特許異議申立
2022-700013
二次電池用セパレータ(separator)及び二次電池
- 審判番号
- 2022-700013
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-227576
- 登録番号
- 6901234
- 請求日
- 2022年01月12日
- 審決日
- 2022年10月14日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三星エスディアイ株式会社
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】阿部 達彦
- 【異議申立人】安藤 宏
- 審判長/審判官
- 審判長 酒井 朋広
- 審判官 棚田 一也
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1652.111-YAA(H01M) / P1652.121-YAA(H01M) / P1652.851-YAA(H01M) / P1652.856-YAA(H01M) / P1652.857-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6901234号発明「二次電池用セパレータ(separator)及び二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6901234号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第6901234号の請求項1ないし5、7及び8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6901234号の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2015年11月20日(優先権主張 平成26年11月21日)を出願日とする出願であって、令和3年6月21日にその特許権の設定登録がされ、同年7月14日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 4年 1月12日 :特許異議申立人安藤宏(以下、「特許異議
申立人」という。)による特許異議の申立
て
令和 4年 3月18日付け:取消理由通知
令和 4年 6月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提
出
そして、令和4年7月7日付けの通知書で、特許異議申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは応答がなかったものである。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年6月27日付けの訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の趣旨は、特許第6901234号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし8について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、以下の事項により特定されるとおりに訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2ないし5、7、8も同様に訂正する。
「【請求項1】
基材と、少なくとも前記基材の表面に形成されたコーティング層と、を備えるリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、
前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとからなる共重合体であるアクリル樹脂を含む二次電池用バインダと、無機粒子とからなるが、前記アクリル酸誘導体モノマーはアクリル酸エステルを含んでおらず、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーと前記アクリル酸誘導体モノマーとの配合比が、モル比で20/80~80/20であり、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であり、
前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマーおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用セパレータ。」
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を、以下の事項により特定されるとおりに訂正する。請求項6の記載を引用する請求項7及び8も同様に訂正する。
「【請求項6】
基材と、少なくとも前記基材の表面に形成されたコーティング層と、を備えるリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、
前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとが共重合したアクリル樹脂と、ポリビニルアルコールとを含む二次電池用バインダと、無機粒子とからなり、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーと前記アクリル酸誘導体モノマーとの配合比が、モル比で20/80~80/20であり、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であり、
前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマー、アクリル酸エステルおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種であることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用セパレータ。」
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマー、アクリル酸エステルおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種である」から「、アクリル酸エステル」を削除し、また、訂正前の請求項1における「前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとが共重合したアクリル樹脂を含む二次電池用バインダと、無機粒子とからなり、」を「前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとからなる共重合体であるアクリル樹脂を含む二次電池用バインダと、無機粒子とからなるが、前記アクリル酸誘導体モノマーはアクリル酸エステルを含んでおらず、」とすることで、「アクリル酸誘導体モノマー」の選択肢から「アクリル酸エステル」を削除するものである。よって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。さらに、訂正事項1は特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する訂正である。
イ 独立特許要件
訂正事項1は、上記アで示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正前の請求項1ないし5、7及び8について特許異議の申立てがされているから、訂正前の請求項1ないし5、7及び8に係る本件訂正に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正前の請求項1ないし5のいずれか1項を引用する請求項6について、請求項1のみを引用するものとし、かつ、独立形式の請求項に書き下して請求項間の引用関係を解消するものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、また、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とし、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する訂正である。
イ 独立特許要件
訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的に含む訂正であり、訂正事項2の対象となる訂正前の請求項6には特許異議の申立てがされていないから、訂正事項2については、さらに、訂正後の請求項6に係る発明が特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)を満足することが必要である。
しかしながら、下記「第5」で後述するように、訂正後の請求項6に係る発明については、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、訂正後の請求項6に係る発明と、請求項6を引用する請求項7及び8に係る発明とは、訂正の要件としての独立特許要件を満たしており、訂正事項2による訂正は特許法120条の5第9項で準用する同法126条第7項の規定に適合するものである。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし8は直接的又は間接的に請求項1を引用するものであって、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であるところ、訂正事項1及び2に係る訂正は本件訂正前の請求項1ないし8に関係する訂正であるから、訂正後の請求項1ないし8は一群の請求項である。
なお、本件訂正は「別の訂正単位とする求め」がなされており、訂正後の請求項6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることが求められている。しかし、訂正後の請求項7及び8は、訂正後の請求項1ないし5を引用すると共に、訂正後の請求項6も引用するから、共通する請求項7及び8を有する請求項1ないし8が1つの一群の請求項である。
よって、本件訂正は、訂正後の請求項1ないし8に係る一群の請求項が訂正単位である。
(4)訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線部は訂正箇所を示す。
「【請求項1】
基材と、少なくとも前記基材の表面に形成されたコーティング層と、を備えるリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、
前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとからなる共重合体であるアクリル樹脂を含む二次電池用バインダと、無機粒子とらなるが、前記アクリル酸誘導体モノマーはアクリル酸エステルを含んでおらず、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーと前記アクリル酸誘導体モノマーとの配合比が、モル比で20/80~80/20であり、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であり、
前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマーおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種であることを特徴とする、リチウムイオンニ次電池用セパレータ。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、モノメチルマレイン酸、2―カルボキシエチルアクリレート、及び2-カルボキシエチルメタクリレートからなる群のうち、いずれか1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオンニ次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記ニトリル基含有アクリルモノマーが、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2―シアノエチルアクリレート、及び2―シアノエチルメタアクリレートからなる群のうち、いずれか1種以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記コーティング層が、前記二次電池用バインダとして、非水溶性の樹脂をさらに含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオンニ次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記非水溶性の樹脂が、ポリフッ化ビニリデンと非水溶性のアクリル樹脂のいずれか一方または両方を含むことを特徴とする、請求項4に記載のリチウムイオンニ次電池用セパレータ。
【請求項6】
基材と、少なくとも前記基材の表面に形成されたコーティング層と、を備えるリチウムイオンニ次電池用セパレータにおいて、
前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとが共重合したアクリル樹脂と、ポリビニルアルコールとを含む二次電池用バインダと、無機粒子とからなり、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーと前記アクリル酸誘導体モノマーとの配合比が、モル比で20/80~80/20であり、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であり、
前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマー、アクリル酸エステルおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種であることを特徴とする、リチウムイオンニ次電池用セパレータ。
【請求項7】
前記無機粒子が、アルミナとベーマイトのいずれか一方または両方であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオンニ次電池用セパレータ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセパレータを備えることを特徴とする、リチウムイオンニ次電池。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由通知の概要
訂正前の請求項1ないし5、7及び8に係る特許に対して、当審が令和4年3月18日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
また、このうち下記取消理由2は、特許異議申立人が特許異議申立書でした申立の理由に対応する。
1)(新規性)請求項1、2、4、5、7及び8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当に該当し、請求項1、2、4、5、7及び8に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2)(進歩性)請求項1ないし5、7及び8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5、7及び8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
< 引 用 文 献 等 一 覧 >
引用文献1:国際公開第2013/005796号(特許異議申立人提出の甲第1号証)
引用文献2:国際公開第2014/025868号(特許異議申立人提出の甲第5号証の1、周知技術を示す文献)
2 引用文献、引用発明
(1)引用文献1
ア 引用文献1には、以下の事項が記載されている。
「[0166]〔実施例1〕
(水溶性重合体の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル67.5部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸30部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としてトリフルオロメチルメタクリレート2.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、イオン交換水150部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性重合体を含む水溶液を得た。こうして得られた水溶性重合体を含む水溶液に、10%アンモニア水を添加してpH8に調整し、所望の水溶性重合体を含む水溶液を得た。・・・(中略)・・・
[0167](多孔膜用の結着剤の製造)
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部、並びに過流酸アンモニウム0.5部、をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、重合性単量体としてブチルアクリレート(BA)94.8部、アクリロニトリル(AN)2部及びメタクリル酸2部、並びに、架橋性単量体としてN-メチロールアクリルアミド1.2部およびアリルグリシジルエーテル(AGE)1部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。単量体混合物の添加中は、60℃で反応を行った。単量体混合物の添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、多孔膜用の結着剤として非水溶性粒子状重合体を含む水分散液を製造した。」
「[0169](多孔膜用のスラリー組成物の製造)
非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製AKP-3000、体積平均粒子径D50=0.45μm、テトラポット状粒子)を用意した。この非導電性粒子を100部、水溶性重合体を2.5部、非水溶性粒子状重合体を4部とって混合し、更に水を固形分濃度が40%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造した。
[0170](セパレーターの製造)
ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)を用意した。用意した有機セパレーターの片面に、前記多孔膜用のスラリー組成物を塗布し、60℃で10分乾燥させた。これにより、厚み29μmの多孔膜を備えるセパレーターを得た。」
「[0173] ・・・(中略)・・正極の電極合剤層面側に、セパレーター及び負極を順に、かつ、セパレーターの多孔膜が負極合剤層面側にくるように積層した。これを、ポリプロピレン製パッキンを設置したステンレス鋼製のコイン型外装容器中に収納した。この容器中に電解液(溶媒:EC/DEC=1/2、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入し、ポリプロピレン製パッキンを介して外装容器に厚さ0.2mmのステンレス鋼のキャップをかぶせて固定し、電池缶を封止して、直径20mm、厚さ約3.2mmのリチウムイオン二次電池を製造した(コインセルCR2032)。」
イ 上記アより、引用文献1には、以下の技術事項が記載されていると認められる。
(ア)段落[0166]には、「攪拌機付き5MPa耐圧容器に、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル67.5部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸30部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としてトリフルオロメチルメタクリレート2.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、イオン交換水150部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性重合体を含む水溶液を得た。こうして得られた水溶性重合体を含む水溶液に、10%アンモニア水を添加してpH8に調整し、所望の水溶性重合体を含む水溶液を得た。」と記載されている。
よって、引用文献1には、攪拌機付き5MPa耐圧容器に、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル67.5部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸30部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としてトリフルオロメチルメタクリレート2.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、イオン交換水150部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始し、重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止し、10%アンモニア水を添加してpH8に調整し、水溶性重合体を含む水溶液を得ることが記載されている。
(イ)段落[0167]には「撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部、並びに過流酸アンモニウム0.5部、をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、重合性単量体としてブチルアクリレート(BA)94.8部、アクリロニトリル(AN)2部及びメタクリル酸2部、並びに、架橋性単量体としてN-メチロールアクリルアミド1.2部およびアリルグリシジルエーテル(AGE)1部を混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。単量体混合物の添加中は、60℃で反応を行った。単量体混合物の添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、多孔膜用の結着剤として非水溶性粒子状重合体を含む水分散液を製造した。」と記載されている。
よって、引用文献1には、撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部、並びに過流酸アンモニウム0.5部、をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温し、一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、重合性単量体としてブチルアクリレート(BA)94.8部、アクリロニトリル(AN)2部及びメタクリル酸2部、並びに、架橋性単量体としてN-メチロールアクリルアミド1.2部およびアリルグリシジルエーテル(AGE)1部を混合して単量体混合物を得、この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行い、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、多孔膜用の結着剤として非水溶性粒子状重合体を含む水分散液を製造することが記載されている。
(ウ)段落[0169]には「非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製AKP-3000、体積平均粒子径D50=0.45μm、テトラポット状粒子)を用意した。この非導電性粒子を100部、水溶性重合体を2.5部、非水溶性粒子状重合体を4部とって混合し、更に水を固形分濃度が40%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造した。」と記載されている。
よって、引用文献1には、非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製AKP-3000、体積平均粒子径D50=0.45μm、テトラポット状粒子)を100部、水溶性重合体を2.5部、非水溶性粒子状重合体を4部とって混合し、更に水を固形分濃度が40%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造することが記載されている。
(エ)段落[0170]には「ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)を用意した。用意した有機セパレーターの片面に、前記多孔膜用のスラリー組成物を塗布し、60℃で10分乾燥させた。これにより、厚み29μmの多孔膜を備えるセパレーターを得た。」と記載されている。
よって、引用文献1には、ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)の片面に、前記多孔膜用のスラリー組成物を塗布し、60℃で10分乾燥させて得た、厚み29μmの多孔膜を備えるセパレーターが記載されている。
(オ)段落[0173]には「正極の電極合剤層面側に、セパレーター及び負極を順に、かつ、セパレーターの多孔膜が負極合剤層面側にくるように積層した。これを」「コイン型外装容器中に収納した。この容器中に電解液」「を空気が残らないように注入し」「電池缶を封止して」「リチウムイオン二次電池を製造した」と記載されている。
よって、セパレーターは、リチウムイオン二次電池に用いられるといえる。
ウ 上記イの技術事項(ア)ないし(オ)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(引用発明)
「攪拌機付き5MPa耐圧容器に、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル67.5部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸30部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としてトリフルオロメチルメタクリレート2.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、イオン交換水150部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始し、重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止し、10%アンモニア水を添加してpH8に調整し、水溶性重合体を含む水溶液を得、
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、製品名「エマール2F」)0.15部、並びに過流酸アンモニウム0.5部、をそれぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温し、一方、別の容器でイオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、重合性単量体としてブチルアクリレート(BA)94.8部、アクリロニトリル(AN)2部及びメタクリル酸2部、並びに、架橋性単量体としてN-メチロールアクリルアミド1.2部およびアリルグリシジルエーテル(AGE)1部を混合して単量体混合物を得、この単量体混合物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行い、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、多孔膜用の結着剤として非水溶性粒子状重合体を含む水分散液を製造し、
非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製AKP-3000、体積平均粒子径D50=0.45μm、テトラポット状粒子)を100部、水溶性重合体を2.5部、非水溶性粒子状重合体を4部とって混合し、更に水を固形分濃度が40%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造し、
ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)の片面に、前記多孔膜用のスラリー組成物を塗布し、60℃で10分乾燥させて得た、厚み29μmの多孔膜を備えるセパレーターである、
リチウムイオン二次電池に用いられるセパレーター。」
(2)引用文献2
引用文献2には、以下の事項が記載されている。
「2.Theceramiccoatedseparatorofclaim1,whereinsaidpolymericbindercomprisesatleastoneaqueouspolymericbinderofpolytetrafluoroethylene(PTFE),polyvinylacetate(PVAc),polyacrylicacidsalt,polyacrylonitrile,polyacrylamideorpoly(sodiumacrylate-acrylamide-acrylonitrile)copolymer,andcopolymers,mixtures,blends,orcombinationsthereof.」(第41頁第17行ないし第21行)
(当審訳:2.前記高分子結合剤は、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリアクリル酸塩、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、もしくはポリ(アクリル酸ナトリウム-アクリルアミド-アクリロニトリル)共重合体、およびそれらの共重合体、混合物、配合物、または組み合わせ、の少なくとも1種の水性高分子結合剤を含む、請求項1に記載のセラミック被覆された隔離板。)
3 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)本件特許発明1と引用発明とを比較する。
a 引用発明の「ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター」は、基材からなるものであるから、本件特許発明1の「基材」に相当する。
b 引用発明は、「ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター」「の片面に、前記多孔膜用のスラリー組成物を塗布し」「乾燥させて得た」「多孔膜を備える」ものである。
よって、引用発明の「多孔膜」は、ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーターの表面に備えられたものといえるから、本件特許発明1の「コーティング層」に相当する。
c 引用発明の「セパレーター」は、リチウムイオン二次電池に用いられるものであるから、本件特許発明1の「リチウムイオン二次電池用セパレータ」に相当する。
d 上記aないしcを踏まえると、引用発明の「ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)の片面に、前記多孔膜用のスラリー組成物を塗布し、60℃で10分乾燥させて得た、厚み29μmの多孔膜を備えるセパレーターであって、リチウムイオン二次電池に用いられるセパレーター」は、本件特許発明1の「基材と、少なくとも前記基材の表面に形成されたコーティング層と、を備えるリチウムイオン二次電池用セパレータ」に相当する。
e 引用発明の「メタクリル酸」は、本件特許発明1の「カルボキシル基含有アクリルモノマー」に相当する。
f 引用発明の「アクリル酸エチル」及び「トリフルオロメチルメタクリレート」は、いずれもアクリル酸誘導体の単量体である点で、本件特許発明1の「アクリル酸誘導体モノマー」と一致する。
しかし、本件特許発明1が「前記アクリル酸誘導体モノマーはアクリル酸エステルを含んでおらず、」「前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマーおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種である」のに対し、引用発明はアクリル酸誘導体モノマーが「アクリル酸エチル」及び「トリフルオロメチルメタクリレート」である点で、両者は相違する。
g 引用発明は、少なくとも「(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル」、「エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸」、「フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としてトリフルオロメチルメタクリレート」「を入れ」、「重合を開始し」、「反応を停止し」、「水溶性重合体を含む水溶液を得」るものであるから、上記e及びfを踏まえると、引用発明の「水溶性重合体」は、「メタクリル酸」、「アクリル酸エチル」及び「トリフルオロメチルメタクリレート」が重合したものといえる。そして、引用発明の「メタクリル酸」、「アクリル酸エチル」及び「トリフルオロメチルメタクリレート」はいずれもアクリロイル基を持つから、引用発明の「水溶性共重合体」は、「共重合体であるアクリル樹脂」に相当する。
h 引用発明は「非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製AKP-3000、体積平均粒子径D50=0.45μm、テトラポット状粒子)を100部、水溶性重合体を2.5部、非水溶性粒子状重合体を4部とって混合し、更に水を固形分濃度が40%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造」するものであり、引用発明の「水溶性重合体」及び「水」は、「アルミナ粒子」と混合されて「スラリー組成物」となるものであるから、「アルミナ粒子」を保持するバインダーとして機能するといえる。
そして、引用発明において「水溶性重合体」及び「水」は「リチウムイオン二次電池に用いられるセパレーター」を構成するものであるから、引用発明の「水溶性重合体」及び「水」は、本件特許発明1の「二次電池用バインダ」に相当する。
i 引用発明の「アルミナ粒子(住友化学社製AKP-3000、体積平均粒子径D50=0.45μm、テトラポット状粒子)」は、本件特許発明1の「無機粒子」に相当する。
j 上記gないしiを踏まえると、引用発明において「多孔膜」が「攪拌機付き5MPa耐圧容器に、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル67.5部、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてメタクリル酸30部、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としてトリフルオロメチルメタクリレート2.5部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、イオン交換水150部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始し、重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止し、10%アンモニア水を添加してpH8に調整し、水溶性重合体を含む水溶液を得、」「非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製AKP-3000、体積平均粒子径D50=0.45μm、テトラポット状粒子)を100部、水溶性重合体を2.5部、非水溶性粒子状重合体を4部とって混合し、更に水を固形分濃度が40%になるように混合し、多孔膜用のスラリー組成物を製造し、ポリプロピレン製の多孔基材からなる有機セパレーター(セルガード社製、製品名2500、厚み25μm)の片面に、前記多孔膜用のスラリー組成物を塗布し、60℃で10分乾燥させて得た」ものであることは、本件特許発明1の「前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとが共重合したアクリル樹脂と」「を含む二次電池用バインダと、無機粒子とから」なることに相当する。
k 「アクリル酸エチル」、「メタクリル酸」及び「トリフルオロメチルメタクリレート」の分子量がそれぞれ100.1、86.09及び154.09であることは本件特許出願の優先日当時における技術常識であり、引用文献1の段落[0152]に「量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。」と記載されているから、引用発明の「メタクリル酸30部」に対する「アクリル酸エチル67.5部」及び「トリフルオロメチルメタクリレート2.5部」のモル比は、(30/86.09)/(67.5/100.1+2.5/154.09)=0.348/0.691=33.5/66.5である。そして、引用文献1の段落[0028]に「通常、水溶性重合体が含むエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合は、水溶性重合体を製造するために用いた全単量体に占めるエチレン性不飽和カルボン酸単量体の割合(仕込み比)と同じになる」と記載されていることを踏まえると、引用発明において「(メタ)アクリル酸エステル単量体」としての「アクリル酸エチル67.5部」、「エチレン性不飽和カルボン酸単量体」としての「メタクリル酸30部」及び「フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体」としての「トリフルオロメチルメタクリレート2.5部」は、本件特許発明1の「前記カルボキシル基含有アクリルモノマーと前記アクリル酸誘導体モノマーとの配合比が、モル比で20/80~80/20であ」ることを満たす。
l 本件特許発明1が「前記カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であ」るのに対し、引用発明はそのような構成を有さない点で相違する。
(イ)上記(ア)のaないしlのとおりであるから、本件特許発明1と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「基材と、少なくとも前記基材の表面に形成されたコーティング層と、を備えるリチウムイオン二次電池用セパレータにおいて、
前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとからなる共重合体であるアクリル樹脂を含む二次電池用バインダと、無機粒子とらなり、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーと前記アクリル酸誘導体モノマーとの配合比が、モル比で20/80~80/20である
リチウムイオンニ次電池用セパレータ。」
(相違点1)
本件特許発明1が「前記アクリル酸誘導体モノマーはアクリル酸エステルを含んでおらず、」「前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマーおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種である」のに対し、引用発明はアクリル酸誘導体モノマーが「アクリル酸エチル」及び「トリフルオロメチルメタクリレート」である点。
(相違点2)
本件特許発明1が「前記カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であ」るのに対し、引用発明はそのような構成を有さない点。
イ 新規性についての判断
上記のとおり、両者は実質的に相違するから、本件特許発明1は引用発明ではない。
ウ 進歩性についての判断
(ア)相違点1ついて検討する。
引用文献1には、段落[0012]に「本発明は・・・(中略)・・・カールが生じにくく、セパレーターに対応する密着強度の高い二次電池用多孔膜、並びに、その二次電池用多孔膜を備える二次電池用セパレータ・・・(中略)・・・を提供することを目的とする。」と記載されている。よって、引用発明が解決する課題はカールが生じにくく、セパレーターに対応する密着強度の高い二次電池用多孔膜を備える二次電池用セパレータを提供することであると認められる。
また、引用文献1の段落[0025]には「水溶性重合体は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを、それぞれ特定の比率で含む共重合体である。・・・(中略)・・・また、水溶性重合体は、結着力に優れるため、本発明の多孔膜を有機セパレーターから剥れ難くできる。さらに、この水溶性重合体は・・・(中略)・・・水分量の変化による多孔膜の変形を抑制できる。」と記載され、引用文献1の「特許請求の範囲」の[請求項1]には「前記水溶性重合体が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位15重量%~50重量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位30重量%~80重量%及びフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位0.5重量%~10重量%を含む共重合体である、二次電池用多孔膜」と記載されている。よって、引用発明は、セパレータの二次電池用多孔膜が、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを特定の比率で含む共重合体を含むことにより、上記課題を解決するものと認められる。
してみると、引用発明において(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、上記課題を解決するために必須の構成要素であるから、引用発明において水溶性重合体を、アクリル酸エステルである「(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」を含まないものとし、相違点1に係る本件特許発明の構成とすることには阻害要因があるといえる。
よって、引用発明から相違点1に係る本件特許発明1の構成に容易に想到することはできない。なお、取消理由通知において引用した引用文献2、及び、特許異議申立人が提出したその他の証拠を参照しても、引用発明における阻害要因が覆るものではない。
(イ)小括
上記(ア)のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
(2)本件特許発明2、4、5、7及び8について
本件特許発明2、4、5、7及び8は、いずれも直接的又は間接的に請求項1を引用し、本件特許発明1の構成を有するものであるから、本件特許発明2、4、5、7及び8は、少なくとも相違点1及び2の点で引用発明と相違する。そして、相違点1については上記「(1)イ及びウ」において検討したとおりであるから、本件特許発明2、4、5、7及び8は引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものでもない。
(3)本件特許発明3について
訂正後の請求項3は、いずれも直接的又は間接的に請求項1を引用し、本件特許発明1の構成を有するものであるから、本件特許発明3は、少なくとも相違点1及び2の点で引用発明と相違する。そして、相違点1については上記「(1)イ及びウ」において検討したとおりであるから、本件特許発明3は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1、2、4、5、7及び8は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、同法第29条第1項の規定に違反して特許されたものとはいえない。また、本件特許発明1ないし5、7及び8は、同法第29条第2項の規定に違反して特許されたものともいえない。
第5 本件特許発明6について(独立特許要件の判断)
1 本件特許発明6と引用発明を対比する
(1)引用発明の「アクリル酸エチル」及び「トリフルオロメチルメタクリレート」は、いずれもアクリル酸誘導体の単量体であるから、本件特許発明6の「アクリル酸誘導体モノマー」に相当する。また、引用発明の「(メタ)アクリル酸エステル単量体としてアクリル酸エチル67.5部」、「フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としてトリフルオロメチルメタクリレート2.5部」「を入れ」ることは、本件特許発明6の「前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマー、アクリル酸エステルおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種である」ことに相当する。
(2)本件特許発明6は「前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとが共重合したアクリル樹脂と、ポリビニルアルコールとを含む二次電池用バインダと、無機粒子とから」なるのに対し、引用発明は「多孔膜」が「ポリビニルアルコール」を含まない点で、両者は相違する。
2 その他の点については、上記「第4 3(1)ア(ア)」のaないしe、gないしlにおける説示のとおりであるから、本件特許発明6と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「基材と、少なくとも前記基材の表面に形成されたコーティング層と、を備えるリチウムイオンニ次電池用セパレータにおいて、
前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとが共重合したアクリル樹脂とを含む二次電池用バインダと、無機粒子とからなり、
前記カルボキシル基含有アクリルモノマーと前記アクリル酸誘導体モノマーとの配合比が、モル比で20/80~80/20であり、
前記アクリル酸誘導体モノマーが、ニトリル基含有アクリルモノマー、アクリル酸エステルおよびアクリルアミドからなる群より選ばれる少なくともいずれか一種であることを特徴とする、リチウムイオンニ次電池用セパレータ。」
(相違点3)
本件特許発明6が「前記カルボキシル基含有アクリルモノマーの少なくとも一部がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩であ」るのに対し、引用発明はそのような構成を有さない点。
(相違点4)
本件特許発明6は「前記コーティング層が、カルボキシル基含有アクリルモノマーと、アクリル酸誘導体モノマーとが共重合したアクリル樹脂と、ポリビニルアルコールとを含む二次電池用バインダと、無機粒子とから」なるのに対し、引用発明は「多孔膜」が「ポリビニルアルコール」を含まない点。
3 相違点4ついて検討する。
引用文献1には「多孔膜用のスラリー組成物」が「水溶性重合体」及び「水」に加えてポリビニルアルコールを含むことは記載されておらず、そのような構成は、取消理由通知において引用した引用文献2、及び、特許異議申立人が提出したその他の証拠にも記載されていない。したがって、これらを参照しても引用発明から相違点4に係る構成を容易に想到することはできない。
4 小括
上記3のとおりであるから、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明6は、引用文献1に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。また、本件特許発明6について、他に特許にすることができない理由を発見しない。
よって、本件特許発明6は、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものであるから、訂正事項2は特許法第120条の5第9項の規定により読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件を満たすものである。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1ないし5、7及び8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5、7及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-700013