2021-701127
全固体リチウムイオン電池用正極活物質、全固体リチウムイオン電池用正極、全固体リチウムイオン電池及び全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法
- 審判番号
- 2021-701127
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-117136外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6883003
- 請求日
- 2021年12月01日
- 審決日
- 2023年03月15日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】JX金属株式会社
- 【権利者代理人】アクシス国際弁理士法人
- 【異議申立人】鈴木 省一
- 分類
- P1652.537-ZB (H01M) / P1652.561-ZB (H01M) / P1652.852-ZB (H01M) / P1652.854-ZB (H01M) / P1652.855-ZB (H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第7項、特許法第113条第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 9項目
第1 手続の経緯
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特許第6883003号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成30年6月20日に出願され、令和3年5月11日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月2日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以降の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和3年12月1日 特許異議申立人 鈴木 省一による請求項1な いし4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 3月17日付け 取消理由通知
令和4年 5月17日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
令和4年 7月 6日 特許異議申立人による意見書の提出
令和4年 8月12日付け 訂正拒絶理由通知
令和4年10月 6日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和4年10月26日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
令和4年12月13日 特許異議申立人による意見書の提出
令和5年 2月 2日付け 訂正拒絶理由通知
令和5年 3月 1日 特許権者による意見書の提出
ここで、先にした令和4年5月17日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
本件特許異議の申立ての手続において令和4年10月26日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6883003号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「LixNiaCobMncMdO2+α(a+b+c+d=1、1.0≦x≦1.1、0.85≦a<1.0、0<b、0<c、0<d/(a+b+c)≦0.1、0<α≦0.2、MはNbであるか、NbとTi、Mg、Al、Zr、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種とからなる)で表される組成を有し、」と記載されているのを、「LixNiaCobMncMdO2+α(a+b+c+d=1、1.0≦x≦1.1、85/101≦a<1.0、0<b、0<c、0<d/(a+b+c)≦0.1、0<α≦0.2、MはNbであるか、NbとTi、Mg、Al、Zr、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種とからなる)で表される組成を有し、」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「非球形粒子であり、」と記載されているのを、「粒子表面に突起を有する粒子である非球形粒子であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する)。
2.訂正の適否
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的の適否について
訂正事項1により、請求項1に係る発明の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の組成式である「LixNiaCobMncMdO2+α」におけるNiの組成範囲について、「0.85≦a<1.0」とあったものが、「85/101≦a<1.0」と訂正された。
ここで、訂正前の請求項1におけるNiの組成範囲が「0.85≦a<1.0」であることの限定は令和2年1月10日の手続補正による補正で付加され、同年5月11日の手続補正による補正でも同様に付加されたものであるところ、令和2年1月10日に提出した意見書において、「『0.85≦a』については、本願明細書の表2の実施例1、3~9に基づく。」とその補正の根拠について説明している。
そして、特許権者は今回提出した訂正請求書において、訂正前の請求項1のNiの組成範囲である「0.85≦a<1.0」との記載は、当初明細書の表2の実施例1、3~9によれば明らかな誤記であるため、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的として、Niの組成範囲の下限値を「85/101」に訂正した旨を説明している。
そこで、当該訂正事項1が特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当するといえるか否かについて以下に検討する。
まず、請求項1には「MはNbであるか、NbとTi、Mg、Al、Zr、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種とからなる」と記載されていることを踏まえると、請求項1に係る発明の実施例としては、「M」としてNbのみを添加した実施例1、3だけでなく、さらにTi、Mg、Al、Zr、Mo、Wのいずれかを添加した実施例4~9も含まれているといえる。
そして確かに、当初明細書の表2の実施例1、3では、「Ni:Co:Mn」のモル比が「85:12:3」(合計100)であり、これにさらにNbを「Nb/(Ni+Co+Mn)」がモル比で0.01となるように添加することが記載され(段落【0034】)、請求項1には「a+b+c+d=1」と特定されていることから、Niの組成はa=85/101(≒0.84)となる。
しかしながら、表2の実施例4では、「Ni:Co:Mn」のモル比が「85:12:3」(合計100)であり、これにさらにNbだけでなくTiを「Ti/(Ni+Co+Mn)」がモル比で0.02となるように添加することが記載されていることから(段落【0039】)、Niの組成はa=85/103(≒0.83)である。同様に、実施例5では、NbだけでなくMgを「Mg/(Ni+Co+Mn)」がモル比で0.014となるように添加することが記載されていることから(段落【0040】)、Niの組成はa=85/102.4(≒0.83)であり、実施例6では、NbだけでなくAlを「Al/(Ni+Co+Mn)」がモル比で0.015となるように添加することが記載されていることから(段落【0041】)、Niの組成はa=85/102.5(≒0.83)であり、実施例7では、NbだけでなくZrを「Zr/(Ni+Co+Mn)」がモル比で0.013となるように添加することが記載されていることから(段落【0042】)、Niの組成はa=85/102.3(≒0.83)であり、実施例8では、NbだけでなくMoを「Mo/(Ni+Co+Mn)」がモル比で0.05となるように添加することが記載されていることから(段落【0043】)、Niの組成はa=85/106(≒0.80)であり、実施例9では、NbだけでなくWを「W/(Ni+Co+Mn)」がモル比で0.1となるように添加することが記載されていることから(段落【0044】)、Niの組成はa=85/111(≒0.77)である。
なお、令和2年1月10日に提出した意見書において、「引用文献1に記載の発明は、このように、Niの組成が0.6~0.8であることを必須の構成要件とする発明について記載されたものである。・・すなわち、引用文献1に記載の発明において、正極活物質のNiの組成は非常に発明の課題解決に重要な特徴であり、Niの組成を『a>0.8』とすることは、引用文献1に記載の発明にとって反対の教示となり、そのようにNiの組成を変更することは、もはや引用文献1に記載の発明に基づくものとは言えない。」と述べていることを考慮すると、同日の手続補正による補正において、Niの組成範囲の下限値については少なくとも0.8より大きい値に補正しようとしたものと解することもできる。しかしそのように解したとしても、Niの組成が0.8よりも大きい実施例は、実施例1や3だけでなく、少なくとも実施例4~7も該当する。
以上のことを踏まえると、Niの組成範囲の下限値について、当初明細書の表2の実施例1、3~9によれば、訂正前の「0.85」は誤りであることは認められるとしても、必ずしも訂正後の「85/101」となるとは限らず、Niの組成範囲の下限値が「85/101」の明らかな誤記であったとまでは認められない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当するということはできない。
また、訂正事項1によれば、Niの組成範囲を「0.85≦a<1.0」から「85/101≦a<1.0」に広げることになるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当しない。さらに、同法第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」、及び第4号に掲げる「請求項間の引用関係の解消」のいずれにも該当しないことも明らかである。
ここで、特許権者は令和5年3月1日に提出した意見書において、「訂正拒絶理由通知書では、令和4年10月26日付提出の訂正請求で行ったNiの組成範囲の下限値を「85/101」とする訂正は、同日付提出の意見書において、訂正の根拠を当初明細書の表2の実施例1、3~9であるとして特許権者が説明していると認定している。しかしながら、・・令和4年10月26日付提出の訂正請求で行ったNiの組成範囲の下限値を「85/101」とする訂正は、当初明細書の表2の実施例1がその根拠であると意見書において記載されている。このため、訂正拒絶理由通知書で指摘されているように当初明細書の表2の実施例1、3~9に基づく訂正ではなく、実施例3~9については今回の訂正において根拠となるものではない。したがって、当該訂正は誤記の訂正であると認められるべきである。」と主張している。
しかしながら、上記訂正拒絶理由通知書には「・・令和2年1月10日に提出した意見書において、『“0.85≦a”については、本願明細書の表2の実施例1、3~9に基づく。』とその補正の根拠について説明している。 そして、特許権者は今回提出した訂正請求書において、訂正前の請求項1のNiの組成範囲である『0.85≦a<1.0』との記載は、当初明細書の表2の実施例1、3~9によれば明らかな誤記であるため、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる『誤記の訂正』を目的として、Niの組成範囲の下限値を『85/101』に訂正した旨を説明している。」と記載したのであって、令和4年10月26日に提出した「意見書」に訂正の根拠が当初明細書の表2の実施例1、3~9であることが記載されているような認定はしていない。そして、令和5年3月1日に提出した意見書や令和4年10月26日に提出した訂正請求書における上記記載によれば、令和2年1月10日の手続補正や同年5月11日の手続補正におけるNiの組成範囲の下限値についての補正が実施例1、3~9を根拠に行われ、実施例1のみを根拠としてされたものでないことは明らかであり、令和4年10月26日に提出した意見書では実施例1、3~9のうちNiの組成が「85/101」である実施例1について説明しているにすぎない。
よって、本件訂正請求におけるNiの組成範囲の下限値についての訂正について、実施例1のみを根拠に誤記の訂正であると認めることはできず、特許権者の上記主張は採用できない。
イ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記「ア.訂正の目的の適否について」でも述べたとおり、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当するということはできず、そして、訂正事項1によれば、Niの組成範囲を「0.85≦a<1.0」から「85/101≦a<1.0」に広げることになるから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるといえる。
ウ.まとめ
以上のとおり、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、さらに、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定にも適合しない。
(2)訂正事項2
ア.訂正の目的の適否について
訂正事項2については、令和4年10月6日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した「理由A(サポート要件・明確性要件)について」で指摘した記載不備を解消するために、訂正前の請求項1に係る発明における「非球形粒子」について、「粒子表面に突起を有する粒子である非球形粒子」と訂正し、「非球形粒子」にはどのような形状の粒子までが含まれるのかその範囲が不明瞭であったのを正そうとするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。あるいは、訂正前の請求項1に係る発明における「非球形粒子」について、「粒子表面に突起を有する粒子」であることの限定を付加するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるとみることもできる。
イ.新規事項の有無について
訂正前の請求項1に係る発明における「非球状粒子」について、本件特許明細書の段落【0024】には「・・非球形品の場合は球形品と異なり、粒子表面に突起を有し、これが折れた際にも活物質として働く・・」と記載されていることから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は上述のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的として訂正前の請求項1における不明瞭さを正すものであるか、あるいは「非球状粒子」について限定を付加することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ.まとめ
以上のとおり、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号あるいは第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求により特許権者が求めている訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、さらに、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合しない訂正事項1を含むものであるから、適法な訂正請求とはいえない。
よって、請求項〔1ないし6〕について訂正を認めない。
第3 本件発明
本件訂正請求による訂正は上記のとおり認められないから、本件の請求項1ないし6の特許に係る発明は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】LixNiaCobMncMdO2+α(a+b+c+d=1、1.0≦x≦1.1、0.85≦a<1.0、0<b、0<c、0<d/(a+b+c)≦0.1、0<α≦0.2、MはNbであるか、NbとTi、Mg、Al、Zr、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種とからなる)で表される組成を有し、Sの含有量が100質量ppm以下で、非球形粒子であり、続きを表示(全23行)粒子断面のEDX測定において、Al以外のM、Ni、Co、Mnがいずれも均一に分散している全固体リチウムイオン電池用正極活物質。【請求項2】Sの含有量が70質量ppm以下である請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質。【請求項3】請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質を備えた全固体リチウムイオン電池用正極。【請求項4】請求項3に記載の正極と、負極と、固体電解質とを含む全固体リチウムイオン電池。【請求項5】前記MがNbであり、ニッケル地金、コバルト地金、マンガン地金を硝酸に溶解して地金溶解液を得る工程、前記地金溶解液を炭酸リチウム懸濁水に添加して噴霧前スラリーを得る工程、前記噴霧前スラリーにシュウ酸ニオブ水溶液を添加し、噴霧乾燥して乾燥粉を得る工程、及び、前記乾燥粉に乾燥状態の酸素含有雰囲気中775~950℃で焼成を行う工程、を含む請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。【請求項6】前記MがNbとTi、Mg、Al、Zr、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種とからなり、ニッケル地金、コバルト地金、マンガン地金を硝酸に溶解して地金溶解液を得る工程、前記地金溶解液を炭酸リチウム懸濁水に添加して噴霧前スラリーを得る工程、前記噴霧前スラリーにシュウ酸ニオブ水溶液と、シュウ酸チタン二アンモニウム水溶液、硝酸マグネシウム水溶液、硝酸アルミニウム水溶液、オキシ硝酸ジルコニル水溶液、モリブデン酸リチウム水溶液、パラタングステン酸アンモニウム水溶液から選択される少なくとも1種とを添加し、噴霧乾燥して乾燥粉を得る工程、及び、前記乾燥粉に乾燥状態の酸素含有雰囲気中775~950℃で焼成を行う工程、を含む請求項1又は2に記載の全固体リチウムイオン電池用正極活物質の製造方法。」
第4 取消理由の概要
令和4年10月6日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(理由A(サポート要件・明確性要件)、理由B(新規事項追加))の概要は、次のとおりである。
A.請求項1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号・第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。
B.請求項1ないし4に係る特許は、令和2年1月10日の手続補正及び同年5月11日の手続補正による補正が下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をされた特許出願に対してなされたものである。
第5 当審の判断
理由A(サポート要件・明確性要件)について
請求項1において「非球形粒子であり」と記載されている。
ここで、本件特許明細書には「非球形粒子」について、段落【0021】に「本発明における『非球形粒子』とは、球形とは異なる形状を有する粒子を意味する。例えば、非球形粒子は、真球の形状から変形した“いびつ(歪)な形状”の粒子、又は、小板状の粒子、棒状の粒子が挙げられる。また、一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合は、当該二次粒子が非球形である場合に、本発明における『非球形粒子』となる。このような非球形粒子により、粒子間の接触が改善され、特にリチウムイオンについての接触移動抵抗を低減することができる。粒子の球形/非球形の判断は、SEM観察で行うことができる。」と記載され、段落【0051】に「SEMでの球形/非球形の判断(粒子形態の判断)およびEDXでの各元素のスポットの有無(各元素存在状態)については常法にて判断した。」と記載されている。
しかしながら、SEMでの球形/非球形の判断を具体的にどのような基準で行ったのか不明であり、請求項1でいう「非球形粒子」とは、「真球の形状」以外のものを意味する、つまり「真球の形状」から僅かでも変形したものであればすべて含まれることを意味するのか否か明らかでなく、仮に、「真球の形状」から僅かでも変形したものであればすべて含まれることを意味するわけではないとした場合には、「真球の形状」からどの程度変形したものを意味するのかが明らかでない。そのため、請求項1でいう「非球形粒子」にはどのような形状の粒子まで含まれるのかその範囲を明確に特定することができない。
よってこの点において、請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし4に係る発明は明確でない。
またさらに、本件特許明細書の段落【0021】には「正極活物質粒子が球形であると、粒子内部が緻密になり過ぎてしまい、これを用いて全固体LIBとした際に、取り出しできる電流値が少ないものとなる問題が生じる。これに対し、本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池用正極活物質は、非球形粒子であるため、特に球形品や特許第5971109号公報の図7及び明細書の段落0145に記載のような緻密でない部分を有するだけの正極活物質に比べてレート特性が高いという特長を有する。」と記載され、段落【0023】~【0024】には「非球形粒子の場合は、Nbが活物質粒子内部に存在しても、エネルギーギャップの抑制がうまくいくことが判明した。詳細なメカニズムは不明であるが、非球形品の場合は球形品と異なり、粒子表面に突起を有し、これが折れた際にも活物質として働くため、割れた断面にもなんらかのLi-Nb酸化物を存在させることが、電池特性の向上につながった可能性がある。」と記載され、粒子形態が「非球形」である各実施例と「球形」である比較例(比較例1)とが示されている。
しかしながら、そもそも上述したように、SEMでの球形/非球形の判断を具体的にどのような基準で行ったのか不明であり、請求項1でいう「非球形粒子」が、「真球の形状」以外のものを意味するとした場合、つまり「真球の形状」から僅かでも変形したものであればすべて含まれることを意味するとした場合には、そのすべての範囲において、特に「真球の形状」からごく僅かだけ変形したものであっても、「良好なレート特性を有する全固体リチウムイオン電池用正極活物質を提供する」という課題(段落【0010】)を解決できるとまでは認識することはできない。
以上のことを踏まえると、請求項1に係る発明は、粒子の形状に関して、課題を解決するための手段が適切に反映されているとはいえず、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えて特許を請求するものであるから、本件請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められない。
理由B(新規事項追加)について
請求項1において「LixNiaCobMncMdO2+α(a+b+c+d=1、1.0≦x≦1.1、0.85≦a<1.0、0<b、0<c、0<d/(a+b+c)≦0.1、0<α≦0.2、MはNbであるか、NbとTi、Mg、Al、Zr、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種とからなる)で表される組成を有し」と記載されている。
ここで、Niの組成範囲が「0.85≦a<1.0」であることの限定は令和2年1月10日の手続補正による補正で付加され、同年5月11日の手続補正による補正でも同様に付加されたものであるところ、令和2年1月10日に提出した意見書において、「『0.85≦a』については、本願明細書の表2の実施例1、3~9に基づく。」とその補正の根拠について説明している。
しかしながら、本件の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の表2の実施例1では、「Ni:Co:Mn」のモル比が「85:12:3」(合計100)であり、これにさらにNbを「Nb/(Ni+Co+Mn)」がモル比で0.01となるように添加することが記載されている(段落【0034】)。したがって、「Ni:Co:Mn:Nb」のモル比は「85:12:3:1」(合計101)である。そして、請求項1には「a+b+c+d=1」と特定されていることから、これに基づくとNiの組成はa=85/101≒0.84となる。実施例3~9についても同様に計算すると、a≒0.77~0.84となり、すべて0.84以下である。
よって、当初明細書の表2の実施例1、3~9からはNiの組成aの下限値を「0.85」とする根拠を見出すことはできない。また、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲(以下、「当初明細書等」という。)には、Niの組成aの下限値を「0.85」とする根拠となるような他の記載も見当たらず、Niの組成範囲についてその下限値を「0.85」とする補正は新たな技術的事項を導入するものであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
請求項1を引用する請求項2ないし4についても同様のことがいえる。
第6 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし4に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をされた特許出願に対してされたものであり、さらに、特許法第36条第6項第1号・第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第1号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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