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特許異議申立

2023-701200

弁本体の設置方法

審判番号
2023-701200
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-145255
登録番号
7288485
請求日
2023年11月13日
審決日
2026年02月04日
公報発行日
2026年05月29日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】コスモ工機株式会社
  • 【権利者代理人】創和国際特許事務所弁理士法人
  • 【異議申立人】西内 大生
審判長/審判官
  • 審判長 平瀬 知明
  • 審判官 竹下 和志
  • 審判官 大山 健
分類
P1651.537-ZB (F16L) / P1651.55 -ZB (F16L) / P1651.854-ZB (F16L) / P1651.841-ZB (F16L)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法17条の2第3項特許法36条6項2号特許法113条1号特許法113条4号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第113条第4号、特許法第113条第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7288485号発明「弁本体の設置方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7288485号の請求項1~5に係る特許を取り消す。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7288485号の請求項1~5に係る特許は、平成26年10月1日の出願である特願2014-203240号の一部を、平成31年1月29日に新たな出願とした特願2019-12690号の一部を、令和2年5月14日に新たな出願とした特願2020-84909号の一部を、令和3年9月7日に新たな出願としたものであって、令和5年5月30日にその特許権の設定登録がされ、同年6月7日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、概略次のとおりである。 令和5年11月13日 :特許異議申立人 西内大生(以下「申立人」という。)による請求項1~5に係る特許に対する特許異議の申立て 令和6年 3月28日付け:取消理由通知 同年 5月 7日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出 同年 7月12日 :申立人による意見書の提出 同年10月24日付け:訂正拒絶理由通知 同年11月19日 :特許権者による意見書の提出 令和7年 5月 7日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年 6月18日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出 同年 8月 6日 :申立人による意見書の提出 同年11月 5日付け:訂正拒絶理由通知 同年12月10日 :特許権者による意見書(以下「特許権者意見書」という。)の提出 なお、令和6年5月7日にした訂正の請求は、令和7年6月18日提出の訂正請求書による訂正の請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否 1.訂正の内容 令和7年6月18日の訂正の請求(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「 前記弁本体は弁体と、該弁体の上部に接続され、上端の操作部を回動操作することで前記弁体を可動する弁操作軸と、弁座孔部を有する弁座体と、前記筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋と、前記弁座体と前記筐体との間を密封する密封部材と、前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する張出部と、を備え、前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて前記収容部から下方に挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となっており、前記弁本体挿入装置は、前記筐体に接続される挿入装置筐体と、前記挿入装置筐体に対し進退可能な挿入軸と、前記挿入軸の一端に設けられた保持部と、を有し、前記保持部が前記弁本体における前記弁操作軸の上端の前記操作部よりも下方で、且つ前記張出部を保持した状態で、前記弁本体を前記筐体内に挿入し、該弁本体の底部が前記筐体の鉢状の筐体底部に接するように設置して、前記保持部が前記弁本体の前記張出部を保持した状態で、前記保持部よりも下方にて前記筐体側に設けられた押えネジをねじ込み、前記弁本体の外周部を前記押えネジによって固定する」とあるのを、 「 前記弁本体は弁体と、該弁体の上部に接続され、上端の操作部を回動操作することで前記弁体を可動する弁操作軸と、弁座孔部を有する弁座体と、前記筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋と、前記弁座体と前記筐体との間を密封する密封部材と、前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する弁箱と、を備え、前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて前記収容部から下方に挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となっており、前記弁本体挿入装置は、前記筐体に接続される挿入装置筐体と、前記挿入装置筐体に対し進退可能な挿入軸と、前記挿入軸の一端に設けられた保持部と、を有し、前記保持部が前記弁本体における前記弁操作軸の上端の前記操作部よりも下方で、且つ前記弁箱を保持した状態で、前記弁本体を前記筐体内に挿入し、該弁本体の底部が前記筐体の鉢状の筐体底部に接するように設置して、前記保持部が前記弁本体の前記弁箱を保持した状態で、前記保持部よりも下方にて前記筐体側に設けられた押えネジをねじ込み、前記弁本体の外周部を前記押えネジによって固定する」に訂正する。 2.一群の請求項 訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~5に対応する訂正後の請求項〔1~5〕は、一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。 3.訂正の適否について (1)訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の「張出部」について、願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書等」という。)の記載を考慮しても、「張出部」が、弁本体5のいずれの部位から「張り出した箇所」を意味し、当該「張り出した箇所」を保持部によってどのように保持しているのか、その技術的意味が不明であることを明確にしようとする訂正であると認められる。 したがって、上記訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (2)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことについて 以下に示すとおり、訂正事項1は、請求項1において、弁装置の「弁蓋よりも上方に形成され」ているとともに「内部に弁体用の収容部を有」するものであって、「保持部」が保持する機能を備える部分が、訂正前に「張出部」と特定されていたところを、本件訂正により「弁箱」と、拡張又は変更するものである。 ア 「張出部」と「弁箱」の関係について まず、本件明細書等には、「張出部」も「弁箱」も、記載されていない。 また、「張出し」は、「外側へ出っぱらせること。また、そのもの。特に建築でいう。・・・」[広辞苑 第七版]などの意味を有し、「張出部」とは「外側へ出っぱった部分」を意味すると解釈できるところ、「弁箱(弁体を収容する箱体)」(及び後述する「パッキン箱5h」)が「外側へ出っぱった部分」を意味すると解することはできないから、形状・構造に鑑みても、両者が相当するということはできない。 したがって、本件明細書等から、訂正前の「張出部」が、訂正後の「弁箱」と、同じ部分を指すことも、同義であることも認めることはできない。 イ 特許権者の主張について 特許権者は、訂正請求書及び特許権者意見書において、「弁箱」とは一般に「弁体を収容する箱体」を指すものであり、本件特許図面の図5、6において、「弁体5v」を収容する「パッキン箱5h」がこれに相当すると主張しているから検討する。 しかしながら、本件明細書等の段落【0013】の「パッキン箱5hに収納され弁操作軸5jを密封するパッキン」との記載から、「パッキン箱5h」は「弁操作軸5jを密封するパッキン」を「収納」するものであって、「パッキン箱5h」が「弁箱」(弁体を収容する箱体)に相当するとの主張は本件明細書等の記載から裏付けられない。 そして、図5,6に依拠して、「パッキン箱5h」が弁体5vを収容する箱体であると仮定しても、本件明細書等からは、訂正前の「張出部」(上記アを参照。)が、訂正後の「パッキン箱5h」と同じ部分を指すことも、同義であることも認めることはできない。 また、特許権者は、訂正前の「張出部」を「弁箱」に訂正したのは、明確性要件違反及び新規事項違反との指摘を受けたからであり、表現上の違いは不明りょうな記載を明りょうにしたためであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更していないことは明らかである旨を主張するが、上記(1)のとおり、訂正事項1が特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとしても、訂正事項1が、訂正前に「張出部」と特定されていたところを、本件訂正により「弁箱」と拡張又は変更するものであるとの判断を左右しない。 ウ 判断 ア及びイから、訂正前の「張出部」を、訂正事項1により「弁箱」と訂正することは、請求項1において、弁装置の「弁蓋よりも上方に形成され」ているとともに「内部に弁体用の収容部を有」するものであって、「保持部」が保持する機能を備える部分を、「張出部」から、異なる部分である「弁箱」に入れ替えるもの、または、「張出部」の削除により「弁体を収容する箱体(弁箱)」と上位概念に変更するものと認められる。 また、「弁箱」が「パッキン箱5h」であるとしても同様である。 してみると、訂正事項1は、請求項1に記載された発明を特定するための事項を入れ替えるもの又は上位概念に変更するものであるから、実質上特許請求の範囲を変更又は拡張するものといわざるを得ない。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合しない。 4.小括 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合しないから、本件訂正を認めることはできない。 第3 本件発明 第2で説示したとおり、本件訂正は認められないから、本件特許の請求項1~5に記載された発明は、願書に添付した特許請求の範囲に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 水道管を密封状に囲む分割構造の筐体の中で、不断流状態で円筒状の回転可能なカッターで切断されることで前記筐体が上水で満たされ、該筐体内にて、円弧状に形成された前記水道管の切断面同士の離間部分に、弁本体を弁本体挿入装置によって挿入して設置する弁本体の設置方法であって、 前記弁本体は弁体と、該弁体の上部に接続され、上端の操作部を回動操作することで前記弁体を可動する弁操作軸と、弁座孔部を有する弁座体と、前記筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋と、前記弁座体と前記筐体との間を密封する密封部材と、前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する張出部と、を備え、前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて前記収容部から下方に挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となっており、前記弁本体挿入装置は、前記筐体に接続される挿入装置筐体と、前記挿入装置筐体に対し進退可能な挿入軸と、前記挿入軸の一端に設けられた保持部と、を有し、前記保持部が前記弁本体における前記弁操作軸の上端の前記操作部よりも下方で、且つ前記張出部を保持した状態で、前記弁本体を前記筐体内に挿入し、該弁本体の底部が前記筐体の鉢状の筐体底部に接するように設置して、前記保持部が前記弁本体の前記張出部を保持した状態で、前記保持部よりも下方にて前記筐体側に設けられた押えネジをねじ込み、前記弁本体の外周部を前記押えネジによって固定することを特徴とする弁本体の設置方法。 【請求項2】 前記保持部は、前記弁操作軸を跨ぐように下方に延設されていることを特徴とする請求項1に記載の弁本体の設置方法。 【請求項3】 前記弁本体を前記筐体内に挿入した後、前記挿入装置筐体に開閉可能に形成された作業用孔を通じて、前記挿入軸と前記保持部との取外し作業を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の弁本体の設置方法。 【請求項4】 前記取外し作業は、前記挿入軸と前記保持部とを結合する取付けボルトを取外す作業であることを特徴とする請求項3に記載の弁本体の設置方法。 【請求項5】 前記取外し作業の後、前記挿入装置筐体及び前記挿入軸を取外し、前記保持部を前記弁本体から撤去することを特徴とする請求項3または4に記載の弁本体の設置方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)の概要 当審が令和7年5月7日付けの取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。 理由1(明確性) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 理由2(新規事項) 本件特許は、令和5年1月17日にした手続補正(以下「本件補正」という。)が、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 (理由1) 請求項1の「前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する張出部と、を備え」ること、「前記保持部が・・・前記張出部を保持した状態」、「前記保持部が前記弁本体の前記張出部を保持した状態」は、いずれも第三者が不測の不利益を被るおそれがある程度に不明確であるといわざるを得ないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものである。 請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~5について同様である。 (理由2) 請求項1において、弁本体について「前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する張出部と、を備え、前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて前記収容部から下方に挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となっており」と特定し、弁本体挿入装置について「前記保持部が前記弁本体における前記弁操作軸の上端の前記操作部よりも下方で、且つ前記張出部を保持した状態で、前記弁本体を前記筐体内に挿入」すること、「前記保持部が前記弁本体の前記張出部を保持した状態で、前記保持部よりも下方にて前記筐体側に設けられた押えネジをねじ込」むことを特定する本件補正は、弁本体及び弁本体挿入装置について、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるといわざるを得ない。 第5 当審の判断 1.理由1(明確性)について (1)規範 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術的常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 以下、この規範に沿って検討する。 (2)特許請求の範囲に記載された事項 本件特許の請求項1には、「前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する張出部と、を備え」、「前記保持部が・・・前記張出部を保持した状態」、「前記保持部が前記弁本体の前記張出部を保持した状態」との発明特定事項が記載されている。 上記発明特定事項から、「張出部」とは、弁装置の「弁蓋よりも上方に形成され」ているとともに「内部に弁体用の収容部を有」するものであって、「保持部」が保持する機能を備えるものと解される。 (3)判断 上記(2)の事項について検討するに、まず、請求項1においては、張出部と、弁本体及び弁本体挿入装置の構成部材との構造的関係について、「前記弁蓋よりも上方に形成され」及び「保持部が・・・張出部を保持」と機能的かつ抽象的に特定されているにすぎず、張出しの起点となる「本体」が特定されていないため、「張出部」の具体的態様(「弁体用の収容部」及び「保持部」が保持する箇所との構造的関係も含む。)を把握することは、困難である。 このように、請求項1の記載では、「張出部」と「弁本体」及び「保持部」との構造的関係が不明確であるから、「張出部」及び「張出部を保持」する「保持部」が明確に特定されているとはいえない。 一方、本件明細書等には、「張出部」について、請求項1と同じ記載が「課題を解決するための手段」として形式的に記載(段落【0006】)されているにすぎない。 この点、「弁蓋よりも上方に形成」については、本件明細書等の段落【0013】に、「弁本体5は、筺体4の筐体開口部41dを閉塞する弁蓋5a、弁座孔部5fを有する弁座体5b、弁座孔部5fを開閉する弁体5v、該弁体5vの上部に接続される弁操作軸5jを備える。さらに、弁装置1は、パッキン箱5hに収納され弁操作軸5jを密封するパッキン、弁体5vと弁座体5bとの間を密封するパッキン(図示せず)、及び弁座体5bと筐体4との間を密封する密封部材5eを備える。」との記載があるのみである。 そして、「保持部」による張出部の保持について、本件明細書等の【0026】に、「弁本体挿入装置80は、・・・弁本体5を保持する保持部83が・・・」(なお、下線は当審が付したものである。以下、同様。)との記載があるのみであり、当該保持部83が弁本体5のいずれの部位をどのような手段により保持しているのかは、明記されていない。 さらに、図3は「弁本体挿入装置によって弁本体を筐体内に設置した状態を示す一部正面断面図」であるところ、図3を参酌しても、保持部83が、弁本体5のいずれの部位をどのような手段により保持しているのか不明である。 してみると、本件明細書等の記載を考慮しても、弁装置の「弁蓋よりも上方に形成され」ているとともに「内部に弁体用の収容部を有」するものであって、「保持部」が保持する機能を備える「張出部」が、弁本体5のいずれの部位から「張り出した箇所」を意味し、当該「張り出した箇所」を保持部83によってどのように保持しているのか、その技術的意味が不明であるといわざるを得ない。 そして、弁装置の「弁蓋よりも上方に形成され」ているとともに「内部に弁体用の収容部を有」するものであって、「保持部」が保持する機能を備える「張出部」が、弁本体5のいずれの部位から「張り出した箇所」を意味し、当該「張り出した箇所」を保持部83によってどのように保持しているのか、その技術的意味が不明であることにより、「張出部」と、「弁本体」及び「保持部」との構造的関係が不明確であるとともに、「張出部」の構造も、それと対応する「弁本体」及び「保持部」の構造も、不明確となっている。 よって、請求項1の「前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する張出部と、を備え」ること、「前記保持部が・・・前記張出部を保持した状態」、「前記保持部が前記弁本体の前記張出部を保持した状態」は、いずれも第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがある程度に不明確であるといわざるを得ないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものである。 請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~5について同様である。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件特許は、特許請求の範囲の請求項1~5の記載が不明確であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2.理由2(新規事項の追加)について (1)規範 特許請求の範囲等の補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ、上記の「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し、当該補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「当初明細書等に記載した事項の範囲内において」するものということができる。 以下、この規範に沿って判断する。 (2)本件補正 本件補正(令和5年1月17日提出の手続補正書による補正)は、請求項1を次のように補正することを含むものである。 「【請求項1】 水道管を密封状に囲む分割構造の筐体の中で、不断流状態で円筒状の回転可能なカッターで切断されることで前記筐体が上水で満たされ、該筐体内にて、円弧状に形成された前記水道管の切断面同士の離間部分に、弁本体を弁本体挿入装置によって挿入して設置する弁本体の設置方法であって、 前記弁本体は弁体と、該弁体の上部に接続され、上端の操作部を回動操作することで前記弁体を可動する弁操作軸と、弁座孔部を有する弁座体と、前記筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋と、前記弁座体と前記筐体との間を密封する密封部材と、前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する張出部と、を備え、前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて前記収容部から下方に挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となっており、前記弁本体挿入装置は、前記筐体に接続される挿入装置筐体と、前記挿入装置筐体に対し進退可能な挿入軸と、前記挿入軸の一端に設けられた保持部と、を有し、前記保持部が前記弁本体における前記弁操作軸の上端の前記操作部よりも下方で、且つ前記張出部を保持した状態で、前記弁本体を前記筐体内に挿入し、該弁本体の底部が前記筐体の鉢状の筐体底部に接するように設置して、前記保持部が前記弁本体の前記張出部を保持した状態で、前記保持部よりも下方にて前記筐体側に設けられた押えネジをねじ込み、前記弁本体の外周部を前記押えネジによって固定することを特徴とする弁本体の設置方法。」 (3)当初明細書等に記載された事項 一方、当初明細書等には、以下の事項が記載されているが、「張出部」についての記載は、存在しない。 ・「【請求項1】 水道管を密封状に囲む分割構造の筐体の中で、不断流状態で円筒状の回転可能なカッターで切断され円弧状に形成された前記水道管の切断面同士の離間部分に、弁本体を弁本体挿入装置によって挿入して設置する弁本体の設置方法であって、 前記弁本体は弁体と、該弁体の上部に接続された弁操作軸と、弁座孔部を有する弁座体と、前記水道管の切断面に向けて延設される弁座体延設部と、前記筐体の筐体開口部を閉塞する弁蓋と、前記弁座体と前記筐体との間を密封する密封部材と、を備え、前記弁体は、前記筐体内に設置された前記弁座体に向けて挿入されることで前記弁座孔部を開閉可能となっており、前記弁本体挿入装置は、前記筐体に接続される挿入装置筐体と、前記挿入装置筐体に対し進退可能な挿入軸と、前記挿入軸の一端に設けられた保持部と、を有し、前記保持部が前記弁本体における前記弁操作軸の上端よりも下方を保持した状態で、前記弁本体を前記筐体内に挿入することを特徴とする弁本体の設置方法。 【請求項2】 前記保持部は、前記弁操作軸を跨ぐように下方に延設されていることを特徴とする請求項1に記載の弁本体の設置方法。 【請求項3】 前記弁本体を前記筐体内に挿入した後、前記筐体に開閉可能に形成された作業用孔を通じて、前記挿入軸と前記保持部との取外し作業を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の弁本体の設置方法。 【請求項4】 前記取外し作業は、前記挿入軸と前記保持部とを結合する取付けボルトを取外す作業であることを特徴とする請求項3に記載の弁本体の設置方法。 【請求項5】 前記取外し作業の後、前記挿入装置筐体及び前記挿入軸を取外し、前記保持部を前記弁本体から撤去することを特徴とする請求項3または4に記載の弁本体の設置方法。」 ・「【0013】 図1ないし図5に示されるように、本発明に係る弁装置1は、既設流体管2を密封状に囲む筐体4と、筐体4内に挿入可能な挿入体としての弁本体5と、を有する。弁本体5は、筺体4の筐体開口部41dを閉塞する弁蓋5a、弁座孔部5fを有する弁座体5b、弁座孔部5fを開閉する弁体5v、該弁体5vの上部に接続される弁操作軸5jを備える。さらに、弁装置1は、パッキン箱5hに収納され弁操作軸5jを密封するパッキン、弁体5vと弁座体5bとの間を密封するパッキン(図示せず)、及び弁座体5bと筐体4との間を密封する密封部材5eを備える。そして、弁装置1は筺体4に密封状に挿入され、弁操作軸5jを回動操作し、弁体5vを可動させることによって、弁体5vは弁座体5bに設けられた弁座孔部5fを開閉して既設流体管2の流れを制御することができる。ただし、弁体5vと弁座体5bとの間の密封はパッキンに限らず、たとえば、金属同士の密封としてもよい。」 ・「【0026】 つぎに、図3に示されるように、作業弁本体60の上部に弁本体挿入装置80が密封状に取り付けられる。この弁本体挿入装置80は、挿入装置筐体86、挿入軸87、該挿入軸87の一方の端には弁本体5を保持する保持部83が取付けボルト88によって取付けられ、挿入軸87の他端には、該挿入軸87に螺入されるネジ部89、該ネジ部89を回動操作するハンドル90を備え、該ハンドル90を回動操作して挿入軸87を昇降させ、弁本体5を筐体4に対し挿入及び撤去することができる。 【0027】 ハンドル90を回動操作して挿入軸87を降下させ、固定部材7、7が設置された弁本体5を筐体4に対し挿入、設置すると、図4(a)に示されるように、固定フランジ本体50に設けられた押えネジ52をねじ込み、弁本体5の弁蓋5aの外周部に形成された弁蓋傾斜面5cを押えネジ52によって仮固定する。その後、弁本体挿入装置80内の流体を排出し、挿入装置蓋84を取外し、作業用孔85から保持部83と挿入軸87とを結合する取付けボルト88を取外し、弁本体挿入装置80を作業弁本体60から取外した後、弁本体挿入装置80の保持部83を弁本体5から撤去する(図3参照)。 【0028】 つぎに、図5に示されるように、弁本体挿入装置80が作業弁本体60から取外されると、後述する筐体上部41に形成された筐体凹部41cに平面視略矩形状の固定部材7、7を取付ける。そして、固定部材7を弁蓋5aと筐体凹部41cとに跨がるように取付けることで、固定部材7は弁蓋5aに加わる流体力を保持できるようになる。この際、作業弁筐体61の作業弁筐体内部61bは、パッキン箱5h等の存在により作業スペースが狭く、さらに、作業弁筐体61の作業弁筐体フランジ61aから固定部材までの距離も遠いため、固定部材7の挿入が困難となっている。そこで、作業治具92を弁蓋5aと固定部材7との間に挿入して、固定部材7を筐体凹部41cへ挿入することができるようになっている。なお、図5、図6に示されるように、固定部材7にはテーパ部7dが設けられており、狭い作業スペースであっても作業治具92を容易に挿入できる。さらに、固定部材7には複数の孔部7e、7eが設けられている。該孔部7e、7eに作業治具(図示せず)を挿入することにより、作業スペースが狭くても固定部材7を筐体凹部41cに挿入できるだけでなく、固定部材7を筐体凹部41cから容易に取外すことができる。」 ・「【図3】 [図:0001435148000001.jpg] 」 ・「【図4】 [図:0001435148000002.jpg] 」 ・「【図5】 [図:0001435148000003.jpg] 」 ・「【図6】 [図:0001435148000004.jpg] 」(なお、図6の丸囲みについては、当審で付した。) (4)当審の判断 ア 上記(3)の事項により導かれる技術的事項 上記(3)の事項を総合すると、次の技術的事項が導かれる。 (ア)弁本体の設置方法の発明に係る弁装置1は、既設流体管2を密封状に囲む筐体4と、筐体4内に挿入可能な弁本体5を有すること。 (イ)弁本体5は、筺体4の筐体開口部を閉塞する弁蓋5a、弁座孔部5fを有する弁座体5b、弁座孔部5fを開閉する弁体5v、及び、弁体5vの上部に接続される弁操作軸5jを備えること。 (ウ)弁装置1は、パッキン箱5hに収納され弁操作軸5jを密封するパッキン等を備えること。 (エ)弁本体5は、弁体5vを収容する部分(以下「本件収容部」という。)を有すること(図3~6から看取できる事項)。 (オ)弁体5vは、下部、及び上部の弁操作軸5jを露出する態様で、本件収容部に収容されること(同)。 (カ)上記発明に係る弁本体挿入装置80は、挿入装置筐体86と、挿入軸87と、該挿入軸87の一端に設けられた保持部83と、を有し、保持部83は、弁本体5を保持すること。 (キ)保持部83は、弁操作軸5jを跨ぐように下方に延設されており、弁操作軸5jの上端よりも下方を保持すること(請求項1~2、図3) なお、上記(ウ)のパッキン箱5hと上記(エ)の本件収容部の構造的関係は不明である(両者は、そもそも機能が異なるものであり、図5の「5h」の記載をもって、直ちに同一の部材であるとはいえない。)。 イ 本件補正について (ア)「張出部を保持した」「保持部」は記載されていないこと 上記(3)のとおり、当初明細書等には、「張出部」の記載はないから、そもそも、「張出部」及び「張出部」を保持する「保持部」の具体的態様は不明である。 この点、上記図3及び図5を参酌すると、弁本体5のうち、保持部83により保持される箇所は、弁蓋5aより上方であることが看取でき、図3に図示された弁本体5において、弁体5vがパッキン箱5h(図5を参照)とされている箇所に収容されることが看取できるとしても、当該パッキン箱5hとされている箇所のいずれの部位から「張り出した箇所」を、どのようにして保持部83が保持しているのか、その具体的な手段は記載されていない。 そして、上記(3)の図6の丸囲みで示すとおり、図5及び図6において、「弁蓋5aよりも上方に形成され」、パッキン箱5hよりも外方に張り出す箇所は、複数箇所、存在し得ると認められるから、そのうち、いずれか1箇所を「張出部」として特定し、「保持部83」が当該「張出部を保持」することまで、当初明細書等に記載されているとは認められない。 さらに、図3は「弁本体挿入装置によって弁本体を筐体内に設置した状態を示す一部正面断面図」であるところ、図3の記載は、「保持部83」が「弁本体5」を保持している様を示す断面図と解されるが、当該断面図において、「保持部83」と「弁本体5」とを固定する「ボルト・ナット・ネジまたは機械的手段など」に相当するようなものは看取できないし、保持部83にボルトやナットを配置するような箇所も見受けられない。 また、図3、図5及び図6を参酌しても、「保持部83」と「弁本体5」とを、ボルト・ナットやネジ等により固定できる構造は、いずれの箇所にも看取できないものである。 (イ)「内部に」「弁体用の収容部を有する張出部」は記載されていないこと 上記(ア)に加えて、「張出部」がその「内部に」「弁体用の収容部を有する」ことが当初明細書等に記載も示唆もされていないことは、詳述するまでもなく、明らかである。 (ウ)新たな技術的事項を導入すること 上記アによれば、保持部に関連して、当初明細書等に記載されているのは、せいぜい、弁本体(弁操作軸の上端よりも下方)を保持すること、及び、その形状が、弁操作軸を跨ぐように下方に延設していることにとどまるのに対して、本件補正は、上記(ア)のとおり、保持部の保持する箇所について、パッキン箱5hと本件収容部が同一の部材であるとの前提を置いた上で、「張出部」という新たな概念を導入して特定するものである。 かかる特定によって、操作部の操作機能や弁蓋の閉塞機能を阻害することなく、保持部が弁本体の張出部を保持して筐体内に挿入することができるとの当初明細書等に記載されていない作用機能を発揮するものと認められる。 また、本件補正は、上記(イ)のとおり、当該「張出部」について、その「内部に」「弁体用の収容部を有する」との新たな機能(「張出部」の用語から、かかる機能を直ちに認定するのは困難である。)を導入するものである。 してみると、請求項1において、弁本体について「前記弁蓋よりも上方に形成され内部に前記弁体用の収容部を有する張出部と、を備え、」と特定し、弁本体挿入装置について「前記保持部が前記弁本体における前記弁操作軸の上端の前記操作部よりも下方で、且つ前記張出部を保持した状態で、前記弁本体を前記筐体内に挿入」すること、「前記保持部が前記弁本体の前記張出部を保持した状態で、前記保持部よりも下方にて前記筐体側に設けられた押えネジをねじ込」むことを特定する本件補正は、弁本体5及び弁本体挿入装置80について、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるといわざるを得ない。 (5)小括 以上のとおりであるから、本件特許は、令和5年1月17日にした手続補正が、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件の請求項1~5に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたものであるから、特許法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701200

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