特許異議申立
2021-701232
電解コンデンサ
- 審判番号
- 2021-701232
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-213668
- 登録番号
- 6893311
- 請求日
- 2021年12月23日
- 審決日
- 2022年09月08日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人河崎特許事務所
- 【異議申立人】宮川 貴浩
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.121-YAA(H01G) / P1651.537-YAA(H01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6893311号発明「電解コンデンサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6893311号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3-10〕について訂正することを認める。
特許第6893311号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6893311号の請求項1ないし10に係る発明についての出願は、平成28年10月31日に出願され、令和3年6月3日にその特許権が設定登録され、令和3年6月23日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年12月23日:特許異議申立人宮川貴浩による請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 3月 4日付け:取消理由通知書
令和4年 4月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年 7月11日 :特許異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年4月27日の訂正請求の趣旨は、特許第6893311号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が、10質量%以下であり、」と記載されているのを、「前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が、10質量%以下(ただし、前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が10質量%である場合を除く)であり、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項3ないし10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ」と記載されているのを、「請求項7に記載の電解コンデンサ」に訂正する。(請求項8の記載を引用する請求項9、10も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか1項に記載の電解コンデンサ」にと記載されているのを、「請求項7または8に記載の電解コンデンサ」に訂正する。(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1、3ないし10は、請求項3ないし10が、訂正の対象となる請求項1を直接又は間接的に引用しているものであるから、請求項1、3ないし10は一群の請求項を構成する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1、3-10〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合」の範囲について、「10質量%以下」から、「10質量%以下(ただし、前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が10質量%である場合を除く)」と、さらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1における「10質量%以下」から、「10質量%以下(ただし、前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が10質量%である場合を除く)」とする訂正は、取消理由通知で引用した引用文献1(再公表特許第2014/21333号(甲第1号証))に記載されたラクトン化合物の割合との重なりのみを除外することを明示した訂正であって、訂正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではない。
よって、訂正事項1は新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項1は上述のとおり、訂正前の請求項1に係る発明について特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項8が、請求項1ないし6を引用することによって不明瞭になっている記載を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正前の請求項8において、請求項1ないし6を引用することによって不明瞭になっている記載を正すために引用する請求項の一部を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項9が、請求項1ないし6を引用することによって不明瞭になっている記載を明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3は、訂正前の請求項9において、請求項1ないし6を引用することによって不明瞭になっている記載を正すために引用する請求項の一部を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)小活
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3-10〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし10に係る発明(以下「本件発明1ないし10」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に設けられたセパレータと、を含むコンデンサ素子と、
前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、
前記コンデンサ素子に含浸された電解液と、
前記コンデンサ素子を収納するめのケースと、
前記ケースを封止するための封止部材と、を備え、
前記固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含み、
前記封止部材は、ブチルゴムを含み、
前記電解液は、溶媒および溶質を含み、
前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物と、ラクトン化合物と、を含み、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が、10質量%以下(ただし、前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が10質量%である場合を除く)であり、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上であり、
前記グリコール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、
電解コンデンサ。
【請求項2】
誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に設けられたセパレータと、を含むコンデンサ素子と、
前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、
前記コンデンサ素子に含浸された電解液と、
前記コンデンサ素子を収納するめのケースと、
前記ケースを封止するための封止部材と、を備え、
前記固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含み、
前記封止部材は、ブチルゴムを含み、
前記電解液は、溶媒および溶質を含み、
前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物とを含み、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上であり、
前記グリコール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記溶媒はラクトン化合物を含まない、
電解コンデンサ。
【請求項3】
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10~70質量%である、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30~90質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項5】
前記グリコール化合物は、エチレングリコールを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項6】
前記スルホン化合物は、スルホランを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項7】
前記溶質は、酸成分として有機カルボン酸化合物と、塩基成分としてアミン化合物、第4級アミジニウム化合物、または第4級アンモニウム化合物とを含み、
前記電解液に含まれる前記溶質の割合が、5~40質量%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。
【請求項8】
前記アミン化合物は、第1級アミン化合物、第2級アミン化合物、および第3級アミン化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項7に記載の電解コンデンサ。
【請求項9】
前記第4級アミジニウム化合物は、第4級イミダゾリニウム化合物および第4級イミダゾリウム化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項7または8に記載の電解コンデンサ。
【請求項10】
前記電解液は、更に、ホウ酸エステル化合物を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1、3ないし10に係る特許に対して、当審が令和4年3月4日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1.(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2.(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(進歩性)について
・請求項1、3ないし9
・引用文献等1ないし3
・請求項10
・引用文献等1ないし4
(当審注:取消理由通知書における「・請求項8 ・引用文献等1ないし4」及び「・請求項9 ・引用文献等1ないし4」の記載は、「・請求項8 ・引用文献等1ないし3」及び「・請求項9 ・引用文献等1ないし3」の誤りであるので、上記のとおり「・請求項1、3ないし9 ・引用文献等1ないし3」とした。)
●理由2(明確性)について
・請求項8ないし10
請求項8に記載された「請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ」は不明確な記載である。(「請求項7に記載の電解コンデンサ」の誤りでないのか。)
請求項9に記載された「請求項1~8のいずれか1項に記載の電解コンデンサ」は不明確な記載である。(「請求項7、8のいずれか1項に記載の電解コンデンサ」の誤りでないのか。)
<引用文献一覧>
1.再公表特許第2014/21333号(甲第1号証)
2.再公表特許第01/73802号(甲第2号証)
3.特開2007-103499号公報
4.特開2000-77272号公報(甲第5号証)
2 引用文献の記載事項、引用発明
(1)引用文献1
ア 引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下同様。)。
「【0018】
(固体電解コンデンサの製造方法)
本発明に係る固体電解コンデンサの製造方法の一例は、以下の通りである。すなわち、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に修復化成を施す(第1の工程)。続いて、このコンデンサ素子を、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体に含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成する(第2の工程)。その後、このコンデンサ素子を所定のイオン伝導性物質に浸漬して、コンデンサ素子内の空隙部にこのイオン伝導性物質を充填する(第3の工程)。そして、このコンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した後、エージングを行い、固体電解コンデンサを形成する(第4の工程)。」
「【0020】
(第2の工程における導電性高分子化合物分散体)
導電性高分子化合物分散体は、PEDOTの粉末とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合したものが好ましい。また、導電性高分子化合物分散体の溶媒は、導電性高分子化合物の粒子または粉末が溶解するものであれば良く、主として水が用いられる。ただし、必要に応じて分散体の溶媒としてエチレングリコールを用いてもよい。分散体の溶媒としてエチレングリコールを用いると、製品の電気的特性のうち、特にESRを低減できることが判明している。なお、導電性高分子化合物分散体の含浸性、電導度の向上のため、導電性高分子化合物分散体に各種添加剤を添加したり、カチオン添加による中和を行っても良い。」
「【0022】
(第3の工程におけるイオン伝導性物質)
コンデンサ素子内で導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成した後、コンデンサ素子内に充填するイオン伝導性物質としては、通常の状態ではイオン解離している(解離定数を有する)電解質溶液(電解コンデンサ用電解液)を用いることができる。電解質溶液に使用できる溶媒としては、その沸点が、寿命試験温度である120℃以上の溶媒を用いることが好ましい。溶媒の例としては、γ-ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホラン、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。特に、エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒を用いると、初期のESR特性が良好となり、さらに高温特性も良好となる。
【0023】
即ち、エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒を用いた場合、後述する実施例からも明らかな通り、エチレングリコールを含まない溶媒を用いた場合と比較して、初期のESRが低下するとともに、長時間の使用において静電容量の変化率(ΔCap)が小さいことが判明している。その理由は、エチレングリコールは、導電性ポリマーのポリマー鎖の伸張を促進する効果があるため、電導度が向上し、ESRが低下したと考えられる。また、γ-ブチロラクトンやスルホランよりも、エチレングリコールのようなヒドロキシル基を有するプロトン性溶媒のほうがセパレータや電極箔、導電性ポリマーとの親和性が高いため、電解コンデンサ使用時の電解質溶液が蒸散する過程において、セパレータや電極箔、導電性ポリマーと電解質溶液との間で電荷の受け渡しが行われやすく、ΔCapが小さくなると考えられる。また、混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は、好ましくは10~80wt%である。
【0024】
また、電解質溶液の溶媒としてγ-ブチロラクトンを所定量添加させることで、電解質溶液のコンデンサ素子への含浸性を改善できる。比較的粘性の高いエチレングリコールと粘性が低いγ-ブチロラクトンを用いることで、コンデンサ素子への含浸性を高め、初期特性及び長時間の使用での良好な特性を維持とともに、低温での充放電特性が良好となる。なお、混合溶媒中のγ-ブチロラクトンが多いと電解液の蒸散性が高まり、期待される特性が維持されにくいため、混合溶媒中におけるγ-ブチロラクトンの添加量は、好ましくは、10~60wt%である。
【0025】
さらに、イオン伝導性物質のエチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒に、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を追加的に用いてもよい。これらスルホラン系の溶媒は高沸点であるため、電解質溶液の蒸散を抑制し、高温特性が良好になる。混合溶媒中のこれらスルホラン系の溶媒の添加量は、好ましくは、10~50wt%である。
【0026】
電解質溶液としては、上記の溶媒と、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等の溶質とからなる溶液を挙げることができる。上記有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸等のカルボン酸、フェノール類が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。」
「【0039】
表3の結果より、エチレングリコールの添加量を増加させることにより、初期のESR特性および高温におけるコンデンサ特性が良好になることが分かった。しかしながら、エチレングリコールの添加量を90wt%とした実施例15においては、低温充放電特性が上昇する結果となった。また、γ-ブチロラクトンの添加量を60wt%とした実施例10は、γ-ブチロラクトンの添加量を100wt%とした比較例1や90wt%とした実施例8に比べて初期のESR特性および高温におけるコンデンサ特性が良好になることが分かった。」
「【表3】
[図:0001392039000001.jpg]
」
イ 上記記載より、固体電解コンデンサに関して、引用文献1には次の事項が記載されている。
・【0018】によれば、固体電解コンデンサは、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、コンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成し、コンデンサ素子内の空隙部にイオン伝導性物質を充填し、コンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着したものである。
・【0018】に記載された「導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体」は、【0020】に記載された「導電性高分子化合物分散体」のことなので、【0020】によれば、導電性ポリマーの粒子または粉末は、PEDOTの粉末とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合したものである。
・【0022】及び【0026】によれば、イオン伝導性物質は、溶媒と溶質とからなる電解質溶液を用いたものである。
・【0022】によれば、溶媒は、エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒である。
・【0023】によれば、混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は10~80wt%である。
・【0024】によれば、混合溶媒中におけるγ-ブチロラクトンの添加量は10~60wt%である。
・【0025】によれば、エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒に、さらにスルホランを追加的に用い、混合溶媒中のスルホラン系の溶媒の添加量は10~50wt%である。
ウ 上記記載より、固体電解コンデンサに関して、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、
コンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成し、
コンデンサ素子内の空隙部にイオン伝導性物質を充填し、
コンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着した固体電解コンデンサであって、
導電性ポリマーの粒子または粉末は、PEDOTの粉末とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合したものであり、
イオン伝導性物質は、溶媒と溶質とからなる電解質溶液を用い、
溶媒は、エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒であり、
混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は10~80wt%で、
混合溶媒中におけるγ-ブチロラクトンの添加量は10~60wt%で、
エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒に、さらにスルホランを追加的に用い、混合溶媒中のスルホラン系の溶媒の添加量は10~50wt%である、
固体電解コンデンサ。」
(2)引用文献2
引用文献2には、次の事項が記載されている。
ア 「本発明の電解コンデンサ用電解液に使用される溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えばγ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン;スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、ペンタメチレンスルホン等の環状スルホン;エチレングリコール、メチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド等の電解コンデンサ用として公知の有機極性溶媒;を使用することができる。」(7頁25行-8頁1行)
イ 「また、本発明の電解コンデンサ用電解液においては、ラクトン及び環状スルホンからなる群から選ばれる一種以上の溶媒に、更にエチレングリコールを含有するものが好ましい。この場合において、ラクトン及び環状スルホンからなる群から選ばれる一種以上の溶媒の合計重量とチレングリコールの重量との比率が、99:1~70:30、好ましくは99:1~75:25、更には99:1~85:15であることが好ましい。」(8頁13-18行)
ウ 「本発明の電解コンデンサの典型的な構成例として、図1及び図2に示す巻回型素子構造を例示することができる。この例では、陽極箔(1)に対向させて陰極箔(2)を配置し、その間にセパレータ(3)を介在させて巻回している。これをアルミニウムでできた外装ケース(6)に入れ、該ケースをブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム等のパッキングを介してフェノール樹脂積層板、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等の封口材(5)で密閉することによって電解コンデンサにしている。本発明の電解コンデンサ用電解液は、陽極箔と陰極箔に挟まれたセパレータ(3)に含浸して使用する。セパレータにはクラフト紙やマニラ紙が一般に使用されるが、特にこれらに限定されるのもではない。」(10頁19-28行)
(3)引用文献3
引用文献3には、次の事項が記載されている。
「【0051】
熱安定性により優れる電解液を得る点からは、沸点250℃以上、融点-60~40℃、及び誘電率(ε、25℃)25以上である溶媒を、溶媒の総重量に対して、25重量%以上含むことが好ましく、より好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上含む。このような溶媒の例としては、スルホンを挙げることができ、特にスルホラン、3-メチルスルホランが好ましい。このような溶媒を電解液に組合せて用いることにより、環境温度110~150℃での動作を1000時間以上保証する、低インピーダンスで高耐電圧な電解コンデンサが得られる。
【0052】
また、より低インピーダンスの電解コンデンサを得る点からは、沸点190℃以上、250℃未満、融点-60~40℃、及び誘電率(ε、25℃)25以上である溶媒を、溶媒の総重量に対して、25重量%以上含むことが好ましく、より好ましくは40重量%以上、特に好ましくは50重量%以上含む。このような溶媒の例としては、炭酸エステル、カルボン酸エステル、リン酸エステル、ニトリル、アミド及びアルコールを挙げることができ、特にγ-ブチロラクトン、エチレングリコールが好ましい。このような溶媒を電解液に組合せて用いることにより、極めて低インピーダンスで高電圧な電解コンデンサが得られる。」
「【0057】
(5)外装ケースへの挿入・封口
電解液を含浸させたコンデンサ素子を、外装ケースに挿入し、ケースの開口部を封口する。例えば、有底筒状のアルミニウムよりなる外装ケースに収納し、外装ケースの開口端部にブチルゴム製の封口体を挿入し、更に外装ケースの端部を絞り加工して電解コンデンサの封口を行うことによりアルミニウム電解コンデンサを得ることができる。封口体の表面をフッ素樹脂等の樹脂でコーティングしたり、フェノール樹脂等の板を貼り付けると溶媒蒸気の透過性が低減するので更に好ましい。このようにし得られた電解コンデンサは、その後、必要に応じて、再化成に付すことができる。」
(4)引用文献4
引用文献4には、次の事項が記載されている。
「【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明は、有機溶媒に(化2)の(式1)、(式2)、(式3)で示される硼酸エステルおよび/またはその塩を溶質として溶解するか、もしくは硼酸もしくは硼酸アンモニウム等の無機酸および/または有機酸を含み、かつ一般式(式1)、(式2)、(式3)で示される硼酸エステルおよび/またはその塩を溶質として溶解した構成の電解コンデンサ駆動用電解液およびそれを用いた電解コンデンサとしたものである。」
「【0032】以上述べてきた本発明の実施の形態の溶媒は全てエチレングリコールとなっているが、これ以外の溶媒として、アミド類、ラクトン類、グリコール類、硫黄化合物類、炭酸塩類を単独、または混合しても使用できる。この中でも、好ましい溶媒例としては、炭酸プロピル、ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレンシアノヒドリン、エチレングリコール、エチレングリコールモノまたはジアルキルエーテル等が挙げられる。」
3 当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
a 引用発明の「酸化皮膜層」、「陽極箔」、「陰極箔」、「イオン伝導性物質」、「外装ケース」は、それぞれ、本件発明1の「誘電体層」、「陽極体」、「陰極体」、「電解液」、「ケース」に相当する。
b 引用発明の「表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回」た「コンデンサ素子」は、「酸化皮膜層が形成された陽極箔」と、「陰極箔」と、「陽極箔と陰極箔」と間に設けられた「セパレータ」を含んでいるので、本件発明1の「誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に設けられたセパレータと、を含むコンデンサ素子」に相当する。
c 引用発明は「表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、コンデンサ素子に、導電性ポリマーの粒子または粉末と溶媒とを含む分散体を含浸させて導電性ポリマーからなる固体電解質層を形成し」たのであるから、「固体電解質層」は「酸化皮膜層」と接触している。したがって、引用発明の「固体電解質層」は、本件発明1の「前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層」に相当する。
d 引用発明の「コンデンサ素子内の空隙部に」「充填し」た「イオン伝導性物質」は、本件発明1の「前記コンデンサ素子に含浸された電解液」に相当する。
e 引用発明の「コンデンサ素子を」「挿入し」た「外装ケース」は、本件発明1の「前記コンデンサ素子を収納するめのケース」に相当する。
f 引用発明の「コンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に」「装着した」「封口ゴム」は、本件発明1の「前記ケースを封止するための封止部材」に相当する。
但し、封止部材が、本件発明1は「ブチルゴム」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
g 引用発明の「PEDOTの粉末とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合した」「粉末と溶媒とを含む分散体に含浸させて」「形成し」た「導電性ポリマーからなる固体電解質層」は、π共役系導電性高分子を含んでいる。したがって、引用発明の「固体電解質層」は、本件発明1の「π共役系導電性高分子を含」む「固体電解質層」に相当する。
h 引用発明の「イオン伝導性物質は、溶媒と溶質とからなる」ことは、本件発明1の「前記電解液は、溶媒および溶質を含」むことに相当する。
i 引用発明の「溶媒」が「エチレングリコールおよびγ-ブチロラクトンからなる混合溶媒」であって、さらに「スルホランを追加的に用い」ていることは、本件発明1の「前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物と、ラクトン化合物と、を含み」「前記グリコール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む」ことに相当する。
j 引用発明の「混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は10~80wt%」であることは、本件発明1の「前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり」に含まれる。
k 引用発明の「混合溶媒中のスルホラン系の溶媒の添加量は10~50wt%である」ことは、本件発明1の「前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上であり」と一部重複する。
但し、本件発明1は「前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上」であるのに対して、引用発明は「混合溶媒中のスルホラン系の溶媒の添加量は10~50wt%」である点で相違する。
l 引用発明の「混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は10~80wt%」で、「混合溶媒中のスルホラン系の溶媒の添加量は10~50wt%である」ことは、本件発明1の「前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上であり」と一部重複する。
但し、本件発明1は「前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上」であるのに対して、引用発明は「混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は10~80wt%」及び「混合溶媒中のスルホラン系の溶媒の添加量は10~50wt%」である点で相違する。
m 本件発明1は「前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が、10質量%以下(ただし、前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が10質量%である場合を除く)」であるのに対して、引用発明は「混合溶媒中におけるγ-ブチロラクトンの添加量は10~60wt%」である点で相違する。
n 引用発明の「固体電解コンデンサ」は、本件発明1の「電解コンデンサ」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に設けられたセパレータと、を含むコンデンサ素子と、
前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、
前記コンデンサ素子に含浸された電解液と、
前記コンデンサ素子を収納するめのケースと、
前記ケースを封止するための封止部材と、を備え、
前記固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含み、
前記電解液は、溶媒および溶質を含み、
前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物と、ラクトン化合物と、を含み、
前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、
前記グリコール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、
電解コンデンサ。」
(相違点1)
封止部材が、本件発明1は「ブチルゴム」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点2)
本件発明1は「前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上」であるのに対して、引用発明は「混合溶媒中のスルホラン系の溶媒の添加量は10~50wt%」である点。
(相違点3)
本件発明1は「前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上」であるのに対して、引用発明は「混合溶媒中におけるエチレングリコールの添加量は10~80wt%」及び「混合溶媒中のスルホラン系の溶媒の添加量は10~50wt%」である点。
(相違点4)
本件発明1は「前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が、10質量%以下(ただし、前記溶媒に含まれる前記ラクトン化合物の割合が10質量%である場合を除く)」であるのに対して、引用発明は「混合溶媒中におけるγ-ブチロラクトンの添加量は10~60wt%」である点。
(イ)判断
まず、相違点4について検討する。
引用発明のエチレングリコールは、初期のESR特性および高温におけるコンデンサ特性を良好にするものであることを考慮すると(【0039】)、「また、電解質溶液の溶媒としてγ-ブチロラクトンを所定量添加させることで、電解質溶液のコンデンサ素子への含浸性を改善できる。比較的粘性の高いエチレングリコールと粘性が低いγ-ブチロラクトンを用いることで、コンデンサ素子への含浸性を高め、初期特性及び長時間の使用での良好な特性を維持とともに、低温での充放電特性が良好となる。なお、混合溶媒中のγ-ブチロラクトンが多いと電解液の蒸散性が高まり、期待される特性が維持されにくいため、混合溶媒中におけるγ-ブチロラクトンの添加量は、好ましくは、10~60wt%である。」(【0024】)の記載より、γ-ブチロラクトンは低温での充放電特性を良好にするために添加するものであり、その添加量は10~60wt%であることが解る。
さらに、引用文献1には、γ-ブチロラクトンの添加量を10wt%未満とした唯一の具体例である実施例15(添加量5wt%)は、低温充放電特性が上昇する結果(即ち、悪化)となることも記載されている(【0039】、表3)。
そうすると、引用発明において、γ-ブチロラクトンの添加量を10wt%より小さくすると、低温での充放電特性が悪くなることは明らかであり、γ-ブチロラクトンの添加量を10wt%より小さくすることは阻害要因があるといえる。
そして、引用文献2及び3は、上記相違点1に係る構成である電解コンデンサの封止部材にブチルゴムを使用することが周知技術であることを示す文献であり、上記相違点4に係る構成は記載されていない。
したがって、上記相違点4に係る構成は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(ウ)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、意見書とともに参考資料1(「カーエレクトロニクスにおける最近の欠陥・トラブル事例とその対策」(発行人:高薄一弘、発行所:株式会社技術情報協会、発行年:2002年11月29日))を提出し、参考資料1には、TMS(スルホラン)は、封口ゴム透過性が優れていること、EG系に比べはるかに低温特性も優れていること及びGBLは易蒸散性であり高温度での寿命を満足できないことが記載されているので、低温特性を考慮する当業者においては、TMSを選択することは当然考えである。そうすると、低温特性を考慮する当業者においては、引用文献1の表3の実施例15(EG90wt%、GBL5wt%、TMS5wt%)において、高温度での寿命を満足できないGBLではなく、低温での特性が良好となるTMSを選択し、TMSの量を増やそうと意図することは容易であり、引用文献1におけるTMSの量が比較的多い実施例9(55wt%)や実施例11(50wt%)では、特段、特性上の見劣り無く、TMSの量を50wt%程度の増やすことの困難性はない旨を主張している。(意見書第11頁第1-16行)
しかしながら、引用文献1におけるTMSの量を増やした実施例9及び実施例11はGBLの量がともに40wt%であり、実施例15に比較すると、TMSと共にGBLを増やしている。さらに、表3によると、低温特性(ESR特性 -40℃[mΩ])は、TMSの量に関係なく、GBLを20wt%以上にすることで改善することが読み取れるので、GBLを5wt%に維持したままTMSのみその量を増やすことが当業者にとって容易であるとまではいえず、上記主張を採用することができない。
イ 本件発明3ないし9について
本件発明3ないし9は、本件発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件発明1と同様な理由により、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 本件発明10について
引用文献4は、本件発明10に係る構成であるホウ酸エステルを含む電解コンデンサ用電解液が、公知技術であることを示す文献であり、本件発明1の上記相違点2に係る構成は記載されていない。
そうすると、本件発明10は、本件発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件発明1と同様な理由により、引用文献1に記載された発明、引用文献4に記載された技術及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)特許法第36条第6項第2号について
訂正事項2により、特許請求の範囲の請求項8の記載を「請求項7に記載の電解コンデンサ」に訂正し、訂正事項3により、特許請求の範囲の請求項9の記載を「請求項7または8に記載の電解コンデンサ」に訂正するとこにより、特許請求の範囲の記載は明確になった。
(3)まとめ
以上のことより、当該取消理由通知書に記載した取消理由により、本件発明1、3ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項2ないし9に係る発明は、甲第4号証に記載された発明、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術に基づいて、請求項10に係る発明は、甲第4号証に記載された発明、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。
甲第1号証:再公表特許第2014/21333号(取消理由の引用文献1)
甲第2号証:再公表特許第01/73802号(取消理由の引用文献2)
甲第3号証:特開平5-136003号公報
甲第4号証:特開2014-123685号公報
甲第5号証:特開2000-77272号公報(取消理由の引用文献4)
2 各号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証に記載された事項は、上記「第4 2(1)」に記載したとおりである。
(2)甲第2号証
甲第2号証に記載された事項は、上記「第4 2(2)」に記載したとおりである。
(3)甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は上述の問題点を解決するもので、高温雰囲気中における電解液の蒸発量を大幅に低下し、電解コンデンサの寿命特性を大幅に向上させるものである。すなわち、陽極箔と陰極箔との間に電解紙を介在させて巻回したコンデンサ素子に電解液を含浸させた電解コンデンサにおいて、上記電解液が、γ-ブチロラクトンを主溶媒として、有機酸のテトラアルキルアンモニウム塩あるいはテトラアルキルホスホニウム塩を溶解した溶液中に、SiOを溶解させ、かつ予め上記電解紙中にゲル化剤としてのリン化合物,ホウ素化合物あるいは有機酸のアンモニウム塩が含有されていることを特徴とする電解コンデンサである。なお、電解紙中にリン化合物などゲル化剤を含有させる方法は、電解紙を抄紙する際の液中にゲル化剤を溶解しておく方法、電解紙を抄紙した後ゲル化剤の溶解した液中に浸漬させる方法など、いかなる方法を用いてもよい。」
(4)甲第4号証
ア 甲第4号証には、次の事項が記載されている。
「【0013】
通常、導電性高分子を形成した後のコンデンサ素子内には、導電性高分子の他に、重合反応に関与しなかったモノマーや酸化剤及びその他の反応残余物が存在している。そして、これらの導電性高分子以外の物質の耐電圧は導電性高分子の耐電圧より低いため、これらの物質が電解コンデンサの耐電圧を低下させていると考えられる。そこで、本発明者等は、導電性高分子の粒子と少なくともソルビトールとを含む所定の導電性高分子化合物を溶媒に分散させた分散体をコンデンサ素子に含浸させて導電性高分子を含む電解質層を形成し、エチレングリコールを含む電解液を充填することで、これらの反応残余物自体が混入しないようにできることを見出し、さらに、鉛フリーリフローによる耐電圧特性の劣化を防止すべく検討を重ねた結果、本発明を完成するに至ったものである。」
「【0018】
(電解コンデンサの製造方法)
本発明に係る電解コンデンサの製造方法の一例は、以下の通りである。すなわち、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成する(素子形成工程)。なお、必要に応じてこのコンデンサ素子に修復化成を施してもよい。続いて、このコンデンサ素子を、導電性高分子(必要に応じてさらにドーパント剤を含む)の粒子と、ソルビトール又はソルビトール及び多価アルコールと、溶媒とを含む導電性高分子化合物分散体に含浸させ(含浸工程)、乾燥を経て導電性高分子、ソルビトール又はソルビトール及び多価アルコールを含む固体電解質層を形成する(固体電解質形成工程)。その後、このコンデンサ素子を所定の電解液に浸漬して、コンデンサ素子内の空隙部にこの電解液を充填する(電解液充填工程)。そして、このコンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着して、加締め加工によって封止した後、エージングを行い、電解コンデンサを形成する(封止工程)。」
「【0022】
(導電性高分子化合物分散体)
導電性高分子化合物分散体としては、例えば、ポリ-(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTという)からなる導電性高分子化合物の粒子とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合したものを溶媒の水に溶解したものを用いることが好ましい。また、導電性高分子化合物の濃度は、水溶液に対して1~10%とすることができる。なお、導電性高分子化合物の分散液の溶媒は、導電性高分子化合物が溶解するものであれば水以外でも良い。ここで、上記の粒子とは、導電性高分子の一次粒子や、導電性高分子化合物及びドーパントが凝集した凝集物(二次粒子)やそれらの粉末も含むものである。」
「【0029】
(電解液充填工程)
コンデンサ素子内に導電性高分子化合物と、ソルビトール又はソルビトール及び多価アルコールとを含む固体電解質層を形成した後、コンデンサ素子内に充填する電解液としては、電解コンデンサ用電解液を用いることができる。電解液に使用できる溶媒としては、溶媒の例としては、γ-ブチロラクトン、エチレングリコール、スルホラン、ジメチルホルムアミド、水及びそれらの混合溶媒等が挙げられるが、その沸点が、寿命試験温度である120℃以上の溶媒を用いることが好ましい。特に、エチレングリコールを用いると、初期のESR特性や耐電圧特性が良好となる。」
「【0031】
さらに、エチレングリコールを含む溶媒に、γ-ブチロラクトンなどのラクトン系やスルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を追加的に用いてもよい。ラクトン系は低温でのESR特性を改善し、スルホラン系の溶媒は高沸点であるため、電解液の蒸散を抑制し、高温特性が良好になる。」
「【0032】
電解液としては、上記の溶媒と、有機酸、無機酸ならびに有機酸と無機酸との複合化合物の少なくとも1種のアンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩等の溶質とからなる溶液を挙げることができる。上記有機酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸等のカルボン酸、フェノール類が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、リン酸エステル、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。」
イ ラクトン化合物を含まないことで本件発明2と対比するのに最もふさわしく、かつ、特許異議申立人も引用している実施例18に着目すると、甲第4号証には電解コンデンサに関して、次の事項が記載されている。
・【0018】によれば、表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、コンデンサ素子に、導電性高分子とドーパント剤を含む粒子と、ソルビトール及び多価アルコールと、溶媒とを含む導電性高分子化合物分散体を含浸させて、固体電解質層を形成し、コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填し、コンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着した電解コンデンサ。
・【0018】に記載された、導電性高分子とドーパント剤を含む粒子と溶媒を含む導電性高分子化合物分散体は、【0022】に記載された導電性高分子化合物分散体なので、【0022】によれば、導電性高分子とドーパント剤を含む粒子は、PEDOTからなる導電性高分子化合物の粒子とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合したものである。
・【0032】によれば、電解液は、溶媒と溶質とからなる。
・【0029】及び表4の実施例18によれば、溶媒はエチレングリコールを100wt%含み、γ-ブチルラクトン及びスルホランを含まない。
ウ したがって、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
「表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、
コンデンサ素子に、導電性高分子とドーパント剤を含む粒子と、ソルビトール及び多価アルコールと、溶媒とを含む導電性高分子化合物分散体を含浸させて、固体電解質層を形成し、
コンデンサ素子内の空隙部に電解液を充填し、
コンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に封口ゴムを装着した電解コンデンサであって、
導電性高分子とドーパント剤を含む粒子は、PEDOTからなる導電性高分子化合物の粒子とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合したものであり、
電解液は、溶媒と溶質とからなり、
溶媒はエチレングリコールを100wt%含み、γ-ブチルラクトン及びスルホランを含まない、
電解コンデンサ。」
(5)甲第5号証
甲第5号証に記載された事項は、上記「第4 2(4)」に記載したとおりである。
3 対比、判断
(1)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲4発明を対比すると、次のことがいえる。
a 甲4発明の「酸化皮膜層」、「陽極箔」、「陰極箔」、「外装ケース」は、それぞれ、本件発明2の「誘電体層」、「陽極体」、「陰極体」、「ケース」に相当する。
b 甲4発明の「表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回」た「コンデンサ素子」は、「酸化皮膜層が形成された陽極箔」と、「陰極箔」と、「陽極箔と陰極箔」と間に設けられた「セパレータ」を含んでいるので、本件発明2の「誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に設けられたセパレータと、を含むコンデンサ素子」に相当する。
c 甲4発明は「表面に酸化皮膜層が形成された陽極箔と陰極箔をセパレータを介して巻回して、コンデンサ素子を形成し、コンデンサ素子に、導電性高分子とドーパント剤を含む粒子と、ソルビトール及び多価アルコールと、溶媒とを含む導電性高分子化合物分散体を含浸させて、固体電解質層を形成し」たのであるから、「固体電解質層」は「酸化皮膜層」と接触している。したがって、甲4発明の「固体電解質層」は、本件発明2の「前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層」に相当する。
d 甲4発明の「コンデンサ素子内の空隙部に」「充填し」た「電解液」は、本件発明2の「前記コンデンサ素子に含浸された電解液」に相当する。
e 甲4発明の「コンデンサ素子を」「挿入し」た「外装ケース」は、本件発明2の「前記コンデンサ素子を収納するめのケース」に相当する。
f 甲4発明の「コンデンサ素子を外装ケースに挿入し、開口端部に」「装着した」「封口ゴム」は、本件発明2の「前記ケースを封止するための封止部材」に相当する。
但し、封止部材が、本件発明2は「ブチルゴム」であるのに対して、甲4発明はそのような特定がない点で相違する。
g 甲4発明の「PEDOTからなる導電性高分子化合物の粒子とポリスチレンスルホン酸からなるドーパントの固形分を混合した」「粒子と、ソルビトール及び多価アルコールと、溶媒とを含む導電性高分子化合物分散体を含浸させて」「形成し」た「固体電解質層」は、π共役系導電性高分子を含んでいる。したがって、甲4発明の「固体電解質層」は、本件発明2の「π共役系導電性高分子を含」む「固体電解質層」に相当する。
h 甲4発明の「電解液は、溶媒と溶質とからな」ることは、本件発明2の「前記電解液は、溶媒および溶質を含」むことに相当する。
i 甲4発明の「溶媒はエチレングリコールを100wt%含み、γ-ブチルラクトン及びスルホランを含まない」ことと本件発明2は、「前記溶媒は、グリコール化合物を含み、前記グリコール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記溶媒はラクトン化合物を含まない」点で共通する。
但し、ラクトン化合物を含まない溶媒が、本件発明2は「前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物とを含み、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上であ」るのに対して、甲4発明は「溶媒はエチレングリコールを100wt%含み、」「スルホランを含まない」点で相違する。
したがって、本件発明2と甲4発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「誘電体層を有する陽極体と、陰極体と、陽極体と陰極体との間に設けられたセパレータと、を含むコンデンサ素子と、
前記陽極体の前記誘電体層に接触した固体電解質層と、
前記コンデンサ素子に含浸された電解液と、
前記コンデンサ素子を収納するめのケースと、
前記ケースを封止するための封止部材と、を備え、
前記固体電解質層は、π共役系導電性高分子を含み、
前記封止部材は、ブチルゴムを含み、
前記電解液は、溶媒および溶質を含み、
前記溶媒は、グリコール化合物を含み、
前記グリコール化合物は、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびジエチレングリコールよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記溶媒はラクトン化合物を含まない、
電解コンデンサ。」
(相違点A)
封止部材が、本件発明2は「ブチルゴム」であるのに対して、甲4発明はそのような特定がない点。
(相違点B)
ラクトン化合物を含まない溶媒が、本件発明2は「前記溶媒は、グリコール化合物と、スルホン化合物とを含み、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物の割合が、10質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記スルホン化合物の割合が、30質量%以上であり、前記溶媒に含まれる前記グリコール化合物および前記スルホン化合物を合計した割合が、70質量%以上であ」るのに対して、甲4発明は「溶媒はエチレングリコールを100wt%含み、」「スルホランを含まない」点。
イ 判断
上記相違点Bについて検討する。
甲第4号証には「さらに、エチレングリコールを含む溶媒に、γ-ブチロラクトンなどのラクトン系やスルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホランから選ばれる少なくとも1種の溶媒を追加的に用いてもよい。」(【0031】)と記載されているが、エチレングリコールを含む溶媒に、ラクトン系を添加せずにスルホン化合物のみを添加する例は記載されていない。
そして、甲第1号証にも、ラクトン化合物を含まず、グリコール化合物と、スルホン化合物とを含む溶媒の例は記載されていない。
また、甲第2号証には、電解コンデンサ用電解液において、ラクトン及び環状スルホンからなる群から選ばれる一種以上の溶媒に、更にエチレングリコールを含有するものが好ましいことが記載されているが(8頁13-18行)、甲第2号証の電解コンデンサは固体電解質を有していない。そうすると、甲4発明は、導電性高分子の粒子とソルビトールとを含む導電性高分子化合物を溶媒に分散させた分散体をコンデンサ素子に含浸させて導電性高分子を含む固体電解質層を形成し、エチレングリコールを含む電解液を充填することで特性を改善したのであるから(【0013】)、甲4発明の固体電解質層が形成されたコンデンサ素子に充填する電解液の溶媒として、甲2号証に記載された溶媒を直ちに適用できるものではない。
さらに、甲第3号証に記載された電解コンデンサは、電解液の主溶媒をγ-ブチロラクトンとするものであり(【0004】)、γ-ブチロラクトンを含まない溶媒は記載されていない。
したがって、上記相違点Bに係る構成は、甲4発明、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第4号証に記載された発明、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件発明3ないし9について
本件発明3ないし9は、本件発明2に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件発明2と同様な理由により、甲第4号証に記載された発明、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)本件発明10について
甲第5号証は、電解コンデンサの溶媒として、エチレングリコールを用いることは記載されているが、スルホン化合物を用いることは記載されていない(【0032】)。
したがって、本件発明2での検討を踏まえると、本件発明10は、甲第4号証に記載された発明、甲第1号証ないし甲第3号証及び甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
4 まとめ
したがって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701232