特許異議申立
2025-700055
ブラシシルバリネートエシレートを含有する低粘度ヘアコンディショナー組成物
- 審判番号
- 2025-700055
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-503408
- 登録番号
- 7513835
- 請求日
- 2025年01月08日
- 審決日
- 2025年11月04日
- 公報発行日
- 2026年02月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
- 【権利者代理人】弁理士法人谷・阿部特許事務所
- 【異議申立人】川口 結生
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 小石 真弓
- 審判官 宮田 透
- 分類
- P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.113-YAA(A61K) / P1651.851-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7513835号発明「ブラシシルバリネートエシレートを含有する低粘度ヘアコンディショナー組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7513835号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7513835号の請求項1、3~9、11~14に係る特許を維持する。
特許第7513835号の請求項2及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7513835号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)8月10日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2020年8月11日 米国(US))を国際出願日として出願され、令和6年7月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月9日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和7年1月8日に特許異議申立人 川口 結生(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~14(全請求項)に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。
その後の主な手続の経緯は、次のとおりである。
令和7年 3月28日付け 取消理由通知書
同年 7月 1日付け 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月15日付け 訂正請求があった旨の通知書
同年 8月18日付け 意見書(申立人)
第2 訂正の請求について
1 訂正の請求の趣旨
令和7年7月1日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、
「特許第7513835号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める。」
というものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正請求書の記載及び訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の記載からみて、次の訂正事項1~4からなるものであると認められる。
なお、下線は訂正による記載の変更箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記組成物が、950 l/sにおける20Pa~200Paの剪断応力を有する、」
と記載されているのを、
「前記組成物が、950 1/sにおける20Pa~200Paの剪断応力を有し、
前記脂肪族アルコールが、ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、イソセチルアルコール(C16)、パルミトレイルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、セトステアリルアルコール(C16~C18)、セテアリルアルコール(C16~C18)、セチルステアリルアルコール(C16~C18)、ステアリルアルコール(C18)、イソステアリルアルコール(C18)、オレイルアルコール(C18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキジルアルコール(C20)、ヘンエイコシルアルコール(C21)、ベヘニルアルコール(C22)エルシルアルコール(C22)、リグノセリルアルコール(C24)、セリルアルコール(C26)、ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、」
と訂正する.
請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に
「保存剤系を更に含む、」
と記載されているのを、
「保存剤系を更に含み、
前記第1の保存剤が、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、及びこれらの混合物からなる群から選択され、前記第2の保存剤が、カプリル酸グリセリル、カプリン酸グリセリル、ウンデシレン酸グリセリル、及びこれらの混合物から選択されるグリセリルエステルを含む、」
と訂正する。
請求項8の記載を引用する請求項9~14も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項1~14について、請求項2~14は、請求項1の記載を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~14に対応する訂正後の請求項1~14は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項1に記載の「脂肪族アルコール」について、「ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、イソセチルアルコール(C16)、パルミトレイルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、セトステアリルアルコール(C16~C18)、セテアリルアルコール(C16~C18)、セチルステアリルアルコール(C16~C18)、ステアリルアルコール(C18)、イソステアリルアルコール(C18)、オレイルアルコール(C18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキジルアルコール(C20)、ヘンエイコシルアルコール(C21)、ベヘニルアルコール(C22)エルシルアルコール(C22)、リグノセリルアルコール(C24)、セリルアルコール(C26)、ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」ものに限定するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、脂肪族アルコールが上記「ラウリルアルコール(C12)・・・ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」ことについては、訂正前の本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)又は特許請求の範囲(以下、両者を併せて「本件明細書等」という。)の【請求項2】において、
「前記脂肪族アルコールが、ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、イソセチルアルコール(C16)、パルミトレイルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、セトステアリルアルコール(C16~C18)、セテアリルアルコール(C16~C18)、セチルステアリルアルコール(C16~C18)、ステアリルアルコール(C18)、イソステアリルアルコール(C18)、オレイルアルコール(C18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキジルアルコール(C20)、ヘンエイコシルアルコール(C21)、ベヘニルアルコール(C22)エルシルアルコール(C22)、リグノセリルアルコール(C24)、セリルアルコール(C26)、ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」
と記載されていることから、訂正事項1による訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2及び4について
訂正事項2及び4による訂正は、請求項2及び10を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2及び4による訂正は、請求項2及び10を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、請求項8において、
「第1の保存剤」を、「安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、及びこれらの混合物からなる群から選択され」るものに限定するとともに、
「第2の保存剤」を、「カプリル酸グリセリル、カプリン酸グリセリル、ウンデシレン酸グリセリル、及びこれらの混合物から選択されるグリセリルエステルを含む」ものに限定するものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、上記「第1の保存剤」及び「第2の保存剤」について、訂正前の本件明細書等の【請求項10】には、
「前記第1の保存剤が、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、及びこれらの混合物からなる群から選択され、前記第2の保存剤が、カプリル酸グリセリル、カプリン酸グリセリル、ウンデシレン酸グリセリル、及びこれらの混合物から選択されるグリセリルエステルを含む」
と記載されていることから、訂正事項3による訂正は、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項3による訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
5 独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~14に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正事項1~4による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正後の請求項1~14に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
6 訂正の請求についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の本件特許の請求項1~14の記載は、令和7年7月1日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された、次のとおりのものである。なお、下線は本件訂正による記載の変更箇所を示す。以下、これらの請求項を、請求項の番号順に「本件訂正請求項1」等といい、これらの請求項に係る発明を、請求項の番号順に「本件訂正発明1」等といい、これらをまとめて「本件訂正発明」ということがある。
「【請求項1】
リーブオンヘアコンディショナー組成物であって、
a.水性キャリアと、
b.0.25重量%~8重量%のBVEと、
c.0.25重量%~8重量%の脂肪族アルコールと、を含み、
BVEの総脂肪族アルコールに対するモル比が、10:90~50:50であり、
前記組成物が、均一なLβゲル網状構造を含み、
前記組成物が、ラメラゲル網状構造試験方法のd-間隔(Lβ-基底間隔)に従って測定したときに、15nm~45nmのd-間隔を含み、
前記組成物が、50cps~7000cpsの粘度を有し、
前記組成物が、950 1/sにおける20Pa~200Paの剪断応力を有し、
前記脂肪族アルコールが、ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、イソセチルアルコール(C16)、パルミトレイルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、セトステアリルアルコール(C16~C18)、セテアリルアルコール(C16~C18)、セチルステアリルアルコール(C16~C18)、ステアリルアルコール(C18)、イソステアリルアルコール(C18)、オレイルアルコール(C18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキジルアルコール(C20)、ヘンエイコシルアルコール(C21)、ベヘニルアルコール(C22)エルシルアルコール(C22)、リグノセリルアルコール(C24)、セリルアルコール(C26)、ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、リーブオンヘアコンディショナー組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記脂肪族アルコールが、セチルアルコール、ブラシカアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
ゲル網状構造含有量が、0.004~0.05モルである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
50cps~6500cpsの粘度を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
30Pa~180Paの剪断応力を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
本明細書に記載のpH試験方法に従って測定したときに、2.5~5.5のpHを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
保存剤系であって、
i.0.1重量%~1.5重量%の第1の保存剤と、
ii.0.2重量%~2.0重量%の第2の保存剤と、を含む、保存剤系を更に含み、
前記第1の保存剤が、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、及びこれらの混合物からなる群から選択され、前記第2の保存剤が、カプリル酸グリセリル、カプリン酸グリセリル、ウンデシレン酸グリセリル、及びこれらの混合物から選択されるグリセリルエステルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記第1の保存剤の前記第2の保存剤に対する重量比が、1:10~8:1である、請求項8に記載のコンディショナー組成物。
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記保存剤系が、前記組成物の0.1重量%~0.8重量%の安息香酸ナトリウム又はソルビン酸カリウムを含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記保存剤系が、前記組成物の0.2重量%~1.5重量%の前記第2の保存剤を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項13】
細菌及び真菌微生物感受性試験方法に従って測定したときに、微生物のレベルが2日間で検出不可能になる、請求項8に記載の組成物。
【請求項14】
保存剤系が、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、イソチアゾリノン、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、シクロヘキシルグリセリン、パラベン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される保存剤成分を実質的に含まない、請求項13に記載の組成物。」
第4 特許異議の申立ての理由及び当審合議体が通知した取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)の全体の記載からみて、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由として、下記(1)~(4)に概要を示す特許異議の申立ての理由(以下「申立理由」という。)を主張していると認められ、証拠方法として、申立書に添付して、下記(5)に示す甲第1号証~甲第12号証(以下それぞれ番号順に「甲1」等ともいう。)を提出している。
なお、ここでいう「請求項1」等は、本件特許の設定登録時の請求項1等のことである。
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明又は甲1に記載された発明及び甲3、甲4、甲6、甲8、甲9、甲10~12に記載された事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)
甲1に記載された発明により、必然的に、下記の構成要件F、G、Iを有する組成物が生成しない場合、当業者であっても、当該構成要件F、G、Iをもたらす具体的な手段を理解することができないから、本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、請求項1~14に係る特許は、同法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
構成F:前記組成物が、均一なLβゲル網状構造を含み、
構成G:前記組成物が、ラメラゲル網状構造試験方法のd-間隔(Lβ-基底間隔)に従って測定したときに、15nm~45nmのd-間隔を含み、
構成I:前記組成物が、950 1/sにおける20Pa~200Paの剪断応力を有する、リーブオンヘアコンディショナー組成物。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
甲1に記載された発明により、必然的に、上記(3)の構成要件F、G、Iを有する組成物が生成しない場合、当業者であっても、当該構成要件F、G、Iをもたらす具体的な手段を理解することができないから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、請求項1~14に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)証拠方法
甲第1号証:米国特許出願公開第2011/0274641号明細書
甲第2号証:特表2012-532108号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2006/0286060号明細書
甲第4号証:米国特許出願公開第2006/0078528号明細書
甲第5号証:特表2008-515901号公報
甲第6号証:米国特許第8828370号明細書
甲第7号証:特表2011-525540号公報
甲第8号証:国際公開第2017/096479号
甲第9号証:仏国特許出願公開第2967054号明細書
甲第10号証:欧州特許出願公開第3622946号明細書
甲第11号証:韓国公開特許第10-2018-0012903号公報
甲第12号証:韓国公開特許第10-2020-0058938号公報
2 当審合議体が通知した取消理由の概要
当審合議体が令和7年3月28日付け取消理由通知(以下、単に「取消理由通知」という。)にて特許権者に通知した取消理由の概要は、下記(1)~(4)のとおりであり、これらの取消理由と申立理由との対応関係は、下記(6)のとおりである。
(1)取消理由1(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、請求項1~14に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)取消理由2(進歩性欠如)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(実施可能要件違反)
本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものでないから、請求項1~14に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)取消理由4(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものでないから、請求項1~14に係る特許は、同法同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)取消理由通知において引用した引用文献
甲1:米国特許出願公開第2011/0274641号明細書
甲4:米国特許出願公開第2006/0078528号明細書
甲9:仏国特許出願公開第2967054号明細書
甲11:韓国公開特許第10-2018-0012903号公報
甲12:韓国公開特許第10-2020-0058938号公報
(これらの引用文献は、それぞれ、申立人が提出した甲1、甲4、甲9、甲11及び甲12と同じ文献である。)
(6)取消理由と申立理由との対応関係
取消理由1は、当審において職権で通知したものである。
取消理由2は、申立理由2と同旨である。
取消理由3及び4は、申立理由3及び4と同旨である。
第5 取消理由についての当審合議体の判断
当審合議体は、本件訂正請求項1、3~9及び11~14に係る特許は、取消理由通知で通知した取消理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
なお、以下での引用文献及び本件明細書の記載事項の摘記において、下線は当審合議体が付したものであり、「・・・」は摘記の省略を示す。
1 取消理由1(明確性要件違反)について
(1)取消理由通知における指摘
取消理由通知では、本件訂正前の請求項8の記載について、次の指摘をしていた。
「請求項8に記載の「第1の保存剤」及び「第2の保存剤」は、それぞれ保存剤としていかなる物質を包含するものであるのか、また、両者がいかなる点で異なるのか等、それぞれの保存剤の内容が明確でない。」
(2)検討
これに対して、本件訂正により、本件訂正請求項8に記載の「第1の保存剤」及び「第2の保存剤」については、下記の事項によって特定されるものとなるため、その内容が明確になった。
「前記第1の保存剤が、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、及びこれらの混合物からなる群から選択され、前記第2の保存剤が、カプリル酸グリセリル、カプリン酸グリセリル、ウンデシレン酸グリセリル、及びこれらの混合物から選択されるグリセリルエステルを含む、」
(3)小括
したがって、取消理由1は解消した。
2 取消理由2(進歩性欠如)について
(1)引用文献の記載事項
以下に摘記した引用文献の記載事項のうち、外国語で記載された引用文献の記載事項については、申立人が提出した、甲1、甲4及び甲6のそれぞれの翻訳文に代わる、甲2(特表2012-532108号公報)、甲5(特表2008-515901号公報)及び甲7(特表2011-525540号公報)、並びに、甲3、甲9、11及び12のそれぞれの翻訳文を参考にして、当審合議体による訳文にて摘記した。
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。
摘記1a:請求の範囲
「1.毛髪、皮膚、又は爪に対するパーソナルケア組成物の持続性を増加させる方法であって、該方法は:
水相、非水相、及び中和アミノ酸エステルを含む組成物を調製する工程であって、該中和アミノ酸エステルは、非極性側鎖を有する中性アミノ酸と長鎖脂肪アルコールとの反応産物であり、かつ式(I):
[図:0001432065000001.jpg]
によって示され、ここで
R1は直鎖又は分岐のアルキル基であり;
R2は直鎖又は分岐の炭素鎖であり;そして
該アミノ酸のアミン基は、酸で中和され、かつ該組成物は、実質的に石油化学製品及び/又は石油化学物質の誘導体を含まず、かつ該水相及び該非水相は、該中和アミノ酸エステルによって乳化される、工程;ならびに
該パーソナルケア組成物を、毛髪、皮膚、又は爪の表面に適用する工程
を包含し、ここで、該組成物は、該アミノ酸エステルを含まず、かつ実質的に石油化学製品及び/又は石油化学物質の誘導体を含まない組成物の持続性と比較して、該表面に対する増加した持続性を示す、方法。
2.前記アミノ酸エステルが、LIEE、BLIE又はこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
・・・
7.前記中性アミノ酸が、L-アラニン、L-バリン、L-ロイシンおよびL-イソロイシンから選択される、請求項1に記載の方法。
8.前記中性アミノ酸が、L-イソロイシンである、請求項1に記載の方法。」
摘記1b:
「 発明の詳細な説明
[0032] 本発明は、中和アミノ酸エステル陽イオン性乳化剤、および、石油化学物質由来ではなくて天然であり、また非動物由来および非GMO反応物から産生され得、そしてグリーンケミストリー原理を利用する過程によって調製され得る組成物を含む。エステルの陽イオン性構造のために、それはパーソナルケア適用のために、特に毛髪および皮膚のコンディショニングにおいて使用される組成物のために十分に適している。発明の時点において、石油化学由来ではない陽イオン性乳化剤を含む他のパーソナルケア組成物は公知でなかった。よって、本発明の発見の時まで、特に、持続性、皮膚感覚、および保存性に関して、陽イオン性乳化剤によって提供され、そして消費者によって期待される性能の特徴を示した天然パーソナルケア組成物はなかった。
・・・
[0037] 本発明のアミノ酸エステルを、式(I):
[図:0001432065000002.jpg]
の構造によって示し得る。
[0038] (I)において、R1はアルキル基を示し、それは分岐または直鎖状であり得る。それは1から10個の炭素原子、または2から6個の炭素原子を有し得る。
[0039] R2は直鎖または分岐であり得る炭素鎖を示す。それは10から50個の炭素原子、または24から32個の炭素原子を含み得る。R2の鎖は、少なくとも1つの不飽和炭素原子を含み得る。ある実施態様において、R2は8から24個の炭素原子を有するアルキル基である。
[0040] エステルの形成のためのアミノ酸は、中性であるいずれのものも含む。ある実施態様において、L-アラニン、L-バリン、L-ロイシン、およびL-イソロイシンを選択し得る。本発明のいくつかの実施態様において、特に好ましいのは、L-イソロイシンである。
・・・
[0045] 代表的な好ましい中和アミノ酸エステルは、ブラシシルL-イソロイシンエシレート(BLIE)又はロイシンイソステアリルエステルエシレート(LIEE)であり得る。ブラシシルL-イソロイシンエシレート(BLIE)は、ブラシカアルコールのL-イソロイシンエシレートとのエステル化により得ることができる。
・・・
[0052] 本発明の範囲内に含まれる方法は、上記のパーソナルケア組成物を適用することによって、毛髪及び/又は皮膚の調子を整える方法を含む。・・・ヘアコンディショナー組成物において使用される中和アミノ酸エステルの割合は、好ましくは約0.1から約10.0重量パーセント、そしてより好ましくは約0.25から約5.0重量パーセントである。
[0053] その組成物は、単一の中和アミノ酸エステル、または1を超える中和アミノ酸エステルを含み得る。ある実施態様において、好ましい中和アミノ酸エステルは、ロイシンイソステアリルエステルエシレート(LIEE)またはBrassicyl L-イソロイシナートエシレート(BLIE)であり得る。・・・」
摘記1c:
「 実施例1
ブラシシルL-イソロイシナートエシレート(BLIE)の合成
[0055] ・・・丸底フラスコに、・・・ブラシシルアルコール及び・・・L-イソロイシンを投入した。その混合物を、撹拌しながら90℃まで加熱し、そして・・・エタンスルホン酸の70%溶液を・・・加えた。・・・、淡黄色の固体産物を得た。
[0056] ・・・。・・・を用いて融点を決定し、そして55℃であることが見出された。
実施例2
[0057] BLIEのさらなるアナログを調製し、そして実施例1で記載した一般的な方法を用いて分析し、そしてその性質を表1にまとめる。
[図:0001432065000003.jpg]
[図:0001432065000004.jpg]
実施例3
[0058] 本発明によって達成される乳化の挙動を示すために、代表的なヘアコンディショニングベース処方物を調製した。その処方物の組成を表2に示す。
[図:0001432065000005.jpg]
[0059] 上記処方物を、以下の手順を用いて調製した。・・・。別の容器に、ステアリルアルコール、セチルアルコール、およびBrassicyl L-イソロイシナートエシレート(BLIE)を組み合わせ、そして約70℃から約75℃に加熱し、次いで均一な混合物を得るまで撹拌した。・・・。次いで撹拌をやめ、そして完成したコンディショナー処方物を、容器へ入れた。できたものは白色、クリーム状のエマルジョンであり、それは45℃において1ヶ月間、不安定性の徴候を示さなかった。
実施例4
[0060] 安定なエマルジョンを作製する本発明の能力を示すために、安定性試験を行った。44種類の処方物を、実施例3において記載された一般的な方法を用いて調製した。
[図:0001432065000006.jpg]
[図:0001432065000007.jpg]
[0061] 25℃におけるpH及び粘性を、処方物のそれぞれにおいて調べ、そしてその結果を表4に示す。pHを、水性緩衝溶液を用いて較正した、ガラス電極を有するOrion420A pHメーターを用いて測定した。清潔で乾燥した電極を、25℃で約1分間各サンプルに置き、そしてpHをメーターのディスプレイから直接記録した。粘性を、ヘリパススタンド及びTバースピンドルを有するBrookfield RVTダイヤル粘度計を用いて決定した。各測定を行う前に、テストエマルジョンを25℃で平衡化した。スピンドルを装置に取り付け、そしてテスト処方物中へ下ろした。粘度計及びヘリパススタンドのスイッチを入れ、そして60秒間の後に粘性の測定を記録した。
[図:0001432065000008.jpg]
[0062] 全ての処方物を、安定性を試験するために缶に移した。安定性は、分離せずに、その最初のクリーム状の均一な特質を維持するエマルジョンの能力として定義される。試験を室温で、4週間の期間で行った。処方物のpHを週に1回モニターした。・・・。それぞれの場合において、全ての処方物に関して、試験の経過全体にわたってpHは非常に少ししか変化せず、そして全ての処方物がその最初の物理的形式及び特徴を維持した。
実施例5
[0063] 本発明の陽イオン性乳化剤のコンディショニング特性を示すために、モデルヘアコンディショニング処方物を調製して、毛髪の広がりの減少に関して試験した。発明処方物の組成(発明処方物A)を下記の表5に示す。
[図:0001432065000009.jpg]
[0064] 発明処方物Aを、業界のリーダー的市販製品であるPantene Pro-V Daily Moisture RenewalおよびGarnier Fructis Fortifying Cream Conditionerに対して試験した。・・・
・・・
[図:0001432065000010.jpg]
[図:0001432065000011.jpg]
[図:0001432065000012.jpg]
[0066] この結果は、PanteneおよびGarnierコンディショナーと比べて、発明処方物Aを用いると、髪の広がりがより少なかったことを示す。したがって、発明処方物Aは、毛髪のコンディショニングにおいて、PanteneおよびGarnier(それらはどちらも石油化学製品および/または石油化学由来物質を含む)より有効でなくても、それらと同じくらい効果的である。
実施例6
[0067] 実施例5と同様に、市場の標準であるPanteneおよびGarnierに対する、発明処方物Aの持続性を、Rubine Dye Testを用いて評価した。・・・
・・・
[0069] この結果は、処方物Aが、塩化ベヘントリモニウム(Garnier)およびステアラミドプロピルジメチルアミン(Pantene)に基づくコンディショナーに匹敵することを示す。処方物Aのコンディショナーは、Panteneよりわずかに持続性があるが、Garnierよりは低く、そして商業的に許容可能なパラメータの十分範囲内である。」
摘記1d:
「 実施例7
[0070] 毛髪および皮膚ケア組成物の代表的な処方を下記に示す(処方物AからM)。いずれも石油化学製品および/または石油化学由来物質を含まない。
・・・
[図:0001432065000013.jpg]
[0073]
[図:0001432065000014.jpg]
」
イ 甲3の記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。
摘記3a:
「[0002] 本発明は、モノ長鎖アルキル四級化アンモニウム及びC1~C4アルキル硫酸塩からなるカチオン性界面活性剤、高融点脂肪族化合物及び水性キャリアを含有する毛髪コンディショニング組成物に関する。カチオン性界面活性剤、高融点脂肪化合物、及び水性キャリアは、ラメラゲルマトリックスを形成する。本発明の組成物は、特に濡れた毛髪に対する優れたコンディショニング効果、特に改善された滑らかさと滑りやすさを毛髪に提供することができる。
・・・
[0022] 驚くべきことに、モノ長鎖アルキル四級化アンモニウム塩カチオン性界面活性剤のアニオンの選択によって、本発明のコンディショニング組成物は、特にぬれた毛髪に特に改良された滑りやすさと滑らかさという改善されたコンディショニング効果を提供できることが分かった。・・・水和半径がより減少することで、ラメラゲルマトリックスがより緊密に充填され、すなわち、1枚のラメラのシートと隣接するシートの間の距離が短くなり、そのような緊密に充填されたラメラゲルマトリックスは、濡れた毛髪に特に滑らかな感触と滑らかさを与え、コンディショニング効果を向上させる。」
ウ 甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。
摘記4a:
「[要約]
ヘアコンディショニング組成物であって:カチオン性界面活性剤;高融点脂肪化合物;及び水性キャリアを含み、この際、該カチオン性界面活性剤、該高融点脂肪化合物、及び該水性キャリアが、層状ゲルマトリックスを形成し;該ラメラ層のd-空隙部が、33nm以下の範囲内であり;及び、該組成物が、26.7℃にて約30Pa以上の降伏応力を有する、ヘアコンディショニング組成物が開示される。本発明の組成物は、改善されたコンディショニング効果を提供し、特に濡れた毛髪へ適用する際のつるつる感を改善する。」
摘記4b:
「組成物
[0020] 本発明は、次のものを含むヘアコンディショニング組成物であって:
[0021] (a)約0.1重量%~約10重量%のカチオン性界面活性剤;
[0022] (b)該組成物の約2.5重量%~約15重量%の高融点脂肪化合物組成物;及び
[0023] (c)水性キャリア
を含み、
[0024] ここで、該カチオン性界面活性剤、該高融点脂肪化合物及び該水性キャリアが、ラメラゲルマトリックスを形成し、該ラメラ層のd-間隔が、33nm以下の範囲内にあり、かつ該組成物が26.7℃にて、約30Pa以上の降伏応力を有する。
・・・
[0030]
上述の量のゲルマトリックスを含む組成物は、950s-1の剪断速度での剪断応力によって特徴づけることができ、それは約150Pa~約500Pa、好ましくは約200Pa~約500Pa、より好ましくは約250Pa~500Paであり、26.7℃にて、ティー・エイ・インスツルメント社から入手可能なモード名AR2000のレオメーターにより、0.0015m(1500μm)のギャップを有する4cm度アルミニウムコーン型形状を用いて測定される。上述の量のゲルマトリックスを含む組成物は、ある種の貯蔵弾性率G’により特徴づけることができる。貯蔵弾性率G’は、広く使用されている粘弾性パラメータの1つとして公知である。G’は、正弦波形状条件下で、剪断歪を歪みで除したものと一致する剪断応力の一部として定義される。上述の量のゲルマトリックスを含む組成物は、約2200Pa~約10000Pa、好ましくは約2500~約8000PaのG’によって特徴づけられるが、これは、26.7℃及び1Hzの周波数にて、ティー・エイ・インスツルメント社より入手可能なモード名AR2000のレオメーターを用い、0.0015m(1500μm)のギャップを有する4cm並列型形状を使用して測定される。上述の量のゲルマトリックスを含む組成物は、その希釈特性により特徴づけることができる。より多量のゲルマトリックスを含む組成物は、希釈された際、水と均質化するために、より長い時間を必要とする。上述の量のゲルマトリックスを含む組成物は、ゲルマトリックス内に組み込まれない水の量を測定することにより特徴づけることができる。」
摘記4c:
「高融点脂肪化合物
[0052] 本明細書に有用な高融点脂肪化合物は25℃以上の融点を有し、脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪族アルコール誘導体、脂肪酸誘導体及びこれらの混合物から成る群から選択される。・・・
[0053] 様々な高融点脂肪化合物のうち、脂肪族アルコールが好ましくは本発明の組成物に使用される。本明細書で有用な脂肪族アルコール類は、炭素原子数約14~約30、好ましくは炭素原子数約16~約22のものである。これらの脂肪族アルコールは飽和であり、直鎖又は分枝鎖アルコールであることができる。好ましい脂肪族アルコール類には、例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール及びこれらの混合物が挙げられる。」
エ 甲6の記載事項
甲6には、次の事項が記載されている。
摘記6a:2欄31~41行
「本発明は、
(a)カチオン性界面活性剤、
(b)高融点脂肪族化合物、及び
(c)水性キャリア、
を含む、ヘアコンディショニング組成物であって、カチオン性界面活性剤、高融点脂肪族化合物、及び水性キャリアはゲルマトリックスを形成し、組成物は高融点脂肪族化合物からゲルマトリックスへの約90%~約100%の変換率を有し、組成物は約33Pa以上の降伏点を有する。」
摘記6b:8欄15~25行
「例えば、好ましい脂肪族アルコールとしては、セチルアルコール(約56℃の融点を有する)、ステアリルアルコール(約58~59℃の融点を有する)、ベヘニルアルコール(約71℃の融点を有する)、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの化合物は、上記の融点を有することが既知である。しかしながら、このような供給される製品は、多くの場合アルキル主鎖がセチル基、ステアリル基又はベヘニル基であるアルキル鎖長分布を有する脂肪族アルコールの混合物であることから、これらは供給されたときにしばしばより低い融点を有する。本発明においては、より好ましい脂肪族アルコールはセチルアルコール、ステアリルアルコール及びこれらの混合物である。」
オ 甲9の記載事項
甲9には、次の事項が記載されている。
摘記9a:請求の範囲
「 1.ウンデシレン酸グリセリル、レブリン酸ナトリウム及び安息香酸ナトリウムを含む保存剤系を含有する組成物。
2.前記組成物の総重量に対して0.01~5重量%のウンデシレン酸グリセリル、0.01~2重量%のレブリン酸ナトリウム及び0.01~0.5重量%の安息香酸ナトリウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
・・・
7.請求項1~6のいずれかに記載の組成物の保存剤系としての使用。
8.請求項7に記載の、電解質を含む化粧品配合物の保存剤系としての使用。」
カ 甲11の記載事項
甲11には、次の事項が記載されている。
摘記11a:
「請求範囲
請求項1
精製水;グリセリン;カプリル酸グリセリル;安息香酸ナトリウム;炭酸ナトリウム;エチルヘキシルグリセリン;p-アニス酸及び界面活性剤を含む防腐剤組成物0.01~5.0重量%を含むように水に希釈された水溶液であることを特徴とするウェットティッシュ用防腐剤。
・・・
請求項3
第1項において、
上記防腐剤組成物は組成物総量に対して、精製水50.0~96.0重量%、グリセリン0.01~30.0重量%、カプリル酸グリセリル0.01~30.0重量%、安息香酸ナトリウム0.01~50.0重量%、炭酸ナトリウム0.01~20.0重量%、エチルヘキシルグリセリン0.01~20.0重量%、p-アニス酸0.01~20.0重量%及び界面活性剤0.001~10.00重量%を含むことを特徴とするウェットティッシュ用防腐剤。」
キ 甲12の記載事項
甲12には、次の事項が記載されている。
摘記12a:
「[0050] 上記粉末状化粧料は、マイカ、・・・及び防腐剤を含むことができ、・・・防腐剤を0.5~1.5重量%含むことが好ましい。
・・・
[0056] 上記防腐剤は、0.5~1.5重量%含まれてもよく、種類には制限がなく、0.5重量%未満含まれる場合は保存ができないことがあり、1.5重量%を超過して用いると、伸びが低下することがある。上記防腐剤は、プロパンジオール、カプリル酸グリセリル、ソルビン酸カリウム、又は・・・などであるが、これらに限定されるものではない。」
(2)甲1に記載された発明
甲1には、摘記1dの記載、並びに、摘記1b及び1cの「ブラシシルL-イソロイシナートエシレート(BLIE)」との記載からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「下記の成分を含む、洗い流さない(リーブイン)ヘアコンディショニングトリートメント。
% w/w
脱イオン水 89.11
L-アルギニン 0.14
BLIE(ブラシシルL-イソロイシナートエシレート) 3.75
セチルアルコール 2.10
ステアリルアルコール 2.10
Olea Europaea(オリーブ)果実油 2.00
保存剤 0.80
合計 100.00
」
(3)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「洗い流さない(リーブイン)ヘアコンディショニングトリートメント」は、本件訂正発明1における「リーブオンヘアコンディショナー組成物」に相当する。
甲1発明における「脱イオン水」は、本件訂正発明1における「水性キャリア」に相当する。
本件明細書の【0008】の記載及び【図1】の記載によれば、本件訂正発明1における「BVE」とは、「ブラシシルバリネートエシレート(Brassicyl Valinate Esylate)」の略称であって、ブラシシルアルコールとバリン(アミノ酸)とのエステルのエシレート(エタンスルホン酸塩)であると認められるから、甲1発明における「BLIE(ブラシシルL-イソロイシナートエシレート)」は、本件訂正発明1における「BVE」と、「ブラシシルアミノ酸エステルエシレート」である点で共通する。
甲1発明における「セチルアルコール」及び「ステアリルアルコール」は、いずれも本件訂正発明1における「脂肪族アルコール」に相当し、「脂肪族アルコールが、ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、イソセチルアルコール(C16)、パルミトレイルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、セトステアリルアルコール(C16~C18)、セテアリルアルコール(C16~C18)、セチルステアリルアルコール(C16~C18)、ステアリルアルコール(C18)、イソステアリルアルコール(C18)、オレイルアルコール(C18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキジルアルコール(C20)、ヘンエイコシルアルコール(C21)、ベヘニルアルコール(C22)エルシルアルコール(C22)、リグノセリルアルコール(C24)、セリルアルコール(C26)、ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」ことに相当する。
甲1発明において「セチルアルコール」及び「ステアリルアルコール」の合計含有量が4.2w/w%であることは、本件訂正発明1において「0.25重量%~8重量%の脂肪族アルコール」が含まれることに相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲1発明は、
「リーブオンヘアコンディショナー組成物であって、
a.水性キャリアと、
b.ブラシシルアミノ酸エステルエシレートと、
c.0.25重量%~8重量%の脂肪族アルコールと、を含み、
前記脂肪族アルコールが、ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、イソセチルアルコール(C16)、パルミトレイルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、セトステアリルアルコール(C16~C18)、セテアリルアルコール(C16~C18)、セチルステアリルアルコール(C16~C18)、ステアリルアルコール(C18)、イソステアリルアルコール(C18)、オレイルアルコール(C18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキジルアルコール(C20)、ヘンエイコシルアルコール(C21)、ベヘニルアルコール(C22)エルシルアルコール(C22)、リグノセリルアルコール(C24)、セリルアルコール(C26)、ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、リーブオンヘアコンディショナー組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
相違点1
ブラシシルアミノ酸エステルエシレートが、本件訂正発明1では、アミノ酸が「バリン」である「BVE」であって、「0.25重量%~8重量%」含まれるのに対し、甲1発明では、アミノ酸が「L-イソロイシン」である「BLIE」であって、「3.75w/w%」含まれる点
相違点2
本件訂正発明1では、「BVEの総脂肪族アルコールに対するモル比が、10:90~50:50」であるのに対し、甲1発明では、そのような特定をしていない点
相違点3
組成物が、本件訂正発明1では、「均一なLβゲル網状構造」を含むのに対し、甲1発明では、そのような特定をしていない点
相違点4
組成物が、本件訂正発明1では、「ラメラゲル網状構造試験方法のd-間隔(Lβ-基底間隔)に従って測定したときに、15nm~45nmのd-間隔」を含むのに対し、甲1発明では、そのような特定をしていない点
相違点5
組成物が、本件訂正発明1では、「50cps~7000cpsの粘度」を有するのに対し、甲1発明では、そのような特定をしていない点
相違点6
組成物が、本件訂正発明1では、「950 1/sにおける20Pa~200Paの剪断応力」を有するのに対し、甲1発明では、そのような特定をしていない点
イ 相違点の判断
(ア)相違点1について
甲1の摘記1aには、中和アミノ酸エステルは、中性アミノ酸と長鎖脂肪アルコールとの反応産物であり、該アミノ酸のアミン基は、酸で中和されること、中和アミノ酸エステルが、LIEE、BLIE又はこれらの組み合わせから選択されること、中性アミノ酸として「L-イソロイシン」とともに「L-バリン」を選択し得ること、が記載されている。
また、摘記1c(実施例2)には、BLIE(ブラシシルL-イソロイシナートエシレート)のアナログとして、アミノ酸が「L-バリン」であり、脂肪アルコールの炭素鎖が「Brassicyl(Hyd.)」であるアナログを調製したことが記載されており、実施例1と同様に、エタンスルホン酸で中和された中和アミノ酸エステル、すなわち、BVE(ブラシシルL-バリンエシレート)を調製したことも記載されているといえる。
しかしながら、上記実施例2においては、「BLIE」のアナログとして調製された中和アミノ酸エステルとして、アミノ酸が「L-バリン」である「BVE」だけでなく、アミノ酸が「L-アラニン」や「L-ロイシン」、「L-イソロイシン」であるアナログも調製されたことが記載されており、アミノ酸と反応させた脂肪アルコールについても、炭素鎖が「Brassicyl(Hyd.)」のものだけでなく、「ココナツ」、「ステアリル」及び「イソステアリル」であるものを用い、様々なアミノ酸と脂肪アルコールとの組み合わせで中和アミノ酸エステルが調製されたことが記載され、その種類は合計14種類に及ぶ。
また、甲1において、実施例3以降に記載されているコンディショナー等の実施例の組成物において、中和アミノ酸エステルとして含有されているのは、いずれも、アミノ酸が特に好ましいとされる「L-イソロイシン」を構造部分に有する「BLIE」であるところ、甲1には、これら実施例の組成物において、中和アミノ酸エステルとして上記の中和アミノ酸エステルのいずれのアナログを用いることができるかも、また、その場合に上記の実施例の組成物と同等の効果が得られるのかも、具体的には記載されていない。
さらに、甲1には、「BLIE」のアナログとして、アミノ酸が「L-バリン」である「BVE」が、他のアミノ酸を用いたものよりも特に好ましいといったことも記載されていない。
そうすると、甲1発明の組成物において、中和アミノ酸エステルとして、特に好ましいとされているアミノ酸である「L-イソロイシン」を構造部分に有し、好ましいとされている「BLIE」を、敢えて変更し、実施例2に合計14種類も記載されている中和アミノ酸エステルの中から、アミノ酸が「L-バリン」であり、脂肪アルコールの炭素鎖が「Brassicyl(Hyd.)」である「BVE」を、特に選択して用いることは、当業者において動機付けがあるとはいえない。
また、甲1には、中和アミノ酸エステルを用いたパーソナルケア組成物において、ラメラゲル網状構造や、Lβ網状構造に関する物性については全く記載されていないから、甲1発明において、「均一なLβゲル網状構造」、「ラメラゲル網状構造試験方法のd-間隔(Lβ-基底間隔)に従って測定したときに、15nm~45nmのd-間隔」(以下「ラメラゲル網状構造試験方法のd-間隔(Lβ-基底間隔)に従って測定したとき」の「d-間隔」を単に「d-間隔」という。)となること、及び「950 1/sにおける20Pa~200Paの剪断応力」となることを想定し、「BLIE」に変えて「BVE」を採用することは、当業者であっても容易に想到し得たことであるとはいえない。
したがって、甲1発明において、「BLIE」に変えて「BVE」を採用し、また、その含有量を「BLIE」と同程度の3.75w/w%近傍とし、「0.25重量%~8重量%」の範囲内のものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(イ)相違点2~4及び6について
上記の(ア)で述べたとおり、甲1発明において、「BLIE」に代えて「BVE」を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
そして、相違点2~4及び6に係る事項については、ヘアコンディショニングトリートメント中に「BVE」を含有することを前提とする事項であると解されるから、甲1において、相違点2~4及び6に係る事項を採用することも、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、相違点5について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、令和7年8月18日付け意見書(以下「申立人意見書」ともいう。)に添付して次の参考文献1を提出し、同意見書において、以下の主張a~dの主張をしていると認められる。
参考文献1: Pease, "Understanding Biobased Cationic Amino Lipids : Effects of amino acid structure on liquid crystalline phase behavior in conditioning formulations", SCC 73rd Annual Scientific Meeting and Technology Showcase, 2019年12月17~18日, 発表スライド
また、申立人は、申立書において、以下の主張eの主張もしていると認められる。
a 主張a
甲1の実施例2には、中和アミノ酸エステルであるBVEが、BLIEのアナログであると記載されており、アナログとは、化学分野においては、ある化合物と性質や構造が類似している化合物を意味するから、BVEはBLIEと性質や構造が類似していると記載されているに等しいため、BLIEをBVEに置き換えることは当業者であれば容易になし得る。
また、参考資料1の発表スライド4枚目には、下図のとおり、BIE(甲1におけるBLIEと同じ化合物。)及びBVEの構造式が示されており、両者は、赤丸で囲まれた部分において、1つのメチレン(-CH2-)が含まれるか否かの微差しかない。このような微差に鑑みれば、当業者は、BIEとBVEを交換可能に使用することができると認識する。
[図:0001432065000015.jpg]
参考資料1の発表スライド4枚目に、BIEが第一世代であり、BVEが第二世代であると記載されているように、BVEが、BIEに置き換わる、より進んだ技術であることは、本件特許の優先日の時点で、当該技術分野において公知であった。したがって、第一世代のBIE(甲1におけるBLIE)を、第二世代のBVEに置き換えようとする十分な動機付けが存在するため、かかる置き換えは当業者であれば容易になし得る。
(申立人意見書の1~2頁)
b 主張b
特許権者は、意見書(合議体注:令和7年7月1日付け意見書。以下「特許権者意見書」という。)において、「甲1には、コンディショニング組成物においてブラシシルバリネートエシレートを使用することにより、他の中和アミノ酸エステルと比べて優れたコンディショニング効果をもたらす旨は記載も示唆もされておりません。」と主張する(特許権者意見書の6頁)。
しかしながら、(1)BVEとBLIEの構造式から、BVEがBLIEよりも小さな親水性頭部基を有する結果として、より大きな臨界充填パラメータを有すること、及び、(2)甲1の【0050】(合議体注:[0056]の誤記と認める。)に記載されるBLIEの融点(55℃)よりも、表1に示されるBVEの融点(60℃)の方が高いことから、結晶状態のBVE分子が結晶状態のBLIEよりも密に充填されることについて合理的に導き出せる。
当業者であれば、少なくとも(1)及び(2)の点で、BVEは、BLIEと比較して、ラメラ液晶相挙動において有利な効果を発揮し、優れたコンディショニング効果をもたらすことを合理的に予期することができる。
実際に、参考資料1の発表スライド23枚目にも、同様の結論が示されている。
(申立人意見書の3頁)
c 主張c
本件特許明細書の実施例において、3種類の脂肪族アルコール(具体的には、セチルアルコール(C16)、ステアリルアルコール(C18)及びブラシカアルコール(C18~C22))を組み合わせた1例しか存在しないことから、他の脂肪族アルコールを使用した場合や、3種類ではなく1種類のみを使用した場合など、訂正後の請求項1に含まれる全範囲に亘って同様の効果を奏する理由は、何ら説明もなく不明であるし、特許権者自身、短鎖(C16以下)脂肪族アルコールの長鎖(C18以上)脂肪族アルコールに対するモル比が効果に影響を及ぼすことを認めているから(本件特許明細書の【0021】及び実施例の表5~10の記載)、少なくとも当該モル比が特定されていない、訂正後の請求項1の全範囲において、上記で主張される効果を奏するとは言えない。
(申立人意見書の3~4頁)
d 主張d
特許権者は、甲1には、本件訂正発明の効果を奏することは具体的に示されていない旨主張しているが(特許権者意見書の7~8頁)、しかし、例えば、本件明細書の実施例中の【0187】に「ゲル網状構造のd-間隔は、実施例1~36で15nm~45nmである。このd-間隔のレベルは、・・・良好なコンディショニング感触を提供し、毛髪の房を良好にほぐすことができることを示す。」と、本件発明の効果は、d-間隔の範囲に置き換えて間接的に評価しており、取消理由通知書の17頁下から10行~18頁7行に記載されているとおり、甲1発明においてBVEを採用すれば、訂正後の請求項1に記載される範囲のd-間隔を有すると認められるから、上記の効果は予測の範囲内である。
(申立人意見書の4~5頁)
e 主張e
甲1発明が、訂正前の請求項1に係る発明と、構成要件F、G、Iの点で相違するとしても、訂正前の請求項1に係る発明は、甲3、甲4、及び甲6の記載事項から当業者が容易になし得たものである。
(申立書の63~66頁)
(イ)当審合議体の判断
しかしながら、以下のとおり、申立人の主張はいずれも採用できない。
a 主張aについて
参考文献1は、申立書とともに提出された証拠ではなく、申立人意見書に添付して提出された新たな証拠であって、周知技術を示すものでもないし、本件訂正により追加された事項についての見解など訂正の請求の内容に付随して生じる理由を裏付けるために提出された証拠であるともいえないから、参考文献1及びその記載に基づく申立人の主張は採用できない。
化学分野において、構造が類似する化合物であっても、その物性や効果が常に同等であるとは限らず、構造が類似するということをもって、組成物に含有される成分の化合物を置き換えることが必ず行われるともいえないし、仮に、参考文献1の記載を参照しても、BVEがBIEに置き換わる、より進んだ技術であるということが、本件特許の優先日前に当業者にとって技術常識であったともいえない。
そして、上記イ(ア)で述べたとおり、甲1に、「BLIE」のアナログとして、アミノ酸が「L-バリン」である「BVE」の製造例等が記載されているとしても、ラメラゲル網状構造やLβ網状構造に関する物性の観点も踏まえ、甲1発明の組成物における「BLIE」を「BVE」に置き換えることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
b 主張bについて
申立人は、BLIEとBVEの構造式と融点から、結晶状態のBVE分子が、結晶状態のBLIE分子よりも、密に充填されることについて合理的に導き出せるので、BVEは、BLIEと比較して、ラメラ液晶相挙動において有利な効果を発揮し、優れたコンディショニング効果をもたらすことを、合理的に予期することができる旨を主張しているものと解される。
しかしながら、甲1には、中和アミノ酸エステルがラメラ液晶相を形成するということ自体、何ら記載されていないのであるから、BLIEとBVEの構造式や融点を考慮しても、当業者がBVEのほうがよりラメラ液晶挙動における有利な効果を発揮できることを予測できるとはいえない。
また、参考文献1の記載に基づいた申立人の主張は、上記aで述べたのと同様の理由により採用できないし、参考文献1の記載を参照したとしても、甲1発明の組成物において、「BLIE」を「BVE」に置き換えることにより、優れたコンディショニング効果を奏することを、当業者が予測し得たとはいえない。
c 主張cについて
申立人は、本件訂正発明は、実施例で使用された3つの脂肪族アルコールを用いたもの以外は、本件訂正発明の効果を有しない旨を主張しているが、本件訂正発明1は、リーブオンヘアコンディショナー組成物が、「均一なLβゲル網状構造」及び「15nm~45nmのd-間隔」を含むことが特定されており、本件明細書には、
「【0020】
驚くべきことに、本発明のコンディショナー組成物(以下の表5~表10参照)においてLβゲル網状構造が良好に形成されることが見出された。Lβゲル網状構造の存在は、広角X線散乱(wide-angle x-ray scattering、WAXS)によって確認された。本発明のコンディショナー組成物のラメラゲル網状構造のd-間隔(Lβ-基底間隔)は、小角X線散乱(small-angle x-ray scattering、SAXS)によって測定したときに、約15nm~約45nmである。コンディショナーは、良好な湿潤コンディショニング、清潔な感触、ボリューム、及び消費者が好むレオロジ(剪断応力)を提供する。
【0021】
理論に束縛されるものではないが、BVEの脂肪族アルコールに対するモル比及び短鎖(C16以下)脂肪族アルコールの長鎖(C18以上)脂肪族アルコールに対するモル比が、コンディショナー組成物のゲル網状構造及び15~40nmの良好なd-間隔をもたらすことができ、これが、良好な滑りの良い感触及び濡れたもつれのほぐれを含む良好なコンディショニング性能を提供すると考えられる。」
と記載されていることから、上記の物性を有していれば、本件訂正発明1の効果を奏すると解されるので、本件訂正発明の効果が奏されるのが、本件実施例で使用されている3つの脂肪族アルコールを用いた場合に限定されるとはいえない。
d 主張dについて
申立人は、甲1発明の組成物において、BVEを採用すれば、本件訂正発明で特定されるd-間隔を有すると認められるから、上記の効果は予測の範囲内である旨を主張しているが、上記イ(ア)で述べたとおり、甲1発明の組成物において、「BLIE」を「BVE」に置き変えることを当業者が容易になし得たとはいえないから、申立人の主張は前提において誤っており、甲1の記載から本件訂正発明の効果を予測することはできない。
e 主張eについて
上記イ(ア)において述べたとおり、甲1には、ラメラゲルマトリックス等に関する記載はなく、甲3、甲4、及び甲6(摘記3a、摘記4a、摘記4b、摘記6a)の記載事項を参酌したとしても、それらの記載事項を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえないから、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件訂正発明3~9及び11~14について
本件訂正発明3~8及び11~14は、本件訂正発明1の特定事項を全て備えたうえ、さらに、甲1発明のリーブオンヘアコンディショナー組成物について、脂肪族アルコール、物性、及びさらに特定の保存剤を含有することを特定した発明であるから、上記(3)で述べたのと同様の理由により、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)取消理由2のまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1、3~9及び11~14は、甲1に記載された発明に基いて、又は、甲1に記載された発明及び甲3、甲4、及び甲6等に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 取消理由3(実施可能要件違反)について
(1)本件明細書の記載
本件明細書には、以下の記載がある。
摘記a:
「【背景技術】
・・・
【0004】
ヘアケア製品中に特定の界面活性剤及び保存剤を含む特定の成分の低減又は排除に対する一般の人々からの需要が高まっている。一部の消費者は、そのヘアケア製品中の成分が、天然認定規格を満たしていること、例えば、EWG VERIFIED(商標)であること、Whole Foods(登録商標)によってボディケアには許容できないとリストアップされている成分のいずれも含まないこと、Yuka(登録商標)Applicationによって「リスクなし」(緑色のドット)として分類されていることを望んでいる。ヘアケア製品はまた、COSMOS規格(2019年1月1日)を満たし得る。COSMOS規格の最終的な目的は、地球上の人間の環境及び福祉に不可欠な主要な問題に対処することである。
【0005】
しかしながら、・・・。例えば、コンディショナーにおいて、カチオン性界面活性剤を改変すると、コンディショニング性能が低下する可能性があり、保存剤系を改変すると、微生物学的安全性要件に悪影響を及ぼす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、COSMOS及び他の天然認定規格を満たしながらも、依然として消費者が期待及び所望する性能をもたらす、リーブオン/インコンディショナー組成物に対する必要性が存在する。
・・・
【発明を実施するための形態】
・・・
【0010】
・・・。ヘアコンディショニング組成物は、一般に、カチオン性界面活性剤と、25℃超、いくつかの例では40~85℃の融点を有する高融点脂肪族化合物と、水性キャリアとを含む。カチオン性界面活性剤及び保存剤系を含む現在のヘアコンディショナー中の成分は、一般に、安全かつ有効であると認識されている。
【0011】
しかしながら、以下の規格のうちの少なくとも1つ、2つ、3つ、又は4つ全てを満たすコンディショナー製品及び/又は保存剤系に対する一般の人々からの需要が高まっている。
・EWG’s Licensing Criteria:Personal Care Products(2019)に記載されている他の基準に加えて、Environmental Working Group(EWG)基準を満たすこと、EWGの懸念成分を回避すること、完全に透明性のあるラベル付けを有すること、及び優良製造規範を使用することを含む、EWG VERIFIED(商標)(2019年11月25日時点で基準に準拠)。
・Whole Foods(登録商標)がそのPremium Body Care Unacceptable Ingredients(2018年7月)において許容できないとしてリストアップしている成分のいずれも含有していない
・Yuka(登録商標)Application(2019年3月)によって「リスクなし」(緑色のドット)として分類されている
・COSMOS規格(2019年)
【0012】
しかしながら、・・・ベヘントリモニウムクロリド(behentrimonium chloride、BTMAC)及び/又は・・・ステアラミドプロピルジメチルアミン(stearamidopropyl dimethylamine、SAPDMA)などの従来のカチオン性界面活性剤、並びに保存剤を、上にリストアップした規格を満たす成分で代替することは、困難であり得る。ヘアコンディショナー中に一般的に使用されるカチオン性界面活性剤の大部分、例えば、四級化アンモニウム塩は、ベヘントリモニウムクロリド(behentrimonium chloride、BTMAC)及びベヘントリモニウムメトサルフェート(behentrimonium methosulfate、BTMS)からなり、三級アミドアミンは、ステアラミドプロピルジメチルアミン(stearamidopropyl dimethylamine、SAPDMA)、ブラシカアミドプロピルジメチルアミン(brassicamidopropyl dimethylamine、BrassAPDMA)、及びベヘナミドプロピルジメチルアミン(behenamidopropyl dimethylamine、BAPDMA)からなり、これらは、図2に示されるように、COSMOS Natural又はEcocert Natural認証されていない。
【0013】
図1に示される構造を有するブラシシルバリネートエシレート(BVE)は、上記の規格を満たすことができるカチオン性界面活性剤として識別された。これは、COSMOS Natural又はEcocert Naturalによって認証されている。・・・」
摘記b:
「【図1】
[図:0001432065000016.jpg]
【図2A】【図2B】
[図:0001432065000017.jpg]
」
摘記c:
「【0014】
しかしながら、図2の構造比較チャートに示されるように、BVEは従来のカチオン性界面活性剤よりもはるかに疎水性であるため、BVEを含有する有効なコンディショナー組成物を配合することは困難であり得る。BVEは、より小さい親水性頭部基(陰影によって示される)と、頭部基に連結されたイソプロピルアルキル鎖の立体障害とを有し、これは、溶融段階中に界面活性剤及び脂肪族アルコールが充填されて良好なゲル網状構造を形成するのを防止する。形成されたゲル網状構造は、従来のものよりも疎水性であり、これは、毛髪上で容易に広がらない、濡れた毛髪のもつれを良好にほどかない、迅速に洗い流れない、使用後に清潔に感じないなど、湿潤コンディショニング性能が低いコンディショナーをもたらす。
【0015】
これは、今日の市場で天然コンディショナーを使用する際の一般的な欠点である。特にCOSMOSに列挙された成分を含む天然コンディショナーの大部分は、以下の表に示すように、良好なゲル網状構造を有していない。
【0016】
表1は、BTMACを含有するHerbal Essences(登録商標)Honey & Vitamin Bコンディショナー、及びSAPDMAを含有するHerbal Essences(登録商標)Refresh Blue Gingerコンディショナーを示す。両方とも、十分明確なd-間隔を有する良好なLβゲル網状構造を有する。
【0017】
Kerastase(登録商標)Aura Botanicaは、COSMOS認証されていないカチオン性界面活性剤のブラシカアミドプロピルジメチルアミン(BrassAPDMA)を含有する市販の天然コンディショナーである。これは、43という大きなLβd-間隔、及びX線によって検出されるような追加の組み込まれていない材料を有し、これは、良好なゲル網状構造ではないことを意味する。
【0018】
カチオン性界面活性剤を含有しないWeleda(登録商標)Oat Replenishingコンディショナー、及びCOSMOS天然認証のカチオン性界面活性剤のブラシシルイソロイシンエシレート(Brassicyl Isoleucinate Esylate、BIE)を含有するAvalon Organic(登録商標)コンディショナーは、Lβゲル網状構造がX線により検出されなかった。
【0019】
【表1】
[図:0001432065000018.jpg]
【0020】
驚くべきことに、本発明のコンディショナー組成物(以下の表5~表10参照)においてLβゲル網状構造が良好に形成されることが見出された。Lβゲル網状構造の存在は、広角X線散乱(wide-angle x-ray scattering、WAXS)によって確認された。本発明のコンディショナー組成物のラメラゲル網状構造のd-間隔(Lβ-基底間隔)は、小角X線散乱(small-angle x-ray scattering、SAXS)によって測定したときに、約15nm~約45nmである。コンディショナーは、良好な湿潤コンディショニング、清潔な感触、ボリューム、及び消費者が好むレオロジ(剪断応力)を提供する。
【0021】
理論に束縛されるものではないが、BVEの脂肪族アルコールに対するモル比及び短鎖(C16以下)脂肪族アルコールの長鎖(C18以上)脂肪族アルコールに対するモル比が、コンディショナー組成物のゲル網状構造及び15~40nmの良好なd-間隔をもたらすことができ、これが、良好な滑りの良い感触及び濡れたもつれのほぐれを含む良好なコンディショニング性能を提供すると考えられる。
【0022】
更に、実施例1~実施例36(表5~表10)のコンディショナーは、均一なゲル網状構造を有し、かつ安定的であり、これは、相分離がないことを意味する。Lβゲル網状構造の熱挙動は、示差走査熱量測定試験方法によって測定されている。
【0023】
実施例1~実施例36のコンディショナー組成物は、洗浄せずに、乾いた毛髪及び/又は濡れた毛髪の両方に対するリーブオン/インコンディショナーとして使用されてもよい。・・・。実施例1~実施例36のヘアコンディショナー組成物が、リーブオン/インコンディショナーとして使用される場合に、縮れ制御及び扱いやすさなどの良好なヘアコンディショニング効果を提供することができるだけでなく、良好な毛髪ボリュームを与え、及び/又は長持ちする清潔な感触を提供し、スタイリングを容易にすることもできることが見出された。
・・・
【0035】
コンディショナー組成物は、約10:90~約50:50、代替的に約10:90~45:55、又は約14:86~40:60のBVEの総脂肪族アルコールに対するモル比を有し得る。
【0036】
コンディショナー組成物は、BVE及び脂肪族アルコールを含むゲル網状構造を含有してもよい。組成物は、約0.004モル~約-0.05モル、代替的に約0.0045モル~約0.04モル、又は代替的に約0.0045~約0.05モルの、BVE及び脂肪族アルコール(fatty alcohol、FAOH)の合計である総ゲル網状構造(gel network、GN)含有量を有してもよい。
【0037】
コンディショナー組成物は、約15nm~約45nm、代替的に15~43、及び代替的に18~43のd-間隔を有し得る。d-間隔は、本明細書に記載のラメラゲル網状構造試験方法のd-間隔(Lβ-基底間隔)によって決定される。」
摘記d:
「【実施例】
【0165】
以下は、本明細書に記載のコンディショナー組成物の非限定的な実施例である。・・・
【0166】
本明細書における全ての部、百分率(%)、及び比は、別途指定されない限り、重量基準である。いくつかの構成成分は、供給元から希釈溶液として供給され得る。明記されている量は、別途指定されない限り、添加された材料の重量%を表す。
【0167】
・・・から表10までの実施例を、以下のようにして作製した。BVE、脂肪族アルコール、及び油/ワックスを油相として一緒に80℃まで加熱した。安息香酸ナトリウム、グリセリン、グリセリルエステル、及び他の水溶性成分を水相としての水と一緒に80℃まで加熱した。熱水相を熱油相に注ぎ、十分に混合し続ける。次に、混合物を冷却した。次いで、温度が45℃未満になったときに香料を添加した。組成物を室温まで冷却して、コンディショナー組成物を作製した。
【0168】
・・・から表4に比較例1~13を示す。これらの組成物は、EWG VERIFIED(商標)であり、Whole Foods(登録商標)Marketによって許容できないとリストアップされている成分のいずれも含有せず、Yuka(登録商標)Applicationによって「リスクなし」として分類されていて、また、COSMOS規格(2019年1月1日)を満たすことができる、有効な界面活性剤を含有するにもかかわらず、安定的ではなく、又は消費者に好まれない。
【0169】
【表2】
[図:0001432065000019.jpg]
【0170】
比較例1~3では、BVEの脂肪族アルコールに対するモル比が高過ぎ、これはBVEが多過ぎることを意味する。X線散乱方法を使用して、Lβゲル網状構造は検出されなかった。これらの例は、所望の良好な湿潤コンディショニング感触を消費者に提供しない。本発明のコンディショナー組成物は、約10:90~約50:50のBVEの総脂肪族アルコールに対するモル比を有し得る。
【0171】
【表3】
[図:0001432065000020.jpg]
【0172】
比較例4~7では、BVEの脂肪族アルコールに対するモル比が高過ぎる。BVEが過剰であるため、X線散乱シグナルは非常に弱く、d-間隔が外挿され、ゲル網状構造は形成されなかった。これらの例は、所望の良好な湿潤コンディショニング感触を消費者に提供しない。・・・
【0173】
以下の表4及び表5において、2日間の細菌微生物及び2日間の真菌微生物は、本明細書に記載の細菌及び真菌微生物感受性試験方法によって決定される。保存剤系が有効であるためには、微生物(細菌及び真菌)のレベルが検出不可能である必要があり、これは、細菌及び真菌微生物感受性試験方法によって決定したときに、2日間で微生物が99.99%を超えて減少することを意味する。
【0174】
【表4】
[図:0001432065000021.jpg]
【0175】
比較例8は、保存剤系を全く含有せず、細菌及び真菌に対して2日間で十分な微生物減少を提供しない。
【0176】
比較例9は、0.25%のソルビン酸カリウムを含有し、例10は、0.25%の安息香酸ナトリウムを含有し、例11は、1重量%のカプリル酸グリセリル(及び)ウンデシレン酸グリセリル(グリセリルエステル)を含有し、例12及び13は、1重量%のカプリル酸グリセリル(グリセリルエステル)を含有し、すなわち、それらは、1つの保存剤のみを含む。これらの例9~13は、2日間で検出不可能なレベル(99.99%超の減少)の細菌を有する。しかしながら、これらの例は、約90%の減少しか有さないため、2日間で十分な真菌減少を提供しない。
【0177】
【表5】
[図:0001432065000022.jpg]
【0178】
表5において、実施例1は、0.25重量%のソルビン酸カリウム及び1.0重量%のカプリル酸グリセリル(及び)ウンデシレン酸グリセリルを含有し、実施例2は、0.25重量%のソルビン酸カリウム及び1.0重量%のカプリル酸グリセリルを含有し、実施例3は、0.25重量%の安息香酸ナトリウム及び1.0重量%のカプリル酸グリセリル(及び)ウンデシレン酸グリセリルを含有し、一方、実施例4及び5は、0.25重量%の安息香酸ナトリウム及び1.0重量%のカプリル酸グリセリルを含有する。表5の実施例は全て、有効である(すなわち、細菌及び真菌が2日間で検出不可能(99.99%超の減少になる)保存剤系を有し、消費者が好む、均一でクリーム状で滑らかな外観を有する。
【0179】
以下の表6~表10の実施例の全て、実施例6~36は、0.25重量%の安息香酸ナトリウム又はソルビン酸カリウム及び1.0重量%のグリセリルエステルを含む、実施例1~5と同じ有効な天然保存剤系を含有する。実施例1~36は、本発明の実施例である。
【0180】
【表6】
[図:0001432065000023.jpg]
【0181】
【表7】
[図:0001432065000024.jpg]
【0182】
【表8】
[図:0001432065000025.jpg]
【0183】
【表9】
[図:0001432065000026.jpg]
【0184】
【表10】
[図:0001432065000027.jpg]
【0185】
・・・。実施例1~36の粘度は、消費者が許容できるものであり、50cps~7000cpsの範囲である。粘度が高過ぎる場合、消費者が手で毛髪全体にリーブオン/インコンディショナー組成物を適用することが困難であり得る。
【0186】
実施例1~36の剪断応力は、消費者が許容できるものであり、20Pa~200Paの範囲である。剪断応力が高過ぎる場合、消費者が手及び毛髪に広げることが困難であり得る。
【0187】
ゲル網状構造のd-間隔は、実施例1~36で15nm~45nmである。このd-間隔のレベルは、コンディショナー組成物が良好なコンディショニング感触を提供し、毛髪の房を良好にほぐすことができることを示す。
【0188】
実施例1~36は、10:90以上かつ50:50以下のBVEのFAOHに対するモル比を有する。
【0189】
実施例1~36は、約0.004モル~約0.05モルの、BVE及び脂肪族アルコール(FAOH)の合計である総ゲル網状構造(GN)含有量を有する。」
(2)取消理由通知における指摘
取消理由通知では、本件訂正前の請求項1~14に係る発明について、次のア及びイの指摘をしていた。(以下、本件訂正前の請求項1~14に係る発明を、請求項の番号順に、「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)
ア 「均一なLβゲル網状構造」、「15nm~45nmのd-間隔」及び「剪断応力」を達成させる手段について
本件発明1において、「均一なLβゲル網状構造」、「15nm~45nmのd-間隔」及び「950 1/sにおける20Pa~200Paの剪断応力」とするためには、請求項1、本件明細書【0020】、【0021】、【0170】、【0172】及び【0186】の記載からみて、BVEの総脂肪族アルコールに対するモル比を10:90~50:50とすればよいと解される。
しかしながら、仮に、上記物性を実現する手段として、ほかに何らかの条件が必要であるとすると、そのような条件については、本件明細書において明示されていないので、上記物性となるように組成物を調製するためには、当業者に過度の試行錯誤を要するものである。
イ 脂肪族アルコールについて
本件発明1において、「脂肪族アルコール」には、例えば、メタノールやエタノールのような短鎖脂肪族アルコールも包含されるものと認められるところ、本件明細書において実施例等として具体的に開示されているのは、「脂肪族アルコール」として請求項2及び3において特定されているものを用いた場合のみである。
そして、例えば、甲4(摘記4b及び4c)に記載されるように、ラメラゲル構造(Lβゲル網状構造)は、炭素原子数約14~約30の高融点の脂肪族アルコールによって形成されることが、本件特許の出願時の技術常識であることを考慮すると、請求項2及び3において特定されているような高級アルコール以外のものを用いて、本件発明1のLβゲル網状構造を有するためには、当業者において過度の試行錯誤を要するものである。
(3)検討
ア 「均一なLβゲル網状構造」、「15nm~45nmのd-間隔」及び「剪断応力」を達成させる手段について
上記取消理由に対して、特許権者は、BVEの総脂肪族アルコールに対するモル比を10:90~50:50とすること以外に、上記物性を実現する手段として、ほかに条件が必要である旨の釈明は行っておらず、そのような条件があるものとは直ちに解されない。
また、上記物性の達成に関係すると解され得る記載として、例えば、本件明細書の【0021】(摘記c)に、
「理論に束縛されるものではないが、BVEの脂肪族アルコールに対するモル比及び短鎖(C16以下)脂肪族アルコールの長鎖(C18以上)脂肪族アルコールに対するモル比が、コンディショナー組成物のゲル網状構造及び15~40nmの良好なd-間隔をもたらすことができ、これが、良好な滑りの良い感触及び濡れたもつれのほぐれを含む良好なコンディショニング性能を提供すると考えられる。」
との記載があり、上記物性の達成には「短鎖(C16以下)脂肪族アルコールの長鎖(C18以上)脂肪族アルコールに対するモル比」も影響を及ぼすようにも解され得る。
しかしながら、例えば、本件明細書に記載の実施例9と実施例19を比較してみると、両者の「ブラシルバリネートエシレートの総FAOHに対するモル比」(すなわち「BVEの総脂肪族アルコールに対するモル比」)は、いずれも「35:65」であるところ(合議体注:【表6】及び【表8】の対応する欄には「35~65」と記載されているが、本件明細書全体の記載からみて、これは「35対65」を意味するものと解され、本件特許に係る国際出願の国際公開(WO2022/036354)の対応する箇所には「35 to 65」と記載されている。)、「短鎖FAOH(C16)の長鎖FAOH(C18~22)に対するモル比」は、実施例9では「57:43」であるのに対し、実施例19では「94:6」であり、両者の比の値は10倍以上異なっている。
一方、組成物の「外観」、「GN d-間隔(nm)」及び「950 1/sにおける剪断応力(Pa)」についての両者の値等は、以下のとおりとなっており、剪断応力について若干の差異は生じるものの、本件訂正発明1にて特定される範囲内での差異であり、d-間隔については、その差違は1nm未満である。
実施例9 実施例19
外観 均一 均一
GN d-間隔(nm) 26.6 26.2
950 1/sにおける剪断応力(Pa) 52 89
また、実施例21と実施例24との比較においても、「ブラシルバリネートエシレートの総FAOHに体するモル比」(すなわち「BVEの総脂肪族アルコールに対するモル比」)は、いずれも「40:60」であるところ、「短鎖FAOH(C16)の長鎖FAOH(C18~22)に対するモル比」は、実施例21では「93:7」であるのに対し、実施例24では「60:40」であり、両者の比の値は10倍程度異なっている。そして、下記のとおり、剪断応力について差異は生じるものの、本件訂正発明1にて特定される範囲内での差異であり、d-間隔については、その差違は1nm未満である。
実施例21 実施例24
外観 均一 均一
Lβゲル網状構造のd-間隔(nm) 25.5 24.8
950 1/sにおける剪断応力(Pa) 70 77
そうすると、本件訂正発明において、上記物性を満たす条件として、「短鎖(C16以下)脂肪族アルコールの長鎖(C18以上)脂肪族アルコールに対するモル比」が重要な影響を及ぼすものとは認められず、当該モル比の範囲を特定しないからといって、上記物性を達成することが困難となるとは解されない。
また、本件明細書全体の記載を精査しても、上記物性を達成するために、「BVEの総脂肪族アルコールに対するモル比を10:90~50:50」とすることに加え、さらに何らかの特別な条件が必要であると解すべき根拠は見当たらないから、本件訂正発明を実施するために、当業者に過度の試行錯誤を要するものとは認められない。
イ 脂肪族アルコールについて
本件訂正により、請求項1に記載の「脂肪族アルコール」は、本件訂正前の請求項2において特定されていた、
「ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、イソセチルアルコール(C16)、パルミトレイルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、セトステアリルアルコール(C16~C18)、セテアリルアルコール(C16~C18)、セチルステアリルアルコール(C16~C18)、ステアリルアルコール(C18)、イソステアリルアルコール(C18)、オレイルアルコール(C18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキジルアルコール(C20)、ヘンエイコシルアルコール(C21)、ベヘニルアルコール(C22)エルシルアルコール(C22)、リグノセリルアルコール(C24)、セリルアルコール(C26)、ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」
ものに限定された。
よって、上記イの取消理由は解消している。
(4)申立人の主張について
申立人は、申立人意見書の5頁において、「本件特許明細書の【0021】及び表5~10から、少なくとも「短鎖FAOH(C16)の長鎖FAOH(C18~C22)に対するモル比」は効果に影響を及ぼし得るところ、当該モル比が特定されていない、訂正後の請求項1等に係る発明を実施するためには、当業者に過度の試行錯誤を要する。」
と主張している。
しかしながら、上記(2)アで述べたとおり、「短鎖FAOH(C16)の長鎖FAOH(C18~C22)に対するモル比」が、本件訂正発明における物性に重要な影響を及ぼすものとはいえないし、また、当該物性を満たすことによって奏される効果についても、重要な影響を及ぼすものとは解されないから、申立人の主張は採用できない。
(5) まとめ
以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明1、3~9及び11~14に係る発明の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものである。
4 取消理由4(サポート要件違反)について
(1)取消理由通知における指摘
取消理由通知では、本件訂正前の請求項1~14の記載について、次の指摘をしていた。
ア 本件発明の課題
本件発明の課題は、本件明細書の発明の詳細な説明(特に【0006】)の記載からみて、「COSMOS及び他の天然認定規格を満たしながらも、依然として消費者が期待及び所望する性能をもたらす、リーブオンヘアコンディショナー組成物」を提供することであると認められるところ、具体的には、本件明細書【0014】及び【0020】の記載からみて、BVEを含有させながらも、良好な湿潤コンディショニング、清潔な感触、ボリューム、及び消費者が好むレオロジ(剪断応力)を有するコンディショナーを提供することであると認められる。
イ 「均一なLβゲル網状構造」、「15nm~45nmのd-間隔」及び「剪断応力」について
本件明細書【0020】及び【0021】等の記載からみて、「均一なLβゲル網状構造」、「15nm~45nmのd-間隔」及び「950 1/sにおける20Pa~200Paの剪断応力」の物性を達成することが、本件訂正前の請求項1に係る発明の課題の解決手段とされているものと解されるところ、当該物性を実現するための具体的な手段が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
よって、本件訂正前の請求項1に係る発明、及び、同項の記載を直接又は間接的に引用する同請求項2~14に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記課題が解決できることを当業者が認識し得るといえず、そのような技術常識が本願特許の出願時に存在したと認めることもできない。
ウ 脂肪族アルコールについて
本件訂正前の請求項1に係る発明において、脂肪族アルコールの炭素数等は特に限定されていない。
そして、「均一なLβゲル網状構造」及び「15nm~45nmのd-間隔」を含む組成物とするために、本件請求項2及び3に記載される脂肪族アルコール以外のものを用いた場合について、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
よって、本件訂正前の請求項1に係る発明、及び、同項の記載を直接又は間接的に引用する同請求項4~14に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記課題が解決できることを当業者が認識し得るといえず、そのような技術常識が本願出願時に存在したと認めることもできない。
(2)検討
ア 本件訂正発明の課題
本件訂正発明の課題は、上記(1)アで認定したものと同じである。
イ 「均一なLβゲル網状構造」、「15nm~45nmのd-間隔」及び「剪断応力」について
上記3(3)アで述べたとおり、本件訂正発明において、組成物が、「均一なLβゲル網状構造」、「15nm~45nmのd-間隔」及び「950 1/sにおける20Pa~200Paの剪断応力」を有するものとするために、「BVEの総脂肪族アルコールに対するモル比を10:90~50:50」とすることに加えて、さらに何らかの特別な条件が必要であると解すべき根拠はなく、本件訂正発明の課題の解決手段は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているといえる。
ウ 脂肪族アルコールについて
本件訂正により、請求項1に記載の「脂肪族アルコール」は、本件訂正前の請求項2において特定されていた、
「ラウリルアルコール(C12)、トリデシルアルコール(C13)、ミリスチルアルコール(C14)、ペンタデシルアルコール(C15)、セチルアルコール(C16)、イソセチルアルコール(C16)、パルミトレイルアルコール(C16)、ヘプタデシルアルコール(C17)、セトステアリルアルコール(C16~C18)、セテアリルアルコール(C16~C18)、セチルステアリルアルコール(C16~C18)、ステアリルアルコール(C18)、イソステアリルアルコール(C18)、オレイルアルコール(C18)、ノナデシルアルコール(C19)、アラキジルアルコール(C20)、ヘンエイコシルアルコール(C21)、ベヘニルアルコール(C22)エルシルアルコール(C22)、リグノセリルアルコール(C24)、セリルアルコール(C26)、ブラシカアルコール(C18~C22)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される」
ものに限定された。
よって、上記イの取消理由は解消している。
エ 申立人の主張について
申立人は、申立人意見書の6頁において、本件明細書の【0021】及び表5~10から、少なくとも「短鎖FAOH(C16)の長鎖FAOH(C18~C22)に対するモル比」は効果に影響を及ぼし得るところ、当該モル比が特定されていない、訂正後の請求項1等に係る発明が課題を解決できることを当業者が認識し得るとはいえない旨主張している。
しかしながら、上記3(3)で述べたとおり、「短鎖FAOH(C16)の長鎖FAOH(C18~C22)に対するモル比」が、本件訂正発明における物性を達成するために重要な影響を及ぼすものとはいえないし、また、当該物性を満たすことによって奏される効果についても、影響を及ぼすものとは解されないから、申立人の主張は採用できない。
(3) まとめ
したがって、本件訂正請求項1、3~9及び11~14に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
5 取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1~4には理由がない。
第6 取消理由通知において採用しなかった申立理由1について
1 甲1に記載された発明、対比及び判断について
甲1には、上記第5の2(2)で認定した甲1発明が記載されている。
そして、上記第5の2(3)で述べたとおり、甲1発明は、本件訂正発明1とは、相違点1~6において相違するところ、これらの相違点のうち、相違点1~4及び6は、実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
2 申立人の主張について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、甲1からは、以下の発明を認定することができ、よって、訂正前の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明である旨を主張している。
(申立書の55~56頁)
<甲1発明’>
「a.洗い流さない(leave in)ヘアコンディショニングトリートメントであって(甲第1号証の実施例7C(【0073】)及び7K(【0081】);甲第2号証の実施例7C(【0071】)及び7K(【0079】)等)、
b.脱イオン水と(甲第1号証の【0058】~【0062】(表3~4);甲第2号証の【0053】~【0058】(表3~4)等)、
c.2.67重量%~5.93重量%のBVEと(甲第1号証の【0037】~【0040】、【0057】(表1)、及び【0058】~【0062】(表3~4の処方物9~44);甲第2号証の【0030】~【0034】、【0052】~【0053】(表1)、及び【0053】~【0058】(表3~4の処方物9~44)等)、
d.4.27~8重量%のセチルアルコールとステアリルアルコールとを含み(甲第1号証の【0051】及び【0060】(表3の処方物9~20、25~27、及び29~40);甲第2号証の【0045】及び【0056】~【0057】(表3の処方物9~20、25~27、及び29~40)等)、
e.BVEの、セチルアルコール及びステアリルアルコールの総量に対するモル比が、20:80~29:71であり(甲第1号証の【0037】~【0040】及び【0060】(表3の処方物9~24及び29~44)、甲第2号証の【0030】~【0034】及び【0056】~【0057】(表3の処方物9~24及び29~44)等)、
h.前記組成物が、4000~7000cpsの粘度を有する(甲第1号証の【0060】(表3の処方物9~11及び15)及び【0061】(表4)等;甲第2号証の【0056】~【0057】(表3の処方物9~11及び15)及び【0058】(表4)等)、洗い流さない(leave in)ヘアコンディショニングトリートメント。」
(2)当審合議体の判断
しかしながら、以下のとおり、申立人の主張は採用できない。
申立人の主張する甲1発明’は、甲1における複数の記載箇所から寄せ集めて認定されたものであり、このような発明が甲1から認定できるとは解されない。特に、「BVE」については、上記第5の2(3)イ(ア)で述べたとおり、「BLIE」のアナログとしてその化合物が製造されたことが記載されているに過ぎず、「2.67重量%~5.93重量%のBVEと」「4.27~8重量%のセチルアルコールとステアリルアルコールと」を含む.「洗い流さない(leave in)ヘアコンディショニングトリートメント」を調製した例や、そのような組成とする発明が記載されていたとは認められない。
3 まとめ
したがって、申立人の主張する申立理由1には、理由がない。
第7 むすび
以上のとおり、本件訂正請求は適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
取消理由通知書に記載した取消理由及び証拠、並びに、申立人の特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、3~9及び11~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1、3~9及び11~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件訂正により、請求項2及び10は削除されたため、申立人の請求項2及び10に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったので、請求項2及び10に係る特許についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8において準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2025-700055