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特許拒絶査定不服審判

2024-015166

窒化物半導体発光素子

審判番号
2024-015166
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2023-120526
請求日
2024年09月24日
審決日
2026年03月23日
公報発行日
2026年06月26日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】日機装株式会社
  • 【請求人代理人】弁理士法人平田国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 岡田 吉美
  • 審判官 小澤 尚由
  • 審判官 横井 亜矢子
分類
P18 .121-WZ (H10H) / P18 .575-WZ (H10H)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2023-120526「窒化物半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔令和 7年 2月 6日出願公開、特開2025- 17479〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和5年7月25日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和6年 2月29日付け:拒絶理由通知書 同年 4月26日 :意見書、手続補正書の提出 同年 6月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) (同年 7月 2日 :原査定の謄本の送達) 同年 9月24日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 令和6年9月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和6年9月24日にされた手続補正を却下する。 [補正の却下の決定の理由] 1 補正の内容 令和6年9月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和6年4月26日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。 (1) 本件補正前 「n型半導体層と、 前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層と、 前記活性層上に形成された電子ブロック層と、 前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層と、を備え、 少なくとも前記活性層には、複数のピットが形成されており、 前記活性層の上面における前記ピットの密度を第1密度D1とし、前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度を第2密度D2としたとき、前記第1密度D1に対する前記第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、30%未満であり、 前記電子ブロック層は、アンドープの半導体層からなり、 前記電子ブロック層の全体の膜厚は、前記活性層を構成する半導体層のうち、最も膜厚が大きい半導体層の膜厚の2倍以上である、 窒化物半導体発光素子。」 (2) 本件補正後 「【請求項1】 n型半導体層と、 前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層と、 前記活性層上に形成された電子ブロック層と、 前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層と、を備え、 少なくとも前記活性層には、複数のピットが形成されており、 前記複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されており、 前記活性層の上面における前記ピットの密度を第1密度D1とし、前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度を第2密度D2としたとき、前記第1密度D1に対する前記第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、12%以上30%未満であり、 前記電子ブロック層は、アンドープの半導体層からなり、 前記電子ブロック層の全体の膜厚は、前記活性層を構成する半導体層のうち、最も膜厚が大きい半導体層の膜厚の2倍以上である、 窒化物半導体発光素子。」 2 補正の目的 本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された「複数のピット」について、「複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されて[いる]」ものに限定するとともに、同じく本件補正前の請求項1に記載された「比率R=D2/D1」の数値範囲である「30%未満」について、「12%以上」との下限を定めて「12%以上30%未満」という数値範囲に限定するものである。 そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。 したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 3 独立特許要件の判断 本件補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。 (1) 本件補正発明 ア 本件補正発明の認定と分説 本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成Iまでに分説する。また、参考図として、本願の【図2】に部材名を記入したものを掲載する。 <本件補正発明の分説> (構成A) n型半導体層と、 (構成B) 前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層と、 (構成C) 前記活性層上に形成された電子ブロック層と、 (構成D) 前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層と、を備え、 (構成E) 少なくとも前記活性層には、複数のピットが形成されており、 (構成F) 前記複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されており、 (構成G) 前記活性層の上面における前記ピットの密度を第1密度D1とし、前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度を第2密度D2としたとき、前記第1密度D1に対する前記第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、12%以上30%未満であり、 (構成H) 前記電子ブロック層は、アンドープの半導体層からなり、 (構成I) 前記電子ブロック層の全体の膜厚は、前記活性層を構成する半導体層のうち、最も膜厚が大きい半導体層の膜厚の2倍以上である、 (構成X) 窒化物半導体発光素子。 <参考図(【図2】を元に作成)> [図:0001435709000001.jpg] (注) 「第2密度D2は、電子ブロック層7の上面70における深さDが1nm以上の凹みの密度である。」(【0050】) イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載 本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。下線は、合議体が付したものである。 (ア) 技術分野、背景技術,発明の概要等 「【技術分野】 【0001】 本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。 【背景技術】 【0002】 特許文献1には、発光層に結晶欠陥の一種であるVピットが形成された窒化物半導体発光素子が開示されている。特許文献1には、発光層にVピットが形成されることで非発光性の再結合の発生が抑制される結果、発光効率が向上する旨が記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開2015-050247号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかしながら、特許文献1に記載の窒化物半導体発光素子においては、発光出力の経時的な低下を抑制して長寿命化を図る観点から改善の余地がある。 【0005】 本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、長寿命化を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、前記の目的を達成するため、n型半導体層と、前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層と、前記活性層上に形成された電子ブロック層と、前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層と、を備え、少なくとも前記活性層には、複数のピットが形成されており、前記複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されており、前記活性層の上面における前記ピットの密度を第1密度D1とし、前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度を第2密度D2としたとき、前記第1密度D1に対する前記第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、12%以上30%未満である、窒化物半導体発光素子を提供する。 【発明の効果】 【0007】 本発明によれば、長寿命化を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することが可能となる。」 (イ) 発明を実施するための形態 「【0010】 (窒化物半導体発光素子1) 図1は、窒化物半導体発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。なお、図1において、窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)の各半導体層の積層方向の寸法比は、必ずしも実際のものと一致するものではない。以後、発光素子1の各半導体層の積層方向を上下方向という。また、上下方向の一方側であって、基板2における各半導体層が成長される側(例えば図1の上側)を上側とし、その反対側(例えば図1の下側)を下側とする。なお、上下の表現は便宜的なものであり、例えば発光素子1の使用時における、鉛直方向に対する発光素子1の姿勢を限定するものではない。 [図:0001435709000002.jpg] 【0011】 発光素子1は、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又は半導体レーザ(LD:Laser Diode)を構成するものである。本形態において、発光素子1は、紫外領域の波長の光を発する発光ダイオードを構成するものである。特に、本形態の発光素子1は、中心波長が240nm以上365nm以下の紫外光を発する。発光素子1は、例えば殺菌(例えば空気浄化、浄水等)、医療(例えば光線治療、計測・分析等)、UVキュアリング等の分野において用いることができる。 【0012】 発光素子1は、基板2上に、バッファ層3、n型半導体層4、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック層7及びp型半導体層8を順次備える。また、発光素子1は、n型半導体層4上に設けられたn側電極11と、p型半導体層8上に設けられたp側電極12とを備える。 【0013】 発光素子1を構成する半導体としては、例えば、AlaGabIn1-a-bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)にて表される2~4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。本形態においては、発光素子1を構成する半導体として、AlcGa1-cN(0≦c≦1)にて表される2元系又は3元系のIII族窒化物半導体を用いている。これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等に置き換えてもよい。また、窒素の一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えてもよい。 【0014】 基板2は、活性層6が発する光を透過する材料からなる。基板2は、例えばサファイア(Al2O3)基板である。基板2の上面は、c面である。このc面は、オフ角を有するものであってもよい。また、基板2として、例えば窒化アルミニウム(AlN)基板又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板等を用いてもよい。 【0015】 バッファ層3は、基板2上に形成されている。本形態において、バッファ層3は、窒化アルミニウムにより形成されている。なお、基板2が窒化アルミニウム基板又は窒化アルミニウムガリウム基板である場合、バッファ層3は必ずしも設けなくてもよい。また、バッファ層3は、窒化アルミニウムからなる層の上に形成された、アンドープのAlpGa1-pN(0≦p≦1)からなる層を含んでいてもよい。 【0016】 n型半導体層4は、バッファ層3上に形成されている。n型半導体層4は、例えば、n型不純物がドープされたAlqGa1-qN(0≦q≦1)により形成されたn型クラッド層である。本形態において、n型不純物としては、シリコン(Si)を用いた。n型半導体層4以外の、n型不純物を含む半導体層においても同様である。なお、n型不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)又はテルル(Te)等を用いてもよい。n型半導体層4は、単層構造でもよく、多層構造でもよい。 【0017】 組成傾斜層5は、n型半導体層4上に形成されている。組成傾斜層5は、AlrGa1-rN(0≦r≦1)からなる。組成傾斜層5の上下方向の各位置におけるAl組成比は、上側の位置程大きくなっている。なお、組成傾斜層5は、例えば上下方向の極一部の領域(例えば組成傾斜層5の上下方向の全体の5%以下の領域)に、上側に向かうにつれてAl組成比が大きくならない領域を含んでいてもよい。 【0018】 組成傾斜層5は、その下端部のAl組成比が、組成傾斜層5の下側に隣接するn型半導体層4の上端部のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。また、組成傾斜層5は、その上端部のAl組成比が、組成傾斜層5の上側に隣接する障壁層61の下端部のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。 【0019】 組成傾斜層5は、ピット(図2の符号10参照)の起点となるトリガ層を兼ねている。ピットの詳細については、後述する。トリガ層は、例えばシリコンを高濃度に含む層である。トリガ層のシリコン濃度は、n型半導体層4に存在する転位9の密度、及び活性層6におけるピットの目標密度等に基づき調整され得る。本形態において、トリガ層のシリコン濃度は、5.0×1018atoms/cm3以上、5.0×1019atoms/cm3以下である。 【0020】 活性層6は、トリガ層としての組成傾斜層5上に形成されている。本形態の活性層6は、複数の井戸層621,622を有する多重量子井戸構造である。活性層6は、中心波長が240nm以上365nm以下の紫外光を発することができるよう、バンドギャップが調整されている。本形態のように、活性層6が多重量子井戸構造である場合、発光出力の向上の観点から、活性層6が発する紫外光の中心波長は、250nm以上300nm以下が好ましく、260nm以上290nm以下がより好ましい。本形態において、活性層6は、障壁層61と井戸層621,622とを3つずつ有し、障壁層61と井戸層621,622とが交互に積層されている。活性層6においては、下端に障壁層61が位置しており、上端に井戸層622が位置している。 【0021】 各障壁層61は、AlsGa1-sN(0<s≦1)により形成されている。各障壁層61のAl組成比は、例えば75%以上95%以下である。また、各障壁層61の膜厚は、例えば2nm以上50nm以下である。 【0022】 井戸層621,622は、AltGa1-tN(0<t<1)により形成されている。各井戸層621,622のAl組成比tは、障壁層61のAl組成比sよりも小さい(すなわちt<s)。 【0023】 3つの井戸層621,622は、最も下側に配された井戸層である最下井戸層621と、最下井戸層621以外の2つの井戸層である上側井戸層622とで構成が異なっている。例えば、最下井戸層621の膜厚は、2つの上側井戸層622のそれぞれの膜厚よりも1nm以上大きく、かつ、最下井戸層621のAl組成比は、2つの上側井戸層622のそれぞれのAl組成比よりも2%以上大きい。本形態において、上側井戸層622は、2nm以上4nm以下の膜厚を有するとともに25%以上45%以下のAl組成比を有し、最下井戸層621は、4nm以上6nm以下の膜厚を有するとともに35%以上55%以下のAl組成比を有する。最下井戸層621の膜厚と各上側井戸層622との膜厚の差は、2nm以上4nm以下とすることができる。 【0024】 最下井戸層621のAl組成比を、上側井戸層622のAl組成比よりも大きくすることにより、最下井戸層621の結晶性が向上する。これは、最下井戸層621とn型半導体層4とのAl組成比の差が小さくなるためである。最下井戸層621の結晶性が向上することにより、最下井戸層621から上側に形成される活性層6の各半導体層の結晶性も向上する。これにより、活性層6におけるキャリアの移動度が向上し、発光出力が向上する。かかる効果は、最下井戸層621の膜厚が大きくなるほど顕著であるが、発光素子1全体の電気抵抗値が増加することを抑制する観点から最下井戸層621の膜厚は所定値以下となるよう設計される。 【0025】 また、最下井戸層621には、シリコンが含まれている。これによっても、活性層6中におけるピットの形成が誘発され得る。本形態において、最下井戸層621のシリコン濃度は、1.0×1019atoms/cm3以上6.0×1019atoms/cm3である。上側井戸層622にもシリコン等のn型不純物が含まれていてもよいが、複数の井戸層621,622のうち、最下井戸層621のシリコン濃度が最も高いことが好ましい。 【0026】 なお、本形態において、活性層6は、井戸層621,622が3つの多重量子井戸構造である例を示したが、これに限られず、井戸層が2つ又は4つ以上である多重量子井戸構造であってもよい。また、活性層6は、井戸層を1つのみ有する単一量子井戸構造であってもよい。 【0027】 電子ブロック層7は、活性層6上に形成されている。電子ブロック層7は、活性層6からp型半導体層8側へ電子がリークするオーバーフロー現象の発生を抑制すること(以後、電子ブロック効果ともいう)によって活性層6への電子注入効率を向上させる役割を有する。電子ブロック層7は、下側から順に、第1層71と第2層72とを積層した積層構造を有する。 【0028】 第1層71は、活性層6上に設けられている。第1層71は、例えばAluGa1-uN(0<u≦1)からなる。第1層71のAl組成比uは、例えば90%以上であり、本形態においては窒化アルミニウムにて構成されている。第1層71の膜厚は、例えば0.5nm以上5.0nm以下である。 【0029】 第2層72は、例えばAlvGa1-vN(0<v<1)からなる。第2層72のAl組成比vは、第1層71のAl組成比tよりも小さく(すなわちv<t)、例えば70%以上90%以下である。第2層72の膜厚は、第1層71の膜厚よりも大きく、例えば15nm以上100nm以下である。 【0030】 Al組成比が大きい半導体層ほど電気抵抗値が大きくなるため、Al組成比が比較的高い第1層71の膜厚を大きくし過ぎると発光素子1の全体の電気抵抗値の過度な上昇を招く。そのため、第1層71の膜厚はある程度小さくすることが好ましい。一方、第1層71の膜厚を小さくすると、トンネル効果によって電子が第1層71を下側から上側にすり抜ける確率が増大し得る。そこで、本形態の発光素子1においては、第1層71上に第2層72を形成することで、電子ブロック層7の全体を電子がすり抜けることを抑制している。 【0031】 第1層71及び第2層72のそれぞれは、アンドープの半導体層、又は不純物が低濃度でドープされた半導体層からなる。本形態において、電子ブロック層7は、アンドープの半導体層からなる。詳細は後述するが、活性層6の上面60におけるピット(図2の符号10参照)の密度に対する電子ブロック層7の上面70(すなわち第2層72の上面70)におけるピットの密度の比率は30%未満が好ましいところ、電子ブロック層7の上面70におけるピットの密度を減らす観点から、電子ブロック層7における不純物濃度が低いことが好ましく、電子ブロック層7がアンドープの半導体層であることがより好ましい。なお、電子ブロック層7は、単層にて形成されていてもよいし、3層以上にて形成されていてもよい。 【0032】 電子ブロック層7とp型半導体層8との間には、シリコンが含まれている。シリコンとマグネシウムとは互いに引き付けられやすいところ、電子ブロック層7とp型半導体層8との間にシリコンを含ませることで、p型半導体層8から活性層6側に拡散しようとするマグネシウムが電子ブロック層7とp型半導体層8との間にシリコンによって堰き止められる。また、水素はマグネシウムと結びつきやすいところ、前述のようにp型半導体層8から活性層6へのマグネシウムの拡散が抑制されることに伴い、p型半導体層8から活性層6への水素の拡散も抑制される。活性層6へのマグネシウム及び水素の拡散は、活性層6の劣化を招き、発光素子1の寿命を短くするおそれがあるところ、電子ブロック層7とp型半導体層8との間にシリコンを含ませることで発光素子1の長寿命化が図られる。 【0033】 電子ブロック層7とp型半導体層8との間において、シリコンは、結晶中に固溶した状態、クラスターを形成した状態、及びシリコンを含んだ化合物が析出した状態の少なくともいずれかの状態で存在していればよい。シリコンが結晶中に固溶した状態とは、電子ブロック層7とp型半導体層8との境界部を構成する窒化アルミニウムガリウム中にシリコンがドープされた状態、すなわちシリコンが窒化アルミニウムガリウムの格子位置にある状態である。また、シリコンがクラスターを形成した状態とは、電子ブロック層7とp型半導体層8との境界部を構成する窒化アルミニウムガリウム中にシリコンが過剰ドープされ、シリコンが窒化アルミニウムガリウムの格子位置に存在するとともに格子間位置においても凝集等して存在する状態である。そして、シリコンを含んだ化合物が析出した状態とは、例えば窒化ケイ素等が形成された状態である。電子ブロック層7とp型半導体層8との境界部においては、シリコンを含む層が形成されていてもよいし、シリコンを含む部位が積層方向に直交する面方向に点在していてもよい。 【0034】 p型半導体層8は、電子ブロック層7上に形成されている。p型半導体層8は、電子ブロック層7よりもAl組成比が小さく、p型不純物がドープされたAlwGa1-wN(0≦w≦1)により形成されている。p型不純物としては、マグネシウム(Mg)を用いることができるが、マグネシウム以外にも、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又は炭素(C)等を用いてもよい。本形態において、p型半導体層8は、下側から順に、p型クラッド層81及びp型コンタクト層82を有する。 【0035】 p型クラッド層81は、電子ブロック層7の上面70に接するよう設けられている。p型クラッド層81のAl組成比は、電子ブロック層7におけるp型クラッド層81に隣接する半導体層(すなわち第2層72)のAl組成比よりも小さく、p型コンタクト層82のAl組成比よりも大きくすることができる。p型クラッド層81の膜厚は、例えば9nm以上105nm以下である。 【0036】 p型コンタクト層82は、後述するp側電極12が接続された層であり、p型不純物が高濃度にドープされている。p型コンタクト層82は、p側電極12とのオーミックコンタクトを実現すべくAl組成比が低くなるよう構成されており(例えば10%以下)、かかる観点からp型の窒化ガリウム(GaN)により形成することが好ましい。Al組成比が低いp型コンタクト層82は活性層6から発された紫外光を吸収し得るため、p型コンタクト層82の膜厚は50nm以下であることが好ましい。 【0037】 n側電極11は、n型半導体層4における活性層6から上側に露出した露出面41に形成されている。n側電極11は、例えば、n型半導体層4の上にチタン(Ti)、アルミニウム、チタン、金(Au)が順に積層された多層膜とすることができる。また、後述するように発光素子1がフリップチップ実装される場合、n側電極11は、活性層6が発する紫外光を反射可能な材料にて構成されていてもよい。 【0038】 p側電極12は、p型半導体層8の上面に形成されている。p側電極12は、例えば、p型半導体層8の上にニッケル(Ni)、金が順に積層された多層膜とすることができる。また、後述するように発光素子1がフリップチップ実装される場合、p側電極12は、活性層6が発する紫外光を反射可能な材料にて構成されていてもよい。 …(中略)… 【0040】 次に、本形態の発光素子1に形成されるピット10について説明する。図2は、本形態の発光素子1に形成されているピット10の一例を示す模式図である。 [図:0001435709000003.jpg] 【0041】 図2に示すごとく、ピット10は、n型半導体層4側から伝播される転位9を起点として発生する結晶欠陥の一種である。トリガ層としての組成傾斜層5の成長時において、n型半導体層4側から伝播した転位9が存在する箇所に所定濃度以上のシリコン源が供給されることによって、組成傾斜層5の母相の成長モードが変わり、ピット10が形成されるものと考えられる。ピット10は、組成傾斜層5の上面の一部が凹み、さらにこの上の活性層6の各半導体層が組成傾斜層5の上面の凹みに沿って凹むことで多重に形成される。 【0042】 本形態の発光素子1は、活性層6の上面60において確認できるピット10の密度に対し、電子ブロック層7の上面70において確認できるピット10の密度が少なくなるよう形成されている。つまり、本形態の発光素子1は、図2に示すようなピット10、すなわちトリガ層としての組成傾斜層5から活性層6の上面60までは少なくとも形成されているが電子ブロック層7の上面70までは形成されていないようなピット10が多数形成されている。 【0043】 活性層6の上面60におけるピット10の密度を第1密度D1とし、電子ブロック層7の上面70におけるピット10の密度を第2密度D2としたとき、第1密度D1に対する第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、30%未満であり、より好ましくは15%未満である。詳細は後述するが、比率Rを低減することで発光素子1の発光出力の維持率が向上し、長寿命化が図られる。発光素子1の発光出力の維持率は、初期の発光出力に対する、現時点の発光出力の割合である。 【0044】 活性層6にピット10が形成された場合、非発光性の再結合の発生が抑制され、発光出力が向上することが知られている(例えば特開2019-054247号公報参照)。そのため、活性層6においてはピット10が形成されることが好ましい。発光出力向上の観点から、活性層6の上面60にて確認できるピット10の密度は、1.0×109個/cm2以上5.0×109個/cm2以下が好ましい。活性層6の上面60におけるピット10の密度は、例えば、n型半導体層4に存在する転位の密度及びトリガ層としての組成傾斜層5におけるシリコン濃度等を調整することで制御し得る。 【0045】 前述のように、活性層6にピット10が形成されることに関しては利点がある一方、電子ブロック層7の上面70まで形成されたピット10が多い場合、発光素子1の発光出力が経時的に低下しやすくなり、発光素子1の寿命が短くなる。この要因は、ピット10が電子ブロック層7の上面70まで形成された場合、p型半導体層8に含まれるマグネシウム及びマグネシウムと結びつきやすい水素がピット10を介して活性層6へ拡散されやすくなるためであると推測される。 【0046】 そこで、前述のごとく、比率Rを30%未満と小さくすることで、ピット10が活性層6に形成されることによる発光出力向上の利点と、電子ブロック層7の上面70まで形成されたピット10が少ないことによる長寿命化の利点とが得られる。かかる観点から、比率Rは15%未満がより好ましい。 【0047】 第2密度D2の低減は、例えば電子ブロック層7の不純物濃度を低減することで実現し得る。ピット10近傍にはマグネシウム及びシリコン等の不純物が集まりやすいところ、電子ブロック層7にマグネシウム等の不純物がドーピングされている場合、電子ブロック層7の不純物がピット10に引き付けられ、電子ブロック層7の成膜時に、ピット10の存在する箇所においてピット10に沿った斜めの成長が促され、活性層6に形成されたピット10が電子ブロック層7においても引き継がれるものと推測される。 【0048】 そのため、比率Rの低減の観点から、電子ブロック層7の不純物濃度は低いことが好ましく、電子ブロック層7がアンドープであることがより好ましい。電子ブロック層7の不純物濃度を低くして比率Rを低減する観点から、電子ブロック層7のAl組成比は高いことが好ましい。なお、電子ブロック層7の不純物濃度の調整以外の手法で第2密度D2を低減してもよい。例えば、電子ブロック層7の全体の膜厚を大きくすることは、第2密度D2を減らし得ると考えられる。 【0049】 図2においては、ピット10が、電子ブロック層7の第1層71の上面まで形成されているが第2層72に埋もれており、第2層72の上面70までは形成されていない例を示している。本形態においては、第1層71の膜厚が前述のごとく0.5nm以上5.0nm以下と非常に薄いため、第1層71においてはピット10を埋めきれないものの、第2層72は、不純物濃度が低いとともに活性層6の各半導体層の膜厚を超える膜厚を有するため、ピット10を埋めやすいものと推測される。そのため、比率Rを低減すべく、電子ブロック層7は、活性層6の各半導体層よりも厚く、かつ不純物濃度が低い(好ましくはアンドープ)半導体層を少なくとも1層含むことが好ましい。また、電子ブロック層7の全体の膜厚は、活性層6を構成する各半導体層のうち、最も膜厚が大きい半導体層の膜厚の2倍以上が好ましい。 【0050】 また、図2においては、電子ブロック層7の上面70における、ピット10の上側に位置する部位に微小凹み700が表れている例を模式的に示している。微小凹み700は、電子ブロック層7の第2層72にてピット10を埋めた形跡として第2層72の上面70に現れ得るものである。微小凹み700は、深さDが1nm未満の微小な凹みであり、このような凹みはピットとはしない。つまり、第2密度D2は、電子ブロック層7の上面70における深さDが1nm以上の凹みの密度である。電子ブロック層7の上面70において、深さDが2nm以上の比較的大きなピット10の密度は1.0×108個/cm2以下であることが好ましい。 【0051】 ピット10の最上位置にある凹面101は、上下方向に平行な断面が略V字状となるよう凹んでいる。凹面101の全体は、下側の位置程、凹面101内の領域が小さくなる略錐体形状(例えば略円錐形、略多角錐形、楕円錐形)又は略錐台形状を呈している。このように凹面101の断面形状がV字状となるピット10は、Vピットと呼ばれている。凹面101の形状としては、断面V字状の他、円柱状又は多角柱状となり得る。ピット10の凹面101の最上縁の直径φは、例えば、100nm以下、より具体的には20nm以上60nm以下である。なお、ピット10の凹面101が多角錐等の円錐以外の形状を有する場合、直径φは、凹面101の最上縁を外接円等で円形に近似したときの直径とすることができる。ピット10の上下方向の全長Lは、例えば1nm以上60nm以下である。 …(中略)… 【0057】 (実施の形態の作用及び効果) 活性層6の上面60におけるピット10の密度を第1密度D1とし、電子ブロック層7の上面70におけるピット10の密度を第2密度D2としたとき、第1密度D1に対する第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、30%未満である。それゆえ、発光素子1の発光出力の維持率が向上し、発光素子1の長寿命化が図られる。 【0058】 また、電子ブロック層7は、アンドープの半導体層からなる。これにより、前述のごとく第2密度D2を低減しやすくなる。 【0059】 また、比率Rは、15%未満をさらに満たす。それゆえ、発光素子1の一層の長寿命化が図られる。 【0060】 また、電子ブロック層7の上面70において、深さが2nm以上となるピット10の密度は、1.0×108個/cm2以下である。このように、電子ブロック層7の上面70において深いピット10が少ないことで、p型半導体層8に含まれるマグネシウム及びマグネシウムと結びつきやすい水素がピット10を介して活性層6へ拡散されることが抑制され、発光素子1の一層の長寿命化が図られる。 【0061】 また、p型のGaNからなるp型コンタクト層82の膜厚は、50nm以下である。このような場合、発光素子1の寿命が短寿命化になりやすい傾向があるが、前述のように比率Rを30%未満とすることで発光素子1の長寿命化が図られる。 【0062】 また、電子ブロック層7の膜厚は、活性層6の各半導体層の膜厚よりも大きい。これにより、電子ブロック層7の成膜時においてピット10が埋まる確率が上がり、第2密度D2が低減される。 【0063】 以上のごとく、本形態によれば、長寿命化を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することができる。」 (ウ) 実験例 「【0064】 [実験例] 本実験例は、比率Rと、発光出力の維持率との関係を確認した例である。なお、実験例以降において用いた各構成要素の名称のうち、既出の形態において用いた名称と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素を表す。 【0065】 本実験例においては、まず、実施例A1~A6にかかるウエハと、比較例A1~A6にかかるウエハを製造した。実施例A1~A6は、実施の形態にて示した発光素子と同様の積層構造を有するウエハであり、電子ブロック層7の第1層71及び第2層72をいずれもアンドープとしたものである。比較例A1~A6は、第2層72をマグネシウムドープとし、それ以外は実施例A1~A6と同様の構成としたウエハである。実施例A1~A6は、互いに同様の製造方法にて製造されたものであるが、製造のばらつきを考慮して複数製造したものである。同様に、比較例A1~A6は、互いに同様の製造方法にて製造されたものであるが、製造のばらつきを考慮して複数製造したものである。実施例A1~A6及び比較例A1~A6の構成を表1に示す。 【0066】 【表1】 [図:0001435709000004.jpg] 【0067】 表1に記載の各半導体層の膜厚は、透過型電子顕微鏡によって測定したものである。また、表1に記載の各半導体層のAl組成比は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したAlの2次イオン強度から推定した値である。表1における「組成傾斜層」の欄は、組成傾斜層5の上下方向の各位置のAl組成比が、下端から上端までにかけて、55%から85%まで変動していることを表している。 【0068】 また、表1に記載の「Si濃度」及び「Mg濃度」は、二次イオン質量分析法を用いて得られたシリコン濃度及びマグネシウム濃度である。表1において、最下井戸層621のシリコン濃度は、最下井戸層621の上下方向の各位置のシリコン濃度のうちのピーク濃度を示している。表1において、「Si濃度」及び「Mg濃度」の欄の※印を付けた箇所は、半導体層の膜厚が薄いために正確なシリコン濃度及びマグネシウム濃度の測定が困難であることを意味している。また、表1における「Si濃度」及び「Mg濃度」の欄において、表記「BG」は、バックグラウンドレベルを意味している。バックグラウンドレベルは、シリコン又はマグネシウムをドープしない場合に検出されるシリコン又はマグネシウムの濃度である。 【0069】 図3は、実施例及び比較例のそれぞれの発光素子について、二次イオン質量分析法により得られた上下方向のシリコン濃度分布及びマグネシウム濃度分布(以後、単に「シリコン濃度分布」及び「マグネシウム濃度分布」ともいう。)を示すグラフである。図3の横軸の深さは、p型半導体層8の上面からの上下方向の深さを表している。図3において、実施例のシリコン濃度分布の測定結果を太実線で表し、実施例のマグネシウム濃度分布の測定結果を太破線で表し、比較例のシリコン濃度分布の測定結果を細実線で表し、比較例のマグネシウム濃度分布の測定結果を細破線で表している。また、図3においては、各半導体層の深さ範囲に、実施の形態で用いた各半導体層の符号を付している。 [図:0001435709000005.jpg] 【0070】 まず、図3から、実施例においては電子ブロック層7の第1層71及び第2層72の双方がアンドープであることが分かる。ここで、二次イオン質量分析法を用いて得られたマグネシウム濃度分布を見た際、電子ブロック層7がアンドープであっても(すなわち電子ブロック層7の成膜時にマグネシウム源を供給していなくても)、電子ブロック層7の上側に隣接する半導体層がマグネシウムを含むp型半導体層8である場合、電子ブロック層7のp型半導体層8側の端部にマグネシウムが含まれるように見えるが、これはSIMS測定上の問題である。そのため、電子ブロック層7の隣接位置にマグネシウムが含まれている場合は、二次イオン質量分析法を用いて得られたマグネシウム濃度分布において、電子ブロック層7における前記隣接位置側の領域(例えば前記箇所から10nmの範囲)以外の領域のマグネシウム濃度がバックグラウンドレベルであれば、電子ブロック層7はマグネシウムが含まれていないといえる。そのため、表1の実施例における第2層72のMg濃度はバックグラウンドと表している。 【0071】 そして、図3から、比較例においては電子ブロック層7の第2層72にはマグネシウムが含まれていることが分かる。さらに、図3から、比較例においては第2層72のマグネシウムが活性層6にまで拡散していることが分かる。 【0072】 また、図3から電子ブロック層7とp型半導体層8との間にシリコンが含まれていることが分かる。電子ブロック層7とp型半導体層8との間にシリコンが含まれている場合、シリコン濃度分布において電子ブロック層7とp型半導体層8との間にシリコン濃度のピークPが表れる。ピークPの値は、1.0×1018atoms/cm3以上1.0×1020atoms/cm3以下を満たすことが好ましい。1.0×1018atoms/cm3以上とすることにより、p型半導体層8側から活性層6へのマグネシウムの拡散を抑制しやすい。また、1.0×1020atoms/cm3以下とすることにより、シリコンの位置の両側に隣接する電子ブロック層7及びp型半導体層8の結晶性が低下することを抑制できる。さらに発光素子の積層方向のシリコン濃度分布において、ピークPの値は、3.0×1018atoms/cm3以上5.0×1019atoms/cm3以下を満たすことがより好ましい。 【0073】 ここで、二次イオン質量分析法を用いて得られたシリコン濃度分布を見た際、電子ブロック層7がアンドープであっても(すなわち電子ブロック層7の成膜時にシリコン源を供給していなくても)、電子ブロック層7におけるp型半導体層8側の端部にピークPの裾部分等が表れており、電子ブロック層7におけるp型半導体層8側の端部にシリコンが含まれるように見えるが、これはSIMS測定上の問題である。そのため、電子ブロック層7の隣接位置にシリコンが含まれているような場合は、二次イオン質量分析法を用いて得られたシリコン濃度分布において、電子ブロック層7における前記隣接位置側の領域(例えば前記箇所から10nmの範囲)以外の領域のシリコン濃度がバックグラウンドレベルであれば、電子ブロック層7はシリコンが含まれていないといえる。 【0074】 次に、実施例A1~A6のそれぞれ及び比較例A1~A6のそれぞれについて、活性層6の上面60におけるピット10の密度である第1密度D1と、電子ブロック層7の上面70におけるピット10の密度である第2密度D2を取得するとともに、比率R=D2/D1を算出した。 【0075】 第1密度D1は、実施例A1~A6のそれぞれ及び比較例A1~A6のそれぞれをまず活性層6まで成長させてチャンバから取り出し、活性層6の上面60を原子間力顕微鏡にて撮像し、撮像されたAFM画像のピット10の数をカウントすることで取得した。図4に、活性層6の上面60のAFM画像の一例を示している。図4のように原子間力顕微鏡にて活性層6の上面60を1μm四方の範囲を撮像し、撮像されたAFM画像にて仮にn個のピット10が確認された場合は、当該撮像画像にて確認されるピット10の第1密度D1はn[個/μm2]=n×108[個/cm2]と算出される。なお、第1密度D1に関しては、後述の表2に示すごとく、実施例と比較例との間に大差はなかった。すなわち、実施例及び比較例のいずれにおいても、活性層6の上面60の状態は、図4に示す状態と同様である。 [図:0001435709000006.jpg] 【0076】 第2密度D2は、第1密度D1を見るために成膜した活性層6までのウエハの成膜条件と同じ条件にて、別のウエハを用いて電子ブロック層7まで成膜し、電子ブロック層7の上面70を原子間力顕微鏡にて撮像し、撮像画像のピット10の数をカウントすることで取得した。実施例A1~A6のそれぞれにおいて、第1密度D1を見るための活性層6までのウエハの成膜と、第2密度D2を見るための電子ブロック層7までのウエハの成膜とは、成膜を略同時に行ったといえるよう(すなわち成膜条件が略同じとなるよう)、短インターバルで実施した。比較例A1~A6のそれぞれについても同様である。図5に、実施例における電子ブロック層7の上面70のAFM画像の一例を示しており、図6に、比較例における電子ブロック層7の上面70のAFM画像の一例を示している。実施例A1~A6及び比較例A1~A6についての、第1密度D1、第2密度D2及び比率Rを表2に示す。 [図:0001435709000007.jpg] 【0077】 【表2】 [図:0001435709000008.jpg] 【0078】 表2及び図4乃至図6から、実施例と比較例とにおいては、第1密度D1に関しては大差ないものの、第2密度D2に関しては、実施例の方が比較例よりも少なくなっていることが分かる。そして、表2から、電子ブロック層7をアンドープで構成した実施例A1~実施例A6は比率Rが30%未満となっており、電子ブロック層7の第2層72をマグネシウムドープとした比較例A1~A6については、比率Rが30%を超えていることが分かる。すなわち、実施例A1~A6においては、図2に示すような、活性層6の上面60までは少なくとも形成されているが、電子ブロック層7の上面70に至るまでに埋まるピット10が比較的多く形成されている。一方、比較例A1~A6においては、図7の模式図に示すごとく、電子ブロック層7の上面70まで形成されたピット10が比較的多く形成されている。 【0079】 ここで、実施例A1~A6及び比較例A1~A6は、第1密度D1及び第2密度D2をカウントすべく、活性層6を成長させた後及び電子ブロック層7を再成長させた後の両タイミングでウエハをチャンバから取り出しているが、この行為は完成後の発光素子の寿命に影響を及ぼし得る。そのため、実施例A1~A6及び比較例A1~A6とは別に、成膜途中にチャンバから取り出さずに成膜したウエハを用いて実施例B1,B2及び比較例B1,B2にかかる発光素子を作製し、これらを用いて発光出力の推移をみた。 【0080】 実施例B1,B2は、実施例A1~A6と同様の条件で得られたウエハを用いて製造された発光素子であり、比較例B1,B2は、比較例A1~A6と同様の条件で得られたウエハを用いて製造された発光素子である。施例B1,B2は、実施例A1~A6と同様の条件で製造しているため、比率Rは実施例A1~A6と同程度、すなわち30%未満と推定される。同様に、比較例B1,B2は、比較例A1~A6と同様の条件で製造しているため、比率Rは比較例A1~A6と同程度、すなわち30%以上と推定される。 【0081】 実施例B1,B2及び比較例B1,B2のそれぞれについて、500mAの電流を1000時間継続的に発光させ、発光出力の推移を評価した。実施例B1,B2及び比較例B1,B2のそれぞれについての発光出力の推移の結果を図8及び図9に示す。図8は、実施例B1,B2及び比較例B1,B2における、通電時間と発光出力との関係を示す図である。図9は、図8の発光出力を発光出力維持率に換算した図である。 [図:0001435709000009.jpg] [図:0001435709000010.jpg] 【0082】 図8及び図9から分かるように、比率Rが30%未満の実施例B1,B2は、比率Rが30%を超える比較例B1,B2よりも発光出力の低下のスピードが下がり、長寿命化が図れることが分かる。」 (2) 各引用文献の記載事項及び引用発明等の認定 ア 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定 (ア) 引用文献1に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である引用文献1(特開2019-54247号公報)には、次の記載がある(なお、図は、対応する記載箇所に挿入して示した。当合議体により、後記(イ)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。 a 特許請求の範囲 「【請求項1】 n型AlGaNによって形成されたn型クラッド層と、 AlGaNによって形成された障壁層を前記n型クラッド層側に有する多重量子井戸層と、 を含む窒化物半導体発光素子であって、 前記n型クラッド層及び前記障壁層の間に位置する、Siを含んで形成されたトリガ層をさらに備え、 前記多重量子井戸層は、複数のVピットが形成されている、 窒化物半導体発光素子。 【請求項2】 前記Vピットは、前記窒化物半導体発光素子の厚み方向に伸びる略逆円錐状の形状を有する、 請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。 【請求項3】 略逆円錐状の形状を有する前記Vピットの頂点は、前記n型クラッド層中の転位から発生し、前記Vピットの底面は、前記多重量子井戸層内で終端する、 請求項2に記載の窒化物半導体発光素子。 …(後略)」 b 技術分野、背景技術、発明の概要等(【0001】~【0010】) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、窒化物半導体発光素子及び窒化物半導体発光素子の製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、青色光を出力する発光ダイオードやレーザダイオード等の窒化物半導体発光素子が実用化されており、発光出力を向上させた窒化物半導体発光素子の開発が進められている(特許文献1参照。)。 【0003】 特許文献1に記載の窒化物半導体発光素子は、n型窒化物半導体層と、トリガ層と、Vピット拡大層と、発光層を形成する多重量子井戸層と、p型窒化物半導体層とがこの順で設けられて構成された窒化物半導体発光素子であって、前記多重量子井戸層には、Vピットが形成されており、前記トリガ層は、前記n型窒化物半導体層の上面を構成する材料とは異なる格子定数を有する窒化物半導体材料からなり、前記Vピット拡大層は、前記n型窒化物半導体層の上面を構成する材料とは実質的に同一の格子定数を有する窒化物半導体材料からなり、5nm以上5000nm以下の厚みを有している。 【0004】 ところで、非特許文献1には、多重量子井戸層におけるVピットの作用が記載されている。具体的には、非特許文献1には、多重量子井戸層内にVピットがあると、Vピットの斜面における量子井戸幅が狭くなるため、量子準位のエネルギーが大きくなるなどの効果により、実効的なバンドギャップが大きくなり、量子井戸における電子・ホールがVピット内部に到達することが妨げられ、結果として多重量子井戸層内における非発光再結合が抑制されることが記載されている。特許文献1に記載の窒化物半導体発光素子は、この多重量子井戸層におけるVピットの作用に関わる技術思想に基づいてなされた発明に係るものである。 …(中略)… 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 特許文献1に記載の窒化物半導体発光素子では、トリガ層としてのn型窒化物半導体層の他に、Vピット拡大層としての窒化物半導体材料を含む層をさらに形成する必要があり、窒化物半導体発光素子を形成する工程が多くなるとともに、製造コストの上昇を招いていた。 【0008】 そこで、本発明は、トリガ層の他にトリガ拡大層をn型窒化物半導体上に形成することなく、多重量子井戸層にVピットを形成することにより、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子及び窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明は、上記課題を解決することを目的として、n型AlGaNによって形成されたn型クラッド層と、AlGaNによって形成された障壁層をn型クラッド層側に有する多重量子井戸層と、を含む窒化物半導体発光素子であって、前記n型クラッド層及び前記障壁層の間に位置する、Siを含んで形成されたトリガ層をさらに備え、前記多重量子井戸層は、複数のVピットが形成されている、窒化物半導体発光素子及び窒化物半導体発光素子の製造方法を提供する。 【発明の効果】 【0010】 本発明によれば、トリガ層の他にトリガ拡大層をn型窒化物半導体上にさらに形成することなく、多重量子井戸層にVピットを形成することにより、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子及び窒化物半導体発光素子の製造方法を提供することができる。」 c 発明の形態(【0012】~【0030】、【図1】、【図2】) 「【発明を実施するための形態】 【0012】 [実施の形態] 本発明の実施の形態について、図1から図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。また、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の窒化物半導体発光素子の寸法比と一致するものではない。 【0013】 図1は、本発明の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す断面図である。窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)は、紫外領域の波長の光を発する発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)である。本実施の形態では、特に、中心波長が250nm~350nmの深紫外光を発する発光素子1を例に挙げて説明する。 【図1】 [図:0001435709000011.jpg] 【0014】 図1に示すように、発光素子1は、基板10と、バッファ層20と、n型クラッド層30と、トリガ層40と、多重量子井戸層50と、電子ブロック層60と、p型クラッド層70と、p型コンタクト層80と、n側電極90と、p側電極92とを含んで構成されている。 【0015】 発光素子1を構成する半導体には、例えば、AlxGa1-xN(0≦x≦1)にて表されるIII族窒化物半導体を用いることができる。また、これらのIII族元素の一部は、インジウム(In)、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等で置き換えても良く、また、Nの一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えても良い。 【0016】 基板10は、発光素子1が発する深紫外光に対して透光性を有している。基板10は、例えば、サファイア(Al2O3)を含むサファイア(Al2O3)基板である。基板10には、サファイア(Al2O3)基板の他に、例えば、窒化アルミニウム(AlN)基板や、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板を用いてもよい。 【0017】 バッファ層20は、基板10上に形成されている。バッファ層20は、AlN層22と、AlN層22上に形成されるアンドープのu-AlpGa1-pN層24(0≦p≦1)を含んで構成されている。また、基板10及びバッファ層20は、下地構造部2を構成する。なお、u-AlpGa1-pN層24は、必ずしも設けなくてもよい。 【0018】 n型クラッド層30は、下地構造部2上に形成されている。n型クラッド層30は、n型のAlGaN(以下、単に「n型AlGaN」ともいう。)により形成された層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAlqGa1-qN層(0≦q≦1)である。なお、n型の不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、テルル(Te)、炭素(C)等を用いてもよい。n型クラッド層30は、1μm~3μm程度の厚さを有し、例えば、2μm程度の厚さを有している。n型クラッド層30は、単層でもよく、多層構造でもよい。 【0019】 トリガ層40は、n型クラッド層30上に形成されている。トリガ層40は、後述する多重量子井戸層50に形成されるVピット100(図2(a)参照)を発生させる役割を担う層である。トリガ層40は、1~100nm程度の厚さを有し、例えば、25nm程度の厚さを有している。 【0020】 トリガ層40は、シリコン(Si)を含んで形成される層である。トリガ層40のSiの濃度は、n型クラッド層30内に生じる転位等の欠陥の密度に応じて適宜調整される。一例として、n型クラッド層30に1.0×109個/cm3の転位が存在する場合、トリガ層40のSiの濃度は、例えば、5.0×1018cm-3~5.0×1019cm -3である。 【0021】 発光層を形成する多重量子井戸層50は、トリガ層40上に形成されている。多重量子井戸層50は、AlrGa1-rNを含んで構成される多重量子井戸層のn型クラッド層30側の障壁層52aを含む3層の障壁層52a,52b,52cとAlsGa1-sNを含んで構成される3層の井戸層54a,54b,54c(0≦r≦1、0≦s≦1、r>s)とを交互に積層したものである。多重量子井戸層50は、波長350nm以下の深紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成される。なお、本実施の形態では、多重量子井戸層50に3つの障壁層52a,52b,52c及び井戸層54a,54b,54cを設けたが、層の数は3つに限定されるものではなく、2つでもよく、4つ以上でもよい。 【0022】 次に、図2を参照して、Vピット100について説明する。図2は、Vピット100を示す画像であり、(a)は、Vピット100が形成された窒化物半導体発光素子の縦断面を示す画像であり、(b)は、(a)の一部(図2(a)の円枠部分)を拡大して示すVピット100の拡大画像である。なお、図2に示す画像は、いずれもSEM(Scanning Electron Microscope)観察画像である。 【図2】 [図:0001435709000012.jpg] 【0023】 図2(a)に示すように、多重量子井戸層50には、複数のVピット100が形成されている。Vピット100とは、例えば、成長中に生じ得る結晶のズレ等により発生する結晶欠陥の一種である。これら複数のVピット100は、トリガ層40を設けたことにより、n型クラッド層30に存在する転位等の欠陥から発生する。図2(b)に示すように、Vピット100は、発光素子1の厚み方向に複数の障壁層52a,52b,52c及び井戸層54a,54b,54cを介して伸び、頂点100aがn型クラッド層30側(図示下側)を向くように配置された略逆円錐形の形状を有している(図2(b)点線参照)。 【0024】 換言すれば、Vピット100の縦断面は、図2(b)に示すように、電子ブロック層60側(図示上側)に向かって開く略V字型の形状を有し、横断面は、略円形状を有している。ここで、縦断面とは、発光素子1の厚み方向に平行な断面をいい、横断面とは、発光素子1の厚み方向に垂直な断面をいう。なお、Vピット100の形状は、略円錐形に限られるものではなく、六角錐形状、多角錐形状、楕円錐形状、円柱状、多角柱状等でもよい。 【0025】 Vピット100の頂点100aは、n型クラッド層30中の転位から発生し、Vピット100の底面100bは、多重量子井戸層50内で終端する。好ましくは、Vピット100の底面100bの直径は、100nm以下である。なお、Vピット100の底面100bが円形状を有していない場合、Vピット100の直径とは、Vピット100の底面100bの形状を、例えば、外接円等で円形に近似したときの直径をいう。また、Vピット100は、10nm~30nm程度の厚さを有し、例えば、20nm程度の厚さを有する。ここで、Vピットの厚さとは、Vピット100の縦断面における発光素子1の厚み方向の長さをいう。 【0026】 電子ブロック層60は、多重量子井戸層50上に形成されている。電子ブロック層60は、p型のAlGaN(以下、単に「p型AlGaN」ともいう。)により形成された層である。電子ブロック層60は、1nm~10nm程度の厚さを有している。なお、電子ブロック層60は、AlNにより形成された層を含んでもよい。また、電子ブロック層60は、必ずしもp型の半導体層に限られず、アンドープの半導体層でもよい。 【0027】 p型クラッド層70は、電子ブロック層60上に形成されている。p型クラッド層70は、p型AlGaNにより形成される層であり、例えば、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされたAltGa1-tNクラッド層(0≦t≦1)である。なお、p型の不純物としては、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等を用いてもよい。p型クラッド層70は、300nm~700nm程度の厚さを有し、例えば、400nm~600nm程度の厚さを有する。 【0028】 p型コンタクト層80は、p型クラッド層70上に形成されている。p型コンタクト層80は、例えば、Mg等の不純物が高濃度にドープされたp型のGaN層である。 【0029】 n側電極90は、n型クラッド層30の一部の領域上に形成されている。n側電極90は、例えば、n型クラッド層30の上に順にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/Ti/金(Au)が順に積層された多層膜で形成される。 【0030】 p側電極92は、p型コンタクト層80の上に形成されている。p側電極92は、例えば、p型コンタクト層80の上に順に積層されるニッケル(Ni)/金(Au)の多層膜で形成される。」 d 実施例等(【0035】~【0039】、【図3】、【図4】) 「【0035】 (実施例) 上述したように、トリガ層40は、n型クラッド層30の転位等の欠陥密度に応じたドープ量のSiを含んでいる。このトリガ層40は、前記n型クラウド層30と前記n型クラッド層30側の最外層にAlGaNによって形成された障壁層52aを有する多重量子井戸層50との間に配置されている。この構成により、前記n型クラッド層30の転位等の欠陥を始端とし、前記多重量子井戸層50の複数の障壁層52a,52b,52cと井戸層54a,54b,54cとを介して伸びる略逆円錐状の前記欠陥密度に応じた複数のVピット100が、前記多重量子井戸層50の、例えば、前記電子ブロック層60側(前記n型クラッド層30と反対側)の最外層のAlGaNによって形成された井戸層54cを終端として形成される。この複数のVピット100が発光素子1の発光出力を向上することを確認した。 【0036】 次に、発光出力を向上することを確認した実験について図3を参照して説明する。図3は、実施例及び比較例の順方向に供給される電流と発光出力との関係を示す図である。図3の横軸は、発光素子1に印加する電流(mA)を示し、縦軸は、発光出力(任意単位)を示す。記号Aは、実施例の場合を示し、記号Bは、比較例の場合を示している。図4は、図3に示す実施例及び比較例の順方向に供給される電流及び発光出力のデータを示す表である。なお、比較例として、上述した発光素子1からトリガ層40を除いた構成を有する発光素子を用いた。 【図3】 [図:0001435709000013.jpg] 【図4】 [図:0001435709000014.jpg] 【0037】 図3及び図4に示すように、実施例では、約20mAの電流を印加したとき、おおよそ1700の発光出力が得られ、約60mAの電流を印加したとき、およそ5000の発光出力が得られ、100mAの電流を印加したとき、およそ7800の発光出力が得られ、150mAの電流を印加したとき、およそ11000の発光出力が得られた。これらに対し、比較例では、約20mAの電流を印加したとき、おおよそ1300の発光出力が得られ、約60mAの電流を印加したとき、およそ3500の発光出力が得られ、100mAの電流を印加したとき、およそ5000の発光出力が得られ、150mAの電流を印加したとき、およそ7400の発光出力が得られた。 【0038】 以上をまとめると、実施例の発光出力は、20mAの電流を印加したとき、比較例の発光出力の約1.31倍となり、60mAの電流を印加したとき、比較例の発光出力の約1.43倍となり、100mAの電流を印加したとき、比較例の発光出力の約1.56倍となり、150mAの電流を印加したとき、実施例の発光出力は、比較例の発光出力の約1.49倍となった。以上のように、実施例の発光出力は、印加した電流の範囲においては、少なくとも20%以上向上している。これらの結果から、本発明により、発光素子1の発光出力が上昇することが明らかになった。 【0039】 (実施の形態の作用及び効果) 以上説明したように、本発明の実施の形態に係る発光素子1では、n型クラッド層30と多重量子井戸層のn型クラッド層30側の障壁層52aとの間に、n型クラッド層30の転位等の欠陥密度に応じたドープ量のSiを含むトリガ層40が設けられている。このトリガ層40により、n型クラッド層30内に発生する転位等の欠陥からVピットが発生し、多重量子井戸層50内に複数の障壁層52a,52b,52c及び井戸層54a,54b,54cを介して伸びる略逆円錐形状の複数のVピットが形成される。かかる構成により、本発明に係る発光素子1では、深紫外光の発光出力を上昇させることが可能となる。このようなトリガ層40を設けることによって多重量子井戸層内に形成されたVピットが、多重量子井戸層内に生じ得る転位による非発光再結合を抑制することができたためと考えられる。」 (イ) 引用発明の認定 前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項より、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。 <引用発明> 「窒化物半導体発光素子であって、(【0013】) 基板10と、バッファ層20と、n型クラッド層30と、トリガ層40と、多重量子井戸層50と、電子ブロック層60と、p型クラッド層70と、p型コンタクト層80と、n側電極90と、p側電極92とを含んで構成され、(【0014】) n型クラッド層30は、n型のAlGaN(以下、単に「n型AlGaN」ともいう。)により形成された層であり、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAlqGa1-qN層(0≦q≦1)であり、(【0018】) トリガ層40は、n型クラッド層30上に形成され、(【0019】) 発光層を形成する多重量子井戸層50は、トリガ層40上に形成され、(【0021】) 多重量子井戸層50は、波長350nm以下の深紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成され、(【0021】) 多重量子井戸層50には、複数のVピット100が形成され、(【0023】) Vピット100の頂点100aは、n型クラッド層30中の転位から発生し、Vピット100の底面100bは、多重量子井戸層50内で終端し、(【0025】) 電子ブロック層60は、多重量子井戸層50上に形成され、1nm~10nm程度の厚さを有しており、アンドープの半導体層であり、(【0026】) p型クラッド層70は、電子ブロック層60上に形成されており、p型AlGaNにより形成される層であり、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされたAltGa1-tNクラッド層(0≦t≦1)である(【0027】) 窒化物半導体発光素子」 イ 引用文献5に記載された事項及び当業者に自明の技術事項Aの認定 (ア) 引用文献5に記載された事項 当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である特開2017-157774号公報(以下「引用文献5」という。)には、次の記載がある(図は対応する記載箇所に挿入して示した。なお、下線は当合議体が付したものである。)。 「【0019】 <第1実施形態> 図1は、第1実施形態に係る半導体発光素子100の断面構造例を示す縦断面図である。半導体発光素子100は、図1に示すように、基板110と、中間層120と、下地層130と、n型半導体層140と、発光層240と、p型半導体層320と、透明導電層410と、n側電極510と、p側電極610と、を備えている。半導体発光素子100は、たとえばフェイスアップ型のLED(Light emitting diode;発光ダイオード)であり、発光層240で発光された光をp側電極610側の上面から半導体発光素子100の外部に出射する。なお、以下の説明では必要に応じて、中間層120、下地層130、n型半導体層140、発光層240、及びp型半導体層320をまとめて積層半導体層と呼ぶことがある。 【図1】 [図:0001435709000015.jpg] 【0020】 基板110上には中間層120が積層され、中間層120上には下地層130が積層されている。下地層130の上面の一部領域にはn型半導体層140が積層されているとともに、該下地層130の上面の他の一部領域にはn側電極510が設けられている。n型半導体層140上には発光層240が積層され、発光層240上にはp型半導体層320が積層されている。p型半導体層320上には透明導電層410が積層されている。透明導電層410上には、p側電極610が該透明導電層410の上面に設けられている。 【0021】 半導体発光素子100のp側電極610及びn側電極510間に順方向電圧(VF)をかけると、順方向電流(IF)が半導体発光素子100中に流れて、発光層240から目標波長の光(たとえば発光波長λ=400nm~465nm程度の青色光)が出力される。なお、順方向電圧(VF)は、p側電極610を高電位とし且つn側電極510を低電位とする電圧である。また、順方向電流(IF)は、p側電極610から、透明導電層410、p型半導体層320、発光層240、及びn型半導体層140を介してn側電極510に向かって流れる電流である。 【0022】 次に、半導体発光素子100の各構成要素について説明する。尚、以下の説明において、III族窒化物半導体の一例としてのAlGaN、GaN、InGaNに関し、各元素の組成比を省略した形で記述する場合がある。 …(中略)… 【0032】 [発光層240] 発光層240は、バンドギャップエネルギーの小さい井戸層241とバンドギャップエネルギーの大きい障壁層242を交互に積層した多重量子井戸構造を有している。井戸層241及び障壁層242のペア数(井戸層241及び障壁層242を1ペアとする)は3以上であればよく、好ましくは3~50であり、より好ましくは3から20である。ペア数が過度に大きいと、通常、生産性が低下するので好ましくない。 【0033】 多重量子井戸構造の井戸層241には、通常、InyGa1-yN(0.1<y<0.4)からなるIII族窒化物半導体層が用いられる。井戸層241の膜厚は、量子効果が得られる程度であればよい。該膜厚は、たとえば1[nm]~10[nm]であり、発光出力の点で好ましくは2[nm]~6[nm]である。また、障壁層242には、井戸層241よりバンドギャップエネルギーが大きいGaNまたはAlyGa1-yN(0.0≦y≦1.0)を用いることが好ましい。井戸層241及び障壁層242には、設計によりドーパント(不純物成分)をドーピングしてもしなくてもよい。多重量子井戸構造の更なる説明は後述する。 【0034】 [p型半導体層320] 正孔をキャリアとするp型半導体層320は、本発明の第2導電型の第2半導体層の一例であり、p側クラッド層310と、p側コンタクト層321と、を含んで構成されている。p側クラッド層310は発光層240上及びVピット250vの内面(傾斜面251)上に積層され、p側コンタクト層321はp側クラッド層31上に積層されている。なお、透明導電層41はp側コンタクト層321上に積層される。 【0035】 p側クラッド層310は、発光層240へのキャリア(ここでは正孔)の注入とキャリアの閉じ込めを行なう。p側クラッド層310は、好ましくはAlxGa1-xN(0<x≦0.4)を用いて形成されている。p側クラッド層310の膜厚は、好ましくは5[nm]~100[nm]であり、より好ましくは10[nm]~60[nm]である。 【0036】 このp側クラッド層310は、発光層240及びVピット250vの傾斜面251上に積層される第1p側クラッド層311と、該第1p側クラッド層311上に積層される第2p側クラッド層312と、を有している。なお、第2p側クラッド層312上にはp側コンタクト層321が積層されている。 【0037】 第1p側クラッド層311には、p型ドーパント(たとえばMgなどの不純物成分)の意図的なドーピングはされていない。こうすれば、p型半導体層320におけるn型半導体層140及び発光層240に近い部分での結晶品質を向上させることができる。従って、Vピット250vの先端部分での電流リークの発生を抑制できる。これは半導体発光素子100の光出力の向上及びリーク不良の低減に寄与する。なお、第2p側クラッド層312の成長過程においてp型ドーパントが第1p側クラッド層311に拡散する(後述の図2参照)。そのため、第1p側クラッド層311は若干のp型ドーパントを含有しているが、その含有濃度は第2p側クラッド層312よりも低い。 【0038】 第2p側クラッド層312には、p型ドーパント(たとえばMg)が意図的にドーピングされており、その含有濃度は、好ましくは1×1019[cm-3]~1×1021[cm-3]であり、より好ましくは1×1019[cm-3]~1×1020[cm-3]である。 【0039】 p側コンタクト層321は、透明導電層410をp型半導体層320上に積層するために設けられており、発光層240へのキャリア(ここでは正孔)の注入層としても機能する。p側コンタクト層321は、好ましくはAlxGa1-xN(0≦x≦0.4)を用いて形成され、p型ドーパント(たとえばMg)を含んでいる。p側コンタクト層321のp型ドーパントの含有濃度は、好ましくは1×1018[cm-3]~1×1021[cm-3]であり、より好ましくは1×1019[cm-3]~1×1020[cm-3]である。この濃度であれば、p側コンタクト層321上に設けられる透明導電層410とのコンタクト抵抗を低減することができるので、半導体発光素子100の動作電圧を低くすることができる。さらに、p側コンタクト層321のp型ドーパントが発光層240に拡散することによって発生する発光層240の結晶劣化と半導体発光素子100の光出力の低下とを抑制又は防止することができる。 …(中略)… 【0051】 <半導体発光素子100の製造方法> 次に、半導体発光素子100の製造方法を説明する。多重量子井戸構造からなる発光層240を有する半導体発光素子100の製造方法は第1~第4の工程を含んでいる。 …(中略)… 【0057】 (第3の工程) 次に、発光層240上にp側クラッド層310とp側コンタクト層321とを順に積層して、p型半導体層320を形成する。すなわち、まず、成長温度を上げて、発光層240上及びVピット250vの内面(傾斜面251)上に第1p側クラッド層311をたとえば1030℃で成長させる。このとき、p型ドーパントの原料となる有機金属ガスは供給しない。このように、その後、成長温度を下げて、p型ドーパントの原料となるたとえばCp2Mg(ビスシクロペンタジエ二―ル・マグネシウム)などの有機金属ガスを供給しつつ、第2p側クラッド層312をたとえば930℃で成長させる。なお、第2p側クラッド層312が成長する際、p型ドーパントを意図的にはドーピングしなかった第1p側クラッド層311にも第2p側クラッド層312からp型ドーパントが拡散する。そのため、第1p側クラッド層311は実質的に第2p側クラッド層312p型よりも少ない濃度のp型ドーパントがドーピングされた状態となる。この後、上記の有機金属ガスを供給しつつ、p側コンタクト層321をp側クラッド層310上に成長させる。 …(中略)… 【0059】 このように、第1p側クラッド層311の成長温度を第2クラッド層312の成長温度よりも高くすれば、第1クラッド層311の2次元成長を促進して、凹部250v内を部分的或いは完全に第1クラッド層311で充填することができる。従って、第2クラッド層312上に設けるコンタクト層321の膜厚が薄くても、凹部250v上におけるコンタクト層321の上面を完全に平坦化できる。さらに、第1p側クラッド層311を比較的に高い温度で成長させて該第1p側クラッド層311に意図的なp型ドーパントのドーピングを施さないことにより、p型半導体層320におけるn型半導体層140及び発光層240に近い領域の結晶品質を向上させることができる。これにより、角錐状のVピット250vの先端部分での電流リークの発生を抑制でき、半導体発光素子100の光出力の向上、及びリーク不良の低減に寄与できる。」 (イ) 当業者に自明の技術事項Aの認定 前記(ア)に摘記した引用文献5の【0059】に「凹部250v内を部分的或いは完全に第1クラッド層311で充填することができる。従って、第2クラッド層312上に設けるコンタクト層321の膜厚が薄くても、凹部250v上におけるコンタクト層321の上面を完全に平坦化できる。」と記載されているように次の技術事項は、当業者に自明の技術事項であると認められる(以下「当業者に自明の技術事項A」という。)。 <当業者に自明の技術事項A> 「光発光半導体素子におけるVピットを半導体層で充填し平坦化するに際して、Vピットを完全に埋め込んで完全な平坦化をした方が望ましいが、完全に埋め込まなくてもよいこと。」 ウ 引用文献2~4に記載された事項及び周知の設計Bの認定 (ア) 引用文献2~4に記載された事項 a 引用文献2に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2022-41740号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。 「【0111】 続いて、第1導電型窒化物半導体層上に発光層を形成した。発光層は、量子井戸層とバリア層とを5周期積層させた多重量子井戸構造を有するように成膜して形成した。ここで、量子井戸層は、3.0nmの厚さを有するAlGaN層(Al:52%、すなわちAl0.52Ga0.48N層)とした。また、6.0nmの厚さを有するバリア層は、AlGaN層(Al:75%、すなわちAl0.75Ga0.25N層)とした。 発光層は、真空度を50mbarに設定し、V/III比を4000とした条件で形成した。このときの量子井戸層の成長レートは0.18μm/hrであった。また、バリア層の成長レートは0.15μm/hrであった。 【0112】 続いて、発光層上に電子ブロック層を形成した。ここで、電子ブロック層は、15nmの厚さを有するAlGaN層(Al:85%、すなわちAl0.85Ga0.15N層)とした。」 b 引用文献3に記載された事項 原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2021-190687号公報(以下「引用文献3」という。)には、次の記載がある。 「【0096】 ・基板:サファイア基板 ・AlN層:厚さ 1.6μm ・第一窒化物半導体層:組成 n-Al0.55Ga0.45N、厚さ 3μm ・下部ガイド層及び上部ガイド層:組成 u-Al0.45Ga0.55N、厚さ 各150nm ・窒化物半導体活性層(二重量子井戸構造) 井戸層:組成 Al0.35Ga0.65N、厚さ 4nm 障壁層:組成 Al0.45Ga0.55N、厚さ 8nm ・電子ブロック層:組成 u-AlxGa1-xN、厚さ 20nm ・組成変化層(二層構造) 第一組成変化領域:組成 p-Alx→0.45Ga(1-x)→0.55N(xは第一組成変化領域の初端組成)、厚さ 260nm 第二組成変化領域:組成 p-Al0.45→0Ga0.55→1N、Mg濃度 2.0×1019cm-3、厚さ 75nm ・第二窒化半導体層:組成 p-GaN、厚さ10nm ・リッジ幅:5μm ・p型電極幅:3μm」 c 引用文献4に記載された事項 当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である特開2023-45107号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。 「【0021】 (活性層6) 活性層6は、組成傾斜層5上に形成されている。本形態において、活性層6は、複数の井戸層62を有する多重量子井戸構造となるよう形成されている。本形態において、活性層6は、障壁層61と井戸層62とを3つずつ有し、障壁層61と井戸層62とが交互に積層されている。活性層6においては、下端に障壁層61が位置しており、上端に井戸層62が位置している。活性層6は、多重量子井戸構造内で電子及び正孔を再結合させて所定の波長の光を発生させる。本形態において、活性層6は、波長365nm以下の深紫外光を出力するために、バンドギャップが3.4eV以上となるよう構成されている。特に本形態において、活性層6は、中心波長が200nm以上365nm以下の深紫外光を発生することができるよう構成されている。 【0022】 各障壁層61は、AlcGa1-cN(0<c≦1)からなる。各障壁層61のAl組成比cは、例えば75%以上95%以下とすることができる。また、各障壁層61は、2nm以上12nm以下の膜厚を有する。 【0023】 各井戸層62は、AldGa1-dN(0≦d<1)からなる。本形態において、3つの井戸層62は、p型半導体層8から最も遠い位置に形成された井戸層62である最下井戸層621と、最下井戸層621以外の2つの井戸層62である上側井戸層622とで構成が異なっている。 【0024】 最下井戸層621の膜厚は、各上側井戸層622の膜厚よりも1nm以上大きい。本形態において、最下井戸層621は4nm以上6nm以下の膜厚を有し、各上側井戸層622は2nm以上4nm以下の膜厚を有する。最下井戸層621の膜厚と各上側井戸層622との膜厚の差は、例えば2nm以上4nm以下とすることができる。最下井戸層621の膜厚は、上側井戸層622の膜厚の例えば2倍以上3倍以下とすることができる。最下井戸層621の膜厚を上側井戸層622の膜厚よりも大きくすることにより、最下井戸層621が平坦化し、最下井戸層621上に形成される活性層6の各層の平坦性も向上する。これにより、活性層6の各層においてAl組成比のばらつきが生じることを抑制でき、出力光の単色性を向上させることができる。 …(中略)… 【0031】 電子ブロック層7の膜厚T、すなわち第1層71及び第2層72の合計の膜厚は、15nm以上100nm以下とすることができる。特に、電子ブロック層7の膜厚Tが、100nm以下となる場合、発光素子1への通電に伴ってp型半導体層8から活性層6側へ拡散されるp型不純物としてのマグネシウムが活性層6に到達しやすくなる。そして、水素はマグネシウムと結びつきやすいところ、p型半導体層8から活性層6側へ拡散されるマグネシウムが活性層6に到達しやすくなると、同時に水素も活性層6へ拡散されやすくなる。マグネシウムが活性層6へ拡散されると、活性層6を構成する母相原子とマグネシウムとの原子半径の違いによって活性層6において転位が発生しやすくなる。そうなると、活性層6中の電子と正孔との再結合が、非発光性の再結合(例えば振動を生じさせる再結合)となりやすく、発光効率が低下するおそれがある。また、水素が活性層6へ拡散されると、活性層6が劣化し、通電時間の経過に伴って発光出力が低下し、発光素子1の寿命が短くなるおそれがある。 …(中略)… 【0057】 [実験例] 本実験例は、マグネシウム濃度と水素濃度とのそれぞれを適宜変更した試料1乃至試料4に係る発光素子において、初期発光出力及び残存発光出力を評価した例である。なお、本実験例にて用いた構成要素の名称のうち、既出の形態において用いた名称と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素を表す。 【0058】 まず、試料1乃至試料4に係る発光素子について説明する。表1に、試料1乃至試料4に係る発光素子の各層の厚み、Al組成比、シリコン濃度、マグネシウム濃度、及び水素濃度を示す。 【0059】 【表1】 [図:0001435709000016.jpg] 【0060】 表1に記載の各層のAl組成比は、SIMSにより測定したAlの二次イオン強度から推定した値である。表1において、「BG」との表記は、バックグラウンドレベルを示している。表1における組成傾斜層の欄は、組成傾斜層の積層方向の各位置のAl組成比が、組成傾斜層の下端から上端までにかけて、55%から85%まで漸増していることを表している。同様に、表1における第2p型クラッド層の欄は、第2p型クラッド層の積層方向の各位置のAl組成比が、第2p型クラッド層の下端から上端までにかけて、55%から0%まで漸減していることを表している。表1において、電子ブロック層のマグネシウム濃度の欄は、試料1乃至試料4における、電子ブロック層の積層方向の各位置のマグネシウム濃度の平均値を示している。表1において、電子ブロック層の水素濃度の欄は、試料1乃至試料4における、電子ブロック層の積層方向の各位置の水素濃度の平均値を示している。なお、表1に記載の電子ブロック層の欄におけるマグネシウム濃度の平均値及び水素濃度の平均値は、電子ブロック層と活性層との境界からp型半導体層側に5nm離れた位置までの領域、及び、電子ブロック層とp型半導体層との境界から活性層側に5nm離れた位置までの領域の測定結果を無視している。かかる領域では、SIMSでは正確な数値が得られない箇所であるためである。」 (イ) 周知の設計Bの認定 前記(ア)に示した引用文献2~4の摘記事項に例示されているように、次の設計は、当業者にとって周知の設計であったと認められる。(以下「周知の設計B」という。) <周知の設計B> 「電子ブロック層の厚さを、活性層を構成する各半導体層の厚さの2倍以上とすること。」 エ 引用文献6に記載された事項及び周知の知見Cの認定 (ア) 引用文献6に記載された事項 当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である国際公開第2017/057149号(以下「引用文献6」という。)には、次の記載がある(なお、下線は当合議体が付したものである。)。 「技術分野 [0001] 本発明は、窒化物半導体発光素子、特に、深紫外光を発光する窒化物半導体発光素子に関する。 …(中略)… 発明の概要 発明が解決しようとする課題 [0005] しかしながら、従来のAlを含むバンドギャップの大きい窒化物半導体を活性層に用いた窒化物半導体発光素子は、青色LED等に比べて寿命が短い傾向にある。 [0006] そこで、本発明の実施形態は、Alを含むバンドギャップの大きい窒化物半導体を活性層に用いて構成された寿命の長い窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0007] 本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子は、 n側層と、 p側層と、 前記n側層と前記p側層の間に設けられ、AlとGaとNとを含む井戸層と、AlとGaとNとを含み、Alの含有量が前記井戸層より大きい障壁層とを有してなる活性層と、 を備えた窒化物半導体発光素子であって、 前記活性層と前記p側層との間に電子ブロック構造層を有し、 前記電子ブロック構造層は、 バンドギャップが前記障壁層より大きい第1電子ブロック層と、 前記p側層と前記第1電子ブロック層の間に設けられ、前記障壁層より大きく前記第1電子ブロック層より小さいバンドギャップを有する第2電子ブロック層と、 前記第1電子ブロック層と前記第2電子ブロック層の間に設けられ、バンドギャップが前記第2電子ブロック層より小さい中間層を有することを特徴とする。 発明の効果 [0008] 以上のように構成された本発明の一実施形態に係る窒化物半導体発光素子によれば、前記第1電子ブロック層と前記第2電子ブロック層の間に前記中間層を有しているので、Alを含むバンドギャップの大きい窒化物半導体を活性層に用いて構成された寿命の長い窒化物半導体発光素子を提供することができる。」 「[0024] 電子ブロック構造層20のp型不純物 電子ブロック構造層20は、活性層14とp側層15の間に設けられる層であることから必要に応じてp型不純物を含む。しかしながら、本実施形態では、第1電子ブロック層21、中間層22及び第2電子ブロック層23の少なくとも1つの層は、ノンドープ層であることが好ましい。電子ブロック構造層20を構成する少なくとも1つの層がノンドープ層であると、井戸層142に拡散するp型不純物を減らすことができるため、寿命の低下を抑制することができる。 さらに、本実施形態では、第1電子ブロック層21がノンドープ層であることがより好ましく、第1電子ブロック層21がノンドープ層であると、井戸層142に拡散するp型不純物をさらに減らすことができるため、寿命の低下をより効果的に抑制することができる。」 (イ) 周知の知見Cの認定 前記(ア)に摘記した引用文献6記載に例示されるように(特に[0024]参照)、次の技術事項(以下「周知の知見C」という。)は、当業者にとって周知のことであったと認められる。 <周知の知見C> 「窒化物半導体発光素子は、活性層の井戸層にp型不純物が拡散することに起因して劣化するところ、電子ブロック構造層を構成する少なくとも1つの層がノンドープ層であると、活性層の井戸層に拡散するp型不純物を減らすことができるため、寿命の低下を抑制することができること。」 (3) 本件補正発明と引用発明の対比 ア 対比分析 本件補正発明と引用発明を対比する。 (ア) 構成Xの観点(窒化物半導体発光素子) 本件補正発明と引用発明は、「窒化物半導体発光素子」の発明である点において一致する。 (イ) 構成Aの観点(n型半導体層) a 構成Aは、「n型半導体層」を備えることである。 b 引用発明における「n型クラッド層30」は、「n型のAlGaN」「により形成された層」であるから、本件補正発明にいうところの「n型半導体層」であるといえる。 c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。 「n型半導体層」を備える点。 (ウ) 構成Bの観点(活性層) a 構成Bは、「前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層」を備えることである。 b 引用発明における「多重量子井戸層50」は、本件補正発明における「活性層」に相当する。 c さらに、引用発明における「多重量子井戸層50」は、「波長350nm以下の深紫外光を出力する」ものであるから、本件補正発明でいう「紫外光を発する活性層」であるといえる。 d またさらに、引用発明における「多重量子井戸層50」は、「n型クラッド層30上に形成され[る]」「トリガ層40上に形成され[る]」ことから、本件補正発明でいう「前記n型半導体層上に形成され[る]」ものであるといえる。 e したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。 「前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層」を備える点。 (エ) 構成Cの観点(電子ブロック層) a 構成Cは、「前記活性層上に形成された電子ブロック層」を備えることである。 b 引用発明における「電子ブロック層60」は、本件補正発明における「電子ブロック層」に相当する。 c さらに、引用発明における「電子ブロック層60」は、「多重量子井戸層50上に形成され[る]」ものであるから、本件補正発明でいう「前記活性層上に形成された電子ブロック層」であるといえる。 d したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。 「前記活性層上に形成された電子ブロック層」を備える点。 (オ) 構成Dの観点(p型半導体層) a 構成Dは、「前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層」を備えることである。 b 引用発明における「p型クラッド層70」は、「p型AlGaNにより形成される層」であるから、本件補正発明における「p型半導体層」に相当する。 c さらに、引用発明における「p型クラッド層70」は、「電子ブロック層60上に形成されている」から、本件補正発明でいうところの「前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層」であるといえる。 d したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。 「前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層」を備える点。 (カ) 構成Eの観点(活性層のピット) a 構成Eは、「少なくとも前記活性層には、複数のピットが形成されて[いる]」ことである。 b 引用発明における「Vピット100」は、本件補正発明でいう「ピット」に相当する。 c 引用発明の「Vピット100」は、「多重量子井戸層50には、複数のVピット100が形成され[る]」ことから、本件補正発明でいう「少なくとも前記活性層に」「複数」「形成されて[いる]」ものであるといえる。 d したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。 「少なくとも前記活性層には、複数のピットが形成されて[いる]」点。 (キ) 構成F及びGの観点(電子ブロック層の上面のピット、比率R) a 構成F及びGは、それぞれつぎのとおりである。 (構成F) 「前記複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されて[いる]」こと。 (構成G) 「前記活性層の上面における前記ピットの密度を第1密度D1とし、前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度を第2密度D2としたとき、前記第1密度D1に対する前記第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、12%以上30%未満であ[る]」こと。 b 引用発明においては、「Vピット100の底面100bは、多重量子井戸層50内で終端[する]ものであるから、電子ブロック層60(「電子ブロック層」に相当する。)の上面まで形成されている「Vピット100」(「ピット」に相当する。)は、ほぼゼロであり、前記比率Rの数値はほぼ0であるが、少なくとも明示的には特定されていない。 c そうすると、本件補正発明と引用発明は、構成G及びFの観点について、次の点において相違する。 本件補正発明においては、 「複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されており、」 「前記活性層の上面における前記ピットの密度を第1密度D1とし、前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度を第2密度D2としたとき、前記第1密度D1に対する前記第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、12%以上30%未満であ[る]」のに対して、 引用発明においては、 「Vピット100の底面100bは、多重量子井戸層50内で終端し、 「電子ブロック層60(「電子ブロック層」に相当する。)の上面まで形成されている「Vピット100」(「ピット」に相当する。)は、ほぼゼロであり、前記比率Rの数値はほぼ0であるが、少なくとも明示的には特定されていない点。 (ク) 構成Hの観点(アンドープ電子ブロック層) a 構成Hは、「前記電子ブロック層は、アンドープの半導体層からな[る]」ことである。 b 引用発明における「電子ブロック層60」(「電子ブロック層」に相当する。)は、「アンドープの半導体層であ[る]」ことから、本件補正発明でいう「アンドープの半導体層からな[る]」ものであるといえる。 c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。 「前記電子ブロック層は、アンドープの半導体層からな[る]」点。 (ケ) 構成Iの観点(電子ブロック層の全体の膜厚) a 構成Iは、「前記電子ブロック層の全体の膜厚は、前記活性層を構成する半導体層のうち、最も膜厚が大きい半導体層の膜厚の2倍以上である」ことである。 b 引用発明は、本件補正発明の構成Iに相当する構成を備えていないから、本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。 「電子ブロック層の全体の膜厚」について、 本件補正発明は、「前記活性層を構成する半導体層のうち、最も膜厚が大きい半導体層の膜厚の2倍以上である」のに対して、 引用発明は、「1nm~10nm程度の厚さ」であるものの、多重量子井戸層50の各膜厚との関係が不明である点。 イ 一致点及び相違点 前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。 (ア) 一致点(構成X、A~E、Hの点) 「(構成A) n型半導体層と、 (構成B) 前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層と、 (構成C) 前記活性層上に形成された電子ブロック層と、 (構成D) 前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層と、を備え、 (構成E) 少なくとも前記活性層には、複数のピットが形成されており、 (構成H) 前記電子ブロック層は、アンドープの半導体層からなる、 (構成X) 窒化物半導体発光素子」の発明である点。 (イ) 相違点 a 相違点1(構成F、Gに係る相違点) 本件補正発明においては、 (構成F) 「複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されており、 (構成G) 前記活性層の上面における前記ピットの密度を第1密度D1とし、前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度を第2密度D2としたとき、前記第1密度D1に対する前記第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、12%以上30%未満で[ある]」のに対して、 引用発明においては、 「Vピット100の底面100bは、多重量子井戸層50内で終端し、 「電子ブロック層60(「電子ブロック層」に相当する。)の上面まで形成されている「Vピット100」(「ピット」に相当する。)は、ほぼゼロであり、前記比率Rの数値はほぼ0であるが、少なくとも明示的には特定されていない点。 b 相違点2(構成Iに係る相違点) 「電子ブロック層の全体の膜厚」について、 本件補正発明においては、 (構成I) 「前記活性層を構成する半導体層のうち、最も膜厚が大きい半導体層の膜厚の2倍以上である」との限定があるのに対して、 引用発明においては、 「1nm~10nm程度の厚さ」であるものの、多重量子井戸層50の各膜厚との関係が不明である点。 (4) 判断 ア 相違点1について (ア) 本件補正発明の構成F、Gの技術上の意義について 相違点1の検討に先立ち、まず、相違点1に係る本件補正発明の構成である構成F、G、すなわち「前記複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成される」こと及び「比率R=D2/D1」の数値範囲(特に下限)を特定することの技術上の意義について検討する。 a 本願明細書の発明の詳細な説明の【0043】、【0046】及び【0060】には、次の記載がある。 「【0043】 活性層6の上面60におけるピット10の密度を第1密度D1とし、電子ブロック層7の上面70におけるピット10の密度を第2密度D2としたとき、第1密度D1に対する第2密度D2の比率である比率R=D2/D1は、30%未満であり、より好ましくは15%未満である。詳細は後述するが、比率Rを低減することで発光素子1の発光出力の維持率が向上し、長寿命化が図られる。発光素子1の発光出力の維持率は、初期の発光出力に対する、現時点の発光出力の割合である。」 「【0046】 そこで、前述のごとく、比率Rを30%未満と小さくすることで、ピット10が活性層6に形成されることによる発光出力向上の利点と、電子ブロック層7の上面70まで形成されたピット10が少ないことによる長寿命化の利点とが得られる。かかる観点から、比率Rは15%未満がより好ましい。」 「【0060】 また、電子ブロック層7の上面70において、深さが2nm以上となるピット10の密度は、1.0×108個/cm2以下である。このように、電子ブロック層7の上面70において深いピット10が少ないことで、p型半導体層8に含まれるマグネシウム及びマグネシウムと結びつきやすい水素がピット10を介して活性層6へ拡散されることが抑制され、発光素子1の一層の長寿命化が図られる。」 b 前記aに摘記した本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、電子ブロック層上のピットを少なくし「比率R=D2/D1」を可及的に小さくすることで、マグネシウム及びマグネシウムと結びつきやすい水素がピットを介して活性層へ拡散することを抑制し、発光素子の長寿命化につながるから、「比率R=D2/D1」は、極力少なくした方が好ましいことは理解することができる。 しかし、「前記複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成され」「比率R=D2/D1を12%以上とすること」に何らかの好ましい技術上の効果があることは、明細書の発明の詳細な説明の記載からは認められないから、「比率R=D2/D1」の数値の範囲の下限を12%とすることに特段の技術上の意義は認められない。 (イ) 引用発明のVピットについて a 比率R=D2/D1を30%未満とすること 引用発明においては、「Vピット100の底面100bは、多重量子井戸層50内で終端[する]」ものであるから、「電子ブロック層60(「電子ブロック層」に相当する。)の上面まで形成されている「Vピット100」(「ピット」に相当する。)は、ほぼゼロであり、前記比率Rの数値はほぼ0であると理解すべきであり、比率R=D2/D1を30%未満とすることは、当業者には自明のことである。 b 比率R=D2/D1を12%以上とすること 「比率R=D2/D1」の下限について検討すると、前記(ア)において検討したとおり、「比率R=D2/D1」の数値範囲の下限を特定することに、特段の技術上の効果は認められず、せいぜい「比率R=D2/D1」は小さい方が望ましいがゼロでなくてもよいという程度の意味にしか理解できない。 そして、前記第2の3(2)イ(イ)において「当業者に自明の技術事項A」として認定したとおり、「光発光半導体素子におけるVピットを半導体層で充填し平坦化するに際して、Vピットを完全に埋め込んで完全な平坦化をした方が望ましいが、完全に埋め込まなくてもよいこと」は、当業者には自明のことである。 したがって、「比率R=D2/D1が12%以上」を選択すること(したがって、「複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されていること」も満たされる。)は、格別なものとは認めることができず、当業者が適宜選択できる設計事項であるというべきである。 イ 相違点2について 引用発明の「電子ブロック層60」の厚さ及び多重量子井戸層50の各層の膜厚をどの程度の厚さとするかは、当業者が適宜になし得る設計事項であるところ、前記3(2)ウ(イ)で認定した周知の設計Bを採用し、電子ブロック層60の厚さを、多重量子井戸層を構成する各半導体層の厚さの2倍以上となるように設計することは、当業者が容易に想到し得た設計変更である。 ウ 実験例の解釈と長寿命化の効果について (ア) 本願の明細書の【0082】においては、「図8及び図9から分かるように、比率Rが30%未満の実施例B1,B2は、比率Rが30%を超える比較例B1,B2よりも発光出力の低下のスピードが下がり、長寿命化が図れることが分かる。」としているが、以下に説明するように、合議体は明細書に開示された実験例のこの解釈に疑義があり、当該主張を受け入れることはできない。 (イ) 請求人は、明細書の【0060】において、上記実験例の結果が得られることの仮説として、次の点を説明している。 「また、電子ブロック層7の上面70において、深さが2nm以上となるピット10の密度は、1.0×108個/cm2以下である。このように、電子ブロック層7の上面70において深いピット10が少ないことで、p型半導体層8に含まれるマグネシウム及びマグネシウムと結びつきやすい水素がピット10を介して活性層6へ拡散されることが抑制され、発光素子1の一層の長寿命化が図られる。」 (ウ) 次の図3の点線楕円の部分に示されるように、比較例は、実験例に比較して、マグネシウムの含有量が「電子ブロック層7」の「第2層72」及び「第1層71」並びにこれらに隣接する活性層のうちの「井戸層622」において高くなっている。 [図:0001435709000017.jpg] (エ) ここで、前記3(2)エ(イ)において周知の知見Cとして認定したとおり「窒化物半導体発光素子は、活性層の井戸層にp型不純物が拡散することに起因して劣化するところ、電子ブロック構造層を構成する少なくとも1つの層がノンドープ層であると、活性層の井戸層に拡散するp型不純物を減らすことができるため、寿命の低下を抑制することができること」は、当業者に自明のことである。 (オ) そうすると、比較例においては、実験例に比較して、「第2層72」、「第1層71」及び「井戸層622」からの直接的な拡散が大きいと推測され、しかも、このようなマグネシウムの直接の拡散は、p型クラッド層81からのピット10を介したマグネシウムの間接的な拡散よりも、大きいと推測される。そして、実施例の比較例に対する長寿命化の効果は、電子ブロック層がノンドープであることに起因すると推測される。 (カ) 請求人は、ピットに関する「比率R=D2/D1」のみが異なり、マグネシウムの含有率の分布を含めたほかの諸条件が同一である実験を示していないから、明細書の発明の詳細な説明に開示された実験例の結果は、長寿命化の要因を「比率R=D2/D1の数値範囲の限定」に帰するためには不十分であって、「比率R=D2/D1の数値範囲の限定」と長寿命化の因果関係は実証できていない。 (キ) 以上のとおり、本願の実施例の比較例に対する長寿命化の効果は、電子ブロック層がノンドープであることに起因すると推測され、「比率R=D2/D1の数値範囲の限定」に基づく効果としては顕著な効果を認めることはできない。 そして、電子ブロック層がノンドープであるという構成は、引用発明も備えるものであり、当該構成に起因する長寿命化の効果は周知の知見Cとして示すとおり当業者には自明である。 したがって、長寿命化の効果を根拠として「比率R=D2/D1の数値範囲の限定」をしたことの進歩性を認めることはできない。 エ 本件補正発明の進歩性の評価のまとめ 前記ア及びイにおいて検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。 そして、相違点1、2を総合的に勘案しても、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。 したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 オ 請求人の主張について 請求人は、本件補正発明は、構成F、Gを有するのに対し、引用発明は、電子ブロック層にピットが形成されることを前提としていないことを主張している。 かかる点に進歩性が認められないことは、前記ア~エで検討したとおりであるから、請求人の主張は、前記エの結論を左右するものではない。 カ 独立特許要件の判断の小括 以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。 4 本件補正の却下の決定の理由のむすび 前記3(4)カのとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明について 本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。 2 原査定における拒絶の理由の概要 原査定の本願発明に対する拒絶の理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。 理由2(進歩性の欠如) 本願発明は、出願前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1.特開2019-54247号公報(主たる引用文献) 引用文献2.特開2022-41740号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3.特開2021-190687号公報(周知技術を示す文献) 3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等 引用文献1に記載された事項並びに引用発明及び周知の設計Bは、前記第2の3(2)ア(ア)並びに同(イ)及びウ(イ)において示したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の2において検討したとおり、本件補正発明から「複数のピットの一部は、前記電子ブロック層の上面まで形成されて[いること]」の限定及び「比率R=D2/D1」の数値範囲について「12%以上」と下限を定める限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成を全て含み、その構成の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(4)において説示したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-015166

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