特許異議申立
2021-701155
コンクリート杭
- 審判番号
- 2021-701155
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-154216
- 登録番号
- 6884259
- 請求日
- 2021年12月08日
- 審決日
- 2023年09月25日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大成建設株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】長谷部 善太郎
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【異議申立人】森 貴子
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 西田 秀彦
- 審判官 前川 慎喜
- 分類
- P1652.121-YAA(E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6884259号発明「コンクリート杭」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6884259号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、3について訂正することを認める。
特許第6884259号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第6884259号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6884259号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成28年11月22日に出願された特願2016-226382号の一部を分割して令和2年9月15日に出願され、令和3年5月13日にその特許権の設定登録がされ、同年6月9日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年12月 8日 :特許異議申立人森貴子による請求項1及び2 に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 3月31日付け:取消理由通知書
同年 6月 3日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年 9月30日付け:訂正拒絶理由通知書
同年11月 4日 :特許権者による意見書の提出
同年12月26日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和5年 3月 6日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求 (以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正 請求による訂正を「本件訂正」という。)
同年 5月19日 :申立人による意見書(以下、「意見書」とい う。)の提出
同年 7月21日付け:訂正拒絶理由通知書
同年 8月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の手続 補正書の提出
なお、令和4年6月3日にされた訂正の請求は、令和5年3月6日に新たな訂正の請求がされたことにより、取り下げられたものとみなす(特許法120条の5第7項)。
第2 訂正の適否
1 訂正拒絶理由の概要
令和5年3月6日付け訂正請求書による願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の訂正の請求に対し、同年7月21日付けで通知した訂正拒絶理由の概要は次のとおり。
(1)訂正事項5について本件明細書等の【図4】、段落【0028】、【図10】及び段落【0047】のいずれにも、「築造孔の最下端から杭に作用する曲げモーメントの分布形において、杭上端から杭下端側に向かって前記曲げモーメントが反転する」「中間高さ位置まで低強度コンクリートを打設すること」、要するに、「築造孔の最下端から」「曲げモーメントが反転する」「位置まで低強度コンクリートを打設すること」は、記載も示唆もされておらず、上記記載から自明な事項であるともいえない。
また、本件明細書等の上記の段落や図面以外の記載をみても、「築造孔の最下端から」「曲げモーメントが反転する」「位置まで低強度コンクリートを打設すること」は、記載も示唆もされておらず、自明な事項であるともいえない。
したがって、上記訂正事項5は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であると認めることはできず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものではない。
以上のとおりであるから、訂正事項5は認められない。
(2)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正事項5と同様の訂正の内容を含むものであるから、訂正事項8については、訂正事項5と同様である。よって、訂正事項8は認められない。
(3)訂正事項1、2、3、4、6及び7について
上記(1)のとおり認められないこととなった訂正事項5は、請求項2について訂正するものであるから、請求項2について訂正する他の訂正事項も認められないこととなる。よって、訂正事項4、6及び7による訂正後の請求項2についての訂正も認められない。
また、上記(2)のとおり認められないこととなった訂正事項8は、請求項1についても訂正するものであるから、請求項1について訂正する他の訂正事項も認められないこととなる。よって、訂正事項1、2及び3による訂正後の請求項1についての訂正も認められない。
2 本件補正の適否
(1)本件補正の内容
令和5年8月22日付けの訂正請求書に係る手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、下記のとおりの内容で補正するものである。(なお、以下の訂正事項に係る記載に付した下線は訂正箇所を示す。)
ア 補正前の請求項2に係る訂正事項4~7を、訂正後の請求項2の削除という訂正事項4に変更する補正、すなわち、
「エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に、
「鉛直方向に延びる複数本の主筋と、当該主筋を囲んで巻き立てられたスパイラル型フープ筋と、を備える場所打ちコンクリート杭の構築方法であって、地盤中に設けられた築造孔に、主筋とフープ筋で組み立てられた鉄筋かごを挿入する工程と、」と記載されているのを、
「鉛直方向に延びる複数本の主筋と、当該主筋を囲んで巻き立てられたスパイラル型フープ筋と、を備える場所打ちコンクリート杭の構築方法であって、前記主筋、および前記スパイラル型フープ筋は同一形式で配筋されており、地盤中に設けられた築造孔に、主筋とフープ筋で組み立てられた鉄筋かごを挿入する工程と、」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に、
「築造孔の最下端から中間高さ位置まで低強度コンクリートを打設し、一旦打ち止めて、杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築する工程と、」と記載されているのを、
「築造孔の最下端から杭に作用する曲げモーメントの分布形において、杭上端から杭下端側に向かって前記曲げモーメントが反転する杭上部側に位置する前記杭中間部と前記杭上部との間の中間高さ位置まで低強度コンクリートを打設し、一旦打ち止めて、杭下部から杭中間部まで低強度コンクリートでコンクリート杭を構築する工程と、」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に、
「杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築後、1時間以内に、再度、築造孔中に高強度コンクリートを打設して、杭上部のコンクリート杭を構築する工程と、」と記載されているのを、
「杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築後、1時間以内に、再度、築造孔中に高強度コンクリートを打設して、杭上部を高強度コンクリートでコンクリート杭を構築する工程と、」に訂正する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2に、
「杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高いこと」と記載されているのを、「杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高く、杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高いこと」に訂正する。」と記載されているのを、
「エ 訂正事項4
請求項2を削除する。」に補正する。
イ 補正前の訂正事項8を、補正後において、訂正事項の項番を繰り上げるとともに、上記アの補正に伴い訂正後の明細書の段落【0008】の記載を、請求項1及び2の記載に整合させる補正、すなわち、
「ク 訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0009】に、
「 第1の発明のコンクリート杭(例えば、後述のコンクリート杭1)は、鉛直方向に延びる複数本の主筋(例えば、後述の主筋20)と、当該主筋を囲んで巻き立てられたフープ筋(例えば、後述のフープ筋21)と、を備えるコンクリート杭であって、杭上部(例えば、後述の杭上部30)のせん断強度は、杭中間部(例えば、後述の杭中間部31)および杭下部(例えば、後述の杭下部32)のせん断強度よりも高いことを特徴とする。
さらに、本発明の別態様のコンクリート杭では、杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋を使用し、前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部にはシングルスパイラル筋を配筋されることを特徴とする。
また、本発明の場所打ちコンクリート杭の構築方法では、地盤中に設けられた築造孔に、主筋とフープ筋で組み立てられた鉄筋かごを挿入する工程と、築造孔の最下端から中間高さ位置まで低強度コンクリートを打設し、一旦打ち止めて、杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築する工程と、杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築後、1時間以内に、再度、築造孔中に高強度コンクリートを打設して、杭上部のコンクリート杭を構築する工程と、を備えることを特徴とする。
また、、本発明の既成コンクリート杭の構築方法では、杭に打ち込む鉄筋かごを水平方向に延びる鋼製の円筒形状の型枠内に配置した後、杭上部と杭中間部との打継面に前記鉄筋かごを横切るようにメッシュ型枠を設置する工程と、前記鉄筋かご、及び前記メッシュ型枠を設置した後、杭下部から杭中間部まで低強度コンクリートを打設する工程と、前記低強度コンクリートを打設後、前記メッシュ型枠を取り除き、杭上部に高強度コンクリートを打設する工程と、を備えることを特徴とする。」と記載されているのを、
「 第1の発明のコンクリート杭(例えば、後述のコンクリート杭1)は、鉛直方向に延びる複数本の主筋(例えば、後述の主筋20)と、当該主筋を囲んで巻き立てられたフープ筋(例えば、後述のフープ筋21)と、を備えるコンクリート杭であって、杭上部(例えば、後述の杭上部30)のせん断強度は、杭中間部(例えば、後述の杭中間部31)および杭下部(例えば、後述の杭下部32)のせん断強度よりも高く、杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高いことを特徴とする。
さらに、本発明の別態様のコンクリート杭では、杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋、及び杭の全長に亘って同一形式で配筋された前記主筋を使用し、前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部には前記ダブルスパイラル筋と略同一の間隔でシングルスパイラル筋を配筋されることを特徴とする。
また、本発明の場所打ちコンクリート杭の構築方法では、前記主筋、および前記スパイラル型フープ筋は同一形式で配筋されてており、地盤中に設けられた築造孔に、主筋とフープ筋で組み立てられた鉄筋かごを挿入する工程と、築造孔の最下端から杭に作用する曲げモーメントの分布系において、杭上端から杭下端側に向かって前記曲げモーメントが反転する杭上部側に位置する前記杭中間部と前記杭上部との間の中間高さ位置まで低強度コンクリートを打設し、一旦打ち止めて、杭下部から杭中間部まで低強度コンクリートでコンクリート杭を構築する工程と、杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築後、1時間以内に、再度、築造孔中に高強度コンクリートを打設して、杭上部を高強度コンクリートでコンクリート杭を構築する工程と、を備え、杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高く、杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高いことを特徴とする。
また、、本発明の既成コンクリート杭の構築方法では、杭に打ち込む鉄筋かごを水平方向に延びる鋼製の円筒形状の型枠内に配置した後、杭上部と杭中間部との打継面に前記鉄筋かごを横切るようにメッシュ型枠を設置する工程と、前記鉄筋かご、及び前記メッシュ型枠を設置した後、杭下部から杭中間部まで低強度コンクリートを打設する工程と、前記低強度コンクリートを打設後、前記メッシュ型枠を取り除き、杭上部に高強度コンクリートを打設する工程と、を備え、杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高いことを特徴とする。」に訂正する。」と記載されているのを、
「オ 訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0009】に、
「 第1の発明のコンクリート杭(例えば、後述のコンクリート杭1)は、鉛直方向に延びる複数本の主筋(例えば、後述の主筋20)と、当該主筋を囲んで巻き立てられたフープ筋(例えば、後述のフープ筋21)と、を備えるコンクリート杭であって、杭上部(例えば、後述の杭上部30)のせん断強度は、杭中間部(例えば、後述の杭中間部31)および杭下部(例えば、後述の杭下部32)のせん断強度よりも高いことを特徴とする。
さらに、本発明の別態様のコンクリート杭では、杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋を使用し、前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部にはシングルスパイラル筋を配筋されることを特徴とする。
また、本発明の場所打ちコンクリート杭の構築方法では、地盤中に設けられた築造孔に、主筋とフープ筋で組み立てられた鉄筋かごを挿入する工程と、築造孔の最下端から中間高さ位置まで低強度コンクリートを打設し、一旦打ち止めて、杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築する工程と、杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築後、1時間以内に、再度、築造孔中に高強度コンクリートを打設して、杭上部のコンクリート杭を構築する工程と、を備えることを特徴とする。
また、、本発明の既成コンクリート杭の構築方法では、杭に打ち込む鉄筋かごを水平方向に延びる鋼製の円筒形状の型枠内に配置した後、杭上部と杭中間部との打継面に前記鉄筋かごを横切るようにメッシュ型枠を設置する工程と、前記鉄筋かご、及び前記メッシュ型枠を設置した後、杭下部から杭中間部まで低強度コンクリートを打設する工程と、前記低強度コンクリートを打設後、前記メッシュ型枠を取り除き、杭上部に高強度コンクリートを打設する工程と、を備えることを特徴とする。」と記載されているのを、
「第1の発明のコンクリート杭(例えば、後述のコンクリート杭1)は、鉛直方向に延びる複数本の主筋(例えば、後述の主筋20)と、当該主筋を囲んで巻き立てられたフープ筋(例えば、後述のフープ筋21)と、を備えるコンクリート杭であって、杭上部(例えば、後述の杭上部30)のせん断強度は、杭中間部(例えば、後述の杭中間部31)および杭下部(例えば、後述の杭下部32)のせん断強度よりも高く、杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高いことを特徴とする。
さらに、本発明の別態様のコンクリート杭では、杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋、及び杭の全長に亘って同一形式で配筋された前記主筋を使用し、前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部には前記ダブルスパイラル筋と略同一の間隔でシングルスパイラル筋を配筋されることを特徴とする。
また、、本発明の既成コンクリート杭の構築方法では、杭に打ち込む鉄筋かごを水平方向に延びる鋼製の円筒形状の型枠内に配置した後、杭上部と杭中間部との打継面に前記鉄筋かごを横切るようにメッシュ型枠を設置する工程と、前記鉄筋かご、及び前記メッシュ型枠を設置した後、杭下部から杭中間部まで低強度コンクリートを打設する工程と、前記低強度コンクリートを打設後、前記メッシュ型枠を取り除き、杭上部に高強度コンクリートを打設する工程と、を備え、杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高いことを特徴とする。」に訂正する。」に補正する。
(2)本件補正の適否
ア 本件補正のうち上記(1)アの補正は、請求項2を削除する訂正事項に係る補正であるから、審理対象の拡張変更を伴うものではない。
イ 本件補正のうち上記(1)イの補正は、上記(1)アの補正に整合させるための訂正明細書についての訂正事項の補正であるから、審理対象の拡張変更を伴うものではない。
ウ 以上のとおりであるから、本件補正は、本件訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第131条の2第1項の規定に適合する。
なお、本件補正により、訂正拒絶理由通知の対象となった訂正事項が存在しなくなったので、令和5年7月21日付け訂正拒絶理由通知において指摘した訂正拒絶理由も解消している。
3 訂正の適否
上記2に示したとおり本件補正は適法なものと認められるから、本件補正後の本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋を使用し、」と記載されているのを、
「杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋、及び杭の全長に亘って同一形式で配筋された前記主筋を使用し、」
に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記杭中間部と前記杭下部にはシングルスパイラル筋を配筋することで、」と記載されているのを、
「前記杭中間部と前記杭下部には前記ダブルスパイラル筋と略同一の間隔でシングルスパイラル筋を配筋することで、」
に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高いこと」と記載されているのを、
「杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高く、杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高いこと」
に訂正する。
エ 訂正事項4
請求項2を削除する。
オ 訂正事項5
訂正事項5は、各請求項に対応する次の3つの訂正事項(以下、「訂正事項5a」~「訂正事項5c」という。)が含まれている。
(ア)訂正事項5a
願書に添付した明細書の段落【0009】のうち、
「第1の発明のコンクリート杭(例えば、後述のコンクリート杭1)は、鉛直方向に延びる複数本の主筋(例えば、後述の主筋20)と、当該主筋を囲んで巻き立てられたフープ筋(例えば、後述のフープ筋21)と、を備えるコンクリート杭であって、杭上部(例えば、後述の杭上部30)のせん断強度は、杭中間部(例えば、後述の杭中間部31)および杭下部(例えば、後述の杭下部32)のせん断強度よりも高いことを特徴とする。
さらに、本発明の別態様のコンクリート杭では、杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋を使用し、前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部にはシングルスパイラル筋を配筋されることを特徴とする。」と記載されている部分を、
「第1の発明のコンクリート杭(例えば、後述のコンクリート杭1)は、鉛直方向に延びる複数本の主筋(例えば、後述の主筋20)と、当該主筋を囲んで巻き立てられたフープ筋(例えば、後述のフープ筋21)と、を備えるコンクリート杭であって、杭上部(例えば、後述の杭上部30)のせん断強度は、杭中間部(例えば、後述の杭中間部31)および杭下部(例えば、後述の杭下部32)のせん断強度よりも高く、杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高いことを特徴とする。
さらに、本発明の別態様のコンクリート杭では、杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋、及び杭の全長に亘って同一形式で配筋された前記主筋を使用し、前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部には前記ダブルスパイラル筋と略同一の間隔でシングルスパイラル筋を配筋されることを特徴とする。」に訂正する。
(イ)訂正事項5b
願書に添付した明細書の段落【0009】のうち、
「また、本発明の場所打ちコンクリート杭の構築方法では、地盤中に設けられた築造孔に、主筋とフープ筋で組み立てられた鉄筋かごを挿入する工程と、築造孔の最下端から中間高さ位置まで低強度コンクリートを打設し、一旦打ち止めて、杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築する工程と、杭下部から杭中間部までのコンクリート杭を構築後、1時間以内に、再度、築造孔中に高強度コンクリートを打設して、杭上部のコンクリート杭を構築する工程と、を備えることを特徴とする。」と記載されている部分を削除する。
(ウ)訂正事項5c
願書に添付した明細書の段落【0009】のうち、
「また、、本発明の既成コンクリート杭の構築方法では、杭に打ち込む鉄筋かごを水平方向に延びる鋼製の円筒形状の型枠内に配置した後、杭上部と杭中間部との打継面に前記鉄筋かごを横切るようにメッシュ型枠を設置する工程と、前記鉄筋かご、及び前記メッシュ型枠を設置した後、杭下部から杭中間部まで低強度コンクリートを打設する工程と、前記低強度コンクリートを打設後、前記メッシュ型枠を取り除き、杭上部に高強度コンクリートを打設する工程と、を備えることを特徴とする。」と記載されている部分を、
「また、、本発明の既成コンクリート杭の構築方法では、杭に打ち込む鉄筋かごを水平方向に延びる鋼製の円筒形状の型枠内に配置した後、杭上部と杭中間部との打継面に前記鉄筋かごを横切るようにメッシュ型枠を設置する工程と、前記鉄筋かご、及び前記メッシュ型枠を設置した後、杭下部から杭中間部まで低強度コンクリートを打設する工程と、前記低強度コンクリートを打設後、前記メッシュ型枠を取り除き、杭上部に高強度コンクリートを打設する工程と、を備え、杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高いことを特徴とする。」に訂正する。
(2)訂正の目的、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、使用する「複数本の主筋」の配筋について、何ら特定していないものから、「杭上部と杭中間部および杭下部」に「杭の全長に亘って同一形式で配筋された前記主筋」を使用することを特定し、限定するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項の有無
a 本件特許の明細書(以下「本件明細書」といい、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面を以下「本件明細書等」という。)の段落【0020】には、「・・・〔第1実施形態〕図1は、本発明の第1実施形態に係るコンクリート杭1を備えた建物の基礎構造10の縦断面図である。図2は、図1に示すコンクリート杭のA-A横断面図である。基礎構造10は、地盤に打ち込まれた鉄筋コンクリート造のコンクリート杭1と、このコンクリート杭1の上端に支持されたフーチング11と、フーチング11同士を連結する基礎梁12と、フーチング11の上に設けられた柱13と、を備える。」と記載され、段落【0021】には、「コンクリート杭1は、略円柱形状であり、鉛直方向に延びる複数本の主筋20と、これら主筋20を囲んで巻き立てられたフープ筋21と、を備える。以下、コンクリート杭1の上部を杭上部30、中間部を杭中間部31、下部を杭下部32とする。」と記載されている。
b 図1
「
[図:0001404725000001.jpg]
」
上記図1には、複数本の主筋20が、フーチング11から、杭の杭上部30、杭中間部31、そして杭下部32にわたって同じように延びるとともに、フーチング11中に存在する主筋の上端同士、及び杭下部32中に存在する主筋の下端同士が同じ位置になっている点が記載されている。
c 図2
「
[図:0001404725000002.jpg]
」
上記図2には、複数本の主筋20が等間隔に配置されている点が示されている。
d 上記図1及び2の記載から、複数本の主筋20は、フーチング11中に存在する上端から、コンクリート杭1の杭下部32中の下端まで同じ長さであるとともに、同じ間隔で配置されているといえるから、複数本の主筋20は、フーチング11から、杭下部32まで、同一形式で配筋されているといえる。
そして、フーチング11がコンクリート杭1の上端に支持されていること、及び、「コンクリート杭1」が「上部を杭上部30、中間部を杭中間部31、下部を杭下部32」としていること(段落【0020】【0021】。上記a参照)をふまえれば、複数本の主筋20は、コンクリート杭1の杭上部30、杭中間部31及び杭下部32において、すなわち、コンクリート杭1の全長に亘って同じ形式で配筋されているといえる。
e したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
(エ)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、請求項1について特許異議の申立てがされているので、上記(ア)のとおり、訂正事項1に係る訂正が、請求項1について特許請求の範囲の減縮を目的とするものであっても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項1に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法120条の5第9項において読み替えて重用する同法126項5項及び6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、「シングルスパイラル筋を配筋」する場合に、「ダブルスパイラル筋と略同一の間隔」とすることを特定し、限定するものであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項の有無
a 本件明細書の段落【0012】には、「この発明によれば、杭上部のフープ筋に、複数の螺旋状の鉄筋が重ねて巻き立てられた重ね巻き部を設け、杭中間部および杭下部のフープ筋に一本の螺旋状の鉄筋を用いることで、杭の全長に亘ってフープ筋同士の間隔を殆ど変更することなく、杭上部のせん断強度を、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも容易に高くできる。」と記載されており、段落【0022】には、「・・・ 杭中間部31および杭下部32のフープ筋21は、一本の螺旋状の鉄筋である。 杭上部30のフープ筋21は、2本の螺旋状(スパイラル型)の鉄筋を重ねて巻き立てられた重ね巻き部23で構成されている。」と記載されており、段落【0023】には、「ここで、杭上部30と杭中間部31および杭下部32とでは、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋21が使用されている。これにより、配筋時に使用する鉄筋を間違えるリスクを低減できるとともに、配筋作業の効率を高めるができる。また、フープ筋21同士および重ね巻き部23同士の間隔も、略同一となっている。」と記載されている。
よって、本件明細書には、フープ筋21同士の間隔と、重ね巻き部23同士の間隔が、略同一であることが示されている。(上記下線は、当審で付した。)
b したがって、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
(エ)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、請求項1について特許異議の申立てがされているので、上記(ア)のとおり、訂正事項2に係る訂正が、請求項1について特許請求の範囲の減縮を目的とするものであっても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項1に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(オ)申立人の主張
申立人は、本件明細書の段落【0023】の「フープ筋21同士および重ね巻き部23同士の間隔も、略同一となっている。」との記載からは、フープ筋21であるシングルスパイラル筋同士の間隔が略同一、および、重ね巻き部23であるダブルスパイラル筋同士の間隔が略同一であることは理解できるが、当該段落に、ダブルスパイラル筋の間隔とシングルスパイラル筋の間隔とが略同一であることは明示されていない。また、段落【0012】には「杭上部においては、螺旋状の鉄筋を複数本重ねて巻き立てたので、フープ筋の必要な鉄筋量を確保しつつ、フープ筋間隔を杭中間部および杭下部のフープ筋に比べて、フープ筋1本の直径分だけ狭めるだけでよいので、高密度に配筋でき、杭の隅々までコンクリートを確実に打設できる。」との記載があって、ダブルスパイラル筋の間隔は、シングルスパイラル筋の間隔よりもフープ筋1本分だけ狭い(小さい)ことが理解でき、ダブルスパイラル筋の間隔とシングルスパイラル筋の間隔とが略同一であることは記載されていない旨主張する。(申立人の意見書1頁下から8行-2頁16行)
しかしながら、本件特許の明細書の段落【0012】には、「杭上部のフープ筋に、複数の螺旋状の鉄筋が重ねて巻き立てられた重ね巻き部を設け」ること、及び「杭中間部および杭下部のフープ筋に一本の螺旋状の鉄筋を用いること」が記載され、さらに「杭の全長に亘ってフープ筋同士の間隔を殆ど変更すること」がないことが記載されていることから、ダブルスパイラル筋の間隔とシングルスパイラル筋の間隔とが略同一であることが示されている。また、段落【0023】には、申立人が指摘するように「フープ筋21同士および重ね巻き部23同士の間隔も、略同一となっている。」との記載があるが、段落【0012】の「杭の全長に亘ってフープ筋同士の間隔を殆ど変更することなく」の記載をふまえれば、段落【0023】の上記記載は、「フープ筋21同士」の間隔と「重ね巻き部23同士の間隔」を比べて、これらが略同一であることを示したものと理解するのが自然である。
したがって、申立人の主張は、上記の判断を左右するものではなく採用することはできない。
(カ)小括
以上のとおりであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法120条の5第9項において読み替えて重用する同法126項5項及び6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3
(ア)訂正の目的
訂正事項3に係る訂正は、訂正前の「コンクリート杭」の「杭中間部」及び「杭下部」の靱性について、特定していないものから、訂正後の「杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高」いことを特定し、限定するものであるから、訂正事項3に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項の有無
a 本件明細書の段落【0029】には、「従来の高耐力杭は、杭の全長に亘って高強度とした構造であるため、図4(b)中破線で示すように、杭の水平変位を全長に亘って抑制して小さくできる。しかし、このような高耐力杭は築造方法が複雑で、製作日数が長くなり、高コストになるという課題があった。これに対して、本発明の杭は、杭上部のせん断強度のみを杭中間部および杭下部よりも増大させることで、杭上部に生じる水平変位量のみを抑制する点に特徴がある。よって、高い靱性能を備えた高いせん断強度を備える鉄筋コンクリート杭を実現できる。」との記載がある。当該記載からは、「従来の高耐力杭は、杭の全長に亘って高強度とした構造」としているところ、本発明の杭は、「杭上部のせん断強度のみを杭中間部および杭下部よりも増大させること」、すなわち、「杭中間部および杭下部」についてはせん断強度を増大させないことで、杭上部に比べて杭中間部および杭下部が「高い靱性能を備え」ていることが示されている。
b したがって、訂正事項3に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
(エ)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、請求項1について特許異議の申立てがされているので、上記(ア)のとおり、訂正事項3に係る訂正が、請求項1について特許請求の範囲の減縮を目的とするものであっても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項1に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法120条の5第9項において読み替えて重用する同法126項5項及び6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4
(ア)訂正の目的
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4に係る訂正は、上記(ア)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項2を削除するものであり、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
(エ)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、請求項2について特許異議の申立てがされているので、上記(ア)のとおり、訂正事項4に係る訂正が、請求項1について特許請求の範囲の減縮を目的とするものであっても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項2に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、訂正事項4に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法120条の5第9項において読み替えて重用する同法126項5項及び6項の規定に適合する。
オ 訂正事項5
(ア)訂正の目的
a 訂正事項5aに係る訂正は、訂正事項1~3に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の請求項1の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
b 訂正事項5bに係る訂正は、訂正事項4に係る訂正により、特許請求の範囲の請求項2を削除することに伴う訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
c 訂正事項5cに係る訂正は、特許請求の範囲の請求項3の記載に、明細書の段落【0009】の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5a~5cに係る訂正は、上記(ア)a~cにおいて検討したとおり、いずれも明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、その訂正内容からみて、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは明らかである。
(ウ)新規事項の有無
訂正事項5a~5cに係る訂正は、上記(ア)a~cにおいて検討したとおり、明瞭でない記載の釈明をするものであり、その訂正内容からみて、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載された事項の範囲内の訂正である。
(エ)独立特許要件について
a 本件特許異議の申立てにおいては、請求項1について特許異議の申立てがされており、また、上記(ア)aのとおり、訂正事項5aに係る訂正は、請求項1についての明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項1に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
b 本件特許異議の申立てにおいては、請求項2について特許異議の申立てがされており、また、上記(ア)bのとおり、訂正事項5bに係る訂正は、請求項2についての明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項2に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
c 本件特許異議の申立てにおいては、請求項3について特許異議の申立てがされていないものの、上記(ア)cのとおり、訂正事項5cに係る訂正は、請求項3についての明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項3に係る発明に、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件は課されない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、訂正事項5a~5cに係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法120条の5第9項において読み替えて重用する同法126項5項及び6項の規定に適合する。
カ 訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1~3について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件特許発明
令和5年3月6日にした本件訂正は、上記第2のとおり認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
鉛直方向に延びる複数本の主筋と、当該主筋を囲んで巻き立てられたスパイラル型フープ筋と、を備えるコンクリート杭であって、
杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋、及び杭の全長に亘って同一形式で配筋された前記主筋を使用し、
前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部には前記ダブルスパイラル筋と略同一の間隔でシングルスパイラル筋を配筋することで、
杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高く、杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高いことを特徴とするコンクリート杭。
【請求項2】 削除
」
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和4年12月26日付けで、訂正前の請求項1及び2に係る発明に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
【取消理由の要旨】
訂正前の請求項1に係る発明は、甲1発明及び甲2記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項2に係る発明は、甲3発明、甲第5号証及び甲第4号証に記載の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1及び2に係る特許は、特許法29条第2項に規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当するから、取り消されるべきものである。
なお、上記取消理由のうち、訂正前の請求項1に係る発明に対するものは、特許異議申立書に記載した請求項1に対する特許異議申立理由と実質的に同じである。
なお、以下の甲号証のうち、甲第6号証~甲第9号証は、申立人が令和5年5月19日に提出した意見書とともに提出した証拠である。
〔証拠〕
甲第1号証:特開2001-20454号公報
甲第2号証:実願昭59-92868号(実開昭61-8220号)の マイクロフィルム
甲第3号証:山本新吾外,2名,フジタ技術研究報告 第49号,タブ レット端末を用いた場所打ち杭施工状況の見える化、株式 会社フジタ 技術センター、第25-28頁、平成25年 11月
甲第4号証:2007年制定 コンクリート標準示方書[施工編]、社 団法人土木学会、第118-121頁、平成20年3月
甲第5号証:特開2002-294697号公報
甲第6号証:特開平11-36293号公報
甲第7号証:特開昭63-171918号公報
甲第8号証:特開2004-190404号公報
甲第9号証:特開2000-291001号公報
2 甲各号証について
(1)甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の記載がある(下線は当審で付した。以下同様。)。
ア「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、鉄筋コンクリート製の基礎杭、地下壁、擁壁、建造物用壁体等のいわゆる鉄筋コンクリート製構築物の内部に配される鉄筋籠に関し、更に詳しくは、該鉄筋籠の組立て技術に関する。」
イ「【0004】
【課題を解決するための手段】第1番目の発明は鉄筋コンクリート製構築物の鉄筋籠に係り、請求項1に記載のとおり、鉄筋コンクリート製構築物の内部に配される鉄筋籠において、前記鉄筋籠は該鉄筋籠の外形を決めるとともに長手方向に所定の間隔を保って配される組立て環状部材と、該組立て環状部材の外周に所定間隔をもって当該構築物の長手方向に沿って配される主筋と、該主筋回りに配されるフープ筋とからなり、前記組立て環状部材と主筋及び該主筋とフープ筋との交点は非溶接手段をもって固定されてなることを特徴とする。この構成において、○1(当審注:○1は、○の中に1を表す。以下同様。)構築物は基礎杭、地下壁、擁壁、建造物用壁体、のいずれかである、○2非溶接手段は素材の溶解を伴わない接合であって、機械的接合、塑性的接合、接着接合(接着剤による接合)を含む、○3主筋の組立て環状部材への取付けは該主筋を抱接して固定する止め具をもってなされる。更には、○4主筋回りに配されるフープ筋は、互いに平行状に配されるとともに主筋回りに締付け力をもって捲回されてなる、○5主筋回りに配されるフープ筋は、主筋回りに締付け力をもって螺旋状に捲回されてなる。本鉄筋籠においては、その組立てに付き、主筋並びにフープ筋は溶接熱等の変質を受ける接合方法、更には断面欠損を受ける接合方法は採られず、専ら機械的接合方法によるものであり、主筋・フープ筋は所期の強度を発揮する。従って、鉄筋籠の全体として強度の弱化がない。」
ウ「【0007】
【発明の実施の形態】本発明の鉄筋コンクリート製構築物の鉄筋籠の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)図1~図16は本発明の一実施形態(第1実施形態)の基礎杭への適用例を示す。すなわち、図1はその全体構成を示し、図2~図16はその各部の細部構成を示す。
【0008】図1にこの鉄筋籠を使用して構築される現場打ちコンクリート基礎杭の全体を示す。図において、Kは鉄筋籠であって、地盤Eに削孔された孔B内に直接的に挿入設置される。図1に示されるように、この鉄筋籠Kは、杭軸方向に沿って配される複数本の長尺の主筋1(副主筋1’)と、該主筋1が組み付けられるとともに杭軸方向に一定間隔を存して配されるリング状の組立てリング部材2と、主筋1回りに捲回され、杭軸方向に所定間隔を存して配されるフープ筋3Aとの各主要構成要素から構成され、これらの交点は後述するように非溶接手段をもって結束される。更に、この鉄筋籠Kには吊り下げ金具5、スペーサ6が付加される。この吊り下げ金具5、スペーサ6も原則として非溶接手段で固定される。
【0009】以下、各部の詳細構成を説明する。
主筋1と組立てリング部材2
図2~図6にこの鉄筋籠Kの上部の構成を示す。主筋1は長尺の鋼材(異形棒鋼)よりなり、該鉄筋籠Kの長手方向に配されるものであり、本態様では外筋1aと内筋1bとの2本1組より構成される。組立てリング部材2(2A)は、L字状のアングル鋼材(2a,2b)が上下に相合して、腹部10及び上下のリブ11よりなり、そのリブ11を内方に向け、円環状に形成されてなる。腹部10にはボルト挿通孔12が開設される。アングル材2a,2b相互は溶接あるいは腹部10間に添接板(図示せず)を介してボルト・ナットにより接合される。なお、2つのアングル材によらず、コ字状の型材を使用しうることは勿論である。該組立てリング部材2の外側面には主筋1の取付けに供される案内部材13が固設される。該案内部材13は2枚13a,13bが一対となり、その間隔に主筋1を抱持する。
【0010】主筋1は組立てリング部材2の外側に止め具Fをもって固定される。この止め具Fは、押え板14、ボルト・ナットよりなる締付け具15(ボルト15a,ナット15b)よりなる。押え板14は中央の湾曲部14a内に主筋1を抱き込み、両端のフランジ部14bにはボルト挿通孔16が開設される。締付け具15はそのボルト15aを押え板14及び組立てリング部材2のボルト挿通孔16,12に挿通し、ナット15bを締め込んで主筋1の定着をなす。本実施形態では、主筋1は組立てリング部材2の外周に多数本(37×2本)設けてなるが、これは大径杭の基礎杭用であって、小径杭においては減じられるものであって、その本数に限定されない。
【0011】フープ筋3
フープ筋3は、主筋1回りに捲回され、杭軸方向に一定間隔を存して配される。本実施形態では、個々に一重のリング状をなし、杭軸方向に互いに平行して所定間隔を保持して配される。フープ筋3相互の間隔は杭上部の対応位置においては密に、杭下部の対応位置においては疎に配される。その1つの態様(第1の態様)として、1本の直筋を主筋回りに円環状に折り曲げ、両端を圧接溶着もしくは無溶接とし、主筋1との交点を鉄線・クランプ等で結束する。第2の態様としては、図7に示すように、主筋1への係合をもってなされる態様を示す。(a) 図のものは、1本の直筋17を円形に折り曲げ、その両端部を重ねるとともに該両端のフック17a,17bを主筋1に係合させるものである。該フック17a,17bの係合は同一の主筋1でもよく、また、相離れた主筋1,1であってもよい。(b) 図のものは、2本の半フ-プ筋18A,18Bよりなり、各々両端にフック18a,18b,18c,18dを形成した2本の直筋を半周を超えて主筋1回りに巻き付け、それらのフック18a,18b,18c,18dを主筋1に係合させる。これらの態様(a)(b)においても、主筋1との交点を鉄線等により結束させる。第3の態様としては、図8に示すように、継手を介して円環状に形成される態様を示す。(a) 図において、鉄筋19を継手20を介して円形に形成されたものである。(b) 図はその一態様の継手20A部分の断面構造を示し、継手本体20aの中空部に鉄筋19の両端を段違いに挿入し、該継手本体20aの前後壁に開設した孔20b,20cに前部の孔20bから楔20dを挿入し、そのテーパーをもって鉄筋19を継手本体20aの内壁に押し当て固定するものである。図8(c)(d)は他の態様の継手20Bの断面構造を示し、鉄筋19はその両端がフック19a,19bに形成され、このフック19a,19bの形成するすき間部に楔20eが挿入され、その側部のテーパーをもって当該すき間部を押し広げ、これにより円環を縮径し、主筋1に対して締め付ける。これにより当該フープ筋に応力が導入される。そして、該フープ筋は主筋1と摩擦をもって係合する。該態様によれば、鉄線等の結束は不要である。」
エ「【0025】(第2実施形態)図17~図18に本発明の基礎杭等の構築物における鉄筋籠の他の実施形態を示す。図17はこの鉄筋籠Kの全体構造を示すものであり、図示されるように、フープ筋3Bが螺旋状に主筋1回りに捲回され、その他の構造は、第1実施形態に準じる。従って、先に示した各図に付き、図2、図3、図4、図5、図6、図8、図10~図16はそのまま本第2実施形態に適用される。すなわち、図2はこの鉄筋籠Kの上部の横断面図、図3は吊下げ金具5の配設状態を示す図、図4は組立てリング部材2の外側面の構成図)、図5は図4の5-5線断面図、図6は図5の6-6線断面図、図8はスペーサ6の一構成例図、図10及び図11は組立てリング部材2における主筋1の他の取付け態様を示す図、図12は組立てリング部材2における主筋1の更に他の取付け態様を示す図、図13は図12の正面図、図14~図16は組立てリング部材2における主筋1の更に他の取付け態様を示す図、である。
【0026】この鉄筋籠Kにおいても組立てリング部材2と主筋1との取付け構造は先に述べたとおりであり、この鉄筋籠Kの主筋1の回りにフープ筋3Bが次のようにして取り付けられる。すなわち、フープ筋3Bは別途直筋より螺旋状に捲回加工され(これを螺旋状フープ筋という)、該螺旋状フープ筋を組立てリング部材2回りに全主筋1を配してなる半完成鉄筋籠(以下、これを半鉄筋籠という)に、その端部より嵌合前進させ、所定位置において該フープ筋3Bを主筋1に鉄線をもって結束する。あるいは叉、図18に示すにように、直筋の端部を半鉄筋籠の上部の任意位置に結束し、しかる後該直筋を半鉄筋籠回りに螺旋状に捲回して下部に至ると該フープ筋3Bの端部を鉄筋籠の任意位置に結束する。すなわち、螺旋状フープ筋の巻き始めと巻き終わりの端部は主筋に留めるか、または主筋以外の部材に溶接する。なお、半鉄筋籠の下部において、フープ筋3Bの締付け力に対抗するため組立てリング部材2を可及的後端部に配する。
【0027】本第2実施形態における基礎杭の構築並びに作用・効果も第1実施形態に準じる。叙上の第1・第2実施形態において、現場打ちコンクリート杭への適用に付いて述べたが、既製鉄筋コンクリート杭への適用も同様である。」
オ 図1
「
[図:0001404725000003.jpg]
」
カ 図17
「
[図:0001404725000004.jpg]
」
上記図17から、フープ筋3(3B)が、鉄筋籠Kの、下端を含む部位、上端を含む部位、及び下端を含む部位と上端を含む部位との間の部位にシングルで螺旋状に巻かれている点が看取できる。
キ(ア)「主筋回りに配されるフープ筋」について
上記イには、「○4主筋回りに配されるフープ筋は、互いに平行状に配されるとともに主筋回りに締付け力をもって捲回されてなる」及び「○5主筋回りに配されるフープ筋は、主筋回りに締付け力をもって螺旋状に捲回されてなる。」とが記載されている。上記ウ及びエの記載内容をふまえると、○4及び○5が、それぞれ第1実施形態及び第2実施形態に対応するから、「鉄筋籠」において「フープ筋」を「主筋回りに配」する場合に、「互いに平行状に配」することと、「螺旋状に捲回」させることが選択的事項であることは明らかである。
(イ)第2実施形態の構成について
上記エには、「(第2実施形態)図17~図18に本発明の基礎杭等の構築物における鉄筋籠の他の実施形態を示す。図17はこの鉄筋籠Kの全体構造を示すものであり、図示されるように、フープ筋3Bが、螺旋状に主筋1回りに捲回され、その他の構造は、第1実施形態に準じる。」及び「本第2実施形態における基礎杭の構築並びに作用・効果も第1実施形態に準じる。」と記載されている。
そうすると、第2実施形態は、「フープ筋3Bが、螺旋状に主筋1回りに捲回され」ること以外の構造は、第1実施形態の構成を備えているといえる。
ク 上記アないしキをふまえると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「鉄筋籠を使用して構築される現場打ちコンクリート基礎杭であって、
鉄筋籠は、杭軸方向に沿って配される複数本の長尺の主筋と、該主筋が組み付けられるとともに杭軸方向に一定間隔を存して配されるリング状の組立てリング部材と、主筋回りに捲回され、杭軸方向に所定間隔を存して配されるフープ筋との各主要構成要素から構成され、
フープ筋が螺旋状に主筋回りに捲回され、フープ筋相互の間隔は杭上部の対応位置においては密に、杭下部の対応位置においては疎に配されるものであり、
フープ筋が、鉄筋籠の、下端を含む部位、上端を含む部位、及び下端を含む部位と上端を含む部位との間の部位に、シングルで螺旋状に巻かれており、
フープ筋は別途直筋より螺旋状に捲回加工され、螺旋状フープ筋を組立てリング部材回りに全主筋を配してなる半完成鉄筋籠に、その端部より嵌合前進させ、所定位置において該フープ筋を主筋に鉄線をもって結束する、
鉄筋コンクリート製の基礎杭。」
(2)甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の記載がある。
ア「以下この考案を,図面に示された円筒状のPCパイルに従って説明する。第1図に示すとおり,PCパイル1の円筒状の実質部分の材厚は比較的うすい。巻筋の鉄筋比Pが大きいほど,また巻筋の降伏点強度Fyが高いほど,PC部材の曲げ靭性が高められることは多くの研究資料によって明らかにされている。」
(明細書1頁19行-2頁5行)
イ「・・・外径600mm程度までのPCパイルに用いる巻筋の直径は,鉄筋かご編成上からも5φないし7φが適当である。これまで同一断面積の巻筋の鉄筋比Pを大きくする手段としては,巻筋の配筋間隔(以下ピツチという。)を密にする方法がとられているが,PCパイルでは粗骨材の寸法から巻き筋のピツチ間のあきは少くとも35mmが必要で,7φの巻筋の場合ピツチの最小寸法は42mmとなる。・・・
本考案は,以上従来の巻筋の配設構造を改良し,独自の配設構造としたものである。すなわち第2図に示すとおり,軸方向に配筋されたPC鋼棒2の周りに,2条の巻筋3,3を近接並列させて所要のピツチで螺旋状に配設した並列配筋3,3の構造とした。」(明細書2頁20行-3頁15行)
ウ「比較的実質部分の材厚のうすい中空PC部材は,本考案の並列巻筋の配設によって,従来の単線巻筋によって得られる最大の鉄筋比に比較し,巻筋の鉄筋比を1.5倍ないし2倍に増大せしめ得,中空PC部材の耐震性能を顕著に高めたもので,各種中空部材は耐震部材としての有用性が高い。」(明細書6頁13-19行)
エ 第2図
「
[図:0001404725000005.jpg]
」
オ 以上を総合すると、甲第2号証には次の事項(以下「甲2記載の技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2記載の技術事項)
「PCパイルの鉄筋かごにおいて、曲げ靭性を高めて、耐震部材としての有用性を高めるため、同一断面積の巻筋の鉄筋比を大きくする手段として、軸方向に配筋されたPC鋼棒の周りに,2条の巻筋を近接並列させて所要のピッチで螺旋状に配設した並列配筋の構造。」
(3)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の記載がある
。
ア「§2.フジタ式アースドリル工法(F式ED工法)
本工法は当社独自の改良を加えた場所打ち杭の施工方法で、アースドリル杭の施工方法および施工管理全体を見直して設計上必要とされる鉛直支持力、コンクリート強度及び精度と耐震性能を確保できる高品質で安全性の高い杭を構築することを目的として開発されたものである。
・・・
2-1.改良点
・・・
・杭の深さ方向に配合の異なるコンクリートを打ち分ける配合調整工法
2-2.特徴
・・・
・杭頭部の鉄筋かごを無溶接で組立て、かつ吊り込み時の鉄筋かごの変形と、杭頭掘削時の定着部主筋の変形を防止することにより、変形性能の高い杭を構築することができる。
・・・
・杭のコンクリートの配合を深さ方向に変え、設計において必要なコンクリート強度を必要な場所に確実に発現する事ができる。」
(26頁左欄21行―右欄11行)
イ 26頁右欄の「図1 F式ED杭特徴」
「
[図:0001404725000006.jpg]
」
上記図1のうち中央の図から、主筋と補強リングとから、鉄筋かごを製作している点が看取できる。
ウ 以上ア及びイを総合すると、甲第3号証には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲3発明)
「場所打ち杭の施工方法である、アースドリル工法であって、
主筋と補強リングとから、鉄筋かごを製作し、
杭頭部の鉄筋かごを無溶接で組立て、かつ吊り込み時の鉄筋かごの変形と、杭頭掘削時の定着部主筋の変形を防止し、
杭のコンクリートの配合を深さ方向に変え、設計において必要なコンクリート強度を必要な場所に確実に発現させるものであり、
コンクリート強度及び精度と耐震性能を確保できる高品質で安全性の高い杭を構築する、アースドリル工法。」
(4)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の記載がある。
ア 「(6)コンクリートを2層以上に分けて打ち込む場合,上層と下層が一体となるように施工しなくてはならない.また,コールドジョイントが発生しないよう,施工区画の面積,コンクリート供給能力,許容打重ね時間間隔等を定めなければならない.許容打重ね時間間隔とは,下層のコンクリートの打込み・締固めが完了した後,静置時間をはさんで上層のコンクリートが打ち込まれるまでの時間である.許容打重ね時間間隔は,表7.4.1を標準とする.」
(119頁1-5行)
イ 119頁の表7.4.1
「
[図:0001404725000007.jpg]
」
ウ「(6)について この条文は,2層以上にコンクリートを打ち込む場合に,各層相互が一体となるために設けたものである.打重ね時間間隔は,下層のコンクリートに上層のコンクリートを打ち重ねる時間間隔である.下層のコンクリートが固まり始めている場合に,そのまま上層のコンクリートを打ち込むとコールドジョイントができるおそれがある.これを防ぐために,コンクリートの種類および品質または性能,練混ぜ開始から打込み終了までの経過時間,コンクリートの温度,締固め方法等の影響を考慮して,許容打重ね時間間隔を設定し,管理することが大切である.特に,暑中コンクリートの場合や大量のコンクリートを広い面積にわたって打ち込む場合には,コールドジョイントをつくらないように細心の注意を払わなければならない. 一体性を確保できる許容打重ね時間間隔は,セメントの種類,混和剤の種類および使用量,コンクリートの温度,外気温などにより異なる.一般のコンクリートの場合,打重ねは表7.4.1に示した時間内に行うことを標準とする.」
(120頁11-21行)
(5)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の記載がある。
ア「【0007】図3は、杭が地震時の水平力を受けた場合の変形と曲げモーメントの状態の例を杭頭固定の場合を示したものである。この場合、杭に生じる高いせん断力は杭頭部分に限られ、この部分に強度の高いせん断補強筋を用いることで、杭全体の耐震性能を確保することができる。この杭頭固定の場合の他、種々の杭の応力状態に応じて、高いせん断応力の生じる範囲に強度の高いせん断補強筋を用いることができる。」
イ 図3
「
[図:0001404725000008.jpg]
」
(6)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の記載がある。
ア「【0020】<ト>上部フレームの取付け
スパイラル筋8を取付けられたフレキシブル鉄筋2の建込みが、削孔H底面に達した時、図11に示すように上部フレーム12の取付けを行う。上部フレーム12の取付け完了後、フレキシブル鉄筋2の固定架台13を施工基盤G上に設置し、フレキシブル鉄筋2を切断し、鉄筋の建込み作業が完了する。」
イ 図11
「
[図:0001404725000009.jpg]
」
(7)甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の記載がある。
ア「次に上下端板8、9に数本の鉄筋10、10を等間隔に固定し、これに螺筋12を周繞固定してなる鉄筋篭11を、前記くい穴2内へ挿入し、ついで生コンクリート送入管13を鉄筋篭11の内側へ挿入し、前記送入管13がくい穴底に達したならば、前記送入管13から生コンクリートを出しながら送入管13を矢示19のように順次引き上げて、くい穴内へ生コンクリートを充填する。このようにしてくい穴2内には生コンクリートが充満し、鉄筋篭11が埋設されたコンクリートくい14ができ上る。」
(4頁左上5-15行)
イ 第3図
「
[図:0001404725000010.jpg]
」
(8)甲第8号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の記載がある。
ア「【0028】
図1(A)は、本発明の鉄筋かごを、杭孔内に配設する立設状態の姿勢で示す正面図であり、(B)は(A)の鉄筋かごを上方からみた様子を示す平面図である。
【0029】
鉄筋かご10は、図1(A)、(B)に示すように、上下方向に沿って所定間隔に設けた複数の補強リング11(11a、11b、11c、11d)に、鉄筋で構成された杭主筋12が交わるように設けられて形成されている。
【0030】
補強リング11は、所定厚の平鋼をリング状に形成して構成され、図1(B)に示すように、かかる補強リング11の外周面に、所定間隔で上下方向に通した杭主筋12が複数本設けられている。
【0031】
複数の補強リング11の内、最上段に設けた第1補強リング11aは、杭頭部側に設けられている。すなわち杭主筋12の最上端より基礎スラブへの定着長さより少し下がった位置に設けられている。他の補強リング11b、11c、11dは、例えば、第1補強リング11aと鉄筋かご10の底部側との間を等分した位置に設けておけばよい。」
イ 図1
「
[図:0001404725000011.jpg]
」
(9)甲第9号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の記載がある。
ア「【0013】鋼管3は、図2に示すように、地震時の水平力によって発生する曲げモーメントBの大きい箇所にのみ、部分的に埋設されるもので、その軸長hは、多方向X形配筋芯体2におけるX形構面の長さHの約半分に設定されている。図2中のCは、水平変位(地盤反力)を示す。」
イ 図2
「
[図:0001404725000012.jpg]
」
3 対比・判断
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」等という。)と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「コンクリート基礎杭」ないし「鉄筋コンクリート製の基礎杭」は、本件特許発明1の「コンクリート杭」に相当する。
甲1発明の「コンクリート基礎杭」は鉛直方向に延びて構築されるものであるから、「コンクリート基礎杭」に使用される「鉄筋籠」を構成する「主筋」も鉛直方向に延びているといえる。
そうすると、甲1発明の「複数本の長尺の主筋」は、本件特許発明1の「鉛直方向に延びる複数本の主筋」に相当する。
甲1発明の「主筋回りに捲回され、杭軸方向に所定間隔を存して配されるフープ筋」は、本件特許発明1の「当該主筋を囲んで巻き立てられたスパイラル型フープ筋」に相当する。
(イ)本件特許発明1の「杭上部」、「杭下部」及び「杭中間部」については、本件特許明細書の【0021】の「コンクリート杭の上部を杭上部30、中間部を杭中間部31、下部を杭下部32とする。」との記載及び図1から、コンクリート杭における、上端を含む部分、下端を含む部分、上端を含む部分と下端を含む部分との間の部分を、それぞれ意味していると理解できる。
甲1発明は、「フープ筋が、鉄筋籠の、下端を含む部位、上端を含む部位、及び下端を含む部位と上端を含む部位との間の部位に巻かれて」いることから、コンクリートが打たれた後の「コンクリート基礎杭」において、その上端を含む部分、下端を含む部分及び上端を含む部分と下端を含む部分との間の部分に、「フープ筋」が使用されることになるのは明らかである。また、甲1発明の「フープ筋」は「別途直筋より螺旋状に捲回加工」されていくものであり、また、ここで用いられる「直筋」は、一般的に途中で強度や径が変わるものではない。
そうすると、甲1発明は、本件特許発明1の「杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋を使用」するとの構成を有しているといえる。
(ウ)甲1発明の「鉄筋籠」を使用する「コンクリート基礎杭」において、「フープ筋が、鉄筋籠の、下端を含む部位、上端を含む部位、及び下端を含む部位と上端を含む部位との間の部位に、シングルで螺旋状に巻かれて」いることと、本件特許発明1の「コンクリート杭」において、「前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部にはシングルスパイラル筋を配筋すること」とは、「コンクリート杭」において、「前記杭上部にはスパイラル型フープ筋」を「設け、前記杭中間部と前記杭下部にはシングルスパイラル筋を配筋すること」で共通する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「鉛直方向に延びる複数本の主筋と、当該主筋を囲んで巻き立てられたスパイラル型フープ筋と、を備えるコンクリート杭であって、
杭上部と杭中間部および杭下部には、降伏強度および鉄筋径が同一のフープ筋を使用し、
前記杭上部にはスパイラル型フープ筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部にはシングルスパイラル筋を配筋する、
コンクリート杭。」
(相違点1)
「主筋」について、本件特許発明1では、「杭の全長に亘って同一形式で配筋」されたものを「使用」しているのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点。
(相違点2)
「スパイラル型フープ筋」について、本件特許発明1では、「杭上部にはスパイラル型フープ筋を複数本重ねて巻き立てるダブルスパイラル筋を設け、前記杭中間部と前記杭下部には前記ダブルスパイラル筋と略同一の間隔でシングルスパイラル筋を配筋」するのに対して、甲1発明では、「フープ筋が、鉄筋籠の、下端を含む部位、上端を含む部位、及び下端を含む部位と上端を含む部位との間の部位に、シングルで螺旋状に巻かれて」いて、「フープ筋相互の間隔は杭上部の対応位置においては密に、杭下部の対応位置においては疎に配され」ている点。
(相違点3)
本件特許発明1は、「杭上部のせん断強度は、杭中間部および杭下部のせん断強度よりも高く、杭中間部および杭下部の杭体の靱性能が高い」ものであるのに対して、甲1発明は、そのような特定がされていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
取消理由(決定の予告)の請求項1に対して用いた甲第2号証には、軸方向に配筋されたPC鋼棒の周りに、2条の巻筋を近接並列させて所要のピッチで螺旋状に配設した並列配筋の構造は記載されているものの(上記2(2)オ参照)、シングルスパイラル筋に関する記載はなく、相違点2に係る本件特許発明1の構成は記載も示唆もされていない。
申立人が提示した、甲第3号証には、アースドリル工法で用いる鉄筋かごが記載され(上記2(3)参照)、甲第4号証には、コンクリートを2層以上に分けて打ち込む場合の許容打重ね時間間隔等が記載され(上記2(4)参照)、甲第5号証には、杭が地震時の水平力を受けた場合の剪断力の分布状況が記載され(上記2(5)参照)ているものであり、いずれにも、スパイラル型フープ筋に関する記載はなく、相違点2に係る本件特許発明1の構成については記載も示唆もされていない。
申立人が提示した、甲第6号証及び甲第7号証には、場所打杭に用いる鉄筋に関して、上下方向に配筋された複数本の鉄筋に、スパイラル筋を巻いているものの、スパイラル筋はいずれもシングルであり(上記2(6)及び(7)参照)、甲第8号証及び甲第9号証には、場所打杭に使用する鉄筋に関して、上下方向に配筋された複数本の鉄筋に、フープ筋が所定間隔で設けられているもののいずれもスパイラル筋ではない(上記2(8)及び(9)参照)。よって、甲第6号証~甲第9号証には、相違点2に係る本件特許発明1の構成については記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明のコンクリート杭の主筋及びフープ筋として、上記甲第2号証~甲第9号証に記載された技術事項を適用しても、相違点2に係る本件特許発明1の構成に相当することはできない。
ウ 申立人の主張
申立人は、杭の全長に亘ってスパイラル筋の間隔が略同一であることは甲第6号証の図1、及び甲第7号証の図3に示されているように周知技術であり、甲1発明に甲2記載の技術事項を適用する際、杭中間部と杭下部に、ダブルスパイラル筋と略同一の間隔でシングルスパイラル筋を背筋することは、当業者が普通に行うことであって何ら困難性はない旨主張する。(意見書4頁10-16行)
しかしながら、コンクリート杭の技術分野において、杭の全長に亘ってスパイラル筋の間隔が略同一であることが周知技術であるとしても、杭中間部と杭下部において、ダブルスパイラル筋と略同一の間隔でシングルスパイラル筋を配筋することは、上記イに示したとおり、申立人が提出した甲第2号証~甲第9号証のいずれにも記載されておらず、裏付けのないことであるから、上記主張を採用することはできない。
エ 小括
以上のとおりであるから、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、及び 申立人が提出した甲第2号証~甲第9号証に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項2に係る特許は、本件訂正により削除された。これにより、本件特許の請求項2に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定によって却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-701155