2022-021072
光吸収異方性膜、3次元光吸収異方性膜及びその製造方法
- 審判番号
- 2022-021072
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-070305外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年12月26日
- 審決日
- 2023年12月04日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (G02B) / P18 .575-Z (G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
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本願は、平成27年6月22日(優先権主張 平成26年6月25日)に出願した特願2015-124501号の一部を令和元年12月19日に新たな特許出願とした特願2019-228990号の一部を、さらに新たな特許出願としたものであって、令和4年5月2日付けの拒絶理由の通知に対し、同年9月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年9月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年12月26日に審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。
第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正前の請求項1に係る発明
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和4年9月9日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された、次のとおりである。
「 基材、および、二色性色素と液晶性化合物とを含有する光吸収異方性膜を有し、前記基材と前記光吸収異方性膜とが隣接する光学フィルムであって、前記液晶性化合物は、スメクチック液晶相を形成し、光吸収異方性膜の膜厚が、5μm以下であり、膜面内の任意の一方向をx軸、膜面内でx軸に直交する方向をy軸、x軸及びy軸に直交する膜厚方向をz軸としたときに、該膜の光吸光度が下記式(1)、(2)及び(3)を満たす光学フィルム。続きを表示(全13行)Az>(Ax+Ay)/2 (1)Ax(z=60)/Ax>10 (2)Ay(z=60)/Ay>10 (3)(Ax、Ay、Az、Ax(z=60)及びAy(z=60)は、いずれも前記光吸収異方性膜中の前記二色性色素の吸収極大波長における吸光度であって、Axは、x軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、Ayは、y軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、Azは、z軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、Ax(z=60)は、y軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのx軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、Ay(z=60)は、x軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのy軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表す。)」
(2)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、次のとおりである(下線部は補正箇所を示す。)。
「 樹脂基材、および、二色性色素と液晶性化合物とを含有する光吸収異方性膜を有し、前記樹脂基材と前記光吸収異方性膜とが隣接する光学フィルムであって、前記樹脂基材を構成する樹脂は、セルロースエステル、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリメタクリル酸エステルであり、前記液晶性化合物は、スメクチック液晶相を形成し、光吸収異方性膜の膜厚が、5μm以下であり、続きを表示(全14行)前記光吸収異方性膜が、膜面内の任意の一方向をx軸、膜面内でx軸に直交する方向をy軸、x軸及びy軸に直交する膜厚方向をz軸としたときに、該膜の光吸光度が下記式(1)、(2)及び(3)を満たす、光学フィルム。Az>(Ax+Ay)/2 (1)Ax(z=60)/Ax>10 (2)Ay(z=60)/Ay>10 (3)(Ax、Ay、Az、Ax(z=60)及びAy(z=60)は、いずれも前記光吸収異方性膜中の前記二色性色素の吸収極大波長における吸光度であって、Axは、x軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、Ayは、y軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、Azは、z軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、Ax(z=60)は、y軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのx軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、Ay(z=60)は、x軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのy軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表す。)」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「基材」について、「セルロースエステル、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリメタクリル酸エステル」である「樹脂」で構成されるものとする限定を付加する補正事項を含むものである。そして、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、当該補正事項は、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
3 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。
4 引用文献
(1)引用文献5
ア 引用文献の記載事項
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原査定の拒絶の理由において主引用発明が記載された文献として引用され、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特開2005-215435号公報(平成17年8月11日出願公開。以下「引用文献5」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。なお、合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。他の文献についても同様である。
(ア)技術分野
「【0001】本発明は、視対象の可視度を視角に応じて制御することができる可視角度制御部材及びその製造方法に関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「【0008】本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、その第1の目的は、主表面の法線方向にある視対象の可視度が選択的に良好で、かつ、製造コストを抑えることが容易な可視角度制御部材を提供することにある。」
(ウ)課題を解決するための手段
「【0010】上述した第1の目的を達成する本発明の可視角度制御部材は、光透過性を有する基材と、該基材上に形成されて視対象の可視度を視角に応じて制御する可視角度制御層とを有する可視角度制御部材であって、前記可視角度制御層が、二色性色素と分子形状が棒状の重合性液晶とを含有していると共に、前記二色性色素及び前記重合性液晶それぞれの分子配列がホメオトロピック配向の状態で固定された構造を有していることを特徴とする(以下、この可視角度制御部材を「可視角度制御部材I」ということがある。)。【0011】本発明の可視角度制御部材Iでは、上記の可視角度制御層において二色性色素及び重合性液晶それぞれの分子配列がホメオトロピック配向の状態で固定されているので、主表面の法線方向にある視対象の可視度が選択的に良好となる。また、上記の可視角度制御層は、コーティング組成物の塗布、配向処理、及び架橋処理を順次施すという比較的簡単な作業により基材上に形成することができる。【0012】したがって、本発明の可視角度制御部材Iによれば、主表面の法線方向にある視対象の可視度が選択的に良好な可視角度制御部材を低コストの下に得ることが容易になる。なお、本明細書でいう「主表面の法線方向」とは、本発明の可視角度制御部材における可視角度制御層上面での法線方向を意味する。」
(エ)発明の効果
「【0017】本発明によれば、主表面の法線方向にある視対象の可視度が選択的に良好な可視角度制御部材を低コストの下に得ることが可能になるので、他人から覗かれることに対するプライバシーの保護を比較的安価なコストの下に図ることが可能になる。」
(オ)第1形態
「【0019】<可視角度制御部材(第1形態)>図1(a)は、本発明の可視角度制御部材の基本的な断面構造の一例を示す概略図である。同図に示す可視角度制御部材30は、光透過性を有する基材10と、この基材10上に形成されて視対象の可視度を視角に応じて制御する可視角度制御層20とを有している。【0020】続きを表示(全19行)基材10は、透明ガラス等の無機材料や透明樹脂等の有機材料を用いて形成することができ、その形状は板状、シート状、フィルム状等、可視角度制御部材30の用途等に応じて適宜選択可能である。ただし、基材10の材料として透明樹脂等の有機材料を用いる場合には、この基材10の層構成を、有機材料によって形成した層上にガラス薄膜、ケイ素酸化物膜、又は後述する垂直配向膜が形成された構成とし、ガラス薄膜、ケイ素酸化物膜、又は垂直配向膜上に可視角度制御層20を形成することが好ましい。基材10の光透過率は、可視角度制御部材30の用途等に応じて適宜選定可能である。【0021】基材10上に形成されている可視角度制御層20は、二色性色素と分子形状が棒状の重合性液晶とを含有していると共に、二色性色素及び重合性液晶それぞれの分子配列がホメオトロピック配向の状態で固定された構造を有している。【0022】図1(b)は、可視角度制御層20の構造を模式的に示す断面図である。同図に示すように、可視角度制御層20は、棒状の重合性液晶分子24を構造単位として含有し、更に、二色性色素も含有している。重合性液晶の分子配列はホメオトロピック配向の状態で固定されている。二色性色素の分子配列は、重合性液晶の分子配列に倣うようにしてホメオトロピック配向しており、この分子配列も、ホメオトロピック配向の状態で固定されている。なお、図1(b)においては、二色性色素の分子を参照符号「22」で示すと共に、これらの分子22に、便宜上、スマッジングを付してある。また、図1(b)では、便宜上、各重合性液晶分子24における結合手の図示を省略している。【0023】可視角度制御層20を構成する二色性色素としては、(1)二色比が高いもの、(2)分子長軸と平行な方向での吸光係数が高いもの、又は(3)重合性液晶に対する相溶性又は溶解性が高いものが好ましく、例えば、アントラキノン類やアゾ類のようにゲスト-ホスト方式の液晶表示素子で用いられる色素を単独で、又は混合して使用することができる。ここで、本発明でいう「二色性色素の二色比」とは、分子長軸と垂直な方向に振動する偏光(ただし、可視光)の吸収強度に対する分子長軸と平行な方向に振動する偏光(ただし、可視光)の吸収強度の比を意味する。【0024】二色比が高い二色性色素を用いることにより、視対象が主表面の法線方向にあるときの可視度と、視対象の位置が主表面の法線方向からずれたときの可視度との差が大きい可視角度制御部材30を得易くなる。また、上記の吸光係数が高いに二色性色素を用いることにより、所望の特性を有する可視角度制御部材30を得るのに要する二色性色素の使用量を低減させることが容易になる。そして、重合性液晶に対する相溶性又は溶解性が高い二色性色素を用いることにより、可視角度制御層20の形成時に二色性色素の析出が抑制されるので、所望の可視角度制御層20を形成し易くなる。…【0031】このような可視角度制御層20を有する可視角度制御部材30では、可視角度制御層20において二色性色素及び重合性液晶それぞれの分子配列がホメオトロピック配向の状態で固定されていることから、この可視角度制御部材30を通して視対象を見た場合には、視対象が主表面の法線方向にあるときにその可視度が良好となる。視対象の位置が主表面の法線方向からずれるにしたがって、その可視度が低下する。【0032】したがって、可視角度制御部材30を用いることにより、視対象の可視度を視角に応じて制御することができる。可視角度制御部材30を通して視対象を見たときにその可視度が良好となる視角は、可視角度制御層20における二色性色素及.び重合性液晶それぞれの種類、並びにこれら二色性色素と重合性液晶との重量比が同じであれば、可視角度制御層20の膜厚を適宜変更することにより、制御することができる。可視角度制御層20の膜厚は、1.0~10.0μm程度の範囲内で適宜選定可能である。…【0034】以上説明した本形態の可視角度制御部材30は、主表面の法線方向にある視対象の可視度が選択的に良好なものであり、かつ、後述するように低コストの下に製造することが可能なものであるので、例えばこの可視角度制御部材30を建造物の窓や車両の窓等に設けることにより、あるいは、携帯情報端末やパーソナルコンピュータでの表示装置の表示面上に設けることにより、他人から覗かれることに対するプライバシーの保護を比較的安価なコストの下に図ることが可能になる。その他、現金自動預け払い機の表示画面上や、透明材料によって形成された階段の腰板、あるいは、部分的に透明材料によって形成されたパーティション等に可視角度制御部材30を設けることによっても、他人から覗かれることに対するプライバシーの保護を比較的安価なコストの下に図ることが可能になる。」
[図:0001406448000001.jpg]
(カ)第2形態
「【0036】<可視角度制御部材(第2形態)>本形態の可視角度制御部材では、可視角度制御層に界面活性剤が更に含有されている。この点を除けば、本形態の可視角度制御部材は図1(a)又は図1(b)に示した第1形態の可視角度制御部材30と同様の構造を有している…。【0037】上記の界面活性剤としては、分子形状が棒状の重合性液晶をホメオトロピック配向させることができるものであればノニオン系、カチオン系、アニオン系等、どのような系のものであっても用いることができる。…【0038】可視角度制御層に界面活性剤を含有させることにより、可視角度制御層の形成過程で重合性液晶分子をホメオトロピック配向させることが容易になり、結果として、二色性色素をホメオトロピック配向させることも容易になる。…」
(キ)第3形態
「【0042】<可視角度制御部材(第3形態)>本形態の可視角度制御部材では、可視角度制御層にカップリング剤が更に含有されている。この点を除けば、本形態の可視角度制御部材は図1(a)又は図1(b)に示した第1形態の可視角度制御部材30と同様の構造を有している…。【0043】上記のカップリング剤としては、分子形状が棒状の重合性液晶をホメオトロピック配向させることができる種々のものを用いることが可能である。…【0044】可視角度制御層にカップリング剤を含有させることにより、可視角度制御層を形成する際に重合性液晶をホメオトロピック配向させることが容易になり、結果として、二色性色素をホメオトロピック配向させることも容易になる。…【0046】可視角度制御層のヘイズを抑制するという観点からは、カップリング剤としては、分子形状が棒状の重合性液晶をホメオトロピック配向させる作用(以下、この作用を「配向規制力」ということがある。)の強いものが好ましい。…」
(ク)第4形態
「【0050】<可視角度制御部材(第4形態)>本形態の可視角度制御部材では、可視角度制御層にカップリング剤と界面活性剤とが更に含有されている。この点を除けば、本形態の可視角度制御部材は図1(a)又は図1(b)に示した第1形態の可視角度制御部材30と同様の構造を有している…。【0051】上記のカップリング剤としては第3形態の可視角度制御部材についての説明の中で述べたカップリング剤を使用することができ、上記の界面活性剤としては、第2形態の可視角度制御部材についての説明の中で述べた界面活性剤を使用することができる。【0052】可視角度制御層にカップリング剤と界面活性剤とを含有させることにより、可視角度制御層を形成する際に重合性液晶をホメオトロピック配向させることが更に容易になり、結果として、二色性色素をホメオトロピック配向させることも更に容易になる。…カップリング剤は、可視角度制御層の形成時に、主に可視角度制御層と基材との界面側において重合性液晶をホメオトロピック配向させる役割を担うと考えられ、界面活性剤は、主に可視角度制御層の外表面側において重合性液晶をホメオトロピック配向させる役割を担うと考えられる。」
(ケ)第5形態
「【0055】<可視角度制御部材(第5形態)>図9は、本発明の可視角度制御部材の基本的な断面構造の他の例を示す概略図である。同図に示す可視角度制御部材40は、光透過性基板1とこの光透過性基板1の片面に形成された垂直配向膜5とによって基材10A(光透過/性を有する基材10A)が構成されているという点で、図1(a)及び図1(b)に示した第1形態の可視角度制御部材30と異なる。可視角度制御層20は、垂直配向膜5上に形成されている。…【0056】可視角度制御部材40の特徴部分である垂直配向膜5は、光透過性基板1を透明樹脂等の有機材料によって形成する場合に特に有用な部材であり、光透過性基板1をガラスやケイ素酸化物等によって形成する場合には省略することができる。…【0057】上記の垂直配向膜5は、可視角度制御層20を形成する過程で重合性液晶をホメオトロピック配向させるためのものであり、例えば、(A)界面活性剤、(B)カップリング剤、又は(C)ポリイミド系材料により形成することができる。…【0061】上述した垂直配向膜5上に可視角度制御層20を形成することにより、この可視角度制御層20を形成する際に重合性液晶をホメオトロピック配向させることが容易になり、結果として、二色性色素をホメオトロピック配向させることも容易になる。…」
[図:0001406448000002.jpg]
(コ)可視角度制御部材の製造方法
「【0063】<可視角度制御部材の製造方法>本発明の可視角度制御部材の製造方法は、上述した本発明の可視角度制御部材の製造方法であり、この方法は、前述したように配向工程及び分子配列固定工程を含んでいる。以下、これらの工程について詳述する。【0064】続きを表示(全18行)(1)配向工程;配向工程では、光透過性を有する基材の片面に、二色性色素と分子形状が棒状の重合性液晶とを少なくとも含有したコーティング組成物の塗膜を形成した後、この塗膜中の重合性液晶をホメオトロピック配向させる。【0065】前述したように、光透過性を有する基材は、透明ガラス等の無機材料や透明樹脂等の有機材料を用いて形成することができ、その形状は板状、シート状、フィルム状等、製造しようとする可視角度制御部材の用途等に応じて適宜選択可能である。ただし、基材の材料として透明樹脂等の有機材料を用いる場合には、この基材の層構成を、有機材料によって形成した層上にガラス薄膜、ケイ素酸化物膜、又は上述した第5形態の可視角度制御部材についての説明の中で述べた垂直配向膜が形成された構成とし、ガラス薄膜、ケイ素酸化物膜、又は垂直配向膜上に上記の塗膜を形成することが好ましい。ガラス薄膜は例えばゾルゲル法により形成することができ、ケイ素産物膜は例えば物理気相蒸着法(PVD)や化学気相蒸着法(CVD)により形成することができる。ガラス薄膜及びケイ素酸化物膜の膜厚は、それぞれ、10~100nm程度の範囲内で適宜選定可能である。…【0066】上記のコーティング組成物は、分子形状が棒状の重合性液晶と二色性色素と有機溶媒とを必須成分として用い、他に、界面活性剤、カップリング剤、光重合開始剤、増感剤等を任意成分として用いて調製される。各成分は、それぞれ、1種のみ用いてもよいし、2種以上の複数種を併用してもよい。…【0072】上述したコーティング組成物による塗膜は、このコーティング組成物をスピンコートや各種の印刷法(例えばダイコート、バーコート、スライドコート、ロールコート等)等の方法で基材上に塗布することにより、形成することができる。基材表面の撥水性又は撥油性が高い場合や、コーティング組成物に添加した界面活性剤又はカップリング剤の撥水性又は撥油性が強い場合には、重合性液晶をホメオトロピック配向させることが可能な範囲内で、UV洗浄やプラズマ処理により予め表面(塗布面)の濡れ性を高めてもよい。【0073】上述のようにして形成した塗膜中の重合性液晶をホメオトロピック配向させるにあたっては、塗膜中の重合性液晶が液晶相となる温度以上であって等方相(液体相)となる温度未満の温度(以下、この温度を「第1重合温度」という。)にまで塗膜を加熱するか、又は、塗膜を減圧乾燥する。塗膜を第1重合温度にまで加熱する場合、その加熱方法は特に限定されるものではなく、雰囲気加熱、赤外線加熱等、適宜選択可能である。重合性液晶がホメオトロピック配向するのに伴って、このホメオトロピック配向に倣うようにして、塗膜中の二色性色素もホメオトロピック配向する。【0074】コーティング組成物に上述した界面活性剤又はカップリング剤が含有されていた場合や、基材に前述した垂直配向膜が形成されていた場合には、第1重合温度にまで塗膜を加熱することにより、あるいは減圧乾燥することにより、重合性液晶をホメオトロピック配向させることが可能である。【0075】塗膜を第1重合温度にまで加熱しただけでは重合性液晶がホメオトロピック配向しない場合には、あるいは減圧乾燥しただけでは重合性液晶がホメオトロピック配向しない場合には、所定方向に電場又は磁場をかけることにより、重合性液晶をホメオトロピック配向させることが可能である。…」
(サ)実施例1
「【0081】<実施例1>(配向工程)まず、光透過性を有する基材として、厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板(NHテクノグラス社製のNA35)を用意した。また、可視角度制御性層形成用のコーティング組成物として、図2(d)に示した式(IV)で表される重合性液晶25重量部と、二色性色素1重量部と、光重合開始剤1重量部と、シランカップリング剤溶液10重量部とをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート63重量部に溶解させたものを調製した。」
合議体注:上記「図2(d)に示した式(IV)で表される重合性液晶」との記載は、図2に重合性液晶の記載が無いこと、及び、段落【0029】に「多官能重合性液晶の具体例としては、図8(a)~図8(e)に示す式(I)~(V)によって表される各重合性液晶が挙げられる。」との記載があることから、「図8(d)に示した式(IV)で表される重合性液晶」の誤記と思われる。図8(d)を以下に示す。
[図:0001406448000003.jpg]
「【0082】上記の光重合開始剤としてはチバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製のIrg907(商品名)を用い、二色性色素としては日本感光色素研究所社製のG241(商品名)を用いた。また、上記のシランカップリング剤溶液としては、東芝シリコーン社製のシリコーンであるTSL8233と同社製のTSL8114(いずれも商品名)と0.005Nの塩酸とを5:1.5:2.4(重量比)の割合で混合して前記のシリコーンを加水分解し、この加水分解物を更にイソプロピルアルコールで10重量%に希釈したものを用いた。【0083】次に、前述のガラス基板の片面に上述のコーティング組成物をスピンコートして膜厚10μmに塗膜を形成してから、この塗膜を減圧乾燥(最終真空到達度は0.2Torr(約26.6Pa))して溶媒を除去し、更に、ホットプレートにより50℃で1分間加熱した。減圧乾燥後の塗膜は、加熱されるについて白濁状態から透明状態へと変化した。これにより、塗膜中の重合性液晶が加熱により結晶相から液晶相に相転移してホメオトロピック配向し、かつ、二色性色素もホメオトロピック配向の状態になったことが確認された。【0084】(架橋工程)重合性液晶が相転移した塗膜を50℃に加熱したまま、超高圧水銀灯を有する紫外線照射装置を用いて窒素ガス雰囲気中で前記の塗膜に紫外線を照射した。このときの紫外線の照射条件は、照射強度20mW/cm2、照射時間20秒とした。これにより、塗膜中の二色性色素及び重合性液晶それぞれの分子配列がホメオトロピック配向の状態で固定されて膜厚10μmの可視角度制御層が形成され、本発明の可視角度制御部材が得られた。【0085】(評価)得られた可視角度制御部材における可視角度制御層のヘイズ値を日本電色工業社製の測定装置(商品名;NDH2000)により測定したところ、2%であった。また、この可視角度制御部材を直線偏光板上に貼り、波長550nmの光を測定光として用いて、測定光の入射方向を直線偏光板の透過軸の方位角方向に保ったままその入射角のみを種々変更したときの光透過率を求めた。結果を図10に示す。なお、同図においては、可視角度制御層の上面へ測定光を入射角0°で入射させたときの光透過率を「1.0」として、他の入射角のときの光透過率を相対値で示している。また、同図においては、上記の入射角を「観察角度」として表記している。図10から明らかなように、この可視角度制御部材によれば、視対象の可視度を視角に応じて制御することができる。」
[図:0001406448000004.jpg]
(シ)実施例2
「【0086】<実施例2>光透過性を有する基材としてトリアセチルロース(TAC)フィルムの片面に垂直配向膜を形成したものを用い、かつ、可視角度制御層形成用のコーティング組成物を調製するにあたって、シランカップリング剤溶液に代えて界面活性剤溶液10重量部を用いた。他は、実施例1と同じ条件の下に配向工程及び架橋工程を順次行って、可視角度制御部材を得た。【0087】なお、上記の垂直配向膜は、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド(以下、「DMAOP」と略記する。)をイソプロピルアルコールに溶解させて得たコーティング液を用いて塗膜を形成し、この塗膜を硬化させることによって得た。上記のコーティング液におけるDMAOPの濃度は5重量%であり、形成した垂直配向膜の膜厚は0.1μmである。また、上記の界面活性剤溶液としては、DMAOPをイソプロピルアルコールに溶解させたものを用いた。この界面活性剤溶液におけるDMAOPの濃度は10重量%である。可視角度制御層は、垂直配向膜上に形成されている。【0088】得られた可視角度制御部材における可視角度制御層のヘイズ値を日本電色工業社製の測定装置(商品名;NDH2000)により測定したところ、2%であった。また、この可視角度制御部材を直線偏光板上に貼り、実施例1と同様にして測定光の入射角と光透過率との関係を求めたところ、実施例1と同様の結果が得られた。本実施例で得た可視角度制御部材は、実施例1で得た可視角度制御部材と同様に、視対象の可視度を視角に応じて制御することができるものである。」
イ 引用文献5に記載された発明
上記記載事項に基づけば、引用文献5には、以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)ホメオトロピック配向させる手法
上記記載事項(カ)の段落【0038】、記載事項(キ)の段落【0044】、記載事項(ク)の段落【0052】、記載事項(ケ)の段落【0055】及び【0061】、記載事項(コ)の段落【0073】~【0075】の記載に基づけば、引用文献5には、次の技術的事項が記載されているといえる。
「可視角度制御層に界面活性剤やカップリング剤を含有させることにより、又は、光透過性基板と、この光透過性基板の片面に形成された垂直配向膜とによって基材を構成し、垂直配向膜上に可視角度制御層を形成することにより、可視角度制御層を形成する際に重合性液晶をホメオトロピック配向させることが容易になること、コーティング組成物に界面活性剤又はカップリング剤が含有されていた場合や、基材に前述した垂直配向膜が形成されていた場合には、塗膜中の重合性液晶が液晶相となる温度以上であって等方相(液体相)となる温度未満の温度にまで塗膜を加熱することにより、あるいは減圧乾燥することにより、重合性液晶をホメオトロピック配向させることが可能であり、重合性液晶がホメオトロピック配向しない場合には、所定方向に電場又は磁場をかけることにより、重合性液晶をホメオトロピック配向させることが可能であること。」
(イ)実施例1の可視角度制御部材の観察角度毎の光透過率
上記記載事項(サ)の段落【0085】における「この可視角度制御部材を直線偏光板上に貼り、波長550nmの光を測定光として用いて、測定光の入射方向を直線偏光板の透過軸の方位角方向に保ったままその入射角のみを種々変更したときの光透過率を求めた。結果を図10に示す。なお、同図においては、可視角度制御層の上面へ測定光を入射角0°で入射させたときの光透過率を『1.0』として、他の入射角のときの光透過率を相対値で示している。また、同図においては、上記の入射角を『観察角度』として表記している。図10から明らかなように、この可視角度制御部材によれば、視対象の可視度を視角に応じて制御することができる。」との記載及びその結果として示される図10に基づけば、実施例1で得られた「可視角度制御部材」が、「相対値で示される光透過率が観察角度によって変化することにより、可視角度を制御できるもの」であること、相対値で示される光透過率が、観察角度0°では「0.88」を示し、観察角度60°又は-60°では「0.12」を示すことが読み取れる。
なお、以下の図は、図10に合議体が補助線を加えたものである。
[図:0001406448000005.jpg]
(ウ)引用発明5
前記記載事項ア(サ)及び上記(イ)に基づけば、引用文献5には、実施例1として、次の発明(以下「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。
「光透過性を有する基材として、無アルカリガラス基板を用意し、可視角度制御性層形成用のコーティング組成物として、重合性液晶と、二色性色素と、光重合開始剤と、シランカップリング剤溶液とをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させたものを調製し、前述のガラス基板の片面に上述のコーティング組成物をスピンコートして塗膜を形成してから、この塗膜を減圧乾燥し、加熱した塗膜中の重合性液晶が加熱により結晶相から液晶相に相転移してホメオトロピック配向し、かつ、二色性色素もホメオトロピック配向の状態になったことを確認し、加熱したまま、窒素ガス雰囲気中で紫外線を照射したことにより得られた、二色性色素及び重合性液晶それぞれの分子配列がホメオトロピック配向の状態で固定されて膜厚10μmの可視角度制御層が形成された可視角度制御部材であって、可視角度制御部材を直線偏光板上に貼り、波長550nmの光を測定光として用いて、測定光の入射方向を直線偏光板の透過軸の方位角方向に保ったままその入射角のみを種々変更したときの相対値で示される光透過率が、観察角度0°では0.88を示し、観察角度60°又は-60°では0.12を示す、観察角度によって変化することにより、可視角度を制御できる可視角度制御部材。」
(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
原査定の拒絶の理由において主引用発明が記載された文献として引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2009-145776号公報(平成21年7月2日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「【0001】本発明は、視角制御システム、ならびにそれを用いた画像表示装置に関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「【0007】本発明は、上記に鑑み、覗き込み防止や視角制御を必要とする表示装置に使用可能であり、ディスプレイの視角を制御できる視角制御システム、ならびに画像表示装置を提供することを目的とする。」
(ウ)課題を解決するための手段
「【0008】上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。すなわち、本発明は、吸収二色性物質を含有するフィルム状の、第1偏光子及び第2偏光子を有し、第1偏光子は、吸収軸をフィルム面内に有し、第2偏光子は、吸収軸とフィルム面の法線とのなす角が0°~45°である、視角制御システムに関する。偏光子の見かけ上の吸収軸は、視認方向によって変化するが、本発明の視角制御システムにおいては、吸収軸方向の異なる2枚の偏光子を用い、これらの見かけ上の吸収軸の角度関係や光線透過率が視認方向によって変化することを利用して、視角制御を可能としている。」
(エ)第2偏光子
「【0025】本発明の視角制御システムに用いる第2偏光子は、フィルム状に形成されたものである。第2偏光子としては、吸収二色性物質を含有し、吸収軸2aとフィルム面の法線のなす角が0°~45°であるものが用いられる。本発明の視角制御システムによる視角制御原理の詳細については後述するが、視角特性や、透過率等の視認性は、第2偏光子の光学特性に影響されやすい。そのため、第2偏光子の偏光特性は高いほど好ましい。【0026】このような偏光子の材料や、製造方法は特に限定されないが、液晶ポリマーマトリックス中に二色性化合物を配向させたもの等を好適に用いることができる。特に、垂直配向性を高め、高い二色比を達成する観点からは、液晶化合物を垂直配向性の基材により配向させることが好ましい。続きを表示(全12行)【0027】液晶化合物を垂直配向させ得る基材としては、ガラス基材、アルミニウムやステンレス等の金属板、無機酸化物等の無機系のものや有機系の材料等が挙げられる。ガラス基材としては、一般の板ガラスのほか、0.1mm以下の厚みに成膜されてロール状に巻き取れるような薄板ガラスフィルム(例えば、松浪ガラス工業社製の#100、AF35等)や、これを貼り合わせた樹脂フィルム等が挙げられる。金属板としては、アルミニウムやステンレスの板、これらの薄板、あるいはこれらを樹脂フィルムにメッキ/蒸着したもの等が挙げられる。具体的には、例えば、東洋メタライジング社製や尾池工業社製のアルミニウム蒸着PETフィルムやステンレス蒸着フィルム、東洋アルミニウム社製の圧延アルミニウム箔やPET基材付き圧延アルミニウム箔等が挙げられる。無機酸化物としては、例えば、尾池工業社製のSiO2蒸着PETフィルムやITO蒸着PETフィルム等が挙げられる。有機系材料としては、疎水性の樹脂からなるフィルムを好適に用いることができ、例えばノルボルネン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。ノルボルネン系樹脂としては、例えば、オプテス社製のゼオノアの未延伸フィルム等が挙げられる。フッ素系樹脂としては、デュポン社製のテフロン樹脂フィルムや、旭硝子社製のETFEやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等からなるフィルム類が挙げられる。液晶化合物を配向させる基材として、金属板や、無機酸化物の蒸着物等の不透明な基材を用いる場合においては、基材上に液晶化合物の配向層を形成した後に、該配向層を、透明フィルム等の光線透過性の高い基材に転写したものを偏光子として用いることが好ましい。【0028】前記液晶ポリマーマトリックスとしては、サーモトロピック液晶性ポリマーや架橋性液晶性ポリマー等が挙げられる。…【0029】特に、配向性を高めるにあたっては、重合性官能基を有する液晶モノマーと二色性色素の混合物を基材上に塗布し、紫外線等の放射線照射により液晶ポリマーを重合して、配向を固定する方法を好適に用いることができる。このように配向基材上で重合することによって、配向性が高くなることに加えて、配向が固定されるために、耐久性が向上する点においても好ましい。さらに、かかる放射線照射の際に、液晶分子を配向させたい方向、例えばフィルム面の法線方向あるいは斜め方向に電場や磁場を印加することでさらに配向性を高めたり、配向方向を制御することができる。【0030】また、垂直配向性を高める目的で添加剤を用いることもできる。垂直配向性を高めるための添加剤としては、例えば、正の屈折率異方性を有する液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットと、非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットとを含有する側鎖型液晶ポリマーが挙げられる。…」
(オ)実施例
「【0129】(製造例1)末端に重合性基を有する一官能のサーモトロピックのシアノビフェニル系ネマチック液晶モノマー100重量部に対し、垂直配向性を向上させるための添加剤として、下記の化学式で表される高分子液晶(黒金化成製、共重合比:n=35)を25重量部、溶剤として4-メチル-2-ペンタノン(MIBK)を400重量部、重合開始剤(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製 イルガキュア907)を5重量部加えて、混合・溶解し、液晶組成物溶液を調製した。また、100重量部のシクロペンタノンに、波長458nmに吸収ピークを有するボリアゾ系染料を1.5重量部、波長542nmに吸収ピークを有するボリアゾ系染料を0.8重量部、波長621nmに吸収ピークを有するポリアゾ系染料を1重量部溶解させ、染料溶液を調製した。前記液晶組成物溶液と、染料溶液を、重量比4対1で混合したものを、無延伸の非晶質ポリオレフィンフイルム(オプテス社製 ゼオノアフイルム、厚み100μm)に塗布し、50℃で加熱して溶媒を蒸発させ、液晶モノマー層を形成した。これをさらに80℃で加熱して液晶モノマー層を等方状態にした後、徐冷しながら、フィルム面の法線方向に1kVの直流電界を印加した状態で300mJ/m2の紫外線を照射することで液晶モノマーを重合し、完全に硬化させて、フィルム面の法線方向に吸収軸を有する偏光子を作製した。得られた偏光子の厚みは3μmであった。この偏光子の両面に、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フィルム社製 Z-TAC、厚み80μm)をポリビニルアルコール系の接着剤を用いて貼合して偏光板Aを作製した。なお、このとき用いたTACフィルムの正面位相差は1nm、厚み方向位相差は3nmであった。【0130】続きを表示(全11行)【化1】[図:0001406448000006.jpg]…【0132】(実施例1)(視角制御システムの作成)製造例1で作製した偏光板Aの一方主面に、フィルム面内に吸収軸を有するヨウ素系の偏光板(日東電工社製SIG1463DU、以下、「偏光板C」とする)を、アクリル系の粘着剤を用いて貼合し、視角制御システムDを作製した。」
イ 引用文献2に記載された技術的事項
上記記載事項に基づけば、引用文献2には、以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
(ア)液晶化合物を垂直配向させ得る基材
上記記載事項(エ)の段落【0027】における記載に基づけば、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているといえる。
「液晶化合物を垂直配向させ得る基材としては、ガラス基材等の無機系のものや有機系の材料等が挙げられ、有機系材料としては、疎水性の樹脂からなるフィルムを好適に用いることができ、例えばノルボルネン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる」
(イ)液晶分子の配向性を高める手法
上記記載事項(エ)の段落【0029】及び【0030】における記載に基づけば、引用文献2には、次の技術的事項が記載されているといえる。
「配向性を高めるにあたっては、放射線照射の際に、液晶分子を配向させたい方向、例えばフィルム面の法線方向あるいは斜め方向に電場や磁場を印加することでさらに配向性を高めたり、配向方向を制御することができ、また、垂直配向性を高める目的で添加剤を用いることもできる。」
(ウ)ポリオレフィンフイルム上に隣接して偏光子を作製した実施例
上記記載事項(オ)に基づけば、次の構成を具備した実施例が記載されているといえる。
「液晶組成物溶液と、染料溶液を、重量比4対1で混合したものを、無延伸の非晶質ポリオレフィンフイルムに塗布し、50℃で加熱して溶媒を蒸発させ、液晶モノマー層を形成し、これをさらに80℃で加熱して液晶モノマー層を等方状態にした後、徐冷しながら、フィルム面の法線方向に1kVの直流電界を印加した状態で300mJ/m2の紫外線を照射することで液晶モノマーを重合し、完全に硬化させて、フィルム面の法線方向に吸収軸を有する偏光子を作製した。」
(3)引用文献3
ア 引用文献3の記載事項
折りたたみ中(クリックで表示)
原査定の拒絶の理由において周知技術を示す文献として引用され、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2013-210624号公報(平成25年10月10日出願公開。以下「引用文献3」という。)には、図面とともに、以下の記載事項がある。
(ア)技術分野
「【0001】本発明は、偏光膜、円偏光板及びそれらの製造方法などに関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「【0004】しかしながら、ヨウ素染色PVAからなる偏光膜は、黄色味を帯びやすく、いわゆるニュートラルな色相性に劣るという問題があった。また、ヨウ素染色PVAからなる偏光膜は薄膜化が困難であり、より薄型化が求められる昨今の表示装置に適用するうえでは、限界があった。そこで、本発明の目的は、薄膜化が容易であり、ニュートラルな色相性に優れる偏光膜、当該偏光膜を含む偏光子及びその製造方法などを提供するものである。」
(ウ)課題を解決するための手段
「【0005】本発明は以下の発明を含む。[1] 重合性液晶化合物から形成される重合体と、該重合体中に分散させて光吸収を測定した場合に、波長380~550nmの範囲に吸収極大を有する少なくとも1種の二色性色素(1)と、波長550~700nmの範囲に吸収極大を有する少なくとも2種の二色性色素(2)とを含む偏光膜。…[4] 重合性液晶化合物が、スメクチック液晶相を示す化合物である[1]~[3]のいずれかに記載の偏光膜。…」
(エ)重合性液晶化合物
「【0044】1-2.重合性液晶化合物重合性液晶化合物は、配向したまま重合することができる液晶化合物であり、分子内に重合性基を有する。重合性液晶化合物を含有する偏光膜形成用組成物は、重合性液晶化合物を配向させた状態で重合することにより、本偏光膜を形成する。重合性基はラジカル重合性基であると特に好ましい。ラジカル重合性基とは、ラジカル重合反応に関与する基を意味する。【0045】本発明の偏光膜形成用組成物に含まれる重合性液晶化合物は、ネマチック相の液晶相(以下、場合により「ネマチック液晶相」という。)を示すものであっても、スメクチック相の液晶相(以下、場合により「スメクチック液晶相」という。)を示すものであっても、ネマチック液晶相及びスメクチック液晶相の両方を示すものであってもよいが、少なくともスメクチック液晶相を示す重合性スメクチック液晶化合物であると好ましい。重合性スメクチック液晶化合物を含む偏光膜形成用組成物は、二色性色素(1)及び二色性色素(2)との相互作用により、ニュートラルな色相性が極めて良好であり、より偏光性能に優れる本偏光膜が得られる。【0046】重合性スメクチック液晶化合物が示すスメクチック液晶相としては、高次スメクチック液晶相がより好ましい。ここでいう高次スメクチック液晶相とは、スメクチックB相、スメクチックD相、スメクチックE相、スメクチックF相、スメクチックG相、スメクチックH相、スメクチックI相、スメクチックJ相、スメクチックK相及びスメクチックL相であり、中でも、スメクチックB相、スメクチックF相及びスメクチックI相がより好ましい。重合性液晶化合物が示すスメクチック液晶相がこれらの高次スメクチック液晶相であると、配向秩序度のより高い本偏光膜を製造することができる。また、このように配向秩序度の高い高次スメクチック液晶相から作製した本偏光膜はX線回折測定においてヘキサチック相やクリスタル相といった高次構造由来のブラッグピークが得られるものである。当該ブラッグピークとは、分子配向の面周期構造に由来するピークであり、本発明の偏光膜形成用組成物によれば、周期間隔が3.0~5.0Åである本偏光膜を得ることができる。」
イ 引用文献3に記載された技術的事項
引用文献3の特に記載事項(エ)に基づけば、引用文献3には、周知技術として、以下の技術的事項が記載されているものと認められる。
「偏光膜形成用組成物に含有される重合性液晶化合物は、配向したまま重合することができる液晶化合物であり、重合性液晶化合物が高次スメクチック液晶相であると、配向秩序度のより高い本偏光膜を製造することができるため、好ましい。」
5 本件補正発明と引用発明5との対比
本件補正発明と引用発明5とを対比する。
(1)基材
引用発明5の「無アルカリガラス基板」は、その片面に塗膜が形成されるものであるから、「基材」として機能しているといえる。そうすると、本件補正発明の「樹脂基材」と引用発明5の「無アルカリガラス基板」とは、「基材」である点で共通する。
(2)光吸収異方性膜
引用発明5の「二色性色素」と「重合性液晶」とは、それぞれ、本件補正発明の「二色性色素」と「液晶性化合物」に相当する。
引用発明5の「可視角度制御層」は、「二色性色素及び重合性液晶それぞれの分子配列がホメオトロピック配向の状態で固定されて」形成されたものであるから、「二色性色素」と「重合性液晶」とを含有しているといえる。また、引用発明5は、「光透過率が観察角度によって変化することにより、可視角度を制御」するものであるから、引用発明5の「可視角度制御層」は、光吸収異方性を有しているといえる。
したがって、引用発明5の「可視角度制御層」は、本件補正発明の「光吸収異方性膜」に相当し、「二色性色素と液晶性化合物とを含有する」との要件を満たしている。
(3)光学フィルム
引用発明5の「可視角度制御部材」は、その製造過程からみて、「ガラス基板」と「可視角度制御層」とが隣接して設けられており、「可視角度を制御できる」という光学特性を具備した薄膜状の形状を有している。
したがって、引用発明5の「可視角度制御部材」は、本件補正発明の「光学フィルム」に相当し、「基材と前記光吸収異方性膜とが隣接する」という要件を満たしている。
(4)一致点及び相違点
以上より、本件補正発明と引用発明5とは、
「基材、および、二色性色素と液晶性化合物とを含有する光吸収異方性膜を有し、前記基材と前記光吸収異方性膜とが隣接する、光学フィルム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]基材が、本件補正発明では、「樹脂」基材であって、樹脂基材を構成する樹脂が「セルロースエステル、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、またはポリメタクリル酸エステル」であるのに対し、引用発明5では、「ガラス」基板である点。
[相違点2]液晶化合物が、本件補正発明では「スメクチック液晶相」を形成するものであるのに対し、引用発明5ではホメオトロピック配向の状態にある重合性液晶の液晶相が明らかでない点。
[相違点3]光吸収異方性膜の膜厚が、本件補正発明では「5μm以下」であるのに対し、引用発明5では「10μm」である点。
[相違点4]本件補正発明は、光吸収異方性膜の光吸光度が、下記式(1)、(2)及び(3)を満たすのに対し、引用発明5は、可視角度制御層の光吸光度が明らかにされていない点。
Az>(Ax+Ay)/2 (1)
Ax(z=60)/Ax>10 (2)
Ay(z=60)/Ay>10 (3)
(Ax、Ay、Az、Ax(z=60)及びAy(z=60)は、いずれも前記光吸収異方性膜中の前記二色性色素の吸収極大波長における吸光度であって、
Axは、x軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ayは、y軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Azは、z軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ax(z=60)は、y軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのx軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表し、
Ay(z=60)は、x軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのy軸方向に振動する直線偏光の吸光度を表す。)
6 各相違点についての判断
(1)[相違点1]について
引用文献5の前記記載事項4(1)ア(オ)には、「基材10は、透明ガラス等の無機材料や透明樹脂等の有機材料を用いて形成することができ、その形状は板状、シート状、フィルム状等、可視角度制御部材30の用途等に応じて適宜選択可能である。」(段落【0020】)との記載がある。また、引用文献5の前記記載事項4(1)ア(シ)には、光透過性を有する基材として、「トリアセチルロース(TAC)フィルムの片面に垂直配向膜を形成したもの」(合議体注:技術的にみて、「トリアセチルロース」は「トリアセチルセルロース」の誤記と思われる。)を用いた実施例2が開示されている。ここで、実施例2において使用されている「TAC」は、セルロースエステルに該当する。
これらの記載に基づけば、引用文献5には、可視角度制御部材に用いる基材として、セルロースエステルなどの透明樹脂から構成された基材を用いることが示唆されていたといえる。
また、前記4(2)イ(ア)に記載したとおり、引用文献2にも、「液晶化合物を垂直配向させ得る基材としては、ガラス基材等の無機系のものや有機系の材料等が挙げられ、有機系材料としては、疎水性の樹脂からなるフィルムを好適に用いることができ、例えばノルボルネン系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる」という技術的事項が開示されている。この引用文献2の記載からも、液晶化合物を垂直配向させる際の基材として、様々な樹脂からなるフィルムを使用できることが、本願の優先日前に当該分野において知られていたことが裏付けられる。
したがって、引用文献5における示唆等に基づいて、引用発明5の基材を、「無アルカリガラス」の代わりに「セルロースエステル」などの透明樹脂から構成される基材を採用することは、当業者が容易になし得たことであるといえる。
審判請求人は、審判請求書において、「引用文献5には、樹脂基材上に、垂直配向膜を介することなく、二色性色素と液晶化合物とが膜面に対して垂直方向に配向した光吸収異方性膜(可視角度制御層)が形成された光学フィルム(可視角度制御部材)は教示も示唆もされていません。」(第8頁第4~7行)、「樹脂基材を用いる場合には該樹脂材料上に垂直配向膜が形成された層構成とすることを教示する引用文献5の可視角度制御部材において、重合性液晶を垂直配向させる目的で使用する垂直配向膜を含まない構成にしようとする動機付けはありません。」(第8頁第11~14行)と主張している。
しかし、本願明細書の段落【0036】には、「基材には、表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、例えば、真空から大気圧の雰囲気下で、コロナまたはプラズマで基材の表面を処理する方法、基材表面をレーザー処理する方法、基材表面をオゾン処理する方法、基材表面をケン化処理する方法、基材表面を火炎処理する方法、基材表面にカップリング剤を塗布する方法、基材表面をプライマー処理する方法、及び、反応性モノマーや反応性を有するポリマーを基材表面に付着させた後に放射線、プラズマまたは紫外線を照射して反応させるグラフト重合法などが挙げられる。中でも、真空から大気圧の雰囲気下で、基材表面をコロナまたはプラズマ処理する方法が好ましい。」との記載がある。
当該記載に基づけば、本願明細書では、プラズマ処理、レーザー処理、オゾン処理、ケン化処理、火炎処理、カップリング剤の塗布、プライマー処理等の表面処理を施したものを含めて「基材」と称していると理解できる。
そうすると、本件補正発明における「基材」は、その表面に何らかの剤を塗布して得られる表面処理層も含むものであって、本件補正発明の「樹脂基材と前記光吸収異方性膜とが隣接する」は、表面処理層を有する基材と光吸収異方性膜とが隣接していれば足りるものと理解できる。
そうすると、引用文献5の前記記載事項4(1)ア(シ)に開示される実施例2のように、光透過性を有する基材として、「トリアセチルロース(TAC)フィルムの片面に垂直配向膜を形成したもの」を用いているところ、有機材料によって形成した層上に形成されたガラス薄膜、ケイ素酸化物膜、又は垂直配向膜は、本件補正発明でいうところの「樹脂基材」に含まれると解釈されるべきものと考える。
仮に、有機材料によって形成した層上に形成された薄膜が、本件補正発明においていう「樹脂基材」とは別の部材であると解釈したとしても、引用文献5において、基材の材料として透明樹脂等の有機材料を用いる場合に、垂直配向膜等の薄膜を設けることが必要と記載されていたと理解することもできない。前記4(1)イ(ア)に記載したとおり、引用文献5には、「可視角度制御層に界面活性剤やカップリング剤を含有させることにより、又は、光透過性基板と、この光透過性基板の片面に形成された垂直配向膜とによって基材を構成し、垂直配向膜上に可視角度制御層を形成することにより、可視角度制御層を形成する際に重合性液晶をホメオトロピック配向させることが容易になること、コーティング組成物に界面活性剤又はカップリング剤が含有されていた場合や、基材に前述した垂直配向膜が形成されていた場合には、塗膜中の重合性液晶が液晶相となる温度以上であって等方相(液体相)となる温度未満の温度にまで塗膜を加熱することにより、あるいは減圧乾燥することにより、重合性液晶をホメオトロピック配向させることが可能であり、重合性液晶がホメオトロピック配向しない場合には、所定方向に電場又は磁場をかけることにより、重合性液晶をホメオトロピック配向させることが可能であること。」という技術的事項が記載されており、「垂直配向膜」を設けることは、ホメオトロピック配向させるための構成の選択肢の一つに挙げられているに過ぎない。また、引用文献2にも、前記4(2)イ(イ)に記載した技術的事項に加えて、前記4(2)イ(ウ)に記載したとおり、ポリオレフィンフイルム上に隣接して偏光子を作製した製造例も開示されているように、本願の優先日前に当該分野において知られていたといえる。このように、本願の優先日前において、樹脂基材と垂直配向した偏光子とを隣接して設けることが知られていたといえるから、引用発明5のガラス基板を樹脂基板に変更するに際し、垂直配向膜を介さずに基板に隣接して偏光子を配置したものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。
したがって、審判請求人の上記主張を採用することができない。
(2)[相違点2]について
前記4(3)イに記載したとおり、引用文献3には、周知技術として「偏光膜形成用組成物に含有される重合性液晶化合物は、配向したまま重合することができる液晶化合物であり、重合性液晶化合物が高次スメクチック液晶相であると、配向秩序度のより高い本偏光膜を製造することができるため、好ましい。」という技術的事項が記載されている。一方、引用発明5の「可視角度制御部材」に含まれる「重合性液晶」も、二色性色素及びそれぞれの分子配列がホメオトロピック配向の状態で固定するための成分であり、配向状態を高めることが求められるものである。
そうすると、引用文献3に記載された技術的事項に従い、引用発明5の「重合性液晶」を、配向秩序度のより高い偏光膜を製造することができるとされる、「高次スメクチック液晶相」を形成するものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。
審判請求人は、審判請求書において、「引用文献3に記載の発明は、吸収軸が膜面に対して水平方向に配向している液晶硬化膜に関するものであり、二色性色素と液晶性化合物とが膜面に対して垂直方向に配向した状態で硬化した垂直配向型の光吸収異方性膜を含む層構成に関して教示や示唆するものではありません。」(第8頁第15~18行)と主張している。また、令和4年9月9日に提出した意見書においても、「水平配向の偏光膜に関する引用文献3には、垂直配向の偏光膜の光学特性を制御するために有用な構成が教示されているとはいえません。また、本願発明は、液晶性化合物としてスメクチック液晶相を呈する液晶性化合物を用いさえすれば得られるものではなく、該液晶性化合物の液晶性を制御して、上記(1)~(3)を満たすものとする必要があります。」(第6頁第44行~第7頁第3行)と主張している。
しかし、引用文献3の前記記載事項4(3)ア(エ)には水平配向膜に関する記載はなく、前記記載事項4(3)ア(イ)に挙げられた発明が解決しようとする課題や、前記記載事項4(3)ア(ウ)の課題を解決するための手段を参照しても、水平配向膜に特有の課題を解決することは記載されておらず、配向方向に依存する課題解決手段を開示するものでもない。そして、技術的にみても、液晶の配向を利用して二色性色素を配向させるにあたり、膜内における配向方向によってネマチック相及びスメクチック相のいずれかの液晶相が採用できなくなるとする根拠は見いだせず、より高配向の液晶相を利用すれば二色性色素も高配向となることは、配向方向によらず自明のことであるといえる。そうすると、引用文献3の前記記載事項4(3)ア(エ)の記載を、垂直方向に配向する液晶膜に適用するにあたり、阻害要因があるとはいえない。
また、本件補正発明における式(1)は、「主表面の法線方向にある視対象の可視度が選択的に良好」であれば当然満たす要件であり、視野角度制御機能によって斜め方向からののぞき見を防止できるものであることを特定するに過ぎない。また、式(2)及び式(3)は、その視野角度制御の程度が適宜設定した閾値以上であることを定めたものである。そうすると、「主表面の法線方向にある視対象の可視度が選択的に良好」であるとする引用発明5が解決しようとする課題の解決を追求する限り、本件補正発明の式(1)~(3)を満たすものとなることは明らかである。
したがって、審判請求人の上記主張を採用することができない。
(3)[相違点3]について
引用文献5の前記記載事項4(1)ア(オ)には、「可視角度制御部材30を通して視対象を見たときにその可視度が良好となる視角は、可視角度制御層20における二色性色素及び重合性液晶それぞれの種類、並びにこれら二色性色素と重合性液晶との重量比が同じであれば、可視角度制御層20の膜厚を適宜変更することにより、制御することができる。可視角度制御層20の膜厚は、1.0~10.0μm程度の範囲内で適宜選定可能である。」(段落【0032】)と記載されている。当該記載に基づけば、引用文献5には、「10.0μm」を最大値として、「1.0μm」までの範囲で膜厚を変更することが示唆されていたといえる。
したがって、当該示唆に従い、所望の視角を得る等の目的のために、引用発明5における可視角度制御層の膜厚を、1.0~5.0μmの範囲とすることは、当業者が適宜最適化し得たことである。
審判請求人は、令和4年9月9日に提出した意見書において、引用文献5の上記段落【0032】の記載に言及し、「これはすなわち、厚みや重合性液晶および二色性色素の種類や量が異なれば、得られる可視角度制御層における光学特性も変化することを意味しています。…そうであるならば、本願発明における光吸収異方性膜の厚みよりもはるかに厚い膜厚の可視角度制御層を開示するに過ぎず、スメクチック液晶相を形成する液晶化合物を用いることを教示も示唆もしない引用文献5の実施例1等に記載の可視角度制御層から、より薄膜(5μm以下)でありながら、正面方向における光の透過性および斜め方向における光の吸収に優れる偏光膜を提供するための本願請求項1で規定する各構成には容易に想到し得ないと考えます。」(第7頁第6~21行)と主張していた。
しかし、上記段落【0032】の記載は、「可視角度制御層20における二色性色素及び重合性液晶それぞれの種類、並びにこれら二色性色素と重合性液晶との重量比が同じ」である場合に、「視対象を見たときにその可視度が良好となる視角」を「膜厚を適宜変更することにより、制御することができる」というものである。そして、前記記載事項4(1)ア(オ)には、「二色比が高い二色性色素を用いることにより、視対象が主表面の法線方向にあるときの可視度と、視対象の位置が主表面の法線方向からずれたときの可視度との差が大きい可視角度制御部材30を得易くなる。」(段落【0024】)との記載もある。このように、引用文献5には、可視度の差を調整するためのパラメータが膜厚だけでないことが示されており、これらのパラメータをどのように制御すれば所望の視野角を得られるかについても示唆されているのであるから、5μm以下の膜厚でありながら正面方向における光の透過性および斜め方向における光の吸収に優れる偏光膜を提供することが容易に想到し得なかったとはいえない。
したがって、審判請求人の上記主張を採用することができない。
(4)[相違点4]について
引用発明5の「可視角度制御部材」を構成する「可視角度制御層」は、直線偏光板の透過軸の方位角方向を保ったままその入射角のみを変更したときの相対値で示される光透過率が、観察角度0°では0.88を示し、観察角度60°又は-60°では0.12を示すものである。ここで、透過率と吸光度の関係は、一般に以下の式で定義されるものである。そうすると、引用発明5の観察角度0°における直線偏光の吸光度は約0.06、観察角度60°における直線偏光の吸光度は約0.92であることがわかる。
吸光度=-log10(透過率)
本件補正発明におけるx軸、y軸、z軸は、光吸収異方性膜において、「膜面内の任意の一方向をx軸、膜面内でx軸に直交する方向をy軸、x軸及びy軸に直交する膜厚方向をz軸」としたものであるから、引用発明5の観察角度0°が、本件補正発明における、z軸方向からの観察角度であることは明らかである。また、本件補正発明は、x軸を「膜面内の任意の一方向」としているため、引用発明5における観察角度90°を本件補正発明におけるx軸からの観察角度に対応させることができる。そうすると、引用発明5における観察角度0°における吸光度は、「x軸方向に振動する直線偏光の吸光度」すなわち本件補正発明における「Ax」に相当し、引用発明5における観察角度60°における吸光度は、「y軸を回転軸として前記膜を60°回転させたときのx軸方向に振動する直線偏光の吸光度」すなわち本件補正発明における「Ax(z=60)」に相当する。
以上の検討に基づいて、引用発明5における「Ax(z=60)/Ax」の値を算出すると、0.92÷0.06=16.59となる。なお、本件補正発明は、「光吸収異方性膜中の前記二色性色素の吸収極大波長における吸光度」を特定しているのに対し、引用発明5は、二色性色素の吸収極大波長と光透過率の測定光の波長550nmとの関係が明らかでない。しかし、二色性色素の可視光領域における光吸収の機序からみて、入射光の角度によって可視光吸光スペクトルの形状が大きく異なるとはいえないから、観察角度0°と観察角度60°における比が大きく変動するとは考えられない。そうすると、引用発明5において、二色性色素の吸収極大波長を用いて「Ax(z=60)/Ax」の値を算出した場合においても、概ね16.59程度の値になると推測できる。そうすると、引用発明5が、本件補正発明における「Ax(z=60)/Ax>10」とする式(2)の要件を満たしている蓋然性が高い。
また、引用発明5は、x軸を回転軸として可視角度制御層を60°回転させたときのy軸方向に振動する直線偏光の光透過率が示されておらず、Ay(z=60)を求めることができない。しかし、引用発明5の製造過程からみて、x軸方向に振動する直線偏光とy軸方向に振動する直線偏光との間に光学的差異が生じるとはいえない。そうすると、引用発明5が、本件補正発明における「Ay(z=60)/Ay>10」とする式(3)の要件も満たす蓋然性も高い。
そして、本願明細書の段落【0010】に、「式(1)におけるz方向の吸光度は、膜側面からの光入射となるために測定が難しい。そこで、測定光である直線偏光の振動面と膜のx-y平面とがなす角を90°としたとき、この振動面に対して、膜のx-y平面を直線偏光の入射方向に30°及び60°傾けて測定することによりAz方向の吸光度を見積もることができる。」と説明されているところ、入射角を種々変更したときの光透過率が図10の形状を示し、本件補正発明の式(2)及び式(3)を満たす引用発明5が、「Az>(Ax+Ay)/2」とする式(1)の要件も満たす蓋然性が高い。
以上より、上記[相違点4]は、実質的な相違点ではない。
7 むすび
以上のとおり、引用発明5について、[相違点1]~[相違点3]について、対応する本件補正発明の構成とすることは、いずれも、当業者が容易になし得たことであり、[相違点4]は、実質的な相違点とはいえないものである。
したがって、本件補正発明は、引用発明5、引用文献5に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
第3 本件発明
1 本件発明
本件補正は、前記第2に記載したとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和4年9月9日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、前記第2の1(1)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1ないし9に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献2に記載された発明及び引用文献4に記載された技術的事項に基づいて、引用文献5に記載された発明及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて、又は、引用文献6に記載された発明及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献のうち引用文献2,3,5の記載事項は、前記第2の4に記載したとおりである。
4 対比・判断
本件発明は、前記第2の2において検討したとおり、本件補正発明から、「基材」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の7に記載したとおり、引用発明5、引用文献5に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、引用発明5、引用文献5に記載された技術的事項及び引用文献3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-021072