特許異議申立
2021-700855
加工タマネギの桃色化抑制方法、加工タマネギの製造方法、桃色化抑制剤、加工タマネギ、及び飲食品
- 審判番号
- 2021-700855
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-236333
- 登録番号
- 6837711
- 請求日
- 2021年09月03日
- 審決日
- 2022年07月01日
- 公報発行日
- 2022年10月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】カゴメ株式会社
- 【権利者代理人】塚副 成
- 【異議申立人】森田 弘潤
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬良 聡機
- 審判官 伊藤 佑一
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6837711号発明「加工タマネギの桃色化抑制方法、加工タマネギの製造方法、桃色化抑制剤、加工タマネギ、及び飲食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6837711号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2〕、〔3〕、〔5~9〕について訂正することを認める。
特許第6837711号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6837711号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成28年12月6日(優先権主張 平成27年12月25日)に出願され、令和3年2月15日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月3日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和3年9月3日に特許異議申立人 森田 弘潤(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月3日付けで当審から取消理由通知が通知され、令和4年1月28日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年3月24日付けで当審から特許法120条の5第5項に基づく通知書が出され、特許異議申立人から同年4月27日に意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年1月28日付け訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、以下の訂正事項1~4の訂正を求めるものである。
(1)訂正事項1
訂正前の請求項2の「請求項1の桃色化抑制方法であって、前記添加の時期は、遅くとも、生タマネギの砕き中である。」との記載を訂正し、「請求項1の桃色化抑制方法であって、前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期は、遅くとも、生タマネギの砕き中である。」とする(下線は訂正箇所を示す。以下同様。)。
(2)訂正事項2
訂正前の請求項3の「請求項1の桃色化抑制方法であって、前記添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕く前である。」との記載を訂正し、「請求項1の桃色化抑制方法であって、前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕く前である。」とする。
(3)訂正事項3
訂正前の請求項5の「請求項4の製造方法であって、前記添加の時期は、遅くとも、生タマネギの砕き中である。」との記載を訂正し、「請求項4の製造方法であって、前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期は、遅くとも、生タマネギの砕き中である。」とする。
(4)訂正事項4
訂正前の請求項6の「請求項4の製造方法であって、前記添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕く前である。」との記載を訂正し、「請求項4の製造方法であって、前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕く前である。」とする。
なお、訂正前の請求項5~9について、請求項7~9は請求項5、請求項6を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項3、訂正事項4によって記載が訂正される請求項5、請求項6に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項5~9に対応する訂正後の請求項5~9は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(ところで、特許権者は、訂正請求書において、訂正前の請求項1~3や請求項4を一群の請求項に加えて本件訂正を説明しているが、訂正前の請求項1~3について、請求項2、3は請求項1をそれぞれ直接的に引用しており、訂正事項1又は訂正事項2によって請求項2又は請求項3の記載が訂正されても、連動して訂正される請求項はなく、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ではないし、訂正前の請求項4について、請求項5、6は請求項4をそれぞれ直接的に引用しており、訂正事項3、訂正事項4によって請求項5、請求項6自体の記載が訂正されるとしても、請求項4の記載が連動して訂正されず、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に含まれないことを念のため述べておく。)
2 判断
(1)訂正事項1について
ア 目的の適否について
訂正事項1は、訂正前の請求項2における「添加の時期」が何の添加の時期を意味するのかが不明瞭であったところ、訂正後に、本来の意味である、添加する物が添加されるすべての成分であることを特定したものである。
したがって、上記訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項について
本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、訂正前の登録時の請求項1における「酸、及び当該食塩の添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後」、「ビタミンCの添加の時期は、前記酸の添加又は前記食塩の添加と同時又はその前後」との記載、本件明細書【0011】における「本発明に係る加工タマネギの桃色化抑制方法を構成するのは、酸、及び食塩の添加である。これらを添加する時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後である。好ましい添加時期は、生タマネギの砕き中であり、より好ましくは、生タマネギを砕く前である(以下、同じ。)。・・・当該製法を更に構成するのは、ビタミンCの添加であり、ビタミンCを添加する時期は、酸及び食塩の添加と同時又は前後である。」との記載を踏まえれば、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されたものであり、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を本来の意味の範囲で記載を明確にするものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 目的の適否について
訂正事項2は、訂正前の請求項3における「添加の時期」が何の添加の時期を意味するのかが不明瞭であったところ、訂正後に、本来の意味である、添加する物が添加されるすべての成分であることを特定したものである。
したがって、上記訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項について
本件訂正の訂正事項2に係る訂正は、訂正前の登録時の請求項1における「酸、及び当該食塩の添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後」、「ビタミンCの添加の時期は、前記酸の添加又は前記食塩の添加と同時又はその前後」との記載、本件明細書【0011】における「本発明に係る加工タマネギの桃色化抑制方法を構成するのは、酸、及び食塩の添加である。これらを添加する時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後である。好ましい添加時期は、生タマネギの砕き中であり、より好ましくは、生タマネギを砕く前である(以下、同じ。)。・・・当該製法を更に構成するのは、ビタミンCの添加であり、ビタミンCを添加する時期は、酸及び食塩の添加と同時又は前後である。」との記載を踏まえれば、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されたものであり、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を本来の記載の範囲で記載を明確にするものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 目的の適否について
訂正事項3は、訂正前の請求項5における「添加の時期」が何の添加の時期を意味するのかが不明瞭であったところ、訂正後に、本来の意味である、添加する物が添加されるすべての成分であることを特定したものである。
したがって、上記訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項について
本件訂正の訂正事項3に係る訂正は、訂正前の登録時の請求項4における「酸、及び当該食塩の添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後」、「ビタミンCの添加の時期は、前記酸の添加又は前記食塩の添加と同時又はその前後」との記載、本件明細書【0011】における「本発明に係る加工タマネギの桃色化抑制方法を構成するのは、酸、及び食塩の添加である。これらを添加する時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後である。好ましい添加時期は、生タマネギの砕き中であり、より好ましくは、生タマネギを砕く前である(以下、同じ。)。・・・当該製法を更に構成するのは、ビタミンCの添加であり、ビタミンCを添加する時期は、酸及び食塩の添加と同時又は前後である。」との記載を踏まえれば、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されたものであり、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を本来の意味の範囲で記載を明確にするものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。
また、請求項5の上記訂正に連動する請求項7~9の訂正も、同様の理由により、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
エ 訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 目的の適否について
訂正事項4は、訂正前の請求項6における「添加の時期」が何の添加の時期を意味するのかが不明瞭であったところ、訂正後に、本来の意味である、添加する物が添加されるすべての成分であることを特定したものである。
したがって、上記訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項について
本件訂正の訂正事項4に係る訂正は、訂正前の登録時の請求項4における「酸、及び当該食塩の添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後」、「ビタミンCの添加の時期は、前記酸の添加又は前記食塩の添加と同時又はその前後」との記載、本件明細書【0011】における「本発明に係る加工タマネギの桃色化抑制方法を構成するのは、酸、及び食塩の添加である。これらを添加する時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後である。好ましい添加時期は、生タマネギの砕き中であり、より好ましくは、生タマネギを砕く前である(以下、同じ。)。・・・当該製法を更に構成するのは、ビタミンCの添加であり、ビタミンCを添加する時期は、酸及び食塩の添加と同時又は前後である。」との記載を踏まえれば、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載されたものであり、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。
よって、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
上記訂正は、特許請求の範囲を本来の記載の範囲で記載を明確にするものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。
また、請求項6の上記訂正に連動する請求項7~9の訂正も、同様の理由により、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
エ 訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、訂正後の請求項〔2〕、〔3〕、〔5~9〕について訂正することを認める。
第3 特許請求の範囲の記載
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
加工タマネギの桃色化抑制方法であって、それを構成するのは、次の工程であり、
添加:ここで添加されるのは、酸、食塩、及びビタミンCであり、当該酸、及び当該食塩の添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕いた直後であり、ビタミンCの添加の時期は、前記酸の添加又は前記食塩の添加と同時又はその前後であり、当該ビタミンCの、
加工タマネギにおける添加量は、0.025%(w/w)以上であり、
加熱:ここで加熱されるのは、砕かれる又は砕かれたタマネギであり、その温度は、70度以上80度未満である。
【請求項2】
請求項1の桃色化抑制方法であって、
前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期は、遅くとも、生タマネギの砕き中である。
【請求項3】
請求項1の桃色化抑制方法であって、
前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕く前である。
【請求項4】
加工タマネギの製造方法であって、それを構成するのは、次の工程であり、
砕き:ここで砕かれるのは、生タマネギであり、
添加:ここで添加されるのは、酸、食塩、及びビタミンCであり、当該酸、及び当該食塩の添加の時期は、遅くとも、前記生タマネギを砕いた直後であり、当該ビタミンCの添加の時期は、前記酸の添加又は前記食塩の添加と同時又はその前後であり、当該ビタミンCの、加工タマネギにおける添加量は、0.025%(w/w)以上であり、かつ、
加熱:ここで加熱されるのは、砕かれる又は砕かれたタマネギであり、その温度は、70度以上80度未満である。
【請求項5】
請求項4の製造方法であって、
前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期は、遅くとも、生タマネギの砕き中である。
【請求項6】
請求項4の製造方法であって、
前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期は、遅くとも、生タマネギを砕く前である。
【請求項7】
請求項4乃至6の何れかの製造方法であって、
前記食塩の、加工タマネギにおける添加量は、3%(w/w)以上である。
【請求項8】
請求項4乃至7の何れかの製造方法であって、
前記酸が、酢酸である。
【請求項9】
請求項4乃至8の何れかの製造方法であって、
前記ビタミンCの、加工タマネギにおける添加量は、0.5%(w/w)以上である。」
第4 取消理由及び特許異議申立理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
特許異議申立人は、下記の甲第1~9号証を提出し、以下の異議申立理由を主張している。
(1)明確性要件
異議申立理由1-1:訂正前の本件特許発明は、「生タマネギを砕いた直後」という規定の外延が明らかではないため、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
異議申立理由1-2:訂正前の本件特許発明は、「加熱:ここで加熱されるのは、砕かれる又は砕かれたタマネギであり、その温度は、70度以上80度未満である」という規定の外延が明らかではないため、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
(2)サポート要件
異議申立理由2-1:本件明細書【0009】に記載されるように、本件特許発明が解決しようとする課題は、「加工タマネギの桃色化抑制及び風味の改善」と認められるところ、本件明細書の実施例では風味に関する評価がなされていない一方で、本件明細書【0005】には「ホール状の玉葱を蒸すことで、その中心温度を60度乃至80度とする。当該製法が奏する効果は、風味の確保及び赤色化の防止である。もっとも、この製法の欠点は、当該中心温度の制御が困難な点である。玉葱の過加熱によってその風味は、劣化する。」と記載されており、本件明細書【0029】の記載等を参酌しても、桃色化抑制と風味の改善の両立という課題を解決できると認識できないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
異議申立理由2-2:本件明細書の実施例ではタマネギの破砕工程後に酸及び食塩を添加する態様は記載されておらず、また、本件明細書【0034】におけるタマネギを砕いたのち0分後と20分以上経過した後の色調変化の記載を参酌すると、桃色化抑制剤の有効成分である酸及び食塩の添加のタイミングはタマネギの破砕工程よりも前か遅くともこれと同時でなければならないと考えられることから、タマネギを砕いた「直後」についてまで本件特許発明の課題を解決できると認識できないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
異議申立理由2-3:訂正前の本件特許発明は、加熱の時期を特定してしないものの、桃色化に関わる酵素の失活のために加熱を行っていることを考えれば、桃色化が開始される本砕きよりも一定時間以上前である必要があること、また、本件明細書の実施例では、「破砕中は品温72度となるように加熱した」と記載され、加熱のタイミングも「生タマネギの砕き中」であるとともに、殺菌等を目的として80度以上の温度での加熱が行われていることから、加熱の時期が特定されておらず、加熱温度が「70度以上80度未満」とされている本件特許発明全般が本件特許発明の課題を解決できると認識できないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
異議申立理由2-4:本件明細書の実施例ではタマネギのカットサイズとして7mm角と10mm角の場合のみで桃色化の抑制効果を確認しており、桃色化の度合いが大きいと考えられる小さいサイズについては示されておらず、タマネギの大きさや形状について特定されていない本件特許発明全般が本件特許発明の課題を解決できると認識できないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
異議申立理由2-5:本件明細書【0046】の記載から、本来、本件発明7以外の発明に対しては実施例に位置づけられるべき構成を有する「比較例6」について、現に桃色化が発生していることが読み取れるとともに、本件明細書【0012】、【0027】の記載も踏まえると、本件発明の構成を満たしていても、食塩の濃度が3.0%(w/w)を下回っている場合には、その技術的課題を解決し得ないことを被申立人自ら示しているといえるため、食塩の配合量について特定されていない本件特許発明全般が本件特許発明の課題を解決できると認識できないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
異議申立理由2-6:タマネギの変色メカニズムに関与するアリイナーゼの活性がpH5.5付近で最も強くなる旨の甲第3号証の記載を参酌すると、酸の種類及び量について特定されていない本件特許発明全般が本件特許発明の課題を解決できると認識できないから、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
(3)進歩性
異議申立理由3-1:甲第1号証には、加工タマネギの製造方法が記載されているところ、ビタミンCを添加することは甲第4~7号証に記載のとおり周知慣用技術であり、酸、食塩及びビタミンCの添加の時期は甲第1、8号証に記載されているかその記載から容易に想到し得るものであり、70度以上80度未満で加熱することは甲第9号証の記載から容易に想到し得るものであるので、訂正前の本件特許発明1~9は、甲第1号証記載の発明及び甲第4~9号証記載の技術常識からから当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
記
甲第1号証:楽天レシピ「簡単☆オニオンピクルス レシピ・作り方」(公開日:2014年9月9日)
https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1070031674/
甲第2号証:ニチレイ株式会社のホームページの2014年3月11日付け記事「第2回 家庭で発生しやすい食中毒菌と殺菌方法」
https://www.nichirei.co.jp/koras/category/knowing/002.html
甲第3号証:“Allium Discoloration: The Color-Forming Potential of Individual Thiosulfinates and Amino Acids: Structural Requirements for the Color-Developing Precursors”(Journal of Agricultural and Food Chemistry, Vol.55, No.9, 2007, 3491-3497) (抄訳付き)
甲第4号証:特開昭59-74969号公報
甲第5号証:特開昭57-174067号公報
甲第6号証:特開昭61-181353号公報
甲第7号証:特開2009-65987号公報
甲第8号証:野菜の変色をふせぐ5つのポイント(公開日:2015年11月6日)
https://www.nfa.co.jp/moguhapi/archives/85
甲第9号証:特開2015-47138号公報
2 当審が通知した取消理由
理由1(サポート要件):本件特許は、訂正前の請求項4~9の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、訂正前の請求項4~9に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由2(明確性):本件特許は、訂正前の請求項2、3、5~9の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、訂正前の請求項2、3、5~9に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
取消理由通知に記載した取消理由について
1 理由1(特許法第36条第6項第1号)について(異議申立理由2-1に相当)
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件特許発明の課題
本件特許発明4~9は、加工タマネギの製造方法の発明であって、特許請求の範囲、明細書の全体の記載事項(特に、【0009】の段落)及び出願時の技術常識からみて、加工タマネギの製造における桃色化抑制と風味の向上の両立を解決しようとする課題とするものであると認められる。
(3)請求項4には、前記第3のとおり、「加工タマネギの製造方法」「を構成する」工程として、「加熱:ここで加熱されるのは、砕かれる又は砕かれたタマネギであり、その温度は、70度以上80度未満である」ことが記載されている。また、「砕かれる」との用語については、本件の発明の詳細な説明の【0029】に、加熱の工程について、「本工程の実施は、・・・その時期は、遅くとも、本砕き(S40)の直後が好ましく、より好ましい時期は、生タマネギの砕き中、更に好ましくは砕く前である。」との記載があるため、砕かれる前のタマネギを包含するものであると認められる
(4) 発明の詳細な説明の記載
ア 本件の発明の詳細な説明には、特許請求の範囲に記載された発明に対応した記載として、以下のような記載がある。
イ まず、【0005】には、「特許文献2が開示するのは、酸性調味料用タマネギの製造方法であって、その構成がホール状の玉葱を蒸すことである。ホール状の玉葱を蒸すことで、その中心温度を60度乃至80度とする。当該製法が奏する効果は、風味の確保及び赤色化の防止である。もっとも、この製法の欠点は、当該中心温度の制御が困難な点である。玉葱の過加熱によってその風味は、劣化する。」とのホール状のタマネギの加熱や過加熱による風味の劣化に関する記載、【0029】には、「 <加熱(S50)>
本砕きされたタマネギを加熱する目的は、タマネギの桃色化抑制の補助、及び加熱調理による風味の調整である。・・・品温が70度以上80度未満であれば、本加工タマネギにおいて、その辛味が確保されながらも、苦味が抑制される。」との加熱による風味の調整に関する記載がある。
ウ しかし、本件の発明の詳細な説明には、「風味」についての定義や説明は記載されていない。また、実施例においても、各種処理を行ったタマネギについて、風味を評価した旨の記載はない。
(5)対比・判断
ア 令和4年1月28日付けで特許権者が提出した意見書に添付された乙第1号証(特許第5914743号公報)、乙第2号証(特開2007-319139号公報)、乙第3号証(特開2008-11712号公報)に記載されるように、「風味」との用語は食品業界において一般に食品の味を意味するものであると認められること、また、広辞苑(第5版、1998年発行)において、「風味」は「あじ」を意味するものと記載されていることを参酌すると、本件の発明の詳細な説明に記載の「風味」についても、食品である加工タマネギの味を意味するものと当業者は理解できる。
イ 本件の発明の詳細な説明の【0029】において、「品温が70度以上80度未満であれば、本加工タマネギにおいて、その辛味が確保されながらも、苦味が抑制される。」との記載があるところ、令和4年1月28日付けで特許権者が提出した意見書に添付された乙第2号証において、「低温加熱処理タマネギが、タマネギの野菜としての本来甘さを維持し、タマネギ固有の刺激臭、刺激味を感じないにすることを見出した。」(【0018】)、「本発明は、食品の味に影響するピルビン酸の生成を抑制し、タマネギに含まれる酵素を効果的に失活させ、かつユリ科の野菜タマネギなど、野菜としての生の風味を維持したまま、多くの食材に利用できる技術を見出したものである。」(【0019】)、「本発明の低温加熱処理条件は、水槽の温度は80℃以上から煮沸100℃の範囲が望ましい。野菜を投入後、20分以上40分以内で、野菜の中心部温度60℃から80℃になるように加熱を行う。この中心温度が60~80℃に達してから20分の間の加熱が好ましい。さらに好ましくは、野菜の中心部の温度が65~75℃に達してから15分の間の加熱が好ましい。さらに好ましくは、中心部温度70℃達温が好ましい。上記の処理を行うことによって、タマネギの甘味を抑制するピルビン酸の量を0.01質量%以下に減少させることができる。」(【0023】)との記載があること、中心部温度の過加熱の問題を加熱温度と加熱時間を調整することにより一定程度解決できることは技術常識であることも参酌すると、本件特許発明4~9における70度以上80度未満」の加熱工程により、加工タマネギの製造において風味が向上し得ることを当業者は理解できる。
ウ 本件の発明の詳細な説明の【0005】における「ホール状の玉葱を蒸すことで、その中心温度を60度乃至80度とする。当該製法が奏する効果は、風味の確保及び赤色化の防止である。もっとも、この製法の欠点は、当該中心温度の制御が困難な点である。玉葱の過加熱によってその風味は、劣化する。」との記載を参酌すると、砕かれる前のホール状のタマネギについて、過加熱による風味の劣化を防止すべく中心温度を制御することが困難であることは認められるが、先に記載した乙第2号証において、ホール状のタマネギの中心温度が70度付近となるように加熱した例が記載されている(【0033】の実験例2)ことから、過加熱にならないように中心温度を制御することは当業者が十分に実施し得ることであるといえる。
エ 特許異議申立人は、意見書2、3頁において、「風味」には様々な種類が存在しており、定義や説明がなければ具体的にどのような風味を、どのような評価方法で、どのような評価結果を得たことで課題解決できたといえるのか認識できない旨の主張している。
しかしながら、上記のとおり、「風味」との用語は食品業界において一般に食品の味を意味するものであるから、本件の発明の詳細な説明において「風味」に関する個別具体的な記載がないのであれば、本件特許発明が解決しようとする「風味の向上」とは、食品の味全般を向上させる意味であると十分に理解し得る。また、技術常識等も参酌した上で、本件特許発明が食品の味全般を向上させることを把握できれば、当業者は本件特許発明が課題解決できることを理解できるといえ、その評価方法や評価結果が発明の詳細な説明に具体的に記載されている必要があるともいえないことから、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
オ また、特許異議申立人は、意見書4、5頁において、本件の発明の詳細な説明の【0029】の記載は【0005】の記載と矛盾すること、本件明細書ではない乙第2号証の記載をサポート要件の基礎とする主張は失当であること、乙第2号証の記載を基に加熱による風味の改善が公知であるとの主張は従来技術の技術的課題の存在を自ら否定している旨を主張している。
しかしながら、上記のとおり、【0005】の記載から、ホール状のタマネギについては過加熱による風味の劣化を防止すべく中心温度を制御することが困難であることが認められるとしても、温度制御の困難さを述べているに過ぎないから、【0029】の記載と矛盾するものとは認められない。
さらに、上記1(2)のとおり、本件特許発明の課題は、風味の向上のみならず、加工タマネギの製造における桃色化抑制と風味の向上の両立であると認められるとともに、そもそも、課題が存在しない部分があるとしても、そのことをもってサポート要件を満たさないということにはならない。
よって、上記特許異議申立人の主張も採用できない。
以上のとおり、本件の発明の詳細な説明及び乙第1~3号証の記載を参酌すれば、本件特許発明4~9により加工タマネギの製造において桃色化を抑制しつつ風味の向上を図ることができ、当該発明は本件特許発明の課題を解決できるものと認識できる。
(6)取消理由1のまとめ
したがって、本件特許発明4~9は、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、取消理由1は解消している。
2 理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)判断
本件訂正により、請求項2、3、5、6の記載において、「添加の時期」が「前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンC」を添加する時期を意味していることが明示的に特定されたので、添加時期を特定している対象は明確になったといえる。
(2)取消理由2のまとめ
したがって、取消理由2は解消している。
3 小括
以上のとおり、取消理由1、2は解消している。
取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての検討
1 明確性要件(異議申立理由1-1)について
ア 特許異議申立人は、訂正前の本件特許発明は、「生タマネギを砕いた直後」という規定の外延が明らかではない旨主張している。
イ しかしながら、広辞苑(第5版、1998年発行)において、「直後」は「(時間的・空間的に)すぐのち。すぐあと」を意味するものと記載されることを踏まえれば、「生タマネギを砕いた直後」なる記載を通常の文言の意味から解釈すれば、生タマネギを砕いた「すぐのち」又は「すぐあと」を意味することは明らかであり、本件特許明細書の記載を参酌しても、「直後」の意味として他の意味であると解釈すべき特段の事情は見いだせない。
2 明確性要件(異議申立理由1-2)について
ア 特許異議申立人は、訂正前の本件特許発明は、加熱の工程と殺菌及び充填の工程との関係が明らかでないことから、「加熱:ここで加熱されるのは、砕かれる又は砕かれたタマネギであり、その温度は、70度以上80度未満である」という規定の外延が明らかではない旨主張している。
イ しかしながら、本件の特許請求の範囲における請求項1には、「加工タマネギの桃色化抑制方法であって、それを構成する」工程として、添加の工程とともに「加熱:ここで加熱されるのは、砕かれる又は砕かれたタマネギであり、その温度は、70度以上80度未満である」が記載され、また、請求項4においても、「加工タマネギの製造方法であって、それを構成する」工程として、砕き、添加の工程とともに「加熱:ここで加熱されるのは、砕かれる又は砕かれたタマネギであり、その温度は、70度以上80度未満である」が記載されているところ、ともに、方法を構成する工程として「砕かれる又は砕かれたタマネギ」を対象に「70度以上80度未満」の温度で加熱する工程があるという意味において明確に記載されている。
また、本件明細書において、殺菌及び充填の工程等について記載されているとしても、それらは本件特許発明の実施における一態様を記載しているに過ぎず、特許請求の範囲の記載が明確である以上は、当該記載に基づき本件特許発明を明確に把握できるといえる。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たすものである。
3 サポート要件(異議申立理由2-2)について
ア 特許異議申立人は、本件明細書の実施例ではタマネギの破砕工程後に酸及び食塩を添加する態様は記載されておらず、また、本件明細書【0034】におけるタマネギを砕いたのち0分後と20分以上経過した後の色調変化の記載を参酌すると、桃色化抑制剤の有効成分である酸及び食塩の添加のタイミングはタマネギの破砕工程よりも前か遅くともこれと同時でなければならないと考えられることから、タマネギを砕いた「直後」についてまで本件特許発明の課題を解決できると認識できない旨主張している。
イ しかしながら、本件明細書【0006】に記載のとおり、タマネギの着色機序として酵素反応等を経由した経時的な着色物質の生成反応であることを参酌すれば、タマネギの破砕工程による桃色化の開始後であるとしても、酸及び食塩の添加により桃色化を抑制し、一定程度課題を解決できることは、当業者が理解できるといえる。また、このことは、本件明細書【0035】において、砕き後に添加するまでの放置時間が20分と60分で行われた試験2と3、試験4と5、試験6と7の結果の比較において、すべての例で放置時間を20分とした試験の方がa値が小さいこととも整合している。よって、酸及び食塩の添加のタイミングがタマネギを砕いた「直後」である場合についても、本件特許発明の課題を解決できるものといえる。
4 サポート要件(異議申立理由2-3)について
ア 特許異議申立人は、訂正前の本件特許発明は、加熱の時期を特定してしないものの、桃色化に関わる酵素の失活のために加熱を行っていることを考えれば、桃色化が開始される本砕きよりも一定時間以上前である必要があること、また、本件明細書の実施例では、「破砕中は品温72度となるように加熱した」と記載され、加熱のタイミングも「生タマネギの砕き中」であるとともに、殺菌等を目的として80度以上の温度での加熱が行われていることから、加熱の時期が特定されておらず、加熱温度が「70度以上80度未満」とされている本件特許発明全般が本件特許発明の課題を解決できると認識できない旨主張している。
イ しかしながら、上記の異議申立理由2-2に関して記載したとおり、タマネギの着色機序として酵素反応等を経由した経時的な着色物質の生成反応であることを参酌すれば、桃色化が開始される本砕きより後であるとしても、抑制の程度に違いはあるにしても、加熱により桃色化を抑制し、一定程度課題を解決できることは、当業者が理解できるといえる。また、加熱温度についても、タマネギのアリイナーゼは60℃で大部分が失活することが技術常識であったこと(例えば、1975年の論文である「J. Sci. Fd Agric., 1975, 26, 1333-1346」の第1342頁における3.3.1.2の項を参照)を参酌すれば、本件の特許請求の範囲に記載された「70度以上80度未満」の加熱により酵素を失活させ、桃色化を抑制できると認められる。よって、本件特許発明によりその課題を解決できるものといえる。
5 サポート要件(異議申立理由2-4)について
ア 特許異議申立人は、本件明細書の実施例ではタマネギのカットサイズとして7mm角と10mm角の場合のみで桃色化の抑制効果を確認しており、桃色化の度合いが大きいと考えられる小さいサイズについては示されておらず、タマネギの大きさや形状について特定されていない本件特許発明全般が本件特許発明の課題を解決できると認識できない旨主張している。
イ しかしながら、本件明細書の実施例において、タマネギのカットサイズとして7mm角と10mm角の場合で桃色化の抑制効果を確認したことが具体的に記載されているとともに、添加剤の添加量や添加の時期による桃色化の抑制効果の違いも検証した旨の記載がある一方、大きさや形状によっては桃色化を抑制できない旨の記載はなく、また、そのような技術常識が存在したとも認められないことを踏まえれば、当該記載に触れた当業者であれば、所望の大きさや形状のタマネギを対象とする際にも、添加剤の添加量や添加の時期等を調整することにより桃色化を抑制し、一定程度課題を解決できることは、当業者が理解できるといえる。よって、本件特許発明によりその課題を解決できるものといえる。
6 サポート要件(異議申立理由2-5)について
ア 特許異議申立人は、本件明細書【0046】の記載から、本来、本件発明7以外の発明に対しては実施例に位置づけられるべき構成を有する「比較例6」について、現に桃色化が発生していることが読み取れるとともに、本件明細書【0012】、【0027】の記載も踏まえると、本件発明の構成を満たしていても、食塩の濃度が3.0%(w/w)を下回っている場合には、その技術的課題を解決し得ないことを被申立人自ら示しているといえるため、食塩の配合量について特定されていない本件特許発明全般が本件特許発明の課題を解決できると認識できない旨主張している。
イ しかしながら、特許異議申立人も実施例に位置づけられるべき構成を有すると認める本件明細書【0047】の「比較例6」には、添加された食塩の濃度が0.5%(w/w)に過ぎないものの、食塩の濃度が0%(w/w)である「比較例5」と比較すると、色調を示すa値は小さく、科学的な事実として桃色化を抑制できていると認められる。してみると、本件明細書【0012】、【0027】において、本件特許発明の実施における一態様として食塩の濃度が3.0%(w/w)以上とすることが記載され、また、実施例に位置づけられるべき構成を有する例が「比較例」と記載されているとしても、食塩の濃度を3.0%(w/w)未満とした場合においても桃色化を抑制できると認められる以上、本件特許発明はその課題を解決できるものといえる。
7 サポート要件(異議申立理由2-6)について
ア 特許異議申立人は、タマネギの変色メカニズムに関与するアリイナーゼの活性がpH5.5付近で最も強くなる旨の甲第3号証の記載を参酌すると、酸の種類及び量について特定されていない本件特許発明全般が本件特許発明の課題を解決できると認識できない旨主張している。
イ しかしながら、本件明細書【0027】における「当該酢酸の添加量は、好ましくは1.5%(w/w)以上であり、より好ましくは3.0%以上である。」との記載を参酌すれば、処理対象となるタマネギに応じて酸の添加量を調整できるものと認められる。さらに、本件特許発明は、桃色化の抑制のため酸のほかに食塩及びビタミンCを添加するとともに、加熱する発明であることから、仮に酸による桃色化の抑制効果が十分に発揮されなかったとしても、食塩及びビタミンCの添加や加熱により桃色化を抑制できるとも認められることから、本件特許発明はその課題を解決できるものといえる。
したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。
8 進歩性(異議申立理由3-1)について
(1)甲号証の記載事項
(1-1)甲第1号証
本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的情報である甲第1号証(以下、「電子的技術情報1」という。)には、以下の記載がある。
記載(1a)
「簡単☆オニオンピクルス レシピ・作り方
材料(1~2人分)
玉葱みじん切り 30g
塩 少々
砂糖 一つまみ
お酢 小さじ半分強
パセリ(お好みで) 少々
作り方
1 「パセリ」以外の材料を耐熱容器に入れて混ぜます。
ラップをして電子レンジ600Wで30~40秒加熱。
※酢は普段小さじ1使用していますが、水分が多くなるので今回は減らしました。
2 容器に盛りつけパセリをふって完成。
※撮影用に初めて容器に盛りました。
普段はこのままタルタルやサンドに使うので盛り付ける事はありません(笑)」
記載(1b)
「電子レンジを使って約2分でピクルス完成です♪
あっピクルスがない!と急に必要になった時にお勧めです♪(滅多になさそうな事態ですがタルタルソースやホットドック等)」
(2) 電子的技術情報1記載の発明
摘記(1a)のとおり、電子的技術情報1には、オニオンピクルスを製造するためのレシピ・作り方として、玉葱みじん切り、塩、お酢を含むものが記載され、材料を耐熱容器に入れて混ぜた後に電子レンジ600Wで30~40秒加熱することも記載されている。
したがって、電子的技術情報1には、以下の発明が記載されているといえる(以下「引用発明1」という。)。
「オニオンピクルスの製造方法であって、それを構成するのは、次の工程であり、
みじん切り:ここでみじん切りにされるのは、生タマネギであり、
添加:ここで添加されるのは、お酢及び食塩であり、かつ、
加熱:ここで加熱されるのは、みじん切りにされたタマネギであり、電子レンジ600Wで30~40秒加熱する。」
(3) 対比・判断
(3-1)本件特許発明4との対比・判断
ア 対比
引用発明1の「オニオンピクルス」は、本件特許発明4の「加工タマネギ」に相当する。
引用発明1の「みじん切り」は、本件特許発明4の「砕き」に相当する。
したがって、本件特許発明4と引用発明1とは
「加工タマネギの製造方法であって、それを構成するのは、次の工程であり、
砕き:ここで砕かれるのは、生タマネギであり、
添加:ここで添加されるのは、お酢及び食塩であり、かつ、
加熱:ここで加熱されるのは、砕かれたタマネギである。」の点で一致しており、以下の点で相違する。
相違点1:本件特許発明4は、添加工程として「ビタミンC」を添加するとともに、その「加工タマネギにおける添加量は、0.025%(w/w)以上」と特定されているものの、引用発明1においては、そのような記載がない点。
相違点2:本件特許発明4は、添加の時期について「当該酸、及び当該食塩の添加の時期は、遅くとも、前記生タマネギを砕いた直後であり、当該ビタミンCの添加の時期は、前記酸の添加又は前記食塩の添加と同時又はその前後であ」ると特定されているものの、引用発明1においては、そのような記載がない点。
相違点3:本件特許発明4は、加熱工程における「温度は、70度以上80度未満である」と特定されているものの、引用発明1においては、「電子レンジ600Wで30~40秒」と記載されている点。
イ 相違点3の判断
引用発明1においては、加熱工程が「電子レンジ600Wで30~40秒」とされているところ、電子的技術情報1には、加熱時の品温について何ら記載されておらず、本願優先日当時における技術常識を参酌しても、「電子レンジ600Wで30~40秒」とされる加熱工程において「温度は、70度以上80度未満」に調整する動機付けがあったとはいえない。
したがって、引用発明1において、「電子レンジ600Wで30~40秒」とされる加熱工程を調整して、相違点3の構成をなすことは、当業者が容易になし得る技術的事項とはいえない。
ウ よって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件特許発明4は、電子的技術情報1記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3-2)本件特許発明5~9との対比・判断
本件特許発明5~9は、本件特許発明4において、「前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期」、「前記食塩の、加工タマネギにおける添加量」、「前記酸が、酢酸」、「前記ビタミンCの、加工タマネギにおける添加量」という点をさらに技術的に限定したものであるから、上記(3-1)で検討したのと同様に、電子的技術情報1記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3-3)本件特許発明1~3との対比・判断
本件特許発明1は、本件特許発明4において、「加工タマネギの製造方法」から「加工タマネギの桃色化抑制方法」に置換し、「砕き」の工程を削除したものであり、本件特許発明2、3は、さらに「前記酸、前記食塩、及び前記ビタミンCの添加の時期」という点を技術的に限定したものであるから、上記(3-1)で検討したのと同様に、電子的技術情報1記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は、甲第9号証(特開2015-47138号公報)を提示しつつ、フレッシュ感、適度な苦み・辛味、十分な旨みを有し、酸性調味料に添加した際に変色しない酸性調味料用玉葱加工品の製造方法が記載されており(段落【0007】)、その請求項1では、中心温度が60~80℃になるように加熱することが記載されており、その段落【0014】では「玉葱の中心温度が60℃未満だと、苦味・辛味が過度に感じられ、また酸性調味料に添加した際に赤く変色してしまう」「一方、玉葱の中心温度が80℃を超えると、生玉葱が本来持つフレッシュ感が失われてしまう」と記載されていることから、変色防止及び風味の改善という観点から、玉葱加工品の中心温度が60~80℃になるように加熱することは、甲第9号証の記載を基に、当業者が極めて容易になし得たことに過ぎないと主張している。
イ しかしながら、甲第9号証は酸性調味料用玉葱加工品の製造方法であり、ドレッシング等の酸性調味料の製造に用いるための玉葱の加工工程を記載したものであるところ(請求項1~2、【0020】参照)、オニオンピクルスの製造方法に関する引用発明1とは玉葱加工品の用途や利用場面が異なり、また、引用発明1において変色防止という課題について何ら触れられていないことも踏まえれば、引用発明1の実施において、甲第9号証を参酌して加熱工程における温度を「中心温度が60~80℃になるように」調整し、さらに、その温度範囲を本件特許発明の範囲である「70度以上80度未満」とすることに、十分な動機付けがあったとはいえない。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
ウ 特許異議申立人の意見書におけるその他の主張について
特許異議申立人は、意見書7~13頁において、新たに生じた進歩性違反の取消理由として、特許権者の意見書の主張に反論し、審査段階で引用された文献1~4に記載の発明に対して進歩性を有しない旨の主張を行っているが、異議申立書に記載された理由ではなく、本件訂正により生じた理由でもない実質的に新たな取消理由であることから、職権審理は行わず、これを採用しないこととする。
9 小括
以上のとおり、異議申立理由1-1、1-2、2-2、2-3、2-4、2-5、2-6、及び3-1については、理由がない。
第6 むすび
したがって、請求項1~9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700855