特許異議申立
2022-700095
非水電解質二次電池電極用バインダー
- 審判番号
- 2022-700095
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-509078外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6915046
- 請求日
- 2022年02月04日
- 審決日
- 2022年11月14日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東亞合成株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人 快友国際特許事務所
- 【権利者】三洋電機株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人 快友国際特許事務所
- 【異議申立人】安藤 宏
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6915046号発明「非水電解質二次電池電極用バインダー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6915046号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第6915046号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第6915046号の請求項1~3に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2018年(平成30年)3月5日(優先権主張 平成29年3月28日)を国際出願日とする出願であって、令和3年7月16日にその特許権の設定登録がなされ、同年8月4日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、令和4年2月4日付けで特許異議申立人安藤宏(以下、「申立人」という。)より請求項1~3(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、令和4年4月18日付けで取消理由の通知及び審尋がなされ、これに対して、同年7月15日に特許権者より意見書及び回答書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、その後、同年9月20日に、申立人から意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。
第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
令和4年7月15日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)によって特許権者が行った本件訂正請求は、特許第6915046号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には下線を付した。
(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダー」を「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダー」と訂正する(以下、「訂正事項1-1」という。)とともに、本件訂正前の「前記架橋重合体及びその塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下であり、」を「前記架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下であり、」と訂正する(以下、「訂正事項1-2」という。)。
請求項1を引用する請求項2、3も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項2について、本件訂正前の「前記架橋重合体又はその塩は、さらに、架橋性単量体に由来する構造単位を有する」を「前記架橋重合体の塩は、さらに、架橋性単量体に由来する構造単位を有する」と訂正する。
請求項2を引用する請求項3も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項3について、本件訂正前の「前記架橋重合体又はその塩の0.5質量%水溶液のpHが7.5以上である」を「前記架橋重合体の塩の0.5質量%水溶液のpHが7.5以上である」と訂正する。
2 本件訂正請求についての当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1について
訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「非水電解質二次電池電極用バインダー」について、本件訂正前の「カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩を含有する」との発明特定事項を、「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有する」との発明特定事項として、本件訂正前は「カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩」の2種のいずれかを含むものから、本件訂正後は「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有する」としたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項1-2も訂正事項1-1と同様に、本件訂正前は「架橋重合体又はその塩」の2種のいずれかを含むものから、本件訂正後は「架橋重合体の塩を含有する」としたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の発明特定事項である「架橋性単量体に由来する構造単位を有する」ものについて、本件訂正前の「架橋重合体又はその塩」を「架橋重合体の塩」としたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「0.5質量%水溶液のpHが7.5以上である」ものについて、本件訂正前の「架橋重合体又はその塩」を「架橋重合体の塩」としたものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2、3は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~3は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~3〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
2-3 独立特許要件について
訂正事項1~3は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される要件は課されない。
2-4 訂正請求についてのむすび
以上のとおり、令和4年7月15日に特許権者が行った本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~3〕についての訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和4年7月15日に特許権者が行った請求項1~3についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。また、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含み、
前記架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下であり、
前記架橋重合体の塩は、リチウム塩を含む、バインダー。
【請求項2】
前記架橋重合体の塩は、さらに、架橋性単量体に由来する構造単位を有する、請求項1に記載のバインダー。
【請求項3】
前記架橋重合体の塩の0.5質量%水溶液のpHが7.5以上である、請求項1又は2に記載のバインダー。」
2 特許異議申立理由
申立人は、証拠方法として次の甲第1~11号証を提出し、以下の(1)~(5)の理由により、請求項1~3に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
なお、次の証拠方法には、申立人意見書に添付された甲第12、13号証も挙げている。
(証拠方法)
甲第1号証:国際公開第2014/196547号(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:国際公開第2014/156195号(以下、「甲2」という。)
甲第3号証:特開2011-154983号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:国際公開第2015/186363号(以下、「甲4」という。)
甲第5号証:国際公開第2015/133154号(以下、「甲5」という。)
甲第6号証:山際清史、駒場慎一「次世代LIB用高容量Si系負極における架橋型ポリアクリル酸バインダーの効果」ORGANIC SQUARE ,MARCH 2016 ,Vol.55 ,p6-8(https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/journal/docs/org55.pdf)(以下、「甲6」という。)
甲第7号証:アルドリッチ製のポリアクリル酸(製品番号:306215)の規格書(仕様日:2010年9月12日)(以下、「甲7」という。)
甲第8号証:アルドリッチ製のポリアクリル酸(製品番号:306215)の安全データシート(改訂日:2021年9月2日)(以下、「甲8」という。)
甲第9号証:富士フィルム和光純薬株式会社製のポリアクリル酸(製品名:1CLPAH、製品コード:352-41132)の安全データシート(以下、「甲9」という。)(改訂日:2021年8月23日)
甲第10号証:富士フィルム和光純薬株式会社製のポリアクリル酸(製品名:10CLPAH、製品コード:359-41142)の安全データシート(以下、「甲10」という。)(改訂日:2021年8月23日)
甲第11号証:富士フィルム和光純薬株式会社製のポリアクリル酸(製品名:20CLPAH、製品コード:356-41152)の安全データシート(以下、「甲11」という。)(改訂日:2021年8月23日)
甲第12号証:特開2011-222193号公報(以下、「甲12」という。)
甲第13号証:特開平11-26015号公報(以下、「甲13」という。)
(1)申立理由1(進歩性・取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲1~甲3に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲2~甲4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(進歩性)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲2、甲3及び甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(新規性・進歩性)
本件訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、同発明に係る特許は、同条の規定に違反してされたものであって取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(進歩性・一部条文を変更して取消理由として採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲4及び甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
3 令和4年4月18日付けで通知された取消理由の概要
令和4年4月18日付けで通知された取消理由の概要は、以下のとおりである。
(1)取消理由1(申立理由1を採用)
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)取消理由2(一部条文を変更して申立理由5を採用)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲6に記載された発明であるか、甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法同第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項3に係る発明は、甲6に記載された発明及び甲4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
4 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲1には、次の記載がある。なお、甲1に記載された発明の認定に関する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。
「[0001]本発明は、リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、並びに、それを用いたリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用電極及びリチウムイオン二次電池に関する。」
「[0007]本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、ガスの発生を抑制可能なリチウムイオン二次電池を製造できるリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物、リチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物及びリチウムイオン二次電池用電極;並びに、ガスの発生を抑制可能なリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。」
「[0014]また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される構造単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。」
「[0062]水溶性重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上であり、通常85重量%以下、好ましくは80重量%以下である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、集電体及び電極活物質に対する水溶性重合体の結着性を高めることができるので、集電体と電極活物質層との結着性を高めることが可能である。また、上限値以下にすることにより、電池のサイクル特性を良好にできる。」
「[0092]水溶性重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を、水系溶媒中で重合して、製造しうる。この際、単量体組成物中の各単量体の比率は、通常、水溶性重合体における構造単位の比率と同様にする。」
「[0099]重合により、通常は水溶性重合体を含む反応液が得られる。得られた反応液は通常は酸性であり、水溶性重合体は水系溶媒に分散していることが多い。このように水溶性溶媒に分散した水溶性重合体は、通常、その反応液のpHを、例えば7~13に調整にすることにより、水系溶媒に可溶にできる。こうして得られた反応液から水溶性重合体を取り出してもよい。しかし、通常は、水系媒体として水を用い、この水に溶解した状態の水溶性重合体を用いて本発明のバインダー組成物を製造する。
[0100]反応液をpH7~pH13にアルカリ化する方法としては、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液;水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等のアルカリ土類金属水溶液;アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を混合する方法が挙げられる。前記のアルカリ水溶液は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。」
「実施例
[0171]以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。」
「[0182][実施例1]
(1-1.水溶性重合体の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、アクリルアミド(カルボン酸アミド単量体)0.8部、メタクリル酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)32.5部、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体)7.5部、エチルアクリレート(任意の単量体)57.2部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.2部、t-ドデシルメルカプタン0.6部、イオン交換水150部、及び過硫酸カリウム(重合開始剤)1.0部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性重合体を含む混合物を得た。上記水溶性重合体を含む混合物に10%アンモニア水を添加してpH8に調整することにより水溶性重合体を水に溶解させて、所望の水溶性重合体を含む水溶液を得た。
[0183](1-2.粒子状重合体の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3-ブタジエン33.0部、イタコン酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)3.5部、スチレン62.5部、2-ヒドロキシエチルアクリレート1部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状重合体(SBR)を含む混合物を得た。上記粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって混合物から未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液を得た。
[0184](1-3.二次電池電極用バインダー組成物の製造)
容器に前記工程(1-2)で作製した粒子状重合体を含む水分散液を固形分相当で95部、及びジオクチルコハク酸ナトリウム0.25部を混合し、その後で前記工程(1-1)で作製した水溶性重合体を含む水溶液を固形分相当で5部を更に混合した。ここに水を混合して濃度を調整し、固形分濃度25%の電極用バインダー組成物を得た。」
「[0190](1-9.リチウムイオン二次電池の製造)
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。前記工程(1-7)で得られた正極を、4.6×4.6cm2の正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極の正極活物質層の面上に、前記工程(1-8)で得られた正方形のセパレーターを配置した。さらに、前記工程(1-5)で得られたプレス後の負極を、5×5cm2の正方形に切り出し、これをセパレーター上に、負極活物質層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。電解液(溶媒:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5体積比、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミニウム包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を得た。
このリチウムイオン二次電池について、上述した要領で、セルの体積変化量ΔV、容量維持率ΔC、及び、サイクル試験後のピール強度Sp2を測定した。」
「[0197][実施例8]
前記工程(1-1)において、メタクリル酸の量を82部に変更し、エチルアクリレートの量を7.7部に変更した。
以上の事項以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造し、評価した。」
「[0220]
[表2]
[図:0001394001000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1の実施例8の二次電池電極用バインダー組成物に注目すると、甲1(特に、上記(1)の[0182]~[0184]、[0197]、[0220]参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「攪拌機付き5MPa耐圧容器に、アクリルアミド(カルボン酸アミド単量体)0.8部、メタクリル酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)82部、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体)7.5部、エチルアクリレート(任意の単量体)7.7部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(反応性界面活性剤)1.2部、t-ドデシルメルカプタン0.6部、イオン交換水150部、及び過硫酸カリウム(重合開始剤)1.0部を入れ、十分に攪拌した後、重合を開始し、重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性重合体を含む混合物を得て、上記水溶性重合体を含む混合物に10%アンモニア水を添加してpH8に調整することにより水溶性重合体を水に溶解させて、所望の水溶性重合体を含む水溶液を得て、
別途作製した粒子状重合体を含む水分散液を固形分相当で95部、及びジオクチルコハク酸ナトリウム0.25部を混合し、その後で上記水溶性重合体を含む水溶液を固形分相当で5部を更に混合し、ここに水を混合して濃度を調整して得た、二次電池電極用バインダー組成物。」
(3)甲2の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲2には、次の記載がある。
「[0001]本発明は、二次電池電極用バインダー組成物及びその製造方法、二次電池電極用スラリー組成物、二次電池用電極、並びに、二次電池に関するものである。
背景技術
[0002]二次電池、なかでもリチウムイオン二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。
[0003]ここで、二次電池の電極(正極及び負極)などの電池部材は、これらの電池部材に含まれる成分同士、又は、該成分と基材(例えば、集電体)とをバインダーで結着して形成されている。具体的には、例えば二次電池の電極は、通常、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備えている。そして、電極合材層は、例えば、電極活物質およびバインダー組成物などを分散媒に分散させてなる電極用スラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させて電極活物質などをバインダーで結着することにより形成されている。
そこで、近年では、二次電池の更なる性能向上を達成すべく、これら電池部材の形成に用いられるバインダー組成物やスラリー組成物の改良が試みられている。
[0004]具体的には、特定の共重合体を含有するバインダー組成物を二次電池用電極の製造に用いることが提案されてきた(例えば、特許文献1~3参照)。特許文献1に記載のバインダー組成物によれば、スチレン、エチレン性不飽和カルボン酸エステル、エチレン性不飽和カルボン酸、及び内部架橋剤を乳化重合して得られる特定性状の共重合体を含有しているので、水分散系で活物質同士及び活物質と集電体とを良好に結着させることができ、かかるバインダー組成物を用いることで、充放電高温サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
[0005]また、特許文献2に記載のバインダー組成物によれば、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルと、α,β-不飽和ニトリル化合物との共重合体を含有しているので、結着力および柔軟性に優れる正極を提供することができる。そして、特許文献3に記載のバインダー組成物によれば、アクリロニトリルなどの所定のα,β-エチレン性不飽和ニトリル化合物等を重合した後に、2-エチルヘキシルアクリレートなどの所定のエチレン性不飽和カルボン酸エステル等を添加および重合して得た共重合体(多段重合体)を含有しているので、結着力および柔軟性に優れる正極を提供することができる。」
「発明が解決しようとする課題
[0007]しかし、特許文献1~3に記載のバインダー組成物では、共重合体を生成する際に重合されなかった未反応単量体がバインダー組成物中に残留していた。この残留したモノマーは、かかるバインダー組成物を用いて二次電池を製造した際に、二次電池中に混入する。そして、二次電池に混入した残留モノマーは、二次電池が高充電状態や高温状態で保存された場合に、分解され、ガスを発生する。そのため、上記従来のバインダー組成物を用いた二次電池では、ガスの発生による膨れが生じ、高温保存特性や、高温サイクル特性などが低下する虞があった。
[0008]さらに、近年、二次電池用の電極の製造において、環境負荷低減などの観点から、溶媒として水系媒体を用いた水系スラリー組成物への関心が高まっているが、特に水系のバインダー組成物には、組成物中に残留モノマーが存在すると、長期保存する際に残留モノマーに起因して沈殿物が発生するため、経時安定性が低いという問題もあった。
[0009]そこで、本発明は、残留モノマーに起因したガスの発生が抑制され、良好な高温保存特性及び高温サイクル特性を有する二次電池を提供することができる、経時安定性に優れた二次電池電極用バインダー組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該バインダー組成物を用いた二次電池電極用スラリー組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、当該二次電池電極用スラリー組成物を用いた二次電池用電極を提供することを目的とする。
また、本発明は、当該二次電池用電極を用いた、高温保存特性及び高温サイクル特性に優れると共に、ガス発生が低減された二次電池を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0010]ここで、上述した残留モノマーの問題に対し、重合体の調製後にバインダー組成物を減圧下で加熱すること等によりバインダー組成物から残留モノマーを除去することが考えられる。しかし、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、特に(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いて調製した重合体を含むバインダー組成物では、柔軟性および密着強度に優れる電極を得て二次電池の電気的特性などを向上させることができる一方で、沸点145℃以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体が残留した場合には、減圧や加熱を用いても当該残留した沸点145℃以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体を十分に除去することができないことが明らかとなった。
また、上述した残留モノマーの問題に対し、重合体を一度調製した後に過硫酸塩などの重合開始剤を更に添加して重合反応を更に進める(即ち、残留モノマーを重合させる)ことで、沸点145℃以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む残留モノマーの量を低減することも考えられる。しかし、本発明者らが鋭意研究を重ねたところ、重合開始剤を更に添加して重合反応を進めた場合には、過硫酸塩などの重合開始剤の残渣が大量にバインダー組成物や二次電池中に含まれることとなり、二次電池の電気的特性が低下する虞があることが明らかとなった。
[0011]そこで、本発明者らは、上記課題を解決することを目的として更に鋭意検討を重ねた。そして、本発明者らは、重合体を一度調製した後にレダクトン類化合物を用いてレドックス重合を行うことにより、残留モノマーを重合させ、大量の過酸化物を使用することなく残留モノマー量を低減することに着想した。更に本発明者らは、(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いて調製した粒子状の重合体を含む二次電池電極用バインダー組成物において、沸点145℃以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合を粒子状重合体100質量部に対して特定の範囲まで低減させることにより、ガスの発生が抑制され、良好な高温保存特性及び高温サイクル特性を有する二次電池を提供することが可能な、経時安定性に優れた二次電池電極用バインダー組成物を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。」
「[請求項1]
粒子状重合体、レダクトン類化合物およびその酸化体の少なくとも一方、及び水を含み、
前記粒子状重合体は、沸点145℃以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体混合物を重合してなり、
前記沸点145℃以上の(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合は、前記粒子状重合体100質量部に対して1×10-6質量部以上1500×10-6質量部以下である、二次電池電極用バインダー組成物。」
(4)甲3の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲3には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム複合酸化物を正極活物質とし、ゲル化された電解質を使用したリチウムイオンポリマー電池に関する。更に詳しくは、本発明は、リチウム複合酸化物を正極活物質とし、(メタ)アクリル末端基を含有するゲル化剤によってゲル化された電解質を使用したリチウムイオンポリマー電池において、釘刺し特性が向上し、しかも、サイクル特性に優れたリチウムイオンポリマー電池に関する。」
「【0011】
発明者は、上述のようなゲル化した電解質を用いたリチウムイオンポリマー電池のサイクル特性及び釘差し特性を確保すべく種々検討を重ねた結果、正極合剤中にアルミニウム系カップリング剤を所定量含有させると共に、リチウム複合酸化物からなる正極活物質の平均粒径及び比表面積を所定範囲に維持し、更にゲル化された非水電解質を(メタ)アクリル末端基を有するモノマーを含有する非水電解液から形成したものとすることにより解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0012】
すなわち、本発明は、リチウム複合酸化物を正極活物質とし、ゲル化された電解質を使用したリチウムイオンポリマー電池において、釘刺し特性が向上し、しかも、サイクル特性に優れたリチウムイオンポリマー電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のリチウムイオンポリマー電池は、
リチウム複合酸化物を正極活物質とする正極合剤層が形成された正極極板と、負極極板と、セパレータと、ゲル化された非水電解質とを備えるリチウムイオンポリマー電池において、
前記正極活物質の平均粒径が4.5~15.5μm、比表面積が0.13~0.80m2/gであり、
前記正極合剤層が下記一般式(I)で表されるカップリング剤の少なくとも1種を前記正極活物質の質量に対して0.01質量%以上5質量%以下含有し、
前記ゲル化された非水電解質は、(メタ)アクリル末端基を有するモノマーを含む非水電解液から形成されたものであることを特徴とする。
【化1】
[図:0001394001000002.jpg]
(ただし、MはAl、Ti、Zrから選択される1種であり、R1及びR2は炭素原子数1~18のアルキル基又はアルコキシ基であり、nは1~4の整数を表す。)
【0014】
また、本発明の非水系二次電池においては、正極合剤層は上記一般式(I)で表されるカップリング剤の少なくとも1種からなるカップリング剤を含有していることが必要である。正極合剤層がこのようなカップリング剤を含有していない場合、或いは他の種類のカップリング剤を含有している場合には、その他の本発明の上記条件を全て満たしていても、釘刺し特性及びサイクル特性共に低下する。
【0015】
また、本発明のリチウムイオンポリマー電池においては、正極合剤層は上記一般式(I)で表されるカップリング剤の少なくとも1種を正極活物質の質量に対して0.01質量%以上5質量%以下含有していることが必要である。これらのカップリング剤の含有量が正極活物質の質量に対して0.01質量%未満であると、その他の本発明の上記条件を全て満たしていても、少なすぎてカップリング剤添加の効果が現れなくなる。これらのカップリング剤の含有量が正極活物質の質量に対して5質量%を超えると、その他の本発明の上記条件を全て満たしていても、カップリング剤は電極反応に関与しないので、その分だけ正極活物質の添加量が減少すると共に正極抵抗が大きくなるため、初期容量が小さくなってしまう。より好ましいカップリング剤の添加量は正極活物質量の0.02質量%以上1.0質量%以下であり、更に好ましくは、正極活物質量の0.1質量%以上0.5質量%以下である。
【0016】
このような正極合剤層中にカップリング剤を混入することの効果は、以下の理由によって奏されるものと推定される。すなわち、正極合剤が本発明のカップリング剤を含有していると、正極活物質表面の水酸基やカルボキシル基等の官能基がカップリング剤と反応する結果、モノマーの重合反応が進行し易くなり、残留モノマーが減少するためにサイクル特性が改善されるものと考えられる。また、正極合剤層中へのカップリング剤の添加によって、セパレーターと正極極板との間の接着強度が改善されること、及び、釘差し時の短絡熱によってカップリング剤の一部がアルミナ、チタニア又はジルコニアへと熱分解してポリマー電解質と正極合剤との間に絶縁層を形成することにより、正極合剤層及び負極合剤層同士の短絡抵抗を効果的に増加させるため、釘差し特性の飛躍的な改善が可能になったものと認められる。」
(5)甲4の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲4には、次の記載がある。
「[0035][[単量体組成物X]]
共重合体Xの調製に用いる単量体組成物Xは、例えば、単量体と、重合開始剤などの添加剤と、重合溶媒とを含有する。そして、単量体組成物Xは、単量体として、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)および化合物(B)を所定の割合で含有する。具体的には、単量体組成物Xは、単量体組成物X中の全単量体の量を100質量%とした際に、20.0質量%以上75.0質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)と、20.0質量%以上75.0質量%以下の化合物(B)とを含有する。なお、単量体組成物Xは、任意に、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)および化合物(B)と共重合可能な多官能化合物(C)や、更にこれらを除いたその他の化合物を単量体として含有していてもよい。」
「[0038]なお、本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物において、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としては、エチレン性不飽和カルボン酸塩、好ましくはエチレン性不飽和カルボン酸のリチウム塩を用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸塩を使用すれば、得られる共重合体Xの水溶性を高めることができるので、重合溶媒として水を使用して共重合体Xを調製する際に、単量体組成物X中の単量体濃度を高濃度としても、共重合体Xの析出による重合の不均質な進行を防止することができる。従って、高単量体濃度の単量体組成物Xを使用して生産性を高めつつ、重合を均一に進行させることができる。また、エチレン性不飽和カルボン酸のリチウム塩を使用すれば、得られる共重合体X中にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)が導入され、スラリー組成物の安定性が向上し、そしてリチウムイオン二次電池の寿命特性が更に向上するとともに内部抵抗を更に低減することができる。
また、本発明のバインダー組成物を用いて作製した電極を備えるリチウムイオン二次電池のサイクル特性を更に向上させ、内部抵抗を更に低減する観点からは、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としては、アクリル酸、メタクリル酸またはそれらの塩を用いることが好ましく、アクリル酸またはアクリル酸塩を用いることが更に好ましい。」
「[0044]-多官能化合物(C)-
単量体組成物Xは、単量体として、ポリオキシアルキレン構造および2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能化合物(C)を含むことが好ましい。このような多官能化合物(C)を共重合体Xの重合に用いることで、共重合体Xに適度に高い剛性と柔軟性とを付与することができる。従って、充放電による極板の膨れを抑制する等によりサイクル特性の低下を抑制することができる。また、水との親和性が高いエチレンオキシド鎖の寄与により、共重合体Xの重合が容易となる。加えて、リチウムイオン伝導性が確保され、リチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減することができる。また、多官能化合物(C)を単量体組成物Xに含めることで、本発明のバインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物の固形分濃度を高めることが可能となり、電極の生産性を向上させることができる。
ここで、多官能化合物(C)としては、一般式:-(CmH2mO)n-[式中、mは1以上の整数であり、nは2以上の整数である]で表されるポリオキシアルキレン構造と、2つ以上のエチレン性不飽和結合とを有する化合物を用いることができる。
ポリオキシアルキレン構造と2つ以上のエチレン性不飽和結合とを有する化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、多官能化合物(C)に該当する化合物は、化合物(B)に含まれないものとする。」
「[0054]なお、重合溶媒として水を使用し、上述した単量体組成物Xを水中で重合して共重合体Xを含む水溶液を調製する場合には、重合後に水溶液のpHを8以上9以下に調整することが好ましい。得られる水溶液を中和してpHを8~9に調整すれば、スラリー組成物にチクソ性が付与され、そしてスラリー組成物の安定性が高まり、また、リチウムイオン二次電池の保存安定性を更に高めることができるからである。
ここで、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてエチレン性不飽和カルボン酸を含む単量体組成物Xを使用した場合には、上記水溶液の中和を行なう際に、塩基性のリチウム化合物を使用することが好ましい。塩基性のリチウム化合物を使用すれば、共重合体X中のカルボン酸基がカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)となり、スラリー組成物のチクソ性および安定性が更に向上すると共に、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が低減され、加えて寿命特性が向上するからである。なお、塩基性のリチウム化合物としては、炭酸リチウム(Li2CO3)や水酸化リチウム(LiOH)を用いることができ、水酸化リチウムを用いることが好ましい。」
「[0138](実験1)
<実施例1-1>
[共重合体X1を含む水溶液の調製]
セプタム付き1Lフラスコに、イオン交換水720gを投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、イオン交換水10gと、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてのアクリル酸9.5g(25.0%)と、化合物(B)としてのアクリルアミド28.5g(74.9%)と、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学(株)製、ATM-35E、n1+n2+n3+n4=35の化合物(V)に相当、官能数=4)0.038g(0.1%)とを混合して、シリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液8.0gをシリンジでフラスコ内に追加した。更に、その15分後に、重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液40gをシリンジで追加した。4時間後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液4.0gをフラスコ内に追加し、更に重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液20gを追加して、温度を60℃に昇温し、重合反応を進めた。3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、生成物を温度80℃で脱臭し、残留モノマーを除去した。
その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整して、カルボン酸リチウム塩基を含有する共重合体X1(水溶性)を含む水溶液を得た。そして、共重合体X1の電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。
[リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の調製]
プラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(理論容量:360mAh/g)100部と、バインダー組成物としての共重合体X1を含む水溶液(固形分濃度:4.5%)を固形分相当で2.0部とを投入し、さらにイオン交換水にて固形分濃度が60%となるように希釈した。その後、回転速度40rpmで60分混練して、ペースト状のスラリーを得た。さらに、粘度が1100±100mPa・s(B型粘度計、12rpmで測定)となるようにイオン交換水80部を加え、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を調製した。なお、このときのスラリー組成物の固形分濃度は45質量%であった。この固形分濃度をもとに、電極の生産性を評価した。結果を表1に示す。
[リチウムイオン二次電池用負極の製造]
上記リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の表面に、塗付量が12.8~13.2mg/cm2となるように塗布した。このリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物が塗布された銅箔を、300mm/分の速度で、温度80℃のオーブン内を2分間、さらに温度110℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、負極原反を得た。
そして、得られた負極原反をロールプレス機にて密度が1.68~1.72g/cm3となるようプレスし、さらに、水分の除去および架橋のさらなる促進を目的として、真空条件下、温度105℃の環境に4時間置き、負極を得た。この負極を用いて負極合材層と集電体の密着性を評価した。結果を表1に示す。」
「[0139]<実施例1-2~1-10、1-16~1-22>
表1~3に示す単量体を当該表に示す割合で使用した以外は共重合体X1と同様にして、共重合体X(いずれも水溶性)を調製した。そして、これら共重合体Xを含む水溶液をバインダー組成物として使用した以外は実施例1-1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。
なお、これらの実施例のうちのいくつかにおいて、実施例1-1で使用したものに加え、化合物(B)として2-ヒドロキシエチルアクリレートを使用し、多官能化合物(C)としてポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学(株)製、ライトアクリレート9EG-A、n=9の化合物(I)に相当、官能数=2)を使用した。
そして、実施例1-1と同様にして、共重合体Xの電解液膨潤度、電極の生産性、負極合材層と集電体の密着性、並びに、リチウムイオン二次電池のレート特性、サイクル特性およびサイクル後の負極の膨らみ、保存安定性を評価した。結果を表1~3に示す。」
「[0144]なお、以下に示す表1~3中、
「AA」は、アクリル酸を示し、
「AAm」は、アクリルアミドを示し、
「2-HEA」は、2-ヒドロキシエチルアクリレートを示し、
「EPETA」は、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートを示し、
「PEGDA」は、ポリエチレングリコールジアクリレートを示し、
「MMA」は、メチルメタクリレートを示す。
[0145]
[表1]
[図:0001394001000003.jpg]
」
「[請求項1]共重合体Xおよび溶媒を含むリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物であって、
前記共重合体Xは、単量体組成物Xを重合して得られ、
前記単量体組成物Xは、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)と、エチレン性不飽和結合を有する共重合可能な化合物(B)とを含み、
前記エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)は、エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方よりなり、
前記化合物(B)は、20℃における水100gに対する溶解度が7g以上であり、
前記単量体組成物Xは、全単量体中の前記エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)の割合が20.0質量%以上75.0質量%以下であり、全単量体中の前記化合物(B)の割合が20.0質量%以上75.0質量%以下であり、
前記共重合体Xの電解液膨潤度が120%未満である、
リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物。」
(6)甲4に記載された発明
甲4の実施例1-10の共重合体を用いたバインダー組成物に注目すると、甲4(特に、上記(5)の[0138]、[0139]、[0144]、[0145]参照。)には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「イオン交換水10gと、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてのアクリル酸71.4質量%と、化合物(B)としてのアクリルアミド23.8質量%と、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート4.8質量%とを混合して、シリンジでフラスコ内に注入し、
その後、重合開始剤、更にその15分後に、重合促進剤、4時間後、重合開始剤、更に重合促進剤を追加して、
温度を60℃に昇温し、重合反応を進め、3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、生成物を温度80℃で脱臭し、残留モノマーを除去し、
その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整して得た、カルボン酸リチウム塩基を含有する共重合体(水溶性)を含むリチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物。」
(7)甲5の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲5には、次の記載がある。
「技術分野
[0001]本発明は、リチウムイオン二次電池用バインダー組成物に関し、特には、リチウムイオン二次電池の負極の形成に好適に使用し得るバインダー組成物に関するものである。
背景技術
[0002]リチウムイオン二次電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン二次電池の更なる高性能化を目的として、電極やセパレータなどの電池部材の改良が検討されている。
[0003]ここで、リチウムイオン二次電池用の電極は、通常、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備えている。そして、電極合材層は、例えば、電極活物質と、結着材を含むバインダー組成物などとを分散媒に分散させてなるスラリー組成物を集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成される。」
「[0011]そこで、本発明は、シリコン系負極活物質などの充放電に伴って大きく膨張および収縮する電極活物質と組み合わせて使用した場合であっても、スラリー組成物の安定性および電極の生産性を確保しつつ、リチウムイオン二次電池に優れたサイクル特性および高温保存特性を発揮させることができるリチウムイオン二次電池用バインダー組成物を提供することを目的とする。」
「実施例
[0105]以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。」
「[0107](実施例1)
<共重合体を含む水溶液の調製>
セプタム付き1Lフラスコに、イオン交換水720gを投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、イオン交換水10gと、エチレン性不飽和カルボン酸化合物としてのアクリル酸の80%水溶液47.5gと、多官能化合物としてのポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社化学(株)製、ライトアクリレート9EG-A、n=9の化合物(I)に相当、官能数=2)2.0gおよびエトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学(株)製、ATM-35E、n1+n2+n3+n4=35の化合物(V)に相当、官能数=4)0.4gとを混合して、シリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液8.0gをシリンジでフラスコ内に追加した。更に、その15分後に、重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液40gをシリンジで追加した。4時間後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液4.0gをフラスコ内に追加し、更に重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液20gを追加して、温度を60℃に昇温し、重合反応を進めた。3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、生成物を温度80℃で脱臭し、残留モノマーを除去した。
その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整して、共重合体Aを含む水溶液を得た。そして、共重合体Aの電解液膨潤度を測定した。結果を表1に示す。」
「[0116](比較例1)
共重合体Aを含む水溶液に替えてポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)の1%水溶液を水酸化リチウム水溶液でpH8に調整したものを使用した以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池を製造した。
そして、実施例1と同様にして、ポリアクリル酸の電解液膨潤度、スラリー組成物の安定性、電極の生産性、並びに、リチウムイオン二次電池のサイクル特性および保存安定性を評価した。結果を表1に示す。」
「[請求項1]エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方よりなるエチレン性不飽和カルボン酸化合物と、
ポリオキシアルキレン構造および2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能化合物と、
を含む単量体組成物を重合して得られる共重合体を含み、
前記単量体組成物は、全単量体中の前記エチレン性不飽和カルボン酸化合物の割合が70.0質量%以上99.9質量%以下であり、全単量体中の前記多官能化合物の割合が0.1質量%以上30.0質量%以下である、リチウムイオン二次電池用バインダー組成物。
[請求項2]前記共重合体がカルボン酸リチウム塩基を含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物。」
(8)甲5に記載された発明
ア 甲5の請求項1を引用する請求項2のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物に注目すると、甲5には、次の発明(以下、「甲5発明A」という。)が記載されていると認められる。
「エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方よりなるエチレン性不飽和カルボン酸化合物と、
ポリオキシアルキレン構造および2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能化合物と、
を含む単量体組成物を重合して得られる共重合体を含み、
前記単量体組成物は、全単量体中の前記エチレン性不飽和カルボン酸化合物の割合が70.0質量%以上99.9質量%以下であり、全単量体中の前記多官能化合物の割合が0.1質量%以上30.0質量%以下であり、
前記共重合体がカルボン酸リチウム塩基を含む、リチウムイオン二次電池用バインダー組成物。」
イ また、甲5の比較例1のリチウムイオン二次電池用バインダー組成物に注目すると、甲5には、次の発明(以下、「甲5発明B」という。)が記載されていると認められる。
「ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)の1%水溶液を水酸化リチウム水溶液でpH8に調整して得た、リチウムイオン二次電池用バインダー組成物。」
(9)甲6の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲6には、次の記載がある。
なお、翻訳は当審による。
「
[図:0001394001000004.jpg]
」(第6頁左欄第29行~最終行)
「
[図:0001394001000005.jpg]
[図:0001394001000006.jpg]
」(第6頁右欄第1~最終行)
(当審訳)「 共重合
アクリル酸 + 架橋剤のアリルエーテル → 架橋ポリアクリル酸
図2 アクリル酸と架橋剤としてのアリルエーテルとの共重合
表1 PAHバインダー、PAH0.2Na0.8バインダーの共重合に用いられた架橋剤の含有量
架橋剤含有量/mol% 無中和タイプ 部分的中和タイプ
図3 1重量%バインダー水溶液におけるせん断応力とせん断速度との関係」
(10)甲6に記載された発明
ア 甲6には、「PAH(当審注:ポリアクリル酸)と、ポリエーテルを含むジアリル系化合物との共重合(Fig.2参照)」(第6頁右欄第2~3行)と記載されているが、Fig.2の反応式からすると、実際は「アクリル酸と、アリルエーテルとの共重合」であると考えられる。
イ そうすると、甲6には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。
「アクリル酸と、架橋剤としてのアリルエーテルとの共重合により主鎖を共有結合架橋させた架橋型ポリアクリル酸を1MのNaOH水溶液で80%中和させたバインダーであって、
架橋剤量がアクリル酸モノマー比で0.007mol%の1CLPAH0.2Na0.8、0.07mol%の10CLPAH0.2Na0.8、または、0.14mol%の20CLPAH0.2Na0.8である、LIB用シリコン系負極のバインダー。」
(11)甲7の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲7には、次の記載がある。
「
[図:0001394001000007.jpg]
」
(当審訳)
「製品仕様書
製品名
ポリアクリル酸 平均Mv=1,250,000
製品番号:306215
CAS番号:9003-01-4」
(12)甲8の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日後に改訂された甲8には、次の記載がある。
「
[図:0001394001000008.jpg]
」
「
[図:0001394001000009.jpg]
」
(13)甲12の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲12には、次の記載がある。
「【実施例1】
【0036】
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比1:1:1の混合溶媒中に溶質としてLiPF6を1.0mol/L、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムを0.5質量%、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムを0.05質量%となるように非水電解液電池用電解液を調製した。
【0037】
この電解液を用いてLiCoO2を正極材料、黒鉛を負極材料としてセルを作製し、実際に電池の充放電試験を実施した。試験用セルは以下のように作製した。
【0038】
LiCoO2粉末90質量部に、バインダーとして5質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電材としてアセチレンブラックを5質量部混合し、さらにN-メチルピロリドンを添加し、ペースト状にした。このペーストをアルミニウム箔上に塗布して、乾燥させることにより、試験用正極体とした。また、黒鉛粉末90質量部に、バインダーとして10質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、さらにN-メチルピロリドンを添加し、スラリー状にした。このスラリーを銅箔上に塗布して、150℃で12時間乾燥させることにより、試験用負極体とした。そして、ポリエチレン製セパレータに電解液を浸み込ませてアルミラミネート外装の50mAhセルを組み立てた。
【0039】
以上のような方法で作製したセルを用いて60℃の環境温度で充放電試験を実施した。充電、放電ともに電流50mAで行い、充電は、4.2Vに達した後、1時間4.2Vを維持、放電は、3.0Vまで行い、充放電サイクルを繰り返した。そして、500サイクル後の放電容量維持率と500サイクル後の低温特性を評価した。放電容量維持率は初期の放電容量に対する500サイクル後の放電容量の百分率で表される。低温特性は25℃の放電容量に対する-20℃のときの放電容量の百分率で表される。」
「【0055】
[比較例5]
前記実施例1において使用したジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウムの代わりにジフルオロビス(オキサラト)リン酸ナトリウムを用いたこと、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムを使用しなかったこと以外は同様にして充放電試験を実施した。
【0056】
その結果、500サイクル後の放電容量維持率は73%、500サイクル後の低温特性は38%であった。」
(14)甲13の記載事項
申立人が提出した、本件特許の優先日前に公開された甲13には、次の記載がある。
「【0045】
【表1】
リチウム2次電池 実施例3 比較例1
100サイクル後の容量 85% 73%
(2)低温放電特性
実施例3及び比較例1で得たリチウム2次電池について、25℃での放電容量を100としたときの、-20℃での容量(低温放電容量)を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
リチウム2次電池 実施例3 比較例1
低温放電容量 62% 40%
表1、表2の結果から、本発明の非水電解液電池用電解液を用いた非水電解液電池、例えばリチウム2次電池は、充放電特性及び低温放電特性のいずれにおいても優れていることが明らかになった。」
5 当審の判断
(1)取消理由1(申立理由1)について
(1)-1 本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「二次電池電極用バインダー組成物」は、「電解液(溶媒:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5体積比、電解質:濃度1MのLiPF6)」([0190])を用いたものであるから、本件発明1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」に相当する。
イ 甲1発明の「二次電池電極用バインダー組成物」は、「メタクリル酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)」及び「エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)」を含む混合物を重合し、「10%アンモニア水を添加してpH8に調整する」ものであるから、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有する」事項を含むものである。
ウ 甲1発明の「二次電池電極用バインダー組成物」は、各単量体及び反応性界面活性剤の合計が100部(0.8+82+7.5+7.7+0.8+1.2)であるところ、「メタクリル酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)82部」を含むものであるから、「架橋重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含」む事項を有するものである。
エ 甲1発明は「重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止し」たものであるところ、当審で引用する国際公開第2016/031752号の[0055]によれば、重合転化率とは、次のとおりのものである。
「
[図:0001394001000010.jpg]
」
そうすると、甲1発明は、単量体100%のうち、96%が重合反応し、4%の単量体が残っていることとなるから、残っている単量体がすべてメタクリル酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)であったとしても、本件明細書の「ここでいう「本架橋重合体及びその塩の総量」は、本架橋重合体又はその塩の「樹脂粉末」としての総量であり、残存するエチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を含むものである」(【0047】)との記載に照らせば、「架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量」は、多くても4÷(96+4)=4.0%となる。
したがって、甲1発明は、「架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下であ」る事項を含むものである。
オ 上記ア~エより、本件発明1と甲1発明とは、
「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含み、
前記架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下である、バインダー。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点1-1)
本件発明1は、「架橋重合体の塩は、リチウム塩を含む」ものであるのに対し、甲1発明は、「水溶性重合体を含む混合物に10%アンモニア水を添加してpH8に調整する」ものであって、リチウム塩を含むか否かが不明である点。
(1)-2 相違点についての検討
ア 相違点1-1について検討する。
イ 甲1には、次の記載がある。なお、下線は強調のため、当審で付した。
「重合により、通常は水溶性重合体を含む反応液が得られる。」([0099])「反応液をpH7~pH13にアルカリ化する方法としては、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ金属水溶液;水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等のアルカリ土類金属水溶液;アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を混合する方法が挙げられる。」([0100])
ウ 上記イの記載によれば、甲1発明は、「水溶性重合体を含む混合物に10%アンモニア水を添加してpH8に調整する」ものであり、アルカリ化していると解されるが、甲1発明において、アルカリ化する方法として、「アンモニア水」を混合する方法に代えて、「水酸化リチウム水溶液」を混合する方法を採用して、本件発明1の「架橋重合体の塩は、リチウム塩を含む」との発明特定事項を得る動機があるといえる。
エ しかしながら、本件明細書には、「本架橋重合体は、塩であってもよい。塩の種類としては特に限定しないが、・・・(略)・・・低温電池特性の点では、リチウム塩が好ましい」(【0029】)と記載されており、そして、当該「低温電池特性」とは、令和4年7月15日付けの意見書に次のとおり記載されているものであるから、甲1の記載から当業者が当該効果を予測することは困難である。
「本明細書において「低温電池特性」とは、低温時において、主に、イオン伝導率の低下に伴う内部抵抗の増加による電池の容量が低下するような特性を意味している。リチウムイオン電池では、低温時において内部抵抗が上昇し、出力が下がることに加え、同じ作動電圧において、容量低下が起こることは本願出願時においても技術常識である。
したがって、リチウムイオン電池に関して「低温電池特性」は、それ自体明確であり、「低温電池特性」の点で好ましいといえるのは、低温時において内部抵抗の上昇を抑制して、容量低下を抑制できることを意味しているといえる。」(第10頁第9~18行)
オ よって、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
カ また、本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲1発明に対して、少なくとも相違点1-1と同様の点で相違するから、上記ア~オで検討した理由と同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)取消理由2(申立理由5の一部条文変更)
(2)-1 本件発明1と甲6発明との対比
本件発明1と甲6発明とを対比する。
ア 甲6発明の「LIB用シリコン系負極のバインダー」は、本件発明1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」に相当する。
イ 甲6発明の「アクリル酸」は、本件発明1の「エチレン性不飽和カルボン酸単量体」に相当する。
ウ 甲6発明は、「アクリル酸と、架橋剤としてのアリルエーテルとの共重合により主鎖を共有結合架橋させた架橋型ポリアクリル酸を1MのNaOH水溶液で80%中和させた」ものであるから、甲6発明の「架橋剤量がアクリル酸モノマー比で0.007mol%の1CLPAH0.2Na0.8、0.07mol%の10CLPAH0.2Na0.8、または、0.14mol%の20CLPAH0.2Na0.8である」事項は、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有」し、「架橋重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含」む事項に相当する。
エ 上記ア~ウより、本件発明1と甲6発明とは、
「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記架橋重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含む、バインダー。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点6-1)
「架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量」が,本件発明1は、「4.2質量%以下であ」るのに対し、甲6発明は、当該総量が不明である点。
(相違点6-2)
本件発明1は、「架橋重合体の塩は、リチウム塩を含む」のに対し、甲6発明は、「架橋型ポリアクリル酸を1MのNaOH水溶液で80%中和させた」ものである点。
(2)-2 相違点についての検討
事案に鑑み、まず、相違点6-2について検討する。
ア 甲6発明は、「架橋型ポリアクリル酸を1MのNaOH水溶液で80%中和させた」ものであるから、リチウム塩ではなくナトリウム塩を含むと考えられる。
イ よって、相違点6-2は実質的な相違点である。
ウ そして、甲6には、「中和」をナトリウム塩が形成される「NaOH水溶液」に代えて、リチウム塩が形成されるLiOH水溶液を採用する動機がない。
エ 仮に、動機があったとしても、本件明細書には、「本架橋重合体は、塩であってもよい。塩の種類としては特に限定しないが、・・・(略)・・・低温電池特性の点では、リチウム塩が好ましい」(【0029】)と記載されており、甲6の記載から当業者が当該効果を予測することは困難である。
オ したがって、甲6発明において、相違点6-2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
カ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明ではないし、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
キ また、本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲6発明に対して、少なくとも相違点6-2と同様の点で相違するから、上記ア~カで検討した理由と同様の理由により、甲6発明ではないし、甲6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2
(3)-1 本件発明1と甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを対比する。
ア 甲4発明の「リチウムイオン二次電池電極用バインダー組成物」は、本件発明1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」に相当する。
イ 甲4発明の「カルボン酸リチウム塩基を含有する共重合体(水溶性)を含む」事項と、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有」し、「前記架橋重合体の塩は、リチウム塩を含む」事項とは、「カルボキシル基を有する重合体の塩を含有」し、「前記重合体の塩は、リチウム塩を含む」事項で共通する。
ウ 甲4発明の「エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてのアクリル酸」は、本件発明1の「エチレン性不飽和カルボン酸単量体」に相当する。
エ 甲4発明の「イオン交換水10gと、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてのアクリル酸71.4質量%と、化合物(B)としてのアクリルアミド23.8質量%と、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート4.8質量%とを混合して、」「重合反応を進め、」「重合反応を停止させ、」「その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整して得た」事項は、本件発明1の「重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含」む事項に相当する。
オ 上記ア~エより、本件発明1と甲4発明とは、
「カルボキシル基を有する重合体の塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含み、
前記重合体の塩は、リチウム塩を含む、バインダー。」で一致し、次の相違点で相違する。
(相違点4-1)
「重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量」が,本件発明1は、「4.2質量%以下であ」るのに対し、甲4発明は、「残留モノマーを除去し」ているものの、当該総量が不明である点。
(相違点4-2)
「重合体」について、本件発明1は、「架橋重合体」であるのに対し、甲4発明は、「架橋重合体」であるか否かが不明である点。
(3)-2 相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず相違点4-1について検討する。
イ 甲4発明は、重合反応後、「残留モノマーを除去し」ているものの、どのような目的で残留モノマーを除去しているのかが不明である。
ウ また、甲2には、「二次電池電極用バインダー組成物」([0001])において、残留モノマーに起因して、「ガスの発生」([0007])、「沈殿物」の「発生」([0008])という問題が起こり得ることが記載されている。
エ しかしながら、甲2に記載された事項は、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」(請求項1)を重合する際の残留モノマーについての技術事項であって、甲4発明の「エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてのアクリル酸」の重合とは単量体が異なるから、甲4発明において、上記ウの「ガスの発生」や「沈殿物」の「発生」という問題が起こり得るかが不明である。
オ そうすると、甲2に記載された事項を参酌しても、甲4発明において、「架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下」とする動機がない。
カ また、甲3には、「リチウムイオンポリマー電池」(【0001】)において、「正極合剤中」の「残留モノマーが減少する」ことにより「サイクル特性が改善」(以上、【0016】)することが記載されている。
キ しかしながら、甲3に記載された事項において、「正極合剤中」の「残留モノマー」は、非水電解質に含まれるモノマーであって、甲4発明の「バインダー組成物」に含まれる単量体についてのものではない。
ク そうすると、甲3に記載された事項を参酌しても、甲4発明において、「架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下」とする動機がない。
ケ したがって、甲4発明において、相違点4-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
コ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
サ また、本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲4発明に対して、少なくとも相違点4-1と同様の点で相違するから、上記ア~コで検討した理由と同様の理由により、甲4発明及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)申立理由3
(4)-1 本件発明1と甲5発明Aとの対比
本件発明1と甲5発明Aとを対比する。
ア 甲5発明Aの「リチウムイオン二次電池用バインダー組成物」は、本件発明1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」に相当する。
イ 甲5発明Aは、「エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方よりなるエチレン性不飽和カルボン酸化合物と、ポリオキシアルキレン構造および2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する多官能化合物と、を含む単量体組成物を重合して得られる共重合体を含み、」「前記共重合体がカルボン酸リチウム塩基を含む」事項と、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有」し、「前記架橋重合体の塩は、リチウム塩を含む」事項とは、「カルボキシル基を有する重合体の塩を含有」し、「前記重合体の塩は、リチウム塩を含む」事項で共通する。
ウ 甲5発明Aの「単量体組成物は、全単量体中の前記エチレン性不飽和カルボン酸化合物の割合が70.0質量%以上99.9質量%以下であ」る事項は、本件発明1の「重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含」む事項に相当する。
エ 上記ア~ウより、本件発明1と甲5発明Aとは、
「カルボキシル基を有する重合体の塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含み、
前記重合体の塩は、リチウム塩を含む、バインダー。」
(相違点5-1)
「重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量」が、本件発明1は、「4.2質量%以下であ」るのに対し、甲5発明Aは、共重合体に含まれる単量体の量が不明である点。
(相違点5-2)
「重合体」について、本件発明1は、「架橋重合体」であるのに対し、甲
発明Aは、「架橋重合体」であるか否かが不明である点。
(4)-2 相違点についての検討
ア 事案に鑑み、まず相違点5-1について検討する。
イ 甲5には、実施例1において、重合反応後、「残留モノマーを除去」([0107])することが記載されているものの、どのような目的で残留モノマーを除去しているのかが不明である。
ウ また、甲2には、「二次電池電極用バインダー組成物」([0001])において、残留モノマーに起因して、「ガスの発生」([0007])、「沈殿物」の「発生」([0008])という問題が起こり得ることが記載されている。
エ しかしながら、甲2に記載された事項は、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」(請求項1)を重合する際の残留モノマーについての技術事項であって、甲5発明Aの「エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方よりなるエチレン性不飽和カルボン酸化合物」の重合とは単量体が異なるから、甲5発明Aにおいて、上記ウの「ガスの発生」や「沈殿物」の「発生」という問題が起こり得るかが不明である。
オ そうすると、甲2に記載された事項を参酌しても、甲5発明Aにおいて、「架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下」とする動機がない。
カ また、甲3には、「リチウムイオンポリマー電池」(【0001】)において、「正極合剤中」の「残留モノマーが減少する」ことにより「サイクル特性が改善」(以上、【0016】)することが記載されている。
キ しかしながら、甲3に記載された事項において、「正極合剤中」の「残留モノマー」は、非水電解質に含まれるモノマーであって、甲5発明Aの「バインダー組成物」に含まれる単量体についてのものではない。
ク そうすると、甲3に記載された事項を参酌しても、甲5発明Aにおいて、「架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下」とする動機がない。
ケ したがって、甲5発明Aにおいて、相違点5-1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
コ よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明A及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
サ また、本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲5発明Aに対して、少なくとも相違点5-1と同様の点で相違するから、上記ア~コで検討した理由と同様の理由により、甲5発明A及び甲2、甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)申立理由4
(5)-1 本件発明1と甲5発明Bとの対比
本件発明1と甲5発明Bとを対比する。
ア 甲5発明Bの「リチウムイオン二次電池用バインダー組成物」は、本件発明1の「非水電解質二次電池電極用バインダー」に相当する。
イ 甲5発明Bの「ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)」について、甲7には、製品番号が306215であることが記載されており、また、甲8には、製品番号が306215であるポリアクリル酸について、ポリアクリル酸の含有量が「<=100%」と記載されている。
そうすると、甲5発明Bの「ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)」は、そのほとんどがポリアクリル酸であって、単量体はほとんど含まれていないと考えられる。
したがって、甲5発明Bの「ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)」は、本件発明1の「架橋重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含み、前記架橋重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下であ」る事項のうち、「重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含み、前記重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下であ」る事項を有するものである。
ウ 甲5発明は、「ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)の1%水溶液を水酸化リチウム水溶液でpH8に調整して得た」ものであるから、本件発明1の「カルボキシル基を有する架橋重合体の塩を含有」し、「前記架橋重合体の塩は、リチウム塩を含む」事項のうち、「カルボキシル基を有する重合体の塩を含有」し、「前記重合体の塩は、リチウム塩を含む」事項を有するものである。
エ 上記ア~ウより、本件発明1と甲5発明Bとは、
「カルボキシル基を有する重合体の塩を含有する非水電解質二次電池電極用バインダーであって、
前記重合体は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含み、
前記重合体の塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量が4.2質量%以下であり、
前記重合体の塩は、リチウム塩を含む、バインダー。」
(相違点5-3)
「重合体」について、本件発明1は、「架橋重合体」であるのに対し、甲5発明Bは、「架橋重合体」であるか否かが不明である点。
(5)-2 相違点についての検討
ア 甲5発明Bの「ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)」は、「架橋重合体」であるか否かが不明であるから、相違点5-3は実質的な相違点である。
イ そして、甲5発明Bの「ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)」は、市販の製品であるから、甲5発明Bにおいて、「架橋重合体」とする動機がないし、「ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量=125万)」に代えて、他の「架橋重合体」の「ポリアクリル酸」を採用する動機もない。
ウ したがって、甲5発明Bにおいて、相違点5-3に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
エ よって、本件発明1は、甲5発明Bではないし、甲5発明Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
オ また、本件発明2、3は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって、甲5発明Bに対して、少なくとも相違点5-3と同様の点で相違するから、上記ア~エで検討した理由と同様の理由により、甲5発明Bではないし、甲5発明Bに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
6 申立人の主張について
(1)申立人意見書3.の(2)の主張について
ア 申立人は、概ね次の主張をしている。
甲4には、「塩基性のリチウム化合物を使用すれば、共重合体X中のカルボン酸基がカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)となり、」「リチウムイオン二次電池の内部抵抗が低減され」ることが記載されており、また、「リチウムイオン電池では、低温時において内部抵抗が上昇し、出力が下がることに加え、同じ作動電圧において、容量低下が起こることは本願出願時の技術常識である」から、「当業者であれば、上記技術常識に鑑みて、」甲4記載の技術事項に基づき、「低温時においても内部抵抗の上昇を抑制し、容量低下を抑制するために、架橋重合体の塩がリチウム塩を含むように試みることは当然のことである。」
イ しかしながら、甲4に記載されている事項は、上記アのとおり、温度につては何ら記載がないから、室温時の内部抵抗についてのものであると解するのが相当であって、低温時の内部抵抗について言及するものではないから、上記アの技術常識に照らしても、甲4に記載されている事項から、低温時の内部抵抗の上昇を抑制するという本件発明の効果を予測することは困難である。
ウ そして、令和4年7月15日提出の特許権者の意見書に添付された実験成績証明書(以下、「実験成績証明書」という。)によれば、25℃での放電容量はリチウム塩でもナトリウム塩でも大きな違いが見られないのに対し、-20℃での放電容量はリチウム塩がナトリウム塩よりも大きくなっており、リチウム塩を選択することにより、低温時における内部抵抗の上昇を抑制することが示されているといえるから、低温時の内部抵抗の上昇を抑制するという本件発明の効果について、根拠があるものといえる。
エ よって、申立人の上記アの主張は採用できない。
オ また、申立人は、低温特性(-20℃/25℃の放電容量比)について、実験成績証明書の実験例1、2は、甲12及び甲13の比較例(甲12の【0056】の比較例5、甲13の【0046】参照。)、すなわち従来例と変わらず劣悪なものであるといえるから、架橋重合体の塩がリチウム塩を含むものと、ナトリウム塩を含むものとの間で低温電池特性に特別顕著な差であるとはいえないと主張している。
さらに、実験成績証明書の実験例1、2は、0℃及び-10℃においてナトリウム塩を含む実験例3と比較して放電容量が微々たる差であるから、低温特性は当業者が予測できない際だって優れた効果とはいえないと主張している。
カ しかしながら、低温特性は使用用途等により必要とされる程度が異なるし、リチウムイオン電池の他の構成要素(活物質、電解質等)によって変化することもあり得るから、低温特性が甲12,甲13記載の従来例と同程度であったからといって、直ちに劣悪なものとはいえない。
また、実験成績証明書では、-20℃/25℃の放電容量比について、架橋重合体の塩がリチウム塩を含むものでは35%及び39%であり、ナトリウム塩を含むものでは22%であるから、低温電池特性に特別顕著な差であることが示されていることは明らかである。
さらに、甲12及び甲13は、「-20℃/25℃の放電容量比」を低温特性として評価していることから(甲12の【0039】及び甲13の【0045】参照。)、低温特性の評価として「-20℃/25℃の放電容量比」を用いることが一般的であるといえるから、たとえ0℃、―10℃で放電容量に顕著な違いがなかったとしても、本件発明の低温特性なる効果は優れたものであるといえる。
キ よって、申立人の上記オの主張は採用できない。
(2)申立人意見書3.の(3)の主張について
ア 申立人は、本件発明1は、低温下において使用されることについて何ら限定がなされておらず、常温で使用されるバインダーをも包含するものであるところ、常温で使用される場合は、甲1発明と比較して放電容量がほとんど同じであるから、有利な効果を奏するとはいえないと主張している。
イ しかしながら、通常、非水電解液二次電池は、低温、常温及び常温以上と様々な温度で使用されるものであり、たとえ、常温や常温以上での使用時に効果がなくても低温での使用時に効果があれば、低温下において使用されることについて何ら限定がなくても、甲1発明に対してそれ自体有利な効果となり得るものである。
ウ よって、申立人の上記アの主張は採用できない。
7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1~3に係る特許は、令和4年4月18日付けで通知された取消理由通知書に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700095