特許異議申立
2022-701301
記録方法
- 審判番号
- 2022-701301
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-114639
- 登録番号
- 7094491
- 請求日
- 2022年12月26日
- 審決日
- 2024年04月05日
- 公報発行日
- 2024年07月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】セイコーエプソン株式会社
- 【権利者代理人】稲葉 良幸
- 【権利者代理人】赤堀 龍吾
- 【権利者代理人】竹内 工
- 【権利者代理人】井澤 哲舜
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 神谷 健一
- 審判官 廣田 健介
- 分類
- P1651.121-YAA(B41M) / P1651.536-YAA(B41M) / P1651.537-YAA(B41M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7094491号発明「記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7094491号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
特許第7094491号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7094491号の請求項1~14に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2018-114639号)は、平成30年6月15日(先の出願に基づく優先権主張 平成30年3月19日)に出願され、令和4年6月24日にその特許権の設定の登録がされ、同年7月4日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和4年12月26日に、本件特許のうち全請求項に係る特許に対して、特許異議申立人 渡辺 陽子(以下「異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
その後の手続等の概要は、以下のとおりである。
令和5年 3月29日付け:取消理由通知書
令和5年 5月31日 :訂正請求書の提出
令和5年 5月31日 :意見書(特許権者)の提出
令和5年 8月10日 :意見書(異議申立人)の提出
令和5年 9月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和5年11月30日 :訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)の提出
令和5年11月30日 :意見書(特許権者)の提出
令和6年 1月18日 :意見書(異議申立人)の提出
なお、令和5年 5月31日にした訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求及び訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7094491号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求における訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記着色インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を、前記記録媒体へ付着させる処理液付着工程と、を備え、」と記載されているのを、「前記着色インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を、前記記録媒体へ付着させる処理液付着工程と、前記インク付着工程において前記着色インク組成物が付着した領域へ風を送る送風工程と、を備え、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、「前記インク付着工程を、前記インクジェットヘッドを前記記録媒体との相対位置を走査方向へ変えながら前記着色インク組成物を吐出する走査を複数回行うことにより行い、」と記載されているのを、「前記インク付着工程を、前記インクジェットヘッドを前記記録媒体との相対位置を走査方向へ変えながら前記着色インク組成物を吐出する走査を複数回行うことにより行い、前記送風工程において、送風の温度が30℃以下であり、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、「前記インク付着工程における1回の走査の最大距離が50cm以上であり、」と記載されているのを、「前記インク付着工程における1回の走査の最大距離が50cm以上であり、且つ、前記インク付着工程における前記記録媒体のヘッドの主走査中に対向しうる領域の全体の表面温度のうちの最高温度と最低温度の温度差を、前記加熱工程と前記送風工程とによって、10℃以下となるようにし、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、「前記インク付着工程において前記着色インク組成物が付着した領域へ風を送る送風工程を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の記録方法。」と記載されているのを、「前記インク付着工程において前記着色インク組成物が付着した領域へ風を送る前記送風工程を備え、前記送風工程が、送風機により行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の記録方法。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6~14も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項13に、「送風の温度が30℃以下である、」と記載されているのを、「送風の温度が25℃以下である、」に訂正する(請求項13の記載を引用する請求項14も同様に訂正する。)。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2~14は、それぞれ請求項1を引用していることから、訂正前の請求項1~14に対応する本件訂正後の請求項1~14は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1~3について
ア 訂正の目的
訂正事項1~3に係る訂正は、訂正前の請求項1に係る「記録方法」において、「送風の温度が30℃以下」であり「前記インク付着工程において前記着色インク組成物が付着した領域へ風を送る送風工程」を付加するとともに、「インク付着工程」における「前記記録媒体のヘッドの主走査中に対向しうる領域の全体の表面温度のうちの最高温度と最低温度の温度差を、前記加熱工程と前記送風工程とによって、10℃以下となるように」することを限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の有無
本件特許の明細書には、以下の記載が認められる。(下線は合議体が付加した。以下同様とする。)
「【0027】
記録媒体を加熱する加熱工程を備え、加熱された記録媒体の記録面へインク付着工程を行うことが好ましい。記録媒体の加熱には、プラテンヒーターや温風ヒーターやIRヒーターなどの加温機構を用いることができる。」
「【0031】
プラテンに支持されている記録媒体のヘッドの主走査中に対向しうる領域の全体の温度のうちの最高温度と最低温度の温度差は10℃以下が好ましく7℃以下がより好ましく5℃以下がさらに好ましい。」
「【0033】
また、インク付着工程において、インク組成物が付着した領域へ風を送る送風工程を備えることが好ましい。送風方法としては、特に制限されないが、例えば、記録装置に設けられた送風機などが用いられる。送風工程を有することにより、記録媒体に付着したインク組成物を効率的に乾燥させることができ、得られる記録物のざらつきや濃度むらがより抑制される傾向にある。
【0034】
送風工程の風の温度は記録媒体を加熱するような温風であってもよく、この場合上記の記録媒体を加熱する加熱工程として風を送ってもよい。この場合、得られる記録媒体の画質がより向上する点で好ましい。または記録媒体を加熱しないような常温の風として風を送ってもよい。この場合もインクの成分の蒸発を促進し得られる記録媒体の画質がより向上する点や、ヘッドからのインクの吐出安定性が優れる点で好ましい。送る風の温度は、上記の記録媒体を加熱する加熱工程の記録媒体の表面温度の温度としてもよい。または、送る風の温度は具体的に70℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましく、35℃以下がさらにより好ましく、30℃以下が特に好ましい。風の温度の下限は限るものでは無いが20℃以上が好ましい。一方、送風工程を備える場合、記録媒体の表面温度の差が生じやすい傾向がある。」
「【0121】
[記録方法]
ヒーター素子をメディア幅方向に並べて配置したプラテンヒーターと、ヘッドの上に記録媒体幅方向に並べて配置したファンを有するSC-S80650(セイコーエプソン社製)の改造機(以下、「SC-S80650改造機」という。)を用意した。インクジェットヘッドは図1のようなシリアル型としインクジェットヘッドからインク等を順番に記録可能とした。また、ファンにより記録媒体に向けて上方から常温(25℃)の風を吹かせた。」
「【0127】
上記記録方法において、記録中のヘッドと対向するプラテン領域における記録媒体の表面温度が表3~4中の加熱温度になるようにプラテンヒーターを制御した。具体的には、表面温度が35℃以上とする場合は、プラテンヒーターをオンにして調整し、表面温度が25℃度以下とする場合はプラテンヒーターを使用せず室温を調整し記録時の記録媒体の表面温度を調整した。」
「【0142】
なお、記録中のヘッドの主走査によりヘッドと対向しうるプラテン領域の記録媒体の表面温度のうちの最大温度(表中の温度)と最低温度の温度差を確認した所、実施例12は4℃であり、実施例13は6℃であり、実施例11は1℃であり、実施例17は2℃であり、実施例10は10℃であり、参考例1は1℃未満であった。このことから1回の走査の最大距離が大きいほうが温度差が大きくなり易いことがわかった。また記録媒体の表面温度が高いほうが温度差が大きい傾向があった。
【0143】
また表中には記載しなかったが、実施例12において、プラテンヒーターの加熱する温度をより高くし、ファンから送風する風の風力を1m/sから2m/sへ上げて、プラテンヒーターにより加熱される記録媒体の温度が風により低下することを利用して記録時の記録媒体表面温度を実施例12と同じ35℃に制御したところ、最高温度と最低温度の温度差を小さくすることが難しく温度差は6℃になり、色差評価はCとなった。このことから記録媒体の温度差が大きいことが色差の原因の少なくとも1つであることがわかった。」
これらの記載から、インク付着工程は、記録媒体を加熱する加熱工程と、記録媒体に付着したインク組成物を効率的に乾燥させるための送風工程を含み(段落【0027】、【0033】)、送る風の温度は30℃以下が特に好ましいこと(段落【0034】)が理解される。
また、段落【0142】及び【0143】の記載から、実施例12において上記温度差は4℃であり、プラテンヒーターの加熱する温度をより高くし、ファンから送風する風の風力を1m/sから2m/sへ上げると温度差は6℃となることが理解される。
したがって、記録中のヘッドの主走査によりヘッドと対向しうるプラテン領域の記録媒体の表面温度は、加熱工程と送風工程の両方により生じ、それらを適切に制御することにより、上記温度差を10℃以下とする技術的事項が記載されているといえるから、訂正事項1~3による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
なお、異議申立人は令和6年1月18日付け意見書2~6頁において、概略下記(ア)及び(イ)を根拠に、訂正事項3に係る訂正は、新規事項を追加するものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないと主張している。
(ア)本件訂正前の請求項13(送風の温度が30℃以下)は、請求項11(温度差が1~10℃である)を引用していない。
(イ)願書に添付した明細書(段落【0014】、【0033】、【0034】、【0143】)又は図面には、記録媒体の温度差を所定の温度範囲(10℃以下)とするうえでは、送風工程の併用はむしろ技術的な阻害要因があるとの思想が開示されているというべきである。
しかしながら、既述のとおり、本件特許の願書に添付した明細書には、加熱工程と、送風の温度が30℃以下(25℃)である常温の風を使用した送風工程により、記録媒体の温度差を所定の温度範囲(10℃以下)とした具体例(【0142】~【0143】)が記載されている。
したがって、上記主張は採用できない。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記ア、イに照らせば、訂正事項1~3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
(2)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項5に係る発明の「送風工程」について、「前記送風工程が、送風機により行われる」ことを限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の有無
本件特許の明細書の【0033】には、「送風方法としては、特に制限されないが、例えば、記録装置に設けられた送風機などが用いられる。」と記載されている。
したがって、訂正事項4による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記ア、イに照らせば、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
(3)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5に係る訂正は、訂正前の請求項13に係る発明の「送風の温度」について「30℃以下」と規定していたところ、「25℃以下」に限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項の有無
本件特許の明細書には、以下の記載が認められる。
「【0034】
・・・(中略)・・・
送る風の温度は具体的に70℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましく、35℃以下がさらにより好ましく、30℃以下が特に好ましい。」
「【0121】
[記録方法]
ヒーター素子をメディア幅方向に並べて配置したプラテンヒーターと、ヘッドの上に記録媒体幅方向に並べて配置したファンを有するSC-S80650(セイコーエプソン社製)の改造機(以下、「SC-S80650改造機」という。)を用意した。インクジェットヘッドは図1のようなシリアル型としインクジェットヘッドからインク等を順番に記録可能とした。また、ファンにより記録媒体に向けて上方から常温(25℃)の風を吹かせた。」
これらの記載から、「送風の温度」を「25℃以下」とすることについて記載されているといえる。したがって、訂正事項2による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記ア、イに照らせば、訂正事項5による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
5 訂正の適否についてのまとめ
上記4のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条9項において準用する同法126条5項~6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったことから、本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明14」といい、これらを総称して、「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
加温機構により記録媒体を加熱する加熱工程と、
シアンインク組成物と、マゼンタインク組成物と、イエローインク組成物と、前記各インク組成物とは色相角が異なる特色インク組成物とを含む着色インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して、前記加熱工程により加熱された前記記録媒体へ付着させるインク付着工程と、
前記着色インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を、前記記録媒体へ付着させる処理液付着工程と、
前記インク付着工程において前記着色インク組成物が付着した領域へ風を送る送風工程と、を備え、
前記インク付着工程を、前記インクジェットヘッドを前記記録媒体との相対位置を走査方向へ変えながら前記着色インク組成物を吐出する走査を複数回行うことにより行い、
前記送風工程において、送風の温度が30℃以下であり、
前記インク付着工程における1回の走査の最大距離が50cm以上であり、且つ、前記インク付着工程における前記記録媒体のヘッドの主走査中に対向しうる領域の全体の表面温度のうちの最高温度と最低温度の温度差を、前記加熱工程と前記送風工程とによって、10℃以下となるようにし、
前記記録媒体が、低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体であり、
前記凝集剤が、多価金属塩を含み、
前記着色インク組成物が水系のインク組成物である、
記録方法。
【請求項2】
前記特色インク組成物が、オレンジインク組成物、レッドインク組成物、グリーンインク組成物、及びブルーインク組成物の少なくとも何れかを含む、
請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
前記着色インク組成物が、ブラックインク組成物をさらに含む、
請求項1又は2に記載の記録方法。
【請求項4】
前記低吸収性記録媒体が、塗工紙であり、
前記非吸収性記録媒体が、プラスチック類のフィルムかプレート、金属類のプレートの何れかである、
請求項1~3のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項5】
前記インク付着工程において前記着色インク組成物が付着した領域へ風を送る前記送風工程を備え、
前記送風工程が、送風機により行われる、
請求項1~4のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項6】
前記加熱工程において、前記加熱機構により加熱された前記記録媒体の表面温度が、30~45℃である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項7】
前記インク付着工程における1回の走査の最大時間が、0.8秒以上である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項8】
前記多価金属塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩の何れか1種以上である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項9】
前記インク付着工程における1回の走査の最大距離が50~500cmである、
請求項1~8のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項10】
前記着色インク組成物と前記処理液を付着させる記録領域が、前記着色インク組成物の付着量に対する前記処理液の付着量が5~30質量%の領域を有する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項11】
前記インク付着工程における前記記録媒体のヘッドの主走査中に対向しうる領域の全体の表面温度のうちの最高温度と最低温度の温度差が1~10℃である、
請求項1~10のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項12】
前記着色インク組成物において、標準沸点が280℃超の有機溶剤の含有量が1質量%以下である、
請求項1~11のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項13】
前記送風工程において、送風の温度が25℃以下である、
請求項5に記載の記録方法。
【請求項14】
請求項1~13の何れか一項に記載の記録方法で記録を行う記録装置。」
第4 取消しの理由及び証拠
1 取消しの理由の概要
当審が令和5年9月29日付けの取消理由通知書において通知した取消しの理由の概要は、次のとおりである。
「本件特許の請求項1~14に係る発明は、その優先権主張の基礎とされた先の出願前(以下「先の出願前」という。)に、日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献等一覧
引用例1:特開2010-115854号公報(甲第4号証)
引用例2:特開2005-320480号公報(甲第5号証)
引用例3:国際公開第2016/182037号(甲第11号証)
引用例4:特開2018-1467号公報(甲第1号証)
引用例5:特開2017-203077号公報(甲第2号証)
引用例6:特開2016-221943号公報(甲第3号証)
2 異議申立人が新たに提出した証拠
異議申立人は、令和5年8月10日に提出した意見書(異議申立人)に添付して、以下の証拠を提出した。
甲第12号証:「「JV400 Series」販売開始のお知らせ」、2012年2月13日、株式会社ミマキエンジニアリング、[online]、[2023年8月2日検索]、インターネット
<URL:https://japan.mimaki.com/news/product/entry-34777.html>
甲第13号証:「「LX101インク」販売開始のお知らせ」、2013年3月1日、株式会社ミマキエンジニアリング、[online]、[2023年8月2日検索]、インターネット
<URL:https://japan.mimaki.com/news/product/entry-35047.html>
なお、甲第1号証を以下「甲1」といい、他の甲号証についても同様とする。
第5 取消しの理由についての当合議体の判断
1 引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
(1)引用例1の記載事項
先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じで公衆に利用可能となった文献である、引用例1(特開2010-115854号公報:甲4)には、以下の記載がある。なお、合議体が発明の認定、判断等に用いた箇所に下線を付した(以下同様である。)。
ア 「【請求項1】
インク非吸収性および低吸収性の記録媒体に、水性インクセットを用いたインクジェット記録方式により色インク、樹脂インク、および反応インクを塗布して画像を印刷する印刷方法であって、
(1)前記水性インクセットは、着色剤を含む前記色インクと、着色剤を含まずに樹脂粒子を含む前記樹脂インクと、前記色インクおよび前記樹脂インクの構成成分に凝集を生じさせる反応剤を含有する反応インクとを備え、
(2)前記色インクは、水不溶性の着色剤、水溶性および/または非水溶性の樹脂成分、水溶性溶剤、界面活性剤を含み、
(3)前記樹脂インクは、水溶性樹脂溶剤、水には不溶であるが前記水溶性樹脂溶剤には相溶する熱可塑性の樹脂粒子を含み、かつ当該樹脂粒子の総含有率が前記色インクに含まれる前記着色剤の含有率以上であり、
(4)前記反応インクは、多価金属塩、ポリアリルアミンおよびその誘導体から選択される反応剤と、界面活性剤を含み、
(5)印刷中および/または印刷後に乾燥工程を含む、
ことを特徴とするインクジェット記録方式の印刷方法。
【請求項2】
前記色インクが、プロセスカラーに加えて、さらにスペシャルカラーを含み、かつ、当該スペシャルカラーがオレンジとグリーンからなることを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
前記多価金属塩が、少なくとも硫酸塩、硝酸塩およびカルボン酸塩から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷方法。
・・・(中略)・・・
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の印刷方法を備えていることを特徴とする印刷装置。」
イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
・・・(中略)・・・
【0017】
[記録媒体]
本実施形態では、印刷対象となる記録媒体は、インク非吸収性および低吸収性の記録媒体である。インク非吸収性および低吸収性の記録媒体とは、インクの吸収層を備えていない記録媒体をいう。・・・・・インク非吸収性の記録媒体として、例えば、インクジェット印刷用に表面処理をしていない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。・・・・・インク低吸収性の記録媒体として、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙等が挙げられる。
【0018】
[水性インクセット]
本実施形態に係る印刷方法に用いる水性インクセットは、着色剤を含む色インクと、着色剤を含まずに樹脂粒子を含む樹脂インク、色インクおよび樹脂インクの構成成分に凝集を生じさせる反応剤を含有する反応インクとを備える。色インクとは、記録媒体にカラー及びモノクロの画像を形成するためのインクである。さらに、樹脂インクは、前述の色インクの印刷物に耐擦性(耐擦過性)を付与する目的に使われる。また、反応インクは、記録媒体への着色剤の浸透・拡散を制御し、滲みや印刷ムラ、カラーブリードの抑制や、発色性の向上、さらに記録媒体への着色剤・樹脂粒子の定着を促進する目的等に使用される。以下、各インクについて説明する。
【0019】
[色インク]
上述したように、色インクは、少なくとも水不溶性の着色剤、水溶性および/または非水溶性の樹脂成分、水溶性溶剤、界面活性剤を含んでいる。水不溶性の着色剤は、水不溶性の染料または顔料が挙げられるが、顔料であることが好ましい。顔料を用いたインクで印刷した印刷物は、耐水性、耐ガス性、耐光性等の保存性に優れるからである。・・・
・・・(中略)・・・
【0021】
色インクとして、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのプロセスカラーに加えて、さらにスペシャルカラーを含むことが好ましく、さらにスペシャルカラーがオレンジとグリーンからなることがより好ましい。インク非吸収性および低吸収性の記録媒体はインクの吸収層・発色層が無いために、吸収性の高いインクジェット記録用媒体に印刷する場合に比べて発色性が低い。このため、プロセスカラーに加えてスペシャルカラーを追加することで、吸収性が低くても高い発色を得ることができる。スペシャルカラーとしては、レッド、グリーン、ブルー、オレンジ、バイオレット等を上げられるが、特に好ましくはオレンジとグリーンである。
・・・(中略)・・・
【0057】
(水)
水は、水性インクの主な媒体であり、好ましい水は、イオン性の不純物を極力低減することを目的として、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
・・・(中略)・・・
【0091】
[反応インク]
反応インクは、色インクおよび樹脂インクの構成成分に凝集を生じさせる、多価金属塩、ポリアリルアミンおよびその誘導体から選択される反応剤と、界面活性剤を含む。多価金属塩は、好ましくは、少なくとも硫酸塩、硝酸塩およびカルボン酸塩から選択される。好ましくは、反応インクは、さらに、前記反応剤と凝集を生じない樹脂粒子を含むことが好ましい。
【0092】
次に、反応インクの各成分について詳細に説明する。
【0093】
(多価金属塩)
反応インクに用いることができる多価金属塩は、二価以上の多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成され、水に可溶なものである。多価金属イオンの具体例としては、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+などの二価金属イオン、Al3+、Fe3+、Cr3+などの三価金属イオンがあげられる。陰イオンとしては、Cl-、NO3-、I-、Br-、ClO3-、及びCH3COO-などがあげられる。
【0094】
とりわけ、Ca2+又はMg2+より構成される金属塩は、反応インクのpH、得られる印刷物の品質という二つの観点から、好適な結果を与える。」
ウ 「【0112】
[印刷方法]
本実施形態に係る印刷方法は、インクジェット記録方式を用いて、記録媒体に色インクと樹脂インクと反応インクとを印字する工程を含んでなるものである。
【0113】
インクを記録媒体に吐出する順序としては、反応インク、色インク、樹脂インクの順に記録媒体に吐出することが好ましい。・・・・・また、色インクの印刷後に樹脂インクを印刷することにより、印字上に樹脂被膜が形成されることから、印刷面の耐擦性を上げることができる。
【0114】
インクジェット記録方法を用いることにより、色インクを付着させる場所にのみ選択的に樹脂インクおよび反応インクを付着させることができ、樹脂インクおよび反応インクの消費量を必要最小限に抑えることができる。また、紙面全体に大量の樹脂インクおよび反応を付着させてしまう場合に乾燥後に観察されるカールの発生を抑制できる。
【0115】
また、記録媒体に色インク、樹脂インク、反応インクを記録する方法は、1パス又は2パスで記録することが好ましい。ここで1パスとは、記録ヘッドの1回の走査で、その走査領域に形成すべきドット全てを記録する記録方法のことである。すなわち、色インク、樹脂インクおよび反応インクが1パスで印字されるということは、記録ヘッド走査領域内に記録すべき色インク、樹脂インクおよび反応インクのドットが、1回の記録ヘッドの走査で記録を完了するということである。2パスとは、記録ヘッド走査領域に記録するドットを、2回の記録ヘッド走査によって記録する方法である。さらに、1パス記録方法には、記録ヘッドを主走査方向に1回走査してドットを記録した後、副走査方向に記録媒体を記録領域分だけ移動させることを繰り返すことで、画像全体を形成する方法と、記録ヘッドは固定し、記録媒体を走査することで画像を形成する方法などがあるが、いずれも好適に用いることができる。1パスまたは2パスで記録することで高速な印刷が可能となり、記録物の生産性が高まる
・・・(中略)・・・
【0119】
本実施形態に係る印刷方法は、印刷中および/または印刷後に乾燥工程を含むことが好ましい。乾燥工程を加えることで、色インク、樹脂インク及び反応インク中の液媒体(具体的には、水、水溶性溶剤)の蒸発が促され、印刷ムラ・滲みが少ない高画質な画像や耐擦性を持つ記録物を短時間で得ることができ、また記録媒体のしわの発生を防ぎ、さらに記録媒体のカールの発生を有効に防止することもできる。
【0120】
さらにまた、乾燥時の加熱により、色インク、樹脂インク及び反応インクに含まれる樹脂粒子の融着を促し、優れた皮膜を形成することが可能となって、記録物の耐擦性がより一層向上する。加熱温度は、色インク、樹脂インク及び反応インク中に存在する液媒体が蒸発し、かつ樹脂剤の皮膜を形成することができれば特に制限はないが、40℃以上であればその効果が得られ、40℃~150℃程度が好ましく、より好ましくは、40℃~80℃程度である。温度が150℃を超える場合は、記録媒体が変形等を生じ搬送に不具合を生じたりする場合がある。
【0121】
なお、乾燥/加熱時間は、色インク、樹脂インク及び反応インク中に存在する液媒体が蒸発し、かつ樹脂剤の皮膜を形成することができれば特に制限はなく、用いる液媒体種・樹脂種・印刷速度を加味して適宜設定することができる。
乾燥方式としては、強制空気加熱、輻射加熱、伝導加熱、高周波乾燥、マイクロ波乾燥用等が好ましい。」
(2)引用例1に記載された発明
引用例1の【0112】~【0115】には、その請求項1及び2を引用する請求項3に係る発明の実施形態として次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(なお、用語について、【0021】も参照。また参考のため、認定の根拠となった箇所を括弧内に示す。)。
「 インク非吸収性および低吸収性の記録媒体に、水性インクセットを用いたインクジェット記録方式により色インク、樹脂インク、および反応インクを塗布して画像を印刷する印刷方法であって、
(1)前記水性インクセットは、着色剤を含む前記色インクと、着色剤を含まずに樹脂粒子を含む前記樹脂インクと、前記色インクおよび前記樹脂インクの構成成分に凝集を生じさせる反応剤を含有する反応インクとを備え、
(2)前記色インクは、水不溶性の着色剤、水溶性および/または非水溶性の樹脂成分、水溶性溶剤、界面活性剤を含み、
(3)前記樹脂インクは、水溶性樹脂溶剤、水には不溶であるが前記水溶性樹脂溶剤には相溶する熱可塑性の樹脂粒子を含み、かつ当該樹脂粒子の総含有率が前記色インクに含まれる前記着色剤の含有率以上であり、
(4)前記反応インクは、多価金属塩、ポリアリルアミンおよびその誘導体から選択される反応剤と、界面活性剤を含み、
(5)印刷中および/または印刷後に乾燥工程を含み(【請求項1】)、
前記色インクが、プロセスカラーに加えて、さらにスペシャルカラーを含み、かつ、当該スペシャルカラーがオレンジとグリーンからなり(【請求項2】)、
ここで、プロセスカラーとは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックであり(【0021】)、
前記多価金属塩が、少なくとも硫酸塩、硝酸塩およびカルボン酸塩から選択され(【請求項3】)、
前記印刷方法は、インクジェット記録方式を用いて、記録媒体に色インクと樹脂インクと反応インクとを印字する工程を含んでなるものであり、(【0112】)
インクを記録媒体に吐出する順序としては、反応インク、色インク、樹脂インクの順に記録媒体に吐出し(【0113】)、
記録媒体に色インク、樹脂インク、反応インクを記録する方法は、1パス記録方法として、記録ヘッドを主走査方向に1回走査してドットを記録した後、副走査方向に記録媒体を記録領域分だけ移動させることを繰り返すことで、画像全体を形成する方法である(【0115】)、
インクジェット記録方式の印刷方法。」
(3)引用例2の記載事項
先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じで公衆に利用可能となった文献である、引用例2(特開2005-320480号公報:甲5)には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、種々の動作原理によりインクの微小液滴を飛翔させて記録媒体(紙等)に付着させ、画像や文字等の記録を行う方法であり、高速、低騒音、多色化が容易、記録パターンの融通性が高い、現像及び定着が不要等の特徴があり、様々な用途において急速に普及している。特に近年、吐出液滴の微小化、濃淡インクの採用、画像処理技術の向上により、インクジェット記録方式で得られる画像の画質は、従来の銀塩方式により得られる画像と遜色ないレベルにまで到達している。
【0003】
又、更なる画質向上の手段として、従来から使用されている、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの他に、オレンジ、グリーン、ブルー等の所謂特色インクを用いるインクジェット記録方式のカラープリンターが、ラージフォーマット、捺染等の分野で上市されている。上記分野で使われている特色インク用の色材は、顔料か反応性染料である。」
(4)引用例3の記載事項
先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じで公衆に利用可能となった文献である、引用例3(国際公開第2016/182037号:甲11)には、以下の記載がある。
「技術分野
[0001] 本発明は、インクジェット記録装置及びインクジェット記録装置の制御方法に関する。
背景技術
[0002] 従来、搬送手段の搬送面上に保持されて搬送される記録媒体に対して記録ヘッドに設けられた複数のノズルからインクを吐出することにより記録媒体に画像を記録するインクジェット記録装置がある。このようなインクジェット記録装置では、搬送面に温度むらがあると搬送面上の記録媒体にも当該温度むらを反映した温度むらが生じ、記録媒体に吐出されたインクの定着の態様が記録媒体の温度によりばらついて、記録画像において画質が低下する不具合が生じることが知られている。
[0003] これに対し、特許文献1には、搬送面の一定の範囲を加熱する加熱手段を複数設け、搬送面に温度むらが生じないようにこの加熱手段により搬送面の温度を制御する技術が開示されている。
また、特許文献2には、加熱手段及び冷却手段により搬送手段の搬送面の一定の範囲を加熱及び/又は冷却して搬送面の温度を制御する技術が開示されている。」
(5)引用例4の記載事項
先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じで公衆に利用可能となった文献である、引用例4(特開2018-1467号公報:甲1)には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
ヘッドのノズルから、標準沸点280℃以上の有機溶剤の含有量が3質量%以下である水系インク組成物を吐出し記録媒体へ付着させる工程を備え、
前記ヘッド内の部材における前記水系インク組成物と接触する表面の少なくとも一部が該表面に対する前記水系インク組成物の接触角が30°以下であり、前記水系インク組成物と接触する前記部材の表面がSP値9以下の材料により構成される、
インクジェット記録方法。」
イ 「【0054】
(沸点280℃以上の溶剤)
本実施形態のインク組成物は、標準沸点が280℃以上の有機溶剤の含有量が3質量%以下である。また、好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。インク組成物が標準沸点280℃以上の有機溶剤を含むと、被記録媒体上でのインクの乾燥性が大幅に低下してしまう。その結果、種々の被記録媒体、特にインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体において、画像の濃淡ムラが目立つだけではなく、インクの定着性も得られない。
【0055】
インク組成物における標準沸点280℃以上の有機溶剤の含有量は、インク組成物の全質量に対して、0質量%以上0.1質量%未満が好ましく、0質量%以上0.05質量%未満がより好ましく、0質量%以上0.01質量%未満がさらに好ましく、0質量%以上0.001質量%未満が最も好ましい。含有量が上記範囲であることにより、インク組成物を用いた記録物の耐擦性が、標準沸点280℃以上の有機溶剤により低下することが抑制され、より耐擦性に優れた記録物を得ることができる。また、特に標準沸点が260℃超の有機溶剤の含有量が上記の範囲内であることが、上記の点でより好ましい。」
ウ 「【0075】
〔付着工程〕
付着工程における記録媒体の表面温度の上限は、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、最も好ましくは38℃以下である。付着工程における記録媒体の表面温度の下限は、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは25℃以上であり、さらに好ましくは30℃以上であり、特に好ましくは32℃以上である。これにより、プラテンから受ける輻射熱が少ない又はなくなることから、インクジェットヘッド内のインク組成物の乾燥および組成変動を抑制でき、ヘッドの内壁に樹脂が溶着することが防止される。
・・・(中略)・・・
【0089】
図2に、本実施形態に係るインクジェット方法に用いられるインクジェット装置の概略断面図を示す。図2に示すように、インクジェット装置1は、インクジェットヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、硬化ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、を備えている。インクジェットヘッド2は記録媒体に対しインク組成物を吐出するものであり、図1に示したタイプのものを用いることができる。
【0090】
図2に示す記録装置は、記録用ヘッド2からのインク組成物吐出時において、被記録媒体を加熱するための、IRヒーター3及びプラテンヒーター4を備えている。インク組成物の付着工程において被記録媒体を加熱する際には、IRヒーター3及びプラテンヒーター4の少なくとも1つを用いればよい。
【0091】
なお、IRヒーター3を用いると、記録用ヘッド2側から被記録媒体を加熱することができる。これにより、記録用ヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4など被記録媒体の裏面から加熱される場合と比べて、被記録媒体の厚みの影響を受けずに昇温することができる。また、プラテンヒーター4を用いると、記録用ヘッド2側と反対側から被記録媒体を加熱することができる。これにより、記録用ヘッド2が比較的加熱されにくくなる。ただし、上述したように、IRヒーター3及びプラテンヒーター4による、被記録媒体の温度は38℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましく、動作させずに室温に設定することがさらに好ましい。これにより、IRヒーター3及びプラテンヒーター4から受ける輻射熱が少ない又はなくなることから、記録ヘッド内のインク組成物の乾燥および組成変動を抑制でき、ヘッドの内壁に樹脂が溶着することが抑制される。
【0092】
硬化ヒーター5は、被記録媒体に記録されたインク組成物を乾燥及び固化させるものである。硬化ヒーター5が、画像が記録された被記録媒体を加熱することにより、インク組成物中に含まれる水分などがより速やかに蒸発飛散して、インク組成物中に含まれるポリマー粒子によって皮膜が形成される。このようにして、被記録媒体上においてインク乾燥物が強固に定着(接着)して、耐擦性に優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。硬化ヒーター5による乾燥温度は、好ましくは40℃~120℃であり、より好ましくは60℃~100℃であり、さらに好ましくは80℃~90℃である。
【0093】
記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。乾燥後、冷却ファン6により被記録媒体上のインク組成物を冷却することにより、被記録媒体上に密着性よく被膜を形成することができる傾向にある。
【0094】
また、記録装置1は、被記録媒体に対しインク組成物が吐出される前に、被記録媒体を予め加熱する(プレ加熱する)プレヒーター7を備えていてもよい。さらに、記録装置1は、被記録媒体に付着したインク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。」
エ 「図2
[図:0001412272000001.jpg]
」
(6)引用例5の記載事項
先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じで公衆に利用可能となった文献である、引用例5(特開2017-203077号公報:甲2)には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
水とポリマー粒子とを含むインク組成物であって、
前記ポリマー粒子は、コアポリマーとシェルポリマーとを備えるコア-シェル構造を有し、
前記シェルポリマーの酸価が、前記コアポリマーの酸価よりも高く、
標準沸点が280℃以上の有機溶剤の含有量が、前記インク組成物の総質量に対し、5質量%以下であり、
前記インク組成物と、該インク組成物の成分を凝集又は増粘させることが可能な凝集剤を含有する凝集液と、を用いて記録する記録方法に用いられる、
インク組成物。」
イ 「【0029】
<有機溶剤>
本実施形態のインク組成物は、有機溶剤をさらに含むことが好ましい。本実施形態の有機溶剤は、標準沸点が150℃以上250℃以下である有機溶剤を含むことがより好ましい。また、本実施形態のインク組成物は、標準沸点が280℃以上の有機溶剤、特にアルキルポリオールである有機溶剤の含有量が、該インク組成物の総質量(100質量%)に対して、5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下であり、よりさらに好ましくは0.2質量%以下であり、さらにより好ましくは0.1質量%以下である。上記含有量の下限値は0質量%である。これにより、被記録媒体に着弾したインク組成物の乾燥性をより高い水準で得ることができることに起因して、優れた耐擦性及び画質(ブリード抑制)が得られる傾向にある。また、標準沸点が250℃超の有機溶剤の含有量が、上述の標準沸点が280℃以上の有機溶剤の含有量であることも、上述の点からより好ましい。
【0030】
有機溶剤の種類としては、特に限定されないが、例えば、環状窒素化合物、非プロトン性極性溶剤、モノアルコール、アルキルポリオール、及びグリコールエーテルが挙げられる。本実施形態の有機溶剤は、これらの有機溶剤の中から、該有機溶剤の標準沸点が150℃以上250℃以下である各種有機溶剤を適宜選択して用いることができる。また、耐擦性及び光沢性の観点から、インク組成物は、標準沸点が280℃以上の有機溶剤(上記アルキルポリオールを含めた有機溶剤)を含有しないことがより好ましく、その含有量が該インク組成物の総量に対して0.5質量%以下であればさらに好ましく、0.2質量%以下であればよりさらに好ましい。さらに、標準沸点が250℃超の有機溶剤を含有しないことが好ましいが、その含有量が該インク組成物の総量に対して0.5質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以下であるとさらに好ましい。」
ウ 「【0097】
〔インク組成物付着工程〕
インク組成物付着工程は、インク組成物を被記録媒体に対して付着させる工程であり、上述した凝集液付着工程と同時に又は凝集液付着工程の前後に設けることができるが、本発明による作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、凝集液付着工程の後に設けることが好ましい。インク組成物を付着させる手段としては、特に限定されないが、例えば、ローラー塗布、スプレー塗布、インクジェット方式を利用することができる。このなかでも、インクジェット方式により付着させることが好ましい。インク組成物をインクジェット方式により付着させることにより、メディアの面質変化の抑制や、耐擦性がより向上する傾向にある。
【0098】
耐擦性をさらに高める観点から、インク組成物付着工程は、加熱した被記録媒体へインク組成物を付着させる工程であることが好ましい。被記録媒体の表面温度は、下限を限定するものではないが、20℃(常温)以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、32℃以上であることが特に好ましい。また、該表面温度は、上限を限定するものではないが、50℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらに好ましく、38℃以下であることが特に好ましい。被記録媒体の表面温度が常温以上の場合、被記録媒体を加熱することが好ましい。」
(7)引用例6の記載事項
先の出願前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じで公衆に利用可能となった文献である、引用例6(特開2016-221943号公:甲3)には、以下の記載がある。
「【0109】
3.2.記録方法
インクジェットプリンターPX-G930(セイコーエプソン株式会社製)を改造したものを用いた。インクジェットヘッドは、ノズル列のノズル密度が600dpiのものを使用した。インターレース記録を行うことで記録解像度を増やすことが可能である。反応液と着色インク組成物をそれぞれ1ノズル列ずつ充填した。プラテンにヒーターを取り付けて、記録中の記録媒体の温度の調整が可能となるようにした。記録媒体の温度が30℃を超える例は、このヒーターを使用して温度を調整した。記録媒体の温度が30℃以下の例は、室温を調整して温度を調整した。反応液記録の完了後、プラテン上で所定の放置時間を設けた後、記録媒体を逆送りして再び搬送しパターンに重ねて着色インク組成物の付着をし、反応液付着完了から着色インク組成物付着開始までの時間(ウエイト時間)を調整した。記録媒体へ15×15cmのテストパターンを記録領域として設定し、この記録領域へ記録した。着色インク組成物の付着後、プリンターから排出した記録媒体を55℃で15分間加熱した。記録中の記録媒体の温度は、インクジェットヘッドと対向する位置の記録媒体の表面の温度である。」
2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「色インク」は、「水不溶性の着色剤、水溶性および/または非水溶性の樹脂成分、水溶性溶剤、界面活性剤を含」むものであるから、「インク組成物」ということができる。
そして、該「色インク」は、「プロセスカラー」としての「イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック」に加えて、「スペシャルカラーを含み、かつ、当該スペシャルカラーがオレンジとグリーンからな」るところ、「オレンジとグリーン」が、「イエロー、マゼンタ、シアン」と色相角が異なるものであることは技術常識に照らし明らかである。
以上によると、引用発明の「色インク」は、本件特許発明1の「シアンインク組成物と、マゼンタインク組成物と、イエローインク組成物と、前記各インク組成物とは色相角が異なる特色インク組成物とを含む着色インク組成物」に相当する。
また、引用発明の「色インク」は、「水性インクセット」が備えるものであるから、本件特許発明1の「前記着色インク組成物が水系のインク組成物である」との要件を満たす。
イ 引用発明の印刷方法は、「インクジェット記録方式により」「色インク」「を塗布して画像を印刷する印刷方法」であって、「記録媒体に色インク」「を印字する工程を含んでなるものであ」るところ、インクジェット記録方式による印刷方式が、色インクを印字する工程において記録ヘッドから色インクを吐出するものであることは技術常識に照らし明らかである。
したがって、上記アを踏まえると、引用発明の「記録媒体に色インク」「を印字する工程」は、本件特許発明1の「シアンインク組成物と、マゼンタインク組成物と、イエローインク組成物と、前記各インク組成物とは色相角が異なる特色インク組成物とを含む着色インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して、」「記録媒体へ付着させるインク付着工程」と、「シアンインク組成物と、マゼンタインク組成物と、イエローインク組成物と、前記各インク組成物とは色相角が異なる特色インク組成物とを含む着色インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して、記録媒体へ付着させるインク付着工程」である点で一致する。
ウ 引用発明の「反応インク」は、「前記色インク」「の構成成分に凝集を生じさせる反応剤を含有する」ものであるから、引用発明の「反応剤」及び「反応インク」は、それぞれ、本件特許発明1の「前記着色インク組成物の成分を凝集させる凝集剤」及び「(凝集剤を含有する)処理液」に相当する。
したがって、引用発明の「記録媒体に」「反応インク」「を印字する工程」は、本件特許発明1の「前記着色インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を、前記記録媒体へ付着させる処理液付着工程」に相当する。
エ 引用発明は、「前記反応インクは、多価金属塩、ポリアリルアミンおよびその誘導体から選択される反応剤と、界面活性剤を含み」、「前記多価金属塩が、少なくとも硫酸塩、硝酸塩およびカルボン酸塩から選択され」るものであるから、引用発明は、本件特許発明1の「前記凝集剤が、多価金属塩を含み」との発明特定事項に相当する構成を備える。
オ 引用発明の印刷方法は、「記録媒体に色インク、樹脂インク、反応インクを記録する方法は、1パス記録方法として、記録ヘッドを主走査方向に1回走査してドットを記録した後、副走査方向に記録媒体を記録領域分だけ移動させることを繰り返すことで、画像全体を形成する方法」を備えるものであるから、引用発明は、本件特許発明1の「前記インク付着工程を、前記インクジェットヘッドを前記記録媒体との相対位置を走査方向へ変えながら前記着色インク組成物を吐出する走査を複数回行うことにより行い」との発明特定事項に相当する構成を備える。
カ 引用発明は、「インク非吸収性および低吸収性の記録媒体」に、「インクジェット記録方式により」「画像を印刷する印刷方法」であるから、引用発明は、本件特許発明1の「前記記録媒体が、低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体であり」との発明特定事項に相当する構成を備える。
キ 上記アないしカに照らせば、本件特許発明1と引用発明とは、
「シアンインク組成物と、マゼンタインク組成物と、イエローインク組成物と、前記各インク組成物とは色相角が異なる特色インク組成物とを含む着色インク組成物を、インクジェットヘッドから吐出して、記録媒体へ付着させるインク付着工程と、
前記着色インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する処理液を、前記記録媒体へ付着させる処理液付着工程と、を備え、
前記インク付着工程を、前記インクジェットヘッドを前記記録媒体との相対位置を走査方向へ変えながら前記着色インク組成物を吐出する走査を複数回行うことにより行い、
前記記録媒体が、低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体であり、
前記凝集剤が、多価金属塩を含み、
前記着色インク組成物が水系のインク組成物である、
記録方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「前記インク付着工程における1回の走査の最大距離が50cm以上であり」という条件を満たすものであるのに対して、引用発明は、そのような特定を有していない点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「加温機構により記録媒体を加熱する加熱工程」を備え、インク付着工程において、「前記加熱工程により加熱された」記録媒体へ着色インク組成物を付着させるものであるのに対して、引用発明は、加熱工程を備えておらず、インク付着工程において着色インク組成物を付着させる記録媒体は、加熱工程により加熱されたものではない点。
<相違点3>
本件特許発明1は、「前記インク付着工程において前記着色インク組成物が付着した領域へ風を送る送風工程」を備え、「送風工程において、送風の温度が30℃以下」であるのに対して、引用発明は、「印刷中および/または印刷後に乾燥工程を含み」と特定されるにとどまり、乾燥工程が具体的に特定されていない点。
<相違点4>
本件特許発明1は、「前記インク付着工程における前記記録媒体のヘッドの主走査中に対向しうる領域の全体の表面温度のうちの最高温度と最低温度の温度差を、前記加熱工程と前記送風工程とによって、10℃以下となるように」するという条件を満たすものであるのに対して、引用発明は、そのような特定を有していない点。
(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点3について
事案に鑑み、相違点3について検討する。
(ア)引用発明は、「印刷中および/または印刷後に乾燥工程を含」むものであるところ、引用例1(甲4)の段落【0120】~【0121】には、乾燥時の加熱、及び、乾燥方式について、「40℃以上であればその効果が得られ、40℃~150℃程度が好ましく、より好ましくは、40℃~80℃程度である。」「乾燥方式としては、強制空気加熱・・・等が好ましい。」と記載されている。
したがって、「強制空気加熱」により「40℃以上」の温度で加熱することは引用例1の記載から当業者が容易になし得たといえるが、引用例1の記載から、相違点3に係る「送風工程において、送風の温度が30℃以下」との構成を採用するように動機づけられることはない。
(イ)引用例2~6の記載事項は上記1(3)~(7)のとおりであり、相違点3に係る「送風工程において、送風の温度が30℃以下」との構成は見いだせない。
その他の甲号証にも、「送風の温度が30℃以下」との構成は見いだせない。
(ウ)したがって、引用発明において、各引用例、又は、甲号証に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、本件特許発明1の相違点3に係る構成を備えるものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。
イ 以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、引用発明において、各引用例、又は、甲号証に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、本件特許発明1を想到することは、当業者が容易になし得たことではない。
(3)意見書(異議申立人)の主張について
異議申立人は、令和6年1月18日に提出した意見書の「(4-2)取消理由(引用例1を主引例とする進歩性)について」「(4-2-1)訂正発明1について」「イ 相違点についての検討」「(ウ)相違点3a、4aについて」において、甲7、引用例4、引用例6には、高温風を送風することが記載乃至示唆されていることを前提に、送風の温度を30℃以下にする動機づけはないとの特許権者の主張は、失当である旨主張している(同意見書19~21頁)。
しかしながら、上記(2)で述べたとおりであり、上記主張は採用できない
(4)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、引用例1に記載された発明、引用例1ないし6、及び、その他の甲号証に記載された技術事項、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件特許発明2~14について
本件特許の請求項2~14は、請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって、本件特許発明2~14は、本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。
そして、本件特許発明1が引用例1に記載された発明、引用例1ないし6、及び、その他の甲号証に記載された技術事項、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2~14も引用例1に記載された発明、引用例1ないし6、及び、その他の甲号証に記載された技術事項、及び、周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由1(甲1~3を主引例とする進歩性欠如)について
異議申立人は、甲1には、インクジェット方法に用いられるインクジェット装置として、被記録媒体上のインク組成物の冷却や乾燥のために用いられる冷却ファンや通気ファンを備えたものが記載されており(【0089】【0093】【0094】、図2)、送風の温度を30℃以下と特定することは、当業者が適宜なしうることであるから、甲1に記載された発明、甲1~11に記載された事項及び周知の技術的知見に基づき進歩性がなく、本件特許は取り消されるべきである旨主張する(特許異議申立書82~83、90~91頁)。
また、異議申立人は、被記録媒体に付着させたインク組成物を乾燥させる必要があることは自明であり、そのために甲2又は甲3に記載された発明に送風工程を設けることは、甲1,3の記載に基づいて、当業者が容易に想到し得ることであって、甲2又は甲3に記載された発明、甲1~11に記載された事項及び周知の技術的知見に基づき進歩性を有しないから、本件特許は取り消されるべきである旨主張する(特許異議申立書91~107頁)。
しかしながら、本件特許の「特色インク」については、甲1~3には「特色インク組成物」の候補として多数列挙されたもののうちの1つとして記載されているにすぎず、「シアンインク組成物と、マゼンタインク組成物と、イエローインク組成物と、前記各インク組成物とは色相角が異なる特色インク組成物とを含む着色インク組成物」を採用する動機付けとなり得る記載は見いだせない。
そして、着色インク組成物が付着した領域へ風を送る役割を果たす手段である送風温度について、甲1~3には記載がなく、その送風温度を30℃以下とする動機付けはない。
したがって、上記主張は採用できない。
2 申立理由2(サポート要件違反(特許法36条6項1号))について
(1)異議申立人の主張
異議申立人は、概略以下の理由によりサポート要件違反の記載不備を有するから、本件特許は取り消されるべきである旨主張する(以下、括弧内は特許異議申立書の関連箇所を示す。)。
ア 以下の点を踏まえると、特色インクを含むことで、課題が解決できるとはいえない。
・インクの付着順について何ら特定されていない(121頁(c-1))
・実施例・比較例で色差が確認されているのは、特色インク種と記録色が同じ場合のみである(同頁(c-2))
イ 本件特許発明1の具体的態様に相当する実施例において用いられている処理液は、酢酸カルシウム一水和物を5質量%含むもののみであり、これ以外の含有量で凝集剤を含む処理液を用いた場合にも、所望の凝集の程度が得られ、色差減少の課題が解決できるかどうかは、不明である。(123頁(d))
ウ 本件特許発明1は、以下のような課題が解決できないと考えられる具体的態様を包含するものとなっている。(123頁(b))
・記録媒体表面温度が47℃よりも高い
・表面温度のばらつきが大きい(例えば10℃を超える)
・記録媒体表面温度が47℃以上で、かつ表面温度ばらつきも大きい
・表面温度のばらつきが大きく、かつ走査スピードを上げる(例えば実施例13で走査時間を0.8秒とする)
・表面温度のばらつきが大きく、かつ走査距離が長い(例えば実施例13で走査距離を500cmとする)
エ 処理液や着色インク組成物の組成の観点からみて、本件特許発明1の全範囲において、色差改善の課題が解決できることが確認できているとはいえない。(124頁i)
(2)当合議体の判断
上記(1)アないしエの異議申立人の主張について検討する。
ア 主張アについて
本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0016】
これに対して、本実施形態においては、基本色インク組成物と特色インク組成物を併用することにより、色差を低減することができる。これは、特色インク組成物を用いて特色領域の色を記録するほうが、着弾ずれやなどにより記録面上のドットの寄り集まり状態に多少の揺らぎが生じたり、乾燥ムラによるドットの広がり方の差が生じたとしても、色差として表れにくいことによるものと推測する。これにより、基本色領域から特色領域まで色差の小さい記録をすることができる。」
この記載から、インクの付着順が明記されていなくとも、特色インク組成物を併用することにより、課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
また、特色インク種と記録色が同じ場合とそうでない場合に色差の発生を抑制する効果に差があるとしても、全く効果がないわけではない。
そして、カラー印刷において様々な記録色が用いられることが通常であるところ、記録色が特色インク種と同種のものに効果があるならば、全体として色差の発生を抑制する課題を解決しているといえるから、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
イ 主張イについて
本件特許の発明の詳細な説明において、以下の記載がある。
「【0088】
(凝集剤)
凝集剤としては、インク組成物の成分を凝集させるものであれば、特に制限されないが、例えば、多価金属塩、有機酸又はその塩、及びカチオン性樹脂が挙げられる。凝集剤は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0089】
多価金属塩としては、特に限定されないが、例えば、無機酸の多価金属塩又は有機酸の多価金属塩が挙げられる。多価金属としては、特に制限されないが、例えば、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からの土類金属(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)が挙げられる。これら多価金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硫酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩が挙げられる。なお、多価金属塩は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0090】
有機酸としては、特に限定されないが、例えば、酢酸、リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸が挙げられる。このなかでも、1価あるいは2価以上のカルボン酸が好ましい。また、有機酸は塩の状態であってもよい。なお、有機酸又はその塩は1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なお、有機酸又はその塩で多価金属塩でもあるものは多価金属塩に含めるものとする。」
これらの記載から、実施例で凝集剤として用いられている酢酸カルシウム一水和物は多価金属塩に含まれ、着色インク組成物の成分を凝集させる凝集剤の一例であることが理解でき、その他の上記例示された凝集剤を用いた場合についても、上記課題を解決できると当業者が認識できるといえるから、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
ウ 主張ウについて
主張ウで例示された「表面温度のばらつきが大きい(例えば10℃を超える)」場合については、本件特許発明1は「前記インク付着工程における前記記録媒体のヘッドの主走査中に対向しうる領域の全体の表面温度のうちの最高温度と最低温度の温度差を、前記加熱工程と前記送風工程とによって、10℃以下となるようにし」ているから妥当でない。
また、「記録媒体表面温度が47℃よりも高い」場合においても、本件特許発明を適用した場合は、適用しない場合に比べ課題を解決できると認識できるから、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
エ 主張エについて
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0016】における「特色インク組成物を用いて特色領域の色を記録するほうが、着弾ずれやなどにより記録面上のドットの寄り集まり状態に多少の揺らぎが生じたり、乾燥ムラによるドットの広がり方の差が生じたとしても、色差として表れにくいことによる」との記載から、処理液や着色インク組成物の組成が特許請求の範囲に記載のものであれば課題を解決できると認識できるから、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(3)まとめ
上記(2)のとおりであるから、申立理由2(サポート要件違反(特許法36条6項1号))は採用できない。
3 申立理由3(実施可能要件違反(特許法36条4項1号))について
異議申立人は、「上記カで指摘したサポート要件違反の記載不備は、本件特許発明1~14の発明特定事項を備えていても、本件特許の課題が解決できないことを指摘するものである。よって、かかる記載不備は、課題解決のための具体的な条件の探索は、当業者に過度の試行錯誤を要求するものといえるから、実施可能要件違反の不備にも相当するものである。」と主張する(124~125頁 キ)。
しかしながら、本件特許発明の記録方法を使用することができるように発明の詳細な説明が記載されていることは、実施例等の記載からみて明らかであり、当業者に過度の試行錯誤を要求するものともいえないから、申立理由3(実施可能要件違反(特許法36条4項1号))は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~14に係る発明は、いずれも、令和5年9月29日付け取消理由通知書に記載した取消しの理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701301