特許異議申立
2021-700811
リン酸カルシウム微粒子と繊維との複合体、および、その製造方法
- 審判番号
- 2021-700811
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-539222外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6833699
- 請求日
- 2021年08月19日
- 審決日
- 2023年01月10日
- 公報発行日
- 2023年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1652.113-YAA(C01B) / P1652.121-YAA(C01B) / P1652.537-YAA(C01B) / P1652.161-YAA(C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6833699号発明「リン酸カルシウム微粒子と繊維との複合体、および、その製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6833699号の特許請求の範囲を令和4年3月18日の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6、16、17〕について訂正することを認める。
特許第6833699号の請求項1~4、6、16、17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許6833699号の請求項1~17に係る特許についての出願は、平成28年9月8日(優先権主張平成27年9月8日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和3年2月5日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年8月19日に特許異議申立人秋山智香(以下「申立人」という。)は、本件特許異議の申立てを行った。
当該特許異議の申立て以降の経緯は以下のとおり。
・令和4年1月19日付け 取消理由通知
・令和4年3月18日 意見書及び訂正請求書の提出
・令和4年9月14日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
以下、令和4年3月18日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、これに係る訂正を「本件訂正」という。
なお、当審は、上記のとおり令和4年9月14日付けで期間を指定して、申立人に訂正請求があった旨の通知をしたが、当該指定された期間内に何らの応答もなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1. 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、訂正箇所に下線をひいて示すと、以下の(1)~(2)のとおりである。
(1) 訂正事項1
本件訂正前の請求項1の、「平均一次粒子径が5μm以下のリン酸カルシウム粒子が繊維表面に定着している複合体であって、繊維表面の15%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている、上記複合体。」との記載を、「平均一次粒子径が5μm以下のリン酸カルシウム粒子がセルロース繊維表面に自己定着している複合体であって、繊維表面の15%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている、上記複合体。」と、訂正する。
(請求項1を引用する請求項2~6、16、17も訂正する。)
(2) 訂正事項2
本件訂正前の請求項2の、「リン酸カルシウム粒子の平均一次粒子径が1μm以下である、請求項1に記載の複合体。」との記載を、「リン酸カルシウム粒子の平均一次粒子径が1μm以下であり、繊維表面の80%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている、請求項1に記載の複合体。」
と、訂正する。
(請求項2を引用する請求項3~6、16、17も訂正する。)
(3) 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~6、16、17について、請求項2~6、16、17は、直接的あるいは間接的に請求項1の記載を引用するものであるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~6、16、17〕を対象とする訂正である。
2. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア. 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に「平均一次粒子径が5μm以下のリン酸カルシウム粒子が繊維表面に定着している複合体」とあるのを、「平均一次粒子径が5μm以下のリン酸カルシウム粒子がセルロース繊維表面に自己定着している複合体」と、訂正前の「繊維表面」を「セルロース表面」、「定着」を「自己定着」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ. 本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0074】
繊維
本発明においては、リン酸カルシウムと繊維とを複合体化する。複合体を構成する繊維は特に制限されないが、例えば、セルロースなどの天然繊維はもちろん、石油などの原料から人工的に合成される合成繊維、さらには、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)、さらには無機繊維などを制限なく使用することができる。・・・」
「【実施例】
【0096】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度や部などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0097】
実験1:炭酸カルシウム微粒子とパルプ繊維との複合体の合成
水酸化カルシウム(消石灰:Ca(OH)2、1250g)と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、カナダ標準濾水度CSF:460mL、1250g)を含む水性懸濁液100Lを準備した。この水性懸濁液を、500L容のキャビテーション装置に入れ、反応容器中に炭酸ガスを吹き込んで炭酸ガス法によって炭酸カルシウム微粒子と繊維との複合体を合成した。反応温度は約25℃、炭酸ガスは市販の液化ガスを供給源とし、炭酸ガスの吹き込み量は12L/minであり、反応液のpHが約7になった段階で反応を停止した(反応前のpHは約12.8)。
【0098】
複合体の合成においては、図1に示すように反応溶液を循環させて反応容器内に噴射することよって、反応容器内にキャビテーション気泡を発生させた。具体的には、ノズル(ノズル径:1.5mm)を介して高圧で反応溶液を噴射してキャビテーション気泡を発生させ、噴流速度は約70m/sであり、入口圧力(上流圧)は7MPa、出口圧力(下流圧)は0.3MPaだった。
【0099】
得られた生成物(サンプルA)を電子顕微鏡で観察したところ、一次粒径が60~90nmの炭酸カルシウムがパルプ繊維表面を覆っている複合体が生じていることを確認できた(図2)。複合体においては、パルプ繊維上に炭酸カルシウムが自己定着している様子が観察された。灰分を測定した結果、56%であった。ここで、複合体の灰分は、複合体を525℃で約2時間加熱した後、残った灰の重量と元の固形分との比率から算出した(JIS P 8251:2003)。
【0100】
実験2:リン酸カルシウムとパルプ繊維との複合体の合成
(1)サンプル1(図3):サンプルA(595mL、濃度4.2%)にリン酸(東ソー社製、濃度10%、57g)を添加して攪拌し、リン酸カルシウムとパルプの複合体を得た。具体的には、サンプルAを40℃のウォーターバス中でスリーワンモータにて850rpmで撹拌し、そこにリン酸をペリスターポンプで0.5g/分の速度で添加して、滴下終了後、さらに30分間撹拌を続けて熟成を行った。
(2)サンプル2(図4):サンプルA(595mL、濃度4.2%)に、二酸化チタン(堺化学工業社製、SSP-25、1.4g)およびリン酸(東ソー社製、濃度10%、57g)を添加して攪拌し、チタンが組み込まれたリン酸カルシウムとパルプの複合体を得た。サンプルAに二酸化チタンをあらかじめ添加しておいた以外は、サンプル1と同様にして反応を行った。
(3)サンプル3(図5):リン酸の濃度を60%、リン酸の添加量9.5gとした以外は、上記(1)と同様に複合体を合成した。
(4)サンプル4(図6):リン酸の濃度を60%、リン酸の添加量9.5gとした以外は、上記(2)と同様に複合体を合成した。
【0101】
上記のようにして得られた複合体をエタノールで3回洗浄した後、電子顕微鏡で観察した。結果を図3~6に示すが、いずれの複合体も、1次粒子径0.5~2.5μm程度のリン酸カルシウムが繊維に定着していることが確認された。サンプル1および2は0.2~1μm程度、サンプル3は0.5~2μm程度、サンプル4は0.5~2.5μm程度のリン酸カルシウムが繊維に定着していた。」
そうすると本件特許明細書には、「複合体」化する繊維として、「セルロース」が例示されている(【0074】)。
また、サンプルAを電子顕微鏡で観察したところ、複合体において、パルプ繊維上に炭酸カルシウムが「自己定着」している様子が観察された(【0099】)と記載され、「実験2」のサンプル1において、サンプルAによりリン酸カルシウムとパルプの複合体が得られ、そして、電子顕微鏡での観察した結果、複合体は「リン酸カルシウムが繊維に定着していた。」(【0100】、【0101】)と記載されているから、上記のリン酸カルシウムの繊維への定着は自己定着であることが明らかである。
よって、訂正事項1に係る訂正は新規事項を追加するものではない。
ウ. 上記訂正事項1に係る訂正は、複合体を構成する繊維の種類を限定するとともに、繊維表面への無機粒子の定着態様を特定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。したがって、訂正事項(1)に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2) 訂正事項2について
ア. 訂正事項2に係る訂正は、本件訂正前の請求項2に記載された「複合体」を、「繊維表面の80%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている」ものに限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ. 本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【0022】
本発明は、リン酸カルシウムと繊維の複合体に関するが、好ましい態様において、繊維表面の15%以上がリン酸カルシウムによって被覆されている。好ましい態様において本発明の複合体は、リン酸カルシウムによる繊維の被覆率(面積率)が25%以上であり、より好ましくは40%以上であるが、本発明によれば被覆率が60%以上や80%以上の複合体を製造することも可能である。
【0023】
本発明によって得られるリン酸カルシウムは、炭酸カルシウムとリン酸を原料に用いた一般的な方法で得られる物に比べて粒子径が小さくなるという特徴がある。・・・」
よって、訂正事項2に係る訂正は、新規事項を追加するものではない。
ウ. 上記訂正事項2に係る訂正は、繊維表面への無機粒子の被覆態様を特定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。したがって、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
3. 独立特許要件についての判断
本件訂正後の請求項5に記載された発明は、独立特許要件が課されるところ、以下の第4、第5に示すように、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。
4. 本件訂正についての小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、特許法第120条の5第4項並びに第9項で準用される特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、さらに、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1~6、16、17〕について、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~6、16、17に係る発明(以下「本件訂正発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6、16、17に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】
平均一次粒子径が5μm以下のリン酸カルシウム粒子がセルロース繊維表面に自己定着している複合体であって、繊維表面の15%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている、上記複合体。
【請求項2】
リン酸カルシウム粒子の平均一次粒子径が1μm以下であり、繊維表面の80%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記繊維がパルプ繊維である、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記リン酸カルシウム粒子と前記繊維との重量比が5:95~95:5である、請求項1~3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
さらにチタンが定着している、請求項1~4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の複合体を含んでなるシート。
【請求項16】
請求項1~5のいずれかに記載の複合体を含んでなる製品。
【請求項17】
前記製品がシートの形態である、請求項16に記載の製品。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
当審が令和4年1月19日付けで通知した取消理由通知の概要は以下のとおりである。
1.(新規性)本件特許の請求項1、2、6、16、17に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、6、16、17に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2.(進歩性)本件特許の請求項3、4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:国際公開第2009/057502号(以下、甲第1号証を「甲1」という。)
第5 当審の判断
1. 甲1に記載された発明を主引用発明とした新規性、進歩性
(1)甲1に記載された事項
ア.甲1には、以下の記載がある。
(ア)「[0001] 本発明は、リン酸カルシウム複合体の製造方法に関するものである。より詳しくは、オゾン水処理を行なうことにより、強い接着強度及び高い被覆率で基材にリン酸カルシウムを結合させたリン酸カルシウム複合体の製造方法に関するものである。」
(イ)「[0009] そこで、本発明の目的は、強い接着強度及び高い被覆率でリン酸カルシウムと基材とを結合させることが可能であり、かつ簡便なリン酸カルシウム複合体の製造方法を提供することにある。」
(ウ)「[0017] [図1]実施例1で得られたHap複合体を走査型電子顕微鏡により観察した結果を示す図であり、図1の(a)は3,000倍、図1の(b)は20,000倍の倍率で観察した結果を示す。・・・」
(エ)「[0023] 〔基材〕
本発明に係る製造方法で用いる基材としては、種々のものを選択できる。例えば、高分子材料を含んで構成される高分子基材、及び無機材料からなる無機基材が挙げられる。高分子基材の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)等のポリエステル、シリコーンポリマー(シリコーンゴムであってもよい)、ポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリアミン、ポリウレア、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等の合成高分子;セルロース、アミロース、アミロペクチン、キチン、キトサン等の多糖類、コラーゲン等のポリペプチド、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸等のムコ多糖類等、シルクフィブロイン等の天然高分子等が挙げられるが、これに限定されるものではない。ここに例示した基材の中でも、医療材料として好適であるという観点から、ポリエステル、シルクフィブロイン、シリコーンポリマー、ポリ乳酸、ポリウレタン、特に、PET、シルクフィブロインが好ましい。また、無機基材の具体例としては、例えば、チタン、酸化チタン、ステンレス等が挙げられる。このように、様々な基材を選択できる点は、本発明に係る製造方法の優れた効果の一つである。従来の方法では選択できる基材は限られていたが、本発明ではオゾン水処理を行なうことにより、様々な基材に対してリン酸カルシウムを結合させることが可能となった。
[0024] 本発明に係る製造方法に適用可能な基材の形状は、特に限定されない。製造するリン酸カルシウム複合体の用途に応じて、様々な形状の基材を適宜選択することができる。例えば、繊維状、シート状、チューブ状、多孔体であってもよく、より複雑な形状であってもよい。」
(オ)「[0030] また、本発明者らは、オゾン水を用いて表面処理することで、強い接着強度及び高い被覆率でリン酸カルシウムと基材とを結合させることができることをも見出した。従来、リン酸カルシウムで被覆した基材を超音波洗浄すると、リン酸カルシウムが剥がれる場合があった。これは、リン酸カルシウムと基材との接着強度が弱いことに起因する。しかし、オゾン水で表面処理した基材にリン酸カルシウム結合させると、超音波洗浄した際にリン酸カルシウムが剥がれることを抑制することができた。また、リン酸カルシウム複合体を、医療用に用いる場合、基材表面のリン酸カルシウムによる被覆率が約60%であることが好ましいとされる。しかし、従来、医療用の基材として好適に用いられるPETを被覆率60%でリン酸カルシウムにより被覆することはできなかった。しかし、本発明では、オゾン水を用いて基材の表面処理を行なうことで、被覆率60%で均一に、PETをリン酸カルシウムで被覆することができる。また、オゾン水を用いて基材の表面処理を行なうことで、PETに限らず様々な基材を、均一に高い被覆率でリン酸カルシウムにより被覆することができる。」
(カ)「[0055] <実施例1:ハイドロキシアパタイト複合体の製造>
本実施例では、繊維状のPET(以下、「カットPET」という)を基材として用いた。
[0056] また、リン酸カルシウムとしてハイドロキシアパタイト焼結体(以下「Hap」といい、基材とHapとの複合体を「ハイドロキシアパタイト複合体」又は「Hap複合体」という)を用いた。なお、Hapについては、特許文献1に記載の方法に従い製造した。」
(キ)「請求の範囲
[1] 基材の表面にリン酸カルシウムが結合してなるリン酸カルシウム複合体の製造方法であって、
上記基材を表面処理する表面処理工程と、
上記表面処理工程後の上記基材の表面に上記リン酸カルシウムを結合させる結合工程と、を含み、
上記表面処理工程が、上記基材の表面とオゾン水とを接触させる工程であることを特徴とする製造方法。」
(ク)「写真 図1(a)(b)
[図:0001396252000001.jpg]
」
(ケ)上記(ウ)の「[図1]実施例1で得られたHap複合体を走査型電子顕微鏡により観察した結果を示す図であり」との記載、上記(オ)の「本発明では、オゾン水を用いて基材の表面処理を行なうことで、被覆率60%で均一に、PETをリン酸カルシウムで被覆することができる」との記載、上記(カ)の「リン酸カルシウムとしてハイドロキシアパタイト焼結体(以下、「Hap」といい、基材とHapとの複合体を「ハイドロキシアパタイト複合体」又は「Hap複合体」という)を用いた」との記載、上記(ク)の[図1](b)の全ての白色の粒の径が、併記されているスケールバーの1μmの目盛りよりも小さいことの図示、及び一次粒子径は、一次粒子が凝集した二次粒子の粒子径よりも小さいことが技術常識であることから、[図1](b)の白色の粒が一次粒子及び二次粒子のいずれであるにせよ、上記[図1](b)から、平均一次粒子径が1μm以下のリン酸カルシウム粒子が、基材の表面を被覆していることが看取される。
(コ)甲1に記載された上記(ア)~(ケ)、特に実施例1に着目して総合すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「平均一次粒子径が1μm以下のリン酸カルシウム粒子が、繊維状のPETである基材の表面に結合しているハイドロキシアパタイト複合体であって、被覆率60%で繊維状のPETである基材の表面をリン酸カルシウム粒子で被覆する、ハイドロキシアパタイト複合体。」
(2)本件訂正発明1について
ア. 甲1発明との対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「平均一次粒子径が1μm以下のリン酸カルシウム粒子」は、本件訂正発明1の「平均一次粒子径が5μm以下のリン酸カルシウム粒子」に相当する。
甲1発明の「繊維状のPETである基材の表面に結合している」ことは、本件訂正発明1の「繊維表面に自己定着している」ことと、「繊維表面」に「定着している」限りにおいて、一致する。
甲1発明の「ハイドロキシアパタイト複合体」は、本件訂正発明1の「複合体」に、「被覆率60%で繊維状のPETである基材の表面をリン酸カルシウム粒子で被覆する」は「繊維表面の15%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている」に、それぞれ相当する。
以上を踏まえると、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の<一致点>で一致し、かつ、<相違点>で相違する。
<一致点>
平均一次粒子径が5μm以下のリン酸カルシウム粒子が繊維表面に定着している複合体であって、繊維表面の15%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている、上記複合体。
<相違点>
「繊維表面」に「定着する」態様について、本件訂正発明1のリン酸カルシウム粒子は、「セルロース繊維表面」に「自己定着」しているのに対し、甲1発明は、「セルロース繊維表面」に「自己定着」したものであるか明らかではない点。
イ. 相違点についての判断
甲1には、段落[0023]に「高分子基材」の「具体例」として、「セルロース」が記載されてはいるものの、セルロース繊維を用いた実施例が記載されてはいない。また、本件特許明細書の「【0100】 実験2:リン酸カルシウムとパルプ繊維との複合体の合成(1)サンプル1(図3):サンプルA(595mL、濃度4.2%)にリン酸(東ソー社製、濃度10%、57g)を添加して攪拌し、リン酸カルシウムとパルプの複合体を得た。具体的には、サンプルAを40℃のウォーターバス中でスリーワンモータにて850rpmで撹拌し、そこにリン酸をペリスターポンプで0.5g/分の速度で添加して、滴下終了後、さらに30分間撹拌を続けて熟成を行った。(2)サンプル2(図4):サンプルA(595mL、濃度4.2%)に、二酸化チタン(堺化学工業社製、SSP-25、1.4g)およびリン酸(東ソー社製、濃度10%、57g)を添加して攪拌し、チタンが組み込まれたリン酸カルシウムとパルプの複合体を得た。サンプルAに二酸化チタンをあらかじめ添加しておいた以外は、サンプル1と同様にして反応を行った。(3)サンプル3(図5):リン酸の濃度を60%、リン酸の添加量9.5gとした以外は、上記(1)と同様に複合体を合成した。(4)サンプル4(図6):リン酸の濃度を60%、リン酸の添加量9.5gとした以外は、上記(2)と同様に複合体を合成した。【0101】 上記のようにして得られた複合体をエタノールで3回洗浄した後、電子顕微鏡で観察した。結果を図3~6に示すが、いずれの複合体も、1次粒子径0.5~2.5μm程度のリン酸カルシウムが繊維に定着していることが確認された。サンプル1および2は0.2~1μm程度、サンプル3は0.5~2μm程度、サンプル4は0.5~2.5μm程度のリン酸カルシウムが繊維に定着していた。」との記載を見ると、本件訂正発明1においては、甲1に記載されているようなシランカップリング剤のような相互に結合を促すような薬剤を用いることなくセルロース繊維表面にリン酸カルシウムが定着(自己定着)するものであることが理解できる。
そうすると、本件訂正発明1においては、セルロース繊維の存在下でリン酸カルシウムを合成することによって、シランカップリング剤のような定着を促進するような薬剤を用いることなくリン酸カルシウム粒子をセルロース繊維表面に定着させており、このような手法は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そうすると、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。
(3)本件訂正発明2~4について
本件訂正発明2~4は、本件訂正発明1を引用するものである。そうすると、本件訂正発明2~4から特定事項が除外されて広範となった本件訂正発明1が、上記(2)に示したように、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、本件訂正発明2~4も、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。
(4)本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいない複合体を包含するシートについての発明であるから、本件訂正発明6も、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは明らかである。
(5)本件訂正発明16、17について
本件訂正発明16は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない複合体を含んでなる製品についての発明であるから、本件訂正発明16も、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは明らかである。
本件訂正発明17は、本件訂正発明16の製品がシートの形態である発明であるから、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないことは明らかである。
第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
1. (拡大先願) 本件特許に係る出願の請求項1、2、4、6、16、17に係る発明は、その出願の日前の特許出願(以下「先願」という。)であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
記
先願:特願2014-133383号(特開2016-11474号公報)(申立人が提出した甲5である。)
そこで検討する。
甲5には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、風合い(柔らかさ)や肌触り等の使用感が良く、安定的にハイドロキシアパタイトの特性(例えば菌吸着性等)を発揮させることが可能な、機能性不織布、特に歯面等の口腔清掃用不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、焼成ハイドロキシアパタイト粒子を特定の方法で不織布に固着させることで、焼成ハイドロキシアパタイト粒子が固着した所定のせん断剛性を有する機能性不織布を得ることができ、これにより、ハイドロキシアパタイト粒子の表面特性(菌吸着性等)が発揮され易く、安定的に粒子が繊維に保持されていることから長期間に渡り高い除菌機能を発揮し得ると共に、風合いや肌触り等の使用感が良く、人体に対しての使用、特に歯面等の口腔清掃用にも適した機能性不織布となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明によれば、少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を含む不織布の表面に、0.1~20g/m2にて焼成ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着により固着した口腔清掃用不織布であって、前記口腔清掃用不織布のせん断剛性が、8.5gf/cm・deg以下である、口腔清掃用不織布が提供される。」
そうすると、甲5に記載された発明(以下「先願発明」という。)は、上記課題を解決しようとして、「少なくとも表面が熱可塑性樹脂から主としてなる繊維を含む不織布の表面に、0.1~20g/m2にて焼成ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着により固着」(【0008】)することを必須の構成としたものである。そして、当該構成は、本件訂正発明1、2、4、6、16、17に係る発明には特定されておらず、この点、相違点となる。そして、先願発明において、粒子を「焼成ハイドロキシアパタイト粒子が熱融着により固着」しないものとすることは、先願発明が、上記課題を解決しないものとすることであるので、そうすることの阻害事由が存在するといえるから、当該相違点は形式的なものではなく、実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明1、2、4、6、16、17は、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
2. (サポート要件)
申立人は、請求項4には「前記リン酸カルシウム粒子と前記繊維との重量比が5:95~95:5」との記載があるものの、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例として重量比が46:54~50:50のもののみが記載されているに過ぎず、請求項4と請求項4を引用する請求項6、16、17は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、旨主張している。(本件特許異議申立書19ページ8行~20ページ3行)
そこで検討する。
本件特許明細書には、本件特許発明が解決しようとする課題について、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、リン酸カルシウム微粒子と繊維との複合体、および、それらの効率的な製造技術を提供することである。さらには、その複合体にチタンを担持させた複合体、およびそれらの効率的な製造技術を提供することである。
【0010】
一般にリン酸カルシウムは、種々の用途に広く用いられているが、それを繊維と複合体化することによって、ユニークな特性が生じることが期待される。特に、リン酸カルシウムなどの無機粒子は、その一次粒径が数μm未満まで小さくなると、凝集力が強く分散状態で乾燥させることが難しくなり、また、濃縮も困難になる。そのため、リン酸カルシウム微粒子を繊維と複合体化することによって、そのハンドリングが容易になり、種々の用途への活用がしやすくなると期待される。」
そして、本件訂正発明4、6、16、17は、いずれも本件訂正発明1を引用するものであって、本件訂正発明1には、「平均一次粒子径が5μm以下のリン酸カルシウム粒子がセルロース繊維表面に自己定着している複合体であって、繊維表面の15%以上がリン酸カルシウム粒子によって被覆されている」、すなわち、リン酸カルシウム微粒子と繊維との複合体が得られるものであるから、上記本件訂正発明4、6、16、17が、当該課題を解決するものであることが理解できる。
そうすると、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。
第6 むすび
したがって、請求項1~4、請求項6、請求項16、17に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことできない。
また、他に請求項1~4、請求項6、請求項16、17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700811