特許拒絶査定不服審判
2022-016500
タングステンシート及び放射線防護服
- 審判番号
- 2022-016500
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-109719外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年10月14日
- 審決日
- 2024年03月04日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】松林工業株式会社
- 【請求人代理人】新居 広守
- 【請求人】パナソニックホールディングス株式会社
- 【請求人代理人】新居 広守
- 分類
- P18 .55 -WZ (G21F) / P18 .561-WZ (G21F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-109719「タングステンシート及び放射線防護服」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年12月12日出願公開、特開2019-211397〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年6月7日の出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 3年10月29日付け:拒絶理由通知書
同年12月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和 4年 4月 7日付け:拒絶理由通知書(最後の拒絶理由)
同年 6月20日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月21日付け:補正の却下の決定、拒絶査定(以下「原査
定」という。)
(同年 8月 2日 :原査定の謄本の送達)
同年10月14日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 5年 7月20日付け:拒絶理由通知書
同年 9月22日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月 2日付け:拒絶理由通知書(最後の拒絶理由)
令和 6年 1月 9日 :意見書、手続補正書の提出
第2 令和6年1月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年1月9日にされた手続補正(以下「本件補正1」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正1について
(1) 本件補正1後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正1により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
タングステン層を有するタングステンシートであって、
前記タングステン層は、バインダ樹脂と、前記バインダ樹脂に含まれる複数のタングステン粒子とを有し、
前記タングステン層におけるタングステンの組成量は、70重量%以上であり、
前記複数のタングステン粒子は、密集して最密充填となるように前記複数のタングステン粒子同士が接触した状態で前記バインダ樹脂内に存在しており、
前記バインダ樹脂に含まれる複数のタングステン粒子の粒径は、9μm±10%であり、
前記バインダ樹脂は、アクリル酸エステルによって構成された水溶性の熱可塑性樹脂からなる、
タングステンシート。」
(2) 本件補正1前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正1前の、令和5年9月22日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
タングステン層を有するタングステンシートであって、
前記タングステン層は、バインダ樹脂と、前記バインダ樹脂に含まれる複数のタングステン粒子とを有し、
前記タングステン層におけるタングステンの組成量は、70重量%以上であり、
前記複数のタングステン粒子は、密集して最密充填となるように前記複数のタングステン粒子同士が接触した状態で前記バインダ樹脂内に存在しており、
前記複数のタングステン粒子の各々は、平均粒径を1つの所定値a[μm]とするタングステン粒子であり、
前記所定値aは、5μm以上10μm以下の範囲内の値であり、
前記バインダ樹脂に含まれる前記複数のタングステン粒子の粒径は、a[μm]±10%であり、
前記バインダ樹脂は、アクリル酸エステルによって構成された水溶性の熱可塑性樹脂からなる、
タングステンシート。」
2 本件補正1の適否
(1) 本件補正1の内容
本件補正1は、本件補正1前の請求項1の「前記複数のタングステン粒子の各々は、平均粒径を1つの所定値a[μm]とするタングステン粒子であり、前記所定値aは、5μm以上10μm以下の範囲内の値であり、前記バインダ樹脂に含まれる前記複数のタングステン粒子の粒径は、a[μm]±10%であり」との発明特定事項を、「前記バインダ樹脂に含まれる複数のタングステン粒子の粒径は、9μm±10%であり」と補正する補正事項を含むである。
そこで、本件補正1が、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「出願当初の明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものか、以下検討する。
(2) 出願当初の明細書等の記載
ア 出願当初の明細書等には、タングステン粒子の粒径に関する記載として、以下の記載がある(下線は、特に関連する記載について当合議体が付した。以下同様。)
「【請求項1】
タングステン層を有するタングステンシートであって、
前記タングステン層は、バインダ樹脂と、前記バインダ樹脂に含まれる複数のタングステン粒子とを有し、
前記タングステン層におけるタングステンの組成量は、70重量%以上であり、
前記複数のタングステン粒子の平均粒径は、1μmより大きく、15μm未満である、タングステンシート。」
「【請求項4】
前記複数のタングステン粒子の平均粒径は、5μm以上10μm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のタングステンシート。
【請求項5】
前記複数のタングステン粒子の平均粒径は、9μm±10%である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のタングステンシート。」
「【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るタングステンシートの一態様は、タングステン層を有するタングステンシートであって、前記タングステン層は、バインダ樹脂と、前記バインダ樹脂に分散されたタングステン粒子とを有し、前記タングステン層におけるタングステンの組成量は、70重量%以上であり、前記タングステン粒子の平均粒径は、1μmより大きく、15μm未満である。」
「【0021】
タングステン粒子12は、純タングステン(純度99.99質量%以上)によって構成されている。バインダ樹脂11内に分散されたタングステン粒子12(タングステン粉末)の平均粒径は、1μmよりも大きく、15μm未満であるとよく、好ましくは3μm以上12μm以下であり、より好ましくは5μm以上10μm以下であり、特に、9μm±10%であるとよい。本実施の形態において、バインダ樹脂11内に分散されたタングステン粒子12の平均粒径φは、9μmである。タングステン粒子12は、例えば、三酸化タングステン粉を水素雰囲気下で水素還元することによって得ることができる。
【0022】
なお、本明細書において、タングステン粒子12(タングステン粉末)の平均粒径とは、例えばレーザー回折・散乱方式での粒度分布測定機により求めた粒径のメジアン値である。タングステン粉末については一般的にフィッシャー法(FSSS)により求められることが多いが、この方法での測定値とは必ずしも一致しない。したがって、図1に示すように、タングステン層10内に分散された複数のタングステン粒子12については、各々の粒径が全て一致しているとは限らない。また、タングステン粒子12の形状も不定形であり、球状に限るものではない。つまり、図1において、タングステン粒子12は模式的に示されている。このことについては、後述の図8及び図9でも同様である。」
「【0031】
本実施の形態における混合溶液13では、熱可塑性樹脂溶液11Aとして、水溶性の熱可塑性樹脂のアクリル酸エステルと水と助剤とによって構成されたエマルジョンを用い、タングステン粉末12Aとして、平均粒径φが9μmのタングステン粒子12を用いた。この場合、成形後のタングステン層10のタングステンの組成量が95重量%となるように、混合溶液13の固形分を85重量%とした。なお、熱可塑性樹脂溶液11Aに含まれる助剤として、混合溶液13の粘度を調整する粘度調整剤を用いた。また、混合溶液13には、その他に硬化剤又は架橋剤等の添加剤が含まれていてもよい。」
「【0037】
各タングステンシート1におけるX線遮蔽率の測定は、「JIS T 61331-1 診断用X線に対する防護用具-第1部:材料の減弱特性の決定方法」に準じて行った。また、タングステンシート1は、三層構造であり、第1基材層21の厚さt1及び第2基材層22の厚さt2は、0.04mmとし、タングステン粒子12の平均粒径φは9μmとした。」
「【0047】
しかしながら、タングステン層におけるタングステンの組成量を高くしようとしてタングステン粒子の粒径を大きくしたりタングステン粒子の量を増やしたりしたりして実際にタングステンシートを作製してみたところ、タングステン粒子の粒径サイズによっては、薄くて柔軟性を有するタングステンシートを得ることが難しいことが分かった。
【0048】
具体的には、図8に示すように、平均粒径φが15μmと比較的に粒径サイズが大きなタングステン粒子12Xを用いてタングステンの組成量が70重量%以上のタングステン層10Xを有するタングステンシート1Xを作製した場合、得られたタングステンシート1Xは、柔軟性を有しておらず、曲げたときに割れてしまった。これは、タングステンの組成量が70重量%以上のタングステン層10Xは金属質になっており、タングステン粒子12Xとバインダ樹脂11との接触部分が少ないために、タングステン層10Xが脆くなったからであると考えられる。
【0049】
しかも、平均粒径が大きなタングステン粒子12Xを用いてタングステンの組成量が70重量%以上のタングステン層10Xを成形すると、タングステン粒子12Xの平均粒径が大きいために、タングステンシート1X(タングステン層10X)の厚みが厚くなってしまい、薄いタングステンシートを得ることが難しかった。
【0050】
一方、図9に示すように、平均粒径φが1μmと比較的に粒径サイズが小さなタングステン粒子12Yを用いてタングステンの組成量が70重量%以上のタングステン層10Yを有するタングステンシート1Yを作製した場合、タングステン粒子12Yがバインダ樹脂11内で密な状態で存在せずに、バインダ樹脂11がタングステン粒子12Y同士の間に入り込みすぎる状態になってしまうことが判明した。つまり、タングステン粒子12Yとバインダ樹脂11との絡みが多すぎる状態になってしまうことが分かった。
【0051】
この原因を調べるために、平均粒径φが1μm、9μm、15μmのタングステン粒子について、タングステン粒子(タングステン粉末)と水とが入ったメスシリンダを混合して一日放置する実験を行った。図10は、その実験結果を模式的に示している。なお、図10では、メスシリンダ内にタングステン粒子が存在する領域(タングステン粒子存在領域12R)を散点状のハッチングで示している。
【0052】
図10に示すように、タングステン粒子の平均粒径φが9μmの場合は、タングステン粒子はメスシリンダの下方に凝集して沈降し、タングステン粒子存在領域12Rは、メスシリンダの下方に存在していた。なお、平均粒径φが10μmのタングステン粒子についても同様の実験を行ったところ、タングステン粒子の平均粒径φが9μmの場合と同様の結果が得られた。
【0053】
一方、タングステン粒子の平均粒径φが15μmの場合は、タングステン粒子がメスシリンダの下方に凝集して沈降せず、平均粒径φが9μmのタングステン粒子の場合と比べて、メスシリンダ内のタングステン粒子存在領域12Rが広くなった。これは、タングステン粒子の粒径サイズが大きくなったために、タングステン粒子を含む溶液がエマルジョン状態にならなかったから等の理由が考えられる。
【0054】
また、タングステン粒子の平均粒径φが1μmの場合も、タングステン粒子がメスシリンダの下方に凝集して沈降せず、平均粒径φが9μmのタングステン粒子と比べて、メスシリンダ内のタングステン粒子存在領域12Rが広くなった。この場合、タングステン粒子存在領域12Rにおいて、タングステン粒子が溶液中に浮遊している状態になっていることが観察された。このように、タングステン粒子の粒径サイズが小さいにも関わらずタングステン粒子が溶液中に広範囲にわたって分布する理由は、タングステン粒子の粒径サイズが小さいために、タングステン粒子があまり沈降せずに溶液中に浮遊しているからであると考えられる。
【0055】
この実験結果により、平均粒径φが小さいタングステン粒子によって構成された混合溶液13を用いてタングステン層を成形すると、図9に示すように、タングステン粒子12Yとバインダ樹脂11との絡みが多すぎる状態となり、タングステン粒子12Yがバインダ樹脂11内で密に存在しない状態で分布してしまうのではないかと推測される。この結果、平均粒径φが小さいタングステン粒子を用いて所定値以上のX線遮蔽率を有するタングステンシートにするには、タングステンシートの厚みを厚くせざるを得なくなる。
【0056】
以上のように、本願発明者の検討結果によれば、タングステン粒子と水溶性の熱可塑性樹脂との混合溶液によってタングステンの組成量が高いタングステン層を成形する場合には、タングステン粒子の粒径は大きすぎても小さすぎても薄くて柔軟性を有するタングステンシートを得ることができないことが分かった。つまり、タングステンの組成量が高いタングステン層であるにも関わらず薄くて柔軟性を有するタングステンシートを得るには、タングステン粒子の粒径サイズを適切に選択する必要があることが分かった。
【0057】
具体的には、本願発明者らの実験及び検討によれば、タングステン層10におけるタングステンの組成量が70%以上の場合には、タングステン層10における複数のタングステン粒子12の平均粒径が1μmを下回ると、タングステン層10の厚みが急激に厚くなってしまい、薄いタングステンシート1を得ることが難しくなることが分かった。一方、タングステン層10における複数のタングステン粒子12の平均粒径が15μmを上回ると、タングステン層10が脆くなって柔軟性を有するタングステンシート1を得ることが難しくなることが分かった。
【0058】
そこで、本実施の形態に係るタングステンシート1では、タングステン層10における複数のタングステン粒子12の平均粒径を、1μmよりも大きく、15μm未満としている。
【0059】
この構成により、タングステン層10におけるタングステンの組成量が70%以上であっても、薄くて柔軟性を有するタングステンシート1を得ることができる。
【0060】
また、本実施の形態に係るタングステンシート1において、タングステン層10におけるタングステンの組成量は、80重量%以上、より好ましくは、90重量%以上であるとよい。
【0061】
同じ厚さのタングステンシートであれば、タングステン層10におけるタングステンの組成量が高ければ高いほど、X線遮蔽率を高くすることができる。その一方で、タングステン層10におけるタングステンの組成量が高くなると、タングステン層10が金属質になってしまい、薄くて柔軟性を有するタングステンシートを得にくくなるが、複数のタングステン粒子12の平均粒径を1μm~15μm以下にすることで、薄くて柔軟性を有するタングステンシート1を容易に得ることができる。
【0062】
特に、タングステンの組成量(タングステン含有比率)が90重量%以上の高密度のタングステンシート1は、薄くて柔軟性に富み、かつ、高いX線遮蔽率を確保することができるので、稼動域の大きい防護服等の生地としての利用が可能になる。
【0063】
この場合、複数のタングステン粒子12の平均粒径は、5μm以上10μm以下であるとよい。本願発明者らの実験によれば、タングステン粒子12の平均粒径φを5μm以上10μm以下にすることで、タングステンがより高密度で薄いタングステン層10を容易に成形することができることが分かった。つまり、これまでは、タングステンの組成量(含有比率)を高くしてタングステンを高密度にすると、薄くて柔軟性を有するタングステンシートを作製することは困難であると考えられていたが、本願発明者らの実験により、タングステン粒子12の平均粒径φを一定の範囲に絞ることで、タングステンの組成量が高くても、薄いタングステンシートが得られることが分かった。
【0064】
特に、タングステンの組成量が90重量%を超えると(例えば95%重量)、薄いタングステンシートを作製することは極めて困難であったが、本願発明者らが鋭意検討した結果、タングステン粒子12の平均粒径を5μm以上10μm以下にすることで、タングステンの組成量が90重量%を超えていても、薄くて柔軟性を有するタングステンシート1を作製できることを見出した。
【0065】
さらに、複数のタングステン粒子12の平均粒径は、9μm±10%であるとよい。本願発明者らの実験によれば、平均粒径φが9μmのタングステン粒子12を用いてタングステン層を形成することで、タングステンが高密度で且つ最も薄くて柔軟性を有するタングステン層10を成形することができることが分かった。また、タングステン粒子12の平均粒径φが多少ばらついても同様の効果が得られることも分かった。したがって、複数のタングステン粒子12の平均粒径を±10%にすることで、タングステン層10におけるタングステンの組成量が90重量%以上であっても、薄くて柔軟性を有するタングステンシート1を容易に作製することができた。」
イ 上記アによれば、出願当初の明細書等には、下記の技術的事項が記載されていると認められる。
(ア) タングステン粒子12の平均粒径を5μm以上10μm以下にすることで、タングステンの組成量が90重量%を超えていても、薄くて柔軟性を有するタングステンシート1を作製できること。(【0064】)
(イ) 平均粒径φが9μmのタングステン粒子12を用いてタングステン層を形成することで、タングステンが高密度で且つ最も薄くて柔軟性を有するタングステン層10を成形することができ、タングステン粒子12の平均粒径φが多少ばらついても同様の効果が得られ、複数のタングステン粒子12の平均粒径を9μm±10%にすることで、タングステン層10におけるタングステンの組成量が90重量%以上であっても、薄くて柔軟性を有するタングステンシート1を容易に作製することができること。(【0065】)
(3) 新規事項についての判断
ア 当審の判断
本件補正1の「前記バインダ樹脂に含まれる複数のタングステン粒子の粒径は、9μm±10%であ(る)」との補正事項は、タングステン粒子の平均粒径の範囲ではなく、粒径の範囲、すなわち粒度分布が9±10%であるとの技術的事項を明らかにするものであるといえる。
そして、上記2のとおり、出願当初の明細書等には、タングステン粒子12の平均粒径を9μm±10%にすることで、タングステンの組成量が90重量%以上であっても、薄くて柔軟性を有するタングステンシートを容易に作製することができるとの技術的事項が記載されているものの、「前記バインダ樹脂に含まれる複数のタングステン粒子の粒径は、9μm±10%であ(る)」こと、すなわち、タングステン粒子の粒度分布が9μm±10%であるとの技術的事項は記載されていないし、自明な事項とも認められない。
さらにいえば、出願当初の明細書等には、令和5年9月22日に提出された意見書において請求人が主張する、「このような粒度分布のタングステン粒子群を用いることで、例えば、粒径9μmジャストのタングステン粒子同士の間隙に、粒径9μm未満のタングステン粒子が入り込む現象が生じて、タングステン粒子の嵩密度を高くすることができる」との技術上の意義に関する記載もないばかりか、タングステン粒子の粒度分布に言及する記載自体見当たらない。
よって、本件補正1は、出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、タングステン粒子の粒度分布に関する新たな技術的事項を導入するものであるから、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内になされたものとはいえない。
イ 審判請求人の主張について
(ア) 審判請求人の主張内容
審判請求人は、本件補正1により、令和5年11月2日付け拒絶理由通知書において新規事項の追加が指摘された「前記複数のタングステン粒子の各々は、平均粒径を1つの所定値a[μm]とするタングステン粒子であり」との構成が削除され、これにより、新規事項の追加に関する拒絶理由は解消された旨主張する。
(イ) 審判請求人の主張についての検討
本件補正1により、「前記複数のタングステン粒子の各々は、平均粒径を1つの所定値a[μm]とするタングステン粒子であり」との構成が削除されたとしても、「前記バインダ樹脂に含まれる複数のタングステン粒子の粒径は、9μm±10%であ(る)」との補正事項が出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものとはいえないことは上記(1)で説示したとおりであるから、審判請求人の上記主張は、採用することができない。
(4) むすび
以上のとおり、本件補正1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではないから、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 令和5年11月2日付け拒絶理由について
1 請求項1の記載
本件補正1は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲における請求項1の記載は、第2の1(2)に記載したとおりのものである。
2 当審が通知した拒絶理由(最後)の概要
令和5年11月2日付けの当審による拒絶理由(最後)の概要は、令和5年9月22日の手続補正(以下「本件補正2」という。)における「前記複数のタングステン粒子の各々は、平均粒径を1つの所定値a[μm]とするタングステン粒子であり、所定値aは、5μm以上10μm以下の範囲内の値であり、前記バインダ樹脂に含まれる前記複数のタングステン粒子の粒径は、a[μm]±10%であ(る)」との補正事項は、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内でしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない、というものである。
3 本件補正2の適否
(1) 本件補正2の内容
本件補正2は、本件補正2前(令和4年10月14日になされた手続補正後)の請求項1の「前記複数のタングステン粒子の平均粒径は、1μmより大きく、15μm未満であり、」との発明特定事項を、「前記複数のタングステン粒子の各々は、平均粒径を1つの所定値a[μm]とするタングステン粒子であり、前記所定値aは、5μm以上10μm以下の範囲内の値であり、前記バインダ樹脂に含まれる前記複数のタングステン粒子の粒径は、a[μm]±10%であり、」と補正する補正事項を含むものである。
(2) 当審の判断
本件補正2の「バインダ樹脂に含まれる前記複数のタングステン粒子の粒径は、a[μm]±10%であ(る)」との補正事項は、タングステン粒子の平均粒径の範囲ではなく、粒径の範囲、すなわち粒度分布が平均粒径の所定値a±10%であるとの技術的事項を明らかにするものであるといえる。
そして、上記第2の2(2)イのとおり、出願当初の明細書等には、タングステン粒子12の平均粒径を9μm±10%にすることで、タングステンの組成量が90重量%以上であっても、薄くて柔軟性を有するタングステンシートを容易に作製することができるとの技術的事項が記載されているものの、「バインダ樹脂に含まれる前記複数のタングステン粒子の粒径は、a[μm]±10%であ(る)」こと、すなわち、タングステン粒子の粒度分布が平均粒径の所定値a±10%であるとの技術的事項は記載されていないし、自明な事項とも認められない。
さらにいえば、出願当初の明細書等には、令和5年9月22日に提出された意見書において請求人が主張する、「このような粒度分布のタングステン粒子群を用いることで、例えば、粒径9μmジャストのタングステン粒子同士の間隙に、粒径9μm未満のタングステン粒子が入り込む現象が生じて、タングステン粒子の嵩密度を高くすることができる」との技術上の意義に関する記載もないばかりか、タングステン粒子の粒度分布の範囲に言及する記載自体見当たらない。
よって、本件補正2は、出願当初の明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、タングステン粒子の粒度分布に関する新たな技術的事項を導入するものであるから、出願当初の明細書等に記載した事項の範囲内になされたものとはいえない。
第4 むすび
以上のとおり、令和5年9月22日に提出された手続補正書でした補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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