特許異議申立
2022-700727
受動中継装置、マイクロ波ネットワーク、及び中継装置を設計する方法
- 審判番号
- 2022-700727
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-545286
- 登録番号
- 7026124
- 請求日
- 2022年07月27日
- 審決日
- 2023年06月13日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
- 【権利者代理人】藤井 憲
- 【権利者代理人】野村 和歌子
- 【権利者代理人】佃 誠玄
- 【権利者代理人】浅村 敬一
- 【権利者代理人】赤澤 太朗
- 【異議申立人】石井 良和
- 【異議申立人】北岡 弘章
- 審判長/審判官
- 審判長 土居 仁士
- 審判官 丸山 高政
- 審判官 高野 洋
- 分類
- P1652.121-YAA(H01Q) / P1652.113-YAA(H01Q) / P1652.537-YAA(H01Q) / P1652.851-YAA(H01Q)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7026124号発明「受動中継装置、マイクロ波ネットワーク、及び中継装置を設計する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7026124号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、7〕及び〔8、9〕について訂正することを認める。
特許第7026124号の請求項2、7ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7026124号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)2月19日(優先権主張 外国庁受理 2017年2月21日 アメリカ合衆国)を国際出願日として出願され、令和4年2月16日にその特許権の設定登録がされ、同年2月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項2及び7~9に係る特許に対し、同年7月27日に特許異議申立人 石井 良和(以下、「申立人1」という。)は、特許異議の申立て(この申立のための特許異議申立書を、以下では、「申立書1」という。)を行い、同請求項に係る特許に対し、同年8月22日に特許異議申立人 北岡 弘章(以下、「申立人2」という。)は、特許異議の申立て(この申立のための特許異議申立書を、以下では、「申立書2」という。)を行った。
その後の経緯の概要は以下のとおりである。
令和 5年 1月11日付け 取消理由通知書
4月10日 訂正請求書
意見書(特許権者)
5月29日 意見書(申立人1)
5月30日 意見書(申立人2)
以下では、令和5年1月11日付け取消理由通知書のことを、単に「取消理由通知書」といい、同年4月10日の訂正請求書による訂正を「本件訂正」といい、同年5月29日の意見書を「意見書1」といい、同年同月30日の意見書を「意見書2」といい、「申立人1」及び「申立人2」を総称して「申立人」という。
第2 証拠方法及び申立理由
1 証拠方法
申立人1は、次の甲第1号証~甲第6号証(以下、それぞれ「甲[1]1」~「甲[1]6」という。)を、いずれも写しとして提出した。
甲[1]1 特開2014-30139号公報
甲[1]2 国際公開第2014/020969号
甲[1]3 特開2014-72818号公報
甲[1]4 “RCSの低減に寄与するメタマテリアル”
甲[1]5 米国特許出願公開第2009/0079645号明細書
甲[1]6 広辞苑第三版、1393頁、奥付
申立人2は、次の甲第1号証~甲第5号証(以下、それぞれ「甲[2]1」~「甲[2]5」という。)を、いずれも写しとして提出した。
甲[2]1 米国特許出願公開第2009/0079645号明細書
甲[2]2 米国特許出願公開第2011/0045764号明細書
甲[2]3 特許第5371633号公報
甲[2]4 特許第5650172号公報
甲[2]5 特許第5177708号公報
なお、甲[1]5と甲[2]1は同一である。
2 申立理由
申立人1は、次の申立理由1-1及び1-2を主張する。
申立理由1-1 本件特許の請求項8に係る発明は、特許法29条1項3号に規定する甲[1]1に記載された発明と同一であるから、当該請求項についての本件特許は同法29条1項の規定に違反してなされたものである。(同法113条2号)
申立理由1-2 本件特許の請求項2及び7~9に係る発明は、甲[1]1に記載された発明、甲[1]2~甲[1]4に示される周知技術、甲[1]4及び甲[1]5に示される周知技術、並びに、甲[1]5に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項についての本件特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。(同法113条2号)
申立人2は、次の申立理由2-1-1~2-2-2を主張する。
申立理由2-1-1 本件特許の請求項2及び7~9に係る発明は、特許法29条1項3号に規定する甲[2]1に記載された発明と同一であるから、当該請求項についての本件特許は同法29条1項の規定に違反してなされたものである。(同法113条2号)
申立理由2-1-2 本件特許の請求項2及び7~9に係る発明は、甲[2]1に記載された発明、甲[2]2に記載された発明、甲[2]3及び甲[2]4に示される周知技術、並びに、甲[2]3~甲[2]5に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項についての本件特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。(同法113条2号)
申立理由2-2-1 本件特許の請求項2及び7~9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、当該請求項についての本件特許は特許法36条6項1号の規定に違反してなされたものである。(同法113条4号)
申立理由2-2-2 本件特許の請求項2及び7~9に係る発明は、明確ではないから、当該請求項についての本件特許は特許法36条6項2号の規定に違反してなされたものである。(同法113条4号)
第3 当審で通知した取消理由
取消理由通知書にて通知した取消理由は、次のとおりである。
本件特許の請求項2及び7~9に係る発明は、甲[1]3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項についての本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法113条2号に該当するから、同法114条2項の規定により取り消されるべきである。
第4 本件訂正についての判断
本件訂正について、以下の1~5のとおり判断する。
1 本件訂正の内容
本件訂正は、以下に示す訂正事項1及び訂正事項2からなる。なお、下線は訂正箇所を示す。
訂正事項1
本件訂正前の請求項2に「前記第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造は、それぞれ同様の形状を有し、」と記載されているのを、
「前記第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造は、互いに相似の形状を有し、」に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)
訂正事項2
本件訂正前の請求項8に「N×M個の位相シフト要素の配列を基材上に配置して前記中継装置を形成することであって、前記配列内の所定の位置でそれぞれの前記位相シフト要素によって提供される位相シフトは、前記配列がマイクロ波放射のビームを入力角度(θi,фi)から出力角度(θo,фo)に再配向するように選択される」と記載されているのを、
「N×M個の位相シフト要素の配列を基材上に配置して前記中継装置を形成することであって、前記配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す互いに相似形状である第1の2次元幾何学構造及び第2の2次元幾何学構造を備え、前記配列内の所定の位置でそれぞれの前記位相シフト要素によって提供される位相シフトは、前記配列がマイクロ波放射のビームを入力角度(θi,фi)から出力角度(θo,фo)に再配向するように選択される」に訂正する。(請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)
2 訂正事項1についての訂正の適否
以下、訂正事項1についての訂正の適否について検討する。
(1)訂正事項1の訂正の目的
訂正事項1は、請求項2及び7に係る発明を特定する「第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造」について、「それぞれ同様の形状を有」すると限定されていたのを、「互いに相似の形状を有」するとの限定に訂正するものである。
ここで、本件の明細書を参照すると、「更に、3つの異なる2次元幾何学構造はそれぞれ、同じ又は少なくともほぼ同様の形状(この実施形態では、円環の中央に形成されたプラス記号)を有するが、サイズが異なる。」(【0059】)との記載がある。
明細書の前記記載における「同じ又は少なくともほぼ同様の形状」であって「サイズが異なる」形状のことを、本件訂正前の請求項2では「同様の形状」と表現していると解釈され、それに対して、本件訂正後の請求項2における「互いに相似の形状」は、明細書の前記記載における「ほぼ同様の形状」を除外し、「同じ形状」で「サイズが異なる」形状のみを含めるよう表現したものと解釈される。
「互いに相似の形状」が、「同じ形状」で「サイズが異なる」形状のみを含むとの解釈は、「相似」のもつ数学的な語義、すなわち、「〔数〕二つの図形が均等に拡大または縮小して完全に重ね合わせられること。」(広辞苑、甲[1]6)、「〔数学〕一つの図形を均等に拡大または縮小して他の図形と完全に重ね合わせられるとき、もとの図形とあとの図形とを相似と言う。」(岩波国語辞典、意見書2の参考資料1)との語義とも整合する。
以上によれば、訂正事項1に係る本件訂正の目的は、特許法120条の5第2項1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当すると認められる。
(2)訂正事項1における新規事項の追加の有無
前記(1)に示したとおり、訂正事項1における「互いに相似の形状」は、本件明細書【0059】に記載された事項であるから、訂正事項1に係る本件訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(3)訂正事項1における特許請求の範囲の拡張・変更の有無
前記(1)に示したとおり、訂正事項1は、本件訂正前の請求項2及び7を減縮するものであるから、訂正事項1に係る本件訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
(4)訂正事項1についての独立特許要件の適用の有無
訂正事項1により訂正される請求項2及び7は、本件特許異議の申立てがされている請求項であるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の規定は適用されない。
3 訂正事項2についての訂正の適否
以下、訂正事項2についての訂正の適否について検討する。
(1)訂正事項2の訂正の目的
訂正事項2は、請求項8及び9に係る発明を特定する「配列」について、「前記配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す互いに相似形状である第1の2次元幾何学構造及び第2の2次元幾何学構造を備え」るとの限定を付加するものである。
そうすると、訂正事項2に係る本件訂正の目的は、特許法120条の5第2項1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当すると認められる。
(2)訂正事項2における新規事項の追加の有無
訂正事項2の「少なくとも1つの軸において繰り返す互いに相似形状である第1の2次元幾何学構造及び第2の2次元幾何学構造を備え」る点は、本件明細書【0059】及び図5に記載された事項である。特に、「互いに相似形状」である点は、前記2(1)に示したとおりである。
したがって、訂正事項2に係る本件訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
(3)訂正事項2における特許請求の範囲の拡張・変更の有無
前記(1)に示したとおり、訂正事項2は、本件訂正前の請求項8及び9を減縮するものであるから、訂正事項2に係る本件訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
(4)訂正事項2についての独立特許要件の適用の有無
訂正事項2により訂正される請求項8及び9は、本件特許異議の申立てがされている請求項であるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の規定は適用されない。
4 申立人の主張についての判断
(1)申立人は、本件明細書に「相似」という用語はなく、位相シフト要素の形状が「相似」の関係にあることを示唆する記載が存在しないから、本件訂正は新規事項の追加にあたると主張する。(意見書1(2頁)、意見書2(2~6頁))
しかしながら、前記2(1)のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)申立人1は、本件訂正により「相似」であることを新たに特定することは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更することに該当すると主張する。(意見書1(2頁))
しかしながら、前記2(1)のとおりであるから、申立人1の主張は採用できない。
5 本件訂正についての結論
前記1~4のとおりであるから、本件訂正は適法なものである。
よって、本件の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2、7〕及び〔8、9〕について訂正することを認める。
第5 本件訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された本件特許の請求項2及び7~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」及び「本件発明7」~「本件発明9」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項2及び7~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】
金属製の位相シフト要素が交互に置かれた周期配列を備え、前記配列は、少なくとも1つの軸において周期的であり、誘電体基材の第1の表面上に形成されており、前記誘電体基材の反対側の表面が、その上に形成された接地面を有し、それぞれの位相シフト要素は、マイクロ波周波数範囲において、0°~360°の位相シフトを提供し、
前記周期配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す3つの位相シフト要素の配列を備え、前記3つの位相シフト要素は、第1の2次元幾何学構造を有する第1の位相シフト要素と、第2の2次元幾何学構造を有する第2の位相シフト要素と、第3の2次元幾何学構造を有する第3の位相シフト要素とを含み、前記第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造は、互いに相似の形状を有し、前記第1の2次元幾何学構造は、前記第2の2次元幾何学構造とは異なるサイズを有し、前記第3の2次元幾何学構造は、前記第1の2次元幾何学構造及び前記第2の2次元幾何学構造とは異なるサイズを有する、中継装置。」
「【請求項7】
請求項2に記載の中継装置を1つ以上含む、マイクロ波ネットワーク。
【請求項8】
ビーム又はマイクロ波放射の方向を変更するための中継装置を形成する方法であって、
前記中継装置の複数の動作パラメータの値を選択することであって、前記動作パラメータは、動作周波数、入力角度(θi,фi)、出力角度(θo,фo)、及びサイズN*dx×m*dyを含むことと、
寸法dx及びdyを有する位相シフト要素を提供することであって、dx及びdyは、動作周波数の波長の半分以下であり、前記位相シフト要素は、前記位相シフト要素の幾何学的パラメータが変化したときに0~2π以上の反射位相シフトを更に提供することと、
N×M個の位相シフト要素の配列を基材上に配置して前記中継装置を形成することであって、前記配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す互いに相似形状である第1の2次元幾何学構造及び第2の2次元幾何学構造を備え、前記配列内の所定の位置でそれぞれの前記位相シフト要素によって提供される位相シフトは、前記配列がマイクロ波放射のビームを入力角度(θi,фi)から出力角度(θo,фo)に再配向するように選択されることと、を含む、方法。
【請求項9】
各中継装置は、金属材料を含む接地面を含み、各位相シフト要素は、2次元幾何学形状を有する金属製パッチを含む、請求項8に記載の方法。」
第6 取消理由通知書にて通知した取消理由についての判断
後の参照の便宜のため、次に示すように、請求項2及び8を、それぞれ2A~2K及び8A~8Eに分説し、「発明特定事項2A」のようにして参照する。なお、大文字のアイ(I)は、小文字のエル(l)及び算用数字の一(1)と紛らわしいため、分説記号として使用しない。
【請求項2】
2A 金属製の位相シフト要素が交互に置かれた周期配列を備え、
2B 前記配列は、
2B1 少なくとも1つの軸において周期的であり、
2B2 誘電体基材の第1の表面上に形成されており、
2C 前記誘電体基材の反対側の表面が、その上に形成された接地面を有し、
2D それぞれの位相シフト要素は、マイクロ波周波数範囲において、0°~360°の位相シフトを提供し、
2E 前記周期配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す3つの位相シフト要素の配列を備え、
2F 前記3つの位相シフト要素は、第1の2次元幾何学構造を有する第1の位相シフト要素と、第2の2次元幾何学構造を有する第2の位相シフト要素と、第3の2次元幾何学構造を有する第3の位相シフト要素とを含み、
2G 前記第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造は、互いに相似の形状を有し、
2H 前記第1の2次元幾何学構造は、前記第2の2次元幾何学構造とは異なるサイズを有し、
2J 前記第3の2次元幾何学構造は、前記第1の2次元幾何学構造及び前記第2の2次元幾何学構造とは異なるサイズを有する、
2K 中継装置。
【請求項8】
8A ビーム又はマイクロ波放射の方向を変更するための中継装置を形成する方法であって、
8B 前記中継装置の複数の動作パラメータの値を選択することであって、前記動作パラメータは、動作周波数、入力角度(θi,фi)、出力角度(θo,фo)、及びサイズN*dx×m*dyを含むことと、
8C 寸法dx及びdyを有する位相シフト要素を提供することであって、8C1 dx及びdyは、動作周波数の波長の半分以下であり、
8C2 前記位相シフト要素は、前記位相シフト要素の幾何学的パラメータが変化したときに0~2π以上の反射位相シフトを更に提供することと、
8D N×M個の位相シフト要素の配列を基材上に配置して前記中継装置を形成することであって、
8D1 前記配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す互いに相似形状である第1の2次元幾何学構造及び第2の2次元幾何学構造を備え、
8D2 前記配列内の所定の位置でそれぞれの前記位相シフト要素によって提供される位相シフトは、前記配列がマイクロ波放射のビームを入力角度(θi,фi)から出力角度(θo,фo)に再配向するように選択されることと、
8E を含む、方法。
1 甲[1]3の記載
甲[1]3には以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付した(以下、同様)。
(1)「【背景技術】
【0002】
無線通信の技術分野では、通信エリアの確保等のためにリフレクトアレーが使用されている。また、リフレクトアレーは、見通しの良い環境においても複数入力複数出力(Multiple Input Multiple Output:MIMO)方式によるスループットの向上及び/又は信頼性の強化を図る等のために使用されてもよい。従来のリフレクトアレーについては、特許文献1に記載されている。」
(2)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
開示される発明の課題は、マッシュルーム素子を有するリフレクトアレーにおいて、基板の表面に平行な電界成分を有する第1の偏波及び基板の表面に垂直な電界成分を有する第2の偏波を所望の方向に反射することが可能であり、かつ簡易な構造のリフレクトアレーを提供することである。」
(3)「【0013】
<1.リフレクトアレー>
図1は、リフレクトアレーの基本原理を説明するための説明図を示す。図示されているように、地板上に整列した複数の素子各々による反射波の位相が、隣接する素子同士の間で徐々に変化していたとする。図示の例の場合、隣接する素子各々による反射波の位相差は90度である。電波は等位相面(破線で示されている)に垂直な方向に進行するので、個々の素子からの反射位相を適切に調整しつつ、素子を二次元的に配置することでリフレクトアレーを形成し、入射波を所望の方向に反射させることができる。
【0014】
図2は、リフレクトアレー用の素子として使用可能なマッシュルーム構造を示す。マッシュルーム構造は、接地プレート51と、ビア52と、パッチ53とを有する。接地プレート51は、多数のマッシュルーム構造に対して共通の電位を供給する導体である。Δx及びΔyは、隣接するマッシュルーム構造におけるビア間のx軸方向の間隔及びy軸方向の間隔をそれぞれ示す。Δx及びΔyは、マッシュルーム構造1つ分に対応する接地プレート51のサイズを表す。一般に、接地プレート51は多数のマッシュルーム構造が並んだアレイと同程度に大きい。ビア52は、接地プレート51とパッチ53とを電気的に短絡するために設けられる。パッチ53は、x軸方向にWxの長さを有し、y軸方向にWyの長さを有する。パッチ53は、接地プレート51に対して平行に距離tを隔てて設けられ、ビア52を介して接地プレート51に短絡される。図示の簡明化のため、図2ではマッシュルーム構造が2つしか示されていないが、リフレクトアレーには、このようなマッシュルーム構造がx軸及びy軸方向に多数設けられている。
【0015】
図2に示す例の場合、リフレクトアレーを構成する個々の素子はマッシュルーム構造で構成されている。しかしながらこのことは実施の形態に必須ではない。電波を反射する任意の素子でリフレクトアレーが形成されてよい。例えば、正方形のパッチの代わりに、リング状の導電性パターン(図3(1))、十字型の導電性パターン(図3(2))、並列的な複数の導電性パターン(図3(3))等を有する素子が使用されてもよい。また、マッシュルーム構造において、パッチと接地プレートとを接続するビアがない構造(図3(4))が使用されてもよい。ただし、上記のように素子にマッシュルーム構造を採用することは、小さな反射素子を簡易に設計できる等の観点から好ましい。」
(4)「【0018】
【数1】
[図:0001401641000001.jpg]
数式(1)において、ε0は真空の誘電率を表し、εrはパッチ同士の間に介在する材料の比誘電率を表す。素子間隔は上記の例の場合、y軸方向のビア間隔Δyである。ギャップgyは隣接するパッチ同士の隙間であり、上記の例の場合、gy=Δy-Wyである。Wyはy軸方向のパッチの長さを表す。すなわち、arccosh関数の引数は、素子間隔とギャップとの比率を表す。数式(2)において、μはビア同士の間に介在する材料の透磁率を表し、tはパッチ53の高さ(接地プレート51からパッチ53までの距離)を表す。数式(3)において、ωは角周波数を表し、jは虚数単位を表す。数式(4)において、ηは自由空間インピーダンスを表し、φは位相差を表す。
【0019】
図7は、図2、図4及び図5に示すようなマッシュルーム構造のパッチのサイズWyと反射位相との関係を示す。概して、マッシュルーム構造(素子)の反射位相は、ある共振周波数において0になる。素子のキャパシタンスC及び/又はインダクタンスLを調整することで、素子が共振周波数の電波を反射する際の反射位相を調整することができる。リフレクトアレーの設計においては、共振周波数の電波が所望方向に反射するように、キャパシタンスC及び/又はインダクタンスLにより個々の素子の反射位相を適切に設定する必要がある。図中、実線は理論値を示し、丸印でプロットされているものは有限要素法解析によるシミュレーション値を示す。図7は、4種類のビアの高さ又は基板の厚みtの各々について、パッチのサイズWyと反射位相との関係を示す。t02は距離tが0.2mmである場合のグラフを表す。t08は距離tが0.8mmである場合のグラフを表す。t16は距離tが1.6mmである場合のグラフを表す。t24は距離tが2.4mmである場合のグラフを表す。ビア間隔又は素子間隔Δx及びΔyは、一例として2.4mmである。」
(5)「【0021】
図2、図4及び図5に示すようなマッシュルーム構造で素子を形成する場合、x軸方向のパッチサイズWxは全ての素子で同一であり、y軸方向のパッチサイズWyが素子の場所によって異なる。しかしながら、パッチサイズWxが全ての素子で共通することは必須ではなく、素子毎に異なるように設計することも可能である。ただし、パッチサイズWxが全ての素子で同一であるマッシュルーム構造を用いてリフレクトアレーを設計する場合、y軸方向のパッチサイズWyのみを、素子の場所に応じて決定すればよいので、設計が簡易になる。具体的には、様々なビアの高さ又は基板の厚みtの内、設計に使用するもの(例えば、t24)を選択し、整列する複数のパッチ各々のサイズが、そのパッチの位置で必要な反射位相に応じて決定される。例えば、t24が選択されていた場合において、あるパッチの位置で必要な反射位相が72度であった場合、パッチのサイズWyは約2mmである。同様にして、他のパッチについてもサイズが決定される。理想的には、リフレクトアレーの中で整列している1つの素子群全体による反射位相の変化が360度であるように、パッチサイズが設計されていることが好ましい。
【0022】
ところで、図4及び図5に示す構造において、電界の振幅方向がy軸方向である電波がリフレクトアレーに入射した場合、反射波はzx面内で反射位相が変化している方向、すなわちy軸方向に対して垂直方向又は横方向(x軸方向)に傾く。このようにして反射波を制御することを便宜上「水平制御」と言及する。しかしながら本発明は水平制御に限定されない。例えば、図4及び図5に示す構造の代わりに、図8に示すような構造でリフレクトアレーを構成し、電界の振幅方向がx軸方向である電波を、電界の方向に対して平行に反射させる、すなわち縦方向(x軸方向)に傾けることが可能である。このようにして反射波を制御することを便宜上「垂直制御」と言及する。垂直制御を行う場合において、パッチサイズとギャップはいくつかの方法によって決めることができる。例えば、図9に示すように素子の間隔Δxを共通とし且つ個々のパッチを非対称にしてもよいし、図10に示すように個々のパッチを対称にし且つ素子の間隔を異ならせてもよいし、図11に示すように素子の間隔Δxを共通とし且つ個々のパッチを対称に設計してもよい。これらは一例に過ぎず、適切な如何なる方法でパッチサイズ及びギャップが決定されてもよい。」
(6)「【0025】
以上の考察から、同じ方向から到来するTE波及びTM波を所望方向にそれぞれ反射させるためには、TE波が所望方向に反射するようにx軸方向のギャップgxを設計し、かつTM波が所望方向に反射するようにy軸方向のギャップgyを設計すればよいことが分かる。TE波の所望方向とTM波の所望方向は同一であってもよいし、異なっていてもよい。TE波及びTM波の周波数は、同一でもよいし、異なっていてもよい。TE波及びTM波の周波数が異なる場合については、後述する<3.偏波共用マルチバンド>において説明する。
【0026】
図13は、TE波及びTM波を同一方向に反射させるリフレクトアレーの1周期分の素子列を示す。実際のリフレクトアレーは、図示の1周期分の素子列が、x軸及びy軸方向に複数個配置されている。図14は、図13に示す1周期分の素子列が多数並んでいるリフレクトアレーにおいて、y軸方向に並ぶ2つの素子列の平面図を示す。
【0027】
図15は図13及び図14に示す10個の素子各々の各種のパラメータの値を示す。具体的には、y軸方向のギャップgyの寸法、そのギャップgyに対応する反射位相(すなわち、TM波に対する反射位相)、x軸方向のギャップgxの寸法、そのギャップgxに対応する反射位相(すなわち、TE波に対する反射位相)、y軸方向のパッチサイズWy及びx軸方向のパッチサイズWxの具体的な数値が示されている。隣接する素子各々による反射波の位相差は、36度(2π/10ラジアン)である。一般に、ある1周期分の素子列をxy平面上で反復的に設けることでリフレクトアレーを構成する観点からは、隣接する素子各々による反射位相の差分が、360の整数倍の約数(例えば、36度)であることが好ましい。ただし、反射位相差が360の整数倍の約数に厳密に一致することは必須ではなく、実質的に一致していればよい。例えば、27は厳密には360の約数ではないが、反射位相差を27度ずつ変化させながら13個の素子を並べることで、実質的に360度の反射位相の範囲をカバーすることができるので、27度のような反射位相差が使用されてもよい。」
(7)「【0035】
【数2】
[図:0001401641000002.jpg]
ただし、共振周波数rfは、
rf=fp/√εr=(kpc)/√εr・・・(7)
により表現されるものとする。fpはプラズマ周波数を示す。εrはパッチ及び地板の間に介在する誘電体基板の比誘電率を示す。cは光速を示す。プラズマ周波数fpはプラズマ波数kpと次の関係を満たす。」
(8)「【0041】
【数7】
[図:0001401641000003.jpg]
図18はx軸方向及びy軸方向に素子が等間隔で整列したリフレクトアレーにTE波及びTM波が入射した場合の反射波の反射位相を周波数の関数として示す。シミュレーションでは、基板の比誘電率εrが4.5であり、ビアの高さ(すなわち、地板とパッチとの間の距離)tが1.52mmであり、x軸方向の素子間隔Δxが4.1mmであり、y軸方向の素子間隔Δyも4.1mmであるとしている。TE波及びTM波の入射方向は何れも(θi,φi)=(20度,270度)である。図示されているように、TE波の場合、周波数が5GHzから増加する際に反射位相は150度から徐々に減少し、周波数が9GHz(fM)のときに反射位相は0になり、更に周波数が増加するにつれて反射位相は減少している。TM波の場合、周波数が5GHzから増加する際に反射位相は150度から急速に減少し、周波数が8.25GHz(fL)のときに反射位相は0になり、周波数が増加するにつれて反射位相は減少し、周波数が10GHzを超えると反射位相は約-180度に達している。周波数が更に増加すると反射位相は+180度になり、急速に減少し、周波数が11GHz(fH)のときに反射位相は0になり、更に周波数が増加するにつれて反射位相は減少している。このようにTM波の場合、反射位相が0度となる周波数が2つ存在している(fL、fH)。このような減少は、二共振又はスプリアス共振と言及される。上述したように、マッシュルーム構造(素子)の反射位相は、共振周波数において0になり、リフレクトアレーを構成する複数の素子のキャパシタンスC及び/又はインダクタンスLを調整することで、その共振周波数の電波を所望方向に反射させることができる。
【0042】
従って、異なる偏波の周波数として、0度の反射位相をもたらす周波数fL、fM又はfHを使用することで、異なる周波数の偏波を所望方向にそれぞれ反射させるリフレクトアレーを実現できる。すなわち、第1の周波数のTE波を適切に反射するようにx軸方向のギャップgxを設計し、第2の周波数のTM波を適切に反射するようにy軸方向のギャップgyを設計することで、マルチバンドで2つの偏波を各自の所望方向にそれぞれ反射させることができる。<2.偏波共用シングルバンド>において説明したように、x軸方向の電界成分を有する電波を所望方向に反射させる場合、x軸方向のギャップgxが反射波に支配的に強く影響する一方、y軸方向の電界成分を有する電波を所望方向に反射させる場合、y軸方向のギャップgyが反射波に支配的に強く影響する。マルチバンドの場合もこの点は同じである。以下に説明する例では、TE波の周波数(第1の周波数)がfL=8.25GHzであり、TM波の周波数(第2の周波数)がfH=11GHzであるとするが、このことは必須でない。
【0043】
図19は、マッシュルーム構造の素子のy軸方向のギャップサイズgyと反射位相との間の関係を示す。図19において電波はTM波であり、入射角θiは20度である。図示のグラフの形状は単なる一例にすぎず、他のパラメータの値が使用される場合は他の形状になる。図20はマッシュルーム構造の素子のx軸方向のギャップサイズgxと反射位相との間の関係を示す。図20において電波はTE波であり、入射角θiは20度である。図示のグラフの形状も単なる一例にすぎず、他のパラメータの値が使用される場合は他の形状になる。リフレクトアレーを実現する場合、第1の周波数fLのTE波を適切に反射するようにx軸方向のギャップgxを設計し、第2の周波数fHのTM波を適切に反射するようにy軸方向のギャップgyを設計する必要がある。
【0044】
ギャップサイズgx、gy及び反射位相の決定の仕方の一例として、次のようにすることが考えられる。まず、或る素子でTM波に対して実現すべき反射位相を決定し、図19に示すグラフにおいて、その反射位相に対応するy軸方向のギャップサイズgyの値を求める。次に、図20において、y軸方向のギャップサイズがgyである場合のグラフを用いて、x軸方向のギャップサイズgx及び反射位相を決定する。この手順を反復することで個々の素子のギャップサイズgx及びgyを決定することができる。例えば、TM波に対する反射位相を-150度とする場合、y軸方向のギャップサイズgyは0.15mmであることが図19から分かる。図20において、y軸方向のギャップサイズgyが0.15mmである場合のグラフを用いて、x軸方向のギャップサイズgx及び反射位相が決定される。TM波に対する反射位相を+70度とする場合、y軸方向のギャップサイズgyは0.89mmであることが図19から分かる。図20において、y軸方向のギャップサイズgyが0.89mmである場合のグラフを用いて、x軸方向のギャップサイズgx及び反射位相が決定される。TM波に対する反射位相を+140度とする場合、y軸方向のギャップサイズgyは1.62mmであることが図19から分かる。図20において、y軸方向のギャップサイズgyが1.62mmである場合のグラフを用いて、x軸方向のギャップサイズgx及び反射位相が決定される。このようなギャップサイズgx、gy及び反射位相の決定の仕方は単なる一例にすぎず、適切な如何なる方法でギャップサイズgx、gy及び反射位相が決定されてもよい。」
(9)「【0045】
<<3.2 周期境界>>
素子のパッチ間のギャップサイズgx及びgyをx軸方向に沿って変化させ、TE波及びTM波の反射位相がx軸方向に沿って徐々に変化するようにすることでリフレクトアレーを構成する場合、反射位相をy軸方向にも変化させることは困難である。従って、リフレクトアレーを構成する1周期分の素子列が、x軸方向に1列に並ぶ複数の素子により形成され、その素子列を多数は位置することでリフレクトアレーを形成することが望ましい。このように素子列に周期境界を設定することで、リフレクトアレーの設計を大幅に簡易化できる。」
(当審注:【0045】の「その素子列を多数は位置することで」は、「その素子列を多数配置することで」の誤記と認める。)
(10)「【0046】
以下、そのような周期境界を設定するための条件を導出する。
【0047】
電波の入射方向及び反射方向が図17Aに示すように設定されているとする。図示の例の場合、入射波は(rθφ)極座標において、θ=θi及びφ=φiの方向から到来し、反射波はθ=θr及びφ=φrの方向へ進んでいる。原点はリフレクトアレーにおける1つの素子に対応する。入射波が進行する方向に沿う入射単位ベクトルuiは、次のように書ける。」
(11)「【0049】
ur=(urx,ury,urz)=(sinθrcosφr,sinθrsinφr,cosθr) ・・・(18)
図21に示すように、リフレクトアレーを構成する複数の素子各々の中心座標が、(mΔx,nΔy,0)にあるとする。ただし、m=0,1,2,...Nx及びn=0,1,2,...Nyであり、Nxはmの最大値及びNyはnの最大値である。x軸方向にm番目及びy軸方向にn番目の素子(便宜上、mn番目の素子と言及する)の位置ベクトルrmnは、次のように書ける。
rmn=(mΔx,nΔy,0) ・・・(19)
この場合、mn番目の素子で実現すべき反射位相αmn(f)は、次のように書ける。
αmn(f)=(2πf/c)(rmn・ui-rmn・ur)+2πN ・・・(20)
ただし、「・」はベクトルの内積を表す。cは光速を表し、fは電波の周波数(f=c/λ)を表し、λは電波の波長を表す。(20)式に(17)-(19)式を代入すると、mn番目の素子で実現すべき反射位相αmn(f)は、次のように書ける。
【0050】
αmn(f)=(2πf/c)(mΔxsinθicosφi+nΔysinθisinφi
-mΔxsinθrcosφr-nΔysinθrsinφr)
=(2πf/c)mΔx(sinθicosφi-sinθrcosφr)
+(2πf/c)nΔy(sinθisinφi-sinθrsinφr)・・・(21)
ただし、2πN=0であるとしたが、一般性は失われない。なお、αmn(f)は数式(21)により任意の値に設定可能である。しかしながら、ある1周期分の素子配列をxy平面上で反復的に設けることでリフレクトアレーを構成する観点からは、隣接する素子各々による反射位相の差分(αmn(f)-αm-1n(f)又はαmn(f)-αmn-1(f))が、360の整数倍の約数(例えば、36
度)であることが好ましい。」
(12)「【0065】
例えば、目下の例の場合、第1の周波数はfL=8.25GHzであり、第2の周波数はfH=11GHzであるので、TM波の場合の隣接する素子の反射位相差Δαx(fH)が36度であったとすると、TE波の場合の隣接する素子の反射位相差Δαx(fL)は、36×8.25/11=約27度となる。27は厳密には360の約数ではないが、反射位相差を27度ずつ変化させながら13個の素子を並べることで、実質的に360度の反射位相の範囲をカバーすることができる。TE波及びTM波の入射方向が(θi,φi)=(20度,270度)であり、反射波の所望方向が(θr,φr)=(48度,27度)であるとする。反射位相差が36度である場合、360度の反射位相の範囲をカバーするのに必要な素子数は、360/36=10個である。反射位相差が27.3度である場合、360度の反射位相の範囲をカバーするのに必要な素子数は、360/27=約13個である。この場合、x軸方向に1列に並ぶ40個の素子でリフレクトアレーの1周期分を形成し、その1周期分の中に、TE波を反射させるための13個の素子が3周期分含まれ、TM波を反射させるための10個の素子が4周期分含まれるようにすることができる。
【0066】
図22はそのような40個の素子による1周期分の素子列の平面図を示す。このような素子列をx軸方向及びy軸方向に複数個並べることで、リフレクトアレーを形成できる。図23は図22に示す40個の素子各々の各種のパラメータの値を示す。具体的には、TM波に対する位相、y軸方向のギャップgyの寸法、TE波に対する位相、x軸方向のギャップgxの寸法、y軸方向のパッチサイズWy及びx軸方向のパッチサイズWxの具体的な数値が示されている。図示されているように、隣接する素子各々による反射波の位相差は、TM波の場合は36度であり、TE波の場合は27度である。」
(13)「【0067】
図24は、図22及び図23に示される1周期分の素子列を多数含むリフレクトアレーに対するレーダー反射断面積(Radar Cross Section:RCS)(dBsm)を示すシミュレーション結果である。入射及び反射する電波は8.25GHzのTE波である。グラフの横軸はz軸からの偏角θを示す。TE波の入射方向は(θi,φi)=(20度,270度)であり、反射波の所望方向は(θr,φr)=(48度,27度)である。Eθは反射波のθ方向の電界成分を示し、Eφは反射波のφ方向の電界成分を示す。図示のRCSは、x軸からの偏角φ=φr=27度の面内(所望方向)における値である。何れの電界成分も所望方向のθ=θr=48度において強いピークを示している。」
(14)図2
図2として、「マッシュルーム構造により素子が形成されている様子を示す図」との説明書きの下に、以下の図が掲載されている。
[図:0001401641000004.jpg]
(15)図3
[図:0001401641000005.jpg]
(16)図13
[図:0001401641000006.jpg]
図13及び図2によれば、TE波及びTM波を同一方向に反射させるリフレクトアレーの1周期分の素子列は、10個のビア52及びパッチ53がx軸方向に列を成したものであると理解される。
(17)図14
図14として、「1周期分の素子列がy軸方向に2つ並べられている様子を示す平面図」との説明書きの下に、以下の図が掲載されている。
[図:0001401641000007.jpg]
図14によれば、1周期分のパッチ53は、いずれもxy平面内の四角形である。
(18)図15
図15として、「図13及び図14に示す10個の素子各々の各種のパラメータの値を示す図」との説明書きの下に、以下の表が掲載されている。
[図:0001401641000008.jpg]
図15及び【0014】によれば、それぞれのパッチ53のx軸方向の長さ(Wx)及びy軸方向の長さ(Wy)は異なる。
(19)図22
図22として、「40個の素子で形成される1周期分の素子列に対する平面図」との説明書きの下に、以下の表が掲載されている。
[図:0001401641000009.jpg]
図22によれば、1周期分の素子は、いずれもxy平面内の四角形を備える。
2 甲[1]5(甲[2]1)の記載
甲[1]5(甲[2]1)には以下の記載がある。
(1)「[0017] Description of Apparatus
[0018] Referring now to FIG. 1, a exemplary reflect array 100 of a known configuration may include a two-dimensional array or grid of conductive elements, such as conductive element 120. The dimensions and shape of each conductive element may determine the electrical phase shift induced when microwave radiation is reflected from the reflect array. Thus the conductive elements will be referred to herein as “phasing elements”. The phasing elements may be disposed on a rectangular grid and the distance between adjacent rows and columns of phasing elements may be Dgrid. In this description, the terms “rows” and “columns” refer to the elements of the reflect array as shown in the figures and do not imply any absolute orientation of the reflect array. The reflect array 100 may be adapted to reflect microwave radiation within a predetermined wavelength band. The distance Dgrid may be less than one wavelength, and may be about 0.5 wavelengths, of the microwave radiation in the predetermined frequency band.」
(当審訳:
[0017] 装置の説明
[0018] ここで図1を参照すると、既知の構成の典型的な反射アレイ100は、導電性要素120などの導電性要素の2次元アレイ又はグリッドを含んでも構わない。各導電性要素の寸法と形状は、マイクロ波放射が反射アレイから反射されたときにもたらされる電気的な位相シフトを決定しても構わない。それゆえ、導電性要素は、ここにおいて、「位相要素」と称されるだろう。位相要素は長方形格子に配置されても構わず、位相要素の隣接する行及び列間の距離はDgridであっても構わない。この説明において、用語「行」及び「列」は、図に示されるような反射アレイの要素を参照し、反射アレイの絶対的な配置を暗示するものではない。反射アレイ100は、所定波長帯のマイクロ波放射を反射するように構成されても構わない。距離Dgridは、所定周波数帯のマイクロ波放射の1波長よりも短く、約0.5波長であっても構わない。)
(2)「[0019] As illustrated in the exemplary reflect array 100, each phasing element may have an “X” shape, but the phasing elements may have other shapes. X-shaped phasing elements may operate as crossed dipole structures, and may be characterized by dimensions Ldipole and Wdipole. At least one dimension of the phasing elements may be varied across the reflect array. In the exemplary reflect array 100, the dimension Ldipole is varied between the rows and columns of the reflect array such that phasing element 122 has the largest value of Ldipole and phasing element 124 has the smallest value of Ldipole. As will be described subsequently, a variation in the size of the phasing elements may be used to control the phase shift of microwave energy reflected from the reflect array and thus vary the wavefront of the reflected microwave energy.」
(当審訳:
[0019] 典型的な反射アレイ100に示されるように、各位相要素は、“X”状を有しても構わないが、位相要素は、他の形状を有しても構わない。“X”状の位相要素は、交差ダイポール構造として動作しても構わず、寸法Ldipole及びWdipoleによって特徴付けられても構わない。位相要素の少なくとも1つの寸法は、反射アレイにわたって変化しても構わない。典型的な反射アレイ100では、位相要素122がLdipoleの最大値を有し、位相要素124がLdipoleの最小値を有するように、寸法Ldipoleは反射アレイの行と列の間で変化する。続いて説明するように、位相要素のサイズの変化は、反射アレイから反射されるマイクロ波エネルギーの位相シフトを制御するために使用され、したがって、反射マイクロ波エネルギーの波面を変化させるために使用されても構わない。)
(3)「[0020] The width of the dipole elements (Wdipole) may not be critical to the performance of the reflect array. The width of the dipole elements may be from 0.01 to 0.1 times the wavelength of operation of the reflect array, or some other dimension.」
(当審訳:
[0020] ダイポール要素の幅(Wdipole)は、反射アレイの性能には重要ではないかもしれない。ダイポール要素の幅は、反射アレイの動作波長の0.01から0.1倍か、他の寸法であっても構わない。)
(4)「[0021] Referring now to FIG. 2, an exemplary reflect array 200, which may be the reflect array 100 or another reflect array, may include a dielectric substrate 210 having a first surface 212 and a second surface 214. The dielectric substrate may be a ceramic material, a composite material such as DUROID○R (available from Rogers Corporation), or some other dielectric material suitable for use at the frequency of interest. The dielectric substrate 210 may have a thickness t. The thickness t may be substantially less than one wavelength of the microwave radiation in the predetermined frequency band to prevent higher-order diffraction modes from being reflected by the reflect array. The thickness may be about 0.1 times the wavelength of operation of the reflect array.」
(当審注:上記において「○R」はRの文字が○で囲われたものを表す。)
(当審訳:
[0021] ここで図2を参照すると、典型的な反射アレイ200、これは反射アレイ100又は別の反射アレイであっても構わないが、該反射アレイは、誘電体基板210を含んでも構わず、該基板は第1表面212及び第2表面214を有する。誘電体基板は、セラミック材料、DUROID(登録商標)(ロジャースコーポレーションから入手可能)のような複合材料、又は目的の周波数での使用に適した誘電体材料であっても構わない。誘電体基板210は、厚さtを有しても構わない。厚さtは、所定周波数帯のマイクロ波放射の1波長よりも実質的に薄くしても構わず、こうした結果、高次回折モードが反射アレイによって反射されない。厚さは、反射アレイの動作波長の約0.1倍であっても構わない。)
(5)「[0022] The second surface 214 may support a conductive layer 230. The conductive layer 230 may be continuous over the second surface 214 and may function as a ground plane. The conductive layer 230 may be a thin metallic film deposited onto the second surface 214, or may be a metallic foil laminated to the second surface 214. The conductive layer 230 may be a metal element, such as a metal plate that may also function as a heat sink, bonded or otherwise affixed to the second surface 214.」
(当審訳:
[0022] 第2表面214は、導電層230を支持しても構わない。導電層230は、第2表面214の上に連続していても構わず、接地面として機能しても構わない。導電層230は、第2表面214上に堆積された金属薄膜であっても構わないし、第2表面214に積層された金属箔であっても構わない。また、導電層230は、ヒートシンクとしても機能し得る金属板などの金属素子を、第2表面214に接着またはその他の方法で貼り付けたものであっても構わない。)
(6)「[0023] The first surface 212 may support an array of conductive phasing elements such as element 220. The phasing elements may be formed by patterning a thin metallic film deposited onto the first surface 210, or by patterning a thin metallic foil laminated onto the first surface 210, or by some other method.」
(当審訳:
[0023] 第1表面212は、要素220のような導電性位相要素のアレイを支持しても構わない。位相要素は、第1表面210に置かれた金属薄膜のパターニングによって、又は、第1表面210に積層された薄い金属箔のパターニングによって、又は、他の方法によって、形成されても構わない。)
(7)「[0024] At least one dimension of the phasing elements may be varied across the reflect array 200. In the example of FIG. 2, the length of the phasing elements is varied such that phasing element 220 is longer than phasing element 222. The variation in the dimension of the phasing elements may result in a variation of the phase shift of microwave radiation reflected from the reflect array 200. For example, incident microwave radiation 242 may be reflected with a phase shift of φ1, incident microwave radiation 244 may be reflected with a phase shift of φ2, and incident microwave radiation 246 may be reflected with a phase shift of φ3. The variation in phase shift across the reflect array 200 may redirect and/or change the wavefront of the reflected microwave radiation. In the example of FIG. 2, incident microwave radiation 242, 244, 246 may be portions of a spherical wave emanating from a point source 240. The reflected wavefront 250 may be a plane, or collimated wavefront. Thus, in the example of FIG. 2, the planar reflect array 200 may emulate the optical characteristics of an off-axis parabolic reflector.」
(当審訳:
[0024] 位相要素の少なくとも1つの寸法は、反射アレイ200にわたって変化しても構わない。図2の例では、位相要素の長さは変化しており、位相要素220は位相要素222よりも長い。位相要素の寸法の変化は、反射アレイ200から反射されたマイクロ波放射の位相シフトの変化をもたらす。例えば、入射マイクロ波放射242はφ1の位相シフトとともに反射されても構わず、入射マイクロ波放射244はφ2の位相シフトとともに反射されても構わず、入射マイクロ波放射246はφ3の位相シフトとともに反射されても構わない。反射アレイ200にわたる位相シフトの変化は、反射マイクロ波放射の波面を方向転換及び/又は変化させても構わない。図2の例では、入射マイクロ波放射242、244、246は、点光源240から発せられる球状波の一部であっても構わない。反射波面250は平面の又は平行な波面であっても構わない。したがって、図2の例では、平面的な反射アレイ200は、軸外しパラボラ反射器の光学特性をエミュレートしても構わない。)
(8)「[0025] It should be understood that the exemplary reflect array 200 is a bidirectional device also capable of focusing a collimated input beam to a point.」
(当審訳:
[0025] 典型的な反射アレイ200は、双方向デバイスであり、平行な入射ビームを1点に集束させる能力があることも、理解されるべきである。)
(9)「[0026] By properly varying the phase shift across the extent of a reflect array, a reflect array having a first curvature may be adapted to emulate the optical characteristics of a reflector having a second curvature different from the first curvature. A planar reflect array may be adapted to emulate a parabolic reflector, a spherical reflector, a cylindrical reflector, a torroidal reflector, a conic reflector, a generalized aspheric reflector, or some other curved reflector. A reflect array having a simple curvature, such as a cylindrical or spherical curvature, may be adapted to emulate a reflector having a complex curvature such as a parabolic reflector, a torroidal reflector, a conic reflector, or a generalized aspheric reflector.」
(当審訳:
[0026] 反射アレイの範囲にわたって位相シフトを適切に変化させることにより、第1曲率を持つ反射アレイは第1曲率とは異なる第2曲率を持つ反射器の光学特性をエミュレートするように構成されても構わない。平面的な反射アレイは、パラボラ反射器、球面反射器、円筒反射器、トロイダル反射器、円錐反射器、一般化された非球面反射器、又は、他の曲面反射器をエミュレートするように構成されても構わない。円筒又は球面曲率のような単純な曲率を持つ反射アレイは、パラボラ反射器、円錐反射器、又は一般化された非球面反射器のような複雑な曲率を持つ反射器をエミュレートするように構成されても構わない。)
(10)FIG. 1
[図:0001401641000010.jpg]
(11)FIG. 2
[図:0001401641000011.jpg]
3 引用発明の認定
甲[1]3の背景技術の記載として、「無線通信の技術分野では、通信エリアの確保等のためにリフレクトアレーが使用されている。」(【0002】)との記載がある。当該記載は、無線通信の技術分野におけるリフレクトアレーの一般的な説明をしたものと認められ、該説明は、甲[1]3に記載された実施形態のリフレクトアレーについても妥当すると解される。
(1)引用発明1の認定
前記1の記載によれば、甲[1]3には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、引用発明1を1a~1tに分説し、「分説1a」などのようにして参照する(以下同様)。なお、小文字のエル(l)は、大文字のアイ(I)及び算用数字の一(1)と紛らわしいため、分説記号として使用しない。
「1a 無線通信の技術分野で通信エリアの確保等のために使用されるリフレクトアレーであって、(【0002】)
1b リフレクトアレーは、基板の表面に平行な電界成分を有する第1の偏波及び基板の表面に垂直な電界成分を有する第2の偏波を所望の方向に反射することが可能であり、(【0007】)
1c リフレクトアレーを構成する個々の素子はマッシュルーム構造で構成され、(【0015】)
1d マッシュルーム構造は、接地プレート51と、ビア52と、パッチ53とを有し、(【0014】)
1e 接地プレート51は、多数のマッシュルーム構造に対して共通の電位を供給する導体であり、(【0014】)
1f ビア52は、接地プレート51とパッチ53とを電気的に短絡するために設けられ、(【0014】)
1g 例えば、正方形のパッチの代わりに、リング状の導電性パターン、十字型の導電性パターン、並列的な複数の導電性パターン等を有する素子が使用されてもよく、(【0015】)
1h 理想的には、リフレクトアレーの中で整列している1つの素子群全体による反射位相の変化が360度であるように、パッチサイズが設計されていることが好ましく、(【0021】)
1i リフレクトアレーは、1周期分の素子列が、x軸及びy軸方向に複数個配置され、(【0026】)
1j TE波及びTM波を同一方向に反射させるリフレクトアレーの1周期分の素子列は、10個のビア52及びパッチ53がx軸方向に列を成したものであり、(図13)
1k 1周期分のパッチ53は、いずれもxy平面内の四角形であり、(図14)
1m それぞれのパッチ53のx軸方向の長さ(Wx)及びy軸方向の長さ(Wy)は異なり、(図15)
1n gx及びgyは素子のパッチ間のギャップサイズであり、(【0045】)
1o 素子各々において、TM波に対する反射位相はy軸方向のギャップgyの寸法に対応し、TE波に対する反射位相はx軸方向のギャップgxの寸法に対応し、(【0027】)
1p 隣接する素子各々による反射波の位相差は、36度であり、(【0027】)
1q 誘電体基板は、パッチ及び地板の間に介在し、(【0035】)
1r TE波の周波数(第1の周波数)がfL=8.25GHzであり、TM波の周波数(第2の周波数)がfH=11GHzであり、(【0042】)
1s ある1周期分の素子配列をxy平面上で反復的に設けることでリフレクトアレーを構成する観点からは、隣接する素子各々による反射位相の差分が、360の整数倍の約数であることが好ましい、(【0050】)
1t リフレクトアレー。」
(2)引用発明2の認定
前記1の記載によれば、甲[1]3には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「2a リフレクトアレーを構成する1周期分の素子列が、x軸方向に1列に並ぶ複数の素子により形成され、その素子列を多数配置することでリフレクトアレーを形成することであって、(【0045】)
2b リフレクトアレーは、無線通信の技術分野で通信エリアの確保等のために使用され、(【0002】)
2c リフレクトアレーは、基板の表面に平行な電界成分を有する第1の偏波及び基板の表面に垂直な電界成分を有する第2の偏波を所望の方向に反射することが可能であり、(【0007】)
2d Δx及びΔyは、隣接するマッシュルーム構造におけるビア間のx軸方向の間隔及びy軸方向の間隔をそれぞれ示し、Δx及びΔyは、マッシュルーム構造1つ分に対応する接地プレート51のサイズを表し、(【0014】)
2e ビア間隔又は素子間隔Δx及びΔyは、一例として2.4mmであり、(【0019】)
2f シミュレーションでは、x軸方向の素子間隔Δxが4.1mmであり、y軸方向の素子間隔Δyも4.1mmであるとしており、(【0041】)
2g 同じ方向から到来するTE波及びTM波を所望方向にそれぞれ反射させるためには、TE波が所望方向に反射するようにx軸方向のギャップgxを設計し、かつTM波が所望方向に反射するようにy軸方向のギャップgyを設計すればよく、TE波の所望方向とTM波の所望方向は同一であってもよいし、異なっていてもよく、TE波及びTM波の周波数は、同一でもよいし、異なっていてもよく、(【0025】)
2h TE波の周波数(第1の周波数)がfL=8.25GHzであり、TM波の周波数(第2の周波数)がfH=11GHzであり、(【0042】)
2i 入射波は(rθφ)極座標において、θ=θi及びφ=φiの方向から到来し、反射波はθ=θr及びφ=φrの方向へ進み、(【0047】)
2j リフレクトアレーを構成する複数の素子各々の中心座標が、(mΔx,nΔy,0)にあるとし、ただし、m=0,1,2,...Nx及びn=0,1,2,...Nyであり、Nxはmの最大値及びNyはnの最大値であり、x軸方向にm番目及びy軸方向にn番目の素子を、mn番目の素子と言及し、(【0049】)
2k TE波及びTM波の入射方向が(θi,φi)=(20度,270度)であり、反射波の所望方向が(θr,φr)=(48度,27度)であるとし、(【0065】)
2m mn番目の素子で実現すべき反射位相αmn(f)は、
αmn(f)=(2πf/c)mΔx(sinθicosφi-sinθrcosφr)
+(2πf/c)nΔy(sinθisinφi-sinθrsinφr)であり、(【0049】、【0050】)
2n 反射位相差を27度ずつ変化させながら13個の素子を並べることで、実質的に360度の反射位相の範囲をカバーすることができ、反射位相差が36度である場合、360度の反射位相の範囲をカバーするのに必要な素子数は、360/36=10個であり、(【0065】)
2o リフレクトアレーは、1周期分の素子列が、x軸及びy軸方向に複数個配置され、(【0026】)
2p x軸方向に1列に並ぶ40個の素子でリフレクトアレーの1周期分を形成し、(【0065】)
2q 1周期分の素子は、いずれもxy平面内の四角形を備える(図22)
2r リフレクトアレーを形成すること。」
(3)引用発明3の認定
前記2の記載によれば、甲[1]5(甲[2]1)には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「3a 反射アレイであって、
3b 反射アレイ100は、導電性要素120などの導電性要素の2次元アレイ又はグリッドを含み、([0018])
3c 各導電性要素の寸法と形状は、マイクロ波放射が反射アレイから反射されたときにもたらされる電気的な位相シフトを決定し、([0018])
3d 導電性要素は、位相要素と称され、([0018])
3e 位相要素は長方形格子に配置され、位相要素の隣接する行及び列間の距離はDgridであり、([0018])
3f 反射アレイ100は、所定波長帯のマイクロ波放射を反射するように構成され、([0018])
3g 距離Dgridは、所定周波数帯のマイクロ波放射の約0.5波長であり、([0018])
3h 各位相要素は、“X”状を有し、([0019])
3i “X”状の位相要素は、寸法Ldipole及びWdipoleによって特徴付けられ、([0019])
3j 位相要素の少なくとも1つの寸法は、反射アレイにわたって変化し、([0019])
3k 位相要素のサイズの変化は、反射アレイから反射されるマイクロ波エネルギーの位相シフトを制御するために使用され、したがって、反射マイクロ波エネルギーの波面を変化させるために使用され、([0019])
3m ダイポール要素の幅(Wdipole)は、反射アレイの性能には重要ではなく、([0020])
3n 反射アレイ200は反射アレイ100であって、該反射アレイは、誘電体基板210を含み、([0021])
3o 該基板は第1表面212及び第2表面214を有し、([0021])
3p 第2表面214は、導電層230を支持し、導電層230は、接地面として機能し、導電層230は、金属薄膜であり、([0022])
3q 第1表面212は、要素220のような導電性位相要素のアレイを支持し、位相要素は、第1表面210に置かれた金属薄膜のパターニングによって形成され、([0023])
3r 平面的な反射アレイ200は軸外しパラボラ反射器の光学特性をエミュレートしても構わず、([0024])
3s 平面的な反射アレイは、パラボラ反射器、球面反射器、円筒反射器、トロイダル反射器、円錐反射器、一般化された非球面反射器、又は、他の曲面反射器をエミュレートするように構成されても構わない、([0026])
3t 反射アレイ。」
4 本件発明2と引用発明1との対比
本件発明2と引用発明1とを対比すると、以下のとおりである。
(1)発明特定事項2Aについて
ア 引用発明1において、「素子各々において、TM波に対する反射位相はy軸方向のギャップgyの寸法に対応し、TE波に対する反射位相はx軸方向のギャップgxの寸法に対応」する(分説1o)から、TM波及びTE波の反射位相は、gy及びgxの寸法に応じてシフトする。
そうすると、引用発明1の「素子」は、本件発明2の「位相シフト要素」に相当する。
イ 引用発明1において、「素子」は「マッシュルーム構造で構成され」(分説1c)、「マッシュルーム構造は、接地プレート51と、ビア52と、パッチ53とを有」する(分説1d)ものである。すなわち、「素子」は、接地プレート51、ビア52及びパッチ53から構成される。
ここで、「接地プレート51は」「導体であ」る(分説1e)。
また、「ビア52は、接地プレート51とパッチ53とを電気的に短絡するために設けられ」る(分説1f)から、ビア52も導体であると認められる。
さらに、パッチ53がビア52によって短絡されること(分説1f)、及び、パッチとして導電性パターンを用いること(分説1g)に鑑みるに、パッチ53も導体であると認められる。
そうすると、接地プレート51、ビア52及びパッチ53はいずれも導体であると認められるから、これらから構成される「素子」は、導体により製作されていると認められる。
前記アも考慮すると、引用発明1の「素子」と本件発明2の「金属製の位相シフト要素」とは、「導体製の位相シフト要素」である点で共通する。
ウ 引用発明1の「リフレクトアレー」は、「1周期分の素子列が、x軸及びy軸方向に複数個配置され」ており(分説1i)、「1周期分の素子列は、10個のビア52及びパッチ53がx軸方向に列を成したものであ」る(分説1j)。
そうすると、引用発明1の「リフレクトアレー」は、素子列を構成する「パッチ53」がx軸方向で10個毎にかわるがわる配置されているから、「パッチ53」が10個毎に交互に置かれた周期配列を備える。
エ 前記ア~ウによれば、本件発明2と引用発明1とは、「導体製の位相シフト要素が交互に置かれた周期配列を備え」る点で共通し、本件発明2の「位相シフト要素」が「金属製」であるのに対し、引用発明1の「素子」は導体製である点で相違する。
(2)発明特定事項2B1について
前記(1)ウに示したように、引用発明1の周期配列は、x軸方向で「パッチ53」が10個毎に交互に置かれているから、少なくともx軸において周期的である。
よって、本件発明2の「配列」と引用発明1の周期配列とは、「少なくとも1つの軸において周期的であ」る点で一致する。
(3)発明特定事項2B2及び2Cについて
引用発明1では、「誘電体基板は、パッチ及び地板の間に介在」する(分説1q)。前記「パッチ」は「パッチ53」のことであり、前記「地板」は「接地プレート51」のことであると解される。そうすると、引用発明1の「誘電体基板」の一方の面には「パッチ53」の周期配列が形成され、前記一方の面の反対側の面には「接地プレート51」が形成されると認められる。
そして、引用発明1の「誘電体基板」及び「接地プレート51」は、それぞれ、本件発明2の「誘電体基材」及び「接地面」に相当することが明らかである。
そうすると、本件発明2の「配列」と引用発明1の周期配列とは、「誘電体基材の第1の表面上に形成されて」いる点で一致する。
加えて、本件発明2と引用発明1とは、「前記誘電体基材の反対側の表面が、その上に形成された接地面を有」する点で一致する。
(4)発明特定事項2Dについて
引用発明1では、「リフレクトアレーの中で整列している1つの素子群全体による反射位相の変化が360度であるように、パッチサイズが設計されていることが好まし」いとされており(分説1h)、リフレクトアレーの1周期分の素子列は10個で(分説1j)、「隣接する素子各々による反射波の位相差は、36度であ」る(分説1p)から、1周期分の素子列は、例えば、最初の素子の反射位相が0度であれば、次が36度、その次が72度と順に36度ずつ反射位相が増加し、10個目の素子の反射位相は324度となり、次の周期の最初の素子で反射位相が360度(=0度)となることが理解できる。そうすると、引用発明1の「素子」は、0°~360°の位相シフトを提供するものである。
そして、引用発明1のリフレクトアレーが反射するTE波の周波数は8.25GHzであり、TM波の周波数は11GHzである(分説1r)から、該TE波及びTM波はマイクロ波周波数範囲に含まれる。
以上によれば、本件発明2と引用発明1とは、「それぞれの位相シフト要素は、マイクロ波周波数範囲において、0°~360°の位相シフトを提供」する点で一致する。
(5)発明特定事項2Eについて
前記(1)ウに示したように、引用発明1の素子列は、x軸において繰り返す10個の素子の配列を備えている。
よって、本件発明2と引用発明1とは、「前記周期配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す3つ以上の位相シフト要素の配列を備え」る点で共通し、本件発明2において繰り返される配列における「位相シフト要素」の数が「3」であるのに対し、引用発明1の配列における「素子」の数は「10」である点で相違する。
(6)発明特定事項2Fについて
引用発明1の「素子」を形成する「パッチ53」は、「いずれもxy平面内の四角形」である(分説1k)から、本件発明2の「2次元幾何学構造」に相当する。そして、引用発明1の周期配列内の任意の3つの「パッチ53」を、それぞれ「第1の2次元幾何学構造」~「第3の2次元幾何学構造」と呼ぶことは任意である。
よって、本件発明2と引用発明1とは、「前記3つの位相シフト要素は、第1の2次元幾何学構造を有する第1の位相シフト要素と、第2の2次元幾何学構造を有する第2の位相シフト要素と、第3の2次元幾何学構造を有する第3の位相シフト要素とを含」む点で一致する。
(7)発明特定事項2Gについて
引用発明1の「素子」を形成する「パッチ53」は、「いずれもxy平面内の四角形」である(分説1k)から、任意の3つの「素子」は、いずれも四角形というほぼ同様の形状を有している。
よって、本件発明2と引用発明1とは、「前記第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造は、ほぼ同様の形状を有」する点で共通し、本件発明2の「2次元幾何学構造」の形状が「互いに相似」であるのに対し、引用発明1の「素子」の形状は互いに相似とはいえない四角形の形状である点で相違する。
(8)発明特定事項2H及び2Jについて
そして、引用発明1では、「それぞれのパッチ53のx軸方向の長さ(Wx)及びy軸方向の長さ(Wy)は異な」る(分説1m)から、引用発明1の周期配列中の任意の3つの「素子」のサイズは互いに異なる。
よって、本件発明2と引用発明1とは、「前記第1の2次元幾何学構造は、前記第2の2次元幾何学構造とは異なるサイズを有」する点、及び、「前記第3の2次元幾何学構造は、前記第1の2次元幾何学構造及び前記第2の2次元幾何学構造とは異なるサイズを有する」点で一致する。
(9)発明特定事項2Kについて
引用発明1の「リフレクトアレー」は、第1及び第2の偏波(すなわち、TE波及びTM波)を「所望の方向に反射することが可能であり」(分説1b)、「無線通信の技術分野で通信エリアの確保等のために使用される」(分説1a)ものであるから、見通しで通信ができない2局の間に配置され、これら2局の間で電波を中継するための装置といえる。
よって、本件発明2の「リフレクトアレー」と引用発明1の「中継装置」とは、「中継装置」である点で一致する。
(10)一致点及び相違点
前記(1)~(9)によれば、本件発明2と引用発明1とは、次の点で一致し、以下の相違点1~3で相違する。
〈一致点〉
「導体製の位相シフト要素が交互に置かれた周期配列を備え、前記配列は、少なくとも1つの軸において周期的であり、誘電体基材の第1の表面上に形成されており、前記誘電体基材の反対側の表面が、その上に形成された接地面を有し、それぞれの位相シフト要素は、マイクロ波周波数範囲において、0°~360°の位相シフトを提供し、
前記周期配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す3つ以上の位相シフト要素の配列を備え、前記3つの位相シフト要素は、第1の2次元幾何学構造を有する第1の位相シフト要素と、第2の2次元幾何学構造を有する第2の位相シフト要素と、第3の2次元幾何学構造を有する第3の位相シフト要素とを含み、前記第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造は、ほぼ同様の形状を有し、前記第1の2次元幾何学構造は、前記第2の2次元幾何学構造とは異なるサイズを有し、前記第3の2次元幾何学構造は、前記第1の2次元幾何学構造及び前記第2の2次元幾何学構造とは異なるサイズを有する、中継装置。」である点。
〈相違点1〉
本件発明2の「位相シフト要素」は「金属製」であるのに対し、引用発明1の「素子」は「導体製」である点。
〈相違点2〉
本件発明2の周期配列を構成する「位相シフト要素」の数は「3」であるのに対し、引用発明1の1周期分の素子列を構成する「素子」の数は「10」である点。
〈相違点3〉
本件発明2の「第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造」は「互いに相似の形状」を有するのに対し、引用発明1の3つの「パッチ53」は、互いに相似とはいえない四角形の形状を有する点。
5 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3について判断する。
(1)甲[1]3について
まず、甲[1]3の記載内容について検討する。
甲[1]3には、1周期分の素子列に用いられる各「パッチ53」の形状を互いに相似の形状とすることについて、記載も示唆もない。
甲[1]3には、「正方形のパッチ」(【0015】)を使用することが記載されているが、具体的な実施形態においては、図13、図14及び図22に示されるように、正方形ではなく、互いに相似とはいえない四角形のパッチが使用されている。また、正方形のみのパッチを使用して、TE波及びTM波を所望の方向に反射するリフレクトアレーの具体的な構成や設計方法も開示されていない。
さらに、甲[1]3に記載されたその他の形のパッチ(【0015】、図3)についても、それらを使用した場合の具体的な設計方法は記載されていないし、全てのパッチを相似形で構成する合理的な理由も記載されていない。
(2)甲[1]5(甲[2]1)について
次いで、甲[1]5(甲[2]1)の記載内容について検討する。
ア 引用発明3は、「位相要素は長方形格子に配置」した(分説3e)反射アレイであって、「各位相要素は、“X”状を有し」(分説3h)、「“X”状の位相要素は、寸法Ldipole及びWdipoleによって特徴付けられ」(分説3i)、「位相要素の少なくとも1つの寸法は、反射アレイにわたって変化」する(分説3j)ところ、反射アレイの1つの寸法が変化する際に、寸法LdipoleとWdipoleとが所定の比率を維持することについては、甲[1]5(甲[2]1)に記載も示唆もない。また、FIG.1を参照しても、“X”状の位相要素が6つ見られるだけであり、この図面から、各位相要素が数学的な意味で相似であるかどうかは不明である。
その他、甲[1]5(甲[2]1)に、位相要素が互いに相似の形状を有することについて記載した箇所はない。
したがって、引用発明3は、各位相要素が違いに相似の形状を有するものとは認められない。
イ 引用発明3の反射アレイは、軸外しパラボラ反射器、パラボラ反射器、球面反射器、円筒反射器、トロイダル反射器、円錐反射器、一般化された非球面反射器、又は、他の曲面反射器をエミュレートするものである(分説3r、3s)。
このように、パラボラ反射器等、曲面反射器をエミュレートする場合、反射アレイに入射される平行なビームは、反射アレイの場所によってその反射角度が変化する。その結果、反射アレイを構成する位相要素は、1つの座標軸において繰り返し構造とはならないと認められる。
したがって、引用発明1のようにTE波及びTM波を同一方向に反射させる(分説1j)ために1周期分の素子配列をxy平面上で反復的に設ける(分説1s)リフレクトアレーと、引用発明3のように曲面反射器をエミュレートするために位相要素の繰り返し構造を前提としない反射アレイとは、その技術的な前提が異なるため、両者を組み合わせる動機付けが存在しない。
(3)その他の証拠について
その他の証拠を参照しても、xy平面上に反復的に設けられた位相シフト用の素子が、互いに相似の形状を有することを開示するものはないし、このことは技術常識ともいえない。
(4)前記(1)~(3)によれば、相違点3に係る本件発明2の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得るものではない。
(5)申立人の主張について
ア 申立人1は、甲[1]5(甲[2]1)の図1には、大きさの異なるX形状の位相シフト要素が配列されているリフレクトアレーが開示されており、明細書[0019]にはX形状の長さLdipoleを可変にすることが記載され、明細書[0020]にはX形状の幅Wdipoleはリフレクトアレーの作用に有意な寄与をしないので任意の値を取り得る旨の記載があるので、当該大きさの異なるX形状の位相シフト要素の配列は実質上長さLdipoleのみ可変に調整したものであり、互いに相似形状の関係にある旨、主張する。(意見書1(3頁3~11行))
しかしながら、前記(2)アのとおり、甲[1]5(甲[2]1)には、反射アレイの1つの寸法が変化する際に、寸法LdipoleとWdipoleとが所定の比率を維持することについて記載も示唆もない。
むしろ、幅Wdipoleはリフレクトアレーの作用に有意な寄与をしないのだから、仮に長さLdipoleを可変にしたところで、それに応じて幅Wdipoleを変える必要はない。よって、甲[1]5(甲[2]1)に記載のX形状の位相シフト要素を互いに相似の形状とすることは、不自然である。
したがって、申立人1の主張は採用できない。
イ 申立人1は、甲[1]3に記載された発明(引用発明1及び2)と引用発明3(甲[1]5)とでは隣接する位相シフト要素間で反射位相をシフトさせ光の反射方向を可変に制御するリフレクトアレーという点で共通の作用機序を有する以上、甲[1]5に開示された互いに相似のX形状の位相シフト要素の配列を引用発明1に適用し配列を繰り返す構成とすることは当業者の適宜なし得る事項に過ぎない旨、主張する。(意見書1(3頁12~17行))
しかしながら、前記(2)イのとおり、甲[1]5に開示された反射アレイは位相要素の繰り返し構造を前提としないものであり、引用発明1及び2とは前提を異にするものである。
したがって、申立人1の主張は採用できない。
ウ 申立人1は、甲[1]3の【0021】に「しかしながら、パッチサイズWxが全ての素子で共通することは必須ではなく、素子毎に異なるように設計することも可能である。」と記載され、パッチ形状のx方向とy方向のサイズに特段の束縛はなく任意に設計し得ることが記載されている以上、x方向とy方向の長さを調節し相似形状の配列にすることは排除されておらず、任意の設計範囲内で到達し得る事項である旨、主張する(意見書1(3頁18行~4頁)
しかしながら、前記(1)に示したように、甲[1]3にはパッチを相似形でリフレクトアレーを構成する具体的な方法について記載がない。
むしろ、甲[1]3に記載のリフレクトアレーは、パッチ間のギャップサイズgx及びgyの寸法により、それぞれTE波に対する反射位相及びTM波に対する反射位相が設計されるものであり(分説1o、分説2g)、ここで、ギャップは、ビア間隔(Δx、Δy)及びパッチの長さ(Wx、Wy)によって定まるから(【0018】、図2)、甲[1]3に記載のリフレクトアレーでは、パッチの形状を決めるWx及びWyは、任意に設計できるものではなく、反射位相の満たすべき要件により束縛されるものである。
したがって、甲[1]3のパッチを相似形状の配列にすることは、当業者といえども、容易ではない。
よって、申立人1の主張は採用できない。
エ 申立人2は、位相シフト要素の配列が相似するパターンは、例えば、甲[2]1図1及び図4、甲[2]3図1、甲[2]5図2等に示されるように、従来公知であり、これを引用発明1に組み合わせることに困難性は認められない旨、主張する。(意見書2(6~7頁))
しかしながら、前記アに示したとおり、甲[2]1は互いに相似な形状の位相要素を開示していない。
さらに、甲[2]3図1については、図面からアレイ素子が相似の形状であるかどうかは定かではないし、甲[2]3には「かかるアレイ素子のサイズa及びbは、図2に示すように位相差によって決められている。」(【0007】)との記載があるように、アレイ素子の大きさa及びbは位相差により束縛されるものであって、甲[2]3はアレイ素子を互いに相似の形状にすることを開示するものではない。
加えて、甲[2]5についても図面からアレイ素子が相似の形状であるかどうかは定かではないし、「アレイ素子10のサイズa、bは、位相差により決定される。」(【0009】)との記載があり、甲[2]3と同様である。
したがって、申立人2の主張は採用できない。
オ 申立人2は、「パターンを相似にすること」によって「設計が単純になる」との効果が得られることについては、データの裏付けもなく、課題と解決手段の因果関係が皆目見当がつかないから、本件発明2は、その優位性を有するとはいえないため、進歩性を有しない旨、主張する。(意見書2(7頁))
しかしながら、本件発明2が顕著な効果を奏しないことのみをもって、本件発明2の進歩性が否定されるものではない。そして、構成の上で容易に想到し得ない相違があることは前記(4)のとおりである。
したがって、申立人2の主張は採用できない。
6 本件発明2及び7の引用発明1に基づく進歩性の有無
前記1~5によれば、本件発明2は、当業者といえども、引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたとは認められない。
また、本件発明2に対してさらに別の発明特定事項を付加した本件発明7は、引用発明1との間に少なくとも相違点3が存在する。そして、相違点3についての判断は前記5のとおりであるから、本件発明7は、当業者といえども、引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたとは認められない。
7 本件発明8と引用発明2との対比
本件発明8と引用発明2とを対比すると、以下のとおりである。
(1)発明特定事項8Aについて
ア 引用発明2において、TE波の周波数は8.25GHzであり、TM波の周波数は11GHzである(分説2h)から、該TE波及びTM波はマイクロ波である。
また、TE波及びTM波の入射方向は(20度,270度)である(分説2k)から、TE波及びTM波は放射される方向が一定であり、ビームをなしている。
以上によれば、引用発明2の「TE波」及び「TM波」は、本件発明8の「ビーム又はマイクロ波放射」に相当する。
イ 引用発明2の「リフレクトアレー」は、「第1の偏波及び基板の表面に垂直な電界成分を有する第2の偏波を所望の方向に反射することが可能であり」(分説2c)、入射方向が(θi,φi)=(20度,270度)のTE波及びTM波を、所望方向(θr,φr)=(48度,27度)に反射する(分説2k)から、ビーム又はマイクロ波放射の方向を変更するものである。
ウ 引用発明2の「リフレクトアレー」は、前記4(9)と同様の理由により(分説2b、2c)、本件発明8の「中継装置」に相当する。
エ 引用発明2は、「リフレクトアレーを形成すること」であり、これは、本件発明8の「中継装置を形成する方法」に相当する。
オ 前記ア~エによれば、本件発明8と引用発明2とは、「ビーム又はマイクロ波放射の方向を変更するための中継装置を形成する方法であ」る点で一致する。
(2)発明特定事項8Bについて
ア 引用発明2のTE波の周波数は8.25GHzであり、TM波の周波数は11GHzである(分説2h)とされており、これらは動作周波数と認められるが、「TE波及びTM波の周波数は、同一でもよいし、異なっていてもよ」い(分説2g)ともされているため、これら動作周波数は設計時に適宜選択すべき値と解される。
イ 引用発明2では、「mn番目の素子で実現すべき反射位相αmn(f)」を求める計算式に、θi、φi、θr及びφrが用いられている(分説2m)。ここで、(θi,φi)はTE波及びTM波の入射方向であり、(θr,φr)はその反射方向である(分説2i、2k)。そうすると、引用発明2では、「リフレクトアレー」の「素子」で実現すべき反射位相が、TE波及びTM波の入射角度(θi,φi)及び反射角度(θr,φr)に応じて定まるものである。
そして、引用発明2では、「同じ方向から到来するTE波及びTM波を所望方向にそれぞれ反射させるためには、TE波が所望方向に反射するようにx軸方向のギャップgxを設計し、かつTM波が所望方向に反射するようにy軸方向のギャップgyを設計すればよく、TE波の所望方向とTM波の所望方向は同一であってもよい」(分説2g)のだから、反射角度は明らかに設計時に適宜選択すべき値と解されるし、入射角度も同様と解される。
ウ 引用発明2において、ビア間の間隔ないし素子1つ分に対応する接地プレート51のサイズを表すΔx及びΔy(分説2d)は、「一例として2.4mmであり」(分説2e)、シミュレーションでは「4.1mm」である(分説2f)とされていることから、Δx及びΔyの値は設計時に適宜選択すべき値と解される。このことは、「mn番目の素子で実現すべき反射位相αmn(f)」を求める計算式にΔx及びΔyが含まれている(分説2m)こととも整合する。
また、引用発明2では「リフレクトアレーを構成する複数の素子各々の中心座標が、(mΔx,nΔy,0)にあるとし、ただし、m=0,1,2,...Nx及びn=0,1,2,...Nyであり、Nxはmの最大値及びNyはnの最大値であ」るとされ(分説2j)るから、引用発明2の「リフレクトアレー」のサイズは、x軸方向が(Nx+1)*Δxであり、y軸方向が(Ny+1)*Δyである。
リフレクトアレーを設計する際には、実装する素子の具体的な個数、すなわち、Nx及びNyの値を選択しなければならないことは明らかである。
そうすると、引用発明2においては、Nx及びNy並びにΔx及びΔyの値は設計時に選択すべきものであり、その結果、「リフレクトアレー」全体のサイズ(Nx+1)*Δx×(Ny+1)*Δyも設計時に選択される。
ここで、引用発明2のNx+1及びNy+1並びにΔx及びΔyは、それぞれ、本件発明8のN及びm並びにdx及びdyに相当することが明らかである。
エ 前記ア~ウによれば、本件発明8と引用発明2とは、「前記中継装置の複数の動作パラメータの値を選択することであって、前記動作パラメータは、動作周波数、入力角度(θi,фi)、出力角度(θo,фo)、及びサイズN*dx×m*dyを含むこと」を含む点で一致する。
(3)発明特定事項8Cについて
引用発明2のΔx及びΔyは、「素子1つ分に対応する接地プレート51のサイズ」(分説2d)である。
引用発明2の「素子」は、「反射位相αmn(f)」を実現する(分説2m)から、本件発明8の「位相シフト要素」に相当する。
引用発明2の「リフレクトアレー」を形成するにあたって、「素子」の提供が必須であることは明らかであるから、本件発明8と引用発明2とは、「寸法dx及びdyを有する位相シフト要素を提供すること」を含む点で一致する。
(4)発明特定事項8C1について
引用発明2のTE波の周波数は8.25GHzであり、TM波の周波数は11GHzである(分説2h)。そうすると、TE波の波長は約36mmであり、TM波の波長は約27mmである。
ここで、引用発明2のΔx及びΔyは、2.4mm(分説2e)又は4.1mm(分説2f)が想定されているから、これらの長さはTE波及びTM波の波長の半分以下である。
よって、本件発明8の「位相シフト要素」と引用発明2の「素子」とは、「dx及びdyは、動作周波数の波長の半分以下であ」る点で一致する。
(5)発明特定事項8C2について
引用発明2の「素子」が実現する「反射位相αmn(f)」は、Δx及びΔyに
応じて変化する(分説2m)。そして、Δx及びΔyは「素子」の幾何学的パラメータに他ならない。
そして、引用発明2の素子は「360度の反射位相の範囲をカバーする」(分説2n)のだから、ラジアンで表記すれば、0~2πの位相反射シフトを提供するものである。
よって、本件発明8と引用発明2とは、「前記位相シフト要素は、前記位相シフト要素の幾何学的パラメータが変化したときに0~2π以上の反射位相シフトを更に提供すること」を含む点で一致する。
(6)発明特定事項8Dについて
引用発明2では「リフレクトアレーを構成する複数の素子各々の中心座標が、(mΔx,nΔy,0)にあるとし、ただし、m=0,1,2,...Nx及びn=0,1,2,...Nyであり、Nxはmの最大値及びNyはnの最大値であ」るとされ(分説2j)るから、引用発明2の「リフレクトアレー」を形成するためには、「素子」をx軸方向にNx+1個、y軸方向にNy+1個の「素子」を配列として配置することが明らかである。
そして、引用発明2のNx+1及びNy+1は、それぞれ本件発明8のN及びMに相当する。
よって、本件発明8と引用発明2とは、「N×M個の位相シフト要素の配列を基材上に配置して前記中継装置を形成すること」を含む点で一致する。
(7)発明特定事項8D1について
引用発明2の素子は、いずれもxy平面内の四角形を備えており、該四角形は2次元幾何学構造であるといえる。
引用発明2の「リフレクトアレー」は、「1周期分の素子列が、x軸及びy軸方向に複数個配置され」(分説2o)、「x軸方向に1列に並ぶ40個の素子でリフレクトアレーの1周期分を形成し」た(分説2p)ものであるから、「素子」の「四角形」がx軸方向で40個毎にかわるがわる配置されており、すなわち、該配置はx軸において繰り返すものである。
引用発明2の1周期分の素子列を構成する「素子」の「四角形」のうち、任意の2つをそれぞれ「第1の2次元幾何学構造」及び「第2の二次元幾何学構造」と呼ぶことは任意である。
引用発明2の「四角形」は、いずれも四角形というほぼ同様の形状を有している。
以上によれば、本件発明8と引用発明2とは、「前記配列は、少なくとも1つの軸において繰り返すほぼ同様の形状である第1の2次元幾何学構造及び第2の2次元幾何学構造を備え」る点で共通し、本件発明8の「第1の2次元幾何学構造」及び「第2の2次元幾何学構造」の形状は「互いに相似形状」であるのに対し、引用発明2の2つの「四角形」は「ほぼ同様の形状」である点で相違する。
(8)発明特定事項8D2について
引用発明2の「素子」が実現する「反射位相αmn(f)」は、入射角度(θi,φi)及び反射角度(θr,φr)に応じて定まるものである(分説2m)から、このように定められる「素子」の「反射位相」は、TE波及びTM波のビームの入力角度(θi,φi)から出力角度(θr,φr)に再配向するように選択されたものである。
よって、本件発明8と引用発明2とは、「前記配列内の所定の位置でそれぞれの前記位相シフト要素によって提供される位相シフトは、前記配列がマイクロ波放射のビームを入力角度(θi,фi)から出力角度(θo,фo)に再配向するように選択されること」を含む点で一致する。
(9)発明特定事項8Eについて
前記(1)エのとおりであるから、本件発明8と引用発明2とは「方法」である点で一致する。
(10)一致点及び相違点
前記(1)~(9)によれば、本件発明8と引用発明2とは、次の点で一致し、以下の相違点4で相違する。
〈一致点〉
「ビーム又はマイクロ波放射の方向を変更するための中継装置を形成する方法であって、
前記中継装置の複数の動作パラメータの値を選択することであって、前記動作パラメータは、動作周波数、入力角度(θi,фi)、出力角度(θo,фo)、及びサイズN*dx×m*dyを含むことと、
寸法dx及びdyを有する位相シフト要素を提供することであって、dx及びdyは、動作周波数の波長の半分以下であり、前記位相シフト要素は、前記位相シフト要素の幾何学的パラメータが変化したときに0~2π以上の反射位相シフトを更に提供することと、
N×M個の位相シフト要素の配列を基材上に配置して前記中継装置を形成することであって、前記配列は、少なくとも1つの軸において繰り返すほぼ同様の形状である第1の2次元幾何学構造及び第2の2次元幾何学構造を備え、前記配列内の所定の位置でそれぞれの前記位相シフト要素によって提供される位相シフトは、前記配列がマイクロ波放射のビームを入力角度(θi,фi)から出力角度(θo,фo)に再配向するように選択されることと、を含む、方法。」である点。
〈相違点4〉
本件発明8の第1及び第2の「2次元幾何学構造」の形状は「互いに相似」であるのに対し、引用発明2の2つの「四角形」は、互いに相似とはいえない点。
8 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点4について判断する。
前記5と同様の理由により、相違点4に係る本件発明8の発明特定事項は、当業者といえども容易に想到し得るものではなく、申立人の主張も採用できない。
9 本件発明8及び9の引用発明2に基づく進歩性の有無
前記7及び8によれば、本件発明8は、当業者といえども、引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたとは認められない。
また、本件発明8に対してさらに別の発明特定事項を付加した本件発明9は、引用発明2との間に少なくとも相違点4が存在する。そして、相違点4についての判断は前記8のとおりであるから、本件発明9は、当業者といえども、引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたとは認められない。
10 取消理由通知書にて通知した取消理由についての小括
前記1~9によれば、本件の請求項2及び7~9に係る発明は、当業者が甲[1]3に記載された発明(引用発明1又は2)から容易に発明をすることができたとは認められない。
よって、取消理由通知書にて通知した取消理由によっては、請求項2及び7~9についての本件特許を取り消すことはできない。
第7 申立理由1-1及び1-2についての判断
甲[1]1は、甲[1]3と同時期の文献であり、その発明者も同一のもので、甲[1]3とほぼ同内容が記載されたものである。
本件発明と甲[1]1に記載された発明とを対比すると、少なくとも、前記第6、4(10)に示した相違点3又は前記第6、7(10)に示した相違点4において相違する。
そうすると、本件発明は、甲[1]1に記載された発明と同一ではなく、さらに、本件発明は甲[1]1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立理由1-1及び1-2によっては、請求項2及び7~9についての本件特許を取り消すことはできない。
第8 申立理由2-1-1及び2-1-2についての判断
甲[2]1(甲[1]5)に記載された引用発明3は、前記第6、3のとおりである。
そして、前記第6、5(2)アに示したように、引用発明3の位相要素は、互いに相似の形状を有するものとは認められない。
加えて、前記第6、5(2)イに示したように、引用発明3の反射アレイにおいては、位相要素は、1つの座標軸において繰り返し構造とはならない。
以上を踏まえて本件発明と引用発明3とを対比すると、少なくとも構成要件2E(前記周期配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す3つの位相シフト要素の配列を備え)、2G(前記第1、第2、及び第3の2次元幾何学構造は、互いに相似の形状を有し)又は8D1(前記配列は、少なくとも1つの軸において繰り返す互いに相似形状である第1の2次元幾何学構造及び第2の2次元幾何学構造を備え)において相違する。
上記の相違のうち、構成要件2G及び構成要件8D1についてのものは、前記第6、4(10)に示した相違点3又は前記第6、7(10)に示した相違点4と同等の相違点である。
そうすると、本件発明は、引用発明3と同一ではなく、かつ、引用発明3に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立理由2-1-1及び2-1-2によっては、請求項2及び7~9についての本件特許を取り消すことはできない。
第9 申立理由2-2-1についての判断
1 本件発明2及び7について
(1)申立人2は、次のように主張する。
本件発明2は、金属製の位相シフト要素が交互に置かれた周期配列を備えた中継装置が特定されている。
しかし、本件明細書には、「本発明の一実施形態によれば、中継装置が、金属製の位相シフト要素が交互に置かれた周期配列を備え、配列は、少なくとも1つの軸において周期的であり、誘電体基材の第1の表面上に形成されており、誘電体基材の反対側の表面が、その上に形成された接地面を有し、それぞれの位相シフト要素は、マイクロ波周波数範囲において、0°~360°(2π)の位相シフトを提供する。」と記載されているだけであるから、本件発明2が達成すべき目標が単に記載されているに過ぎない。
また、本件明細書には、本件発明2が他のものと比べて優れる効果が何ら記載されていないし、実施例においてもそれらの効果の裏付けがされていない。
したがって、本件発明2は、単なる構成が羅列されているだけと認められ、その範囲まで、本件明細書において開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
本件発明7についても同様である。
よって、本件発明2及び7は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない。
(2)申立人2が前記(1)ように主張するので、まず、これについて検討する。
前記(1)の主張における「金属製の位相シフト要素が交互に置かれた周期配列を備えた中継装置」は、発明特定事項2A及び2Kのことを指していると解される。
しかしながら、本件発明2は発明特定事項2A及び2Kのみで特定されたものではなく、他に発明特定事項2B~2Jによっても特定されている。
そして、本件発明2の発明特定事項は全て、本件明細書に記載された事項であり、かつ、これらの発明特定事項によって、「セルラーアクセス基地局とモバイルユーザの間のリンクを、LOSのようなリンクが確立される様式で強化する必要性」(【0013】)という課題を解決し、「中継装置100は、マイクロ波信号のほぼ非鏡面の反射を提供する受動平面波中継装置として動作することができる。」(【0031】)及び「中継装置100は、鏡面反射角とは異なる角度でマイクロ波放射を反射する装置を提供することができる(換言すれば、中継装置が非鏡面反射体である)。」(【0038】)との効果を奏すると理解できる。
また、本件発明2は、本件明細書に記載された実施形態に限定されず、本件明細書に「本明細書を踏まえれば、本発明が対象とする当業者には、様々な変形例、等価なプロセス、並びに本発明が適用可能であり得る多数の構造が容易に明らかとなるであろう。」(【0099】)と記載されているように、本件明細書に開示された技術的思想を逸脱しない範囲で変形されたものを含むことも明らかである。
その他、本件発明2及び7が、発明の詳細な説明に記載したものでないとする理由は存在しない。
したがって、請求項2及び7についての本件特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してなされたものではない。
2 本件発明8及び9について
(1)申立人2は、本件訂正前の請求項8の記載を全て引用した上で、次のように主張する。
本件発明8の方法は、一見、複数の動作パラメータの値を規定しているように見えるものの、「前記位相シフト要素の幾何学的パラメータが変化したときに0~2π以上の反射位相シフトを更に提供する」(当審注:発明特定事項8C2)、「前記配列がマイクロ波放射のビームを入力角度(θi,фi)から出力角度(θo,фo)に再配向する」(当審注:発明特定事項8D2)等の、達成すべき課題が入り込んだものである。
このように、本件発明8は達成すべき目標によって表されたものであり、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。
さらに、本件明細書には、達成すべき目標の記載があるだけで、本件発明8の構成を有しないものと比べていかに優れるのかが何ら記載されておらず、実施例においても明確にされていないから、本件発明8は、明細書による裏付けがなされていない。
本件発明9についても同様である。
よって、請求項8及び9についての本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たさない。
(2)申立人2が前記(1)ように主張するので、まず、これについて検討する。
発明特定事項8C2は、位相シフト要素の性質を特定するものであり、発明特定事項8D2により特定される中継装置の性質、すなわち、ビーム又はマイクロ波の方向を変更すること(発明特定事項8A)を実現するためのものであると認められる。また、発明特定事項8D1も、ビーム又はマイクロ波の方向の変更の性質を実現するためのものであると認められる。
そして、本件発明8の発明特定事項は全て、本件明細書に記載された事項であり、かつ、これらの発明特定事項によって、「セルラーアクセス基地局とモバイルユーザの間のリンクを、LOSのようなリンクが確立される様式で強化する必要性」(【0013】)という課題を解決し、「中継装置100は、マイクロ波信号のほぼ非鏡面の反射を提供する受動平面波中継装置として動作することができる。」(【0031】)及び「中継装置100は、鏡面反射角とは異なる角度でマイクロ波放射を反射する装置を提供することができる(換言すれば、中継装置が非鏡面反射体である)。」(【0038】)との効果を奏すると理解できる。
また、本件発明8は、本件明細書に記載された実施形態に限定されず、本件明細書に「本明細書を踏まえれば、本発明が対象とする当業者には、様々な変形例、等価なプロセス、並びに本発明が適用可能であり得る多数の構造が容易に明らかとなるであろう。」(【0099】)と記載されているように、本件明細書に開示された技術的思想を逸脱しない範囲で変形されたものを含むことも明らかである。
その他、本件発明8及び9が、発明の詳細な説明に記載したものでないとする理由は存在しない。
したがって、請求項8及び9についての本件特許は、特許法36条6項1号の規定に違反してなされたものではない。
第10 申立理由2-2-2についての判断
1 本件発明2及び7について
申立人2は、本件発明2及び7について、特許法36条6項2号違反を主張する(申立書2(14頁8~11行))が、請求項2及び7についての具体的な理由は主張がない。
そこで、請求項2及び7の記載を参照すると、これらの記載に不明確な点は見出せない。
したがって、請求項2及び7についての本件特許は、特許法36条6項2号の規定に違反してなされたものではない。
2 本件発明8及び9について
申立人2は、本件発明8の「ビーム又はマイクロ波放射」(発明特定事項8A)について、本件明細書には「ビーム」及び「マイクロ波」が定義されておらず、本件明細書中の「マイクロ波ビーム」(【0010】、【0036】)、「マイクロ波放射のビーム」(【0019】)、「マイクロ波」(【0026】等)、「ナロービーム」(【0008】)、「ビーム」(【0012】等)の記載と、本件発明8の「ビーム」又は「マイクロ波」との関係が不明瞭である旨、主張する。(申立書2(46~47頁))
そこで、まず、申立人の主張について検討すると、「マイクロ波」は「波長1メートル以下の電波。レーダーや電話、テレビの中継などに用いるほか、物質の分子構造の研究に重要な役割をする。マイクロウェーブ。」(広辞苑)との一般的な語義があり、「ビーム」には「(1)梁はり。桁けた。(2)粒子または電磁波の細い流れ。」(広辞苑)との一般的な語義があり、本件明細書を参照しても、前記一般的な語義での解釈に反する用例はないから、本件発明8の「ビーム」及び「マイクロ波」は、本件明細書中に定義がなかったとしても、その語義は明確である。
加えて、本件明細書には、「このため、マイクロ波リンクは、ビーム幅が1度又は2度未満のコリメートされたナロービームを生成して」(【0008】)との記載があり、該記載によれば、「ナロービーム」とは、幅が1度又は2度未満の電磁波の細い流れのことを意味すると解される。
また、本件明細書には、「したがって、この中継装置の様々な実施形態は、無線波(その一部がマイクロ波である)を含む周波数で動作するように設計することができるが、可視光周波数及びいくつかの赤外線周波数もまた含む。」(【0026】)との記載があり、該記載によれば、「マイクロ波」には可視光周波数や赤外線周波数は含まれないが、「ビーム」には可視光周波数や赤外線周波数の細い流れが含まれると解される。
そして、本件明細書に現れる「マイクロ波ビーム」及び「マイクロ波放射のビーム」は、いずれも「マイクロ波」の「ビーム」のことを意味すると解され、明確である。
他に、請求項8及び9の記載に不明確な点は見出せない。
したがって、請求項8及び9についての本件特許は、特許法36条6項2号の規定に違反してなされたものではない。
第11 むすび
前記第6によれば、取消理由通知書にて通知した取消理由によっては、請求項2及び7~9についての特許を取り消すことはできない。
前記第7~第10によれば、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項2及び7~9についての特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項2及び7~9についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700727