特許異議申立
2023-700131
吹付け装置および吹付け方法
- 審判番号
- 2023-700131
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-146172
- 登録番号
- 7115122
- 請求日
- 2023年02月08日
- 審決日
- 2024年03月25日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社大林組
- 【権利者代理人】弁理士法人一色国際特許事務所
- 【異議申立人】中川 賢治
- 審判長/審判官
- 審判長 前川 慎喜
- 審判官 太田 恒明
- 審判官 澤田 真治
- 分類
- P1651.113-ZDA(E04G) / P1651.121-ZDA(E04G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7115122号発明「吹付け装置および吹付け方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7115122号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7115122号の請求項1、2及び4に係る特許を取り消す。
特許第7115122号の請求項3及び5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7115122号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許は、平成30年8月2日に出願され、令和4年8月1日にその特許権の設定登録がされ、同月9日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について令和5年2月8日に特許異議申立人中川 賢治(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は同年5月8日付けで取消理由を通知し、特許権者はその指定期間内である同年7月3日付けで意見書の提出及び訂正の請求を行い、同年9月27日付けで当審から申立人に対し、訂正の請求があった旨の通知を行い、相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与え(特許法第120条の5第5項)、その指定期間内である同年10月27日付けで申立人は意見書を提出した。
その後、当審は同年12月20日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正の内容
令和5年7月3日付けの訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「該走行部に、
前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、
吹付け施工時に、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に連続的に移動させる横行装置と、
走行手段を設けた走行台車と、を備え、
前記横行装置は、前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、」
と記載されているのを、
「該走行部に、
前記ロボットアームを上面内で回転自在に支持するベース部と、
前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、
吹付け施工時に、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に連続的に移動させる横行装置と、
走行手段を設けた走行台車と、を備え、
前記横行装置は、前記ベース部を介して前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、」
に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2及び4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1に記載の吹付け装置において、」
と記載されているのを、
「施工対象面を吹付け材で被覆するための吹付け装置であって、
吹付け手段を備える多関節構造のロボットアームと、
該ロボットアームを支持する走行部と、を有し、
該走行部に、
前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、
吹付け施工時に、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に連続的に移動させる横行装置と、
走行手段を設けた走行台車と、を備え、
前記横行装置は、前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、
該フレームは、前記走行架台の移動方向が前記走行台車の進行方向と平行となるように、前記走行台車に設けられており、」
に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
明細書の【0007】に
「該走行部に、前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に移動させる横行装置と、走行手段を設けた走行台車と、を備え、前記横行装置は、前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、」
と記載されているのを、
「該走行部に、前記ロボットアームを上面内で回転自在に支持するベース部と、前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に移動させる横行装置と、走行手段を設けた走行台車と、を備え、前記横行装置は、前記ベース部を介して前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、」
に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の【0008】に
「また、本発明の吹付け装置は、前記走行部に、」
と記載されているのを、
「また、本発明の吹付け装置は、施工対象面を吹付け材で被覆するための吹付け装置であって、吹付け手段を備える多関節構造のロボットアームと、該ロボットアームを支持する走行部と、を有し、該走行部に、前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に移動させる横行装置と、走行手段を設けた走行台車と、を備え、前記横行装置は、前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、該フレームは、前記走行架台の移動方向が前記走行台車の進行方向と平行となるように、前記走行台車に設けられており、前記走行部に、」
に訂正する。
(5)訂正の単位について
訂正前の請求項2~5は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1~5は、一群の請求項に該当するものであり、訂正前の請求項1~5について訂正する訂正事項1~4は、一群の請求項に対してされたものである。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、
訂正前の請求項1における発明特定事項である「走行部」について「前記ロボットアームを上面内で回転自在に支持するベース部」を備えることを限定し、
また、訂正前の請求項1における発明特定事項である「前記ロボットアームを支持する走行架台」について「前記ベース部を介して前記ロボットアームを支持する」ことを限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張、変更
訂正事項1は、上記アのとおり、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項
訂正事項1により限定された事項は、本件特許の願書に添付した明細書における【0020】及び【0021】に記載された事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項3の記載を、その内容を変更することなく当該請求項の記載を引用しない形へと書き替えるものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張、変更
訂正事項2は、上記アのとおり、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項
訂正事項2は、本件訂正前の請求項3の記載が本件訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項に書き改めるものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正により、本件特許明細書の【0007】の記載が特許請求の範囲の請求項1の記載と整合が取れなくなったことを是正することで、明瞭でない記載の釈明をしようとするものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張、変更
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正により、本件特許明細書の【0007】の記載が特許請求の範囲の請求項1の記載と整合が取れなくなったことを是正するものであるから、訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正により、本件特許明細書の【0007】の記載が特許請求の範囲の請求項1の記載と整合が取れなくなったことを是正するものであるから、訂正事項1と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正事項2に係る訂正により、本件特許明細書の【0008】の記載が特許請求の範囲の請求項3の記載と整合が取れなくなったことを是正することで、明瞭でない記載の釈明をしようとするものである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張、変更
訂正事項4は、訂正事項2に係る訂正により、本件特許明細書の【0008】の記載が特許請求の範囲の請求項3の記載と整合が取れなくなったことを是正するものであるから、訂正事項2と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 新規事項
訂正事項4は、訂正事項2に係る訂正により、本件特許明細書の【0008】の記載が特許請求の範囲の請求項3の記載と整合が取れなくなったことを是正するものであるから、訂正事項2と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(5)独立特許要件について
訂正前の全請求項が特許異議の申立ての対象とされており、本件訂正請求による訂正において、上記(1)のとおり特許請求の範囲の減縮が行われていても、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の訂正明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正請求による訂正後の請求項1~5に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。なお、符号1A等は分説のため当審で付与した。以下、分説された本件訂正発明の発明特定事項を、符号に基づき「本件発明特定事項1A」等という。
「【請求項1】
1A 施工対象面を吹付け材で被覆するための吹付け装置であって、
1B 吹付け手段を備える多関節構造のロボットアームと、
1C 該ロボットアームを支持する走行部と、を有し、
1D 該走行部に、
前記ロボットアームを上面内で回転自在に支持するベース部と、
1E 前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、
1F 吹付け施工時に、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に連続的に移動させる横行装置と、
1G 走行手段を設けた走行台車と、を備え、
1H 前記横行装置は、前記ベース部を介して前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、
1I 該フレームは、前記走行架台の移動方向が前記走行台車の進行方向と平行となるように、前記走行台車に設けられている
1J ことを特徴とする吹付け装置。
【請求項2】
2A 請求項1に記載の吹付け装置において、
2B 前記走行手段と前記フレームとの間に、前記昇降装置が設けられているとともに、
2C 前記フレームは、前記走行台車の平面視における重心位置を通過するように配置される
2D ことを特徴とする吹付け装置。
【請求項3】
1A 施工対象面を吹付け材で被覆するための吹付け装置であって、
1B 吹付け手段を備える多関節構造のロボットアームと、
1C 該ロボットアームを支持する走行部と、を有し、
1E’ 該走行部に、
前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、
1F 吹付け施工時に、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に連続的に移動させる横行装置と、
1G 走行手段を設けた走行台車と、を備え、
1H’ 前記横行装置は、前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、
1I 該フレームは、前記走行架台の移動方向が前記走行台車の進行方向と平行となるように、前記走行台車に設けられており、
3B 前記走行部に、
自己の平面視位置及び進行方向を検出するための自己位置検出センサと、
3C 自己の姿勢角を検出する姿勢検知センサと、
3D 前記走行部に備えられ前記ロボットアームを支持するベース部の高さ位置を検出するための高さ検出センサと、
が備えられる
3E ことを特徴とする吹付け装置。
【請求項4】
4A 請求項1から3のいずれか1項に記載の吹付け装置を用いて施工対象面を吹付け材で被覆する吹付け方法であって、
4B 前記吹付け装置を走行させ、目標位置近傍で進行方向を前記ロボットアームが前記横行装置上を前記施工対象面に沿って移動可能な方向に方向転換したのち、据え付ける据え付け工程と、
4C 前記ロボットアームに備えた吹付け手段を、吹付け開始位置及び向きに配置する吹付け準備工程と、
4D 前記吹付け手段の横方向の移動を、前記ロボットアームの動作と該ロボットアームを前記横行装置上で移動させることにより制御するとともに、前記吹付け手段の高さ方向の移動を、前記ロボットアームの動作と前記昇降装置の昇降により制御し、前記施工対象面に対して前記吹付け材を連続的に吹き付ける吹付け作業工程と、
を備える
4E ことを特徴とする吹付け方法。
【請求項5】
5A 請求項3を引用する請求項4に記載の吹付け方法であって、
5B 前記施工対象面が、建築物の屋内表面形状の一部を形成しており、
5C 前記屋内表面形状を実測して実測値を算出し、該実測値に基づいて前記建築物の建築情報を修正し、
5D 修正した前記建築物の建築情報と前記自己位置検出センサにて検出される情報の少なくともいずれか一方の情報に基づいて、
5E 前記据え付け工程では、前記吹付け装置を、前記目標位置を中心とする許容値範囲内に位置決めし据え付け、
5F 前記吹付け準備工程では、前記ロボットアームに備えた前記吹付け手段の吹付け開始位置及び向きの配置を修正し、
5G 前記吹付け作業工程では、前記ロボットアームの動作を修正する
5H ことを特徴とする吹付け方法。」
第4 証拠一覧、特許異議申立理由の要旨、及び取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の要旨
1 証拠一覧
(1)申立書とともに提出された証拠
申立人によって申立書とともに提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証 :特開平10-77741号公報
甲第2号証 :特開平7-251106号公報
甲第3号証 :特開2017-110466号公報
甲第4号証 :特開平5-113038号公報
甲第5号証 :特開平10-226499号公報
甲第6号証 :実用新案登録第2598057号公報
甲第7号証 :特開2017-150977号公報
(2)意見書とともに提出された証拠
申立人によって意見書とともに提出された証拠は、以下のとおりである。
甲第8号証 :特開平5-302429号公報
甲第9号証 :特開2010-89948号公報
甲第10号証:特開2018-60390号公報
甲第11号証:特開2010-216183号公報
甲第12号証:北林慧一 外4名,「光学式/慣性式モーションキャプチャを併用したハンド/アームロボットの遠隔操作」,ロボティクス・メカトロニクス講演会2014 講演概要集,日本機械学会,2014年5月24日,2A1-R03(1)~(4)
甲第13号証:サリエヴァ・マクパール 外4名,「ロープ経路を走行するインフラ点検用ロボットシステムの開発」,第60回自動制御連合講演会講演論文集,計測自動制御学会,2017年,SaC1-3-1~4
甲第14号証:特開2017-39188号公報
甲第15号証:国際公開第2017/038291号
甲第16号証:特開平8-229863号公報
以下、各甲号証を「甲1」等という。
2 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立理由、かつ、本件訂正請求による訂正前の請求項1、2、4に係る特許に対して、当審が令和5年12月20日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許の請求項1、4に係る発明は甲1に記載された発明である。よって、本件特許の請求項1、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消されるべきものである。
本件特許の請求項2に係る発明は甲1、甲2とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項3に係る発明は甲1、甲3、甲4と周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許の請求項5に係る発明は甲1、甲3、甲4、甲7と周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件特許の請求項2、3、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号により取り消されるべきものである。
3 取消理由通知に記載した取消理由の要旨
本件訂正請求による訂正後の請求項1、2、4に係る特許に対して、当審が令和5年12月20日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
本件訂正発明1は甲1発明1及び甲8記載の技術事項に基づいて、本件訂正発明2は甲1発明1、後記甲2記載の技術事項及び甲8記載の技術事項に基づいて、本件訂正発明4は甲1発明4及び甲8記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許の請求項1、2、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 各甲号証の記載
(1)甲1
甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築構造物に耐火被覆材を吹き付けて耐火被覆を行う自走式耐火被覆装置に関するものである。」
イ 「【0012】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明による自走式耐火被覆装置の一例を示す斜視図、図2は図1に示した自走式耐火被覆装置の各部を分離した状態を示す斜視図である。この自走式耐火被覆装置2は、主台車4、伸縮台車6、ならびに副台車8により構成されている。主台車4、伸縮台車6、副台車8は、作業時には図1に示すように互いに連結され、一方、搬送時などには、図2に示すように分離される。 主台車4は車輪上に支持され、不図示の駆動手段(本発明に係わる第1の駆動手段)を備えて作業床上を走行可能となっている。主台車4の上部には甲板10が略水平に設けられており、甲板10上にはその長手方向に2本の平行なレール12が敷設されている。レール12上には走行体14が走行可能に配置され、走行体14の上には昇降リフタ16が装備されている。この昇降リフタ16は垂直面内で揺動可能となっており、吹き付け作業を行う際は図1に示したように起立した状態とされ、一方、搬送時などには図2に示したように伏せた状態とされる。
【0013】多関節アーム18はこの昇降リフタ16に取り付けられ、多関節アーム18の先端には吹き付けノズル20(単にノズル20ともいう)が装着されている。ノズル20は吹き付けガン22とセメントペーストガン24とにより構成され、吹き付けガン22には岩綿供給管26を通じて岩綿が圧送され、一方、セメントペーストガン24には多関節アーム18内の所定の配管を通じてセメントペーストが加圧供給される。」
ウ 「【0022】これらの4つの車輪の方向は不図示の操舵装置によって制御され、主台車4を前進させる場合は図5の(A)に示すように各車輪はすべて主台車4の長手方向に向けられ、主台車4を斜行させる場合は図5の(B)に示すように主台車4の長手方向に対して角度を持った状態に設定され、横行する場合は図5の(C)のように長手方向に直交する方向に設定される。また、主台車4をその位置で回転(スピン)させる場合は図5の(D)のよう各車輪の一方の面が主台車4の中心部を向くように設定される。」
エ 「【0023】伸縮台車6は、図1および図2に示すように、箱体80、補助台車82、折り畳み式の甲板10a、レーザ位置計測装置84などにより構成されている。甲板10a(本発明に係わる基台)は2枚の甲板部材86、88により構成され、甲板部材86、88の一方の端部は蝶番90を介して互いに連結され、甲板部材86、88のもう一方の端部はそれぞれ箱体80および補助台車82の対向する上端部材にいずれも不図示の蝶番を介して連結されている。箱体80および補助台車82はそれぞれ底面にキャスタ92、94を有し、移動可能となっている。
……
【0025】甲板10aの上には展開した時の長手方向に延在する2本のレール96が敷設されている。これらのレール96の形状、間隔、位置は、主台車4上に敷設されているレール12の形状、間隔、位置と同じである。したがって、主台車4と伸縮台車6とを連結し、甲板10aを展開状態にしたとき、レール96は主台車4の甲板10に敷設されているレール12に連続するレールとなる。主台車4と伸縮台車6との連結は、主台車4の端部に補助台車82を配置し、両者を連結部材98で連結固定することにより行う。」
オ 「【0038】次に、このように構成された自走式耐火被覆装置2により行う耐火被覆材の吹き付けについて説明する。図7は耐火被覆材の吹き付け手順を示すフローチャート、図8は吹き付け作業の各段階ごとの装置の移動を示す工程図である。……
【0039】次に作業者はリモートコントロールユニット136を操作して手動モードに設定し(ステップS2)、手動で装置を図8の(A)に示すように吹き付け箇所138の近傍に移動させる(ステップS3)。このとき、中央制御装置100は、リモートコントロールユニット136から送られてくる指示情報にもとづき、主台車4に搭載された上記駆動手段36および操舵装置を制御して、主台車4、したがって装置全体を移動させる。
【0040】その後、作業者は伸縮台車6の操作パネル102を操作し、吹き付け条件として、被吹き付け部材である鉄骨梁140の形状、吹き付け範囲を予め決められた符号により入力する(ステップS4)。中央制御装置100はこれらの情報を操作パネル102より受け取り、その記憶装置に格納する。
【0041】次に作業者はリモートコントロールユニット136を操作して自動モードに切り替え(ステップS5)、また、操作パネル102を通じて、吹き付けを行うべき鉄骨梁140を識別する符号を入力することで吹き付けの実行を指令する(ステップS6)。これにより中央制御装置100は自動モードでの動作を開始し、まずレーザ位置計測装置84を操作して位置を計測する(ステップS7)。ここで、2台のレーザ位置計測装置84はそれぞれ鉄骨梁140までの距離と、左右の距離を計測し、結果を中央制御装置100に出力する。中央制御装置100はこの計測結果にもとづいて主台車4の駆動手段36および操舵装置を制御し、図8の(B)に示すように、自走式耐火被覆装置2を、鉄骨梁140に対して必要な間隔をおいてほぼ平行となる状態で、吹き付け範囲の左端の位置に配置する(ステップS8)。なお、図8の(B)において、矢印付きの点線Aはレーザ位置計測装置84が発射するレーザ光を示している。
……
【0043】そして、中央制御装置100は、上記記憶装置に格納されている上記情報にもとづいて、バルブユニット108、セメントペーストガン24、吹き付けガン22を操作し、適切な供給量で耐火被覆材の吹き付けを開始させる(ステップS9)。このとき、副台車8に搭載された上記制御装置112は同時に、図8の(C)に示すように、走行体14の上記モータ38を制御して走行体14をレール12、96上で走行移動させ、レール12、96の敷設範囲内で耐火被覆材141が吹き付けられるようにする。制御装置112はまた、昇降リフタ16のサーボモータ56を制御して多関節アーム18の高さを変化させ、また多関節アーム18自体を制御して、鉄骨梁140の主に鉛直方向の全体に耐火被覆材が吹き付けられるようにする。
……
【0049】図8の(B)、(C)の位置での吹き付けを完了すると、吹き付け範囲の残量を調べるため(ステップS10)、中央制御装置100は再度、レーザ位置計測装置84を操作し(ステップS7)、吹き付け範囲の残量を計測(ステップS11)する。この場合には計測の結果、残量が存在することが判明するため、中央制御装置100は、図8の(D)に示すように、自走式耐火被覆装置2を吹き付けがまだ行われていない方向に前進させる。
【0050】そして、図8の(E)に示すように、この位置で中央制御装置100および制御装置112は再度、上記手順を繰り返し、鉄骨梁140に対する耐火被覆材143の吹き付けを行う。その後、ステップS10における残量のチェックでは残量無しとなるので、鉄骨梁140に対する耐火被覆材の吹き付けを完了する(ステップS12)。そして、作業員は再度リモートコントロールユニット136を操作して、次に吹き付けを行うべき箇所に自走式耐火被覆装置2を移動させる。」
カ 「【図1】
[図:0001413293000001.jpg]
」
キ 「【図8】
[図:0001413293000002.jpg]
」
ク 認定事項1
上記カ、キにおける【図1】、【図8】の記載から、
「2本の平行なレール12は、走行体14の移動方向が主台車4の長手方向と平行となるように、主台車4に設けられていること」(以下「認定事項1」という。)
が見て取れる。
ケ 認定事項2
上記カにおける【図1】の記載から、
「主台車4は平面視で略長方形の形状を有し、当該長方形の2つの長辺近傍に2本の平行なレール12がそれぞれ配置されること」(以下「認定事項2」という。)
が見て取れる。
コ 甲1発明1、甲1発明4
以上のことから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明1」、「甲1発明4」という。)が記載されていると認められる。なお、本件訂正発明1、4の本件発明特定事項1A、4A等に概ね対応させて符号1a、4a等を付し、引用箇所の段落番号等を併記した。
(ア)甲1発明1
「1a 建築構造物に耐火被覆材を吹き付けて耐火被覆を行う自走式耐火被覆装置であって(【0001】)、
1b,c,d,e,f,g,h 主台車4、伸縮台車6、ならびに副台車8により構成されており、主台車4は車輪上に支持され、駆動手段を備えて作業床上を走行可能となっており、主台車4の上部には甲板10が略水平に設けられており、甲板10上にはその長手方向に2本の平行なレール12が敷設されており、レール12上には走行体14が走行可能に配置され、走行体14の上には昇降リフタ16が装備されており(【0012】)、
多関節アーム18はこの昇降リフタ16に取り付けられ、多関節アーム18の先端には吹き付けノズル20(ノズル20)が装着されており、ノズル20は吹き付けガン22とセメントペーストガン24とにより構成され(【0013】)、
伸縮台車6は、箱体80、補助台車82、折り畳み式の甲板10a、レーザ位置計測装置84などにより構成されており、甲板10aは2枚の甲板部材86、88により構成され(【0023】)、
甲板10aの上には展開した時の長手方向に延在する2本のレール96が敷設されており、これらのレール96の形状、間隔、位置は、主台車4上に敷設されているレール12の形状、間隔、位置と同じであり、したがって、主台車4と伸縮台車6とを連結し、甲板10aを展開状態にしたとき、レール96は主台車4の甲板10に敷設されているレール12に連続するレールとなり(【0025】)、
1i 2本の平行なレール12は、走行体14の移動方向が主台車4の長手方向と平行となるように、主台車4に設けられており(認定事項1)、
2c 主台車4は平面視で略長方形の形状を有し、当該長方形の2つの長辺近傍に2本の平行なレール12がそれぞれ配置される(認定事項2)
1j 自走式耐火被覆装置2(【0012】)。」
(イ)甲1発明4
「4a 甲1発明1の自走式耐火被覆装置2により行う耐火被覆材の吹き付け手順であって(【0038】)、
4b 作業者はリモートコントロールユニット136を操作して手動モードに設定し、手動で装置を吹き付け箇所138の近傍に移動させ(【0039】)、
次に作業者はリモートコントロールユニット136を操作して自動モードに切り替え、また、操作パネル102を通じて、吹き付けを行うべき鉄骨梁140を識別する符号を入力することで吹き付けの実行を指令し、これにより中央制御装置100は自動モードでの動作を開始し、まずレーザ位置計測装置84を操作して位置を計測し、ここで、2台のレーザ位置計測装置84はそれぞれ鉄骨梁140までの距離と、左右の距離を計測し、結果を中央制御装置100に出力し、中央制御装置100はこの計測結果にもとづいて主台車4の駆動手段36および操舵装置を制御し、自走式耐火被覆装置2を、鉄骨梁140に対して必要な間隔をおいてほぼ平行となる状態で、吹き付け範囲の左端の位置に配置し(【0041】)、
4c,d そして、中央制御装置100は、記憶装置に格納されている情報にもとづいて、バルブユニット108、セメントペーストガン24、吹き付けガン22を操作し、適切な供給量で耐火被覆材の吹き付けを開始させ、このとき、副台車8に搭載された制御装置112は同時に、走行体14のモータ38を制御して走行体14をレール12、96上で走行移動させ、レール12、96の敷設範囲内で耐火被覆材141が吹き付けられるようにし、制御装置112はまた、昇降リフタ16のサーボモータ56を制御して多関節アーム18の高さを変化させ、また多関節アーム18自体を制御して、鉄骨梁140の主に鉛直方向の全体に耐火被覆材が吹き付けられるようにする(【0043】)
4e 吹き付け手順(【0038】)。」
(2)甲2
甲2には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鉄骨構造などの建造物に耐火被覆材を吹き付ける耐火被覆材吹付け装置に関する。」
イ 「【0011】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図1~図5に基づいて説明する。図1は、本実施例における耐火被覆材吹付け装置の概略構成図である。図1において、10は吹付けロボット、11は吹付け作業階1の床面を移動する台車であり、この台車11上には昇降可能なリフト12が設けられており、このリフト12の上端には基板13を介して吹付けロボット10が設置されている。また、吹付けロボット10を含む台車11は牽引台車14によって作業階1の床面上を移動される。吹付けロボット10は、基板13上に基台101を介して設置した多関節アーム102と、この多関節アーム102の先端に取り付けた吹付け用ガンヘッド103と、基板13上に設置したロボット制御盤104を備え、ガンヘッド103と基板13に取り付けた所定長さの透明アクリル製風速/岩綿測定用パイプ15の一端間は岩綿供給ホース16により接続されている。」
ウ 「【図1】
[図:0001413293000003.jpg]
」
エ 甲2記載の技術事項
以上のことから、甲2には、以下の技術事項(以下「甲2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。なお、引用箇所の段落番号を併記した。
「鉄骨構造などの建造物に耐火被覆材を吹き付ける耐火被覆材吹付け装置において(【0001】)、
吹付けロボット10、吹付け作業階1の床面を移動する台車11を備え、この台車11上には昇降可能なリフト12が設けられており、このリフト12の上端には基板13を介して吹付けロボット10が設置されていること(【0011】)。」
(3)甲8
甲8には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は建造物の梁、柱等の鉄骨への耐火被覆材(湿式、半乾式)の吹付け、リシン吹き(建物の内外壁の下地材への表面化粧)、煙突ライニング材のライニング層形成材料の吹付け作業等に使用する吹付け装置に関するものである。」
イ 「【0007】
【実施例】図1ないし図4は、本発明の一実施例を示すものである。……
【0008】移動台車1の一端には、ガイド柱4が立設され、それに第1移動体(直線運動関節部)となる昇降台板5が持受部材6を介し、適宜の駆動機構により上下方向(Z軸方向)に移動自在とされている。
【0009】昇降台板5上には、制御機器等を収容する機箱7が固定され、その上に軌条盤8が水平に固定され、これに第2移動体(直線運動関節部)となる筒形の枠体9がY軸方向に移動自在に設置されている。……
【0010】枠体9上には、その移動方向に垂直な旋回軸10を有する腕枠11が支持され、これが第3移動体(回転運動関節部)とされている。……
【0011】腕枠11の先端部11aの上端には、その旋回軸に平行な中空旋回軸12を有する箱形の枠体13が支持され、これが第4移動体(回転運動関節部)とされている。……
【0012】箱形枠体13には、前記旋回軸12に直交する中空旋回軸14を有する腕枠15が支持され、これが第5移動体(回転運動関節部)とされている。……
【0013】腕枠15の先端部15aには、その中空旋回軸14に直交する旋回軸16を有する管部材17が支持され、これが第6移動体(回転運動関節部)とされている。……管部材17の先端には、その旋回軸に直交する方向に噴出口を有するノズル部材21が支持され、管部材17に連通されている。
【0014】前記管部材17の後端管口には、材料供給ホース22aの一端がロータリジョイントR1を介して連結され、ホース22aの他端は前記旋回腕枠15の側面にて、腕枠内に形成された管路15bの開口部に連結されている。……
【0015】上記吹付け装置を構成している各移動体は、それらの駆動モータを制御する制御盤からの遠隔操作により、自動または手動で操縦できる……。
【0016】次に上記構成の吹付け装置を用いて建造物内の鉄骨Aへの耐火被覆材吹付け作業を行なう場合の各移動体の作動を、図5を参照して説明する。
……
(4)旋回軸10の旋回
ノズル用管部材17を左右に水平旋回運動する。吹付けの基本軸となり、旋回軸16および旋回軸14による駆動系の全体を動かす。
……
【0018】加えて、ノズル部材21に被吹付け体までの距離を測定するためのセンサ23を設けた構成によれば、このセンサの検知信号により所要の移動体を操作してノズル部材を適切な位置に制御できる。また装置には、第3,4,6移動体のすべてをY軸方向に設定し、X軸方向に一定にノズル部材を移動する補関運動機能をもっている。よって台車をY軸方向に設置し、補関運動させることにより、吹付け面より一定距離を維持して吹付けを行なうことができる。この2つの機能により吹付け厚さの均一化ならびに吹付け作業能率を大幅に向上させることができる。」
ウ 「【図1】
[図:0001413293000004.jpg]
」
エ 「【図2】
[図:0001413293000005.jpg]
」
オ 「【図5】
[図:0001413293000006.jpg]
」
カ 認定事項3
また、上記イの【0018】における「第3,4,6移動体のすべてをY軸方向に設定」するという記載、上記ウの【図1】に記載された移動台車1、軌条盤8、枠体9、第3移動体(腕枠11)、第4移動体(枠体13)及び第6移動体(管部材17)の位置関係、並びに、上記オの【図5】に記載された移動台車1、枠体9、第3移動体(腕枠11)、第4移動体(枠体13)及び第6移動体(管部材17)の位置関係から、
「軌条盤8は、枠体9の移動方向が移動台車1の進行方向と平行となるように、移動台車1に設けられていること」(以下「認定事項3」という。)
が見て取れる。
キ 甲8記載の技術事項
以上のことから、甲8には、以下の技術事項(以下「甲8記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。なお、引用箇所の段落番号を併記した。
「建造物の梁、柱等の鉄骨への耐火被覆材(湿式、半乾式)の吹付け、リシン吹き(建物の内外壁の下地材への表面化粧)、煙突ライニング材のライニング層形成材料の吹付け作業等に使用する吹付け装置において(【0001】)、
昇降台板5上には、制御機器等を収容する機箱7が固定され、その上に軌条盤8が水平に固定され、これに第2移動体(直線運動関節部)となる筒形の枠体9がY軸方向に移動自在に設置されており(【0009】)、
枠体9上には、その移動方向に垂直な旋回軸10を有する腕枠11が支持され、これが第3移動体(回転運動関節部)とされており(【0010】)、
吹付け装置を用いて建造物内の鉄骨Aへの耐火被覆材吹付け作業を行なう場合の各移動体の作動における旋回軸10の旋回は、ノズル用管部材17を左右に水平旋回運動し、吹付けの基本軸となり、旋回軸16および旋回軸14による駆動系の全体を動かすこと(【0016】)。」
ク 甲8発明
また、以上のことから、甲8には、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。なお、引用箇所の段落番号等を併記した。
「建造物の梁、柱等の鉄骨への耐火被覆材(湿式、半乾式)の吹付け、リシン吹き(建物の内外壁の下地材への表面化粧)、煙突ライニング材のライニング層形成材料の吹付け作業等に使用する吹付け装置であって(【0001】)、
移動台車1の一端には、ガイド柱4が立設され、それに第1移動体(直線運動関節部)となる昇降台板5が持受部材6を介し、適宜の駆動機構により上下方向(Z軸方向)に移動自在とされており(【0008】)、
昇降台板5上には、制御機器等を収容する機箱7が固定され、その上に軌条盤8が水平に固定され、これに第2移動体(直線運動関節部)となる筒形の枠体9がY軸方向に移動自在に設置されており(【0009】)、
枠体9上には、その移動方向に垂直な旋回軸10を有する腕枠11が支持され、これが第3移動体(回転運動関節部)とされており(【0010】)、
腕枠11の先端部11aの上端には、その旋回軸に平行な中空旋回軸12を有する箱形の枠体13が支持され、これが第4移動体(回転運動関節部)とされており(【0011】)、
箱形枠体13には、前記旋回軸12に直交する中空旋回軸14を有する腕枠15が支持され、これが第5移動体(回転運動関節部)とされており(【0012】)、
腕枠15の先端部15aには、その中空旋回軸14に直交する旋回軸16を有する管部材17が支持され、これが第6移動体(回転運動関節部)とされており、管部材17の先端には、その旋回軸に直交する方向に噴出口を有するノズル部材21が支持され、管部材17に連通されおり(【0013】)、
前記管部材17の後端管口には、材料供給ホース22aの一端がロータリジョイントR1を介して連結され、ホース22aの他端は前記旋回腕枠15の側面にて、腕枠内に形成された管路15bの開口部に連結されており(【0014】)、
上記吹付け装置を構成している各移動体は、それらの駆動モータを制御する制御盤からの遠隔操作により、自動または手動で操縦でき(【0015】)、
吹付け装置を用いて建造物内の鉄骨Aへの耐火被覆材吹付け作業を行なう場合の各移動体の作動における旋回軸10の旋回では、ノズル用管部材17を左右に水平旋回運動し、吹付けの基本軸となり、旋回軸16および旋回軸14による駆動系の全体を動かし(【0016】)、
軌条盤8は、枠体9の移動方向が移動台車1の進行方向と平行となるように、移動台車1に設けられている(認定事項3)
吹付け装置(【0001】)。」
2 対比
本件訂正発明1、2は甲1発明1と、本件訂正発明4は甲1発明4と、本件発明特定事項ごとに対比する。
(1)本件発明特定事項1A、2Aについて
甲1発明1の「耐火被覆材」、「耐火被覆を行う」こと、「自走式耐火被覆装置」は、それぞれ、本件訂正発明1の「吹付け材」、「被覆する」こと、「吹付け装置」に相当する。
甲1発明1では、「建築構造物に耐火被覆材を吹き付けて耐火被覆を行う」ところ、甲1発明1の「建築構造物」が、本件訂正発明1の「吹付け材で被覆する」「施工対象面」を含むことは明らかである。
よって、甲1発明1は、本件発明特定事項1Aに相当する構成を有する。また、甲1発明1は、本件発明特定事項2Aに相当する構成を有する。
(2)本件発明特定事項1Bについて
甲1発明1の「吹き付けノズル20」、「吹き付けノズル20(単にノズル20ともいう)が装着されて」いる「多関節アーム18」は、それぞれ、本件訂正発明1の「吹付け手段」、「吹付け手段を備える多関節構造のロボットアーム」に相当する。
よって、甲1発明1は、本件発明特定事項1Bに相当する構成を有する。
(3)本件発明特定事項1Dについて
甲1発明1の「走行体14」の一部は、本件訂正発明1の「ベース部」に相当する。
ここで、甲1発明1では、「走行体14の上には昇降リフタ16が装備されており、多関節アーム18はこの昇降リフタ16に取り付けられ」ているから、「走行体14」の一部は「多関節アーム18」を支持するといえる。
よって、甲1発明1は、本件訂正発明1と、「前記ロボットアームを」「支持するベース部」を備える点で共通する。
(4)本件発明特定事項1Eについて
甲1発明1の「多関節アーム18」が「取り付けられ」ている「昇降リフタ16」は、本件訂正発明1の「前記ロボットアームを昇降する昇降装置」に相当する。
よって、甲1発明1は、本件発明特定事項1Eに相当する構成を有する。
(5)本件発明特定事項1Fについて
甲1発明1では、「主台車4の上部には甲板10が略水平に設けられており、甲板10上にはその長手方向に2本の平行なレール12が敷設されており、レール12上には走行体14が走行可能に配置され、走行体14の上には昇降リフタ16が装備されており、多関節アーム18はこの昇降リフタ16に取り付けられ」、「伸縮台車6は」「折り畳み式の甲板10a」「などにより構成されており、甲板10aの上には展開した時の長手方向に延在する2本のレール96が敷設されており、これらのレール96の形状、間隔、位置は、主台車4上に敷設されているレール12の形状、間隔、位置と同じであり、したがって、主台車4と伸縮台車6とを連結し、甲板10aを展開状態にしたとき、レール96は主台車4の甲板10に敷設されているレール12に連続するレールとな」るところ、甲1発明1の「その長手方向に2本の平行なレール12が敷設されて」いる「甲板10」、「長手方向に延在する2本のレール96が敷設されて」いる「甲板10a」、及び、「レール12上に」「走行可能に配置され」た「走行体14」は、本件訂正発明1の「前記ロボットアームを前記走行部上で」「連続的に移動させる横行装置」に相当する。
ここで、甲1発明1は「建築構造物に耐火被覆材を吹き付けて耐火被覆を行う自走式耐火被覆装置」であることを踏まえると、甲1発明1の「その長手方向に2本の平行なレール12が敷設されて」いる「甲板10」、及び、「レール12上に」「走行可能に配置され」た「走行体14」は、「吹付け施工時に、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に連続的に移動させる横行装置」であるともいえる。
よって、甲1発明1は、本件発明特定事項1Fに相当する構成を有する。
(6)本件発明特定事項1Gについて
甲1発明1の「車輪」及び「駆動手段」は、本件訂正発明1の「走行手段」に相当する。
また、甲1発明1の「車輪上に支持され、駆動手段を備えて作業床上を走行可能となって」いる「主台車4」は、本件訂正発明1の「走行手段を設けた走行台車」に相当する。
よって、甲1発明1は、本件発明特定事項1Gに相当する構成を有する。
(7)本件発明特定事項1Cについて
上記(3)~(6)で述べたことに加えて、甲1発明1は、「昇降リフタ16」や「甲板10」、「甲板10a」、「走行体14」、「車輪」、「駆動手段」が設けられる「主台車4、伸縮台車6、ならびに副台車8」により構成されることから、甲1発明1は、本件訂正発明1の「走行部」に相当する構成を有するといえる。
ここで、「主台車4の上部には甲板10が略水平に設けられており、甲板10上にはその長手方向に2本の平行なレール12が敷設されており、レール12上には走行体14が走行可能に配置され、走行体14の上には昇降リフタ16が装備されており、多関節アーム18はこの昇降リフタ16に取り付けられ」ているから、甲1発明1の「主台車4」は、「多関節アーム18」を支持するといえる。
よって、甲1発明1は、本件発明特定事項1Cに相当する構成を有する。
(8)本件発明特定事項1Hについて
上記(3)で述べたように、甲1発明1の「多関節アーム18」は本件訂正発明1の「ロボットアーム」に相当するところ、上記(3)で述べたように、甲1発明1では、「走行体14」の一部が「多関節アーム18」を支持するといえる。
また、上記(5)で述べたように、甲1発明1の「その長手方向に2本の平行なレール12が敷設されて」いる「甲板10」、「長手方向に延在する2本のレール96が敷設されて」いる「甲板10a」、及び、「レール12上に」「走行可能に配置され」た「走行体14」は、本件訂正発明1の「前記ロボットアームを前記走行部上で」「連続的に移動させる横行装置」に相当するところ、このうち、甲1発明1の「レール12上に」「走行可能に配置され」た「走行体14」、「その長手方向に2本の平行なレール12が敷設されて」いる「甲板10」及び「長手方向に延在する2本のレール96が敷設されて」いる「甲板10a」は、それぞれ、本件訂正発明1の「前記横行装置」が「有」する「前記ロボットアームを支持する走行架台」、「前記横行装置」が「有」する「該走行架台が移動するフレーム」に相当する。
よって、甲1発明1は、本件訂正発明1と、「前記横行装置」が「前記ロボットアームを支持する走行架台」と「該走行架台が移動するフレーム」とを「有」する点で共通する。
(9)本件発明特定事項1Iについて
甲1発明1の「2本の平行なレール12は、走行体14の移動方向が主台車4の長手方向と平行となるように、主台車4に設けられて」いることは、本件訂正発明1の「該フレームは、前記走行架台の移動方向が前記走行台車の進行方向と平行となるように、前記走行台車に設けられている」ことに相当する。
よって、甲1発明1は、本件発明特定事項1Iに相当する構成を有する。
(10)本件発明特定事項1J、2Dについて
甲1発明1の「自走式耐火被覆装置2」は、本件訂正発明1、2の「吹付け装置」に相当する。
よって、甲1発明1は、本件発明特定事項1Jに相当する構成を有する。また、甲1発明1は、本件発明特定事項2Dに相当する構成を有する。
(11)本件発明特定事項4Aについて
甲1発明4における「甲1発明1の自走式耐火被覆装置2」と本件訂正発明4の「請求項1」「に記載の吹付け装置」とは、上記(1)~(10)の検討を踏まえると、
「1A 施工対象面を吹付け材で被覆するための吹付け装置であって、
1B 吹付け手段を備える多関節構造のロボットアームと、
1C 該ロボットアームを支持する走行部と、を有し、
1D’ 該走行部に、
前記ロボットアームを支持するベース部と、
1E 前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、
1F 吹付け施工時に、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に連続的に移動させる横行装置と、
1G 走行手段を設けた走行台車と、を備え、
1H’ 前記横行装置は、前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、
1I 該フレームは、前記走行架台の移動方向が前記走行台車の進行方向と平行となるように、前記走行台車に設けられている
1J 吹付け装置。」
である点で共通する。
また、甲1発明4の「自走式耐火被覆装置2により行う耐火被覆材の吹き付け手順」は、本件訂正発明4の「吹付け装置を用いて施工対象面を吹付け材で被覆する吹付け方法」に相当する。
(12)本件発明特定事項4Bについて
上記(1)で述べたように、甲1発明1の「建築構造物」が、本件訂正発明1の「吹付け材で被覆する」「施工対象面」を含むことは明らかであることを踏まえると、甲1発明4の「作業者はリモートコントロールユニット136を操作して手動モードに設定し、手動で装置を吹き付け箇所138の近傍に移動させ、次に作業者はリモートコントロールユニット136を操作して自動モードに切り替え、また、操作パネル102を通じて、吹き付けを行うべき鉄骨梁140を識別する符号を入力することで吹き付けの実行を指令し、これにより中央制御装置100は自動モードでの動作を開始し、まずレーザ位置計測装置84を操作して位置を計測し、ここで、2台のレーザ位置計測装置84はそれぞれ鉄骨梁140までの距離と、左右の距離を計測し、結果を中央制御装置100に出力し、中央制御装置100はこの計測結果にもとづいて主台車4の駆動手段36および操舵装置を制御し、自走式耐火被覆装置2を、鉄骨梁140に対して必要な間隔をおいてほぼ平行となる状態で、吹き付け範囲の左端の位置に配置」することは、本件訂正発明4の「前記吹付け装置を走行させ、目標位置近傍で進行方向を前記ロボットアームが前記横行装置上を前記施工対象面に沿って移動可能な方向に方向転換したのち、据え付ける据え付け工程」に相当する。
よって、甲1発明4は、本件発明特定事項4Bに相当する構成を有する。
(13)本件発明特定事項4C、4Dについて
甲1発明4の「中央制御装置100は、記憶装置に格納されている情報にもとづいて、バルブユニット108、セメントペーストガン24、吹き付けガン22を操作し、適切な供給量で耐火被覆材の吹き付けを開始させ、このとき、副台車8に搭載された制御装置112は同時に、走行体14のモータ38を制御して走行体14をレール12、96上で走行移動させ、レール12、96の敷設範囲内で耐火被覆材141が吹き付けられるようにし、制御装置112はまた、昇降リフタ16のサーボモータ56を制御して多関節アーム18の高さを変化させ、また多関節アーム18自体を制御して、鉄骨梁140の主に鉛直方向の全体に耐火被覆材が吹き付けられるようにする」ことは、本件訂正発明4の「前記吹付け手段の横方向の移動を、前記ロボットアームの動作と該ロボットアームを前記横行装置上で移動させることにより制御するとともに、前記吹付け手段の高さ方向の移動を、前記ロボットアームの動作と前記昇降装置の昇降により制御し、前記施工対象面に対して前記吹付け材を連続的に吹き付ける吹付け作業工程」に相当する。
よって、甲1発明4は、本件発明特定事項4Dに相当する構成を有する。
また、本件発明特定事項4Dに相当する構成を行う前に「前記ロボットアームに備えた吹付け手段を、吹付け開始位置及び向きに配置する吹付け準備工程」を行うことは、技術常識から明らかである。
よって、甲1発明4は、本件発明特定事項4Cに相当する構成を有する。
(14)本件発明特定事項4Eについて
甲1発明4の「吹き付け手順」は、本件訂正発明4の「吹付け方法」に相当する。
よって、甲1発明4は、本件発明特定事項4Eに相当する構成を有する。
(15)一致点・相違点
以上のことから、本件訂正発明1、2と甲1発明1、及び、本件訂正発明4と甲1発明4とは、
「【請求項1】
1A 施工対象面を吹付け材で被覆するための吹付け装置であって、
1B 吹付け手段を備える多関節構造のロボットアームと、
1C 該ロボットアームを支持する走行部と、を有し、
1D’ 該走行部に、
前記ロボットアームを支持するベース部と、
1E 前記ロボットアームを昇降する昇降装置と、
1F 吹付け施工時に、前記ロボットアームを前記走行部上で少なくとも前記施工対象面に沿う方向に連続的に移動させる横行装置と、
1G 走行手段を設けた走行台車と、を備え、
1H’ 前記横行装置は、前記ロボットアームを支持する走行架台と、該走行架台が移動するフレームとを有し、
1I 該フレームは、前記走行架台の移動方向が前記走行台車の進行方向と平行となるように、前記走行台車に設けられている
1J 吹付け装置。
【請求項2】
2A 請求項1に記載の吹付け装置における
2D 吹付け装置。
【請求項4】
4A’ 吹付け装置を用いて施工対象面を吹付け材で被覆する吹付け方法であって、
4B 前記吹付け装置を走行させ、目標位置近傍で進行方向を前記ロボットアームが前記横行装置上を前記施工対象面に沿って移動可能な方向に方向転換したのち、据え付ける据え付け工程と、
4C 前記ロボットアームに備えた吹付け手段を、吹付け開始位置及び向きに配置する吹付け準備工程と、
4D 前記吹付け手段の横方向の移動を、前記ロボットアームの動作と該ロボットアームを前記横行装置上で移動させることにより制御するとともに、前記吹付け手段の高さ方向の移動を、前記ロボットアームの動作と前記昇降装置の昇降により制御し、前記施工対象面に対して前記吹付け材を連続的に吹き付ける吹付け作業工程と、
を備える
4E 吹付け方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1(本件発明特定事項1D)>
本件訂正発明1の「ベース部」と甲1発明1の「走行体14」とは、「前記ロボットアームを」「支持する」する点で共通するものの、
本件訂正発明1の「ベース部」では、「前記ロボットアームを上面内で回転自在に支持する」のに対し、
甲1発明1の「走行体14」では、そのように構成されていない点。
<相違点2(本件発明特定事項1H)>
本件訂正発明1の「走行架台」と甲1発明1の「走行体14」とは、「前記ロボットアームを支持する」する点で共通するものの、
本件訂正発明1の「走行架台」では、「前記ベース部を介して前記ロボットアームを支持する」のに対し、
甲1発明1の「走行体14」では、そのように構成されていない点。
<相違点3(本件発明特定事項2B)>
本件訂正発明2では、「前記走行手段と前記フレームとの間に、前記昇降装置が設けられて」いるのに対し、
甲1発明1では、そのように構成されていない点。
<相違点4(本件発明特定事項2C)>
本件訂正発明2では、「前記フレームは、前記走行台車の平面視における重心位置を通過するように配置される」のに対し、
甲1発明1では、そのように構成されているか明らかでない点。
<相違点5(本件発明特定事項4A)>
本件訂正発明4の「請求項1」「に記載の吹付け装置」は、相違点1と同様、「ベース部」が「前記ロボットアームを上面内で回転自在に支持する」ものであり、相違点2と同様、「走行架台」が「前記ベース部を介して前記ロボットアームを支持する」ものであるに対し、
甲1発明4における「甲1発明1の自走式耐火被覆装置2」は、そのように構成されているか明らかでない点。
3 判断
(1)相違点1、2について
相違点1、2は、いずれも「ベース部」に関するものであるから、まとめて検討する。
甲8記載の技術事項における「筒形の枠体9」は、「第2移動体(直線運動関節部)となる」から、本件訂正発明1の「走行架台」に相当する。また、甲8記載の技術事項における「腕枠11」は、本件訂正発明1の「ロボットアーム」の一部に相当する。
ここで、甲8記載の技術事項は、「枠体9上には、その移動方向に垂直な旋回軸10を有する腕枠11が支持され、これが第3移動体(回転運動関節部)とされており、吹付け装置を用いて建造物内の鉄骨Aへの耐火被覆材吹付け作業を行なう場合の各移動体の作動における旋回軸10の旋回は、ノズル用管部材17を左右に水平旋回運動し、吹付けの基本軸となり、旋回軸16および旋回軸14による駆動系の全体を動かす」ものである。そうすると、「筒形の枠体9」の一部(本件訂正発明1の「ベース部」に相当する。)は、「腕枠11」を上面内で回転自在に支持するといえる。また、「枠体9」は、その一部を介して「腕枠11」を支持するといえる。
したがって、甲8記載の技術事項は、相違点1に係る本件発明特定事項1Dの構成、及び、相違点2に係る本件発明特定事項1Hの構成を備える。
そして、甲8記載の技術事項は、「建造物の梁、柱等の鉄骨への耐火被覆材(湿式、半乾式)の吹付け、リシン吹き(建物の内外壁の下地材への表面化粧)、煙突ライニング材のライニング層形成材料の吹付け作業等に使用する吹付け装置」における技術である点で、甲1発明1と共通する。
したがって、甲1発明1に甲8記載の技術事項を適用することで、相違点1に係る本件発明特定事項1Dの構成、及び、相違点2に係る本件発明特定事項1Hの構成をなすことは、当業者が容易になし得たことである。
(2)相違点3について
甲1発明1では、「車輪」及び「駆動手段」(本件訂正発明2の「走行手段」に相当。)と「甲板10」(本件訂正発明2の「フレーム」に相当。)との間ではなく、「甲板10」の上に、「昇降リフタ16」(本件訂正発明2の「昇降装置」に相当。)が設けられている。
しかしながら、甲2記載の技術事項によれば、「吹付け作業階1の床面を移動する台車11」の上に「昇降可能なリフト12」を設け、この「昇降可能なリフト12」の上端に「基板13」を介して「吹付けロボット10」が設置されていること、すなわち、「吹付け作業階1の床面を移動する台車11」(本件訂正発明2の「走行手段」に相当。)と「基板13」(本件訂正発明2の「フレーム」に相当。)との間に、「昇降可能なリフト12」(本件訂正発明2の「昇降装置」に相当。)が設けられている。
そして、甲2記載の技術事項は、「鉄骨構造などの建造物に耐火被覆材を吹き付ける耐火被覆材吹付け装置」における技術である点で、甲1発明1と共通する。
したがって、甲1発明1に甲2記載の技術事項を適用し、「車輪」及び「駆動手段」と「甲板10」との間に、昇降手段を設けることで、相違点3に係る本件発明特定事項2Bの構成をなすことは、当業者が容易になし得たことである。
(3)相違点4について
上記2の(6)で述べたことから、甲1発明1の「車輪上に支持され、駆動手段を備えて作業床上を走行可能となって」いる「主台車4」は、本件訂正発明2の「前記走行台車」に相当する。
ここで、甲1発明1では、「主台車4は平面視で略長方形の形状を有」するから、「主台車4」の平面視における重心位置は、「長方形」の中央付近であると認められる。
また、甲1発明1では、「当該長方形の2つの長辺近傍に2本の平行なレール12がそれぞれ配置される」から、甲1発明1では、「その長手方向に2本の平行なレール12が敷設されて」いる「甲板10」は、「主台車4」の平面視における重心位置である「当該長方形」の中央付近を通過するように配置されているといえる。
したがって、相違点4は、実質的な相違点ではない。
なお、甲1発明1が「その長手方向に2本の平行なレール12が敷設されて」いる「甲板10」や「主台車4」のほかに「長手方向に延在する2本のレール96が敷設されて」いる「甲板10a」や「伸縮台車6」を有することは、「主台車4」の平面視における重心位置(「当該長方形」の中央付近)に影響を与えるものではない。
(4)相違点5について
上記(1)で述べたことと同様に、甲1発明4に甲8記載の技術事項を適用することで、相違点5に係る本件発明特定事項4Aの構成をなすことは、当業者が容易になし得たことである。
(5)特許権者の意見書における主張について
特許権者は令和5年7月3日付け意見書において、甲第1号証と甲第2号証とを組み合わせても、訂正後の本件特許発明1に到達することはあり得ず、甲第1号証及び甲第2号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない旨等を主張している。
しかしながら、上記(1)で述べたように、甲1発明1に甲8記載の技術事項を適用することで、相違点1に係る本件発明特定事項1Dの構成、及び、相違点2に係る本件発明特定事項1Hの構成をなすことは、当業者が容易になし得たことである。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1発明1及び甲8記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件訂正発明2は、甲1発明1、甲2記載の技術事項及び甲8記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件訂正発明4は、甲1発明4及び甲8記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 取消理由通知(決定の予告)の対象としなかった特許異議申立理由について
1 本件訂正発明3について
(1)相違点
本件訂正発明3と甲1発明1とは、少なくとも、以下の点で相違する。
<相違点6(本件発明特定事項3B)>
本件訂正発明3では、「自己の平面視位置及び進行方向を検出するための自己位置検出センサ」が備えられるのに対し、
甲1発明1では、そのように構成されていない点。
<相違点7(本件発明特定事項3C)>
本件訂正発明3では、「自己の姿勢角を検出する姿勢検知センサ」が備えられるのに対し、
甲1発明1では、そのように構成されていない点。
<相違点8(本件発明特定事項3D)>
本件訂正発明3では、「前記走行部に備えられ前記ロボットアームを支持するベース部の高さ位置を検出するための高さ検出センサ」が備えられるのに対し、
甲1発明1では、そのように構成されていない点。
(2)相違点6について
相違点6に関して申立人によって申立書とともに提出された甲3には、「自己の位置を検出可能な」「自己位置検出手段32」が記載されているとしても、「自己の位置」は「自己の」「進行方向」ではないから、甲3には、「自己の平面視位置及び進行方向を検出するための自己位置検出センサ」は記載されていない。そして他にも、「施工対象面を吹付け材で被覆するための吹付け装置」の技術分野において「自己の平面視位置及び進行方向を検出するための自己位置検出センサ」が公知技術又は周知技術であると認める証拠は見当たらない。
(3)相違点8について
相違点8に関して申立人によって申立書とともに提出された甲5及び6を見ると、甲5には「マニピュレータ高さ検出手段」が記載されており、甲6には「作業台3の高さ」を検出するための「高さ検出器、例えばシリンダ64のストロークセンサ69」が記載されているとしても、これらの高さは「前記走行部に備えられ前記ロボットアームを支持するベース部の高さ位置」ではないから、甲5及び6には、「前記走行部に備えられ前記ロボットアームを支持するベース部の高さ位置を検出するための高さ検出センサ」は記載されていない。そして他にも、「施工対象面を吹付け材で被覆するための吹付け装置」の技術分野において「前記走行部に備えられ前記ロボットアームを支持するベース部の高さ位置を検出するための高さ検出センサ」が公知技術又は周知技術であると認める証拠は見当たらない。
(4)小括
以上のことから、他の相違点については検討するまでもなく、本件訂正発明3は当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。
したがって、申立人の主張する特許異議申立理由によって、本件訂正発明3に係る特許を取り消すことはできない。
2 本件訂正発明5について
本件訂正請求後の請求項5は請求項3の記載を間接的に引用する引用形式請求項であり、本件訂正発明5は本件訂正発明3の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件訂正発明3と同様の理由(上記1参照)により、甲1発明4において、上記相違点6、8に係る本件訂正発明3の構成にすることは、当業者が容易に想到し得ることではない。
したがって、申立人の主張する特許異議申立理由によって、本件訂正発明5に係る特許を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1は甲1発明1及び甲8記載の技術事項に基づいて、本件訂正発明2は甲1発明1、甲2記載の技術事項及び甲8記載の技術事項に基づいて、本件訂正発明4は甲1発明4及び甲8記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許の請求項1、2、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件特許の請求項3、5に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載された異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他にそれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700131