2022-002788
窒化物半導体発光素子
- 審判番号
- 2022-002788
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-077570外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2022年02月25日
- 審決日
- 2023年03月13日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日機装株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人平田国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-Z (H01L) / P18 .575-Z (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
本願は、平成31年4月16日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
第2 令和4年2月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年2月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「450μm以上の厚さを有する基板層上に位置するn型AlGaNにより形成されたn型クラッド層と、AlGaNにより形成された障壁層及び井戸層を含む活性層と、電子ブロック層と、p型AlGaNにより形成されたp型クラッド層及びp型コンタクト層と、がこの順に積層され、4μm以上8μm未満の厚さを有する半導体層を備え、前記基板層は、前記n型クラッド層側に位置して、AlNで形成された表面を有するバッファ層をさらに備え、前記バッファ層の前記n型クラッド層側の前記表面の表面粗さは、10Å以上50Å以下である、窒化物半導体発光素子。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年7月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「450μm以上の厚さを有する基板層上に位置するn型AlGaNにより形成されたn型クラッド層と、AlGaNにより形成された障壁層及び井戸層を含む活性層と、電子ブロック層と、p型AlGaNにより形成されたp型クラッド層及びp型コンタクト層と、がこの順に積層され、8μm未満の厚さを有する半導体層を備え、前記基板層は、前記n型クラッド層側に位置して、AlNで形成された表面を有するバッファ層をさらに備え、前記バッファ層の前記n型クラッド層側の前記表面の表面粗さは、10Å以上50Å以下である、窒化物半導体発光素子。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「半導体層」について、「8μm未満」を「4μm以上8μm未満」と限定するものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項
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ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2016-171127号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【請求項1】n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層、p型クラッド層およびp型コンタクト層が順次積層されたp型半導体層とをこの順に備えるIII族窒化物半導体発光素子において、前記電子ブロック層はAlxGa1-xN(0.55≦x≦1.0)であり、前記p型コンタクト層はAlyGa1-yN(0≦y≦0.1)であり、前記p型クラッド層はAlzGa1-zNであって、Al組成zが、前記電子ブロック層側から前記p型コンタクト層側に向かって前記p型クラッド層の厚み全体に亘って漸減し、前記p型クラッド層のAl組成zの厚み方向の減少率が0.01/nm以上0.025/nm以下であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。」
「【0021】図2は、本発明の好適な実施形態に従うIII族窒化物半導体発光素子を示している。この図に示すIII族窒化物半導体発光素子1は、サファイア基板11上に、AlN層21、アンドープ層22、n型半導体層32および発光層40がこの順に積層されている。そして、発光層40上には、電子ブロック層51、p型クラッド層152およびp型コンタクト層53が順次積層されたp型半導体層150が形成されている。また、発光層40およびp型半導体層150の一部をエッチング等により除去し、露出したn型半導体層32上にn型電極60が、p型コンタクト層53上にp型電極70がそれぞれ形成されている。」
「【0023】AlN層21は、サファイア基板11とn型半導体層32、発光層40およびp型半導体層50からなるIII族窒化物半導体層との間の格子不整合に起因する格子歪みを緩和するバッファ層として機能し、III族窒化物半導体層の結晶性を向上させることができる。このAlN層21とサファイア基板11とを合わせて、「AlNテンプレート基板」と呼ばれる。」
「【0026】この発光層40は、Al組成の異なるAlGaNからなる井戸層41と障壁層42とを繰り返し形成した多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)で構成することができる。井戸層41のAl組成は、例えば0.3~0.8である。障壁層42のAl組成は、井戸層41のAl組成より大きく、例えば0.40~0.95である。また、井戸層41および障壁層42の繰り返し回数は、例えば1~10回である。さらに、井戸層41の厚みは、0.5nm~5nm、障壁層42の厚みは、3nm~30nmである。」
「【0046】次に、図3(B)に示すように、サファイア基板11上にAlN層21をエピタキシャル成長させる。AlN層21は、例えば、有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法や分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、スパッタ法などの公知の薄膜成長方法により形成することができる。」
「【0077】続いて、MOCVD法により、アンドープ層として、Al0.7Ga0.3Nからなる層厚1μm層を形成した。次に、アンドープ層上に、n型半導体層として、Al0.62Ga0.38Nからなり、Siドープした層厚2μmの層を形成した(図3(D))。なお、SIMS分析の結果、n型半導体層のSi濃度は1.0×1019atoms/cm3である。」
「図2[図:0001397730000001.jpg]」
(イ)以上より、引用文献には、図2に係るIII族窒化物半導体発光素子である次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、引用発明の認定に用いた引用文献の記載等に係る段落番号等を括弧内に付してある。
<引用発明>
「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層、p型クラッド層およびp型コンタクト層が順次積層されたp型半導体層とをこの順に備えるIII族窒化物半導体発光素子において、前記電子ブロック層はAlxGa1-xN(0.55≦x≦1.0)であり、前記p型コンタクト層はAlyGa1-yN(0≦y≦0.1)であり、前記p型クラッド層はAlzGa1-zNであって、Al組成zが、前記電子ブロック層側から前記p型コンタクト層側に向かって前記p型クラッド層の厚み全体に亘って漸減し、前記p型クラッド層のAl組成zの厚み方向の減少率が0.01/nm以上0.025/nm以下であり、(請求項1)III族窒化物半導体発光素子は、サファイア基板上に、AlN層、アンドープ層、n型半導体層および発光層がこの順に積層されており、(【0021】)サファイア基板上にAlN層をエピタキシャル成長させ、(【0046】)AlN層は、サファイア基板とn型半導体層、発光層およびp型半導体層からなるIII族窒化物半導体層との間のバッファ層として機能し、このAlN層とサファイア基板とを合わせて、AlNテンプレート基板と呼ばれ、(【0023】)発光層は、Al組成の異なるAlGaNからなる井戸層と障壁層とを繰り返し形成した多重量子井戸で構成される、(【0026】)III族窒化物半導体発光素子。」
イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2006-156454号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0031】ところで、結晶成長中のサファイア基板2においては、基板と結晶の材料の組み合わせによる応力、温度等による熱膨張係数の違いによる応力、基板の厚みや結晶層の厚みによる歪みの違い等、様々な要因によって反りの状態が変化する。本発明者らが種々検討を重ねた結果、結晶層(窒化ガリウム系化合物半導体膜3)の厚さに対して、サファイア基板2の厚さを厚くすれば、サファイア基板2の面内における波長分布等の特性分布を大幅に低減できることがわかった。【0032】図7は、サファイア基板2の厚さを900μmとした場合における、活性層成長時のニュートンリングの様子を示す。サファイア基板2の厚さを厚くすることで、同心円状ではないものの、全面にニュートンリングが見られ、上記条件(サファイア基板2の厚さ430μm)と比較して反りが低減したことがわかる。このときの波長分布は、標準偏差で5nm程度であった。続きを表示(全19行)【0033】上述の成長シーケンスの場合、サファイア基板2の厚さを500μm以上とすることで、サファイア基板2の面内での特性分布を低減できることがわかった。窒化ガリウム系化合物半導体膜の他の膜厚についても検討したところ、サファイア基板2の厚さを窒化ガリウム系化合物半導体膜の厚さの100倍以上、望ましくは120倍以上とすることで、効果が認められた。【0034】上記サファイア基板2の厚さを厚くすることの効果は、結晶層である窒化ガリウム系化合物半導体膜の厚さが厚い場合、例えば2.5μm以上とした場合に効果が著しい。特に、結晶層の厚さが5μm以上の場合には、上記のようにサファイア基板2の厚さを結晶層の厚さの100倍以上にしないと、非常に低い歩留まりとなった。【0035】また、一般的に、半導体の製造プロセスにおいては、大型基板を使用することがプロセスコストを低減するのに有効とされている。しかしながら、大型基板では反りの影響が大きくなる。大型基板でも反りの影響を回避するためには、上記の結果に基づいて算出すると、サファイア基板2の厚さをd、サファイア基板2の直径をr(インチで表した時の数値)、結晶層(窒化ガリウム系化合物半導体膜)の厚さをtとしたときに、d≧50×r×t、望ましくはd≧60×r×tとすることで、高い歩留まりを実現できるものと考えられる。【0036】前記式が導き出された根拠について説明すると、先ず、サファイア基板2の反り量は、弾性理論的にも実験的にも結晶層(窒化ガリウム系化合物半導体膜3)の厚さtに比例する。一方、結晶層とサファイア基板2との応力比で反りの量が決まることから、同様な弾性理論的な予測より、サファイア基板2の厚さdに近似的に反比例すると考えられる。また、近似的にサファイア基板2の直径rにも比例すると考えられる。したがって、結晶層が結晶成長されたサファイア基板におけるウエハ全体(サファイア基板+結晶層)の反りは、ある比例定数Cを用いて、C×r×t/dと表すことができる。【0037】ここで、結晶成長時に良好な面内分布となる反り量の上限をBとすると、B≧C×r×t/dd≧C2×r×t (ただし、C2=C/B)という不等式が成り立つ。先のニュートンリングの観察において、サファイア基板2の直径を2インチ、結晶層(窒化ガリウム系化合物半導体膜3)の厚さを5μmとした場合、良好な面内分布を実現するために最低限必要な厚さが500μm以上であったことから、これらの値を代入すると、C2=50(/インチ)を得ることができる。したがって、サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体からなる結晶層を結晶成長させるに際し、上記サファイア基板の厚さをd、サファイア基板の直径をr(インチで表した時の数値)、結晶層の厚さをtとしたときに、d≧50×r×tとなるようにサファイア基板の厚さを選定すればよいことになる。」
(イ)上記(ア)の記載より、以下の技術的事項が認められる。
a 結晶層(窒化ガリウム系化合物半導体膜)の厚さに対して、サファイア基板の厚さを厚くすれば、反りが低減すること。(【0031】・【0032】)
b サファイア基板の厚さを結晶層の厚さの100倍以上、望ましくは120倍以上とすること。(【0033】)
c 特に、結晶層の厚さが5μm以上の場合には、サファイア基板の厚さを結晶層の厚さの100倍以上にしないと、非常に低い歩留まりとなること。(【0034】)
d サファイア基板の反り量は、結晶層の厚さに比例すること。(【0036】)
e 上記a~dの技術的事項を踏まえると、サファイア基板と窒化ガリウム系化合物半導体膜との熱膨張係数差により生じる反りは、窒化ガリウム系化合物半導体膜の厚さに対して、サファイア基板の厚さを厚くすること(100倍以上、望ましくは120倍以上)により低減されること。
(3)本件補正発明と引用発明の対比・判断
ア 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、以下のとおりである。
(ア)本件補正発明の「450μm以上の厚さを有する基板層上に位置するn型AlGaNにより形成されたn型クラッド層と、AlGaNにより形成された障壁層及び井戸層を含む活性層と、電子ブロック層と、p型AlGaNにより形成されたp型クラッド層及びp型コンタクト層と、がこの順に積層され、4μm以上8μm未満の厚さを有する半導体層を備え」との特定事項について
引用発明は、「サファイア基板上に、AlN層、アンドープ層、n型半導体層および発光層がこの順に積層されており」、「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層、p型クラッド層およびp型コンタクト層が順次積層されたp型半導体層とをこの順に備え」、「前記p型クラッド層はAlzGa1-zNであって、Al組成zが、前記電子ブロック層側から前記p型コンタクト層側に向かって前記p型クラッド層の厚み全体に亘って漸減し」、「発光層は、Al組成の異なるAlGaNからなる井戸層と障壁層とを繰り返し形成した多重量子井戸で構成され」、「n型半導体層は、Alを含む窒化物半導体層」を備えている。
そうすると、引用発明の「サファイア基板及びAlN層」、「n型半導体層」、「発光層」、「電子ブロック層」、「p型クラッド層」及び「p型コンタクト層」は、それぞれ本件補正発明の「基板層」、「n型クラッド層」、「活性層」、「電子ブロック層」、「p型クラッド層」及び「p型コンタクト層」に相当し、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項と「基板層上に位置するn型AlGaNにより形成されたn型クラッド層と、AlGaNにより形成された障壁層及び井戸層を含む活性層と、電子ブロック層と、p型AlGaNにより形成されたp型クラッド層及びp型コンタクト層と、がこの順に積層され」ている点で一致するといえる。
(イ)本件補正発明の「前記基板層は、前記n型クラッド層側に位置して、AlNで形成された表面を有するバッファ層をさらに備え」との特定事項について
引用発明は、「サファイア基板上に、AlN層、アンドープ層、n型半導体層および発光層がこの順に積層されて」いる。
そうすると、引用発明の「AlN層」は、本件補正発明の「バッファ層」に相当し、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を満たしている。
(ウ)本件補正発明の「前記バッファ層の前記n型クラッド層側の前記表面の表面粗さは、10Å以上50Å以下である」との特定事項について
引用発明の「AlN層」の「n型半導体層」側の表面粗さは特定されていない。
(エ)引用発明の「III族窒化物半導体発光素子」は、本件補正発明の「窒化物半導体発光素子」に相当する。
(オ)以上によれば、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「基板層上に位置するn型クラッド層と、AlGaNにより形成された障壁層及び井戸層を含む活性層と、電子ブロック層と、p型AlGaNにより形成されたp型クラッド層及びp型コンタクト層と、がこの順に積層される半導体層を備え、前記基板層は、前記n型クラッド層側に位置して、AlNで形成された表面を有するバッファ層をさらに備える、窒化物半導体発光素子。」
<相違点>
・相違点1
「基板層」について、本件補正発明では「450μm以上の厚さを有する」と特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。
・相違点2
「n型クラッド層」について、本件補正発明では「n型AlGaNにより形成された」と特定されているのに対し、引用発明では不明である点。
・相違点3
「半導体層」について、本件補正発明では「4μm以上8μm未満の厚さを有する」と特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。
・相違点4
「バッファ層」について、本件補正発明では「前記n型クラッド層側の前記表面の表面粗さは、10Å以上50Å以下である」と特定されているのに対し、引用発明では特定されていない点。
イ 判断
(ア)事案に鑑みて、相違点1及び相違点3を併せて検討する。
発光素子の技術分野における基板層の厚さは、当該基板層が、半導体層を成長させる成長基板であると共に、発光素子を自立させ得るものであることを踏まえ、半導体層を成膜し自立し得る程度の所定の厚さ(常識的には500μm程度以上)であるから、発光素子の基板層(基板+バッファ層)の厚さを常識的な厚さとすること、言い換えれば、基板層の厚さを「450μm以上」とすることに格別のものはない。よって、引用発明の「AlNテンプレート基板(サファイア基板+AlN層)」の厚みを「450μm以上」の厚さとして、相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得る設計上の事項である。また、発光素子における半導体層(活性層やクラッド層等を含む層)の厚さは、発光層の構造(多重量子井戸構造など)、クラッド層やコンタクト層の機能(キャリア閉じ込め、電流拡散など)により定まるところ、常識的には数μm程度の厚さであって、当業者が適宜設計し得るものといえ、そのような半導体層の厚さが「4μm以上8μm未満」であることに格別のものはないから、引用発明の「III族窒化物半導体層」の厚さを、相違点3に係る「4μm以上8μm未満」の厚さとして構成することは、当業者が容易になし得る設計上の事項である。
そして、本願明細書に記載されている効果は、「窒化物半導体発光素子」を製造する際における「基板層」及び「半導体層」の厚みを規定することによる効果であり、「もの」である本件補正発明の奏する効果といえないから、各層の厚さの特定は、サイズの最適化・好適化に過ぎず、当業者が容易になし得たことといえるし、仮に、当該効果が、本件補正発明の効果といい得るとしても、引用発明においても、製造時に反りを防止したいという課題はあったといえるから、引用文献2に記載された技術的事項を引用発明に適用して、相違点1及び3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。
(イ)相違点2について
引用発明の「発光層」は、「Al組成の異なるAlGaNからなる井戸層と障壁層とを繰り返し形成した多重量子井戸」であるところ、n型層、発光層及びp型層を備える、いわゆる「pin型の発光ダイオード」において、当該n型層及びp型層は、発光層(井戸層)のバンドギャップより大きなバンドギャップを備えることが技術常識であり、当該技術常識を踏まえると、引用発明の「発光層」における「井戸層」がAlを含むのであるから、その「n型半導体層」も「Alを含む窒化物半導体層」であると解することが自然といえ、このことは、引用文献の実施例(発明例1)に、「Al0.62Ga0.38N」のn型半導体層が記載されている(【0077】)ことからも首肯できる。
したがって、上記相違点2に係る特定事項は、実質的な相違ではない。
(ウ)相違点4について
引用発明の「AlN層」の「n型半導体層」側の表面(以下「AlN層表面」という。)は、「AlNテンプレート基板(サファイア基板及びAlN層)」の表面であり、当該表面上に、発光層を含む半導体層を積層するものであるところ、成長基板の表面(エピタキシャル成長面)の平坦性を良好とすることにより、エピタキシャル成長させる半導体層の結晶性を良好とすることは技術常識であるから、引用発明の「AlN層表面」を、平坦性の良好な面(例えば、表面粗さで「10Å以上50Å以下」)とすることは、当業者が容易になし得たことといえ、結晶成長との観点から見て、その数値範囲に格別のものはない。
(エ)本願補正発明の効果について
そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
ウ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、以下のことを主張している。
(i)引用文献1の半導体層は主としてAlGaNであり、引用文献2の半導体層は主としてGaN及びInGaNであるから、引用文献2に記載の技術を適用できるか否か不明であり、適用する動機がないこと。
(ii)引用文献1には、基板層の厚さを「450μm以上」とし、半導体層の厚さを「4μm以上8μm未満」とすることで、基板層の反りを抑制する効果について記載されていないこと。
(iii)引用文献1には、バッファ層の表面の表面粗さに関する記載や、バッファ層の表面粗さを10Å以上50Å以下とすることで基板層の反りを抑制する効果について記載されていないこと。
しかしながら、次のとおりであるから、審判請求人の上記主張は、上記判断を左右するものではない。
上記(i)について、基板と結晶材料の組み合わせにより反りの状態が変化するとしても、引用文献1及び引用文献2に記載された半導体は、ともに窒化ガリウム系化合物半導体であり、AlGaN、GaN及びInGaNと、その組成に違いがあるとしても、それぞれの熱膨張係数に照らしてみれば、引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された技術を適用し得ることは、当業者には明らかといえる。
上記(ii)について、上記イ(ア)c及び(イ)cに説示のとおり、引用文献2に記載された技術的事項に照らし、当業者が容易になし得たことといえる。
上記(iii)について、バッファ層の表面粗さと基板層の反りを抑制する効果との関係は、本願の発明の詳細な説明には記載されておらず、「バッファ層の表面粗さを10Å以上50Å以下とすることで基板層の反りを抑制」できるとは認められない。
エ 小括
以上によれば、本件補正発明は、引用発明又は引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 本件補正についてのむすび
以上より、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年2月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年7月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、以下の理由により特許を受けることができない、というものを含むものである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.特開2016-171127号公報
2.特開2006-156454号公報
3 判断
(1)引用文献の記載事項
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原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1(特開2016-171127号公報)及び引用文献2(特開2006-156454号公報)の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
イ 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明の「4μm以上8μm未満」から「4μm以上」との限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに当該発明特定事項を限定したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)に記載したとおり、引用発明又は引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明又は引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明又は引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-002788