特許異議申立
2021-701068
発塵抑制用組成物および水硬性粉状組成物
- 審判番号
- 2021-701068
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-049368
- 登録番号
- 6869761
- 請求日
- 2021年11月12日
- 審決日
- 2022年09月27日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】太平洋セメント株式会社
- 【権利者代理人】衡田 直行
- 【異議申立人】石井 良和
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 山田 倍司
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1652.113-YAA(C04B) / P1652.121-YAA(C04B) / P1652.851-YAA(C04B) / P1652.856-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6869761号発明「発塵抑制用組成物および水硬性粉状組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6869761号の特許請求の範囲を、令和4年6月27日提出の手続補正書により補正された同年5月20日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6869761号の請求項1、5、6に係る特許を維持する。
特許第6869761号の請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6869761号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年3月15日を出願日とする出願であり、令和3年4月16日にその特許権の設定登録がされ、同年5月12日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1、2、5及び6に係る特許について、同年11月12日に特許異議申立人石井 良和(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和4年3月22日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月20日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年6月27日に特許権者により訂正請求書に対する手続補正書の提出がされたので、特許法第120条の5第5項の規定に従って、異議申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、指定期間内に異議申立人からは何らの応答もなかったものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
令和4年6月27日提出の手続補正書により補正された、同年5月20日にされた訂正の請求は、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の具体的な訂正事項は次のとおりである(下線部は訂正箇所を、「…」は省略を、それぞれ表す。以下同様。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「…で表されるアルコール化合物」とあるのを、「…で表され、かつ、分子量が200以下であるアルコール化合物」に訂正する。
(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項3~6についても同様に訂正する。)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の水硬性粉状組成物」とあるのを、「請求項1に記載の水硬性粉状組成物」に訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項に記載の水硬性粉状組成物」とあるのを、「請求項1又は3に記載の水硬性粉状組成物」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか1項に記載の水硬性粉状組成物」とあるのを、「請求項1、3又は4に記載の水硬性粉状組成物」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「アルコール化合物」が、「分子量が200以下である」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1は、本件明細書の【0007】の「上記アルコール化合物の分子量は、好ましくは500以下、より好ましくは100~300、さらに好ましくは110~250、さらに好ましくは125~200、特に好ましくは130~155である。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項1は、アルコール化合物に対する限定をさらに付加するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(3) 訂正事項3及び4について
ア 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用していたのを、請求項1のみを引用するものとし、引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれか1項を引用していたのを、請求項1又は3のみを引用するものとし、引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項3及び4の、請求項3及び4が引用する請求項を減少させる訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(4) 訂正事項5について
ア 訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1~4のいずか1項を引用していたのを、請求項1、3又は4のみを引用するものとし、引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項5の、請求項5が引用する請求項を減少させる訂正が、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(5)独立特許要件について
請求項3及び4は、前記(1)ア及び(3)アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされているところ、この訂正の対象となる訂正前の請求項3及び4には、特許異議の申立てがされていないから、訂正後の請求項3及び4に係る発明については、独立特許要件について検討する必要がある。
しかしながら、訂正前の請求項3及び4に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものである。次に、訂正後の請求項3及び4に係る発明が後記第4で述べる取消理由1及び2(異議申立理由を含む)に該当するか否かを検討するに、訂正後の請求項3及び4に係る発明は、いずれも直接的又は間接的に訂正後の請求項1を引用し、訂正後の請求項1に係る発明の構成をすべて具備するものであるから、後記第5の3(1)において検討する訂正後の請求項1に係る発明と同様に、訂正後の請求項3及び4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。また、他に取消理由を発見しないから、訂正後の請求項3及び4に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるといえる。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~6〕について訂正することを求めるものであるところ、前記2のとおり、訂正事項1~5は、同法同条第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~6に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
発塵抑制用組成物および固化材を含む水硬性粉状組成物であって、
上記発塵抑制用組成物が、下記一般式(1):
HO-[R1-O]x-R1-O-R2 (1)
(式中、R1はアルキレン基であり、R2はアルキル基であり、xは1以上の整数である。)で表され、かつ、分子量が200以下であるアルコール化合物を含むことを特徴とする水硬性粉状組成物。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
上記発塵抑制用組成物が、デンプン類を含む請求項1に記載の水硬性粉状組成物。
【請求項4】
上記発塵抑制用組成物が、水和遅延剤を含む請求項1又は3に記載の水硬性粉状組成物。
【請求項5】
上記水硬性粉状組成物が、水を含む、または、水を含まない請求項1、3又は4に記載の水硬性粉状組成物。
【請求項6】
上記固化材100質量部当たり、上記アルコール化合物の量が0.1~2.0質量部であり、水の量が0~1.0質量部である請求項5に記載の水硬性粉状組成物。」
第4 令和4年3月22日付けで通知した取消理由の概要
訂正前の請求項1、2、5及び6に対して令和4年3月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)
訂正前の請求項1、2、5及び6に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1、2、5及び6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである(以下、「取消理由1」という。訂正前の請求項1、2、5及び6に対する特許法第29条第1項第3号による特許異議の申立理由は、前記取消理由1に含まれる。)。
2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
訂正前の請求項1、2、5及び6に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1、2、5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものである(以下、「取消理由2」という。訂正前の請求項1、2、5及び6に対する特許法第29条第2項による特許異議の申立理由は、前記取消理由2に含まれる。)。
記
甲第1号証:特開2009-114378号公報
(以下、単に「甲1」という。)
第5 当審の判断
事案に鑑み、前記第4の取消理由1(特許法第29条第1項(新規性欠如))及び取消理由2(特許法第29条第2項(進歩性欠如))についてまとめて検討する。
1 甲1に記載された事項
甲1には、以下の記載がある。
(1) 「【請求項1】
アルキレンオキサイド平均付加モル数が5~40モルである炭素数1~6の1価アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A)と(A)以外のアルコール系化合物(B)とを合計で72~85重量%の濃度で含有する水溶液と、水硬性粉体とを混合する工程を有するセメント系固化材の製造方法であって、かつ下記要件1~2を全て満足するセメント系固化材の製造方法。
要件1:前記水溶液における前記(A)と前記(B)の重量比が(B)/(A)で0/100~70/30である。
要件2:前記固化材中、水硬性粉体100重量部に対して、前記(A)が0.3~7重量部、前記(B)が0~4.9重量部、水が0.3~2.8重量部、前記(A)と前記(B)の合計が1~7重量部である。
【請求項2】
前記(A)が、メタノールのエチレンオキサイド付加物である請求項1記載のセメント系固化材の製造方法。」
(2) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、現位置で施工を行う路床、路盤安定処理工法や地盤改良工法地盤の改良工法に用いる発塵抑制型セメント系固化材に関する。」
(3) 「【背景技術】
【0002】
従来から、セメントなどを土質安定材(以下、固化材という)として使用する、路床、路盤安定処理工法や地盤改良工法(現位置で施工)などは、低品位の現地土が有効に活用でき、しかも他工法に比べて経済的であり広く実施されている。また建設残土低減から、これらの工法の必要性は今後さらに増大していくものと注目されている。
【0003】
しかしながら、前述した従来の方法では、微粉末状のセメント系固化材が散布時に飛散するため、周辺環境の保全や作業環境の観点から、土質安定処理工事における粉塵発生の抑制や低減が強く望まれており、特に材料面から通常の施工方法によって使用できる防塵型の固化材の開発が期待されている。
…
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2で用いられている脂肪族多価アルコールは、消防法に定める危険物であるために取扱い上の制約があり、さらに粘性が高いために噴霧等による水硬性粉体との混合が困難である。また固化材表面への広がり性も悪く、結果として粉塵防止効果が十分でない等の課題がある。これらの問題を解決するために特許文献3では5~70重量%のアルコール系化合物の水溶液を用いているが、散布前の貯蔵等により固化材を用いた硬化体の強度が低下することがある。
【0006】
さらに散布前の貯蔵の際は、必ずしも恒温(温度が一定に保たれた)条件で保管されるわけではないため、低温から高温における貯蔵安定性が求められる。
【0007】
本発明の課題は、散布時等の粉塵発生量が少なく、また、貯蔵安定性が良好なセメント系固化材が得られる製造方法を提供することである。」
(4) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、水硬性粉体に所定量の(A)成分を含有する水溶液を添加、混合することにより、水硬性粉体表面に(A)成分が均等に濡れ広がることで、湿潤した水硬性粉体同士が粗大粒子群を形成し、散布時の前記粉体の飛散を防止すると推定される。
【0013】
粉体の湿潤には、水単独によっても可能であるが、時間経過(貯蔵時)により水は、水硬性粉体の水和反応に使用されるために粉塵防止効果がなくなるとともに、水硬性粉体の水和物を生成することから、固化材に水を加えて硬化体を製造する際に、前記水和生成物が不均一に分布し、得られる硬化体の強度が低下する。よって、粉塵防止を目的に水を添加する場合は、貯蔵時の水和反応を抑制することが必要条件である。また、これらの観点から添加する水は少ない方が望ましい。
【0014】
本発明者は、(A)成分を水硬性粉体に対して特定量用いることで、固化材の優れた粉塵抑制効果と、水と水硬性粉体との水和反応の抑制、高温保存における粉塵防止性の持続ができることを見出し、本発明を完成した。
…
【0016】
(A)成分を構成する炭素数1~6の1価アルコールは、取り扱い性、濡れ広がり性の観点から、好ましくは炭素数1~3の1価アルコールであり、より好ましくはメタノールである。また、該アルコールに付加するアルキレンオキサイドは、炭素数2~4のアルキレンオキサイドが挙げられ、貯蔵安定性の観点から、好ましくは炭素数2~3、より好ましくはエチレンオキサイドである。
【0017】
本発明に用いられる(A)成分は、アルキレンオキサイド平均付加モル数が5~40モルである。このアルキレンオキサイド平均付加モル数は、例えばNMRにより測定できる。(A)成分は、水和反応抑制からアルキレンオキサイド平均付加モル数は5以上であり、固化や粘度増加の観点からアルキレンオキサイド平均付加モル数は40以下である。したがって水和反応抑制及び凝固や粘度増加の観点から5~40、好ましくは5~25、より好ましくは7~20、さらに好ましくは8~15である。(A)成分は、2種以上の混合物でもよい。
…
【0021】
本発明の製造方法において、水硬性粉体に、本発明に係る所定の水溶液を均一に添加、混合させる方法としては、混合機で撹拌されている水硬性粉体に当該水溶液を噴霧する方法、混合機で撹拌されている水硬性粉体に当該水溶液を滴下する方法、別の粉体に予め当該水溶液を混合しておき、その粉体と水硬性粉体とを均一に混合する等の方法が挙げられる。
【0022】
本発明に用いられる水溶液は、危険物として取り扱われることを回避するため、すなわち引火点を有しない観点から、所定量の水を含有することが必要であり、該水溶液中の水の量は好ましくは15~28重量%、より好ましくは18~27重量%、さらに好ましくは20~26重量%である。また配合する水を保水し、水硬性粉体と混合した際に直ちに水和物を生成させない観点から、前述の通り、該水溶液における水/(A)の重量比は56/44以下が好ましい。
【0023】
本発明に用いられる水溶液の水硬性粉体に対する添加量は、水硬性粉体100重量部に対して、(A)成分が1~7重量部、好ましくは1.5~6重量部、より好ましくは2~5重量部、さらに好ましくは2.5~4重量部である。また、本発明に用いられる水溶液の水硬性粉体に対する添加量は、水硬性粉体100重量部に対して、(A)成分と(B)成分の合計で、1~7重量部、好ましくは1.5~6重量部、より好ましくは2~5重量部、さらに好ましくは2.5~4重量部である。これらの何れの添加量においても、1重量部以上では、水硬性粉体表面へ均一に濡れ広がることが容易となり液体架橋を形成しやすく、発塵を防止する効果が良好となる。また7重量部以下であると、粉体の湿り具合が適切となり粉体としての流動性が損なわれず、固化材の散布や土壌との均一な撹拌、混合が容易となる。」
(5) 「【実施例】
【0033】
(1)水硬性粉体
・普通セメント:住友大阪セメント製普通ポルトランドセメント
【0034】
(2)粉塵防止剤
表1の成分を用いて、固化材を製造する際に用いる粉塵防止剤を得た。
…
【0037】
(5)固化材の製造
水硬性粉体として普通セメント1000gをモルタルミキサー((株)ダルトン製万能混合撹拌機、5DM-03-r、低速62rpm)で撹拌しながら、表1に示す粉塵防止剤(低級アルコールのアルキレンオキサイド付加物とアルコール系化合物水溶液等)を所定量滴下し、滴下終了後6分間撹拌して、固化材を調製した。なお、水硬性粉体及び粉塵防止剤は20℃に調整したものを用いて混合した。
…
【0040】
【表1】
[図:0001392023000001.jpg]
【0041】
【表2】
[図:0001392023000002.jpg]
【0042】
表中、AOはアルキレンオキサイドの略である。また、粉塵防止剤の添加量は、固化材中の重量%である。また、DEGはジエチレングリコール、PEG(600)は重量平均分子量600のポリエチレングリコールを、MEPEGは、メタノールエチレンオキサイド付加物を意味する。」
2 甲1に記載された発明
甲1の前記1(5)の【0040】の【表1】によると、粉塵防止剤No.A-4、A-7は、低級アルコールAO付加物(A)がMEPEGであって、AO平均付加モル数が9であるものを含有すると理解できる。また、同【0042】によれば、MEPEGは、メタノールエチレンオキサイド付加物であると理解される。
そして、上述の粉塵防止剤に関する記載と、甲1の同【0041】の【表2】の実施例7及び8の「固化材」に関する記載から、甲1には「固化材」として、次の発明が記載されているといえる。
<甲1発明7>
「水硬性粉体100重量部、低級アルコールAO付加物(A)1.67重量部、アルコール系化合物(B)1.67重量部、水(C)0.83重量部からなる固化材であって、低級アルコールAO付加物(A)がメタノールエチレンオキサイド付加物であって、AO平均付加モル数が9である、固化材。」
<甲1発明8>
「水硬性粉体100重量部、低級アルコールAO付加物(A)1.39重量部、アルコール系化合物(B)0.93重量部、水(C)0.77重量部からなる固化材であって、低級アルコールAO付加物(A)がメタノールエチレンオキサイド付加物であって、AO平均付加モル数が9である、固化材。」
3 対比・判断
(1) 本件発明1について
以下、事案に鑑み、本件発明1と甲1発明7及び8とを併せて対比する。
甲1発明7及び8の「固化材」に含まれる「低級アルコールAO付加物(A)」は、甲1の前記1(5)の【0041】の【表2】によれば、「粉塵防止剤」を構成する組成物であるといえるから、本件発明1の「発塵抑制用組成物」に相当するといえる。
また、甲1発明7及び8の「水硬性状粉体」は、甲1の同【0033】によれば、普通セメントであり、本件明細書の【0013】における「固化材」として例示されるものであるから、本件発明1の「固化材」に相当する。
さらに、甲1発明7及び8の「固化材」は、甲1の同【表2】によれば、水硬性粉体や粉塵防止剤を含むものであり、水硬性の粉状組成物と捉えることができるから、本件発明1の「水硬性粉状組成物」に相当するといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明7及び8は、「発塵抑制用組成物および固化材を含む水硬性粉状組成物。」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1では、「発塵抑制用組成物」が下記一般式(1):
HO-[R1-O]x-R1-O-R2 (1)
(式中、R1はアルキレン基であり、R2はアルキル基であり、xは1以上の整数である。)で表され、かつ、分子量が200以下であるアルコール化合物を含むものであるのに対し、甲1発明7及び8においては、当該発明特定事項を有するか否か明らかでない点。
以下、前記相違点1について検討する。
甲1発明7及び8の「低級アルコールAO付加物(A)」は、AO平均付加モル数が9であるメタノールエチレンオキサイド付加物である。ここで、AO平均付加モル数が9であるメタノールエチレンオキサイド付加物を式で表すと以下のように表記できる。
CH3O(CH2CH2O)9H
これを本件発明1の一般式(1)に合わせて整理すると、
HO-CH2CH2-[CH2CH2O]8-O-CH3
(以下、式(2)という。)とも表記できる。
そうすると、甲1発明7及び8において、AO平均付加モル数が9であるメタノールエチレンオキサイド付加物は、本件発明1の一般式(1)で表される「アルコール化合物」に包含されるものと認められる。
一方、甲1発明7及び8において、前記式(2)にしたがって、AO平均付加モル数が9であるメタノールエチレンオキサイド付加物の分子量を計算すると、その分子量は約428.5069(ここでは、H=1.00784、C=12.0107、O=15.999で計算した。)であり、これは、本件発明1において特定される「分子量200以下」との数値範囲に合致しない。
したがって、前記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1が甲1発明7及び8のいずれかであるとはいえない。
次に、前記相違点1の容易想到性について検討する。
甲1には、前記1(4)の記載によれば、「(A)成分を構成する炭素数1~6の1価アルコールは、取り扱い性、濡れ広がり性の観点から、好ましくは炭素数1~3の1価アルコールであり、より好ましくはメタノールである。また、該アルコールに付加するアルキレンオキサイドは、炭素数2~4のアルキレンオキサイドが挙げられ、貯蔵安定性の観点から、好ましくは炭素数2~3、より好ましくはエチレンオキサイドである。」(【0016】)、及び、「本発明に用いられる(A)成分は、アルキレンオキサイド平均付加モル数が5~40モルである。…(A)成分は、水和反応抑制からアルキレンオキサイド平均付加モル数は5以上であり、固化や粘度増加の観点からアルキレンオキサイド平均付加モル数は40以下である。」(【0017】)と記載されており、(A)成分を構成する1価アルコール及び該アルコールに付加するアルキレンオキサイドの炭素数、及びアルキレンオキサイド平均付加モル数の好適な範囲が示されている。
そして、甲1の前記記載事項から想定される(A)成分のうち分子量が最小となるのは、1価アルコールとして、炭素数が最小値である1となるメタノールを採用し、該アルコールに付加するアルキレンオキサイドとして、炭素数が最小値である2となるエチレンオキサイドを採用し、かつ、アルキレンオキサイド平均付加モル数として、最小値である5を採用した場合である。この場合の分子量を、前記式(2)にしたがってしたのと同様に計算すると、その分子量は約252.2999であり、甲1の前記記載事項から想定される(A)成分のうち分子量が最小となるものであっても、本件発明1において特定される「分子量200以下」との数値範囲に合致しない。
また、甲1に記載された発明は、前記1(3)及び(4)の記載によれば、「散布時等の粉塵発生量が少なく、また、貯蔵安定性が良好なセメント系固化材が得られる製造方法を提供すること」(【0007】)を課題とし、「粉塵防止を目的に水を添加する場合は、貯蔵時の水和反応を抑制することが必要条件である」(【0013】)ところ、「(A)成分を水硬性粉体に対して特定量用いることで、固化材の優れた粉塵抑制効果と、水と水硬性粉体との水和反応の抑制、高温保存における粉塵防止性の持続ができることを見出し」たものである(【0014】)と理解できる。そして、アルキレンオキサイド平均付加モル数については、当該課題のうち貯蔵安定性に着目して、「水和反応抑制からアルキレンオキサイド平均付加モル数は5以上」(【0017】)とするものであることが理解できるから、甲1発明7及び8において、アルキレンオキサイド平均付加モル数を5より小さい値とし、(A)成分の分子量を、本件発明1において特定される「分子量200以下」との数値範囲となる程度まで小さくする動機付けは存在しないというべきである。
したがって、本件発明1は、甲1発明7及び8ではないし、甲1発明7及び8、及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2) 本件発明2、5及び6について
本件発明2、5及び6は、少なくとも本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、5及び6は、甲1発明7及び8ではないし、甲1発明7及び8、及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
前記第5で検討したとおり、本件特許1、5及び6は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当するものではないから、特許異議の申立理由を含む取消理由1及び2では、本件特許1、5及び6を取り消すことはできない。そして、他に本件特許1、5及び6を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件請求項2に係る発明は、前記第2のとおり、本件訂正により削除された。これにより、本件請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、同法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701068