特許異議申立
2021-700962
電極材及び蓄電デバイス
- 審判番号
- 2021-700962
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-104332
- 登録番号
- 6856448
- 請求日
- 2021年10月07日
- 審決日
- 2022年06月30日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
- 【異議申立人】宮川 貴浩
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 畑中 博幸
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1652.113-YAA(H01G) / P1652.121-YAA(H01G) / P1652.536-YAA(H01G) / P1652.537-YAA(H01G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6856448号発明「電極材及び蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6856448号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について」)訂正することを認める。
特許第6856448号の請求項1、2、5、6、9に係る特許を維持する。
特許第6856448号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6856448号の請求項1ないし9に係る発明についての出願は、平成29年5月26日に出願され、令和3年3月22日にその特許権が設定登録され、令和3年4月7日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 3年10月 7日 :特許異議申立人宮川 貴浩による請求項1ないし3、5、6、9に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 4年 1月25日付け:取消理由通知
令和 4年 3月17日 :特許権者による訂正請求書・意見書の提出
なお、特許異議申立人に対して令和4年4月19日付けで訂正請求があった旨の通知をしたが、特許異議申立人から何ら応答がなされなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の趣旨及び内容
令和4年3月17日付けの訂正請求の趣旨は、特許第6856448号の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし9について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「グラフェン積層構造を有する炭素材料」とあるのを、「部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛」に訂正する。
また、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4ないし7、9も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度が300℃以上、650℃以下」とあるのを、「昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度が300℃以上、630℃以下」に訂正する。
また、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4ないし7、9も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか1項に記載の電極材。」とあるのを、「請求項1又は2に記載の電極材。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか1項に記載の電極材。」とあるのを、「請求項1~2及び4のいずれか1項に記載の電極材。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか1項に記載の電極材。」とあるのを、「請求項1~2及び4~5のいずれか1項に記載の電極材。」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか1項に記載の電極材。」とあるのを、「請求項1~2及び4~6のいずれか1項に記載の電極材。」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1~8のいずれか1項に記載の電極材を備える、」とあるのを、「請求項1~2及び4~7のいずれか1項に記載の電極材を備える、」に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0098】に
「(実施例2~4)
グラフェン積層構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)と微粒子との重量比(炭素材料:微粒子)を下記の表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、複合体を得た。」とあるのを、
「(実施例2、参考例および実施例4)
グラフェン積層構造を有する炭素材料(部分剥離型薄片化黒鉛)と微粒子との重量比(炭素材料:微粒子)を下記の表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、複合体を得た。」に訂正する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0118】に
「(評価)
実施例1~7及び比較例1~9で得られた複合体について以下の評価を行った。」とあるのを、
「(評価)
実施例1~2、参考例、実施例4~7及び比較例1~9で得られた複合体について以下の評価を行った。」に訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0139】の【表1】の第1行に「実施例3」とあるのを、「参考例」に訂正する。
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1ないし9について、請求項2ないし9は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正前の請求項1ないし9に対応する本件訂正後の請求項1ないし9は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「複合体」に含まれる「グラフェン積層構造を有する炭素材料」を「部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許の願書に添付した明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)の段落【0044】に「グラフェン積層構造を有する炭素材料としては、・・・。より好ましくは、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛である。」と記載され、同段落【0094】ないし【0106】、及び表1には、「複合体」の「炭素材料」として「部分剥離型薄片化黒鉛」を使用した実施例が記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
イ 訂正事項2について
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、請求項8を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は上記(ア)のとおり、請求項8を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項1における「昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度」の数値範囲を「300℃以上、650℃以下」から「300℃以上、630℃以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
本件特許の願書に添付した明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)の段落【0031】には、「本発明において、上記複合体の最高分解ピーク温度Tmaxは、好ましくは630℃以下、・・・である。・・・。また、上記複合体の最高分解ピーク温度Tmaxは、好ましくは、300℃以上である。」と記載されている。
したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項3は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
エ 訂正事項4について
(ア)訂正の目的
訂正事項4は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項4は上記(ア)のとおり、請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項2は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
オ 訂正事項5について
(ア)訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項4が請求項1乃至3のいずれか1項を引用するものであったものを、訂正事項4に応じて請求項3の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項5は上記(ア)のとおり、引用する請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項5は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
カ 訂正事項6について
(ア)訂正の目的
訂正事項6は、訂正前の請求項5が請求項1乃至4のいずれか1項を引用するものであったものを、訂正事項4に応じて請求項3の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項6は上記(ア)のとおり、引用する請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項6は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
キ 訂正事項7について
(ア)訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項6が請求項1乃至5のいずれか1項を引用するものであったものを、訂正事項4に応じて請求項3の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項7は上記(ア)のとおり、引用する請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項7は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ク 訂正事項8について
(ア)訂正の目的
訂正事項8は、訂正前の請求項7が請求項1乃至6のいずれか1項を引用するものであったものを、訂正事項4に応じて請求項3の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項8は上記(ア)のとおり、引用する請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項8は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ケ 訂正事項9について
(ア)訂正の目的
訂正事項9は、訂正前の請求項9が請求項1乃至8のいずれか1項を引用するものであったものを、訂正事項2及び訂正事項4に応じて請求項3の引用及び請求項8の引用を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
(イ)新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項9は上記(ア)のとおり、引用する請求項を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項9は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
コ 訂正事項10ないし12について
訂正事項10ないし12は、訂正事項3に係る訂正により、請求項1の「昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度」の数値範囲が「300℃以上、650℃以下」から「300℃以上、630℃以下」に限定されたことから、本件特許明細書の段落【0098】、【0118】及び【0139】の【表1】に記載された「細孔分解ピーク温度Tmax」が「632℃」である「実施例3」を「参考例」と訂正するものであって、明細書の記載を特許請求の範囲の請求項1の記載と整合性を図るための訂正である。
してみると、訂正事項10ないし12は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
また、訂正事項10ないし12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもないことから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)独立特許要件について
ア 訂正事項1ないし9は、上記「(2)ア」ないし「(2)キ」で示したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし3、5、6、9について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1、2、5、6、9に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
イ また、訂正事項2は請求項8を削除するものであり、訂正事項4は請求項3を削除するものであるから、訂正後の請求項3、8に対して独立特許要件は課されない。
ウ 一方、訂正前の請求項4、7には特許異議の申立てがされておらず、また、請求項4、7に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり請求項の削除に該当するものではないから、訂正後の請求項4、7に係る発明について独立特許要件が課される。
しかし、後述するように請求項1に係る発明を拒絶する理由は見当たらないから、更に構成を付加した請求項4、7に係る発明も拒絶することはできない。
したがって、訂正後の請求項4、7に係る発明は、訂正の要件としての独立特許要件を満たしている。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲及び明細書を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下「本件発明1ないし9」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛と、微粒子との複合体を含み、
昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度が300℃以上、630℃以下にあり、
前記複合体の粒子径D10が、1μm以上、8μm以下である、電極材。
【請求項2】
前記複合体の粒子径D50が、5μm以上、50μm以下である、請求項1に記載の電極材。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
メチレンブルー吸着法により測定した前記複合体の比表面積が、1000m2/g以上である、請求項1又は2に記載の電極材。
【請求項5】
前記複合体中に含まれる前記微粒子の含有量が、1重量%以上、90重量%以下である、請求項1~2及び4のいずれか1項に記載の電極材。
【請求項6】
前記複合体中において、前記微粒子が、前記炭素材料に物理的又は化学的に吸着している、請求項1~2及び4~5のいずれか1項に記載の電極材。
【請求項7】
前記炭素材料の表面に、樹脂が化学結合している、請求項1~2及び4~6のいずれか1項に記載の電極材。
【請求項8】
(削除)
【請求項9】
請求項1~2及び4~7のいずれか1項に記載の電極材を備える、蓄電デバイス。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3、5、6、9に係る特許に対して、当審が令和4年1月25日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)
請求項1ないし3、5、6、9に係る発明は、下記引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1ないし3、5、6、9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
記
引用文献1:特開2010-114206公報(甲第3号証)
(2)取消理由2(特許報第36条第6項第1号)
本件発明1の「グラフェン積層構造を有する炭素材料」に関し、本件特許明細書の段落【0043】に「グラフェン積層構造を有する炭素材料;上記複合体は、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含んでいる。」、同【0044】に「グラフェン積層構造を有する炭素材料としては、特に限定されないが、好ましくは、黒鉛又は薄片化黒鉛である。より好ましくは、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛である。」とそれぞれ記載されている。
しかしながら、同段落【0094】ないし【0106】及び表1には、「グラフェン積層構造を有する炭素材料」として「部分剥離型薄片化黒鉛」を使用した複合体は記載されているものの、「部分剥離型薄片化黒鉛」以外の「黒鉛」を使用した複合体の実施例は何等記載されていない。
してみると、「部分剥離型薄片化黒鉛」以外の「グラフェン積層構造を有する炭素材料」を使用した複合体を含む電極材においても、「昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度が300℃以上、650℃以下にあり、前記複合体の粒子径D10が、1μm以上、8μm以下である」場合、本件特許明細書に記載された「蓄電デバイスの容量を高める」という課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているとはいえない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、本件発明2ないし本件発明3、本件発明5、本件発明6、本件発明9に係る発明も同様である。
したがって、請求項1ないし3、5、6、9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1ないし3、5、6、9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
2 引用文献の記載事項、引用発明
(1)引用文献1には、図面とともに、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した。
「【請求項1】
分散剤を含む水媒体中に、黒鉛、導電助剤及びバインダーを含有してなる電極被膜形成用塗料組成物を金属箔上に塗布し、加熱乾燥して被膜化させたリチウムイオンキャパシターの負極被膜であって、
前記導電助剤が少なくともケッチェンブラック、アセチレンブラック及び黒鉛のいずれかからなり、
前記負極被膜中の構成粒子の粒度分布は、D10粒子径が0.3μm以上、D50粒子径が0.5~15μmの範囲、D90粒子径が30μm以下であり、
前記負極被膜の比表面積が7~75m2/gの範囲であり、
前記負極被膜の表面粗さが0.1~1.5μmの範囲であることを特徴とするリチウムイオンキャパシターの負極被膜。」
「【0001】
本発明は、自動車用やクレーンなど、パワー用途に対応する単位体積あたりの高エネルギー密度と内部抵抗の低減による高出力密度のキャパシターに適するリチウムイオンキャパシターの負極被膜及び電極被膜形成用塗料組成物に関する。
(中略)
【0012】
前記課題を解決するために、本発明は、分散剤を含む水媒体中に、黒鉛、導電助剤及びバインダーを含有してなる電極被膜形成用塗料組成物を金属箔上に塗工法で塗布した後、60~180℃の加熱温度で被膜化させたリチウムイオンキャパシターの負極被膜であって、
前記導電助剤が少なくともケッチェンブラック、アセチレンブラック及び黒鉛のいずれかからなり、
前記負極被膜中の構成粒子の粒度分布は、D10粒子径が0.3μm以上、D50粒子径が0.5~15μmの範囲で、D90粒子径が30μm以下であり、
前記負極被膜の比表面積が7~75m2/gの範囲であり、
負極被膜の表面粗さが0.1~1.5μmの範囲であることを特徴とするリチウムイオンキャパシターの負極被膜とする。
ここで「前記負極被膜中の構成粒子」は、前記負極被膜を主に構成する粒状配合材である黒鉛及び導電助剤を含む粒子を言い、負極被膜を構成する粒子を微細化することにより、リチウムイオンの拡散抵抗が低減し内部抵抗の低減、すなわち、出力の向上に寄与する。また、電被膜形成用ペースト(塗料組成物)の塗工性が被膜の平滑さと密度に影響を及ぼし、被膜の平滑さが優れた負極被膜を形成するために重要な要件となる。
(中略)
【0019】
本発明のリチウムイオンキャパシターの負極被膜を前記のように構成したことにより、リチウムイオンキャパシターの容量向上、出力向上、コスト低減が可能となった。また、負極被膜を構成する活物質材は、黒鉛の微粒子化による粒径と構造の最適化が重要であることから、係る黒鉛の構造を規定することによって最適で安定した品質の負極被膜が得られる。その他の配合材である導電助剤、水溶性分散剤及び水系バインダーの最適配合で高品位なリチウムイオンキャパシター用負極被膜が得られる。更に、本発明に係る負極被膜形成用ペーストは水媒体品であるため作業環境が良くなり、製造コストの低減にも寄与する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
この発明の第一の特徴は、主に黒鉛及び導電助剤から構成されるリチウムイオンキャパシターの負極被膜において、負極被膜中の構成粒子の粒度分布は、D10粒子径が0.3μm以上、D50粒子径が0.5~15μmの範囲で、D90粒子径が30μm以下で、負極被膜の比表面積が7~75m2/gの範囲で、負極被膜の表面粗さが0.1~1.5μmの範囲とする。負極被膜中の粒度分布は、走査型電子顕微鏡(SEM)による被膜断面を観察する方法により行う。また、事前に負極被膜形成用ペーストを試料対象にして、レーザー回折式粒度分布測定によって粒度分布を特定することが可能であり、係る測定によって特定された粒度分布も本発明の構成粒子の粒度分布として含まれる。
【0021】
10%体積累積径のD10粒子径、すなわち構成粒子の粒子径下限に近い方の値は0.3μm以上、好ましくは0.4μm以上である。D10粒子径が0.3μm未満では、黒鉛の結晶性が低下し、容量が大きく低下することから好ましくない。換言すれば、0.3μm未満の体積基準粒子量は負極被膜中に10%未満とすることが好ましい。
【0022】
いわゆる平均粒子径であるD50粒子径(50%体積累積径)は、0.5~15μmの範囲、好ましくは1~7μmの範囲、特に好ましくは1.5~5μmの範囲である。D50粒子径が0.5μm未満では微粒子が多くなるため、粒子間の接触抵抗が大きくなり、負極被膜の電気抵抗値が上昇するので好ましくない。一方、負極被膜構成粒子の平均粒子径が15μmを越えると粒子径が大きすぎるためにリチウムイオンの細孔内拡散抵抗が高くなり目標とする内部抵抗の電極を得ることが困難となる。
(中略)
【0027】
以上よりペースト粒度をD10粒径が0.3μm以上、D50粒径が0.5~15μm、D90粒径が30μm以下に規定することは、塗工性能向上、塗膜特性向上、電極特性向上のために重要である。また、黒鉛を用いたリチウムイオンキャパシターの負極被膜としての容量や出力(内部抵抗)を最適化する上で、負極被膜構成粒子の粒度分布と負極被膜の比表面積及び表面粗さが重要である。
(中略)
【0036】
さらに、分散剤が、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩又はアンモニウム塩であり、またバインダーが、スチレンブタジエン系エラストマー又はアクリル系エラストマーのいずれかのエマルションであることも有効である。カルボキシメチルセルロースとしては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩やカルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩が代表的である。本発明においては、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩又はアンモニウム塩を用いる。特に、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を用いた場合は、黒鉛や導電助剤の分散安定性がよく、ペースト(塗料組成物)が一部乾燥しても、水への再溶解性が良く、塗工前の攪拌により未溶解物の無い塗料が作製できる。
【0037】
バインダーとしては(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系エラストマー、スチレン・ブタジエン共重合体などのスチレンブタジエン系エラストマー、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、ポリブタジエンなどが使用できる。バインダーはそれぞれ単体で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらを調整することにより、塗布・被膜化後の塗膜密度の向上、膜構造の最適化が可能となり、容量の向上、内部抵抗の低減が達成できる。さらに、黒鉛粒子を微細化したことにより、塗工時の塗布ムラなどの欠陥が改善でき、歩留まり向上に寄与できる。なお、水系のペーストによりペースト製造時、塗工時の作業環境及び安全性に優れ、また導電助剤、分散剤、バインダーの最適化により、低抵抗で密着性の良い被膜が得られる。
(中略)
【0039】
以下に、この発明の実施例について説明するが、この発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(塗料及び試料の調整)
カルボキシメチルセルロース(CMC)を純水に溶解した水溶液中に粒子径、比表面積、構造の異なる黒鉛粒子と、導電助剤としてケッチェンブラック、アセチレンブラック又は黒鉛を配合してボールミルで3時間分散させた。その後アクリル系エマルジョン又はSBR系エマルジョンを所定量配合し30分間攪拌した。検討に用いた配合を表1及び表2に示す。
(中略)
【0049】
【表1】
[図:0001389392000001.jpg]
【0050】
実施例は分散剤を含む水媒体中に、黒鉛、導電助剤及びバインダーを含有してなる電極被膜形成用ペーストを用いた例である。容量の向上と内部抵抗の低減のためには黒鉛の適性構造と導電助剤の組合わせが重要である。実施例は、黒鉛の物性を比表面積12~150m2/g、ラマン分光分析のR値0.25~0.70、W値17~30と変化させて検討した結果を示す。」
(2)引用文献1の上記記載事項により、次のことがいえる。
ア 段落【0012】、【0050】によれば、引用文献1には、分散剤を含む水媒体中に、黒鉛、導電助剤及びバインダーを含有してなる電極被膜形成用ペーストが記載されている。
また、段落【0036】、【0037】、【0039】によれば、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩を純水に溶解した水溶液中に黒鉛粒子と、導電助剤としてアセチレンブラックを配合してボールミルで3時間分散させた後、バインダーとしてアクリル系エラストマーを配合し30分間攪拌した電極被膜形成用ペーストを調整することが記載されている。
イ 表1によれば、実施例4の電極被膜形成用ペーストのD10粒子径が4.0μm、D50粒子径が15μmであることが見て取れる。また、表1によれば、実施例4の黒鉛の配合量が88.5、アセチレンブラックの配合量が4.5であることが見て取れる。
ウ 段落【0012】の『「前記負極被膜中の構成粒子」は、前記負極被膜を主に構成する粒状配合材である黒鉛及び導電助剤を含む粒子を言い、負極被膜を構成する粒子を微細化する』との記載からすれば、実施例4における導電助剤は「微粒子」であるといえる。
(3)よって、引用文献1において本件発明1との対比に最も適したものと認められる実施例4に着目すると、上記アないしウから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩を純水に溶解した水溶液中に黒鉛粒子と、導電助剤としてアセチレンブラックを配合してボールミルで3時間分散させた後、バインダーとしてアクリル系エラストマーを配合し30分間攪拌して調整された電極被膜形成用ペーストにおいて、
電極被膜形成用ペーストのD10粒子径が4.0μm、D50粒子径が15μmであり、
黒鉛の配合量が88.5、アセチレンブラックの配合量が4.5であり、
導電助剤は微粒子である、電極被膜形成用ペースト。」
3 当審の判断
本件訂正により、訂正前の請求項3は削除されたため、訂正後の請求項1、2、5、6、9について判断する。
(1)取消理由1(特許法第29条第1項第3号)について
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「導電助剤」は、「微粒子」であるから、本件発明1の「微粒子」に相当する。
また、引用発明の「電極被膜形成用ペースト」は、「カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩を純水に溶解した水溶液中に黒鉛粒子」と「導電助剤」と「バインダー」とを配合し調整されたものであるから、「複合体」といえる。
よって、引用発明の「黒鉛粒子」と「導電助剤」を配合する「電極被膜形成用ペースト」と本件発明1とは、「黒鉛と、微粒子との複合体」である点で共通する。
ただし、黒鉛に関し、本件発明1は「部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛」であるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
(イ)本件発明1は「昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度が300℃以上、630℃以下にあ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
(ウ)引用発明の「電極被膜形成用ペーストのD10粒子径」は本件発明1の「複合体の粒子径D10」に相当し、引用発明の「電極被膜形成用ペーストのD10粒子径」は「4.0μm」であるから、本件発明1の「複合体の粒子径D10が、1μm以上、8μm以下」の範囲に含まれる。
(エ)引用発明において、「電極被膜形成用ペースト」は、電極を形成するための材料であるから、本件発明1の「電極材」に相当する。
以上、上記(ア)ないし(エ)によれば、本件発明1と引用発明とは、以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「黒鉛と、微粒子との複合体を含み、
前記複合体の粒子径D10が、1μm以上、8μm以下である、電極材。」
(相違点1)
黒鉛に関し、本件発明1は「部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛」であるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
(相違点2)
本件発明1は「昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度が300℃以上、630℃以下にあ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
したがって、本件発明1と引用発明とは相違点1及び相違点2を有するので、本件発明1は引用文献1(甲第3号証)に記載された発明ではない。
イ 本件発明2、5、6、9について
本件発明2、5、6、9は本件発明1を引用し、本件発明1の上記相違点1及び相違点2に係る構成を備えるものであるから、上記「ア」と同じ理由により、本件発明2、5、6、9は引用文献1に記載された発明ではない。
ウ まとめ
したがって、請求項1、2、5、6、9に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項1、2、5、6、9に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでない。
(2)取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
本件訂正により、請求項1に記載された「グラフェン積層構造を有する炭素材料」が「部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛」に限定された。
そして、本件特許明細書の段落【0044】に「グラフェン積層構造を有する炭素材料としては、・・・。より好ましくは、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛である。」と記載され、同段落【0094】ないし【0106】及び表1には、「部分剥離型薄片化黒鉛」と「微粒子」との「複合体」を含む実施例1、2及び4ないし7が記載されている。
よって、請求項1に係る発明、及び、請求項1を引用する請求項2、5、6、9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
したがって、本件の請求項1、2、5、6、9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1 訂正前の請求項1ないし3、5、6、9に係る特許に対する特許異議申立理由の概要
(1)申立理由1(特許法第36条第4項第1号)
ア 本件特許明細書には、複合体のピーク温度が、なぜ複合体を構成する炭素素材及び微粒子のピーク温度よりも低くなるのかについて記載がない。
イ また、本件特許発明の黒鉛の種類及び微粒子の種類について限定していないため、ピーク温度が932℃の黒鉛(甲第1号証「Table3」の「Sample12」を参照)と、ピーク温度が黒鉛に近い又はそれ以上(例えば、1000℃以上)の微粒子を用いてもよいはずであるが、このような場合に、複合体のピーク温度が300℃近く低下するとは到底考えられない。
ウ そして、甲第2号証に記載された「部分剥離型薄片化黒鉛」の示差熱解析におけるピーク温度は700℃ないし750℃であり(甲第2号証図4ないし図6を参照)、本件特許発明の実施例では632℃以下に下がっている。しかし、甲第2号証の「部分剥離型薄片化黒鉛」に微粒子を吸着させるだけで複合体のピーク温度が下がるとは到底考えられない。
エ さらに、本件特許発明では、微粒子の材質、粒径、吸着方法、混合割合などが一切特定されていないにもかかわらず、複合体になるとすべての微粒子についてピーク温度が下がるとは考えられない。
したがって、本件特許発明1ない3、5、6、9は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反し、特許を受けることができないものである。(7頁11行ないし10頁16行)
(2)申立理由2(特許法第36条第6項第1号)
本件特許発明1には、「ピーク温度が300℃以上、650℃以下」との記載があり、本件特許発明3には、「ピーク温度が630℃以下」との記載がある。
しかし、実施例のピーク温度は、572℃から632℃の範囲しかないので(本件特許明細書段落0139の表1参照)、ピーク温度の上限を650℃又は630℃にする臨界的意義の記載や650℃又は630℃の前後における効果の顕著な差異の記載が存在しない。また、ピーク温度が300℃~572℃の間においても容量が高められていることは記載がなく、ピーク温度の下限を300℃にする臨界的意義の記載や300℃の前後における効果の顕著な差異の記載が存在しない。
よって、ピーク温度の下限を300℃にし、上限を650℃又は630℃にする意義について発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。したがって、本件特許発明1ないし3、5、6、9は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反し、特許を受けることができないものである。(11頁21行ないし12頁10行)
(3)申立理由3(特許法第29条第2項)
請求項1ないし3、5、6、9に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された技術事項及び甲第5号証に記載された技術事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3、5、6、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 提出された証拠
異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証:木村 賢二、甲田 政則、倉嶋 直樹著、「天然黒鉛と人造黒鉛の識別法についての検討」、関税中央分析所報、第54号、2014年9月、65頁ないし71頁
甲第2号証:国際公開第2014/034156号
甲第3号証:特開2010-114206号公報
甲第4号証:特開2015-164889号公報
甲第5号証:再公表特許国際公開第2015/053200号
なお、異議申立書には甲第2号証として「再公表2014/034156号公報」と記載されているが、異議申立書に添付された甲第2号証は「国際公開第2014/034156号」であるため、当審では甲第2号証を「国際公開第2014/034156号」として判断をした。
3 当審の判断
本件訂正により、訂正前の請求項3は削除されたため、訂正後の請求項1、2、5、6、9について判断する。
(1)申立理由1(特許法第36条第4項第1号)について
ア 本件特許明細書の段落【0094】ないし【0106】には、「部分剥離型薄片化黒鉛」と「微粒子」との「複合体」である実施例1、実施例2、実施例4ないし実施例7が記載されている。
そして、同段落【0119】ないし【0121】及び表1によれば、複合体の「粒子径D10」及び10℃/分で昇温させ熱分析測定を行い得られた「最高分解ピーク温度Tmax」が、「実施例1」では2.71μm及び581℃、「実施例2」では4.87μm及び599℃、「実施例4」では4.39μm及び589℃、「実施例5」では3.78μm及び581℃、「実施例6」では3.02μm及び587℃、「実施例7」では7.53μm及び572℃であることも記載されている。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。
また、本件発明2、5、6、9についても同様である。
イ 次に、特許異議申立人の主張に関して以下に検討する。
(ア)上記「1(1)ア」について
仮に、本件特許明細書に記載された「複合体」のピーク温度が、「複合体」を構成する「部分剥離型薄片化黒鉛」及び「微粒子」のピーク温度より低いとしても、上記アで述べたように、本件特許明細書には当業者が本件発明1を実施できることを裏付ける実施例が記載されているから、「複合体」のピーク温度が、「炭素材料及び微粒子」のピーク温度よりも低くなる理由まで本件明細書に記載する必要性はない。
(イ)上記「1(1)イ」について
本件発明1は「部分剥離型薄片化黒鉛」と所定の「微粒子」(本件特許明細書段落【0066】、【0067】を参照)との「複合体」の発熱ピークのピーク温度が300℃以上、630℃以下に入ることを規定したものであって、ピーク温度が932℃の黒鉛とピーク温度が黒鉛に近い又はそれ以上の微粒子を用いた場合に、複合体のピーク温度が300℃近くとなるものを規定するものではない。
そして、たとえピーク温度が932℃の黒鉛とピーク温度が黒鉛に近い又はそれ以上の微粒子を用いた複合体のピーク温度が300℃近くとなる実施例が記載されていないとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明(段落【0094】ないし【0106】及び表1参照)には、「部分剥離型薄片化黒鉛」と「微粒子」との「複合体」の発熱ピークのピーク温度が300℃以上、630℃以下の範囲に含まれる実施例が記載されているから、本件発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。
(ウ)上記「1(1)ウ」について
甲第2号証(国際公開第2014/034156号)は、本件特許明細書の段落【0048】に「このような部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、国際公開第2014/034156号に記載の薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法と同様の方法で製造することができる」として掲載されているものであるところ、甲第2号証自体には「部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛」は明記されておらず、また、甲第2号証に示された図4ないし図6は、甲第2号証の実施例1ないし3の「黒鉛が剥離した薄片化黒鉛・樹脂複合材料」のピーク温度が700~750℃であることを示す図に過ぎない。
また、仮に、本願特許明細書に記載された「部分剥離型薄片化黒鉛」のピーク温度が700℃ないし750℃であったとしても、上記アで述べたように、本件特許明細書には、「部分剥離型薄片化黒鉛」と「微粒子」との「複合体」である実施例1、2、4ないし7の最高分解ピーク温度Tmaxは、それぞれ581℃、599℃、589℃、581℃、587℃、572℃であることから、各実施例の「複合体」のピーク温度は低下しているといえる。
さらに、「甲第2号証の「部分剥離型薄片化黒鉛」に微粒子を吸着させるだけで複合体のピーク温度が下がるとは到底考えられない。」と主張するには、本件特許明細書に記載された実施例を構成する材料では、「複合体」のピーク温度が300℃以上、630℃以下に入らないことを示す必要があるが、特許異議申立人は何等実証していない。
(エ)上記「1(1)エ」について
本件発明1に含まれ得るすべての微粒子を使用した実施例が記載されていないとしても、上記(イ)で述べたように、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「複合体」の発熱ピークのピーク温度が300℃以上、630℃以下の範囲に含まれる多数の実施例が記載されているから、本件発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。
(オ)小括
以上から、特許異議申立人の主張は採用できない。
ウ したがって、本件の請求項1、2、5、6、9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものではない。
(2)申立理由2(特許法第36条第6項第1号)について
ア 本件特許明細書の段落【0005】ないし【0006】によれば、本件発明は、蓄電デバイスの容量を高めることができる電極材を提供するという課題を解決するためになされたものである。
ここで、本件特許明細書の段落【0031】には、複合体のピーク温度を「630℃以下」とすることにより、複合体の比表面積をより一層大きくすることができ、蓄電デバイスの容量をより一層高めることができること、また、上記複合体のピーク温度を「300℃以上」とすることにより、電極の塗工プロセスにおいて、電極の成形や乾燥をより一層安定に実施することができることが記載されている。
そして、同段落【0135】及び表1によれば、「実施例1」、「実施例2」、「実施例4」ないし「実施例7」の複合体を用いて作製された各セルの静電容量が「○:25F/g以上、35F/g未満」以上の評価が得られたことも示されている。
してみれば、本件発明1が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとは認められない。また、本件発明2、5、6、9も同様である。
イ 次に、特許異議申立人の主張に関して検討すると、異議申立人はピーク温度の上限を630℃、下限を300℃にする臨界的意義、及び、ピーク温度630℃、300℃の前後における効果の顕著な差異が記載されていないことを主張するものの、上述のように、段落【0031】には複合体のピーク温度を「630℃以下」「300℃以上」とする意義が示されており、また、同段落【0135】及び表1には、ピーク温度が「300℃以上」「630℃以下」に含まれる実施例の複合体を用いた作製されたセルは静電容量が高いという効果が得られたことが示されているから、本件発明1は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。
よって、異議申立人の主張は採用できない。
ウ したがって、本件の請求項1、2、5、6、9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。
(3)申立理由3(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1について
(ア)甲第3号証の記載事項、甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の記載事項、甲第3号証に記載された発明(以下、「甲3発明」という。)は、上記「第4 2」で述べた引用文献1の記載事項、引用発明と同じである。
(イ)対比
上記「第4 3(1)ア」で述べたとおり、本件発明1と甲3発明とは以下の点で一致ないし相違する。
(一致点)
「黒鉛と、微粒子との複合体を含み、
前記複合体の粒子径D10が、1μm以上、8μm以下である、電極材。」
(相違点1)
黒鉛に関し、本件発明1は「部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛」であるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
(相違点2)
本件発明は「昇温速度10℃/分で前記複合体の示差熱分析をしたときに得られる発熱ピークのうち、ピーク温度が最大となる発熱ピークのピーク温度が300℃以上、630℃以下にあ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
(ウ)判断
(相違点1)について
甲第4号証(段落【0213】【表6】を参照)には「ケッチェンブラックの燃焼温度が639℃である」との技術事項(以下、甲第4号証に記載された技術事項」という。)が、甲第5号証(段落【0127】、【0130】を参照)には「黒鉛からなるコア部と、アセチレンブラックを含むゲル形成性ポリマーからなるシェル部とを有するコア-シェル型電極材料、導電助剤であるアセチレンブラック、バインダーであるカルボキシメチルセルロース(CMC)、水、バインダーであるスチレンブタジエンゴム(SBR)を混合して得られた負極活物質スラリー」の技術事項(以下、「甲第5号証に記載された技術事項」という。)が、それぞれ記載されている。
しかしながら、甲第4号証及び甲第5号証のいずれの文献にも、異議の申立てされていない訂正前の請求項8の発明特定事項である「部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛」が記載されていない。また、甲第4号証は、本件特許明細書の段落【0048】に「このような部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、国際公開第2014/034156号に記載の薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法と同様の方法で製造することができる」として掲載された文献であるところ、「部分的にグラファイトが剥離されている構造」自体について明記されておらず、まして、「部分剥離型薄片化黒鉛と、微粒子との複合体」は全く記載されていない。
してみると、甲3発明に甲第4号証に記載された技術事項及び甲5第証に記載された技術事項を採用したとしても、相違点1に係る構成には至らない。
よって、相違点1に係る構成は、甲3発明、甲第4号証に記載された技術事項及び甲第5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(エ)小括
以上から、相違点2について検討するまでもなく、請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された技術事項及び甲第5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
イ 本件発明2、5、6、9について
本件発明2、5、6、9は本件発明1を引用し、本件発明1の相違点1及び相違点2に係る構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件発明2、5、6、9は甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された技術事項及び甲第5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
ウ まとめ
よって、本件発明1、2、5、6、9は、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された技術事項及び甲第5号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項に該当せず、本件発明1、2、5、6、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、5、6、9に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、2、5、6、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項3は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700962