特許異議申立
2021-701093
非水電解質二次電池用の正極材料
- 審判番号
- 2021-701093
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-539938外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6874682
- 請求日
- 2021年11月19日
- 審決日
- 2022年03月24日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6874682号発明「非水電解質二次電池用の正極材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6874682号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6874682号の請求項1~8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本願」という。)は、2016年(平成28年) 9月14日(優先権主張 平成27年 9月14日、優先権主張 平成27年12月18日)を国際出願日とする出願であって、令和3年 4月26日にその特許権の設定登録がされ、同年 5月19日にその特許掲載公報が発行され、その後、令和3年11月19日付けで、請求項1~8(全請求項)に対し、特許異議申立人 小松一枝及び前田知子(以下、まとめて「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第6874682号の請求項1~8に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
正極活物質及びバインダーを含み、
前記バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、
前記共重合体は、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A-1)と、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A-2)と、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位(C)とを含んでおり、
前記構成単位(A-1)と、前記構成単位(A-2)と、前記構成単位(B)と、前記構造単位(C)の割合が、質量比で、前記構成単位(A-1)が1~45、前記構成単位(A-2)が15~98、前記構成単位(B)が0.5~15、前記構造単位(C)が0.5~25であり、
実質的に増粘剤を含まない、正極材料。
【請求項2】
前記構成単位(A)の(メタ)アクリレートモノマーが、水酸基を有する(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリレートの少なくとも一方である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記水酸基を有する(メタ)アクリレートが、分子量100~1000のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートである、請求項2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記構成単位(B)のカルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーが、(メタ)アクリル酸である、請求項1~3のいずれかに記載の正極材料。
【請求項5】
前記正極活物質が、AMO2(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AM2O4(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、A2MO3(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、またはAMBO4(Aはアルカリ金属、BはP、Si、またはその混合物、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)のいずれかの組成で示されるアルカリ金属含有複合酸化物を含んでいる、請求項1~4のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の正極材料と、正極集電体とを備える、非水電解質二次電池用の正極。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の正極材料を、正極集電体の表面に塗布する工程を備える、非水電解質二次電池用の正極の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の正極と、負極と、有機電解液とを備える、非水電解質二次電池。
第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である、下記甲第1号証、甲第2号証を提出して、以下の申立理由により、請求項1~8に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。
<申立理由(進歩性)>
本件発明1~8は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
○甲第1号証:特開2014-160638号公報
○甲第2号証:特開2012-51999号公報
(以下、甲第1号証、甲第2号証を、それぞれ「甲1」、「甲2」という。)
第4 当審の判断
1 各甲号証の記載事項等
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与したものであって、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様である。)。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1)
【化1】
[図:0001384254000001.jpg]
( 式中、R1は水素又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、R2およびR3はそれぞれ水素、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、nは2~30の整数である。)
で表わされる水酸基を有するモノマーから誘導される構成単位と、
(B)5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位と
を含む重合体を含有することを特徴する電池電極用バインダー。
【請求項2】
式(1)において、nは4~20の整数である、請求項1記載の電池電極用バインダー。
【請求項3】
多官能(メタ)アクリレートモノマー(B)が、式:
【化2】
[図:0001384254000002.jpg]
(式中、R11は、それぞれ同一または異なって、水素又はメチル基であり、
R12は、5価以下の炭素数2~100の有機基であり、
mは5以下の整数である。)
で示される化合物である請求項1または2記載の電池電極用バインダー。
【請求項4】
多官能(メタ)アクリレート(B)が3~5官能の(メタ)アクリレートである請求項1~3のいずれかに記載の電池電極用バインダー。
【請求項5】
重合体が、さらに、(メタ)アクリル酸エステルモノマーから誘導される構成単位(C)および(メタ)アクリル酸モノマーから誘導される構成単位(D)の一方又は両方を有する請求項1~4のいずれかに記載の電池電極用バインダー。
【請求項6】
(メタ)アクリル酸エステルモノマー(C)が、式:
【化3】
[図:0001384254000003.jpg]
(式中、R21は水素又はメチル基であり、
R22は、炭素数1~50の炭化水素基である。)
で示される化合物である請求項5記載の電池電極用バインダー。
【請求項7】
(メタ)アクリル酸モノマー(D)が、式:
【化4】
[図:0001384254000004.jpg]
(式中、R31は水素又はメチル基である。)
で示される化合物である請求項5記載の電池電極用バインダー。
【請求項8】
重合体において、構成単位(A)、構成単位(B)、構成単位(C)および構成単位(D)の量は、構成単位(A)100重量部に対して、
構成単位(B)0.5~60重量部、構成単位(C)0~200重量部、および構成単位(D)0~60重量部である請求項5~7のいずれかに記載の電池電極用バインダー。
【請求項9】
電池が二次電池である請求項1~8のいずれかに記載の電池用電極。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のバインダーと活物質とを含有することを特徴とする電池用電極。
【請求項11】
請求項10記載の電極を有することを特徴とする電池。」
(イ)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池の電極に用いられるバインダー、該バインダーを用いて製造される電極、および該電極を用いて製造される電池に関する。本明細書において、電池とは、電気化学キャパシタを包含しており、一次電池または二次電池である。電池の具体例は、リチウムイオン二次電池およびニッケル水素二次電池である。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、結着性が高くかつ電極環境下(特に正極環境下)で酸化劣化を起こさない、環境負荷の小さな水系バインダーおよびそれを用いた電極および電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、水酸基を有するモノマーから誘導される構成単位と多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位とを含む重合体を含有するバインダーを用いることにより、上記課題を解決することを見出し、本発明をなすに至った。・・・」
(エ)「【0046】
電池電極用スラリーの調整方法
本発明のバインダーを使用した電池電極用スラリーの調整方法としては特に限定されず、本発明のバインダー、活物質、導電助剤、水、必要に応じて増粘剤等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。」
(オ)「【0047】
電池用電極の作製方法
電池用の電極の作製方法は特に限定されず一般的な方法が用いられる。例えば、正極活物質あるいは負極活物質、導電助剤、バインダー、水、必要に応じて増粘剤などからなるペースト(塗工液)をドクターブレード法やシルクスクリーン法などにより集電体表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0048】
例えばドクターブレード法では、負極活物質粉末や正極活物質粉末、導電助剤、バインダー等を水に分散してスラリー状にし、金属電極基板に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。電極は活物質塗布後、余分な水や有機溶剤を除去するため、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後の電極はプレス装置によってプレス成型することで電極材が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤、乳化剤等を除去してもよい。
・・・
【0050】
本発明で使用される正極活物質は、LiMO2、LiM2O4、Li2MO3、LiMEO4のいずれかの組成からなるリチウム金属含有複合酸化物粉末である。ここで式中のMは主として遷移金属からなり、Co、Mn、Ni、Cr、Fe、Tiの少なくとも一種を含んでいる。Mは遷移金属からなるが、遷移金属以外にもAl、Ga、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P、Bなどが添加されていてもよい。EはP、Siの少なくとも1種を含んでいる。正極活物質の粒子径には50μm以下が好ましく、更に好ましくは20μm以下のものを用いる。これらの活物質は、3V(vs.Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0051】
正極活物質の具体例としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)、スピネル型マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどが挙げられる。」
(カ)「【実施例】
【0069】
本発明を実施するための具体的な形態を以下に実施例を挙げて説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
・・・
【0074】
バインダー組成物の合成例
・・・
【0077】
[バインダー組成物の合成例4]
攪拌機付き反応容器に、メタクリル酸メチル41重量部、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAP-400)41重量部、アクリル酸1.3重量部、メタクリル酸3.7重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)13重量部、乳化剤としてドデシル硫酸ナトリウム0.5重量部、イオン交換水500重量部および重合開始剤として過硫酸カリウム1重量部を入れ、超音波ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、24%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、重合液のpHを2.8から7.4に調整し、バインダー組成物D(重合転化率99%以上、固形分濃度17wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.092μmであった。」
(キ)【0086】
電極の作製例
[電極の実施作製例1]
正極活物質としてニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)90.6重量部に、導電助剤としてアセチレンブラック6.4重量部、バインダーの合成例1で得られたバインダー組成物Aの固形分として1重量部および増粘剤としてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2重量部を加え、さらにスラリーの固形分濃度が35重量%となるように溶媒なる水を加えて遊星型ミルを用いて十分に混合して正極用スラリーを得た。
得られた正極スラリーを厚さ20μmのアルミ集電体上に150μmギャップのブレードコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレス機にてプレスを行い、厚さ34μmの正極を作製した。屈曲性および結着性の評価結果を表1の実施例1に示す。
・・・
【0089】
[電極の実施作製例4]
バインダーの合成例4で得られたバインダー組成物Dを使用した以外は、電極の実施作製例1と同様にして正極を作製した。得られた正極の厚みは35μmであった。屈曲性および結着性の評価結果を表1の実施例4に示す。」
イ 甲1の記載事項
上記ア(ア)~(キ)の記載によれば、甲1には、以下の事項が記載されていると認められる。
(ア)甲1に記載された発明は、電池の電極に用いられるバインダー、該バインダーを用いて製造される電極、および該電極を用いて製造される電池に関するものであり、電池の具体例は、リチウムイオン二次電池およびニッケル水素二次電池である(ア(イ))。
(イ)上記発明が解決しようとする課題は、結着性が高くかつ電極環境下(特に正極環境下)で酸化劣化を起こさない、環境負荷の小さな水系バインダーおよびそれを用いた電極および電池を提供することであるところ、その解決手段は、水酸基を有するモノマーから誘導される構成単位と多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位とを含む重合体を含有するバインダーを用いることである(ア(ウ))。
(ウ)また、本発明のバインダーを使用した電池電極用スラリーの調整方法としては特に限定されず、バインダー、活物質、導電助剤、水、必要に応じて増粘剤等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい(ア(エ))。
(エ)上記電池電極用スラリーに正極活物質あるいは負極活物質を分散させ、正極あるいは負極を作製する(ア(オ))。
(オ)本発明のバインダーとして、請求項1、5~7には、下記の構成単位(A)~構成単位(D)を含む重合体を含有する電池電極用バインダーが記載されており、また、請求項8には、当該重合体において、構成単位(A)、構成単位(B)、構成単位(C)および構成単位(D)の量は、構成単位(A)100重量部に対して、構成単位(B)0.5~60重量部、構成単位(C)0~200重量部、および構成単位(D)0~60重量部とすることが記載されている(ア(ア))。
<構成単位(A)>
【化1】
[図:0001384254000005.jpg]
(式中、R1は水素又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、R2およびR3はそれぞれ水素、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、nは2~30の整数である。)で表わされる水酸基を有するモノマーから誘導される構成単位
<構成単位(B)>
5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位
<構成単位(C)>
下記の式で示される(メタ)アクリル酸エステルモノマーから誘導される構成単位
【化3】
[図:0001384254000006.jpg]
(式中、R21は水素又はメチル基であり、R22は、炭素数1~50の炭化水素基である。)
<構成単位(D)>
下記の式で示される(メタ)アクリル酸モノマーから誘導される構成単位
【化4】
[図:0001384254000007.jpg]
(式中、R31は水素又はメチル基である。)
(カ)また、バインダー組成物の具体例として、合成例4には、メタクリル酸メチル41重量部、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAP-400)41重量部、アクリル酸1.3重量部、メタクリル酸3.7重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)13重量部を重合して得られた重合体を含有するバインダー組成物Dが記載されている(ア(カ))。
(キ)さらに、電極の作製例として、作製例4には、バインダー組成物Dに正極活物質、導電助剤、水、増粘剤を混合し、正極用スラリーを調製することが記載されている(ア(キ))。
ウ 甲1に記載された発明
上記イ(イ)からすると、甲1に記載のバインダーは正極環境下で用いるとされている。
また、同(エ)及び(キ)からすると、甲1には、電池電極用スラリーに正極活物質を分散させた正極用スラリーが記載されている。
したがって、甲1に記載のバインダーとして、同(オ)のものに着目すると、甲1には、以下の「甲1発明」が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「バインダー、正極活物質、導電助剤、水、必要に応じて増粘剤等を分散させた正極用スラリーであって、
バインダーが下記構成単位(A)~構成単位(D)を重合して得られた重合体を含有し、当該重合体において、構成単位(A)、構成単位(B)、構成単位(C)および構成単位(D)の量は、構成単位(A)100重量部に対して、構成単位(B)0.5~60重量部、構成単位(C)0~200重量部、および構成単位(D)0~60重量部である正極用スラリー。
<構成単位(A)>
【化1】
[図:0001384254000008.jpg]
(式中、R1は水素又は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、R2およびR3はそれぞれ水素、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐のアルキル基、nは2~30の整数である。)で表わされる水酸基を有するモノマーから誘導される構成単位
<構成単位(B)>
5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位
<構成単位(C)>
下記の式で示される(メタ)アクリル酸エステルモノマーから誘導される構成単位
【化3】
[図:0001384254000009.jpg]
(式中、R21は水素又はメチル基であり、R22は、炭素数1~50の炭化水素基である。)
<構成単位(D)>
下記の式で示される(メタ)アクリル酸モノマーから誘導される構成単位
【化4】
[図:0001384254000010.jpg]
(式中、R31は水素又はメチル基である。)」
(2)甲2の記載事項
ア 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
「【0003】
リチウム電池の電極は以下のようにして作製される。まず、活物質、バインダ樹脂組成物及び溶媒を混練して合剤スラリーを調製する。このスラリーを転写ロール等で集電体である金属箔の片面又は両面に塗布し、溶媒を乾燥除去して合剤層を形成する。その後、合剤層をロールプレス機等で圧縮成形する工程を経て電極が作製される。なお、合剤スラリーの調製に用いられる溶媒として、N-メチル-2-ピロリドンや水が挙げられる。
【0004】
上記バインダ樹脂組成物は、活物質間及び活物質と集電体間の密着性、並びに、電気化学定安定性等の特性が求められ、さらに、リチウム電池の高容量化のためには、少ない添加量でこれらの特性を満足することが求められる。また、上記スラリーの調製に用いる溶媒としては環境負荷低減の観点から水を用いることが好ましいとされている。溶媒として水が用いられたスラリーは、バインダ樹脂組成物が水中に分散したものと、バインダ樹脂組成物が水に溶解したものとがある。
【0005】
水中にバインダ樹脂組成物が分散したスラリーは、粘性を付与することが難しいため、カルボキシメチルセルロース等の増粘剤を併用する必要がある。バインダ樹脂組成物と増粘剤との組み合わせによっては、密着性やスラリーの安定性等に不具合を生じる場合がある。一方、バインダ樹脂組成物が水に溶解したスラリーは、増粘剤を用いなくても粘調な液体とすることが可能なので、増粘剤に起因する上記のような不具合を生じることはない。しかし、水溶性のバインダ樹脂組成物であって、密着性、電気化学定安定性及び電池特性の全てをバランスよく高水準に達成できるものは未だ開発されていないのが現状である。」
イ 甲2の記載事項
上記アの記載によれば、甲2には、以下の事項が記載されていると認められる。
(ア)リチウム電池の電極は、活物質、バインダ樹脂組成物及び溶媒を混練して調製された合剤スラリーから作製される(【0003】)。
(イ)溶媒として水が用いられたスラリーは、バインダ樹脂組成物が水中に分散したものと、バインダ樹脂組成物が水に溶解したものとがある(【0004】)。
(ウ)水中にバインダ樹脂組成物が分散したスラリーは、粘性を付与することが難しいため、カルボキシメチルセルロース等の増粘剤を併用する必要がある(【0005】)。
2 申立理由(進歩性)についての判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「正極活物質」は、本件発明1の「正極活物質」に相当する。
(イ)甲1発明の「バインダー」は、「構成単位(A)~構成単位(D)を含む重合体」であるところ、その「構成単位(A)~(D)」は順に、本件発明1の構成単位(A-1)、構造単位(C)、構成単位(A-2)、構成単位(B)に相当する。
したがって、甲1発明の「バインダー」と本件発明1の「バインダー」とは、「バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、
前記共重合体は、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A-1)と、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A-2)と、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位(C)とを含んで」いる点で一致する。
(ウ)甲1発明の「正極用スラリー」は、上記1(1)イ(ウ)に示したとおり、バインダー、正極活物質、導電助剤、水、必要に応じて増粘剤等を通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させたものである。
他方、本件明細書【0057】に「本発明の正極材料を形成するための正極材料組成物(スラリー)の調製方法としては、特に限定されず、正極活物質、バインダー、さらに必要に応じて使用される導電助剤、溶剤等を、通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。」と記載されていることから、本件発明1の「正極材料」には、正極活物質、バインダー、さらに必要に応じて使用される導電助剤、溶剤等を、通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させたスラリーが含まれると解することができる。
したがって、甲1発明の「正極用スラリー」と本件発明1の「正極材料」とは、少なくともスラリーであることで共通しているといえるから、甲1発明の「正極用スラリー」は本件発明1の「正極材料」に相当する。
(エ)以上のことから、本件発明1と甲1発明とは、
「正極活物質及びバインダーを含み、
前記バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、
前記共重合体は、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A-1)と、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A-2)と、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位(C)とを含んでいる正極材料。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
共重合体の組成について、本件発明1では、「構成単位(A-1)と、前記構成単位(A-2)と、前記構成単位(B)と、前記構造単位(C)の割合が、質量比で、前記構成単位(A-1)が1~45、前記構成単位(A-2)が15~98、前記構成単位(B)が0.5~15、前記構造単位(C)が0.5~25であ」るのに対し(以下、当該組成範囲を「本件組成」という。)、甲1発明では、「構成単位(A)100重量部に対して、構成単位(B)0.5~60重量部、構成単位(C)0~200重量部、および構成単位(D)0~60重量部」であり、両者の組成が一致するのか不明である点。
(相違点2)
本件発明1では、「実質的に増粘剤を含まない」のに対し、甲1発明では、「必要に応じて増粘剤等を分散させ」る点。
イ 上記相違点についての判断
(ア)本件明細書【0055】には、「本発明の正極材料には、実質的に増粘剤が含まれない。本発明の正極材料は、バインダーとして、上記特定の共重合体を含んでおり、かつ、実質的に増粘剤を含まないことにより、優れた可撓性及び結着性を備えており、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることが可能となる。」と記載されている。
(イ)上記記載、特に「上記特定の共重合体を含んでおり、かつ、実質的に増粘剤を含まないこと」からすると、本件発明1は、相違点1及び2に係る事項を併せて特定することにより、目的とする特性を達成できるとされているから、相違点についての判断にあたっては、相違点1及び2をまとめて検討することが妥当であると認められる。
そこで、以下に検討する。
(ウ)甲1発明に係る正極用スラリーは、バインダー、活物質、導電助剤、水、必要に応じて増粘剤等を分散させたものであり、増粘剤は、必要に応じて正極用スラリーに分散させるものである。
ここで、増粘剤が粘度を付与するものであることからすると、甲1発明に係る正極用スラリーは、増粘剤がない場合であっても、スラリーとして所定の粘度が得られている場合があることとなる。
しかしながら、甲1には、甲1発明に係る正極用スラリーにおいて、重合体の組成(重合体を構成する各単位の割合)の範囲内で、より狭い範囲である本件組成(共重合体を構成する各単位の割合)とした場合に、上記所定の粘度が得られることについては記載されておらず、甲1にそのような認識があるとはいえない。
現に、甲1には、バインダー組成物の合成例4として、上記1(1)イ(カ)に示したとおり、「メタクリル酸メチル41重量部、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAP-400)41重量部、アクリル酸1.3重量部、メタクリル酸3.7重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A-TMPT)13重量部を重合して得られた重合体」が記載されており、当該重合体の組成は、本件組成に該当するものであるが、同(キ)に示したとおり、実際には、増粘剤として、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2重量部を混合して正極用スラリーを得ている。
したがって、上記正極用スラリーは、本件発明1における「実質的に増粘剤を含まない」(本件明細書【0056】には、「好ましくは0.1質量%以下」の「微量の増粘剤が含まれていてもよい。」と記載されている。)場合には該当しない。
(エ)また、甲1には、甲1発明に係る正極用スラリーに含まれるバインダーについて、重合体が水に分散しているバインダー組成物であることが記載されている(【0044】)。
ここで、上記1(2)イによれば、バインダ樹脂組成物が水中に分散したものについては、粘性を付与することが難しいため、カルボキシメチルセルロース等の増粘剤を併用する必要があることが理解でき、当該事項は技術常識であったと認められる。
このような技術常識に照らすと、甲1発明に係る正極用スラリーにおいては、増粘剤は必要に応じて分散させるものとはいえ、バインダーとして、重合体が水に分散しているバインダー組成物を含むものであるため、粘性を付与することが難しいことから、実際には、増粘剤を併用する必要があると、当業者は理解するといえる。
そして、このことは、上記1(1)イ(キ)に示した[電極の実施作製例4]において、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩2重量部を用いていることからも支持されている。
(オ)以上を踏まえると、甲1発明に係る正極用スラリーにおいて、重合体の組成の範囲内で、より狭い範囲である本件組成とするとともに、「実質的に増粘剤を含まない」ものとすることは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。
ウ 甲1に記載された発明を[電極の実施作製例4]から認定した場合について
仮に、甲1に記載された発明を、上記1(1)イ(キ)に示した[電極の実施作製例4]から認定した場合であっても、少なくとも上記相違点2と同様の相違点が認定され、その判断において、上記イ(エ)の判断は同様に妥当する。
したがって、甲1に記載された発明において、「実質的に増粘剤を含まない」とすることは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。
エ 申立人の主張について
申立人の主張は、その要旨を、甲1の【0046】の記載から、増粘剤の添加は必須ではないとした上で、甲2の【0005】には、増粘剤を併用した場合の不都合が記載されているから、甲1に記載された発明において、実質的に増粘剤を含まないとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとするものである。
しかしながら、甲2の【0005】にある「バインダ樹脂組成物と増粘剤との組み合わせによっては、密着性やスラリーの安定性等に不具合を生じる場合がある。」とのことが、甲1に記載されたスラリーに同様に当てはまるかどうかは不明である。
そして、上記イ及びウで検討したとおり、甲1に記載された発明において、「実質的に増粘剤を含まない」とすることは、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、申立人の主張は採用することができない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1を直接ないし間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701093