特許異議申立
2021-700764
樹脂組成物及びその使用
- 審判番号
- 2021-700764
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-157867
- 登録番号
- 6827082
- 請求日
- 2021年08月03日
- 審決日
- 2021年11月24日
- 公報発行日
- 2022年05月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】長春人造樹脂廠股▲分▼有限公司
- 【権利者代理人】田中 康子
- 【異議申立人】落合 克弘
- 審判長/審判官
- 審判長 福井 悟
- 審判官 土橋 敬介
- 審判官 近野 光知
- 分類
- P1651.121-Y (C08L) / P1651.536-Y (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6827082号発明「樹脂組成物及びその使用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6827082号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6827082号(請求項の数8。以下、「本件特許」という。)は、令和1年8月30日(パリ条約による優先権主張 令和1年5月7日、台湾)の出願であって、令和3年1月20日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年2月10日である。)。
その後、令和3年8月3日に、本件特許の請求項1~8に係る特許に対して、特許異議申立人である落合克弘(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 特許請求の範囲の記載
特許第6827082号の特許請求の範囲の記載は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~8に記載される以下のとおりのものである。(以下、請求項1~8に係る発明を「本件発明1」~「本件発明8」といい、これらを総称して「本件発明」ともいう。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)
「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、及び
(C)以下の粒度分布を有する無機充填剤:D90/D10が2~40であり、D99が30μm以下であり、そして、D50が、5μm~10μmである、
を含む樹脂組成物であって、
ここで、無機充填剤(C)が、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク粉末、マイカ粉末、窒化ホウ素、及びその組み合わせからなる群から選ばれる無機充填剤である、前記樹脂組成物。
【請求項2】
無機充填剤(C)が固体の充填剤である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
樹脂組成物が無溶媒であり、前記エポキシ樹脂(A)が常温常圧で液体である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
エポキシ樹脂(A)が、フェノールエポキシ樹脂、クレゾールエポキシ樹脂、ナフタレンエポキシ樹脂、ビスフェノールエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、及びその組み合わせからなる群から選ばれるエポキシ樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
硬化剤(B)が、酸無水物、イミド化合物、アミノ含有化合物、ヒドロキシル含有化合物、及びその組み合わせからなる群から選ばれる硬化剤である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)及び無機充填剤(C)の全重量に対して、エポキシ樹脂(A)及び硬化剤(B)の合計含有量が5重量%~25重量%であり、無機充填剤(C)の含有量が75重量%~95重量%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を硬化することにより成形されるパッケージ用材料。
【請求項8】
ガラス転移温度(Tg)が135℃以上である、請求項7に記載のパッケージ用材料。」
第3 特許異議申立理由
申立人が申し立てた特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要及び証拠方法は、以下のとおりである。
1 特許異議申立の理由の概要
(1)申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
請求項1~7に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明、及び、甲第1号証~甲第3号証に記載された事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由2(実施可能要件)
エポキシ樹脂組成物におけるガラス転移温度の変化は、エポキシ樹脂および硬化剤(そして、触媒)と硬化条件に依存することから、実施例と比較例で樹脂成分が異なるため、本件明細書の表3-1と表3-2を対比しても、どうすればガラス転移温度(Tg)が135℃以上になるか再現できない。
したがって、本件発明8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
以上のとおり、本件の特許異議申立てに係る審理対象は、全ての請求項に係る特許についてであり、審理対象外の請求項は存しない。
2 証拠方法
甲第1号証:特開2004-323777号公報
甲第2号証:特開2002-121358号公報
甲第3号証:特開2017-030977号公報
(以下、甲第1号証~甲第3号証を、「甲1」~「甲3」という。)
第4 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載した申立理由1~2のいずれによっても、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(進歩性)について
(1)各甲号証に記載された事項
ア 甲1
甲1a 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の課題は、流動性、耐湿性、接着性、耐ヒートサイクル性等の信頼性に優れた液状封止材用樹脂組成物、及び半導体装置を提供することである。」
甲1b 「【0033】
前記エポキシ樹脂(B)の具体例を、一般式(4)~(30)に示す。
【0034】
【化3】
[図:0001384164000001.jpg]
・・・
【0036】
【化5】
[図:0001384164000002.jpg]
・・・
【0037】
・・・
(式中、Gはグリシジル基、或いはアルキル基置換グリシジル基を示し、nは繰り返し単位数を示す。)」
甲1c 「【0049】
本発明の液状封止剤用樹脂組成物には、無機質充填材を配合することができる。前記無機質充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミ等が挙げられる。熱放散性などの特性面やコストなどの面からシリカ粒子が好ましく、低放射線性であればより好ましい。その形状は接合時に流動性が必要であるため球状が好ましい。更にその大きさは平均粒径が0.5μmから12μmの範囲で且つ最大粒径が20μm以下の球状フィラーであることが好ましい。平均粒径が0.5μm未満であるとバンプ接合時にB-ステージ化された熱硬化性液状封止樹脂組成物の流動性が不足となり、チップの外への樹脂組成物の浸み出しが不十分となり、接着性不足による信頼性の低下を招く恐れがある。また平均粒径が12μmを超えると熱硬化性液状封止樹脂組成物の塗布時に最外周以外のバンプ上にフィラーが残存し、バンプ接合時に接触不良を起こす恐れがある。最大粒径が20μmを超えると塗布厚みのばらつきが大きくなりボイドを巻き込む恐れがある。・・・」
甲1d 「【0057】
合成例1〔一般式(4)に示される変性エポキシ樹脂(E1)〕
・・・目的の変性エポキシ樹脂(E1)457gを得た。これは透明液体状で、エポキシ当量は462g/eq.、粘度は12,000mPa・s(25℃、キャノンフェンスケ法)、エポキシ当量から算出される式中のnの平均値は1.35であった。
【0058】
合成例2〔一般式(4)に示される変性エポキシ樹脂(E2)の合成〕
・・・目的の変性エポキシ樹脂(E2)470gを得た。まれは透明液体状で,エポキシ当量は526g/eq.、粘度は4,700mPa・s(25℃,キャノンフェンスケ法)、エポキシ当量から算出される式中のnの平均値は1.65であった。
【0059】
合成例3〔一般式(19)に示される変性エポキシ樹脂(E3)の合成〕
・・・目的の変性エポキシ樹脂(E3)422gを得た。その樹脂は、透明液体状で,エポキシ当量は490g/eq.、粘度は130mPa・s(150℃,ICI粘度計)、エポキシ当量から算出される式中のnの平均値は1.51であった。」
甲1e 「【0060】
実施例1~5、比較例1及び2表1記載の配合物を3本ロールを用いて均一に混練することによって液状封止材用樹脂組成物を得た。
【0061】
耐湿接着力評価に関しては、得られた液状封止材用樹脂組成物を用いて、予めシリコンナイトライドコートした10mm角の半導体チップを上記の組成物を密着させ、それを150℃で2時間硬化させて、耐湿接着力評価用試験片を作成し、この試験片を120℃、2気圧、100時間の条件でプレッシャークッカーテスト処理し、その接着力をプッシュプルゲージで、剪断強度として測定し、その結果を表1及び表2に記載した。また耐ヒートサイクル性評価に関しては、ソルダーレジストを塗布したBTレジン基板上に、該樹脂組成物を塗布し、80℃×100分間加熱して、B-ステージ化させ、その上に5mm×5mm角のシリコンチップをマウントし、150℃で2時間硬化させて封止した。その半導体装置(10個)をヒートサイクル処理(条件:-65℃/30分と150℃/30分とを1サイクルとして、300サイクル)して、超音波試験器によって、シリコンチップと基板界面との剥離とクラックの有無を確認し、その結果を表1、表2に記載した(n=10中のクラック発生個数で表記)。
【0062】
【表1】
[図:0001384164000003.jpg]
」
イ 甲2
甲2a「【0010】本発明で用いる熱硬化性液状封止樹脂組成物は、半導体素子の封止用途として用いるため高い信頼性が必要である。特に耐水性、線膨張係数を被着体に近づけるために無機フィラーを添加することが好ましい。その形状は接合時に流動性が必要であるため球状が好ましい。更にその大きさは平均粒径が0.5μmから12μmの範囲で且つ最大粒径が20μm以下の球状フィラーであることが好ましい。平均粒径が0.5μm未満であるとバンプ接合時にB-ステージ化された熱硬化性液状封止樹脂組成物の流動性が不足となり、チップの外への樹脂組成物の浸み出しが不十分となり、接着性不足による信頼性の低下を招く恐れがある。また平均粒径が12μmを超えると熱硬化性液状封止樹脂組成物の塗布時に最外周以外のバンプ上にフィラーが残存し、バンプ接合時に接触不良を起こす恐れがある。最大粒径が20μmを超えると塗布厚みのばらつきが大きくなりボイドを巻き込む恐れがある。」
ウ 甲3
甲3a 「【0001】
本発明は、タルク粒子(タルク粉末)およびそれを含有する有機重合体組成物に関する。より詳細には、本発明は、嵩比重が小さ過ぎないことによってコンパクトに包装することができて貯蔵時や搬送時の取り扱い性に優れ、しかも粒子同士の凝集が生じず有機重合体中に均一に混合することができ、有機重合体に配合することによって、成形収縮率を低減しながら良好な寸法安定性で、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、硬度などの力学的特性に優れ、しかも耐熱性、表面状態、電気絶縁性などの諸特性にも優れる成形品を与える有機重合体組成物を得ることのできるタルク粒子、および当該タルク粒子を含有する有機重合体組成物に関する。」
甲3b 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、粒子同士の凝集が生じず、ホッパーでの詰まり、混合装置、混練装置、成形装置などに設けたフィルターの目詰まりなどがなく、余分な時間をかけずに有機重合体中に均一に混合・分散させることのできるタルク粒子であって、しかも当該タルク粒子を有機重合体組成物に配合して成形品を製造したときに、成形収縮率を低減して良好な寸法安定性で、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度、硬度などの力学的特性に優れ、耐熱性、表面状態、電気絶縁性などの諸特性にも優れる成形品を得ることのできるタルク粒子、および当該タルク粒子を含有する有機重合体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の目的を達成すべく種々研究を重ねてきた。その結果、タルクの平均粒子径および粒度分布を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置による体積累積度分布曲線より求めた平均粒子径(D50)(メディアン径)が5μmを超え12μm以下であり且つ当該体積累積分布曲線より求めた体積累積度が90%となる粒度(D90)と体積累積度が10%となる粒度(D10)との比(D90/D10)が5以下になるようにすると、タルク粒子同士の凝集や、ホッパーでの詰まり、混合装置、混練装置、成形装置などに設けたフィルターやスクリーンなどの目詰まりが生じず、有機重合体中に均一に混合・分散させることができ、そして当該タルク粒子を含有する有機重合体組成物を用いて成形品を製造すると、成形時の収縮が小さく、曲げ強度や曲げ弾性率が大きくて高い剛性を有し、衝撃強度、硬度などのその他の力学的特性にも優れ、しかも耐熱性、表面状態、電気絶縁性などの諸特性にも優れる成形品が得られることを見出して本発明を完成した。」
甲3c 「【0017】
平均粒子径(D50)が5μmを超え12μm以下のタルク粒子であっても、D90/D10が5よりも大きくてタルク粒子の粒径の不揃い度合が大きくなると、当該タルク粒子を有機重合体に配合して成形品を製造したときに、成形時の収縮が大きくなり、しかも得られる成形品は、曲げ強度、曲げ弾性率などが小さくなって剛性が低くなり、しかも衝撃強度や硬さなどが低くなる。
また、平均粒子径(D50)が12μmよりも大きく且つD90/D10が5よりも大きいタルク粒子は、当該タルク粒子を有機重合体に配合して成形品を製造したときに、成形時の収縮が大きくなり、しかも得られる成形品は、曲げ強度、曲げ弾性率などが小さくなって剛性が低くなり、しかも衝撃強度や硬さなどが低くなる。
平均粒子径(D50)が5μm以下のタルク粒子は、D90/D10の値が5以下で粒度が揃っていても、嵩密度が低くて包装物の体積が大きくなり、保管時や輸送時に圧縮処理することが必要になり、しかも粒子同士が凝集して、ホッパーでの詰まり、混合装置、混練装置、成形装置などに設けたフィルターなどの目詰まりを生じ易く、また当該タルク粒子を配合した有機重合体組成物から製造した成形品の衝撃強度や硬さが、上記の要件(α)および(β)を満たす本発明のタルク粒子を配合した有機重合体組成物から製造した成形品に比べて低い。」
甲3d 「【0037】
本発明の有機重合体組成物が成形品の製造に用いられる組成物である場合は、組成物に含まれる有機重合体の種類(特に溶融成形可能な有機重合体であるか否か)などに応じて、従来から採用されている方法によって成形品を製造することができる。
具体的には、熱可塑性有機重合体の組成物である場合は、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形(押出ブロー成形、射出ブロー成形)、カレンダー加工、圧縮成形、シートフォーミング成形(真空成形、圧空成形)、粉末成形、スラッシュ成形などによって成形品を製造することができる。
また、本発明の有機重合体組成物が熱硬化性樹脂の組成物である場合は、例えば、圧縮成形、積層成形、トラスファ成形、射出成形、注型、流延成形などによって成形品を製造することができる。
本発明の有機重合体組成物がゴム(加硫を伴うゴム)の組成物である場合は、例えば、金型成形(直圧成形、直圧注入成形)、射出成形、トランスファー成形、積層成形、押出成形などによって成形品を製造することができる。」
甲3e 「【0039】
以下に実施例などによって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例によって何ら限定されない。
以下の例において、タルク粒子の平均粒子径(D50)、D90/D10および嵩密度の算出、タルク粒子の凝縮性の評価、成形時の成形収縮率、成形して得られた成形品の曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度、引張破断伸度、IZOD衝撃強度およびロックウエル硬さの測定は、以下のようにして行った。
【0040】
(1)タルク粒子の平均粒子径(D50)およびD90/D10:
タルク粒子150~200mgを水100mlに均一に分散させて調製した分散液を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製「マイクロトラック MT3300EX」)の湿式サンプルセルに入れ、同測定装置を使用してタルク粒子の体積累積度分布曲線を求め、当該曲線に基づいて、累積度50%における粒径[平均粒子径(D50)]を求め、また累積度10%における粒径(D10)と累積度90%における粒径(D90)からD90/D10を求めた。
・・・
【0043】
(3)成形時の成形収縮率:
射出成形用金型(型キャビティ寸法:縦×横×厚み=80mm×80mm×3.2mm)を用いて射出成形を行い、それによって得られた成形品の縦および横寸法(流れ方向と流れに直角方向の寸法)を測定して、下記の式から成形収縮率(%)を求めた。
・・・
【0044】
(4)成形品の曲げ強度および曲げ弾性率:
JIS K7171に準じて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。測定に当たっては、島津製作所製の万能試験機(AG-100kNF)を使用した。
【0045】
(5)成形品の引張強度および引張伸び:
JIS K7161に準じて引張強度および引張伸びを測定した。測定に当たっては、島津製作所製の万能試験機(AG-100kNF)を使用した。
【0046】
(6)成形品のIZOD衝撃強度:
JIS K7110に準じてIZOD衝撃強度を測定した。測定に当たっては、安田製作所製の万能衝撃試験機(No.258)を使用した。
【0047】
(7)成形品のロックウエル硬さ:
JIS K7202-2に準じてロックウエル硬さを測定した。測定に当たっては、東洋精機製ロックウェル硬度試験機(No.566)を使用した。」
甲3f 「【0048】
《実施例1》[タルク粒子(A1)の製造]
インド ラージャスターン州産タルク原石を原料として用い、当該タルク原石をミクロンミル(河本鉄工製「ミクロ・コロイザー FKM-200」に供給して回転数1800rpm、毎分12kgの条件下で粉砕処理して、平均粒子径(D50)が10.5μm、D90/D10が3.8のタルク粒子を製造した。
【0049】
《実施例2》[タルク粒子(A2)の製造]
実施例1で得られたタルク粒子(A1)を分級装置(勝光山鉱業所製)に供給して粒径が40μm以上の部分を除いて、平均粒子径(D50)が7.2μmおよびD90/D10が3.9のタルク粒子[以下、「タルク粒子(A2)」という]を得た。
【0050】
《実施例3》[タルク粒子(A3)の製造]
インドラージャスターン州産タルク原石を原料として用い、当該タルク原石をハンマーミル(ShriKrishna社製「PULVERISER42型」に供給して回転数1000rpm、毎分32kgの条件下で粉砕処理して、平均粒子径(D50)が6.8μm、D90/D10が4.6のタルク粒子を製造した。」
(2)甲1に記載された発明
甲1の【0033】~【0037】、【0057】~【0060】及び【表1】の記載(甲1b、甲1d及び甲1e)において、実施例1に着目すると
「一般式(4)に示される、式中のnの平均値が1.35である変性エポキシ樹脂(E1)を73部、酸無水物系硬化剤を27部、硬化促進剤を1部、カーボンブラックを0.05部、シランカップリング剤を2部、平均粒径5μm、最大粒径15μmの球状シリカである無機充填剤を100部含む配合物を3本ロールを用いて均一に混練して得られる液状封止材用樹脂組成物(一般式(4)の記載は省略する。)」
の発明(以下、「甲1実施例1発明」という。)が記載されているといえる。
また同様に、実施例2又は3に着目すると、
「一般式(4)に示される、式中のnの平均値が1.65である変性エポキシ樹脂(E2)を76部、酸無水物系硬化剤を23部、硬化促進剤を1部、カーボンブラックを0.05部、シランカップリング剤を2部、平均粒径5μm、最大粒径15μmの球状シリカである無機充填剤を100部含む配合物を3本ロールを用いて均一に混練して得られる液状封止材用樹脂組成物(一般式(4)の記載は省略する。)」
の発明(以下、「甲1実施例2発明」という。)、及び、
「一般式(19)に示される、式中のnの平均値が1.51である変性エポキシ樹脂(E3)を75部、酸無水物系硬化剤を25部、硬化促進剤を1部、カーボンブラックを0.05部、シランカップリング剤を2部、平均粒径5μm、最大粒径15μmの球状シリカである無機充填剤を100部含む配合物を3本ロールを用いて均一に混練して得られる液状封止材用樹脂組成物(一般式(19)の記載は省略する。)」
の発明(以下、「甲1実施例3発明」という。)が記載されているといえる。
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と、甲1実施例1発明~甲1実施例3発明(以下、甲1実施例1発明~甲1実施例3発明を総称して「甲1発明」ともいう。)とをまとめて対比する。
甲1実施例1発明の「一般式(4)に示される、式中のnの平均値が1.35である変性エポキシ樹脂(E1)」、甲1実施例2発明の「一般式(4)に示される、式中のnの平均値が1.65である変性エポキシ樹脂(E2)」、甲1実施例3発明の「一般式(19)に示される、式中のnの平均値が1.51である変性エポキシ樹脂(E3)」は、いずれも本件発明1の「(A)エポキシ樹脂」に相当する。
甲1実施例1発明~甲1実施例3発明の「酸無水物系硬化剤」は、本件発明1の「(B)硬化剤」に相当する。
甲1実施例1発明~甲1実施例3発明の「無機充填剤」は「球状シリカ」であるから、本件発明1の「無機充填剤(C)が、シリカ」に相当する。
なお、本件明細書によると、本件発明1は、樹脂組成物において、公知の添加剤、例えばカーボンブラックを添加したり、エポキシ開環反応を促進し、硬化反応温度を低下させるための触媒を添加したりすることが許容されていることから(本件明細書の【0043】~【0044】)、甲1発明において、カーボンブラックや硬化促進剤を含んでいることは、本件発明1との相違点にはならない。
してみると、本件発明1と甲1発明とは
「(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、及び
(C)無機充填剤
を含む樹脂組成物であって、
ここで、無機充填剤(C)が、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク粉末、マイカ粉末、窒化ホウ素、及びその組み合わせからなる群から選ばれる無機充填剤である、前記樹脂組成物。」
の点で一致し、以下の3点で相違する。
(相違点1)本件発明1では無機充填剤について「D90/D10が2~40」であるのに対し、甲1発明では不明である点
(相違点2)本件発明1では無機充填剤について「D99が30μm以下」であるのに対し、甲1発明では不明である点
(相違点3)本件発明1では無機充填剤について「D50が、5μm~10μm」であるのに対し、甲1発明では不明である点
イ 判断
上記相違点1について検討する。
まず、本件明細書の【0017】には、「「D10」という用語は、粒子径分布の累積百分率が10体積%に達した時点の粒子径を意味する。・・・「D90」という用語は、粒子径分布の累積百分率が90体積%に達した時点の粒子径サイズを意味する。」という、「D10」及び「D90」の定義が記載されている。
一方、甲1には、無機充填剤のD90/D10は記載されていない。甲1発明では無機充填剤の平均粒径及び最大粒径が規定されており、甲1の【0049】(甲1c)にこれら粒径に関する数値範囲や記載はあるものの、本件明細書の上記定義を踏まえると、これらは「D90」及び「D10」と、同じ数値を示すものとは認められないので、甲1において、「D90」及び「D10」が記載乃至示唆されているとはいえない。
なお、甲2も甲1と同様、【0010】(甲2a)に無機フィラーの粒度分布に関する事項について平均粒径及び最大粒径の記載があるにとどまり、「D90」及び「D10」が記載乃至示唆されているとはいえない。
また、甲3の【0001】、【0017】、【0037】、【0039】、【0043】~【0047】(甲3a、甲3d、甲3e)の記載によれば、甲3に記載された発明は、射出成形等の一般的な成形品の用途におけるタルク粒子及びそれを含有する有機重合体組成物に関するものであって、成形収縮率の低減、成形品の寸法安定性や力学的特性等の諸特性の向上といった一般的な成形品に関する課題の解決を志向するものであり、【0008】~【0009】(甲3b)によると、タルクの平均粒子径(D50)を5μmを超え12μm以下とし、且つ、タルクの(D90/D10)を5以下に設定すれば、タルク粒子同士の凝集や、ホッパーでの詰まり、フィルターやスクリーンなどの目詰まりが生じず、有機重合体中に均一に混合・分散させることができ、成形品を製造した場合も、成形時の収縮が小さく、曲げ強度や曲げ弾性率が大きいなどの力学的特性に優れる成形品が得られるとされている。
それに対して甲1発明は、【0005】、【0061】(甲1a、甲1e)の記載によれば半導体装置等の液状封止用途に関する技術分野に属するものであり、【0005】(甲1a)によると、流動性、耐湿性、接着性、耐ヒートサイクル性等の信頼性に優れた液状封止材用樹脂組成物の提供を課題とするものであるから、専ら、タルク粒子同士の凝集の抑制や、成形品の寸法安定性及び力学的特性の向上を技術課題としている甲3に記載されている発明とは技術分野及び技術課題が大きく異なるものと認められる。
加えて、甲1の【0049】(甲1c)において使用可能な無機充填剤として複数の材料が列挙されているもののその中にタルクの記載はないし、甲1発明で使用されているシリカが、技術分野の異なる成形用途のタルクと同様の技術課題を有することが本件特許の優先日における技術常識であるとも認められない。
そうであれば、甲1発明で使用されているシリカについて、甲3に記載されているタルクに関する技術的手段(D90/D10の数値条件等)を適用することが、当業者に動機付けられるとはいえない。
また、本件明細書に開示された実施例及び比較例の評価結果(表2-1~表3-2)からみて、本件発明1が上記相違点1~3に係る発明特定事項によって、特に、Tg、反り及びボイド検出が共に優れるという効果を奏することが具体的に認められるのに対し、甲1~3には本件発明1の奏する上記の効果について記載も示唆もないから、当該効果は甲1~3から当業者が予測し得ないものと認められる。
してみると、甲1発明において、各甲号証の記載に照らしても、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になしえたこととは認められない。
したがって、相違点2及び3について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4)本件発明2~7について
本件発明2~7は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(3)で述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1~7は、甲1に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1(進歩性)によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(実施可能要件)
(1)実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
そこで、この点について以下に検討する。
(2)本件発明8について
本件特許の請求項8は請求項7を引用し、請求項7は請求項1~6のいずれかを引用する形式で記載されている。
そこでまず、本件発明8を、請求項1と請求項7の記載内容を取り込んで独立形式に書き下すと
「(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、及び
(C)以下の粒度分布を有する無機充填剤:D90/D10が2~40であり、D99が30μm以下であり、そして、D50が、5μm~10μmである、
を含む樹脂組成物であって、
ここで、無機充填剤(C)が、シリカ、アルミナ、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク粉末、マイカ粉末、窒化ホウ素、及びその組み合わせからなる群から選ばれる無機充填剤である、前記樹脂組成物
を硬化することにより成形されるパッケージ用材料であって、
ガラス転移温度(Tg)が135℃以上である、前記パッケージ用材料。」
である。
一方、本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると、樹脂組成物がエポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填剤を成分として含むこと、及び、これら3成分について本件明細書の【0020】~【0041】に記載され、特に、同【0036】には「無機充填剤の粒度分布が指定範囲内であれば、樹脂組成物の粘度を低下させ、樹脂組成物を硬化した材料に高いTg及び高い機械的強度を付与できる。」と記載され、同【0047】~【0048】に各成分を均一に混合して樹脂組成物を調製する方法、同【0049】~【0050】に当該樹脂組成物を硬化してパッケージ用材料を形成する方法がそれぞれ記載されている。そして、実施例において、これら3成分の具体的な市販品を種々に選択した樹脂組成物を調製し、硬化してパッケージ用材料を製造し、Tg等の各種物性値を測定したこと、いずれの実施例も135℃以上のTgを有することが具体的に記載されている(同【0061】~【0062】、【0069】~【0082】)。
よって、これらの本件明細書の記載に接した当業者であれば、エポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填剤を成分として含む樹脂組成物において、無機充填剤の粒度分布が請求項1記載の発明特定事項を満たすように調整することによって、当該樹脂組成物が硬化して、Tgが135℃以上であるパッケージ用材料を得ることができたものと認められる。
また、同【0051】には、パッケージ用材料がウェハ又は他の半導体デバイスへの使用に適していることが記載され、同【0081】~【0082】に、実施例として製造したパッケージ用材料が、反り及びボイド欠陥のない優れた機械的強度と高いTg値を示すことが記載されていることから、当該記載に接した当業者であれば、過度の試行錯誤をすることなく本件発明8のパッケージ用材料をこれらの用途に使用することができたものと認められる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項1と請求項7の発明特定事項を引用する本件発明8について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされているものと認められる。
次に、請求項2~6のいずれかと請求項7の発明特定事項を引用する本件発明8について検討する。
同【0023】~【0024】、【0028】~【0031】、【0034】、【0037】には、本件特許の請求項2~6に記載の発明特定事項について記載されており、実施例に開示された具体的な樹脂組成物は、請求項2~6の発明特定事項を満たすものである。
そうすると、請求項2~6のいずれかと請求項7の発明特定事項を引用する本件発明8についても、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がなされているものと認められる。
(3)申立人の主張の検討
申立人は、異議申立書において「エポキシ樹脂組成物におけるガラス転移温度の変化は、エポキシ樹脂および硬化剤(そして、触媒)と硬化条件に依存することから、実施例と比較例で樹脂成分が異なるため、本件明細書の表3-1と表3-2を対比しても、どうすればガラス転移温度(Tg)が135℃以上になるか再現できない。」と主張しているが、本件明細書の表2-1,2-3、2-4によれば、実施例2~5と比較例1~4、7、及び、実施例1、12,13と比較例5~6は、それぞれエポキシ樹脂、硬化剤が一致しており、同じ硬化条件下でTgを測定している(同【0062】)ことからみて、上記主張はその前提となる「実施例と比較例で樹脂成分が異なる」との認識が誤っており、明らかに失当である。
そして、上記(2)で述べたように、本件発明8に係るパッケージ用材料は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、製造し、使用することができたものである。
(4)まとめ
以上のことから、申立理由2(実施可能要件)によっては、本件発明8に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700764