特許異議申立
2020-700721
反射防止フィルム
- 審判番号
- 2020-700721
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-503488
- 登録番号
- 6672579
- 請求日
- 2020年09月23日
- 審決日
- 2022年09月30日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】小野 誠
- 【権利者代理人】重森 一輝
- 【権利者代理人】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
- 【異議申立人】岡林 茂
- 【異議申立人代理人】特許業務法人太陽国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 石附 直弥
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.121-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第113条、特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6672579号発明「反射防止フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6672579号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
特許第6672579号の請求項1~3及び7~13に係る特許を維持する。
特許第6672579号の請求項4~6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6672579号の請求項1~13に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2018-503488号)は、2016年(平成28年)12月27日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2016年1月7日 韓国)を国際出願日とする出願であって、令和2年3月9日にその特許権の設定登録がされ、令和2年3月25日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和2年9月23日に、特許異議申立人 岡林 茂(以下「特許異議申立人」という。)から、本件特許のうち請求項1~請求項13に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」~「本件特許13」という。)に対して、特許異議の申立てがされた(異議2020-700721号、以下「本件事件」という。)。
本件事件についての、その後の手続等の経緯は、以下のとおりである。
令和3年 1月15日付け: 取消理由通知書
令和3年 5月26日提出: 訂正請求書
令和3年 5月26日提出: 意見書(特許権者)
(乙1~乙2を添付。)
令和3年 7月27日提出: 意見書(特許異議申立人)
(参考資料1~参考資料4を添付。)
令和3年11月15日付け: 取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 5月23日提出: 訂正請求書
令和4年 5月23日提出: 意見書(特許権者)
なお、令和3年5月26日にした訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
また、令和4年5月31日付け通知書により特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法120条の5第5項)をしたが、特許異議申立人から意見書は提出されなかった。
第2 本件訂正請求について
令和4年5月23日にされた訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。
1 訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第6672579号の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項を含むものである。なお、下線は訂正された箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記ポリエステルフィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層」
との記載を、
「前記ポリエステルフィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3及び7~13も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、
「光硬化性樹脂および重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」
との記載を、
「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3及び7~13についても同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1において、
「無機微粒子を含む」
との記載を、
「無機微粒子を含み、前記反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンは、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンであり、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンのシリコンのうちの1個に反応性官能基が導入され、反応性官能基が導入されない他のシリコンには非反応性官能基が導入されており、」に訂正する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3及び7~13についても同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1において、前記訂正事項3の直後に続けて、
「前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンに置換された反応性官能基は、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を含み、前記非反応性官能基は、炭素数1~20の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、および炭素数6~20のアリール基からなる群より選択された1種以上であり、」
との記載を挿入する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3及び7~13についても同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1において、前記訂正事項4の直後に続けて、
「前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンを0.5~30重量部で含む、」
との記載を挿入する。
請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、3及び7~13についても同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7において、
「請求項1から6のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」
との記載を、
「請求項1から3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」
に訂正する。
請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8~13についても同様に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11において、
「請求項1から10のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」
との記載を、
「請求項1から3、7から10のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」
に訂正する。
請求項11の記載を直接的又は間接的に引用する請求項12~13についても同様に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項13において、
「請求項1から12のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」
との記載を、
「請求項1から3、7から12のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。」
に訂正する。
(12)一群の請求項について
本件訂正請求は、一群の請求項1~13について請求されている。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の「前記ポリエステルフィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層」について、「前記ポリエステルフィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層」と訂正することで、低屈折層に含まれるポリシルセスキオキサンにおける反応性官能基を「1個」に限定するものである。
また、請求項1を引用する請求項2、3及び7~13に係る発明についても、同様である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項、拡張又は変更
本件特許の明細書の【0033】~【0034】には、多面体オリゴマーシルセスキオキサンのシリコンのうちの少なくとも1個に反応性官能基が導入されることが記載されている。また、実施例で用いられているポリシルセスキオキサン「MA0701」(【0099】)は、以下の構造を有するケージ構造の多面体オリゴマーシルセスキオキサンであって、反応性官能基としてSi原子上に(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を1つ有し、その他のSi原子上には非反応性官能基(R)としてi-ブチル基を有している化合物である。
[図:0001391974000001.jpg]
(当合議体注:上記図は、令和4年5月23日提出の訂正請求書から引用した。)
そうしてみると、この訂正は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の「光硬化性樹脂および重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」について、「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」と訂正することで、(共)重合体が光硬化性樹脂からなるものに限定し、それによりバインダー樹脂の構成を明確化するものである。
また、請求項1を引用する請求項2、3及び7~13に係る発明についても、同様である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項、拡張又は変更
本件特許の明細書の【0092】及び【0094】には、実施例の反射防止フィルムが「HD2」を含んでおり、当該「HD2」が「ペンタエリスリトールトリアクリレート(分子量:298g/mol)13g、ウレタンアクリレートオリゴマー(306I、Kyoeish)10g、ウレタンアクリレートオリゴマー(306T、Kyoeish)10g、溶媒としてイソプロピルアルコール20g、光開始剤(Irgacure184、Ciba社)2g、レベリング剤(Tego glide410)0.5gを均一に混合して製造した組成物に、平均粒径が3μm、屈折率が1.555の球状の有機微粒子であるアクリル-スチレン共重合体(Techpolymer、Sekisui Plastic社)2.3gと、体積平均粒径12nmのナノシリカ分散液(MA-ST、Nissan Chemical社)0.01gを添加して製造した目眩しさ防止ハードコート組成物である」ことが記載されており、技術的にみて、このように製造される「ハードコート組成物」は光硬化性樹脂であり、かつ、「重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」であるといえる。
そうしてみると、この訂正は、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の「ポリシルセスキオキサン」について、「ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンであり、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンのシリコンのうちの1個に反応性官能基が導入され、反応性官能基が導入されない他のシリコンには非反応性官能基が導入されて」いるという限定を付加する訂正であって、上記「ポリシルセスキオキサン」の構造を限定するものである。
また、請求項1を引用する請求項2、3及び7~13に係る発明についても、同様である。
したがって、この訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。
イ 新規事項、拡張又は変更
本件特許の明細書の【0031】には、「このうち、上述した特性をより向上させるために、前記反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンであって、1個以上の反応性官能基で置換されており、ケージ(cage)構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサン(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxane)を使用することができる。」と記載され、同明細書の【0029】には、「一方、前記反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンは、上述した反応性官能基のほか、炭素数1~20の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、および炭素数6~20のアリール基からなる群より選択された1種以上の非反応性官能基で追加的に置換されていてもよい。このように前記ポリシルセスキオキサンの表面が反応性官能基と非反応性官能基で置換されることによって、前記反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンにおいてシロキサン結合(-Si-O-)が分子の内部に位置しつつ外部に露出しなくなって、前記光硬化性コーティング組成物の光硬化時に形成される塗膜や高分子樹脂の耐アルカリ性をより向上させることができる。」と記載されている(当合議体注:下線は当合議体が付した。)。
そうしてみると、この訂正は、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の「ポリシルセスキオキサン」について、「前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンに置換された反応性官能基は、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を含み、前記非反応性官能基は、炭素数1~20の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、および炭素数6~20のアリール基からなる群より選択された1種以上であり」という限定を付加する訂正であって、上記「ポリシルセスキオキサン」の構造を限定するものである。
また、請求項1を引用する請求項2、3及び7~13に係る発明についても、同様である。
したがって、この訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。
イ 新規事項、拡張又は変更
本件特許の明細書の【0027】には、「より具体的には、前記反応性官能基がエポキシドの場合には、反応性官能基として、2-[3,4-エポキシシクロヘキシル]エチル基あるいは3-グリシドキシプロピル基(3-glycidoxypropyl)などが導入され、(メタ)アクリレートの場合には、反応性官能基として、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基(この時、アルキル基は、炭素数1~6であってもよい)などが導入される。」と記載されており、同明細書の【0029】には、「一方、前記反応性官能基が1以上置換されたポリシルセスキオキサンは、上述した反応性官能基のほか、炭素数1~20の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、および炭素数6~20のアリール基からなる群より選択された1種以上の非反応性官能基で追加的に置換されていてもよい。」と記載されている。
そうしてみると、この訂正は、当業者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の「光硬化性コーティング組成物」について、「前記光重合性化合物100重量部対比、反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンを0.5~30重量部で含む」という限定を付加する訂正であって、上記「光硬化性コーティング組成物」に含まれる上記「ポリシルセスキオキサン」の含有量を限定するものである。
また、請求項1を引用する請求項2、3及び7~13に係る発明についても、同様である。
したがって、この訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。
イ 新規事項、拡張又は変更
訂正事項5は、訂正前の請求項4の記載に基づくものである。
そうしてみると、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは明らかである。
(6)訂正事項6~8について
訂正事項6~8による訂正は、請求項4~6を削除する訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。また、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは明らかである。
(7)訂正事項9~11について
訂正事項9~11は、請求項の削除に伴い、引用する請求項から削除された請求項4~6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。また、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであること、及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないことは明らかである。
(8)小括
上記のとおり、訂正事項1~11に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったことから、本件特許の請求項1~3及び請求項7~13に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明3」及び「本件特許発明7」~「本件特許発明13」という。また、請求項1~3、7~13に係る発明を、「本件特許発明」と総称する。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~3及び請求項7~13に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2であるポリエステルフィルム;
前記ポリエステルフィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層;および
前記ポリエステルフィルムと低屈折層との間に介在するハードコート層を含み、
前記ハードコート層は、光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した有機微粒子および無機微粒子を含み、
前記反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンは、ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンであり、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンのシリコンのうちの1個に反応性官能基が導入され、反応性官能基が導入されない他のシリコンには非反応性官能基が導入されており、
前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンに置換された反応性官能基は、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を含み、前記非反応性官能基は、炭素数1~20の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、および炭素数6~20のアリール基からなる群より選択された1種以上であり、
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンを0.5~30重量部で含む、
反射防止フィルム。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレート、あるいはポリエチレンナフタレートの一軸延伸フィルム、あるいは二軸延伸フィルムである、
請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記光硬化性コーティング組成物は、光重合性化合物として、(メタ)アクリロイル基またはビニル基を含む単量体またはオリゴマーを含む、
請求項1または2に記載の反射防止フィルム。」
「【請求項7】
前記光硬化性コーティング組成物は、光反応性官能基を含むフッ素系化合物を追加的に含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記フッ素系化合物に含まれる光反応性官能基は、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ビニル(vinyl)基、およびメルカプト(merapto)基からなる群より選択された1以上の官能基である、
請求項7に記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
前記光反応性官能基を含むフッ素系化合物は、2,000~200,000g/molの重量平均分子量を有する、
請求項7または8に記載の反射防止フィルム。
【請求項10】
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、前記光反応性官能基を含むフッ素系化合物を1~75重量部で含む、
請求項7から9のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項11】
前記無機粒子は、10~100nmの数平均粒径を有する中空シリカ粒子を含む、
請求項1から3、7から10のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項12】
前記光硬化性コーティング組成物は、前記光重合性化合物100重量部対比、前記中空シリカ粒子を10~350重量部で含む、
請求項11に記載の反射防止フィルム。
【請求項13】
前記ハードコート層は、眩しさ防止機能、キズ防止機能、帯電防止機能、あるいはこれらのうちの2以上の複合機能を実現する、
請求項1から3、7から12のいずれか一項に記載の反射防止フィルム。」
第4 取消しの理由及び証拠
1 令和3年1月15日付け取消理由通知書における取消しの理由
特許権者に対して、当合議体が令和3年1月15日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由の概要は、下記のとおりである。
記
【理由1】:(サポート要件)本件特許の請求項1~13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
【理由2】:(明確性要件)本件特許の請求項1~13に係る発明は、明確であるということができないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
【理由3】:(進歩性)本件特許の請求項1~13に係る発明は、本件特許の出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
・甲1:韓国公開特許第10-2014-0140139号公報
・甲2:特開2015-28578号公報
・甲3:特開2006-63147号公報
・甲4:特開2013-228741号公報
・甲5:特開2009-86360号公報
・甲6:特開2006-235198号公報
・甲7:特開2014-149504号公報
・甲8:国際公開第2012/053632号
・甲9:特開2014-26122号公報
・甲10:特開2014-59334号公報
・甲11:国際公開2013/099931号
(当合議体注:甲1は、主引用例である。甲2は、本件特許の請求項1~13に対しての副引用例として、甲3は、本件特許の請求項6~13に対しての副引用例として、甲4は本件特許の請求項9~13に対しての副引用例として、それぞれ引用されたものである。また、甲5~11は、周知技術を示す文献である。)
2 追加の証拠について
(1)特許異議申立人による証拠
特許異議申立人は、甲1~甲11の他、令和3年7月27日提出の意見書に添付して、以下の証拠を提出している。
参考資料1:特表2006-522861号公報
参考資料2:特表2010-519398号公報
参考資料3:特開2001-207115号公報
参考資料4:シルセスキオキサン誘導体「SQシリーズ」 東亞合成研究年報TREND 第7号 37-41頁 2004年
(2)特許権者による証拠
特許権者は、令和3年5月26日提出の意見書に添付して、以下の証拠を提出している。
乙1:本件特許明細書の実施例におけるバインダー樹脂の重量平均分子量の測定結果
乙2:Hybrid Plastics社カタログ(「MA0701」の構造)
3 令和3年11月15日付け取消理由通知書(決定の予告)における取消しの理由
特許権者に対して、当合議体が令和3年11月15日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由の概要は、下記のとおりである。
記
令和3年5月26日提出の訂正請求によって訂正された請求項1~4、7~13に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2~4に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、当該請求項1~4、7~13に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当合議体の判断(進歩性)
1 甲1及び甲3の記載並びに甲1に記載された発明
(1)甲1の記載
取消しの理由で引用された甲1には、次の事項が記載されている。
なお、下線は当合議体が付与したものであって、引用発明の認定及び判断等において活用した箇所を示す。以下同様である。
ア 「
[図:0001391974000002.jpg]
[図:0001391974000003.jpg]
」
(参考訳:【請求項13】
基材フィルムの少なくとも一面に、下記化学式1のシルセスキオキサン化合物、紫外線硬化型化合物、無機粒子、光開始剤、界面活性剤及び溶媒を含む反射防止用コーティング組成物が塗布された低屈折コーティング層を有する光学フィルム。
[化学式1]
[図:0001391974000004.jpg]
(前記式で、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立的に、
[図:0001391974000005.jpg]
から選択されて、前記R5及びR6はそれぞれ独立的に水素または(C1-C5)アルキルで選択されて、前記nは1~10で選択される整数で、mは2~12で選択される整数で、kは1~10で選択される整数で、jは1~10で選択される整数である。)
【請求項14】
第13項において、前記基材フィルムはセルロースアシレート、ポリノルボネン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリオレフイン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート及びポリエーテルケトン、ポリビニルアルコール及びポリ塩化ビニルからなる群から選択される、単独またはこれらの混合物で構成される光学フィルム。
【請求項15】
第13項において、前記低屈折コーティング層は乾燥後の厚さが10~200nmで、屈折率が1.39~1.43である光学フィルム。
【請求項16】
第13項において、前記基材フィルムと低屈折コーティング層の間にハードコーティング層をさらに含む光学フィルム。)
イ 「
[図:0001391974000006.jpg]
・・・中略・・・
[図:0001391974000007.jpg]
」
(参考訳:技術分野
【0001】本発明は、反射防止用コーティング組成物及びこれを利用した光学フィルムに関する。
・・・中略・・・
課題解決手段
【0009】本発明は下記化学式1のシルセスキオキサン化合物を含む反射防止用コーティング組成物に関する。
【0010】[化学式1]
【0011】
[図:0001391974000008.jpg]
【0012】(前記式で、
【0013】R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立的に、
[図:0001391974000009.jpg]
から選択されて、
【0014】前記R5及びR6はそれぞれ独立的に水素または(C1-C5)アルキルから選択され、
【0015】前記nは1~10で選択される整数で、mは2~12で選択される整数で、kは1~10で選択される整数で、jは1~10で選択される整数である。
【0016】前記化学式1の化合物は屈折率が1.3~1.42であることであることができるし、全体組成物の屈折率は1.39~1.43であるものとすることができる。
【0017】また、本発明は、基材フィルムの少なくとも一面に、前記化学式1のシルセスキオキサン化合物、紫外線硬化型化合物、無機粒子、光開始剤、界面活性剤及び溶媒を含む反射防止用コーティング組成物が塗布された低屈折コーティング層を有する光学フィルムに関する。)
ウ 「
[図:0001391974000010.jpg]
」
(参考訳:【0031】具体的には、前記反射防止用コーティング組成物はシルセスキオキサン化合物0.1~10重量%、紫外線硬化型化合物0.5~10重量%、無機粒子0.1~5重量%、光開始剤0.01~2重量%、界面活性剤0.01~0.1重量%及び残量の溶媒を含むものとすることができる。)
エ 「
[図:0001391974000011.jpg]
[図:0001391974000012.jpg]
」
(参考訳:【0054】[紫外線硬化型化合物]
【0055】本発明の一様態において、前記紫外線硬化型化合物は(メタ)アクリル系樹脂、フッ素系(メタ)アクリレートから選択される一つ以上とすることができる。好ましくは、フッ素系(メタ)アクリレートを用いるのが、最終組成物の低屈折を具現することができ、前記シルセスキオキサン化合物との混合性が優れることから望ましい。
【0056】組成物中の前記紫外線硬化型化合物の固形分含量は0.5~10重量%、より具体的には0.6~8重量%を使用することができる。前記紫外線硬化型化合物の含量が0.5重量%未満の場合は、コーティング膜の耐スクラッチ性、耐磨耗性が低下してコーティング液の粘度がコーティング機械と基材に転写されないほど低くなることがあり、10重量%を超過して使用する場合は、粘度が高くなってコーティング膜の平坦化及びコーティング性が悪くなるなどの問題点が発生することがある。
【0057】前記(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー、エステルアクリレートオリゴマーなどを使用することができ、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチレンプロパントリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、9,9-ビス(4-(2-アクリロキシエトキシフェニル)フルオレン、ビス(4-メタクリロキシチオフェニル)スルフィド、ビス(4-ビニルチオフェニル)スルフィドなどを1種または2種以上混合して使用することができる。)
オ 「
[図:0001391974000013.jpg]
」
(参考訳:【0103】前記ハードコーティング層は表面硬度を具現するためのもので、屈折率が1.49~1.53であることが望ましい。屈折率が前記範囲であれば優れた反射防止効果を得ることができる。
【0104】前記ハードコーティング層を形成するためのハードコーティング層形成用組成物は、通常当該分野で使用されるものであれば制限なく使用可能である。
【0105】本発明による光学フィルムは、反射防止フィルムとすることができ、本発明は前記反射防止フィルムを含む偏光板を提供する。具体的には、本発明による偏光板は、偏光膜、前記偏光膜の少なくとも一面に具備された、本発明による反射防止フィルムを含む。前記偏光膜と反射防止フィルムの間には保護フィルムが具備されうる。また、前記保護フィルムは前記反射防止フィルムの製造時に単一コーティング層を形成するための基材をそのまま使うこともできる。前記偏光膜と前記反射防止層が具備された基材は接着剤によって貼り合わせうる。前記偏光膜としては、当該技術分野に知られているものを使用することができる。
【0106】本発明は前記反射防止フィルムまたは偏光板を含む表示装置を提供する。前記表示装置は、液晶表示装置やプラズマディスプレイ装置とすることができる。本発明による表示装置は、本発明による反射防止フィルムが具備されたことを除いて該当の技術分野に知られている構造を有することができる。例えば、本発明によるディスプレイ装置では、前記反射防止フィルムはディスプレイパネルの観測者側またはバックライト側の最外層表面に具備されうる。また、本発明によるディスプレイ装置は、ディスプレイパネル、前記パネルの少なくとも一面に具備された偏光膜及び前記偏光膜のパネルと接する反対側面に具備された反射防止フィルムを含むことができる。
【0107】以下に、本発明の具体的な説明のために一例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されることではない。
【0108】以下のフィルムの物性は次の測定方法によって測定した。)
カ 「
[図:0001391974000014.jpg]
」
(参考訳:【0140】[実施例2]
【0141】1)低屈折コーティング液(2)の製造
【0142】シルセスキオキサン化合物1(東進セミケム社製、300S、屈折率1.4、重量平均分子量3000)2gとフッ素系アクリレート(Kyoeisha製、Linc-162A)1gとペンタエリスリトールトリアクリレート(NK化学、PETA)2.5gをメチルイソブチルケトン(MIBK)224gに混合して完全に溶解させた。
【0143】以後、中空シリカ(イルフィ触媒化成、固形分20重量%分散液、シリカ平均粒径40nm)6gを混合して、光開始剤でα-アミノアセトフェノン(BASF、Irgacure907)0.3gと界面活性剤としてBYK-3570を0.05g添加して低屈折コーティング液(2)を製造した。
【0144】2)光学フィルムの製造
【0145】厚さ80μmの透明基材セルローストリアセテートフィルム表面上に、ハードコーティング液(Kyoeisha、HX-610UV)をワイヤバー(wirebar)を用いて乾燥後の厚さが5μmになるように塗布した後、乾燥及び硬化した。乾燥は90℃で1分間行い、硬化は120W/cmの高圧水銀ランプを用いて10秒間窒素雰囲気下でUV硬化した。
【0146】前記ハードコーティング層の上部に前記低屈折コーティング液(2)をワイヤバー(wirebar)を用いて乾燥後の厚さが100nmになるように塗布した後、乾燥及び硬化した。乾燥は90℃で1分間行い、硬化は120W/cmの高圧水銀ランプを用いて10秒間窒素雰囲気下でUV硬化した。
【0147】製造されたフィルムの物性を測定して下記表1に記載した。)
(2)甲1に記載された発明
ア 甲1の【0142】~【0146】には、実施例2として、「セルローストリアセテートフィルム表面上に、ハードコーティング液(Kyoeisha、HX-610UV)をワイヤバー(wirebar)を用いて乾燥後の厚さが5μmになるように塗布した後、乾燥及び硬化し」てハードコーティング層を形成し、「前記ハードコーティング層の上部に前記低屈折コーティング液(2)をワイヤバー(wirebar)を用いて乾燥後の厚さが100nmになるように塗布した後、乾燥及び硬化し」て得られた、低屈折コーティング層を有する光学フィルムが記載されており、当該光学フィルムは、その構成及び甲1【0105】等の記載からして偏光板の用途に用いる反射防止フィルムである。
(当合議体注:低屈折コーティング液(2)を塗布した後、乾燥及び硬化して得られた上記層を、甲1の【0017】の記載にならい、以下「低屈折コーティング層」という。)
イ また、甲1の【請求項13】及び【0009】~【0017】の記載から、実施例2の「低屈折コーティング液(2)」に含まれる「シルセスキオキサン化合物1(東進セミケム社製、300S、屈折率1.4、重量平均分子量3000)」は、
[化学式1]
[図:0001391974000015.jpg]
(前記式で、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立的に、
[図:0001391974000016.jpg]
から選択され、前記R5及びR6はそれぞれ独立的に水素または(C1-C5)アルキルから選択され、前記nは1~10で選択される整数で、mは2~12で選択される整数で、kは1~10で選択される整数で、jは1~10で選択される整数である。)で表されるものである。
ウ 上記ア~イによれば、甲1には、実施例2として、以下の反射防止フィルムの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「シルセスキオキサン化合物1(東進セミケム社製、300S、屈折率1.4、重量平均分子量3000)2gとフッ素系アクリレート(Kyoeisha製、Linc-162A)1gとペンタエリスリトールトリアクリレート(NK化学、PETA)2.5gをメチルイソブチルケトン(MIBK)224gに混合して完全に溶解させ、
中空シリカ(イルフィ触媒化成、固形分20重量%分散液、シリカ平均粒径40nm)6gを混合して、光開始剤でα-アミノアセトフェノン(BASF、Irgacure907)0.3gと界面活性剤としてBYK-3570を0.05g添加して低屈折コーティング液(2)を製造し、
厚さ80μmの透明基材であるセルローストリアセテートフィルム表面上に、ハードコーティング液(Kyoeisha、HX-610UV)をワイヤバー(wirebar)を用いて乾燥後の厚さが5μmになるように塗布した後、乾燥及び硬化してハードコーティング層を形成し、
前記ハードコーティング層の上部に前記低屈折コーティング液(2)をワイヤバー(wirebar)を用いて乾燥後の厚さが100nmになるように塗布した後、乾燥及び硬化して低屈折コーティング層を形成した、
偏光板に用いる反射防止フィルムであり、
前記シルセスキオキサン化合物1は、以下の[化学式1]で表される反射防止フィルム。
[化学式1]
[図:0001391974000017.jpg]
(前記式で、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立的に、
[図:0001391974000018.jpg]
から選択され、前記R5及びR6はそれぞれ独立的に水素または(C1-C5)アルキルから選択され、
前記nは1~10で選択される整数で、mは2~12で選択される整数で、kは1~10で選択される整数で、jは1~10で選択される整数である。)」
(3)甲3の記載
取消しの理由で引用された甲3には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分
(A)エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体、及び
(B)かご状シルセスキオキサン骨格を有する化合物
を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)かご状シルセスキオキサン骨格を有する化合物が、下記式(B-1)~(B-3)で表される化合物からなる群から選択される1種以上を含有する請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
[図:0001391974000019.jpg]
(式(B-1)~(B-3)中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基であり、Rのうちの2個以上がそれぞれ独立にラジカル種又はカチオン種によって重合可能な架橋性基である。)
【請求項3】
前記(A)エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体が、
1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、
水酸基含有含フッ素重合体とを、
イソシアネート基/水酸基のモル比が1.1~1.9の割合で反応させて得られるエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体である請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに(C)(メタ)アクリレート化合物を含有する請求項1~3のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(D)シリカを主成分とする粒子を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(D)シリカを主成分とする粒子が、重合性不飽和基を含む有機化合物によって表面処理がなされている請求項5に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
反射防止膜用である請求項1~6のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化膜。
【請求項9】
請求項8に記載の硬化膜からなる低屈折率層を有する反射防止膜。」
イ 「【0016】
(A)エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体
エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体(A)は、フッ素系オレフィンの重合物である。(A)成分により本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は低屈折率、防汚性、耐薬品性、耐水性等の反射防止膜用低屈折率材料としての基本性能を発現する。
好ましくは、(A)成分は、側鎖水酸基が(メタ)アクリル系化合物で変性されている。さらに好ましくは、イソシアネート基を有する(メタ)アクリル系化合物によって変性されている。このような変性により、ラジカル重合性(メタ)アクリル化合物と共架橋化することができ、耐擦傷性が向上する。
架橋性基を有する(B)成分及び(C)成分、さらには光架橋化された(D)及び(E)成分と共架橋化することができ、得られる硬化膜の耐擦傷性が向上する。
【0017】
エチレン性不飽和基含有含フッ素重合体は、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物と、水酸基含有含フッ素重合体とをイソシアネート基/水酸基のモル比が1.1~1.9の割合で反応させて得られる。
【0018】
(1)1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物
1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基とを含有する化合物としては、分子内に、1個のイソシアネート基と、少なくとも1個のエチレン性不飽和基を含有している化合物であれば特に制限されるものではない。
尚、イソシアネート基を2個以上含有すると、水酸基含有含フッ素重合体と反応させる際にゲル化を起こす可能性がある。
また、上記エチレン性不飽和基として、後述する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をより容易に硬化させることができることから、(メタ)アクリロイル基を有する化合物がより好ましい。
このような化合物としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネートの一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。」
ウ 「【0059】
(B)かご状シルセスキオキサン骨格を有する化合物
かご状シルセスキオキサン骨格を有する化合物は、複数の架橋基を有しているにもかかわらず、硬化収縮が小さく、かつSiO骨格を有しているため低屈折率であることから、屈折率を低く抑えたまま耐擦傷性の向上を図るために用いられる。
【0060】
本発明の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物で用いるかご状シルセスキオキサン骨格を有する化合物は、下記式(B-1)~(B-3)で表される化合物からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
[図:0001391974000020.jpg]
【0061】
上記式(B-1)~(B-3)中、Rはそれぞれ独立に1価の有機基であり、Rのうちの2個以上、好ましくは4個以上、さらに好ましくは8個以上がそれぞれ独立にラジカル種又はカチオン種によって重合可能な架橋性基である。
ラジカル種又はカチオン種によって重合可能な2個以上の架橋性基を有することにより、光架橋され、他の成分(光架橋化された(A)成分及び(C)成分、さらには光架橋化された(D)成分)と架橋結合を形成(共架橋化)し、得られる硬化物の耐擦傷性が改善される。
【0062】
上記ラジカル種又はカチオン種によって重合可能な架橋性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基若しくはオキセタニル基等の環状エーテル基、環状チオール基が挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
架橋性基以外の1価の有機基としては、例えば、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖状のフッ素含有アルキル基、数平均分子量5000未満の末端アルキルポリジメチルシロキサン基、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシル基が挙げられる。」
2 対比及び判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりである。
(ア)ポリエステルフィルム、反射防止フィルム
甲1発明の「反射防止フィルム」は、「セルローストリアセテートフィルム」、「セルローストリアセテートフィルム表面上に」「形成」された「ハードコーティング層」及び「前記ハードコーティング層の上部に」「形成」された「低屈折コーティング層」を含むものであって、その構造からみて、本件特許発明1の「反射防止フィルム」に相当する。
また、甲1発明の「セルローストリアセテートフィルム」は、上記「反射防止フィルム」全体からみて、「反射防止フィルム」の「基材」となるフィルムといえる。
そうしてみると、甲1発明の「セルローストリアセテートフィルム」と、本件特許発明1の「ポリエステルフィルム」とは、「反射防止フィルム」の基材となる「フィルム」である点で共通する。
(イ)低屈折層
甲1発明の「ペンタエリスリトールトリアクリレート(NK化学、PETA)」、「中空シリカが、それぞれ本件特許発明1の「光重合性化合物」及び「無機粒子」に相当することは技術常識である。また、甲1発明の「低屈折コーティング層」は、その文言及び機能から、本件特許発明1の「低屈折層」に相当する。
ここで、[化学式1]で表される、甲1発明の「シルセスキオキサン化合物1」は、その構造式より、本件特許発明1の「ポリシルセスキオキサン」に相当する。
また、甲1発明の「低屈折コーティング層」は、「セルローストリアセテートフィルム表面上に、」「ハードコーティング層を形成し、」「前記ハードコーティング層の上部に前記低屈折コーティング液(2)を」「塗布した後、乾燥及び硬化して」「形成した」ものである。そして、前記「低屈折コーティング液(2)」は、「シルセスキオキサン化合物1」、「フッ素系アクリレート」、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(NK化学、PETA)」を「メチルイソブチルケトン(MIBK)」「混合して完全に溶解させ、中空シリカ」「を混合して、光開始剤でα-アミノアセトフェノン」「と界面活性剤としてBYK-3570を」「添加して」「製造し」たものであるから、その組成から、甲1発明の「低屈折コーティング液(2)」は、光架橋によって重合して硬化する性質を備えた組成物といえる。
以上総合すると、「ペンタエリスリトールトリアクリレート(NK化学、PETA)」、「中空シリカ」、「シルセスキオキサン化合物1」を含む、甲1発明の「低屈折コーティング層」は、本件特許発明1の「低屈折層」における、「フィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および」「ポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である」という要件を満たす。
(ウ)ハードコート層
甲1発明の「反射防止フィルム」は、「ハードコーティング層」が、「セルローストリアセテートフィルム表面上に」「形成」され、「ハードコーティング層の上部に」、「低屈折コーティング層」が「形成」されたものである。
上記構造から、甲1発明の「ハードコーティング層」は、(セルローストリアセテート)「フィルム」と「低屈折コーティング層」との間に介在するものであって、その用語の意味するとおり、ハードコート性を付与する機能を有する層といえる。
したがって、甲1発明の「ハードコーティング層」は、本件特許発明1の「ハードコート層」に相当し、「フィルムと低屈折層との間に介在する」という要件を満たす。
(エ)反射防止フィルムの全体構成
上記(ア)~(ウ)によれば、甲1発明の「反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「反射防止フィルム」における、「フィルム;前記フィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、および」「ポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層;および前記ポリエステルフィルムと低屈折層との間に介在するハードコート層を含」むという要件を満たす。
イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
上記アによれば、本件特許発明1と甲1発明は、次の点で一致する。
「フィルム;
前記フィルム上に位置し、光重合性化合物、無機粒子、およびポリシルセスキオキサンを含む光硬化性コーティング組成物の架橋重合物である低屈折層;および
前記フィルムと低屈折層との間に介在するハードコート層を含む、
反射防止フィルム。」
(イ)相違点
(相違点1)
(基材)「フィルム」が、本件特許発明1では、「3,000~30,000nmの面内位相差値(Rin)を有し、厚さ方向の位相差値(Rth)に対する面内位相差値(Rin)の比(Rin/Rth)が0.2~1.2であるポリエステルフィルム」であるのに対して、甲1発明においては「セルローストリアセテートフィルム」である点。
(相違点2)
「ハードコート層」が、本件特許発明1は「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂、および前記バインダー樹脂に分散した有機微粒子および無機微粒子を含む」のに対し、甲1発明はそのような構成を備えていない点。
(相違点3)
「ポリシルセスキオキサン」が、本件特許発明1では、「反応性官能基が1個置換され」、「ケージ構造を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンであり、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンのシリコンのうちの1個に反応性官能基が導入され、反応性官能基が導入されない他のシリコンには非反応性官能基が導入されており、前記多面体オリゴマーシルセスキオキサンに置換された反応性官能基は、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基を含み、前記非反応性官能基は、炭素数1~20の直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基、炭素数6~20のシクロアルキル基、および炭素数6~20のアリール基からなる群より選択された1種以上」である構成を備えるのに対し、甲1発明はそのような構成を備えていない点。
(相違点4)
「光硬化性コーティング組成物」が、本件特許発明1では、「光重合性化合物100重量部対比、反応性官能基が1個置換されたポリシルセスキオキサンを0.5~30重量部で含む」のに対し、甲1発明はそのような構成を備えていない点。
ウ 判断
事案にかんがみ、相違点3を検討する。
甲3の【請求項1】~【請求項2】、【請求項8】、【請求項9】及び【0059】~【0060】には、反応性官能基で置換され、かご状シルセスキオキサン骨格(ケージ構造)を有する多面体オリゴマーシルセスキオキサンを含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させて、反射防止膜における低屈折率層を形成することが記載されている(当合議体注:甲3の式(B-1)~(B-3)で表される化合物は「多面体オリゴマーシルセスキオキサン」である。)。また、甲3の【0061】~【0062】には、式(B-1)~(B-3)で表される化合物が有するラジカル種又はカチオン種によって重合可能な架橋性基(反応性官能基)として、(メタ)アクリロイル基が、架橋性基以外の1価の有機基(非反応性官能基)として、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基が示唆されており、このような有機基を含むことにより、得られる硬化物の耐擦傷性が改善されることも記載されている。
しかしながら、甲3の【請求項2】及び【0059】並びに【0061】を参照すると、耐擦傷性の観点から、甲3に記載された上記「多面体オリゴマーシルセスキオキサン」は、重合可能な架橋性基(反応性官能基)を2個以上有するものを前提としたものであって、反応性官能基を1個有するものではないと理解される。
そうすると、甲1発明において、耐擦傷性のさらなる改善のために、「シルセスキオキサン化合物1」に代えて、甲3に記載された、重合可能な架橋性基(反応性官能基)を2個以上有する「多面体オリゴマーシルセスキオキサン」を採用したとしても、本件特許発明1の相違点3に係る本件特許発明1の構成のうち、少なくとも「反応性官能基が1個置換された」との構成には至らない。
カ 小括
したがって、相違点1、2、4について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、甲3に記載された技術的事項、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(2)本件特許発明2、3及び7~13について
本件特許の特許請求の範囲の請求項2、3及び7~13は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明2、3及び7~13は、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、前記(1)のとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明、甲3に記載された技術的事項、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができない以上、本件特許発明2、3及び7~13も、甲1に記載された発明、甲3に記載された技術的事項、特許異議申立人が提出したその他の甲号証に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
第6 当合議体の判断(記載要件)
1 サポート要件
本件特許発明は、「前記ハードコート層は、光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」「を含む」ことが特定されている。
これに対して、本件特許の明細書の実施例2及び4(【0088】~【0109】)では、本件特許発明の「ハードコート層」に相当するハードコート層が、ハードコート組成物「HD2」をコーティングし、紫外線を照射して形成したものであり、当該実施例2及び4が「優れた低反射率」を示すとされている。当該「HD2」のバインダー樹脂は、【0094】の記載によれば、ペンタエリスリトールトリアクリレート(分子量:298g/mol)、ウレタンアクリレートオリゴマー(306I、Kyoeish社)及びウレタンアクリレートオリゴマー(306T、Kyoeish社)である。
特許権者は、乙1にて下記「分析結果」を示し、かかるハードコート組成物「HD2」に紫外線を照射し重合反応させた重合体の重量平均分子量を測定した結果、当該重合体は「10,000g/mol以上」の重量平均分子量を有するものであるとの証拠を提示している。
[図:0001391974000021.jpg]
当該乙1は、本件明細書の実施例の2および4の「ハードコート層」が、「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」「を含む」ことを確認する証拠といえる。
そうしてみると、本件特許発明の「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」「を含む」「ハードコート層」が「眩しさ防止効果」(本件特許の明細書の【0076】)を奏することは、実施例2及び4を考慮すると、当業者が認識できるといえる。
以上勘案すると、本件特許発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えないものと理解される。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
2 明確性
本件特許発明の「ハードコート層」の「バインダー樹脂」は、本件訂正請求により、請求項1に記載の「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」へ訂正された。
そして、当該訂正より、当該「バインダー樹脂」が「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」と特定されたので、「光硬化性樹脂」と「重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」との関係は明確である。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確である。
第7 特許異議申立人による意見について
1 進歩性
特許異議申立人は、令和3年7月27日提出の意見書の第2~9頁において、「請求項1の「ポリシルセスキオキサン」が「反応性官能基が1以上置換」されていることを前提として、「甲第1号証に記載の発明において、甲第3号証に記載の事項、及び、参考資料1~3に記載の事項を参酌して、訂正により生じた相違点を有するポリシルセスキオキサンを適用することに何らの困難性は無い。」と主張する。
しかし、上記意見書の提出後に行われた本件訂正請求により、請求項1の「ポリシルセスキオキサン」の「反応性官能基」の数は「1個」に限定された。
そして、上記「第5」2(1)に記載のとおり、甲3に記載の「ポリシルセスキオキサン」の「反応性官能基」の数は「1個」ではない。
そうしてみると、特許異議申立人の上記主張は、本件訂正請求により、もはや成り立たないので、採用できない。
2 サポート要件
特許異議申立人は、令和3年7月27日提出の意見書の第11~13頁において、「その分析結果(第2頁)では、(共)共重合体成分(即ち、Peak1)は、殆ど不純物程度の濃度でしか検出されておらず、検出されたほとんどの成分は「重量平均分子量が10,000g/mol以上」ではないモノマー由来(Peak2~4)となっている。」と述べたうえで、「訂正発明1におけるハードコート層は、「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」を特徴成分の一つとして必須に含むことから、ハードコート組成物から形成されたハードコート層は、当該バインダー樹脂を効果が発揮できる量で含むことが必要である。そうであれば、乙第1号証に示されるが如き不純物程度の濃度でしか検出されない(共)共重合体成分を含むハードコート層を備えたとしても、当該ハードコート層を備えることによる効果であるところの眩しさ防止効果(本件特許の明細書の【0076】)は得られるものではない。したがって、乙第1号証の記載事項を参酌すれば、本件特許明細書の実施例は、訂正発明1の効果を何ら実証していないことが明らかである。」と述べ、「訂正発明1における「光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」を含む、「反射防止フィルム」が、上記効果を奏することを当業者が認識するには、実施例による実証がなければ困難である。」と主張する。
しかしながら、乙1の「分析結果」は、Peak1程度の量の重合体であっても、本件特許の明細書の実施例2及び実施例4の「バインダー樹脂」として機能することを示すものである。そして、当該実施例2及び実施例4は、本件特許の明細書の【0108】~【0109】に記載されているとおり、「優れた低反射率」「を示」すものであるから、「眩しさ防止効果」(同【0076】)を奏することを実施例で実証している。
一方、本件特許発明は、「前記ハードコート層は、光硬化性樹脂からなる重量平均分子量が10,000g/mol以上の(共)重合体を含むバインダー樹脂」「を含む」ものであり、その量は特定されていないから、わずかでも含まれていればよいものである。
そうしてみると、本件出願の明細書の実施例2及び実施例4(特に、本件特許の明細書の【0076】)並びに乙第1号証の上記記載に照らせば、本件特許発明が、本願発明の課題、すなわち、外部に入射する光の反射による眩しさ現象を著しく改善できる低屈折層と複屈折性を有する一方で、光学的歪みによる干渉縞が発生しない基材フィルムを含む反射防止フィルムを提供すること(本件特許の明細書の【0007】)を解決することができると認識できる範囲を超えるものであるということはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
3 明確性
特許異議申立人は、令和3年7月27日提出の意見書では、明確性について特段の意見を述べていない。
第8 むすび
請求項1~3及び7~13に係る特許は、いずれも、令和3年1月15日付け取消理由通知書に記載した取消しの理由、令和3年11月15日付け取消理由通知書(決定の予告)により通知した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に請求項1~3及び7~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項4~6は、本件訂正請求による訂正で削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、本件特許の請求項4~6に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700721