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特許異議申立

2021-700933

放熱部品用銅合金板

審判番号
2021-700933
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-187847外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6850233
請求日
2021年09月29日
審決日
2021年12月28日
公報発行日
2022年05月27日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1652.121-Y (C22C) / P1652.536-Y (C22C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6850233号発明「放熱部品用銅合金板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6850233号の請求項1、3、5、7に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 16項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本件の特許第6850233号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成29年 9月28日(優先権主張 平成28年10月 5日)の出願であって、令和 3年 3月 9日にその特許権の設定登録がされ、同年 3月31日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1、3、5、7に係る特許について、令和 3年 9月29日に特許異議申立人である中川 賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

本件特許の請求項1、3、5、7に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、3、5、7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。

「【請求項1】
Fe,Ni,Coの1種又は2種以上とP:0.01~0.2質量%を含み、Fe,Ni,Coの合計含有量[Fe+Ni+Co]が0.2~2.3質量%であり、残部がCu及び不可避不純物からなり、Fe,Ni,Coの1種又は2種以上を含むリン化物が析出し、100MPa以上の0.2%耐力を有し、R/t≦2の曲げ(Rは曲げ半径、tは板厚)で圧延平行方向、直角方向共に割れが発生せず、850℃で測定した0.2%耐力が10MPa以上であり、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間の時効処理をした後の0.2%耐力が100MPa以上、導電率が50%IACS以上であり、製造プロセスの一部に650℃以上に加熱するプロセスと時効処理が含まれる放熱部品の製造に用いられることを特徴とする放熱部品用銅合金板。
【請求項3】
FeとCoの1種又は2種とP:0.01~0.2質量%を含み、FeとCoの合計含有量[Fe+Co]が0.2~2.3質量%であり、残部がCu及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載された放熱部品用銅合金板。
【請求項5】
Mg,Al,Si,Cr,Ti,Zr,Zn,Sn,Mnの1種又は2種以上を合計で0.01~0.3質量%含むことを特徴とする請求項1,3,4のいずれかに記載された放熱部品用銅合金板。
【請求項7】
850℃で30分加熱後の平均結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする請求項2~6のいずれかに記載された放熱部品用銅合金板。」

第3 申立理由の概要

申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証~甲第3号証(以下、単に「甲1」~「甲3」という。)を提出し、以下の理由により、本件請求項1、3、5、7に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

1 申立理由1-1(進歩性)

本件発明1、3、5、7は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1、3、5、7に係る特許は、同法第113号第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 申立理由1-2(進歩性)

本件発明1、3、5、7は、甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1、3、5、7に係る特許は、同法第113号第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 申立理由2(実施可能要件)

本件発明1、3、5、7について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、本件発明1、3、5、7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2014-189816号公報
甲第2号証:宮藤元久 外1名、「Cu-Fe実用合金におけるFe量の析出硬化に及ぼす影響」、伸銅技術研究会誌(1997)36巻、一般社団法人日本伸銅協会、1997年 pp.81-86

<URL:https://www.copper-brass.gr.jp/db_access/kaishi/search_view.php?lb=036081>

<URL:https://www.copper-brass.gr.jp/data/file/kaishi/036081.pdf>

甲第3号証:特開2014-33104号公報

第4 甲1~3の記載事項

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1 甲1の記載事項

甲1には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付した。「…」は、省略を表す。以下、同様。)

「【請求項1】
0.01~0.5質量%のFeを含有し、さらにPを含有し、このPの質量%濃度(%P)に対するFeの質量%濃度(%Fe)の割合(%Fe/%P)を1.0~6.0とし、残部が銅および不可避的不純物から成り、65%IACS以上の導電率、および400MPa以上の0.2%耐力を有し、かつ、0.2%耐力σ(MPa)と伸びL(%)とが、σ/L≦150の関係を満たす銅合金板。」
「【請求項3】
W曲げ試験における圧延平行方向(GW方向)および圧延直角方向(BW方向)の最小曲げ半径(MBR)の、板厚(t)に対する割合が、MBR/t≦2.0で与えられる請求項1または2に記載の銅合金板。」
「【請求項5】
0.5質量%以下のSnをさらに含有する請求項1~4の何れか1項に記載の銅合金板。
【請求項6】
1.0質量%以下のZnをさらに含有する請求項1~5の何れか1項に記載の銅合金板。
【請求項7】
Ag、Co、Ni、Cr、Mn、Mg、SiおよびBからなる群から選ばれる一種以上の元素を2質量%以下でさらに含有する請求項1~6の何れか1項に記載の銅合金板。」
「【0001】
本発明は、放熱性、導電性、絞り加工性および曲げ加工性に優れる銅合金に関し、詳細には端子、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、リードフレームなどの電子部品用途、特に、スマートフォンやパソコンなどに用いられる放熱性部品および高電流部品の用途に好適な銅合金に関する。」
「【0004】
これに対し、銅合金のなかでもCu-Fe-P系合金は、熱伝導性と比例関係にあることが知られている導電率が比較的高く、しかも所要の強度を有するとともに、安価に製造できることから、特に、例えばJIS合金番号C1921(Cu-0.1質量%Fe-0.03質量%P)、C1940(Cu-2.4質量%Fe-0.1質量%P-0.1質量%Zn)等が、上記のような電気・電子機器の放熱部品としての実用に供されている。Cu-Fe-P系合金の改良技術は、例えば特許文献1~5に開示されている。」
「【0008】
そこで、本発明は、高い強度および導電性ならびに、優れた絞り加工性および曲げ加工性を兼ね備えた銅合金板、それを備える放熱用電子部品および、銅合金板の製造方法を提供することを目的とし、具体的には、安価で導電性と強度に優れるCu-Fe-P系合金の絞り加工性を改善することを課題とする。
【0009】
本発明者は、Cu-Fe-P系合金において、伸びを指標に金属組織を調整すること、圧延面に配向する結晶粒の方位を制御することにより、絞り加工性および曲げ加工性が向上することを見出した。そして、以上の知見を背景に、以下の発明を完成させた。
本発明の銅合金板は、0.01~0.5質量%のFeを含有し、さらにPを含有し、このPの質量%濃度(%P)に対するFeの質量%濃度(%Fe)の割合(%Fe/%P)を1.0~6.0とし、残部が銅および不可避的不純物から成り、65%IACS以上の導電率、および400MPa以上の0.2%耐力を有し、かつ、0.2%耐力σ(MPa)と伸びL(%)とが、σ/L≦150の関係を満たすものである。」
「【0014】
本発明によれば、高強度、高導電性および優れた絞り加工性を兼ね備えた銅合金板、それを備える放熱用電子部品および、銅合金板の製造方法を提供することが可能である。この銅合金板は、端子、コネクタ、スイッチ、ソケット、リレー、バスバー、リードフレーム等の電子部品の素材として好適に使用することができ、スマートフォンやパソコンなどに用いられる放熱性部品および高電流部品の用途に好適である。」
「【0017】
(合金成分濃度)
Fe濃度は0.01~0.5質量%とする。Feが0.5質量%を超えると、65%IACS以上の導電率を得ることが難しくなる。Feが0.01質量%未満になると、400MPa以上の0.2%耐力を得ることが難しくなる。上記の理由から、Fe濃度は、0.01~0.5質量%とすることが好ましく、さらには、0.05~0.5質量%とすることが好ましい。
【0018】
本発明の銅合金には、Feに加えPを添加する。Feの質量%濃度(%Fe)とPの質量%濃度(%P)との比(%Fe/%P)は1.0~6.0、好ましくは2.0~5.0に調整する。%Fe/%Pをこのように調整することで、より高い導電率が得られる。
より具体的には、P濃度は0.01~0.3質量%とすることが好ましい。Pには合金の製造プロセスにおいて、溶湯を脱酸する効果がある。また、Feと化合物を形成することにより、合金の導電率や強度を高める効果がある。」
「【0022】
(導電率)
本発明では、JIS H0505に準拠して測定した導電率を65%IACS以上とする。導電率が65%IASC以上であれば、熱伝導率が良好であり、良好な放熱性を確保できる。
【0023】
(0.2%耐力)
本発明では、銅合金板の0.2%耐力を400MPa以上とすることとし、これによれば、銅合金板が、構造材の素材として必要な強度を有しているといえる。」
「【0026】
(曲げ加工性)
幅10mm×長さ30mmの短冊状の試験片を作製し、W曲げ試験(JIS H3130)によって行った。試験片採取方向は、圧延平行方向(GW)および圧延直角方向(BW)とし、割れの発生しない最小曲げ半径MBR(Minimum Bend Radius)と板厚tの比MBR/tにて評価した。この最小曲げ半径(MBR)の割合(MBR/t)は、2.0以下とすることが、良好な曲げ性を確保するとの観点から好ましい。MBR/tのさらに好適な範囲は、1.8以下である。」
「【0030】
(製造方法)
純銅原料として電気銅等を溶解し、Fe、Pおよび必要に応じ他の合金元素を添加し、厚み30~300mm程度のインゴットに鋳造する。このインゴットを例えば800~1000℃の熱間圧延により厚み3~30mm程度の板とした後、冷間圧延と再結晶焼鈍とを繰り返し、最終の冷間圧延で所定の製品厚みに仕上げ、最後に歪取焼鈍を施す。最終冷間圧延後の伸びは、2%に満たないほど低いが、その後の歪取焼鈍により上昇する。
【0031】
続きを表示(全48行)
再結晶焼鈍では、圧延組織の一部または全てを再結晶化させる。また、適当な条件で焼鈍することにより、FeまたはFeとPとの化合物が析出し、合金の導電率が上昇する。
最終冷間圧延前の再結晶焼鈍では、銅合金板の平均結晶粒径を50μm以下に調整する。平均結晶粒径が大きすぎると、0.2%耐力を400MPa以上に調整することが難しくなる。
【0032】
最終冷間圧延前の再結晶焼鈍の条件は、目標とする焼鈍後の結晶粒径および目標とする製品の導電率に基づき決定する。具体的には、バッチ炉または連続焼鈍炉を用い、炉内温度を350~800℃として焼鈍を行えばよい。バッチ炉では350~600℃の炉内温度において30分から30時間の範囲で加熱時間を適宜調整すればよい。連続焼鈍炉では450~800℃の炉内温度において5秒から10分の範囲で加熱時間を適宜調整すればよい。一般的にはより低温でより長時間の条件で焼鈍を行うと、同じ結晶粒径でより高い導電率が得られる。
【0033】
最終冷間圧延では、一対の圧延ロール間に材料を繰り返し通過させ、目標の板厚に仕上げていく。ここでは、最終冷間圧延の総加工度と1パスあたりの加工度を制御する。
総加工度R(%)は、R=(t0?t)/t0×100(t0:最終冷間圧延前の板厚、t:最終冷間圧延後の板厚)で与えられる。また、1パスあたりの加工度r(%)とは、圧延ロールを1回通過したときの板厚減少率であり、r=(T0?T)/T0×100(T0:圧延ロール通過前の厚み、T:圧延ロール通過後の厚み)で与えられる。
【0034】
総加工度Rは40~99%、好ましくは45~98.5、より好ましくは50~98とする。総加工度Rが小さすぎると、0.2%耐力を400MPa以上に調整することが難しく、I{220}/I0{220}を4.0以上に調整するのが難しくなる。総加工度Rが大きすぎると、圧延材のエッジが割れることがある。
1パスあたりの加工度rは15%以上とする。加工度rが小さすぎるとI{220}/I0{220}が低下し、全パスの中に加工度rが15%未満のパスが一つでも含まれるとI{220}/I0{220}を4.0以上に調整することが難しくなる。加工度rの上限は特にないが、圧延による板厚公差の制御を考慮すると40%未満が望ましい。
【0035】
本発明の歪取焼鈍は、炉内で銅合金板を平板状に保持することができる連続焼鈍炉を用いて行う。バッチ炉の場合、コイル状に巻き取った状態で材料を加熱するため、加熱中に材料が塑性変形を起こし材料に反りが生じる。したがって、バッチ炉は本発明の歪取焼鈍に不適である。
【0036】
連続焼鈍炉において、炉内温度を300~700℃、好ましくは350~650℃とし、5秒から10分の範囲で加熱時間を適宜調整し、歪取焼鈍後の0.2%耐力(σ)を歪取焼鈍前の0.2%耐力(σ0)に対し10~50MPa低い値、好ましくは15~45MPa低い値に調整する。これにより、最終冷間圧延上がりにおいて低かった伸びが上昇するとともに、曲げ性が改善する。
【0037】
さらに、連続焼鈍炉内において材料に、たとえば圧延方向と平行な方向に張力を与え、ここで付加される張力を5MPa以下、好ましくは1~5MPa、より好ましくは2~4MPaに調整する。張力が大きすぎると、σ/Lを150以下に調整することが難しくなる。また、伸びの上昇が充分ではなくなる傾向にある。一方、張力が小さすぎると、焼鈍炉を通板中の材料が炉壁と接触し、材料の表面やエッジに傷が付くことがある。
【0038】
本発明の一の実施形態は、σ/L≦150なる特徴およびI{220}/I0{220}≧4.0なる特徴をCu-Fe-P系合金に付与することにより、絞り加工性および曲げ加工性を改善することを一つの特徴としているが、そのための製造条件を整理して示すと、
(1)σ/L≦150のためには、
a.歪取焼鈍において、(σ0-σ)=10~50MPaに調整する。
b.歪取焼鈍における炉内張力を5MPa以下に調整する。
(2)I{220}/I0{220}≧4.0のためには、
a.最終冷間圧延において、1パスあたりの加工度を15%以上に調整する。
b.最終冷間圧延の総加工度を40~99%にする。
【0039】
以上のようにして製造された銅合金板は、様々な板厚の伸銅品に加工されて、たとえば、スマートフォン、タブレットPCおよびパソコン等の電気・電子機器内の放熱用電子部品等として用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
溶銅に合金元素を添加した後、厚みが200mmのインゴットに鋳造した。インゴットを950℃で3時間加熱し、950℃で熱間圧延を行って厚み15mmの板にした。熱間圧延板表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去した後、焼鈍と冷間圧延を繰り返し、最終の冷間圧延で所定の製品厚みに仕上げた。最後に連続焼鈍炉を用い歪取焼鈍を行った。
【0041】
最終冷間圧延前の焼鈍(最終再結晶焼鈍)は、バッチ炉を用い、加熱時間を5時間とし炉内温度を300~700℃の範囲で調整し、焼鈍後の結晶粒径と導電率を変化させた。焼鈍後の結晶粒径の測定においては、圧延方向に直角な断面を鏡面研磨後に化学腐食し、切断法(JIS H0501(1999年))により平均結晶粒径を求めた。
【0042】
最終冷間圧延では、総加工度および1パスあたりの加工度を制御した。また、最終冷間圧延後の材料の0.2%耐力を求めた。
連続焼鈍炉を用いた歪取焼鈍では、炉内温度を500℃とし加熱時間を1秒から15分の間で調整し、焼鈍後の0.2%耐力を種々変化させた。また、炉内において材料に付加する張力を種々変化させた。なお、一部の材料については歪取焼鈍を省略した。
製造途中の材料および歪取焼鈍後の材料につき、次の測定を行った。
【0043】
(成分)
歪取焼鈍後の材料の合金元素濃度をICP-質量分析法で分析した。
【0044】
(0.2%耐力)
最終冷間圧延後および歪取焼鈍後の材料につき、JIS Z2241に規定する13B号試験片を引張方向が圧延方向と平行になるように採取し、JIS Z2241に準拠して圧延方向と平行に引張試験を行い、0.2%耐力を求めた。
【0045】
上述した主な条件を、発明例および比較例ごとに表1に示す。ここで、最終冷間圧延では複数のパスを実施したが、これら各パスの加工度の中での最小値を示してある。また、表1に示すところにおいて、最終再結晶焼鈍後の結晶粒径における「<10μm」の表記は、圧延組織の全てが再結晶化しその平均結晶粒径が10μm未満であった場合、および圧延組織の一部のみが再結晶化した場合の双方を含んでいる。」
「【0048】
(導電率)
歪取焼鈍後の材料から、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように試験片を採取し、JIS H0505に準拠し四端子法により20℃での導電率を測定した。」
「【0051】
(MBR/t)
JIS H3130に準拠して、曲げ軸が圧延方向と直角方向であるGW(Goodway)方向および、曲げ軸が圧延方向と同一方向であるBW(Badway)方向のそれぞれのW曲げ試験を行い、W字型の金型を用いて曲げ半径を変化させ、割れの発生しない最小曲げ半径(MBR)と厚さ(t)の比(MBR/t)を求めた。」
「【0053】
表1及び2に示すところから解かるように、発明例1~23では、Fe濃度を0.01~0.5質量%、P濃度に対するFe濃度の割合(%Fe/%P)を1.0~6.0に調整し、最終冷間圧延前の再結晶焼鈍において、結晶粒径を50μm以下に調整し、最終冷間圧延において、総加工度を40~99%に調整し、歪取焼鈍において、材料を連続焼鈍炉に張力1~5MPaで通板して0.2%耐力を10~50MPa低下させた。それにより、発明例1~23の銅合金板は、σ/L≦150なる関係が得られ、65%IACS以上の導電率、400MPa以上の0.2%耐力、MBR/t≦2.0のW曲げ性を達成できた。なお、発明例5、9では、最終冷間圧延における1パス当たりの加工度が15%未満であったため、I{220}/I0{220}が4.0を未満となり、また、エリクセン値/板厚が5未満となったが、1パス当たりのこの加工度を15%以上とした発明例1~4、6~8、10~23は、I{220}/I0{220}≧4.0の関係、および、エリクセン値/板厚≧0.5の関係を満たすものとなった。」
「【表1】
[図:0001384210000001.jpg]
」
「【表2】
[図:0001384210000002.jpg]
」

表1を拡大すると以下の記載がある。

「
[図:0001384210000003.jpg]
」
「
[図:0001384210000004.jpg]
」

表2を拡大すると以下の記載がある。

「
[図:0001384210000005.jpg]
」
「
[図:0001384210000006.jpg]
」

2 甲2の記載事項

甲2には、以下の記載がある。

(1)「固溶量を越える鉄を少なくすることによって溶解時間の短縮、鋳塊の中間温度脆性による割れ、未固溶鉄による板材のめっきむら、曲げ加工性の劣化および耐食性の劣化等を抑制できる。CDA194の代表組成の合金のリードフレーム材としての規格(T.S.=482~524N/mm2)伸び=8%以上を鉄含有量の少ない合金でも満足できる板条が得られることが判った。鉄含有量を1.2%~2.3%まで変化させてリードフレーム材としての主要特性を調査した。」(p.81左欄下から6行~p.82左欄1行)

(2)「2. 試料および試験方法
1.1 試料
Table 1に試料の化学成分をFig.1に試験材の加工工程を示す。No.1~4の試料は、Table 1の化学成分以外に5ppmMgおよび0.02%Crを含有する。
Table 1の合金を溶解鋳造後、鋳塊の一部を分割し、熱間加工性の試験に、残部は熱間圧延・熱処理・冷間圧延を行いさらに応力除去焼鈍を加えて0.25mmtの板材を調整し、供試した。これら試料の機械的性質をTable 2に示す。」(p.82左欄2~11行)
(3)「1.2.2 仕上げ板材の特性調査
厚さ50mmの鋳塊を980℃より15mmtまで熱間圧延後表面疵取り、冷間圧延、575℃30分→冷却途中で500℃で2hr保持後空冷の連続2段焼鈍後、加工率70%の冷間圧延により板厚0.25mmの材料を調整し、さらに歪み取り焼鈍後、機械的性質、Agめっき性および耐食性の試験を行った。」(p.82右欄5~11行)
(4)「(1) 最終試験片の仕上げ方法
得られた厚さ0.25mmの材料を引張試験JIS13号および幅10mm、長さ300mmの試験片に加工後、350~550℃にて5分間加熱し、機械的性質の変化を試験した。加熱は約100リッター容量の硝石炉に浸漬した。」(p.82右欄12~17行)
(5)「3.2 仕上げ板材の特性調査
(1) 機械的性質
Fig.1の加工工程で得られた0.25mmの特性をTable 2に示す。」(p.83左欄下から5~2行)
(6)「
[図:0001384210000007.jpg]
」(p.81右欄)
(7)「
[図:0001384210000008.jpg]
」(p.81右欄)
(8)「
[図:0001384210000009.jpg]
」(p.82上欄)

3 甲3の記載事項

甲3には、以下の記載がある。

「【0014】
〈第1の実施の形態〉
[第1の実施の形態に係る放熱部品の構造]
まず、第1の実施の形態に係る放熱部品の構造について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る放熱部品を例示する断面模式図である。図1を参照するに、放熱部品1は、基材10と、炭素材料含有層20とを有する。
【0015】
基材10は、熱伝導率が良好な金属から構成することが好ましく、具体的には、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、又はこれらの合金等を用いることができる。但し、基材10は、熱伝導率が良好な材料であれば、金属以外の材料から形成してもよい。」
「【0023】
放熱部品1は、例えば、ベーパーチャンバー、ヒートパイプ、ヒートスプレッダ、発光ダイオード(LED)の筺体等に適用することができる。つまり、放熱部品1の基材10は半導体素子等の発熱体に取り付けられ、半導体素子等の発する熱を基材10を介して炭素材料含有層20の表面に迅速に伝達する。」
「【0025】
基材10は、熱伝導率が良好な金属から構成することが好ましく、具体的には、例えば、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、又はこれらの合金等を用いることができる。但し、基材10は、熱伝導率が良好な材料であれば、金属以外の材料から形成してもよい。」

第5 当審の判断

以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、3、5、7に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1-1(進歩性)について

(1)甲1に記載された発明

甲1の特に【請求項1】、【請求項3】、【0008】、【0014】、【0030】~【0032】、【0035】~【0038】、【0040】-【0042】、【0053】、【表1】の発明例6、【表2】の発明例6を参照すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

高い強度および導電性ならびに、優れた絞り加工性および曲げ加工性を兼ね備え、放熱性部品および高電流部品の用途に好適である銅合金板であって、

成分がFe:0.30質量%、P:0.11質量%、残部が銅および不可避的不純物から成り、歪取焼鈍後の0.2%耐力が514MPaであり、割れの発生しない最小曲げ半径(MBR)と厚さ(t)の比であるMBR/tの値は曲げ軸が圧延方向と直角方向であるGW方向0.6、曲げ軸が圧延方向と同一方向であるBW方向0.8であり、

溶銅に合金元素を添加した後、厚みが200mmのインゴットに鋳造し、インゴットを950℃で3時間加熱し、950℃で熱間圧延を行って厚み15mmの板にし、熱間圧延板表面の酸化スケールをグラインダーで研削、除去した後、焼鈍と冷間圧延を繰り返し、最終の冷間圧延で所定の製品厚みに仕上げ、最後に連続焼鈍炉を用い歪取焼鈍を行って製造され、

最終冷間圧延前の焼鈍(最終再結晶焼鈍)は、バッチ炉を用い、加熱時間を5時間とし炉内温度を300~700℃の範囲で調整し、

最終冷間圧延では、総加工度および1パスあたりの加工度を制御し、

連続焼鈍炉を用いた歪取焼鈍では、炉内温度を500℃とし加熱時間を1秒から15分の間で調整し、炉内において材料に付加する張力を種々変化させており、

再結晶焼鈍では、適当な条件で焼鈍することにより、FeまたはFeとPとの化合物が析出し、

σ/L≦150なる特徴およびI{220}/I0{220}≧4.0なる特徴を付与することにより、絞り加工性および曲げ加工性を改善することを特徴として、そのための製造条件として、

(1)σ/L≦150のためには、

a.歪取焼鈍において、(σ0-σ)=10~50MPaに調整する。

b.歪取焼鈍における炉内張力を5MPa以下に調整する。

(2)I{220}/I0{220}≧4.0のためには、

a.最終冷間圧延において、1パスあたりの加工度を15%以上に調整する。

b.最終冷間圧延の総加工度を40~99%にする。

を満たす、銅合金板。(以下、「甲1発明」という。)

(2)本件発明1について

ア 甲1発明との対比

(ア)甲1発明の「銅合金板」は、放熱性部品の用途に好適なであるから、本件発明1の「放熱部品用銅合金板」に相当する。

(イ)甲1発明の「成分がFe:0.30質量%、P:0.11質量%、残部が銅および不可避的不純物から成」ることは、本件発明1の「Fe,Ni,Coの1種又は2種以上とP:0.01~0.2質量%を含み、Fe,Ni,Coの合計含有量[Fe+Ni+Co]が0.2~2.3質量%であり、残部がCu及び不可避不純物からな」ることに相当する。

(ウ)甲1発明の「再結晶焼鈍では、適当な条件で焼鈍することにより、FeまたはFeとPとの化合物が析出」することは、本件発明1の「Fe,Ni,Coの1種又は2種以上を含むリン化物が析出」することに相当する。

(エ)甲1発明の「歪取焼鈍後の0.2%耐力が514MPa」であることは、本件発明1の「100MPa以上の0.2%耐力を有」することに相当する。

(オ)甲1発明の「割れの発生しない最小曲げ半径(MBR)と厚さ(t)の比であるMBR/tの値は曲げ軸が圧延方向と直角方向であるGW方向0.6、曲げ軸が圧延方向と同一方向であるBW方向0.8」について、本件明細書等の【0029】に「同一材質の銅合金板であっても、曲げによる割れや肌荒れの発生しやすさは、曲げ半径Rと板厚tの比率R/tに依存する。銅合金板を用いてベーパーチャンバー等の放熱部品を製造する場合、銅合金板の曲げ加工性として、通常、圧延平行方向、直角方向共にR/t≦2の曲げを行った場合に割れが発生しないことが求められる。銅合金板の曲げ加工性として、R/t≦1.5の曲げで割れが発生しないことが好ましく、R/t≦1.0の曲げで割れが発生しないことがより好ましい。…銅合金板材を曲げ加工する場合、曲げ幅が大きいほど割れが発生しやすくなることから、特に曲げ幅が大きい場合には、板幅10mmの試験片で試験したとき、R/t=1.0の曲げで割れが発生しないことが好ましく、さらにR/t=0.5の曲げで割れが発生しないことが好ましい。」と記載されており、本件発明1の「R/t≦2の曲げで割れが発生しない」とは「曲げによって割れが発生しなかった2以下のR/tの値が存在する」と解されるところ、甲1発明においてもMBR/tの値がGW方向0.6、BW方向0.8であり、少なくとも曲げによって割れが発生しなかったR/tの値として、GW方向0.6、BW方向0.8という2以下の値が存在するから、甲1発明の「割れの発生しない最小曲げ半径(MBR)と厚さ(t)の比であるMBR/tの値は曲げ軸が圧延方向と直角方向であるGW方向0.6、曲げ軸が圧延方向と同一方向であるBW方向0.8」は、本件発明1の「R/t≦2の曲げ(Rは曲げ半径、tは板厚)で圧延平行方向、直角方向共に割れが発生」しないことに相当する。

(カ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、

「Fe,Ni,Coの1種又は2種以上とP:0.01~0.2質量%を含み、Fe,Ni,Coの合計含有量[Fe+Ni+Co]が0.2~2.3質量%であり、残部がCu及び不可避不純物からなり、Fe,Ni,Coの1種又は2種以上を含むリン化物が析出し、100MPa以上の0.2%耐力を有し、R/t≦2の曲げ(Rは曲げ半径、tは板厚)で圧延平行方向、直角方向共に割れが発生しない、放熱部品用銅合金板。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

本件発明1は、「850℃で測定した0.2%耐力が10MPa以上であり、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間の時効処理をした後の0.2%耐力が100MPa以上、導電率が50%IACS以上」

であるのに対し、甲1発明は、850℃で測定した0.2%耐力、並びに850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間の時効処理をした後の0.2%耐力及び導電率について特定されていない点。

<相違点2>

本件発明1は、「製造プロセスの一部に650℃以上に加熱するプロセスと時効処理が含まれる放熱部品の製造に用いられる」のに対し、甲1発明は、銅合金板が用いられる放熱部品の製造プロセスについてそのような特定がされていない点。

イ 相違点の検討

事案に鑑み、相違点1について検討する。

本件明細書等の【0041】~【0045】の記載によれば、本件明細書等の実施例における放熱部品用銅合金板の製造方法は、鋳塊を製作し、950℃に加熱して1時間保持後、厚さ16mmまで熱間圧延し、熱間圧延終了後直ちに水冷し、さらに850℃に加熱し、850℃到達後30分間保持した後、水焼き入れし、両面を各1mm面削し、冷間圧延し、さらに少なくとも500℃で2時間加熱する時効処理と冷間圧延を行い、硝石炉において350℃で30秒間加熱する歪み取り焼鈍を行うものである。

一方、甲1発明における銅合金板の製造方法は、インゴットを鋳造し、950℃で3時間加熱し、950℃で熱間圧延し。熱間圧延板表面を研削、除去し、最終冷間圧延前の最終再結晶焼鈍を含む焼鈍と冷間圧延を繰り返し、最終冷間圧延し、連続焼鈍炉を用い歪取焼鈍を行い、最終冷間圧延では、総加工度および1パスあたりの加工度を制御し、連続焼鈍炉を用いた歪取焼鈍では、炉内温度を500℃とし加熱時間を1秒から15分の間で調整し、炉内において材料に付加する張力を種々変化させて、さらにσ/L≦150なる特徴およびI{220}/I0{220}≧4.0なる特徴を付与することにより、絞り加工性および曲げ加工性を改善することを特徴として、そのための製造条件として、

(1)σ/L≦150のためには、

a.歪取焼鈍において、(σ0-σ)=10~50MPaに調整する。

b.歪取焼鈍における炉内張力を5MPa以下に調整する。

(2)I{220}/I0{220}≧4.0のためには、

a.最終冷間圧延において、1パスあたりの加工度を15%以上に調整する。

b.最終冷間圧延の総加工度を40~99%にする。

を満たすものである。

してみると、甲1発明は、銅合金板の製造方法において、少なくとも「熱間圧延終了後直ちに水冷し、さらに850℃に加熱し、850℃到達後30分間保持した後、水焼き入れ」する工程を有さず、また「絞り加工性および曲げ加工性を改善するために、最終冷間圧延において総加工度および1パスあたりの加工度を制御し、歪取焼鈍において炉内張力を調整する」工程を有する点で本件明細書等の実施例とは異なるものである。

また、甲1発明と本件明細書等の実施例とでは、銅合金板の組成、加熱前の0.2%耐力及び伸びの値が近似するものの、これらが完全に一致する実施例は存在しない。

そのため、同じ組成であっても熱処理の条件が異なれば、それによって得られる銅合金板の0.2%耐力は当然異なることは当業者にとって技術常識であることを勘案すれば、甲1発明と本件明細書等の実施例とで銅合金板の組成、加熱前の0.2%耐力及び伸びの値が完全には一致せず、また甲1発明と両者の製造方法は異なる以上、甲1発明が本件発明1の「850℃で測定した0.2%耐力が10MPa以上であり、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間の時効処理をした後の0.2%耐力が100MPa以上、導電率が50%IACS以上」という特性を直ちに満たすとはいえない。

また、そもそもベーパーチャンバー等の放熱部品の素材として、高温における強度(0.2%耐力値)が大きい材料(銅合金板)を提供することを目的としたものではない甲1発明において、相違点1に係る特定事項を備えるようとする動機付けがない。

さらに、甲3には相違点1に係る特定事項について記載も示唆もされていない。

ウ 小括

したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明3、5、7について

本件発明3に係る放熱部品用銅合金板は、本件発明1に係る放熱部品用銅合金板を更に技術的に特定するものである。また、本件発明5に係る放熱部品用銅合金板は、本件発明1または3を引用して、更に合金の組成を特定するものである。さらに、本件発明7に係る放熱部品用銅合金板は、本件発明1、3または5に係る放熱部品用銅合金板を更に技術的に特定するものである。そのため、上記(2)で検討したとおり、本件発明3、5、7と甲1発明とは少なくとも上記(2)アの相違点1で相違する。そして、相違点1の検討は上記(2)イに記載したとおりである。

したがって、本件発明3、5、7は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由1-1(進歩性)についての小括

以上のとおり、本件発明1、3、5、7は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、申立理由1-1(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3、5、7に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由1-2(進歩性)について

(1)甲2に記載された発明

甲2の摘記事項(1)~(8)並びにTable 1及びTable 2のAlloy No.1を参照すると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。

成分がFe:1.2質量%、P:0.03質量%、Zn:0.15質量%、残部がCuから成り、さらに5ppmMgおよび0.02%Crを含有する試料を溶解鋳造した鋳塊を980℃より15mmtまで熱間圧延後表面疵取り、冷間圧延、575℃30分→冷却途中で500℃で2hr保持後空冷の連続2段焼鈍後、加工率70%の冷間圧延により板厚0.25mmの材料を調整し、さらに歪み取り焼鈍後、機械的性質の試験を行い、

Yield Strength(降伏強さ)が351MPaであり、R/tの値はG.W.が0.5、B.W.が1.0である、

リードフレーム材として用いられる銅合金の板条。(以下、「甲2発明」という。)

(2)本件発明1について

ア 甲2発明との対比

(ア)甲2発明の「銅合金の板条」は、銅合金板という点で、本件発明1の「銅合金板」に相当する。

(イ)甲2発明の「成分がFe:1.2質量%、P:0.03質量%、Zn:0.15質量%、残部がCuから成り、さらに5ppmMgおよび0.02%Crを含有する」ことは、残部がCuを含む限りにおいて、本件発明1の「Fe,Ni,Coの1種又は2種以上とP:0.01~0.2質量%を含み、Fe,Ni,Coの合計含有量[Fe+Ni+Co]が0.2~2.3質量%であり、残部がCu及び不可避不純物からな」ることに相当する。

(ウ)甲2発明の「R/tの値はG.W.が0.5、B.W.が1.0である」ことは、上記1(2)ア(オ)で検討した事項を援用すれば、本件発明1の「R/t≦2の曲げ(Rは曲げ半径、tは板厚)で圧延平行方向、直角方向共に割れが発生」しないことに相当する。

(エ)以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、

「Fe,Ni,Coの1種又は2種以上とP:0.01~0.2質量%を含み、Fe,Ni,Coの合計含有量[Fe+Ni+Co]が0.2~2.3質量%であり、残部がCuを含み、100MPa以上の0.2%耐力を有し、R/t≦2の曲げ(Rは曲げ半径、tは板厚)で圧延平行方向、直角方向共に割れが発生しない、銅合金板。」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>

本件発明1は、「残部がCu及び不可避不純物からな」るのに対し、甲2発明は残部がCuを含むものの、不可避不純物を含むことが特定されていない点。

<相違点4>

本件発明1は、「850℃で測定した0.2%耐力が10MPa以上であり、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間の時効処理をした後の0.2%耐力が100MPa以上、導電率が50%IACS以上」

であるのに対し、甲2発明は、850℃で測定した0.2%耐力、並びに850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間の時効処理をした後の0.2%耐力及び導電率について特定されていない点。

<相違点5>

本件発明1は、「Fe,Ni,Coの1種又は2種以上を含むリン化物が析出」するのに対し、甲2発明はリン化物が析出することが特定されていない点。

<相違点6>

本件発明1は、「100MPa以上の0.2%耐力を有」するのに対し、甲2発明は0.2%耐力について特定されていない点。

<相違点7>

本件発明1は、「放熱部品用銅合金板」であり、「製造プロセスの一部に650℃以上に加熱するプロセスと時効処理が含まれる放熱部品の製造に用いられる」のに対し、甲2発明は放熱部品に用いられることが特定されていない点。

イ 相違点の検討

事案に鑑み、相違点4について検討する。

本件明細書等の【0041】~【0045】の記載によれば、本件明細書等の実施例における放熱部品用銅合金板の製造方法は、鋳塊を製作し、950℃に加熱して1時間保持後、厚さ16mmまで熱間圧延し、熱間圧延終了後直ちに水冷し、さらに850℃に加熱し、850℃到達後30分間保持した後、水焼き入れし、両面を各1mm面削し、冷間圧延し、さらに少なくとも500℃で2時間加熱する時効処理と冷間圧延を行い、硝石炉において350℃で30秒間加熱する歪み取り焼鈍を行うものである。

一方、甲2発明における銅合金の板条の製造方法は、試料を溶解鋳造した鋳塊を980℃より15mmtまで熱間圧延後表面疵取り、冷間圧延、575℃30分→冷却途中で500℃で2hr保持後空冷の連続2段焼鈍後、加工率70%の冷間圧延により板厚0.25mmの材料を調整し、さらに歪み取り焼鈍を行うものである。

してみると、甲2発明は、銅合金板の製造方法において、少なくとも「950℃に加熱して1時間保持」する工程及び「熱間圧延終了後直ちに水冷し、さらに850℃に加熱し、850℃到達後30分間保持した後、水焼き入れ」する工程を有さない点で本件明細書等の実施例とは異なるものである。

また、甲2発明と本件明細書等の実施例とでは、銅合金板の組成が近似するものの、完全に一致する実施例は存在しない。

そのため、同じ組成であっても熱処理の条件が異なれば、それによって得られる銅合金板の0.2%耐力は当然異なることは当業者にとって技術常識であることを勘案すれば、甲2発明と本件明細書等の実施例とで銅合金板の組成が完全には一致せず、また甲2発明と両者の製造方法は異なる以上、甲2発明が本件発明1の「850℃で測定した0.2%耐力が10MPa以上であり、850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間の時効処理をした後の0.2%耐力が100MPa以上、導電率が50%IACS以上」という特性を直ちに満たすとはいえない。

また、そもそもベーパーチャンバー等の放熱部品の素材として、高温における強度(0.2%耐力値)が大きい材料(銅合金板)を提供することを目的としたものではない甲2発明において、相違点4に係る特定事項を備えるようとする動機付けがない。

さらに、甲3には相違点4に係る特定事項について記載も示唆もされていない。

ウ 小括

したがって、相違点3、5~7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明3、5、7について

本件発明3に係る放熱部品用銅合金板は、本件発明1に係る放熱部品用銅合金板を更に技術的に特定するものである。また、本件発明5に係る放熱部品用銅合金板は、本件発明1または3を引用して、更に合金の組成を特定するものである。さらに、本件発明7に係る放熱部品用銅合金板は、本件発明1、3または5に係る放熱部品用銅合金板を更に技術的に特定するものである。そのため、上記(2)で検討したとおり、本件発明3、5、7と甲2発明とは少なくとも上記(2)アの相違点4で相違する。そして、相違点4の検討は上記(2)イに記載したとおりである。

したがって、本件発明3、5、7は、甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)申立理由1-2(進歩性)についての小括

以上のとおり、本件発明1、3、5、7は、甲2に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、申立理由1-2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3、5、7に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由2(実施可能要件)について

(1)物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである(実施可能要件を満たす)というためには、発明の詳細な説明には、当業者がその物を製造することができ、かつ、その物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要があるので、以下に検討する。

(2)本件発明1、3、5、7は、放熱部品用銅合金板に関するものである。

本件明細書等には、放熱部品用銅合金板の合金組成(【0018】~【0022】、【0054】)、特性(【0046】~【0050】、【0054】、【表1】、【表2】)、製造方法(【0026】~【0035】、【0041】、【0044】、【0045】)の各事項について、具体的な説明がなされている。

また、実施例であるNo.1~12(【表1】、【表2】)では、Fe、Ni、Co、P及びその他元素が本件明細書等の請求項1、3、5、7の規定を満たす組成の銅合金を用いて製造された銅合金板を製造しており、測定した特性が請求項1、3、5、7の規定を満たすものである。

さらに、上記以外の放熱部品用銅合金板についても、当業者であれば、本件明細書等の記載に基いて、請求項1、3、5、7に規定される組成及び特性を満たす放熱部品用銅合金板を、上記の製造方法を参照しつつ製造することができる。

したがって、当業者が、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基いて、本件発明1、3、5、7に係る放熱部品用銅合金板を製造し、使用することができるといえる。

以上のとおりであるから、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1、3、5、7について、実施可能要件を満たすものである。

したがって、申立理由2(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1、3、5、7に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立人の主張について

(1)申立人は令和3年 9月29日提出の特許異議申立書において、本件明細書等の【0050】における「850℃で30分加熱することにより、それまでの加工履歴の影響がほぼ解消される。」の記載に基づき、本件明細書等にて「850℃で測定した0.2%耐力」と「850℃で30分加熱後水冷し、次いで500℃で2時間の時効処理をした後の0.2%耐力及び導電率」は、いずれも850℃で30分加熱した後に測定されたものであり、したがってそれまでの加工履歴の影響が解消され、組成に依存するものであるから、本件発明1と組成が重複する甲1発明及び甲2発明についても当然に相違点1に係る特定事項を満たしている旨主張している。

しかしながら、本件明細書等の【0050】には、「(0.2%耐力(850℃))」という小見出しの元、「850℃における引張試験は、試験可能な最小板厚が0.5mm程度である。A材とB材は時効処理前(C材とD材は焼鈍前)の冷間圧延の加工率が少し異なるが、その後の時効処理(C材とD材は焼鈍)の条件、冷間圧延の加工率及び歪み取り焼鈍の条件が同じであるから、A材とB材(C材とD材)の特性はほぼ同じと考えられる。しかも、850℃で30分加熱することにより、それまでの加工履歴の影響がほぼ解消される。従って、850℃におけるA材とB材(C材とD材)の0.2%耐力はほぼ同じと考えられるから、この実施例では、850℃における0.2%耐力の測定を厚さ0.5mmのB材及びD材で行った。」と記載されている。そのため、「850℃で30分加熱することにより、それまでの加工履歴の影響がほぼ解消される」という記載が対象としているのは、850℃における引張試験による0.2%耐力の特性について、冷間圧延の加工率が少し異なる場合に限定されていると解され、本件特許の出願時における技術常識を考慮しても、上記の場合以外の特性や加工履歴の影響に適用できるとは認められない。よって、申立人の主張は採用できない。

(2)また、申立人は同特許異議申立書において、本件特許明細書等の【0026】、【0027】に記載された製造方法は銅合金板の一般的な製造工程が記載されているのみであり、【0050】には「850℃で30分加熱することにより、それまでの加工履歴の影響がほぼ解消される。」と記載されており、それまでの加工履歴の影響が解消されたものであるから、どのような工程のどのような製造条件によって本件発明1、3、5、7において規定した850℃で30分後の各種特性を制御できるのかが不明である旨主張している。

しかしながら、本件明細書等の【0041】、【0044】、【0045】には実施例に係る銅合金板の具体的な製造工程が記載されており、また【0050】の記載は850℃における引張試験による0.2%耐力の特性について冷間圧延の加工率が少し異なる場合に限定されていることは上記(1)で述べたとおりであるから、【0041】、【0044】、【0045】の製造工程により850℃で30分後の各種特性が制御されると認められる。よって、申立人の主張は採用することができない。

第6 むすび

以上のとおり、特許異議の申立ての理由によっては、請求項1、3、5、7に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1、3、5、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2021-700933

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