2021-701154
カプセル組成物
- 審判番号
- 2021-701154
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-524346外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6883514
- 請求日
- 2021年12月08日
- 審決日
- 2023年04月14日
- 公報発行日
- 2023年07月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ジボダン エス エー
- 【権利者代理人】葛和 清司
- 【権利者代理人】矢後 知美
- 【異議申立人】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
- 【異議申立人代理人】曾我 道治
- 【異議申立人代理人】大宅 一宏
- 【異議申立人代理人】佐藤 さおり
- 分類
- P1651.537-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 27項目
第1 手続の経緯
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特許第6883514号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2017-524346号)は、2015年(平成27年)10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2014年(平成26年)11月7日(以下「本件優先日」という。)、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願であって、令和3年5月12日に特許権の設定登録がされ(請求項の数:10)、同年6月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年12月8日(受付日)に、特許異議申立人である ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー (以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~10に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
その後の本件特許異議申立事件の主な手続の経緯は、次のとおりである。
同年 6月24日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 8月 9日付け:訂正請求があった旨の通知(申立人宛て)
同年11月 1日 :意見書の提出(申立人)
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和4年6月24日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものであって、その内容は、以下の訂正事項1~3のとおりであると認める(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「5重量%~40重量%」
とあるのを、
「12重量%~20重量%」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~10も同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、
「0.1~2MPaの範囲である、カプセル化香料組成物」
とあるのを、
「0.1~2MPaの範囲であり、シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である、カプセル化香料組成物」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2~10も同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2において、
「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である、請求項1に記載のカプセル化香料組成物」
とあるのを、
「ポリウレアカプセルの公称破断応力が、0.4~1MPaの範囲であり、シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である、請求項1に記載のカプセル化香料組成物」
に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。
2 一群の請求項について
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1~10に関し、請求項2~10は、請求項1の記載を直接的に又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する「一群の請求項」である請求項1~10についてされたものである。
3 訂正事項についての訂正要件の判断
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1は、請求項1に記載の「カプセル(コア+シェル)の総重量」に対する「カプセルシェル重量」について、「5重量%~40重量%」とされているのを、当該数値の範囲内である「12重量%~20重量%」に特定し限定するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、請求項1の上記訂正に連動する請求項2~10の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項1における「12重量%~20重量%」との数値範囲について、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0018】には、「カプセル化香料組成物における、カプセル(シェル材料+コア材料)の総重量のパーセンテージとして表されるポリウレアカプセルのシェル重量は、約5重量%~40重量%、より特に10~25重量%、さらにより特に12重量%~20重量%である。」(当審注:摘記中の下線は当審合議体が付した。以下同じ。)と記載されている。
そうすると、訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下「本件明細書等」ということがある。)の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項1についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、請求項1に記載の「カプセル化香料組成物」の構成を特定する事項であり、訂正前の請求項1には規定がなかった「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比」について、「0.7ミクロン-1以下」に特定し限定するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、請求項1の上記訂正に連動する請求項2~10の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項2における「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である」との規定は、訂正前の請求項2において「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である、請求項1に記載のカプセル化香料組成物」と記載されている事項である。
また、本件明細書の【0020】にも、「カプセル直径(ミクロンで表される)に対するシェル重量(カプセル総重量:シェル材料+コア材料に対する重量%で表される)の比が約0.7ミクロン-1以下、より特に0.6ミクロン-1以下、さらにより特に0.2ミクロン-1以下である場合に、カプセルの安定性および性能が最適である。」という対応する記載がある。
そうすると、訂正事項2による訂正は、本件明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項2についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3) 訂正事項3について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3は、請求項2に記載の「カプセル化香料組成物」について、同項が引用する請求項1に「ポリウレアカプセルの公称破断応力」が「0.1~2MPaの範囲」であると規定されているのを、当該数値の範囲内である「0.4~1MPaの範囲」にさらに特定し限定するものである。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、請求項2の上記訂正に連動する請求項3~10の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無
訂正事項3における「ポリウレアカプセルの公称破断応力」の「0.4~1MPaの範囲」との数値範囲について、本件明細書の【0023】には、「ポリウレアカプセルの公称破断応力は、MPaとして表して、約0.1~2MPa、より特に0.2MPa~1.5MPa、さらにより特に0.4MPa~1MPaの範囲である。」と記載されている。
そうすると、訂正事項3による訂正は、本件明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3による訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項3についてのまとめ
上記ア~ウのとおり、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4) 独立特許要件について
訂正事項1~3による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、本件特許異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~10に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、本件訂正後の請求項1~10に係る発明については、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
4 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、令和4年6月24日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件特許に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の本件特許の請求項1~10(以下、請求項の番号順に「本件訂正請求項1」等ということがある。)の記載は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次のとおりのものである。なお、本件訂正請求項1~10に係る発明を、以下、請求項の番号順に「本件訂正発明1」等ということがある。下線は本件訂正による訂正箇所を示す。
「【請求項1】20~50ミクロンの体積平均直径およびカプセル(コア+シェル)の総重量の12重量%~20重量%のカプセルシェル重量を有する1種以上のポリウレアカプセルを含み、ここでポリウレアカプセルの公称破断応力が、0.1~2MPaの範囲であり、シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である、カプセル化香料組成物。【請求項2】ポリウレアカプセルの公称破断応力が、0.4~1MPaの範囲であり、シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である、請求項1に記載のカプセル化香料組成物。続きを表示(全20行)【請求項3】カプセル化香料が、15,000ppm以下の水への溶解度を有する香料成分を少なくとも60重量%含む、請求項1または2に記載のカプセル化香料組成物。【請求項4】カプセルが、カプセル化された溶媒を含有しない、請求項1~3のいずれか一項に記載のカプセル化香料組成物。【請求項5】シリカの流動助剤を含む粉末の形態であり、ここでシリカが1~8ミクロンの粒径を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のカプセル化香料組成物。【請求項6】請求項5に記載のカプセル化香料組成物を形成する方法であって、スラリーの形態のカプセル化香料組成物中にシリカを分散させるステップ、およびスラリーを脱水するステップを含む、前記方法。【請求項7】スラリーが、噴霧乾燥により脱水される、請求項6に記載の方法。【請求項8】請求項1~5のいずれか一項に定義されるカプセル化香料組成物を含む、リーブオンパーソナルケア製品。【請求項9】消臭製品の形態である、請求項8に記載のリーブオン製品。【請求項10】発汗抑制剤の形態である、請求項8に記載のリーブオン製品。」
第4 特許異議の申立ての理由及び当審において通知した取消理由の概要
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1 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立書の記載によれば、申立人は、以下の<甲号証一覧>に記載した甲第1~8号証(以下、番号順に「甲1」等と略記する。)を提出し、以下に概要を示した特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)A~Eを主張しているものと認められる。なお、ここでいう「本件特許発明1」等の表記は、本件訂正前の本件特許の請求項1に係る発明等を意味するものである。また、申立理由の項目番号は、便宜のため当審合議体が付したものである。
[申立理由A](実施可能要件違反)
(1) 「体積平均直径」について、当業者が本件特許発明1~10を実施できる程度に発明の詳細に説明に記載されていない。
(2) 本件特許発明1~10は、特定条件下で安定性が確保できないカプセル化香料組成物を包含する。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~10を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、請求項1~10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[申立理由B](サポート要件違反)
(1) 本件特許発明1~10における「体積平均直径」について、発明の詳細な説明に具体的に記載されていない。
(2) 発明の詳細な説明に記載された一部の実施態様では、「ヒドロキシエチルセルロース」を含まない場合に、適正にカプセル化香料組成物を提供できず、本件特許発明1~10は課題を解決できない。
(3) 本件特許発明1~10におけるポリウレアカプセルの「公称破断応力」が、実施例において具体的に示されていない。
したがって、本件特許発明1~10は発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[申立理由C](明確性要件違反)
(1) 本件特許発明1~10で規定する「20~50ミクロンの体積平均直径」の範囲が不明確である。
(2) 本件特許発明1~10で規定する「ポリウレアカプセルの公称破断応力が0.1~2MPaの範囲である」ことの技術的意義が不明確である。
したがって、本件特許発明1~10は明確でないから、請求項1~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[申立理由D](新規性欠如)
(1) 本件特許発明1~4、8~10は、甲2により補完される、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~4、8~10に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2) 本件特許発明1~2、4、8~10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~2、4、8~10に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
[申立理由E](進歩性欠如)
(1) 本件特許発明1~4、8~10は、甲2により補完される、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、及び、甲3~甲6に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、8~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2) 本件特許発明5~7は、甲2により補完される、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、甲3~甲7に記載された事項、及び、甲8に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3) 本件特許発明1~4、8~10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明、甲2により補完される甲1に記載された事項、及び、甲4~甲6に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、8~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(4) 本件特許発明5~7は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明、甲2により補完される甲1に記載された事項、甲4~甲7に記載された事項、及び、甲8に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
<甲号証一覧>
特許)の特許異議申立において提出された、甲1の記載に基づく
例1の実験結果
-502969号公報)
第5巻、第1号、第32~43頁
2 当審において通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~10に係る発明の特許について、当審において、令和4年3月25日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由1~5は、上記1に概要を示した申立理由のうち、申立理由A(1)~(2)、申立理由B(1)~(3)、申立理由C(1)、及び、申立理由D(2)のうち請求項1~2、4を対象とした理由を採用するとともに、当審合議体の職権により、請求項3、5~10を対象とした甲3を主引例とする進歩性欠如の理由を追加したものであり、それらの理由の概要は以下のとおりである。なお、ここでいう「本件発明1」等の表記は、本件訂正前の本件特許の請求項1に係る発明等を意味するものである。
[取消理由1](実施可能要件違反)
(1) 「カプセル(コア+シェル)の総重量の5重量%~40重量%のカプセルシェル重量」を有することに加えて、「20~50ミクロンの体積平均直径」を有し、さらに「公称破断応力が、0.1~2MPaの範囲」との条件も同時に満たすとされているポリウレアカプセルを含む、本件発明1~10におけるカプセル化香料組成物を、どのように製造するのか、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明の記載からは、当業者が理解することができるとはいえない。
(2) 本件発明1~4、8~10におけるカプセル化香料組成物のうち、スラリーの形態であって、「分散助剤」として「ヒドロキシエチルセルロース」を含まないものについては、発明の詳細な説明において、当業者が使用することができるように記載されているとはいえず、また、「分散助剤」として「ヒドロキシエチルセルロース」を含まなくても、ポリウレアカプセルを含むスラリーが相分離を生じずに安定化されるという技術常識が、本件特許の出願時に存在したとも認められない。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、当業者が本件発明1~10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、請求項1~10に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[取消理由2](サポート要件違反)
(1) 本件発明1~10の解決しようとする課題は、いずれも共通して、「リーブオンパーソナルケア製品、特に消臭剤及び発汗抑制剤において有用な、ポリウレアカプセルを含むカプセル化香料組成物であって、攻撃的な媒体を含有する消費者製品中において時間が経っても十分に安定であり、それでもなお十分に脆く、機械的な力を受けたとき、皮膚や布地への激しいこすりに相応して、適用後少なくとも6時間、及び10時間までの期間、新鮮さの感覚を提供するのに十分な強度で香料を放出する前記カプセル化香料組成物を提供すること」を含むものと認められる。
(2) 「カプセル(コア+シェル)の総重量の5重量%~40重量%のカプセルシェル重量」を有することに加えて、「20~50ミクロンの体積平均直径」を有し、さらに「公称破断応力が、0.1~2MPaの範囲」との条件も同時に満たすとされているポリウレアカプセルを含む、本件発明1~10におけるカプセル化香料組成物を、どのようにして製造するのか、本件特許の出願時の技術常識を考慮しても、発明の詳細な説明の記載から当業者が理解することができるとはいえないから、そのようなカプセル化香料組成物を特定事項とする本件発明1~10は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載により、上記(1)の課題を解決できると当業者が認識できるものとはいえない。
(3) 本件発明1~4、8~10におけるカプセル化香料組成物のうち、スラリーの形態であって、「分散助剤」として「ヒドロキシエチルセルロース」を含まないものは、本件特許の出願時の技術常識を考慮したとしても、発明の詳細な説明に当業者が使用することができるように記載されているとはいえないから、そのようなカプセル化香料組成物を特定事項とする本件発明1~4、8~10は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、発明の詳細な説明の記載により、上記(1)の課題を解決できると当業者が認識できるものとはいえない。
したがって、本件特許発明1~10は発明の詳細な説明に記載したものでないから、請求項1~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[取消理由3](明確性要件違反)
本件発明1~10におけるカプセル化香料組成物に含まれるポリウレアカプセルは、「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するものとされているが、本件特許の願書に添付した明細書には、「体積平均直径」について、その具体的な算出方法や計算式が示されていないうえ、実施例では、調製されたマイクロカプセルの直径について、「体積平均直径」の値ではなく「D50」の値が示されているものがあり、粒子の「体積平均直径」を求める計算式は、個数基準((Σnd3/Σn)1/3)と重量基準((Σw/Σ(w/d3))1/3)では異なるうえ、その値はメジアン径(D50)と通常一致しないことは、本件特許の出願時の技術常識であるから(例えば、下記の文献A1~A2を参照。)、本件訂正発明1~10におけるポリウレアカプセルが有するとされる「20~50ミクロンの体積平均直径」とは、如何なる計算式により求められるものであるのか、あるいは、D50(メデジアン径)の範囲を示したものであるのか、特定することができず、当該ポリウレアカプセルの粒径の範囲を明確に把握することができない。
したがって、本件特許発明1~10は明確でないから、請求項1~10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
[取消理由4](新規性欠如)
請求項1~2、4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~2、4に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
[取消理由5](進歩性欠如)
請求項3、5~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、下記の頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3、5~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記 (引用文献等については<引用文献等一覧>を参照)
取消理由4(新規性欠如)について
・請求項1~2、4
・甲3(、甲1)
取消理由5(進歩性欠如)について
・請求項3、5~10
・甲3(、甲1、甲7~8)
<引用文献等一覧>
株式会社じほう、平成22年3月31日発行、78~79頁
製剤学』、株式会社廣川書店、平成19年3月20日初版発行、
88~89頁
第5巻、第1号、第32~43頁
(当審注:甲1、甲3、甲7、甲8は、申立人が提出した甲第1、3、7、8号証である。)
第5 取消理由についての当審の判断
当審合議体は、本件訂正後の請求項1~10に係る発明の特許は、上記取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。
1 取消理由通知後に特許権者及び申立人が提出した証拠
当審の判断においては、上記第4の1の<甲号証一覧>に示した証拠及び上記第4の2の<引用文献等一覧>に示した証拠に加え、取消理由通知後に特許権者及び申立人が提出した以下の証拠を必要な範囲で参照し引用する。
上記取消理由に対し、特許権者は、令和4年6月24日に意見書を提出するとともに、これに添付して以下の乙第1及び2号証を提出した(以下、番号順に「乙1」等と略記する。)。
Malvern Panalytical、
https://www.cif.iastate.edu/sites/default/files/uploads/
Other_Inst/Particle Size/Particle Characterization Guide.pdf
HORIBA Intruments, Inc.、
https://ats-scientific.com/uploads/PSA_Guidebook.pdf
上記取消理由に関し、申立人は、令和4年11月1日に意見書を提出するとともに、これに添付して以下の参考資料1~5を提出した(以下、番号順に「参1」等と略記する。)。
共立出版株式会社、「ポリ尿素」の項
ティック、「ユリア樹脂とは」、
http://sekigin.jp/science/chem/chem_06_05_02_02.html
825頁、共立出版株式会社、「尿素樹脂」の項
2 取消理由1(実施可能要件違反)について
・請求項1~10
(1) 「体積平均直径」及び「公称破断応力」について
・請求項1~10
ア 「体積平均直径」について
(ア)
本件訂正請求項1の記載によれば、本件訂正発明1のカプセル化香料組成物に含まれるポリウレアカプセルは「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するとされており、本件訂正請求項1の記載を引用する本件訂正請求項2~10の記載によれば、本件訂正発明2~10においても、ポリウレアカプセルは「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するものとされていると認められる。
(イ)
「体積平均直径」に関して、本件明細書の【0016】~【0017】に測定方法等を含めた一般的な説明が記載されており、「体積平均粒径は、Malvern 2000S 装置およびMie散乱理論を用いた光散乱測定によって測定される。」(【0016】)と記載され、「実験的には、約10%のカプセルを含有する数滴のスラリーを、散乱セルを通って流れる脱気された水の循環流に添加する。散乱強度の角度分布を測定し、Malvern独自のソフトウェアによって分析して、試料中に存在するカプセルの平均サイズおよびサイズ分布を提供する。本発明の文脈において、パーセンタイルDv10、Dv50およびDv90が、カプセルサイズ分布の特性として使用され、Dv50は、分布の中央値に対応する。」(【0017】)と記載されている(当審注:摘記中の下線は当審合議体が付した。以下同じ。)。
(ウ)
ここで、乙1を参照すると、その6~7頁の「Volume-weighted distributions(体積加重分布)」の項目には、「レーザー回折等の静的光散乱技術は、体積加重分布を与える。当該分布における各粒子の寄与は、その粒子の体積(密度が一様な場合は質量に相当する)に関係する、つまり、相対的な寄与は(サイズ)3に比例する。」と記載されている(当審注:原文は英語で記載されているため、特許権者が提出した部分訳文を当審合議体が一部修正して摘記した。以下同じ。)。
また、乙1の10~11頁の「Percentiles(パーセンタイル)」の項目には、次の事項が記載されている。
「レーザー回折で測定されるような、体積加重粒度分布の場合、試料の所定の体積に対する最大粒子径に基づいてパラメータを報告するのが便利なことがよくある。パーセンタイルはXaBと定義され、ここで:X=パラメータ、通常は直径を表すDa=分布の重み付け、例えば:数を表すn、体積を表すv、強度を表すiB=この粒子径以下の試料のパーセンテージ、例えば:50%、小数すなわち0.5として表記される場合もある例えば、Dv50は、試料体積の50%が存在する最大粒子径であり、体積中央粒径としても知られている。報告される最も一般的なパーセンタイルは、以下の頻度プロット及び累積プロットに示される、Dv10、Dv50及びDv90である。[図:0001399324000001.jpg]」
さらに、乙2の4頁の「MEDIAN(中央値)」の項目には、次の事項が記載されている(当審注:原文は英語で記載されているため、特許権者が提出した部分訳文を当審合議体が一部修正して摘記した。)。
「メジアン値(中央値)は、母集団の半分がこの値より上に存在し、半分がこの値より下に存在する値として定義される。粒度分布の場合、中央値は、D50(又は特定のISOガイドラインに従う場合はx50)と呼ばれる。D50は、この直径よりも上半分と下半分とに分布を分けるミクロン単位の大きさである。Dv50(又はDv0.5)は、体積分布の中央値であり、Dn50は数分布に使用され、Ds50は表面分布に用いられる。レーザー回折の主な結果は体積分布であるため、引用されるデフォルトのD50は体積分布の中央値であり、D50は典型的にはvを含まないDv50を指す。この値は理解しやすい統計の一つであり、また粒度分布において最も意味のある値の一つである。」
(エ)
上記(ウ)の乙1及び乙2の記載事項によれば、レーザー回折等の静的光散乱技術によって測定される「体積平均直径」は、体積による中央値粒子径として用いられることも知られており、これは「Dv50」と表記されるが、「v」を省略し「D50」と表記されることもあり、粒度分布において最も意味のある値の一つであることが、本件特許の出願時の技術常識であったと認められる。
(オ)
本件明細書の【0094】~【0095】の「例1」には、ポリウレアからなるマイクロカプセルを含むカプセル化香料組成物を調製した旨が記載されており、Malvern 2000S装置を用いた光散乱測定で得られた体積平均カプセルサイズ分布は、D50=20μm及びD90=50μmであったことが記載されている。
また、本件明細書の【0103】~【0105】の「例3」には、例1の方法に従って形成された、同じ香料を含有するが、D50が10ミクロンと30ミクロンである2つの異なるサイズのカプセル化香料組成物について、ロールオン消臭基剤において、適用時点、適用の2時間後、6時間後、10時間後、及び、10時間後にこすった後に、21名の訓練された感覚パネリストにより知覚された試料の強度を経時的に比較した結果が、次の【表7】のとおり示されている。
「【表7】[図:0001399324000002.jpg]」
上記【表7】の記載によれば、カプセル直径がD50=10ミクロンで、シェル重量%が15重量%の1つの試料、並びに、カプセル直径がD50=30ミクロンで、シェル重量%が15重量%、19重量%及び23重量%の3つの試料の、計4つの試料について試験が行われたことが把握できる。
(カ)
そうすると、上記「例1」及び「例3」で調製された、「D50=20μm」及び「D50が30ミクロン」のカプセル化香料組成物は、上記(イ)で認定した本件明細書の「体積平均直径」に関する一般的な説明の記載、並びに、上記(エ)で認定した「体積平均直径」及び「D50」に関する技術常識を考慮すれば、「D50」との表記が「体積平均直径」を示すものであり、本件訂正発明1~10で規定する「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するポリウレアカプセルを含むものである、ということを理解することができる。
イ 「公称破断応力」について
(ア)
本件訂正請求項1の記載によれば、本件訂正発明1のカプセル化香料組成物に含まれるポリウレアカプセルの「公称破断応力」は「0.1~2MPaの範囲」であるとされ、本件訂正請求項2の記載によれば、本件訂正発明2のカプセル化香料組成物に含まれるポリウレアカプセルの「公称破断応力」は「0.4~1MPaの範囲」であるとされており、本件訂正請求項1又は2の記載を引用する本件訂正請求項3~10の記載によれば、本件訂正発明2~10も、その特定事項であるポリウレアカプセルは、「公称破断応力」が「0.1~2MPaの範囲」又は「0.4~1MPaの範囲」であるとされているものと認められる。
(イ)
本件明細書の【0024】には、「公称破断応力」の測定方法について、文献(Journal of Microencapsulation 16(1),117-124 (1999))を引用した説明が記載されており、マイクロマニピュレーション技術によって、単一のカプセルを、2つの平行な表面の間で圧縮して破断させ、力単位(ニュートン)で表されるカプセルの破断時の力を、カプセルの断面積で割ることにより、圧力単位(パスカル)で表される破断応力に変換し、これを典型的には50個のカプセルで繰り返し、平均値を用いて、公称破断応力を計算する旨が記載されている。
(ウ)
本件明細書の【0094】~【0108】に記載の実施例(例1~5)において、調製されたマイクロカプセルの「公称破断応力」の値は示されていないが、特許権者は、令和4年6月24日提出の意見書において、本件訂正発明におけるポリウレアカプセルの「公称破断応力」の値は、本件明細書の【0023】に記載されており、その測定方法については、同【0024】に、当業界で広く用いられている周知の方法を参照して記載されている旨を主張するとともに、本件明細書の「例3」に記載のカプセルについて、それらの公称破断応力の値を提示している(意見書5~6頁)。
そこで、特許権者が提示した「例3」のカプセルの公称破断応力の値を、上記ア(オ)に示した「例3」の【表7】に記載された4つのカプセル化香料組成物を特許権者が指定するように上から順に「エントリ1」~「エントリ4」と呼称することとして、【表7】に取り込んだ表として示すと、次のとおりであり、エントリ2~4は「公称破断応力」が「0.1~2MPaの範囲」に含まれ、エントリ2及び3は「公称破断応力」が「0.4~1MPaの範囲」に含まれるから、エントリ2及び3については、本件訂正発明1~10における「公称破断応力」の条件を満たしている。
[図:0001399324000003.jpg]
(エ)
上記ア(オ)で説示したように、上記「例3」には、カプセル化香料組成物が「例1」の方法に従って形成されたことが記載されており、上記(ウ)の表のとおり、体積平均直径が10又は30ミクロン、シェル重量が15、19又は23重量%、公称破断応力が7.9、0.5又は1.7MPaである、異なる4種類のカプセル化香料組成物(エントリ1~4)が作り分けられていることが理解できる。
そして、本件明細書の【0094】~【0095】の「例1」の記載からみて、上記「例3」の各カプセル化香料組成物は、概略、次の工程a~fを経て調製されたものと認められる。
a.
「ポリビニルピロリドン(K60)」25g及び「水」650gを含む、プレミックス(I)を調製し、pHを10.0に調節した。
b.
カプセル化する「香料」300g、「Desmodur(登録商標)W」20g、及び「Bayhydur(登録商標)XP 2547」5gを含む、プレミックス(II)を調製した。
c.
2つのプレミックスを合わせ、室温で攪拌装置を用いて所望の液滴サイズになるまで乳化させた。
d.
エマルジョンのpHを8に調節し、「Lupasol(登録商標)PR8515」溶液10gを1ステップで添加した。
e.
反応混合物を、反応が開始されるまで加熱した。
f.
混合物を室温まで冷却した。
(オ)
上記(エ)に示したとおり、「例3」のエントリ1~4のカプセル化香料組成物については、本件明細書において具体的に製造されたことが記載されているものの、それらに含まれるポリウレアカプセルの公称破断応力の測定値は明示されていなかった。
しかしながら、上記(イ)のとおり、本件明細書において、公称破断応力の測定方法の説明が文献を引用して記載されているから、これらの記載に接した当業者ならば、追試を行い上記のエントリ1~4のカプセル化香料組成物を製造し、それらに含まれるポリウレアカプセルの公称破断応力の値を測定し確認することができたといえる。
また、上記(ウ)のとおり、事後的ではあるが、上記エントリ1~4のカプセル化香料組成物の公称破断応力の値について、エントリ2~4は「0.1~2MPaの範囲」に含まれ、エントリ2及び3は「0.4~1MPaの範囲」に含まれるものであったことを、実際に確認することができたのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明には、公称破断応力が「0.1~2MPaの範囲」又は「0.4~1MPaの範囲」であるポリウレアカプセルについて、製造できるように記載されていたといえる。
ウ 「シェル重量」及び「シェル重量の体積平均直径に対する比」の観点も含めた本件訂正発明の実施可能要件の充足について
(ア)
本件訂正請求項1の記載によれば、本件訂正発明1のカプセル化香料組成物が含むポリウレアカプセルは、「カプセル(コア+シェル)の総重量に対するカプセルシェル重量」(以下「シェル重量」と略記することがある。)が「12重量%~20重量%」であり、「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比」(以下「シェル重量の体積平均直径に対する比」と略記することがある。)が「0.7ミクロン-1以下」であるとされている。
また、本件訂正請求項1の記載を引用する本件訂正請求項2~10の記載によれば、本件訂正発明2~10におけるポリウレアカプセルについても、「シェル重量」が「12重量%~20重量%」であり、「シェル重量の体積平均直径に対する比」が「0.7ミクロン-1以下」であるとされていると認められる。
(イ)
上記(ア)、ア(ア)及びイ(ア)からすると、本件訂正発明1~10におけるカプセル化香料組成物に含まれるポリウレアカプセルは、次のA~Dの4つのパラメータの要件を全て満たすものとされていると認められる。
A.「体積平均直径」が「20~50ミクロン」
B.「シェル重量」が「12重量%~20重量%」
C.「公称破断応力」が「0.1~2MPaの範囲」(本件訂正発明2
では「0.4~1MPaの範囲」に限定)
D.「シェル重量の体積平均直径に対する比」が「0.7ミクロン-1
以下」
上記ア(オ)に摘記した「例3」の【表7】に記載された4つのカプセル化香料組成物については、同【表7】において、「シェル重量」が「シェル重量(1)(%)」欄に記載され、「カプセル体積平均直径」が「カプセル直径」欄に記載されているから、これらの数値に基づいて、それぞれ「シェル重量の体積平均直径に対する比」を算出することができる。この算出した比の値を含めて、当該4つのカプセル化香料組成物が、本件訂正発明1~10における上記の4つのパラメータの要件を満たすか否かを表として示すと、次のようになる(「○」は各要件を満たすことを示し、「×」は各要件を満たさないことを示す。)。
[図:0001399324000004.jpg]
(ウ)
上記(イ)の表のとおり、本件明細書に記載の「例3」の4つのカプセル化香料組成物のうち、エントリ2及び3の組成物については、本件訂正発明1~10における4つのパラメータの要件を全て満たすものであり、本件訂正発明2で特定する「公称破断応力」が「0.4~1MPaの範囲」であるという条件も満たすものである。
そして、上記(イ)の表及び上記イ(ウ)の【表7】に「公称破断応力」の値を取り込んだ表に示されるとおり、上記エントリ2及び3のカプセル化香料組成物は、上記4つの要件の1つ以上を満たしていないエントリ1及び4の組成物と比較すると、ロールオン消臭基剤において適用した10時間後にこすった後、より強い知覚された試料の強度を示すものであり、具体的には、当該「強度」が、エントリ1及び4では「18」であるのに対し、エントリ2及び3では「20」である。
(エ)
本件明細書の【0053】~【0056】には、「本発明」のカプセル化香料組成物の調製についての一般的な説明が記載されており、同組成物は、アミンとイソシアナートの界面重付加により調製できるとされ、界面活性剤及び/又は保護コロイドを含有する水相に、カプセル化する香料及びイソシアナートを含有する疎水相を添加し激しく攪拌した後、疎水相が水性連続相中に小さな液滴として分散されたエマルジョンを得ること、上記攪拌速度を水相中の疎水相の液滴の大きさに影響を及ぼすように調整すること、次いでアミンを含有する水溶液を添加し、重付加反応を行うこと、が記載されている。
また、本件明細書の【0057】において、界面重付加によるカプセルの製造条件は周知であり、条件の更なる詳細化の必要はなく、カプセルの調製に関する具体的な記載は、実施例で提供されることも説明されている。
そして、本件明細書の【0057】~【0059】には、ポリウレアカプセルの形成に有用なアミンとして種々のものが例示されており、「Lupasol(商標)PR8515」が特に好ましいポリエチレンイミン(PEI)であることが記載され、同【0059】~【0060】には、有用なイソシアナートについても種々のものが挙げられており、商品名Desmodurとして販売されている1,6-ジイソシアナトヘキサンのホモポリマーやBAYHYDUR(商標)の名称で販売されているヘキサメチレンジイソシアナートに基づく親水性脂肪族ポリイソシアナートが例示されている。
このような本件明細書の記載に接した当業者ならば、「例3」のエントリ2及び3と異なるポリアミン及びポリイソシアネート等の材料を用いてポリウレアカプセルを調製する場合にも、材料の量比や攪拌速度を調整し、その結果として、本件訂正発明1~10における4つのパラメータの要件を全て満たすカプセル化香料組成物を得ることは、過度の試行錯誤を要しないものといえる。
(オ)
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記「例3」のエントリ2及び3として、本件訂正発明1~10における4つのパラメータの要件の全てを満たすポリウレアカプセルを含むカプセル化香料組成物を、製造し使用できるように記載されているといえる。
また、上記(エ)に示した本件明細書におけるカプセル化香料組成物の調製についての一般的な説明、及び、上記「例1」及び「例3」の記載を参考にすれば、当業者は上記「例3」のエントリ2及び3以外の本件訂正発明1~10における4つの要件を満たすカプセル化香料組成物を製造し使用できるといえる。
エ 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張の概要
申立人は、令和4年11月1日提出の意見書において、概略、次の主張をしている。なお、同意見書中において「エントリー3及び4」と記載されている箇所については、その前後の記載からみて、明らかな誤記を含むものと認められるので、「エントリ2及び3」と読み替える。また、同意見書中の「本発明」等の記載は「本件訂正発明」と読み替える(以下同様)。
本件明細書には、わずか2例の本件訂正発明の実施例(「例3」のエントリ2及び3)が示されるのみであり、体積平均直径が上限値の20ミクロン及び下限値の50ミクロン付近である実施例は存在しない。
「例3」のエントリ1は、エントリ2と比較すると、体積平均直径は10ミクロンであって、公称破断応力は7.9MPaと極端に高くなっている。そうすると、本件訂正発明で規定する体積平均直径の下限値の20ミクロンでは、どのような公称破断応力を示すのか、また、どのようなシェル原料を選択し配合割合を調整すれば、所望の公称破断応力を有するポリウレアカプセルを得ることができるのか、容易には理解できない。
シェル原料となるポリイソシアネート及びポリアミンは無数に存在し、これらのイソシアネート基及びアミノ基の数、又は配合割合により構成されるポリウレア樹脂の構造及び強度は大きく影響される。
したがって、体積平均直径が30ミクロン以外のポリウレアカプセルについて、どのようなシェル原料を選択し、当該原料及び香料の配合割合を調整すれば、所望のポリウレアカプセルを得ることができるのか、当業者は過度の試行錯誤を強いられる。
(意見書7頁)
(イ) 申立人の主張についての当審の判断
上記ウで説示したように、本件明細書の記載に接した当業者ならば、上記「例3」のエントリ2及び3と異なるポリアミン及びポリイソシアネート等の材料を用いてポリウレアカプセルを製造する場合にも、材料の量比や攪拌速度を調整し、その結果として、本件訂正発明1~10における4つのパラメータの要件を全て満たすカプセル化香料組成物を調製することは、過度の試行錯誤を伴わずになし得るといえるから、体積平均直径を本件訂正発明で規定する下限値の20ミクロンとする場合にも、シェル重量を12重量%~20重量%の範囲内で調整し、その結果として、公称破断応力が0.1~2MPa又は0.4~1MPaの範囲であって、シェル重量の体積平均直径に対する比が0.7ミクロン-1以下という条件を満たすカプセルを調製することができるといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
オ 取消理由1(1)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~10について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には、取消理由1(1)として指摘した不備はない。
(2) 「分散助剤」としての「ヒドロキシエチルセルロース」について
・請求項1~10
ア 本件訂正請求項1~10の記載
本件訂正発明1~4、8~10におけるカプセル化香料組成物は、水性分散媒体中に分散されたポリウレアカプセルを含むスラリーの形態で提供される態様を包含するものと認められるところ(本件明細書の【0019】)、本件訂正請求項1~4、8~10の記載によれば、「ヒドロキシエチルセルロース」を含め「分散助剤」を含むことは必須とされていない。
また、本件訂正発明5~7におけるカプセル化香料組成物は、シリカの流動助剤を含む粉末の形態であることが特定されており、その製造の際には、水性媒体中に分散したスラリーの形態を経ると認められるところ(本件明細書の【0081】)、本件訂正請求項5~7の記載によれば、当該スラリーが「ヒドロキシエチルセルロース」を含め「分散助剤」を含むことは必須とされていない。
イ 発明の詳細な説明に記載された本件訂正発明におけるスラリーの形態について
本件明細書の【0071】~【0072】の記載、及び同【0106】~【0107】に記載された「例4」の試験の結果によれば、ポリウレアカプセルを含有するスラリーは、分散助剤として「ヒドロキシエチルセルロース(Natrosol 250HX)」を使用した場合のみ、相分離が観察されず、スラリーは流動可能なままであったのに対して、他の分散助剤を使用した場合には、相分離が生じスラリーを安定化できなかったことが認められる。
しかし、本件明細書の【0094】~【0095】に記載の「例1」、同【0096】~【0102】に記載の「例2」、同【0103】~【0105】に記載の「例3」、及び、同【0103】に記載の「例5」において、カプセル香料組成物を形成したとされているところ、その際に「スラリー」の形態を経ているが、「分散助剤」を使用したとはされていない。
そうすると、本件訂正発明1~10におけるカプセル化香料組成物の形成の際に、「分散助剤」として「ヒドロキシエチルセルロース」を使用しなくても、水性分散媒体中に分散されたポリウレアカプセルを含むスラリーの形態が得られるものと認められるから、「例4」に示されている上記の相分離の抑制は、あくまで本件訂正発明に包含される特定の態様において奏される追加的な効果にすぎない。
ウ 取消理由1(2)についてのまとめ
したがって、本件訂正発明1~10について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には、取消理由1(2)として指摘した不備はない。
(3) 取消理由1についてのまとめ
以上より、本件訂正発明1~10に係る特許は、取消理由1によって取り消されるべきものではない。
3 取消理由2(サポート要件違反)について
・請求項1~10
(1) 本件訂正発明の課題について
本件明細書の【0012】~【0014】の記載からみて、本件訂正発明1~10が解決しようとする課題は、いずれも共通して、
「リーブオンパーソナルケア製品、特に消臭剤及び発汗抑制剤において有用な、ポリウレアカプセルを含むカプセル化香料組成物であって、攻撃的な媒体を含有する消費者製品中において時間が経っても十分に安定であり、それでもなお十分に脆く、機械的な力を受けたとき、皮膚や布地への激しいこすりに相応して、適用後少なくとも6時間、及び10時間までの期間、新鮮さの感覚を提供するのに十分な強度で香料を放出する前記カプセル化香料組成物を提供すること」(下線は当審合議体が付した。以下同じ。)
を含むものと認められる。
(2) 「体積平均直径」及び「公称破断応力」について
・請求項1~10
ア 当審における判断
上記2(1)で詳説したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1~10における次のA~Dの4つのパラメータの要件:
A.「体積平均直径」が「20~50ミクロン」
B.「シェル重量」が「12重量%~20重量%」
C.「公称破断応力」が「0.1~2MPaの範囲」(本件訂正発明2
では「0.4~1MPaの範囲」)
D.「シェル重量の体積平均直径に対する比」が「0.7ミクロン-1
以下」
を全て満たすポリウレアカプセルを含むカプセル化香料組成物を製造し使用できるように記載されているといえる。
そして、本件明細書における「例3」の【表7】の記載と、上記2(1)ウ(イ)に示した表の記載からみて、「例3」のエントリ1及び4のカプセル化香料組成物は、上記4つのパラメータの要件の1つ以上を満たさないが、ロールオン消臭基剤において適用して10時間後にこすった後、知覚された試料の強度を示しているから、上記(1)の課題を解決できると当業者が認識し得るものと認められ、これらと比較して、当該4つの要件を全て満たすエントリ2及び3のカプセル化香料組成物は、より優れた効果を奏することが示されているものと認められる。
また、上記2(1)で説示したとおり、当業者は、「例3」の上記エントリ2及び3と異なるポリアミン及びポリイソシアネート等の材料を用いてポリウレアカプセルを調製する場合にも、過度の試行錯誤を要さずに、上記4つのパラメータの要件を全て満たすカプセル化香料組成物を得ることができるといえるところ、そのようなカプセル化香料組成物では、上記(1)の課題を解決できないと推認し得るような技術常識が本件特許の出願時に存在したとも認められない。
したがって、本件訂正発明1~10は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記(1)の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものである。
イ 申立人の主張について
(ア) 申立人の主張の概要
申立人は、令和4年11月1日提出の意見書において、概略、次のa及びbの主張をしている。
a.
本件明細書の発明の詳細な説明において、本件訂正発明1~10の4つのパラメータの要件を満たすポリウレアカプセルを含むカプセル化香料組成物について実施例として記載されているのは、「例3」のエントリ2及び3の2例のみであり、【表7】に示された、公称破断応力が非常に低いエントリ2及び3と比較して、エントリ1及び4の香料の放出が低いという結果は、エントリ1及び4の公称破断応力がエントリ2及び3よりも高いから、ポリウレアカプセルが壊れにくいためであると理解できる。
しかし、エントリ4は、公称破断応力が1.7MPaであり、本件訂正発明1の規定の範囲内である一方、シェル重量が本件訂正発明1の規定の範囲から外れているところ、エントリ4のシェル重量は、エントリ2及び3より多く、カプセルシェルそのものが厚くなったため、公称破断応力が高くなったものと予想できるが、わずか4つの試料のみで本件訂正発明1の効果と各構成要件との関係を理解することは困難である。
したがって、エントリ4の香料の放出の結果は、エントリ2及び3よりも公称破断応力が高いことのみに由来するものと理解でき、本件訂正発明1の公称破断応力以外の構成要件が満たされても、公称破断応力が1.7MPaでは、所望とする香料の放出が実現しない可能性が高いと考えられる。
例えば、体積平均直径が30ミクロン、シェル重量が19重量%、公称破断応力が1.7MPaのポリウレアカプセルは、エントリ4と同等の効果を示すと予想され、つまり、本件訂正発明1は、十分な強度で香料を放出するという効果を奏さない範囲の発明を包含し、課題を解決できない発明を包含している。
(意見書5~6頁)
b.
「例3」のエントリ1~4は、「例1」の方法に従って形成されたとされており、ポリイソシアネートとして「Desmodur(登録商標)W」及び「Bayhydur(登録商標)XP2547」を用い、ポリアミンとして「Lupasol(登録商標)PR8515」を用いたシェル材料から形成されたポリウレアカプセルのみが使用されている。
本件明細書の【表7】において、本件訂正発明の効果が確認できる実施例としては、(A)体積平均直径が30ミクロン、(B)シェル重量が15~19重量%、(C)公称破断応力が0.5MPa、及び、(D)シェル重量の体積平均直径に対する比が0.5~0.6ミクロン-1である、特定のイソシアネートと特定のポリアミンから形成されるポリウレア樹脂を含むカプセルシェルを有するポリウレアカプセルが、わずか2種類(エントリ2及び3)示されるのみである。
つまり、本件明細書に示されたわずか2例の実施例に基づいて、本件訂正発明に包含される全てのカプセル化香料組成物が、エントリ2及び3と同様な効果を奏するとは本件明細書の記載からは認識することはできない。
したがって、発明の詳細な説明に記載された事項を本件訂正発明1の範囲に及ぶまで、拡張ないし一般化できる根拠は見いだせない。
(意見書6~7頁)
(イ) 申立人の主張についての当審の判断
a.
申立人の上記aの主張は、本件明細書に記載された「例3」のエントリ4のカプセル化香料組成物では、所望とする香料の放出が得られず、その発明の課題を解決することができないということを前提とするものである。
しかし、本件明細書において、「例3」の【表7】に示されているのは、本件訂正発明における4つのパラメータの要件を全て満たすエントリ2及び3のカプセル化香料組成物が、当該4つの要件の1つ以上を満たさないエントリ1及び4のカプセル化香料組成物と比較すると、ロールオン消臭基剤において適用した10時間後にこすった後、より強い知覚された試料の強度を示す、すなわち、より優れた効果を奏するということであって、エントリ1及び4のカプセル化香料組成物では上記課題を解決できないことが示されているわけではない。
したがって、申立人の上記aの主張は、その前提において誤っているものであり、採用の限りではない。
b.
上記アで説示したように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件訂正発明における4つのパラメータの要件を全て満たすカプセル化香料組成物であれば、上記(1)の課題を解決できると、当業者は認識し得るものといえる。
申立人は、本件訂正発明1の条件を満たす実施例が本件明細書に2例しか記載されていないことをもって、本件訂正発明に包含される全てのカプセル化香料組成物が、これら2例の実施例と同等の効果を奏すると推認できない旨を主張するものの、実際に本件訂正発明における上記4つの要件の全てを満たすカプセル化香料組成物であっても、上記(1)の課題を解決できないということを証明する試験データ等の具体的な根拠を何ら示していない。
したがって、申立人の上記bの主張は採用できない。
ウ 取消理由2(2)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求項1~10の記載には、取消理由2(2)として指摘した不備はない。
(3) 「分散助剤」としての「ヒドロキシエチルセルロース」について
・請求項1~10
上記2(2)で説示したとおり、本件訂正発明1~10におけるカプセル化香料組成物の形成の際に、「分散助剤」として「ヒドロキシエチルセルロース」を使用しなくても、水性分散媒体中に分散されたポリウレアカプセルを含むスラリーの形態が得られると認められるから、本件明細書に記載された「例4」に示されている相分離の抑制は、あくまで本件訂正発明に包含される特定の態様において奏される追加的な効果にすぎない。
また、本件訂正発明1~10が解決すべき課題は、上記(1)で認定したとおりであり、「相分離の抑制」は当該課題に含まれていない事項である。
そうすると、本件訂正発明1~10は、「分散助剤」である「ヒドロキシエチルセルロース」の特定がされていなくても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記(1)の課題を解決することができると当業者が認識できる範囲のものでないとはいえない。
(4) 取消理由2についてのまとめ
以上より、本件訂正発明1~10に係る特許は、取消理由2によって取り消されるべきものではない。
4 取消理由3(明確性要件違反)について
・請求項1~10
本件訂正請求項1~10の記載によれば、本件訂正発明1~10におけるカプセル化香料組成物に含まれるポリウレアカプセルは、「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するものとされている。
そして、上記2(1)アにて説示したとおり、本件明細書には、「体積平均直径」に関し、【0016】~【0017】に測定方法等を含めた一般的な説明が記載されており、Malvern 2000S装置およびMie散乱理論を用いた光散乱測定によって測定され(【0016】)、実験的には、約10%のカプセルを含有する数滴のスラリーを、散乱セルを通って流れる脱気された水の循環流に添加して、散乱強度の角度分布を測定するものであり、カプセルサイズ分布の特性を示すパーセンタイルのうち、Dv50は、分布の中央値に対応するものである(【0017】)。本件明細書に記載の「例1」及び「例3」で調製された「D50=20μm」及び「D50が30ミクロン」のカプセル化香料組成物は、上記の「体積平均直径」に関する一般的な説明の記載、並びに、乙1及び乙2の記載事項から把握される「体積平均直径」及び「D50」の表記についての技術常識を考慮すれば、「D50」という表記が「体積平均直径」を示すものであって、本件訂正発明1~10で規定する「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するポリウレアカプセルを含むものであるということを理解できるといえる。
したがって、本件訂正請求項1~10の記載には、取消理由3として指摘した不備はない。
5 取消理由4(新規性欠如)について
・請求項1~2、4
・甲3(、甲1)
(1) 甲3の記載事項及び甲3に記載された発明
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甲3には、コア材料及びコア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料を含む1つ以上の粒子を含む粒子組成物を含む消費者製品であって、当該粒子が1型粒子、2型粒子、3型粒子、4型粒子、及びこれらの混合物からなる群から選択される消費者製品が記載され(【請求項1】)、当該消費者製品として、防臭剤及び制汗剤が挙げられることが記載され(【0005】)、効果的及び効率的な有益剤デリバリーを達成するという問題が、コア材料と、コア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料と、物理的及び化学的特性の特定の組み合わせと、を有する有益剤含有デリバリー粒子が採用されるときに、経済的な方式で解決でき、かかる物理的及び化学的特性は体積加重破壊強度により定義されること、及び、デリバリー有効性及び効率性は、各用途について挙げられた以下の体積加重破壊強度を有する粒子を選択することにより、更に調整することができること、が記載されている(【0016】):
1.1型有益剤含有デリバリー粒子(1型粒子):有益剤(例えば香り)が洗浄溶液に/から所望されるときに採用され得る。かかる粒子は、約0.8MPa未満、約0.8MPa~約0.1MPa、又は更には約0.75MPa~約0.25MPaの体積加重破壊強度を有してもよい。
2.2型有益剤含有デリバリー粒子(2型粒子):有益剤(例えば香り)が濡れた部位から所望されるときに採用され得る。かかる粒子は、約0.5MPa~約2MPa、約0.8MPa~約1.8MPa、又は更には約1MPa~約1.7MPaの体積加重破壊強度を有してもよい。
3.3型有益剤含有デリバリー粒子(3型粒子):、有益剤(例えば香り)がかかる粒子に接触した後で乾燥された乾いた部位から所望されるときに採用され得る。かかる粒子は、約1.5MPa又は更には2MPa~約5MPa、約1.5MPa又は更には2MPa~約5MPa、又は約1.5MPa又は更には2MPa~約4MPa、あるいは約1.5MPa又は更には2MPa~約3MPaの体積加重破壊強度を有してもよい。
4.4型有益剤含有デリバリー粒子(4型粒子):有益剤(例えば香り)が、ある部位がかかる粒子に接触した後で、着用/使用の間、かかる部位から所望されるときに採用され得る。かかる粒子は、約5MPa~約16MPa、約5MPa~約9MPa、又は更には約6MPa~約8MPaの体積加重破壊強度を有してもよい。
また、甲3には、有用な壁材料の例として、「ポリ尿素」が挙げられており、「ホルムアルデヒド又はグルテルアルデヒド(gluteraldehyde)と架橋した尿素」、「ホルムアルデヒドと架橋したメラミン」及び「ポリイソシアネートと反応したポリアミン」が例示されており(【0025】)、有用なコア材料としては、香料原材料が例示されており(【0026】)、「体積加重破壊強度(VWFS)」について、次の説明が記載されている(【0069】及び【0070】の【表1】)。
「VWFS=(破壊強度1×体積分率1)+(破壊強度2×体積分率2)+(破壊強度3×体積分率3)破壊強度1=10回のマイクロカプセル(同様の粒径を有する)のデータ集から求められる平均破壊強度体積分率1=アキュサイザー(・・・)により求められる、破壊強度1に対応する粒子分布の体積分率体積分率を求めるために、破壊強度周辺のスプレッドが以下のように求められる:約15μmの平均粒径を有する粒子バッチ用には約10μmのスプレッドが使用され、約30μm以上の平均粒径を有する粒子バッチ用には約10~15μmのスプレッドが使用される。」
「【表1】[図:0001399324000005.jpg]」
そして、甲3には、実施例1として、『80重量%コア/20重量%壁の尿素系ポリ尿素カプセル』について記載されており(【0073】)、当該カプセルは、尿素2gを脱イオン水20gに溶解してレゾルシノール1gを添加した尿素溶液に、ホルムアルデヒド37重量%溶液20gを添加し、水酸化ナトリウム溶液でスラリーのpHを8.0に調整し、反応物質を35℃で2時間放置し、この尿素-ホルムアルデヒド溶液に芳香剤油80gを添加し攪拌して、平均油滴直径分布31ミクロンを得た後に、塩酸でスラリーのpHを3.0に調整して縮合反応を開始させ、溶液を65℃まで加熱し、内容物をゆっくりと攪拌しながら恒温水槽中で反応させ、内容物を65℃で4時間反応させて得られたことが記載されている(【0073】)。さらに、当該カプセルの体積平均破壊強度破壊(Volume Average Fracture Strength Fracture)は、1.5MPaと求められたことが記載されている(【0074】)。
上記の甲3の記載事項によれば、甲3には、実施例1で得られたカプセルを含む消費者製品として、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
≪甲3発明≫
「尿素-ホルムアルデヒド溶液に芳香剤油を添加し攪拌し得られた平均油滴直径分布31ミクロンのスラリーにおいて縮合反応させて得られた、80重量%コア/20重量%壁の尿素系ポリ尿素カプセルを含み、ここで尿素系ポリ尿素カプセルの体積平均破壊強度破壊が、1.5MPaである、コア材料として芳香剤油を含む、消費者製品。」
(2) 本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「コア材料として芳香剤油を含む、消費者製品」は、「芳香剤油」(「香料」に相当するものと認められる。)をカプセルのコア材料として含むものであり、本件訂正発明1の「カプセル化香料組成物」に相当する組成物により構成されているといえる。
また、「ポリウレア」は、「ポリ尿素」ともいい、主鎖の繰り返し単位中に窒素結合-NHCONH-を有する高分子化合物の総称であるから(参1の「ポリ尿素」の項を参照。)、甲3発明における「80重量%コア/20重量%壁の尿素系ポリ尿素カプセル」は、本件訂正発明1における「カプセル(コア+シェル)の総重量の12重量%~20重量%のカプセルシェル重量を有する1種以上のポリウレアカプセル」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲3発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「カプセル(コア+シェル)の総重量の12重量%~20重量%のカプセルシェル重量を有する1種以上のポリウレアカプセルを含む、カプセル化香料組成物。」
<相違点1>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するのに対し、甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルは、「平均油滴直径分布31ミクロンのスラリーにおいて縮合反応させて得られた」ものである点。
<相違点2>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「公称破断応力が、0.1~2MPaの範囲である」とされているのに対し、甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルは、「体積平均破壊強度破壊が、1.5MPaである」とされている点。
<相違点3>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である」とされているのに対し、甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルは、そのような条件を満たすか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1について
甲1には、芳香剤成分がポリウレアポリマーによりカプセル化されたカプセル化芳香剤組成物を含む、消臭剤・発汗抑制剤等のパーソナルケア製品が開示されており(請求項1、10、[0043])、そのカプセル化のプロセスについて、[0060]に以下の事項が記載されている(当審注:原文は英語で記載されているため、特許権者が提出した部分訳文を当審合議体が一部修正して摘記した。以下同じ。)。
「カプセル化プロセスを行うために、水と混じり合わない(有機)相と水相は、そのようなプロセスのための技術分野で知られた混合装置、特に高剪断混合装置を用いてエマルションに変換される。当技術分野でよく知られるように、混合プロセスは、エマルションの液滴サイズを決定し、それによりマイクロカプセルの粒子サイズを決定する。混合条件は、平均液滴サイズ、すなわちマイクロカプセルのメジアン径(体積平均粒径)が0.1~500μm、好ましくは300μm以下、より好ましくは150μm以下、最も好ましくは50μm以下になるように選択するのが好ましい。乳化剤は、適切なエマルションの形成を助けるため、特に低い液滴サイズ(したがって、マイクロカプセルサイズ)が望まれる場合には、有効に添加される。」
上記の甲1の記載事項によれば、甲1においては、ポリウレアポリマーにより芳香剤成分をカプセル化するプロセスにおけるエマルションの平均液滴サイズが、調製されるマイクロカプセル粒子のメジアン径(体積平均粒径)を示すものとされていると認められるが、そのような事項が本件優先日前の技術常識であったとは認められない。
そうすると、甲3発明において、「平均油滴直径分布31ミクロンのスラリーにおいて縮合反応させて得られた」尿素系ポリ尿素カプセルが、実際にどの程度の体積平均直径を有するかを特定することができず、本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルの「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するとの条件を満たすものとはいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点である。
(イ) 相違点2について
甲3には、甲3発明における「体積平均破壊強度破壊」に対応するものと解される、「体積加重破壊強度(VWFS)」について、「(破壊強度1×体積分率1)+(破壊強度2×体積分率2)+(破壊強度3×体積分率3)」なる計算式により算出される旨が記載されている(【0069】)。
一方、本件訂正発明1における「公称破断応力」ついては、本件明細書の【0024】において、マイクロマニピュレーション技術によって、単一のカプセルを、2つの平行な表面の間で圧縮して破断させ、力単位(ニュートン)で表されるカプセルの破断時の力を、カプセルの断面積で割ることにより、圧力単位(パスカル)で表される破断応力に変換し、これを典型的には50個のカプセルで繰り返し、平均値を用いて、公称破断応力を計算する旨が記載されている。
そうすると、甲3発明における「体積平均破壊強度破壊」と、本件訂正発明1における「公称破断応力」とは、算出方法が異なる別異のものであると認められるから、甲3発明における「体積平均破壊強度破壊」の数値「1.5MPa」が、本件訂正発明1における「公称破断応力」の数値「0.1~2MPaの範囲」に含まれるとしても、前者が後者の条件を満たすものとはいえない。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。
(ウ) 相違点3について
上記(ア)で説示したとおり、甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルの体積平均直径を特定することができないから、その数値が算出の前提となっている「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比」も特定することができず、当該比が本件発明1において特定する「0.7ミクロン-1以下」であるということはできない。
したがって、相違点3は実質的な相違点である。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和4年11月1日提出の意見書において、甲3の【表1】では、体積分率として、「1~25ミクロン:30%、25~36ミクロン:40%、36~50ミクロン:30%」と記載されており、その平均粒径が31ミクロンと記載されていることから、サンプル体積の50%が存在する最大粒子径は31ミクロンになると予想できる旨を主張している(意見書3頁)。
しかしながら、申立人が指摘する甲3の【表1】に記載の「粒子バッチ」は、甲3発明における「尿素-ホルムアルデヒド」の縮合反応により得られる「尿素系ポリ尿素カプセル」とは別異のカプセルである「メラミン系ポリ尿素」についてのものであって、甲3発明における「尿素系ポリ尿素カプセル」が実際どの程度の体積平均直径を有するかを示すものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は甲3に記載された発明であるとはいえない。
(3) 本件訂正発明2及び4について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1において、ポリウレアカプセルの公称破断応力を「0.4~1MPaの範囲」に更に限定するものである。
本件訂正発明4は、本件訂正発明1~3のいずれかにおいて、「カプセルが、カプセル化された溶媒を含有しない」ことを更に限定するものである。
そして、上記(2)で説示したとおり、本件訂正発明1が甲3に記載された発明とはいえないのであるから、本件訂正発明1を更に限定した本件訂正発明2及び4も、甲3に記載された発明であるとはいえない。
6 取消理由5(進歩性欠如)について
・請求項1~10
・甲3(、甲1、甲7~8)
上記第4の2で述べたように、令和4年3月25日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消理由のうち取消理由5(進歩性欠如)は、本件訂正前の請求項3、5~10に係る発明の特許を対象としており、本件訂正前の請求項1~2、4に係る発明の特許は対象とされていなかった。
しかし、本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2において、「カプセル化香料」が「15,000ppm以下の水への溶解度を有する香料成分を少なくとも60重量%含む」ことを更に限定するものであって、その進歩性の判断においては、その前提として本件訂正発明1の進歩性の判断が含まれることになるため、ここで本件訂正発明1~2、4の進歩性も検討することとする。
(1) 本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲3発明との間の一致点及び相違点は、上記5(2)アで認定したとおりであり、再掲すると次のとおりである。
<一致点>
「カプセル(コア+シェル)の総重量の12重量%~20重量%のカプセルシェル重量を有する1種以上のポリウレアカプセルを含む、カプセル化香料組成物。」
<相違点1>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するのに対し、甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルは、「平均油滴直径分布31ミクロンのスラリーにおいて縮合反応させて得られた」ものである点。
<相違点2>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「公称破断応力が、0.1~2MPaの範囲である」とされているのに対し、甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルは、「体積平均破壊強度破壊が、1.5MPaである」とされている点。
<相違点3>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である」とされているのに対し、甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルは、そのような条件を満たすか不明である点。
イ 相違点についての判断
上記3(1)で認定したとおり、本件訂正発明1~10は、
「リーブオンパーソナルケア製品、特に消臭剤及び発汗抑制剤において有用な、ポリウレアカプセルを含むカプセル化香料組成物であって、攻撃的な媒体を含有する消費者製品中において時間が経っても十分に安定であり、それでもなお十分に脆く、機械的な力を受けたとき、皮膚や布地への激しいこすりに相応して、適用後少なくとも6時間、及び10時間までの期間、新鮮さの感覚を提供するのに十分な強度で香料を放出する前記カプセル化香料組成物を提供すること」
を解決するべき課題とするものと認められ、当該課題を解決するための手段として、上記2(1)ウ(イ)で認定したとおり、カプセル化香料組成物が含むポリウレアカプセルが、次のA~Dの4つのパラメータの要件を全て満たすものとされていると認められる。
A.「体積平均直径」が「20~50ミクロン」
B.「シェル重量」が「12重量%~20重量%」
C.「公称破断応力」が「0.1~2MPaの範囲」(本件訂正発明2
では「0.4~1MPaの範囲」に限定)
D.「シェル重量の体積平均直径に対する比」が「0.7ミクロン-1
以下」
上記4つのパラメータの要件のうちの要件Aは相違点1に係る特定事項に対応し、同要件Bは一致点に含まれる特定事項であり、同要件Cは相違点2に係る特定事項に対応し、同要件Dは相違点3に係る特定事項に対応する。
そして、上記要件Cの「公称破断応力」は、カプセルの破断時の力をカプセルの断面積で割ることによって求められる値であり(本件明細書の【0024】)、上記の課題の解決の観点からすると、適用後10時間まで十分な強度で香料を放出するためにカプセルの強度が十分な安定性と同時に十分な脆さを備える必要があるものと解される。そのため、例えば、上記要件Aの「体積平均直径」がその範囲内で小さな値になる場合には、カプセルシェルの厚さが薄くなるよう、上記要件Bの「シェル重量」もその範囲内で小さな値とする必要があり、そのことが上記要件Dの「シェル重量の体積平均直径に対する比」に示されているといえる。
そうすると、上記の課題を解決するための手段である上記A~Dの各要件の充足については、それぞれ切り離すことができず、一体的に満たす必要があるものと認められる。
これに対し、甲3発明は、「効果的及び効率的な有益剤デリバリーを達成するという問題」を解決したものとされているが(甲3の【0016】)、本件訂正発明における上記の課題のような、適用後10時間まで十分な強度で香料を放出するためのカプセルの強度における十分な安定性と十分な脆さといった観点は、甲3には記載されていない。
そうすると、本件訂正発明における上記のような課題を開示しない甲3に記載された甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルについて、上記A~Dの各要件を一体的に充足するものとし、相違点1~3に係る特定事項を全て同時に採用することは、当業者において動機付けがあるとはいえず、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件訂正発明2~10について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1において、ポリウレアカプセルの公称破断応力を「0.4~1MPaの範囲」に更に限定するものである。
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は2において、「カプセル化香料」が「15,000ppm以下の水への溶解度を有する香料成分を少なくとも60重量%含む」ことを更に限定するものである。
本件訂正発明4は、本件訂正発明1~3のいずれかにおいて、「カプセルが、カプセル化された溶媒を含有しない」ことを更に限定するものである。
本件訂正発明5は、本件訂正発明1~4のいずれかにおいて、「シリカの流動助剤を含む粉末の形態であり、ここでシリカが1~8ミクロンの粒径を有する」ことを更に限定するものである。
本件訂正発明6は、本件訂正発明5のカプセル化香料組成物を形成する方法であって、スラリーの形態のカプセル化香料組成物中にシリカを分散させるステップ、およびスラリーを脱水するステップを含む、方法に係るものである。
本件訂正発明7は、本件訂正発明6において、「スラリーが、噴霧乾燥により脱水される」ことを更に限定するものである。
本件訂正発明8は、本件訂正発明1~5のいずれかに定義されるカプセル化香料組成物を含む、リーブオンパーソナルケア製品に係るものである。
本件訂正発明9は、本件訂正発明8のリーブオン製品について、更に消臭製品の形態であることを特定するものである。
本件訂正発明10は、本件訂正発明8のリーブオン製品について、更に発汗抑制剤の形態であることを特定するものである。
そして、上記(1)で説示したとおり、本件訂正発明1については、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件訂正発明1を直接的に又は間接的に引用し、それを特定事項とする本件訂正発明2~10についても、甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
第6 取消理由通知で採用しなかった申立理由について
1 取消理由通知で採用しなかった申立理由
特許異議の申立ての理由の概要は、上記第4の1に示したとおりであり、そのうち、取消理由通知で採用しなかったのは、申立理由C(2)、申立理由申立理由D(1)、申立理由D(2)のうち請求項8~10を対象とする理由、及び、申立理由E(1)~(4)である。
これらの申立理由についての当審の判断は、以下のとおりであるが、事案に鑑み、申立理由C(2)、申立理由D(2)のうち請求項8~10を対象とする理由、申立理由D(1)、申立理由E(1)~(4)、の順に検討を行う。
2 申立理由C(2)について
申立理由C(2)の概要は、本件特許発明1~10で規定する「ポリウレアカプセルの公称破断応力が0.1~2MPaの範囲である」ことの技術的意義が不明確であるから、本件特許の請求項1~10の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。
しかしながら、「ポリウレアカプセルの公称破断応力」について、本件訂正請求項1には「0.1~2MPaの範囲」であることが記載され、本件訂正請求項2には「0.4~1MPaの範囲」であることが記載されており、これらの記載を引用する本件訂正請求項3~10も含めて、本件発訂正発明1~10においては、ポリウレアカプセルを特定する事項として、公称破断応力の数値範囲が明確に規定されている。
また、上記第5の2(1)イで説示したとおり、公称破断応力の測定方法についても、本件明細書の【0024】において、文献を引用して説明が記載されおり、事後的ではあるが、本件明細書に記載された「実施例」のうち、「例3」の【表7】に記載された4つのカプセル化香料組成物については、それらの公称破断応力の数値が「0.1~2MPaの範囲」又は「0.4~1MPaの範囲」であったということも、確認することができた。
そして、上記「例3」の【表7】の4つのカプセル化香料組成物のうち、エントリ2及び3は、本件訂正発明1~10で特定するポリウエレアの条件を満たすものであり、それらの感覚パネリストにより知覚された試料の強度を経時的に比較した試験の結果から、公称破断応力と本件訂正発明における課題を解決する手段としての関係についても、明確に理解することができるといえる。
したがって、本件訂正請求項1~10の記載には、「ポリウレアカプセルの公称破断応力」の範囲の点で不備はない。
3 申立理由D(2)について
・請求項8~10
・甲3
申立理由D(2)のうち、請求項8~10を対象とする理由の概要は、本件特許発明8~10が、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項8~10に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、というものである。
しかしながら、上記第5の5(2)~(3)で説示したとおり、本件訂正発明1、2及び4は、甲3に記載された発明であるとはいえないから、本件訂正発明1、2又は4を更に限定した本件訂正発明8~10も、甲3に記載された発明であるとはいえない。
4 申立理由D(1)について
・請求項1~4、8~10
・甲1(、甲2)
(1) 申立理由D(1)の概要
申立理由D(1)の概要は、本件特許発明1~4、8~10が、甲2により補完される甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~4、8~10に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、というものである。
(2) 甲1の記載事項の概要及び甲1に記載された発明
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甲1には、芳香剤物質がポリウレアポリマーによりカプセル化され、ポリウレアポリマーがポリイソシアネート及び架橋剤を含み、さらにカルボキシメチルセルロースポリマーで修飾されている、芳香剤物質を含むカプセル化芳香剤組成物が記載されており(請求項1)、当該架橋剤がヘキサメチレンジアミンであること(請求項3)、及び、当該組成物がパーソナルケア製品等に配合されること(請求項10)、が記載されている。
また、甲1には、概略、次の事項が記載されている。
従来、パーソナルケア等のための有益剤の放出に、ポリウレアやポリウレタンのマイクロカプセルは適用されていなかったが、そのような用途では、より早く、より簡単に放出されることや、より少ない機械的強度が望まれることが多く、所望の放出プロファイル及び消費者利益を達成するため、カプセル壁の透過性やその他のカプセル壁の特性をより正確に影響させることが望ましいと考えられること([0007])。
皮膚を対象とした製品の例としては、皮膚や毛髪を洗浄するためのバス・シャワー製品やシャンプーのほか、ヘアコンディショナー、ハンド・ボディローション、クリーム、リップケア製品、消臭剤・発汗抑制剤、メイクアップ製品など、皮膚・髪のケア/保護製品が挙げられること([0043])。
「カプセル化プロセスを行うために、水と混じり合わない(有機)相と水相は、そのようなプロセスのための技術分野で知られた混合装置、特に高剪断混合装置を用いてエマルションに変換される。当技術分野でよく知られるように、混合プロセスは、エマルションの液滴サイズを決定し、それによりマイクロカプセルの粒子サイズを決定する。混合条件は、平均液滴サイズ、すなわちマイクロカプセルのメジアン径(体積平均粒径)が0.1~500μm、好ましくは300μm以下、より好ましくは150μm以下、最も好ましくは50μm以下になるように選択するのが好ましい。乳化剤は、適切なエマルションの形成を助けるため、特に低い液滴サイズ(したがって、マイクロカプセルサイズ)が望まれる場合には、有効に添加される。」([0060])
そして、甲1には、「例1」として、概略、以下のステップを含む『酢酸ベンジルを用いたポリウレアカプセルの調製』が記載されている([0102]~[0105])。
・ステップ1. 芳香剤エマルジョンの調製
酢酸ベンジル(BA、ClogP 1.79)100gを、イソシアネートモノマーであるLupranate(登録商標)M20 9.6gと合わせて油相を形成し、別のビーカーに十分量のMowet D-425(当審注:「Morwet D-425」の誤記と認める。)を純水に溶かして、3%の界面活性剤溶液(160g)を用意し、次に、油相を水相に乳化させ、6500rpmで2分間の剪断下で芳香剤エマルションを形成した。
・ステップ2. 芳香剤カプセルの形成
ステップ1で調製したBAエマルションを丸底容器に入れ、そこに40%ヘキサメチレンジアミン(HMDA)10.8gを一定に混合しながら添加し、カプセルの形成を光学顕微鏡で確認し、HMDAの添加が完了した後、ミキサーの速度を低下させ、カプセルスラリーを室温で3時間硬化させた。
カプセルは、使用する乳化剤及び剪断速度に応じて、サブミクロンから数百ミクロンの範囲となる。
Lupranate M20の代わりに、PAPI* 27(Dow Chemical,・・・)、Mondur MR(Bayer)、Mondur MR Light(Bayer)およびポリ[(フェニルイソシアネート)-co-ホルムアルデヒド](Aldrich Chemical,・・・)などの他のイソシアネートモノマーを使用してもよい。これらのポリイソシアネートは互いに交換可能に使用することができる。
上記の甲1の記載事項によれば、甲1には、「例1」で調製された芳香剤カプセルからなる組成物として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
≪甲1発明≫
「芳香剤物質である酢酸ベンジル(BA)及びイソシアネートモノマーであるLupranate M20を含む油相を水相に乳化した芳香剤エマルションに、架橋剤であるヘキサメチレンジアミンを混合しながら添加し、形成されたカプセルスラリーを硬化させ得られた、サブミクロンから数百ミクロンの範囲のカプセルからなる、芳香剤物質がポリウレアポリマーによりカプセル化された、カプセル化芳香剤組成物。」
(3) 本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「芳香剤物質がポリウレアポリマーによりカプセル化された、カプセル化芳香剤組成物」は、「芳香剤物質」(「香料」に相当するものと認められる。)がカプセル化された組成物であり、本件訂正発明1の「カプセル化香料組成物」に相当する。
甲1発明において、芳香剤物質をカプセル化したポリウレアポリマーは、本件訂正発明1における「1種以上のポリウレアカプセル」に相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明の間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「1種以上のポリウレアカプセルを含む、カプセル化香料組成物。」
<相違点1-1>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「20~50ミクロンの体積平均直径」を有するのに対して、甲1発明におけるカプセルは、「サブミクロンから数百ミクロンの範囲」のものである点。
<相違点1-2>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「カプセル(コア+シェル)の総重量の12重量%~20重量%のカプセルシェル重量を有する」とされているのに対して、甲1発明におけるカプセルのカプセルシェル重量は不明である点。
<相違点1-3>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「公称破断応力が、0.1~2MPaの範囲である」とされているのに対して、甲1発明におけるカプセルの公称破断応力は不明である点。
<相違点1-4>
本件訂正発明1におけるポリウレアカプセルは、「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比が、0.7ミクロン-1以下である」とされているのに対して、甲1発明におけるカプセルは、そのような条件を満たすか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1-1について
上記(1)で認定した甲1の[0060]の記載事項によれば、甲1においては、ポリウレアポリマーによって芳香剤成分をカプセル化するプロセスにおけるエマルションの平均液滴サイズが、調製されるマイクロカプセル粒子のメジアン径(体積平均粒径)を示すとされていると認められる。
しかしながら、甲1発明の認定の根拠とした「例1」においては、エマルションの平均液滴サイズが示されておらず、実際に得られたカプセルの体積平均直径については、確認も推定もできない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点である。
(イ) 相違点1-2について
甲1発明の認定の根拠とした「例1」においては、カプセルシェルを形成する材料となる物質(イソシアネートモノマーであるLupranate M20、及び架橋剤であるヘキサメチレンジアミン)、並びに、コアにカプセル化される芳香剤物質である酢酸ベンジルについて、それぞれ用いられた量や濃度等が示されているが、ポリウレアポリマーの生成率が不明であるから、それらの数値を根拠として、実際に得られたカプセルにおけるコアとシェルの重量比を算出することはできず、当該重量比を確認することもできない。
したがって、相違点1-2は実質的な相違点である。
(ウ) 相違点1-3について
甲1には、パーソナルケア等のための有益剤の放出に、より少ない機械的強度が望まれる旨の一般的な記載はあるものの([0007])、甲1発明のカプセルの「公称破断応力」の値を把握できる根拠となる記載は見出せない。
したがって、相違点1-3は実質的な相違点である。
(エ) 相違点1-4について
上記(ア)で説示したとおり、甲1発明におけるカプセルの体積平均直径は特定できないから、その数値が算出の前提とされる「シェル重量(カプセル(コア+シェル)の総重量のパーセンテージとして表される)のカプセル体積平均直径(ミクロンで表される)に対する比」も特定することができず、当該比が本件発明1において特定する「0.7ミクロン-1以下」であるということはできない。
したがって、相違点1-4は実質的な相違点である。
ウ 申立人の主張について
申立人は、本件特許に対応する欧州特許の特許異議申立で提出された甲1の記載に基づく「例1」についての実験データとされる甲2を提出し、異議申立書(28~29頁)において、甲2に記載の測定データを根拠として、甲1に記載の「例1」で得られたカプセルについて、「体積平均直径」及び「公称破断応力」が本件訂正発明1の条件を満たす旨を主張するとともに、上記「例1」におけるカプセルシェルを形成するための材料とされた各物質及び芳香剤物質である酢酸ベンジルについて、それぞれの使用した量と濃度に基づいて、「カプセル(コア+シェル)の総重量に対するカプセルシェル重量」を算出し、本件訂正発明1の条件を満たす旨を主張している。
しかしながら、甲2に記載の実験は、次の点で、甲1の「例1」の条件を忠実に再現したものとはいえず、甲1の「例1」に十分な記載のない条件について、どのような条件を採用したものであるのかも不明であるため、そのような実験データを根拠に、甲1発明のカプセルにおける「体積平均直径」及び「公称破断応力」が本件訂正発明1の条件を満たすものと推認することはできない。
・甲1において「50ミクロン以下」という最も好ましい粒径として教示されている粒径を目指すために、剪断速度を低下させていること。
・イソシアネートモノマーとして、「Lupranate M20」ではなく「Mondur MR Light」が使用されたこと。
・甲1の「例1」では、ステップ1及び2におけるpHが示されておらず、当該pHの条件は調製されるカプセルの粒径等に影響するものと推定されるところ、甲2の実験では、pHをどのように設定・調整したのか不明であること。
また、甲1の「例1」においては、ポリウレアポリマーの生成率が不明であるから、得られたカプセルにおけるコアとシェルの重量比を算出できないことについては、上記イ(イ)で説示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。
(4) 本件訂正発明2~4、8~10について
本件訂正発明2~4、8~10は、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用し、本件訂正発明1の特定事項を全て備えたものである。
そして、上記(3)で説示したとおり、本件訂正発明1は甲1に記載された発明であるとはいえないから、本件訂正発明1の特定事項を全て備えた本件訂正発明2~4、8~10も、甲1に記載された発明であるとはいえない。
5 申立理由E(1)について
・請求項1~4、8~10
・甲1(、甲2)、甲3~甲6
(1) 申立理由E(1)の概要
申立理由E(1)の概要は、本件特許発明1~4、8~10が、甲2により補完される甲1に記載された発明、及び、甲3~甲6に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、8~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、というものである。
(2) 本件訂正発明1について
ア 対比・判断
本件訂正発明1と甲1発明との間の一致点及び相違点1-1~1-4は、上記4(3)アで認定したとおりである。
上記第5の3(1)で認定したとおり、本件訂正発明1~10は、
「リーブオンパーソナルケア製品、特に消臭剤及び発汗抑制剤において有用な、ポリウレアカプセルを含むカプセル化香料組成物であって、攻撃的な媒体を含有する消費者製品中において時間が経っても十分に安定であり、それでもなお十分に脆く、機械的な力を受けたとき、皮膚や布地への激しいこすりに相応して、適用後少なくとも6時間、及び10時間までの期間、新鮮さの感覚を提供するのに十分な強度で香料を放出する前記カプセル化香料組成物を提供すること」
を解決するべき課題とするものと認められ、当該課題を解決するための手段として、上記第5の2(1)ウ(イ)で認定したとおり、カプセル化香料組成物が含むポリウレアカプセルが、次のA~Dの4つのパラメータの要件を全て満たすものとされていると認められる。
A.「体積平均直径」が「20~50ミクロン」
B.「シェル重量」が「12重量%~20重量%」
C.「公称破断応力」が「0.1~2MPaの範囲」(本件訂正発明2
では「0.4~1MPaの範囲」に限定)
D.「シェル重量の体積平均直径に対する比」が「0.7ミクロン-1
以下」
上記4つのパラメータの要件のうちの要件Aは相違点1-1に係る特定事項に対応し、同要件Bは相違点1-2に係る特定事項に対応し、同要件Cは相違点1-3に係る特定事項に対応し、同要件Dは相違点1-4に係る特定事項に対応する。
そして、上記要件Cの「公称破断応力」は、カプセルの破断時の力をカプセルの断面積で割ることによって求められる値であり(本件明細書の【0024】)、上記の課題の解決の観点からすると、適用後10時間まで十分な強度で香料を放出するためにカプセルの強度が十分な安定性と同時に十分な脆さを備える必要があるものと解される。そのため、例えば、上記要件Aの「体積平均直径」がその範囲内で小さな値になる場合には、カプセルシェルの厚さが薄くなるよう、上記要件Bの「シェル重量」もその範囲内で小さな値とする必要があり、そのことが上記要件Dの「シェル重量の体積平均直径に対する比」に示されているといえる。
そうすると、上記の課題を解決するための手段である上記A~Dの各要件の充足については、それぞれ切り離すことができず、一体的に満たす必要があるものと認められる。
これに対し、甲1には、「より少ない機械的強度が望まれることが多く、所望の放出プロファイル及び消費者利益を達成するため、カプセル壁の透過性やその他のカプセル壁の特性をより正確に影響させることが望ましい」と記載されている一方([0007])、「より早く、より簡単に放出されること」も望まれることが記載されており([0007])、本件訂正発明における上記の課題のような、適用後10時間まで十分な強度で香料を放出するためのカプセルの強度における十分な安定性と十分な脆さといった観点は、甲1に記載されていない。
また、甲3には、上記第5の5(1)で認定した事項が記載されており、甲4の「例5」には、香料油を封入したシェル重量が30重量%のポリウレアカプセルであって、その粒径の範囲が2~50(大半が5~35)ミクロンであるマイクロカプセルが記載され、甲5の「例2」には、d50が21、36、43μmである香料を封入したポリウレアカプセルが記載され、甲6の「実施例1」には、平均粒子直径が53ミクロンであり、破壊強度が8.55kPaであり、芳香油を含む「80重量%コア材料/20重量%壁材料の尿素ベースのポリ尿素カプセル」が記載されているが、甲3~甲6にも、本件訂正発明における上記の課題のような、適用後10時間まで十分な強度で香料を放出するためのカプセルの強度における十分な安定性と十分な脆さといった観点は開示されていない。
そうすると、甲3~甲6の記載を考慮しても、本件訂正発明における上記のような課題を開示していない甲1に記載された甲1発明のカプセル化香料組成物について、上記A~Dの各要件の一体的に充足するものとし、相違点1-1~1-4に係る特定事項の全てを同時に採用したものとすることは、当業者において動機付けがあるとはいえず、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
なお、甲2に記載された実験データを根拠として、甲1発明のカプセルにおける「体積平均直径」及び「公称破断応力」が、本件訂正発明1の条件を満たすものと推認できないことは、上記4(3)ウで説示したとおりである。
イ 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 本件訂正発明2~4、8~10について
本件訂正発明2~4、8~10は、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用し、本件訂正発明1の特定事項を全て備えたものである。
そして、上記(2)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、本件訂正発明1の特定事項を全て備えた本件訂正発明2~4、8~10も、甲1に記載された発明、及び、甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
6 申立理由E(2)について
・請求項5~7
・甲1(、甲2)、甲3~甲8
申立理由E(2)の概要は、本件特許発明5~7が、甲2により補完される甲1に記載された発明、甲3~甲7に記載された事項、及び、甲8に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、というものである。
本件訂正発明5~7は、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用し、本件訂正発明1の特定事項を全て備えたものであるが、上記5(2)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲3~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、甲7の実施例1~7には、噴霧乾燥で得られた香料(シトラス)を有するマイクロカプセル化香料と無水ケイ酸を含むエアゾール組成物が記載されるに留まり、甲8には、流動助剤としてフュームドシリカが用いられることが記載されるに過ぎない(37頁右欄「5.工業利用」、38頁右欄下から9~5行、39頁右欄下から8~2行)。
したがって、本件訂正発明1の特定事項を全て備えた本件訂正発明5~7は、甲1に記載された発明、甲3~甲7に記載された事項、及び、甲8に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
7 申立理由E(3)について
・請求項1~4、8~10
・甲3、甲1(、甲2)、甲4~甲6
(1) 申立理由E(3)の概要
申立理由E(3)の概要は、本件特許発明1~4、8~10が、甲3に記載された発明、甲2により補完される甲1に記載された事項、及び、甲4~甲6に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、8~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、というものである。
(2) 本件訂正発明1について
本件訂正発明1と甲3発明との間には、上記第5の5(2)アにおいて認定した一致点及び相違点1~3があるものと認められるが、上記第5の6(1)で説示したとおり、本件訂正発明の課題のような、適用後10時間まで十分な強度で香料を放出するためのカプセルの強度における十分な安定性と十分な脆さといった観点は、甲3には記載されていないから、甲3発明における尿素系ポリ尿素カプセルについて、相違点1~3に係る特定事項を全て同時に採用することは、当業者において動機付けがあるとはいえない。
また、上記5(2)アで説示したとおり、甲1及び甲3~甲6にも、適用後10時間まで十分な強度で香料を放出するためのカプセルの強度における十分な安定性と十分な脆さといった観点は開示されていない。
したがって、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明、並びに、甲1及び甲4~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3) 本件訂正発明2~4、8~10について
本件訂正発明2~4、8~10は、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用し、本件訂正発明1の特定事項を全て備えたものである。
そして、上記(2)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明、並びに、甲1及び甲4~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのであるから、本件訂正発明1の特定事項を全て備えた本件訂正発明2~4、8~10も、甲3に記載された発明、並びに、甲1及び甲4~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
8 申立理由E(4)について
・請求項5~7
・甲3、甲1(、甲2)、甲4~甲8
(1) 申立理由E(4)の概要
申立理由E(4)の概要は、本件特許発明5~7が、甲3に記載された発明、甲2により補完される甲1に記載された事項、甲4~甲7に記載された事項、及び、甲8に記載された周知技術に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである、というものである。
本件訂正発明5~7は、いずれも本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用し、本件訂正発明1の特定事項を全て備えたものであるが、上記7(2)で説示したとおり、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明、並びに、甲1及び甲4~甲6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、甲7の実施例1~7には、噴霧乾燥で得られた香料(シトラス)を有するマイクロカプセル化香料と無水ケイ酸を含むエアゾール組成物が記載されるに留まり、甲8には、流動助剤としてフュームドシリカが用いられることが記載されるに過ぎない(37頁右欄「5.工業利用」、38頁右欄下から9~5行、39頁右欄下から8~2行)。
したがって、本件訂正発明1の特定事項を全て備えた本件訂正発明5~7も、甲3に記載された発明、甲1及び甲4~甲7に記載された事項、並びに、甲8に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 むすび
以上のとおり、本件訂正請求は、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを認める。そして、取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠、並びに/又は、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~10に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、その他に本件特許の請求項1~10に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701154