特許異議申立
2021-701023
半導体発光素子の製造方法
- 審判番号
- 2021-701023
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-016860
- 登録番号
- 6867180
- 請求日
- 2021年10月27日
- 審決日
- 2022年10月31日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日機装株式会社
- 【権利者代理人】森下 賢樹
- 【権利者代理人】村田 雄祐
- 【権利者代理人】三木 友由
- 【異議申立人】小林 喜一
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬川 勝久
- 審判官 吉野 三寛
- 審判官 加々美 一恵
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L) / P1651.536-YAA(H01L) / P1651.537-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6867180号発明「半導体発光素子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6867180号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6867180号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6867180号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年2月1日に出願され、令和3年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和3年4月28日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年10月27日 :特許異議申立人小林喜一(以下「申立人」と
いう。)による請求項1~6に係る特許に対
する特許異議の申立て
令和4年 3月18日付け:取消理由通知書
令和4年 5月17日 :特許権者による意見書(以下「特許権者意見
書」という。)及び訂正請求書の提出
令和4年 9月16日 :申立人による意見書(以下「申立人意見書」
という。)の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和4年5月17日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。なお、本件訂正は、一群の請求項〔1~6〕に対して請求されたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記p型コンタクト層を形成する工程の温度は、950℃以上であり、」の記載を追加するとともに、請求項1に「前記p型クラッド層を加熱する工程の温度は、750℃以上であり、」とあるのを、「前記p型クラッド層を加熱する工程の温度は、750℃以上950℃以下であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を加熱する工程と、」、「前記p型コンタクト層を加熱する工程と、」及び「前記p型クラッド層を加熱する工程の温度は、前記p型コンタクト層を加熱する工程の温度よりも高く、」とあるのを、それぞれ「前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を第1温度に設定して加熱する工程と、」、「前記p型コンタクト層を第2の温度に設定して加熱する工程と、」及び「前記第1温度は、前記第2温度よりも高く、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記p型コンタクト層を形成する工程の温度は、950℃以上であり、」の記載を追加するとともに、請求項3に「前記p型クラッド層を加熱する工程の温度は、750℃以上である」とあるのを、「前記第1温度は、750℃以上950℃以下である」に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に対して、次の内容からなるものである。
(i)本件訂正前の「p型コンタクト層を形成する工程」について、当該工程の温度を「950℃以上」に限定すること。
(ii)本件訂正前の「p型クラッド層を加熱する工程の温度」を、「750℃以上950℃以下」に限定すること。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
(ア)上記ア(i)について
本件明細書には、「p型コンタクト層32は、例えば、950℃~1100℃の成長温度で形成される」(【0035】)と記載されている。
よって、上記ア(i)の点は、新規事項を追加するものではない。
(イ)上記ア(ii)について
本件明細書の【0033】には、「p型クラッド層30を加熱する第1温度は、p型クラッド層30の成長温度より低く設定され、例えば、750℃~950℃の温度が設定される」(【0033】)と記載されている。
よって、上記ア(ii)の点は、新規事項を追加するものではない。
(ウ)小括
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に対して、次の内容からなるものである。
(i)本件訂正前の「p型クラッド層を加熱する工程」の「加熱」を、「第1温度に設定して5分以上」行うものに限定すること。
(ii)本件訂正前の「p型コンタクト層を加熱する工程」の「加熱」を、「第2温度に設定して」行うものに限定すること。
(iii)本件訂正前の「p型クラッド層を加熱する工程の温度」及び「p型コンタクト層を加熱する工程の温度」の記載が、上記(i)及び(ii)の訂正事項により訂正された「第1温度」及び「第2温度」の記載と重複することとなり、そのことによる不明瞭さを解消するために、上記「p型クラッド層を加熱する工程の温度」及び「p型コンタクト層を加熱する工程の温度」を「第1温度」及び「第2温度」に訂正すること。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
(ア)上記ア(i)について
本件明細書には、「p型クラッド層30を加熱する第1温度は、p型クラッド層30の成長温度より低く設定され」(【0033】)、「p型クラッド層30のアニール処理は、5分以上、好ましくは10分以上行われ、例えば、30分または1時間のアニール処理がなされる」(【0034】)と記載されている。
よって、上記ア(i)の点は、新規事項を追加するものではない。
(イ)上記ア(ii)について
本件明細書には、「p型コンタクト層32をアニールする第2温度は,例えば、700℃~900℃の温度が設定される。」(【0034】)と記載されている。
よって、上記ア(ii)の点は、新規事項を追加するものではない。
(ウ)上記ア(iii)について
上記ア(iii)の訂正事項は、重複する記載の整合をとり明瞭とするものであるから、新規事項を追加するものではない。
(エ)小括
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項2の小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3に対して、次の内容からなるものである。
(i)本件訂正前の請求項3が引用する請求項2に記載された「p型コンタクト層を形成する工程」について、当該工程の温度を「950℃以上」に限定すること。
(ii)本件訂正前の請求項3が引用する請求項2の「p型クラッド層を加熱する工程の温度」の記載が、訂正事項2により「第1温度」に訂正され、そのことによる請求項3の記載の不明瞭さを解消するために、本件訂正前の「p型クラッド層を加熱する工程の温度」を「第1温度」に訂正すること。
(iii)本件訂正前の「p型クラッド層を加熱する工程の温度」を、「750℃以上900℃以下」に限定すること。
そうすると、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮、及び、同第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
(ア)上記ア(i)について
本件明細書には、「p型コンタクト層32は、例えば、950℃~1100℃の成長温度で形成される」(【0035】)と記載されている。
よって、上記ア(i)の点は、新規事項を追加するものではない。
(イ)上記ア(ii)について
上記ア(ii)の訂正事項は、重複する記載の整合をとり明瞭とするものであるから、新規事項を追加するものではない。
(ウ)上記ア(iii)について
本件明細書には、「p型クラッド層30を加熱する第1温度は、p型クラッド層30の成長温度より低く設定され、例えば、750℃~950℃の温度が設定される。第1温度は、例えば、750℃、800℃、850℃、900℃または950℃であってもよい」(【0033】)と記載されている。
よって、上記ア(iii)の点は、新規事項を追加するものではない。
(エ)小括
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項3の小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。
3 訂正の適否の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たす。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の請求項
本件訂正は上記第2のとおり認められたので、本件訂正後の請求項は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次のとおりのものである。また、本件訂正後の請求項1~6に係る発明を、以下「本件発明1」~「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。
<本件発明1>
「n型AlGaN系半導体材料のn型クラッド層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と、
前記活性層上にp型AlGaN系半導体材料のp型クラッド層を形成する工程と、
前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を加熱する工程と、
前記p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する工程と、
前記p型コンタクト層を加熱する工程と、を備え、
前記活性層は、波長360nm以下の深紫外光を出力するよう構成され、
前記p型コンタクト層を形成する工程の温度は、950℃以上であり、
前記p型クラッド層を加熱する工程の温度は、750℃以上950℃以下であり、
前記p型コンタクト層を加熱する工程の温度よりも50℃以上高いことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。」
<本件発明2>
「n型AlGaN系半導体材料のn型クラッド層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と、
前記活性層上にp型AlGaN系半導体材料のp型クラッド層を形成する工程と、
前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を第1温度に設定して5分以上加熱する工程と、
前記p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する工程と、
前記p型コンタクト層を第2温度に設定して加熱する工程と、を備え、
前記活性層は、波長360nm以下の深紫外光を出力するよう構成され、
前記第1温度は、前記第2温度よりも高く、
前記p型クラッド層は、前記p型クラッド層を加熱する工程後の水素濃度が5×1018/cm3以下であることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。」
<本件発明3>
「前記p型コンタクト層を形成する工程の温度は、950℃以上であり、
前記第1温度は、750℃以上900℃以下であることを特徴とする請求項2に記載の半導体発光素子の製造方法。」
<本件発明4>
「前記p型クラッド層を加熱する工程は、実質的に水素(H)を含まない雰囲気ガス下でなされることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。」
<本件発明5>
「前記p型クラッド層を加熱する工程は、窒素(N2)の雰囲気ガス下でなされることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。」
<本件発明6>
「前記p型クラッド層は、窒化アルミニウム(AlN)のモル分率が50%以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体発光素子の製造方法。」
第4 令和4年3月18日付け取消理由通知書で通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~6に係る特許に対して、当審が令和4年3月18日付け取消理由通知書(以下「取消理由通知書」という。)により特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 (進歩性欠如)本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証~甲第6号証)に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2016-111370号公報
甲第2号証:特開平8-32113号公報
甲第3号証:特開平9-40490号公報
甲第4号証:特開平5-183189号公報
甲第5号証:特開平10-178212号公報
甲第6号証:特開2005-259768号公報
第5 取消理由通知に記載した取消理由に対する当審の判断
1 本件発明1について
(1)甲第1号証に記載された事項
ア 甲第1号証には、次の記載がなされている(下線は当審が付与した。以下同じ。)。
「【0063】
上述のように、本発明者らは、第1の実施形態に係るIII族半導体発光素子の製造方法において、素子の寿命を向上させているのは、電子ブロック層51上に2層構造のp型コンタクト層150を形成したこと自体によるものではなく、電子ブロック層51を形成した後、電子ブロック層51の表面上に、窒素を主成分とするキャリアガスを少なくとも供給して、電子ブロック層51の表面を窒素含有雰囲気下に置いたことによるものであることを見出した。」
「【0086】
(発明例4)
発明例1におけるAlNテンプレート基板を用いて、以下のように発明例4のIII族窒化物半導体発光素子を作製した。まず、MOCVD法により、アンドープ層として、層厚1μmのアンドープAl0.55Ga0.45N層を形成した。次に、アンドープ層上に、n型半導体層として、Siドープした層厚2μmのn型Al0.45Ga0.55N層を形成した(図2(D))。なお、SIMS分析の結果、n型半導体層のSi濃度は1.0×1019atoms/cm3である。
【0087】
続いて、n型半導体層上に、Al0.3Ga0.7Nからなる層厚3nmの井戸層およびAl0.5Ga0.5Nからなる層厚7nmの障壁層を交互に3.5組繰り返して積層した発光層を形成した(図2(E))。3.5組の0.5は、発光層の最初と最後を障壁層としたことを表す。この発光層の発光波長は310nmである。
【0088】
その後、発光層上に、水素ガスをキャリアガスとして、Al0.58Ga0.42Nからなり、Mgドープした層厚40nmの電子ブロック層を形成した。次いで、キャリアガスの水素ガスを停止して窒素ガスの供給を開始するとともに、III族元素ガスおよびドーパントガスの供給を停止し、成長温度を1300℃からp型コンタクト層(第2のp型コンタクト層)の形成温度である1050℃まで下げる工程を介し、その後、窒素ガスを停止して水素ガスへキャリアガスを切り替えるとともに、III族元素ガスおよびドーパントガスの供給を再開して第2のp型コンタクト層の形成を開始した。なお、窒素キャリアガスを用いて成長させる第1のp型コンタクト層は、III族元素ガス供給を停止しているため、残留ガスを考慮しても、その膜厚は0nmと見なせる。また、窒素ガスの供給開始から供給停止までの時間は200秒とした。」
「【0090】
その後、第2のp型コンタクト層の上にマスクを形成してドライエッチングによるメサエッチングを行い、n型半導体層を露出させた。次いで、第2のp型コンタクト層上に、Ni/Auからなるp型電極を形成し、露出したn型半導体層上には、Ti/Alからなるn型電極を形成した。なお、p型電極のうち、Niの厚みは50Åであり、Auの厚みは1500Åである。また、n型電極のうち、Tiの厚みは200Åであり、Alの厚みは1500Åである。最後に550℃でコンタクトアニール(RTA)を行って、電極を形成した。」
「【0094】
【表2】
[図:0001393988000001.jpg]
」
「図1
[図:0001393988000002.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
以上より、甲第1号証には、発明例4に係る次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、甲1発明の認定に用いた甲第1号証の記載等に係る箇所を括弧内に付してある。
<甲1発明>
「AlNテンプレート基板を用いて、アンドープAl0.55Ga0.45N層を形成し、
アンドープ層上に、n型半導体層として、Siドープした層厚2μmのn型Al0.45Ga0.55N層を形成し、(【0086】)
n型半導体層上に、Al0.3Ga0.7Nからなる層厚3nmの井戸層およびAl0.5Ga0.5Nからなる層厚7nmの障壁層を交互に3.5組繰り返して積層した発光層を形成し、
この発光層の発光波長は310nmであり、(【0087】)
発光層上に、水素ガスをキャリアガスとして、Al0.58Ga0.42Nからなり、Mgドープした層厚40nmの電子ブロック層を形成し、
キャリアガスの水素ガスを停止して窒素ガスの供給を開始するとともに、III族元素ガスおよびドーパントガスの供給を停止し、成長温度を1300℃からp型コンタクト層(第2のp型コンタクト層)の形成温度である1050℃まで下げる工程を介し、
窒素ガスの供給開始から供給停止までの時間は200秒とし、(【0088】)
その後、窒素ガスを停止して水素ガスへキャリアガスを切り替えるとともに、III族元素ガスおよびドーパントガスの供給を再開して第2のp型コンタクト層の形成を開始し、
その後、第2のp型コンタクト層上に、Ni/Auからなるp型電極を形成し、
露出したn型半導体層上には、Ti/Alからなるn型電極を形成し、
最後に550℃でコンタクトアニール(RTA)を行って、電極を形成した、(【0090】)
III族窒化物半導体発光素子の作製方法。(【0086】)」
(2)対比(一致点及び相違点)
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 本件発明1の「n型AlGaN系半導体材料のn型クラッド層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と、」の特定事項について
甲1発明の「n型半導体層」は、「層厚2μmのn型Al0.45Ga0.55N層」であるところ、その膜厚とAl組成比から、いわゆる「クラッド層」と呼称される層に相当するものと理解できる。そうすると、甲1発明の「n型半導体層」は、本件発明1の「n型AlGaN系半導体材料のn型クラッド層」に相当するといえる。
また、甲1発明の「発光層」は、「Al0.3Ga0.7Nからなる層厚3nmの井戸層およびAl0.5Ga0.5Nからなる層厚7nmの障壁層を交互に3.5組繰り返して積層した」ものであるから、本件発明1の「AlGaN系半導体材料の活性層」に相当するといえる。そして、甲1発明は、上記「n型半導体層」上に、上記「発光層」を形成する工程を有している。
したがって、甲1発明は、本件発明1の上記特定事項を備えている。
イ 本件発明1の「前記活性層上にp型AlGaN系半導体材料のp型クラッド層を形成する工程と、」の特定事項について
甲1発明は、「発光層上に、水素ガスをキャリアガスとして、Al0.58Ga0.42Nからなり、Mgドープした層厚40nmの電子ブロック層を形成」する工程を備えている。
ここで、本件発明1の「p型クラッド層」について、本件特許の発明の詳細な説明を参酌すると、【0028】には「AlNのモル分率が50%以上」及び「p型クラッド層30は、10nm~100nm程度の厚さを有し、例えば、20nm~50nm程度の厚さを有する」と記載されており、甲1発明の「電子ブロック層」のAl組成比(58%)と膜厚(40nm)を含むものと理解できる。そして、いわゆる「電子ブロック層」と呼称される層は、Al組成比が高く(例えば、80%以上)、膜厚が薄い(例えば、10nm以下)層であるとの技術常識を踏まえれば、甲1発明の「電子ブロック層」は、その膜厚とAl組成比からみて、いわゆる「クラッド層」と呼称される層に相当するものと解することが自然といえる。また、Mgがドープされていることを踏まえると、「p型」の層であることは明らかであるから、甲1発明の「電子ブロック層」は、本件発明1の「p型クラッド層」に相当するといえる。
よって、甲1発明は、本件発明1の上記特定事項を備えている。
ウ 本件発明1の「前記p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する工程、」及び「前記p型コンタクト層を形成する工程の温度は、950℃以上であり、」の特定事項について
甲1発明の「第2のp型コンタクト層」は、本件発明1の「p型コンタクト層」に相当し、甲1発明は、「電子ブロック層」を形成した後に「第2のp型コンタクト層」を形成している。また、甲1発明は、「p型コンタクト層(第2のp型コンタクト層)の形成温度である1050℃まで下げる工程」を備えている。
よって、甲1発明は、本件発明1の上記特定事項を備えている。
エ 本件発明1の「前記p型コンタクト層を加熱する工程と、」の特定事項について
甲1発明では、「第2のp型コンタクト層」を形成した後に、p型電極及びn型電極が形成され、その後に「550℃でコンタクトアニール(RTA)」が行われている。そうすると、「第2のp型コンタクト層」は、コンタクトアニール(RTA)の際に、(電極と同時に)加熱されているということができる。
したがって、甲1発明は、本件発明1の上記特定事項を備えている。
オ 本件発明1の「前記活性層は、波長360nm以下の深紫外光を出力するよう構成され、」の特定事項について
甲1発明の「発光層」の発光波長は、「310nm」であるから、本件発明1の上記特定事項を満たしている。
カ 以上より、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「n型AlGaN系半導体材料のn型クラッド層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と、
前記活性層上にp型AlGaN系半導体材料のp型クラッド層を形成する工程と、
前記p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する工程と、
前記p型コンタクト層を加熱する工程と、を備え、
前記活性層は、波長360nm以下の深紫外光を出力するよう構成され、
前記p型コンタクト層を形成する工程の温度は、950℃以上である半導体発光素子の製造方法。」
<相違点1>
本件発明1は、「前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を加熱する工程」を備え、「前記p型クラッド層を加熱する工程の温度は、750℃以上950℃以下であり、前記p型コンタクト層を加熱する工程の温度よりも50℃以上高い」と特定されるのに対し、甲1発明は、そのような工程を備えるか否か明らかでない点。
(3)判断
ア 甲1発明において相違点1に係る本件発明1の構成に至るためには、(i)甲1発明の「電子ブロック層」が、その上面を露出した状態で加熱される工程を備えるとともに、(ii)当該「加熱される工程」の温度を「750℃以上950℃以下」にするといえ、(iii)その温度が、p型コンタクト層を加熱する工程の温度よりも50℃以上高いように構成すれば足りるものと解される。
そこで、甲1発明において、上記(i)~(iii)の構成を得ることに、当業者が容易に至るかについて、以下に検討する。
イ 上記(i)について、甲1発明は、「電子ブロック層」を形成した後に、「キャリアガスの水素ガスを停止して窒素ガスの供給を開始するとともに、III族元素ガスおよびドーパントガスの供給を停止し、成長温度を1300℃からp型コンタクト層(第2のp型コンタクト層)の形成温度である1050℃まで下げる工程」(以下「窒素ガス供給工程」という。)を備え、「窒素ガスの供給開始から供給停止までの時間は200秒」と特定されている。そして、「窒素ガス供給工程」では、「III族元素ガスおよびドーパントガスの供給を停止」しており、窒化物半導体層の成膜は行われていないものと理解できるから、「窒素ガス供給工程」の間において、電子ブロック層は露出した状態であると解される。そうすると、甲1発明の「電子ブロック層」は、「窒素ガス供給工程」の間、「窒素ガス雰囲気」の中で露出した状態で、「1300℃~1050℃の温度」で、「200秒」の間保持されているものと理解できる。
他方、甲1発明の「窒素ガス供給工程」は、1300℃から1050℃まで、温度を下げる工程(以下「降温工程」という。)であるところ、その時間が「200秒」であることを踏まえると、「降温工程」は、徐冷(加熱)もしくは急冷(冷却)により制御されるものと理解できるところ、甲第1号証の「素子の寿命を向上させているのは、……、電子ブロック層51の表面を窒素含有雰囲気下に置いたことによるものであることを見出した」(【0063】)との記載を踏まえると、甲1発明の「窒素ガス供給工程」は、電子ブロック層の表面を窒素含有雰囲気下に置くことが目的であると理解できるから、上記制御は、当該電子ブロック層の表面を窒素含有雰囲気下に置く時間を確保するために、甲1発明の「窒素ガス供給工程」を、徐々に冷却する工程(徐冷)とすること、すなわち、「加熱」する工程を含むものと理解することが自然といえる。
そうすると、甲1発明は、相違点1の上記(i)に係る「前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を加熱する工程」を備えるといえる。
ウ 上記(ii)について、上記イのとおり、甲1発明の「窒素ガス供給工程」は、本件発明1の「前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を加熱する工程」に相当するところ、その温度は、「降温工程」の温度であり、本件発明1の「750℃以上950℃以下」の温度とは異なっている。そこで、甲1発明の「窒素ガス供給工程」の温度を「750℃以上950℃以下」とすることに当業者が容易に至るかについて検討すると、甲1発明の「窒素ガス供給工程」の温度は、電子ブロック層を形成する温度からp型コンタクト層を形成する温度までの温度であるから、その温度を「750℃以上950℃以下」にするということは、電子ブロック層を形成する温度を「950℃以下」とし、p型コンタクト層を形成する温度を「750℃以上(950℃以下)」にするものと解することができる。
しかしながら、甲第1号証には、「電子ブロック層51をAlzGa1-zN材料(b<z≦1)で形成する場合、AlbGa1-bN材料の成長温度としては、1000℃以上1400℃以下が好ましく、1050℃以上1350℃以下がより好ましい」(【0047】)と記載されており、「950℃以下」との温度は、甲第1号証に記載された電子ブロック層を形成する温度を外れる温度であって、甲1発明において想定された温度とはいえず、電子ブロック層を形成する温度を「950℃以下」とする動機もない。また、発明例4に係る甲1発明は、各層のAl組成比などに応じて、それぞれの形成温度がすでに最適化されているから、p型コンタクト層の形成温度が1050℃であるものを、750℃以上(950℃以下)とする動機もない。
したがって、甲1発明の「窒素ガス供給工程」の温度を、「750℃以上950℃以下」にすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
エ 小括
以上のとおりであるから、上記(iii)について検討するまでもなく、甲1発明において相違点1に係る本件発明1の構成に至ることは、当業者が容易になし得たこととはいえないものである。
(4)申立人の主張
申立人は、申立人意見書において、甲1発明のp型コンタクト層の形成温度を950℃とすることは容易であり、この場合、甲1発明の電子ブロック層は、「降温によって950℃に達したあとの時間」及び「キャリアガスを再び水素ガスに切り替えている時間」、950℃に加熱されている旨主張している。
しかしながら、この場合、甲1発明の電子ブロック層は、「1300℃から950℃までの降温時間」、「降温によって950℃に達したあとの時間」及び「キャリアガスを再び水素ガスに切り替えている時間」の間加熱されることになるから、その加熱温度は「1300℃~950℃」と解することが自然といえる。
よって、申立人の主張のとおり、加熱処理が950℃の温度で相当の時間行われるとしても、上記のとおり、甲1発明の電子ブロック層を加熱する温度は「1300℃~950℃」であるから、本件発明1の「750℃以上950℃以下」との温度範囲を満たすものとはならない。また、p型クラッド層を形成した後からp型コンタクト層を形成するまでの間のどこかの一部分の時間のみを「p型クラッド層を加熱する工程」と言い得るとしても、上記(3)ウに説示のとおり、発明例4に係る甲1発明は、各層の形成温度がすでに最適化されているのであるから、その主張の前提である、甲1発明の「p型コンタクト層」の形成温度を950℃とすることは、容易になし得ることではない。
したがって、上記申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。
(5)本件発明1についての小括
以上より、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 本件発明2について
(1)対比(一致点及び相違点)
上記1(2)ア~ウ及びオを踏まえ、本件発明2と甲1発明を、以下に対比する。
ア 本件発明2の「前記p型コンタクト層を第2温度に設定して加熱する工程と、」の特定事項について
甲1発明では、「第2のp型コンタクト層」を形成した後に、p型電極及びn型電極が形成され、その後に「550℃でコンタクトアニール(RTA)」が行われている。そうすると、「第2のp型コンタクト層」は、コンタクトアニール(RTA)の際に、第2温度(550℃)に設定して、(電極と同時に)加熱されているということができる。
よって、甲1発明は、本件発明2の上記特定事項を備えている。
イ 以上より、本件発明2と甲1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「n型AlGaN系半導体材料のn型クラッド層上にAlGaN系半導体材料の活性層を形成する工程と、
前記活性層上にp型AlGaN系半導体材料のp型クラッド層を形成する工程と、
前記p型クラッド層上にp型コンタクト層を形成する工程と、
前記p型コンタクト層を第2温度に設定して加熱する工程と、を備え、
前記活性層は、波長360nm以下の深紫外光を出力するよう構成される半導体発光素子の製造方法。」
<相違点2>
本件発明2は、「前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を第1温度に設定して5分以上加熱する工程」を備え、「前記第1温度は、前記第2温度より高く」と特定されるのに対し、甲1発明は、そのような工程を備えるか否か明らかでない点。
<相違点3>
「p型クラッド層の水素濃度」について、本件発明2は、「前記p型クラッド層は、前記p型クラッド層を加熱する工程後の水素濃度が5×1018/cm3以下である」と特定するのに対し、甲1発明では不明である点。
(2)判断
ア 相違点2について
甲1発明において相違点2に係る本件発明2の構成に至るためには、(i)甲1発明の「電子ブロック層」が、その上面を露出した状態で加熱される工程を備えるとともに、(ii)当該「加熱される工程」を「第1温度に設定して5分以上」にするといえ、(iii)その温度が、p型コンタクト層を加熱する工程の温度(第2温度)よりも高くすれば足りるものと解される。
そこで、甲1発明において、上記(i)~(iii)の構成を得ることに、当業者が容易に至るかについて、以下に検討する。
イ 上記(i)について、上記1(3)イのとおり、甲1発明は、本件発明2の上記(i)に係る「前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を加熱する工程」を備えるといえる。
ウ 上記(ii)について、上記イのとおり、甲1発明の「窒素ガス供給工程」は、本件発明2の「前記p型クラッド層上が露出した状態で前記p型クラッド層を加熱する工程」に相当するといえるところ、その温度は、「降温工程」の温度であり、本件発明2の「第1温度に設定して5分以上」にするものとは異なっている。
そこで、甲1発明の「窒素ガス供給工程」の温度を、(ii-1)「第1温度に設定して5分以上」とし得るか、(ii-2)「第1温度に設定して5分以上」とする工程を含むものとし得るか、又は(ii-3)甲1発明の「窒素ガス供給工程」以外に「加熱される工程」を備え得るかについて検討すると、先ず、(ii-1)について、甲1発明の「窒素ガス供給工程」の温度を、「第1温度に設定して5分以上」とその温度が下がらない構成に変更するということは、電子ブロック層を形成する温度とp型コンタクト層を形成する温度を同じ温度に設定することと解される。しかしながら、甲1発明は、発明例4に係るものであり、各層の形成温度など、すでに最適化されたものであるから、そのように構成を変更する動機はない。
次に、(ii-2)について、当該「窒素ガス供給工程」は、「降温工程」であるから、降温工程の途中に「5分以上」「一定の温度」に保つことは、通常は行われないことであると共に、そのように構成を変更する動機もない。
そして、(ii-3)について、甲1発明では、「窒素ガスを停止して水素ガスへキャリアガスを切り替えるとともに、III族元素ガスおよびドーパントガスの供給を再開して第2のp型コンタクト層の形成を開始し」ており、当該「窒素ガスを停止して水素ガスへキャリアガスを切り替える」間の時間(以下「水素ガス切り替え時間」という。)は、p型コンタクト層の形成温度(1050℃)に、所定の時間保たれていると解することが自然であるから、「水素ガス切り替え時間」が「5分以上」であるか、「5分以上」に変更し得るとすれば、当該(ii-3)は満たされ得るものである。
ここで、上記のとおり「水素ガス切り替え時間」は、窒素ガスを停止して水素ガスへキャリアガスを切り替える間の時間であるから、甲1発明の「窒素ガス供給工程」における「水素ガスを停止して窒素ガスへキャリアガスを切り替える間の時間」と同程度の時間と解すことが自然といえるところ、甲1発明の「窒素ガス供給工程」の時間は「200秒」であり、甲1号証の記載「窒素キャリアガス供給工程における窒素ガスの供給から停止までの時間は、少なくとも炉内に滞留する水素を追い出すまでの時間を含めることが好ましく、炉内のサイズにも拠るが、例えば、30秒以上600秒以下とすることが好ましい」(【0067】)を参酌すると、当該「200秒」には、「炉内に滞留する水素を追い出すまでの時間」が含まれているものと解され、その時間は、少なくとも200秒(3分20秒)以下と理解することできる。そうすると、上記のとおり、「水素ガス切り替え時間」も、同程度の時間であると解することが自然であるから、甲1発明の「水素ガス切り替え時間」は、少なくとも200秒(3分20秒)以下と解され、「5分以上」ではなく、「5分以上」に変更する動機もない。
したがって、上記(ii-3)の事項は、甲1発明において満たされておらず、そのように変更する動機もないものである。
また、III族窒化物半導体のp型層に対する熱処理が、甲第2号証~甲第6号証に記載のとおり周知技術(技術常識)であるとしても、甲1発明では、「窒素ガス供給工程」の時間を制御することにより、キャリア密度向上及び結晶性の良好な界面を得ている(【0053】・【0067】参照)のであって、その構成に鑑みれば、すでに熱処理が行われているものと解されることから、甲1発明において、さらに「第1温度に設定して5分以上」の熱処理を行うように、その構成を変更する動機はないものである。
よって、甲1発明を、上記(ii)の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
エ 小括
以上のとおりであるから、上記(iii)について検討するまでもなく、甲1発明において相違点2に係る本件発明2の構成に至ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(3)申立人の主張
申立人は、申立人意見書において、次の事項を主張している。
ア 甲1発明における降温は、「第1温度」として適宜設定しているものといえ、「第1温度に設定」すると規定することは、徐々に冷却する工程(徐冷)における温度設定を排除するとはいえず、仮に「第1温度」が一定の温度を指すとしても、第1温度に設定して5分以上加熱することは、当業者が容易になし得たことであること。
イ 甲1発明の「窒素ガス供給工程」において、甲1発明のp型コンタクト層の形成温度を本件発明2の「第1温度」とすれば、電子ブロック層の形成温度からp型コンタクト層の形成温度(第1温度)に達した後、キャリアガスを再び水素ガスに切り替えている時間は、一定の温度(第1温度)に保たれていること。
しかしながら、次のとおりであるから、上記申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。
上記アについて、「第1温度に設定する」と特定する場合は、通常「一定の温度」と解することが自然であるから、甲1発明の「窒素ガス供給工程」は、「第1温度に設定する」ものとはいえない。そして、「第1温度」を「一定の温度」と解することは、本件明細書の記載「p型クラッド層30を加熱する第1温度は、p型クラッド層30の成長温度より低く設定され、例えば、750℃~950℃の温度が設定される。第1温度は、例えば、750℃、800℃、850℃、900℃または950℃であってもよい」(【0033】)にも沿うものである。また、当業者が容易になし得たこととの主張については、上記(2)ウに説示のとおりである。
上記イについて、上記(2)ウで説示のとおり、キャリアガスを再び水素ガスに切り替えている時間が、一定の温度(第1温度)に保たれているとしても、甲1発明におけるその時間は、「5分以上」とはいえず、その時間を「5分以上」とする動機もない。
(4)本件発明2についての小括
以上より、相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件発明3~6について
本件発明3は、甲1発明との間に相違点2を含むものであるから、上記2と同様の理由により、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明4~6は、いずれも、甲1発明との間に相違点1を含むものであるから、上記1と同様の理由により、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 特許法第29条第1項第3号に規定する要件について
申立人は、特許異議申立書において、請求項1、4~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である旨を主張している。
しかしながら、請求項1の「p型クラッド層を加熱する工程」について、甲第1号証に記載された発明は、当該構成を備えるとまでいえないから、請求項1、4~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ではない。
2 特許法第36条第6項第1号に規定する要件について
申立人は、特許異議申立書において、請求項1に記載の「p型クラッド層を加熱する工程」及び「p型コンタクト層を加熱する工程」は、一定温度の保持についての記載がなく、温度上限、処理時間及び雰囲気について限定されておらず、請求項1~6に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。
しかしながら、本件発明1には「前記p型クラッド層を加熱する工程の温度は、750℃以上950℃以下であり、前記p型コンタクト層を加熱する工程の温度よりも50℃以上高いこと」と記載されており、p型クラッド層の水素濃度を低減するとの作用が、加熱温度によるものであることは明らかといえる。よって、請求項1に記載された「p型クラッド層を加熱する温度」の特定により課題を解決し得ること、すなわち「p型クラッド層の水素濃度を低減する」との事項を認識することはできるといえる。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。また、同様の記載を有する請求項2及び請求項1又は請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3~6についても同様である。
3 特許法第36条第6項第2号に規定する要件について
申立人は、特許異議申立書において、請求項1及び請求項2には、「p型クラッド層を加熱する工程」及び「p型コンタクト層を加熱する工程」と記載されているところ、「加熱する工程」では、如何なる態様の熱処理を包含するか、一義的に明らかであるということはできないから、請求項1~6に係る発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨を主張している。
しかしながら、「加熱」との文言に照らせば、熱を加えている状態を示していると解することが自然であり、そのような態様を包含するものと理解できる。
したがって、請求項1に係る発明は、明確である。また、同様の記載を有する請求項2及び請求項1又は請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3~6についても同様である。
4 特許法第36条第4項第1号に規定する要件について
申立人は、特許異議申立書において、請求項2には、「前記p型クラッド層は、前記p型クラッド層を加熱する工程後の水素濃度が5×1018/cm3以下である」と記載されているところ、発明の詳細な説明に、加熱温度、処理時間及び雰囲気など操作条件の記載がなく、どのような操作条件で、上記水素濃度が得られるのか不明であるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2~6の発明を実施することができる程度に記載されていない旨を主張している。
しかしながら、「5×1018/cm3」との水素濃度の値に照らせば、具体的な操作条件が記載されていないとしても、当業者であれば、過度の試行錯誤を行うことなく、「水素濃度が5×1018/cm3以下」となる工程を実施し得るものといえる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項2~6の発明を実施することができる程度に記載されているといえる。
第7 むすび
以上によれば、本件発明1~6に係る特許は、取消理由通知書に係る取消理由及び特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。そして、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701023