特許拒絶査定不服審判
2025-002107
熱硬化性樹脂組成物
- 審判番号
- 2025-002107
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-115459
- 請求日
- 2025年02月10日
- 審決日
- 2026年06月29日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日東電工株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人G-chemical
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 目黒 大地
- 審判官 野村 伸雄
- 分類
- P18 .121-Z (H01L) / P18 .575-Z (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-115459「熱硬化性樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 1月25日出願公開、特開2023- 12050〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年7月13日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年 7月30日付け:拒絶理由通知書
同年 9月11日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月 1日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月12日 :原査定の謄本の送達)
令和7年 2月10日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 4月22日付け:前置報告書
同年 7月22日 :上申書の提出
第2 令和7年2月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年2月10日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和7年2月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和6年9月11日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
基板上に配置された1以上の光半導体素子を封止するためのシート状の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂組成物は有機成分としてアクリル系樹脂を含み、
前記有機成分中の前記アクリル系樹脂の含有割合は85質量%以上であり、
下記(i)および/または(ii)を満たす、熱硬化性樹脂組成物。
(i)前記アクリル系樹脂は、熱硬化性官能基である第1の官能基を有するアクリル系樹脂と、前記第1の官能基と熱により反応し得る熱硬化性官能基である第2の官能基を有するアクリル系樹脂とを含む
(ii)前記熱硬化性樹脂組成物は、さらに無機粒子を含む」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
基板上に配置された1以上の光半導体素子を封止するためのシート状の熱硬化性樹脂組成物であって、
前記熱硬化性樹脂組成物は有機成分として、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含むアクリル系樹脂を含み、
前記有機成分中の前記アクリル系樹脂の含有割合は85質量%以上であり、
下記(i)および/または(ii)を満たす、熱硬化性樹脂組成物。
(i)前記アクリル系樹脂は、熱硬化性官能基である第1の官能基を有するアクリル系樹脂と、前記第1の官能基と熱により反応し得る熱硬化性官能基である第2の官能基を有するアクリル系樹脂とを含む
(ii)前記熱硬化性樹脂組成物は、さらにシラノール基を有する無機粒子を含む」
2 補正の目的
本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された「アクリル系樹脂」について、「(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含む」ものに限定するとともに、同じく本件補正前の請求項1に記載された「無機粒子」について、「シラノール基を有する」ものに限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 独立特許要件の判断
本件補正は、前記2のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成Cまでに分説する。
<本件補正発明の分説>
X 基板上に配置された1以上の光半導体素子を封止するためのシート状の熱硬化性樹脂組成物であって、
A 前記熱硬化性樹脂組成物は有機成分として、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含むアクリル系樹脂を含み、
B 前記有機成分中の前記アクリル系樹脂の含有割合は85質量%以上であり、
C 下記(i)および/または(ii)を満たす、
X 熱硬化性樹脂組成物。
(i)前記アクリル系樹脂は、熱硬化性官能基である第1の官能基を有するアクリル系樹脂と、前記第1の官能基と熱により反応し得る熱硬化性官能基である第2の官能基を有するアクリル系樹脂とを含む
(ii)前記熱硬化性樹脂組成物は、さらにシラノール基を有する無機粒子を含む」
構成Cにおいて(i)を満たすことを以下「構成C1」といい、(ii)を満たすことを以下「構成C2」という。
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本審決に添付した「別記1」に、本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関する記載を抜粋した。
本願明細書の発明の詳細な説明の記載によると、本件補正発明の目的・効果を要約すると、次のとおりである(墨付き括弧(【】)は本願明細書の段落番号を示す。)。
<本件補正発明の目的・効果>
熱可塑性樹脂を用いた封止用シートは、融点付近において熱可塑性樹脂が軟化溶融する場合があり、耐熱性に劣る傾向があるため、熱可塑性樹脂を用いた封止用シートを用いて光半導体素子を封止した後において、例えば封止用シートが適用された画像表示装置が発熱した際や封止後にリフロー工程に付した際に加熱されることにより封止用シートの形状が変化するなどといった問題があり、また、上記封止用シートには、光半導体素子が発する光の透過性に優れることが求められるところ、(【0005】)
本発明の目的は、光半導体素子を封止した際の光透過性および耐熱性に優れる、光半導体素子封止用のシート状の樹脂組成物を提供することにあり、(【0006】)
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、光半導体素子の封止性に優れながら、耐熱性に優れるため、シート状の上記熱硬化性樹脂組成物が適用された画像表示装置が発熱した際や封止後にリフロー工程に付した際に加熱された場合であっても、形状が変化しにくく、また、封止後のシートをリフロー工程等の加熱工程に付すことができ、光半導体装置を製造する際の工程の自由度が向上するという効果がある。(【0022】)
(2) 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2009-253223号公報(以下「引用文献1」という。)には、本審決に添付した「別記2」に摘記したとおりの記載がある(なお、当合議体により、後記イの引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
イ 引用発明の認定
「別記2」に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、請求項2に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「官能基を有するアクリル系ポリマーと、エポキシ樹脂又は酸無水物からなる架橋剤とを含有してなる光半導体素子封止用シートであって、(【請求項1】)
前記官能基がカルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上であり、(【請求項2】)
官能基を有するアクリル系ポリマーが封止前は架橋されておらず、封止した後に加熱による架橋剤の反応によりアクリル系ポリマーが架橋されるものであり、
封止の際、アクリル系ポリマーは低い軟化点を有するために光半導体素子に接続されたワイヤーを断線することがなく低い封止可能温度を有し、また、封止後は架橋剤の反応によりアクリル系ポリマーが架橋されシートが硬化されるため、耐熱性、すなわち、耐リフロー性が良好であり、さらに封止された光半導体装置は輝度保持率が良好となるものであり、(【0008】)
官能基を有するアクリル系ポリマーは、メタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーと、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するメタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーを用いて得られるポリマーであり、(【0009】)
メタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(BMA)であり、
アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸ブチル(BA)であり、(【0010】)
重合に供される全モノマー中のメタクリル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーの使用量は、耐久性の観点から95~99重量%であり、(【0011】)
カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するメタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーとしては、カルボキシル基を導入するためのメタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)等;エポキシ基を導入するためのメタクリル酸グリシジル(GMA)等;水酸基を導入するためのメタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(HEMA)等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ、(【0013】)
LED素子が搭載された基板の上でLED素子を封止するための、(【0030】)
光半導体素子封止用シート。」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明は、「構成Cにおいて構成C1を満たすもの」と「構成CにおいてC2を満たすもの」の和集合になっているところ、前者を以下「本件補正発明C1」といい、以下本件補正発明C1と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(封止するためのシート状の熱硬化性樹脂組成物)
a 引用発明の「官能基を有するアクリル系ポリマーと、エポキシ樹脂又は酸無水物からなる架橋剤とを含有してなる光半導体素子封止用シート」は、「官能基を有するアクリル系ポリマーが封止前は架橋されておらず、封止した後に加熱による架橋剤の反応によりアクリル系ポリマーが架橋されるもの」であるから、本件補正発明にいうところの「熱硬化性樹脂組成物」であるといえる。
b また、引用発明の「光半導体素子封止用シート」は、「LED素子が搭載された基板の上でLED素子を封止するための」ものであるから、本件補正発明にいうところの「基板上に配置された1以上の光半導体素子を封止するための」ものであるといえる。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「基板上に配置された1以上の光半導体素子を封止するためのシート状の熱硬化性樹脂組成物」の発明である点。
(イ) 構成Aの観点(熱硬化性樹脂組成物の有機成分)
a 構成Aは、「熱硬化性樹脂組成物は有機成分として、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含むアクリル系樹脂を含[む]」ことである。
b(a) 引用発明の「官能基を有するアクリル系ポリマーと、エポキシ樹脂又は酸無水物からなる架橋剤とを含有してなる光半導体素子封止用シート」における「官能基を有するアクリル系ポリマー」は、次の構成を備える。
「メタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーと、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するメタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーを用いて得られるポリマーであ[る]」こと。
「メタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(BMA)であり、
アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸ブチル(BA)であ[る]」こと。
(b) ここで、「メタクリル酸メチル(MMA)」、「メタクリル酸ブチル(BMA)」、「アクリル酸メチル(MA)」及び「アクリル酸ブチル(BA)」は、「(メタ)アクリル酸エステル」である。
(c) したがって、引用発明の「光半導体素子封止用シート」は、本件補正発明にいう「前記熱硬化性樹脂組成物は有機成分として、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を」「含むアクリル系樹脂を含[む]」ものといえる。
c 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Aの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Aの観点における一致点
構成A′「前記熱硬化性樹脂組成物は有機成分として、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を」「含むアクリル系樹脂を含[む]」点。
(b) 構成Aの観点における相違点
アクリル系樹脂について、
本件補正発明においては、
「(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含む」との限定があるのに対して、
引用発明においては、
少なくとも明示的にはそのような限定がない点。
(ウ) 構成Bの観点(有機成分中のアクリル系樹脂の含有割合)
a 構成Bは、「前記有機成分中の前記アクリル系樹脂の含有割合は85質量%以上であ[る]」ものである。
b 引用発明における「光半導体素子封止用シート」は、「重合に供される全モノマー中のメタクリル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーの使用量は、耐久性の観点から95~99重量%であ[る]」が、「有機成分中のアクリル系樹脂の含有割合は85質量%以上であ[る]」との明示の特定はない。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Bの観点において次のとおり相違する。
本件補正発明C1においては、「前記有機成分中の前記アクリル系樹脂の含有割合は85質量%以上であ[る]」との限定があるのに対して、
引用発明においては、「重合に供される全モノマー中のメタクリル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーの使用量は、耐久性の観点から95~99重量%であ[る]」が、有機成分中のアクリル系樹脂の含有割合は、少なくとも明示的には特定がない点。
(エ) 構成C1の観点(アクリル系樹脂の成分)
a 構成C1は、次のとおりである。
「下記(i)を満たす。
(i)前記アクリル系樹脂は、熱硬化性官能基である第1の官能基を有するアクリル系樹脂と、前記第1の官能基と熱により反応し得る熱硬化性官能基である第2の官能基を有するアクリル系樹脂とを含む」
b 引用発明における「官能基を有するアクリル系ポリマー」は、「前記官能基がカルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上であり」、「官能基を有するアクリル系ポリマーが封止前は架橋されておらず、封止した後に加熱による架橋剤の反応によりアクリル系ポリマーが架橋される」ものである。したがって、引用発明における「官能基を有するアクリル系ポリマー」は、本件補正発明にいうところの「前記アクリル系樹脂は、熱硬化性官能基である第1の官能基を有するアクリル系樹脂を含む」ものであるといえる。
c そうすると、本件補正発明と引用発明の構成C1の観点における一致点及び相違点は、それぞれ次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成C1の観点における一致点
構成C1′「下記(i)′を満たす、
(i)′前記アクリル系樹脂は、熱硬化性官能基である第1の官能基を有するアクリル系樹脂を含む」点。
(b) 構成C1の観点における相違点
アクリル系樹脂について、
本件補正発明においては、
「前記第1の官能基と熱により反応し得る熱硬化性官能基である第2の官能基を有する」ものとの限定があるのに対して、
引用発明においては、
「官能基を有するアクリル系ポリマー」の「官能基」が、「カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上であり」、「カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するメタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーとしては、カルボキシル基を導入するためのメタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)等;エポキシ基を導入するためのメタクリル酸グリシジル(GMA)等;水酸基を導入するためのメタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(HEMA)等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ[る]」点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明C1と引用発明は、次の(ア)に示す一致点において一致し、後記(イ)に示す相違点において相違すると認められる。
(ア) 一致点
「X 基板上に配置された1以上の光半導体素子を封止するためのシート状の熱硬化性樹脂組成物であって、
A′ 前記熱硬化性樹脂組成物は有機成分として、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂を含み、
C1′ 下記(i)′を満たす、熱硬化性樹脂組成物。
(i)′ 前記アクリル系樹脂は、熱硬化性官能基である第1の官能基を有するアクリル系樹脂を含む」の発明である点。
(イ) 相違点
a 相違点1(構成Aに係る相違点)
アクリル系樹脂について、
本件補正発明においては、
「(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含む」との限定があるのに対して、
引用発明においては、
少なくとも明示的にはそのような限定がない点。
b 相違点2(構成Bに係る相違点)
本件補正発明C1においては、「前記有機成分中の前記アクリル系樹脂の含有割合は85質量%以上であ[る]」との限定があるのに対して、
引用発明においては、「重合に供される全モノマー中のメタクリル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーの使用量は、耐久性の観点から95~99重量%であ[る]」が、有機成分中のアクリル系樹脂の含有割合は、少なくとも明示的には特定がない点。
c 相違点3(構成C1に係る相違点)
アクリル系樹脂について、
本件補正発明においては、
「前記第1の官能基と熱により反応し得る熱硬化性官能基である第2の官能基を有する」との限定があるのに対して、
引用発明においては、
「官能基を有するアクリル系ポリマー」の「官能基がカルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上であり」、「カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するメタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーとしては、カルボキシル基を導入するためのメタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)等;エポキシ基を導入するためのメタクリル酸グリシジル(GMA)等;水酸基を導入するためのメタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(HEMA)等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ[る]」点。
(4) 判断
ア 相違点1について
(ア)a 引用発明の「光半導体素子封止用シート」における「官能基を有するアクリル系ポリマー」は、次の構成を有する。
「メタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーと、カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するメタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーを用いて得られるポリマーであ[る]。」
「メタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(BMA)であり、
アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸ブチル(BA)であ[る]。」
b 引用発明においてポリマーを形成する前のモノマーを特定していることに鑑みるに、当業者は、ポリマーが形成される前のそれぞれのモノマーの構成割合を考慮するといえる。
c そして、次に摘記する引用文献1の【0046】の【表1】等の記載を参照すると、引用文献1の各実施例の光半導体封止用シートは、有機成分として、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位(メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ブチル(BMA)、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸ブチル(BA))を質量割合で最も多く含むものである。
「【表1】
[図:0001438880000001.jpg]
」
d そうすると、引用発明において、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含むようにすることは、当業者には、ごく自然で自明の選択にすぎない。
(イ) しかも、本願の明細書の【0027】には、アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含む樹脂であることが好ましいと記載されているものの、アクリル系樹脂が、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を最も多く含む樹脂であることの技術上の意義については記載されていない。
(ウ) そうすると、引用発明においても、アクリル樹脂が、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を最も多く含む樹脂とすること、すなわち、相違点1に係る本件補正発明C1の構成を満たすようにすることは、当業者にとっては、適宜なし得た設計的事項といえ、実質的な相違点ではない。
イ 相違点2について
引用文献1の【0046】の【表1】等の記載を再度参照すると、引用文献1の各実施例の光半導体封止用シートにおいては、架橋剤等のモノマー以外の成分の有機成分中の含有割合は7質量%である。そうすると、引用発明において、全モノマーの有機成分中の含有割合を93質量%(=100%-7%)とするのはごく自然の選択であり、ここで「重合に供される全モノマー中のメタクリル系モノマー及び/又はアクリル系モノマーの使用量は、耐久性の観点から95~99重量%であ[る]」から、有機成分中のアクリル系樹脂の有機成分中の含有割合を、少なくとも88.4質量%(=95質量%×0.93)とし、本件補正発明C1の構成Bを満たすようにすることは、当業者にとっては、適宜なし得た設計的事項といえ、実質的な相違点ではない。
ウ 相違点3について
(ア)a 引用発明は、「官能基を有するアクリル系ポリマー」について次の特定がある。
「官能基がカルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上であ[る]。」
「カルボキシル基、エポキシ基及び水酸基からなる群より選択される1種以上の官能基を有するメタクリル系モノマー又はアクリル系モノマーとしては、カルボキシル基を導入するためのメタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)等;エポキシ基を導入するためのメタクリル酸グリシジル(GMA)等;水酸基を導入するためのメタクリル酸-2-ヒドロキシエチル(HEMA)等が挙げられ、これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができ[る]。」
b そうすると、引用発明は、官能基含有モノマーを2種以上併用して官能基を有するアクリル系ポリマーを得ることを選択肢としている以上、当業者は、「カルボキシル基を有するアクリル系ポリマー、エポキシ基を有するアクリル系ポリマー、水酸基を有するアクリル系ポリマーの2種以上を組み合わせて用いること」を当然に認識するといえ、「LED素子が搭載された基板の上でLED素子を封止する」という用途においてどのような望ましい特性(例えば、透明性、耐熱性のほか、Tg(ガラス転移温度)が十分高いか、貯蔵弾性率が適当な大きさか(硬すぎたり、柔らかすぎたりしないか)等)が得られるのか実験的に試みて好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
(イ) そして、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基は、熱硬化性官能基であることは、技術常識である(参考までに、本願明細書【0028】)。また、エポキシ基とカルボキシル基、エポキシ基と水酸基又はカルボキシル基と水酸基は、それぞれ熱により反応し得るものである。
(ウ) そうすると、引用発明において、カルボキシル基を有するアクリル系ポリマー、エポキシ基を有するアクリル系ポリマー、水酸基を有するアクリル系ポリマーの2種以上を組み合わせて選択し、相違点3に係る本件補正発明C1の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(エ) 本願の明細書の【0142】においては、「本発明の熱硬化性樹脂組成物(実施例)は、硬化後において光透過率が高く光透過性に優れると評価された。また、耐熱性に優れ、反り量が小さい、ダイシング性が良好であると評価された。」との記載があるが、これらは、比較例に対する効果であって、引用発明と比較しての優れた効果ではなく、本件補正発明C1が奏する効果として当業者が予測・発見困難であってかつ格別顕著な効果を認めることはできない。
エ 総合評価
前記ア~ウにおいて検討したとおり、引用発明において、前記相違点1~3に係る本件補正発明C1の構成を備えるようにすることは、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1~3を総合的に勘案しても、本件補正発明C1が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であってかつ格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明C1を包摂する本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
オ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張1
a 請求人の主張1の内容
請求人は、令和7年7月22日提出の上申書において、本件補正発明C1の「熱硬化性官能基である第1の官能基を有するアクリル系樹脂」と「第1の官能基と熱により反応し得る熱硬化性官能基である第2の官能基を有するアクリル系樹脂」とを組み合わせるという技術思想は、いずれの引用文献にも開示されておらず、むしろ、引用文献1では、アクリル系ポリマーと特定の架橋剤との間で架橋させて熱硬化することを重要な方針としているため、架橋剤を上記第2のアクリル系樹脂に置き換えることには阻害要因がある旨主張する。
b 請求人の主張1についての検討
本件補正発明は、架橋剤を含まないことを特定するものではない。したがって、引用発明において架橋剤を維持しつつ、さらに互いに反応し得る官能基を有する複数のアクリル系樹脂を併用する態様も、本件補正発明から排除されていない。そして、引用発明において構成C1を備えるようにすることが当業者にとって容易に想到し得たことであることは、前記ウで説示したとおりである。したがって、請求人の主張1は前記エの結論を左右するものではない。
(イ) 請求人の主張2
a 請求人の主張2の内容
請求人は、前記上申書において、本件補正後の請求項1の(i)における「第1の官能基を有するアクリル系樹脂」を「グリシジル基含有アクリル系樹脂」に限定し、かつ「第2の官能基を有するアクリル系樹脂」を「カルボキシ基含有アクリル系樹脂」に限定する補正案を提示し、引用文献1に記載の発明に基づいて、グリシジル基含有アクリル系樹脂と、カルボキシ基含有アクリル系樹脂又はシラノール基を有する無機粒子との組み合わせを選択的に想到することは、たとえ当業者であってもよりいっそう困難である旨主張する。
b 請求人の主張2についての検討
前記ウにおいて説示したように、引用発明において、カルボキシル基を導入するためのメタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)及びエポキシ基を導入するためのメタクリル酸グリシジル(GMA)を選択することは、当業者が容易に想到し得たことであり、当該補正案で補正したとしても、進歩性の拒絶理由は解消しない。したがって、請求人の提示する補正案は受け入れることができない。
カ 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記3(4)カのとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由(進歩性の欠如)は、次を要旨とする拒絶の理由を含むものである。
(進歩性の欠如) 本願発明は、その出願前に発行された下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2009-253223号公報
3 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
引用文献1に記載された事項及び引用発明は、前記第2の3(2)ア(「別記2」参照)及び同イにおいて認定したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の2において検討したとおり、本件補正発明から「アクリル系樹脂」についての「(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を質量割合で最も多く含む」との限定及び「無機粒子」についての「シラノール基を有する」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、その構成の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(4)において説示したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-002107