特許異議申立
2021-700707
地下構造体及び地下構造体の構築方法
- 審判番号
- 2021-700707
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-119093
- 登録番号
- 6844126
- 請求日
- 2021年07月20日
- 審決日
- 2021年12月09日
- 公報発行日
- 2022年01月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社大林組
- 【権利者代理人】恩田 誠
- 【権利者代理人】恩田 博宣
- 【異議申立人】岡林 茂
- 審判長/審判官
- 審判長 森次 顕
- 審判官 西田 秀彦
- 審判官 長井 真一
- 分類
- P1651.537-Y (E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6844126号発明「地下構造体及び地下構造体の構築方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6844126号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6844126号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年6月15日に出願され、令和3年3月1日にその特許権の設定登録がされ、令和3年3月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年7月20日に、特許異議申立人岡林茂(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし4に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第6844126号の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、本件発明1ないし4をまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
新築建物の壁に一端部を固定させた昇降床と、
既存建物において上階のスラブを取り外した地下外壁の内側で、前記昇降床の他端部を定着し、前記昇降床の高さに応じて前記昇降床の下方に設けた増し打ち壁とを備えたことを特徴とする地下構造体。
【請求項2】
前記増し打ち壁は、前記上階のスラブを取り外した状態における前記地下外壁に加わる曲げモーメントと前記地下外壁の構造とを用いて特定される壁厚を有することを特徴とする請求項1に記載の地下構造体。
【請求項3】
前記増し打ち壁は、前記昇降床の端部を定着させるために必要な厚さの壁厚を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の地下構造体。
【請求項4】
新築建物の壁に一端部を固定させた昇降床と、既存建物において上階のスラブを取り外した地下外壁の内側で、前記昇降床の他端部を定着し、前記昇降床の高さに応じて前記昇降床の下方に設けた増し打ち壁とを備えた地下構造体の構築方法であって、
既存建物の地下外壁において、上階のスラブを取り外した場合に前記地下外壁における曲げモーメントと、前記地下外壁の構造とを用いて、増し打ち壁の壁厚を特定し、
特定した壁厚を有する前記増し打ち壁のコンクリート打設と、前記増し打ち壁に定着させる昇降床のコンクリート打設とを行なうことを特徴とする地下構造体の構築方法。」
第3 申立理由の概要
申立人が申立書において主張する特許異議申立ての理由は、以下のとおりである。
1 特許請求の範囲の記載が不明確であるから、本件発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
2 特許請求の範囲には、明細書にサポートされていない構成が含まれており、また、かかる構成は本件発明の目的も達成することができないから、本件発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 当審の判断
1 明確性要件(特許法第36条第6項第2号)について
(1)申立人は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項4に記載の「新築建物の壁」が、どのようなものであるか明細書に記載されておらず構造が理解できない、つまり「新築建物の壁」が不明確である旨、主張する。(申立書第4頁第3~23行)
「新築」、「建物」及び「壁」のそれぞれの通常の意味は明確であるから、請求項1の「新築建物の壁」という語自体の意味は明確である。申立人は、「新築建物の壁」が、どのようなものであるか明細書に記載されておらず構造が理解できないと主張するが、構造が特定できる程度に用語を記載すべき具体的な理由を挙げていないし、明細書や技術常識を参酌しても、通常とは異なる意味に解したり、発明特定事項が不足していると解すべき事情はない。
(2)申立人は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項4において、新築建物の壁に、昇降床の一端部をどのように固定するのか、「定着」とはどのように異なるのか当業者にとって理解することができないので、「新築建物の壁に一端部を固定させた昇降床」における「固定」は不明確である旨、主張する。(申立書第4頁第24行~第6頁第1行)
「固定」とは、一般的に、動いたり形を変えたりしないで一定の位置や状態を保つようにすることである。そうすると「新築建物の壁に一端部を固定させた昇降床」とは、「新築建物の壁」に対して、動いたり形を変えたりしないで、一定の位置や状態を保つようにしてある「昇降床」の「一端部」のことと理解できる。
一方、「定着」とは、鉄筋が引き抜けないようコンクリート中に端部を埋め込んで固定させることである。よって「定着」とは、「固定」することのうちで、鉄筋が引き抜けないようコンクリート中に端部を埋め込むことを指していると理解できる。このような理解は、本件明細書の段落【0037】の「スロープ床30に埋設した鉄筋31の定着長により、スロープ床30を増し打ち壁20に固定する」などの記載とも整合する。
よって、請求項1及び請求項4に記載の「新築建物の壁に一端部を固定させた昇降床」における「固定」の意味は明確であり、上記「定着」の意味と比較しても、その異同は明確である。
(3)申立人は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項4の「既存建物において上階のスラブを取り外した地下外壁の内側で、前記昇降床の他端部を定着し、前記昇降床の高さに応じて前記昇降床の下方に設けた増し打ち壁と」における「地下外壁の内側で」の日本語としての係り受けが、「定着し」に係るとの解釈と、「設けた増し打ち壁」に係るとの解釈の2通りの解釈が可能であり、特許請求の範囲の記載のみからは、いずれの解釈が正しいのか理解することができないので、「地下外壁の内側で」との記載は不明確である旨、主張する。(申立書第6頁第2~11行)
請求項1及び請求項4に記載の「地下外壁の内側で」の「で」は、どのような場所において行われるかを表わす意味の助詞と理解することができるから、上記「地下外壁の内側で」は「設けた増し打ち壁」に係り、「増し打ち壁」を設ける場所を「地下外壁の内側」と特定したものと理解できる。
このような理解は、本件明細書の段落【0026】の「地下外壁11の内側に設けた増し打ち壁20」との記載、及び、本件図面の図1に、「地下外壁11」の内側に存在する「増し打ち壁20」が示されていることとも整合する。
なお、請求項1及び請求項4に記載の「昇降床の他端部を定着し」は、「増し打ち壁」に「昇降床の他端部を定着」していることを特定する語句と解することができる。
よって、請求項1及び請求項4に記載の「地下外壁の内側で」は明確である。
(4)以上のとおりであるから、請求項1ないし請求項4の記載は明確である。
2 サポート要件違反について(特許法第36条第6項第1号)
申立人は、特許請求の範囲の記載には、地下外壁と増し打ち壁とが一体化していない構成が含まれるところ、かかる構成は明細書のサポートが無く、また本件発明の目的も達成するための効果を発揮することができない旨、主張する。(申立書第6頁第12行~第7頁第7行)
以下、本件発明が、サポート要件を満たしているかどうかについて検討する。
(1)本件発明の課題について
本件明細書の段落【0006】には、「本発明は、上述した課題に鑑みてなされ、その目的は、昇降床が設置された地下外壁において、必要な曲げ耐力を確保することができる地下構造体及び地下構造体の構築方法を提供することにある。」との記載がある。
上記の記載から、本件発明の課題は、昇降床が設置された地下外壁において、必要な曲げ耐力を確保することである。
(2)本件発明の課題の解決手段について
本件明細書の段落【0007】、【0008】及び【0027】には、以下の記載がある。
「【0007】
・上記課題を解決する地下構造体は、既存建物において上階のスラブを取り外した地下外壁の内側に設けた増し打ち壁と、前記増し打ち壁に、端部を定着させた昇降床とを備える。昇降床を設ける際に、既存建物の地下外壁の上階のスラブを取り外すと、地下外壁が片持ち壁になり、曲げモーメント分布が変化する。この場合においても、既存建物の地下外壁の内側に設けた増し打ち壁によって、必要な曲げ耐力を確保することができる。また、昇降床の配筋を増し打ち壁に定着させるので、昇降床の定着のために、既存建物の地下外壁に穴あけ等を行なう必要がなく、既存建物における漏水や埋設された鉄筋の切断等のリスクを回避することができる。
【0008】
・上記地下構造体において、前記増し打ち壁が、前記昇降床の下側に設けられていることが好ましい。これにより、曲げ耐力が不足する昇降床の下側を補強することができる。
・上記地下構造体において、前記増し打ち壁は、前記上階のスラブを取り外した状態における前記地下外壁に加わる曲げモーメントと前記地下外壁の構造とを用いて特定される壁厚を有することが好ましい。これにより、上階のスラブを取り外した状態における曲げモーメントに耐え得る壁厚を有する増し打ち壁を設けることができる。」
「【0027】
(2)本実施形態において、増し打ち壁20は、スロープ床30の下側に設けられている。これにより、曲げ耐力が不足するスロープ床30の下側を補強することができる。」
上記記載から、本件明細書に記載の本件発明の課題を解決する手段は、既存建物において上階のスラブを外した地下外壁の内側に設けた増し打ち壁と、前記増し打ち壁に端部を定着させた昇降床とを備えることであると認められ、なお、上記記載によれば、「増し打ち壁が、前記昇降床の下側に設けられていること」により、「曲げ耐力が不足する昇降床の下側を補強することができる」のだから、「増し打ち壁」を「昇降床の下方に設けた」本件発明1においても、上記本件発明の課題が解決されることは明らかである。
(3)検討
本件発明1は、「既存建物において上階のスラブを取り外した地下外壁の内側で、前記昇降床の他端部を定着し、前記昇降床の高さに応じて前記昇降床の下方に設けた増し打ち壁とを備え」ていることから、上記本件明細書に記載の本件発明の課題を解決する手段と同様の構成を有しているということができる。したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該課題を解決できると認識できる範囲のものである。本件発明4も、上記と同様の構成を備えていることから、本件発明の課題を解決することができるといえる。
よって、本件発明1及び本件発明4は、サポート要件を満たしているといえる。
本件発明2及び本件発明3は、本件発明1の上記課題解決手段と同様の構成を備えているから、同様にサポート要件を満たしているといえる。
(4)申立人の主張
申立人は、特許請求の範囲には、地下外壁と増し打ち壁とを一体化しない構成が含まれると主張している。(申立書第7頁第5-7行)
しかしながら、そもそも、上記(2)のとおり、本件明細書には「地下外壁」と「増し打ち壁」とを「一体化」することが、本件発明の課題を解決する手段であるとは記載されておらず、本件発明においても、「地下外壁」と「増し打ち壁」とを「一体化」するとは特定されていない。また、明細書に、「目荒し処理」や「接着剤を塗付」することにより一体化することが記載されているが、これらの記載があるからといって、特許請求の範囲を一体化しない構成が含まれると解釈すべき事情はない。
なお、申立人は、建物の建て替え時において、既存建物の地下外壁を土留めとして流用し、既存建物の内側に新築建物を構築することは、従来一般的に行われてきたことであるが、かかる一般的な新築建物の壁(既存建物の壁と一体化していないもの)と、鉄筋を埋設し地下外壁の内側全面に設けられた増し打ち壁とを区別することができない、旨主張するが(申立書第7頁下から4行-第8頁第1行)、本件発明の新築建物の壁は昇降床をはさんで増し打ち壁の反対側にあるから、地下外壁の内側全面に設けられた増し打ち壁が新築建物の壁となることはないし、本件発明は、「増し打ち壁」を「地下外壁の内側全面」に設けるものではなく「前記昇降床の下方」に設けるものであり、そのような構成により、上記(2)のとおり、「曲げ耐力が不足するスロープ床の下側を補強」できるという効果を奏するといえる。
(5)まとめ
したがって、本件発明1ないし本件発明4は、サポート要件を満たしている。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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