特許異議申立
2022-700792
AIを用いた病理診断支援方法、及び支援装置
- 審判番号
- 2022-700792
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-553077
- 登録番号
- 7004871
- 請求日
- 2022年08月10日
- 審決日
- 2024年02月19日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】公益財団法人がん研究会
- 【権利者代理人】白形 由美子
- 【異議申立人】西郷 新
- 審判長/審判官
- 審判長 石井 哲
- 審判官 加々美 一恵
- 審判官 櫃本 研太郎
- 分類
- P1651.113-YAA(G01N) / P1651.121-YAA(G01N) / P1651.536-YAA(G01N) / P1651.537-YAA(G01N) / P1651.851-YAA(G01N) / P1651.853-YAA(G01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7004871号発明「AIを用いた病理診断支援方法、及び支援装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7004871号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕〔8~12〕〔13~14〕〔15~16〕について訂正することを認める。
特許第7004871号の請求項1~16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯の概要
特許第7004871号の請求項1~16に係る特許についての出願は、令和2年12月25日(優先権主張2019年12月26日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和4年1月6日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月10日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年 8月 10日 : 特許異議申立人西郷新(以下「申立人」という。)による請求項1~16に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年12月 5日付け: 取消理由通知書
令和5年 2月 6日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 3月20日 : 申立人による意見書の提出
令和5年 6月 5日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和5年 8月 7日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 9月22日提出: 特許権者による手続補正書(方式)(令和5年8月7日提出の訂正請求書を対象とするもの)の提出
なお、令和5年2月6日提出の訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、令和5年 9月22日提出の手続補正書(方式)で補正された令和5年8月7日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正」という。)がなされたため、特許法第120条の5第5項の規定に基づき、申立人に対し、令和5年12月4日付けで通知書を通知して、意見書を提出する機会を与えたが、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「組織標本の顕微鏡観察画像データを連続して取得する画像取得工程と、
前記画像データを標本全体での位置情報と組織画像上での位置情報を保持したまま所定のサイズに分割し画像パッチを得る工程と、
画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によってクラスを判定する判定工程と、
判定されたクラスを組織画像の各位置で表示し、標本全体に再構築する再構築工程とを備えた病理診断支援方法。」
とあるのを
「固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像データを連続して取得する組織画像取得工程と、
前記画像データを固定標本全体における位置情報と組織画像における位置情報を保持したまま所定のサイズに分割し画像パッチを得る工程と、
画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によって腫瘍の分類及び正常組織を判定する判定工程と、
判定された腫瘍の分類及び正常組織を組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築する再構築工程とを備えた病理診断支援方法。」
に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~7も同様に訂正する。(下線部は訂正箇所を示す。以下同様。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「機械学習によって判定されたクラスを各位置で表示し、標本全体に再構築する前記再構築工程が
腫瘍の不均一性を表示することを特徴とする請求項1記載の病理診断支援方法。」
とあるのを
「機械学習によって判定された腫瘍の分類及び正常組織を前記組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築する前記再構築工程が
腫瘍の不均一性を表示することを特徴とする請求項1記載の病理診断支援方法。」
に訂正する。
請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項3~7も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「前記組織標本が癌組織に由来するものであり、
癌の病理診断を支援することを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の病理診断支援方法。」
とあるのを
「前記検体プレパラートが癌組織に由来するものであり、
癌の病理診断を支援することを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の病理診断支援方法。」
に訂正する。
請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~7も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記組織標本がHE染色、又は免疫組織化学染色標本であることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の病理診断支援方法。」
とあるのを
「前記検体プレパラートがHE染色、又は免疫組織化学染色標本であることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の病理診断支援方法。」
に訂正する。
請求項6の記載を直接的に引用する請求項7も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に、
「前記HE染色標本が標準化されていない標本の場合、
Neural style transfer手法を用い、
擬似的な免疫組織化学染色標本を作成し、
免疫組織化学標本像を学習させた学習モデルによってクラスを判定することを特徴とする請求項6記載の病理診断支援方法。」
とあるのを
「前記HE染色標本が標準化されていない標本の場合、
Neural style transfer手法を用い、
擬似的な免疫組織化学染色標本を作成し、
免疫組織化学標本像を学習させた学習済みモデルによって腫瘍の分類及び正常組織を判定することを特徴とする請求項6記載の病理診断支援方法。」
に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、
「組織標本の顕微鏡観察画像データを連続して取得する画像取得手段と、
前記画像データを標本全体での位置情報と組織画像上での位置情報を保持したまま所定のサイズの画像パッチに分割する画像処理手段と、
分割された画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によってクラスを判定する分類手段と、
分類されたクラスを各位置で表示し、標本全体に再構築する再構築手段とを備えた病理診断支援システム。」
とあるのを
「固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像データを連続して取得する組織画像取得手段と、
前記画像データを固定標本全体における位置情報と組織画像における位置情報を保持したまま所定のサイズの画像パッチに分割する画像処理手段と、
分割された画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によって腫瘍の分類及び正常組織を判定する分類手段と、
分類された腫瘍の分類及び正常組織を前記組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築する再構築手段とを備えた病理診断支援システム。」
に訂正する。
請求項8の記載を直接的又は間接的に引用する請求項9~12も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項13に、
「取得された画像データを標本全体での位置情報と組織画像上での位置情報を保持したまま所定のサイズに分割し、
学習用データを用いて学習させた学習モデルを用い、
分割した画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によってクラスを判定し、
判定されたクラスを組織画像の各位置で表示し、標本全体に再構成させる処理をコンピューターに実行させる病理診断支援プログラム。」
とあるのを
「取得された画像データを固定標本全体における位置情報と組織画像における位置情報を保持したまま所定のサイズに分割し、
学習用データを用いて学習させた学習済みモデルを用い、
分割した画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によって腫瘍の分類及び正常組織を判定し、
判定された腫瘍の分類及び正常組織を組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構成させる処理をコンピューターに実行させる病理診断支援プログラム。」
に訂正する。
請求項13の記載を直接的に引用する請求項14も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲14に、
「組織標本の顕微鏡観察画像を連続して取得させる処理を含む請求項13記載の病理診断支援プログラム。」とあるのを
「固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像を連続して取得させる処理を含む請求項13記載の病理診断支援プログラム。」
に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項15に
「組織標本の顕微鏡観察画像データに基いて、画像データのクラスを判定するための学習済みモデルであって、
対象となる組織標本の顕微鏡観察画像データを所定のサイズに分割して入力する入力層と、
分割された画像データのクラス判定結果を組織標本の各位置で表示する出力層を備え、
学習用データから機械学習によって抽出された特徴量によって前記クラスを分類する分類器を備え、
入力され所定のサイズに分割された顕微鏡観察画像データのクラスを判定し、組織標本の各位置で表示し、標本全体に再構築するコンピューターを機能させるための学習済みモデル。」
とあるのを
「固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像データに基づいて、画像データの腫瘍の分類及び正常組織を判定するための学習済みモデルであって、
対象となる前記検体プレパラートの顕微鏡観察画像データを所定のサイズに分割して入力する入力層と、
分割された画像データの腫瘍の分類及び正常組織の判定結果を前記組織画像の各位置で表示する出力層を備え、
学習用データから機械学習によって抽出された特徴量によって前記腫瘍の分類及び正常組織を分類する分類器を備え、
入力され所定のサイズに分割された顕微鏡観察画像データの腫瘍の分類及び正常組織を判定し、前記組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築するコンピューターを機能させるための学習済みモデル。」
に訂正する。
請求項15の記載を直接的に引用する請求項16も同様に訂正する。
なお、訂正前の請求項2~7は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正前の請求項9~12は請求項8を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正前の請求項14は請求項13を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正前の請求項16は、請求項15を直接的又は間接的に引用するものであり、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7、訂正前の請求項8~12に対応する訂正後の請求項8~12、訂正後の請求項13~14に対応する訂正後の請求項13~14、訂正前の請求項15~16に対応する訂正後の請求項15~16は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1のうち、「組織標本」を「固定標本から切り出され作製された検体プレパラート」と訂正し、「画像取得工程」を「組織画像取得工程」と訂正し、「標本全体」を「固定標本全体」と訂正した上で「標本全体での位置情報」を「固定標本における位置情報」とし、「組織画像上での位置情報」を「組織画像における位置情報」と訂正する訂正「(「以下、「訂正事項1-1」という。」について検討する。
「組織標本」を「固定標本から切り出され作製された検体プレパラート」とする訂正は、「組織標本」を「検体プレパラート」とし、さらにその作成工程を特定するものである。「組織標本」は検体プレパラートやホルマリン浸漬固体三次元組織等さまざまな態様を含むものであるが、そのうち「検体プレパラート」に特定するものである。このため、当該訂正は「組織標本」を「検体プレパラート」に特定した上で、その作成工程を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
「画像取得工程」を「組織画像取得工程」とする訂正は、「画像」が「組織画像」であることを特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
「標本全体」を「固定標本全体」とする訂正は、「標本」が「固定標本」であることを特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
「標本全体での位置情報」を「(固定)標本における位置情報」とする訂正および「組織画像上での位置情報」を「組織画像における位置情報」とする訂正は、「~での」といった位置や手段等多義的に解釈されうる表現から「~における」という位置を表すものに変更することで、位置に関するものであることを明確にするものである。
よって、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、ないし特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項1のうち、「クラス」を「腫瘍の分類及び正常組織」と訂正する訂正(以下、「訂正事項1-2」という。)は、さまざまな種類のクラスを含むものである一般的な用語である「クラス」を、特定のクラスである「腫瘍の分類及び正常組織」に限定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1のうち、「標本全体に再構築する再構築工程」を「(固定)標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築する再構築工程」と訂正する訂正(以下、「訂正事項1-3」という。)は、「再構築工程」のプロセスを特定するものであって、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1-1のうち、「組織標本」を「固定標本から切り出され作製された検体プレパラート」とする点、および「標本全体」を「固定標本全体」とする点は、本件明細書【0010】「(1)組織標本の作製 内視鏡的切除標本はホルマリン固定の後、病理医が組織標本を切り出す。切除組織片を2~3mmの間隔で平行に切り出し、切り出した割線の入った固定標本の肉眼写真を撮影する。」、【0011】「標本処理(組織の脱水、透徹、パラフィン浸漬)を経てパラフィンブロックを作製し、薄切、染色、封入により検体プレパラートが作製される。作製された検体プレパラートでは、切り出された組織スライスが平行に配置されている。」や、【0062】「検体プレパラート上には、切り出された組織スライスが平行に配置されている。・・・」に記載されている。
訂正事項1-1のうち、「画像取得工程」を「組織画像取得工程」とする点は、本件明細書【0037】「[病理診断支援方法]内視鏡的切除が行われた胃癌組織標本を例に、病理診断支援方法について説明する(図3)。従来と同様に光学系装置により組織画像を連続して取得する。この際に位置情報は標本上での座標として取得し再構築系サーバーに送られる。取得した画像は、画像処理系システムにおいて画像処理ののち、分割処理を行って適当な大きさに分割して画像パッチを作成する。画像パッチを作成して学習させる手法は、アノテーションに必要な時間や労力を大幅に削減できるため、モデルの選択や調整を含めた開発サイクルの効率化に非常に役立つ。」に記載されている。
訂正事項1-1のうち、「標本全体での位置情報」を「固定標本における位置情報」とする点および「組織画像上での位置情報」を「組織画像における位置情報」とする点は、上記アで記載したとおり、「~での」といった位置や手段等多義的に解釈されうる表現から「~における」という位置を表すものに変更することで、元々位置に関するものであることを明確にするものであって、新規事項の追加はない。
訂正事項1-2は、本件明細書【0001】「本発明は、AIを用いた病理診断支援方法、及び支援装置に関する。また、治療の方針を決定するために腫瘍の病理切片から腫瘍を分類する方法に関する。」や【0021】「しかし、いずれの文献も病変に特徴的な部位を探索し、病変の有無を検出するにとどまる。すなわち「癌(悪性腫瘍)」か「非癌(非悪性腫瘍)」かの判定を行う。言い換えるとAIによる癌か非癌かの判定結果をマッピングしたものである。本発明ではこれとは異なって、AIを用いて癌をさらに臨床的エビデンスに基づいて分類した判定結果をマッピングすることで、癌の中にある不均一性を可視化する。すなわち、癌か非癌かの判断だけではなく、管状腺癌や低分化腺癌などのように病変内の詳細な分類(Classification)を連続的に行い、病変全体の再構築(Integration)をした後に総合判定する(Decision)までの全工程を備えたシステムを構築する。上述のように内視鏡治療で根治の可能性が高いか、追加外科切除が必要かといった判断においては、病変部位において単に癌か癌でないかを判定するだけではなく、病変内の連続的で不均一な分化度の程度を考慮しつつ、病変内における細分類とその分布と割合を認識し、総合評価する必要がある。」、【0080】「図15(B)中段には、この画像パッチにおいて分類結果が正常と判定されたパッチを灰色、分化型を黒、未分化型を白で示している。・・・」に記載されている。
訂正事項1-3は、本件明細書【0009】「こうした根治性の判定を行うために、病理医は病変全体における分化型、未分化型それぞれの成分の分布、深達度を判断し、病変全体図を再構築し、総合判断を行う。具体的には、以下の手順により総合判断を行い、診断を行っている。」、【0021】「しかし、いずれの文献も病変に特徴的な部位を探索し、病変の有無を検出するにとどまる。すなわち「癌(悪性腫瘍)」か「非癌(非悪性腫瘍)」かの判定を行う。言い換えるとAIによる癌か非癌かの判定結果をマッピングしたものである。本発明ではこれとは異なって、AIを用いて癌をさらに臨床的エビデンスに基づいて分類した判定結果をマッピングすることで、癌の中にある不均一性を可視化する。すなわち、癌か非癌かの判断だけではなく、管状腺癌や低分化腺癌などのように病変内の詳細な分類(Classification)を連続的に行い、病変全体の再構築(Integration)をした後に総合判定する(Decision)までの全工程を備えたシステムを構築する。上述のように内視鏡治療で根治の可能性が高いか、追加外科切除が必要かといった判断においては、病変部位において単に癌か癌でないかを判定するだけではなく、病変内の連続的で不均一な分化度の程度を考慮しつつ、病変内における細分類とその分布と割合を認識し、総合評価する必要がある。」、【0022】「本発明は、その病変内での位置を記録しながら病変部位内における精密分析を行い、病変領域にマッピングし、病変全体の再構成をすることによって、腫瘍内の分化度の変化と腫瘍の不均一性を可視化し、診断を支援するシステム、及び方法を提供することを課題とする。本発明のシステム、及び方法により、病理医の熟練度に依存することなく、病変内の不均一性を可視化し、診断を効率よく実施するシステム、及び方法を提供することができる。」に記載されている。
したがって、訂正事項1-1~1ー3はいずれも新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記アで述べたように、訂正事項1は元より存在していた発明特定事項をもっぱら下位概念に限定するものと、元より不明確ながら特許請求の範囲に記載されていた「~での」が位置に関するものであることを明瞭にするだけのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
上記(1)の訂正事項1-2の「クラス」を「腫瘍の分類及び正常組織」と訂正する訂正について述べた点、および訂正事項1-3について述べた点のとおりである。
(3)訂正事項3、4、8
上記(1)の訂正事項1-1のうち、「組織標本」を「固定標本から切り出され作製された検体プレパラート」と訂正する訂正についてについて述べたとおりである。
(4)訂正事項5
訂正事項5のうち、「クラス」を「腫瘍の分類及び正常組織」と訂正する訂正については、上記(1)の訂正事項1-2について述べたとおりである。
訂正事項5のうち、「学習モデル」を「学習済みモデル」とする訂正については、「学習モデル」が学習のためのモデルや学習済みモデル、学習対象モデルなど、様々な学習モデルが想定できるところ、そのうち「学習済みモデル」に特定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
当該訂正は、本件明細書【0023】「本発明は、以下の病理診断支援方法、システム、プログラム、及び学習済みモデルに関する。・・・(15)組織標本の顕微鏡観察画像データに基いて、画像データの組織型を判定するための学習済みモデルであって、対象となる組織標本の顕微鏡観察画像データを所定のサイズに分割して入力する入力層と、分割された画像データの組織型判定結果を組織標本の各位置で表示する出力層を備え、教師データとして医師によって組織型を判断された画像に基いて学習されたデータをもとに前記組織型を分類する分類器を備え、入力され所定のサイズに分割された顕微鏡観察画像データの組織型を判定し、組織標本の各位置で表示するコンピューターを機能させるための学習済みモデル。(16)前記教師データが画像の前処理を行ったものであることを特徴とする(15)記載の学習済みモデル。・・・」に記載されているので、新規事項を追加するものではない。
そして、上述のように、当該訂正は特許請求の範囲を減縮するものであって、元より存在していた発明特定事項をもっぱら下位概念に限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)訂正事項6、7、9
訂正事項6、7、9は、それぞれ請求項8、13、15に対するものであるが、請求項8、13、15はカテゴリーが異なるものの実質的に請求項1と同様のクレームであって、それらに対して訂正事項1と同様の訂正をするものであるから、上記(1)で述べたのと同様である。
3 訂正の適否の小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号および第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕〔8~12〕〔13~14〕〔15~16〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正は上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項1~16に係る発明(以下「本件訂正発明1」~「本件訂正発明16」という。また、本件訂正発明1~16をまとめて「本件訂正発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項 1】
固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像データを連続して取得する組織画像取得工程と、
前記画像データを固定標本全体における位置情報と組織画像における位置情報を保持したまま所定のサイズに分割し画像パッチを得る工程と、
画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によって腫瘍の分類及び正常組織を判定する判定工程と、
判定された腫瘍の分類及び正常組織を組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築する再構築工程とを備えた病理診断支援方法。
【請求項 2】
機械学習によって判定された腫瘍の分類及び正常組織を前記組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築する前記再構築工程が
腫瘍の不均一性を表示することを特徴とする請求項1記載の病理診断支援方法。
【請求項 3】
前記機械学習が、
ニューラルネットワークによることを特徴とする請求項1、又は2記載の病理診断支援方法。
【請求項 4】
前記ニューラルネットワークが、
学習用画像として解像度0.1μm/pixel~4μm/pixelの画像を用いることを特徴とする請求項3記載の病理診断支援方法。
【請求項 5】
前記検体プレパラートが癌組織に由来するものであり、
癌の病理診断を支援することを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載の病理診断支援方法。
【請求項 6】
前記検体プレパラートがHE染色、又は免疫組織化学染色標本であることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載の病理診断支援方法。
【請求項 7】
前記HE染色標本が標準化されていない標本の場合、
Neural style transfer手法を用い、
擬似的な免疫組織化学染色標本を作成し、
免疫組織化学標本像を学習させた学習済みモデルによって腫瘍の分類及び正常組織を判定することを特徴とする請求項6記載の病理診断支援方法。
【請求項 8】
固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像データを連続して取得する組織画像取得手段と、
前記画像データを固定標本全体における位置情報と組織画像における位置情報を保持したまま所定のサイズの画像パッチに分割する画像処理手段と、
分割された画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によって腫瘍の分類及び正常組織を判定する分類手段と、
分類された腫瘍の分類及び正常組織を前記組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築する再構築手段とを備えた病理診断支援システム。
【請求項 9】
前記画像処理手段が、
組織染色標本を標準化する手段を含むことを特徴とする請求項8記載の病理診断支援システム。
【請求項 10】
前記機械学習が、
ニューラルネットワークであることを特徴とする請求項8又は9記載の病理診断支援システム。
【請求項 11】
前記ニューラルネットワークが、
転移学習で予め得られたパラメータ値を用いることを特徴とする請求項10記載の病理診断支援システム。
【請求項 12】
病理診断支援する疾患が、
癌であることを特徴とする請求項8~11いずれか1項記載の病理診断支援システム。
【請求項 13】
取得された画像データを固定標本全体における位置情報と組織画像における位置情報を保持したまま所定のサイズに分割し、
学習用データを用いて学習させた学習済みモデルを用い、
分割した画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によって腫瘍の分類及び正常組織を判定し、
判定された腫瘍の分類及び正常組織を組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構成させる処理をコンピューターに実行させる病理診断支援プログラム。
【請求項 14】
固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像を連続して取得させる処理を含む請求項13記載の病理診断支援プログラム。
【請求項 15】
固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像データに基づいて、画像データの腫瘍の分類及び正常組織を判定するための学習済みモデルであって、
対象となる前記検体プレパラートの顕微鏡観察画像データを所定のサイズに分割して入力する入力層と、
分割された画像データの腫瘍の分類及び正常組織の判定結果を前記組織画像の各位置で表示する出力層を備え、
学習用データから機械学習によって抽出された特徴量によって前記腫瘍の分類及び正常組織を分類する分類器を備え、
入力され所定のサイズに分割された顕微鏡観察画像データの腫瘍の分類及び正常組織を判定し、前記組織画像の各位置で表示し、固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築するコンピューターを機能させるための学習済みモデル。
【請求項 16】
前記学習用データが画像の前処理を行ったものであることを特徴とする請求項15記載の学習済みモデル。
第4 取消理由(決定の予告)
令和5年6月5日付けの取消理由通知(決定の予告)は、令和5年2月6日付けの訂正請求書により訂正された請求項1~16に対するものであって、その概要は以下のとおりである。
本件請求項1には「組織標本の顕微鏡観察画像データを連続して取得する画像取得工程と、 前記画像データを標本全体での位置情報と組織画像上での位置情報を保持したまま所定のサイズに分割し画像パッチを得る工程と、」とあり、「標本」に係る文言として「組織標本」と「標本全体」とが使用されているが、これら2者がそれぞれ何を指し示すのか、およびこれら2者の関係が不明である。
本件請求項2~16についても同様である。
よって、本件請求項1~16に係る発明は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない。
第5 当審の判断
上記第2の訂正事項1についてで述べたとおり、本件訂正前に「標本全体」、「組織標本」と表現されていたものについて、「標本全体」として表現されていたものは「固定標本全体」のことであり、「組織標本」として表現されていたものは「固定標本から切り出され作製された検体プレパラート」のことであることが本件訂正により、明らかにされた。このため、本件訂正前に「標本全体」、「組織標本」と表現されていたものがそれぞれ何を指し示すのか、そして両者がどのような関係にあるのかが、本件訂正発明においては明らかであって、上記第4に記載した取消理由(決定の予告)は解消している。
第6 取消理由通知書(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 新規性違反、進歩性違反について
申立人は、特許異議申立書で以下の甲第1~6号証を根拠に、甲第1、4、5、6号証を主引用例として本件訂正前の請求項1~6、8~16に係る発明は新規性、進歩性を有しない旨を主張しているので、これについて検討する。
甲第1号証 Automatic detection of invasive ductal carcinoma in whole slide images with Convolutional Neural Networks, Angel Cruz-Roa 他, Proc. of SPIE Vol. 9041, 904103.
甲第2号証 光学工房バーチャルスライド, 山口雅浩,光学 38巻11号(2009)586- 587ページ
甲第3号証 ディープラーニングG検定(ジェネラリスト)公式テキスト,浅川伸一 他(翔泳社),5ページ及び80ページ
甲第4号証 Classification and mutation prediction from non-small cell lung cancer histopathology images using deep learning,Nicolas Coudray他, Nature Medicine volume 24, pages1559-1567 (2018)
甲第5号証 胃癌に対する ESD/EMR ガイドライン,小野裕之 他,Gastroenterological Endoscopy Vol. 56(2014), 310-323.
甲第6号証 Deep learning can predict microsatellite instability directly from histology in gastrointestinal cancer, Jakob Nikolas Kather 他, Nature Medicine volume 25, pages1054-1056 (2019).
(1)甲第1号証
甲第1号証には以下の事項が記載されていると認められる。
「 乳がん(BCa)のホールスライド画像(WSI)における浸潤性乳管がん(IDC)組織領域の自動検出と視覚的解析のためのディープラーニングアプローチにより、腫瘍の悪性度の評価や患者の予後を予測するための方法であって、
浸潤性乳管癌(IDC)は、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)で染色した組織スライドの視覚的分析により、確認しているものであって、乳房切除組織の病理組織学的特性評価の最初のステップは、浸潤性腫瘍に相当する組織領域と非浸潤性または健常な組織領域とを区別することであり、
ディープラーニングモデルの学習プロセスの一部として、定期的なサンプリングによって得られたWSIから正方形の組織領域に対してDLベースの分類を採用することによって、WSIのキャンバス全体にわたって分類器を適用し、
データセットは、BCaのIDCと診断された162症例からなり、113スライドがトレーニング用に、49スライドが単独テスト用に選択され、
各WSIは、グリッドサンプリングにより100×100ピクセルの非オーバーラップ画像パッチに分割され、
畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は、個々の画像パッチと学習セット内の署名パターンとの対応関係を測定するために、画像全体に局所的な特徴検出器またはフィルタを適用し、
各画像パッチはRGBからYUV色空間に変換され、平均が0、分散が1になるように正規化されるパッチの前処理が行われ、
CNNによって分類されたパッチの正クラスニューロンから得られる各出力値に指数関数を適用し、0と1の間の値を得ることで、それらを確率とし、
各パッチについて、WSI上の元の座標とそれに対応する確率をつなぎ合わせて、WSI上のIDC確率マップを得、
すべてのスライドは、40倍の倍率でホールスライドスキャナーによってデジタル化された0.25μm/ピクセルの解像度であって、
各WSIを4μm/pixelの解像度にダウンサンプリングした
方法。」(904103-1頁、904103-2頁2-11行、904103-3頁10-19行、904103-3頁下から6行-904103-4頁10行、904103-5頁17-28行参照)
(2)甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
「肺腫瘍の病期、タイプ、サブタイプを評価するために取得したホールスライド画像に対して深層畳み込みニューラルネットワーク(inception v3)を学習させ、LUAD、LUSC、正常肺組織に正確かつ自動的に分類する手法において、
ディープラーニングモデルにより、肺の病理組織画像の正確な診断において、計算パイプラインを用いて、腫瘍と正常を認識させるために、inception v3で学習させ、
TCGA肺がんホールスライドイメージデータセット459枚と1,175枚のH&E染色病理組織全スライド画像のセットを用いて、「固形組織正常」と「原発性腫瘍」スライドの自動分類を行い、
画像の前処理において、
スライドは、20×の倍率で、512×512ピクセルの非重複ウィンドウにタイル化され、
情報量の少ないスライド,すなわち,表面の50%以上が背景で覆われているタイルを削除することにより約100万枚のタイルが生成され、
予測される変異の空間的不均一性として、LUADと分類されたタイルがスライド上の各位置に表示され、
inception v3での転送学習において、ネットワークのパラメータをImageNetの計算で達成された最良のパラメータセットに初期化し、バックプロパゲーションにより、データ上でネットワークの最終層のパラメータを微調整した
手法。」(1559頁要約、1560頁右欄3-16行、1568頁左欄1-27行、1568頁44-51行、図4等参照)
(3)甲第5号証
甲第5号証には以下の事項が記載されていると認められる。
「病理診断は,標本処理を経て,組織学的に診断することにより完遂する.標本処理には,新鮮標本の伸展,ホルマリン固定,固定標本の切り出しおよび切り出し前後の肉眼写真撮影が含まれる.・・・腫瘍の粘膜内進展範囲および壁深達度を再構築するために,割を入れた状態の固定標本の肉眼写真を撮影することが望ましい(エビデンスレベルVI 推奨度 C1)101) ~ 107).」(P9右欄~P10左欄「VII 病理,1.切除標本の処理」)
「腫瘍の組織型は,胃癌取扱い規約第 14 版108)に準じて分類する.組織型のうち,高分化および中分化管状腺癌と乳頭腺癌を分化型癌とし,印環細胞癌と低分化腺癌を未分化型癌とする.なお, 複数の組織型が併存する場合,各組織型を面積的に優位な順に,すべて記載する(例:tub1>pap>por)(エビデンスレベルVI 推奨度 C1).(P10右欄「VII 病理,2.病理所見の記載方法」)
「b:割を入れた状態の固定標本の肉眼写真があると、腫瘍の粘膜内進展範囲や壁深達度を再構築することができる.」とした固定標本の切り出し方法と腫瘍の拡がりの再構築図が開示されている(Figure 4)
(4)甲第6号証
甲第6号証には以下の事項が記載されていると認められる。
「Extended Data 図3|MSIの腫瘍内不均一性の形態学的相関 a.遺伝的にMSIと判定されたテストセット患者の組織像 b.aで示した画像に対応する予測MSIマップ。領域1は壊死と細胞外粘液を伴う腺領域で、この領域は主にMSSと予測された。領域2は固い脱分化領域であり、MSIと予測された。領域3は発症した腫瘍細胞と免疫細胞が混在しており、この領域はMSIと強く予測された。これらの代表例を合わせると、異なる形態が異なる予測を導き出すこと、そしてこれらの予測は人間に理解できるパターンに遡ることができることが示された。スケールバー、2.5mm。この図は、DACHSコホートにおけるn=378人の患者を代表するものである。」(Extended Data 図3の説明)
(5)判断
甲第1、4、6号証はいずれも腫瘍サンプルからのスライドを使用するものであって、病変全体図を再構築することを念頭に置いておらず、本件訂正発明の「固定標本全体における位置情報に基づいて病変全体図を再構築する」点を少なくとも備えていないし、甲第1、4、6号証に記載された発明において当該工程をもうける動機を甲第1~6号証のいずれからも導き出すことができない。
また、甲第5号証は胃癌に対するESD/EMRガイドラインであるが、本件訂正発明の「固定標本から切り出され作製された検体プレパラートの顕微鏡観察画像データを連続して取得する」点や「画像データを固定標本全体における位置情報と組織画像における位置情報を保持したまま所定のサイズに分割し画像パッチを得る」点や「画像パッチ毎に学習用データから機械学習により抽出された特徴量によって腫瘍の分類及び正常組織を判定する」点や「学習用データから機械学習によって抽出された特徴量によって前記腫瘍の分類及び正常組織を分類する」点を少なくとも備えていないし、甲第6号証に記載された発明において当該工程等をもうける動機を甲第1~6号証のいずれからも導き出すことができない。
甲第2、3号証はバーチャルスライドや人工知能の一般的文献であって、これらから本件訂正発明の新規性、進歩性が否定されないのは明らかである。
よって、本件訂正発明は甲第1~6号証に記載された発明でないし、これらから当業者が容易に発明をできたものでもない。
2 明確性要件違反について
申立人は特許異議申立書で明確性要件違反について(a)~(f)を主張しているので、検討する。
(a)(b)は、取消理由通知書(決定の予告)において採用した上記「第4 取消理由(決定の予告)」のとおりであるため、ここでは取り上げない。
(c)申立人は特許異議申立書において、請求項1~16に係る発明について「クラスを判定する」が何を行っているのか不明である旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明では「クラスを判定する」は「腫瘍の分類及び正常組織を判定する」と訂正されており、判定対象が「腫瘍の分類及び正常組織」であることが明確であり、明確性要件違反は解消されている。
(d)申立人は特許異議申立書において、請求項2に係る発明について「腫瘍の不均一性」が何を意味するのか不明である旨主張する。
しかしながら、その文言自体からも、本願明細書の0006段落や0021段落の記載からも、「腫瘍の不均一性」は腫瘍の分化度の不均一性を含むものであることが明らかであるし、0022段落の「腫瘍内の分化度の変化と腫瘍の不均一性を可視化し」という表現は、それと矛盾するものでもない。
(e)申立人は特許異議申立書において、請求項15~16に係る発明について、「組織標本の各位置で表示」が何を意味するか不明である旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明15、16では「組織標本の各位置で表示」は「組織画像の各位置で表示」と訂正されており、当該記載に不明確な点はない。
(f)申立人は特許異議申立書において、請求項16に係る発明について、「前処理」がどのような処理であるか不明である旨主張する。
しかしながら、前処理は技術用語として一般的に使用されている用語であって、分析などに供する前に、当該分析等に適した状態にするために行う処理を指し示すものであるから、当該記載に不明確な点はない。
3 サポート要件違反について
(a)申立人は特許異議申立書において、請求項1~16に係る発明について「クラスを判定する」ことは、単なる「癌/非癌」の判定や癌以外に係る病変や病変とは関係ない特徴の判定も「クラス判定」と解釈できることから、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明では「クラスを判定する」は「腫瘍の分類及び正常組織を判定する」と訂正されており、判定対象が「腫瘍の分類及び正常組織」であることが明確であり、サポート要件違反は解消している。
(b)申立人は特許異議申立書において、請求項15~16に係る発明について「クラス判定」とともに「表示」を行うことが可能なモデルについて、どのように実現されるものであるか認識できず、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えている旨主張する。
しかしながら、本件訂正発明15~16は「腫瘍の分類及び正常組織を判定」し、「組織画像の各位置で表示」するもので、判定結果を特定の位置で表示することに技術的困難性は見当たらないため、当業者であれば実現できることを認識できるものであり、サポート要件違反はない。
第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700792