特許異議申立
2023-701211
耐熱粘土原料および耐熱陶磁器
- 審判番号
- 2023-701211
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-020125
- 登録番号
- 7276812
- 請求日
- 2023年11月16日
- 審決日
- 2024年04月30日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ウイテン
- 【権利者代理人】和気 光
- 【権利者代理人】和気 操
- 【権利者代理人】寺本 諭史
- 【異議申立人】三雲 久子
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 小野 久子
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1652.113-YAA(C04B) / P1652.121-YAA(C04B) / P1652.537-YAA(C04B) / P1652.851-YAA(C04B) / P1652.856-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7276812号発明「耐熱粘土原料および耐熱陶磁器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7276812号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第7276812号の請求項1、5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7276812号の請求項1~5に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という)についての出願は、平成31年2月6日に出願され、令和5年5月10日にその特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1、5に対して、令和5年11月16日に特許異議申立人 三雲 久子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和6年2月13日付けで取消理由が通知され、同年2月27日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされた。
なお、申立人は、意見書提出の希望の有無について、希望しないとしているため、意見書の提出は求めなかった。
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7276812号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」であり、その内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所)。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「熱膨張係数が0.1~4.0×10-6/Kである」と記載されているのを、「熱膨張係数が1.618~4.0×10-6/Kである」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体及び還元焼成による焼成体について、室温から700℃における「熱膨張係数」を「0.1~4.0×10-6/K」から「1.618~4.0×10-6/K」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記焼成体の熱膨張係数を限定する訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)新規事項の有無について
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、それぞれ「本件特許明細書」などといい、まとめて「本件特許明細書等」という。)には、「耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体および還元焼成による焼成体は、室温から700℃における熱膨張係数が0.1~4.0×10-6/Kであることが好ましい」こと(【0038】)、及び、実施例7の焼成体について、室温から700℃における熱膨張係数が1.618×10-6/Kであること(【0041】、【0044】の表1)が記載されており、訂正事項1により訂正された熱膨張係数は本件特許明細書に記載された範囲内のものであるし、他に新たな技術的事項を追加するものでもないから、訂正事項1は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2~4は請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、請求項1~4は一群の請求項である。そして、上記訂正事項1は、その一群の請求項においてなされたものであるから、特許法第120条の5第4項で規定する当該一群の請求項ごとに請求されているものである。
4 独立特許要件について
(1)請求項1について
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるところ、この訂正の対象となる一群の請求項である訂正前の請求項1には、本件特許異議の申立てがされているので、訂正後の請求項1については、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2)請求項2~4について
訂正事項1の訂正の対象となる一群の請求項である訂正前の請求項2~4には、特許異議の申立てがされていないから、訂正後の請求項2~4に係る発明については、独立特許要件を検討する必要がある。
しかし、下記第4及び第5で述べるとおり、訂正後の請求項2~4が引用する訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべき理由は発見されず、また、他に訂正後の請求項2~4に係る特許を取り消すべき理由も発見しないから、訂正後の請求項2~4に係る発明が、独立して特許を受けることができるものであることは明らかである。
5 小括
上記のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合するものである。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正が認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、請求項の項番にしたがって、「本件発明1」などといい、全体をまとめて「本件発明」という。)は、令和6年2月27日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、以下のものである。
「【請求項1】
粘土および低膨張材を主成分とする耐熱粘土原料であって、
前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライト、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライト、のいずれかの組み合わせで構成され、
前記主成分である前記粘土と前記低膨張材の合計の前記耐熱粘土原料全体に対する含有割合が90質量%以上であり、
前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が40~60質量部であり、残部が前記低膨張材であり、
前記耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体および還元焼成による焼成体は、室温から700℃における熱膨張係数が1.618~4.0×10-6/Kであることを特徴とする耐熱粘土原料。
【請求項2】
前記耐熱粘土原料は、酸化鉄、蝋石、長石、シャモット、ドロマイト、石灰、タルク、マグネサイト、アルミナ、バリウム化合物、およびストロンチウム化合物から選ばれる少なくとも1つの添加材を、前記主成分100質量部に対して0.1~30質量部含むことを特徴とする請求項1記載の耐熱粘土原料。
【請求項3】
耐熱粘土原料の焼成体である耐熱陶磁器であって、
前記耐熱粘土原料が、請求項1または請求項2記載の耐熱粘土原料であることを特徴とする耐熱陶磁器。
【請求項4】
食器または調理器であることを特徴とする請求項3記載の耐熱陶磁器。
【請求項5】
耐熱粘土原料の焼成体であり、食器または調理器である耐熱陶磁器であって、
前記耐熱粘土原料が、粘土および低膨張材を主成分とし、
前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライト、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライト、のいずれかの組み合わせで構成され、
前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材であることを特徴とする耐熱陶磁器。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和6年2月13日付けの取消理由の概要は、次のとおりである。
・取消理由1
設定登録時の請求項1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
2 具体的な指摘事項
発明な詳細な説明の実施例1~15の耐熱粘土原料の焼成体の熱膨張係数の最小値が、実施例7の1.618×10-6/Kである(表1)ことが示されているものの、この最小値より1/10以上も下回る0.1×10-6/Kという熱膨張係数を有する焼成体を実現したという実験結果については何ら記載されていない。また、従来から低膨張材として利用されているペタライトのみを用いた参考例の焼成体の熱膨張係数の最小値が、1.342×10-6/Kであること(表3)からみても、ペタライト以外の低膨張材を含む耐熱粘土原料を用いて、0.1×10-6/Kという熱膨張係数を有する焼成体を製造可能とまでは、出願時の技術常識に照らしても理解できない。
これに対して、設定登録時の請求項1に係る発明は、「耐熱粘土原料」の発明について、「前記耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体および還元焼成による焼成体は、室温から700℃における熱膨張係数が0.1~4.0×10-6/Kである」ことを特定しているところ、熱膨張係数が下限値付近の場合については、当業者が、発明の詳細な説明の記載又はその示唆及び技術常識を考慮しても、「従来の高価なペタライトに大きく依存することなく低コストで製造可能であり、かつ、焼成条件に関わらず低膨張で高い耐熱性を備える耐熱陶磁器の原料となる耐熱粘土原料、および、この耐熱粘土原料の焼成体として得られる耐熱陶磁器を提供する」という本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められない。
3 取消理由についての当審の判断
本件訂正請求での訂正によって、本件発明1の耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体及び還元焼成による焼成体について、室温から700℃における「熱膨張係数」が、「1.618~4.0×10-6/K」に限定された。
そこで、当該熱膨張係数が、訂正後の下限値付近の場合についてみると、発明の詳細な説明の実施例1~15には、低膨張材として、(1)溶融石英のみ、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライトのいずれかの組み合わせで構成された低膨張材を用いた耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体及び還元焼成による焼成体について、室温から700℃における熱膨張係数が1.618~3.143×10-6/Kであることが記載されており(【0041】、【0044】の表1)、低膨張材を加えない比較例1、2の耐熱粘土原料を用いた場合の熱膨張係数より小さく、ペタライトのみを加えた参考例1、2の耐熱粘土原料を用いた場合の熱膨張係数と同程度になっているから、上記下限値付近の場合の耐熱粘土原料は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
また、念のため、上限値付近の場合についてもみておくと、発明の詳細な説明には、「粘土は、主成分である粘土と低膨張材との合計100質量部に占める割合が10~70質量部である。好ましくは30~70質量部であり、より好ましくは40~60質量部であり、さらに好ましくは45~55質量部である。主成分における粘土が、10質量部未満であると製品形状への成形が困難となるおそれがあり、70質量部をこえると、粘土の高い熱膨張係数により十分な耐熱性が得られなくなるおそれがある。」(【0022】)、「陶磁器が熱衝撃により割れる理由は、加熱・冷却に伴う体積変化による破壊である。ペタライトやコーディエライトは低い熱膨張の素材であり、従来は、これを粘土と混合することにより、耐熱陶磁器用の原料の生産を行っている。溶融石英も低い熱膨張を持つ素材であり、本発明ではこれを採用することで新たな耐熱陶磁器用の粘土材料を得ている。」(【0036】)、「このように、溶融石英は低膨張であるため、粘土など膨張係数の高い鉱物と混ぜ合わせることにより、低膨張の耐熱粘土原料が実現できると考えた。」(【0037】)と記載されている。さらに、実施例1~15(粘土50質量部)、実施例16、17(粘土10質量部)、及び比較例1、2(粘土100質量部)の焼成体の熱膨張係数の測定結果を見ると、主成分中の粘土の質量が多くなると熱膨張係数が大きくなるという相関関係があることが明らかである。これらのことを踏まえると、高い熱膨張係数を有する粘土の量と、低い熱膨張係数を有するペタライトやコーディエライト、溶融石英との量比の調整により熱膨張係数を制御することができるといえ、熱膨張係数が上限値付近(4.0×10-6/K付近)のものも製造可能であると理解できる。そして、熱膨張係数が上限値付近(4.0×10-6/K付近)の場合においても低膨張材を加えない比較例1の熱膨張係数(4.674×10-6/K)を下回っており、十分な耐熱性を有しているといえるから、上記上限値付近の場合の耐熱粘土原料も、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
したがって、本件発明1は、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、発明の詳細な説明に記載されたものである。
4 取消理由についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1に理由はない。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第4の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである(なお、以下では甲第1号証、甲第2号証等を、それぞれ「甲1」、「甲2」等という。)。
甲1:特開2003-221270号公報
甲2:滋賀県工業技術総合センター業務報告、滋賀県工業技術総合セン ター、2013年10月、第27号、第117-119頁
甲3:特開昭49-61210号公報
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、5に係る発明は、甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1、5は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
また、設定登録時の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
設定登録時の請求項5に係る発明は、甲2に記載された発明であるか、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許5は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲3を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
設定登録時の請求項5に係る発明は、甲3に記載された発明であるか、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許5は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件特許1、5は、特許請求の範囲の記載が下記3(4)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 甲号証の記載事項
(1)甲1の記載事項(下線は当審が付した。以下同様である。)
ア「【請求項4】 非晶質シリカ、または少なくとも非晶質シリカを含むシリカ質20~50%、長石質10~30%およびカオリン質25~45%を主原料として配合した生素地を成形、焼成し、クリストバライトを析出させたことを特徴とするセラミックス材料。」
イ「【0018】このシリカ質の混合割合は、20%(重量%、以下同様)未満の場合、十分なクリストバライト析出量を得ることができないので、強度アップに寄与しない。また、50%超えの場合、焼成中に軟化しやすく所定の形状を保つことができないので、前記割合が好ましい。そのうちでも、30%~40%が最も好ましい。」
ウ「【0031】クリストバライト析出量の制御は、非晶質シリカ質自体、あるいはクリストバライト析出に影響を及ぼす配合成分の配合率を増減させることにより行う。例えば、非晶質シリカ質は、それ自体がクリストバライトの発生源であるので、その配合率はクリストバライトの析出に大きな影響を及ぼす。また、主原料の長石質は、含有するカリウム、ナトリウムなどアルカリ分により、素地中にシリカ質を取り込んだガラス相を増加させるので、クリストバライトの析出を抑制することになる。さらに、マグネシウム成分を含むタルクを極微量生地に加えると、マグネシウムが焼成段階で生地に生じるガラス相の粘性を低下させるため、ガラス相からのクリストバライトの遊離を容易にする。このため、クリストバライトの析出を増加させ、熱膨張係数を高める方向に働く。かくして、一般に用いられる釉薬の熱膨張係数、4.5~6.0×10-6/℃に対して、本発明では、3.5~7.5×10-6/℃の範囲の幅広い熱膨張係数を有する焼結体素地を製作でき、各種の釉薬とのマッチングを図ることができるのである。
【0032】
【実施例】(実施例1)原料として、0.5~1.0mmに粗粉砕した石英ガラス40%、平均粒径30μmの長石(大平長石SS-150)22%、平均粒径3μmの蛙目粘土10%、NZカオリン28%を混合し、原料と同量の水を加え、ポットミルにて39時間粉砕した。なお、ミル中には径10mmと15mmのアルミナボールを入れ、粉砕を実施した。この場合、解膠剤としてトリポリ燐酸0.6%を水に対し加えた。
【0033】このようにして得た泥漿を350メッシュの篩を通し、凝集剤として10%のにがり溶液を、水に対し0.38%加え、よく攪拌した後にフィルタープレスにより脱水した。脱水後、鋳込成形により直方体のテストピースを作成し、予め設定した焼成温度で焼成して、測定用試料を得た。この試料について、曲げ強度、かさ比重などを測定した。また、試料の一部には、釉薬を塗布し1300℃で焼成し、施釉状態での強度を測定した。次の表1に、上記実施例による試料の特性を、市販の強化磁器、高強度磁器、およびクリストバライト磁器を比較例として、併記して示す。」
エ「【0047】(実施例5)次に、表5に原料混合組成の影響について示す。表5に示す原料混合組成の試料を実施例1と同様に作成した。なお、焼成温度は1300℃であった。なお、このとき、生素地を型成形によって想定形状に作りやすいかの観点から成形性の評価、および焼成時の形状変化の程度により形状安定性の評価を行った。また、これらの試料を実施例2と同様の方法でクリストバライト析出量の測定を行った。
【0048】
【表5】
[図:0001413344000001.jpg]
」
オ「【0056】2)現在の高強度磁器など同様の製造ラインが使用できるため、新たな設備投資がいらない。熱膨張係数を調節できるため、広い範囲の釉薬とのマッチングを図ることが可能となる。さらにかさ比重が小さいので、熱伝導率が小さくなり、熱さを伝えにくいので食器材料として特に有用である。」
(2)甲2の記載事項
ア「1 はじめに
これまで試験場では石英ガラス(溶融シリカ)を使用した透光素地の開発を行ってきた1),2)。しかし、熱膨張係数が約3×10-6と比較的小さいため、従来の一般的な釉薬(約6~8×10-6)を使用すると貫入が発生し、外観や装飾性、防汚性などに影響があり、釉薬の使用に制限があった。
そこで本研究では、石英ガラスを熱膨張係数の大きな珪石や焼結性を高めるタルクに置換することにより、石英ガラスを使用した透光素地と同等の透光性を持ち、釉薬が無貫入で使用できる素地の調整技術を研究した。」(第117頁左欄第1~10行)
イ「2 試験方法
2.1 試料作成
調合は石英ガラス(溶融シリカ)を使用した透光素地の調合例3)を参考に表1の調合を1kgと水600gをミキサーで混合した泥しょうを石膏容器で脱水し、練土とした。成形は物性試験用に練土20gを金型(15×100mm)で湿式成形した。また、透光試験用には厚さを約3mm、6mm、12mmで圧延し、50mm角に切り出した。
焼成は小型電気炉(アドバンテック東洋製KS-1703)で1000℃まで200℃/h、最高温度1200℃、1225℃、1250℃まで100℃/h、保持時間30分で行った。
使用原料のうち石英ガラスは平均粒径18.9μmの粗粒と8.1μmの細粒の2種類で、珪石はインド珪石の8.1μmの細粒で、準長石はカナダ産、カオリンはニュージーランド産、ベントナイトは白色度の高いものを使用した。」(第117頁左欄第11~25行)
ウ「表1 調合割合
[図:0001413344000002.jpg]
」(第117頁右欄)
エ「
[図:0001413344000003.jpg]
図4 焼成温度と熱膨張係数の関係」(第118頁右欄)
オ「4 まとめ
以上、石英ガラスを珪石と生タルクに置換しながら各評価を実施した結果、従来の石英ガラスを主とした透光性素地と同等な透光性で熱膨張係数を約6~8×10-6の範囲の素地の調合方法を確認できた。また、平成24年10月に開催した試験場試作展(感性価値対応型陶器製品の開発II)4)においても3種類の釉薬(マット釉、飴釉、銅釉)の皿を試作し、実際の釉薬との相性や可塑成形性も確認した。」(第119頁右欄1~8行)
(3)甲3の記載事項
ア「2.特許請求の範囲
非晶質溶融シリカを含有し耐熱性及び耐酸性を有する窯業製品の製造において、非晶質溶融シリカとして最大粒子が3mmであり105μ以下の微粒子が35%以下であるものを用い、この非晶質溶融シリカと長石、粘土、石英から成る鉱物を、純鉱物組成配合比率(重量%)が非晶質溶融シリカ20~70%、粘土類8~35%、長石類5~30%、石英3.5~40%になるように、しかも焼成製品中に含有される化学成分が重量%でSiO277~93%、Al2O35~19%、アルカリ酸化物(Na2O+K2O)1.2~4.50%になるように調合を行ない、成形及び乾燥工程の後、1220~1320℃で焼成し、鉱物組成が溶融シリカを含むガラス質35~85%、クリストバライト0~25%、α-石英5~25%、ムライト0~25%である製品を得て、溶融シリカが長石質ガラスマトリックスとムライト、石英、クリストバライトの結晶質問に安定化されるようにすることを特徴とする耐熱耐酸窯業製品の製造方法。」
イ「 溶融シリカ粉末を原料とする窯業製品の従来製造方法の1つは、殆んど純粋な浴融シリカ粉末を極く少量の結合剤例えばコロイドシリカで高温焼結する方法であり、この製法の製品は耐スポーリング性及び耐酸性がいずれも極めてすぐれている。しかし、この製法の実施が簡易ではなく困難でしかも高価であるから、この製法をレンガ等の工業製品に実用的に利用することはできない。
溶融シリカ粉末を原料とする窯業製品の従来製造方法の他の1つは、粘土質耐火物原料に溶融シリカ粉末を加えることを特徴とする製造方法であり、この製法の製品は耐スポーリング性が改善されるとともに耐酸性がある程度改善される。しかし、この製法は、耐火粘土を主原料とするから、最終製品の結合部の焼固が充分でなく、耐酸性の本質的な改善がなされない。更に、使用する溶融シリカ粉末の粒度がある程度以上小さければ小さいほど、この溶融シリカ粉末が焼成中に結晶化すなわちクリストバライト化するから、溶融シリカの低熱膨張特性が失われて耐スポーリング性の劣る製品が製造される。これを解決するには、溶融シリカ粉末原料中の微粉末部をカットすることが必要である。」(第2頁左上欄第10行~右上欄第13行)
ウ「〔第1実施例〕
使用原料として第4、5表の化学組成及び鉱物組成を有する溶融シリカ、滋賀県産長石及び岐阜県産粘土を使用する。各原料は予めクラツシヤー又はトロンメルミルにより粉砕し、溶融シリカは105μ~1000μが80.1%、105μ以下が20.9%になるように、滋賀県産長石は250メツシユ篩を全通するようにする。原料粉砕後、溶融シリカ40%、滋賀県産長石20%、岐阜県産粘土40%の配合比率(重量%)で、ミキサー、土練機により混合を行ない、湿式成形可能な水分17%まで調湿し、坏土とする。これを真空土練押出機により押出成形して幅6cm、高さ10cm、長さ21cmの角柱とし、この角柱を乾燥室において約3日間温度35~80℃で乾燥して水分が約1%位になるようにし、次にトンネル窯において1300℃で焼成して最終製品とする。」(第8頁右下欄第12行~第9頁左上欄第9行)
エ「また、この焼成製品の熱膨張係数は、室温から900℃までの範囲において1.82×10-6/℃である。」(第9頁右上欄第15~17行)
オ「〔第2実施例〕
使用原料として第8、9表の化学組成及び鉱物組成を有する溶融シリカ、佐賀県産陶石及び岐阜県産粘土を使用する。各原料は予めクラツシヤー又はトロンメルミルにより粉砕し、溶融シリカは105μ~2mmが98.3%、105μ以下が1.7%になるように、佐賀県産陶石及び岐阜県産粘土は62μ以下になるようにする。原料粉砕後、溶融シリカ20%、佐賀県産陶石30%、岐阜県産粘土50%の配合比率(重量%)で、水分8%と共にミキサーにより完全に混合を行ない、これをプレス成型機により圧力500Kg/cm2で成形して幅6cm、高さ10cm、長さ21cmの角柱とし、この角柱を乾燥し、次に1280℃で焼成して最終製品とする。」(第9頁左下欄第4~18行)
カ「 また、この製品の特性を試験した結果、熱膨張係数は室温から900℃までの範囲において3.31×10-6/℃、機械的強度(抗折強度)は75Kg/cm2、耐酸性はJIS粉末法によれば0.08%、ASTM法によれば5.11%であった。また、耐スポーリング特性は、この実施例の焼成製品に温度差600℃の急熱急冷処理をしても、亀裂が生ぜず、強度劣下率25%以下である。」(第9頁右下欄下から第4行~第10頁左上欄第4行)
3 申立理由に対する当審の判断
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)について
ア 甲1に記載の発明
申立人の主張を参酌しつつ、甲1の記載を実施例5-6に注目して整理すると、甲1には、「石英ガラス40質量%、長石質10質量%、カオリン質50質量%を主原料として配合した生素地。」の発明(以下、「甲1発明1」という。)、及び「石英ガラス40質量%、長石質10質量%、カオリン質50質量%を主原料として配合した生素地の焼成体であり、食器材料として特に有用である、セラミック材料。」の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明1との対比
甲1発明1の「カオリン質」、「生素地」は、それぞれ本件発明1の「粘土」、「粘土原料」に相当する。
甲1発明1の「石英ガラス」は、本件発明1の「低膨張材」に相当すると共に、「前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ」「で構成され」ることに相当する。
甲1発明1の「石英ガラス40質量%」及び「カオリン質50質量%」を「配合した」ことは、これらの合計が90質量%であるから、本件発明1の「前記粘土と前記低膨張材の合計の」「粘土原料全体に対する含有割合が90質量%以上であ」ることに相当し、また、これらの合計100質量部に対して、前記「カオリン質」が56質量部と算出できるから、本件発明1の「前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が40~60質量部であり、残部が前記低膨張材であ」ることに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明1とは、
「粘土および低膨張材を主成分とする粘土原料であって、前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ、で構成され、前記主成分である前記粘土と前記低膨張材の合計の前記粘土原料全体に対する含有割合が90質量%以上であり、前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が40~60質量部であり、残部が前記低膨張材である、粘土原料。」で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は、「耐熱粘土原料」であるのに対して、甲1発明1の「生素地」は、「耐熱」性を有するか不明である点。
(相違点2)
本件発明1は、前記「粘土原料の酸化焼成による焼成体および還元焼成による焼成体」が、「室温から700℃における熱膨張係数が1.618~4.0×10-6/Kである」のに対して、甲1発明1は、そのような特徴を有するか不明である点。
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
甲1発明1の「生素地」の焼成体の室温から700℃における「熱膨張係数」が「1.618~4.0×10-6/K」となることを開示する証拠は何ら提示されていないし、このことを示す技術常識も存在しないから、甲1発明1に係る「生素地」において、焼成体の室温から700℃における「熱膨張係数」が「1.618~4.0×10-6/K」であるとはいえないので、前記相違点1は実質的な相違点である。
よって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明1であるということはできない。
次に、前記相違点2に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、本件特許明細書には、酸化焼成による焼成体及び還元焼成による焼成体の、室温から700℃における熱膨張係数を特定範囲に調整することで、十分な耐熱性が得られることが記載されている(【0038】)。
他方、甲1には、上記2(1)ウのとおり、3.5~7.5×10-6/℃の範囲の幅広い熱膨張係数を有する焼結体素地を製作でき、各種の釉薬とのマッチングを図ることができることは記載されているものの(【0031】)、酸化焼成による焼成体及び還元焼成による焼成体の、室温から700℃における熱膨張係数を、十分な耐熱性が得られるように特定範囲に制御することは記載されておらず、また、甲2、3の記載を見ても、このような事項が周知技術であることを示す証拠もない。
したがって、甲1発明1の生素地の焼成体の室温から700℃における熱膨張係数を「1.618~4.0×10-6/K」となるようにすることは、当業者にとって容易想到の事項といえないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1及び甲2、3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書において、概略、以下のとおり主張している。
(a)主張1
前記相違点2に関して、甲1発明1の生素地の成分と量が、本件発明1の発明特定事項を満たしている点、及び、甲1に記載された焼成温度の範囲が、本件特許明細書に記載された焼成温度の範囲と重複する点から、甲1発明1の生素地の焼成体の熱膨張係数が、本件発明1の耐熱原料の焼成体の熱膨張係数と同じになると考えられること(特許異議申立書第5頁第1行~第7頁第1行)。
(b)主張2
前記相違点2に関して、甲2と甲3の記載から、溶融石英の含有割合が増えることで、おのずと熱膨張係数が低くなることがわかるから、甲1発明1の生素地の焼成体の熱膨張係数が甲2や甲3に記載されている辺りの値になることが予測でき、甲1発明1に、甲2及び甲3を組み合わせた場合の熱膨張係数は、本件発明1の熱膨張係数に含まれること(特許異議申立書第7頁第2行~第8頁第3行)。
b 申立人の主張の検討
(a)主張1についての検討
上記2(3)イのとおり、原料として用いる溶融シリカの粒度が、製品の低熱膨張特性に影響を及ぼすことは、甲3(2(3)イの第2頁右上欄第6-13行)に記載されるように、周知の技術事項である。すなわち、原料の成分と量、焼成温度以外にも、例えば原料の粒度のような、焼成体の熱膨張特性に影響を及ぼす条件が存在するといえる。このことを踏まえると、甲1発明1の生素地の成分と量が、本件発明1の発明特定事項を満たし、甲1に記載された焼成温度の範囲が、本件特許明細書に記載された焼成温度の範囲と重複しているとしても、直ちに、甲1発明1の焼成体の室温から700℃における熱膨張係数が「1.618~4.0×10-6/K」を満たすということはできない。
(b)主張2についての検討
上記(a)で検討したように、原料の成分と量以外にも、焼成体の熱膨張特性に影響を及ぼす条件が存在するのであるから、溶融石英の含有割合のみから、焼成体の熱膨張係数を予測することはできない。
c 小括
よって、申立人の主張はいずれも採用できない。
ウ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲1発明2との対比
甲1発明2の「カオリン質」、「生素地」、「食器材料」、「セラミック材料」は、それぞれ本件発明5の「粘土」、「粘土原料」、「食器」、「陶磁器」に相当する。
甲1発明2の「石英ガラス」は、本件発明5の「低膨張材」に相当すると共に、「前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ」「で構成され」ることに相当する。
甲1発明2の「石英ガラス40質量%」及び「カオリン質50質量%」を「配合した」ことは、「石英ガラス」と「カオリン質」の合計100質量部に対して、前記「カオリン質」が56質量部と算出できるから、本件発明5の「前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材であること」に相当する。
したがって、本件発明5と甲1発明2とは、
「粘土原料の焼成体であり、食器である陶磁器であって、前記粘土原料が、粘土および低膨張材を主成分とし、前記低膨張材は、(1)溶融石英のみで構成され、前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材である、陶磁器。」で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
(相違点3)
本件発明5は、「耐熱陶磁器」であるのに対して、甲1発明2の「セラミック材料」は、「耐熱」性を有するか不明である点。
(イ)相違点についての検討
本件特許明細書には、「本発明は、低熱膨張係数を持つ工業素材や家庭用素材などの原料として用いられる耐熱粘土原料に関するものである。特に、直火用などの食器または調理器として使用可能な耐熱陶磁器に用いられる耐熱粘土原料に関する。」(【0001】)、「耐熱陶磁器は、土鍋やご飯炊きの様に一般家庭に広く普及している。」(【0007】)、「本発明の耐熱陶磁器は、直火に掛けた場合、経済産業省認定工場のための工業標準化法に基づいたJIS S 2400で規定されている温度差350℃以上の基準を満たすものである。また、・・・溶融石英の使用により、従来の高価なペタライトやコーディエライトを使用しない、または、使用量を低減しつつ、低膨張かつ直火に強い耐熱陶磁器が製造できる。」(【0035】)と記載されており、これらの記載を踏まえると、本件発明5の「耐熱陶磁器」とは、直火用に使用可能な耐熱性を備えるものであると認められる。
一方、甲1発明2の「セラミック材料」が、直火用に使用可能な耐熱性を有するかは不明であるから、上記相違点3は実質的なものである。
そして、甲1の明細書等を子細にみても、直火用に使用可能な耐熱性に係る記載や示唆はないし、これを記載する他の証拠もない。
以上のとおりであるから、甲1発明2において、上記相違点3に係る本件発明5の構成とすることは、当業者にとって容易想到な事項とはいえない。
よって、本件発明5は、甲1発明2ではなく、また、甲1発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)について
ア 甲2に記載の発明
申立人の主張を参酌しつつ、甲2の記載を表1のT0に注目して整理すると、甲2には、「粗粒石英ガラス41質量%、細粒石英ガラス4質量%、準長石25質量%、カオリン27.5質量%、ベントナイト2.5質量%を調合した透光素地を焼成した皿。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲2発明との対比
甲2発明の「カオリン」及び「ベントナイト」はいずれも、「粘土」に相当し、甲2発明の「透光素地」は、本件発明1の「粘土原料」に相当する。
甲2発明の「粗粒石英ガラス」及び「細粒石英ガラス」はいずれも、本件発明5の「低膨張材」に相当すると共に、「前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ」「で構成され」ることに相当する。
甲2発明の「皿」は、本件発明1の「食器」及び「陶磁器」に相当する。
甲2発明の「粗粒石英ガラス41質量%、細粒石英ガラス4質量%」、「カオリン27.5質量%、ベントナイト2.5質量%」「を調合した」ことは、これらの合計100質量部に対して、前記「カオリン」及び「ベントナイト」の合計が40質量部と算出できるから、本件発明5の「前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材であること」に相当する。
したがって、本件発明5と甲2発明とは、
「粘土原料の焼成体であり、食器である陶磁器であって、前記粘土原料が、粘土および低膨張材を主成分とし、前記低膨張材は、(1)溶融石英のみで構成され、前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材である、陶磁器。」で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
(相違点4)
本件発明5は、「耐熱陶磁器」であるのに対して、甲2発明の「皿」は、「耐熱」性を有するか不明である点。
(イ)相違点についての検討
上記(1)ウ(イ)で検討したように、本件発明5の「耐熱陶磁器」とは、直火用に使用可能な耐熱性を備えるものであると認められる。
一方、甲2発明の皿が、直火用に使用可能な耐熱性を有するかは不明であるから、上記相違点4は実質的なものである。
そして、甲2の明細書等を子細にみても、直火用に使用可能な耐熱性に係る記載や示唆はないし、これを記載する他の証拠もない
以上のとおりであるから、甲2発明において、上記相違点4に係る本件発明5の構成とすることは、当業者にとって容易想到な事項とはいえない。
よって、本件発明5は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3)申立理由3(甲3を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)について
ア 甲3に記載の発明
申立人の主張を参酌しつつ、甲3の記載を第1実施例に注目して整理すると、甲3には、「溶融シリカ40重量%、滋賀県産長石20重量%、岐阜県産粘土40重量%の比率で調合した坏土を焼成した、耐熱耐酸窯業製品。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
イ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲3発明との対比
甲3発明の「岐阜県産粘土」、「坏土」、「耐熱耐酸窯業製品」は、それぞれ本件発明5の「粘土」、「粘土原料」、「耐熱陶磁器」に相当する。
甲3発明の「溶融シリカ」は、本件発明5の「低膨張材」に相当すると共に、「前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ」「で構成され」ることに相当する。
甲3発明の「溶融シリカ40重量%」と「岐阜県産粘土40重量%」「で調合した」ことは、これらの合計100質量部に対して、前記「岐阜県産粘土」が50質量部と算出できるから、本件発明5の「前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材であること」に相当する。
したがって、本件発明5と甲3発明とは、
「粘土原料の焼成体であり、耐熱陶磁器であって、前記粘土原料が、粘土および低膨張材を主成分とし、前記低膨張材は、(1)溶融石英のみで構成され、前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材である、耐熱陶磁器。」で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
(相違点5)
本件発明5の「耐熱陶磁器」は「食器または調理器」であるのに対して、甲3発明には、「耐熱耐酸窯業製品」が「食器または調理器」であることは特定されていない点。
(イ)相違点についての検討
甲3を子細にみても、甲3発明の「耐熱耐酸窯業製品」を「食器または調理器」に用いる記載はないから、上記相違点5は実質的なものである。
次に、相違点5に係る本件発明5の特定事項の容易想到性について検討すると、上記2(3)イのとおり、甲3には、甲3発明の「耐熱耐酸窯業製品」を「レンガ等の工業製品に実用的に利用する」ことが記載されており(第2頁左上欄第10行~右上欄第13行)、甲3の記載から、当業者が「食器または調理器」用途への適用を強く動機付けられるとはいえない。また仮に、「食器または調理器」用途自体が周知であるとしても、「耐熱耐酸窯業製品」に求められる物性や形状が、「食器または調理器」に求められる物性や形状と同じであるとの証拠はないのであるから、甲3発明の「耐熱耐酸窯業製品」を、本件発明5のような「食器または調理器」に適用する動機付けを見い出すことはできない。
以上のとおりであるから、甲3発明において、上記相違点5に係る本件発明5の構成とすることは、当業者にとって容易想到な事項とはいえない。
よって、本件発明5は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3には理由がない。
(4)申立理由4(サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
(ア)低膨張材の組み合わせについて
本件発明1、5では「低膨張材は、(1)溶融石英のみ、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライト、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライト、のいずれかの組み合わせで構成され」ることが特定されている一方、本件特許明細書の実施例では上記(1)~(3)の低膨張材の記載のみであり、(4)の低膨張剤については記載がなく、(4)の組み合わせが可能であるとの合理的かつ十分な説明がないため、本件発明1、5には、発明の詳細な説明に記載されていない構成が記載されている(特許異議申立書第10頁(a)低膨張材の組み合わせ)。
(イ)低膨張材の割合について
本件発明1では、「前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が40~60質量部であり、残部が前記低膨張材であ」ること、本件発明5では、「前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材であること」が特定されている一方、本件特許明細書の実施例3~6、11、12では粘土と低膨張材がいずれも50質量部であることが記載されており、粘土が40~60質量部または粘土が10~70質量部であることについては記載されておらず、実施例から粘土が40~60質量部または粘土が10~70質量部になることの合理的かつ十分な説明がないため、本件発明1、5は、発明の詳細な説明に記載されたものではない(特許異議申立書第10頁(b)低膨張材の割合)。
イ 当審の判断
(ア)本件発明の課題について
本件発明の課題は、上記第4の2で示したとおり、「従来の高価なペタライトに大きく依存することなく低コストで製造可能であり、かつ、焼成条件に関わらず低膨張で高い耐熱性を備える耐熱陶磁器の原料となる耐熱粘土原料、および、この耐熱粘土原料の焼成体として得られる耐熱陶磁器を提供すること」といえる。
(イ)低膨張材の組み合わせについての検討
発明の詳細な説明の【0027】には、「低膨張材の組み合わせとして」、「(4)溶融石英とペタライトとコーディエライト」の場合が記載されている。
また、発明の詳細な説明の実施例3~6、11、12、15には、低膨張材として、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライトのいずれかの組み合わせで構成された低膨張材を用いた耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体及び還元焼成による焼成体について、室温から700℃における熱膨張係数が2.021~3.143×10-6/Kであることが記載されており(【0041】、表1)、低膨張材を加えない比較例1、2の耐熱粘土原料を用いた場合の熱膨張係数より小さく、ペタライトのみを加えた参考例1、2の耐熱粘土原料を用いた場合の熱膨張係数と同程度になっているから、これらの耐熱粘土原料は、本件発明の課題を解決できると認識できる。
そして、発明の詳細な説明の【0002】の「コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)またはペタライトを用いた低膨張のセラミックス焼結体は、陶磁器製品や低膨張を特徴とするセラミックとして工業に利用されている。これらは、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れていることが知られている。」との記載、及び【0003】の「日本国内での直火用の耐熱素材は、主流は、ペタライトとコーディエライトであった。陶磁器などが熱衝撃により割れる理由は、加熱・冷却に伴う体積変化による破壊である。ペタライトやコーディエライトは低い熱膨張の素材であり、これを粘土と混合することにより、耐熱性能を向上させることができる。」との記載によると、ペタライトとコーディエライトは、低膨張材として従来から用いられているものであるから、ペタライトとコーディエライトの組み合わせで低膨張性を発揮することは技術常識である。
以上のことを踏まえると、低膨張材として、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライトの組み合わせの場合においても、上記実施例と同様に、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できる。
(ウ)低膨張材の割合についての検討
上記第4の3で検討したように、発明の詳細な説明の記載から、高い熱膨張係数を有する粘土の量と、低い熱膨張係数を有するペタライトやコーディエライト、溶融石英との量比の調整により熱膨張係数を制御できるといえるところ、実施例の粘土50質量部を起点として、粘土40~60質量部または粘土10~70質量部に変更しても、熱膨張係数が本件発明の特定範囲を満たすことが可能であることを理解できるから、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる。
(エ)小括
上記(イ)及び(ウ)を踏まえると、申立人の主張する上記アの指摘事項を根拠として、本件発明1、5がサポート要件を満足していないということはできない。
ウ 申立理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由4には理由がない。
第6 むすび
以上の検討のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701211