特許異議申立
2021-700691
半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法
- 審判番号
- 2021-700691
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-077634
- 登録番号
- 6814902
- 請求日
- 2021年07月19日
- 審決日
- 2023年06月22日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日機装株式会社
- 【権利者代理人】森下 賢樹
- 【権利者代理人】村田 雄祐
- 【権利者代理人】三木 友由
- 【異議申立人】小林 喜一
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 金高 敏康
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P1651.113-YAA(H01L) / P1651.121-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6814902号発明「半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6814902号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7,8〕について訂正することを認める。
特許第6814902号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6814902号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る出願は、令和2年4月24日に出願され、令和2年12月23日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 7月19日 :特許異議申立人小林喜一(以下「申立人」
という。)による請求項1~8に係る特許
に対する特許異議の申立て
令和4年 2月21日付け:取消理由通知書(以下「第1次取消理由通
知書」といい、この通知書に係る取消理由
を「第1次取消理由」という。)
令和4年 4月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以
下、この訂正請求書による訂正を「第1次
訂正」という。)の提出
令和4年 6月 7日 :申立人による意見書の提出
令和4年 9月26日付け:取消理由通知書(決定の予告)(以下「第
2次取消理由通知書」といい、この通知書
に係る取消理由を「第2次取消理由」とい
う。)
令和4年11月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以
下、この訂正請求書による訂正を「第2次
訂正」という。)の提出
令和4年12月 5日付け:第2次訂正に係る請求があった旨の通知
令和5年 3月13日付け:取消理由通知書(決定の予告)(以下「第
3次取消理由通知書」といい、この通知書
に係る取消理由を「第3次取消理由」とい
う。)
令和5年 4月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以
下、この訂正請求書による訂正を「本件訂
正」という。)の提出
なお、本件訂正に係る訂正の請求によって、第2次訂正に係る訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。
また、本件訂正後の請求項1及び7(独立項であって、他に独立項はない。)は、後記のとおり、第2次訂正後の請求項1及び7のそれぞれをさらに減縮するものであるところ、第2次訂正に関して、申立人は、意見書を提出する機会が与えられたにもかかわらず、提出しなかったことから、当審は、特許法第120条の5第5項ただし書の規定に基づき、申立人に対し、本件訂正に関して、意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである(下線部が訂正箇所である)。
なお、本件訂正は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1~6〕、〔7,8〕について請求されたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記活性層上に設けられ、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、8×1018/cm3以上5×1019/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層と、」とあるのを、「前記活性層上に設けられ、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)と、前記p型クラッド層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層と、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に「前記活性層上に、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層を形成する工程と、前記p型クラッド層上に接触するように、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、8×1018/cm3以上5×1019/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層を形成する工程と、」とあるのを、「前記活性層上に、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)を形成する工程と、前記p型クラッド層上に接触するように、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層を形成する工程と、」に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、「前記p型クラッド層」について、「(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)」という事項を追加することにより、p型クラッド層がコドープ領域層を有する場合を除外し、さらに限定するもの(以下「訂正事項1-1」という。)であり、かつ、「p型コンタクト層」の「p型ドーパント濃度」を、「8×1018/cm3以上5×1019/cm3以下」から「1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下」に限定するもの(以下「訂正事項1-2」という。)であるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項追加の有無
(ア)訂正事項1-1について
訂正事項1-1により、「前記p型クラッド層」は、「p型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合」が除外されたことになる。しかるに、「前記p型クラッド層」は、「p型」である以上、p型不純物を含む一方で、n型不純物を含まないように構成することが通常であるし、本件特許の願書に添付した特許登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)にも、「前記p型クラッド層」がn型不純物をも含むように構成されることの記載はない。そうすると、訂正事項1-1によって、新たな技術的事項が導入されることはないというべきである。
したがって、訂正事項1-1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(イ)訂正事項1-2について
本件明細書等の段落【0034】には「第1p型コンタクト層36のp型ドーパント濃度は、8×1018/cm3以上5×1019/cm3以下の範囲であり、好ましくは1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下の範囲である。」と記載されることから、訂正事項1-2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ)まとめ
上記(ア)及び(イ)から、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の存否
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
エ 訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1に係る半導体発光素子の製造方法である請求項7において、訂正事項1と同じ訂正を行うものである。
そうすると、訂正事項1と同様に、訂正事項2は、訂正要件をみたす。
(3)小括
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
なお、訂正後の請求項1~8は、特許異議の申立てがなされた請求項であるから、当該各請求項についての訂正には、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 訂正の適否についての判断の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たす。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正後の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明1」~「本件訂正発明8」という。)は、次のとおりのものである。
【本件訂正発明1】
n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に設けられ、波長240nm以上320nm以下の深紫外光を発するようにAlGaN系半導体材料から構成される活性層と、
前記活性層上に設けられ、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)と、
前記p型クラッド層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層と、
前記第1p型コンタクト層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、8×1019/cm3以上4×1020/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、8nm以上28nm以下の厚さを有する第2p型コンタクト層と、 前記第2p型コンタクト層上に接触して設けられ、前記第2p型コンタクト層に対するコンタクト抵抗が1×10-2Ω・cm2以下であるp側電極と、を備えることを特徴とする半導体発光素子。
【本件訂正発明2】
前記第2p型コンタクト層は、1×1020/cm3以上2×1020/cm3以下のp型ドーパント濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体発光素子。
【本件訂正発明3】
前記第2p型コンタクト層は、11nm以上20nm以下の厚さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体発光素子。
【本件訂正発明4】
前記第1p型コンタクト層の厚さは、700nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【本件訂正発明5】
前記p型クラッド層は、AlN比率が60%以上であるp型AlGaN系半導体材料から構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【本件訂正発明6】
前記第1p型コンタクト層および前記第2p型コンタクト層は、p型GaNから構成されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体発光素子。
【本件訂正発明7】
n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型半導体層上に、波長240nm以上320nm以下の深紫外光を発するようにAlGaN系半導体材料から構成される活性層を形成する工程と、
前記活性層上に、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)を形成する工程と、
前記p型クラッド層上に接触するように、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層を形成する工程と、 前記第1p型コンタクト層上に接触するように、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、8×1019/cm3以上4×1020/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、8nm以上28nm以下の厚さを有する第2p型コンタクト層を形成する工程と、
前記第2p型コンタクト層上に接触するように、前記第2p型コンタクト層に対するコンタクト抵抗が1×10-2Ω・cm2以下であるp側電極を形成する工程と、を備えることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【本件訂正発明8】
前記第2p型コンタクト層の成長レートは、前記第1p型コンタクト層の成長レートの20%以上60%以下であることを特徴とする請求項7に記載の半導体発光素子の製造方法。
第4 取消理由の概要及び申立人が提出した証拠
1 第3次取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した第3次取消理由の要旨は、以下のとおりである。
(1)(新規性欠如)第2次訂正後の請求項1、2、4~8に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された後記の甲1発明E又はFであって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)(進歩性欠如)第2次訂正後の請求項1~8に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された後記の甲1発明E又はFに基づいて、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 第2次取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した第2次取消理由の要旨は、以下のとおりである。
(進歩性欠如)第1次訂正後の請求項1~4、6~8に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された後記の甲1発明C又はDに基づいて、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
3 第1次取消理由通知書により特許権者に通知した第1次取消理由の要旨は、以下のとおりである。
(1)(新規性欠如)本件特許の登録時の請求項1,2,4~7に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された後記の甲1発明A又はBであって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)(進歩性欠如)本件特許の登録時の請求項1、2,4~7に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された後記の甲1発明A又はBに基づいて、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許の登録時の請求項1~8に係る発明は、出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証に記載された後記の甲1発明C又はD.に基づいて、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、当該各請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
4 申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。
以下、「甲第1号証」~「甲第7号証」を「甲1」~「甲7」という。
甲1:特開2020- 57784号公報
甲2:特開2015-167177号公報
甲3:特開2007-227832号公報
甲4:特開2007-258248号公報
甲5:特開2005-209733号公報
甲6:特開2019-192908号公報
甲7:特開2000-164922号公報
5 なお、第1次取消理由、第2次取消理由(決定の予告)及び第3次取消理由(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由はない。
第5 第3次取消理由についての当審の判断
1 甲1に記載された発明E及びF
(1)甲1には、実施例3においてp型電子ブロック層にSiをドーピングしなかったものに対応する比較例5に記載された半導体発光素子に係る次の発明(以下「甲1発明E」という。)
が記載されていると認められる。
なお、参考までに、各証拠に記載された発明等の認定に用いた当該証拠中の記載等に係る箇所を括弧内に付している(以下、同じ)。
(甲1発明E)
「発光波長が200nm~350nmのIII族窒化物半導体発光素子において、(請求項1、【0071】)
Al0.65Ga0.35Nからなるn型層と、(【0065】)
n型層上の、Al0.65Ga0.35Nからなる障壁層と、交互に2層ずつ形成したAl0.45Ga0.55Nからなる井戸層およびAl0.65Ga0.35Nからなる障壁層と、Al0.45Ga0.55Nからなる井戸層とからなる発光層と、(【0066】、【0024】)
Al0.68Ga0.32Nからなり、Mgをドープした厚さ20nmのp型電子ブロック層と、(【0080】、【0068】、【0074】、【0087】)
p型コンタクト層とを、この順に備え、(【0069】)
前記p型コンタクト層は、p型電子ブロック層上に直接設けられるとともに、(【0069】、【0068】)
p型電子ブロック層側の、GaNからなり厚さ875(=900-25)nmでありMg濃度は平均で3.0×1019atoms/cm3であるp型層と、(【0074】、【0069】)
電極に接する、GaNからなり厚さ25nmでありMg濃度は平均で1.2×1020atom/cm3である高Mg濃度の層とからなり、(【0069】)
p型コンタクト層の高Mg濃度の層の上に、直接、Ni/Auからなるp型電極を備えている、(【0070】、【0069】)
III族窒化物半導体発光素子。」
(2)また、甲第1号証には、比較例5に記載された半導体発光素子の製造方法に係る次の発明(以下「甲1発明F」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明F)
「発光波長が200nm~50nmのIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、(請求項6)
Al0.65Ga0.35Nからなるn型層を形成する工程と、(【0065】)
Al0.65Ga0.35Nからなる障壁層と、交互に2層ずつ形成したAl0.45Ga0.55Nからなる井戸層およびAl0.65Ga0.35Nからなる障壁層、Al0.45Ga0.55Nからなる井戸層からなる発光層を形成する工程と、(【0066】、【0024】)
Al0.68Ga0.32Nからなり、Mgをドープした厚さ20nmのp型電子ブロック層を形成する工程と、(【0080】、【0068】、【0074】、【0087】)
p型コンタクト層を形成する工程とを、この順に備え、(【0069】)
前記p型コンタクト層を形成する工程は、p型コンタクト層をp型電子ブロック層上に直接設け、(【0069】、【0068】)
p型電子ブロック層側の、GaNからなり厚さ875(=900-25)nmでありMg濃度は平均で3.0×1019atoms/cm3であるp型層を形成する工程と、(【0074】、【0069】)
電極に接する、GaNからなり厚さ25nmでありMg濃度は平均で1.2×1020atom/cm3である高Mg濃度の層を形成する工程であって、TMGガスの流量を減らしてMgの存在確率を上げ、かつ、成長速度を落とすことにより高Mg濃度の層を形成する工程とからなり、(【0069】)
さらに、p型コンタクト層の高Mg濃度の層の上に、直接、Ni/Auからなるp型電極を形成する工程を備える(【0070】、【0069】)
III族窒化物半導体発光素子の製造方法。(請求項6)」
2 本件訂正発明1~8の新規性欠如及び進歩性欠如
(1)本件訂正発明1
ア 甲1発明Eとの対比
本件訂正発明1と甲1発明Eを対比する。
(ア)「n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型クラッド層と、」について
甲1発明Eの「Al0.65Ga0.35Nからなるn型層」は、井戸層がAl0.45Ga0.55Nであることに鑑み、そのAl比率からみていわゆる「クラッド層」が備える機能を奏すると理解できる。したがって、甲1発明Eの「Al0.65Ga0.35Nからなるn型層」は本件訂正発明1の「n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型クラッド層」に相当する。
(イ)「前記n型クラッド層上に設けられ、波長240nm以上320nm以下の深紫外光を発するようにAlGaN系半導体材料から構成される活性層と、」について
甲1発明Eでは、「n型層の上に、Al0.65Ga0.35Nからなる障壁層と、交互に2層ずつ形成したAl0.45Ga0.55Nからなる井戸層およびAl0.65Ga0.35Nからなる障壁層、Al0.45Ga0.55Nからなる井戸層からなる発光層」が設けられており、また、半導体発光素子の発光
について「発光波長が200nm-350nm」とあり井戸層のAl組成比(0.45)からして「波長240nm以上320nm以下の深紫外光」を発光しているといえるから、甲1発明Eの「n型層の上の、Al0.65Ga0.35Nからなる障壁層と、交互に2層ずつ形成したAl0.45Ga0.55Nからなる井戸層およびAl0.65Ga0.35Nからなる障壁層、Al0.45Ga0.55Nからなる井戸層からなる発光層」は、本件訂正発明1の「前記n型クラッド層上に設けられ、波長240nm以上320nm以下の深紫外光を発するようにAlGaN系半導体材料から構成される活性層」に相当する。
(ウ)「前記活性層上に設けられ、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)と、」について
甲1発明Eの「Al0.68Ga0.32Nからなり、Mgをドープした厚さ20nmのp型電子ブロック層」は、井戸層がAl0.45Ga0.55Nであることに鑑み、そのAl比率からみていわゆる「クラッド層」が備える機能を奏すると理解できる。このことは、甲第1号証の【0032】に「p型クラッド層28は、AlNのモル分率が50%以上であり、好ましくは、60%以上または70%以上となるように形成される。p型クラッド層28は、10nm~100nm程度の厚さを有し、例えば、15nm~70nm程度の厚さを有する。」とあり、甲1発明Eのp型電子ブロック層は、これらの条件を満たすことからも首肯できる。また、甲1発明Eは、「発光層と・・・p型電子ブロック層とを、この順に備え」るものである。
そして、甲1発明Eでは、p型電子ブロック層にSiをドーピングしておらずコドープ層を有していない。
とすると、甲1発明Eの上記「p型電子ブロック層」は、本件訂正発明1の「前記活性層上に設けられ、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)」に相当する。
(エ)「前記p型クラッド層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層と、」について
a 甲1発明Eの「p型コンタクト層は、p型電子ブロック層上に直接設けられ」ていることは、本件訂正発明1の第1p型コンタクト層が「前記p型クラッド層上に接触して設けられ」ていることに相当する。さらに、甲1発明Eのp型電子ブロック層上に直接設けられている「GaNからなり厚さ875(=900-25)nmであ」「るp型層」は、本件訂正発明1の「AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され」た「500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層」に相当する。
b III族窒化物半導体発光素子においてMgは通常p型ドーパントとして用いられていることを踏まえると、甲1発明Eにおける「Mg濃度」は本件訂正発明1の「p型ドーパント濃度」といえるところ、甲1発明Eはp型層の「p型ドーパント濃度」について、「所定のp型ドーパント濃度」を有する点で本件訂正発明1と共通するものの、当該「所定のドーパント濃度」が本件訂正発明1では「1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下」であるのに対して、甲1発明Eは「平均で3.0×1019atoms/cm3である」点で相違する。
(オ)「前記第1p型コンタクト層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、8×1019/cm3以上4×1020/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、8nm以上28nm以下の厚さを有する第2p型コンタクト層と、」について
甲1発明Eの「p型電子ブロック層側の、GaNからなり厚さ875(=900-25)nmでありMg濃度は平均で3.0×1019atoms/cm3であるp型層と、電極に接する、GaNからなり厚さ25nmでありMg濃度は平均で1.2×1020atom/cm3である高Mg濃度の層からなり、さらに、p型コンタクト層の高Mg濃度の層の上に、直接、Ni/Auからなるp型電極を備えて」いるp型コンタクト層の内の高Mg濃度部分は、p型層部分に接していることから、本件訂正発明1の「前記第1p型コンタクト層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、8×1019/cm3以上4×1020/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、8nm以上28nm以下の厚さを有する第2p型コンタクト層」に相当する。
(カ)「前記第2p型コンタクト層上に接触して設けられ、前記第2p型コンタクト層に対するコンタクト抵抗が1×10-2Ω・cm2以下であるp側電極と、を備える」「半導体発光素子。」について
甲1発明Eの「III族窒化物半導体発光素子」は、本件訂正発明1の「半導体発光素子」に相当する。
一方、甲1発明Eの「p型コンタクト層の高Mg濃度の層の上に、直接、Ni/Auからなるp型電極を備えており」は、本件訂正発明1の「前記第2p型コンタクト層上に接触して設けられたp側電極」に相当するものの、「第2p型コンタクト層に対するコンタクト抵抗が1×10-2Ω・cm2以下である」点は、甲1発明Eには特定されていない。
(キ)一致点及び相違点の認定
上記(ア)~(カ)を総合すると、本件訂正発明1と甲1発明Eは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に設けられ、波長240nm以上320nm以下の深紫外光を発するようにAlGaN系半導体材料から構成される活性層と、
前記活性層上に設けられ、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)と、
前記p型クラッド層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、所定のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層と、
前記第1p型コンタクト層上に接触して設けられ、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、8×1019/cm3以上4×1020/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、8nm以上28nm以下の厚さを有する第2p型コンタクト層と、
前記第2p型コンタクト層上に接触して設けられたp側電極と、
を備える半導体発光素子。
<相違点1>
第1p型コンタクト層の「所定のp型ドーパント濃度」について、本件訂正発明1では「1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下」であるのに対し、甲1発明Eでは「平均で3.0×1019atoms/cm3である」点。
<相違点2>
本件訂正発明1では「第1p型コンタクト層」のp型ドーパント濃度が「1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下」であり、「第2p型コンタクト層」のp型ドーパント濃度が「8×1019/cm3以上4×1020/cm3以下」であるのに対し、甲1発明Eでは「p型コンタクト層70全体の平均不純物濃度は、p型として機能することのできる不純物濃度であれば特に限定されず、例えば1.0×1018atoms/cm3~5.0×1021atoms/cm3とすることができ」るものであり、Mg高濃度領域のMg濃度が「3×1020atoms/cm3以上」である点。
<相違点3>
「p側電極」が、本件訂正発明1では「第2p型コンタクト層に対するコンタクト抵抗が1×10-2Ω・cm2以下である」のに対し、甲1発明Eでは不明である点。
イ 判断
(ア)相違点1について
甲1発明Eにおいて相違点1に係る本件訂正発明1の構成に至るためには、Mg濃度が平均で3.0×1019atoms/cm3であるp型層において、前記Mg濃度を低く「1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下」の範囲内とすること、を少なくとも要するといえる。
しかしながら、甲1発明Eにおける「p型層」は「p型コンタクト層」の「電子ブロック層側」の層、すなわち「p型コンタクト層」の一部であるところ、半導体発光素子におけるp型コンタクト層を高濃度の不純物を添加した層で構成することが技術常識であることを踏まえると、そのようなp型コンタクト層において不純物濃度をあえて低くする動機付けは見いだせない。
さらに、甲2~7に記載された技術的事項をみても、上記判断が左右されることはない。
したがって、相違点1に係る本件訂正発明1の構成は、甲1発明E及び甲2~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(イ)小括
よって、本件訂正発明1は、甲1発明Eではないし、また、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明E及び甲2~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(2)本件訂正発明2~6について
本件訂正発明2~6は、本件訂正発明1をさらに減縮したものであるから、本件訂正発明1についての上記判断と同様の理由により、本件訂正発明1は、甲1発明Eではないし、また、甲1発明E及び甲2~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(3)本件訂正発明7について
ア 甲1発明7との対比
本件訂正発明7は、本件訂正発明1を製造方法的に表現したものに相当するから、甲1発明Eを製造方法的に表現したものに相当する甲1発明Fとの対比は、上記(1)と同様に行うことができ、その結果、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「n型AlGaN系半導体材料から構成されるn型半導体層上に、波長240nm以上320nm以下の深紫外光を発するようにAlGaN系半導体材料から構成される活性層を形成する工程と、
前記活性層上に、AlN比率が50%以上であるp型AlGaN系半導体材料またはp型AlN系半導体材料から構成されるp型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)を形成する工程と、
前記p型クラッド層上に接触するように、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、所定のp型ドーパント濃度を有し、500nmより大きい厚さを有する第1p型コンタクト層を形成する工程と、
前記第1p型コンタクト層上に接触するように、AlN比率が5%以下のp型AlGaN系半導体材料またはp型GaN系半導体材料から構成され、8×1019/cm3以上4×1020/cm3以下のp型ドーパント濃度を有し、8nm以上28nm以下の厚さを有する第2p型コンタクト層を形成する工程と、
前記第2p型コンタクト層上に接触するように、p側電極を形成する工程と、
を備えることを特徴とする半導体発光素子の製造方法。」
<相違点4>
第1p型コンタクト層の「所定のp型ドーパント濃度」について、本件訂正発明7では「1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下」であるのに対し、甲1発明Fでは「平均で3.0×1019atoms/cm3である」点。
<相違点5>
本件訂正発明7では「第1p型コンタクト層」のp型ドーパント濃度が「1×1019/cm3以上2×1019/cm3以下」であり、「第2p型コンタクト層」のp型ドーパント濃度が「8×1019/cm3以上4×1020/cm3以下」であるのに対し、甲1発明Fでは「p型コンタクト層70全体の平均不純物濃度は、p型として機能することのできる不純物濃度であれば特に限定されず、例えば1.0×1018atoms/cm3~5.0×1021atoms/cm3とすることができ」るものであり、Mg高濃度領域のMg濃度が「3×1020atoms/cm3以上」である点。
<相違点6>
「p側電極」が、本件訂正発明7では「第2p型コンタクト層に対するコンタクト抵抗が1×10-2Ω・cm2以下である」のに対し、甲1発明Fでは不明である点。
イ 判断
相違点4は相違点1と実質的に同じものであるから、本件訂正発明1と同様の議論が成り立つ。
したがって、本件訂正発明7は、甲1発明Fではないし、また、相違点5及び6について検討するまでもなく、本件訂正発明7は、甲1発明F及び甲2~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
(4)本件訂正発明8について
本件訂正発明8は、本件訂正発明7をさらに減縮したものであるから、本件訂正発明7についての上記判断と同様の理由により、本件訂正発明8は、甲1発明Fではないし、また、甲1発明F及び甲2~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
3 まとめ
上記2によれば、本件訂正発明1~8についての特許は、第3次取消理由によって、取り消すことができないものである。
第6 第1次取消理由及び第2次取消理由についての当審の判断
1 第1次取消理由及び第2次取消理由で認定された甲1に記載された発明
第1次取消理由において認定された甲1に記載された発明のうち、甲1発明A及びCは、いずれも、p型電子ブロック層にコドープ領域層を含む半導体発光素子に関するものであり、甲1発明B及びDは、それぞれ、甲1発明A及びCに係る半導体発光素子の製造方法に関するものである。
そして、第2次取消理由において認定された発明は、上記のうち、甲1発明Cと甲1発明Dである。
2 本件訂正発明1~8の新規性欠如及び進歩性欠如
本件訂正発明1は、「p型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)」との特定事項を有するものであるところ、甲1発明A及びCは、コドープ領域層を有することによりp型コンタクト層からのMgの活性層へ拡散を抑制することで発光出力の経時変化を抑制する課題を解決するものであることに鑑みると、甲1発明A及びCから出発した当業者が、前記コドープ領域層を削除することには阻害要因がある。
本件訂正発明1に従属する本件訂正発明2~6についても同様である。また、製造方法に係る本件訂正発明7及び8についても、「p型クラッド層(ただし、前記p型クラッド層がp型不純物およびn型不純物の双方を含むコドープ領域層を有する場合を除く)」との特定事項を有しているから、同様である。
そして、甲1には、比較例に係る甲1発明E及びFについての記載を除き、コドープ領域層を設けることに係る発明が記載されているから、甲1の他の記載をみても、上記判断が左右されることはない。甲2~7に記載された技術的事項をみても同様である。
よって、本件訂正発明1~8は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
3 まとめ
上記2によれば、本件訂正発明1~8についての特許は、第1次取消理由及び第2次取消理由によって、取り消すことができないものである。
第7 むすび
以上によれば、本件訂正発明1~8についての特許は、第1次~第3次取消理由通知書に係る取消理由(特許異議申立理由)のいずれによっても取り消すことはできない。
そして、他に本件訂正発明1~8についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700691