特許異議申立
2023-700584
回転電機、ステータの鉄心およびロータの鉄心のセット、回転電機の製造方法、無方向性電磁鋼板の製造方法、回転電機のロータおよびステータの製造方法並びに無方向性電磁鋼板のセット
- 審判番号
- 2023-700584
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-542663
- 登録番号
- 7184226
- 請求日
- 2023年06月05日
- 審決日
- 2024年06月07日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【権利者代理人】堀田 耕一郎
- 【権利者代理人】山口 健吾
- 【権利者代理人】飯田 恭宏
- 【権利者代理人】井口 翔太
- 【異議申立人】前田 洋志
- 審判長/審判官
- 審判長 柿崎 拓
- 審判官 関口 哲生
- 審判官 伊藤 秀行
- 分類
- P1651.113-YAA(H02K) / P1651.121-YAA(H02K) / P1651.537-YAA(H02K) / P1651.851-YAA(H02K) / P1651.852-YAA(H02K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7184226号発明「回転電機、ステータの鉄心およびロータの鉄心のセット、回転電機の製造方法、無方向性電磁鋼板の製造方法、回転電機のロータおよびステータの製造方法並びに無方向性電磁鋼板のセット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7184226号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-6、13-16〕、〔11-12〕について」)訂正することを認める。
特許第7184226号の請求項1-16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7184226号の請求項1~12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2022年(令和4年)3月30日(優先権主張 令和3年3月31日、令和3年6月4日)を国際出願日として出願され、令和4年11月28日にその特許権の設定登録がされたものである。
本件特許について、令和4年12月6日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和5年6月5日に、本件特許1~12に対し、特許異議申立人 前田洋志(以下「異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての、その後の手続等の概要は以下のとおりである。
令和5年 9月25日付け:取消理由通知書
同年11月27日 :意見書(特許権者)の提出及び訂正請求
同年12月 8日付け:訂正請求があった旨の通知書(特許法第120条の5第5項)
令和6年 1月11日 :意見書(異議申立人)の提出
同年 2月26日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 4月25日 :意見書(特許権者)の提出及び訂正請求
以下、令和6年4月25日付け訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。なお、令和5年11月27日付け訂正請求書は取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、「特許第7184226号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2から6、請求項11から12、請求項13から16について訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項2に
「前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であることを特徴とする、請求項1に記載の回転電機。」とあるのを、
「ステータと、ロータと、前記ステータおよび前記ロータを収容する筐体とを有し、
前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たし、前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であることを特徴とする回転電機。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1または2に記載の回転電機。」とあるのを、
「請求項1に記載の回転電機。」に訂正する(請求項3を引用する請求項4~6も同様に訂正される。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に
「請求項1~3の何れか1項に記載の回転電機」とあるのを、
「請求項1または3に記載の回転電機」に訂正する(請求項4を引用する請求項5、6も同様に訂正される。)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項3~6のうち本件訂正前の請求項2を引用するものについて、独立項となった請求項2を直接あるいは間接に引用する請求項として、以下の請求項13~16を新たに設ける。
「【請求項13】
前記ステータの鉄心及び前記ロータの鉄心の化学組成は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%、並びに残部:Feおよび不純物から成ることを特徴とする、請求項2に記載の回転電機。
【請求項14】
請求項2または13の何れか1項に記載の回転電機に用いられるステータの鉄心及びロータの鉄心のセット。
【請求項15】
前記ステータの鉄心及び前記ロータの鉄心の化学組成は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%、並びに残部:Feおよび不純物から成ることを特徴とする、請求項14に記載のステータの鉄心及びロータの鉄心のセット。
【請求項16】
請求項14または15に記載のステータの鉄心及びロータの鉄心のセットを用いて回転電機を製造することを特徴とする、回転電機の製造方法。」
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項11に
「式(1)A>Bの関係を満たしていることを特徴とする無方向性電磁鋼板のセット。」とあるのを、
「式(1)A>Bの関係を満たし、前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であることを特徴とする無方向性電磁鋼板のセット。」に訂正する(請求項11を引用する請求項12も同様に訂正される。)。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1による訂正について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項2の記載が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改める訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)に記載した事項の範囲内においてするものである。
イ 訂正事項2による訂正について
訂正事項2は、本件訂正前において、請求項3に「請求項1または2に記載の回転電機」とあるのを、本件訂正後は、「請求項1に記載の回転電機」に訂正するものであり、請求項2を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 訂正事項3による訂正について
訂正事項3は、本件訂正前において、請求項4に「請求項1~3の何れか1項に記載の回転電機」とあるのを、本件訂正後は、「請求項1または3に記載の回転電機」に訂正するものであり、請求項2を引用しないものとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
エ 訂正事項4による訂正について
訂正事項4は、本件訂正前において、請求項1または2を直接あるいは間接に引用する請求項3~6について、本件訂正後は、請求項1は引用せず、独立項となった請求項2のみを直接あるいは間接に引用する請求項13~16としたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
オ 訂正事項5による訂正について
訂正事項5は、ロータ用の無方向性電磁鋼板に関し、「前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であること」を限定するものである。すなわち、訂正事項5は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5により、ロータ用の無方向性電磁鋼板について、「前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であること」と限定された。
したがって、訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、本件特許明細書等には、以下の点が記載されている。(下線部は当審で付与した。)
「さらに、ロータの鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であることが好ましい。この場合、ロータの形状を打抜いた時に真円度がより向上する効果が得られる。方位強度(C)は前述の方位強度(A)と方位強度(B)を測定した方法(EBSD)によって測定することができる。」(段落0017)
このように、本件特許明細書の段落0017には、ロータの鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であることが示されている。
そうすると、訂正事項5は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項5は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(2)独立特許要件について
本件においては、本件訂正前の請求項1~12について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項1~16に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~6について、請求項3~6は、請求項2を引用する関係であるから、本件訂正前の請求項2~6は、一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項11~12について、請求項12は、請求項11を引用する関係であるから、本件訂正前の請求項11~12は、一群の請求項である。
したがって、訂正前の請求項2~6に対応する訂正後の請求項2~6、13~16に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求するものである。
また、訂正前の請求項11~12に対応する訂正後の請求項11~12に係る本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求するものである。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔2~6、13~16〕〔11~12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1~16に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」などといい、また、本件発明1~16を総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ステータと、ロータと、前記ステータおよび前記ロータを収容する筐体とを有し、
前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たしていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
ステータと、ロータと、前記ステータおよび前記ロータを収容する筐体とを有し、
前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たし、前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
前記ステータの鉄心及び前記ロータの鉄心の化学組成は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%、並びに残部:Feおよび不純物から成ることを特徴とする、請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
請求項1または3に記載の回転電機に用いられるステータの鉄心及びロータの鉄心のセット。
【請求項5】
前記ステータの鉄心及び前記ロータの鉄心の化学組成は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%、並びに残部:Feおよび不純物から成ることを特徴とする、請求項4に記載のステータの鉄心及びロータの鉄心のセット。
【請求項6】
請求項4または5に記載のステータの鉄心及びロータの鉄心のセットを用いて回転電機を製造することを特徴とする、回転電機の製造方法。
【請求項7】
化学組成が、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%、並びに残部:Feおよび不純物から成る無方向性電磁鋼板を、製鋼、熱間圧延、熱間圧延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍を含む工程で製造するに際し、前記熱間圧延板焼鈍の焼鈍温度を2種類設定し、ロータ鉄心用の無方向性電磁鋼板の熱間圧延板焼鈍温度を860℃~1000℃とし、且つステータ鉄心用の無方向性電磁鋼板の熱間圧延板焼鈍温度よりも高くすることを特徴とする、請求項1に記載の回転電機のロータ鉄心用無方向性電磁鋼板およびステータ鉄心用無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
化学組成が、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%並びに残部:Feおよび不純物から成る無方向性電磁鋼板を、製鋼、熱間圧延、熱間圧延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍を含む工程で製造し、得られた無方向性電磁鋼板から前記ステータ鉄心に用いる鉄心素材とロータに用いる鉄心素材を打ち抜いてそれぞれ積層し、前記式(1)が満たされるようにステータのみに歪取り焼鈍を行う、請求項1に記載の回転電機のロータおよびステータの製造方法。
【請求項9】
前記無方向性電磁鋼板の化学組成が、質量%で、Cr:0.001~5.000%を含有する請求項7に記載の回転電機のロータ鉄心用無方向性電磁鋼板およびステータ鉄心用無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記無方向性電磁鋼板の化学組成が、質量%で、Cr:0.001~5.000%を含有する請求項8に記載の回転電機のロータおよびステータの製造方法。
【請求項11】
回転電機の鉄心素材に用いられる無方向性電磁鋼板のセットであって、
ステータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、ロータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たし、前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であることを特徴とする無方向性電磁鋼板のセット。
【請求項12】
前記ステータ用の無方向性電磁鋼板及び前記ロータ用の無方向性電磁鋼板の化学組成は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%、並びに残部:Feおよび不純物から成ることを特徴とする、請求項11に記載の無方向性電磁鋼板のセット。
【請求項13】
前記ステータの鉄心及び前記ロータの鉄心の化学組成は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%、並びに残部:Feおよび不純物から成ることを特徴とする、請求項2に記載の回転電機。
【請求項14】
請求項2または13の何れか1項に記載の回転電機に用いられるステータの鉄心及びロータの鉄心のセット。
【請求項15】
前記ステータの鉄心及び前記ロータの鉄心の化学組成は、質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.10%以上3.00%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.10%以上2.00%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、B:0.0000%~0.0050%、O:0.0000%~0.0200%、並びに残部:Feおよび不純物から成ることを特徴とする、請求項14に記載のステータの鉄心及びロータの鉄心のセット。
【請求項16】
請求項14または15に記載のステータの鉄心及びロータの鉄心のセットを用いて回転電機を製造することを特徴とする、回転電機の製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~6、8、10~12に係る特許に対して、当審が令和5年9月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)本件発明1~6、8、11~12は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法29条1項3号の規定に該当するから、本件発明1~6、8、12に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
(2)本件発明1~6、8、10~12は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~6、8、10~12に係る特許は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
<甲号証一覧>
甲第1号証:国際公開第2018/025941号
甲第2号証:特開2019-167606号公報
甲第3号証:国際公開第2019/182022号
(以下、証拠番号に従って、「甲1」などという。)
2 各証拠の記載
(1)甲1について
甲1には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
ア 「[0001] 本発明は、無方向性電磁鋼板、無方向性電磁鋼板の製造方法及びモータコアの製造方法に関する。
[0002] 昨今、地球環境問題が注目されており、省エネルギーへの取り組みに対する要求は、一段と高まってきており、なかでも電気機器の高効率化は、近年強く要望されている。このため、モータ又は変圧器等の鉄心材料として広く使用されている無方向性電磁鋼板においても、磁気特性の向上に対する要請が更に強まっている。特に、モータの高効率化が進展する電気自動車やハイブリッド自動車用のモータ、及び、コンプレッサ用モータにおいては、その傾向が顕著である。
[0003] 上記のような各種モータのモータコアは、固定子であるステータと、回転子であるロータとから構成される。このようなモータコアを製造する際には、無方向性電磁鋼板をモータコアの形状に打ち抜いて積層した後に、コア焼鈍(歪取り焼鈍)が行われる。コア焼鈍は、一般的に、窒素を含んだ雰囲気中で実施されるが、コア焼鈍時に無方向性電磁鋼板が窒化してしまい、鉄損が劣化してしまうという問題がある。」
イ 「[0026] まず、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板及びその製造に用いる鋼塊の化学組成について説明する。詳細は後述するが、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、鋼塊の熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、及び仕上焼鈍等を経て製造される。従って、無方向性電磁鋼板及び鋼塊の化学組成は、無方向性電磁鋼板の特性のみならず、これらの処理を考慮したものである。以下の説明において、無方向性電磁鋼板に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、C:0.0010%~0.0050%、Si:2.5%~4.0%、Al:0.0001%~2.0%、Mn:0.1%~3.0%、P:0.005%~0.15%、S:0.0001%~0.0030%、Ti:0.0005%~0.0030%、N:0.0010%~0.0030%、Sn:0.00%~0.2%、Sb:0.00%~0.2%、Ni:0.00%~0.2%、Cu:0.00%~0.2%、Cr:0.00%~0.2%、Ca:0.0000%~0.0025%、REM:0.0000%~0.0050%、かつ残部:Fe及び不純物で表される化学組成を有している。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
[0027] (C:0.0010%~0.0050%)
Cは、鉄損の劣化を引き起こす。C含有量が0.0050%超では、鋼板において鉄損が劣化し、良好な磁気特性を得ることができない。従って、C含有量は0.0050%以下とし、好ましくは0.0040%以下とし、より好ましくは0.0030%以下とする。一方、C含有量が0.0010%未満では、鋼板において磁束密度が低下し、良好な磁気特性を得ることができない。従って、C含有量は0.0010%以上とし、好ましくは0.0015%以上とする。
[0028] (Si:2.5%~4.0%)
Siは、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減させ、高周波鉄損を改善させる。また、Siは、固溶強化により鋼板の強度を向上させる。Si含有量が2.5%未満では、この作用による効果が十分に得られない。従って、Si含有量は2.5%以上とし、好ましくは2.7%以上、より好ましくは3.0%以上とする。一方、Si含有量が4.0%超では、加工性が著しく劣化し、冷間圧延を実施することが困難となる。従って、Si含有量は4.0%以下とし、好ましくは3.7%以下とし、より好ましくは3.5%以下とする。
[0029] (Al:0.0001%~2.0%)
Alは、鋼板の電気抵抗を上昇させることで渦電流損を低減させ、高周波鉄損を改善させる。一方で、Alは、鋼板の製造過程における加工性と、製品の磁束密度とを低下させるため、この観点では、Alは少なく含有させることが好ましい。Al含有量が0.0001%未満では、製鋼での負荷が高く、コストが増加してしまう。従って、Al含有量は0.0001%以上とし、好ましくは0.0010%以上とし、より好ましくは0.0100%以上とする。一方、Al含有量が2.0%超では、鋼板の磁束密度が著しく低下し、又は脆化することで冷間圧延を実施することが困難となる。従って、Al含有量は2.0%以下とし、好ましくは1.0%以下とし、より好ましくは0.7%以下とする。
[0030] (Mn:0.1%~3.0%)
Mnは、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減させ、高周波鉄損を改善させる。Mn含有量が0.1%未満では、この作用による効果が十分に得られない。従って、Mn含有量は0.1%以上とし、好ましくは0.3%以上とし、より好ましくは0.5%以上とする。一方、Mn含有量が3.0%超では、磁束密度の低下が顕著となる。従って、Mn含有量は3.0%以下とし、好ましくは2.0%以下とし、より好ましくは1.3%以下とする。
[0031] (P:0.005%~0.15%)
Pは、固溶強化能が大きく、磁気特性の向上に有利な{100}集合組織を増加させるため、高強度と高磁束密度とを両立させる。更に、{100}集合組織の増加は、無方向性電磁鋼板の板面内における機械特性の異方性を低減することにも寄与するため、Pは、無方向性電磁鋼板の打ち抜き加工時の寸法精度を改善させる。P含有量が0.005%未満では、この作用による効果が十分に得られない。従って、P含有量は0.005%以上とし、好ましくは0.01%以上とし、より好ましくは0.04%以上とする。一方、P含有量が0.15%超では、無方向性電磁鋼板の延性が著しく低下する。従って、P含有量は0.15%以下とし、好ましくは0.10%以下とし、より好ましくは0.08%以下とする。
[0032] (S:0.0001%~0.0030%)
Sは、MnSの微細析出物を形成することで鉄損を増加させ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。従って、S含有量は0.0030%以下とし、好ましくは0.0020%以下とし、より好ましくは0.0010%以下とする。一方、S含有量が0.0001%未満では、コストが増加してしまう。従って、S含有量は0.0001%以上とし、好ましくは0.0003%以上とする。窒化によるN濃度の増加を抑制する観点から、S含有量は、より好ましくは0.0005%以上とする。
[0033] (N:0.0010%~0.0030%)
Nは、磁気時効を引き起こして鉄損を増加させ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。従って、N含有量は0.0030%以下とし、好ましくは0.0025%以下とし、より好ましくは0.0020%以下とする。一方、N含有量が0.0010%未満では、コストが増加してしまう。従って、N含有量は0.0010%以上とし、好ましくは0.0015%以上とする。
[0034] (Ti:0.0005%~0.0030%)
Tiは、C、N、Mn等と結合して介在物を形成し、歪取り焼鈍中の結晶粒の成長を阻害して磁気特性を劣化させる。従って、Ti含有量は0.0030%以下とし、好ましくは0.0015%以下とし、より好ましくは0.0010%以下とする。一方、Ti含有量が0.0005%超では、コストが増加してしまう。従って、Ti含有量は0.0005%以上とし、好ましくは0.0006%以上とする。
[0035] (Sn:0.00%~0.2%及びSb:0.00%~0.2%からなる群から選択された1種以上)
Sn及びSbは、鋼板の表面に偏析し焼鈍中の酸化を抑制することで、低い鉄損を確保する。従って、Sn又はSbが含有されていてもよい。Sn及びSbからなる群から選択された1種以上の含有量がそれぞれ0.01%未満では、この作用による効果が十分に得られないことがある。従って、Sn及びSbからなる群から選択された1種以上の含有量は、それぞれ好ましくは0.01%以上とし、より好ましくは0.03%以上とする。一方、n及びSbからなる群から選択された1種以上の含有量がそれぞれ0.2%超では、地鉄の延性が低下して冷間圧延が困難となる。従って、Sn及びSbからなる群から選択された1種以上の含有量は、それぞれ0.2%以下とし、好ましくは0.1%以下とする。
[0036] (Ni:0.00%~0.2%、Cu:0.00%~0.2%及びCr:0.00%~0.2%からなる群から選択された1種以上)
Ni、Cu及びCrは、比抵抗を高めて鉄損を低減させる。従って、Ni、Cu又はCrが含有されていてもよい。Ni、Cu及びCrからなる群から選択された1種以上の含有量がそれぞれ0.01%未満では、この作用による効果が十分に得られないことがある。従って、Ni、Cu及びCrからなる群から選択された1種以上の含有量は、それぞれ好ましくは0.01%以上とし、より好ましくは0.03%以上とする。一方、Ni、Cu及びCrからなる群から選択された1種以上の含有量がそれぞれ0.2%超では、磁束密度が劣化する。従って、Ni、Cu及びCrからなる群から選択された1種以上の含有量は、それぞれ0.2%以下とし、好ましくは0.1%以下とする。
[0037] (Ca:0.0000%~0.0025%及びREM:0.0000%~0.0050%からなる群から選択された1種以上)
Ca及びREM(Rare Earth Metal:希土類元素)は、仕上焼鈍時における結晶粒成長を促進させる。従って、Ca又はREMが含有されていてもよい。Ca及びREMからなる群から選択された1種以上の含有量がそれぞれ0.0005%未満では、この作用による効果が十分に得られないことがある。従って、Ca及びREMからなる群から選択された1種以上の含有量は、それぞれ好ましくは0.0005%以上とし、より好ましくは0.0010%以上とする。一方、Ca含有量が0.0025%超では、上記効果が飽和し、コストが増加してしまう。従って、Ca含有量は0.0025%以下とする。REM含有量が0.0050%超では、上記効果が飽和し、コストが増加してしまう。従って、REM含有量は0.0050%以下とし、好ましくは0.0030%以下とする。
[0038] (その他)
さらに、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、Pb、Bi、V、As、B等をそれぞれ0.0001%~0.0050%含有してもよい。」
ウ 「[0055] 次に、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について、図4及び図5を参照しながら説明する。図4は、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法の一例を示すフローチャートであり、図5は、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法を説明するための模式図である。
[0056] 本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、上記の化学組成を有する鋼塊の熱間圧延、熱延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍を行う。絶縁被膜を地鉄の表面に形成する場合には、上記仕上焼鈍の後に絶縁被膜の形成が行われる。」
エ 「[0071] 次に、本発明の実施形態に係るモータコアの製造方法について、図6を参照しながら説明する。図6は、図6は、本発明の実施形態に係るモータコアの製造方法の一例を示すフローチャートである。
[0072] まず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板をコア形状に打ち抜き、打ち抜いた無方向性電磁鋼板を積層して(S201)、所望のモータコアの形状を形成する。コア形状に打ち抜いた無方向性電磁鋼板を積層するため、モータコアの製造に用いる無方向性電磁鋼板は、地鉄の表面に絶縁被膜が形成されたものであることが重要である。
[0073] その後、コア形状に積層された無方向性電磁鋼板に対して、歪取り焼鈍(コア焼鈍)を行う(S203)。」
オ 「[0081](実施例1)
表1に示す化学組成を有するスラブを1150℃に加熱した後、仕上圧延温度を850℃とし、仕上板厚を2.0mmとした熱間圧延を行い、650℃で巻取って熱延鋼板を得た。鋼板の表面に生成したスケールを付着させたまま、雰囲気中の露点を10℃とした窒素雰囲気にて1000℃×50秒の熱延板焼鈍を行い、その後塩酸で酸洗した。酸洗を行う際は、酸洗時の酸液の酸濃度、温度、時間を変更することで、上記[Mn5]/[Mn10]の値が表2及び表3に示す値となるような酸洗板を製造した。これらの酸洗板は、板厚を0.25mmとした冷間圧延を行い、冷延鋼板を得た。その後、水素20%、窒素80%、露点を0℃とした混合雰囲気にて、表2及び表3に示す条件で仕上焼鈍を行い、絶縁被膜を塗布し、無方向性電磁鋼板を得た。なお、熱延板焼鈍時における800℃~500℃までの温度域での冷却速度を40℃/秒とし、仕上焼鈍時における950℃以下700℃以上の温度域での加熱速度を100℃/秒とし、仕上焼鈍時における900℃以下500℃以上の温度域での冷却速度を30℃/秒とした。絶縁被膜については、リン酸アルミニウムと粒径が0.2μmであるアクリル-スチレン共重合体樹脂エマルジョンとからなる絶縁被膜を所定の付着量となるように塗布し、大気中、350℃で焼付けることによって形成した。GDSによるMn濃度分布の分析及び鋼中の窒素濃度の分析については、熱アルカリにより絶縁被膜を除去した後に行った。表1~表3中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
[0082]
[表1]
[図:0001414165000001.jpg]
[0083]
[表2]
[図:0001414165000002.jpg]
[0084]
[表3]
[図:0001414165000003.jpg]
」
カ 「[0088] 得られた無方向性電磁鋼板の一部を用いて、モータコアを製造した。無方向性電磁鋼板を、ステータ外径140mm、ロータ外径85mm、18スロット、12極で打ち抜き、積層してモータコアとした。ロータ側には永久磁石を埋め込み、ステータ側は窒素70%のリッチガス雰囲気にて825℃×1時間の歪取り焼鈍を施し、巻き線を施した。得られたモータコアは、ティース部の磁束密度が1.0Tとなり、トルク2.5Nm、回転数8000rpmとなる条件で励磁した。その際のモータ鉄損を測定した結果を表4に示す。なお、表4に示すモータ鉄損においては、投入した電力量からモータ出力、銅損、機械損を減じた残りを、鉄損として評価した。表4中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。」
キ 「[図4]
[図:0001414165000004.jpg]
」
ク 「[図6]
[図:0001414165000005.jpg]
」
ケ 上記アのとおり、甲1の段落[0003]には、「各種モータのモータコアは、固定子であるステータと、回転子であるロータとから構成される」ことが記載されており、甲1に記載された無方向性電磁鋼板により製造されるモータコアもステータ及びロータを構成するものであるから、当該モータコアが、モータのモータコアであることは明らかである。すなわち、甲1には、上記モータコアに加え、モータコアを備えるモータについても実質的に記載されているといえる。
コ 上記カのとおり、甲1の段落[0088]には、無方向性電磁鋼板の一部を用いて、モータコアを製造し、当該モータコアの内、ロータ側には永久磁石を埋め込み、ステータ側は歪取り焼鈍を施してモータコアを得る旨が記載されている。すなわち、甲1には、ステータをなすモータコアとロータをなすモータコアの組が記載されているといえる。
以上の記載によれば、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明1」、「甲1発明2」等という。なお、甲1発明1及び甲1発明2については、特に甲1における表1の「鋼種M」、表3の「鋼No.73」を参照。)が記載されていると認められる。
(甲1発明1)
「ステータと、ロータとを有し、
前記ステータ及び前記ロータを構成するモータコアは無方向性電磁鋼板からなり、
当該無方向性電磁鋼板の化学組成は、質量%で、C:0.0022%、Si:3.5%、Mn:0.1%、P:0.02%、S:0.0026%、N:0.0022%、Al:0.4%、Ti:0.0023%、並びに残部:Feおよび不純物から成り、
前記化学組成を有するスラブを1150℃に加熱した後、仕上圧延温度を850℃とし、仕上板厚を2.0mmとした熱間圧延を行い、650℃で巻取って熱延鋼板を得、1000℃×50秒の熱延板焼鈍を行い、酸洗し、板厚を0.25mmとする冷間圧延を行い、800℃×20秒の仕上焼鈍を経て前記無方向性電磁鋼板を製造し、
得られた前記無方向性電磁鋼板を、ステータ外径140mm、ロータ外径85mmで打ち抜き、積層し、
ステータ側の前記無方向性電磁鋼板は、825℃×1時間の歪取り焼鈍を施した、
モータ。」
(甲1発明2)
「モータのモータコアを製造するための無方向性電磁鋼板の組であって、
当該無方向性電磁鋼板の化学組成は、質量%で、C:0.0022%、Si:3.5%、Mn:0.1%、P:0.02%、S:0.0026%、N:0.0022%、Al:0.4%、Ti:0.0023%、並びに残部:Feおよび不純物から成り、
前記化学組成を有するスラブを1150℃に加熱した後、仕上圧延温度を850℃とし、仕上板厚を2.0mmとした熱間圧延を行い、650℃で巻取って熱延鋼板を得、1000℃×50秒の熱延板焼鈍を行い、酸洗し、板厚を0.25mmとする冷間圧延を行い、800℃×20秒の仕上焼鈍を経て無方向性電磁鋼板を製造し、
得られた無方向性電磁鋼板を、ステータ外径140mm、ロータ外径85mmで打ち抜き、積層し、
ステータ側の前記無方向性電磁鋼板は、825℃×1時間の歪取り焼鈍を施した、
無方向性電磁鋼板の組。」
(2)甲2について、
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板に関する。」
イ 「【0040】
冷間圧延の圧下率を90%超とすると、仕上げ焼鈍の際に、磁気特性の向上を阻害する集合組織、例えば{111}<112>集合組織が発達しやすい。従って、冷間圧延の圧下率は90%以下とする。冷間圧延の圧下率を40%未満とすると、無方向性電磁鋼板の厚さの精度及び平坦度の確保が困難になることがある。従って、冷間圧延の圧下率は好ましくは40%以上とする。」
(3)甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア 「[0001] 本発明は、無方向性電磁鋼板に関するものである。
本願は、2018年3月23日に、日本に出願された特願2018-056310号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。」
イ 「[0040] 磁束密度を劣化させる{111}再結晶粒は1/2t部、磁束密度を改善させる{100}再結晶粒は1/10t部に多い。従来の無方向性電磁鋼板は1/2t部にはAlNが少なかったため、{111}再結晶粒が歪取焼鈍によって粒成長し、磁束密度を劣化させていた。本実施形態では1/2t部にもAlNを析出させることが可能となり、{111}再結晶粒の成長が困難となったため、歪取焼鈍による磁束密度の劣化代が0.010T以下に抑えられたと考えられる。したがって板厚方向のAlNの析出物の個数密度分布を上記PDRとして規定している。」
(4)参考文献1(無方向性電磁局番の最近の開発動向、早川康之著、鉄と鋼 Vol.106(2020) No.10 1~14頁。以下、「参考1」という。)
特許権者が令和6年4月25日付け意見書に添付した参考1には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
ア 「
[図:0001414165000006.jpg]
」(5頁右欄4~23行)
イ 「
[図:0001414165000007.jpg]
」(5頁Fig8)
ウ 「
[図:0001414165000008.jpg]
[図:0001414165000009.jpg]
」(8頁右欄11行~9頁左欄11行)
エ 「
[図:0001414165000010.jpg]
」(9頁Fig17)
オ 上記イで示されるFig.8には、無方向性電磁鋼板の代表的なγ-fiber組織が示されている。また、左の四角い図で中央部やや下に青色の太い線が記載されているが、この線上が{111}の各方位強度を示す場所であることがわかる。
カ 上記ウの記載から、冷間圧延の圧下率変更により集合組織が変化すること、冷延圧下率(冷間圧下率)が高くなるとγ-fiber組織と{411}〈148〉方位の強度が共に強まることがわかる。
キ 上記エで示されるFig.17には、再結晶集合組織の変化に及ぼす冷延圧下率の影響の調査結果が示されている。そして、上記イで示されるFig.8と、上記エで示されるFig.17の四角い図はそれぞれ対応するものであり、Fig.17の中央部やや下に緑色、黄色、赤色で横方向に延びた部分があるが、これが{111}の各方位強度を示す場所であることが理解できる。
ク 上記エで示されるFig.17の左には、圧下率が上から78%、87%、96%と記載されており、それらを見比べると圧下率の違いにより、{111}の各方位強度が他の多くの場所に比べて大きく変化していることがわかる。例えば、圧下率が78%と87%を色の違いを考慮して比較すると、{111}の各方位強度に、2から3倍の違いが生じていることが看取される。特に、上記イで示されるFig.8の{111}<112>で示される箇所について、Fig.17の圧下率が78%と87%の色をみると、色の違いが顕著であることが看取され、圧下率が78%に比べ、87%の方が、方位強度が大きくなることがわかる。さらに、Fig.17の圧下率が87%と96%を比べても色の違いが顕著であり、同様に、圧下率が高くなると{111}<112>方位強度が大きくなることがわかる。
第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明1の対比
本件発明1と甲1発明1とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明1の「ステータ」は本件発明1の「ステータ」に相当し、以下同様に、「ロータ」は「ロータ」に、「モータ」は「回転電機」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「ステータと、ロータとを有する回転電機」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「前記ステータおよび前記ロータを収容する筐体」を有するのに対して、甲1発明1は、そのような筐体を備えるか明らかでない点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たしている」のに対して、甲1発明1は、「前記ステータ及び前記ロータ」の素材である「無方向性電磁鋼板」について、そのような特定はなされていない点。
(2)判断
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
ア 上記のとおり、甲1のモータコアの素材である無方向性電磁鋼板は、化学組成として、質量%で、C:0.0022%、Si:3.5%、Mn:0.1%、P:0.02%、S:0.0026%、N:0.0022%、Al:0.4%、Ti:0.0023%、並びに残部:Feおよび不純物から成り、当該化学組成を有するスラブを1150℃に加熱した後、仕上圧延温度を850℃とし、仕上板厚を2.0mmとした熱間圧延を行い、650℃で巻取って熱延鋼板を得、1000℃×50秒の熱延板焼鈍を行い、酸洗し、板厚を0.25mmとする冷間圧延を行い、800℃×20秒の仕上焼鈍を経て製造されるものである。そして、得られた無方向性電磁鋼板を、ステータ外径140mm、ロータ外径85mmで打ち抜き、積層し、ステータ側の無方向性電磁鋼板は、825℃×1時間の歪取り焼鈍を施し、ステータ及びロータを構成するモータコアを得るものである。
ここで、本件特許明細書を参照すると、本件発明1の「前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たしている」との構成を充足するモータの例として、素材符号H’及びI’(表1A)の無方向性電磁鋼板からステータ及びロータが構成されるモータ224及び227(表3A)、素材符号S’(表1C)の無方向性電磁鋼板からステータ及びロータが構成されるモータ257(表3C)が挙げられている。
ここで、本件特許明細書の無方向性電磁鋼板H’、I’及びS’と、甲1発明1の無方向性電磁鋼板の化学組成を表にすると、以下のとおりである。
[図:0001414165000011.jpg]
両者を比較すると、本件特許明細書の無方向性電磁鋼板H’、I’及びS’と、甲1発明1の無方向性電磁鋼板との間には、その組成につき一定程度の微差は認められるものの、どの構成元素も、概して類似する含有率であるともいえる。
一方、本件特許明細書の段落0053、0062、表1A、表1Cから、本件特許明細書のステータ及びロータに用いる無方向性電磁鋼板H’、I’及びS’の製造工程と、甲1発明1の無方向性電磁鋼板の製造工程の条件を表にすると、以下のとおりである。
[図:0001414165000012.jpg]
両者を比較すると、本件特許明細書のモータ224、227及び257の素材となる無方向性電磁鋼板H’、I’及びS’の製造工程と、甲1発明1のモータコアの素材となる無方向性電磁鋼板の製造工程は、いずれも熱間圧延、熱間圧延板焼鈍(甲1発明1の「熱延板焼鈍」は、熱間圧延で得た熱延鋼板に施す焼鈍であるため、本件特許明細書の「熱間圧延板焼鈍」に相当する。)、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍の工程からなる点で共通する。
しかし、冷間圧延前の板厚については、本件発明1及び甲1発明1共に、2.0mmである一方、冷間圧延後の板厚については、本件発明1が0.35mmであるのに対し、甲1発明1は0.25mmであり、一定程度の差異が認められる。
イ 鋼板の冷間圧延における圧下率(冷間圧下率)は、以下の式(A)で求められるところ、上記アの記載から、本件発明1及び甲1発明1について、冷間圧下率をそれぞれ求めると、以下のとおりである。
式(A)
(冷間圧下率)= 1-{(冷間圧延後の板厚)/(冷間圧延前の板厚)}
(本件発明1の冷間圧下率)=1-(0.35mm/2.0mm)
=0.825(82.5%)
(甲1発明1の冷間圧下率)=1-(0.25mm/2.0mm)
=0.875(87.5%)
そして、参考文献1の記載内容によれば(上記第4の2(4)を参照)、例えば、冷間圧下率が78%から87%に変化すると、{111}<112>方位強度が大きくなり、しかもその差は顕著であることが示されているところ、冷間圧下率の違いが、鋼板の{111}<112>方位強度、すなわち、鋼板の{111}<211>方位強度に大きな影響を与えることがわかる。そして、冷間圧下率82.5%の本件発明1と、冷間圧下率87.5%の甲1発明1とは、両者の、無方向性電磁鋼板の化学組成に差がなかったとしても、{111}<211>方位強度が異なる蓋然性が高いことは明らかであるといえる。
ウ そうすると、本件発明1と甲1発明1の無方向性電磁鋼板の化学組成に差がなかったとしても、甲1発明1のモータのステータ及びロータが、本件発明1の「前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たしている」との点を充足するとはいえない。
したがって、相違点2は、実質的な相違点であるといえる。
よって、本件発明1は、甲1発明1であるとはいえない。
エ また、上記第4の2(2)に示される甲2には、「冷間圧延の圧下率を90%超とすると、仕上げ焼鈍の際に、磁気特性の向上を阻害する集合組織、例えば{111}<112>集合組織が発達しやすいこと」が示されるのみで、「前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たしている」という事項について、記載も示唆もされていない。
また、上記第4の2(3)に示される甲3にも、上記事項について、記載も示唆もされていない。
さらに、上記事項が単なる設計事項であるともいえない。
そうすると、甲1発明1において、仮に、甲2、甲3に記載された技術を適用し得たとしても、本件発明1の上記相違点2に係る構成には至らない。
オ したがって、甲1発明1において、前記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
そして、本件発明1は、前記相違点2に係る構成を備えることにより、「ステータ、ロータの両方にとって良い磁気特性を持たせて、モータ効率を向上させることができる」(本件特許明細書の段落0007を参照)という格別の効果を奏するものである。
カ 以上によれば、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではなく、また、当業者であっても、甲1発明1に基いて容易に発明することができたものではない。
2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1で特定される事項をすべて含み、更に、「前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満であること」という事項を含むものである。
そして、本件発明2と甲1発明1とを対比すると、両者は、少なくとも上記で示した相違点2で相違する。
そして上記で検討したとおり、相違点2は実質的な相違点であり、また、甲1発明1において、相違点2に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1発明1ではなく、また、当業者であっても、甲1発明1に基いて容易に発明することができたものではない。
3 本件発明3~6、8について
本件発明3~6、8は、本件発明1を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明3~6、8と、甲1発明1とをそれぞれ対比すると、両者は、少なくとも、上記で示した、相違点2で相違する。
そして上記で検討したとおり、相違点2は実質的な相違点であり、また、甲1発明1において、相違点2に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件発明3~6、8は、甲1発明1ではなく、また、当業者であっても、甲1発明1に基いて容易に発明することができたものではない。
4 本件発明10について
本件発明10は、本件発明8を引用するものである。
そして、本件発明10と、甲1発明1とをそれぞれ対比すると、両者は、少なくとも、上記で示した、相違点2で相違する。
そして上記で検討したとおり、相違点2は実質的な相違点であり、また、甲1発明1において、相違点2に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件発明10は、当業者であっても、甲1発明1に基いて容易に発明することができたものではない。
5 本件発明11について
(1)本件発明11と甲1発明2の対比
本件発明11と甲1発明2とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明2の「モータ」は、本件発明11の「回転電機」に相当する。
また、甲1発明2の「モータコア」は、本件発明「鉄心素材」に相当し、甲1発明2の「モータコアを製造するための無方向性電磁鋼板」は、本件発明11の「鉄心素材に用いられる無方向性電磁鋼板」に相当する。
さらに、甲1発明2の「組」は、本件発明11の「セット」に相当する。
そうすると、本件発明11と甲1発明2とは、
「回転電機の鉄心素材に用いられる無方向性電磁鋼板のセット」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点3]
本件発明11は、「ステータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、ロータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たし」ているのに対して、甲1発明2は、回転電機のステータ用及びロータ用の「無方向性電磁鋼板」について、そのような特定はなされていない点。
[相違点4]
本件発明11は、「前記ロータの前記鉄心素材の{411}<148>方位強度(C)は、4未満である」のに対して、甲1発明2は、回転電機のロータ用の「無方向性電磁鋼板」について、そのような特定はなされていない点。
(2)判断
上記相違点3について検討すると、上記相違点2で示した理由(上記1(2)を参照)と同様の理由により、相違点3は、実質的な相違点であるといえ、また、甲1発明2において、相違点3に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、相違点4について検討するまでもなく、本件発明11は、甲1発明2ではなく、また、当業者であっても、甲1発明2に基いて容易に発明することができたものではない。
6 本件発明12について
本件発明12は、本件発明11を引用するものである。
そして、本件発明12と、甲1発明2とを対比すると、両者は、少なくとも、上記で示した、相違点3で相違する。
そして上記5で検討したとおり、相違点3は実質的な相違点であり、また、甲1発明2において、相違点3に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件発明12は、甲1発明2ではなく、また、当業者であっても、甲1発明2に基いて容易に発明することができたものではない。
7 本件発明13~16について
本件発明13~16は、本件発明2を、直接的又は間接的に引用するものである。
そして、本件発明13~16と、甲1発明1とをそれぞれ対比すると、両者は、少なくとも、上記で示した、相違点2で相違する。
そして上記で検討したとおり、相違点2は実質的な相違点であり、また、甲1発明1において、相違点2に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件発明13~16は、甲1発明1ではなく、また、当業者であっても、甲1発明1に基いて容易に発明することができたものではない。
第6 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)理由A(サポート要件違反)
本件の請求項1~12に係る特許は、以下のアの点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 「モータ効率を高める」という課題は、本件特許明細書の表1記載された特定の素材を用いた場合に限定され、しかも、本件特許明細書の段落0051及び図1に記載された特定の構造および寸法で設計された回転電機(モータ)においてのみ実証されている。そうすると、「式(1)A>B」だけしか規定していない本件特許の請求項1~12に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できない。(特許異議申立書の40頁1~11行)
(2)理由B(明確性要件違反)
本件の請求項1~12に係る特許は、以下のイ、ウの点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件特許明細書を見ても、「A>B」の場合だけ、「モータ効率を高める」という課題が達成できることについて、特段の説明はない。すなわち、「A」と「B」との大小関係のみによって「モータ効率」が向上したり悪化したりすることについて、その機序は不明である。したがって、「式(1)A>B」に関して、その技術的意味を当業者が理解できず、発明特定事項が不足しているといえるから、本件特許の請求項1~12に係る発明は不明確である。(特許異議申立書の39頁20~27行)
ウ 本件の請求項11及び12に、「無方向性電磁鋼板のセット」と記載されている。しかし、「ステータ用の無方向性電磁鋼板」と「ロータ用の無方向性電磁鋼板」とは、おそらく別々に製造されるものと思料されるところ、何をもって「セット」であると特定するかについて、本件の発明の詳細な説明には、何ら説明は無く、明確な定義等は記載されていない。したがって、本件の発明の詳細な説明の記載を考慮しても、用語「セット」の意味内容を理解できず、この用語を規定する本件特許の請求項11及び12に係る発明は不明確である。(特許異議申立書の40頁12~20行)
2 理由A(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題
本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」ということもある。)の段落0005の記載から、「筐体からの圧縮応力を受けるステータ材料の{111}<211>方位強度を高くして圧縮応力に対する感受性を高め、高い磁束密度を要するロータ材料の{111}<211>方位強度を下げて、磁束密度を確保することで、ステータ、ロータの両方にとって良い磁気特性持たせつつ、モータ効率を高める技術を提供すること」というものである。
(3)本件発明について
ア 請求項1、2、11の記載
(ア)本件発明1、2は、「前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たしていること」との事項(以下、「事項A」という。)を備えたものである。
(イ)本件発明11は、「ステータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、ロータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たしていること」との事項(以下、「事項B」という。)を備えたものである。
イ 本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明の段落0013~0016に「ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)は、2~30の範囲である。ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が2未満であると、圧縮応力に関して鉄損の増加量が増え、モータ損が増加する。また30を超えると結晶方位自体が鉄損を悪化させ、モータ損が増加する。{111}<211>方位強度(A)は、好ましくは4~10の範囲である。
ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)は、1~15の範囲である。ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が1未満であると、材料の異方性が強くなり、ロータの形状を打抜いた時に真円度が悪化し、モータ損が増加し、また15を超えると磁束密度が低下し、モータ損が増加する。{111}<211>方位強度(B)は、好ましくは2~8の範囲である。
本発明に係るステータ、ロータの鉄心素材はそれぞれ、上述の{111}<211>方位強度範囲を有すると同時に、両者の{111}<211>方位強度が、式(1)A>Bの関係式を満たしていることが必要である。両者の{111}<211>方位強度がA>Bの関係にある場合は、ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)は、ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)よりも大きいので、両者の磁気特性が向上して、モータ効率を高めることができる。
逆に、両者の{111}<211>方位強度がA≦Bの関係にある場合は、ステータではケースによる圧縮応力で鉄損が増加し、ロータの磁束密度が低下することで、回転電機の効率を高めることができない。」との記載がある。
また、発明の詳細な説明の段落0050~0065には、効果確認の一例として、{111}<211>方位強度を調整した無方向性電磁鋼板を使用して、ステータ及びロータの鉄心を作成し、回転電機を作成して、モータ損を確認した結果が示されている。
これらの記載によれば、当業者は、ステータの鉄心素材(無方向性電磁鋼板)の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、ロータの鉄心素材(無方向性電磁鋼板)の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、A>Bの関係を満たすことで、ステータ、ロータの両方にとって良い磁気特性持たせつつ、モータ効率を高めることができることを理解することができる。
ウ 以上によれば、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づき、請求項1、2に記載のとおり、事項Aを備えることによって、また、請求項11に記載のとおり、事項Bを備えることによって、本件発明の課題を解決できると認識することができる。
そうすると、本件発明1、2、11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載によりに 当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができ、本件発明1、2、11についてサポート要件の違反はない。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3~10は、本件発明1を特定するための事項を全て含み、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1と同様の理由により、本件発明3~10についてサポート要件の違反はない。
同様に、本件発明2を直接又は間接的に引用する本件発明13~16は、本件発明2を特定するための事項を全て含み、本件発明2をさらに減縮したものであるから、本件発明2と同様の理由により、本件発明13~16についてサポート要件の違反はない。
同様に、本件発明11を引用する本件発明12は、本件発明11を特定するための事項を全て含み、本件発明11をさらに減縮したものであるから、本件発明11と同様の理由により、本件発明12についてサポート要件の違反はない。
エ 以上によれば、本件特許の請求項1~16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことができない。
3 理由B(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)請求項1、2、11に「式(1)A>B」という事項が記載されているところ、請求項1、2には更に「前記ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、」という事項が、また、請求項11には更に「ステータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、ロータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、」という事項が記載されており、「式(1)A>B」という事項に関し、請求項1、2については、「ステータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(A)」が「前記ロータの鉄心素材の{111}<211>方位強度(B)」より大きいということが、また、請求項11については、「ステータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(A)」が「ロータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(B)」より大きいということが理解できる。
したがって、請求項1の記載及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~10の記載、請求項2の記載及び請求項2を直接又は間接的に引用する請求項13~16の記載、並びに、請求項11の記載及び請求項11を引用する請求項12の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)また、請求項11及び12に「無方向性電磁鋼板のセット」と記載されているところ、その記載からみて、該「無方向性電磁鋼板のセット」が、「ステータ用の無方向性電磁鋼板」と「ロータ用の無方向性電磁鋼板」とで構成されるものであることは明らかである。発明の詳細な説明の記載をみても、段落0041の「質量%で、C:0.0100%以下、Si:2.6%以上4.5%以下、Mn:0.1%以上3.0%以下、P:0.15%以下、S:0.0030%以下、N:0.0040%以下、Al:0.1%以上2.0%以下、Sn及びSbから選択される1種以上:0~0.200%、Cr:0~5.0%、Ni:0~5.0%、Cu:0~5.0%、Ca:0~0.010%、Mg:0~0.0100%及び、希土類元素(REM):0~0.010%、Ti:0.0030%以下、並びに残部:Feおよび不純物から成る無方向性電磁鋼板を、製鋼、熱間圧延、熱間圧延板焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍を含む工程で製造するに際し、熱間圧延板焼鈍の焼鈍温度を2種類設定し、ロータ用の無方向性電磁鋼板の熱間圧延板焼鈍の焼鈍温度を860℃~1000℃とし、且つステータ用の無方向性電磁鋼板の熱間圧延板焼鈍の焼鈍温度よりも高くすることによって、第一の実施形態の回転電機のステータとロータの{111}<211>方位強度の関係を得ることができる。したがって、ステータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(A)が、2~30であり、ロータ用の無方向性電磁鋼板の{111}<211>方位強度(B)が、1~15であって、且つ両者の方位強度が、式(1)A>Bの関係を満たしていることを特徴とする無方向性電磁鋼板のセットが得られる。」との記載から、「ステータ用の無方向性電磁鋼板」と「ロータ用の無方向性電磁鋼板」とで、「無方向性電磁鋼板のセット」が構成されることが理解できる。
したがって、請求項11の記載及び請求項11を引用する請求項12の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(4)以上によれば、本件特許の請求項1~16に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことができない。
第7 まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1~16に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700584