特許異議申立
2021-700891
積層体及び食品用容器包装
- 審判番号
- 2021-700891
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-021483
- 登録番号
- 6857428
- 請求日
- 2021年09月15日
- 審決日
- 2022年02月28日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社アースクリエイト
- 【権利者代理人】前井 宏之
- 【異議申立人】加藤 浩志
- 審判長/審判官
- 審判長 間中 耕治
- 審判官 芦原 康裕
- 審判官 一ノ瀬 覚
- 分類
- P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6857428号発明「積層体及び食品用容器包装」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6857428号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6857428号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年2月12日に出願され、令和3年3月24日にその特許権の設定登録がされ、令和3年4月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年9月15日に特許異議申立人 加藤浩志(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5の特許に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
内層と、前記内層の両面に積層される一対の外層とを備える真空成形用、圧空成形用又はマッチドモールド成形用のシート状の積層体であって、
前記内層は、無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有し、
前記外層は、熱可塑性樹脂を含有し、
前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含み、
前記積層体における前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超であり、
前記外層の厚さの比率は、前記積層体の全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記積層体の全体厚さは、300μm以上450μm以下であり、
前記炭酸カルシウム粒子の最大粒径は、20μm以下である、積層体。
【請求項2】
前記積層体の密度は、1.20g/cm3以上1.70g/cm3以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記内層が含有する前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンを含み、
前記外層が含有する前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレンを含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記内層における前記無機充填剤の含有割合は、53.0質量%以上70.0質量%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の積層体。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の積層体を真空成形、圧空成形又はマッチドモールド成形することにより形成される食品用容器包装。」
第3 申立理由の概要
申立人は、甲第1号証~甲第8号証を提出し、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許請求の範囲の記載が不備であり特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、そして、請求項1~5に係る発明について発明の詳細な説明が実施可能な程度に記載されておらず特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1~5に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2016-198998号公報(公開日:平成28年12月1日)
甲第2号証:特開平8-25538号公報(公開日:平成8年1月30日)
甲第3号証:特開2000-6335号公報(公開日:平成12年1月11日)
甲第4号証:特開平11-165390号公報(公開日:平成11年6月22日)
甲第5号証:特開2004-99666号公報(公開日:平成16年4月2日)
甲第6号証:国際公開第2014/109267号(国際公開日:平成26年7月17日)
甲第7号証:大木ほか、「化学辞典」、第1版第8刷、2007年2月1日発行、p528、p818、p1374
甲第8号証:特願2020-21483号の特許審査手続書類のうち令和2年12月23日付け意見書
甲第1号証~甲第8号証それぞれを、以下「甲1」~「甲8」といい、これらをまとめて「甲号証」という。
第4 各甲号証の記載
1 甲1
甲1の記載事項
本件特許の出願前に公知となった甲1には、以下の事項が記載されている。下線は当審が付与したものである。以下同じ。
「【請求項1】
無機充填剤を60重量%以上含むポリオレフィン系基材層(A)及び樹脂層(B)を有する多層樹脂成形物であって、
樹脂層(B)は、無機充填剤が20重量%未満で最外層を構成するものであり、
該多層樹脂成形物の全樹脂成分が50重量%未満であることを特徴とするポリオレフィン系多層樹脂成形物。
【請求項2】
無機充填剤の少なくとも70重量%が炭酸カルシウムである請求項1に記載のポリオレフィン系多層樹脂成形物。」
「【0004】
一方、包装容器リサイクル法においては、樹脂を50%以上含有するような容器については、リサイクルが義務付けられているのに対して、樹脂の含有量が50重量%未満のものは、包装容器リサイクル法の対象とならない。このため、包装容器や農業用フィルム等において、無機フィラーの配合量を50重量%以上とすることは、コスト上も環境面でも好ましいものである。」
「【0033】
(多層構造)
本発明の多層樹脂成形物の多層構造は2層以上のものであれば特に限定はされず、例えば、図1に示した2層構造又は図2に示した3層構造を挙げることができる。3層である場合は、図2に示したように、中間に無機充填剤を60重量%以上含むポリオレフィン系基材層を形成し、その両側に樹脂層を表面層として形成したものであることが好ましい。これによって、上述した目的を好適に達成することができる。また、2層構造である場合、印刷特性、耐水性、ヒートシール特性等、樹脂層(B)によって得られる特性が必要とされる側に、樹脂層(B)を使用することが好ましい。」
「【0037】
本発明のポリオレフィン系多層樹脂成形物は、その形状を限定されるものではないが、例えば、ボトル、ジャー容器、チューブ容器等、容器において使用される通常の形状やフィルム形状又はこれを真空成形、圧空成形等によって成形したものとすることができる。フィルム状物とする場合は、多層インフレーション、多層Tダイ押し出し等の多層成形を行うことによってフィルム形成する方法、単層フィルムをラミネートすることによって多層化する方法等によって得られたものとすることができる。」
「【0039】
本発明のポリオレフィン系多層樹脂成形物が、フィルム状の形状を有するものである場合、その厚みは、25~1500μmであることが好ましい。当該範囲内の厚みとすることで、強度を維持しつつ、紙と同様の感触を得ることができるため、汎用用途において使用することができる。上記上限はより好ましくは、800μmであり更に好ましくは400μmである。上記下限は、より好ましくは30μmである。」
「【0041】
本発明のポリオレフィン多層樹脂成形物は、農業用シートや薬、食品、化粧料等の包装容器として使用することができる。また、買い物袋等に使用される樹脂シートを加工して得られる袋体としても好適に使用できる。農業用シートとして使用する場合は、果実保護袋、果樹の保温用シート、地面の冷却を防止するための保温シート等の目的で使用することができる。更に、紙の代替品として使用することもできる。また、製造においてヒートシール加工を行うことで所望の形状を得るものであってもよい。」
「【0043】
(マスターバッチ1の製造)
高密度ポリエチレンに、炭酸カルシウム粒子を、樹脂/炭酸カルシウム/二酸化チタン=30/68/2の重量比となるように使用して、二軸混練機によって混練し、チップ化することで、マスターバッチ樹脂を得た。」
「【0046】
(マスターバッチ4の製造)
高密度ポリエチレンに代えて、ポリプロピレンを使用した以外はマスターバッチ1と同様の方法でマスターバッチ樹脂を得た。」
「【0056】
(実施例12)
上述したマスターバッチ4及びマスターバッチ4の製造に使用したものと同一で、無機フィラーを含有しないポリプロピレン樹脂を使用して、Tダイ押出成形装置を使用して、3層フィルムを成形した。3層の2つの最外層を樹脂層(B)とし、内層をポリオレフィン系基材層(A)とした。得られた成形品全体に対して、無機充填剤は65重量%となった。また、フィルムの厚みは、50μmであった。
【0057】
実施例9~12のフィルムも、同様にヒートシール性、印刷性、耐水性において優れた性質を有するものであった。更に、フィルムを折りたたみ、紙袋様のバッグとし、180℃でヒートシールを行うと、充分なヒートシール強度を有し、透水性のない優れた性能を有するものであった。」
(2)甲1の認定事項
ア 上記【0056】に記載の実施例12のフィルムにおいて、マスターバッチ4(基材層(A))の樹脂はポリプロピレン(【0046】)であり、樹脂/炭酸カルシウム/二酸化チタンの重量比は30/68/2(【0043】)である。そして、このフィルムの無機充填剤は成形品(フィルム)全体に対して65重量%である。また、下記7のとおり、甲7から明らかなように、ポリプロピレン、炭酸カルシウム及び二酸化チタンの密度は、それぞれ0.91、2.72、4,23g/cm3である。
してみると、実施例12のフィルムにおける基材層(A)の密度は、2.2g/cm3である。[計算式]
(0.91×30+2.72×68+4.23×2)/100=2.2
また、実施例12のフィルムの内層である基材層(A)における無機充填剤の割合は、70重量%である。
[計算式]
{(68+2)/(30+68+2)}×100=70(%)
そうすると、実施例12において、最外層である樹脂層(B)には無機充填剤が含まれていないことから、内層である基材層(A)の無機充填剤の量とフィルム全体の無機充填剤の量とは等しくなる。そうすると、実施例12のフィルムにおける最外層である樹脂層(B)の割合(r)は、8.0%となる。
[計算式]
70×2.2×(100-2r)=65×{0.91×2r+2.2×(100-2r)}
∴r=8.0(%)
(3)甲1に記載された発明
上記(1)及び(2)から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「折りたたんで紙袋様のバッグとして用いられる、Tダイ押出成形装置で成形されるシート形状の3層フィルムであって、
前記3層のうち内層は、ポリプロピレン樹脂と炭酸カルシウムと二酸化チタンが30/68/2の重量比となるように混練して形成したポリオレフィン系基材層(A)とし、
前記3層のうち2つの最外層は、無機充填剤を含まないポリプロピレン樹脂からなる樹脂層(B)とした3層フィルムであって、
前記3層フィルムに対する前記無機充填剤は65重量%であり、
前記最外層の厚さは、該3層フィルムの厚さに対してそれぞれ8.0% であり、
該3層フィルムの厚さは、50μmである、3層フィルム。」
2 甲2
本件特許の出願前に公知となった甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂90~10重量%と無機フィラー10重量%~90重量%との混合物に更に発泡剤を配合した樹脂組成物からなる基材層(A)の片面又は両面に、ポリオレフィン系樹脂90~10重量%と無機フィラー10重量%~90重量%との混合物に界面活性剤を配合した組成物からなる通水性かつ通気性層(B)が少なくとも一層設けられており、更に必要に応じてポリオレフィン系樹脂からなる非通水性かつ非通気性層(C)が、前記層(B)のうちの一層が一方の表面層を形成するような位置に設けられており、かつ外部と基材層(A)とをつなぐ貫通孔が形成されていることを特徴とするドリップ吸収共押出シート。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、魚肉や生肉類の包装において、ドリップを有効に吸収し、品質保持性を向上させることのできるドリップ吸収共押出シート及びその製造方法、並びに前記ドリップ吸収共押出シートを熱成形してなる、発泡倍率の向上した熱成形容器及びその製造方法に関するものであって、食品包装分野において有効に利用することができる。」
「【0019】ここで基材層(A)は、シートの基材層を構成する層であって、ポリオレフィン系樹脂と無機フィラーとの混合物に、更に発泡剤を配合した樹脂組成物からなる層である。ポリオレフィン系樹脂としては特に制限はないが、例えば高密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,低密度ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン系樹脂(ランダム,ブロック又はホモポリプロピレン)など、さらにはこれらの混合物を挙げることができる。これらの中でもポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂との混合物、特に低密度ポリエチレンとホモポリプロピレンとの混合物を用いることが好ましい。この場合、両者の混合割合は、前者:後者=5:95~70:30(重量比)である。これらポリオレフィン系樹脂のメルトインデックス(MI)は特に限定はないが、通常、0.1~7g/10分のものが用いられる。
【0020】次に、無機フィラー(無機充填剤)としては、タルク,炭酸カルシウム,シリカ,アルミナ,ゼオライト又はこれらの混合物を用いることができ、特にタルクが最も好ましい。」
「【0037】このような本発明の第1~第3のドリップ吸収共押出しシートの構造を具体的に例示すると、以下のような多層シートが挙げられる。
○1 2層構造のもの:A-B
○2 3層構造のもの:B-A-B,B-A-C,
○3 4層構造のもの:B-A-B-C」(なお、丸囲み数字は「○1」等と代用表記とした。)
「【0054】熱成形は、通常行なわれる真空成形,圧空成形,真空圧空成形,マッチモールド成形,両面真空成形等の公知の熱成形手段により行なうことができる。なお、成形条件としても特に制限はなく、通常の成形条件でよい。本発明の第7~第9では、熱成形の際に、一方の表面層を構成する通水性かつ通気性層(B)の溶融張力が、他方の表面層を構成する前記層(C)の溶融張力よりも高くなるようにすることが必要である。」
「【0059】実施例1
ポリオレフィン系樹脂としてのポリプロピレン樹脂(商品名:出光ポリプロE-100G、出光石油化学株式会社製)80重量部と低密度ポリエチレン(商品名:三菱油化(株)低密度ポリエチレンHE-30)20重量部との混合物、無機フィラーとしてのタルク(商品名:タルクJET-S、浅田製粉社製)及び発泡剤としてのアゾジカルボンアミド(商品名:ビニホールAW’9、永和化成社製)を、それぞれ重量比で49.5対49.5対1の割合で配合したものに対して、界面活性剤としてラウリン酸ソルビタンエステル(商品名:レオドールSP-L10、花王社製)を0.2重量%の割合で添加したものを用意し、これを樹脂温度160~210℃にて混練し、ペレットを得、このペレットを基材層(A)用樹脂組成物とした。」
「【0064】実施例2
ポリオレフィン系樹脂としてのポリプロピレン樹脂(商品名:出光ポリプロE-100G、出光石油化学株式会社製)80重量部と低密度ポリエチレン(商品名:三菱油化(株)低密度ポリエチレンHE-30)20重量部との混合物、無機フィラーとしてのタルク(商品名:タルクJET-S、浅田製粉社製)、発泡剤としてのアゾジカルボンアミド(商品名:ビニホールAW’9、永和化成社製)及び吸水性樹脂としてのアクリル系共重合体(商品名:アクアキープ10SH、住友精化社製)を、それぞれ重量比で48対48対1対3の割合で配合したものを、直径120mmの単軸押出機にて、樹脂温度180~220℃にて混練し、ペレットを得、このペレットを基材層(A)用樹脂組成物とした。」
3 甲3
(1)甲3の記載事項
本件特許の出願前に公知となった甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】ポリオレフィン100重量部に対して無機材を100~200重量部含有させた基材層と、この基材層の少なくとも片面に形成されたポリオレフィンの表面層とからなる難燃性ポリオレフィン成形体。」
「【0014】この成形体のように無機材を含んだ基材層をポリオレフィンの表面層で被覆すると、無機材が表面に露出せず、しかも、表面層がポリオレフィン本来の良好な耐薬品性及び耐食性を有するため、成形体表面の耐薬品性及び耐食性が向上する。また、基材層は無機材を100~200重量部と多量に含み、ポリオレフィンの量が少ないため、表面層が形成されていても、この成形体は全体として充分な難燃性を示す。そして、発煙量等も大幅に減少するため、後述の実験データに示すように、難燃指数FPI、発煙指数SDI、腐食指数CDIの全てを満足した成形体となる。」
「【0052】以上の構成の難燃性ポリオレフィン成形体A,B,C,Dは、ポリオレフィンに無機材、ハロゲン系もしくはリン系の難燃剤、その他の添加剤等を配合した基材層成形用のポリオレフィン組成物と、ポリオレフィン単独又は耐薬品性の良好な無機材等を配合した表面層成形用のポリオレフィン組成物を調製し、これらの組成物を多層押出し成形、カレンダープレス、ラミネートその他の手段により、所望の形状に積層成形して製造される。
【0053】次に、本発明の更に具体的な実施例と比較例を説明する。
[実施例1~9]下記の表1にそれぞれ示す組成割合の板状の基材層(厚さ9mm)の両面に、無機材を含まない厚さ0.5mmのシート状のポリプロピレン表面層、又は、タルクかチタン酸カリウムを下記表1に示す割合で含む厚さ0.5mmのシート状のポリプロピレン表面層をラミネートすることにより、全体の厚さが10mmの三層構造を有する実施例1~9の難燃性ポリオレフィン板状成形体を製造した。そして、各成形体についてFPI、SDI、CDIを測定すると共に、その機械的強度と耐薬品性を調べた。その結果を下記の表1に示す。」
「【0055】
【表1】
[図:0001384197000001.jpg]
」
「【0063】
【発明の効果】以上の説明及び実験データから明らかなように、本発明の難燃性ポリオレフィン成形体はいずれも、表面層によって耐薬品性及び耐食性が大幅に向上し、基材層が優れた難燃性を有し発煙量や腐食性ガス発生量の少ないものであるため、表面層があってもFM規格に基づく難燃指数FPI、発煙指数SDI、腐食指数CDIの全てを満足することが可能となり、また、脆弱化による強度低下も殆ど生じないため充分な実用強度を有するといった多くの顕著な効果を奏し、耐薬品性等が要求される半導体製造装置の液槽、容器、配管部材その他の工業用材料として好適に使用できるものである。」
(2)甲3の認定事項
上記【0053】及び【0054】の記載からみて、上記【表1】の実施例1~3、8のポリオレフィン板状成形体について、以下の事項が記載されているといえる。
ア 基材層の厚さは9mm、表面層の厚さはそれぞれ0.5mmである。
イ 無機材は、炭酸カルシウムを含む。
ウ 実施例1~3、8における基材層中の無機充填材料の量は、55.6~65.5重量%である。
{計算式}
・実施例1:65.5重量%
{(80+80+30)/(100+80+80+30)}×100=65.5
・実施例2:64.5重量%
{(80+50+30+20+3)/(100+80+50+30+20+3)}×100=64.6
・実施例3:60.7重量%
{(50+80+10+5+5+5)/(100+50+80+10+5+5+5)}×100=60.7
・実施例8:55.6重量%
{(50+50+10+5+5+5)/(100+50+50+10+5+5+5)}×100=55.6
エ 実施例1~3、8では、上記アのとおり、基材層9mm、表面層0.5mmであることから、基材層はポリオレフィン板状成形体全体の90体積%である。そして、下記参考で示すとおり、炭酸カルシウム等の無機充填材料の比重はポリプロピレン(0.91g/cm3。下記甲7(3)を参照。)よりも高いことは明らかであり、基材層には無機充填剤が含まれる一方で、表面層には無機充填剤が含まれないことから、基材層における無機充填剤の重量%は、成形体全体に均一に無機充填剤が分散されていると仮定して、その体積%に基づいて計算した値よりも大きくなることは明らかである。そうすると、実施例1~3、8のポリオレフィン板状成形体全体における無機充填剤量は、50.0重量%よりも大きいといえる。
[計算式]基材層における無機充填剤量を体積%に基づいて計算した値
・実施例1:59.0体積%
65.5×90/100=59.0
・実施例2:58.1体積%
64.6×90/100=58.1
・実施例3:54.6体積%
60.7×90/100=54.6
・実施例8:50.0体積%
55.6×90/100=50.0
[参考]無機材料の比重(g/cm3)について、インターネット検索。
・ポリプロピレン:0.91(下記甲7(3)を参照。)
・水酸化マグネシウム:2.36(https://kotobank.jp/word/%E6%B0%B4%E9%85%B8%E5%8C%96%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0-82905)
・水酸化アルミニウム:2.40、2.49(https://kotobank.jp/word/%E6%B0%B4%E9%85%B8%E5%8C%96%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%82%A6%E3%83%A0-82891)
・炭酸カルシウム:2.72(下記甲7(2)を参照。)
・タルク:2.58~2.83(https://kotobank.jp/word/%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%82%AF-94667)
・錫酸亜鉛:3.9(https://www.nikkeikin.co.jp/products/chemical/W180.html)
・ゼオライト:1.9~2.3 (https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB6330194.htm)
(3)甲3に記載された発明
以上の(1)及び(2)から、甲3には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「基材層と、前記基材層の両面に、無機材を含まないポリプロピレン表面層をラミネートすることにより三層構造を有するポリオレフィン板状成形体において、
前記基材層は、無機材及びポリプロピレンを含有し、
前記表面層は、無機材を含まないポリプロピレンであり、
前記無機材は、炭酸カルシウムを含み、
前記成形体における前記無機材の割合は、50.0重量%よりも大きく 、
前記表面層の厚さの比率は、前記成形体の全体厚さに対してそれぞれ5% であり、
前記成形体の全体厚さは、10mmである、ポリオレフィン板状成形体。」
4 甲4
本件特許の出願前に公知となった甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0009】(1)オレフィン系複合樹脂材料(表面層)
本発明のオレフィン系複合樹脂材料は、下記オレフィン系樹脂材料と無機フィラーとからなる。本発明のオレフィン系樹脂材料は、エチレン系樹脂やプロピレン系樹脂等のオレフィン系樹脂であれば特に限定されないが、好ましくはプロピレン成分の構成単位を主体とするプロピレン系樹脂又は該プロピレン系樹脂を主成分とする樹脂混合物であり、中間層を構成するオレフィン系樹脂組成物のオレフィン系樹脂と同様のオレフィン系樹脂からなる。」
「【0013】無機フィラーとしては、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、マイカ、酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、チタンホワイト、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカ等の非繊維状無機粉体が好適である。無機粉体の粒径は特に限定されないが、好ましくは0.1~50μmである。これらの無機フィラーは単独または、2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも特に粒径が20μm以下のタルクが効果的である。」
「【0032】実施例1
プロピレンブロック共重合体(BPP-1)60重量%とエチレン重合体(HPE-1)10重量%とタルク(富士タルク社製 粒径10μ)30重量%を、温度170℃のゲレーションミキサーで溶融分散させ、該溶融分散された混合物を口径60mmφの単軸押出機で温度230℃で押し出し、MFRが0.8g/10分、密度が1.14g/cm3の複合ペレットを造粒した。
【0033】次に前記複合ペレットを口径40mmφの押出機から、一方、前記複合ペレット100重量部に、ポリテトラフルオロエチレン(旭硝子(株)製:フルオンファインパウダー)を2.5重量部を加えたものを他の口径40mmφの押出機からそれぞれ押し出し、2種3層構成のフィードブロックを装着した共押出機のTダイから、樹脂温度240℃、幅400mmのシート状に溶融押し出しして、オレフィン系複合樹脂材料/オレフィン系複合樹脂組成物/オレフィン系複合樹脂材料の3層構成の溶融積層シートとした。
【0034】ついで、得られた前記溶融積層シートをポリシング法の冷却ロール(ロール温度:上50℃、中80℃、下50℃)に導いて冷却固化し、厚みが0.5mm、幅350mmのオレフィン系複合樹脂材料/オレフィン系複合樹脂組成物/オレフィン系複合樹脂材料(30/440/30μm)の2種3層のオレフィン系複合樹脂積層シートを作製した。このようにして得られた各シートについて、その評価結果を表1にシート物性として示す。35秒間の加熱によって、複合樹脂積層シートの垂れ量及び垂れ勾配が少ない程、ドローダウン性の優れたシートということができる。
【0035】実施例2~6、比較例1~7
ポリテトラフルオロエチレンの濃度、オレフィン系複合樹脂材料のオレフィン系樹脂の種類、タルク濃度などを表1に記載したように変えてオレフィン系複合樹脂材料や組成物を得た他は、実施例1と同様に複合樹脂積層シートを作製した。このようにして得られた各シートの物性を表1に示す。
【0036】
【表1】
[図:0001384197000002.jpg]
【0037】実施例7
プロピレンブロック共重合体(BPP-1)60重量%とエチレン重合体(HPE-1)10重量%とタルク30重量%(富士タルク社製 粒径10μ)を、温度170℃のゲレーションミキサーで溶融分散させ、該溶融分散された混合物を口径60mmφの単軸押出機で温度230℃で押し出し、MFRが0.8g/10分、密度が1.14g/cm3の複合ペレットを造粒した。
【0038】次に前記複合ペレットを口径40mmφの押出機から、一方、前記複合樹脂100重量部に、ポリテトラフルオロエチレン(旭硝子(株)製:フルオンファインパウダー)を1.0重量部を加えたものを口径90mmφの押出機からそれぞれ押し出し、2種3層構成のフィードブロックを装着した共押出機のTダイから、樹脂温度240℃、幅1100mmのシート状に溶融押し出しして、オレフィン系複合樹脂材料/オレフィン系複合樹脂組成物/オレフィン系複合樹脂材料の3層構成の溶融積層シートとした。
【0039】ついで、得られた溶融積層シートをポリシング法の冷却ロール(ロール温度:上60℃、中80℃、下60℃)に導いて冷却固化し、厚みが0.5mm、幅1040mmのオレフィン系複合樹脂材料/オレフィン系複合樹脂組成物/オレフィン系複合樹脂材料(50/400/50μ)の2種3層のオレフィン系複合樹脂積層シートを作製した。得られた積層シートを、浅野研究所製の真空成形機(名称:FLS 415)のヒーター温度:設定350(下ヒーター)~530℃(上ヒーター)、サイクル:5.0秒で加熱成型し、縦:18cm、横:25cm、深さ:3cmの容器(35ヶ採り)を得た。得られた複合樹脂積層シート及び容器について、垂れ量(ドローダウン性)、真空成形機による容器賦型性、耐寒性、及び耐熱性を評価した。その結果を表2に示す。
【0040】実施例8~10、比較例8~10
ポリテトラフルオロエチレンやタルクの濃度、オレフィン系複合樹脂材料の組成、層厚み、再生材の使用の有無を表2に記載したように変えた他は実施例7と同様にして複合樹脂積層シート及び真空成形容器を得た。得られた各複合樹脂積層シート及び容器について、垂れ量(ドローダウン性)、真空成形機による容器賦型性、耐寒性、及び耐熱性を評価した。その結果を表2に示す。
【0041】
[図:0001384197000003.jpg]
」
5 甲5
本件特許の出願前に公知となった甲5には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
ポリオレフイン系樹脂100重量部に対して無機充填剤100~300重量部を含み、190℃におけるメルトフローレート(荷重21.18N)が6~25g/10minであり、190℃におけるメルトフローレシオ(荷重98.07Nのメルトフローレートと荷重9.81Nのメルトフローレートとの比)が85以下であるポリオレフイン系樹脂組成物を、180~220℃の成形温度下にTダイ法によってフィルム状に成膜し、次いで少なくとも一軸延伸する透湿シートの製造方法。」
「【0022】
ポリオレフィン系樹脂と共に用いられる無機充填剤は、本発明の透湿シートを多孔質にして透湿性を付与するために用いられるものである。無機充填剤としては例えば、炭酸カルシウム、石膏、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、燐酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、カーボンブラック、アルミニウム粉、鉄粉などの粉粒体が挙げられる。これらは一種又は二種以上を併用できる。得られる透湿シートの強度確保や製造時のシート破れの防止の点から、これらの無機充填剤はその平均粒径が0.3~8μmで最大粒径が20μm以下であることが好ましく、平均粒径が0.5~5μmで最大粒径が15μm以下であることが更に好ましい。
【0023】
前述した各種無機充填剤のうち、炭酸カルシウムや硫酸バリウムを用いることが好ましく、特に炭酸カルシウムを用いることが好ましい。炭酸カルシウムを用いる場合、その比表面積が16000~24000cm2/g、特に18000~22000cm2/gであるものを用いることが、透湿性が高く耐水性も高いシート、即ち、緻密な孔が多数開いていて液がにじみにくく、且つ十分な強度のシートが得られる点から好ましい。」
「【0039】
〔実施例1~5並びに比較例1及び2〕
(1)ポリオレフィン系樹脂組成物の調製以下の表1に示す材料を表2に示す組成で配合し、100リットルのヘンシェルミキサで予備混合し、次いで二軸押出機で溶融混練してペレット化した樹脂組成物を得た。二軸押出機は池貝製のPCM-45-33.5であり、スクリュー径は45mmであった。設定温度は160℃とし、スクリュー回転数は150rpm、押出量は25kg/hとした。
(2)透湿シートの成形
径50mmの単軸押出機(L/D=28)と、幅500mmのTダイス(ダイリップクリアランス1.5mm)とからなるTダイフィルム成形装置を用い、前記で得られたポリオレフィン系樹脂組成物を成形し、厚み35μm、幅400mmのフィルムを得た。Tダイスの設定温度は200℃とし、成形速度は10m/minとした。得られたフィルムを、ロール一軸延伸機を用いて縦方向に延伸し、透湿シートを得た。延伸倍率は表2に示す通りとした。予熱温度は80℃とし、延伸温度は50℃、アニール温度は80℃とした。またアニールでの戻し率は13%とした。
【0040】
【表1】
[図:0001384197000004.jpg]
【0041】
【表2】
[図:0001384197000005.jpg]
」
6 甲6
本件特許の出願前に公知となった甲6には、以下の事項が記載されている。
「[0014] 本発明の特性を有する加工用薄膜材料は、加工する際に加工材料の付着量を低減でき、且つ、強固に付着させることができるため、安いコストで効率よく加工できるので、機能材料の基材として、また、記録材料、あるいは壁紙等建材分野等で幅広く使用することができる。」
「[0021] 本発明に使用される無機物質粉末としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム等、プラスチック製品に充填材として添加されるものが特に限定されることなく使用できる。加工用薄膜材料中への分散性向上のために、その表面を常法に従い改質すると良い。前記無機物質粉末の平均粒子径は、薄膜材料の表面粗さと、無機物質粉末が薄膜材料から大きな粒子が離脱するのを防ぐために、15μm以下のものを使用するのが好ましい。特に、その粒径分布において、粒子径50μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、薄膜材料の製造が困難になるとともに、作成した薄膜材料の表面の平滑性が高くなりすぎる。そのため、その平均粒子径は0.5μm以上とすることが好ましい。なお、本発明における無機物質粉末の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した、積算%の分布曲線から得られる50%粒子径(d50)である。」
「[0061]<実施例1>
高密度ポリエチレン樹脂と炭酸カルシウム粉末とを、重量比40:60となるように調節し、更に、マグネシウムステアレートを両原料に対し1重量%となるように配合して、Tダイを備え付けた同方向回転式押出成形機を用いて混合、混練と同時に薄膜材料中間体を形成する直接法成形を行なった。作成した厚さが270μm及び350μmの薄膜材料中間体について、原反幅305mm、入口速度0.7m/min、延伸部温度95℃で、ロールの周速差を利用する縦延伸を実施した。
[0062] 延伸した薄膜材料について、比重、コッブ法吸水度、ガーレー試験機法による透気度、及び表面粗さ(中心線平均粗さRaで表示)を測定した。その結果を表1に示す。
[0063][表1]
[図:0001384197000006.jpg]
」
7 甲7
本件特許の出願前に公知となった甲7には、以下の事項が記載されている。
(1)528ページ
「[3]酸化チタン(IV)(titanium(IV) oxide):二酸化チタン(titaniumu dioxide)・・・(中略)・・・ルチル型(密度4.23g・cm-3)」
(2)818ページ
「炭酸カルシウム・・・(中略)・・・密度2.72g・cm-3.」
(3)1374ページ
「ポリプロピレン・・・(中略)・・・密度はアイソタクチック構造のものが0.91g・cm-3」
8 甲8
本件特許に係る特許審査手続書類であって、本件特許の出願後に特許庁に提出された甲8には、以下の事項が記載されている。
(1)5ページ
「[3-3]引用文献3
(特徴A)
引用文献3には、『全体厚さ300μm以上450μm以下』を含む数値範囲、及び『外層の厚さの比率が2.0%以上20.0%以下』となる実施例がそれぞれ個別に開示されています。しかし、引用文献3には、2つの構成を組み合わせて特徴Aとすることまでは開示されていません。以下、詳細を説明します。
引用文献3の実施例に記載されている積層体は、外層、内層及び外層の3層構造で、全体厚さが50μm、無機充填剤の含有割合が65重量%、内層における無機充填剤の含有割合が70%です。ここから計算すると、引用文献3の実施例に記載されている積層体は、概ね、外層2μm、内層46μm、外層2μmとなります。この積層体は、『外層の厚さの比率が2.0%以上20.0%以下』は満たします。」
(2)6ページ
「 なお、引用文献3の実施例において、外層2μm、内層46μm、外層2μmという層構成となっているのは、『外層の厚さの比率が2.0%以上20.0%以下』が好ましいという技術的思想があったのではなく、技術的制限からたまたまそうなったに過ぎないと判断します。詳しくは、多層押出成形において形成できる層厚の最小値は1μm~3μm程度です。そのため、全体厚さが50μmの積層体を製造する場合に無機充填剤の含有割合をなるべく高くしようとすると、内層をなるべく厚くする必要があるため、外層は技術的限界から2μm程度となるのが必然です。
・・・(中略)・・・
以上をまとめると、引用文献3の実施例において『外層の厚さの比率が2.0%以上20.0%以下』となっているのは、技術的制限からたまたまそうなったに過ぎません。当業者が引用文献3に基づいて『全体厚さ300μm以上450μm以下』とするのであれば、外層を数μmと可能な限り薄くして内層を厚くする方が引用文献3の技術的思想に沿っています。この場合、外層の厚さの比率は、2.0%未満となります。引用文献3の技術的思想を無視して『全体厚さ300μm以上450μm以下』の場合にまで『外層の厚さの比率が2.0%以上20.0%以下』を維持するという発想は、典型的な後知恵であると判断します。」
第5 当審の判断
1 サポート要件違反及び実施可能要件違反について
(1)本件特許の明細書には、以下の記載がある。
「【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐熱性及び耐酸性に優れると共に廃棄コストが低い容器包装を形成でき、かつ成形性に優れる積層体と、上述の積層体により形成される食品用容器包装とを提供することである。」
「【0028】
炭酸カルシウム粒子の最大粒径としては、20μm以下が好ましい。ここで、内層において炭酸カルシウム粒子及び熱可塑性樹脂の界面に存在する空隙は、炭酸カルシウム粒子の粒径が大きいほど形成され易いと判断される。そのため、炭酸カルシウム粒子の最大粒径を20μm以下とすることで、炭酸カルシウム粒子及び熱可塑性樹脂の界面の空隙が発生することを抑制できる。その結果、本発明の積層体の成形性をより向上できる。」
「【実施例】
【0052】
以下、実施例を示して本発明を更に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0053】
[材料]
以下に示す材料を二軸混練機によって混錬した後にチップ化することにより、内層形成用材料及び外層形成用材料のマスターバッチを得た。
内層形成用材料:ポリプロピレン樹脂43質量部、炭酸カルシウム粒子57質量部
外層形成用材料:ポリプロピレン樹脂100質量部
【0054】
多層Tダイ法により、内層と、内層の両面に積層される一対の外層とを備える積層体を形成した。内層は、上述の内層形成用材料により形成した。一対の外層は、それぞれ、上述の外層形成用材料により形成した。積層体の全体厚さは、420μmであった。内層の厚さは、378μm(積層体の全体厚さに対して90%)であった。一対の外層は、それぞれ、21μm(積層体の全体厚さに対して5%)であった。積層体における無機充填剤の含有割合は、54質量%であった。積層体の密度は、1.38g/cm3であった。これを、実施例の積層体とした。
【0055】
別途、Tダイ法により、単層の樹脂シートを製造した。樹脂シートは、上述の外層形成用材料により形成した。樹脂シートの厚さは、420μmであった。これを、比較例の樹脂シートとした。
【0056】
[成形性]
実施例の積層体及び比較例の樹脂シートを、遠赤外線ヒーターで予熱した後、真空成形機によって底径52mmφ、開口径65mmφ、高さ30mm、フランジ巾8mmのカップ状の容器に成形した。得られた容器を、それぞれ実施例及び比較例の容器とした。実施例及び比較例の容器を目視で観察し、以下の基準にて外観を評価した。
良好:表面状態が良好(変形及び破れが発生していない)
不良:表面状態が不良(変形又は破れが発生していた)
【0057】
その結果、実施例及び比較例の容器は、何れも外観が良好であった。以上から、実施例の容器の形成に用いた実施例の積層体は、成形性に優れると判断される。」
(2)請求項1に記載された「炭酸カルシウム粒子の最大粒径は、20μm以下である」について検討するに、上記(1)のとおり、本件特許の明細書の【0028】には、炭酸カルシウムの粒径を20μm以下とすることが記載されている。
してみると、請求項1に係る発明は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるので、請求項1に係る発明はサポート要件を満たすものである。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~5に係る発明も、同様である。
(3)同【0053】には、実施例としてポリプロピレン樹脂と炭酸カルシウム粒子を混錬して内層形成用材料を製造することが記載されているものの、炭酸カルシウムの粒径について特定するような記載はない。
しかしながら、同【0008】に記載されたとおり、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明」という。)が、成形性に優れる積層体及びその食品用容器包装を提供することを課題としており、同【0028】に記載されたとおり、炭酸カルシウムの粒径を20μm以下である場合には、炭酸カルシウム粒子及び熱可塑性樹脂の界面の空隙が発生することを抑制でき、成形性をより向上できるという作用機序が示されていることを踏まえれば、本件発明の実施例において、同【0053】に記載された材料をみたときに、内層形成用材料の炭酸カルシウムとして粒径が20μm以下のものを用いることは、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)であれば当然に理解できるところである。そして、同【0056】及び【0057】に記載されたとおり、実施例の容器は成形性に優れるという効果を奏することが示されている。さらに、炭酸カルシウムとして20μm以下のものが存在しないとする証拠もないことから、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件発明の積層体が製造できる程度に記載されているといえる。
してみると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるから、実施可能要件を満たすものである。
2 甲1発明を主引用例とする場合の進歩性について
(1)本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「シート形状の3層フィルム」は、その機能及び構造からみて、本件発明1の「シート状の積層体」に相当し、以下同様に、「内層」は「内層」に、「最外層」は「外層」にそれぞれ相当する。
甲1発明の「3層のうち2つの最外層」は、「3層のうち内層」をその両側から挟むように設けられたものであることは明らかであるから、本件発明1の「一対の外層」に相当する。
甲1発明の「ポリプロピレン樹脂」は、その材料及び特性からみて、本件発明1の「熱可塑性樹脂」に相当し、以下同様に、「炭酸カルシウム」は「炭酸カルシウム粒子」に相当する。
甲1発明の「前記3層フィルムに対する前記無機充填剤は65重量%であ」る構成は、重量%と質量%とは実質的に同じものであり、65重量%は50%質量%超であることから、本件発明1の「前記積層体における前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超であ」る構成に相当する。
甲1発明の「3層フィルムの厚さ」は、3層フィルムの内層及び2つの最外層の全体の厚さであることから、本件発明1の「積層体の全体厚さ」に相当する。
甲1発明の「前記最外層の厚さは、該3層フィルムの厚さに対してそれぞれ8.0% であ」る構成は、8.0%は2.0%以上20.0%であることから、本件発明の「前記外層の厚さの比率は、前記積層体の全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であ」る構成に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、次のとおりとなる。
[一致点1]
「内層と、前記内層の両面に積層される一対の外層とを備えるシート状の積層体であって、
前記内層は、無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有し、
前記外層は、熱可塑性樹脂を含有し、
前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含み、
前記積層体における前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超であり、
前記外層の厚さの比率は、前記積層体の全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である、積層体。」
[相違点1-1]
シート状の積層体について、本件発明1では、真空成形用、圧空成形用又はマッチドモールド成形用のものであるのに対して、甲1発明では、折りたたんで紙袋様のバッグとして用いられるものである点。
[相違点1-2]
積層体について、本件発明1では、その全体厚さが300μm以上450μm以下であるのに対して、甲1発明では、50μmである点。
[相違点1-3]
炭酸カルシウム粒子について、本件発明1では、その最大粒径が20μm以下であるのに対して、甲1発明では、そのように特定されていない点。
イ 判断
(ア)相違点1-1について検討する。
甲1の3層フィルムは、折りたたんで紙袋状のバックとして用いられるものであるから、甲1発明の3層フィルムを中間材として、さらにその他の成形手段により成形する動機付けはない。
甲2の【0054】に記載のとおり、真空成形、圧空成形又はマッチモールド成形は通常行われる熱成形手段として知られているが、上記のとおり、甲1発明には動機付けがないことから、甲1発明に甲2に記載の熱成形手段をさらに付加することはできない。
したがって、甲1発明及び甲2記載の技術に基いて相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、甲1の【0037】には、真空成形、圧空成形により容器を成形したものとすることが記載されているが、この記載は、一般的な容器の成形手段について記載されているにとどまり、実施例12の3層フィルムを真空成形、圧空成形によりさらに容器として成形できることを示唆するものであるとまではいえない。また、甲1のその他の実施例をみても、真空成形、圧空成形により容器を成形することについては記載されていない。
(イ)次に、事案に鑑み、相違点1-3について検討する。
甲1発明は、無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いる技術であるが、甲1には、その粒径や、当該粒径と成形体の成形性との関係性については記載も示唆もない。してみると、甲1発明において、炭酸カルシウムの粒径の大きさを特定の範囲に限定する動機付けがあるとはいえない。
甲2の【請求項1】、【0019】~【0020】、【0037】には、ポリプロピレン樹脂と無機フィラーの混合物からなる基材層を有する多層シートにおいて、無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いることが例示的に示唆されている。しかし、【0059】や【0064】等に記載されたように、実施例としては、ポリプロピレン樹脂に無機フィラーとしてタルクを混合した技術(以下「甲2記載の技術」という。)しか記載されておらず、さらに、甲2には、無機フィラーの粒径については記載も示唆もない。したがって、仮に、甲1発明に甲2記載の技術を適用したとしても、相違点1-3に係る本件発明1の構成とはならない。
甲3発明(以下「甲3記載の技術」ともいうことがある。)は、炭酸カルシウムの粒径について特定されていない。したがって、仮に、甲1発明に甲3発明を適用したとしても、相違点1-3に係る本件発明1の構成とはならない。
甲4の【0013】には、無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いることが例示的に示唆されるとともに、無機フィラーの粒径が0.1~50μmが好ましいことについて一応の示唆があるといえる。しかし、甲4には、【0013】だけでなく、【0032】~【0041】にも記載されたように、無機フィラーとしてタルクを用いる場合において、粒径が20μm以下であることが効果的であることは記載されているものの、炭酸カルシウムを用いた場合に20μm以下とすることまでは記載されていない。また、【0033】~【0041】には、甲4には、ポリプロピレン樹脂と無機フィラーであるタルクを含む2種の複合ペレットを押し出し、2種3層構成のフィードブロックをTダイ溶融押し出しにより積層シートとする技術が記載されているところ、甲4には、中間層だけでなく表面層にも無機フィラー(タルク)を含む積層シートの技術(以下「甲4記載の技術」という。)が実施例1~10として記載されているが、表面層に無機フィラー(タルク)を含まない積層シートについては記載も示唆もない。そうすると、甲1発明と甲4に記載の技術とは、表面層にも無機フィラーを含む点で積層体事態の構成が基本的に異なるものである。したがって、甲1発明に甲4記載の技術を適用するための動機付けがあるとはいえないし、仮に適用できたとしても相違点1-3に係る本件発明1の構成とはならない。
甲5の【0022】には、ポリオレフィン系樹脂と無機充填剤からなるシートにおいて、無機充填剤として炭酸カルシウムを用いることが例示的に示唆されるとともに、その最大粒径が20μm以下であることが好ましいことについて示唆があり、【0039】~【0041】には、実施例として、無機フィラーを炭酸カルシウムとする記載がある。しかし、甲5には、【0013】、【0039】~【0041】に記載されたように、実施例として、ポリオレフィン系樹脂として線状低密度ポリエチレンと分岐状低密度ポリエチレンを併用する技術(以下「甲5記載の技術」という。)しか記載されておらず、ポリプロピレンを用いる技術については記載も示唆もない。してみると、甲1発明と甲5記載の技術とは、ポリオレフィン樹脂の材質が異なる点で構成が基本的に異なる。したがって、甲5に無機フィラーとして炭酸カルシウムと用いることが記載されており、その最大粒径を20μm以下とすることが示唆されているとしても、甲1発明に甲5記載の技術を適用するための動機付けがあるとはいえない。
甲6の【0019】には、加工用薄膜材料中間体に使用される熱可塑性樹脂としてポリプロピレンが例示的に示唆され、同【0021】には、無機物質粉末として炭酸カルシウムが例示的に示唆されるとともに、薄膜材料の表面粗さと無機物質粉末が薄膜材料から大きな粒子が離脱するのを防ぐために15μm以下のものを使用するのが好ましいことが示唆されている。しかしながら、甲6には、【0061】に記載のように、実施例として、高密度ポリエチレン樹脂と炭酸カルシウム粉末とを調整したものを薄膜材料中間体とする技術(以下「甲6記載の技術」という。)については記載されているが、ポリプロピレン樹脂については記載されていない。してみると、甲6記載の技術は、甲1発明の構成と樹脂材料の材質が基本的に異なるものである。したがって、甲6に無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いることが記載され、その粒径を15μm以下とすることが示唆されているとしても、甲1発明に甲6記載の技術を適用するための動機付けがあるとはいえない。
以上のことから、甲1発明及び甲2~6記載の技術に基いて相違点1-3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件発明1は、相違点1-1~1-3に係る本件発明1の構成を有することにより、成形性の優れた積層体を提供するという格別な作用効果を奏するものである。
(エ)上記(ア)~(ウ)のとおりであるから、相違点1-2について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2~6記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(2)本件発明2~5
本件発明2~5は、本件発明1の構成をすべて含み、請求項2~5に記載された事項により限定をさらに付加したものである。
そうすると、本件発明2~5も、上記(1)で示したのと同様の理由により、甲1発明及び甲2~6記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
3 甲3発明を主引用例とする場合の進歩性について
本件発明1
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「基材層」は、その機能と構造からみて、本件発明1の「内層」に相当し、以下同様に、「表面層」は「外層」に、「三層構造を有するポリオレフィン板状成形体」は「シート状の積層体」にそれぞれ相当する。
甲3発明の「無機材」は、その機能と材質からみて、本件発明1の「無機充填剤」に相当し、以下同様に、「ポリプロピレン」は「熱可塑性樹脂」に、「炭酸カルシウム」は「炭酸カルシウム粒子」にそれぞれ相当する。
甲3発明の「50.0重量%よりも大きく」は本件発明の「50.0質量%超」に、甲3発明の「5%」は本件発明1の「2.0%以上20.0%以下」にそれぞれ相当する。
以上のことから、本件発明1と甲3発明の一致点及び相違点は、次のとおりとなる。
[一致点3]
「内層と、前記内層の両面に積層される一対の外層とを備えるシート状の積層体であって、
前記内層は、無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有し、
前記外層は、熱可塑性樹脂を含有し、
前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含み、
前記積層体における前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超であり、
前記外層の厚さの比率は、前記積層体の全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である、積層体。」
[相違点3-1]
シート状の積層体について、本件発明1では、真空成形用、圧空成形用又はマッチドモールド成形用であるのに対して、甲3発明では、ラミネートすることにより製造されたものである点。
[相違点3-2]
積層体について、本件発明1では、その全体厚さが300μm以上450μm以下であるのに対して、甲3発明では、10mmである点。
[相違点3-3]
炭酸カルシウム粒子について、本件発明1では、その最大粒径が20μm以下であるのに対して、甲3発明では、そのように特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点3-3について検討するに、相違点3-3は相違点1-3と同じである。
そうすると、相違点3-1及び3-2について検討するまでもなく、上記2(1)アで示したのと同様の理由により、甲3発明及び甲1発明、甲2、4~6記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~5
本件発明2~5は、本件発明1の構成をすべて含み、請求項2~5に記載された事項により限定をさらに付加したものである。
そうすると、本件発明2~5も、上記(1)で示したのと同様の理由により、甲3発明及び甲1発明、甲2、4~6記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第6 むすび
したがって、本件発明1~5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700891