特許異議申立
2024-700665
ステータ用接着積層コアおよび回転電機
- 審判番号
- 2024-700665
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-561429
- 登録番号
- 7422679
- 請求日
- 2024年07月16日
- 審決日
- 2025年02月26日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】松沼 泰史
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【権利者代理人】堀田 耕一郎
- 【権利者代理人】山口 健吾
- 【権利者代理人】飯田 恭宏
- 【権利者代理人】井口 翔太
- 【異議申立人】宇田 利加
- 審判長/審判官
- 審判長 河本 充雄
- 審判官 緑川 隆
- 審判官 中野 浩昌
- 分類
- P1651.113-YAA(H02K) / P1651.121-YAA(H02K) / P1651.536-YAA(H02K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第135条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7422679号発明「ステータ用接着積層コアおよび回転電機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7422679号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6~8〕について訂正することを認める。
特許第7422679号の請求項1~5、7、8に係る特許を維持する。
特許第7422679号の請求項6に係る特許ついての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7422679号の請求項1~8に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2019年(令和1年)12月17日(優先権主張 平成30年12月17日)を国際出願日とする出願であって、令和6年1月18日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 7月16日 :特許異議申立人 宇田利加(以下「申立人」という。)による請求項1~8に係る特許についての特許異議の申立て
同年 9月11日付け:取消理由通知
同年11月11日 :意見書、訂正請求書の提出(特許権者)
同年12月 9日 :訂正請求書を対象とする手続補正書(方式)の提出(特許権者)
令和7年 1月17日 :意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
特許権者が令和6年11月11日に提出し、同年12月9日に提出した手続補正書(方式)により補正された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(訂正箇所を示すため、当審が下線を付した。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6」とあるのを、「請求項1~5」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1~7」とあるのを、「請求項1~5、7」に訂正する。
(4)一群の請求項
本件訂正前の請求項6~8について、請求項7、8は、それぞれ請求項6を引用しているものであって、訂正事項1による請求項6の訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項6~8に対応する訂正後の請求項6~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、かつ、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2、3について
訂正事項2、3による訂正は、訂正事項1による訂正により請求項6を削除したことに伴い、請求項7、8の引用請求項からそれぞれ請求項6を削除する訂正であるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、かつ、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
なお、本件訂正の対象である請求項6~8は、特許異議の申立ての対象とされているから、本件訂正について、同法120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、それぞれ訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
コアバック部及びティース部を有してかつ同軸に重ね合わされた複数枚の電磁鋼板と、前記各電磁鋼板間を、前記コアバック部及び前記ティース部のそれぞれにおいて接着する複数の接着部とを備え、
前記各電磁鋼板間において、前記ティース部の全面積に対する前記ティース部上の前記各接着部による平均接着強度である部分接着強度が、前記コアバック部の全面積に対する前記コアバック部上の前記各接着部による平均接着強度である部分接着強度よりも低く、
前記各接着部が同一化学成分を有する接着剤からなり、
前記ティース部における前記各接着部の面積率の平均値が、前記コアバック部における前記各接着部の面積率の平均値よりも低い
ことを特徴とするステータ用接着積層コア。
【請求項2】
前記ティース部における前記部分接着強度を、前記コアバック部における前記部分接着強度で除算した接着強度比の平均値が、0.1以上1.0未満の範囲内にある
ことを特徴とする請求項1に記載のステータ用接着積層コア。
【請求項3】
前記ティース部における前記部分接着強度の平均値S1が1~15MPaであり、
前記コアバック部における前記部分接着強度の平均値S2が15~50MPaであり、
前記平均値S1の方が前記平均値S2よりも低い、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のステータ用接着積層コア。
【請求項4】
前記ティース部における前記各接着部の面積率の平均値A1が10~50%であり、
前記コアバック部における前記各接着部の面積率の平均値A2が50~100%であり、
前記平均値A1の方が前記平均値A2よりも低い
ことを特徴とする請求項1または2に記載のステータ用接着積層コア。
【請求項5】
前記各接着部の平均厚みが1.0μm~3.0μmである
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のステータ用接着積層コア。
【請求項6】(削除)
【請求項7】
前記各接着部が、エラストマー含有アクリル系接着剤からなるSGAを含む常温接着タイプのアクリル系接着剤である
ことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のステータ用接着積層コア。
【請求項8】
請求項1~5、7の何れか1項に記載のステータ用接着積層コアを備えたことを特徴とする回転電機。
第4 特許異議申立書に記載された申立理由と取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれを「甲1」~「甲3」という。)を提出し、特許異議申立書に記載した申立理由により、本件請求項1~8に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(新規性欠如、進歩性欠如)について
ア 申立理由1-1(新規性欠如)
本件請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件請求項1に係る特許は、同条第1項の規定に違反してされたものである。
イ 申立理由1-2(進歩性欠如)
本件請求項1~8に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、又は甲1に記載された発明と甲2及び甲3に記載された周知技術に基づいてその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)について
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
[証拠方法]
甲1:特開2018-38119号公報
甲2:特開2018-129981号公報
甲3:中国特許出願公開第106936227号明細書
2 取消理由の概要
当審において通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
(1)取消理由1(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
ア 取消理由1-1
請求項1に記載された「前記ティース部における前記各接着部の面積率の平均値が、前記コアバック部における前記各接着部の面積率の平均値よりも低い」「ステータ用接着積層コア」を製造するためには、「前記ティース部における前記各接着部の面積率の平均値」及び「前記コアバック部における前記各接着部の面積率の平均値」を算出又は測定する必要があるが、発明の詳細な説明には、そのための具体化手段が記載されてないから、発明の詳細な説明は、本件発明1~8について、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
イ 取消理由1-2
請求項6に記載された「前記各接着部の平均引張弾性率Eが1500MPa~4500MPaである」「ステータ用接着積層コア」を製造するためには、「各接着部の平均引張弾性率E」を算出又は測定する必要があるが、発明の詳細な説明には、そのための具体化手段が記載されてないから、発明の詳細な説明は、本件発明6~8について、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
第5 当審の判断
1 申立理由1(新規性欠如、進歩性欠如)について
(1)甲号証の記載と、甲号証に記載された発明等
ア 甲1の記載と甲1に記載された発明
(ア)甲1の記載
甲1には以下の記載がある。(引用箇所を示すため、当審が下線を付した。)
「【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[積層鋼板]
まず、実施形態の製造方法によって得られた積層鋼板を適用可能な電動機の一例について説明する。
電動機は、例えば、回転子と、回転磁界を発生する固定子とを備えている。固定子の固定子コアは円筒状に形成されている。固定子コアは、コイルが巻かれた状態で、固定具によって筐体に固定される。固定子コアは、誘導電流の低減などを目的として、複数の鋼板を積層させた積層鋼板によって構成されている。
【0016】
図4は、固定子コアの一例を示す斜視図である。固定子コア10は、互いに同じ形状の複数の環状板1(鋼板)を積層させた積層鋼板である。固定子コア10は、複数のコイル用のスロット2と、前述の固定具(ボルト等)を挿通するための複数の挿通孔3とを有する。固定子コア10を構成する環状板1の数は、例えば300枚である。
【0017】
環状板1は、鋼板(例えば電磁鋼板)からなる。環状板1は、概略、円環状に形成されている。環状板1の外形は、平面視において例えば円形である。
挿通孔3は、固定子コア10の外周縁10aに近い位置に形成されている。複数の挿通孔3は、例えば、固定子コア10の中心軸C1に対してn回対称(nは2以上の整数)の回転対称位置に形成されている。挿通孔3は例えば6回対称の回転対称位置に形成されている。中心軸C1は環状板1の厚さ方向に沿う。」
「【0019】
[積層鋼板の製造方法](第1実施形態)
以下、各工程について詳しく説明する。
(第1工程P1)
電磁鋼板などからなる鋼板材(図示略)を用意する。鋼板材の一方の面には、後述するプレスのためのプレス油を塗布してもよい。また、鋼板材の前記面には、後述する接着剤層の接着強度を高めるため、プライマーを塗布してもよい。
図1に示すように、鋼板材を製造装置4に導入し、打ち抜き用金型7を用いて鋼板材を打ち抜き加工することによって、環状板1を得る。環状板1は、中心軸C1を中心とする円環状である。なお、周方向とは中心軸C1周りの方向である。
【0020】
(第2工程P2)
供給部15を用いて環状板1の表面1aに接着剤8を塗布することによって接着剤層9を形成する。表面1aは、前述のプレス油およびプライマーを塗布した面とは反対の面であることが好ましい。
接着剤8としては、嫌気性接着剤、加熱硬化型接着剤、二液反応硬化型接着剤などが使用できる。特に、嫌気性接着剤は、高い接着強度が得られるため好ましい。嫌気性接着剤としては、常温硬化性のものが使用できる。接着剤8は絶縁性材料であることが好ましい。
・・・
【0022】
図2に示すように、接着剤8は、第3工程P3において環状板1と積層体12とを接着させたときに、接着剤8(接着剤層9)が中心軸C1周りの円周方向に連続した形状となるように塗布する。
例えば、接着剤8は、中心軸C1周りの円周方向に連続させて表面1aに塗布することができる。これによって、接着剤層9は、中心軸C1周りの円周方向に連続した形状となる。例えば、図2では、接着剤8は中心軸C1周りの円環状に塗布され、接着剤層9は円環状となる。接着剤層9が円環状となるように接着剤8を塗布することによって、第3工程P3において積層体12を回転させる際に応力集中が起こりにくくなる。
【0023】
なお、接着剤8は、第3工程P3において環状板1と積層体12とを接着させたときに、接着剤8(接着剤層9)が中心軸C1周りの円周方向に連続した形状となるように塗布されればよい。
【0024】
接着剤層9は、例えば一定幅をもつ帯状に形成することができる。接着剤層9は、表面1aの外周縁1bに近い位置に、外周縁1bから一定の間隔をおいて形成することができる。接着剤層9は、挿通孔3より径方向内方に位置することが好ましい。
接着剤層9の厚さは、例えば0.1μm以上、20μm以下とすることができる。
【0025】
表面1aには、ティース17に、接着剤8からなる接着剤層11を形成してもよい。接着剤層11の平面視形状は、例えば径方向に沿う長円形である。
【0026】
(第3工程P3)
図1に示すように、積層部16において、接着剤層9を形成した環状板1(1A)と、他の環状板1の積層体12とを、中心軸C1周りに位置をずらせて積層する。
図3(A)に示すように、例えば、積層体12を下方から支持する支持部13を中心軸C1周りに回転させることによって積層体12の周方向位置を変化させれば、環状板1と積層体12との周方向位置をずらせることができる。」
「【0031】
積層体12の積層枚数が増すことによって、完成積層体12Aは、筒体14内で徐々に下方に移動する。図3(D)に示すように、筒体14から出た完成積層体12Aは取り出される。
図3(A)~図3(D)に示すように、積層体12が下方移動する過程で接着剤層9が硬化することによって、環状板1は接着剤層9を介して互いに接着固定される。」
「【0049】
第1実施形態の製造方法では、鋼板の表面に円周方向に連続する接着剤層を形成したが、接着剤層の数は1つに限らず、例えば、前記接着剤層とは径方向に異なる位置に、円周方向に連続する形状の第2の接着剤層を形成してもよい。第2の接着剤層は、円環状(図2参照)でもよいし、複数の円弧状(図5参照)でもよい。・・・」
「【図1】
[図:0001423512000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001423512000002.jpg]
」
「【図4】
[図:0001423512000003.jpg]
」
(イ)甲1に記載された発明
上記アによれば、甲1には「固定子コア10」について、以下の事項が記載されている。
a 段落0016によれば、固定子コア10は、互いに同じ形状の複数の環状板1(鋼板)を積層させた積層鋼板である。
b 段落0017によれば、環状板1は、概略、円環状に形成された電磁鋼板からなる。また、図2によれば、環状板1は、ティース17が形成されたティース部分と、円環状に形成された円環部分とに分けることができるといえる。さらに、段落0026及び図1によれば、複数の環状板1は、中心軸C1周りに位置をずらせて積層されるものである。
したがって、甲1の固定子コア10は、電磁鋼板からなり、円環部分とティース部分とを有し、中心軸C1周りに位置をずらせて積層される複数の環状板1を備えるといえる。
c 段落0020には、「環状板1の表面1aに接着剤8を塗布することによって接着剤層9を形成する」と記載されているところ、環状板1の表面1aは、図2を参照すると、上記bの円環部分の表面といえる。また、段落0022によれば、接着剤層9は円環状であるといえ、さらに、段落0031によれば、環状板1は、接着剤層9を介して互いに接着固定されるものであり、換言すれば、接着剤層9は、環状板1同士を接着固定するものであるといえる。
そして、段落0025には、「表面1aには、ティース17に、接着剤8からなり、径方向に長円形の接着剤層11を形成」することが記載されているところ、当該表面1aは、上記bのティース部分の表面といえる。また、接着剤層11は、上記接着剤層9と同様に、環状板1同士を接着固定するものであるといえる。
したがって、甲1の固定子コア10は、環状板1同士を接着固定するための、円環部分に円環状に形成された接着剤層9と、ティース部分に径方向に長円形に形成された接着剤層11を備えるといえ、また、接着剤層9及び接着剤層11は、接着剤8を用いて形成されたものであるといえる。
d 段落0049の「接着剤層の数は1つに限らず、例えば、前記接着剤層とは径方向に異なる位置に、円周方向に連続する形状の第2の接着剤層を形成してもよい。」との記載によれば、上記bの円環部分には、接着剤層9とは径方向に異なる位置に、円周方向に連続する形状の第2の接着剤層を形成しているといえる。
e 以上によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
[甲1発明]
電磁鋼板からなり、円環部分とティース部分とを有し、中心軸C1周りに位置をずらせて積層される複数の環状板1と、
環状板1同士を接着固定するための、円環部分に円環状に形成された接着剤層9と、ティース部分に径方向に長円形に形成された接着剤層11を備え、
接着剤層9及び接着剤層11は、接着剤8を用いて形成され、
円環部分には、接着剤層9とは径方向に異なる位置に、円周方向に連続する形状の第2の接着剤層を形成した、
互いに同じ形状の複数の環状板1を積層させた固定子コア10。
イ 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「【0028】
[固定子積層鉄心の構成]
まず、図1を参照して、固定子積層鉄心1の構成について説明する。固定子積層鉄心1は、固定子(ステータ)の一部である。固定子は、固定子積層鉄心1に巻線が取り付けられたものである。固定子が回転子(ロータ)と組み合わせられることにより、電動機(モータ)が構成される。固定子積層鉄心1は、円筒形状を呈している。すなわち、固定子積層鉄心1の中央部分には、中心軸Axに沿って延びる貫通孔1aが設けられている。貫通孔1a内には、回転子が配置可能である。」
「【0035】
一つの接着剤Ad1と二つの接着剤Ad2とは、ティース片部W3からヨーク片部W2にかけて径方向に一列に並んでいる。これらの3つの接着剤Ad1,Ad2,Ad2の面積は、図1に示されるように中心軸Axから外方に向かうにつれて大きくなっていてもよいし、いずれも略同等であってもよいし、中心軸Axから外方に向かうにつれて小さくなっていてもよい。」
「【図1】
[図:0001423512000004.jpg]
」
ウ 甲3の記載
甲3の記載を当審の翻訳文で示す。
「[0015] 図2~図3に示すように、本発明は自動車用発電機の巻線自己接着性ステータ及びロータコアの加工方法を提供するものであって、前記ステータ及びロータパンチ1をスタンピングダイにより打ち抜き、連続した鋸歯状帯状のスチールシートを形成し、スタンピング工程後、巻取り工程前にバッファゾーンを設けて接着剤供給部2を設け、スタンピングされたステータ及びロータパンチ1を接着剤供給部2を介して供給した後、スチールシートに接着剤を均一に付着させることができ、巻取り後のスチールシートをバネ形状とし、積層金型3に入れて積層加圧し、積層加圧後に積層層間の接着剤が固化するようにし、積層層間のステータ及びロータのどの部分も強固に接着されると同時に、積層係数も良好に確保され、全体として緻密なステータ及びロータを形成することができる。
[0016] 図4~図6に示すように、本発明は自動車用発電機の巻線自己接着性ステータ及びロータコアの加工装置を提供するものであって、スタンピング部、接着剤供給部2、巻取り部及び積層部を備え、前記接着剤供給部2は、ステータ及びロータパンチ1のヨーク部に対応する横方向の接着剤排出口21と、ステータ及びロータパンチ1のティース部に対応する縦方向の接着剤排出口22とを備え、前記横方向の接着剤排出口21は、接着剤供給部2に沿って等間隔に配置され、前記縦方向の接着剤排出口22は、複数のグループを有し、同一のグループは、接着剤供給部2の長手方向に沿って等間隔に配置され、異なるグループは、接着剤供給部2の長手方向に沿って等間隔に配置され、縦方向排出口22の隣接するグループ間の横方向の距離は、ステータ及びロータパンチ1の隣接する2つの歯極11の中心間の距離に等しく、隣接する2つの横方向排出口21間の距離は、ステータ及びロータパンチ1の隣接する2つの歯溝12の中心間の距離に等しい。」
「図3
[図:0001423512000005.jpg]
」
「図4
[図:0001423512000006.jpg]
」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
(ア)「電磁鋼板」について
甲1発明の「電磁鋼板からなり、円環部分とティース部分とを有し、中心軸C1周りに位置をずらせて積層される複数の環状板1」について、「電磁鋼板からな」る「環状板1」は、本件発明1の「電磁鋼板」に相当する。また、本件発明1の「コアバック部」について、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下「明細書」という。)の段落0020に「コアバック部22は、ステータ20を軸方向から見た平面視において円環状に形成されている。」と記載されているから、甲1発明の「円環部分」は、本件発明1の「コアバック部」に相当する。また、甲1発明の「ティース部分」は、本件発明1の「ティース部」に相当する。
さらに、甲1発明の「複数の環状板1」が「中心軸C1周りに」「積層される」ことは、本件発明1の「複数枚の電磁鋼板」が「同軸に重ね合わされ」ることに相当する。
したがって、甲1発明の「電磁鋼板からなり、円環部分とティース部分とを有し、中心軸C1周りに位置をずらせて積層される複数の環状板1」は、本件発明1の「コアバック部及びティース部を有してかつ同軸に重ね合わされた複数枚の電磁鋼板」に相当する。
(イ)「接着部」について
a 甲1発明の「環状板1同士を接着固定するための、円環部分に円環状に形成された接着剤層9と、ティース部分に径方向に長円形に形成された接着剤層11」について、「環状板1同士を接着固定する」ことは、本件発明1の「前記各電磁鋼板間を」「接着する」ことに相当する。
また、甲1発明の「円環部分に」「形成された接着剤層9」と、「接着剤層9とは径方向に異なる位置に、円周方向に連続する形状の第2の接着剤層」は、いずれも本件発明1の「前記コアバック部」「において接着する」「接着部」に相当する。
さらに、甲1発明の「ティース部分に形成された接着剤層11」は、本件発明1の「前記ティース部」「において接着する」「接着部」に相当する。
したがって、甲1発明の「接着剤層9」、「第2の接着剤層」、「接着剤層11」を合わせたものは、本件発明1の「前記各電磁鋼板間を、前記コアバック部及び前記ティース部のそれぞれにおいて接着する複数の接着部」に相当する。
b 甲1発明の「接着剤層9及び接着剤層11は、接着剤8を用いて形成されたもの」であることは、第2の接着剤層も接着剤8を用いているといえることも含めて、本件発明1の「前記各接着部が同一化学成分を有する接着剤からな」ることに相当する。
(ウ)「ステータ用接着積層コア」について
甲1発明の「互いに同じ形状の複数の環状板1を積層させた固定子コア10」は、「環状板1同士」が「接着固定」されていることから、以下の相違点を除き、本件発明1の「ステータ用接着積層コア」に相当する。
(エ)一致点、相違点
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
[一致点]
コアバック部及びティース部を有してかつ同軸に重ね合わされた複数枚の電磁鋼板と、前記各電磁鋼板間を、前記コアバック部及び前記ティース部のそれぞれにおいて接着する複数の接着部とを備え、
前記各接着部が同一化学成分を有する接着剤からなる、
ステータ用接着積層コア。
[相違点]
<相違点1>
本件発明1では、「前記各電磁鋼板間において、前記ティース部の全面積に対する前記ティース部上の前記各接着部による平均接着強度である部分接着強度が、前記コアバック部の全面積に対する前記コアバック部上の前記各接着部による平均接着強度である部分接着強度よりも低く」と特定されているのに対し、甲1発明ではこの点が特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1では、「前記ティース部における前記各接着部の面積率の平均値が、前記コアバック部における前記各接着部の面積率の平均値よりも低い」と特定されているのに対し、甲1発明ではこの点が特定されていない点。
イ 判断
はじめに、相違点2について検討する。
(ア)新規性欠如について
甲1発明は、円環部分における接着剤層9及び第2の接着剤層の形状は特定されているものの、それぞれの面積は具体的な記載がないから、円環部分における接着剤層9及び第2の接着剤層の面積率は不明である。
同様に、甲1発明は、ティース部分における接着剤層11の形状は特定されているものの、それぞれの面積は具体的な記載がないから、ティース部分における接着剤層11の面積率は不明である。
そして、円環部分及びティース部分におけるそれぞれの前記面積率は、各接着剤層の形状や個数から特定することができないことは明らかである。
そうすると、相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1発明ではない。
(イ)進歩性欠如について
甲2及び甲3には、ティース部及びコアバック部における接着剤の大きさについての記載はあるものの、相違点2に係る本件発明1の「前記ティース部における前記各接着部の面積率の平均値が、前記コアバック部における前記各接着部の面積率の平均値よりも低い」ことについては、記載も示唆もされていない。
したがって、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明に基づいて、又は甲1発明と甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 本件発明1についての小括
以上のとおりであるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また同条第2項の規定に違反するものでもない。
(3)本件発明2~5、7、8について
請求項2~5、7、8は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するから、本件発明2~5、7、8は、本件発明1の全ての構成を有するものである。そうすると、本件発明2~5、7、8は、本件発明1に対する上記(2)で検討した理由と同様の理由により、甲1発明に基づいて、又は甲1発明と甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。
(4)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、請求項1に係る特許は、同法第29条第1項に違反してされたものとはいえず、申立理由1-1(新規性欠如)は理由がない。
また、本件発明1~5、7、8は、甲1発明に基づいて、又は甲1発明と甲2及び甲3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではないから、請求項1~5、7、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由1-2(進歩性欠如)は、理由がない。
2 申立理由2(実施可能要件)及び取消理由1(実施可能要件)について
(1)判断手法
本件発明は「ステータ用積層接着コア」又は「回転電機」という物の発明であるところ、発明の詳細な説明が物の発明について実施可能要件を満たすためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造することができるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)取消理由1(実施可能要件)について
訂正により請求項6が削除されたため、取消理由1-2は解消した。
以下、取消理由1-1について検討する。
ア 特許権者が令和6年11月11日に提出した意見書(4頁5~15行)には、以下の釈明がある。なお、丸数字は、「(1)」等で示す。
「接着部の面積率は以下のように測定することができる。
(1)接着部の面積率の算出には、接着した積層コアを剥離して表面を観察することで測定する。
(2)剥離した面には接着した痕跡があり、この痕跡を画像処理で読み取ることで各接着部(ティース部の接着部またはコアバック部の接着部)の接着面積を算出し、各部位(ティース部またはコアバック部)の面積で除することで面積率を算出する。
(3)接着部の面積率は塗布する接着剤の量と圧下力を変えることで制御することが可能で、通常は塗布量が少なく圧下力が小さいと面積率は小さくなり、塗布量が多く圧下力が大きいと面積率は大きくなる。
これらの操作は、電磁鋼板の接着作業を実施する当業者であれば困難なものではなく通常の作業である。」
イ 検討するに、コアバック部及びティース部の面積は既知であるから、面積率を算出するためには、コアバック部及びティース部における接着部の面積を測定する必要があるところ、上記(1)及び(2)の工程を実行することで各接着部の面積を測定することができ、測定した面積に基づいて前記面積率を算出することができる。そして、上記(1)及び(2)の工程は、当業者が過度の試行錯誤を必要とすることなく実行することが可能である。
したがって、明細書における発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の「前記ティース部における前記各接着部の面積率の平均値が、前記コアバック部における前記各接着部の面積率の平均値よりも低い」「ステータ用接着積層コア」を製造することができるといえるから、取消理由1-1は解消した。
(3)申立理由2(実施可能要件)について
ア 申立理由2の概要
取消理由1と同じ理由を除けば、特許異議申立書に記載した記載した申立理由の概要は以下のとおりである。
(ア)請求項1、4(請求項1、4を引用する請求項5、7、8についても同様)の、「前記ティース部における前記各接着部の面積率の平均値」及び「前記コアバック部における前記各接着部の面積率の平均値」の記載から、複数枚の電磁鋼板において隣接する或る一対の電磁鋼板の間では、ティース部における接着部の面積率が、コアバック部における接着部の面積率よりも高い場合を想定し、発明の詳細な説明は、そのような場合であっても、本発明の課題を解決するように、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。(特許異議申立書21頁4~15行)
(イ)請求項2(請求項2を引用する請求項5、7、8についても同様)の、「前記ティース部における前記部分接着強度を、前記コアバック部における前記部分接着強度で除算した接着強度比の平均値」の記載から、複数枚の電磁鋼板において隣接する或る一対の電磁鋼板の間では、ティース部における部分接着強度を、コアバック部における部分接着強度で除算した接着強度比が、0.1以上1.0未満の範囲内にない場合を想定し、発明の詳細な説明は、そのような場合であっても、本発明の課題を解決するように、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。(同21頁23~最終行)
(ウ)請求項3(請求項3を引用する請求項5、7、8についても同様)の、「前記ティース部における前記部分接着強度の平均値S1」及び「前記コアバック部における前記部分接着強度の平均値S2」の記載から、複数枚の電磁鋼板において隣接する或る一対の電磁鋼板の間では、部分接着強度の平均値S1及び部分接着強度の平均値S2の少なくとも一方が請求項3に記載された範囲を外れるか、或いは、平均値S1の方が平均値S2よりも高い場合を想定し、発明の詳細な説明は、そのような場合であっても、本発明の課題を解決するように、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。(同22頁1~14行)
イ 申立理由2の検討
(ア)発明の詳細な説明の段落0049~0083には、本件発明の実施例が記載されているところ、段落0054及び0055には、本件発明に係る「ステータ用接着積層コア」の製造装置について、以下の記載がある。(強調のため、当審で下線を付した。)
「【0054】
以上説明の構成を有する図4の製造装置100において、まずコイルCより電磁鋼板Pを矢印F方向に順次送り出す。そして、この電磁鋼板Pに対し、打ち抜きステーション110による打ち抜き加工を行う。続いて、この電磁鋼板Pに対し、打ち抜きステーション120による打ち抜き加工を行う。これら打ち抜き加工により、電磁鋼板Pに、図3に示したコアバック部22と複数のティース部23を有する電磁鋼板40の形状を得る。ただし、この時点では完全には打ち抜かれていないので、矢印F方向に沿って次工程へと進む。次工程の接着剤塗布ステーション130では、塗布器131の前記各インジェクタから供給される接着剤が点状に塗布される。その際、コアバック部22とティース部23とで接着剤の塗布量又は種類が塗り分けられる。
【0055】
そして最後に、電磁鋼板Pは積層ステーション140へと送り出され、外周打ち抜き雄金型144により打ち抜かれて精度良く、積層される。この積層の際、電磁鋼板40はスプリング145により一定の加圧力を受ける。
以上説明のような、打ち抜き工程、接着剤塗布工程、積層工程、を順次繰り返すことで、所定枚数の電磁鋼板40を積み重ねることができる。さらに、このようにして電磁鋼板40を積み重ねて形成された積層コアは、熱硬化型接着の場合には加熱装置141によって例えば温度200℃まで加熱される。この加熱により接着剤が硬化して接着部41が形成される。常温硬化型接着剤の場合には、時間経過とともに接着剤が硬化し、接着部41が形成される。
以上の各工程により、ステータコア21が完成する。」
また、発明の詳細な説明の表2A(段落0072)及び表2B(段落0073)に記載された実施例のうち、本件発明1は、No.15~22、26~29の実施例に対応し、本件発明2は、No.15~20、22、27~29の実施例に対応し、本件発明3は、No.17~21、26、27の実施例に対応し、本件発明4は、No.15~20、27、29の実施例に対応するものである。
(イ)上記(ア)の記載によれば、本件発明に係る「ステータ用接着積層コア」は、電磁鋼板40のコアバック部22とティース部23で接着剤の塗布量が塗り分けられて塗布され、電磁鋼板Pの積層の際、一定の加圧力を受け、積層コアが加熱されもしくは時間経過により接着剤が硬化して接着部41が形成されるものであって、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明に係る「ステータ用接着積層コア」を製造することができるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものである。
(ウ)そして、実施可能要件の判断手法は上記(1)で示したとおりであって、発明の詳細な説明について、本件発明の課題を解決するように、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載することは、実施可能要件の判断手法ではないから、上記アの申立理由2はいずれも採用することができない。また、申立人が意見書において主張する理由も、同様の理由により、採用することができない。
(エ)よって、上記アの申立理由2(実施可能要件)は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔6~8〕について訂正することを認める。
そして、当審において通知した取消理由、特許異議の申立ての理由及びその証拠によっては、請求項1~5、7、8に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件訂正前の請求項6は削除されたから、申立人による請求項6に係る申立ては対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する特許法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700665