2021-701041
インク補給容器
- 審判番号
- 2021-701041
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-038004外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6915304
- 請求日
- 2021年11月02日
- 審決日
- 2022年03月23日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】セイコーエプソン株式会社
- 【権利者代理人】渡辺 和昭
- 【権利者代理人】仲井 智至
- 【権利者代理人】松岡 宏紀
- 【異議申立人】秦 誠一郎
- 分類
- P1651.121-Y (B41J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 12項目
1 手続の経緯
特許第6915304号の請求項1乃至6に係る特許についての出願は、平成29年3月1日に出願され、令和3年7月19日にその特許権の設定登録がされ、同年8月4日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年11月2日に特許異議申立人 秦誠一郎は、特許異議の申立てを行った。
2 本件特許発明
特許第6915304号の請求項1乃至6の特許に係る発明(以下それぞれ「本件特許発明1」乃至「本件特許発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】インク噴射装置に供給するインクを貯留するインク貯留部と、前記インク貯留部に連通する流路が形成されたインク入口流路部と、複数の円弧の内壁を備え、対向する前記円弧の内壁の中心に前記インク入口流路部が突設された凹部と、を有するインク供給装置に前記インクを補充するインク補給容器であって、前記インクを収容するインク収容部と、前記インク収容部の端部に備えられ、内部に前記インク収容部と連通するインク出口流路を備える流路形成部と、を有し、続きを表示(全19行)前記流路形成部は、前記インク出口流路の前記インク収容部とは反対側に形成されたインク出口と、前記インク出口流路の途中で当該インク出口流路を開閉可能に閉じる弁と、を備え、前記弁は、前記流路形成部が前記インク供給装置の前記凹部に挿入されて当該流路形成部と前記インク入口流路部とが所定の位置で接続されると、前記インク出口を介して前記インク出口流路に進入した前記インク入口流路部の当接により当該インク入口流路部と前記インク収容部とを連通させる開口部を備えるものとなり、前記流路形成部と前記インク入口流路部とを前記所定の位置で接続したときに、前記インク供給装置における前記インク入口流路部の中心を通り、対向する前記円弧の内壁を結ぶ方向において、前記インク出口の中心を軸心とした軸方向における少なくとも前記インク出口から前記インク入口流路部の先端までの間の前記流路形成部の外周壁間の幅は、前記開口部を間に挟んで対向する弁部分の間の幅の3倍以内であり、前記流路形成部と前記インク入口流路部とが前記所定の位置で接続されたときに前記開口部を間に挟んで対向する前記弁部分の間の幅は、前記インク入口流路部の外径寸法であることを特徴とするインク補給容器。【請求項2】前記弁は、弁体と、弁体に設けられたスリットとを備え、前記流路形成部と前記インク入口流路部とが前記所定の位置で接続されると、前記インク入口流路部が前記スリットに進入して前記開口部を備えるものとなることを特徴とする請求項1に記載のインク補給容器。【請求項3】前記弁は、前記流路形成部の前記インク出口の側の端から軸方向を前記インク収容部の側に向かって4mm~10.3mmの範囲に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のインク補給容器。【請求項4】前記流路形成部と前記インク入口流路部とを前記所定の位置で接続したときに、前記インク供給装置における前記インク入口流路部の中心を通り、対向する前記円弧の内壁を結ぶ方向で、前記軸方向における少なくとも前記インク出口から前記インク入口流路部の先端までの間の前記流路形成部の外周壁間の幅は、6mm~15.6mmであることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載のインク補給容器。【請求項5】前記インク出口の内径寸法は、7.9mmであり、前記流路形成部と前記インク入口流路部とを前記所定の位置で接続したときに、前記インク供給装置における前記インク入口流路部の中心を通り、対向する前記円弧の内壁を結ぶ方向で、前記軸方向における少なくとも前記インク出口から前記インク入口流路部の先端までの間の前記流路形成部の外周壁間の最大の幅は、14.9mmであることを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか一項に記載のインク補給容器。【請求項6】前記所定の位置において、前記インク入口流路部は、前記インク出口から前記インク出口流路内に8.5mm進入していることを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか一項に記載のインク補給容器。」
3 申立理由の概要
特許異議申立人 秦誠一郎は、主たる証拠として国際公開第2016/060019号公報(以下「甲第1号証」という。)及び従たる証拠として特開2012-131068号公報(以下「甲第2号証」という。)、特開2004-142447号公報(以下「甲第3号証」という。)及び特開2001-187459号公報(以下「甲第4号証」という。)を提出し、請求項1乃至6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1乃至6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
4 文献の記載
(1)甲第1号証
本件特許に係る出願の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証(国際公開第2016/060019号公報)には、以下の記載がある。
ア 「[0016] 本発明のインクカートリッジ1は、インクジェット記録装置100に供給されてインクジェットヘッド611(図12参照)から吐出されるゲル状のインクを内部に収納して保管する。インクカートリッジ1は、ゲル状のインクを収納するインクパック3と、当該インクパック3を収納する外箱2とを備えて構成されている。ここで、インクカートリッジ1においてインクカートリッジ1からインクが排出される方向に沿う方向をZ方向とし、当該Z方向に直交する方向であって略直方体形状に形成された外箱2の短手方向をX方向とし、当該X方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。」
イ 「[0025] インクパック3は、軟質性フィルム材料からなり内部にインクを収納する袋状のインク収納部31と、当該インク収納部31内部のインクを外部へ導出させる樹脂製のインク導出部32とを有して構成されている。」
ウ [[0030] インク導出部32は、図2、図3、図6及び図7に示すように、インク収納部31の内部と連通しインクを外部に導出させる導出口部321、導出口部321に固定される板状部322、当該導出口部321の周囲に設けられ導出口部321の軸方向に沿って突出する突起部323、外箱2の複数の切込部22のいずれかに係止する係止爪324等を有して構成されている。」
エ 「[0031] 導出口部321は、図7に示すように、軸方向がZ方向に沿った略円筒形状に形成されている。また、略円筒形状に形成される導出口部321の径は、上記外箱2のインク導出部用開口部21の径よりも小さく形成されている。また、導出ロ部321は、インクがインクジェット記録装置100に供給される前にはその先端部が封止材325によって封止されている(図11参照)。更に、導出口部321の先端部及び封止材325は、図2、図3、図6及び図7に示すように、取り外し自在に取り付けられた蓋326によって覆われている。これにより、インクカートリッジ1の輸送時における導出口部321からのインクの漏出が抑制されている。」
オ 「[0037] 図9~図12を参照して、インクカートリッジ1からインクジェット記録装置100のインクタンクである中間タンク51へのインクの供給について説明する。」
カ 「[0038] 図9及び図10に示すインク供給部50は、図12に示す中間タンク51を内蔵し、インクカートリッジ1から中間タンク51へ供給されたインクを、後述するインク吐出機構60に供給する。インク供給部50は、図9~図11に示すように、インクカートリッジ1が設置される設置部52、当該設置部52のうちインクカートリッジ1が載置される載置面521に設けられ、インクカートリッジ1のインク導出部32の形状に対応する凹部53、凹部53内に設けられ、インク導出部32の封止材325を突き破って導出口部321を開封し、中間タンク51に連通する導入パイプ54、等を有して構成されている。なお、インクカートリッジ1は、蓋326が取り外された状態で設置部52に設置される。」
キ 「[0040] 凹部53は、図9~図11に示すように、各設置部52の載置面521に設けられており、インクカートリッジ1のインク導出部32の形状に対応した形状となっている。これにより、設置部52に設置されたインクカートリッジ1のインク導出部32が凹部53内に収まる。また、凹部53は、インクの色毎に設けられた各設置部52のそれぞれに、その色に対応した向きとなるように形成されている。上記した通り、インクカートリッジ1の突起部323は、インクの色に応じた位置に配置されているため、インクの色に対応した向きに形成された凹部53には、対応する色のインクが収納されたインクカートリッジ1のインク導出部32のみが収まる。」
ク 「[0041] 導入パイプ54は、図11に示すように、凹部53内に設けられ、その先端部は載置面521よりも低い位置に配置されている。これにより、インクカートリッジ1が設置されてインク導出部32が凹部53内に収まったときに、インクカートリッジ1の導出口部321を封止する封止材325を押圧して突き破り、導出口部321を開封する。また、導入パイプ54は、中間タンク51に連通しており、封止材325を突き破った後、導出口部321の内側に挿入されることで、インクカートリッジ1をインク供給部50に接続する。このように構成されていることで、インクカートリッジ1を設置部52に設置するのみでインクカートリッジ1を開封することができ、インクカートリッジ1からインクジェット記録装置100へのインクの供給作業を容易にすることができる。」
ケ 「[図7][図:0001384239000001.jpg]」
コ 「[図10][図:0001384239000002.jpg]」
サ 「[図11][図:0001384239000003.jpg]」
シ 「[図12][図:0001384239000004.jpg]」
ス 図7から、インクパック3は、インク収納部31を有することが看取できる。
セ 図10から、凹部53は円弧の内壁を有することが看取できる。
ソ 図11から、導入パイプ54は、凹部53内の中心に設けられていることが看取できる。
また、図11から、導入パイプ54の外径寸法は、封止材325内に形成される開口の幅と一致することが看取できる。
上記記載事項ア乃至ク、図面ケ乃至シ及び認定事項ス乃至ソより、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「インクジェット記録装置100のインクタンクである中間タンク51へ供給されたインクをインク吐出機構60に供給するインクカートリッジ1であって、インク供給部50は、中間タンク51を内蔵し、インクカートリッジ1から中間タンク51へ供給されたインクを、インク吐出機構60に供給するもので、インクカートリッジ1が設置される設置部52、当該設置部52のうちインクカートリッジ1が載置される載置面521に設けられ、インクカートリッジ1のインク導出部32の形状に対応する円弧の内壁を有する凹部53、凹部53内に設けられ、インク導出部32の封止材325を突き破って導出口部321を開封し、中間タンク51に連通する導入パイプ54を有して構成され、インクカートリッジ1は、ゲル状のインクを収納するインクパック3と、当該インクパック3を収納する外箱2とを備えて構成され、インクパック3は、内部にインクを収納する袋状のインク収納部31と、当該インク収納部31内部のインクを外部導出させるインク導出部32とを有し、インク導出部32は、インク収納部31の内部と連通しインクを外部に導出させる導出口部321を有し、導出ロ部321は、インクがインクジェット記録装置100に供給される前にはその先端部が封止材325によって封止されており、導入パイプ54は、凹部53内の中心に設けられ、インクカートリッジ1が設置されてインク導出部32が凹部53内に収まったときに、インクカートリッジ1の導出口部321を封止する封止材325を押圧して突き破り、導出口部321を開封し、導入パイプ54は、中間タンク51に連通しており、封止材325を突き破った後、導出口部321の内側に挿入されることで、インクカートリッジ1をインク供給部50に接続し、インク導出部32と導入パイプ54が接続されたときに、封止材325に形成される開口幅Vは、導入パイプ54の外径寸法Hである、インクカートリッジ1。」
(2)甲第2号証
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第2号証(特開2012ー131068号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【0019】インクジェット記録装置1には、液体を貯留する貯留部として、各色のインクを貯留するメインインクタンク21Y、21M、21C、21K(以下、21Y~21Kと示す)が設けられている。このメインインクタンク21Y~21Kから、各インクジェットヘッド10Y~10Kへインクが供給される。なお、インクジェットヘッド10Y~10Kへ供給されるインクとしては、水性インク、油性インク、溶剤系インク等、各種インクの使用が可能である。」
イ 「【0029】メインインクタンク21Y~21Kには、本発明に係る液袋接続部材が用いられる液体供給装置40が接続される。液体供給装置40は、メインインクタンク21Y~21Kやメンテナンスユニットに洗浄液を供給するための液溜めタンクにインクや洗浄液を供給する。」
ウ 「【0031】液体供給装置40は三段の棚状の筐体41と、筐体41に備えられる5個のタンクユニット42Y,42M,42C,42K,42Wから構成される。尚、タンクユニット42Y,42M,42C,42K,42Wを総称する場合に、「タンクユニット42Y~42W」と示す場合がある。タンクユニット42Y~42Wはそれぞれ略立方体を呈する。」
エ 「【0033】筐体41の中段の台座44には、タンクユニット42Yとタンクユニット42Mが設けられる。筐体41の上段の台座44には、タンクユニット42Cとタンクユニット42Kとタンクユニット42Wが設けられる。タンクユニット42Yはメインインクタンク21Yに、タンクユニット42Mはメインインクタンク21Mに、タンクユニット42Cはメインインクタンク21Cに、タンクユニット42Kはメインインクタンク21Kに、タンクユニット42Wはメンテナンスユニットにそれぞれ対応する配管46(図1では図示省略。後述の図11、図12を参照)を介して接続される。」
オ 「【0042】後述するように、穿孔部56が操作レバー48によって上方に動作されるとタンクユニット42に挿入され(差し込まれ)、穿孔部56によってタンクユニット42が開封され、タンクユニット42から液体(インク)が排出される。」
カ 「【0046】タンクユニット42はカートンユニット80とカートンアダプタ82から構成される。図中のAで示す面はタンクユニットが台座に装着されるとき前面を向く面(前面)であり、Bで示す面は側面、Cで示す面は背面、Dで示す面は下面、Eで示す面は上面である。下面Dからは液体の出入り口となる口部84が突出している。」
キ 「【0048】カートンユニット80は略立方体状を呈する。カートンユニット80は液体(インク)が充填される液パック(液袋)86とその液パック86を収容するカートン(紙箱)88から構成される。液パック86は液体の出入り口となる口部84を備え、カートン88にはその口部を露出させるための開口90が設けられる。」
ク 「【0064】穿孔部56は、ベース部材124と、ベース部材124の凹部126に設けられると共に上方に向けて開口したキャップ部材128と、キャップ部材128の内部に設けられる受け部材130と、受け部材130の内部に配置される穿孔具132から構成される。」
ケ 「【0069】図11と図12に示すように、液パック86の口部84の内部にはシール部材122が取り付けられる。シール部材122はシリコーンゴムからなり、弾性を有すると共に円盤状を呈する。シール部材122の円状面の中央には一側から他側に貫通する一文字状のスリット(切り込み)142が設けられる。理解し易いように図ではスリット幅を誇張して大きく示したが、実際のスリット幅は微小であってこのスリット142からの液体の流出入は不可とされる。」
コ 「【0071】図12に示すように、穿孔具132が上方に動作させられて口部84の内部に挿入されると、シール部材122のスリット142は穿孔具132によって矩形状に押し広げられる。尚、押し広げられる前の一文字状のスリット142の長さをLとした場合、穿孔具132によって押し広げられた後の矩形状のスリット142の4辺の合計の長さは10%以内の範囲で増加し、2Lから2L×110%の範囲の長さとなる。【0072】穿孔具132によって封止膜144が突き破られると、液パック86内部の液体が下方に流出し始める。液体は穿孔具132の外壁面146と矩形状に押し広げられたスリットの内壁面148によって確保される空間150を通じて配管46まで導かれ、配管46を通って接続先であるメインインクタンク21に供給されることとなる。穿孔具132が注射針のように中空の針から構成され、中空部分を介して液体を排出させる場合に比べると、液体を排出させるための流路(空間150)には液体の排出を阻害するような流路壁が形成されることがなく、液体が口部近傍に溜まることがない。即ち、穿孔具132の外壁面146とスリットの内壁面148によって確保される流路(空間150)は液体の完全なる排出に資する構成と言える。」
サ 「【図1】[図:0001384239000005.jpg]」
シ 「【図2】[図:0001384239000006.jpg]」
ス 「【図11】[図:0001384239000007.jpg]」
セ 「【図12】[図:0001384239000008.jpg]」
ソ 図11及び12より、インク入口流路部に相当する穿孔具132の外径は、穿孔具132により広げられたシール部材122のスリット142のスリット幅と同じであることが看取できる。
上記記載事項ア乃至コ、図面サ乃至セ及び認定事項ソより、甲第2号証には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「インクジェット記録装置1には、各色の液体インクを貯留する複数のメインインクタンクが設けられ、液体供給装置40は、各メインインクタンクに液体インクを供給する配管46を有し、複数のメインインクタンクに液体インクを供給するタンクユニット42Y、42M、42C、42K、42W、複数のタンクュニット42Y~42Wのそれぞれの液パック86、複数のタンクユニット42Y~42Wのそれぞれの液パック86には、液体インクの出入り口となるロ部84が形成され、口部84は、液パック86とは反対側にインク出口を有し、口部84の途中には、スリット142付きのシール部材122が設けられ、シール部材122のスリット142に穿孔部56の穿孔具132が挿入されると、スリット142が押し広げられて、穿孔具132の外壁面146と矩形状に押し広げられたスリットの内壁面148によって確保される空間150が形成され、インク入口流路部に相当する穿孔具132の外径は、穿孔具132により広げられたシール部材122のスリット142のスリット幅と同じである、インクジェット記録装置1。」
(3)甲第3号証
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第3号証(特開2004-142447号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【0055】図1に示す実施形態のインク供給システムは概して、液体収納容器としてのインクタンク10と、インクジェット記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」と称する)20と、それらの間を連絡するインク供給路を形成する液室50とから構成されている。液室50は、記録ヘッド20と分離可能または分離不能に一体化されたものでも良く、また、記録ヘッド20を搭載するキャリッジに設けられてその上部からインクタンク10が着脱可能であるとともに、当該装着時においてインクタンク10から記録ヘッド20に至るインク供給経路を閉成するものでも良い。この液室50は、インクタンク10と記録ヘッド」20への接続部を除いて実質的に密閉空間を形成しており、大気導入手段は有していない。
【0056】
インクタンク10は、概してインク収納空間が画成されるインク収納室12およびバルブ室30との2室からなり、その両室の内部は連通路13を介して互いに連通されている。そして、インク収納室12内には記録ヘッドから吐出させるためのインクが収納され、吐出動作に伴って記録ヘッドに供給される。」
イ 「【0068】記録ヘッド20とインクタンク10との結合は、図示の例では記録ヘッドに一体に設けられている液室50の接続部51がインクタンク10内に挿入されることによってなされる。すなわち本例の場合、接続部51を有する液室50が流体連通構造を構成する。これによって両者が流体的に結合され、記録ヘッド20へ向けてインクが供給可能となる。なお、この接続部51が挿通されるインクタンク側開口にはゴム等の封止部材17が取り付けられ、接続部51の周囲に密着してインクタンク10からのインク漏出を防止するとともに、接続部51とインクタンク10との接続を確実なものにしている。なお、封止部材17には、接続部51の挿通を容易とするために、当該挿通位置に予めスリット等を形成しておいてもよい。そして、接続部51が挿通されないときは、封止部材17自体の弾性力によってスリットが閉じられることにより、インクの漏出を防止しているものである。【0069】接続部51は内部が軸方向に沿って2分割された中空針状の部材であり、それぞれの中空部の、上側すなわちインク収納室12内に位置づけられる開口位置(以下、タンク側開口位置という)は鉛直方向に関してほぼ同一の高さである一方、下側すなわちヘッドに連結された液室内での開口位置(以下、ヘッド側開口位置という)は高さが異なる構成となっている。以下、液室50内でのヘッド側開口位置が鉛直方向において相対的に下にある方の流路(図中の右の流路)をインク流路54、ヘッド側開口位置が鉛直方向において上にある方の流路(図中の左の流路)をエア流路54と便宜上称する。しかしこれは、気泡排除過程において、主としてインク流路53からインクが記録ヘッド側に導出され、エア流路54からはインクタンク側にエアが移送されるからであって、後述するように各流路においてインクおよびエアの両者の移動も行われるものである。すなわち、それら流路の呼称は、それぞれの流体専用であることを意味するものではない。」
ウ 「【図1】[図:0001384239000009.jpg]」
エ 「【図2】[図:0001384239000010.jpg]」
オ 図2より、インク入口流路部に相当する接続部51の外径は、接続部51により広げられた状態の封止部材17のスリットの間の幅と同じであることが看取できる。
上記記載事項ア乃至イ、図面ウ乃至エ及び認定事項オより、甲第3号証には以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「インクジェット記録ヘッド20と、インクタンク10の間を連絡するインク供給路を形成する液室50を備え、インクジェット記録ヘッド20に一体に設けられている液室50の接続部51をインクタンク10内に挿入することにより、インクジェット記録ヘッド20とインクタンク10とが結合され、インク供給システムは、液体収納容器としてのインクタンク10を備え、インクタンク10は、インク収納空間が画成されるインク収納室12を有し、インクタンク10の下端部にインクタンク10と連通するインク出口流路を有し、インクタンク10の下端部に開口を有し、インクタンク10の開口にはゴム等の封止部材17が取り付けられ、封止部材17には、接続部51の挿通を容易とするために当該挿通位置に予めスリットが形成され、封止部材17のスリットに接続部51が挿通可能であり、インク入口流路部に相当する接続部51の外径は、接続部51により広げられた状態の封止部材17のスリットの間の幅と同じである、インク供給システム。」
(4)甲第4号証
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された甲第4号証(特開2001-187459号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【0076】図2に示すように、インクジェット記録装置10には、搬送ローラ12によって搬送される用紙14の上部に、用紙14の搬送方向(副走査方向、矢印A方向)と交差する主走査方向(矢印B方向)に移動可能とされたキャリッジ16が配置されている。キャリッジ16には、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各インクを用紙14に向かって吐出する記録ヘッド18(図1および図3参照)と、記録ヘッド18と一体的に形成されたメインインクタンク20と、メインインクタンク20の上部に装着されるサブインクタンク22とから構成されている。【0077】メインインクタンク20は、図1に示すように、筐体21の内部に、自由状態でインクを保持する第1インク室32と、インクを保持するための毛細管部材26が配設され大気連通口28が形成された第2インク室30と、インク吐出口が形成されたヘッドチップを内部に持つヘッド液室34とから構成されている。」
イ 「【0090】また、第1インク室32の上面には、サブインクタンク22接続用の二つのポート50、52を有する。【0091】ポート50は、図4に示すように、第1インク室32の上部に形成されたポート室54Aとポート室54Aの内部を貫通しているパイプ56Aと、パイプ56Aに巻回されるスプリング58Aおよびパイプ56Aに沿って移動可能な支持部材60Aおよび支持部材60Aと共に移動可能なシール部材62Aとから構成される。」
ウ 「【0099】また、ポート52もポート50と同様であるが、パイプ56Bの長さがパイプ56Aと異なる。すなわち,パイプ56Bは支持部64Bよりも下方に延在する延長部79を有する。したがって、第1インク室32において、パイプ56Aの下端(開口端)よりもパイプ56Bの下端(開口端)の方が低い位置に位置することになる。」
エ 「【0108】メインインクタンク20の上部に装着されるサブインクタンク22は、図1に示すように、ポリプロピレン樹脂の筐体80内部に形成されたサブインク室81に自由状態でインクを貯留している。筐体80の下面には、図4に示すように、スリットバルブ82A、82Bが設けられている。スリットバルブ82A、82Bはゴムなどの弾性部材から形成されており、中央部にスリット84A、84Bが形成されている。【0109】スリットバルブ82A、82Bのスリット84A、84Bは通常閉塞しており、サブインク室81の気密状態を保持し、インクの漏洩を防止する。サブインクタンク22のスリットバルブ82A、82Bをポート50、52に押圧してシール部材62A、62Bのスリット76A、76Bからパイプ56A、56Bの先端が導出された場合には、スリットバルブ82A、82Bのスリット84A、84Bが開口してパイプ56A、56Bの先端が挿入される構成である。なお、スリットバルブ82A、82Bはパイプ56A、56Bの側面に圧接されているため、サブインク室81から外部にインク漏れするおそれがない。【0110】なお、スリットバルブ82A、82Bは、実施例では弾性体のゴム、好適にはブチルゴムを用いている。【0111】このように構成されるインクジェット記録装置10の作用について説明する。【0112】先ず、工場製造時に記録ヘッド18と一体的に形成されたメインインクタンク20に対してサブインクタンク22を装着する。すなわち、スリットバルブ82A、82Bをポート50、52に当接させ、サブインクタンク22の筐体80の下面が蓋部材66に当接するまで押圧する。この結果、ポート50では、スプリング58Aが圧縮されて支持部材60Aおよびシール部材62Aが下方に移動し、シール部材62Aのスリット76Aの間からパイプ56Aの先端が露出すると共に、パイプ56Aの先端(横孔72A)がスリットバルブ82Aのスリット84Aの中に進入する(図5参照)。すなわち、サブインク室81と第1インク室32が連通する。この際、スリットバルブ82Aおよびシール部材62Aがパイプ56Aの側面に圧接しているため、スリットバルブ82Aからのインク漏れ、あるいはポート室54Aへの空気の流入を確実に防止する。【0113】ポート52でも同様にパイプ56Bの先端(横孔72B)がサブインク室81に進入し、サブインク室81と第1インク室32とを連通させている。【0114】これで、サブインクタンク22とメインインクタンク20が連通状態となる。なお、初期状態では、パイプ56A、56Bの内部はインクで充?されている。」
オ 「【0117】なお、キャリッジ16の走査(矢印B方向)によって走査方向両端部においてキャリッジ16に加減速度が作用する。ここで、パイプ56A、56Bの内径dを上述した(6)式を満たすように形成しているため、この加減速度によって自由状態でインクを保持する第1インク室32とサブインク室81の圧力分布が変動し、第1インク室32の上部に蓄積された空気とサブインク室81のインクが置換されていく。【0118】また、長さ(下端開口位置)の異なる2本のパイプ56A、56Bを設置することでインクの液面高低差hを生じさせ、第1インク室32のインク液面がある程度以上低下すると、パイプ56A内のインクの毛細管力が生じる圧力P2よりもインク液面高低差圧力P1の方が大きくなり、一気にサブインク室81のインクと第1インク室32の空気を置換することが可能となる。この際、第1インク室32の負圧が大きく変動するおそれがあるが、インク増量分を第2インク室30の毛細管部材26に吸収させることによって、負圧を適正範囲内に収束させている。【0119】さらに、インクが消費されるに従ってサブインクタンク22(サブインク室81)のインクが枯渇することによって、第1インク室32のインク液面がパイプ56Bの下端よりも低下してプリズム42を下回ると、液面センサ40の発光ダイオードから照射された入射光が反射面で全反射してフォトレジスタに入射する。液面低下(インク残量無し)が検知された時点でサブインクタンク22(サブインク室81)は空状態となっているので、インクジェット記録装置10は、サブインクタンク22の交換をオペレータに告知する。例えば、図示しないモニタに表示したり、警告音を発する。」
カ 「【図1】[図:0001384239000011.jpg]」
キ 「【図4】[図:0001384239000012.jpg]」
ク 「【図5】[図:0001384239000013.jpg]」
ケ 図5より、インク入口流路部に相当するパイプ56A(56B)の外径HA(HB)が、パイプ56A(56B)により広げられた状態のスリットバルブ82A(82B)のスリット84A(84B)の間の幅VA(VB)と同じであることが看取できる。
上記記載事項ア乃至オ、図面カ乃至ク及び認定事項ケより、甲第4号証には以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。
「インクジェット記録装置10には、複数のインクを用紙14に向かって吐出する記録ヘッド18と、記録ヘッド18と一体的に形成されたメインインクタンク20が設けられ、メインインクタンク20の第1インク室32の上部に形成されたポート52は、それぞれサブインクタンク22とメインインクタンク20を連通させるパイプ56A,56Bを有し、インクジェット記録装置10には、パイプ56Bを通じてメインインクタンク20にインクを補充するサブインクタンク22が設けられ、サプインクタンク22は、インクを貯留するサブインク室81を有し、サブインクタンク22の筐体80の下面側には、サプインク室81を外部に開放する出口流路が設けられ、出口流路は、スリットバルブ82A、82Bと共に流路形成部を形成し、流路形成部の出口側を成すスリットバルブ82A、82Bには、サブインク室81と反対側にインク出口が設けられ、サブインクタンク22には、中央部にスリット84A、84Bが形成されているスリットバルプ82A、82Bが設けられ,パイプ56A(56B)の先端がスリットバルプ82A(82B)のスリット84A(84B)の中に進人して、サプインク室81と第1インク室32が連通し、インク入口流路部に相当するパイプ56A(56B)の外径HA(HB)は、パイプ56A(56B)により広げられた状態のスリットバルブ82A(82B)のスリット84A(84B)の間の幅VA(VB)と同じである、インクジェット記録装置10。」
5 当審の判断
(1)請求項1に係る発明について
(ア)本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「インクジェット記録装置100」、「インク」、「中間タンク51」、「中間タンク51に連通する導入パイプ54」、「円弧の内壁」、「『中心に』『導入パイプ54』が設けられた『凹部53』」、「インク吐出機構60」、「『供給されたインク』を『中間タンク51へ供給』する『インクカートリッジ1』」、「内部にインクを収納する袋状のインク収納部31」、及び「『インク導出部32』に設けられた『インク収納部31の内部と連通しインクを外部に導出させる導出口部321』」は、それぞれ、前者の「インク噴射装置」、「インク」、「インク貯留部」、「インク貯留部に連通するインク入口流路部」、「円弧の内壁」、「対向する前記円弧の内壁の中心に前記インク入口流路部が突設された凹部」、「インク供給装置」、「インクを補充するインク補給容器」、「インクを収容するインク収容部」、及び「インク収容部の端部に備えられ、内部に前記インク収容部と連通するインク出口流路を備える流路形成部」に相当する。
後者の「導出口部321」は、インクを外部に導出させるものであるから、「インク出口」を備えることは明らかである。
後者の「封止材325」は、インクカートリッジ1が設置されてインク導出部32が凹部53内に収まったときに、押圧されて突き破られ、導出口部321を開封し、導入パイプ54は、中間タンク51に連通することとなり、導出口部321の内側に挿入されることで、インクカートリッジ1をインク供給部50に接続することとなるのであるから、前者の「開口部」と、後者の「『封止材325』の『突き破られた』部分」とは、「流路形成部がインク供給装置の凹部に挿入されて当該流路形成部とインク入口流路部とが所定の位置で接続されると、インク出口を介してインク出口流路に進入した前記インク入口流路部の当接により当該インク入口流路部とインク収容部とを連通させる」ものとの概念で一致する。
後者の「インク導出部32と導入パイプ54が接続されたときに、封止材325に形成される開口幅V」は、「導入パイプ54の外径寸法Hである」から、前者の「開口部を間に挟んで対向する部分」と、後者の「『封止材325』の『突き破られた』部分」とは、「『流路形成部とインク入口流路部とが所定の位置で接続されたとき」の『幅』は、『前記インク入口流路部の外径寸法である』」との概念で一致する。
してみると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
[一致点]
「インク噴射装置に供給するインクを貯留するインク貯留部と、前記インク貯留部に連通する流路が形成されたインク入口流路部と、複数の円弧の内壁を備え、対向する前記円弧の内壁の中心に前記インク入口流路部が突設された凹部と、を有するインク供給装置に前記インクを補充するインク補給容器であって、前記インクを収容するインク収容部と、前記インク収容部の端部に備えられ、内部に前記インク収容部と連通するインク出口流路を備える流路形成部と、を有し、前記流路形成部は、前記インク出口流路の前記インク収容部とは反対側に形成されたインク出口を備え、前記インク出口流路の途中で当該インク出口流路を開閉可能に閉じ、前記流路形成部は、前記流路形成部が前記インク供給装置の前記凹部に挿入されて当該流路形成部と前記インク入口流路部とが所定の位置で接続されると、前記インク出口を介して前記インク出口流路に進入した前記インク入口流路部の当接により当該インク入口流路部と前記インク収容部とを連通させる開口部を備えるものとなり、前記流路形成部と前記インク入口流路部とが前記所定の位置で接続されたときに前記開口部を間に挟んで対向する部分の間の幅は、前記インク入口流路部の外径寸法であることを特徴とするインク補給容器。」
[相違点]
本件特許発明1は、流路形成部がインク出口流路の途中で当該インク出口流路を開閉可能な「弁」を備え、「前記流路形成部と前記インク入口流路部とを前記所定の位置で接続したときに、前記インク供給装置における前記インク入口流路部の中心を通り、対向する前記円弧の内壁を結ぶ方向において、前記インク出口の中心を軸心とした軸方向における少なくとも前記インク出口から前記インク入口流路部の先端までの間の前記流路形成部の外周壁間の幅は、前記開口部を間に挟んで対向する弁部分の間の幅の3倍以内」であるのに対し、甲1発明の「導出口部321」の先端部を封止する封止材325はインク導出部32と導入パイプ54が接続されたときに開口が形成される点。
(イ)上記相違点に対する判断
上記の(2)乃至(4)のとおり、液体インクを供給する容器に設けた弁は、周知の技術手段といえる。
しかし、甲1発明のゲル状のインクは、前記周知技術の液体インクに比べて、粘度が相当程度高いものといえる。また、甲1発明の封止材325は、一度突き破られると、再度閉じないものと推認できる。
そうすると、甲1発明のゲル状のインクを収納するインクカートリッジ1の封止材に代えて、前記周知技術の弁を設け、開閉可能とする動機付けがあるとはいえない。
甲1発明の封止材325が突き破られるものであることからすれば、むしろ、開閉可能に閉じるようにすることに阻害要因があるといえる。
さらに、封止材を開閉可能に閉じる弁部材とすることが設計的事項であるとする理由もない。
以上のことから、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲2発明乃至甲4発明から、当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(2)請求項2乃至6に係る発明について
請求項2乃至6に係る発明は、請求項1に係る発明を引用し、さらなる発明特定事項を付加したものである。
よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、請求項2乃至6に係る発明は、甲1発明、及び甲2発明乃至甲4発明に基いて当業者が容易になし得るものではない。
以上のとおり、請求項1乃至6に係る発明は、甲1発明、及び甲2発明乃至甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1乃至6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1乃至6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701041