイル香料(長谷川香料社製、オレンジ精油分14w/w%)単独を添加し、加水して飲料を調製し、炭酸ガスを圧入して炭酸ガス入りとした飲料。」
<甲3実施例2対照製法発明>
「オレンジオイル香料(長谷川香料社製、オレンジ精油分14w/w%)を、最終的な飲料でそれぞれ0.04w/v%、2mL/Lとなるよう添加した飲料ベース液を調整し、得られた飲料ベース液に加水して、シロップ及び飲料を調製した最終的な飲料1000mLに対して500mLの濃縮倍率(すなわち2倍濃縮)となる飲料のシロップを調製し、このシロップに、オレンジオイル香料(長谷川香料社製、オレンジ精油分14w/w%)単独を添加し、加水して飲料を調製し、炭酸ガスを圧入して炭酸ガス入りとした飲料の製造方法。」
(2) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3実施例2対照発明を対比する。
甲3実施例2対照発明の「オレンジオイル香料」は、本件特許発明1の「D-リモネン」「を含有した疎水性香気成分」に相当する(必要ならば、甲4及び甲23を参照のこと)。
また、甲3実施例2対照発明の「飲料」は、炭酸ガスが圧入されている飲料であり、何らかの容器に詰められていることは明らかであるから、本件特許発明1の「容器詰飲料」に相当する。
さらに、甲3実施例2対照発明の飲料は、「各サンプルのシロップ段階における油層の形成を目視にて観察し、精油が浮いているのが観察される場合は製造に支障があると判断して×」と評価されるものである([0058]及び表5)から、本件特許発明1の「可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有している疎水性液摘とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴が分離しており」との発明特定事項を有するものといえる。
そうすると、本件特許発明1と甲3実施例2対照発明とは、
「可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、
前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有する、
容器詰飲料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3-1>
「容器詰飲料」に関し、本件特許発明1は、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、甲3実施例2対照発明は、どのような容器に詰められているのかを特定しない点
以下、相違点3-1について検討する。
甲3及びその他の全ての証拠の記載を見ても、甲3実施例2対照発明において、リモネンを含むことを考慮の上で、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶」を採用する動機付けがない。
そして、本件特許発明1は、「可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有」する飲料において、D-リモネンによるシーリングコンパウンドやキャップライナーの溶解に対する耐性を図りつつ、「容器の開封時や喫食時に感じる疎水性香気成分による香りが強く、嗜好性に優れている」(【0009】)との、本件特許発明1の特定事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超えて顕著な効果を奏するものである。
してみると、甲3実施例2対照発明において、相違点3-1に係る本件特許発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たものではない。
なお、この点についての特許異議申立人の主張(異議申立書第49頁ないし第50頁)は、上記1(2)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明1は、甲3実施例2対照発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 本件特許発明2ないし16について
本件特許発明2ないし16は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明、すなわち本件特許発明1の特定事項を全て備えるものである。
してみると、本件特許発明2ないし16もまた、本件特許発明1と同様に、甲3実施例2対照発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。
(4) 本件特許発明19について
本件特許発明19は、請求項17を引用するものであって、本件特許発明17の特定事項を全て備えるものである。
そして、本件特許発明17は、後に述べる「第6 3」における検討のとおり、甲3実施例2対照製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明19もまた、甲3実施例2対照製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) まとめ
上記(2)ないし(4)のとおりであるから、取消理由3は、その理由がない。
4 取消理由4(甲4に基づく進歩性)について
(1)甲4に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「オイル香料を含有するアルコール飲料の製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
「【0007】
本発明のオイル香料を含有するアルコール飲料の製造方法は、シロップを調合する前に、オイル香料を高濃度エタノール溶液に添加することを特徴とする。
レモンの皮を絞ることによって得られたレモンピールシングルオイル(1ホールド)は、レモンの新鮮な香りを持っているが、その9割以上は水に溶けにくいテルペン類である。そのため、これを飲料に直接添加しても、オイル成分は浮上して、飲料に溶解しない。本発明の製造方法により得られるアルコール飲料では、このようなオイル成分の浮上は起こらない。
本発明において、「オイル香料」とは、柑橘類から得られた精油を含水エタノールでウォッシュ(不溶物除去)していない香料のことを言う。柑橘類としては、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、タンジェリン、ライムなどが挙げられる。
また、柑橘類から得られた精油には、一般に、水に不溶性のテルペン類が95質量%程度含まれており、これがオイル浮きの原因となる。テルペン類とは、テルペン骨格を持った炭化水素の総称であり、リモネンやαピネン、βピネン、ミルセンなどが挙げられるが、このうちリモネンが90%以上を占める。テルペン類は揮発性が高く、柑橘類のフレッシュ感を出すが、ウォッシュドフレーバー(アルコールエッセンス香料)にはほとんど含まれない。このため、ウォッシュドフレーバーは新鮮さにかけた香りになる。オイル香料はウォツシュしていないので、このテルペン類含量が比較的高く新鮮で力強い香りとなる。」
「【実施例】
【0018】
(予備実験1)
テルペン類含量が95質量%のレモンピールシングルオイルと、これを減圧蒸留して2、4、6、8及び10ホールドに濃縮し、テルペン類含量がそれぞれ90質量%、80質量%、70質量%、60質量%及び50質量%のレモンオイルを用意した。これらを95質量%のエタノール液(エタノール95.5質量%、水4.5質量%)で10倍に希釈した後、それぞれ2ml、1ml、0.5ml、0.32ml、0.24ml及び0.2mlの量で1Lのチューハイ液(7質量%のエタノール、0.3質量%のクエン酸及び4質量%の果糖分55%の果糖ブドウ糖液糖)に添加した。良く攪拌したところ、いずれもオイル浮きがみられ、完全には溶解しなかった。次に、3倍シロップ液(21質量%のエタノール)及び4倍シロップ液(28質量%のエタノール)に、同様にレモンオイルを添加したが、オイル浮きが起こり、いずれも完全には溶解しなかった。
【0019】
(実験1)
127mlの55質量%のエタノール液(エタノール55質量%、水45質量%)に、予備実験1と同様にレモンオイルを添加したところ、4ホールド以上のレモンオイルは溶解した。次いで、クエン酸、果糖分55%の果糖ブドウ糖液糖及び水を加えて、3倍シロップ液にし、オイル浮きの状態をみたところ、8ホールド及び10ホールドのレモンオイルは、オイル浮きが見られなかった。他のレモンオイルはオイルが析出して、オイル浮きが見られた。また、同様にして4倍シロップ液にした時も、同様の結果であった。次いで、シロップ液を水で薄めてエタノール分を7質量%にしたところ、8ホールド及び10ホールドオイル添加品はやや白濁したがオイル浮きは見られず、炭酸ガスを2.3容積%まで添加して、びん詰め後、65℃で15分間加熱殺菌すると、白濁も消え、オイルの浮上も見られなかった。また、十分なレモンの香りを有することも確認できた。4ホールド以下のオイルを添加したものは殺菌前、殺菌後もオイル浮きが認められた。
なお、上記の127mlの55質量%のエタノール液の代わりに、73.5mlの95質量%のエタノール液又は140mlの50質量%のエタノール液(エタノール50質量%、水40質量%)を用いた場合でも同様の結果となった。
【0020】
【表1】
[図:0001401613000004.jpg]
オイル浮きなし○
オイル浮きあり×」
イ 甲4に記載された発明
上位アの記載、特に、実施例の対照として、4ホールド以下のオイルを添加し、さらに炭酸ガスを添加してびん詰めされた飲料について整理すると、甲4には次の発明が記載されていると認める。
<甲4対照発明>
「テルペン類含量が95質量%のレモンピールシングルオイルを減圧蒸留して4ホールドに濃縮し、テルペン類含量が80質量%のレモンオイルを用意し、127mlの55質量%のエタノール液(エタノール55質量%、水45質量%)に、当該レモンオイルを添加し、次いで、クエン酸、果糖分55%の果糖ブドウ糖液糖及び水を加えて、3倍シロップ液にし、次いで、シロップ液を水で薄めてエタノール分を7質量%にし、炭酸ガスを2.3容積%まで添加して、びん詰め後、65℃で15分間加熱殺菌した後でオイル浮きが認められた、びん詰め飲料。」
<甲4対照製法発明>
「テルペン類含量が95質量%のレモンピールシングルオイルを減圧蒸留して4ホールドに濃縮し、テルペン類含量が80質量%のレモンオイルを用意し、127mlの55質量%のエタノール液(エタノール55質量%、水45質量%)に、当該レモンオイルを添加し、次いで、クエン酸、果糖分55%の果糖ブドウ糖液糖及び水を加えて、3倍シロップ液にし、次いで、シロップ液を水で薄めてエタノール分を7質量%にし、炭酸ガスを2.3容積%まで添加して、びん詰め後、65℃で15分間加熱殺菌した後でオイル浮きが認められた、びん詰め飲料の製造方法。」
(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4対照発明を対比する。
甲4対照発明の「レモンオイル」は、本件特許発明1の「D-リモネン」「を含有した疎水性香気成分」に相当する。
また、甲4対照発明の「びん詰めした飲料」は、本件特許発明1の「容器詰飲料」に相当する。
そして、甲4対照発明の「びん詰め飲料」は「65℃で15分間加熱殺菌した後でオイル浮きが認められた」のであるから、甲4対照発明のの「びん詰め飲料」は、本件特許発明1の「可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有している疎水性液摘とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴が分離しており」との発明特定事項を有するものといえる。
そうすると、本件特許発明1と甲4対照発明とは、
「可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、
前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有する、
容器詰飲料。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-1>
「容器詰飲料」に関し、本件特許発明1は、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、甲4対照発明は、びん詰め飲料である点
以下、相違点4-1について検討する。
甲4及びその他の全ての証拠の記載を見ても、甲4対照発明において、リモネンを含むことを考慮の上で、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶」を採用する動機付けがない。
そして、本件特許発明1は、「可食性の水溶液と、疎水性香気成分を含有している疎水性液滴とを含有し、前記水溶液と前記疎水性液滴とが分離しており、前記疎水性液滴が、D-リモネンを含有」する飲料において、D-リモネンによるシーリングコンパウンドやキャップライナーの溶解に対する耐性を図りつつ、「容器の開封時や喫食時に感じる疎水性香気成分による香りが強く、嗜好性に優れている」(【0009】)との、本件特許発明1の特定事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超えて顕著な格別の効果を奏するものである。
してみると、甲4対照発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の特定事項を採用することは、当業者が容易になし得たものではない。
なお、この点についての特許異議申立人の主張(異議申立書第51頁ないし第52頁)は、上記1(2)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明1は、甲4対照発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 本件特許発明2ないし16について
本件特許発明2ないし16は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明、すなわち本件特許発明1の特定事項を全て備えるものである。
してみると、本件特許発明2ないし16もまた、本件特許発明1と同様に、甲4対照発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。
(4) 本件特許発明19について
本件特許発明19は、請求項17を引用するものであって、本件特許発明17の特定事項を全て備えるものである。
そして、本件特許発明17は、後に述べる「第6 4」における検討のとおり、甲4対照製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明19もまた、甲4対照製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) まとめ
上記(2)ないし(4)のとおりであるから、取消理由4は、その理由がない。
第6 取消理由通知<決定の予告>において採用しなかった申立理由について
取消理由通知<決定の予告>において採用しなかった申立理由は、本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-1ないし申立理由1-4と申立理由2、申立理由3である。
以下、順次検討する。
1 本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-1(甲1に基づく進歩性)について
(1) 対比・判断
本件特許発明17と上記第5 1(1)イに記載の甲1実施例3製法発明とを対比すると、上記第5 1(2)と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、本件特許発明17と甲1実施例3製法発明との一致点、相違点は下記のとおりである。
<一致点>
「可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
前記疎水性液状組成物が、D-リモネンを含有している、
容器詰飲料の製造方法。」
<相違点1-2>
本件特許発明17が「容器本体に、前記水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填し、その後、前記容器本体を密封し、」と特定するのに対し、甲1実施例3製法発明は、アルコール7%の炭酸飲料を得てから缶に詰めている点
<相違点1-3>
本件特許発明17が「前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、甲1実施例3製法発明は、この点を特定しない点
以下、相違点について検討する。
・相違点1-2について
特許異議申立人が提出した何れの証拠にも、「水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填」することは開示されていない。
また、甲1実施例3製法発明の炭酸飲料を得てから充填することに代えて、相違点1-2のように容器に充填するようにする動機はない。
そうすると、甲1実施例3製法発明において、相違点1-2に係る本件特許発明17の特定事項を採用することは当業者が容易になし得たことではない。
・相違点1-3について
相違点1-3は、上記第5 1(2)における相違点1-1と同旨であり、相違点1-1の場合と同様に判断される。
したがって、本件特許発明17は、甲1実施例2製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) まとめ
上記(1)のとおりであるから、本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-1は、その理由がない。
2 本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-2(甲2に基づく進歩性)について
(1) 対比・判断
本件特許発明17と上記第5 2(1)イに記載の甲2実施例3対照品製法発明とを対比すると、上記第5 2(2)と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、本件特許発明17と甲2実施例3対照品製法発明との一致点、相違点は下記のとおりである。
<一致点>
「可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
前記疎水性液状組成物が、D-リモネンを含有している、
容器詰飲料の製造方法。」
<相違点2-2>
本件特許発明17が「容器本体に、前記水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填し、その後、前記容器本体を密封し、」と特定するのに対し、甲2実施例3対照品製法発明は、オレンジチューハイ原液を200mlのガラス瓶5本に充填している点
<相違点2-3>
本件特許発明17が「前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、甲2実施例3対照品製法発明は、この点を特定しない点
以下、相違点について検討する。
・相違点2-2について
特許異議申立人が提出した何れの証拠にも、「水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填」することは開示されていない。
また、甲2実施例2対照品製法発明のオレンジチューハイ原液を充填することに代えて、相違点2-2のように容器に充填するようにする動機はない。
そうすると、甲2実施例3対照品製法発明において、相違点2-2に係る本件特許発明17の特定事項を採用することは当業者が容易になし得たことではない。
・相違点2-3について
相違点2-3は、上記第5 2(2)における相違点2-1と同旨であり、相違点2-1の場合と同様に判断される。
したがって、本件特許発明17は、甲2実施例3対照品製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) まとめ
上記(1)のとおりであるから、本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-2は、その理由がない。
3 本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-3(甲3に基づく進歩性)について
(1) 対比・判断
本件特許発明17と上記第5 3(1)イに記載の甲3実施例2対照製法発明とを対比すると、上記第5 3(2)と同様の相当関係が成り立つ。そうすると、本件特許発明17と甲3実施例2対照製法発明との一致点、相違点は下記のとおりである。
<一致点>
「可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
前記疎水性液状組成物が、D-リモネンを含有している、
容器詰飲料の製造方法。」
<相違点3-2>
本件特許発明17が「容器本体に、前記水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填し、その後、前記容器本体を密封し、」と特定するのに対し、甲3実施例2対照製法発明は、容器に詰めることについて言及がない点
<相違点3-3>
本件特許発明17が「前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、甲3実施例2対照製法発明は、この点を特定しない点
以下、相違点について検討する。
相違3-2について
特許異議申立人が提出した何れの証拠にも、「水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填」することは開示されていない。
また、甲3実施例2対照製法発明の飲料を、相違点3-2のように容器に充填するようにする動機はない。
そうすると、甲3実施例2対照製法発明において、相違点3-2に係る本件特許発明17の特定事項を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
相違点3-3について
相違点3-3は、上記第5 3(2)における相違点3-1と同旨であり、相違点3-1の場合と同様に判断される。
したがって、本件特許発明17は、甲3実施例2対照製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) まとめ
上記(1)のとおりであるから、本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-3は、その理由がない。
4 本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-4(甲4に基づく進歩性)について
(1)対比・判断
本件特許発明17と上記第5 4(1)イに記載の甲4対照製法発明とを対比すると、上記第5 4(2)と同様の相当関係が成り立つ。そうすると、本件特許発明17と甲4対照製法発明との一致点、相違点は下記のとおりである。
<一致点>
「可食性の水溶液と疎水性香気成分を含有する疎水性液滴とが分離している容器詰飲料を製造する方法であって、
前記疎水性液状組成物が、D-リモネンを含有している、
容器詰飲料の製造方法。」
<相違点4-2>
本件特許発明17が「容器本体に、前記水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填し、その後、前記容器本体を密封し、」と特定するのに対し、甲4対照製法発明は、飲料としてから容器詰めするものである点
<相違点4-3>
本件特許発明17が「前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、甲4対照製法発明は、この点を特定しない点
以下、相違点について検討する。
相違4-2について
特許異議申立人が提出した何れの証拠にも、「水溶液を充填した後、疎水性香気成分を含有する疎水性液状組成物を充填する、又は、前記疎水性液状組成物を充填した後、前記水溶液を充填」することは開示されていない。
また、甲4対照製法発明の飲料を、相違点4-2のように容器に充填するようにする動機はない。
そうすると、甲4対照製法発明において、相違点4-2に係る本件特許発明17の特定事項を採用することは当業者が容易になし得たこととはいえない。
相違点4-3について
相違点4-3は、上記第5 4(2)における相違点4-1と同旨であり、相違点4-1の場合と同様に判断される。
したがって、本件特許発明17は、甲4対照製法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) まとめ
上記(1)のとおりであるから、本件特許の請求項17に係る特許に対する申立理由1-4は、その理由がない。
5 申立理由2(甲22に基づく拡大先願)について
(1) 先願発明(甲22に係る出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明)
甲22(特開2019-170298号公報)の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載、特に、請求項10の記載を中心に整理すると、甲22には、以下の発明が記載されていると認める。
<先願発明>
「果汁由来の不溶性固形分と、精油と、多糖類とを含有する飲料であって、粘度が230cP以下であり、飲料の液表面の面積に対して、液表面に存在する精油の面積が、20%未満である、飲料。」
<先願製法発明>
「果汁由来の不溶性固形分と、精油と、多糖類とを含有する飲料であって、粘度が230cP以下であり、飲料の液表面の面積に対して、液表面に存在する精油の面積が、20%未満である、飲料の製造方法。」
(2) 本件特許発明1との対比
本件特許発明1と先願発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点22-1>
本件特許発明1は、「フッ素ゴム、ニトリルゴム、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群より選択される1種以上が使用された容器に充填されており、前記容器が、フッ素ゴム又はニトリルゴムを主成分とするシーリングコンパウンドを使用した飲料缶、又は、キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いたボトル缶である」と特定するのに対し、先願発明は、このような特定がない点
上記相違点22-1について検討するに、当該相違点は実質的な相違点である。
そして、本件特許発明1は当該相違点に係る特定事項を有することにより「シーリングコンパウンドとしてフッ素樹脂又はニトリルゴムを用いることによる、溶出、膨潤、剥がれ等の変化がない」及び「キャップライナーとして鎖状低密度ポリエチレンを用いることによる、溶出、膨潤、剥がれ等の変化がない」という格別の効果を奏するものであるから、当該相違点を課題解決のための微差と言うことはできない。
よって、本件特許発明1は先願発明ということはできない。
(3) 本件特許発明2ない16について
本件特許発明2ないし16は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明、すなわち本件特許発明1の特定事項を全て備えるものである。
してみると、本件特許発明2ないし16もまた、本件特許発明1と同様に、先願発明であるとはいえない。
(4)本件発明17及び19について
本件発明17及び19と先願製法発明とを対比すると、少なくとも上記相違点22-1と同じ点で相違しているから、上記(2)の相違点22-1についての判断と同様に判断される。
よって、本件特許発明17及び19についても、先願製法発明であるとはいえない。
(5) まとめ
上記(2)ないし(4)のとおりであるから、申立理由2は、その理由がない。
6 申立理由3(明確性)について
特許請求の範囲の請求項5の記載自体に不明確な記載はなく、明細書の記載とも整合する。
なお、特許異議申立人は、請求項5では、疎水性香気成分の沸点を「260℃以上」と特定しているが、甲23から「D-リモネン」の沸点は175.5~176℃であるから不明確である旨主張する。
しかし、請求項1は「疎水性香気成分を含有している疎水性液滴」が「D-リモネン」を含有しているのであって、疎水性香気成分がリモネンであると特定するものではないから、D-リモネンの沸点が175℃付近であるとしても、請求項1と請求項5が矛盾するものではなく、上記主張は採用できない。
したがって、申立理由3は、その理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし17及び19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし17及び19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項18に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項18に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700355