特許異議申立
2022-700970
ケーソンの状態予測システム及びプログラム
- 審判番号
- 2022-700970
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-201749
- 登録番号
- 7046469
- 請求日
- 2022年10月03日
- 審決日
- 2023年04月27日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】オリエンタル白石株式会社
- 【権利者代理人】安彦 元
- 【異議申立人】合同会社 SAS
- 審判長/審判官
- 審判長 住田 秀弘
- 審判官 居島 一仁
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1651.121-YAA(E02D) / P1651.537-YAA(E02D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の5第9項、特許法第126条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7046469号発明「ケーソンの状態予測システム及びプログラム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7046469号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5及び10について訂正することを認める。
特許第7046469号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7046469号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和2年12月4日に出願され、令和4年3月25日にその特許権の設定登録がされ、同年4月4日に特許掲載公報が発行された。
その特許について、同年10月3日に特許異議申立人 合同会社SAS(以下「申立人」という。)により、特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、請求項1~10に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、次のとおりである。
令和4年11月28日付け:取消理由通知書
令和5年 1月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 2月16日付け:訂正請求書に対する手続補正指令書(方式)
同年 3月 3日 :訂正請求書についての手続補正書の提出
なお、本件訂正請求は、申立人に意見を聴くまでもないことが明らかであるから(先の取消理由通知に対応して不明確な記載を明確にする軽微な訂正)申立人に意見書を提出する機会は与えない。
第2 本件訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年1月25日に提出され、同年3月3日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を訂正することを求めるものであり、次の(1)の本件訂正前の特許請求の範囲の記載を、後記(2)の本件訂正後の特許請求の範囲の記載のとおり訂正するものである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1) 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測システムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成手段と、
前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段とを備えること
を特徴とするケーソンの状態予測システム。
【請求項2】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測システムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力として、機械学習により予測モデルを生成するモデル生成手段と、
前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段とを備えること
を特徴とするケーソンの状態予測システム。
【請求項3】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測システムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力として、非線形力学系により予測モデルを生成するモデル生成手段と、
前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段とを備えること
を特徴とするケーソンの状態予測システム。
【請求項4】
前記探索手段は、前記探索手段により出力された躯体情報を含める2以上の各時点における前記躯体情報を入力として、前記予測モデルを用いて、次時点における前記躯体情報を出力することを複数回繰り返すこと
を特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のケーソンの状態予測システム。
【請求項5】
前記探索手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のケーソンの状態予測システム。
【請求項6】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測プログラムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得ステップにより取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記モデル生成ステップにより生成された予測モデルを用いて、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とするケーソンの状態予測プログラム。
【請求項7】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測プログラムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得ステップにより取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力として、機械学習により予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記モデル生成ステップにより生成された予測モデルを用いて、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とするケーソンの状態予測プログラム。
【請求項8】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測プログラムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得ステップにより取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力として、非線形力学系により予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記モデル生成ステップにより生成された予測モデルを用いて、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とするケーソンの状態予測プログラム。
【請求項9】
前記探索ステップは、前記探索ステップにより出力された躯体情報を含める2以上の各時点における前記躯体情報を入力として、前記予測モデルを用いて、次時点における前記躯体情報を出力することを複数回繰り返すこと
を特徴とする請求項6~8の何れか1項に記載のケーソンの状態予測プログラム。
【請求項10】
前記探索ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること
を特徴とする請求項6~9の何れか1項に記載のケーソンの状態予測プログラム。」
(2) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測システムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成手段と、
前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段とを備えること
を特徴とするケーソンの状態予測システム。
【請求項2】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測システムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力として、機械学習により予測モデルを生成するモデル生成手段と、
前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段とを備えること
を特徴とするケーソンの状態予測システム。
【請求項3】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測システムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力として、非線形力学系により予測モデルを生成するモデル生成手段と、
前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段とを備えること
を特徴とするケーソンの状態予測システム。
【請求項4】
前記探索手段は、前記探索手段により出力された躯体情報を含める2以上の各時点における前記躯体情報を入力として、前記予測モデルを用いて、次時点における前記躯体情報を出力することを複数回繰り返すこと
を特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のケーソンの状態予測システム。
【請求項5】
前記モデル生成手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のケーソンの状態予測システム。
【請求項6】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測プログラムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得ステップにより取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記モデル生成ステップにより生成された予測モデルを用いて、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とするケーソンの状態予測プログラム。
【請求項7】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測プログラムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得ステップにより取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力として、機械学習により予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記モデル生成ステップにより生成された予測モデルを用いて、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とするケーソンの状態予測プログラム。
【請求項8】
ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測プログラムにおいて、
3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得ステップにより取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力として、非線形力学系により予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記モデル生成ステップにより生成された予測モデルを用いて、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索ステップとをコンピュータに実行させること
を特徴とするケーソンの状態予測プログラム。
【請求項9】
前記探索ステップは、前記探索ステップにより出力された躯体情報を含める2以上の各時点における前記躯体情報を入力として、前記予測モデルを用いて、次時点における前記躯体情報を出力することを複数回繰り返すこと
を特徴とする請求項6~8の何れか1項に記載のケーソンの状態予測プログラム。
【請求項10】
前記モデル生成ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること
を特徴とする請求項6~9の何れか1項に記載のケーソンの状態予測プログラム。」
(3) 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項1~4である。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項5に「前記探索手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」と記載されているのを、「前記モデル生成手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に「前記探索ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」と記載されているのを、「前記モデル生成ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」に訂正する。
ウ 訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0016】に記載された「前記探索手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」を、「前記モデル生成手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」に訂正する。
エ 訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0021】に記載された「前記探索ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」を、「前記モデル生成ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無
以下、前記各訂正事項について、訂正の適否について検討する。なお、すべての請求項について特許異議申立ての対象とされているので、すべての訂正事項について特許法120条の5第9項において読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項5において、「前記探索手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」と記載されていたが、請求項5が直接的・間接的に引用する請求項1~4に「予測モデルを生成するモデル生成手段」とあるところ、「前記モデル生成手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」の記載により、訂正前の請求項5の「前記探索手段は、」なる誤記を、訂正後の請求項5の「前記モデル生成手段は、」と正すものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
また、訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1~3及び明細書の発明の詳細な説明の段落【0012】~【0014】の記載に基づいて誤記を訂正するものであるから、訂正事項1に係る訂正は、本件特許についての出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項10において、「前記探索ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」と記載されていたが、請求項10が直接的・間接的に引用する請求項6~8に「予測モデルを生成するモデル生成ステップ」とあるところ、「前記モデル生成ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」の記載により、訂正前の請求項10の「前記探索ステップは、」なる誤記を、訂正後の請求項10の「前記モデル生成ステップは、」と正すものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
また、訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項6~8及び明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】~【0019】の記載に基づいて誤記を訂正するものであるから、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1により、請求項5の記載が訂正されたのに伴い、明細書の詳細な説明の段落【0016】の記載をこれに整合させようとするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る訂正は、訂正事項1について前記(1)イで検討したのと同様に、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項2により、請求項10の記載が訂正されたのに伴い、明細書の詳細な説明の段落【0021】の記載をこれに整合させようとするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書き2号に掲げる誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項4に係る訂正は、訂正事項2について前記(2)イで検討したのと同様に、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書2号に掲げる事項を目的とし、同法120条の5第9項において準用する同法126条5項又は6項の規定に適合するので、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5及び10について訂正することを認める。
第3 本件特許に係る発明
前記第2において説示したとおり、本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件特許発明1」等といい、全体の発明を「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲(前記第2の1(2)参照)の請求項1~10に記載されたとおりのものである。
第4 取消理由の概要
訂正前の請求項5及び10に係る特許に対して、当審合議体が令和4年11月28日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(明確性要件) 請求項5及び10に係る特許は、特許請求の範囲の記載が次の2点で不備のため、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
1 請求項5に「前記探索手段は、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」と記載(下線は当審が付与した。以下同様である。)されているが、同請求項が引用する請求項1に「前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成手段」と記載されているため、「予測モデルを生成する」ことが「モデル生成手段」によるものなのか、「探索手段」によるものかが不明である。
また、前記記載は「探索手段」を特定するものであることからみて、「予測モデルを生成する」こと以外を特定することを意味するのであれば、「探索手段」のどのような機能・作用等を特定するのか不明である。
よって、請求項5に記載された「探索手段」がどのようなものか不明である。
2 請求項10に記載された「前記探索ステップは、前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」について、前記(1)で指摘したのと同様に、同請求項が引用する請求項6の「前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得ステップにより取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成ステップ」との関係において、「探索ステップ」がどのようなものか不明である。
第5 取消理由についての判断
1 特許法36条6項2号(明確性要件)について
(1) 請求項5について
本件訂正により、請求項5に記載された「前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」が「モデル生成手段」によるものを特定するものであることが明確となり、同時に「探索手段」と異なる手段であることが明確となったため、取消理由で指摘した不備は解消された。
(2) 請求項10について
本件訂正により、請求項10に記載された「前記取得ステップにより取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された次時点における前記躯体情報を出力として、前記予測モデルを生成すること」が「モデル生成ステップ」によるものを特定するものであることが明確となり、同時に「探索ステップ」と異なるステップであることが明確となったため、取消理由で指摘した不備は解消された。
2 小括
以上のとおりであるから、請求項5及び10の記載は明確である。
第5 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知に採用しなかった特許異議申立理由(進歩性)
申立人は、申立書において、甲第1号証~甲第5号証(以下、甲第1号証等を、それぞれ「甲1」等という。)を提出するとともに、本件特許発明1~10は、甲1~5の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきである旨主張している。
そして、当該特許異議申立理由は、先の取消理由通知において採用していない。
申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲1: 特開2019-65639号公報
甲2: 特開昭55-145216号公報
甲3: 特開平1-187228号公報
甲4: 特開平11ー13047号公報
甲5: 特開2019-3641号公報
2 申立書の特許異議申立理由についての判断
(1) 甲1に記載された発明
甲1の記載から甲1には次の2つの発明(以下、「甲1システム発明」、「甲1プログラム発明」という。)が記載されている(括弧内は該当する特許請求の範囲の請求項や明細書の段落番号を示す。)。
<甲1システム発明>
「ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の次時点における各種状態を予測するケーソンの状態予測システムにおいて、
新たに地盤を掘削するケーソン躯体から現時点における上記躯体現在情報と上記函内地形情報を取得する情報取得手段と、
ある時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体現在情報と、上記ケーソン躯体による堀り残し土に基づく函内地形情報とに対する次時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体将来情報との3段階以上の連関度が予め記憶されているデータベースと、
上記データベースに記憶されている連関度を参照し、上記情報取得手段を介して取得された情報に基づき、上記ケーソン躯体における次時点における躯体将来情報を探索する探索手段とを備え、(特許請求の範囲の請求項1)
連関度は、躯体現在情報と函内地形情報の組み合わせの集合がいわゆる隠れ層のノード61a~61eとして表現されることとなり、各ノード61a~61eは、参照用入力パラメータに対する重み付けと、出力解に対する重み付けがそれぞれ設定され、この重み付けが3段階以上の連関度であり、これらの連関度は、以前のある時点において各種躯体現在情報と、各種面内地形情報との組み合わせで掘削を行った結果、次時点におけるケーソン躯体8の位置や姿勢がどのように変化したかを予め調査し、これを連関度に落とし込んでデータベース3に予め蓄積しておくようにしてもよいものであり、いわゆるニューラルネットワークにより構成されていてもよいものであり、(【0050】及び【0051】)
探索部27は、人工知能により制御されるものであってもよい、(【0037】)
ケーソンの状態予測システム。」
<甲1プログラム発明>
「ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の次時点における各種状態を予測するケーソンの状態予測プログラムにおいて、
ある時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体現在情報と、上記ケーソン躯体による堀り残し土に基づく函内地形情報とに対する次時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体将来情報との3段階以上の連関度を予め取得する連関度取得ステップと、
新たに地盤を掘削するケーソン躯体から現時点における上記躯体現在情報と上記函内地形情報を取得する情報取得ステップと、
上記連関度取得ステップにおいて取得した連関度を参照し、上記情報取得ステップにより取得した情報に基づき、上記ケーソン躯体における次時点における躯体将来情報を探索する探索ステップとをコンピュータに実行させ、(特許請求の範囲の請求項4)
連関度は、躯体現在情報と函内地形情報の組み合わせの集合がいわゆる隠れ層のノード61a~61eとして表現されることとなり、各ノード61a~61eは、参照用入力パラメータに対する重み付けと、出力解に対する重み付けがそれぞれ設定され、この重み付けが3段階以上の連関度であり、これらの連関度は、以前のある時点において各種躯体現在情報と、各種面内地形情報との組み合わせで掘削を行った結果、次時点におけるケーソン躯体8の位置や姿勢がどのように変化したかを予め調査し、これを連関度に落とし込んでデータベース3に予め蓄積しておくようにしてもよいものであり、いわゆるニューラルネットワークにより構成されていてもよいものであり、(【0050】及び【0051】)
探索部27は、人工知能により制御されるものであってもよい、(【0037】)
ケーソンの状態予測プログラム。(特許請求の範囲の請求項4)」
(2) 検討・判断
ア 本件特許発明1
(ア) 対比
本件特許発明1と甲1システム発明を対比する。
a 甲1システム発明の「ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の次時点における各種状態を予測するケーソンの状態予測システム」は、本件特許発明1の「ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測システム」に相当する。
b 本件特許発明1の「3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段」と甲1システム発明の「新たに地盤を掘削するケーソン躯体から現時点における上記躯体現在情報と上記函内地形情報を取得する情報取得手段」は、「ある時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段」という点で共通する。
c 甲1システム発明の「ある時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体現在情報と、上記ケーソン躯体による堀り残し土に基づく函内地形情報とに対する次時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体将来情報との3段階以上の連関度が予め記憶されているデータベース」は、「連関度」が「以前のある時点において各種躯体現在情報と、各種面内地形情報との組み合わせで掘削を行った結果、次時点におけるケーソン躯体8の位置や姿勢がどのように変化したかを予め調査し、これを連関度に落とし込んでデータベース3に予め蓄積しておくようにしてもよい」ものである。
そして、「上記データベースに記憶されている連関度を参照し、上記情報取得手段を介して取得された情報に基づき、上記ケーソン躯体における次時点における躯体将来情報を探索」されることに鑑みると、前記「データベース」の「連関度」は、特定の予測モデルが形成されたものといえる。
そうすると、本件特許発明1の「前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成手段」と、甲1システム発明の「データベース」は、「前記取得手段により取得された時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成手段」という点で共通する。
d 前記cを踏まえると、本件特許発明1の「前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段」と、甲1システム発明の「上記データベースに記憶されている連関度を参照し、上記情報取得手段を介して取得された情報に基づき、上記ケーソン躯体における次時点における躯体将来情報を探索する探索手段」は、「前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段」という点で共通する。
前記a~dを総合すると、本件特許発明1と甲1システム発明を対比すると、次の一致点で一致し、相違点1~3で相違する。
<一致点>
「ニューマチックケーソン工法に使用されるケーソン躯体の各種状態を出力するケーソンの状態予測システムにおいて、
ある時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成するモデル生成手段と、
前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する探索手段を備えたケーソンの状態予測システム。」
<相違点1>
本件特許発明1の「取得手段」は「3以上の各時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体情報を取得する」のに対し、甲1システム発明の「情報取得手段」は「新たに地盤を掘削するケーソン躯体から現時点における上記躯体現在情報と上記函内地形情報を取得する」ものである点。
<相違点2>
本件特許発明1の「モデル生成手段」は、「前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成する」ものであるのに対し、甲1システム発明の「データベース」は「ある時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体現在情報と、上記ケーソン躯体による堀り残し土に基づく函内地形情報とに対する次時点におけるケーソン躯体の各種状態を示す躯体将来情報との3段階以上の連関度が予め記憶されている」ものであって、「連関度は、躯体現在情報と函内地形情報の組み合わせの集合がいわゆる隠れ層のノード61a~61eとして表現されることとなり、各ノード61a~61eは、参照用入力パラメータに対する重み付けと、出力解に対する重み付けがそれぞれ設定され、この重み付けが3段階以上の連関度であり、これらの連関度は、以前のある時点において各種躯体現在情報と、各種面内地形情報との組み合わせで掘削を行った結果、次時点におけるケーソン躯体8の位置や姿勢がどのように変化したかを予め調査し、これを連関度に落とし込んでデータベース3に予め蓄積しておくようにしてもよいものであり、いわゆるニューラルネットワークにより構成されていてもよいものであ」る点。
<相違点3>
本件特許発明1の「探索手段」は「前記モデル生成手段により生成された予測モデルを用いて、前記取得手段により取得された2以上の各時点における躯体情報を入力とした場合、次時点における前記躯体情報を出力する」のに対し、甲1システム発明の「探索手段」は「上記データベースに記憶されている連関度を参照し、上記情報取得手段を介して取得された情報に基づき、上記ケーソン躯体における次時点における躯体将来情報を探索する」ものである点。
(イ) 検討・判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
a 本件特許発明1の「予測モデル」について
本件特許発明1の「予測モデル」について明細書の段落【0064】に次の記載がある。
「予測モデルは、例えば連続した2以上の各時点における躯体情報を説明変数とし、連続した2以上の時点の中で最も後の時点に連続する次時点における躯体情報を目的変数として構成される、生成方法を限定しない学習モデルである。予測モデルは、例えば機械学習によって生成される機械学習モデルや非線形力学系によって生成される非線形力学系モデルであってもよい。」
そして、本件特許発明1は、「モデル生成手段」において「前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデルを生成する」もの、すなわち、「2以上の各時点における前記躯体情報を入力」として、将来の時点の「躯体情報を出力とした予測モデル」を生成するものである。
b 甲号証の記載について
(a) 甲2に記載された技術的事項について
甲2には、各センサーからの検出値および土性値、土層分布よりケーソンの抵抗と荷重がパランスした状態の掘削パターンを算出し、その掘削パターンに従つてケーソン作業室内を掘削し、次に予測計算の設定値に基いて調圧沈下用のエアコントロールにより自動的にケーソンを沈下させ、かつ前記掘削中の自然沈下および自動沈下中の諸情報をコンピューター処理し、フイードバックして沈下管理をなしつつ前記掘削と自動沈下を繰返す大型ケーソンの沈下工法が記載(特許請求の範囲、64頁右上段参照)されており、大型ケーソンの沈下工法において、所定の時点での各種測定値をもとに予測計算を行う技術が記載されているが、予測計算は過去の1つの時点の測定値を用いるものであり、本件特許発明1の「予測モデル」のように2以上の各時点における情報をもとに予測する技術を示すものでない。
(b) 甲3に記載された技術的事項について
甲3には、ケーソン本体の圧気作業室に掘削機構を移動自在に設け、各種センサーからの検出値をコンピュータに導入してケーソンの抵抗と荷重がバランスした状態の掘削パターンを算出し、その掘削パターンに従って掘削監視モニター画面及び作業室監視モニター画面を見ながら掘削操作盤で掘削機構を遠隔操作し、次に掘削操作盤で送気流量弁を制御して自動的にケーソンを沈下させ、かつ前記掘削中の自然沈下および自動沈下中の諸情報をコンピュータ処理し、フィードバックして沈下管理をなしつつ前記掘削と自動沈下を繰返すことを特徴とするニューマチックケーソンの沈設管理システムにおいて、土性値と形状をパラメータとした静的な最大地盤抵抗力を算定する理論計算、及び当該現場における前の数ステップで得られたデータを基に、次のステップの諸量を回帰式に基づき外挿的に推定する統計的処理、さらに多数の実績を基に静的な最大地盤抵抗力を土質のタイプ別等に層別して見積もる経験方式に基づく計算が行われること(特許請求の範囲、161頁下段参照)が記載されており、ニューマチックケーソンの沈設管理システムにおいて、過去の数ステップで得られたデータを元に次のステップの諸量を回帰式に基づき外挿的に推定する統計的処理を行うものである。したがって、甲3の「統計的処理」は単に過去の数ステップで得られたデータを元に次のステップで得られる値を外挿的に推定する統計処理を行う技術を示すものにすぎず、本件特許発明1の「予測モデル」のような「連続した2以上の各時点における躯体情報を説明変数とし、連続した2以上の時点の中で最も後の時点に連続する次時点における躯体情報を目的変数として構成される、生成方法を限定しない学習モデル」ではない。
(b) 甲4及び5に記載された技術的事項について
甲4には、埋込み杭の沈下量推定方法において、非線形モデルを用いる技術が記載(特許請求の範囲、段落【0041】及び【0053】参照)され、甲5には、所定の時点における雨量の予測値に基づいて安全率を予測する技術が記載(段落【0034】及び【0035】参照)されているが、これらは本件特許発明1の「予測モデル」でなく、それを示唆するものでもない。
c 判断
前記a及びbからみて、甲2は本件特許発明1の「前記取得手段により取得された2以上の各時点における前記躯体情報を入力とし、前記取得手段により取得された前記2以上の時点の中で最も後の時点よりも後の次時点における前記躯体情報を出力とした予測モデル」について記載も示唆もない。
そして、甲3は「ニューマチックケーソンの沈設管理システムにおいて、過去の数ステップで得られたデータを元に次のステップの諸量を回帰式に基づき外挿的に推定する統計的処理を行うもの」であるが、当該「統計的処理」は、甲1システム発明の「連関度」のような「以前のある時点において各種躯体現在情報と、各種面内地形情報との組み合わせで掘削を行った結果、次時点におけるケーソン躯体8の位置や姿勢がどのように変化したかを予め調査し、これを連関度に落とし込んでデータベース3に予め蓄積しておくようにしてもよいものであり、いわゆるニューラルネットワークにより構成されていてもよいものであ」る学習を行う予測モデルに係る技術とは異なるものであり、そのような「統計的処理」を学習を行う予測モデルに適用する動機付けもない。
また、甲4及び5に関しても、「予測モデル」に属する技術を示しものでも示唆するものでもない。
したがって、甲1システム発明に甲2~4に記載された技術を適用したとしても、相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものでない
d 請求人の主張について
申立人は、申立書で概ね次の主張をしている。
<主張>
本件特許発明1は、現場において実測された躯体情報に基づいて予測モデルを生成する点において、予めデータベースを作成しておいて適用する甲1発明とは相違している。
この点、甲第2号証には、現場において取得手段によつて取得された躯体情報を入力とし、後の時点における躯体情報を予測すること(以下、「甲2記載事項」という)が記載されている。
同様に、甲第3号証には、現場において取得手段によって取得された躯体情報を入力とし、後の時点における躯体情報を予測すること(以下、「甲3記載事項」という)が記載されている。
そして、甲第1号証と甲第2号証又は甲第3号証は、ニューマチックケーソンの沈設管理についてのものであり、技術分野が共通しているうえ、予測精度や一層のシステム化(自動化)という課題においても共通するものである。
以上の事情に基けば、甲1発明に甲2記載事項又は甲3記載事項を適用することは、当業者が容易に想到することができたことである。また、そうしたことによる効果も格別なものとはいえない。(申立書17頁下から1行~18頁17行)
しかしながら、前記主張については前記cで判断したとおりであり、前記主張は前記cの判断を左右するものでなく、採用できない。
(ウ) 本件特許発明1の進歩性についてのまとめ
本件特許発明1は、甲1システム発明及び甲2~5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
イ 本件特許発明2
本件特許発明2は、本件特許発明1で特定された「モデル生成手段」が「予測モデルを生成する」ことを、「機械学習により予測モデルを生成する」ことに限定したものであるから、本件特許発明2と甲1システム発明を対比すると、少なくとも前記ア(ア)の相違点1~3で相違するものである。
よって、本件特許発明2は、前記ア(イ)と同様の理由により、甲1システム発明及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 本件特許発明3
本件特許発明3は、本件特許発明1で特定された「モデル生成手段」が「予測モデルを生成する」ことを、「非線形力学系により予測モデルを生成する」ことに限定したものであるから、本件特許発明3と甲1システム発明を対比すると、少なくとも前記ア(ア)の相違点1~3で相違するものである。
よって、本件特許発明3は、前記ア(イ)と同様の理由により、甲1システム発明及び甲2~甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
エ 本件特許発明4及び5
本件特許発明4及び5は、本件特許発明1、2又は3の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、本件特許発明4及び5は、前記ア~ウと同様の理由により、甲1システム発明及び甲2~甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
オ 本件特許発明6~10
本件特許発明6~10のそれぞれは、「ケーソンの状態予測システム」に係る発明である本件特許発明1~5を「ケーソンの予測状態プログラム」に係る発明としたものである。
したがって、本件特許発明6~10のそれぞれを甲1プログラム発明と対比すると、対応する本件特許発明1~5と同様の点で相違する。
そうすると、前記ア~エと同様の理由により、本件特許発明6~10のそれぞれは、甲1プログラム発明及び甲2~甲5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3) 取消理由のまとめ
よって、本件特許発明1~5は、甲1システム発明及び甲2~5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、本件特許発明6~10は、甲1プログラム発明及び甲2~5に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
第6 むすび
したがって、取消理由通知書に記載した取消理由又は申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許発明1~10に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700970