2021-700882
接着剤塗付設備
- 審判番号
- 2021-700882
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-042685外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6856794
- 請求日
- 2021年09月14日
- 審決日
- 2023年01月11日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】田中精密工業株式会社
- 【権利者代理人】岩谷 龍
- 【権利者代理人】上田 ▲茂▼
- 【異議申立人】山田 芳男
- 分類
- P1652.113-YAA(H02K) / P1652.121-YAA(H02K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 14項目
第1 手続の経緯
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特許第6856794号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和2年3月12日に特許出願され、令和3年3月22日にその特許権の設定登録がされ、同年4月14日に特許掲載公報が発行された。本件特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 9月14日 特許異議申立人山田芳男(以下「申立人」
という。)による請求項1、3~6に係る
特許に対する特許異議の申立て
令和3年12月24日付け 取消理由通知書
令和4年 2月18日 特許権者による意見書、訂正請求書の提出
令和4年 4月 5日 申立人による意見書の提出
令和4年 5月30日付け 取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 8月 3日 特許権者による意見書、訂正請求書の提出
令和4年10月 7日付け 取消理由通知書
令和4年11月29日 特許権者による意見書、訂正請求書の提出
なお、令和4年11月29日に訂正の請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、令和4年2月18日にした訂正の請求、及び令和4年8月3日にした訂正の請求は取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
特許権者が令和4年11月29日にした訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(下線は、訂正箇所を示すために当審で付したものである。)。
[訂正事項1]
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「上記接着剤塗付装置の上面から上記接着剤吐出孔までの距離は所定の距離に固定されていることを特徴とする」と記載されているのを、「上記接着剤塗付装置の上面から上記接着剤吐出孔までの距離は所定の距離に固定されており、さらに上記接着剤吐出孔が接着剤塗布装置の端面から内側に凹状にへこんでいる円環状及び円弧形状の溝状塗付部に設けられているか又は当該凹状のへこみは円周に沿って深さ方向に一様の深さにへこんだ溝状ではなく、接着剤吐出孔ごとに座ぐり状のへこみに形成されていることを特徴とする」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)。
2 訂正の対象となる請求項(一群の請求項)
訂正前の請求項2~6は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~6〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件の適否
(1) 訂正の目的の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「接着剤吐出孔」について、「接着剤塗布装置の端面から内側に凹状にへこんでいる円環状及び円弧形状の溝状塗付部に設けられているか又は当該凹状のへこみは円周に沿って深さ方向に一様の深さにへこんだ溝状ではなく、接着剤吐出孔ごとに座ぐり状のへこみに形成されている」ことを限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2) 新規事項の有無
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の段落【0017】には、「10は内側接着剤塗布装置3の円環状の溝状塗布部、11は外側接着剤塗布装置4の円弧形状の溝状塗布部である。」と記載され、段落【0021】には、「円環状の溝状塗布部10と円弧形状の溝状塗布部11は水平面から少しへこんだ(内側に離れた)位置にある」と記載されている。そして、前記段落【0021】の記載における「水平面」は、本件特許明細書の段落【0022】の「帯状薄鋼板2と、内側接着剤塗付装置3の上面、外側接着剤塗付装置4の上面、・・・(中略)・・・との間には所定の間隔(数mm程度)が設けられている。」及び「帯状薄鋼板2の下面を内側接着剤塗付装置3又は外側接着剤塗付装置4のいずれかの上面に当接させることができる。」との記載を踏まえると、「内側接着剤塗付装置3の上面(端面)」及び「外側接着剤塗付装置4の上面(端面)」を指すものと解される。
また、本件特許明細書の段落【0021】には、「円環状の溝状塗布部10と円弧形状の溝状塗布部11が凹状にへこんでいると、・・・(中略)・・・という利点がある。」との記載に続けて、「又、凹状のへこみは必ずしも円周に沿って深さ方向に一様の深さにへこんだ溝状である必要はなく、吐出孔26と27毎に座ぐり状(段付き状)に設けてもよい。」とも記載されている。
そうすると、本件特許明細書には、「接着剤吐出孔が接着剤塗布装置の端面から内側に凹状にへこんでいる円環状及び円弧形状の溝状塗付部に設けられているか又は当該凹状のへこみは円周に沿って深さ方向に一様の深さにへこんだ溝状ではなく、接着剤吐出孔ごとに座ぐり状のへこみに形成されている」ことが記載されているから、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものである。
(3) 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、前記(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4) 独立特許要件の適否
訂正前の請求項1、3~6に係る発明について特許異議の申立てがされているので、訂正後の請求項1、3~6に係る訂正事項1に関して、独立特許要件は課されない。
また、後記「第6」に示すように、訂正後の請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しないから、訂正後の請求項1をさらに限定した訂正後の請求項2に係る発明は、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものである。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項において準用する同法第126条第5項から第7項までの規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】帯状薄鋼板から上金型と下金型を有する金型装置により所定形状に打ち抜かれた鉄心を積層して互いに接着するために当該帯状薄鋼板に接着剤を塗付する設備であって、帯状薄鋼板の接着剤塗付面に向けて接着剤を吐出する複数の接着剤吐出孔を備える接着剤塗付装置と、上記接着剤塗付装置のみを昇降させることが可能な手段と、上記接着剤塗付装置に対して所定圧力で接着剤を供給する接着剤供給口とを有し、上記帯状薄鋼板が下金型に当接した際に上記帯状薄鋼板が接着剤塗付装置の端面に当接し、上記帯状薄鋼板の下面と接着剤吐出孔との距離を所定の距離に保つように、上記帯状薄鋼板に当接する接着剤塗付装置の端面に対して、上記接着剤吐出孔は内側に離間し、上記帯状薄鋼板の下面と上記接着剤吐出孔との距離を一定に保つように、上記接着剤塗付装置の上面から上記接着剤吐出孔までの距離は所定の距離に固定されており、さらに上記接着剤吐出孔が接着剤塗布装置の端面から内側に凹状にへこんでいる円環状及び円弧形状の溝状塗付部に設けられているか又は当該凹状のへこみは円周に沿って深さ方向に一様の深さにへこんだ溝状ではなく、接着剤吐出孔ごとに座ぐり状のへこみに形成されていることを特徴とする接着剤塗付設備。【請求項2】同一工程内に複数の接着剤塗付装置を有し、上記同一工程内の複数の接着剤塗付装置が同時に又は異なる時期に、それぞれ独立して帯状薄鋼板の同一面の異なる部分に接着剤を塗付することが可能であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤塗付設備。続きを表示(全12行)【請求項3】接着剤塗付装置は帯状薄鋼板の上側または下側にあることを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤塗付設備。【請求項4】帯状薄鋼板が所定形状に打ち抜かれるタイミングにおいて、帯状薄鋼板を接着剤塗付装置に当接させるための手段を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の接着剤塗付設備。【請求項5】複数の接着剤吐出孔が連通していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の接着剤塗付設備。【請求項6】接着剤の温度上昇手段を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の接着剤塗付設備。」
第4 取消理由の概要
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
令和4年2月18日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3~6に係る特許に対して、当審が令和4年5月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1、3~5に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献3及び4に示される周知技術に基いて、また請求項6に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献3及び4に示される周知技術、引用文献2に示される周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献一覧>
引用文献1 特開2009-124828号公報(申立人が提出した
甲第1号証)
引用文献2 特開2019-150813号公報
引用文献3 国際公開第2019/180856号
引用文献4 国際公開第2018/127983号
2 令和4年10月7日付け取消理由通知に記載した取消理由について
令和4年8月3日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の本件訂正前の請求項1、3~6に係る特許に対して、当審が令和4年10月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
請求項1、3~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1) 請求項1には、「接着剤吐出孔」と「円環状の溝状塗布部及び円弧形状の溝状塗布部」との関係が何ら記載されておらず、請求項1に係る発明における「円環状の溝状塗布部及び円弧形状の溝状塗布部」の技術的意味(「溝状塗布部」が果たす働きや役割)を理解することができない。
(2) 請求項1における「当該円環状の溝状塗布部及び円弧形状の溝状塗布部が段付き状を呈するように水平面から内側にへこんでいる」との記載について、「段付き状を呈する」との表現により、溝状塗布部についていかなる技術的事項を特定しようとしているのかが不明である。
また、上記記載において、「水平面」がどの機器のどの面を意味するのかが不明である。
第5 引用文献
1 引用文献1
(1) 引用文献1の記載事項
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引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
ア 「【請求項4】前記接着剤塗布手段は、前記吐出孔が複数設けられ、当該複数の吐出孔が連通する接着剤溜まりを有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の積層鉄心の製造装置。」
イ 「【課題を解決するための手段】【0009】上記課題を解決するためになされた第1の発明は、帯状薄鋼板(1)から所定の形状に打抜き形成された鉄心薄板(2)を積層接着してなる積層鉄心(19)の製造装置であって、上金型(4)と下金型(11)とを有し、間欠移送される帯状薄鋼板から鉄心薄板を順次打抜く順送り金型手段(3)と、前記下金型内に設けられ、前記帯状薄鋼板の前記鉄心薄板に対応する部位に接着剤を塗布する接着剤塗布手段(12)とを備え、前記接着剤塗布手段は、前記帯状薄鋼板の接着剤塗布面に向けて接着剤を吐出する吐出孔(62)が設けられた接着剤吐出部(31)と、前記接着剤吐出部に対して常時所定圧力で接着剤を供給する接着剤供給部(32)とを有し、前記上金型が降下してストリッパプレート(10)により前記帯状薄鋼板を前記下金型上面(11a)へと当接させた際に、前記吐出部から吐出される前記接着剤を前記帯状薄鋼板に転写させる構成とする。」
ウ 「【0016】図1に示す前半打抜き工程において、フープ材1は、パイロット穴Pの打抜き加工(1)、内径下穴d1および外形溝用小穴hの打抜き加工(2)、スロット部Sの打抜き加工(3)、内径dの打抜き加工(4)、内径溝(ティース)mの打抜き加工(5)を順次施されて、外形を除く鉄心薄板2の基本形状が形成される。このとき、フープ材1は、図3に示す順送り金型装置3内で間欠移送されながら、上下方向に移動する上金型4に取り付けられたパンチ5~9によって順次打抜き加工が実施される。打抜き加工の際には、上金型4に取り付けられたストリッパープレート10が下降してフープ材1を下金型11の上面11aに当接させる。・・・【0017】前半打抜き工程が完了すると、接着剤塗布工程(6)が実施される。このとき、フープ材1への接着剤の塗布は、順送り金型装置3の下金型11内に設けられた接着剤塗布装置12により実施され、接着剤は、図2に示すスロット部S間の磁極部Jおよびヨーク部Yに相当する複数の転写部位(本実施形態では、各磁極部Jの2箇所E1、ヨーク部Yの8箇所E2)にスポット状に塗布される。・・・」
エ 「【0022】接着剤塗布装置12は、フープ材1の接着剤塗布面(下面)に向けて適量の接着剤を吐出する接着剤吐出部31と、接着剤吐出部31に対して常時所定圧力で接着剤を供給する接着剤供給部32と、フープ材1の接着剤塗布面に対して略垂直な方向に接着剤吐出部31を進退動させる進退駆動部33とを有する。【0023】接着剤吐出部31は、ベース体41と、ベース体41の上面にねじ42で固定された接着剤導入ブロック43と、この接着剤導入ブロック42の上部を収容するノズルブロック44と、これらのブロック43,44を外囲するように配置され、ベース体41の上面にねじ45で固定された受け台46とを備える。続きを表示(全16行)【0024】・・・【0025】ノズルブロック44は、略円柱状をなし、その下面44aに接着剤導入ブロック43を摺動自在に収容する凹部61aが設けられるとともに、その上面44b(凹部61の底面61a)には接着剤が凸状に吐出される複数の吐出孔62が設けられている。図6に示すように、本実施形態における吐出孔62は、図2に示した接着剤の転写部位E1,E2に対応する位置にそれぞれ設けられているが、ここに示したものに限らず、吐出孔62の形状、サイズ、数量、および配置等は適宜変更することができる。接着剤導入ブロック43がノズルブロック44に収容された状態で、凹部61と接着剤導入ブロック43の上面43bとで画成される空隙は接着剤溜まり63を構成し、貫通孔51を介して供給された接着剤が貯留される。これにより、各吐出孔62から定量の接着剤を安定的に吐出させることが可能となる。また、ノズルブロック44の下部に設けられたフランジ部64と接着剤導入ブロック43のフランジ部52との間には、ばね65が張設されている。【0026】受け台46は、略円筒状をなし、その内周側の上部が縮径されて段差部46aが形成されている。この段差部46aとノズルブロック44のフランジ部64とが係合することで、ノズルブロック44の上方(即ち、下金型11の上面11aから突出する方向)への移動が規制される。受け台46の下部は、下金型11内に固定された下型71にベース体41とともに収容される。また、受け台46の外周側の上部が縮径されて段差部46bが形成されており、この段差部46bと押え部材72とが係合することで、接着剤吐出部31の上方への移動が規制される。また、受け台46の上面46cと押さえ部材72の上端面は、下金型11の上面11aと同一面に設定配置されている。【0027】ここで、図5に示すように、ノズルブロック44の上面44b(即ち、吐出孔62の先端)は、受け台46の上面46cよりも僅かに低くなるように配置され、これにより、フープ材1とノズルブロック44の上面44bとの間には一定の間隙αが形成される。従って、上金型4が降下してストリッパプレート10でフープ材を下金型上面へ当接させたとき、接着剤吐出孔62を有するノズルブロック44上面との間に間隙αが構成される。また、上述のように、接着剤導入ブロック43とノズルブロック44の間にばね65が張設された構成とすることで、ノズルブロック44の上面44bの必要な位置精度(間隙α)を容易に維持できる。また、ノズルブロック44の組み付けにねじ等の締結手段(およびその配置スペース)が不要となり、また、組み付け作業が容易となるという利点もある。【0028】・・・【0029】進退駆動部33は、ベース体41と係合して接着剤吐出部31を進退動させる駆動部材91と、駆動部材91をその長手方向に移動させるための動力を供給する駆動装置92とを備える。駆動部材91は、その上部に直動形の鋸歯状のカム面91aが形成されている。カム面91aは、ベース体41の下面に設けられた同様の鋸歯状のカム面41aとともにカム機構を構成し、接着剤吐出部31の進退動を可能とする。図4では、カム面91aおよびカム面41aが非係合状態(互いに噛合していない状態)にある場合を示しており、このとき、接着剤吐出部31は上限位置にあって接着剤の塗布処理が可能な状態にある。駆動装置92としては、駆動部材91の直線運動を実現する周知のアクチュエータ(例えば、流体シリンダ、ソレノイド等)を用いることができる。なお、カム機構の構成は適宜変更することができる。」
オ 「【0030】次に、上記構成の接着剤塗布装置12による接着剤塗布工程の概要について説明する。接着剤の塗布処理を実行する場合(即ち、フープ材1における対象部位が計量用の鉄心薄板に対応しない場合)、前半打抜き工程が完了したフープ材1の移送動作が完了すると、次のプレス動作によりストリッパープレート10が下降し、フープ材1を下金型11の上面11aに当接させる。このとき、接着剤溜まり63に貯留された接着剤は、図5に示したように、加圧装置81によって所定の圧力に加圧されており、接着剤吐出部31は開口しているので、開口の面積と加圧力に応じた速度でノズルブロック44の吐出孔62から前記間隙αの上方つまりフープ材下面方向へ盛り上がって形成され伸びていく。これによって上金型の上下動により、上金型が降下してストリッパプレート10でフープ材を下金型上面へ当接するときと、接着剤が吐出口62から盛り上がっていくタイミングを合わせることで、フープ材1下面の所定位置へスポット状に接着剤を転写する(図2のE1、E2参照)。その後、接着剤が塗布されたフープ材は次の外形打抜き積層工程へ搬送される。なお、接着剤が良好に転写されるためには、上金型の上下動速度(プレス速度)と接着剤の転写面積によって接着剤供給部における加圧力を制御設定することで最適条件を見出すことが可能である。【0031】このように、打抜きを行なう上金型の上下動速度(プレス速度)に同期せずに接着剤を安定的に塗布することができ、積層鉄心の生産性向上に寄与することが可能となる。この場合、接着剤の供給は、プレス動作とは無関係であるので、接着剤の塗布工程がプレス動作の影響を受けることもない。また間隙αを、設けて接着剤を吐出口から吐出させる構成とすることで、フープ材の下面がノズルブロック44の上面44bすなわち吐出孔62先端へ密着して接着剤が不適切に拡がることを防止し、良好なスポット形状を維持できる。【0032】一方、接着剤の塗布処理を実行しない場合(即ち、フープ材1における対象部位が計量用の鉄心薄板に対応する場合)、フープ材1が下金型11の上面11aに当接する前に、駆動装置92が起動して駆動部材91を図7の矢印方向に移動させる。これにより、駆動部材91のカム面91aとベース体41のカム面41aとが係合状態(互いに噛合した状態)となって、接着剤吐出部31が図4に示す上限位置から図7に示す下限位置まで下降する。その結果、フープ材1とノズルブロック44の上面44bとの間の間隙αが拡がり、接着剤をフープ材1の下面に転写させないようにすることを容易に実現できる。」
カ 「【図4】[図:0001396256000001.jpg]」
キ 「【図5】[図:0001396256000002.jpg]」
ク 「【図6】[図:0001396256000003.jpg]」
ケ 「【図7】[図:0001396256000004.jpg]」
(2) 引用文献1の記載から理解できる事項
コ 前記イ及びウの記載から、接着剤塗布装置は、フープ材1から上金型4と下金型11を有する順送り金型装置3により所定の形状に打抜き形成された鉄心薄板2を積層接着するために当該フープ材1に接着剤を塗布する装置であることが理解できる。
サ 前記エの【0022】~【0023】、【0029】の記載、前記カの【図4】及び前記ケの【図7】の図示内容から、接着剤塗布装置が有する進退駆動部33は、接着剤吐出部31のみを略垂直な方向に進退動させることが理解できる。
シ 前記エの【0026】~【0027】の記載、及び前記キの【図5】の図示内容から、フープ材1を下金型11の上面11aへ当接させたときフープ材1が接着剤吐出部31の受け台46の上面46cに当接することが理解できる。
ス 前記エの段落【0027】の記載、及び前記キの【図5】の図示内容から、吐出孔62の先端は、フープ材1が当接する接着剤吐出部31の受け台46の上面46cよりも僅かに低くなるように配置されることで、上記フープ材1と上記吐出孔62の先端との間には一定の間隙αが形成されること、及び、接着剤吐出部31の接着剤導入ブロック43とノズルブロック44の間にばね65が張設された構成とすることで、上記フープ材1と上記吐出孔62の先端との間の必要な間隙αを維持できることが理解できる。
セ 前記エの【0022】~【0023】、【0025】の記載、前記クの【図6】及び前記ケの【図7】の図示内容から、複数の吐出孔62が接着剤吐出部31のノズルブロック44の上面44bに周方向に分散して設けられていることが理解できる。
(3) 引用文献1に記載された発明
前記ア~セの事項から、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「フープ材1から上金型4と下金型11を有する順送り金型装置3により所定の形状に打抜き形成された鉄心薄板2を積層接着するために当該フープ材1に接着剤を塗布する装置であって、フープ材1の接着剤塗布面に向けて接着剤を吐出する複数の吐出孔62を備える接着剤吐出部31と、上記接着剤吐出部31のみを略垂直な方向に進退動させる進退駆動部33と、上記接着剤吐出部31に対して常時所定圧力で接着剤を供給する接着剤供給部32とを有し、上記フープ材1を下金型11の上面11aへ当接させたとき上記フープ材1が接着剤吐出部31の受け台46の上面46cに当接し、上記吐出孔62の先端は、上記フープ材1が当接する接着剤吐出部31の受け台46の上面46cよりも僅かに低くなるように配置されることで、上記フープ材1と上記吐出孔62の先端との間には一定の間隙αが形成され、接着剤吐出部31の接着剤導入ブロック43とノズルブロック44の間にばね65が張設された構成とすることで、上記フープ材1と上記吐出孔62の先端との間の必要な間隙αを維持でき、前記吐出孔62が前記接着剤吐出部31の前記ノズルブロック44の上面44bに周方向に分散して設けられている接着剤塗布装置」
2 引用文献2~4
(1) 引用文献2の記載事項
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引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】【0001】本発明は、接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法に関する。【0002】本発明は、回転電機の固定子や回転子に用いられる積層鉄芯の接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法に関し、特に、帯状薄鋼板から所定形状に打ち抜かれた鉄芯薄板を積層接着するための接着剤塗布装置及び接着剤塗布方法に関する。」
イ 「【0025】図3において、18は接着剤を吐出する吐出孔である。本実施形態においては、吐出孔18は6個であるが、もちろん6個に限定されるものではない。タンク7に貯留されて所定の圧力で供給される接着剤はホース7aおよび接着剤溜まり19を経て、6個の各吐出孔18から同じ量の接着剤を安定して吐出することができる。6個の吐出孔18は接着剤溜まり19に連通している。20は接着剤を所定の温度に昇温するための電気ヒーターであり、図示しない電源と接続されており、接着剤容器8の周縁部に吐出孔18を取り囲むように配置されている。電気ヒーター20で接着剤を昇温することにより、接着剤容器8内にある接着剤の流動性を向上させ、吐出孔18から安定して接着剤を吐出することができる。接着剤容器8は金型装置6の外に設けられているので、電気ヒーター20による昇温の影響が金型装置に及んだり、逆に金型装置の温度変化が接着剤の流動性に影響を及ぼすことはない。」
ウ 「【図3】[図:0001396256000005.jpg]」
(2) 引用文献3の記載事項
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引用文献3には、以下の事項が記載されている。
ア 「技術分野[0001] 本発明は、積層鉄心の製造装置及び製造方法に関し、更に詳細には、積層された複数の鉄心薄板を接着剤によって接着し且つ積層してなる積層鉄心の製造装置及び製造方法に関する。」
イ 「[0057] 図7に示されているように、固定カム7の鋸歯山部74Aと移動カム76の鋸歯山部76Aとが整合する位置に移動カム76がある時には、塗布台62は上昇位置(転写位置)に位置する。上昇位置(転写位置)では、図8に示されているように、上部ブロック62Aの上面62Cはダイプレート44の上面44Aより段差αだけ下方に位置する。」
ウ 「[図7][図:0001396256000006.jpg]」
エ 「[図8][図:0001396256000007.jpg]」
(3) 引用文献4の記載事項
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引用文献4には、以下の事項が記載されている。
ア 「技術分野[0001] 本発明は、積層鉄心の製造装置及び製造方法に関し、更に詳細には、積層された複数枚の鉄心薄板を接着剤によって接着してなる接着型の積層鉄心の製造装置及び製造方法に関する。」
イ 「[0079] 図示されているように、固定カム74の鋸歯山部74Aと移動カム76の鋸歯山部76Aとが整合する位置に移動カム76がある時には塗布台60は上昇位置(転写位置)に位置する。上昇位置では上部ブロック58の上面61はダイプレート40の上面47より段差αだけ下方に位置する。」
ウ 「[図6][図:0001396256000008.jpg]」
エ 「[図7][図:0001396256000009.jpg]」
第6 当審の判断
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1) 本件発明1について
ア 対比
(ア) 本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「フープ材1」は本件発明1における「帯状薄鋼板」に相当し、以下同様に、「上金型4」は「上金型」に、「下金型11」は「下金型」に、「順送り金型装置3」は「金型装置」に、「所定の形状に打抜き形成された鉄心薄板2」は「所定形状に打ち抜かれた鉄心」に、「積層接着する」は「積層して互いに接着する」に、「塗布する」は「塗付する」に、「装置」は「設備」に、「接着剤塗布装置」は「接着剤塗付設備」に、それぞれ相当する。
(イ) 引用発明における「接着剤塗布面」は、本件発明1における「接着剤塗付面」に相当し、以下同様に、「吐出孔62」は「接着剤吐出孔」に、「接着剤吐出部31」は「接着剤塗付装置」に、「略垂直な方向に進退動させる進退駆動部33」は「昇降させることが可能な手段」に、「常時所定圧力で」は「所定圧力で」に、「接着剤供給部32」は「接着剤供給口」に、それぞれ相当する。
(ウ) 引用発明における「上記フープ材1を下金型11の上面11aへ当接させたとき」は本件発明1における「上記帯状薄鋼板が下金型に当接した際に」に相当し、以下同様に、「接着剤吐出部31の受け台46の上面46c」は「接着剤塗付装置の端面」に、「上記フープ材1が当接する」は「上記帯状薄鋼板に当接する」に、「一定の間隙α」は「所定の距離」に、それぞれ相当する。
(エ) 引用発明における「上記吐出孔62の先端は、上記フープ材1が当接する接着剤吐出部31の受け台46の上面46cよりも僅かに低くなるように配置されることで、上記フープ材1と上記吐出孔62の先端との間には一定の間隙αが形成され」るとは、換言すれば、「上記フープ材1と上記吐出孔62の先端との間には一定の間隙αが形成され」るように、「上記吐出孔62の先端は、上記フープ材1が当接する接着剤吐出部31の受け台46の上面46cよりも僅かに低くなるように配置され」ることであるから、本件発明1における「上記帯状薄鋼板の下面と接着剤吐出孔との距離を所定の距離に保つように、上記帯状薄鋼板に当接する接着剤塗付装置の端面に対して、上記接着剤吐出孔は内側に離間し」ていることに相当する。
以上の対比を総合すると、本件発明1と引用発明とは、
「帯状薄鋼板から上金型と下金型を有する金型装置により所定形状に打ち抜かれた鉄心を積層して互いに接着するために当該帯状薄鋼板に接着剤を塗付する設備であって、帯状薄鋼板の接着剤塗付面に向けて接着剤を吐出する複数の接着剤吐出孔を備える接着剤塗付装置と、上記接着剤塗付装置のみを昇降させることが可能な手段と、上記接着剤塗付装置に対して所定圧力で接着剤を供給する接着剤供給口とを有し、上記帯状薄鋼板が下金型に当接した際に上記帯状薄鋼板が接着剤塗付装置の端面に当接し、上記帯状薄鋼板の下面と接着剤吐出孔との距離を所定の距離に保つように、上記帯状薄鋼板に当接する接着剤塗付装置の端面に対して、上記接着剤吐出孔は内側に離間している接着剤塗付設備」
である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は、「上記帯状薄鋼板の下面と上記接着剤吐出孔との距離を一定に保つように、上記接着剤塗付装置の上面から上記接着剤吐出孔までの距離は所定の距離に固定されて」いるのに対して、
引用発明は、「接着剤吐出部31の接着剤導入ブロック43とノズルブロック44の間にばね65が張設された構成とすることで、上記フープ材1と上記吐出孔62の先端との間の必要な間隙αを維持でき」る点。
(相違点2)
本件発明1は、接着剤吐出孔が「接着剤塗布装置の端面から内側に凹状にへこんでいる円環状及び円弧形状の溝状塗付部に設けられているか又は当該凹状のへこみは円周に沿って深さ方向に一様の深さにへこんだ溝状ではなく、接着剤吐出孔ごとに座ぐり状のへこみに形成されている」のに対して、
引用発明は、吐出孔62が「前記接着剤吐出部31の前記ノズルブロック44の上面44bに周方向に分散して設けられている」点。
イ 相違点2についての判断
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
引用発明は、吐出孔62が「前記接着剤吐出部31の前記ノズルブロック44の上面44b」に設けられ、「上記吐出孔62の先端は、上記フープ材1が当接する接着剤吐出部31の受け台46の上面46cよりも僅かに低くなるように配置されることで、上記フープ材1と上記吐出孔62の先端との間には一定の間隙αが形成され」る構成(以下「構成A」という。)により、「開口の面積と加圧力に応じた速度でノズルブロック44の吐出孔62から前記間隙αの上方つまりフープ材下面方向へ盛り上がって形成され伸びていく。これによって上金型の上下動により、上金型が降下してストリッパプレート10でフープ材を下金型上面へ当接するときと、接着剤が吐出口62から盛り上がっていくタイミングを合わせることで、フープ材1下面の所定位置へスポット状に接着剤を転写する」(前記「第5」1(1)オ)という接着剤塗布動作を実現している。
そうすると、引用発明において、構成Aに加えて、さらに吐出孔62を「前記接着剤吐出部31の前記ノズルブロック44の上面44b」から内側に凹状にへこんだ空間(円環状及び円弧形状の溝、もしくは座ぐり状のへこみ)に開口させることは想定されていない。
また、引用文献2~4にも、接着剤の吐出孔を、接着剤塗布装置の端面から内側に凹状にへこんでいる「円環状及び円弧形状の溝状塗付部」もしくは「接着剤の吐出孔ごとの座ぐり状のへこみ」に設けることについての開示や示唆はない。
そして、本件発明1は、相違点2に係る発明特定事項を有することにより、「帯状薄鋼板2の表面が完全に平滑な形状でなかったとしても、帯状薄鋼板2の表面形状に関係なく、帯状薄鋼板2が下金型8に向けて押圧されて、帯状薄鋼板2が接着剤塗付装置の上面に押し付けられた際に、帯状薄鋼板2の下面と接着剤吐出孔26及び27の距離を所定の距離に保つことができる」(本件特許の明細書【0026】)という顕著な効果を奏するものである。
よって、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者といえども、引用発明に基づき、さらには引用文献2~4に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 小括
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明、及び引用文献2~4に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明3~6について
本件発明3~6は、本件発明1の全ての構成を含み、かつ、さらに限定を加えたものであるから、前記(1)イと同じ理由により、本件発明3~6は、引用発明、及び引用文献2~4に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 小括
したがって、本件発明1、3~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によって取り消すことはできない。
2 令和4年10月7日付け取消理由通知に記載した取消理由について
本件訂正の訂正事項1により、「上記接着剤吐出孔が接着剤塗布装置の端面から内側に凹状にへこんでいる円環状及び円弧形状の溝状塗付部に設けられているか又は・・・」との記載が追加されたことから、「接着剤吐出孔」と「環状及び円弧形状の溝状塗付部」との関係が明確となった。
また、本件訂正後の請求項1には、「当該円環状の溝状塗布部及び円弧形状の溝状塗布部が段付き状を呈するように水平面から内側にへこんでいる」との記載はないため、当該記載に起因する明確性の拒絶理由は解消した。
したがって、本件発明1、3~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、令和4年10月7日付け取消理由通知に記載した取消理由によって取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、令和4年10月7日付け取消理由通知に記載した取消理由、並びに特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1、3~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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