特許異議申立
2023-701271
圧電素子、液体吐出ヘッド、およびプリンター
- 審判番号
- 2023-701271
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-032593
- 登録番号
- 7286999
- 請求日
- 2023年12月04日
- 審決日
- 2024年12月25日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】セイコーエプソン株式会社
- 【権利者代理人】布施 行夫
- 【権利者代理人】大渕 美千栄
- 【権利者代理人】川▲崎▼ 通
- 【権利者代理人】松本 充史
- 【異議申立人】須藤 美砂子
- 審判長/審判官
- 審判長 小宮 慎司
- 審判官 恩田 春香
- 審判官 棚田 一也
- 分類
- P1651.113-YAA(H10N) / P1651.121-YAA(H10N) / P1651.536-YAA(H10N) / P1651.537-YAA(H10N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7286999号発明「圧電素子、液体吐出ヘッド、およびプリンター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7286999号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第7286999号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7286999号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成31年2月26日に出願され、令和5年5月29日にその特許権の設定登録がされ、同年6月6日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 5年12月 4日 :特許異議申立人須藤美砂子(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和 6年 3月13日付け :取消理由通知書
令和 6年 5月17日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、「本件訂正請求後」を「訂正後」といい、「本件訂正請求前」を「訂正前」という。)の提出
令和 6年 7月 8日 :申立人による意見書の提出
令和 6年 8月14日 :申立人による手続補正書(上記意見書添付の参考資料1の訳文)の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
特許権者は、特許請求の範囲の請求項1~9を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(下線を訂正箇所に付加した。)。
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「前記第1粒子の前記面」を「前記第1粒子の面」と訂正し、「前記第2粒子の前記面」を「前記第2粒子の面」と訂正し、「前記圧電体層の前記面」を「前記圧電体層の前記第2電極側の面」と訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3、5~9も同様に訂正する。)。
イ 訂正事項2
(ア)訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項4において、「前記圧電体層は、(111)配向の粒子を有し、」「前記粒子の面の占有面積」と記載されているのを、それぞれ、「前記圧電体層は、(111)配向の第1粒子と、(100)配向の第2粒子と、を有し、前記第1粒子は、複数設けられ、前記第2粒子は、複数設けられ、前記圧電体層の前記第2電極側の面は、前記第1粒子の面と、前記第2粒子の面と、によって構成され、」、「前記第1粒子の面の占有面積」と訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する。)。
(イ)訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項4において、「10.0%以下である、」と記載されているのを「10.0%以下であり、前記圧電体層の前記第2電極側の面の方向から見て、複数の前記第2粒子の面は、1つの前記第1粒子の面を囲んでいる、」と訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する。)。
なお、本件訂正は、一群の請求項1~9について請求されている。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、独立特許要件
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正前の請求項1には、「前記第1粒子の前記面」、「前記第2粒子の前記面」、「前記圧電体層の前記面」と記載されており、これらの「前記面」がどの面を指しているかが不明確であったところ、それぞれ、「前記第1粒子の面」、「前記第2粒子の面」、「前記圧電体層の前記第2電極側の面」と訂正することにより、明確とするものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項に規定する要件を満たしている。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アに記載したとおり、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書には、「圧電素子100では、圧電体層20の第2電極30側の面20aは、第1粒子26の面26aと、第2粒子28の面28aと、によって構成され、第1粒子26の面26aにおける凹凸の高さは、第2粒子28の面28aにおける凹凸の高さよりも大きく、圧電体層20の面20aにおいて、第1粒子26の面26aの占有面積は、10.0%以下である。」(段落【0046】)と記載されている。
訂正後の請求項1には、「前記圧電体層の前記第2電極側の面は、第1粒子の面と、第2粒子の面と、によって構成され、前記第1粒子の面における凹凸の高さは、前記第2粒子の面における凹凸の高さよりも大きく、前記圧電体層の前記第2電極側の面において、前記第1粒子の面の占有面積は、0%超、10.0%以下である」と記載されており、この記載は、上記【0046】の記載に対応する。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1~9について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項1~3、5~9に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
(ア)訂正事項2-1
訂正事項2-1は、訂正前の請求項4には、「前記圧電体層は、(111)配向の粒子を有し」、「前記粒子の面の占有面積」と記載されているのを、それぞれ、訂正後の請求項4において、「前記圧電体層は、(111)配向の第1粒子と、(100)配向の第2粒子と、を有し、前記第1粒子は、複数設けられ、前記第2粒子は、複数設けられ、前記圧電体層の前記第2電極側の面は、前記第1粒子の面と、前記第2粒子の面と、によって構成され、
」「前記第1粒子の面の占有面積」と限定することで、圧電体層の構成をさらに特定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
よって、訂正事項2-1は、特許法第120条の5第2項に規定する要件を満たしている。
(イ)訂正事項2-2
訂正事項2-2は、訂正前の請求項4に、「前記圧電体層の前記第2電極側の面の方向から見て、複数の前記第2粒子の面は、1つの前記第1粒子の面を囲んでいる、」との構成を追加することで、第1粒子と第2粒子との配置の関係を更に限定し、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項2-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
よって、訂正事項2-2は、特許法第120条の5第2項に規定する要件を満たしている。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
(ア)訂正事項2-1
上記ア(ア)に記載したとおり、訂正事項2-1は、訂正前の請求項4に係る発明を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(イ)訂正事項2-2
上記ア(イ)に記載したとおり、訂正事項2-2は、訂正前の請求項4に係る発明を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
(ア)訂正事項2-1
本件特許明細書には、「圧電体層20の面20aは、図2および図3に示すように、第1粒子26の面26aと、第2粒子28の面28aと、によって構成されている。・・・。第1粒子26は、複数設けられている。第2粒子28は、複数設けられている。」(段落【0034】)、「第2粒子28は、(100)配向している。すなわち、第2粒子28は、(100)配向の粒子であり、面28aは、(100)面である。」(段落【0038】)と記載されている。
したがって、訂正事項2-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(イ)訂正事項2-2
本件特許明細書には、「図2に示す例では、平面視において、複数の面28aは、1つの面26aを囲んで設けられている。」(段落【0037】)と記載されている。「平面視において」とは、図2等の記載から明らかなように、「圧電体層の第2電極側の面の方向から見た場合」のことである。
したがって、訂正事項2-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1~9について特許異議申立てがされているので、訂正前の請求項4~9に係る訂正事項2(訂正事項2-1、訂正事項2-2)に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
上記のとおり、訂正事項1及び訂正事項2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当するから、同法第120条の5第2項に規定する要件を満たしており、かつ、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、令和6年5月17日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲(以下、単に「訂正特許請求の範囲」という。)のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~9に係る発明(以下、順にそれぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明9」という。また、訂正後の請求項1~9に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基体に設けられた第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を含む圧電体層と、
を含み、
前記圧電体層の前記第2電極側の面は、第1粒子の面と、第2粒子の面と、によって構成され、
前記第1粒子の面における凹凸の高さは、前記第2粒子の面における凹凸の高さよりも大きく、
前記圧電体層の前記第2電極側の面において、前記第1粒子の面の占有面積は、0%超、10.0%以下である、圧電素子。
【請求項2】
請求項1において、
前記圧電体層の結晶構造を擬立方晶とみなした場合、
前記圧電体層は、(100)優先配向している、圧電素子。
【請求項3】
請求項2において、
前記圧電体層の結晶構造を擬立方晶とみなした場合、
前記第1粒子は、(111)配向し、
前記第2粒子は、(100)配向している、圧電素子。
【請求項4】
基体に設けられた第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を含む圧電体層と、
を含み、
前記圧電体層の結晶構造を擬立方晶とみなした場合、
前記圧電体層は、(111)配向の第1粒子と、(100)配向の第2粒子と、を有し、
前記第1粒子は、複数設けられ、
前記第2粒子は、複数設けられ、
前記圧電体層の前記第2電極側の面は、前記第1粒子の面と、前記第2粒子の面と、によって構成され、
前記圧電体層の前記第2電極側の面において、前記第1粒子の面の占有面積は、0%超、10.0%以下であり、
前記圧電体層の前記第2電極側の面の方向から見て、複数の前記第2粒子の面は、1つの前記第1粒子の面を囲んでいる、圧電素子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記圧電体層の厚さは、500nm以上2μm以下である、圧電素子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
前記圧電体層は、第1層と複数の第2層とが積層されて構成され、
前記第1層は、前記第1電極と前記第2層との間に設けられ、
前記第1層におけるカリウムとナトリウムとの原子濃度の比は、前記第2層におけるカリウムとナトリウムとの原子濃度の比と異なり、
前記第2層の厚さは、51nm以下である、圧電素子。
【請求項7】
請求項6において、
前記第1層の厚さは、75nm以下である、圧電素子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の圧電素子と、
液体を吐出するノズル孔が設けられたノズルプレートと、
を含み、
前記基体は、前記圧電素子により容積が変化する圧力発生室と、前記圧力発生室に前記液体を供給する供給流路とが設けられた流路形成基板を有し、
前記ノズル孔は、
前記圧力発生室に連通している、液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドに対して被記録媒体を相対移動させる搬送機構と、
前記液体吐出ヘッドおよび前記搬送機構を制御する制御部と、
を含む、プリンター。」
第4 令和6年3月13日付け取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
当審が令和6年3月13日付けで特許権者に通知した取消理由(以下「取消理由」という。)の要旨は、次のとおりである。
取消理由1(新規性)本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
取消理由2(進歩性)本件特許の請求項8、9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項8、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<引用文献等一覧>
1.甲第1号証:特開2011-30195号公報
2.甲第3号証:特開2017-143260号公報
2 甲号証の記載等について
(1)甲第1号証の記載、甲第1号証に記載の発明
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は当審において付加した。以下、同じ。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸リチウムカリウムナトリウム膜などを用いた圧電薄膜素子及び圧電薄膜デバイスに関する。」
「【0002】
・・・なお、LKNNは、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)膜を含む。
・・・
【0004】
最近、RFスパッタリング法で形成したPZT薄膜が高精細高速インクジェットプリンタのヘッド用アクチュエータや、小型低価格のジャイロセンサとして実用化されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。・・・」
「【0007】
圧電薄膜として非鉛圧電薄膜を形成することにより、環境負荷の小さい高精細高速インクジェットプリンタ用ヘッドや小型低価格なジャイロセンサを作成することができる。その具体的な候補として、LKNNの薄膜化の基礎研究が進められている。」
「【0030】
[圧電薄膜素子の一基本構造]
本実施の形態の圧電薄膜素子は、基板と、前記基板の表面に形成される酸化膜と、前記酸化膜上に形成される下部電極層と、前記下部電極層上に形成される圧電薄膜と、その上に形成される上部電極層とから構成される積層構造を有する。
・・・
【0033】
基板の表面に形成される前記酸化膜は、熱酸化により形成される熱酸化膜、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成されるSi酸化膜などがあげられる。なお、前記酸化膜を形成せずに、石英ガラス(SiO2)、MgO、SrTiO3、SrRuO3基板などの酸化物基板上に、直接Pt電極などの下部電極層を形成しても良い。
【0034】
前記下部電極層は、PtもしくはPtを主成分とする合金からなる電極層、またはこれらを積層した構造の電極層を含む電極層であることが望ましい。また、前記下部電極層は、(111)面には配向して形成されるのが好ましく、基板とPtもしくはPtを主成分とする合金化からなる電極層との間に、基板との密着性を高めるための接着層を設けても良い。(111)面に配向したPt薄膜は、圧電薄膜に対する下地層としても機能する。」
「【0040】
[下部電極層の結晶配向性]
(Pt薄膜の結晶配向)
そこで、はじめに、LKNN膜の結晶配向性を厳密に管理および制御するために、当該圧電薄膜の初期の結晶成長面である下部電極のPt薄膜の結晶性を安定に実現すべく、成膜温度、成膜ガス及び真空度などの最適化を行った。成膜条件として、まず、成膜温度の検討をすすめ、(111)優先配向となる条件として、100~500℃の成膜範囲が最適温度の範囲にあたることを見出した。成膜ガスとしては、Arガスや、ArとO2の混合ガス,あるいはHeまたはNeまたはKrまたはN2など少なくとも一つ以上の不活性ガスが混合したガスを用いる。」
「【0045】
[圧電薄膜の結晶配向]
更に、LKNN膜の優先配向性をより確実に実現するために、上記の実施の形態において、LKNN膜そのものの成膜温度、スパッタリング動作ガスの種類、動作ガス圧力、真空度、投入電力、及び成膜後の熱処理について、圧電特性が向上する結晶配向性を有する当該圧電薄膜の作製条件を見出し、最適化を図ることで達成するのも良い。これらの条件を装置毎やさまざまな環境下に応じて、作製条件や評価及び管理方法などを詳細かつ厳密に検討することによって、(001)や(111)優先配向、あるいは両者が共存して優先配向した擬立方晶のLKNN薄膜を再現よく形成できる。
【0046】
多結晶あるいはエピタキシャル成長させた単結晶のLKNN膜そのものの優先配向を厳密に制御するために、例えば、(001)配向成分や(111)配向成分が一定の比率の範囲内におさまるように、成膜温度が常に一定となるように精密に設定する。実際の成膜時の加熱装置として、赤外線ランプによる熱輻射、あるいは伝熱板を介したヒータ加熱による熱伝導を用いて、最適な結晶配向成分比となる温度範囲内に収まる設定を行った。
【0047】
また、前記条件に合わせて、スパッタリング投入電力、成膜装置内に導入されるガスの圧力や流量の大きさを最適な値に決めることや、適切なガス種を選ぶことによって、結晶構造としての(001)および(111)配向を含めた各種配向成分を厳密に制御し、高い圧電定数を示すLKNN膜を安定に再現良く得られる効果を期待できる。
具体的には、ArとO2の混合ガス、またはArガスまたはHeまたはNeまたはKrまたはN2など少なくとも一つ以上の不活性ガスが混合したガスによるプラズマでスパッタリング成膜を行う。LKNN圧電薄膜の成膜には、(NaxKyLiz)NbO3 0≦x≦1.0、0≦y≦1.0、0≦z≦0.2 のセラミックターゲットを用いるとよい。
更に、スパッタリングターゲット材の密度も、上記状況に応じて変更させることによっても同様な効果が期待できる。
また、成膜後においても酸素中や不活性ガス中あるいは両者の混合ガス、またあるいは大気中あるいは真空中で加熱処理を行い、圧電薄膜の内部応力等の制御を行うことができる。
【0048】
このようにして得られるLKNN膜は、柱状構造の結晶粒子で構成された集合組織を有する。また、前記下部電極層が(111)面に配向して形成されている場合、前記圧電薄膜層は前記下部電極層に対し所定方向に優先配向されて形成されている。
【0049】
また、前記圧電薄膜層は、(001)優先配向結晶粒、(110)優先配向結晶粒および(111)優先配向結晶粒の少なくとも一つが共存した状態にあることが好ましい。このような結晶配向性の状態を実現することによって、内部応力制御による圧電特性向上が可能である。
【0050】
実施例1の圧電薄膜素子を構成する圧電薄膜は、擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれらの結晶構造の少なくとも一つが共存した状態を有している。また、圧電薄膜は、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向している。しかも、圧電薄膜は、前記配向している結晶軸の成分として、(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60から100%の範囲内にあり、(111)成分の体積分率が0から40%の範囲内にあるように形成されている。このような構成とすることにより、結晶方位がランダムになることや内部歪の増大による圧電定数の低下を防ぐことが出来る。(実施例5の図16~図18)
【0051】
上述した圧電薄膜の(001)成分の体積分率が60から100%の範囲内にあり、または(111)成分の体積分率が0から40%の範囲内にはいるよう成膜するには、圧電薄膜の成膜条件、例えば、成膜温度を制御することにより実現出来る。(実施例4の図13)」
「【実施例1】
【0066】
次に、本発明の実施例を説明する。
【0067】
(実施例1)
図1~図8を用いて説明する。
図1に、圧電薄膜付の基板の概要を示す断面図を示す。本実施例においては、酸化膜を有するSi基板1上に接着層2を形成し、その接着層2の上部に、下部電極層3とペロブスカイト構造のKNNの圧電薄膜層4を順に形成した圧電薄膜素子を作製した。
【0068】
このとき、前記圧電薄膜層4は、結晶系としては擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶であり、その少なくとも一部にABO3の結晶あるいは非晶質あるいは両者の混合した組成でも良い。ここで、AはLi、Na、K、La、Sr、Nd、Ba、及びBiの中から選択される1種類以上の元素であり、BはZr、Ti、Mn、Mg、Nb、Sn、Sb、Ta及びInの中から選択される1種類以上の元素であり、Oは酸素である。Aサイトの圧電材料としてPbを含む構成とすることもできるが、環境面からはPbを含まない圧電薄膜が求められる。
【0069】
下部電極層3としては、Pt薄膜あるいはAu薄膜を用いるとよい。またはPt合金、Ir、Ruを含む合金としてもよく、これらの積層構造としてもよい。
【0070】
以下、圧電薄膜素子の製造方法を記述する。始めに、4インチの円形状のSi基板1の表面に熱酸化膜を形成し、その上に下部電極層3を形成した。なお、熱酸化膜は厚さが150nmとなるよう設けた。
【0071】
下部電極層3は接着層2として形成した厚さ2nmのTi膜とこのTi膜上に電極層として形成した厚さ100nmのPt薄膜からなる。この電極層の形成にはスパッタリング法を用いた。図19に示すスパッタリング用ターゲット12として金属ターゲットを用い、成膜時のスパッタリング投入電力は100Wであり、スパッタリング用ガスには100%Arガスを使用している。また形成時には基板温度を350℃にして成膜を行って、多結晶薄膜のPtからなる薄膜を形成した。
【0072】
次に、この下部電極層上に圧電薄膜層4としてKNN薄膜を形成した。KNN薄膜の成膜にもスパッタリング法を用いて形成した。KNN薄膜の形成は、基板温度を700℃~730℃、ArとO2の5:5の混合ガスによるプラズマでスパッタリング成膜を実施した。また、ターゲットには(NaxKyLiz)NbO3 x=0.5、y=0.5、z=0のセラミックターゲットを用いた。膜厚が3μmになるまで成膜を行った。また、成膜後において大気中で加熱処理を行った。なお、スパッタには自公転炉を用い、スパッタ時の基板とターゲット間の距離(以下、TS間距離)は50mmとした。
【0073】
こうして作製したKNN膜について、走査電子顕微鏡などで断面形状を観察すると、その組織は柱状構造で構成されていた。一般的なX線回折装置で結晶構造を調べた結果、基板加熱を行って形成した実施例1のPt薄膜は、図2のX線回折パターン(2θ/θスキャン測定)に示すように、基板表面に垂直な向きに(111)面に配向した薄膜が形成されていることが判った。
【0074】
この(111)に優先配向したPt膜上に、KNN膜を形成した結果、作製されたKNN薄膜は、図3に示す擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜であることが判明した。また、図2のX線回折パターンから分かるように、(001)、(002)、(003)の回折ピークのみを確認できることから、KNN圧電薄膜が概ね(001)に優先配向していることが予想できた。」
「【0080】
図5に、実施例1の圧電薄膜における広域逆格子点マップの解析結果を示す。
・・・
【0082】
・・・この解析結果は当該圧電薄膜において(001)と(111)配向の共存を示唆したものである。
・・・
【0091】
上述したように実施例1によれば、配向成分の強度を正確に計算するには、(001)配向方向と(111)配向方向の間の角度に相当するδの角度が最大となるφ軸の位置におけるX線反射プロファイルについて、各配向成分の積分強度計算を行えばよいことが分かった。」
「【0100】
(実施例4)
図12~図15を用いて説明する。
本実施例として、(001)の配向成分と(111)の配向成分の体積分率を意図的に変化させて作製した結果を示す。
【0101】
図12に、スパッタリング成膜法における、成膜温度に対する・・・
・・・
【0106】
上記実施の形態の一つとして、図15に断面模式図を示している。(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)7、及び(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)8が共存した状態にある(当審注:「(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)9」、「(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)10」は、段落【0116】及び図15から、それぞれ誤記と認定した。)。図15に示すような結晶配向性の状態を実現することによって、内部応力制御による圧電特性向上が可能である。更に応力緩和によって、膜はがれを抑制することが可能であることから、圧電薄膜の機械的強度が向上し、加工容易性に優れた圧電薄膜を提供できる。
複数枚の4インチサイズの基板から取得できた素子の歩留りを確認したところ、(111)成分が1%未満の圧電薄膜付き基板から取得した素子では、歩留りが70%に満たなかったのに対し、(111)成分が1%を超える圧電薄膜付き基板から取得した素子では、歩留りが90%を超える結果となった。
発明者の検討の結果、これはウェハ面内における圧電定数のばらつきの大きさによるものと考えられる。(111)配向成分の体積分率とウェハ面内の圧電定数のばらつき(%)の関係について確認をした結果を表1及び図20に示す。図20に示すように、ウェハ面内での圧電定数のばらつきについて、(111)配向成分の体積分率がほぼ1%となるところで、ばらつきの増大はなく、ほぼ一定となることがわかっている。ここで示す圧電定数のばらつきは、4インチウェハ面内で測定した圧電定数の標準偏差をその平均値で割った相対標準偏差である。このときその値は約23%であった。しかしながら、(111)体積分率が約0.2%では、ばらつきが15.3%~27.1%までばらつき、同じ(111)体積分率であっても、ウェハ毎にそのばらつきの値の差が大きく、歩留り低下の原因となっている。
【表1】
[図:0001423447000001.jpg]
」
「【0107】
(実施例5)
図16~図18を用いて説明する。
本実施例として、図16にKNN圧電薄膜の圧電特性の(111)積分強度に対する変化を示す。横軸は(111)積分強度、縦軸は圧電定数である。ここでは、例として6.7MV/mあるいは0.67MV/mで電界を印加したときの圧電定数を示す。尚、圧電定数の単位は任意単位であるが、実際の圧電定数の具体的な例としては、電極面に垂直(厚み方向)な伸縮の変化量であるd33、あるいは電極面にそった方向の伸縮の変化量であるd31がある。
・・・
【0110】
次に、(001)配向成分との比較を行うため、表2及び表2をグラフ化した図17にKNN圧電薄膜の圧電特性の(111)配向成分比に対する依存性を示す。横軸は(111)配向成分の体積分率、縦軸は圧電定数である。本実施例において、印加電界の大きさに関係なく、(111)配向の成分が0から20%の範囲において、(111)体積分率が増加するに従い圧電定数が増加することが分かる。
【0111】
しかし、(111)体積分率が20%を超えると、当該の体積分率が増加するに従い圧電定数が減少していくことが分かる。特に、40%を超えると、本実施例で得られた最大値の約半分の値になることが分かる。言い換えれば、本実施例となる圧電薄膜においては、その最大圧電定数の5割以上を確保するためには、(111)の体積分率を40%以上にすることが望ましい。また、一般に圧電材料の圧電特性を向上させるためには、結晶化度を向上させることも重要であり、X線回折の積分強度が高くなっていることで確認できる。本実施例においては、(111)の体積分率が30%以下で、結晶化度が高くなっており、高い結晶化度を実現した上で最適な体積分率を規定すれば、より高性能な圧電薄膜を実現できる。
【表2】
[図:0001423447000002.jpg]
」
「【0113】
以上のように、基板上に少なくとも下部電極、圧電薄膜及び上部電極を配した圧電薄膜素子において、その圧電薄膜が擬立方晶あるいは正方晶あるいは斜方晶の結晶構造、あるいはそれらの結晶構造の少なくとも一つが共存した状態を有しており、それら結晶軸のうち2軸以下のある特定の軸に優先的に配向しており、かつ前記配向している結晶軸の成分としての(001)成分と(111)成分比において、それら両者の合計を100%としたとき、(001)成分の体積分率が60から100%の範囲内にあり、またあるいは、(111)成分の体積分率が0から40%の範囲内にあるように結晶配向性を精密に制御することによって、新規の高性能な圧電薄膜素子の製造が可能になることが分かった。
【0114】
・・・Pt下部電極上には、ターゲットには(NaxKyLiz)NbO3 x=0.5、y=0.5、z=0、ターゲット密度4.6g/cm3のセラミックターゲットを用い、膜厚が3μmとなるようKNN圧電膜の成膜を行った。・・・」
「【符号の説明】
【0116】
・・・
7 (001)優先配向結晶粒
8 (111)優先配向結晶粒」
「【図3】
[図:0001423447000003.jpg]
」
「【図15】
[図:0001423447000004.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載の技術事項
上記アによれば、甲第1号証には、以下の技術事項が記載されている。
(ア)圧電薄膜の結晶配向について、(001)や(111)が共存して優先配向した擬立方晶のKNN薄膜は、柱状構造の結晶粒子で構成された集合組織を有し、前記下部電極層が(111)面に配向して形成されている場合、前記圧電薄膜層は前記下部電極層に対し所定方向に優先配向されて形成されていること(段落【0002】、【0045】、【0048】)。
(イ)実施例1で作製された圧電薄膜素子は、基板と、前記基板の表面に形成される酸化膜と、前記酸化膜上に形成される下部電極層と、前記下部電極層上に形成される、ペロブスカイト構造のニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)の圧電薄膜層4と、その上に形成される上部電極層とから構成される積層構造を有すること(段落【0002】、【0030】、【0067】)。
(ウ)実施例1で作製された圧電薄膜素子について、接着層として形成したTi膜と、このTi膜上に電極層として形成したPt薄膜からなる下部電極層3上に、圧電薄膜層4としてKNN薄膜をスパッタリング法を用いて成膜し、成膜後、大気中で加熱処理を行ったこと(段落【0071】~【0072】)。
(エ)実施例1の圧電薄膜層4として形成したKNN薄膜について、走査電子顕微鏡などで断面形状を観察すると、その組織は柱状構造で構成されており、作製されたKNN薄膜は、擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜であり、X線回折パターンから、KNN圧電薄膜が概ね(001)に優先配向していることが予想できたこと(段落【0072】~【0074】、図3)。
(オ)実施例1の圧電薄膜の解析結果において、(001)と(111)配向の共存を示唆したものであること(段落【0080】、【0082】)。
(カ)実施例4は、スパッタリング成膜法における、(001)の配向成分と(111)の配向成分の体積分率を意図的に変化させて作製した結果であり、複数の(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)、及び複数の(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)が共存した状態にあること(段落【0100】、【0101】、【0106】、図15)。
(キ)図15から、下部電極層3上の圧電薄膜は、(001)優先配向結晶粒7と、(111)優先配向結晶粒8と、によって構成されていることが見てとれる。
ウ 甲第1号証に記載の発明
上記イ(イ)、(エ)~(キ)から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板と、前記基板の表面に形成される酸化膜と、前記酸化膜上に形成される下部電極層と、前記下部電極層上に形成される、ペロブスカイト構造のニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)の圧電薄膜層4と、その上に形成される上部電極層とから構成される積層構造を有する圧電薄膜素子であって、
圧電薄膜層4として形成したKNN薄膜は、走査電子顕微鏡などで断面形状を観察すると、その組織は柱状構造で構成されており、擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜であり、X線回折パターンから、KNN圧電薄膜が概ね(001)に優先配向していることが予想でき、
圧電薄膜の解析結果において、(001)と(111)配向の共存が示唆され、複数の(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)、及び複数の(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)が共存した状態にあり、
圧電薄膜は、(001)優先配向結晶粒7と、(111)優先配向結晶粒8と、によって構成されている、圧電薄膜素子。」
(2)甲第3号証の記載
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
圧電素子は、一般に、電気機械変換特性を有する圧電体層と、圧電体層を挟持する2つの電極とを有している。このような圧電素子を駆動源として用いたデバイス(圧電素子応用デバイス)の開発が、近年、盛んに行われている。圧電素子応用デバイスの一つとして、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッド、圧電MEMS素子に代表されるMEMS要素、超音波センサー等に代表される超音波測定装置、更には、圧電アクチュエーター装置等がある。」
「【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、1層目のKNN薄膜の厚さを制御することで、膜厚方向の組成分布(K:Na)の形状や変動を均一にしてKNN層全体の均一性を確保し、且つ、組成分布の形状の均一性を維持することで、KNN層における各KNN薄膜の結晶成長方向を同一にして、連続性を有する結晶粒を形成できることを見出した。」
「【0019】
以上説明した記録装置Iに搭載される記録ヘッド1の一例について、図2~図4を用いて説明する。図2は、液体噴射ヘッドの一例である記録ヘッドの分解斜視図である。図3は、流路形成用の基板の圧電素子側の平面図であり、図4は、図3のA-A′線断面図である。
【0020】
図示するように、基板10は、例えばシリコン単結晶基板からなり、圧力発生室12が形成されている。そして、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が、同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21と同様にして、X方向に沿って並設されている。なお、基板10の材料はシリコン単結晶に限定されず、例えばSOI、ガラスセラミックス、ステンレス鋼等であってもよい。
【0021】
基板10のうち、圧力発生室12のY方向の一端部側には、インク供給路13と連通路14が形成されている。インク供給路13は、圧力発生室12の片側をX方向から絞ることで、その開口面積が小さくなるように構成されている。また、連通路14は、X方向において圧力発生室12と略同じ幅を有している。連通路14の外側(+Y方向側)には、連通部15が形成されている。連通部15は、マニホールド100の一部を構成する。マニホールド100は、各圧力発生室12の共通のインク室となる。このように、基板10には、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15からなる液体流路が形成されている。
【0022】
基板10の一方の面(-Z方向側の面)上には、例えばSUS製のノズルプレート20が接合されている。ノズルプレート20には、X方向に沿ってノズル開口21が並設されている。ノズル開口21は、各圧力発生室12に連通している。ノズルプレート20は、接着剤や熱溶着フィルム等によって基板10に接合することができる。なお、ノズルプレート20の材料は、SUSに限定されず、例えばシリコン単結晶、SOI、ガラスセラミックス等であってもよい。
・・・
【0024】
絶縁体膜52上には、密着層56を介して、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを含む圧電素子300が形成されている。第1電極60及び第2電極80の各材料は、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)等の貴金属が好適である。第1電極60の及び第2電極80の各材料は、導電性を有する材料であればよい。第1電極60及び第2電極80の各材料は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。」
「【0048】
次に、圧電素子300の詳細について、図5を参照して説明する。図5は、記録装置に搭載される記録ヘッドに含まれる圧電素子の概略構成の一例を示す断面図である。図示するように、圧電素子300は、厚さが約50nmの第1電極60と、厚さが約50nmの第2電極80と、第1電極60と第2電極80との間に設けられた圧電体層70とを含む。このとき、圧電体層70は、複数の圧電体膜の積層体であり、30nm以上70nm以下の厚さを有する第1の圧電体膜71と、第1の圧電体膜71上に形成された複数の第2の圧電体膜72とからなり、第1の圧電体膜71及び複数の第2の圧電体膜72内におけるナトリウムの濃度は、膜厚方向(Z方向)に傾斜しており、第1電極60側が高く、第2電極80側が低くなっている。
・・・
【0056】
一方、第1の圧電体膜71の厚さを、30nm以上70nm以下にすると、結晶成長の起点が第1電極60との界面(図6の起点(A))に移動する。即ち、第1の圧電体膜71のKNNが結晶化するとき、結晶化開始起点が薄膜中又は薄膜表面側ではなく、第1電極60界面側に存在するようになり、第1の圧電体膜71(KNN膜)のNa濃度の傾斜が層表面側で低く、第1電極60界面側で高くなり、当然のことながら、K濃度の傾斜はNa濃度の傾斜の逆となる。結晶化開始起点が第1電極60界面側に存在するようになることより、(111)面に配向した第1電極60の結晶状態を反映して、結晶面が(001)面に高配向し、面内方向と膜厚方向の組成分布が均一なKNN膜が得られる。この層上に複数の第2の圧電体膜72(KNN膜)が形成されることで、下層のKNN膜の配向を引き継いで、結晶面が(001)面に高配向したKNN膜が積層され、(001)面に高配向した圧電体層70(KNN層)が得られる。また、圧電体層70の膜厚方向の組成については、各圧電体膜(KNN膜)内でK及びNaの濃度が傾斜するが、各圧電体膜の分布の形状と変動が全ての圧電体膜で略同一となるため、圧電体層70全体としての均一性を確保することができる。
・・・
【0061】
ここで、(001)面に高配向した圧電体膜(KNN膜)からなる圧電体層70とは、本実施形態では、KNN結晶が(001)面に対して優先配向しているものをいう。例えば、KNN系の複合酸化物からなる圧電体層70は、(001)面に自然配向しやすい。この他、必要に応じて設けられる所定の配向制御層によっては、圧電体層70は、(110)面や(111)面に優先配向する場合もある。所定の結晶面に優先配向した圧電体層70は、ランダム配向した圧電体層に比べて、各種の特性の向上を図りやすい。なお、本明細書において、優先配向とは、50%以上、好ましくは80%以上の結晶が、所定の結晶面に配向していることを示すものとする。例えば「(001)面に優先配向している」とは、圧電体層70の全ての結晶が(001)面に配向している場合と、半分以上の結晶(50%以上、好ましくは80%以上)が(001)面に配向している場合を含む。」
「【0079】
上述した通りの構成を有する記録ヘッド1では、外部インク供給手段(例えば図1のカートリッジ2A,2B)からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC(例えば駆動回路120)からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加し、圧電素子300を撓み変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。」
「【0104】
上記の実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般に適用可能であり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等がある。」
「【符号の説明】
【0107】
I…インクジェット式記録装置(記録装置)、II…インクジェット式記録ヘッドユニット(ヘッドユニット)、S…記録シート、1…インクジェット式記録ヘッド(記録ヘッド)、2A,2B…カートリッジ、3…キャリッジ、4…装置本体、5…キャリッジ軸、6…駆動モーター、7…タイミングベルト、8…搬送ローラー、10…基板、11…隔壁、12…圧力発生室、13…インク供給路、14…連通路、15…連通部、20…ノズルプレート、21…ノズル開口、30…保護基板、31…圧電素子保持部、32…マニホールド部、33…貫通孔、35…接着剤、40…コンプライアンス基板、41…封止膜、42…固定板、43…開口部、50…振動板、51…弾性膜、52…絶縁体膜、53…マスク膜、56…密着層、60…第1電極、70…圧電体層、71…第1の圧電体膜、72…第2の圧電体膜、73…異相、80…第2電極、90…リード電極、100…マニホールド、110…ウェハー、120…駆動回路、121…接続配線、130…保護基板用ウェハー、200…プリンターコントローラー、300…圧電素子」
「【図1】
[図:0001423447000005.jpg]
」
「【図2】
[図:0001423447000006.jpg]
」
「【図4】
[図:0001423447000007.jpg]
」
3 当審の判断
(1)取消理由1(新規性)について
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「基板」、「下部電極層」、「ペロブスカイト構造のニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)の圧電薄膜層4」、「上部電極層」、「圧電薄膜素子」は、それぞれ本件訂正発明1の「基体」、「第1電極」、「カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を含む圧電体層」、「第2電極」、「圧電素子」に相当する。
b 甲1発明において、「圧電薄膜層4として形成したKNN薄膜は、走査電子顕微鏡などで断面形状を観察すると、その組織は柱状構造で構成されており、擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜であり」、「圧電薄膜の解析結果において、(001)と(111)配向の共存が示唆され、複数の(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)、及び複数の(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)が共存した状態にあ」るところ、「圧電薄膜層4として形成したKNN薄膜」は、「柱状構造で構成されており、擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜」であるから、圧電薄膜層4の上部電極層側の面は、「(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)」の面と、「(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)」の面と、によって構成されたものであるといえる。
そうすると、甲1発明における、「(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)」、「(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)」は、それぞれ本件訂正発明1の「第2粒子」、「第1粒子」に相当する。
したがって、本件訂正発明1と甲1発明とは、「前記圧電体層の前記第2電極側の面は、第1粒子の面と、第2粒子の面と、によって構成され」たものである点で一致する。
c したがって、本件訂正発明1と甲1発明との一致点と相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「基体に設けられた第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を含む圧電体層と、
を含み、
前記圧電体層の前記第2電極側の面は、第1粒子の面と、第2粒子の面と、によって構成された、圧電素子。」
<相違点1>
本件訂正発明1では、「前記第1粒子の面における凹凸の高さは、前記第2粒子の面における凹凸の高さよりも大き」いのに対し、甲1発明では、「(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)」(第2粒子)の面と、「(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)」(第1粒子)の面について、そのような特定はなされていない点。
<相違点2>
本件訂正発明1では、「前記圧電体層の前記第2電極側の面において、前記第1粒子の面の占有面積は、0%超、10.0%以下である」のに対し、甲1発明では、「(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)」(第1粒子)の面について、そのような特定はなされていない点。
(イ)判断
a 相違点1について
(a)上記2(1)イ(ア)、(ウ)のとおり、甲第1号証には、Ti膜と、このTi膜上に電極層として形成したPt薄膜からなる下部電極層3上に、圧電薄膜層4としてKNN薄膜をスパッタリング法を用いて成膜し、成膜後、大気中で加熱処理を行い、形成したKNN薄膜の結晶配向について、(001)や(111)が共存して優先配向した擬立方晶のKNN薄膜は、柱状構造の結晶粒子で構成された集合組織を有し、前記下部電極層が(111)面に配向して形成されている場合、前記圧電薄膜層は前記下部電極層に対し所定方向に優先配向されて形成されているとの技術事項が記載されている。
(b)一方、甲1発明において、「基板と、前記基板の表面に形成される酸化膜と、前記酸化膜上に形成される下部電極層と、前記下部電極層上に形成される、ペロブスカイト構造のニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)の圧電薄膜層4と、その上に形成される上部電極層とから構成される積層構造を有する圧電薄膜素子であって、圧電薄膜層4として形成したKNN薄膜は、走査電子顕微鏡などで断面形状を観察すると、その組織は柱状構造で構成されており、擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜であり」、「圧電薄膜の解析結果において、(001)と(111)配向の共存が示唆され、複数の(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)、及び複数の(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)が共存した状態にあ」るから、圧電薄膜層4の上部電極層側の面を構成する面のうち、(001)優先配向した結晶粒が存在する領域の上面は、ほぼ(001)面(図3を参照。)となり、(111)優先配向した結晶粒が存在する領域の上面は、ほぼ(111)面(図3を参照。)となる。
(c)上記(a)、(b)のとおり、甲第1号証には、圧電薄膜層4の上部電極層側の面における、(111)優先配向した結晶粒(第1粒子)の面と、(001)優先配向した結晶粒(第2粒子)の面のそれぞれにおける凹凸の高さや平坦性についての技術事項は、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、「前記第1粒子の面における凹凸の高さは、前記第2粒子の面における凹凸の高さよりも大き」いということはできず、相違点1は、実質的な相違点である。
b よって、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明であるとはいえない。
イ 本件訂正発明4について
(ア)対比
本件訂正発明4と甲1発明とを対比する。
a 甲1発明の「基板」、「下部電極層」、「ペロブスカイト構造のニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)の圧電薄膜層4」、「上部電極層」、「圧電薄膜素子」は、それぞれ本件訂正発明4の「基体」、「第1電極」、「カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を含む圧電体層」、「第2電極」、「圧電素子」に相当する。
b 甲1発明において、「圧電薄膜層4として形成したKNN薄膜は、走査電子顕微鏡などで断面形状を観察すると、その組織は柱状構造で構成されており、擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜であり」、「圧電薄膜の解析結果において(001)と(111)配向の共存が示唆され、複数の(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)、及び複数の(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)が共存した状態にあ」るところ、「圧電薄膜層4として形成したKNN薄膜」は、「柱状構造で構成されており、擬立方晶のペロブスカイト型の結晶構造を有する多結晶薄膜」であるから、圧電薄膜層4の上部電極層側の面は、「(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)」の面と、「(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)」の面と、によって構成されたものであるといえる。
そうすると、甲1発明における、「(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)」、「(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)」は、それぞれ本件訂正発明4の「(100)配向の第2粒子」、「(111)配向の第1粒子」に相当する。
したがって、本件訂正発明4と甲1発明とは、「前記圧電体層の結晶構造を擬立方晶とみなした場合、前記圧電体層は、(111)配向の第1粒子と、(100)配向の第2粒子と、を有し、前記第1粒子は、複数設けられ、前記第2粒子は、複数設けられ、前記圧電体層の前記第2電極側の面は、前記第1粒子の面と、前記第2粒子の面と、によって構成され」たものである点で一致する。
c したがって、本件訂正発明4と甲1発明との一致点と相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「基体に設けられた第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられ、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を含む圧電体層と、
を含み、
前記圧電体層の結晶構造を擬立方晶とみなした場合、
前記圧電体層は、(111)配向の第1粒子と、(100)配向の第2粒子とを有し、
前記第1粒子は、複数設けられ、
前記第2粒子は、複数設けられ、
前記圧電体層の前記第2電極側の面は、前記第1粒子の面と、前記第2粒子の面と、によって構成される、圧電素子。」
<相違点3>
本件訂正発明4では、「前記圧電体層の前記第2電極側の面において、前記粒子の面の占有面積は、0%超、10.0%以下である」のに対し、甲1発明では、「(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)」(第1粒子)の面について、そのような特定はなされていない点。
<相違点4>
本件訂正発明4では、「前記圧電体層の前記第2電極側の面の方向から見て、複数の前記第2粒子の面は、1つの前記第1粒子の面を囲んでいる」のに対し、甲1発明では、そのような特定はなされていない点。
(イ)判断
a 相違点4について
甲第1号証には、圧電薄膜層4(圧電体層)の上部電極層(第2電極)側の面の方向から見て、複数の(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)(第2粒子)の面は、1つの(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)(第1粒子)の面を囲んでいるとの構成は、記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明は、「前記圧電体層の前記第2電極側の面の方向から見て、複数の前記第2粒子の面は、1つの前記第1粒子の面を囲んでいる」ということはできず、相違点4は、実質的な相違点である。
b よって、相違点3について検討するまでもなく、本件訂正発明4は、甲1発明であるとはいえない。
ウ 本件訂正発明2、3、5について
本件訂正発明2、3、5は、それぞれ、本件訂正発明1又は本件訂正発明4に対して、更に発明特定事項を追加した発明である。
よって、上記ア、イで示した理由と同様の理由により、本件訂正発明2、3、5は、甲1発明であるとはいえない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~5は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 本件訂正発明8、9について
(ア)本件訂正発明8、9は、それぞれ、本件訂正発明1又は本件訂正発明4の圧電素子を引用し、更に発明特定事項を追加した液体吐出ヘッド、プリンターの発明である。
したがって、請求項1の記載を引用する本件訂正発明8と甲1発明とを対比すると、上記(1)ア(ア)と同様に、両者は上記相違点1、2と同様な点で少なくとも相違する。
また、請求項4の記載を引用する本件訂正発明8と甲1発明とを対比すると、上記(1)イ(ア)と同様に、両者は上記相違点3、4と同様な点で少なくとも相違する。
(イ)請求項1の記載を引用する本件訂正発明8について検討する。
a まず、相違点1について検討する。
上記(1)ア(イ)a(c)のとおり、甲第1号証には、圧電薄膜層4の上部電極層側の面における、(111)優先配向した結晶粒(第1粒子)の面と、(001)優先配向した結晶粒(第2粒子)の面の凹凸の高さや平坦性については、記載も示唆もされていないから、甲1発明において、「前記第1粒子の面における凹凸の高さは、前記第2粒子の面における凹凸の高さよりも大き」いということはできない。
また、上記2(2)の甲第3号証の摘記事項及びその他の箇所を参照しても、甲第3号証には、圧電体層70の複数の第2の圧電体膜72の最上面(本件訂正発明1の「前記圧電体層の前記第2電極側の面」に相当。)は、「第1粒子の面と、第2粒子との面と、によって構成され」ることや、「前記第1粒子の面」と、「前記第2粒子の面」のそれぞれにおける凹凸の高さや平坦性について、記載も示唆もされていない。
したがって、甲第3号証を参照した当業者であっても、甲1発明において、相違点1に係る本件訂正発明8の構成を採用することを容易になし得たとはいえない。
b よって、相違点2について検討するまでもなく、請求項1の記載を引用する本件訂正発明8は、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)請求項1の記載を引用する本件訂正発明9についても、上記(イ)における判断と同様な理由で、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)請求項4の記載を引用する本件訂正発明8について検討する。
a まず、相違点4について検討する。
上記(1)イ(イ)aのとおり、甲第1号証には、圧電薄膜層4(圧電体層)の上部電極層(第2電極)側の面の方向から見て、複数の(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)(第2粒子)の面は、1つの(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)(第1粒子)の面を囲んでいるとの構成は、記載も示唆もされていないから、甲1発明は、「前記圧電体層の前記第2電極側の面の方向から見て、複数の前記第2粒子の面は、1つの前記第1粒子の面を囲んでいる」ということはできない。
また、上記2(2)の甲第3号証の摘記事項及びその他の箇所を参照しても、甲第3号証には、圧電体層70は、「(111)配向の第1粒子と、(100)配向の第2粒子と、を有」することや、「前記圧電体層の前記第2電極側の面の方向から見て、複数の前記第2粒子の面は、1つの前記第1粒子の面を囲んでいる」ことについて、記載も示唆もされていない。
したがって、甲第3号証を参照した当業者であっても、甲1発明において、相違点4に係る本件訂正発明8の構成を採用することを容易になし得たとはいえない。
b よって、相違点3について検討するまでもなく、請求項4の記載を引用する本件訂正発明8は、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)請求項4の記載を引用する本件訂正発明9についても、上記(エ)における判断と同様な理由で、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(カ)以上のとおりであるから、本件訂正発明8、9は、甲1発明及び甲第3号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立人の意見について
ア(ア)申立人は、令和6年7月8日に提出した意見書1/7~2/7ページの3.(1)(1-1)において、以下のとおり主張する。
「特許権者は、意見書において、
「乙第1号証によれば、図2に示すように、・・・。
したがって、取消理由通知書における相違点1の判断の『(111)優先配向した結晶粒が存在する領域の上面は、・・・、すなわち、三角錐が並んだ凹凸面となる。』という記載は、誤りであると思料される。」と意見を述べられています。
しかしながら、乙第1号証は、・・・。
また、・・・平坦に保ったまま成長します。。
一方で、基板の表面と結晶表面とが平行でない場合(本発明における(111)結晶粒の成長では)、結晶はオフ角をもって成長します。このようなオフ角をもった結晶の成長では、表面(結晶成長面)を平坦に保つことができず、結晶表面は凹凸面(ラフネスを有する面)になります。このことは、結晶成長に関わる当業者にとって公知の事実です。
本件発明のように、(100)面の結晶粒の成長が支配的な結晶成長では、(100)面の結晶粒が表面を平坦に保ったまま成長する一方で、(111)面の結晶粒は(100)面に対して非常に大きなオフ角を持って成長します。したがって、(100)結晶粒の表面は平坦な面となるのに対し、(111)結晶粒の表面は凹凸面になります。
・・・
以上のことから、「(111)優先配向した結晶粒が存在する領域の上面は、・・・、すなわち、三角錐が並んだ凹凸面となる。」という審判官殿の指摘は、正しいと思料いたします。」
(イ)しかしながら、本発明における(111)結晶粒の成長のように、基板の表面と結晶表面とが平行でない場合に、結晶はオフ角をもって成長し、結晶表面は凹凸面になる傾向があるということはできるものの、成長した層の表面の状態は、基板又は下地層の材料(組成)及びその表面状態・配向の方向、結晶の成長手法、成長原料(ターゲットや原料ガスなど)、成長する層の組成、成長条件などに依存することが結晶成長の技術の分野における技術常識であるから、結晶表面が必ず凹凸面になるということはできない。
したがって、甲1発明において、圧電薄膜層4の上部電極層側の面を構成する面のうち、(111)優先配向した結晶粒が存在する領域の上面が、必ず三角錐が並んだ凹凸面になるということはできない。
よって、申立人の上記主張を、採用することはできない。
イ(ア)申立人は、令和6年7月8日に提出した意見書2/7~5/7ページの3.(1)(1-2)において、当該意見書に添付して提出した参考資料1(Seiji Yamazoe,et.al.,Applied Physics Letters 95,(米),2009年,062906-1~3)及びその翻訳文の記載に基づき、概ね以下のとおり主張する。
a 参考資料1の2ページの右欄第10行~第24行の記載及び図2から、K及びNaのうち少なくともいずれかを含むペロブスカイト構造を含む結晶では、(001)優先配向した結晶粒子の面は平坦面となり、(111)優先配向した結晶粒子の面は三角錐が並んだ凹凸面となることは公知の事実であること(4/7ページ参照。)。
b 「参考資料1からも、「(111)優先配向した結晶粒が存在する領域の上面は、・・・、すなわち、三角錐が並んだ凹凸面となる。」という審判官の指摘は、正しいと思料いたします。」(5/7ページ)
(イ)参考資料1の要約及び2ページ左欄下から2行~同ページ右欄24行によると、参考資料1には、配向NN膜を、パルスレーザ堆積法によって、SrRuO3/(001)SrTiO3[SRO/(001)STO]基板、SRO/(110)STO基板、およびSRO/(111)STO基板上に成長させたこと、及び、走査型電子顕微鏡(SEM)画像から、NN/SRO/(001)STO、NN/SRO/(110)STO、NN/SRO/(111)STOの表面モフォロジーは、それぞれ、ステップ構造、ストライプパターン、三角錐状構造を呈していることがわかった旨が記載されており、1ページ右欄22~23行には、SROは、格子定数a=3.920Åの擬立方晶のペロブスカイト構造を有すると記載されている。
したがって、参考資料1に記載された配向NN膜は、パルスレーザ堆積法によって、SRO/(001)STO基板、SRO/(110)STO基板、およびSRO/(111)STO基板上にNN膜を成長させたものであり、配向NN膜の表面モフォロジーが、ステップ構造、ストライプパターン、三角錐状構造を呈しているものは、それぞれの基板の配向が異なるものである。
(ウ)一方、甲第1号証の段落【0035】には、本実施の形態では、圧電薄膜は、RFスパッタリング法を用いて形成される旨が記載されており、同【0034】には、下部電極層は(111)面に配向して形成されるのが好ましいこと、(111)面に配向したPt薄膜は、圧電薄膜に対する下地層としても機能することが記載されている。また、同【0040】には、[下部電極層の結晶配向性]について、LKNN膜の結晶配向性を厳密に管理および制御するために、下部電極のPt薄膜の成膜条件として、(111)優先配向となる条件を見出した旨が記載されている。また、同【0045】~【0047】には、[圧電薄膜の結晶配向]について、LKNN膜の優先配向性をより確実に実現するために、圧電特性が向上する結晶配向性を有する圧電薄膜の作製条件を見出し、最適化を図ることで達成するのも良い旨、並びに、作製条件や評価及び管理方法などを詳細かつ厳密に検討することによって、(001)や(111)優先配向、あるいは両者が共存して優先配向した擬立方晶のLKNN膜を再現良く形成できる旨が記載されている。
すなわち、甲第1号証には、下地層として機能する下部電極層を(111)面に配向したPt薄膜とし、その上に、RFスパッタリング法を用いて、作製条件などを詳細かつ厳密に検討することによって、(001)や(111)優先配向、あるいは両者が共存して優先配向した擬立方晶のLKNN膜を再現良く形成できる旨が開示されている。
(エ)「圧電薄膜の解析結果において、(001)と(111)配向の共存が示唆」される甲1発明の圧電薄膜層4として形成したKNN膜は、上記(ウ)によると、(111)面に配向したPt薄膜からなる下部電極層上に、RFスパッタリング法によって形成できるものであるといえる。
一方、上記(イ)によると、参考資料1に記載された配向NN膜は、パルスレーザ堆積法によって、それぞれの配向が異なる基板上に形成したものであって、参考資料1には、SrRuO3/(111)SrTiO3[SRO/(111)STO]基板上に形成された、NN/SRO/(111)STOの表面モフォロジーは、三角錐状構造を呈していることがわかった旨が記載されている。
したがって、甲1発明のKNN膜は、参考資料1の配向NN膜とは、基板又は下地層の材料(組成)も結晶の成長手法も異なるものであるから、甲1発明において、圧電薄膜層4の上部電極層側の面を構成する面のうち、「(111)優先配向した結晶粒が存在する領域の上面」の状態は、必ずしも参考資料1に示されたように三角錐が並んだ凹凸面となるということはできない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
ウ(ア)申立人は、令和6年7月8日に提出した意見書5/7~6/7ページの3.(2)(2-1)において、概略、以下のとおり主張する。
「特許権者は意見書において、
「ここで、本件特許明細書の段落【0112】には、『したがって、・・・』と記載されている。当該記載によれば、第1粒子が隣り合う確率が高くなると、クラックの発生する確率が高くなることが分かる。
・・・
したがって、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明ではない。」と意見を述べられています。
(2-2)しかしながら、本件特許明細書の段落0112には、・・・
また、本件特許明細書の段落0113には、・・・。」と記載されています。
これらの記載から、「第1粒子が隣り合う確率」は、「第1粒子の面の占有面積」に依存することは明らかです。
(2-3)審判官殿ご指摘のとおり、甲第1号証には、「前記圧電体層の前記第2電極側の面において、前記第1粒子の面の占有面積は、0%超、10.0%以下である」ことが記載されています。
したがって、甲第1号証の圧電膜の上部電極側の面において第1粒子((111)優先配向結晶粒)が隣り合う確率は、本件発明の圧電体層の第2電極側の面において第1粒子が隣り合う確率と同等であると思料いたします。
すなわち、第1粒子の面の占有面積が0%超、10.0%以下である場合、本件発明の圧電体層の第2電極側の面において(100)粒子の面で囲われた(111)粒子が存在するのであれば、当然に、甲第1号証の圧電薄膜の上部電極の面にも、(001)粒子の面で囲われた(111)粒子の面が存在すると思料いたします。」
(イ)しかしながら、甲第1号証において、圧電薄膜層4(圧電体層)の上部電極層(第2電極)側の面を構成する(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)(第1粒子)の面の占有面積が0%超、10.0%以下であるとしても、甲第1号証には、圧電薄膜層4(圧電体層)の上部電極層(第2電極)側の面の方向から見て、複数の(001)優先配向した結晶粒([001]軸配向)(第2粒子)の面が、1つの(111)優先配向した結晶粒([111]軸配向)(第1粒子)の面を囲んでいるとの構成は、記載も示唆もされていない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。
第5 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第2項(進歩性)について
(1)申立人は、特許異議申立書13~21ページにおいて、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項(甲2記載事項)に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、本件特許発明2~4は、甲第1号証に記載された発明及び甲2記載事項(合議体注:特許異議申立書17ページ~19ページの(イ)、(ウ)、(エ)には、「甲1発明又は甲2記載事項」と記載されているが、申立て全体の趣旨に鑑み、「又は」は「及び」の誤記と認めた。)に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、本件特許発明5~7は、甲第1号証に記載された発明、甲2記載事項、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである旨を主張する。
(2)ア 本件訂正発明1~4について
(ア)本件訂正発明1、4について
上記第4の3(1)ア(イ)aのとおり相違点1は実質的な相違点であるところ、甲第2号証には、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は記載も示唆もされていないから、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲2記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
また、上記第4の3(1)イ(イ)aのとおり相違点4は実質的な相違点であるところ、甲第2号証には、相違点4に係る本件訂正発明4の構成は記載も示唆もされていないから、相違点3について検討するまでもなく、本件訂正発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲2記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(イ)本件訂正発明2、3について
本件訂正発明2、3は、本件訂正発明1において、更に発明特定事項を追加した発明であるから、上記(ア)と同様な理由で、本件訂正発明2、3は、甲第1号証に記載された発明及び甲2記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明1~4についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明1~4は、甲第1号証に記載された発明及び甲2記載事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
イ 本件訂正発明5~9について
(ア)本件訂正発明5について
a 本件訂正発明5は、「請求項1ないし4のいずれか1項」を引用するともに、「前記圧電体層の厚さは、500nm以上、2μm以下である」との特定事項を有するものである。
b(a)甲第3号証には、本件訂正発明5の数値範囲を含む圧電体層の厚さが開示されている。
さらに、甲第3号証には、KNN層における各KNN薄膜の結晶成長方向を同一にして、連続性を有する結晶粒を形成できること(段落【0009】)、圧電体層70は、複数の圧電体膜の積層体であり、第1の圧電体膜71と、第1の圧電体膜71上に形成された複数の第2の圧電体膜72とからなること(段落【0048】)、(001)面に高配向した圧電体層70(KNN層)が得られること(段落【0056】)、(001)面に高配向した圧電体膜(KNN膜)からなる圧電体層70とは、本実施形態では、KNN結晶が(001)面に対して優先配向しているものをいうこと、及び、必要に応じて設けられる所定の配向制御層によっては、圧電体層70は、(110)面や(111)面に優先配向する場合もあること(段落【0061】)が記載されている。
(b)しかしながら、甲第3号証には、圧電体層70の複数の第2の圧電体膜72の最上面(本件訂正発明5の「前記圧電体層の前記第2電極側の面」に相当。)が、「第1粒子の面と、第2粒子との面と、によって構成され」るとの構成、及び、「前記第1粒子の面」と「前記第2粒子の面」の凹凸の高さや平坦性について、記載も示唆もされていない。
したがって、甲第3号証に、「前記第1粒子の面における凹凸の高さは、前記第2粒子の面における凹凸の高さよりも大き」いとの、相違点1に係る本件訂正発明1の構成が、記載されているとはいえない。
(c)また、甲第3号証には、圧電体層70は、「(111)配向の第1粒子と、(100)配向の第2粒子と、を有」することや、「前記圧電体層の前記第2電極側の面の方向から見て、複数の前記第2粒子の面は、1つの前記第1粒子の面を囲んでいる」ことについて、記載も示唆もされていないから、相違点4に係る本件訂正発明4の構成が記載されているとはいえない。。
c(a)よって、上記ア(ア)、(イ)、及びb(b)より、相違点2について検討するまでもなく、請求項1の記載を引用する本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明、甲2記載事項、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
また、上記ア(ア)、(イ)、及びb(c)より、相違点3について検討するまでもなく、請求項4の記載を引用する本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明、甲2記載事項、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(イ)本件訂正発明6、7について
本件訂正発明6、7は、本件訂正発明1又は4において、更に発明特定事項を追加した発明である。
また、甲第3号証については、上記(ア)bのとおりである。
よって、上記ア(ア)、(イ)、及び(ア)b(b)より、相違点2について検討するまでもなく、請求項1の記載を引用する本件訂正発明6、7は、甲第1号証に記載された発明、甲2記載事項、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
また、上記ア(ア)、(イ)、及び(ア)b(c)より、相違点3について検討するまでもなく、請求項4の記載を引用する本件訂正発明6、7は、甲第1号証に記載された発明、甲2記載事項、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(ウ)本件訂正発明8、9について
本件訂正発明8、9は、本件訂正発明1又は4において、更に発明特定事項を追加した発明である。
また、甲第3号証については、上記(ア)bのとおりである。
よって、上記ア(ア)、(イ)、及び(ア)b(b)より、相違点2について検討するまでもなく、請求項1の記載を引用する本件訂正発明6、7は、甲第1号証に記載された発明、甲2記載事項、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
また、上記ア(ア)、(イ)、及び(ア)b(c)より、相違点3について検討するまでもなく、請求項4の記載を引用する本件訂正発明6、7は、甲第1号証に記載された発明、甲2記載事項、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(エ)本件訂正発明5~9についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正発明5~9は、甲第1号証に記載された発明、甲2記載事項、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
(3)よって、申立人の上記(1)の主張を採用することはできない。
2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)違反及び同法第36条第4項第1号(実施可能要件)違反について
(1)申立人は、特許異議申立書26~27ページの(オ-1)において、「本件特許は、化学溶媒堆積(CSD)法により製膜したKNN膜におけるクラック低減を目的としたものである」、「クラックの頻発は、あくまでもCSD法により製膜したKNN膜においてのみ生じる固有の課題である。」、「にもかかわらず、本件特許発明には、「KNN層がCSD法により形成されたものである」旨の限定が何らなされていない。登録時点での本件特許発明の記載には、作用効果を生じさせない範囲が含まれており、この記載は、一般化・拡張され過ぎているといえる。・・・本件特許の明細書は、当業者が本件特許を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないともいえる。」と主張する。
(2)しかしながら、本件訂正発明1及び4は、「圧電素子」に係る「物の発明」であるところ、本件特許明細書の段落【0103】、図12、同【0110】、図20によると、実施例1、2のKNNM層は、(111)配向の成分を有しており、「第1粒子の面の占有面積」が、それぞれ5.3%の実施例1、及び9.5%の実施例2では、クラックが「無し」であったことが開示されており、また、同段落【0083】~【0090】には、実施例1と実施例2の第1KNNM層と24層又は19層の第2KNNM層からなる圧電体層を形成する手順等について、具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明には、クラックが無いKNN膜の実施例が開示されており、また、そのKNN膜を作れるように、その手順等が明確かつ十分に記載されているといえる。
以上のとおりであるから、本件訂正発明1及び4並びに本件訂正後の請求項1又は請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明2、3、5~9は、発明の詳細な説明に記載したものであり、また、本件特許明細書は、当業者が本件訂正発明1~9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえる。
(3)よって、申立人の上記(1)の主張を採用することはできない。
3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)違反について
(1)ア 申立人は、特許異議申立書28ページの(オ-2)において、本件特許の明細書の段落0047及び段落0048の記載によれば、「第1粒子の面の占有面積を調整してクラックの抑制という作用効果を得るには、「圧電体層の厚さが500nm以上2μm以下」とし、かつ、「第1層と複数の第2層とが積層されて構成されてなる圧電体層のうち、第2層の厚さが51nm以下」とすることが必要であることが分かる。にもかかわらず、本件特許発明1-6,8,9には、これらの構成が何ら限定されていない。登録時点での本件特許発明の記載には、作用効果を生じさせない範囲が含まれており、一般化・拡張され過ぎている。」と主張する。
イ 申立人は、特許異議申立書28~29ページの(オ-3)において、「しかしながら、たとえ「前記圧電体層の前記面において、前記第1粒子の前記面の占有面積は、0%超、10.0%以下である」としても、例えば、圧電体層の面内において多数の第1粒子が局所的に凝集している場合等には、第1粒子が隣接することとなり、その結果、クラックが発生する場合があるものと考えられる。事実、…(略)…、クラックが発生したとの説明がある(…(略)…)。してみると、本件特許発明には、「前記圧電体層の前記面において、前記第1粒子の前記面の占有面積は、0%超、10.0%以下である」こと以外に、圧電体層の面内における第1粒子の分散の度合い等の構成が何ら限定されておらず、作用効果を生じさせない範囲が含まれており、一般化・拡張され過ぎている。」と主張する。
(2)ア しかしながら、本件特許明細書の段落【0027】には、「圧電体層20は、第1電極10上に設けられている。圧電体層20は、第1電極10と第2電極30との間に設けられている。圧電体層20の厚さは、例えば、500nm以上2μm以下であり、好ましくは1μm以上2μm以下である。圧電体層20は、第1電極10と第2電極30との間に電圧が印加されることにより、変形することができる。」と、同段落【0031】には、「圧電体層20は、第2層24を複数有している。第2層24の数は、特に限定されず、例えば、5層以上30層以下である。第2層24は、第1層22と第2電極30との間に設けられている。第2層24の厚さは、例えば、60nm以下であり、好ましくは51nm以下である。第2層24は、カリウム、ナトリウム、およびニオブを含むペロブスカイト型構造の複合酸化物を含む。」と、同段落【0045】には、「圧電素子100は、例えば、以下の特徴を有する。」と、同段落【0046】には、「圧電素子100では、圧電体層20の第2電極30側の面20aは、第1粒子26の面26aと、第2粒子28の面28aと、によって構成され、第1粒子26の面26aにおける凹凸の高さは、第2粒子28の面28aにおける凹凸の高さよりも大きく、圧電体層20の面20aにおいて、第1粒子26の面26aの占有面積は、10.0%以下である。そのため、圧電素子100では、圧電体層の面において第1粒子の面の占有面積が10.0%より大きい場合に比べて、後述する「5. 実施例および比較例」に示すように、クラックが発生し難い。」と、同段落【0047】には、「圧電素子100では、圧電体層20の厚さは、500nm以上2μm以下である。そのため、圧電素子100では、圧電体層20によって振動板の変位量を大きくさせつつ、圧電体層20にクラックが発生することを抑制することができる。」と、同段落【0048】には、「圧電素子100では、第1層22の厚さは、75nm以下であり、第2層24の厚さは、51nm以下である。そのため、圧電素子100では、圧電体層20の面20aにおいて、第1粒子26の面26aの占有面積を、10.0%以下にすることができる。」と、同段落【0113】には、「以上の結果から、第1粒子G1の面の占有面積が10.0%以下であれば、第1粒子G1が圧電体層の上面内で隣り合う確率が低くなり、クラックの発生が抑制されることがわかった。」と記載されている(下線は合議体が付加した。)。
したがって、本件特許明細書には、圧電体層20の厚さは、例えば、500nm以上2μm以下であるため、圧電体層20によって振動板の変位量を大きくさせつつ、圧電体層20にクラックが発生することを抑制することができ、圧電素子100が、例えば、第1層22の厚さは、75nm以下であり、第2層24の厚さは、51nm以下であるので、圧電素子100では、圧電体層20の面20aにおいて、第1粒子26の面26aの占有面積を、10.0%以下にすることができるため、クラックが発生し難いことが記載されていえるといえる。
よって、「圧電体層の厚さが500nm以上2μm以下」であり、かつ、「第1層と複数の第2層とが積層されて構成されてなる圧電体層のうち、第2層の厚さが51nm以下」ではない場合であっても、圧電体層20の面20aにおいて、第1粒子26の面26aの占有面積を、10.0%以下にすることができれば、クラックの発生の抑制という作用効果を得られることは明らかであるから、「圧電体層の厚さが500nm以上2μm以下」とし、かつ、「第1層と複数の第2層とが積層されて構成されてなる圧電体層のうち、第2層の厚さが51nm以下」とすることが必要であるということはできない。
イ また、上記アのとおり、本件特許明細書の段落【0113】には、「以上の結果から、第1粒子G1の面の占有面積が10.0%以下であれば、第1粒子G1が圧電体層の上面内で隣り合う確率が低くなり、クラックの発生が抑制されることがわかった。」と記載されているのみで、クラックを発生させないとは記載されていないから、クラックの発生が抑制されるという作用効果を得られることは明らかである。
したがって、「圧電体層の面内における第1粒子の分散の度合い等の構成」が限定されていない場合であっても、第1粒子の面の占有面積が10.0%以下であれば、クラックの発生が抑制されるといえるから、本件訂正発明1~3に、作用効果を生じさせない範囲が含まれているとはいえない。
(3)よって、申立人の上記(1)の主張を採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701271