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特許異議申立

2021-700726

冷凍ドーナツの製造方法

審判番号
2021-700726
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-081878
登録番号
6858626
請求日
2021年07月27日
審決日
2022年01月28日
公報発行日
2022年05月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】株式会社ニップン
  • 【権利者代理人】田中 伸一郎
  • 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
  • 【権利者代理人】須田 洋之
  • 【権利者代理人】市川 さつき
  • 【権利者代理人】服部 博信
  • 【権利者代理人】秋澤 慈
  • 【異議申立人】佐藤 武史
審判長/審判官
  • 審判長 村上 騎見高
  • 審判官 大熊 幸治
  • 審判官 冨永 保
分類
P1651.113-Y (A21D) / P1651.121-Y (A21D) / P1651.161-Y (A21D) / P1651.537-Y (A21D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第29条の2
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6858626号発明「冷凍ドーナツの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6858626号の請求項1に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許第6858626号は平成29年4月18日に出願され、令和3年3月26日に特許権の設定登録がなされ、同年4月14日にその特許公報が発行され、その後、請求項1に係る特許に対して、令和3年7月27日に特許異議申立人 佐藤武史(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件請求項1に係る発明 本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ドーナツ生地を油ちょうして得たドーナツを、中心温度が30~50℃になるまで室温で放冷し、密封包装した後に急速冷凍することを特徴とする冷凍ドーナツの製造方法。」 第3 異議申立ての理由についての検討 1 申立人の異議申立ての理由について 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 甲第1号証:特開平9-289867号公報 甲第2号証:厚生労働省告示第64号薬局方、通則15~36 甲第3号証:厚生労働省、第9版食品添加物公定書、通則、 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/ kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/kouteisho9e.html及び https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641288.pdf、 令和3年7月20日検索 甲第4号証:再公表特許第2008/149626号公報 甲第5号証:「改訂版 パン入門」、井上好文著、 株式会社日本食糧新聞社、平成28年12月28日発行、 90-91頁 甲第6号証:特開平6-153769号公報 甲第7号証:韓国登録特許第10-1388648号公報及びその和訳 (明細書の特許情報プラットフォームによる和訳、及び、 図10中の韓国語のグーグル翻訳による和訳) 甲第8号証:特開2006-51010号公報 甲第9号証:田中康夫、コールドチェーン研究、1976年2巻4号、 141~149頁、https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ jafps1975/2/4/_contents/-char/ja及び https://www.jstage.jst.go.jp/article/jafps1975/2/4/ 2_4_141/_pdf/-char/ja、令和3年7月15日検索 甲第10号証:再公表特許第2018/139030号公報 (特願2018-564125号(国際出願番号:PCT/JP 2017/042394、優先権主張番号:特願2017- 10457号、優先日:平成29年1月24日)) 甲第11号証:永井一清、日本印刷学会誌、2015年52巻2号、 149~155頁、https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ nig/52/2/_contents/-char/ja及び https://www.jstage.jst.go.jp/article/nig/52/2/52_149/ _pdf/-char/ja、令和3年7月15日検索 (以下、甲第1~11号証を「甲1」~「甲11」という。) ・申立ての理由1及び2-1 本件発明は甲1に記載された発明であるか、甲1に記載された発明並びに甲2~5及び9に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項あるいは同条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。 ・申立ての理由2-2 本件発明は甲6に記載された発明並びに甲2~5及び7~9に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。 ・申立ての理由3 本件発明は、甲10に係る出願の優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書もしくは特許請求の範囲に記載された発明と同一である。したがって、本件発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。 ・申立ての理由4 本件特許請求の範囲の記載は、発明の課題を解決できないものを包含しており、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない。したがって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。 ・申立ての理由5 本件特許請求の範囲の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を満たさない。したがって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。 2 申立ての理由1、2-1、2-2、3について (1)甲各号証の記載事項 ア 甲1 本件出願前に公知であった甲1には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 搬入された焼成もしくは半焼成後の多孔性含水小麦粉食品を圧縮する手段を備えた圧縮装置部と、多孔性含水小麦粉食品を圧縮保持したまま凍結させる手段を備えた凍結装置部とを組み合わせてなる、多孔性含水小麦粉食品の加工装置。 【請求項2】 搬入された焼成もしくは半焼成後の多孔性含水小麦粉食品を圧縮する手段を備えた圧縮装置部と、圧縮保持したたままの多孔性含水小麦粉食品を凍結装置部内へ搬送する手段を備えた搬送装置部と、搬送装置部により投入された圧縮保持したままの多孔性含水小麦粉食品を移送させながら凍結させる手段を備えた凍結装置部とを組み合わせてなる、多孔性含水小麦粉食品の加工装置。 【請求項3】 焼成もしくは半焼成後の多孔性含水小麦粉食品を圧縮しながら搬送する手段を備えた、上下一対の圧縮ベルトを有する圧縮搬送装置部と、圧縮搬送装置により圧縮保持したまま搬送されてきた多孔性含水小麦粉食品を移送させながら凍結させる手段を備えた凍結装置部とを組み合わせてなる、多孔性含水小麦粉食品の加工装置。 【請求項4】 請求項1~3の何れか1項記載の加工装置を使用し、焼成もしくは半焼成後の多孔性含水小麦粉食品の嵩を圧縮により減少させた後、冷凍し、再加熱により嵩が復元する特徴を有する多孔性含水小麦粉食品の製造方法。」 (イ)「【0004】 【発明の実施の形態】先ず、本発明で言う多孔性含水小麦粉食品とは、小麦粉食品の内、比較的含水率が高く、且つ比較的内部空間容積の大きな食品である。ここで、比較的含水率が高いとは、一般的には含水率10%以上、また、比較的内部空間容積が大きいとは、一般的には空間容積10%以上のものを指す。より具体的には…ドーナツ…等が挙げられる。」 (ウ)「【0007】本発明の加工装置は、基本的に圧縮装置と、凍結装置とを組み合わせてなるものである。先ず、図1に示すように、焼成もしくは半焼成後の多孔性含水小麦粉食品1は、トレイコンベヤ2等の手段により圧縮装置3に搬入される。… 【0009】次に、圧縮後の多孔性含水小麦粉食品を、その形態を保持したまま凍結工程に回す。即ち、一対以上の圧縮プレートにて圧縮保持したままの多孔性含水小麦粉食品は搬送装置により凍結装置内へ搬送される。…凍結装置7は圧縮プレート4、4’で挟み込んだ多孔性含水小麦粉食品1を移送させながら凍結させる手段を備えた装置であり、一般にコンベヤやローラ等の移送手段8を有し、又、カバー9により閉鎖空間となるように構成されている。 【0010】その冷凍手段は一般的に使用されている手段を適用することが可能であり、送風凍結法等の機械的冷却に加え、液体窒素、液体炭酸、ドライアイス等を利用することができ、対象となる多孔性含水小麦粉食品の凍結温度以下の温度設定を可能とする能力のものを適宜選択すればよく、多孔性含水小麦粉食品の凍結速度は特に限定されない。… 【0011】本発明においては、焼成もしくは半焼成後の多孔性含水小麦粉食品の嵩を減少させる工程(圧縮工程)の前または後あるいは同時に該食品を包装する工程を含むことができる。…」 (エ)「【図1】 [図:0001384152000001.jpg] 」 イ 甲6 本件出願前に公知であった甲6には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 デュラム小麦粉の配合割合が30~100重量%である穀粉を使用して製造された冷凍ベーカリー製品。」 (イ)「【0016】ここで、本発明でいう「ベーカリー製品」とは、いわゆるベーカリーにおいて通常製造および/または販売されている製品であって、小麦粉等の穀粉をベースとする生地をイーストおよび/または化学膨張剤を使用して膨化させることにより製造された製品をいう。 【0017】本発明でいうベーカリー製品には、例えば…イーストドーナツ等の菓子パン類…等が含まれる。 【0018】そして、本発明における「冷凍ベーカリー製品」とは、上記したベーカリー製品を冷凍したものをいい、ベーカリー製品を冷凍する際の冷凍条件等は特に問わないが、一般に約-18℃~-30℃の温度で冷凍したものが好ましい。」 (ウ)「【0045】実施例3および比較例3 〔配合〕 強力粉(ハード・レッド・スプリング・ホィート100%)500g デュラム小麦粉 500g イースト 50g 食 塩 15g 砂 糖 120g ショートニング 100g 卵 100g 脱脂粉乳 20g ベーキングパウダー 10g 水 520g 上記の配合物を使用して下記の工程にしたがってイーストドーナツを製造した。 【0046】〔イーストドーナツの製造工程〕 1.ミキシング 上記の全配合材料をミキサーに入れ、低速で2分間、次いで高速で7分間ミキシングした(捏上温度27℃)。 2.発 酵 パンチせずに60分間(温度27℃、湿度70%) 3.分 割 45g/個 4.成 形 生地を約8mm厚のシート状に伸ばし、外径8cmのリング状の抜き型で抜く。 5.ホイロ 30分間(温度35℃、湿度85%) 6.フライ時間 2分間(温度180℃) 【0047】上記により製造されたイーストドーナツを室温下に放冷した後、-40℃に保った急速冷凍庫で20分間凍結して冷凍イーストドーナツを製造し、これを-18℃の冷凍庫で10日間保存した(実施例3)。 【0048】強力粉500gおよびデュラム小麦粉500gの代わりに実施例3と同じ強力粉700gおよび薄力粉(ホワイト・ホィート100%)300gを使用し、さらに水の配合量を480gとした以外は上記実施例3と同じ配合および製造工程を採用して冷凍イーストドーナツを製造して保存した(比較例3)。 【0049】実施例3および比較例3で得られた冷凍イーストドーナツの各々をそのまま電子レンジに入れて50秒間加熱解凍した。 【0050】解凍イーストドーナツの風味および食感を上記の表1に示した評価基準に従って25名のパネラーにより評価してもらい、その平均値を求めたところ、下記の表4に示すとおりであった。 【0051】 【表4】 風 味 食 感 味 香り 歯切れ 硬さ 口溶け 実施例3 5 5 5 5 5 比較例3 4 5 2 1 2 【0052】上記表4の結果から、デュラム小麦粉を使用した本発明の冷凍イーストドーナツはデュラム小麦粉を使用しない冷凍イーストドーナツに比べて電子レンジで加熱解凍した場合に、風味および食感のより優れた解凍品になることがわかる。」 ウ 甲10 本願出願後に国際出願され公知となった、優先権主張の基礎となる出願(特願2017-10457号)が本願出願前のものである甲10の、その優先権主張の基礎となる出願には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 以下の成分(A)~(C)を含む湯種原料を混捏して湯種生地を得る工程と、 前記湯種生地と本捏原料とを混捏してベーカリー生地を得る工程と、 前記ベーカリー生地を焼成または油ちょうすることによりベーカリー食品を得る工程と、 を含む、ベーカリー食品の製造方法。 (A)アセチル化澱粉、エーテル化澱粉およびこれらの加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上の澱粉 (B)小麦粉 (C)熱水 … 【請求項7】 前記ベーカリー食品がパン類またはドーナツ類である、請求項1乃至6いずれか1項に記載のベーカリー食品の製造方法。」 (イ)「【0051】 (実施例6~13、比較例6~8) 本例では、イーストドーナツの作製および評価をおこなった。 表3に、イーストドーナツの配合を示す。また、表4に、湯種生地に用いた澱粉の種類を示す。各例では、表3に示したa~dのいずれかの配合とし、湯種に澱粉を含む例では、澱粉として表4に記載のものを用いた。 【0052】 (ドーナツの製造方法) (湯種生地の作製) 表3に示した薄力粉と澱粉を均一に混合して湯種用ミックスを作成し、ビータを取り付けたホバートミキサーにて湯種用ミックスと熱水とを低速で1.5分ミキシングした。ミキシング時に、湯種作業性の評価を実施した。 【0053】 得られた湯種生地を4℃で一晩冷却した。 冷却後の湯種生地を本捏使用前に室温(20℃)に戻した。 【0054】 (本捏およびドーナツの作製) パン用ミキサーに、湯種生地とマーガリンを除く本捏原料をミキサーボウルに入れて、以下の条件でミキシングした。また、表3の配合aでは、パン用ミキサーにマーガリンを除く本捏原料をミキサーボウルに入れて、以下の条件でミキシングした。ミキシング時に、本捏作業性の評価を実施した。 (ミキシング条件) フックにて1速で2分、2速で4分混捏後、マーガリンを投入し、さらに1速で2分、2速で4分、3速で3分混捏した。 【0055】 ミキシング後、ミキサーから生地を出して、27℃で60分間発酵させた。 生地を40gに分割し丸めて15分間休ませた後、円盤型に成形した。成形時に、成形作業性の評価を実施した。 成形した生地を35℃相対湿度70%のホイロで50分間発酵させた。 発酵後、ホイロから取り出し、室温(20℃)、10分間のラックタイムをとった。 その後、180℃に加熱した油(FryUp302、株式会社J-オイルミルズ製)にて片面1.5分ずつフライした。 フライ後、室温でフライしたドーナツの粗熱を取った。 以上により得られた各例のドーナツについて、食感を評価した。評価結果を表4に併せて示す。 【0056】 (評価方法) 作業性については、それぞれ前述した焼成パンの評価方法に準じて評価した。 【0057】 (食感) フライ当日のドーナツをポリエチレン製の袋に密閉し、20℃の恒温室内に2日間保存した。保存後の各例のドーナツの食感を官能評価した。 専門パネラー6人による合議により、ドーナツの歯切れの良さ、しっとりさ、柔らかさ、もっちりさを総合的に評価した。評価基準は以下のようにし、「○」以上のものを合格とした。 ◎:良好 ○:ほぼ良好 △:やや悪い ×:かなり悪い また、焼成当日のドーナツをポリエチレン製の袋に密閉し、-30℃の冷凍庫内冷凍し、翌日に解凍したドーナツについても同様の方法および基準により評価した。 【0058】 【表3】 [図:0001384152000002.jpg] 【0059】 【表4】 [図:0001384152000003.jpg] 【0060】 表4より、各実施例においては、本捏時および成形時のいずれにおいても作業性が良好であり、食感も良好であった。また、各実施例においては、湯種作製時の作業性についても良好であった。また、各実施例においては、得られたドーナツの膨らみについても良好であった。 また、各実施例で得られた焼成当日のドーナツをポリエチレン製の袋に密閉し、-30℃で冷凍し、翌日に解凍したものについて、上述の方法および基準に準じて食感の評価をおこなったところ、各実施例では、解凍後のドーナツについても、良好な食感が維持されていた。」 (2)甲各号証に記載された発明、及び、本件発明との対比 ア 甲1を主引用例とするもの(申立ての理由1及び2-1) 甲1の請求項1及び4からみて、甲1には以下の甲1発明が記載されている。 「搬入された焼成後の多孔性含水小麦粉食品を圧縮する手段を備えた圧縮装置部と、多孔性含水小麦粉食品を圧縮保持したまま凍結させる手段を備えた凍結装置部とを組み合わせてなる、多孔性含水小麦粉食品の加工装置を使用し、焼成後の多孔性含水小麦粉食品の嵩を圧縮により減少させた後、冷凍し、再加熱により嵩が復元する特徴を有する多孔性含水小麦粉食品の製造方法。」 そうすると、本件発明と甲1発明とは以下の点で一致する。 「焼成後の小麦粉食品を、冷凍することを特徴とする小麦粉食品の製造方法。」 そして、両者は以下の点で相違する。 相違点1:本件発明は「ドーナツ生地を油ちょうして得たドーナツ」に関するものであるのに対し、甲1発明は「焼成後の多孔性含水小麦粉食品」に関するものである点。 相違点2:本件発明は「中心温度が30~50℃になるまで室温で放冷し、密封包装」するものであるのに対し、甲1発明はドーナツの「中心温度」、放冷時の環境温度、密封包装されていること、これらのいずれも明らかでない点。 相違点3:本件発明は、密封包装「した後に急速冷凍」するものであるのに対し、甲1発明は包装は明らかでなく「冷凍」するものである点。 イ 甲6を主引用例とするもの(申立ての理由2-2) 甲6の実施例3及び比較例3からみて、甲6には以下の甲6発明が記載されている。 「イーストドーナツ生地をフライ時間2分間(温度180℃)で油ちょうして得たイーストドーナツを室温下に放冷した後、-40℃に保った急速冷凍庫で20分間凍結して得た冷凍イーストドーナツの製造方法。」 本件【0009】に「本発明において、ドーナツは、いわゆるイーストドーナツとケーキドーナツのいずれをも含む。」とあることからみて、甲6の「イーストドーナツ」は、本件発明の「ドーナツ」に相当する。 そうすると、本件発明と甲6発明とは以下の点で一致する。 「ドーナツ生地を油ちょうして得たドーナツを、室温で放冷し、急速冷凍することを特徴とする冷凍ドーナツの製造方法。」 そして、両者は以下の点で相違する。 相違点4:本件発明は「中心温度が30~50℃になるまで室温で放冷し、密封包装」するものであるのに対し、甲6発明は「室温下に放冷」するもので、その際のドーナツの「中心温度」は明らかでなく、その後密封包装したかも明らかでない点。 相違点5:本件発明は、密封包装した後に「急速冷凍」するものであるのに対し、甲6発明は包装したか明らかでない状態で「急速冷凍」するものである点。 ウ 甲10を主引用例とするもの(申立ての理由3) 甲10の実施例6~13及び比較例6~8からみて、甲10には以下の甲10発明が記載されている。 「イーストドーナツ生地を180℃に加熱した油(FryUp302、株式会社J-オイルミルズ製)にて片面1.5分ずつフライした後、室温でフライしたイーストドーナツの粗熱を取り、ポリエチレン製の袋に密閉し、-30℃の冷凍庫内冷凍した、冷凍イーストドーナツの製造方法。」 本件【0009】に「本発明において、ドーナツは、いわゆるイーストドーナツとケーキドーナツのいずれをも含む。」とあることからみて、甲10の「イーストドーナツ」は、本件発明の「ドーナツ」に相当する。また、甲10発明の「180℃に加熱した油…にて片面1.5分ずつフライした」こと、「-30℃の冷凍庫内冷凍」は、それぞれ本件発明の「油ちょう」、「急速冷凍」に相当する。 そうすると、本件発明と甲10発明とは以下の点で一致する。 「ドーナツ生地を油ちょうして得たドーナツを、室温で放冷し、密封包装した後に急速冷凍することを特徴とする冷凍ドーナツの製造方法。」 そして、両者は以下の点で相違する。 相違点6:本件発明は「中心温度が30~50℃になるまで室温で放冷」するものであるのに対し、甲10発明は「室温でフライしたドーナツの粗熱を取り、ポリエチレン製の袋に密閉」するものであり、その際のドーナツの「中心温度」は明らかでない点。 (3)判断 相違点2、4、6で示した、本件発明における室温での放冷後の「中心温度が30~50℃」である点について検討する。 甲1、6、10のいずれの記載からも、甲1、6、10の各発明における「(イースト)ドーナツ」の「中心温度が30~50℃」となっているのか明らかでない。 申立人は、 「本件特許発明の要件(b)の「中心温度が30~50℃になるまで室温で放冷し、」に対し、甲1の「圧縮」工程は室温で行われていると解されるところ、甲2及び甲3に記載の通り、室温は「1~30℃」であるから、室温で行われる圧縮工程におけるドーナツの中心温度は室温と同じ温度になる蓋然性が高く、上記要件(b)の「30~50℃」に該当する。」(申立書3.(4)(4-3)) 「本件特許発明の要件(b)の「中心温度が30~50℃になるまで室温で放冷し、」に関し、甲6の実施例3では室温である1~30℃でドーナツを放冷しており、中心温度は室温と同様になっているとみられるから、本件特許発明の要件(b)は甲6に記載されている。」(同(4-4)) 「本件特許発明の要件(b)「中心温度が30~50℃になるまで室温で放冷し、」に関し、甲10の【0055】及び【0060】の記載により、甲10の実施例6~13では粗熱除去後にドーナツをポリエチレン製の袋に入れたと解されるところ、甲4の【0013】の通り、粗熱除去工程終了近くのパン類の温度は35℃程度であり、その後、仮に室温下で冷却されたとしても、「1~30℃」に該当するから、甲10には本件特許発明の要件(b)が記載されている。」(同(4-5))と主張する。 しかし、甲1、6、10のいずれの記載をみても、各々の「(イースト)ドーナツ」の中心温度がどの程度であるか推測することができず、また、そのような温度となっていることが自明であるとも認められない。 加えて、他の甲各号証の記載をみても、甲1、6の各発明において、「中心温度が30~50℃になるまで」放冷するとの構成を導入することが当業者にとって容易であると解される根拠を見出せない。 したがって、本件発明は甲1発明であるとも、甲1発明及びその余の甲各号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたとも、甲6発明及びその余の甲各号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたとも、甲10発明と同一であるともいえない。 (4)まとめ よって、申立ての理由1、2-1、2-2、3には、いずれも理由がない。 3 申立ての理由4について (1)申立人の主張 申立人は、申立書3.(4)(4-6)において以下のとおり主張する。 「本件明細書の実施例には密封包装の包装材としてポリエチレンフィルム又はアルミ箔を用いたことしか記載されていない。しかしながらアルミ箔はもちろん、ポリエチレンフィルムは甲11の表2に示される通り、水蒸気難透過性の防水材であるところ、甲11の表2の通り、ポリエチレン以外のたいていのプラスチックフィルムはポリエチレンよりも水蒸気透過性が高い。このように水蒸気透過性の高い包装材を用いた場合は、冷凍状態において本件明細書の各実施例に比してドーナツの乾燥がより顕著に起こり、風味及び食感に劣ることは明らかである。 従って、本件特許請求の範囲の記載は、発明の課題を解決できないものを包含しており、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさない。」 (2)検討 本件【0013】には以下の記載がある。 「本発明において、密封包装は、ドーナツを包装し密封することができれば特に限定されない。ポリエチレンフィルムなどの食品の包装に使用される包装用フィルムで包装し、密封することができる。またアルミ蒸着フィルムなどよりガスバリア性を高めたものを使用することが好ましい。」 すなわち、本件発明で用いうる密封包装の材料は「ドーナツを包装し密封することができれば特に限定されない」ものであり、実施例では、そのような「密封することができる」材料を用いて、「フライ後の良好な風味を有する、フライ済み冷凍ドーナツを得ること」が確認されている。そして、係る密封包装の材料は、「フライ後の良好な風味を有する、フライ済み冷凍ドーナツ」が得られるものを当業者が適宜選択すればよいことである。 したがって、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明の詳細な説明に記載したものといえる。 (3)まとめ よって、申立ての理由4には、理由がない。 4 申立ての理由5について (1)申立人の主張 申立人は、申立書3.(4)(4-7)において、以下の二点を主張する。 ア「本件請求項1の「急速冷凍」に関し、本件明細書の【0014】に「物が凍る時に、水が氷になる温度帯-1℃~5℃を最大氷結晶生成帯と言い、急速冷凍とはこの生成帯を30分以内で通過させる様な冷凍方法をいう」と記載されている。しかし、「この生成帯を30分以内で通過させる様な冷凍方法」とは、「この生成帯を30分以内で通過させる冷凍方法」以外にどのような冷凍方法までを包含するのか、本件明細書を見ても把握できず、不明確である。」 イ「本件請求項1では、ドーナツはフィリングを含んでフライされたものも、リング状のものも、空洞状のものも全てが該当するところ、どの部分の温度を中心温度として測定するのか、本件明細書には一切記載されていない。例えば、アンドーナツやカレーパン等のフィリングを有しているものの中心温度は、通常フィリングの位置となる。一方で、フライ後のアンドーナツやカレーパンの冷却時において、あんやカレーといったフィリングの中心部分の温度と、生地部分の温度とは異なると想定されるところ、本件明細書の実施例を読む限り、生地部分が所定温度となった場合に冷凍しているから、アンドーナツやカレーパン等について「中心温度」を測定することの技術的意義が不明となる。そうすると、ドーナツの中心温度とは、結局どのようなドーナツにおけるどの部分を指すのかが不明である。」 (2)検討 まず、上記(1)アに関し、本件【0014】には「本発明において、冷凍方法は、急速冷凍を実現できる方法であれば特に限定されない。」と記載されている。すなわち、「この生成帯を30分以内で通過させる冷凍方法」と同様の「急速冷凍」となるものであれば、如何なる冷凍方法をも包含しうるものと解される。 このため、本件発明の「急速冷凍」に関し、不明瞭な点はない。 次に、上記(1)イに関し、本件【0009】には「本発明において、ドーナツは、いわゆるイーストドーナツとケーキドーナツのいずれをも含む。イーストドーナツとはイーストで発酵させたパン生地のドーナツであり、強力粉を主体とした原料構成となっている。ケーキドーナツとはケーキ生地をベーキングパウダーで膨らませたケーキ生地のドーナツであり、薄力粉を主体とした原料構成となっている。」と記載されており、フィリングを含むことの記載は見出せず、また実施例においてもフィリングを含んだものは記載されていない。 そうすると、本件発明でいう「ドーナツ」とはフィリングを含んでフライされたものは想定されていないものと認識でき、リング状であろうと空洞状であろうと、その中心部の温度を測定するものと解することができる。 このため、本件発明のドーナツの「中心温度」に関し、不明瞭な点はない。 したがって、本件特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるといえる。 (3)まとめ よって、申立ての理由5には、理由がない。 5 まとめ 以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700726

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