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特許異議申立

2021-701110

撥水剤組成物、撥水性繊維製品及び撥水性繊維製品の製造方法

審判番号
2021-701110
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-013521
登録番号
6883434
請求日
2021年11月29日
審決日
2023年01月31日
公報発行日
2023年05月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日華化学株式会社
  • 【権利者代理人】長谷川 芳樹
  • 【権利者代理人】清水 義憲
  • 【権利者代理人】酒巻 順一郎
  • 【異議申立人】竹口 美穂
  • 【異議申立人】水野 圭助
審判長/審判官
  • 審判長 井上 茂夫
  • 審判官 藤井 眞吾
  • 審判官 蔵野 雅昭
分類
P1651.113-YAA(D06M) / P1651.121-YAA(D06M) / P1651.16 -YAA(D06M) / P1651.536-YAA(D06M) / P1651.537-YAA(D06M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第6883434号発明「撥水剤組成物、撥水性繊維製品及び撥水性繊維製品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6883434号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。 特許第6883434号の請求項1~8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6883434号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年1月27日の出願であって、令和3年5月12日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月9日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての手続の経緯の概略は、次のとおりである。 令和3年11月29日 :特許異議申立人竹口美穂(以下「申立人1」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て 令和3年12月 8日 :特許異議申立人水野圭助(以下「申立人2」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て 令和4年 3月15日付け:取消理由通知書 令和4年 5月13日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求 令和4年 6月27日 :申立人2による意見書の提出 令和4年 8月23日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和4年10月27日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正そのものを「本件訂正」という。) なお、当審から令和4年11月8日付けで申立人1、2に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からは何らの応答もなかった。 また、令和4年5月13日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 本件訂正前の請求項1に記載された「を含む、繊維製品用撥水剤組成物。」を、 「を含み、 前記非フッ素系ポリマー(α)が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(β)が、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(β)における前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である、繊維製品用撥水剤組成物。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~8も同様に訂正する。)。 2 一群の請求項 本件訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~8〕について請求されたものである。 3 本件訂正の適否 本件訂正は、本件訂正前の請求項1の「非フッ素系ポリマー(α)」、「非フッ素系ポリマー(β)」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 本件訂正のうち「非フッ素系ポリマー(α)」についての限定は、本件特許の明細書【0028】、【0029】、【0031】~【0034】、【0181】、【0182】、【0184】、【0194】、【0200】~【0204】の記載に基づくものであり、本件訂正のうち「非フッ素系ポリマー(β)」についての限定は、本件特許の明細書【0052】、【0053】の記載に基づくものであるから、本件訂正は、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。 また、本件訂正は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~8の記載は次のとおりのものである。 「【請求項1】 塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)と、 下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(β)、及び/又は、シリコーン樹脂(γ)と、 を含み、 前記非フッ素系ポリマー(α)が、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(β)が、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(β)における前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である、繊維製品用撥水剤組成物。 【化1】 [図:0001397164000001.jpg] [式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12~30の1価の炭化水素基を表す。] 【請求項2】 前記非フッ素系ポリマー(α)が、(B1)HLBが7~18である下記一般式(I-1)で表される化合物、(B2)HLBが7~18である下記一般式(II-1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7~18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物からなる群より選択される少なくとも1種の反応性乳化剤(B)に由来する構成単位を更に含有する、請求項1に記載の繊維製品用撥水剤組成物。 【化2】 [図:0001397164000002.jpg] [式(I-1)中、R3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y1は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。] 【化3】 [図:0001397164000003.jpg] [式(II-1)中、R4は重合性不飽和基を有する炭素数13~17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y2は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。] 【請求項3】 前記撥水剤組成物が前記非フッ素系ポリマー(β)を含み、 前記非フッ素系ポリマー(β)が、(B1)HLBが7~18である下記一般式(I-1)で表される化合物、(B2)HLBが7~18である下記一般式(II-1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7~18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物からなる群より選択される少なくとも1種の反応性乳化剤(B)に由来する構成単位を更に含有する、請求項1又は2に記載の繊維製品用撥水剤組成物。 【化4】 [図:0001397164000004.jpg] [式(I-1)中、R3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1~6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y1は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。] 【化5】 [図:0001397164000005.jpg] [式(II-1)中、R4は重合性不飽和基を有する炭素数13~17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y2は炭素数2~4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。] 【請求項4】 前記非フッ素系ポリマー(α)が、前記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(α)における前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)がアクリル酸エステル単量体(a1)とメタクリル酸エステル単量体(a2)とを含み、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に含まれる前記アクリル酸エステル単量体(a1)の質量と前記メタクリル酸エステル単量体(a2)の質量との比(a1)/(a2)が30/70~90/10である、請求項1~3のいずれか一項に記載の繊維製品用撥水剤組成物。 【請求項5】 前記撥水剤組成物が前記非フッ素系ポリマー(β)を含み、 前記非フッ素系ポリマー(β)における前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)がアクリル酸エステル単量体(a1)とメタクリル酸エステル単量体(a2)とを含み、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に含まれる前記アクリル酸エステル単量体(a1)の質量と前記メタクリル酸エステル単量体(a2)の質量との比(a1)/(a2)が30/70~90/10である、請求項1~4のいずれか一項に記載の繊維製品用撥水剤組成物。 【請求項6】 前記撥水剤組成物が前記シリコーン樹脂(γ)を含み、 前記シリコーン樹脂(γ)が、アミノ変性シリコーン、シリコーンレジン、ジメチルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、及びアルキル変性シリコーンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の繊維製品用撥水剤組成物。 【請求項7】 請求項1~6のいずれか一項に記載の撥水剤組成物における、前記非フッ素系ポリマー(α)と、前記非フッ素系ポリマー(β)及び/又は前記シリコーン樹脂(γ)とが付着した繊維製品からなる、撥水性繊維製品。 【請求項8】 繊維製品を、請求項1~6のいずれか一項に記載の撥水剤組成物が含まれる処理液で処理する工程、を備える、撥水性繊維製品の製造方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 当審が令和4年8月23日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 取消理由(拡大先願) 本件特許の請求項1、7、8に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開がされた先願1又は先願2の願書に最初に添付された明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 先願1:特願2016-52763号(特開2017-165872号(申立人1が提出した甲第1号証、申立人2が提出した甲第3号証)) 先願2:特願2016-52767号(特開2017-165873号(申立人1が提出した甲第2号証、申立人2が提出した甲第4号証)) 2 証拠の記載 (1)先願1の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された事項及び発明 先願1の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下「先願1明細書等」には次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、共重合体および表面処理剤に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、フッ素化合物を含んでなる含フッ素撥水撥油剤が知られている。この撥水撥油剤は、繊維製品などの基材に処理すると、良好な撥水撥油性を示す。 最近の研究結果[EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOPMENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUOROOCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf) ]などから、長鎖フルオロアルキル化合物の一種であるPFOA(perfluorooctanoic acid)に対する環境への負荷の懸念が明らかとなってきており、2003年4月14日にEPA(米国環境保護庁)がPFOAに対する科学的調査を強化すると発表した。 一方、Federal Register(FR Vol.68, No.73/April 16, 2003[FRL-2303-8], http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafr.pdf)やEPA Environmental News FOR RELEASE: MONDAY APRIL 14, 2003 EPA INTENSIFIES SCIENTIFIC INVESTIGATION OF A CHEMICAL PROCESSING AID(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoaprs.pdf)やEPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf)は、テロマーが分解または代謝によりPFOAを生成する可能性があると公表している(テロマーとは長鎖フルオロアルキル基のことを意味する)。また、テロマーが、撥水撥油性、防汚性を付与された泡消火剤、ケア製品、洗浄製品、カーペット、テキスタイル、紙、皮革などの多くの製品に使用されていることをも公表している。含フッ素化合物が環境に蓄積することが懸念されている。 また、含フッ素撥水撥油剤は、撥水撥油性を発現させるために、繊維製品などの基材に付着させた後に高温(例えば、100℃以上)で熱処理を施さなければならない。高温での熱処理には高いエネルギーを必要とする。」 「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、 共重合体は第1単量体から形成されている第1重合体と、第2単量体から形成されている第2重合体を含んでなる共重合体であって、 共重合体がフッ素原子を含まず、 第1重合体の存在下で、第2単量体が重合されており、 第1単量体が、(a)式: CH2=CA11-C(=O)-O-A12 [式中、A11は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、 A12は、炭素数18~30の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基である。] で示される長鎖アクリレートエステル単量体を含み、 第1単量体および第2単量体の両方は、(b)ハロゲン化オレフィン単量体を含む共重合体を提供する。 加えて、本発明は、 共重合体は第1単量体から形成されている第1重合体と、第2単量体から形成されている第2重合体を含んでなる共重合体であって、 共重合体がフッ素原子を含まず、 第2重合体が第1重合体の存在下の重合物であり、 第1単量体が、(a)式: CH2=CA11-C(=O)-O-A12 [式中、A11は、水素原子、一価の有機基またはハロゲン原子であり、 A12は、炭素数18~30の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基である。] で示される長鎖アクリレートエステル単量体を含み、 第1単量体および第2単量体の両方は、(b)ハロゲン化オレフィン単量体を含む共重合体を提供する。 さらに、本発明は、前記共重合体の製法または前記共重合体を含んでなる表面処理剤の製法であって、 製法は、 (I)第1単量体を重合して第1重合体を得る工程、および (II)第1重合体の存在下で、第2単量体を重合することによって、第2重合体を得る工程 を有してなる製法を提供する。表面処理剤の製法において、工程(II)において(好ましくは、工程(I)および工程(II)の両方において)、第1重合体、界面活性剤および液状媒体の存在下で、第2単量体を重合することによって、第2重合体を得ることが好ましい。」 「【0097】 製造例1 500mLオートクレーブにステアリルアクリレート=80g、純水=180g、トリプロピレングリコール=30g、ソルビタンモノオレエート=3g、sec-C12-14H25-29(C2H4O)20H=4g、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド=3gを入れ、攪拌下に60℃で15分間、超音波で乳化分散させた。乳化後にラウリルメルカプタン=0.5gを入れ、オートクレーブ内を窒素置換後、塩化ビニル=5gを圧入充填した。2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩=1gを添加し、60℃で1時間反応させた後(重合反応:ステアリルアクリレート98%終了)、塩化ビニル=15gをオートクレーブの内圧が0.3MPaを保つよう継続的に圧入しながら、さらに2時間反応させて重合体の水性分散液を得た。更に純水で固形分濃度を30%に調整した。」 「【0116】 実施例1 製造例1において製造した重合性分散液の物性を測定した。また、固形分濃度が1重量%になるよう水道水により希釈した試験溶液を調製し、ポリエステルおよびナイロン布をこの試験溶液に浸してからマングルに通し、160℃で2分間、熱処理した試験布で撥水性を評価した。洗濯耐久性は、JIS-L-0217-103法に準じて、40℃の洗濯液で10回洗濯後、タンブラー乾燥を行い、その後の撥水性を評価した。(HL10)」 「【0122】 【表4】 [図:0001397164000006.jpg] 」 先願1明細書等には、特に、実施例1に着目すると、次の「先願発明1」が記載されている。 「ステアリルアクリレート80g及び塩化ビニル5gを単量体とし、ステアリルアクリレートの98%が重合するまで重合反応させた第一重合体と、 その後、塩化ビニル15gを圧入して反応させた第二重合体と、 を含む、繊維製品に撥水撥油性を与える共重合体。」 (2)先願2の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された事項及び発明 先願2の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下「先願2明細書等」には次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、表面処理剤、特に撥水撥油剤または防汚剤に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、フッ素化合物を含んでなる含フッ素撥水撥油剤が知られている。この撥水撥油剤は、繊維製品などの基材に処理すると、良好な撥水撥油性を示す。 最近の研究結果[EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOPMENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUOROOCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf) ]などから、長鎖フルオロアルキル化合物の一種であるPFOA(perfluorooctanoic acid)に対する環境への負荷の懸念が明らかとなってきており、2003年4月14日にEPA(米国環境保護庁)がPFOAに対する科学的調査を強化すると発表した。 一方、Federal Register(FR Vol.68, No.73/April 16, 2003[FRL-2303-8], http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafr.pdf)やEPA Environmental News FOR RELEASE: MONDAY APRIL 14, 2003 EPA INTENSIFIES SCIENTIFIC INVESTIGATION OF A CHEMICAL PROCESSING AID(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoaprs.pdf)やEPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf)は、テロマーが分解または代謝によりPFOAを生成する可能性があると公表している(テロマーとは長鎖フルオロアルキル基のことを意味する)。また、テロマーが、撥水撥油性、防汚性を付与された泡消火剤、ケア製品、洗浄製品、カーペット、テキスタイル、紙、皮革などの多くの製品に使用されていることをも公表している。含フッ素化合物が環境に蓄積することが懸念されている。 また、含フッ素撥水撥油剤は、撥水撥油性を発現させるために、繊維製品などの基材に付着させた後に高温(例えば、100℃以上)で熱処理を施さなければならない。高温での熱処理には高いエネルギーを必要とする。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明の目的は、優れた撥水撥油性を与え、含フッ素単量体、特にフルオロアルキル基含有単量体を使用しない表面処理剤を提供することにある。」 「【0095】 製造例1 500mLオートクレーブにステアリルアクリレート=80g、純水=180g、トリプロピレングリコール=30g、ソルビタンモノオレエート=3g、sec-C12-14H25-29(C2H4O)20H=4g、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド=3gを入れ、攪拌下に60℃で15分間、超音波で乳化分散させた。乳化後にラウリルメルカプタン=0.5gを入れ、オートクレーブ内を窒素置換後、2,2-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩=1gを添加し、60℃で1時間反応させた後(重合反応:ステアリルアクリレート99%終了)、塩化ビニル=20gを圧入充填し、さらに2時間反応させて重合体の水性分散液を得た。更に純水で固形分濃度を30%に調整した。」 「【0111】 実施例1 製造例1において製造した重合性分散液の物性を測定した。また、固形分濃度が1重量%になるよう水道水により希釈した試験溶液を調製し、ポリエステルおよびナイロン布をこの試験溶液に浸してからマングルに通し、160℃で2分間、熱処理した試験布で撥水性を評価した。洗濯耐久性は、JIS-L-0217-103法に準じて、40℃の洗濯液で10回洗濯後、タンブラー乾燥を行い、その後の撥水性を評価した。(HL10)」 「【0117】 【表4】 [図:0001397164000007.jpg] 」 先願2明細書等には、特に、実施例1に着目すると、次の「先願発明2」が記載されている。 「ステアリルアクリレート80gを単量体とし、ステアリルアクリレートの99%が重合するまで重合反応させた第一重合体と、 その後、塩化ビニル20gを圧入して反応させた第二重合体と、 を含む、繊維製品に撥水撥油性を与える共重合体。」 3 先願1に基づく理由 (1)本件発明1について ア 対比 (ア)先願発明1の「単量体」の「ステアリルアクリレート」は、本件発明1の「下記一般式(A-1)」 「 [図:0001397164000008.jpg] [式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12~30の1価の炭化水素基を表す。]」 「で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)」に相当する。 (イ)先願発明1の「ステアリルアクリレート80g及び塩化ビニル5gを単量体とし、ステアリルアクリレートの98%が重合するまで重合反応させた第一重合体」と、 本件発明1の「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上であ」り、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し」、「前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である」「非フッ素系ポリマー(β)」、「及び/又は、シリコーン樹脂(γ)」とは、 「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上であ」り、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有」する「非フッ素系ポリマー(β)」を含み得るという限りで一致する。 (ウ)先願発明1の「第二重合体」は、「ステアリルアクリレート80g」の「98%が重合するまで重合反応させた」後、「塩化ビニル15gを圧入して反応させた」もの、すなわち、未反応のステアリルアクリレート約1.6g(=80g×2%)と塩化ビニル約15gとを単量体として重合させたものであるから、本件発明1の「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)」、「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有する」「前記非フッ素系ポリマー(α)」に相当する。 (エ)先願発明1の「繊維製品に撥水撥油性を与える共重合体」は、本件発明1の「繊維製品用撥水剤組成物」に相当する。 (オ)そうすると、本件発明1と先願発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点1] 「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)を含み、前記非フッ素系ポリマー(α)が、下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有し、 下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(β)を含み得るものであって、 前記非フッ素系ポリマー(β)が、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有する、繊維製品用撥水剤組成物。」 [相違点1] 「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上であ」り、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有」する「非フッ素系ポリマー(β)」を含み得ることに関して、 本件発明1は、「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上であ」り、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し」、「前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である」「非フッ素系ポリマー(β)」、「及び/又は、シリコーン樹脂(γ)」であるのに対して、 先願発明1は、「ステアリルアクリレート80g及び塩化ビニル5gを単量体とし、ステアリルアクリレートの98%が重合するまで重合反応させた第一重合体」である点。 イ 判断 先願発明1における「第一重合体」は、「ステアリルアクリレート80g及び塩化ビニル5gを単量体とし、ステアリルアクリレートの98%が重合するまで重合反応させた」ものであるから、第一重合体において、ステアリルアクリレートの反応した量は78.4g(=80g×0.98)、塩化ビニルの反応した量は5gであり、ステアリルアクリレート成分と塩化ビニル成分の質量との比は約94/6(=78.4/5)と計算される。 そうすると、先願発明1のステアリルアクリレート成分と塩化ビニル成分の質量との比は、「配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である」「非フッ素系ポリマー(β)」、「及び/又は、シリコーン樹脂(γ)」に該当しないから、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は先願発明1と同一ではない。 (2)本件発明7、8について 本件発明7、8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、先願1明細書等に記載された発明と同一ではない。 4 先願2に基づく理由 (1)本件発明1について ア 対比 (ア)先願発明2の「単量体」の「ステアリルアクリレート」は、本件発明1の「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)」に相当する。 (イ)先願発明2の「ステアリルアクリレート80gを単量体とし、ステアリルアクリレートの99%が重合するまで重合反応させた第一重合体」と、 本件発明1の「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上であ」り、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し」、「前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である」「非フッ素系ポリマー(β)」、「及び/又は、シリコーン樹脂(γ)」とは、 「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上であ」る「非フッ素系ポリマー(β)」を含み得るという限りで一致する。 (ウ)先願発明2の「第二重合体」は、「ステアリルアクリレート80g」の「99%が重合するまで重合反応させた」後、「塩化ビニル20gを圧入して反応させた」もの、すなわち、未反応のステアリルアクリレート約0.8g(=80g×1%)と塩化ビニル約20gとを単量体として重合させたものであるから、本件発明1の「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)」、「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有する」「前記非フッ素系ポリマー(α)」に相当する。 (エ)先願発明2の「繊維製品に撥水撥油性を与える共重合体」は、本件発明1の「繊維製品用撥水剤組成物」に相当する。 (オ)そうすると、本件発明1と先願発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点2] 「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)を含み、前記非フッ素系ポリマー(α)が、下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有し、 下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(β)を含み得る、 繊維製品用撥水剤組成物。」 [相違点2] 「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上であ」る「非フッ素系ポリマー(β)」を含み得ることに関して、 本件発明1は、「下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上であ」り、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し」、「前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である」「非フッ素系ポリマー(β)」、「及び/又は、シリコーン樹脂(γ)」であるのに対して、 先願発明2は、「ステアリルアクリレート80gを単量体とし、ステアリルアクリレートの99%が重合するまで重合反応させた第一重合体」である点。 イ 判断 先願発明2における「第一重合体」は、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位」を含有しておらず、シリコーン樹脂(γ)でもない。 そうすると、相違点2は実質的な相違点であり、本件発明1は先願発明2と同一ではない。 (2)本件発明7、8について 本件発明7、8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、先願2明細書等に記載された発明と同一ではない。 第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について 1 採用しなかった理由 (1)申立人1 申立人1は、甲第3号証~甲第12号証(以下「申立1甲3」等という。)を提出して、次の新規性・進歩性に係るア~ウの理由、記載不備に係るエの理由を申し立てている。 申立1甲3:特開2013-67787号公報 申立1甲4:特表2009-500494号公報 申立1甲5:国際公開第2014/021277号 申立1甲6:特許第5387566号公報 申立1甲7:国際公開第2016/000830号 申立1甲8:特開2004-210962号公報 申立1甲9:国際公開第2015/083627号 申立1甲10:特開2015-165056号公報 申立1甲11:国際公開第2017/014131号 申立1甲12:欧州特許第2,152,957号明細書 ア 申立1甲3に基づく新規性 本件特許の請求項1、6~8に係る発明は、申立1甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。 イ 申立1甲4と申立1甲5に基づく進歩性 本件特許の請求項1、7、8に係る発明は、申立1甲4に記載された発明、及び申立1甲4、申立1甲5に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 ウ 申立1甲6と申立1甲7~12に基づく進歩性 本件特許の請求項1~8に係る発明は、申立1甲6に記載された発明、及び申立1甲7~12に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 エ 記載不備(サポート要件、実施可能要件) 次の点で、出願時の技術常識に照らしても、請求項1~8に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないため、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (ア)請求項1における撥水性組成物の固形分に占める非フッ素系ポリマー(α)の割合がいかなる場合であっても、又は非フッ素系ポリマー(β)の構成がいかなる場合であっても、発明の課題が解決すると理解することはできない。 また、この裏返しとして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (イ)請求項2、3に記載する反応性乳化剤を用いた場合に、あらゆる繊維製品が、実施例で開示されている洗濯耐久撥水性を示すのか不明である。 また、この裏返しとして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項2、3に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (ウ)請求項4で規定する(a1)/(a2)が50/50を除く範囲の発明については、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。 また、この裏返しとして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項4に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない (2)申立人2 申立人2は、甲第1号証、甲第2号証(以下「申立2甲1」等という。)を提出して、次の新規性・進歩性に係るオの理由、記載不備に係るカ~クの理由を申し立てている。 申立2甲1:特開2013-67787号公報 申立2甲2:国際公開第2017/014131号 オ 申立2甲1に基づく新規性・進歩性 本件特許の請求項1~8に係る発明は、申立2甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。 本件特許の請求項1~8に係る発明は、申立2甲1に記載された発明及び申立2甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 カ 記載不備(サポート要件) 次の点で、出願時の技術常識に照らしても、請求項1~8に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (ア)請求項1の「シリコーン樹脂(γ)」について、全てのシリーン樹脂について発明の効果が奏されることはない。 (イ)請求項1の「非フッ素ポリマー(α)」、「非フッ素系ポリマー(β)」について、主たる単量体(50質量%以上の単量体)が記載されているが、他の単量体の種類に関係なく、発明の効果が奏されることはない。 (ウ)請求項1において、非フッ素系ポリマー(α)と非フッ素系ポリマー(β)及び/又はシリコーン樹脂(γ)との量比が記載されておらず、例えば、非フッ素系ポリマー(α)が0.1質量%である場合に、発明の効果が奏されることはない。 (エ)請求項1の「非フッ素系ポリマー(β)」について、塩化ビニル又は塩化ビニリデンが必須となっていない。 キ 記載不備(実施可能要件) 次の点で、発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないため、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (ア)請求項1において(メタ)アクリル酸エステル単量体の量が100質量%である場合に、発明の効果が奏されるかどうか不明である。 (イ)請求項2、3に記載された反応性乳化剤について、反応性乳化剤を使用した実施例が存在しない。 ク 記載不備(明確性) 請求項1に係る発明において、単量体(VC)50質量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)50質量%からなるポリマーは、非フッ素系ポリマー(α)及び非フッ素系ポリマー(β)の両方に相当するから、請求項1~8に係る発明が明確でないため、本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2 上記1(1)ア、1(2)オの申立理由について (1)引用文献の記載及び引用発明 ア 申立1甲3、申立2甲1(以下「引用文献1」という。) 引用文献1(【0001】、【0007】、【0049】、【0053】、【0058】、【0064】、【0074】~【0076】)には、特に、実施例21に着目すると、次の「引用発明1」が記載されている。 「EM-1を5質量部とビニブラン603EMを100質量部とを含む、繊維基材に撥水性を付与するエマルジョン組成物であって、 EM-1は、平均組成が[(CH3)2SiO2/2]/[(C6H5)SiO3/2]=100/0.1(モル比)で表される末端が水酸基封鎖されたオルガノポリシロキサンを含むエマルジョン組成物[A-1]が配合されたシリコーンエマルジョン組成物であり、 ビニブラン603EMは、日信化学工業社製 塩化ビニル系樹脂エマルジョン(樹脂成分50%)である、 エマルジョン組成物。」 イ 日信化学工業株式会社,「VINYBLAN○R(当審注:丸内にR) 塩化ビニルエマルジョン」のパンフレット,2013年(平成25年)1月25日,1~10ページ(以下「引用文献2」という。) 引用文献2には、次の記載がある。 「ビニブランは、塩化ビニルを主成分とするため、優れた難燃性を有し、難燃バインダーとして各種繊維・不織布の難燃硬仕上げに使用されています。」(4ページ「繊維加工用」欄の1~2行) (2)本件発明1について ア 対比 (ア)引用発明1の「EM-1」に含まれる「平均組成が[(CH3)2SiO2/2]/[(C6H5)SiO3/2]=100/0.1(モル比)で表される末端が水酸基封鎖されたオルガノポリシロキサン」は、本件発明1の「シリコーン樹脂(γ)」に相当する。 (イ)引用文献2より、日信化学株式会社製の「ビニブラン」は、「塩化ビニルを主成分とする」「塩化ビニルエマルジョン」であるから、「ビニブラン」に含まれる「塩化ビニル樹脂」の塩化ビニルの含有割合は、過半の50質量%以上と理解される。 引用発明1の「ビニブラン603EM」に含まれる「塩化ビニル系樹脂」と、 本件発明1の「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上であ」り、「一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有」する「非フッ素系ポリマー(α)」とは、 「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)」の限りで一致する。 (ウ)そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点3] 「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)と、 シリコーン樹脂(γ)と、 を含む、 繊維製品用撥水剤組成物。 [相違点3] 「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)」に関して、 本件発明1は、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上であ」り、「一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有」する「非フッ素系ポリマー(α)」であるのに対して、 引用発明1の「ビニブラン603EM」に含まれる「塩化ビニル系樹脂」である点。 イ 新規性についての判断 相違点3について検討する。 引用文献1、2や、申立人1、2が提出した他の証拠には、「ビニブラン603EM」に含まれる「塩化ビニル系樹脂」が「一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位」を含有することを示す記載はない。 したがって、相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明1は引用発明1でない。 ウ 進歩性についての判断 引用発明1における「ビニブラン603EM」に含まれる「塩化ビニル系樹脂」を、「一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位」を含有するものに換える動機付けはなく、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、本件発明1は、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(3)で検討したのと同じ理由により、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 上記1(1)イの申立理由について (1)引用発明 申立1甲4(以下「引用文献3」という。)には、特に、【請求項1】、【請求項2】、【請求項4】、【請求項10】、【請求項12】、及び【0006】の記載に着目すると、次の「引用発明3」が記載されている。 「次の重量百分率で共重合されたモノマー: (a)約5%~約90%の式Iのモノマー: R1-OC(O)-C(R)=CH2 (I) (b)約5%~約85%の塩化ビニリデン、塩化ビニル、またはそれらの混合物、 (c)約0.5%~約3%の式IIのモノマー: HO-CH2-NH-C(O)-C(R)=CH2 (II) (d)約0.5%~約3%の式IIIのモノマー: HO-CH2CH2-OC(O)-C(R)=CH2 (III) (e)約1%~約5%の式IVのモノマー: H-(OCH2CH2)m-O-C(O)-C(R)=CH2 (IV)、および (f)0%~約25%のメチルメタクリレート、ビニルベンジルクロリド、スチレンまたはそれらの混合物 (式中、 各Rは独立してHまたはCH3であり、 R1は約4~約18個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状または環式アルキル鎖であり、そして mは2~約10である) を含み、 モノマー(a)がステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物であり、 繊維の基材に接触され、撥性の表面効果を提供する増量剤ポリマー組成物。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点4] 「ポリマーを含む、繊維製品用撥水剤組成物。」 [相違点4] 組成物に含まれている「ポリマー」に関して、 本件発明1は、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)と、 下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(β)、及び/又は、シリコーン樹脂(γ)と、 を含み、 前記非フッ素系ポリマー(α)が、下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(β)が、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(β)における前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である」のに対して、 引用発明3は、「次の重量百分率で共重合されたモノマー: (a)約5%~約90%の式Iのモノマー: R1-OC(O)-C(R)=CH2 (I) (b)約5%~約85%の塩化ビニリデン、塩化ビニル、またはそれらの混合物、 (c)約0.5%~約3%の式IIのモノマー: HO-CH2-NH-C(O)-C(R)=CH2 (II) (d)約0.5%~約3%の式IIIのモノマー: HO-CH2CH2-OC(O)-C(R)=CH2 (III) (e)約1%~約5%の式IVのモノマー: H-(OCH2CH2)m-O-C(O)-C(R)=CH2 (IV)、および (f)0%~約25%のメチルメタクリレート、ビニルベンジルクロリド、スチレンまたはそれらの混合物 (式中、 各Rは独立してHまたはCH3であり、 R1は約4~約18個の炭素原子を有する直鎖状または分枝状または環式アルキル鎖であり、そして mは2~約10である) を含み、 モノマー(a)がステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、またはそれらの混合物」である点。 イ 判断 引用発明3の「共重合されたモノマー」には、ステアリルメタクリレート50%、塩化ビニリデン10%を共重合させたもの(実施例3。配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)は「83/17」(≒50/10))が記載されており、当該実施例3の「共重合させたもの」は、本件発明1の「非フッ素系ポリマー(β)」に該当する。 しかしながら、引用文献3や申立人1、2が提出した他の証拠には、フッ素を含まなくても、撥水性に優れた撥水性繊維製品を得ることができ、得られる製品はコーティングに対する十分な剥離強度を有することもできる撥水剤組成物を提供すること、また、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項のうち「非フッ素系ポリマー(α)」を併用する構成とすることで、「剥離強度がより優れるもの」とすることについて、記載も示唆もされておらず、引用発明3においてそのような構成とすることに動機付けがあるとはいえず、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、本件発明1は、引用発明3に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(3)で検討したのと同じ理由により、引用文献3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4 上記1(1)ウの申立理由について (1)引用発明 申立1甲6(以下「引用文献4」という。)には、特に【請求項1】、【請求項5】、【請求項11】、【0001】、【0002】の記載に着目すると、次の「引用発明4」が記載されている。 「下記単量体(a)に基づく構成単位と下記単量体(b)に基づく構成単位とを有し、 前記単量体(a)に基づく構成単位の割合が、全構成単位(100質量%)のうち、5~95質量%であり、 前記単量体(b)に基づく構成単位の割合が、全構成単位(100質量%)のうち、5~60質量%であり、 前記単量体(a)に基づく構成単位と前記単量体(b)に基づく構成単位の含有割合の合計が、全構成単位(100質量%)の65質量%以上である、共重合体と、 媒体とを含む、繊維製品の処理に用いられる撥水剤組成物。 単量体(a):ポリフルオロアルキル基を有さず、炭素数が20~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレート。 単量体(b):塩化ビニル、塩化ビニリデンから選ばれる少なくとも一種の単量体。」 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明4との一致点及び相違点は、次のとおりである。 [一致点5] 「ポリマーを含む、繊維製品用撥水剤組成物。」 [相違点5] 「ポリマー」に関して、 本件発明1は、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)と、 下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(β)、及び/又は、シリコーン樹脂(γ)と、 を含み、 前記非フッ素系ポリマー(α)が、下記一般式(A-1)(当審注:化学式の記載を省略)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)又はイソボルニル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(β)が、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し、 前記非フッ素系ポリマー(β)における前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である」のに対して、 引用発明4は、「下記単量体(a)に基づく構成単位と下記単量体(b)に基づく構成単位とを有し、 前記単量体(a)に基づく構成単位の割合が、全構成単位(100質量%)のうち、5~95質量%であり、 前記単量体(b)に基づく構成単位の割合が、全構成単位(100質量%)のうち、5~60質量%であり、 前記単量体(a)に基づく構成単位と前記単量体(b)に基づく構成単位の含有割合の合計が、全構成単位(100質量%)の65質量%以上である、共重合体」「単量体(a):ポリフルオロアルキル基を有さず、炭素数が20~30のアルキル基を有する(メタ)アクリレート。 単量体(b):塩化ビニル、塩化ビニリデンから選ばれる少なくとも一種の単量体」である点。 イ 判断 引用発明4の「共重合体」の原料であるモノマーには、本件発明1の「非フッ素系ポリマー(α)」や「非フッ素系ポリマー(β)」の原料であるモノマーに該当するものが包含されているものの、引用文献4には、「共重合体」が、「アルキル基の水素原子の一部またはすべてがフッ素原子に置換された基」(引用文献4の【0015】)を有する「単量体(c)に基づく重合単位を有さない」(引用文献4の【0019】)ものとすることが記載され、単量体(c)に基づく重合単位を有さない「共重合体」の実施例として例1、4、17(【0158】~【0162】)が記載されている。また、引用文献4に記載された例1、4、17は、単量体(a)がベヘニルアクリレート(本件発明1の(A-1)式のR2が8のもの)であり、本件発明1の「非フッ素系ポリマー(α)」、「非フッ素系ポリマー(β)」のいずれにも該当しない。 また、引用文献4や申立人1、2が提出した他の証拠には、フッ素を含まなくても、撥水性に優れた撥水性繊維製品を得ることができ、得られる製品はコーティングに対する十分な剥離強度を有することもできる撥水剤組成物を提供すること、また、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項のうち「非フッ素系ポリマー(α)」と「非フッ素系ポリマー(β)、及び/又は、シリコーン樹脂(γ)」とを併用する構成とすることで、「剥離強度がより優れるもの」とすることについて、記載も示唆もされておらず、引用発明4においてそのような構成とすることに動機付けがあるとはいえず、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、本件発明1は、引用発明4に基いて、当業者が容易に発明することができたものではない。 (3)本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(3)で検討したのと同じ理由により、引用文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5 上記1(1)エの申立理由について (1)本件発明が解決しようとする課題 本件発明が解決しようとする課題に関して、発明の詳細な説明には次の記載がある。 「従来、フッ素基を有するフッ素系撥水剤が知られており、かかるフッ素系撥水剤を繊維製品等に処理することにより、その表面に撥水性が付与された繊維製品が知られている。このようなフッ素系撥水剤は一般にフルオロアルキル基を有する単量体(モノマー)を重合、若しくは共重合させることにより製造される。フッ素系撥水剤で処理された繊維製品は優れた撥水性を発揮するものの、フルオロアルキル基を有する単量体は環境負荷の懸念が明らかとなってきた。 そこで、近年、フッ素を含まない非フッ素系撥水剤について研究が進められている。例えば、下記特許文献1には、エステル部分の炭素数が12以上の(メタ)アクリル酸エステルを単量体単位として含む特定の非フッ素系ポリマーからなる撥水剤が開示されている。下記特許文献2にはアミノ変性シリコーンと多官能イソシアネートとを含有する柔軟撥水性剤が開示されている。 ・・・ しかし、特許文献1に記載の撥水剤や特許文献2に記載の柔軟撥水性剤においては、コーティングに対する剥離強度についての検討が十分になされておらず、撥水性と剥離強度とをより高いレベルで両立させるためには、さらなる改善の余地がある。 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、撥水性に優れた撥水性繊維製品を得ることができ、得られる製品はコーティングに対する十分な剥離強度を有することもできる撥水剤組成物、撥水性繊維製品及び撥水性繊維製品の製造方法を提供することを目的とする。」(【0002】~【0007】) 発明の詳細な説明の上記記載から、本件発明が解決しようとする課題は、フッ素を含まなくても、撥水性に優れた撥水性繊維製品を得ることができ、得られる製品はコーティングに対する十分な剥離強度を有することもできる撥水剤組成物を提供すること(以下「本件課題」という。)と認められる。 (2)本件課題を解決するための手段 本件課題を解決するための手段に関して、発明の詳細な説明には次の記載がある。 「本発明は、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(α)と、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が50質量%以上である非フッ素系ポリマー(β)、及び/又は、シリコーン樹脂(γ)と、を含む撥水剤組成物を提供する。 【化1】 [図:0001397164000009.jpg] [式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12~30の1価の炭化水素基を表す。] 本発明の撥水性組成物によれば、上記特定の非フッ素系ポリマー(α)と、上記特定の非フッ素系ポリマー(β)及び/又はシリコーン樹脂(γ)とが組み合わせて含まれることにより、撥水性に優れた撥水性繊維製品を得ることができ、得られる製品はコーティングに対する十分な剥離強度を有することもできる。」(【0008】~【0010】) 「<非フッ素系ポリマー(α)> 非フッ素系ポリマー(α)は、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)(以下、「(VC)成分」ともいう。)に由来する構成単位を含有する非フッ素系ポリマーであって、該非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量を基準として単量体(VC)の含有割合が50質量%以上である。 非フッ素系ポリマー(α)は、下記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)(以下、「(A)成分」ともいう)に由来する構成単位を、非フッ素系ポリマー(α)を構成する単量体成分の全量を基準として(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)の含有割合が0~50質量%未満となる範囲で含有することができる。 【化6】 [図:0001397164000010.jpg] [式(A-1)中、R1は水素又はメチル基を表し、R2は置換基を有していてもよい炭素数12~30の1価の炭化水素基を表す。] ここで、「(メタ)アクリル酸エステル」とは「アクリル酸エステル」又はそれに対応する「メタクリル酸エステル」を意味し、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリルアミド」等においても同義である。 本実施形態の非フッ素系ポリマー(α)にて使用される上記一般式(A-1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)は、置換基を有していてもよい炭素数が12~30の1価の炭化水素基を有する。この炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよく、更には脂環式又は芳香族の環状を有していてもよい。これらの中でも環状炭化水素基が好ましい。この場合、剥離強度がより優れるものとなる。・・・ 環状炭化水素基としては、炭素数4~20、好ましくは5~12の環状脂肪族基、炭素数6~20の芳香族基、炭素数7~20の芳香脂肪族基が挙げられる。環状炭化水素基の具体例としては、シクロヘキシル基、t-ブチルシクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、アダマンチルが挙げられる。」(【0027】~【0033】) 「<非フッ素系ポリマー(β)> ・・・ 非フッ素系ポリマー(β)は、塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を、非フッ素系ポリマー(β)を構成する単量体成分の全量を基準として単量体(VC)の含有割合が0~50質量%未満となる範囲で含有することができる。 本実施形態の非フッ素系ポリマー(β)における(A)成分に由来する構成単位と(VC)成分に由来する構成単位との含有割合は、撥水剤組成物の乳化安定性及び得られる繊維製品のコーティングに対する剥離強度の点で、配合する(A)成分の質量と(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10であることが好ましく、60/40~80/20であることがより好ましい。」(【0043】~【0053】) (3)サポート要件について 上記(2)に示した発明の詳細な説明の記載によると、本件発明は、本件課題を解決するための手段を包含するものである。また、当該手段を備える実施例がいずれもその課題を解決することができるものであることから、当該手段が、本件課題を解決するための手段に該当するものであるといえることが裏付けられている。したがって、本件発明は、本件課題を解決するものであるといえる。 よって、本件発明1~8は、発明の詳細な説明に記載したものである。 (4)実施可能要件について 本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明が解決しようとする課題(【0005】~【0007】)、当該課題を解決するための手段(【0008】~【0021】)、本件発明の効果(【0022】~【0025】)、本件発明を実施するための形態(【0026】~【0178】)、実施例(【0179】~【0206】)が記載されており、これら記載を参照することで、本件発明を実施することが可能である。 (5)申立人1の主張について 申立人1は、上記1(1)エ(ア)~(ウ)の理由を挙げ、サポート要件及び実施可能要件を満たさない旨主張する。 しかし、上記(3)のとおり、本件発明は、本件課題を解決するための手段を発明特定事項として備えており、本件課題を解決できることが当業者であれば認識することができるから、申立人1が主張する上記1(1)エ(ア)~(ウ)に係る事項を発明特定事項とすることは要しない。 また、上記(4)のとおり、発明の詳細な説明の記載を参照することで、本件発明を実施することが可能であり、上記1(1)エ(ア)~(ウ)に係る事項が記載されていないことをもって、本件発明を実施することができないとすることはできない。 よって、申立人1のサポート要件及び実施可能要件に係る主張は、いずれも採用できない。 (6)小括 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 6 上記1(2)カの申立理由について (1)判断 上記5(3)に示したとおり、本件発明は、本件課題を解決するための手段を包含するものであるから、本件発明は、本件課題を解決するものであるといえる。 (2)申立人2の主張について ア 上記1(2)カの(ア)~(ウ)について 申立人2は、上記1(2)カ(ア)~(ウ)の理由を挙げ、サポート要件を満たさない旨主張する。 しかし、上記5(3)のとおり、本件発明は、本件課題を解決するための手段を発明特定事項として備えており、本件課題を解決できることが当業者であれば認識することができるから、申立人2が主張する上記1(2)カ(ア)~(ウ)に係る事項を発明特定事項とすることは要しない。 イ 上記1(2)カの(エ)について 本件訂正により、請求項1における「非フッ素系ポリマー(β)」は、「塩化ビニル及び塩化ビニリデンのうち少なくともいずれか1種の単量体(VC)に由来する構成単位を更に含有し」と特定されたため、「単量体(VC)50質量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)50質量%からなるポリマー」は、本件発明1の「非フッ素系ポリマー(β)」は塩化ビニル又は塩化ビニリデンが必須のものとなった。 ウ よって、申立人2のサポート要件に係る主張は、いずれも採用できない。 (3)小括 よって、本件発明1~8は、発明の詳細な説明に記載したものである。 7 上記1(2)キの申立理由について (1)判断 上記5(4)に示したとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載を参照することで、本件発明を実施することが可能である。 (2)申立人2の主張について 申立人2は、上記1(2)キ(ア)、(イ)の理由を挙げ、実施可能要件を満たさない旨主張する。 しかし、上記5(4)のとおり、発明の詳細な説明の記載を参照することで、本件発明を実施することが可能であり、上記1(2)キ(ア)、(イ)に係る事項が記載されていないことをもって、本件発明を実施することができないとすることはできない。 よって、申立人2の実施可能要件に係る主張は、いずれも採用できない。 (3)小括 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 8 上記1(2)クの申立理由について 本件訂正により、請求項1における「非フッ素系ポリマー(β)」は、「前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と前記単量体(VC)に由来する構成単位との含有割合は、配合する前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)成分の質量と前記単量体(VC)成分の質量との比(A)/(VC)が、60/40~90/10である」と特定されたため、「単量体(VC)50質量%及び(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)50質量%からなるポリマー」は、本件発明1における「非フッ素系ポリマー(β)」ではないものとなった。 よって、本件発明1~8は明確である。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-701110

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