特許異議申立
2021-700883
ガスバリア積層体
- 審判番号
- 2021-700883
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-508087
- 登録番号
- 6879292
- 請求日
- 2021年09月14日
- 審決日
- 2023年03月10日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】栗 暢行
- 審判長/審判官
- 審判長 平塚 政宏
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6879292号発明「ガスバリア積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6879292号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第6879292号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6879292号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月28日(優先権主張 平成28年4月1日 平成28年10月3日)を国際出願日とする特願2018-508087号に係る特許出願であって、令和3年5月7日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年6月2日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月14日に特許異議申立人 栗 暢行(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、令和4年3月25日付けで取消理由が通知され、同年5月30日に特許権者 凸版印刷株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年6月3日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、特許異議申立人から応答がなかったが、同年9月30日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、同年12月6日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月15日付けで訂正請求があった旨の通知がされたものの、特許異議申立人から応答がなかったかったものである。
なお、令和4年12月6日にされた訂正請求により、同年5月30日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和4年12月6日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりであって、請求項1ないし7という一群の請求項について訂正するものである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有するフィルム基材と、一層以上の金属酸化物層と、前記金属酸化物層の上に形成された保護層とを少なくとも備え」とあるのを、「ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有する二軸延伸フィルム基材と、前記二軸延伸フィルム基材の上にコーティング剤が塗工されて形成された塗膜を乾燥させた、1m2あたりの質量0.01~10gのアンカーコート層と、前記アンカーコート層の上に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の上に形成された保護層とを少なくとも備え」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし7についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「熱収縮率が0.6%以上3.0%未満」とあるのを、「熱収縮率が0.6%以上0.9%以下」と訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし7についても同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1に係る請求項1ないし7の訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、請求項1に記載の「ガスバリアフィルム」について、その構成を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、明細書の段落【0027】、【0032】、【0033】、【0035】及び【実施例】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項1に係る請求項2ないし7の訂正も同様である。
(2) 訂正事項2に係る請求項1ないし7の訂正について
訂正事項2による請求項1についての訂正は、請求項1に記載の「熱収縮率」について、その数値範囲を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項1についての訂正は、明細書の段落【0084】の表3の実施例3A及び実施例4Aの記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2に係る請求項2ないし7の訂正も同様である。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1ないし7についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2による請求項1ないし7についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4ないし6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、本件特許発明1ないし7を総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有する二軸延伸フィルム基材と、前記二軸延伸フィルム基材の上にコーティング剤が塗工されて形成された塗膜を乾燥させた、1m2あたりの質量0.01~10gのアンカーコート層と、前記アンカーコート層の上に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の上に形成された保護層とを少なくとも備え、150℃で30分加熱された後の、走行方向(MD方向)の、下記式で表わされる熱収縮率が0.6%以上0.9%以下であるガスバリアフィルムと、
接着層と、
シーラント層と、
をこの順序で備えるガスバリア積層体であって、
前記保護層が、水溶性高分子と、一種以上の金属アルコキシドの加水分解物とを含み、
酸素透過度が0.06~0.08cc/m2・day・atmであり、
当該ガスバリア積層体から作製されたパウチに200gの水を入れてシールしたものを121℃で30分にわたってレトルト処理した後における酸素透過度が0.4~0.7cc/m2・day・atmである、ガスバリア積層体。
熱収縮率=(加熱前の長さ-加熱後の長さ)/加熱前の長さ×100(%)
【請求項2】
前記金属酸化物層の少なくとも一層がAl及びSiの少なくとも一種を含有している、請求項1に記載のガスバリア積層体。
【請求項3】
前記フィルム基材の厚さが6μm以上200μm以下である、請求項1又は2に記載のガスバリア積層体。
【請求項4】
前記フィルム基材の突刺強度が8.5N以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のガスバリア積層体。
【請求項5】
突刺強度が9.0~10.8Nである、請求項1~4のいずれか一項に記載のガスバリア積層体。
【請求項6】
水蒸気透過度が0.4~0.6g/m2・dayである、請求項1~5のいずれか一項に記載のガスバリア積層体。
【請求項7】
前記レトルト処理した後における水蒸気透過度が1.0~1.5g/m2・dayである、請求項1~6のいずれか一項に記載のガスバリア積層体。」
第4 特許異議申立書に記載された申立ての理由の概要
特許異議申立書に記載された申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にこの発明の技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2-1(サポート要件その1)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許の請求項1に係る発明は、レトルト処理前後のバリア性という課題を解決するために、ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有するフィルム基材を採用したものである。そして、「主たる構成単位」に関して、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0054】
本実施形態において、プチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂とは、該樹脂のジカルボン酸成分とグリコール成分が結合してなる繰り返し単位の60質量%以上がブチレンテレフタレート単位からなることを意味している。」
ところで、本件発明の詳細な説明には実施例1A~実施例4Aが記載されているが、これら4つの実施例におけるポリブチレンテレフタレート樹脂成分は「主成分(複数のポリエステル成分のうち最も多い成分)」(【0080】)としか記載されておらず、ジカルボン酸成分とグリコール成分が結合してなる繰り返し単位の60質量%以上がブチレンテレフタレート単位であるか否かは不明である。
そして、樹脂成分の含有量が異なれば、その性質も変わるという技術常識に鑑みると、「主成分(複数のポリエステル成分のうち最も多い成分)」としか記載されていない実施例だけでは、当業者といえども、ジカルボン酸成分とグリコール成分が結合してなる繰り返し単位の60質量%以上という数値範囲にわたって課題を解決できると認識することはできないため、本件特許の請求項1に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。引用する請求項2ないし7についても同様である。
3 申立理由2-2(サポート要件その2)
本件特許の請求項3ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許の請求項3に係る発明では「フィルム基材の厚さを6μm以上200μm以下」との特定事項を有するが、実施例においては15μmのものしか確認していないので、請求項3ないし7はサポートされていない。
4 申立理由3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・請求項1には「ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有するフィルム基材」と記載されている。この「主たる構成単位」に関連して、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0054】本実施形態において、プチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂とは、該樹脂のジカルボン酸成分とグリコール成分が結合してなる繰り返し単位の60質量%以上がブチレンテレフタレート単位からなることを意味している。」
「【0080】[示走査熱量計(DSC)による基材フィルム分析結果]
測定結果を表1及び表2に示す。PET成分はポリエチレンテレフタレート樹脂成分、PBT成分はポリブチレンテレフタレート樹脂成分を意味し、「B」が成分を含む、「A」は主成分(複数のポリエステル成分のうち最も多い成分)として含む、「-」は含まないもの、をそれぞれ表す。」
そして、請求項1における「主たる構成単位」とは、発明の詳細な説明に記載された定義に基づけば「該樹脂のジカルボン酸成分とグリコール成分が結合してなる繰り返し単位の60質量%以上がブチレンテレフタレート単位からなる」ものと解される一方で、本件特許の請求項1に係る発明の実施例が記載されているという観点からすれば「主成分(複数のポリエステル成分のうち最も多い成分)」とも解される。
このように請求項1に記載された「ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有するフィルム基材」の意味するところが定まらず、結局のところ本件特許の請求項1に係る発明は明確でない。引用する請求項2ないし7についても同様である。
5 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1) 熱収縮率をどのように制御するのかわからず、過度の試行錯誤を要する。
(2) 請求項1の「主たる構成単位」がわからないため、実施できない。
(3) 本件特許の請求項1に係る発明における酸素透過度に関する発明特定事項(以下、「構成要素I及びJ」という。特許異議申立書第7~8頁の分説を参照。以下同じ。)が、本件特許の請求項1に係る発明における酸素透過度以外の発明特定事項(以下、「構成要素A~H」という。)を満たすことによって達成されないのであれば、どのようにして達成するのかの記載がなく、実施可能要件を満たさない。
(4) 請求項4及び5の発明について、それらで特定する事項が、構成要素A~Hを満たすことによって達成されないのであれば、どのようにして達成するのか記載がなく、実施可能要件を満たさない。
(5) 請求項6及び7の発明について、それらで特定する事項が、構成要素A~Hを満たすことによって達成されないのであれば、どのようにして達成するのか記載がなく、実施可能要件を満たさない。
6 証拠方法
甲第1号証:特開2005-97560号公報
甲第2号証:特開2006-7566号公報
甲第3号証:特開2013-208915号公報
甲第4号証:特開2007-196550号公報
甲第5号証:特開2011-143714号公報
甲第6号証:特開2009-202390号公報
甲第7号証:国際公開第2014/077197号
甲第8号証:特開2015-150836号公報
以下、甲1のようにいう。
第5 取消理由<決定の予告>に記載した取消理由の概要
当審が令和4年9月30日付けで特許権者に通知した取消理由<決定の予告>の概要は、次のとおりである。
取消理由1(進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2ないし4に記載の技術事項に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断
以下に述べるように、当審が令和4年9月30日付けで特許権者に通知した取消理由1には理由がないと判断する。
1 甲1に記載された事項等
(1) 甲1に記載された事項及び甲1発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付したものである。以下同じ。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方向の初期弾性率が2.5~10GPa、衝撃強度が40~10000J/mm、少なくとも一方向の150℃での熱収縮率が-0.5~6%であり、ヘイズが0.001~7%であることを特徴とするポリエステルフィルム。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、各種食品包装用、一般工業用、光学用、電気材料用、成形加工用、フィルムラミネート金属板の構成材料用などに適し、熱寸法安定性に優れたポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート系樹脂に代表されるポリエステルからなるフィルムは、力学的特性、耐熱性などから様々な用途に展開されている。しかし、柔軟性や成形加工性に劣るため、使用に適さない用途も見られる。一方、6-ナイロンに代表されるポリアミドからなるフィルムは、柔軟性、耐ピンホール性やガスバリア性に優れるため、食品包装材料などとして多数使用されている。しかし、吸湿による寸法安定性が乏しいため、ボイル処理やレトルト処理を行う食品包装用途や工業用途には使用することが難しい。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来のフィルムの有する問題点に鑑みなされたものであって、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、絶縁性、熱寸法安定性に優れ、かつ強靱性、耐ピンホール性、耐屈曲性、耐落下破袋性及び耐衝撃性等を要求される分野であるボイルやレトルト処理を必要とする分野、熱成形や真空成形が可能な分野、水分含有食品や薬品等の包装袋など各種用途に供するのに適したポリエステルフィルムを提供することにある。」
・「【0026】
本発明のポリエステルフィルムは、厚みが通常3~1000μm、好ましくは3~100μm、より好ましくは5~70μm、特に好ましくは8~30μmである。
【0027】
本発明のポリエステルフィルムは、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂A10~90重量%とポリブチレンテレフタレート系樹脂及び/又はポリトリメチレンテレフタレート系樹脂B90~10重量%とを配合したポリエステル系樹脂組成物からなるフィルムである。ポリエステル系樹脂組成物中ポリエチレンテレフタレート系樹脂A(以下、樹脂Aと略記することがある。)が10~90重量%、好ましくは15~70重量%、より好ましくは20~49重量%、ポリブチレンテレフタレート系樹脂及び/又はポリトリメチレンテレフタレート系樹脂B(以下、樹脂Bと略記することがある。)が90~10重量%、好ましくは85~30重量%、より好ましくは80~51重量%、それぞれ配合されてなるものである。樹脂Aが10重量%未満では、樹脂Bの結晶化速度が速いため延伸性が乏しくなり製膜時の破断がしやすく、樹脂Aが90重量%より多い場合は柔軟性が不足する。樹脂Bが10重量%未満では、柔軟性が不足し、樹脂Bが90重量%を越えると樹脂Bの結晶化速度が速いためフィルムの延伸性が乏しくなり製膜時の破断が起こりやすくなる。」
・「【0051】
得られた未延伸シートを速度差のある50~100℃の一対の延伸ロールに導き、2.5~5倍に縦方向に延伸し、その縦延伸シートをテンターに導き60~120℃の温度で2.5~5倍に横方向に延伸する。このとき、必要に応じて縦方向、横方向の延伸を温度、倍率を変えて2段階で行うことも任意である。次いで、180~230℃で熱固定することによりポリエステルフィルムを得ることができる。」
・「【0083】
本発明のポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に無機酸化物蒸着層を形成させることができる。本発明において無機酸化物蒸着層を形成するのに好適な無機酸化物としては、透明性とガス遮断性を示す無機酸化物の蒸着層が形成できればよく金属の酸化物、非金属の酸化物が広く用いられ、特に酸化珪素及び/又は酸化アルミニウムを主成分とした蒸着層が好適である。」
・「【0091】
3.熱収縮率
サンプルを10mm×150mmにカットし、100mm間隔で標線を入れたものを10本作成する。その後、無荷重下で150℃のギアオーブン中に30分間放置し、取り出した後に室温で標線の間隔を測定して、下式に従い求め、10本の平均値を各サンプルの熱収縮率(%)とした。
【0092】
熱収縮率=((A-B)/A)×100
A:加熱前の標線の間隔距離
B:加熱後の標線の間隔距離」
・「【0096】
6.衝撃強度
フィルムインパクトテスター(東洋精機製作所社製:製造番号T-84-3)を使用し、測定フィルムをクランプで押さえ付け、1/2インチ径半球衝撃ヘッドで突き刺し、サンプルの衝撃強度を測定した。サンプルは10枚用意し、インパクトする面を変え5枚ずつ測定した。サンプルは100mm×100mm以上に切り、サンプルを固定するリングは内径30mmであった。求めたサンプルの衝撃強度の平均値を求め、その値を厚さ1mmあたりに換算してフィルムの衝撃強度(J/mm)として求めた。
【0097】
7.ガスバリア性
蒸着源として、3~5mm程度の大きさの粒子状のAl2O3(純度99.5%)とSiO2(純度99.9%)を用い、実施例、比較例において得られたポリエステルフィルムの一方の面に固形分0.3g/m2の接着改質層(ポリエステル樹脂水分散体(東洋紡績社製:MD1200:固形分30重量%)100重量部、メチル化メラミン(住友化学社製:M-30W)40重量部、水410重量部、イソプロピルアルコール50重量部の混合液をワイヤーバーでコートし、160℃1分乾燥して形成した層)を形成し、次いで真空蒸着装置へ送り、チャンバー内を1.5×10-5Torrの圧力に保持し、SiO270重量%とAl2O330重量%の混合無機酸化物を15kwの電子線加熱によって蒸発させ、厚さ220Åの無色透明な無機蒸着層を接着改質層上に形成した。
その後、酸素透過度を酸素透過度測定装置(ModernContorols社製:OX-TRAN・10/50A)を使用し、湿度50%、温度25℃で測定した。単位はmL/(m2・MPa・24hours)。水蒸気透過度を水蒸気透過度測定装置(ModernContorols社製:PERMATRAN)を使用し、湿度0%、温度25℃で測定した。単位はg/(m2・24hours)。食品包装の点から、酸素は50mL/(m2・MPa・24hours)以下、水蒸気は5.0g/(m2・24hours以下を合格とした。
【0098】
8.ボイル処理後のガスバリア性
上記(7.)の方法で蒸着層を設けたサンプルを15cm×15cmで10枚用意し、3リットルの容器中で95℃の熱水中に攪拌しながら、30分間浸漬した後に23℃65RH%に24hr放置した後に、6項と同様に酸素透過度、水蒸気透過度を測定した。食品包装の点から、酸素は50mL/(m2・MPa・24hours)以下、水蒸気は10g/(m2・24hours)以下を合格とした。
【0099】
9.レトルト処理後のガスバリア性
上記(7.)の方法で蒸着層を設けたサンプルを125℃、30分間オートクレーブ中で処理した後に23℃65RH%に24hr放置した後に、上記と同様に酸素透過度、水蒸気透過度を測定した。食品包装の点から、酸素は50mL/(m2・MPa・24hours)以下、水蒸気は10g/(m2・24hours以下を合格とした。」
・「【0119】
(実施例7)
(コート液の調整)
ポリエステル樹脂水分散体(東洋紡績社製:MD1200、固形分30重量%)100重量部、メチル化メラミン(住友化学社製:M-30W)40重量部、コロイダルシリカ粒子(日産化学工業社製:スノーテックスOL、平均粒径40nm)の20重量%水分散液20重量部、水410重量部、イソプロピルアルコール50重量部を混合し、固形分濃度10%の塗布液を調製した。
【0120】
(フィルムの作成)
樹脂Aとして予め二酸化珪素(F)(富士シリシア社製:サイリシア310)を2000ppm重合時に添加したポリエチレンテレフタレート樹脂(A1)(還元粘度0.75)、樹脂Bとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(B1)(還元粘度1.20)、また有機リン化合物(旭電化工業社製:アデカスタブPEP-45)を1%添加したポリブチレンテレフタレート樹脂(B2)(還元粘度1.10)、ポリエステルCとして予めタルク(D)(電顕法による平均粒径3.5μm)を2%重合時に添加したポリブチレンテレフタレート(C1)、(共重合モノマー:テレフタル酸/セバシン酸//エチレングリコール/1,4-ブタンジオール)(90/10//60/40(モル比)分子量2000)をそれぞれ用意した。それらをA1/B1/B2/C1=40/56/2/2(重量部)となるように単軸押出機(スクリュー65φ:三菱重工業製UB)に投入した。押出機の温度設定は、押出機の供給部(Ex1)、圧縮部(Ex2)、計量部(Ex3)及びフィルタまでの流路、フィルタ部、ダイまでの流路、ダイの温度設定を行うようにし、Ex1は240℃、Ex2からフィルタ部までは260℃、それ以降は255℃に設定して樹脂を供給した。なお、樹脂がT-ダイから押出された直後に実測した樹脂の温度は258℃であった。なおフィルタは200メッシュのものを使用した。T-ダイから押出された樹脂は、静電密着法にて20℃に冷却したロール上で急冷し、厚さ約200μmの未延伸シートを得た。そのシートを、ロール延伸機に供給し、63℃で3.3倍に縦方向に延伸した。その後にワイヤーバーでコート液を塗布し、70℃の熱風を20m/秒で30秒間コート面に当てることにより乾燥し、引き続いてテンター内において88℃で3.6倍に横延伸し、そのままテンター内にて200℃で約10秒、220℃で約10秒、4%横方向に緩和しながら、約16μmのポリエステルフィルムを得た。
【0121】
また、得られたポリエステルフィルムの易接着性塗布層(コート層)の表面にSiO2とAl2O3の混合無機酸化物からなる厚さ220Åの無色透明な蒸着層を持つポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価してその結果を表3に示す。」
・「【0123】
(実施例9)
各樹脂の混合比率をA1/B1/B2/C1=25/71/2/2(重量部)とした以外は、実施例7と同様の方法でポリエステルフィルム及び蒸着層を形成したポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を評価してその結果を表3に示す。」
・「【0127】
(実施例11)
コート液を以下のようにした以外は、実施例9と同様の方法において、ポリエステルフィルム及び蒸着層を形成したポリエステルフィルムを得た。
【0128】
(共重合ポリエステルの調製)
攪拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備したステンレススチール製オートクレーブに、ジメチルテレフタレート345部、1,4-ブタンジオール211部、エチレングリコール270部、およびテトラ-n-ブチルチタネート0.5部を仕込み、160℃から220℃まで、4時間かけてエステル交換反応を行った。次いで、フマル酸14部及びセバシン酸160部を加え、200℃から220℃まで1時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、0.22mmHgの減圧下で1時間30分反応させ、共重合ポリエステルを得た。得られたポリエステルは、重量平均分子量20000、淡黄色透明であった。
【0129】
(自己架橋性ポリエステル系グラフト共重合体)
攪拌機、温度計、還流装置と定量滴下装置を備えた反応器に、上記共重合ポリエステル樹脂75部、メチルエチルケトン56部及びイソプロピルアルコール19部を入れ、65℃で加熱、攪拌し、樹脂を溶解した。樹脂が完溶した後、無水マレイン酸15部をポリエステル溶液に添加した。次いで、スチレン10部、およびアゾビスジメチルバレロニトリル1.5部を12部のメチルエチルケトンに溶解した溶液を0.1mL/minでポリエステル溶液中に滴下し、さらに2時間攪拌を続けた。反応溶液から分析用のサンプリングを行った後、メタノール5部を添加した。次いで、水300部とトリエチルアミン15部を反応溶液に加え、1時間攪拌した。その後、反応器内温を100℃に上げ、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、過剰のトリエチルアミンを蒸留により留去し、水分散グラフト重合樹脂を得た。該水分散グラフト樹脂は淡黄色透明で、ガラス転移温度-10℃であった。
【0130】
(コート液の調整)
該水分散グラフト樹脂とポリエステル系樹脂として、テレフタル酸/イソフタル酸/5-スルホイソフタル酸/エチレングリコール/1,4-ブタンジオールを25/20/5/25/25(重量比)で共重合させた水系ポリエステル樹脂とを重量比で90:10、固形分濃度10%になるように水:イソプロピルアルコール=9:1(重量比)で希釈したものをコート液とした。得られたフィルムの特性を評価してその結果を表3に示す。
」
・「【0135】
【表3】
[図:0001398217000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1には、特に、実施例7、9、11の記載からみて、以下の発明が記載されていると認める。
<甲1発明>
「ガスバリア性、強靭性、耐ピンホール性、耐屈曲性、耐落下破袋性及び耐衝撃性等を要求される分野であるボイルやレトルト処理を必要とする食品包装分野の用途に適したポリエステルフィルムであって、
ポリブチレンテレフタレート樹脂 (B1)と有機リン化合物を1%添加したポリプチレンテレフタレート樹脂(B2)の合計が73重量部%となるように配合し、その表面にコート層が形成された、厚さが約16μmのポリエステルフィルムにおいて、
当該コート層の表面に、SiO2とAl2O3の混合無機酸化物からなる蒸着層が形成されており、
当該蒸着層を形成したポリエステルフィルムは、150℃のギアオーブン中に30分間放置する前後において、下記式で表される縦方向の熱収縮率が1.9%又は2.5%であり、3リットルの容器中で95℃の熱水中に攪拌しながら、30分間浸漬した後に23℃65RH%に24hr放置するボイル処理前の酸素透過度が14又は12mL/(m2・MPa・24hours)であり、ボイル後の酸素透過度が15~24mL/(m2・MPa・24hours)であるポリエステルフィルム。
熱収縮率 =((A-B)/A)×100
A:加熱前の標線の間隔距離
B:加熱後の標線の間隔距離」
(2) 甲2ないし4に記載されている技術事項
甲2ないし甲4の記載から、下記の技術事項が、本件優先日前に周知技術であったといえる。
「ボイル殺菌やレトルト殺菌などの加熱殺菌処理や、レトルト調理などにおける加熱処理が施される包装袋や包装容器などの包装体の構成材料として好適に用いることができる、加熱処理耐性を有するガスバリアフィルム積層体であって、
ガスバリアフィルム上の無機酸化物からなる蒸着薄膜層の上にSi(OR1)4およびR2Si(OR3)3(R1、R3は加水分解性基、R2は有機官能基である。)で表されるケイ素化合物あるいはその加水分解物並びに水酸基を有する水溶性高分子とを少なくとも含有する混合溶液を用い、この混合溶液からなる薄膜を加熱乾燥させてなるガスバリア性被膜層を無機酸化物からなる蒸着薄膜層の上に積層させ、ガスバリア性被膜層の上に、接着剤を介してヒートシール層を積層した積層体。」
2 本件特許発明と甲1発明との対比・判断
(1) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「ポリエステルフィルム」は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(B1)と有機リン化合物を1%添加したポリブチレンテレフタレート樹脂(B2)の合計が73重量部%となるように配合されているから、本件特許発明1における「ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有するフィルム基材」に相当する。
甲1発明における「SiO2とAl2O3の混合無機酸化物からなる蒸着層」は、本件特許発明1における「一層以上の金属酸化物層」に相当する。
甲1発明における「縦方向」は、甲1の「未延伸シートを速度差のある50~100℃の一対の延伸ロールに導き、2.5~5倍に縦方向に延伸し、その縦延伸シートをテンターに導き60~120℃の温度で2.5~5倍に横方向に延伸する。」(【0051】)との記載を踏まえると、本件特許発明1における「走行方向(MD方向)」に相当する。
甲1発明における熱収縮率の算出式は、本件特許発明1における熱収縮率の算出式と同ーであるから、甲1発明における「熱収縮率」は、本件特許発明1における「熱収縮率」に相当している。
甲1発明は、食品包装分野の用途に適したガスバリア性を備えたポリエステルフィルムであるから、本件特許発明1の「ガスバリア積層体」を構成している「ガスバリアフィルム」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
ガスバリア積層体を構成している「ガスバリアフィルム」の限りにおいて、
「ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有する二軸延伸フィルム基材と、一層以上の金属酸化物層とを少なくとも備え、150℃で30分加熱された後の、走行方向(MD方向)の、下記式で表わされる熱収縮率を有するガスバリアフィルム。
熱収縮率 =(加熱前の長さ-加熱後の長さ)/加熱前の長さ×100(%)」
で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件特許発明1は、ガスバリアフィルムと、ガスバリアフィルムの上にコーティング剤が塗工されて形成された塗膜を乾燥させた、1m2あたりの質量0.01~10gのアンカーコート層と、前記アンカーコート層の上に形成された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の上に形成された、水溶性高分子と一種以上の金属アルコキシドの加水分解物を含む保護層を備えるとともに、接着層と、シーラント層と、をこの順序で備えるガスバリア積層体であるのに対して、甲1発明は、SiO2とAl2O3の混合無機酸化物からなる蒸着層の上に保護層が設けられておらず、接着層及びシーラント層を有していない点
<相違点2>
本件特許発明1は、ガスバリア積層体の酸素透過度が0.06~0.08cc/m2・day・atmであり、当該ガスバリア積層体から作製されたパウチに200gの水を入れてシールしたものを121℃で30分にわたってレトルト処理した後における酸素透過度が0.4~0.7cc/m2・day・atmであるのに対し、甲1発明は、ガスバリアフィルムのレトルト処理前の酸素透過度が14又は12mL/(m2・MPa・24hours)であり、3リットルの容器中で95℃の熱水中に攪拌しながら、30分間浸漬した後に23℃65RH%に24hr放置するボイル処理後の酸素透過度が15~24mL/(m2・MPa・24hours)である点(酸素透過度を本件特許発明1の単位に換算すると、処理前は、1.42又は1.21であり、処理後は、1.52~2.43)
<相違点3>
フィルム基材(ガスバリアフィルム)の熱収縮率に関し、本件特許発明1は「0.6%以上0.9%以下」と特定するのに対し、甲1発明は、1.9%又は2.5%である点
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1発明において、フィルム基材(ガスバリアフィルム)の熱収縮率を、相違点3に係る範囲とする動機はない。そして、特許異議申立人が提示するいずれの証拠にも、ガスバリアフィルムの熱収縮率が相違点3に係る範囲のものは提示されていない。
また、本件特許発明1は、相違点3に係る発明特定事項とすることで、長所補完のためにPETとONYの両方の層を用いることなく、レトルト処理等の熱水処理を行っても優れたガスバリア性を維持することができるとともに、突刺強度、及び物理衝撃に対する強度にも優れたガスバリア積層体が得られるとともに、長所補完のためにPETとONYの両方の層を用いることなく、レトルト処理等の熱水処理を行っても優れたガスバリア性を維持することができるとともに、物理衝撃に対する強度にも優れたガスバリア積層体を得ることができるという格別の効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明において、相違点3に係る発明特定事項とすることは当業者といえども容易に想到し得たものということはできない。
よって、その余の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及びその他の提示された証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第7 取消理由<決定の予告>に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由<決定の予告>に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由2-1、2-2(サポート要件)、申立理由3(明確性)、申立理由4(実施可能要件)であるので、以下、順に検討する。
1 申立理由2-1及び申立理由2-2(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2) 判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0012】の記載からみて、本件特許発明1ないし7の解決しようとする課題は「長所補完のためにPETとONYの両方の層を用いることなく、レトルト処理等の熱水処理を行っても優れたガスバリア性を維持することができるとともに、突刺強度、及び物理衝撃に対する強度にも優れたガスバリア」積層体を得ること(以下、「発明の課題」という。)である。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0013】に「本開示の第一の側面に係るガスバリアフィルムは、ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有するフィルム基材と、一層以上の金属酸化物層とを少なくとも備え、150℃で30分加熱された後の、走行方向(MD方向)の、下記式で表わされる熱収縮率が0.6%以上3%未満である。
熱収縮率=(加熱前の長さ-加熱後の長さ)/加熱前の長さ×100(%)」と記載されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0053】ないし【0062】には、ガスバリアフィルムの構造や、引張弾性率とその調整方法、熱収縮率とその調整方法、さらには保護層についての記載がある。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0063】ないし【0101】において、「ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有するフィルム基材と、一層以上の金属酸化物層とを少なくとも備え、150℃で30分加熱された後の、走行方向(MD方向)の、下記式で表わされる熱収縮率が0.6%以上3%未満である。
熱収縮率=(加熱前の長さ-加熱後の長さ)/加熱前の長さ×100(%)」であるガスバリアフィルムで形成される積層体の実施例がレトルト処理等の熱水処理を行っても優れたガスバリア性を維持することができるとともに、突刺強度、及び物理衝撃に対する強度にも優れたガスバリア積層体であることを確認している。
そうすると、当業者は、「ブチレンテレフタレート単位を主たる構成単位とするポリエステル樹脂を含有するフィルム基材と、一層以上の金属酸化物層とを少なくとも備え、150℃で30分加熱された後の、走行方向(MD方向)の、下記式で表わされる熱収縮率が0.6%以上3%未満である。
熱収縮率=(加熱前の長さ-加熱後の長さ)/加熱前の長さ×100(%)」であるガスバリアフィルムで形成される積層体であれば、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし7は、上記発明の課題を解決できると認識できる積層体をさらに限定し、積層体の熱水処理前と熱水処理後の酸素透過度を規定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 2及び3の主張について検討する。
ア 上記第4 2の主張について
本件特許発明1の「主たる構成単位」は、発明の詳細な説明の段落【0054】に定義されているとおり、結合してなる繰り返し単位の60質量%以上を意味していることは明らかで、その実施例がその範囲にあるものであることは自明であって、特許異議申立人の主張は失当であって採用できない。
イ 上記第4 3の主張について
本件特許発明のサポート要件については上記(2)のとおり判断され、フィルム基材の厚さは発明の課題の解決手段とは関係がない。よって、特許異議申立人の主張は失当であって採用できない。
(4) 申立理由2-1及び申立理由2-2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2-1及び申立理由2-2によっては取り消すことはできない。
2 申立理由3(明確性)について
(1) 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2) 判断
本件特許の請求項1ないし7の記載は、上記第3のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載及び図面とも整合する。
したがって、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 6の主張について検討する。
本件特許発明1の「主たる構成単位」は、発明の詳細な説明の段落【0054】に定義されているとおり、結合してなる繰り返し単位の60質量%以上を意味していることは明らかで、その実施例がその範囲にあるものであることも自明であって、特許異議申立人の主張は失当で、採用できない。
(4) 申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由6によっては取り消すことはできない。
3 申立理由4(実施可能要件)について
(1) 判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし7は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2) 判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明を構成する基材フィルム、アンカーコート層、金属酸化物層、保護層、接着層、シーラント層について、段落【0021】~【0062】において説明されており、熱収縮率についての調整方法についても段落【0059】に記載されている。そして、具体的な実施例の記載もある。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし7を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし7に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。
(3) 特許異議申立人の主張について
上記第3 5における特許異議申立人の主張について検討する。
ア 5(1)について
当業者は、段落【0059】の記載及び技術常識に基づいて熱収縮率を調整できるから、当該主張は採用できない。
イ 5(2)について
上記3で判断したとおりであって、当該主張は採用できない。
ウ 5(3)、(4)および(5)について
構成要件I及びJとそれ以外の構成要件(構成要件A~H)を共に満たすものが本件特許発明1であるから、特許異議申立人の主張は、その前提において誤っており、採用できない。
(4) 申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第8 むすび
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700883