特許拒絶査定不服審判
2023-016717
窒化物半導体発光素子
- 審判番号
- 2023-016717
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-112014
- 請求日
- 2023年10月03日
- 審決日
- 2024年09月26日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日機装株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人平田国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 道祖土 新吾
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P18 .121-Z (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-112014「窒化物半導体発光素子」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 1月19日出願公開、特開2023- 8449〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年7月6日を出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
令和5年 3月22日付け:拒絶理由通知書
同年 5月12日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月30日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年10月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 本願発明の認定
本願の請求項1~5に係る発明(そのうち、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、令和5年10月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~5に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1の記載は、以下のとおりである。
なお、当該請求項1は、上記手続補正により補正されていない。
「【請求項1】
少なくとも1つの井戸層を備える活性層と、
前記活性層の一方側に位置するp型半導体層と、
前記活性層と前記p型半導体層との間に位置する電子ブロック積層体と、を備え、
前記電子ブロック積層体は、AluGa1-uN(0<u≦1)からなる第1電子ブロック層と、前記第1電子ブロック層よりも前記p型半導体層側に位置するとともに、前記第1電子ブロック層よりもAl組成比が小さいAlxGa1-xN(0<x<1)からなる第2電子ブロック層とを有し、
前記活性層における前記井戸層の総数をNとし、前記第1電子ブロック層の膜厚を膜厚d[nm]とし、前記第2電子ブロック層のAl組成比をAl組成比x[%]としたとき、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、前記第2電子ブロック層の前記Al組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たし、
前記井戸層の前記総数Nは1又は3であり、
前記井戸層の前記総数Nが3の場合、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dは、1.7nm以上2.1nm以下であり、
前記井戸層の前記総数Nが1の場合、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dは、1.3nm以上1.8nm以下である、
窒化物半導体発光素子。」
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である次の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という内容を含むものである。
引用文献 特開2021-27194号公報
第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
1 引用文献に記載された事項
原査定が引用した引用文献(特開2021-27194号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
「【請求項1】
AlGaN系の障壁層を含む活性層と、
前記活性層の上側に位置するp型コンタクト層と、
前記活性層及び前記p型コンタクト層の間に位置する電子ブロック積層体と、
を備え、
前記電子ブロック積層体は、
前記活性層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも大きいAl組成比を有する第1の電子ブロック層と、
前記p型コンタクト層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する第2の電子ブロック層と、
を備える、
窒化物半導体発光素子。」
「【請求項3】
前記第2の電子ブロック層は、前記第1の電子ブロック層の膜厚よりも大きい膜厚を有する、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。」
「【請求項7】
前記第1の電子ブロック層のAl組成比は、80%以上であり、
前記第2の電子ブロック層のAl組成比は、40%以上90%以下である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。」
「【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外光を出力する発光ダイオードやレーザダイオード等の窒化物半導体発光素子が実用化されており、発光出力の向上を可能とする窒化物半導体発光素子の開発が進められている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の発光素子は、III族窒化物単結晶上に形成され、障壁層と井戸層とからなる多重量子井戸層を備え、当該障壁層のうちp型のIII族窒化物層側に位置するファイナルバリア層の厚さを2nmから10nmとし、当該井戸層の厚さをそれぞれ2nm以下とするように調整されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5641173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発光素子のように、ファイナルバリア層及び井戸層の膜厚を最適化するような施策を施してもなお、十分な発光強度を得られない場合があり、発光強度の向上について更なる改良の余地が残されている。
【0006】
そこで、本発明は、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、障壁層を含む活性層と、前記活性層の上側に位置するp型コンタクト層と、前記活性層及び前記p型コンタクト層の間に位置する電子ブロック積層体と、を備え、前記電子ブロック積層体は、前記活性層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも大きいAl組成比を有する第1の電子ブロック層と、前記p型コンタクト層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する第2の電子ブロック層と、を備える窒化物半導体発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供することができる。
「【0011】
[第1の実施の形態]
(窒化物半導体発光素子の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。図2は、図1に示す窒化物半導体発光素子を構成する半導体層のAl組成比(「AlNモル分率」ともいう)の一例を模式的に示す図である。この窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう)には、例えば、レーザダイオードや発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)が含まれる。本実施の形態では、発光素子1として、中心波長が250nm~360nmの紫外光を発する発光ダイオード(LED)を例に挙げて説明する。
【0012】
図1に示すように、発光素子1は、基板11と、バッファ層12と、n型クラッド層30と、活性層50と、複数の電子ブロック層が積層された電子ブロック積層体60と、p型コンタクト層80と、n側電極90と、p側電極92と、を含んで構成されている。
【0013】
活性層50は、n型クラッド層30側に位置する障壁層52aを含む3つの障壁層52a,52b,52cと、電子ブロック積層体60に位置する井戸層54cを含む3つの井戸層54a,54b,54cと、を備えている。電子ブロック積層体60は、第1の電子ブロック層61と、第2の電子ブロック層62と、順に積層した構造を含んでいる。なお、以下の説明において、3つの障壁層52a,52b,52cを総称する場合は、「障壁層52」ともいい、3つの井戸層54a,54b,54cを総称する場合は、「井戸層54」ともいう。
【0014】
発光素子1を構成する半導体には、例えば、AlrGasIn1-r-sN(0≦r≦1、0≦s≦1、0≦r+s≦1)にて表される2元系、3元系若しくは4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。また、これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等で置き換えても良く、また、Nの一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、又はビスマス(Bi)等で置き換えても良い。以下、各構成要素について説明する。
【0015】
(1)基板11
基板11は、発光素子1が発する紫外光に対して透光性を有する基板である。基板11には、例えば、サファイア(Al2O3)により形成されたサファイア基板が用いられる。なお、基板11は、窒化アルミニウム(AlN)により形成されたAlN単結晶基板でもよい。
【0016】
(2)バッファ層12
バッファ層12は、基板11上に形成されている。バッファ層12は、AlNにより形成されたAlN層である。バッファ層12は、1.0μmから4.5μm程度の膜厚を有する。バッファ層12の構造は、単層でも多層構造でもよい。なお、基板11がAlN単結晶基板の場合、バッファ層12は、必ずしも設けなくてもよい。バッファ層12上にAlGaNにより形成されたアンドープのAlGaN層を設けてもよい。
【0017】
(3)n型クラッド層30
n型クラッド層30は、バッファ層12上に形成されている。n型クラッド層30は、n型AlGaNにより形成された層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされたAlGaN層である。なお、n型の不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)、又はテルル(Te)等を用いてよい。n型クラッド層30は、1μmから4μm程度の膜厚を有し、例えば、2μmから3μm程度の膜厚を有している。
【0018】
また、n型クラッド層30を形成するn型AlGaNのAl組成比は、井戸層を形成するAlGaNのAl組成比よりも大きい。発光素子がフリップチップタイプで実装された構成、つまり活性層50から出射された光をn型クラッド層30側から取り出す構成の場合に、該出射された光がn型クラッド層30で吸収されて光の取り出し効率が低下してしまうことを抑制するためである。なお、n型クラッド層30の構造は、単層でもよく、多層構造でもよい。
【0019】
(4)活性層50
活性層50は、n型クラッド層30上に形成されている。本実施の形態では、活性層50は、3層の障壁層52a,52b,52c、及び3層の井戸層54a,54b,54cを交互に積層した量子井戸構造を有している。
【0020】
障壁層52は、例えば、3nmから50nm程度の範囲の膜厚を有する。また、井戸層54は、例えば、1nmから5nm程度の範囲の膜厚を有する。障壁層52及び井戸層54の数は3つに限定されるものではなく、障壁層52及び井戸層54はそれぞれ1つずつ設けてもよく、2ずつ設けてもよく、4つ以上設けてもよい。ここで、障壁層52及び井戸層54がそれぞれ1つずつ設けられた構成を、単一量子井戸構造(SQW:Single Quantum Well)ともいい、複数設けられた構成を、多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)ともいう。
【0021】
図2に示すように、障壁層52aは、AlxGa1-xNを含んで形成され、井戸層54は、AlaGa1-aNを含んで形成されている(0≦x≦1、0≦a≦1、a<x)。ここで、xは、障壁層52を形成するAlGaNのAl組成比(以下、「障壁層52のAl組成比」ともいう)であり、aは、井戸層54を形成するAlGaNのAl組成比(以下、「井戸層54のAl組成比」ともいう)である。
【0022】
また、障壁層52のAl組成比x及び井戸層54のAl組成比aはそれぞれ、活性層50が波長360nm以下の紫外光を出力できるようにするために活性層50内のバンドギャップが3.4eV以上となるように適宜調整される。
【0023】
(5)電子ブロック積層体60
電子ブロック積層体60は、活性層50上に形成されている。電子ブロック積層体60は、p型コンタクト層80側への電子の流出を抑制する役割を担う層である。電子ブロック積層体60は、活性層50側に位置する第1の電子ブロック層61と、この第1の電子ブロック層61上に位置する第2の電子ブロック層62と、を積層した構造を含んでいる。
【0024】
第1の電子ブロック層61及び第2の電子ブロック層62はともに、p型AlGaNにより形成された層であり、例えば、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされたAlGaN層である。なお、p型の不純物としては、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、又は炭素(C)等を用いてもよい。なお、電子ブロック層61は、アンドープでもよい。
【0025】
具体的には、第1の電子ブロック層61は、AlbGa1-bNを含んで構成され、第2の電子ブロック層62は、AlyGa1-yNを含んで構成されている(0≦b≦1、0≦y≦1)。ここで、bは、第1の電子ブロック層61を形成するp型AlGaNのAl組成比(以下、「第1の電子ブロック層61のAl組成比」ともいう)であり、yは、第2の電子ブロック層62を形成するp型AlGaNのAl組成比(以下、「第2の電子ブロック層62のAl組成比」ともいう)である。Al組成比が低い第2の電子ブロック層62を第1の電子ブロック層61よりも活性層50側に配置にした場合、Al組成比が高い第1の電子ブロック層61の位置までオーバーフローする電子の存在確率が向上することになる。そのため、井戸層54中の電子の存在確率が減ることとなり、その分発光効率が低下する。よって、井戸層54での電子の存在確率を向上させ発光効率を高めるために、Al組成比が高い第1の電子ブロック層61が活性層50側に設けられる。
【0026】
図2に示すように、第2の電子ブロック層62のAl組成比yは、第1の電子ブロック層61のAl組成比bよりも小さい(y<b)。電子ブロック積層体60を第1の電子ブロック層61と第2の電子ブロック層62とを含む複数の層で構成し、第1の電子ブロック層61のAl組成比bを第2の電子ブロック層62よりも高くすることにより上述した電子ブロック積層体60の機能、すなわちp型コンタクト層80側への電子の流出を抑制する機能を向上させることができる。
【0027】
また、第2の電子ブロック層62のAl組成比yを第1の電子ブロック層61よりも低くすることにより、電子ブロック積層体60全体としてAl組成比を高くすることによって生じ得る抵抗の増加を抑制することができる。すなわち、電子ブロック積層体60をAl組成比の異なる2層で構成し、その組成比及び層厚を調整することにより、電子の流出を抑制することと抵抗の増加を抑制することとを両立させることができる。
【0028】
また、上述のように第2の電子ブロック層62のAl組成比yを一定の値(一例として、第1の電子ブロック層61のAl組成比b)よりも小さくすることによって、Al組成比が高い場合にMg等の不純物がドープされにくくなることによって生じ得る発光効率の低下を抑制することができる。
【0029】
また、図2に示すように、第1の電子ブロック層61のAl組成比bは、障壁層52のAl組成比xよりも大きい(すなわち、x<b)。第2の電子ブロック層62のAl組成比yは、障壁層52のAl組成比xよりも小さく(すなわち、y<x)、井戸層54のAl組成比aよりも大きい(すなわち、a<y)。以上をまとめると、各Al組成比a,b,x,yは、a<y<x<bの関係を満たしている。以下の表1に各Al組成比a,b,x,yの具体例をまとめる。
【0030】
【表1】
[図:0001417326000001.jpg]
【0031】
第2の電子ブロック層62の膜厚は、第1の電子ブロック層61の膜厚よりも厚い。第2の電子ブロック層62は、例えば、第1の電子ブロック層61の膜厚の5倍以上20倍以下の膜厚を有している。一例として、第1の電子ブロック層61は、1nm以上10nm以下の膜厚を有し、第2の電子ブロック層62は、5nm以上100nm以下の膜厚を有する。
【0032】
電子ブロック層は、Al組成比が高ければ高いほど、あるいは、膜厚が厚いほど電子の流出する機能を向上させることができるが、Al組成比が高い層の膜厚を厚くすると、発光素子1の電気抵抗が大きくなる虞がある。しかしながら、上述のように、Al組成比が低い第2の電子ブロック層62の膜厚を、Al組成比が高い第1の電子ブロック層61の膜厚よりも厚くすれば、Al組成比が高い第1の電子ブロック層61を薄く積層させつつ、電子ブロック積層体60全体の膜厚を一定以上に保つことができる。したがって、第2の電子ブロック層62の膜厚を第1の電子ブロック層61の膜厚よりも厚くすれば、電子ブロック積層体60の電気抵抗の上昇を抑えつつ、電子の流出を抑制する機能を向上させることができる。
【0033】
(6)p型コンタクト層80
p型コンタクト層80は、電子ブロック積層体60上、具体的には第2の電子ブロック層62上に形成されている。p型コンタクト層80は、例えば、Mg等の不純物が高濃度にドープされた、例えば、10%以下のAl組成比を有するp型AlGaNにより形成された層である。好ましくは、p型コンタクト層80は、p型のGaNにより形成されたp型GaN層である。
【0034】
(7)n側電極90
n側電極90は、n型クラッド層30の一部の領域上に形成されている。n側電極90は、例えば、n型クラッド層30上に順にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/Ti/金(Au)が順に積層された多層膜で形成される。
【0035】
(8)p側電極92
p側電極92は、p型コンタクト層80上に形成されている。p側電極92は、例えば、p型コンタクト層80上に順に積層されるニッケル(Ni)/金(Au)の多層膜で形成される。」
図1及び2は、以下のとおりである。
[図:0001417326000002.jpg]
[図:0001417326000003.jpg]
2 引用発明の認定
前記1によれば、引用文献には、第1の実施形態に係る窒化物半導体発光素子について、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(なお、参考までに引用発明の認定に用いた段落番号等を括弧内に付してある。)。
「AlGaN系の障壁層52を含む活性層50と、
前記活性層50の上側に位置するp型コンタクト層80と、
前記活性層50及び前記p型コンタクト層80の間に位置する電子ブロック積層体60と、
を備え、
前記電子ブロック積層体60は、
前記活性層50側に位置し、前記障壁層52のAl組成比よりも大きいAl組成比を有する第1の電子ブロック層61と、
前記p型コンタクト層80側に位置し、前記障壁層52のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する第2の電子ブロック層62と、
を備える、
窒化物半導体発光素子1であって、(【請求項1】)
前記第2の電子ブロック層62は、前記第1の電子ブロック層61の膜厚よりも大きい膜厚を有し、(【請求項3】)
中心波長が250nm~360nmの紫外光を発するものであり、(【0011】)
活性層50は、n型クラッド層30側に位置する障壁層52aを含む3つの障壁層52a,52b,52cと、電子ブロック積層体60に位置する井戸層54cを含む3つの井戸層54a,54b,54cと、を備えており、(【0013】)
障壁層52aは、AlxGa1-xNを含んで形成され、井戸層54は、AlaGa1-aNを含んで形成されており(0≦x≦1、0≦a≦1、a<x)、(【0021】)
障壁層52のAl組成比x及び井戸層54のAl組成比aはそれぞれ、活性層50が波長360nm以下の紫外光を出力できるようにするために活性層50内のバンドギャップが3.4eV以上となるように適宜調整されており、(【0022】)
電子ブロック積層体60は、p型コンタクト層80側への電子の流出を抑制する役割を担う層であり、活性層50側に位置する第1の電子ブロック層61と、この第1の電子ブロック層61上に位置する第2の電子ブロック層62と、を積層した構造を含んでおり、(【0023】)
第1の電子ブロック層61及び第2の電子ブロック層62はともに、p型AlGaNにより形成された層であり、(【0024】)
第1の電子ブロック層61は、AlbGa1-bNを含んで構成され、第2の電子ブロック層62は、AlyGa1-yNを含んで構成されており(0≦b≦1、0≦y≦1)、(【0025】)
各Al組成比a,b,x,yは、a<y<x<bの関係を満たしており、(【0029】)
第1の電子ブロック層61のAl組成比bは80%以上100%以下であり、障壁層52のAl組成比xは45%以上95%以下であり、第2の電子ブロック層62のAl組成比yは40%以上90%以下であり、井戸層54のAl組成比aは0%以上55%以下であり、(【0030】)
第1の電子ブロック層61は、1nm以上10nm以下の膜厚を有し、第2の電子ブロック層62は、5nm以上100nm以下の膜厚を有している、(【0031】)
窒化物半導体発光素子。(【請求項1】)」
第5 本願発明と引用発明との対比、判断
1 対比、一致点及び相違点の認定
(1) 本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
ア 本願発明の「少なくとも1つの井戸層を備える活性層と、」との発明特定事項について
引用発明の「活性層50」及び「井戸層54」は、それぞれ本願発明の「活性層」及び「井戸層」に相当する。そして、引用発明は、「活性層50」が「3つの井戸層54a,54b,54c」を備えているのであるから、本願発明でいう「活性層」が「少なくとも1つの井戸層を備える」ものといえる。
したがって、引用発明は、上記発明特定事項を満たしている。
イ 本願発明の「前記活性層の一方側に位置するp型半導体層と、」との発明特定事項について
引用発明の「p型コンタクト層80」は、本願発明の「p型半導体層」に相当する。そして、当該「p型コンタクト層80」は、「前記活性層50の上側に位置する」のであるから、本願発明でいう「前記活性層の一方側に位置する」ものといえる。
したがって、引用発明は、上記発明特定事項を備えている。
ウ 本願発明の「前記活性層と前記p型半導体層との間に位置する電子ブロック積層体と、」との発明特定事項について
引用発明の「電子ブロック積層体60」は、本願発明の「電子ブロック積層体」に相当する。そして、当該「電子ブロック積層体60」は、「前記活性層50及び前記p型コンタクト層80の間に位置する」のであるから、本願発明でいう「前記活性層と前記p型半導体層との間に位置する」ものといえる。
したがって、引用発明は、上記発明特定事項を満たしている。
エ 本願発明の「前記電子ブロック積層体は、AluGa1-uN(0<u≦1)からなる第1電子ブロック層と、前記第1電子ブロック層よりも前記p型半導体層側に位置するとともに、前記第1電子ブロック層よりもAl組成比が小さいAlxGa1-xN(0<x<1)からなる第2電子ブロック層とを有し、」との発明特定事項について
引用発明の「第1の電子ブロック層61」及び「第2の電子ブロック層62」は、それぞれ本願発明の「第1電子ブロック層」及び「第2電子ブロック層」に相当する。そして、当該「第1電子ブロック層61」は「前記活性層50側に位置」し、当該「第2電子ブロック層62」は「前記p型コンタクト層80側に位置」することから、当該「第2電子ブロック層62」は、本願発明でいう「前記第1電子ブロック層よりも前記p型半導体層側に位置する」ものといえる。
引用発明の「第1の電子ブロック層61」は、「p型AlGaN」により形成され、「AlbGa1-bNを含んで構成され」ており、「Al組成比bは80%以上100%以下」であることから、本願発明でいう「AluGa1-uN(0<u≦1)からなる」ものといえる。また、引用発明の「第2の電子ブロック層62」は、同様に「p型AlGaN」により形成され、「AlyGa1-yNを含んで構成されて」おり、「Al組成比yは40%以上90%以下」であることから、本願発明でいう「AlxGa1-xN(0<x<1)からなる」ものといえる。
引用発明の「第1の電子ブロック層61」は、「前記障壁層52のAl組成比よりも大きいAl組成比を有する」一方で、「第2の電子ブロック層62」は、「前記障壁層52のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する」ことから、当該「第2の電子ブロック層62」は、本願発明でいう「前記第1電子ブロック層61よりもAl組成比が小さい」ものといえる。
したがって、引用発明は、上記発明特定事項を満たしている。
オ 「前記活性層における前記井戸層の総数をNとし、前記第1電子ブロック層の膜厚を膜厚d[nm]とし、前記第2電子ブロック層のAl組成比をAl組成比x[%]としたとき、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dが、0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0の関係を満たし、かつ、前記第2電子ブロック層の前記Al組成比xが、10N+40≦x≦10N+60の関係を満たし、」との発明特定事項について
引用発明は「3つの井戸層54a,54b,54c」を備えることから、本願発明でいう「前記活性層における前記井戸層の総数」は3である。そして、引用発明の「第1の電子ブロック層61」の「膜厚」は「1nm以上10nm以下」であり、「第2の電子ブロック層62」の「Al組成比y」は、「40%以上90%以下」である。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「前記活性層における前記井戸層の総数をNとし、前記第1電子ブロック層の膜厚を膜厚d[nm]とし、前記第2電子ブロック層のAl組成比をAl組成比x[%]としたとき、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dが、」所定の関係「を満たし、かつ、前記第2電子ブロック層の前記Al組成比xが、」所定の関係「を満た」す点で共通する。他方、第1電子ブロック層の膜厚dが満たす所定の関係が、本願発明は、「0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0」であるのに対し、引用発明は、井戸層の総数Nが3であって、第1電子ブロック層の膜厚dが「1nm以上10nm以下」であり、第2電子ブロック層のAl組成比が満たす所定の関係が、本願発明は、「10N+40≦x≦10N+60」であるのに対し、引用発明は、井戸層の総数Nが3であって、第2電子ブロック層のAl組成比xが「40%以上90%以下」である。
カ 本願発明の「前記井戸層の前記総数Nは1又は3であり、前記井戸層の前記総数Nが3の場合、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dは、1.7nm以上2.1nm以下であり、前記井戸層の前記総数Nが1の場合、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dは、1.3nm以上1.8nm以下である、」との発明特定事項について
引用発明は、「3つの井戸層54a,54b,54c」を備えることから、本願発明でいう「前記井戸層の前記総数Nは1又は3であ」るものといえる。
引用発明の「第1の電子ブロック層61」の厚さは「1nm以上10nm以下」である。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「前記井戸層の前記総数Nは1又は3であり、前記井戸層の前記総数Nが3の場合、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dは、」所定の値である点で共通する。他方、第1電子ブロック層の膜厚dが、本願発明は、「1.7nm以上2.1nm以下」であるのに対し、引用発明は、「1nm以上10nm以下」である。
キ 本願発明の「窒化物半導体発光素子。」との発明特定事項について
引用発明の「窒化物半導体発光素子」は本願発明の「窒化物半導体発光素子」に相当する。
したがって、引用発明は本願発明の上記発明特定事項を満たしている。
(2) 以上によれば、本願発明と引用発明とは以下の点で一致し、以下の点で相違する。
【一致点】
「少なくとも1つの井戸層を備える活性層と、
前記活性層の一方側に位置するp型半導体層と、
前記活性層と前記p型半導体層との間に位置する電子ブロック積層体と、を備え、
前記電子ブロック積層体は、AluGa1-uN(0<u≦1)からなる第1電子ブロック層と、前記第1電子ブロック層よりも前記p型半導体層側に位置するとともに、前記第1電子ブロック層よりもAl組成比が小さいAlxGa1-xN(0<x<1)からなる第2電子ブロック層とを有し、
前記活性層における前記井戸層の総数をNとし、前記第1電子ブロック層の膜厚を膜厚d[nm]とし、前記第2電子ブロック層のAl組成比をAl組成比x[%]としたとき、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dが、所定の関係を満たし、かつ、前記第2電子ブロック層の前記Al組成比xが、所定の関係を満たし、
前記井戸層の前記総数Nは1又は3であり、
前記井戸層の前記総数Nが3の場合、前記第1電子ブロック層の前記膜厚dは、所定の値である、
窒化物半導体発光素子。」
【相違点1】
「井戸層の総数」Nと「第2電子ブロック層」の「Al組成比x[%]」が満たす所定の関係が、本願発明は、「10N+40≦x≦10N+60」であるのに対し、引用発明は、Nが3であって、xが「40%以上90%以下」である点。
【相違点2】
「井戸層の総数」Nと「第1電子ブロック層」の「膜厚d[nm]」が満たす所定の関係が、本願発明は、「0.1N+0.9≦d≦0.2N+2.0」であり、かつ、「1.7nm以上2.1nm以下」であるのに対し、引用発明は、Nが3であって、dが「1nm以上10nm以下」である点。
2 判断
(1) 相違点について
以下、相違点1及び相違点2についてまとめて検討する。
ア 引用発明から出発した当業者が相違点1及び2に係る本願発明の構成に至るためには、引用発明の「井戸層54」の数が3つ(本願発明でいう「井戸層の総数N」が3に相当する。)であることを踏まえれば、
(ア)「AlyGa1-yN」からなる「第2の電子ブロック層62」のAl組成比y(本願発明では「x」)を、「40%以上90%以下」の値から、(10×3+40)%以上(10×3+60)%以下の値、つまり「70%以上90%以下」の値に変更すること、
(イ)「第1の電子ブロック層61」の膜厚(本願発明では「d」)を、「1nm以上10nm以下」の値から、(0.1×3+0.9)nm以上(0.2×3+2.0)nm以下、かつ、「1.7nm以上2.1nm以下」の値、つまり「1.7nm以上2.1nm以下」の値に変更すること、
の双方が行われれば足りる。
そこで、以下、上記当業者がそのような変更に至るかについて検討する。
イ(ア)まず、引用発明の技術的意義をみると、当該技術的意義は、それを開示する引用文献の記載によれば、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供する(【0006】)ために、障壁層を含む活性層と、前記活性層の上側に位置するp型コンタクト層と、前記活性層及び前記p型コンタクト層の間に位置する電子ブロック積層体と、を備え、前記電子ブロック積層体は、前記活性層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも大きいAl組成比を有する第1の電子ブロック層と、前記p型コンタクト層側に位置し、前記障壁層のAl組成比よりも小さいAl組成比を有する第2の電子ブロック層と、を備える窒化物半導体発光素子を提供する(【0007】)ことにあると認められる。
そして、当該「電子ブロック積層体60」の作用機序は、Al組成比bが高い「第1の電子ブロック層61」が活性層50側に設けられるため、井戸層54での電子の存在確率を向上させ発光効率を高めることができる(【0025】)とともに、Al組成比yが低い「第2の電子ブロック層62」の膜厚を、Al組成比が高い「第1の電子ブロック層61」の膜厚よりも厚くすることにより、電子ブロック積層体60の電気抵抗の上昇を抑えつつ、電子の流出を抑制する機能を向上させることができることにある(【0027】・【0032】)と認められる。
(イ)しかるに、引用発明は、「中心波長が250nm~360nmの紫外光を発する」「窒化物半導体発光素子」であって、(i)「AlaGa1-aN」を含んで形成される「井戸層54」のAl組成比a(0%以上55%以下)、(ii)「AlxGa1-xN」を含んで形成される「障壁層52」のAl組成比x(45%以上95%以下)、(iii)「AlbGa1-bN」を含んで構成される「第1の電子ブロック層61」のAl組成比b(80%以上100%以下)、及び(iv)「AlyGa1-yN」を含んで構成される「第2の電子ブロック層62」のAl組成比y(40%以上90%以下)の関係が、「a<y<x<bの関係」を満たすものであることから、引用発明から出発した当業者は、上記関係を満たすように、これらのAl組成比を設定するといえる。
また、引用発明は、「第1の電子ブロック層61は、1nm以上10nm以下の膜厚を有し、第2の電子ブロック層62は、5nm以上100nm以下の膜厚を有している」ところ、上記の作用機序に照らせば、当業者であれば、「第1の電子ブロック層61」のAl組成比bが高くなると、電子ブロック積層体60の電気抵抗の上昇を抑えるという観点から、当該層の膜厚を小さくなるように設計することが自然といえる。
ウ(ア)ところで、本願発明の技術的意義は、本願の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面(以下「本願明細書等」という。)によれば、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供する(【0005】)ために、本願発明に係る「電子ブロック層積層体」を備える窒化物半導体発光素子を提供することにあると認められる。
そして、当該「電子ブロック積層体」の作用機序は、Al組成比の大きい「第1電子ブロック層」を活性層に隣接する位置に形成することにより、活性層に近い位置において高い電子ブロック効果が得られ、井戸層における電子の存在確率を確保する(【0028】)とともに、Al組成比が低い「第2の電子ブロック層」の膜厚を、Al組成比が高い「第1の電子ブロック層」の膜厚よりも厚くすることにより、「発光素子」全体の電気抵抗値の過度な上昇を防ぎつつ、「電子ブロック積層体」を電子がすり抜けることを抑制していることにある(【0029】・【0030】)と認められる。この点、上記した「電子ブロック層積層体」の作用機序においては、「発光素子」全体の電気抵抗値の過度な上昇を防ぐこととされているが、そのために調整しているものは「第1の電子ブロック層」及び「第2の電子ブロック層」の膜厚であるから、本願発明においては「電子ブロック層積層体」の電気抵抗値の上昇を抑制していることにほかならない。
(イ)前記(ア)及びイ(ア)によれば、本願発明及び引用発明ともに、(i)発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供するのを目的とすること、(ii)Al組成比の大きい「第1電子ブロック層」を活性層に隣接する位置に形成し、Al組成比が低い「第2の電子ブロック層」の膜厚を、Al組成比が高い「第1の電子ブロック層」の膜厚よりも厚くすることにより、電子ブロック層積層体の電気抵抗値の上昇を抑制しつつ、同積層体の電子流出抑制機能を向上させること、で共通しているといえるから、両発明の技術的意義及び作用機序に特段異なることはないということができる。
エ 前記イ及びウの理解を踏まえると、引用発明から出発した当業者が、前記イ(イ)で説示した各層のAl組成比、並びに「第1の電子ブロック層」及び「第2の電子ブロック層」の膜厚を設計するための指針に従って、発光出力を向上させるべく数値の最適化を行えば、以下のとおり、相違点1及び2に係る本願発明の構成に至るといえる。
(ア)引用発明は「中心波長が250nm~360nmの紫外光を発する」のであり、そのために「井戸層54のAl組成比aは0%以上55%以下」とするものであるところ、発光素子の短波長化は、常に求められる技術課題の一つとなっている(例えば「平山秀樹ら「AlGaN系深紫外LEDの進展と展望」応用物理80巻4号(2011)」(以下「参考文献」という。)の「図1 深紫外LED・LDの応用分野」を参照されたい。)ことから、中心波長が「250nm~360nm」のうち、できるだけ短波長のものを採用することは、当業者にとって自然なことといえるのであり、その際、当業者は、「井戸層54」のAl組成比aとして上限値近辺の55%程度を選択するものと認められる(なお、窒化物半導体発光素子の中心波長は、Al組成比だけでなく、井戸層の幅や不純物の存在等、他の要因にも左右されるものではあるが、例えば参考文献の図7では、250nmの発光波長を得るためにAl組成比が62%の井戸層が用いられている。)。
また、当業者は、「障壁層52」のAl組成比xを、上限値近辺の55%程度とされた「井戸層54」のAl組成比aよりも相当大きくするように設計するといえる。
(イ)次に、「井戸層54」からの電子の流出を抑制するとの「電子ブロック層積層体60」の基本的な役割を考慮すれば、電気抵抗値の上昇を抑制するとの観点もあるとはいえ、「第1の電子ブロック層61」のAl組成比b(80%以上100%以下)及び「第2の電子ブロック層62」のAl組成比y(45%以上95%以下)を「井戸層54」のAl組成比a(前記aのとおり、上限値近辺の55%程度とされている。)よりも相当大きい値を選択するのが、まずは自然である。
(ウ)前記(ア)及び(イ)のとおり、引用発明から出発した当業者は、(i)「井戸層54」のAl組成比aとして55%程度を自然に選択できること、(ii)「第1の電子ブロック層61」のAl組成比b(80%以上100%以下)及び「第2の電子ブロック層62」のAl組成比y(45%以上95%以下)として、「井戸層54」のAl組成比a(55%程度)よりも相当大きい値を選択するのがまずは自然であること、がいえるところ、このことに、前記イ(イ)の指針のとおり、「第1の電子ブロック層61」のAl組成比bが高くなると「第1の電子ブロック層61」の膜厚(1nm以上10nm以下)を小さくなるように設計することを併せ考慮すれば、上記当業者は、「第2の電子ブロック層62」のAl組成比y(45%以上95%以下)を、「井戸層54」のAl組成比(55%程度)よりも相当大きく設計し、その結果として、「第1の電子ブロック層61」のAl組成比b(80%以上100%以下)もさらに大きくなることから、「第1の電子ブロック層61」の膜厚(1nm以上10nm以下)を相当小さく設計するといえる。
そして、前記ウ(イ)のとおり、本願発明及び引用発明の技術的意義及び作用機序に特段異なることはないのを踏まえれば、引用発明から出発した当業者が、発光出力を向上させるという本願発明と同様の目的を達成すべく、各層のAl組成比、並びに「第1の電子ブロック層」及び「第2の電子ブロック層」の膜厚の数値のさらなる最適化を行えば、自ずと前記アで説示した数値範囲に含まれる値に至るというべきである。
オ 以上のとおり、引用発明から出発した当業者は、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成に容易に至ることができたものである。
(2) 本願発明の効果について
ア 本願発明の効果は、発光出力を向上させることができる窒化物半導体発光素子を提供することが可能となること(本願明細書等の【0007】)にあるところ、当該効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び引用文献に記載された技術的事項に基づいて当業者が予測し得たものにすぎず、顕著なものともいえない。
すなわち、前記1(2)で認定した相違点からも明らかなように、本願発明と引用発明との相違点は数値範囲のみであるところ、前記(1)ウのとおり、両発明の技術的意義及び作用機序に特段異なることはないことから、本願発明の効果が予測し得た範囲を超える顕著なものといえるためには、上記数値限定について、いわゆる臨界的意義が求められることになるし、このことに加えて、上記数値限定の範囲内の全ての部分で顕著性があるといえなければならない。しかるところ、本願発明の効果は、以下のとおり、本願発明の効果が予測し得た範囲を超える顕著なものとはいえない。
(ア)本願発明が奏する具体的な効果については、本願明細書等の【0056】~【0070】及び図3に「実験例1」及び「実験例2」として開示されている。そして、引用発明に比した本願発明の効果を考える意味では、「実験例1」(なお、「実験例2」は、本願の請求項2に係る発明に対する実験例であると解される。)において井戸層の数N=3の場合(試料5~12。次の表3を参照。)について検討するのが相当である。
[図:0001417326000004.jpg]
【図3】(なお、井戸層の数N=3は、◇でプロットされていると解される。)
[図:0001417326000005.jpg]
(イ)そこで、上記の試料5~12についてみると、本願発明で特定された第2の電子ブロック層のAl組成比(以下「x」ということがある。)の観点は全ての試料が満たす一方、同じく第1電子ブロック層の膜厚(以下「d」ということがある。)の観点は、試料8及び9のみが満たしており、その他の試料5~7及び10~12は満たしていない。
しかるところ、本願発明の効果を測る上で重要となる発光出力の値は、図3によれば、dを変えるとなだらかにその大きさが変化しているにすぎないし、そもそもdを変えると同時にxも変えてしまっていることから、dについての影響を十分に推し量ることもできず、そうすると、臨界的意義があることを認めるに足りない。
また、xについては、70.5%から74.6%の範囲でのみ実験がされており、xの上限である90%までの実験がされていないことから、xの「70%以上90%以下」の数値範囲内の全ての部分で効果の顕著性があるものとも認められない。
イ 以上によれば、本願発明の効果は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び引用文献に記載された技術的事項に基づいて当業者が予測し得たものにすぎず、顕著なものともいえないというべきである。
(3) 請求人の主張について
ア 請求人は、本願発明が特定する第1電子ブロック層の膜厚の範囲と第2電子ブロック層のAl組成比の範囲の組合せが引用文献に記載も示唆もない旨主張するが、引用発明から出発した当業者が相違点1及び2に係る本願発明の数値範囲に含まれる値に至ることは、前記(1)エで説示したとおりである。
なお、請求人の主張には判然としないところがあるが、窒化物半導体発光素子において観念できる無数のパラメータのうち、「第1電子ブロック層の膜厚」と「第2電子ブロック層のAl組成比」の組合せに着目したことに特徴があるという主張だとしても、本願発明は「窒化物半導体発光素子」という物の発明である以上、上記のとおり、引用発明から出発した当業者が相違点1及び2に係る本願発明の数値範囲に含まれる値に至れば、本願発明の構成の容易想到性が肯定されることになる。
イ 請求人は、本願発明が引用発明に対する選択発明に該当する旨主張するところ、選択発明というか数値限定を含む発明というかはさておくとしても、本願発明の効果を参酌することによって本願発明の進歩性を認めることができないことは、前記(2)で既に検討したとおりである。
ウ したがって、請求人の主張を採用することはできない。
(4) 小括
以上によれば、本願発明は、引用発明及び引用文献に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-016717